平成6(行ウ)327 減反政策差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年8月24日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文43,835 文字)

主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙「差止めを求める行為の目録」記載の行為をしてはならない。 2 被告は、別紙当事者目録記載Pイ1ないし14、Pロ1ないし5、Pハ1ないし4及び別表3記載の各原告に対し、各10万円及びこれに対する平成6年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、米の生産者又は消費者である原告らが、被告に対し、人格権に基づき、米の作付面積を減少させることにより生産調整を行ういわゆる減反政策に基づく別紙「差止めを求める行為の目録」(以下「差止め行為目録」という。)記載の各行為の差止めを求めるとともに、原告らの一部が、被告の減反政策に基づいて実施された米の生産調整により、財産的損害及び精神的損害を被ったとして、国家賠償法1条に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実及び法令の定め等(事実については、各項末尾掲記の証拠等により認められる。)(1) 当事者別紙当事者目録記載Pイ1ないし14、Pロ1ないし5、Pハ1ないし4及びPニ1ないし74の原告ら(以下「生産者原告ら」という。)は、いずれも国内において米の生産に従事してきた者であり、同目録記載C1ないし979の原告ら(以下「消費者原告ら」という。)は、いずれも主食として米を消費してきた者である。 (弁論の全趣旨)なお、原告P1は、平成11年7月22日死亡し、同人の妹であり相続人であるP2が、平成12年5月17日に訴訟を受継する旨申し立てているところであるが、原告P1の訴えのうち、差止請求に係る部分は、同人の死亡により既に終了したものというべきであるか 人の妹であり相続人であるP2が、平成12年5月17日に訴訟を受継する旨申し立てているところであるが、原告P1の訴えのうち、差止請求に係る部分は、同人の死亡により既に終了したものというべきであるから、P2による上記申立ては、国家賠償請求に係る部分にのみ関するものと解する。 (2) 食糧管理法(昭和17年法律第40号。主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(以下「食糧法」という。)附則3条により平成7年11月1日廃止。 以下「食管法」という。)に基づく食糧管理制度及び同法の下における米の生産調整(なお、法令及び制度の概要は、原則として、本件訴え提起時である平成6年10月19日当時のものである。)ア食管法に基づく食糧管理制度の概要食管法は、昭和17年に、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため食糧を管理しその需給及び価格の調整並びに流通の規制を行うことを目的として制定された法律であり(食管法1条)、同法に基づく食糧管理制度の概要は、次のとおりであった。 (ア) 米穀管理基本計画及び供給計画の策定農林水産大臣は、毎年、米穀の管理に関する基本方針、米穀の管理の方法に関する基本事項、米穀の需給の見通しに関する事項、政府の管理すべき米穀の数量並びにその用途別、品質別及び流通における管理の態様別の数量の見通しに関する事項、その他米穀の管理に関する重要事項を定めた、米穀の管理に関する基本計画(以下「米穀管理基本計画」という。)を策定する(食管法2条の2第1項、2項)。 また、農林水産大臣は、毎年、消費者に対する米穀の適正かつ円滑な供給を確保するため、米穀管理基本計画に即して、供給を予定する米穀の数量並びにその用途別、品質別及び流通における管理の態様別の数量等を定めた、米穀の供給に関する実施計画(以下「供給計画」という。)を策定する(同法 ため、米穀管理基本計画に即して、供給を予定する米穀の数量並びにその用途別、品質別及び流通における管理の態様別の数量等を定めた、米穀の供給に関する実施計画(以下「供給計画」という。)を策定する(同法8条)。 (イ) 生産者に対する政府への売渡義務及び買入価格の決定米穀管理基本計画によって政府が管理すべきものとされた米穀の数量については、その数量を基礎として個々の生産者に配分された数量につき、政府への売渡義務が課される(食管法3条1項)。ただし、後記の自主流通米として出荷される米穀については、政府への売渡義務が解除される(同条ただし書、食糧管理法施行令(昭和22年政令第330号。同法附則2条により平成7年11月1日に廃止。以下「食管法施行令」という。)1条の4)。 また、米穀の政府買入価格は、毎年、生産費及び物価その他の経済事情を参酌し、米穀の再生産を確保することを旨として定めるものとされている(同法3条2項、同施行令2条)。 (ウ) 政府米の売渡し政府が買い入れた米穀(以下「政府米」という。)は、供給計画に即して卸売業者等に売却される(食管法4条1項)。この売却価格の基準となる標準売渡価格は、農林水産大臣が家計費及び物価その他の経済事情を参酌し、消費者の家計を安定させることを旨として定めるものとされている(同法4条2項、3項)。 (エ) 自主流通米指定法人(集荷業者が組織する全国の区域を地区とする法人であって、一定の要件を備え、かつ、農林水産大臣の指定を受けたもの。 食管法施行令1条の4)が米穀管理基本計画に即して作成し、農林水産大臣が認可した自主流通計画に即して流通させる自主流通米は、政府を通じることなく売買される(食管法3条1項ただし書)。 (オ) 集荷業者の指定及び販売業者の許可米穀の集荷の業務を行う者は、農林水産大臣の指 した自主流通計画に即して流通させる自主流通米は、政府を通じることなく売買される(食管法3条1項ただし書)。 (オ) 集荷業者の指定及び販売業者の許可米穀の集荷の業務を行う者は、農林水産大臣の指定を受けることを要し、農林水産大臣の指導、監督に服する(食管法8条の2)。 また、米穀の卸売の業務又は小売の業務を行う者は、都道府県知事の許可を受けることを要し、都道府県知事の指導、監督に服する(同法8条の3)。 (カ) 米穀の流通に関するその他の主な規制政府米、自主流通米とも、農林水産大臣の指定する集荷業者を経て集荷され、都道府県知事の許可する販売業者(卸売業者及び小売業者)を経て、消費者に供給される(食管法3条、4条、8条の2、8条の3、食管法施行令1条の4)。そして、生産者による政府米、自主流通米としての売渡し及び上記(オ)の許可を受けた販売業者による売渡し等を除いて、米穀の有償譲渡等が規制されている(同施行令8条ないし12条)。 また、米穀等の輸出入については、農林水産大臣の許可を受けることが必要とされている(同法11条)。 イ米の政府買入制度の沿革及び概要(ア) 沿革昭和17年に食管法が制定されたことにより、生産者は同法に基づく売渡義務の履行として、政府に米を売り渡すこととされたところ、昭和30年には、政府に売り渡すべき米穀に関する政令(昭和30年政令第134号。主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律施行令の一部を改正する政令附則2条により平成7年11月1日廃止。以下「売渡令」という。)が制定され、それまでの米の供出割当制に代えて、事前売渡申込制が採用されたことにより、収穫前に生産者から事前売渡申込み(予約)を受け、この申込みに係る数量に基づいて、政府への売渡義務数量が定められることとなった。 昭和46年には、売渡令が て、事前売渡申込制が採用されたことにより、収穫前に生産者から事前売渡申込み(予約)を受け、この申込みに係る数量に基づいて、政府への売渡義務数量が定められることとなった。 昭和46年には、売渡令が改正され、政府は、それまでの事前売渡申込みに係る数量の無制限買入れに代えて、管理する必要のある数量(以下「予約限度数量」という。)に限り買入れを行うこととされた。 さらに、昭和56年に食管法が改正され、前記ア(ア)のとおり、農林水産大臣が政府の管理すべき米穀の数量等に関し、米穀管理基本計画を策定することとされたことから、予約限度数量の総量が、米穀管理基本計画における政府の管理すべき米穀の数量として位置づけられることとなった。 (イ) 昭和56年改正後の食管法における政府買入制度の概要生産者ごとの予約限度数量については、過去の政府への売渡数量及び当該年度の転作等基本目標面積を基礎として、米穀管理基本計画により政府が管理すべきものとされた米穀の数量を、農林水産大臣が都道府県別申込限度数量として配分し、都道府県知事が市町村別申込限度数量を、市町村が生産者別申込限度数量を、それぞれ配分することとされている(売渡令1条の2ないし1条の4)。 農林水産大臣は、予約限度数量の配分後、米穀の売渡しに関し、売買条件を定めるとともに、これを公示して政府への申込みを受け付け、生産者が、生産者別申込限度数量の範囲内で事前売渡申込みを行うと、この申込みに係る数量を市町村長に通知する(売渡令1条、2条)。通知を受けた市町村長は、その数量を政府買入基準数量として定め、生産者に通知する(売渡令3条)。 このような過程により配分される生産者ごとの政府買入基準数量が、食管法3条1項の政府に売り渡すべき米穀の数量となる(売渡令9条)。ただし、政府に売り渡すべき米穀の数量のうち 知する(売渡令3条)。 このような過程により配分される生産者ごとの政府買入基準数量が、食管法3条1項の政府に売り渡すべき米穀の数量となる(売渡令9条)。ただし、政府に売り渡すべき米穀の数量のうち、自主流通米として売渡しの委託をした米穀については、売渡義務が解除されることとなり、これを控除した数量が、政府の買い入れる米穀の数量として、市町村長から生産者に文書で通知される(売渡令9条の2第1項)。 ウ食管法下における米の生産調整対策の経緯及び概要(ア) 米の生産調整の経緯a 米の自給率が昭和41年に100パーセントとなった後、昭和42年から昭和44年まで、米の生産量が毎年1400万トンを超えたのに対し、消費量は1200万トンないし1250万トンにとどまった。 そこで、政府は、昭和44年度において、農林事務次官通達「稲から今後生産を伸ばす必要のある飼料作物、園芸作物への自主的な作付転換を誘導すること」により、対象面積1万ヘクタール、奨励金10アール当たり2万円、予算総額30億円の生産調整を開始した。また、昭和45年度には、転作、休耕等の方法のいかんを問わず、一律に10アール当たり3万5000円の奨励金を交付する内容の生産調整が行われた。 (争いがない事実)b さらに政府は、昭和46年、前記イ(ア)のとおり、予約限度数量を設けて米穀の買入数量を限定するとともに、同年度以降、以下の名称により、本格的な生産調整を行った。 ① 稲作転換対策昭和46年度から昭和50年度まで② 水田総合利用対策昭和51年度から昭和52年度まで③ 水田利用再編対策第1期昭和53年度から昭和55年度まで第2期昭和56年度から昭和58年度まで第3期昭和5 和51年度から昭和52年度まで③ 水田利用再編対策第1期昭和53年度から昭和55年度まで第2期昭和56年度から昭和58年度まで第3期昭和59年度から昭和61年度まで④ 水田農業確立対策前期対策昭和62年度から平成元年度まで後期対策平成2年度から平成4年度まで⑤ 水田営農活性化対策平成5年度から平成7年度まで(水田営農活性化対策の終了年度につき乙3。その余は争いがない。)(イ) 米の生産調整の方法米の生産調整は、昭和44年度から昭和52年度までは単年度ごとの需給見通しに基づいて、また昭和53年度以降は3年を1期とする対策として行なわれ、その具体的な方法は、水田営農活性化対策においては次のとおりである。 なお、この方法は、平成4年度における水田農業確立対策でもほぼ同様であった。 (弁論の全趣旨)a 転作等基本目標面積の配分農林水産大臣は、米の計画的な生産の確保及び水稲作と転作を組み合わせた生産性の高い水田営農の推進を図るため、関係団体の意見を聴いて、水田営農活性化対策の実施期間を通じる米の需給状況に応じた転作等基本目標面積を定める。そして、転作等基本目標面積の配分は、概ね次のとおり行われる。 まず、都道府県別の転作等基本目標面積は、農林水産大臣及び全国農業協同組合中央会(以下「全中」という。)会長が協議調整の上決定し、都道府県知事及び都道府県農業協同組合中央会(以下「都道府県中」という。)会長に通知する。市町村別の転作等基本目標面積は、都道府県知事及び都道府県中会長が協議調整の上決定し、市町村長及び農業協同組合等(以下「農協等」という。)の代表者に通知する。生産者別の転作等基本目標面積は、 する。市町村別の転作等基本目標面積は、都道府県知事及び都道府県中会長が協議調整の上決定し、市町村長及び農業協同組合等(以下「農協等」という。)