1 令和5 年9 月28 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和2 年(ワ)第8642 号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 令和5 年6 月7 日 判 決 原告 アムジエン・インコーポレーテツド 5 同訴訟代理人弁護士 大野聖二 同 山口裕司 同 多田宏文 同 盛田真智子 同補佐人弁理士 森田裕 10 被告 サノフィ株式会社 同訴訟代理人弁護士 三村量一 同 東崎賢治 同 中島慧 同訴訟代理人弁理士 南条雅裕 15 同訴訟復代理人弁護士 安部智貴 同補佐人弁理士 瀬田あや子 同 伊波興一朗 主 文 1 原告の請求を棄却する。 20 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30 日と定める。 事 実 及 び 理 由 第1 請求の趣旨 被告は、原告に対し、10 億円及びこれに対する令和2 年6 月23 日から支払済み 25 まで年5%の割合による金員を支払え。 2 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、いずれも発明の名称を「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケ クシン9 型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする2 件の特許に係る特許 権(以下、各特許を後記のとおり「本件特許1」などといい、本件特許1 及び2 を 5 併せて「本件特許」という。また、本件特 型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする2 件の特許に係る特許 権(以下、各特許を後記のとおり「本件特許1」などといい、本件特許1 及び2 を 5 併せて「本件特許」という。また、本件特許に係る特許権を併せて「本件特許権」 という。)を有する原告が、被告の販売等に係る別紙1 物件目録記載の製品(以下 「被告製品」という。)は本件特許に係る発明の技術的範囲に属するから、その販売 等は本件特許権をいずれも侵害する行為であると主張して、被告に対し、本件特許 権侵害の不法行為(民法709 条、損害額につき特許法102 条2 項又は同条3 項)に 10 基づき、損害の一部である10 億円の損害賠償及びこれに対する令和2 年6 月23 日 (訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29 年法律第44 号による改正 前のもの)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠(枝番の記載を省略したも のは枝番を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 15 (1) 当事者 原告は、医薬品等の製造、販売及び輸出等を業とし、米国法に準拠して設立され た法人である。 被告は、医薬品等の製造、販売、輸入等を業とする株式会社である。 (2) 本件特許権 20 原告は、以下の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する。 ア 本件特許1 特許番号 特許第5705288 号 登録日 平成27 年3 月6 日 出願番号 特願2013-195240 号 25 出願日 平成25 年9 月20 日(特願2010-522084 号の分割) 3 原出願日 平成20 年8 月22 日 優先日 平成19 年8 月23 日、同年12 月21 日 出願日 平成25 年9 月20 日(特願2010-522084 号の分割) 3 原出願日 平成20 年8 月22 日 優先日 平成19 年8 月23 日、同年12 月21 日、平成20 年1 月9 日、同年 8 月4 日(以下、同各日を併せて「本件優先日」という。) 発明の名称 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9) に対する抗原結合タンパク質 5 イ 本件特許2 特許番号 特許第5906333 号 登録日 平成28 年3 月25 日 出願番号 特願2015-33054 号 出願日 平成27 年2 月23 日(特願2013-195240 号の分割) 10 原出願日 平成20 年8 月22 日 優先日 本件優先日 発明の名称 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9) に対する抗原結合タンパク質 ウ 本件特許1 に係る願書添付の明細書及び図面(以下、これらを併せて「本件 15 明細書1」という。)及び本件特許2 に係る願書添付の明細書及び図面(以下、これ らを併せて「本件明細書2」という。また、本件明細書1 及び2 を併せて「本件明 細書」という。なお、段落番号は、本件明細書1 及び2 において同一である。)に は、別紙2 のとおりの記載がある(甲2、4)。 (3) 本件訂正