の代表者に通知する。生産者別の転作等基本目標面積は、市町村長及び農協等の代表者が協議調整の上決定し、生産者に通知する。 (乙3)b 生産調整の態様水田営農活性化対策においては、以下の態様(さらに平成7年度より調整水田が導入される。)について転作等が行われたものとすることができるとされており、生産者が生産調整を実施するに当たっては、この中から自由に態様を選択することができる。 ① 転作対象水田における稲以外の作物の作付け又は対象水田の転換畑、林地、養魚池、養魚水田、レクリエーシヨン農園、施設園芸用施設の設置に係る土地若しくは農業生産に必要な施設の敷地への転換② 水田預託転作を目的として、対象水田を農業協同組合、市町村、都道府県、土地改良区又は農業の振興を目的とする公益法人(民法34条の規定により設立された法人であって、地方公共団体が、社団法人にあっては総社員の表決権の過半数を保有し、財団法人にあっては、寄附財産の額の過半を拠出しているものに限る。)に預託すること③ 自己保全管理農林水産省農蚕園芸局長が別に定める地域において対象水田を常に耕作可能な状態に管理すること④ 土地改良通年施行土地改良事業又はこれに準ずる事業を通年施行により実施すること⑤ 他用途利用米生産他用途利用米実施要項(昭和59年4月28日付け59食糧業第447号農林水産事務次官依命通達)の定めるところにより他用途米(食糧管理法施行規則(昭和57年農林水産省令第1号)別表第1第1号の2に規定する他用途利用米をいう。)の生産を行うこと⑥ 需要開発米生 47号農林水産事務次官依命通達)の定めるところにより他用途米(食糧管理法施行規則(昭和57年農林水産省令第1号)別表第1第1号の2に規定する他用途利用米をいう。)の生産を行うこと⑥ 需要開発米生産食糧庁長官が別に定めるところにより需要開発米の生産を行うこと⑦ 実績算入対象水田を稲作以外の用途に利用すること又はこれに準ずることであって、農林水産省農蚕園芸局長が定めるところにより転作等として取り扱うこと(乙3、弁論の全趣旨)c 生産調整の実効性を確保するための措置以上のような生産調整の実効性を確保するため、以下のような措置が講じられていた。 ① 生産調整助成金の交付国は、転作、調整水田(平成7年以降)、水田預託、自己保全管理又は土地改良通年施行を実施した農業者に対し、水田営農活性化助成補助金を交付する。 ② 転作等基本目標面積の補正転作等基本目標面積が未達成の都道府県があった場合には、翌年度の転作等基本目標面積に、その目標未達成部分の面積の合計面積を加算するものとし、都道府県知事及び都道府県中会長は、当該加算に係る面積を、目標未達成の市町村の翌年度の転作等基本目標面積に、目標未達成の部分の面積に応じて加算し、この加算に係る市町村の市町村長及び農協等の代表者は、これに準じて農業者別に加算を行う。 また、新規開田が行われた都道府県については、翌年度以降における転作等基本目標面積に、当該新規開田面積の合計面積(新規開田のあった翌年度にあっては、当該合計面積の2倍の面積)を加算するものとし、これらの加算については、上記の目標未達成の場合と同様に、市町村を通じて農業者別に加算を行う。 さらに、米の予約限度数量についても、転作等基本目標面積等がその割当ての基礎とされており(売渡令1条の これらの加算については、上記の目標未達成の場合と同様に、市町村を通じて農業者別に加算を行う。 さらに、米の予約限度数量についても、転作等基本目標面積等がその割当ての基礎とされており(売渡令1条の2ないし1条の4)、転作等基本目標面積が加算されれば加算に見合う米の作付面積が減少することとなるため、翌年度の数量の割当てに当たり、加算された面積に相当する米の数量を控除することとする。 ③ 関連する施策の取扱い農林水産省所管の水田農業に関連する事業のうち、生産調整に関連が深い特定の事業については、原則として、転作等基本目標面積を達成している市町村を対象に事業採択を行い、それ以外の関連事業における新規採択及び予算配分については、転作等基本目標面積を達成している市町村の要請に優先的に配慮する運用を行う。 (乙3、弁論の全趣旨)(ウ) 米の政府買入れと生産調整との関係売渡令1条の2ないし1条の4は、予約限度数量について、「その年度の生産の転換の目標を基礎として定める」こととしており、「水田営農活性化対策実施要綱」(平成5年4月1日付け1500号農林事務次官依命通達)第5の7は、米の政府買入について、転作等基本目標面積との関連において予約限度数量を定めて行うこととしている。したがって、予約限度数量と転作等基本目標面積とは、表裏の関係にあり、潜在作付面積から転作等基本目標面積を差し引いた面積に単収を乗じて得られる総米生産量から農家消費等を差し引いた数量が予約限度数量となる。 (3) 食管法施行下における米の生産、消費、輸入等に関する推移ア食管法が施行されていた期間のうち、昭和35年度から平成5年度までの間における米の総生産量、水稲の作況指数、総消費量、1人当たり年間消費量、各年10月末時点における持越在庫 、輸入等に関する推移ア食管法が施行されていた期間のうち、昭和35年度から平成5年度までの間における米の総生産量、水稲の作況指数、総消費量、1人当たり年間消費量、各年10月末時点における持越在庫量は、別紙「米の生産、消費等の推移」のとおりであり、これらの指標の主なものと潜在的生産量の推移は、別紙「米需給の推移」のとおりである。 (甲1、弁論の全趣旨)イまた、昭和61年9月以降、ガット(関税と貿易に関する一般協定)の第8回多角的貿易交渉が、ウルグアイで開催され(ガット・ウルグアイ・ラウンド)、我が国の米の輸入に関しても交渉が行われてきた。その結果、平成5年12月15日、ガット・ウルグアイ・ラウンドの場において、我が国の米の最低輸入量(ミニマム・アクセス)を、平成7年度に37万9000トン、平成12年度に75万8000トンとすることが合意された。 (甲1、弁論の全趣旨)ウ他方、平成5年の水稲の作柄は、天候不順等により、全国平均で作況指数74という著しい不良となり、米の消費者価格も、著しい不作による自主流通米価格の上昇等から、同年秋以降上昇した。そのような中で、米の安定供給を図るため、主食用米及び加工用米について、緊急輸入が行われた。 (争いがない事実)(4) 食糧法に基づく食糧制度と同法の下における生産調整ア食糧法の制定食糧法は、平成6年12月14日に公布され、平成7年11月1日(輸出入関係規定は同年4月1日)から施行された。同法の施行に伴い、食管法は廃止された(食糧法附則3条)。 イ食糧法に基づく新たな食糧制度の概要(ア) 食糧法の基本的な考え方食糧法は、主要な食糧である米穀及び麦が主食として )から施行された。同法の施行に伴い、食管法は廃止された(食糧法附則3条)。 イ食糧法に基づく新たな食糧制度の概要(ア) 食糧法の基本的な考え方食糧法は、主要な食糧である米穀及び麦が主食としての役割を果たし、かつ、重要な農産物としての地位を占めていることにかんがみ、米穀の生産者から消費者までの計画的な流通を確保するための措置並びに政府による主要食糧の買入れ、輸入及び売渡しの措置を総合的に講ずることにより、主要食糧の需給及び価格の安定を図り、もって国民生活と国民経済の安定に資することを目的としている(食糧法1条)。 また、政府は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の需給の適確な見通しを策定し、これに基づき、計画的かつ整合性をもって、米穀の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進、米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営及び消費者が必要とする米穀の適正かつ円滑な流通の確保を図るとともに、米穀の適切な買入れ、輸入及び売渡しを行うものとされている(同法2条1項)。 (イ) 米穀の全体需給の調整a 農林水産大臣は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、毎年3月31日までに、米穀の需給及び価格の安定に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を定め、その作成に当たっては、当該基本計画が米穀の生産者の適確な営農活動に資するものとなるよう、その前年の11月30日までに、その計画的な生産及び出荷の指針となるべきものを定め、公表する(食糧法4条1項、3項、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律施行令(以下「食糧法施行令」という。)4条、6条)。 b 基本計画には、米穀の生産の目標その他米穀の生産調整に関する事項を定めるものとし、政府は、生産調整実施者の売渡しの申込みに応じて、その生産した米穀を買い入れるものとする(食糧法4条2項3 条)。 b 基本計画には、米穀の生産の目標その他米穀の生産調整に関する事項を定めるものとし、政府は、生産調整実施者の売渡しの申込みに応じて、その生産した米穀を買い入れるものとする(食糧法4条2項3号、59条1項)。 c 政府は、米穀の備蓄(米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有すること。食糧法3条3項)の円滑な運営を図るため、米穀の買入れを行う(同法59条1項)。 また、基本計画には、米穀の輸入数量に関する事項を定めるものとし、政府は、米穀等の輸入を目的とする買入れを行うことができる(同法4条2項8号、60条1項)。 (ウ) 計画流通制度a 農林水産大臣は、基本計画において、消費者に対し計画的な供給を図るものとして、計画流通数量を明らかにするとともに、生産者から計画的な出荷がなされるものとして、計画流通数量を勘案し、計画出荷数量を定める(食糧法3条4項、5項、4条2項5号、6号)。 b 米穀の生産者は、その生産した米穀のうち、計画出荷数量を基礎として農林水産大臣が生産者ごとに定める数量に係る米穀について、自主流通米又は政府米として売り渡し、又は売渡しの委託をしなければならない(食糧法5条1項)。ここにいう自主流通米とは、計画出荷数量に係る米穀のうち生産者から登録出荷取扱業者に売り渡され、又は売渡しが委託されるものであって、農林水産大臣の認可を受けた自主流通計画に従い流通するものをいい、政府米とは、計画出荷数量に係る米穀のうち生産調整実施者から政府が買い入れ、売り渡すもの及び輸入に係る米穀であって政府が取得し、売り渡すものをいう(同法3条6項、7項)。 c 計画流通米(自主流通米及び政府米をいう。食糧法3条8項)の出荷取扱業及び販売業を行う者については、指定制、許可制に代えて、登録制とする( 政府が取得し、売り渡すものをいう(同法3条6項、7項)。 c 計画流通米(自主流通米及び政府米をいう。食糧法3条8項)の出荷取扱業及び販売業を行う者については、指定制、許可制に代えて、登録制とする(同法6条、35条)。また、自主流通米を計画的に流通させる主体として、農林水産大臣の指定に係る自主流通法人の制度を設け、その業務を明確にしている(同法28条、29条)。 d 他方、計画流通米以外の米穀については、あらかじめ売渡しに係る数量を農林水産大臣に届け出ることによって売り渡すことができる(食糧法5条)。 (エ) 米穀の価格形成食糧法においては、自主流通米が米流通の基本と位置づけられていることから、その価格形成について、より一層の透明性を確保し、需給実勢の的確な反映を図るため、次のとおり規定が置かれている。 (弁論の全趣旨)a 自主流通米農林水産大臣は、民法34条の法人であって、自主流通米の取引の指標とすべき価格の形成に必要な売買取引を行うための施設を開設することができると認められるものを、全国を通じて1個に限り、自主流通米価格形成センターとして指定することができる(食糧法48条1項、49条)。 自主流通米価格形成センターにおいて入札取引された自主流通米以外の自主流通米については、同センターにおける入札によって形成された価格を指標として、相対取引が行われることとなる(乙2)。 b 政府米政府買入価格は、農林水産大臣が、自主流通米の価格の動向その他の米穀の需要及び供給の動向を反映させるほか、生産条件及び物価その他の経済事情を参酌し、米穀の再生産を確保することを旨として、毎年、各種類、銘柄及び等級の米穀についてこれを定める(食糧法59条2項、食糧法施行令35条2項)。 政府売渡価格は、 産条件及び物価その他の経済事情を参酌し、米穀の再生産を確保することを旨として、毎年、各種類、銘柄及び等級の米穀についてこれを定める(食糧法59条2項、食糧法施行令35条2項)。 政府売渡価格は、農林水産大臣が、米穀の需要及び供給の動向、家計費並びに物価その他の経済事情を参酌し、消費者の家計を安定させることを旨として、米価審議会の意見を聴いて、毎年これを定める(同法61条3項、4項、同施行令37条3項、4項)。また、政府米の売渡しを行う場合における予定価格は、標準売渡価格を基準として、米穀の品質、用途等の相違を参酌して定めることとされている(同法61条2項、同施行令37条2項)。 ウ食糧法の下における米の生産調整対策(ア) 概要a 政府は、食糧法の下で、米穀の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進を図るものとされているところ(同法2条1項)、平成8年度からは、同法の下で初めての生産調整対策として、「新生産調整推進対策実施要綱」(平成8年5月10日付け8農産第1550号農林水産事務次官依命通達)に従って、生産調整の実効性の確保、生産者・地域の自主性の尊重及び望ましい営農の実現の3点に重点を置いた、新生産調整推進対策が実施された。 (乙1)b また、平成10年度からは、平成9年11月に策定された「新たな米政策大綱」(平成9年11月20日農林水産省省議決定)の下で、生産調整の着実な実施による米の需給均衡の早期回復と稲作・転作が一体となった望ましい水田営農の確立の2点に重点を置いた、緊急生産調整推進対策が実施された。 (乙2)(イ) 新生産調整推進対策生産調整対象水田面積(生産調整目標面積)は、需給の均衡を図ることを基本と 生産調整推進対策が実施された。 (乙2)(イ) 新生産調整推進対策生産調整対象水田面積(生産調整目標面積)は、需給の均衡を図ることを基本とし、営農の安定にも配慮して、平成8年から3年間の需給見通しに基づき定めることとされ、その決定手続は、おおむね以下のとおりである。 a 生産調整対象水田の決定手続生産調整対象水田面積は、食糧法4条1項に基づき、毎年3月31日までに定められる基本計画における米穀の生産の目標を基礎として、都道府県別、市町村別、農業者別の順に決定される(食糧法施行令2条)。 この手続に先立ち、農林水産大臣及び全中会長は、おおむね前年の11月に、都道府県別の生産調整対象水田面積のガイドラインを決定し、これを都道府県知事及び都道府県中会長に通知する。都道府県知事及び都道府県中会長は、このガイドラインを基に、市町村別の生産調整対象水田面積のガイドラインを決定し、これを市町村長及び農協等の代表者に通知し、市町村長及び農協の代表者は、生産調整の実施方針を農業者に提示しつつその意向を聴いた上で、農業者別の生産調整対象水田面積のガイドラインを決定し、これを農業者に通知する。 さらに、農業者の意向が反映されるよう、生産調整の実施に伴う経済的不利益を相互に補償し合う仕組みである「とも補償」の活用等による地域内調整や、市町村間、都道府県間の調整が行われた後、前記のとおり、生産調整対象水田面積が都道府県別、市町村別、農業者別の順に決定される。 (乙1、弁論の全趣旨)b 生産調整の態様新生産調整推進対策において、生産調整が行われたものとすることができるのは、以下の7態様であり、農業者が生産調整を実施するに当たっては、これらの中から自由に態様 弁論の全趣旨)b 生産調整の態様新生産調整推進対策において、生産調整が行われたものとすることができるのは、以下の7態様であり、農業者が生産調整を実施するに当たっては、これらの中から自由に態様を選択することができる。 ① 転作次のいずれかに該当するもの(i) 稲以外の作物の作付けを行うこと(③(i)、④(i)及び(ii)並びに⑦に該当するものを除く。)(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律施行規則6条1号に該当)(ii) 対象水田を転換畑、養魚水田又は施設園芸用施設の設置に係る土地に転換し、利用すること(同規則6条2号に該当)(iii) 作付けを行った稲について出穂期以降糊熟期以前の稲の刈取りを行うこと(同規則6条3号に該当)(iv) 作付けを行った稲についてホールクロップサイレージ用として刈取りを行うこと(同規則6条3号に該当)(v) 飼料の用に供する米穀の生産を行うこと(同規則6条4号に該当)(vi) 対象水田を林地、養魚池又は農業生産に必要な施設の敷地に転換し、利用すること(同規則6条5号に該当)② 調整水田対象水田に水を張ることにより常に水稲の生産力が維持される状態に管理すること(同規則6条2号に該当)③ 水田預託転作(景観形成作物の作付けを行うこと及び対象水田をレクリエーション農園に転換し、利用することを含む。以下③において同じ。)を目的として対象水田を農業協同組合、市町村、都道府県、土地改良区又は農業の振興を目的とする公益法人(民法34条の規定により設立された法人であって、地方公共団体が、社団法人にあっては総社員の表決権の過半数を保有し、財団法人にあっては寄附財産の額の過半を拠出しているものに限る。)のいずれかの法人に預託することであって、次の(i)から(iii)までのいずれかに該当するもの(同規則6条 員の表決権の過半数を保有し、財団法人にあっては寄附財産の額の過半を拠出しているものに限る。)のいずれかの法人に預託することであって、次の(i)から(iii)までのいずれかに該当するもの(同規則6条5号に該当)(i) 管理転作預託された対象水田(以下「預託水田という。」)について使用貸借による権利の設定が行われ転作が実施されていること(ii) 保全管理預託水田について使用貸借による権利の設定が行われることを期して上記の各法人のいずれかにより常に耕作可能な状態に管理されていること(iii) 管理農園預託水田について農業協同組合に対して使用貸借による権利の設定を行い、当該農業協同組合がその組合員の行う農業に必要な施設の用に供すること④ 多面的機能水田次のいずれかに該当するもの(i)景観形成作物景観形成作物の作付けを行うこと(③(i)に該当するものを除く。)(同規則6条1号に該当)(ii) レクリエーション農園対象水田をレクリエーション農園に転換し、利用すること(③(i)に該当するものを除く。)(同規則6条2号に該当)(iii) 学童農園等預託水田について地方公共団体に対して使用貸借による権利の設定を行い、当該地方公共団体が学童農園等として活用すること(同規則6条5号に該当)(iv) その他上記(i)から(iii)に準ずるものとして、水田の多面的機能が発揮されるもの(同規則6条2号ないし5号に該当)⑤ 自己管理保全対象水田を常に耕作可能な状態に管理すること(⑥に該当するものを除く。)(同規則6条2号に該当)⑥ 土地改良通年施行土地改良事業又はこれに準ずる事業を通年施行により実施すること(同規則6条2号に該当)⑦ 実績算入対象水田を稲作以外の用途に利用すること又はこれに準ずることであって、新生産調整推進対策実施要 行土地改良事業又はこれに準ずる事業を通年施行により実施すること(同規則6条2号に該当)⑦ 実績算入対象水田を稲作以外の用途に利用すること又はこれに準ずることであって、新生産調整推進対策実施要綱が定めるところにより生産調整として取り扱われるもの(乙1、弁論の全趣旨)c 生産調整の推進のための措置① 生産調整助成金の交付国は、実施計画に基づいて前記b①ないし⑥の生産調整を実施した農業者に対し、新生産調整推進助成補助金を交付するものとする。 ② とも補償事業に対する補助金の交付国は、生産調整を地域で円滑に実施するため、地域の合意に基づき生産調整の実施に伴う不利益を相互に補償し合う取組みであるとも補償事業に対し、新生産調整推進対策地域調整推進事業費補助金を交付しており、その額は、とも補償事業への参加農家率が4分の3以上の場合は、10アール当たり2万円又は1万2000円、3分の2以上の場合は、10アール当たり1万2000円である。 ③ 生産調整実施者に対する自主流通米計画流通米対策費の交付国は、相当量の自主流通米を確保するため、安定的な出荷や販売ルートに応じた円滑な出荷・流通が図られるよう、食糧庁長官が別に定めるところにより、助成金を交付するものとしているが、その交付対象とする生産者は、生産調整の円滑な推進に資するよう、生産調整実施者とする。 ④ 生産調整実施者からの米の政府買入れ政府は、生産調整の円滑な推進の重要性にかんがみ、生産調整実施者又は生産調整実施者から直接又は間接に委託を受けた者から米穀を買い入れるものとする(食糧法59条1項)。 ⑤ 生産調整の円滑な実施に必要な条件整備事業の推進国は、生産調整への取組みの推進及び効率的な水田営農の実現に必要な条件整備を機動的に推進するた 米穀を買い入れるものとする(食糧法59条1項)。 ⑤ 生産調整の円滑な実施に必要な条件整備事業の推進国は、生産調整への取組みの推進及び効率的な水田営農の実現に必要な条件整備を機動的に推進するため、「農業生産体制強化総合推進対策基本要綱」(平成7年4月1日付け7農蚕第1839号農林水産事務次官依命通達)に基づき、水田営農推進事業の実施等に必要な経費について助成する。 ⑥ 補助事業等の優先配慮措置「新生産調整推進のための条件整備について」(平成8年5月10日付け8農産第1566号農林水産事務次官依命通達)は、農林水産省所管の補助事業のうち、水田営農と関連するものの実施については、生産調整の条件整備に資するようその推進を図るとともに、原則として、市町村生産調整推進基本計画等が策定されており、かつ、生産調整の目標を達成している市町村又は生産調整の目標の達成がその事業の実施により確実と認められる市町村の要請に優先的に配慮するものとしている。 また、特定の制度資金について、生産調整の目標を達成している市町村の農業者、生産調整に伴い必要となる農業機械の取得のために資金を必要とする者等を優先する等の措置が講じられている。 なお、その他の措置として、当該年度の生産調整対象水田面積の目標が未達成の場合の翌年度への上乗せ措置や、補助事業の不採択措置が講じられていたが、これらは新生産調整推進対策において廃止された。 (乙1、弁論の全趣旨)(ウ) 緊急生産調整推進対策平成6年以降豊作が4年連続したこと等により、米の全体需給が大幅な緩和基調で推移し、持越在庫が積み上がる中、自主流通米の価格が急激に下落したこと等から、農林水産省は、「新たな米政策大綱」(平成9年11月20日省議決定)を決定し、その中において、 全体需給が大幅な緩和基調で推移し、持越在庫が積み上がる中、自主流通米の価格が急激に下落したこと等から、農林水産省は、「新たな米政策大綱」(平成9年11月20日省議決定)を決定し、その中において、生産調整対策、稲作経営安定対策及び計画流通制度の運営改善の3つを基軸とする総合的な対策を講ずることとした。このうち、生産調整対策については、生産調整の着実な実施による米の需給均衡の早期回復と、稲作・転作が一体となった望ましい水田営農の確立に重点を置いてその推進を図るものとし、「緊急生産調整推進対策実施要綱」(平成10年4月8日付け10農産第1400号農林水産事務次官依命通達)に基づいて、実施期間を平成10年度及び平成11年度の2年間とする緊急生産調整推進対策が実施されることとなった。なお、同要綱の制定に伴い、新生産調整推進対策実施要綱は廃止された。 (乙2、弁論の全趣旨)緊急生産調整推進対策の仕組みの概要は、次のとおりである。 a 生産調整目標面積の決定 「新たな米政策大綱」は、平成12年10月末の国産米在庫を、適正備蓄水準の上限である200万トンまで縮減することを目指して、2年間かけて取組むこととするほか、平成10年度の生産調整目標面積を、前年度から17万6000ヘクタール拡大した96万3000ヘクタールとすることとしている。 そして、緊急生産調整推進対策における生産調整対象水田面積の決定手続は、新生産調整推進対策実施要綱における決定手続とおおむね同様であり、生産調整対象水田面積が農林水産大臣から都道府県別、市町村別、農業者別の順に決定され、これに先立ち、農林水産大臣等が都道府県別の生産調整目標面積(新生産調整推進対策実施要綱におけるガイドラインに相当する。)を決定し、これに基づいて市町村別、農 別、市町村別、農業者別の順に決定され、これに先立ち、農林水産大臣等が都道府県別の生産調整目標面積(新生産調整推進対策実施要綱におけるガイドラインに相当する。)を決定し、これに基づいて市町村別、農業者別の生産調整目標面積が順次決定される。 (乙2)b 生産調整の態様緊急生産調整推進対策における生産調整の態様は、新生産調整推進対策と同様、転作、多面的機能水田、調整水田、水田預託、自己保全管理、土地改良通年施行及び実績算入の7態様とされている。 (乙2)c 生産調整の推進のための措置① 米需給安定対策国は、全国各地の生産者の公平な拠出と国の助成による資金を造成し、この資金から、生産調整(上記bの7態様のうち、実績算入を除くもの)を実施した農業者に対し、その生産調整の方法に応じてとも補償金を交付する対策を実施するものとする。 ② 稲作経営安定対策自主流通法人は、①のとも補償金の交付対象者であって、生産調整実施者であるものに対し、生産者の拠出と国の助成により造成した資金を用いて、自主流通米の価格下落が稲作に及ぼす影響を緩和するための補てん金を交付する。 ③ 緊急生産調整推進対策水田営農確立助成補助金(以下「助成金」という。)国は、望ましい水田営農の実現に取り組む農業者及び地域を支援するため、①のとも補償金の交付対象者であって、生産調整実施者であるものに対し、助成金を交付する。 ④ 水田麦・大豆・飼料作物の生産振興緊急対策水田を活用した麦、大豆、飼料作物の生産性と品質の向上を図るため、技術・営農体系の実証等を行う農業者、営農集団に対し、助成金を交付する。 ⑤ 生産調整実施者からの米の政府買入れ政府は、生産調整実施者又は 用した麦、大豆、飼料作物の生産性と品質の向上を図るため、技術・営農体系の実証等を行う農業者、営農集団に対し、助成金を交付する。 ⑤ 生産調整実施者からの米の政府買入れ政府は、生産調整実施者又は生産調整実施者から直接若しくは間接に委託を受けた者から、米穀を買い入れるものとしている(食糧法59条1項)。 ⑥ 補助事業等の優先配慮措置新生産調整推進対策と同様、農林水産省所管の補助事業のうち水田営農と関連するものの実施に係る優先的な配慮措置や、特定の制度資金についての優先措置が講じられている(「緊急生産調整推進のための条件整備について」(平成10年4月8日付け10農産第1413号農林水産事務次官依命通達))。 2 当事者の主張(原告らの主張)(1) 差止請求について原告らは、人格権に基づいて、被告が減反政策に基づいて行う差止行為目録記載の行為の差止めを求めるものである。 ア差止請求の法的根拠原告らが差止めを求める法的根拠は、人格権であり、被告による減反政策の実施により侵害される人格権の内容及び実定法上の根拠は、次のとおりである。 (ア) 「生存権的人格権」の侵害被告が減反政策を今後も継続することは、原告らに対して飢餓を招く高度の危険を生じさせ、ひいては原告らの生命、健康に高度の危険を生じさせることとにより、原告らの人格権を侵害するものである。 原告らの人格権のうち、かかる生命、健康に関する側面は、いわば「生存権的人格権」というべきものであり、その人格権の実定法上の根拠は、憲法13条、25条、民法709条、710条である。 (イ) 職業選択の自由の人格権的側面(「米を作る権利」)の侵害生産者原告らは、自ら米作を職業として選択しこれを遂行することによって自己実現を図っているところ、減反政策はかかる自己実現を阻害することにより、生 選択の自由の人格権的側面(「米を作る権利」)の侵害生産者原告らは、自ら米作を職業として選択しこれを遂行することによって自己実現を図っているところ、減反政策はかかる自己実現を阻害することにより、生産者原告らの人格権侵害を構成するものである。 生産者原告らの人格権のかかる側面は、いわば「米を作る権利」というべきものであり、憲法22条が保障する職業選択の自由ないしは営業の自由の人格権的側面として位置づけられる。 イ差止請求の適法性に関する被告の主張に対する反論(ア) 差止行為目録1項ないし4項に係る訴えについて差止行為目録1項ないし4項の行為は、個々の農業者に減反割当てを強制するための原因行為に他ならないから、これらを被告が主張するような、農業者別生産調整対象水田面積を具体化、現実化するための前段階の手続ということはできないし、差止請求に係る農林水産大臣、都道府県知事及び市町村長による各決定及び通知は、個々の独立した行政機関の長が行うものである以上、被告が主張するような、行政機関の内部的ないし中間的行為ということはできない。 また、原告らは、減反割当ての不可欠の前提としての具体的な原因行為の差止めを求めているのであるから、これらの訴えについて、訴えの利益ないし成熟性が問題であるとはいえない。 さらに、被告は、行政処分たる政府買入基準数量の通知をも事前に差し止める結果となると主張するが、政府借入基準数量の通知は行政処分ではないし、仮に行政処分であるとしても、その事前差止めが許容されないわけではない。 (イ) 差止行為目録5項に係る訴えについて減反政策に基づく不利益取扱いは、一連の強制減反と不可分一体の施策であり、これを個別に争ったとしても、原告らが被る損害の回復を図ることは不可能であるから、事前差止めが必要であり、不利益取扱いを て減反政策に基づく不利益取扱いは、一連の強制減反と不可分一体の施策であり、これを個別に争ったとしても、原告らが被る損害の回復を図ることは不可能であるから、事前差止めが必要であり、不利益取扱いを事後的に個別に争うべきであるとする被告の主張は失当である。 また、原告らは、政府が米穀を買い入れるにつき、生産調整未達成者であるという理由で買入れを拒否することが、合理的な理由のない差別であるから、食糧法59条1項が原告らに適用される限りにおいて、憲法14条に反すると主張するものである。すなわち、原告らの主張は、適用違憲の主張であって、食糧法59条1項を文面上違憲無効とする趣旨ではない。 (ウ) 差止行為目録6項に係る訴えについて被告又は被告の機関による指導、指示、要請については、被告が年度の途中で種々の通知等を行っていることや、2年ないし3年毎に新たな計画を策定して通知を発している実態に照らせば、そもそも存在しないかあるいは想定することが極めて困難であるとする被告の主張は理由がない。 また、都道府県知事や市町村長による決定、通知等は、すべて被告の策定した生産調整の目的達成手段であって、被告の行為を差し止めれば、他の機関はその目的を失い、その事業を遂行する理由も必要もなくなるのであるから、被告又はその機関による差止行為目録6項の行為を差し止めることができるというべきである。 (エ) 差止行為目録7項及び8項に係る訴えについて原告らは、被告による財務会計上の行為としての「補助金の支出」の差止めを求めているのであって、「補助金の交付決定」の差止めを求めているのではないし、原告らの差止請求が、将来の行政処分の事前差止めに当たるとしても、差止請求が不適法になるとはいえない。 (オ)差止行為目録9項に係る訴えについて原告らは、法的な制度より めているのではないし、原告らの差止請求が、将来の行政処分の事前差止めに当たるとしても、差止請求が不適法になるとはいえない。 (オ)差止行為目録9項に係る訴えについて原告らは、法的な制度よりも、被告による事実上の行為を問題としているのであって、被告が通知等の方法により金利、融資の可否及び融資割当ての優先順位等において、減反未達成者等と達成者等との差別を実現する行為をすれば、同項に係る差止めの対象となるものであるから、訴えの利益ないし被告適格に関する被告の主張は失当である。 また、同項に係る差止めの対象行為は、被告の引用する通達以外にも無数に考えられるし、同趣旨の通達を別に出すこともあり得るから、反復継続の可能性がないということはない。 さらに、原告らは、融資制度の具体的運用の差別的場面を捉えてその禁止を求めているのであるから、原告らが減反政策自体に反対しているにすぎず、差止請求が目的を欠き、あるいは不特定であるとする被告の主張は当たらない。 (カ) なお、原告らは、被告が減反政策に基づいて行う差止行為目録の行為により人格権を侵害されることを理由に、これらの差止めを求めており、原告らの個別的利益との関係で差止請求をしているのであるから、原告らによる差止請求が客観訴訟の実質を有するとの指摘は失当である。 ウ差止請求の根拠となる権利侵害の有無等に関する被告の主張に対する反論(ア) 被告は、憲法25条には具体的権利性はないから、同条を根拠とする差止め請求は認められないと主張する。 しかし、被告の主張は、生存権の社会権的側面に関するものであるのに対し、原告らの主張する「生存権的人格権」は、減反政策という被告の作為により原告らの生命等に危険が発生しないよう、被告の不作為を求めるものであり、法的性質としては生存権の自由権的側面を根拠とする に対し、原告らの主張する「生存権的人格権」は、減反政策という被告の作為により原告らの生命等に危険が発生しないよう、被告の不作為を求めるものであり、法的性質としては生存権の自由権的側面を根拠とするのであるから、被告の主張は当たらないというべきである。 (イ)a 被告は、差止請求は、生命、身体、自由、名誉等と同様に人格的生存に不可欠なものである場合に初めて認められるとした上で、①「生存権的人格権」の権利内容が具体化されてない上に、原告らが差止めを求めている対象が、いかな意味合いから原告らの主張する人格権を侵害する可能性があるのかが明らかでなく、②「米を作る権利」は、土地を自由に使用収益できることの一内容にすぎず、人格的生存に不可欠であるとはいえないと主張する。 b しかし、①については、「生存権的人格権」は、人格権のうち生命・健康に関する側面を指しているのであり、減反政策により飢餓の招来する危険があり、これによって原告らの生存が脅かされる危険があることを原告は問題としているのであって、生命が人格的生存の大前提であって最も基本となるものである以上、生命に危険が招来されない利益が人格権の内容をなすことは、疑いがないというべきである。 また、被告は、原告らの主張する差止めの対象が、いかなる意味で生存権的人格権を侵害する可能性があるのか明らかでないと主張する。しかし、原告が差止めを求めているのは、被告が減反目標面積を決定してこれを各生産者に割り当て実施させること及びこの割り当てを実現するために各種の利益、不利益取扱いをすることである。これは、主食である米の生産量をことさらに減少させる行為であり、長期的には復田不可能な耕地を増加させて、米の生産力を著しく弱体化させることである。生命の維持のために食糧が最低限必要なことはいうまでもなく、食糧のうちの 米の生産量をことさらに減少させる行為であり、長期的には復田不可能な耕地を増加させて、米の生産力を著しく弱体化させることである。生命の維持のために食糧が最低限必要なことはいうまでもなく、食糧のうちの主食たる米の生産量をことさらに減少させ、その生産力を著しく弱体化させる行為は、飢餓を招来させる危険があり、その結果生命への危険を招来し得ることは明らかである。 c さらに、②についても、米作は、土地の使用収益の態様の一つではあるものの、米の生産者にとっては、単に生活の糧を得るという目的を超えて生きがいであり、日々の生活を充実させる手段であって、米作の伝統性、高度の専門性、施設の不代替性、担っている役割の重要性等にかんがみれば、米の生産者にとって米作が人格的生存と密接不可分であることは明らかである。被告の主張は、米作の内実をことさらに無視して、所有権等の経済的権利に強引に結びつけるもので、失当である。 (ウ) 被告は、「米を作る権利」が何を根拠に認められるかが定かでなく、また、何ゆえに差止請求を根拠づける重要な保護法益と認められるかが明らかでないと主張する。 しかし、「米を作る権利」が職業選択の自由の人格権的側面の性質を有することは前述のとおりであるから、その根拠が定かでないとの被告の批判は当たらないし、米作の伝統性、高度の専門性、施設の不代替性、担っている役割の重要性等にかんがみれば、米の生産者から米作の自由を奪うことがその人格を否定するに等しいほど重大なことであることは明らかであり、これが極めて重大な保護法益に当たることに疑いはない。 (エ) 被告は、仮に米穀の供給が不足した場合にはその適切な輸入が実施されることから、原告の主張する飢餓という事態が生ずることはあり得ず、よって原告の主張は失当であるとするが、本件において、米穀の供給が不足し 告は、仮に米穀の供給が不足した場合にはその適切な輸入が実施されることから、原告の主張する飢餓という事態が生ずることはあり得ず、よって原告の主張は失当であるとするが、本件において、米穀の供給が不足した場合にきちんと輸入がなされることについて何ら立証していないのであり、被告の主張は証拠に基づかないものといわざるを得ない。 (オ) 被告は、民法709条及び710条が妨害排除請求の直接の根拠となる規定ではなく、これらの法条を根拠とする差止請求は認められないと主張する。しかし、民法709条及び710条(不法行為法)が妨害排除請求の根拠となることは現在では支配的見解であるというべきであり、これらの条項を根拠として人格権に基づく侵害行為差止請求権を認めた裁判例も存している。そして、実定法上の根拠となる法条はともかく、人格権に基づく差止めが認められることは明らかであり、被告の主張は認められない。 (2) 損害賠償請求について(なお、この項において、「原告ら」「生産者原告ら」「消費者原告ら」とは、いずれも損害賠償を請求している者のみをいう。)原告らは、以下のとおり、被告の公務員による、減反政策に基づく「米を作る権利」としての人格権ないし「生存権的人格権」を侵害する違法な行為によって、次のとおり損害を被ったのであるから、被告は、原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務を負う。 ア減反政策に関する違法行為(ア) 生産者原告らに対する不法行為被告は、平成4年度ないし平成6年度において、水田農業確立対策及び水田営農活性化対策の下に、生産調整に係る内容の通達を発出し、これに従って、全国の減反面積と各都道府県への割当面積を指示した。この被告の不法行為によって、生産者原告らのうち減反に協力した者は、被告の作り上げた上意下達の減反割当ての強制により の通達を発出し、これに従って、全国の減反面積と各都道府県への割当面積を指示した。この被告の不法行為によって、生産者原告らのうち減反に協力した者は、被告の作り上げた上意下達の減反割当ての強制により、その意に反して減反を実施させられ、生産者原告らのうち減反に協力しなかった者は、減反実施を条件とする各種助成措置を受けられず、半ば村八分の扱いを受けたり、いわゆる未達加算を課せられたり、制度資金を利用する機会を奪われる等の被害を被った。 (イ) 消費者原告らに対する不法行為被告は、仮に凶作が発生したとしても国内の米が不足しない程度の米を確保すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、平成4年11月19日付けで当時の農林水産大臣が平成5年度の減反目標面積(転作等基本目標面積)を67万6000ヘクタールと定めたことに基づき実施された減反により、同年度に国内の米の著しい不足を招来し、結果として国内にいわゆる「米パニック」を引き起こした。 イ原告らの損害(ア) 生産者原告らのうち、減反に協力した者が被った損害生産者原告らのうち、減反に協力した者には、①減反に伴う減収による財産的損害が生じ、転作に伴って転作収入や転作補助金の収入が得られた場合であっても、減収額からこれらの収入を控除した残額に相当する財産的損害が生じたほか、②意に反して減反を実施させられ、自由に米を作る権利を侵害されたことによる精神的損害が生じた。 平成4年度ないし平成6年度を通じて減反に協力した生産者原告ら(Pイ1ないし14)各自に生じた財産的損害は、別表1記載のとおりであり、平成4年度から平成6年度の間に減反協力から非協力に転じた生産者原告ら(Pハ1ないし4)各自に生じた財産的損害は、別表2記載のとおりであって、上記②の精神的苦痛を慰藉するに必要な金額をも考慮すれば、以上の原 から平成6年度の間に減反協力から非協力に転じた生産者原告ら(Pハ1ないし4)各自に生じた財産的損害は、別表2記載のとおりであって、上記②の精神的苦痛を慰藉するに必要な金額をも考慮すれば、以上の原告ら各自に生じた損害額は、いずれも10万円を下回らない。 (イ) 生産者原告らのうち、減反に協力しなかった者が被った損害a 生産者原告らのうち、減反に協力しなかった者には、①減反実施を条件とする各種助成措置を受けられなかったという財産的損害が生じたほか、②半ば村八分の扱いを受け(原告P3、同P4、同P5)、未達加算を課せられ(原告P6、同P5)、制度資金を利用する機会を奪われる(原告P7、同P5)等の扱いを受けたことによる精神的損害が生じた。 平成4年度ないし平成6年度を通じて減反に協力しなかった生産者原告ら(Pロ1ないし5)が受けた上記②の精神的苦痛を慰謝するに必要な金額は、少なくとも10万円を下回らない。 b なお、減反政策実施の実態は、実質的に強制の契機を有していたのであるから、被告が主張するように、これらの差別的取扱いを受けたことによる損害が自らの意思と選択に基づいた結果であって、賠償の対象とならないということはできない。 (ウ) 消費者原告らが被った損害a 消費者原告らは、被告の前記ア(イ)の不法行為により、米の値上がりによる支出の増加や、代替食糧を購入せざるを得なくなったことによる支出の増加等の財産的損害を被ったほか、米を購入する手間が加重したこと、輸入米の購入を強いられたこと、国産米を食べたいにもかかわらず食べられなかったこと、輸入米の摂取による農薬の害に対する不安を感じたこと、将来の食糧不足への不安を感じたこと、自然環境悪化の不安を感じたこと、海外に迷惑をかけたことにより心痛を感じたこと等の精神的損害を被った。 損害賠償を の摂取による農薬の害に対する不安を感じたこと、将来の食糧不足への不安を感じたこと、自然環境悪化の不安を感じたこと、海外に迷惑をかけたことにより心痛を感じたこと等の精神的損害を被った。 損害賠償を請求する消費者原告ら各自に生じた財産的、精神的損害は、別表3のとおりであって、その額は、各原告につき、いずれも10万円を下回らない。 b なお、被告は、原告が主張する消費者原告の精神的損害が、漠然とした不安、危惧の感情の発生にすぎず、国家賠償法上の保護の対象となる利益の侵害には当たらないと主張するが、仮に被告の侵害行為が不安、危惧を招来させたに止まるものであったとしても、法的権利ないし法的保護に値する利益が侵害行為によって脅威にさらされた以上、損害賠償の対象になるというべきである。 消費者原告らが主張している損害は、人格権ないし「生存権的人格権」の侵害である。例えば、いかなる食生活を営むかは、個々人の人格的自律に深く関わっており、国産米を食べることは、これまで国産米を主食として生きてきた消費者原告らにとって、人格的自律に深く関わる行為であるから、その国産米が意に反して店頭から消え、容易に入手できなくなる事態は、まさに原告らの人格権を侵害するものであり、その他上記の主張に係る精神的損害も、消費者原告らの人格権を侵害するものであって、いずれも法的権利ないし法的保護に値する利益の侵害として、損害賠償の対象となるというべきである。 c また、消費者原告らが主張する財産的損害は、本来もっと安価に国産米を購入することができ、代替食糧を購入する必要がなかったにもかかわらず、被告の減反政策に起因する米パニックにより国産米が値上がりし、代替食糧を購入せざるを得ず、その結果家計支出が増加したことにより生じたものであるから、被告の行為により生じた財産的損害であって、 らず、被告の減反政策に起因する米パニックにより国産米が値上がりし、代替食糧を購入せざるを得ず、その結果家計支出が増加したことにより生じたものであるから、被告の行為により生じた財産的損害であって、やはり損害賠償の対象となるというべきである。 (被告の主張)(1) 原告らの差止請求についてア差止請求の適法性に関する問題点(ア) 差止行為目録1項ないし4項に係る訴えについてa 差止行為目録1項ないし4項の各決定及び通知は、各農業者ごとに決定、通知される農業者別生産調整対象水田面積を具体化、現実化するための前段階の手続にすぎない。そして、これらの行為は、農林水産大臣、都道府県知事、市町村長というそれぞれ別個独立の機関の行為であっても、いわばこれら行政機関の内部的行為ないし中間的行為といってよいものである。したがって、これらを独自に取り上げて差止めを求める訴えは、これを公法上の請求とみれば、農業者別生産調整対象水田面積の決定を阻止するという原告らの目的に照らしても有効な紛争解決手段とはなり得ないし、個々の原告らの主観的利益を確保するための予防的差止請求という観点からみても、訴えの利益ないし成熟性を有するか問題であって、その適法性は疑問である。原告らによるこれらの訴えは、実質的には、生産調整政策の実施に反対し、これを阻止しようとするというものであって、民事訴訟による差止請求の対象となり得るといえるか問題である。 b また、政府買入基準数量の通知(食糧法施行令16条、13条2項)は、米穀の生産者に対し権利を設定し又は義務を課するものであり、行政処分と解されるところ、当該農業者が政府買入基準数量の通知対象となる生産調整実施者であるか否かを判断するためには、当該農業者について農業者別生産調整対象水田面積が通知されていることが前提となっている(同法 されるところ、当該農業者が政府買入基準数量の通知対象となる生産調整実施者であるか否かを判断するためには、当該農業者について農業者別生産調整対象水田面積が通知されていることが前提となっている(同法3条2項)。したがって、差止行為目録1項ないし4項の各決定及び通知の差止めを求めることは、不可避的に当該農業者に関する農業者別生産調整対象水田面積の通知を差し止めることになり、ひいては、行政処分たる政府買入基準数量の通知をも事前に差し止める結果を伴うものであるから、かかる訴えは、公法上の請求としてはもちろんのこと、民事上の差止請求としての適法性についても重大な疑問がある。 c さらに、原告らが、差止行為目録1項ないし4項の各行為が、政府買入れに際し不平等を生じさせているという理由から、これらの行為の差止めを求めているのであれば、個々の原告が政府買入れに際して不平等的取扱いを受けたことについて争えばよいのであって、その前提となるこれらの行為の差止めを求める必要はないから、この点でも原告らの差止請求には疑問がある。 (イ) 差止行為目録5項に係る訴えについて差止行為目録5項に係る訴えは、政府による生産調整未達成者からの米穀の買入拒否を一般的に差し止めることを求めるものと解されるが、原告らが各自の権利ないし利益を確保するためには、自らの受けた不利益自体を争えばよいのであるから、一般的な差止めを求めることの適法性については問題がある。 また、この訴えは、食糧法59条1項の規定が何らかの理由により無効であることを前提とするものと解されるが、この規定が無効であるとする根拠を欠いている上に、仮に無効であるとすれば、食糧法上、政府が政府米を買い入れる法的根拠がなくなり、ひいては原告らが求めている生産調整未達成者からの政府米の買入れも否定されかねないのである るとする根拠を欠いている上に、仮に無効であるとすれば、食糧法上、政府が政府米を買い入れる法的根拠がなくなり、ひいては原告らが求めている生産調整未達成者からの政府米の買入れも否定されかねないのであるから、この訴えは内在的に矛盾しているというべきである。 (ウ) 差止行為目録6項に係る訴えについて差止行為目録6項の行為についての被告又はその機関の「指導、指示、要請」は、いずれも既に発出された緊急生産調整推進対策に関する通達に定められている内容となっている以上、これに定められていることを将来再度継続反復して指導、指示、要請することは、通常想定される性質のものではない。このように、そもそも存在しないか、想定することが極めて困難な被告の将来の行為に対する差止めを請求することには、公法上の請求としての差止めを求める利益の有無について問題がある。 また、差止行為目録6項の行為は、いずれも都道府県等の自治事務であり、被告又はその機関が直接又は間接に当該行為を指導、指示、要請することを差し止めたとしても、直ちに当該行為を差し止めることにはならず、公法上の請求として訴えの利益を有するといえるか疑問がある。 (エ) 差止行為目録7項及び8項に係る訴えについて差止行為目録7項及び8項に係る訴えについては、補助金の交付決定など、将来被告の機関によってなされる行政処分の事前差止めをも包含するものと解されるから、公法上の請求としての適法性に疑問があるほか、将来の行政処分の事前差止請求が渾然一体として含まれていることから、民事上の差止請求としての適法性にも疑問がある。 (オ) 差止行為目録9項に係る訴えについて差止行為目録9項に係る訴えについては、農業近代化資金助成法及び農林漁業金融公庫法に基づく各資金の融資において、地域農業総合整備資金制度における下記の (オ) 差止行為目録9項に係る訴えについて差止行為目録9項に係る訴えについては、農業近代化資金助成法及び農林漁業金融公庫法に基づく各資金の融資において、地域農業総合整備資金制度における下記の例外を除いて、制度上、融資の可否、融資割当ての優先順位ないし金利、償還期限等の融資条件について、生産調整未達成の集落内の農業者又は生産調整未達成の農業者を不利益に扱っていないことから、訴えの利益を有するのか疑問があるし、融資の可否及び融資割当ての優先順位については、被告が決定するものではなく、農業協同組合等の融資機関が決定するものであるから、被告適格を欠く疑いもある。 また、地域農業総合資金制度においては、都道府県知事が地域農業総合整備計画を承認するための要件として、当該地区において、「生産調整対象水田面積を達成していること」が挙げられているものの(「地域農業総合整備資金制度実施要綱」(昭和60年5月21日付け60構改B第1001号農林水産事務次官依命通達)、「地域農業総合整備資金制度実施要綱の第3の5に基づく基準の制定について」(平成7年4月1日付け7農蚕第1740号農林水産省農蚕園芸局長通達))、原告らがこうした通達上に記載された事項そのものの差止めを求めているとすれば、その対象は、過去に発出された通達の規定内容そのものであり、将来被告によって継続反復される性質のものではないから、公法上の請求としての訴えの利益について疑問がある。 (カ) 以上のとおり、原告らの差止請求の適法性には、種々の重大な疑問が存するが、これは、原告らの請求が、原告らの主張する主観的権利ないし利益の範囲を超えて、生産調整に係るあらゆる個別的政策の実現の阻止を目的としていることに由来すると解され、そのような原告らの差止請求は、単に客観的制度の実定法適合性ないし法律適 する主観的権利ないし利益の範囲を超えて、生産調整に係るあらゆる個別的政策の実現の阻止を目的としていることに由来すると解され、そのような原告らの差止請求は、単に客観的制度の実定法適合性ないし法律適合性の確認を抽象的に求める客観訴訟の実質を有すると考える余地があり、かかる観点からも、原告らの差止請求の適法性には、重大な疑問がある。 イ差止請求の根拠及び必要性に関する問題点原告らの差止請求は、消費者原告らについては憲法13条、25条1項に基づく公法上の差止請求、「生存権的人格権」に基づく民事上の差止請求であり、生産者原告らについては「米を作る権利としての人格権」に基づく民事上の差止請求であると解されるところ、いずれに解したにせよ、以下のとおり、その根拠及び差止めの必要性を欠き、理由がないことは明らかである。 (ア) 憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国家の責務として宣言したものであり、この規定により直接に個々の国民が国家に対して具体的、現実的にかかる権利を有するものではないと解されているのであって、生存権が具体的権利性を有し、ましてや本件のような差止請求権の根拠となることは到底あり得ない。 したがって、個々の国民が、被告に対し、憲法25条1項を直接の根拠とした具体的請求権を有するということはできないから、この規定を根拠として差止請求をすることはできないというべきである。 (イ) 仮に、人格権に基づく差止請求が認められるとしても、そこにいう人格権は、人格的生存に不可欠なもの、すなわち生命、身体等の極めて重大な保護法益に当たるものに限られるというべきであって、いたずらに「人格権」なる名称を用いても、差止請求の根拠となり得ないのは当然である。 しかるに、原告らの主張する「生存権的 命、身体等の極めて重大な保護法益に当たるものに限られるというべきであって、いたずらに「人格権」なる名称を用いても、差止請求の根拠となり得ないのは当然である。 しかるに、原告らの主張する「生存権的人格権」については、「減反政策が将来にわたって継続するときは、日本国内における主穀の絶対的不足をきたし、国民の飢餓という事態を招来して、生存権的人格権を脅かす」という程度の主張では、「生存権的人格権」が何を意味するのかおよそ不明であり、何らその権利内容が具体化されていないし、差止めの対象となる行為がいかなる意味で原告らの主張する人格権を侵害する可能性があるのかさえ明らかとはいい難い。 また、「米を作る権利」としての人格権についても、そもそも土地所有権等に基づき対象たる土地を自由に使用収益できることの一内容にすぎず、原告らが主張するような人格的な利益といかなる関連があるのか明らかではないし、ましてや人格的生存に不可欠なものであるとは到底いえない。 (ウ) さらに、原告らが、差止請求の根拠として民法709条、710条といった民事法規を根拠として挙げるとしても、これらは違法行為から既に生じた損害の填補を目的とする損害賠償請求権を規定しているものであって、将来の違法行為の予防を請求する差止請求の根拠となるものではない。 (エ) 他方、原告らが主張するような「国民の飢餓」という事態が生じているとはいえないことはもちろん、その事態が生じる根拠も示されていないし、差止請求の対象となる行為によって、原告らの「米を作る権利」が何ゆえに妨害されるかも明らかでない。そうすると、原告らの差止請求は、その対象となる行為により、原告らに現実の権利侵害が生じているとも、侵害の具体的危険性があるとはいえないから、差止請求の要件である侵害ないし侵害の具体的危険性が存在しないとい と、原告らの差止請求は、その対象となる行為により、原告らに現実の権利侵害が生じているとも、侵害の具体的危険性があるとはいえないから、差止請求の要件である侵害ないし侵害の具体的危険性が存在しないといわざるを得ず、この点でも、原告らの差止請求は理由はない。 (2) 原告らの損害賠償請求について(なお、この項において、「原告ら」「生産者原告ら」「消費者原告ら」とは、いずれも損害賠償を請求している原告のみをいう。)ア国家賠償法1条1項の「違法」が認められないこと(ア) 公権力の行使は、もともと国民の権利に対する侵害を内包するものであり、法令等の定める一定の要件と手続の下において、国民の権利を侵害することが許容されているものであるから、権利侵害があるとの一事をもって、直ちに当該権利侵害をもたらした行為を、国家賠償法上違法であると評価することはできない。そこで、国家賠償法1条1項にいう「違法」の有無については、当該行為がその要件及び手続に従い行われたか否か、すなわち、公権力の主体がその行使に当たって遵守すべき行為規範ないし職務義務に違反したか否かを判断すべきであり、その義務に違反した場合に限り、当該公権力の行使が違法となると解すべきである。 (イ) しかしながら、生産者原告らは、同人らに対する不法行為における「違法」の内容として、結局、減反政策が原告らの人格権としての「米を作る権利」や「生存権」を侵害するがゆえに違法であると主張するものと解さざるを得ないところ、この主張は、農林水産大臣が負うべき職務上の法的義務を前提に、その義務に対する違反のあることを具体的に主張するものでないから、理由がないことは明らかである。 また、生産者原告らは、同人らの「米を作る権利」を侵害することを知りながら、何ら合理的な理由がないにもかかわらず、通達を発し、これ を具体的に主張するものでないから、理由がないことは明らかである。 また、生産者原告らは、同人らの「米を作る権利」を侵害することを知りながら、何ら合理的な理由がないにもかかわらず、通達を発し、これにしたがって各年度において全国の減反面積と各県への割当面積を指示したことが違法であるとも主張するが、政府の生産調整対策に「何ら合理的な理由がない」といえないことはもちろん、生産調整対策に基づいて一連の行為をした農林水産大臣をはじめとする国の公務員に、何ら個別の国民に対して負っている職務上の法的義務の違反を問疑し得べき点がないこともいうまでもない。 (ウ) さらに、消費者原告らに対する不法行為の主張ついても、政府は、生産者と消費者との間に立ち、年々の需給事情等を踏まえて国民に対する米穀の安定的な供給を図る等の見地から、構造的な米の供給過剰という状況下において、主要食糧である米の需給及び価格の安定を図り、もって国民生活と国民経済の安定に資することを目的として生産調整対策を実施してきたところであって、このような観点を離れ、単年度の量的な側面のみから、仮に凶作が発生したとしても国内の米が不足しない程度の米を確保すべきという職務上の法的義務を個別の国民に対して負っているとは到底解されない。 イ原告らに国家賠償法1条1項にいう「損害」が発生していないこと(ア) 生産者原告らのうち、減反に協力した者について生産者原告らのうち、減反に協力した者は、減反実績面積から算出した予想売上減額から転作による収益及び転作補助金を差し引いた金額について、財産的損害を被ったと主張している。 しかしながら、米の生産調整は、大幅な構造的需給ギャップが存在している中で、米の需給と価格の安定を図るため実施されているものであり、仮に生産調整が実施されなければ、米の価格暴落が引 主張している。 しかしながら、米の生産調整は、大幅な構造的需給ギャップが存在している中で、米の需給と価格の安定を図るため実施されているものであり、仮に生産調整が実施されなければ、米の価格暴落が引き起こされ、米作農家にとって壊滅的な打撃を与えることになる。生産調整が適切に実施されることにより、米の価格は一定水準が維持されるとともに、国においては生産調整の実施者に対し、麦、大豆等への転作を通じて、米による収益と同程度の収益が得られるよう、水田農業確立助成補助金等の各種の助成指導が講じられているところであるから、これをもって、国家賠償法1条1項にいう損害と解する余地はない。 (イ) 生産者原告らのうち、減反に協力しなかった者についてa 財産的損害について水田農業確立助成補助金等の補助金は、生産調整が農業者の理解と協力の下で実施されるべきものであることを踏まえ、その実効を図り、全体需給が調整されるよう、被告によって講じられた対策であるから、減反に協力しない者がこれらの補助金の交付を受けられないことは、自らの意思と選択に基づいた結果というべきであって、このような国の政策に基づいて交付を受ける補助金をもって、国の政策に対する協力の有無を問わず当然得られる利益と観念することはできないから、国家賠償法1条1項にいう損害が発生したと解する余地はない。 b 精神的損害について水田農業確立助成補助金等の補助金の性格が、上記aのとおりの趣旨により被告が講じた対策である以上、減反に協力しない者がこれらの補助金の交付を受けられなかったからといって、これをもって、被告により不合理な差別的取扱いがなされたと解する余地はないから、差別的取扱いにより精神的損害が発生したとする原告らの主張は失当である。 また、原告らは、生産調整に反対し、これに協力しないことを余儀 告により不合理な差別的取扱いがなされたと解する余地はないから、差別的取扱いにより精神的損害が発生したとする原告らの主張は失当である。 また、原告らは、生産調整に反対し、これに協力しないことを余儀なくされたこと自体により、精神的苦痛を被ったことを精神的損害として主張するものと解されなくもない。しかしながら、減反に協力しない者が生産調整に反対し、これに協力しないことにより発生するような精神的苦痛については、単に個人の内心に生じた主観的かつ私的な感情にすぎないというほかなく、およそ法的に保護された利益の侵害に当たるとはいえないから、国家賠償法1条1項の損害が発生したということはできない。 (ウ) 消費者原告らについてa 消費者原告らは、減反政策の実施により生じた平成5年における国内の著しい米不足及びその結果としてのいわゆる米パニックにより、財産的及び精神的損害を被ったと主張する。 しかしながら、消費者原告らが主張する財産的損害は、市場価格において米ないしは代替食料を購入せざるを得なかったということにすぎず、財産的損害が発生しているとはいい難い。 また、国家賠償法上、精神的苦痛に対する損害賠償を請求するには、その精神的苦痛が民法710条に規定する「身体、自由又は名誉」に対する侵害と同様に、法的に保護された利益を侵害された場合に当たらなければならず、かつ、それが一定の程度に達し、社会通念上金銭賠償をもって慰藉せしめることが公平の原則に合致すると解されるようなものであることを要すると解すべきであって、少なくとも精神的苦痛が社会観念上甘受すべき限度を超えるとみられる客観的状況が存在するとはいえない場合には、単に個人の内心に生じた主観的かつ私的な感情にすぎず、国家賠償法上保護の対象となる利益の侵害に当たると解する余地はない。本件において、消費 超えるとみられる客観的状況が存在するとはいえない場合には、単に個人の内心に生じた主観的かつ私的な感情にすぎず、国家賠償法上保護の対象となる利益の侵害に当たると解する余地はない。本件において、消費者原告らが主張する精神的苦痛は、漠然とした不安あるいは危惧の感情の発生にすぎないものなど、いずれも国家賠償法上保護の対象となる利益の侵害に当たるとはいえないものであるから、これをもって国家賠償法1条1項にいう「損害」が発生したと解することはできない。 b さらに、消費者原告らが被った損害について、被告に対する国家賠償請求が認められるためには、損害と加害行為との間に相当因果関係が存するものでなければならない。しかしながら、原告らの主張する財産的及び精神的損害は、いずれも平成5年の国内における米の生産量が、平年作であれば1年間の米の消費量を上回る見通しであったところ、実際には作況指数74という極めて著しい不作となったことが原因となって生じたことは明らかであるから、原告らの主張する損害と被告による生産調整の実施との間に条件関係が存したかは疑問であり、まして相当因果関係があったとは到底いえない。 3 争点以上によれば、本件の争点は、以下の各点である。 (1) 原告らの差止請求が、適法な訴えと認められるか否か。 (争点1)(2) 原告らの差止請求につき、原告らがその根拠として主張する内容の人格権の侵害の危険が存するか否か。 (争点2)(3) 本件における損害賠償請求につき、これを基礎づける違法行為及び損害が認められるか否か。 (争点3)第3 争点に対する判断 1 原告らが本件訴えにおいて求める 損害賠償請求につき、これを基礎づける違法行為及び損害が認められるか否か。 (争点3)第3 争点に対する判断 1 原告らが本件訴えにおいて求める差止行為目録記載の各行為の差止請求については、その適法性について、被告から、前記「被告の主張」(1)アのとおり、多くの疑問点が指摘されているところであるが、これらの差止請求は、いずれも同一の人格権に対する侵害の危険性を根拠とするものであることにかんがみ、これらの差止請求の適否の点はいったん措いて、まず、原告らの主張する内容の人格権侵害が上記の各差止請求の根拠となり得るものであるか否かについて判断することとする。 2 争点2(差止請求の根拠となる人格権侵害の危険の有無)について(1) 人格権に基づく侵害行為の差止請求については、これを直接規定した明文上の根拠はないものの、個人の生命、身体、名誉等の重大な人格的利益が現に侵害されているような場合には、人格権に基づいて、加害者に対し、その侵害行為を排除するために、侵害行為の差止めを求めることができる余地があるものと解される。そして、これらの保護法益の重大性を考えれば、これらの侵害が現在のものでなく、将来、起こり得ることが予想される場合であっても、同様であると解されるが、このような行為の差止めは、未だ侵害の結果が発生していない段階において、相手方に対し、将来にわたり一定の行為を行わないことを命ずるという重大な制約を課すものであることにかんがみれば、このような事前の差止めが認められるのは、少なくとも前記のような重大な保護法益に対する侵害が発生する具体的危険が存在することが認められる場合に限られると解するのが相当である。 そこで、以上のような前提に立った上で、原告らの人格権に基づく将来の侵害行為の差止請 重大な保護法益に対する侵害が発生する具体的危険が存在することが認められる場合に限られると解するのが相当である。 そこで、以上のような前提に立った上で、原告らの人格権に基づく将来の侵害行為の差止請求について、原告らが主張する「生存権的人格権」及び「米を作る権利」としての人格権が差止請求の根拠となり得るか否か、また、差止行為目録記載の各行為により、これらに対する重大な侵害が発生する具体的危険が認められるか否かについて、前記第2の1において認定した前提事実及び法令の定め等を踏まえて検討することとする。 (2) 「生存権的人格権」に基づく差止請求についてア原告らが差止請求の根拠として主張している「生存権的人格権」の侵害とは、減反政策が今後も継続されることにより、原告ら及びその子孫に対して、飢餓を生じさせ、その生命、健康を侵害することが、人格権の侵害に当たると主張するものと解されるところ、個人の生命、身体に係る人格的利益は、人格権の内容を構成する重要な保護法益であるから、飢餓によって生命、健康に対する侵害が発生する具体的危険が認められる場合には、これを予防するために、侵害を発生させる具体的危険のある行為をあらかじめ差し止めることを求めることができる余地があるというべきである。 イそこで、被告による差止行為目録記載の各行為により原告らの生命、健康に対する重大な危険が発生する具体的危険の有無について検討する。 (ア)a 被告による差止行為目録記載の各行為は、いずれも食糧法の下に、生産調整の実施ないしはこれを推進させるための措置として行われるものである。 食糧法施行後における食糧制度及び生産調整の概要は、前記第2の1(4)ウのとおりであって、食糧法は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の需給の適確な見通しを策定して、これに基づき、計画的か 食糧法施行後における食糧制度及び生産調整の概要は、前記第2の1(4)ウのとおりであって、食糧法は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の需給の適確な見通しを策定して、これに基づき、計画的かつ整合性をもって、米穀の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進、米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営及び消費者が必要とする米穀の適正かつ円滑な流通を図るとともに、米穀の適切な買入れ、輸入及び売渡を行うものとされており、同法の下で実施された新生産調整推進対策及び緊急生産調整推進対策における生産調整においては、米の需給の均衡を図ることを基本として、生産調整対象水田の面積が算定されているところである。 このことからすれば、食糧法の下における生産調整は、制度上、消費者による米の需要を勘案して行われているのであって、生産調整が、米の需給の均衡という趣旨に従って合理的に実施される限り、これによって米の供給が需要と比較して著しく不足する事態が生じる可能性が高いということはできない。 b また、生産調整の実施態様としては、転作、調整水田、水田預託、多面的機能水田、自己管理保全等の方法が規定されているところ、これらの方法は、当該水田において、他の農作物の生産を行ったり、水稲の耕作が可能な状態を維持すること等を内容とするものであるから、生産調整の実施により、直ちに米の潜在的生産力が失われるものとは解されない。 c さらに、食糧法の下において、政府は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営を行うことが要請されており(同法2条1項)、備蓄の円滑な運営を図るため、米穀の買入れを行うことが認められている(同法59条1項)ほか、米穀の輸入を目的とする買入れを行うことが認められている(同法60条1項)。また れており(同法2条1項)、備蓄の円滑な運営を図るため、米穀の買入れを行うことが認められている(同法59条1項)ほか、米穀の輸入を目的とする買入れを行うことが認められている(同法60条1項)。また、弁論の全趣旨によれば、対外的にも、我が国は、米穀の輸入に関し、ガット・ウルグアイ・ラウンド等により、諸外国よりさらなる輸入の拡大が求められている状況にあることが認められる。 d そして、我が国における近年の米の需給事情に関しても、少なくとも昭和35年以降において、米の1人当たり消費量が大きく減少し、総消費量も減少傾向にあること、昭和44年以降実施されてきた生産調整にもかかわらず、米の潜在生産量は需要を大きく上回った状態が維持されていること、平成5年には米の作況指数が74という著しい不作に見舞われ、国産米の供給が需要に追いつかない事態が生じたものの、その後再び豊作が連続して、持越在庫が適正備蓄量を上回ったことから、米の需給均衡の速やかな回復を図るため、緊急生産調整推進対策が実施されたことが認められる。 e 以上の各事実に照らせば、原告らの主張するように、被告が減反政策の実施として行う差止行為目録記載の各行為により、近い将来、我が国国民が、食糧不足による飢餓状態に陥り、これによって、生命や健康に対する侵害が発生するという具体的危険が存すると認めることは、困難といわなければならない。 (イ)a もっとも、食管法の下で米の需給状況に応じた生産調整が行われていたにもかかわらず、平成5年には、水稲の作柄が全国平均で作況指数74という著しい不良となったことから、自主流通米価格の上昇等により米の消費者価格が上昇し、主食用米についても緊急輸入が行われたことは、前記第2の1(3)ウのとおりであり、その際、我が国の消費者が、米の入手(殊に国産米の入手)のために少な 流通米価格の上昇等により米の消費者価格が上昇し、主食用米についても緊急輸入が行われたことは、前記第2の1(3)ウのとおりであり、その際、我が国の消費者が、米の入手(殊に国産米の入手)のために少なからぬ負担を強いられたり、代替食糧の入手を強いられたことは事実である(甲28、同32、同33、同70、原告P8)。 しかしながら、平成5年に発生した上記のような状況は、天候の不順等に起因した、作況指数74という著しい不作を契機とするものであり、同年が平年と比較していかに極端な不作であったかについては、別紙「米の生産、消費等の推移」に照らしても明らかであって、同年までの米の需給状況をも勘案すれば、同年の米不足の主たる原因は、著しい不作にあるというべきであり、被告が推進した生産調整が主たる原因ということはできない。しかも、同年のような著しい不作の年にあっても、これにより飢餓が発生し、国民の生命や健康が侵害された事実を認めることはできない。 そうすると、平成5年に発生した前記のような事実を勘案しても、被告が減反政策を実施することにより、近い将来、米の著しい不作によって、飢餓が発生し、国民の生命、健康等が侵害される具体的危険があるとは認めらないというべきである。 b また、原告らが指摘するとおり、減反政策の継続的実施により、水田面積が減少し、復田不可能な耕地が増加するとともに、農業者の米作への意欲が低下し、米作農家が減少することから、我が国全体における米の生産能力が低下し、米の自給率が大幅に低下するおそれがないとはいえないことに加え、今後、発展途上国を中心として、世界的な人口増が予想されることや、今後の世界的な食糧増産の見込みが薄いことから、国際的な食糧事情が逼迫した場合、米やその他の食糧が容易に輸入できなくなる可能性がないわけではないことが認めら として、世界的な人口増が予想されることや、今後の世界的な食糧増産の見込みが薄いことから、国際的な食糧事情が逼迫した場合、米やその他の食糧が容易に輸入できなくなる可能性がないわけではないことが認められる(甲24の1、同25、同26、同79、原告P9)。 しかしながら、これらの懸念は、いずれも中長期的な視点に立った想定に立脚するものであり、我が国における今後の食糧政策や、減反政策の当否を論ずるという観点からは、考慮されるべき問題点であると考えられるものの、その前提には、いずれも極めて不確定な将来の予想が含まれており、これらの懸念が存在するからといって、近い将来において我が国に飢餓が発生し、これによって、国民の生命や健康等に対する侵害が発生する具体的危険が存在するとまで認めることは困難である。 ウしたがって、被告による差止行為目録記載の各行為により、飢餓が発生し、原告らの生命や健康に対する侵害、すなわち原告らの主張する「生存権的人格権」が侵害される具体的危険が存在すると認めることはできない。 (3)「米を作る権利」としての人格権に基づく差止請求についてア生産者原告らは、「米を作る権利」について、自ら米作を職業として選択し、これを遂行することによって自己実現を図るものであるとし、米作は米の生産者にとって、単に生活の糧を得る目的を超えて生きがいであり、日々の生活を充実させる手段であるから、人格的生存と密接不可分であり、人格権に基づく差止請求の根拠となる重要な人格的利益であると主張し、減反政策はかかる自己実現を阻害し、人格権侵害を構成するものであると主張する。 イそこで検討するに、原告らの主張する「米を作る権利」については、米作の伝統性、高度の専門性、施設の不代替性、担っている役割の重要性を考慮しても、なおこれが差止請求の根拠となる人格 ると主張する。 イそこで検討するに、原告らの主張する「米を作る権利」については、米作の伝統性、高度の専門性、施設の不代替性、担っている役割の重要性を考慮しても、なおこれが差止請求の根拠となる人格権の内容となるものか否かについては、疑問を留保せざるを得ないところであるが、この点はしばらく措いて、まず、被告による差止行為目録記載の各行為によって、生産者原告らの「米を作る権利」に対する侵害が発生する具体的危険が認められるか否かについて検討することとする。 (ア) 前記第2の1(4)イのとおり、食糧法の下における食糧制度は、食管法において、政府が生産者に米の売渡義務を課し、米の流通を一元的に管理することを原則としていたのを変更して、自主流通米を米流通の基本に位置づけるとともに、政府米を米の備蓄を目的とするものとして位置づけている。そして、農林水産大臣が基本計画において計画流通米(自主流通米及び政府米)の数量に係る事項を定め、これに基づいて個々の生産者が自主流通米として売り渡す数量の上限が定められるところ、政府米の買入れは生産調整実施者からに限られるものの、自主流通米として売り渡す数量については、生産調整を実施しているか否かにかかわらず割り当てられ、さらに、計画流通米以外の米については、あらかじめ販売数量を農林水産大臣に届け出れば売り渡すことが可能である。 また、食糧法の下における生産調整は、基本計画における米穀の生産の目標を基礎として、生産調整水田面積を決定する方法により行われるものであるところ、農業者別生産調整対象水田面積の割当てを受けても、すべての水田に米の作付ができなくなるというものではなく、食管法の下における生産調整に存在していた未達加算の制度も廃止されている。そして、生産調整に従わない場合であっても、米の政府買入れが認められない の水田に米の作付ができなくなるというものではなく、食管法の下における生産調整に存在していた未達加算の制度も廃止されている。そして、生産調整に従わない場合であっても、米の政府買入れが認められないことや、生産調整推進に係る助成補助金の交付が受けられない等の不利益を受けることはあるものの、米を作ること自体を法的に禁止ないし制限する措置が制度上存在するわけではない。 (イ) これらを前提とすると、食糧法下の生産調整は、個々の米作農業者に対して、米の需給の均衡等の観点から、一定面積の水田の生産調整を要請しているものであって、米を作ること自体を法的に禁止ないし制限するものではない。 また、生産調整に協力しない農業者に対し、米の政府買入れを認めないとしても、農業者が生産した米を政府が原則的に買い入れることの政策的当否は別として、これを認めないことが直ちに生産者原告らが主張する「米を作る権利」を侵害するということはできない。 さらに、生産調整実施者は、米穀の需給の均衡を図ることにより、その価格を安定させ、国民生活と国民経済の安定に資するという食糧法及びその下で行われる生産調整の実施に協力するために、自らの米作に対する制限を受容しているのであるから、被告がその損失を補償するために補助金等を交付し、また優先的に融資等を実施することは、合理的な措置であるというべきであり、その反面として、生産調整未達成者がこれらの措置を受けられないとしても、やむを得ない結果というべきであるから、このことが生産者原告らの主張する「米を作る権利」の侵害に当たるということはできない。 (ウ) 以上によれば、被告が食糧法の下において推進する生産調整は、米作農業を職業として選択することや、米を作ること自体を直接禁止ないし制限するものでないことはもとより、生産調整推進のための措置を (ウ) 以上によれば、被告が食糧法の下において推進する生産調整は、米作農業を職業として選択することや、米を作ること自体を直接禁止ないし制限するものでないことはもとより、生産調整推進のための措置を通じてこれらを制限するということもできないから、被告が減反政策に基づいて行う差止行為目録記載の各行為によって、生産者原告らが主張する「米を作る権利」が侵害されていると認めることはできない。 (エ) これに対し、生産者原告らは、食糧法の下における生産調整が、現実には地方自治体や地域共同体を通じて、事実上強制されている旨主張しており、原告らは、このような強制を受けたとする証拠を多数提出している。 しかしながら、生産者原告らが受けたとする強制は、いずれも個々の生産者が属する地方公共団体の職員や、同一地域で農業に従事する他の農業者が、当該地方公共団体等に割り当てられた生産調整水田面積を達成するために、生産調整に従うよう強く促したことを指すものであるところ、このような行為がその方法、態様、程度等において社会的相当性を逸脱した場合には、行為者との関係で法的な救済が図られなければならないものの、かかる行為が被告の指示に基づくものであることを認めるに足りる証拠はなく、これをもって、被告が生産調整を強制しているものと評価することは困難である。 また、食糧法の下における生産調整の推進のための措置の中には、制度資金の優先措置など、個々の米作農業者が生産調整に反対した場合に、その者の属する地方公共団体や地域の他の農業者等に影響が及ぶ可能性があることから、これらの者が生産調整に反対する農業者に対して、生産調整に応じることを促す契機となり得るような措置も存するものの、このような措置が制度的に存するとの一事をもって、被告が他の農業者等をして、個々の農業者に生産調整に従 調整に反対する農業者に対して、生産調整に応じることを促す契機となり得るような措置も存するものの、このような措置が制度的に存するとの一事をもって、被告が他の農業者等をして、個々の農業者に生産調整に従うことを事実上強制しているとまではいうことはできないから、このことをもって、生産者原告らが主張する「米を作る権利」を侵害するということはできない。 ウしたがって、被告による差止行為目録記載の各行為により、生産者原告らの主張する「米を作る権利」としての人格権が侵害される具体的危険が存すると認めることはできない。 (4) そうであるとすれば、原告ら主張の「生存権的人格権」又は「米を作る権利」としての人格権を根拠として差止行為目録記載の各行為の差止めを求める原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。 3 争点3(損害賠償請求に関する違法性及び損害の有無)について(なお、この項において、「原告ら」「生産者原告ら」「消費者原告ら」とは、いずれも損害賠償を請求している者のみをいう。)(1) 原告らは、被告による減反政策が、「米を作る権利」や「生存権的人格権」を侵害する違法なものであるとした上で、具体的には、生産者原告らについては、被告の減反政策に基づいて行われた、生産調整に係る通達の発出及びこれに基づく平成4年度ないし平成6年度における減反面積の指示が違法であり、消費者原告らについては、農林水産大臣が定めた減反目標面積に基づき平成5年度に実施された減反により、凶作年にも米不足が生じない程度の米を確保すべき注意義務に反して、同年に著しい米不足を招来したことが違法であるとして、国家賠償法に基づく損害賠償を求めている。 (2) ところで、原告らは、被告が平成4年度ないし平成6年度において、減反政策を実施したこと自体が、 、同年に著しい米不足を招来したことが違法であるとして、国家賠償法に基づく損害賠償を求めている。 (2) ところで、原告らは、被告が平成4年度ないし平成6年度において、減反政策を実施したこと自体が、国家賠償法1条1項にいう「違法」な行為に当たると主張するものと解されるから、まずこの点について検討する。 食管法は、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため食糧を管理しその需給及び価格の調整並びに流通の規制を行うことを目的として制定された法律であり、同法に基づく食糧制度の下では、前記第2の1(2)アのとおり、農林水産大臣が米穀管理基本計画を定め、これに即して、供給を予定する米穀の数量等を定めた供給計画を策定した上、これらの計画に基づいて、政府への米穀の売渡し、政府による米穀の売却等、米穀の流通が管理されていたものである。 しかるに、前記第2の1(2)ウのとおり、米の生産量が消費量を大きく上回るようになったことから、昭和44年度以降、米の生産調整が実施されるようになり、平成4年度ないし平成6年度には、水田農業確立対策及び水田営農活性化対策の名称の下に、農林水産大臣が米の需給状況に応じた転作等基本目標面積を定めてこれを配分する方法により、生産調整が行われてきたところである。 そして、食管法の下で実施されたこれらの生産調整について、食管法その他の法令の明文の規定に反する点は何らうかがわれないし、平成5年の米不足の際には、食糧の需給及び価格の調整という食管法の目的が全うされたとはいい難いものの、前記2イ(イ)aのとおり、その主たる原因が天候の不順等に起因する米の極端な不作にあったことにかんがみれば、これをもって、生産調整自体が食糧法の趣旨に反して違法であったと評価することはできず、他に生産調整が食管法の趣旨に反するものであることを認めるに足りる事 る米の極端な不作にあったことにかんがみれば、これをもって、生産調整自体が食糧法の趣旨に反して違法であったと評価することはできず、他に生産調整が食管法の趣旨に反するものであることを認めるに足りる事情は認められない。 したがって、被告が減反政策を実施したこと自体が違法であるということはできない。 (3) 原告らは、被告の減反政策に基づく生産調整が、生産者原告らとの関係では「米を作る権利」としての人格権を、消費者原告らとの関係では「生存権的人格権」を侵害するがゆえに、違法であるとも主張する。 アしかしながら、被告が食管法の下で推進した生産調整の概要は、前記第2の1(2)ウのとおりであり、政府が米を原則として買い入れ、その流通及び価格を管理するという食糧管理制度の下で、米の生産が需要を大きく上回り、米の消費量が減少傾向にあることを踏まえ、需要と供給の均衡を図るために米の生産量を抑制するために、個々の米作農業者に対して転作等基本目標面積を配分して、生産調整を要請するものであって、これに従わなかった農業者に対して、補助金の交付が受けられない等の一定の不利益が予定されているにせよ、米を作ること自体を法的に禁止ないし制限するものではない。加えて、生産調整を行った者に対する補助金等の優遇措置は、生産調整に伴う経済的損失の補填ないしは米の需給均衡という政策目的を推進するための奨励措置として合理性を有するものであって、生産調整未達成者がこれらの措置を受けられないことはやむを得ないというべきであること、生産調整に反対した農業者がその者の属する地方公共団体や地域共同体を通じて事実上強制を受けたと感ずることがあったとしても、それが、その態様いかんによっては行為者との関係で法的救済が図られるべき場合があることはともかく、それがゆえに生産調整自体が直ちに違法とな 同体を通じて事実上強制を受けたと感ずることがあったとしても、それが、その態様いかんによっては行為者との関係で法的救済が図られるべき場合があることはともかく、それがゆえに生産調整自体が直ちに違法となるものではないことについても、基本的に前記2(3)イのとおりである。 そうすると、被告が推進した生産調整は、米作農業を職業として選択することや、米を作ること自体を禁止ないし制限するものではないから、生産者原告らが主張する「米を作る権利」としての人格権を侵害するものとして違法であるということはできない。 イまた、平成5年に国内において米の入手に困難をきたす事態が発生したことについても、その主たる原因が、同年における天候の不順等に起因する作況指数74という極端な不作にあることや、そのようなまれに見る不作の年にあっても、国民が米の入手(殊に国産米の入手)のために少なからぬ負担を強いられたり、代替食糧の入手を強いられたことはあったものの、これにより飢餓が発生して、国民の生命や健康が侵害された事実が認められないことは、前記のとおりである。 そうすると、被告の減反政策に基づく生産調整は、消費者原告らが主張する「生存権的人格権」の侵害、すなわち、飢餓により原告ら及びその子孫に生命、健康に対する侵害を生じさせるとの点において、違法であるということはできない。 なお、消費者原告らは、被告による人格権侵害の具体的内容として、米不足により国産米が容易に入手できなくなったこと、輸入米購入を強いられたこと、近隣諸国に迷惑をかけた心痛等を主張しているが、これらはいずれも人格的生存に係る重要な権利として国家賠償法上保護に値するものということはできないし、輸入米による農薬の害、将来の食糧不足及び自然環境の悪化についても、これが具体的に生命、健康に影響を及ぼすに至ってい 生存に係る重要な権利として国家賠償法上保護に値するものということはできないし、輸入米による農薬の害、将来の食糧不足及び自然環境の悪化についても、これが具体的に生命、健康に影響を及ぼすに至っていることは認められないから、これらの権利ないし利益の侵害をもって、生産調整を違法であるとすることはできない。 (4) さらに、消費者原告らは、農林水産大臣が、仮に凶作が発生したとしても国内の米が不足しない程度の米を確保すべき注意義務を負っているにもかかわらず、これに反して米の著しい不足を招来したことが違法であると主張する。 しかしながら、ここにいう「凶作」がどの程度の不作を想定するものか明瞭とはいえないものの、いかなる凶作の場合にも米不足が生じないような量の米を国内に確保すべきであると主張しているとすれば、米穀の輸入が困難とはいえない現在の状況の下においては、そのような量の米を常に国内に備蓄すべきであるとすることは現実的でないといわざるを得ない。のみならず、食管法の下における生産調整は、継続的な米の供給過剰を背景に、米の需給及び価格の安定を図るための施策として、数年単位で実施されていたものであって、このような観点を捨象して、単に著しい凶作年のみを前提として、農林水産大臣が国内の米が不足しない程度の米を確保すべき法的義務を個々の国民に対して負うものと解すべき根拠は見出し得ない。 そして、他に、被告による生産調整が違法であったことを認めるに足りる主張、立証はない。 (5) したがって、被告の減反政策について原告らが違法であると主張する各点について、国家賠償法1条1項にいう違法を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告に対する損害賠償請求を認めることはできない。 第4 結論以上のとおり、原告らの請求はいずれも理 法1条1項にいう違法を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告に対する損害賠償請求を認めることはできない。 第4 結論以上のとおり、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官森英明裁判官馬渡香津子

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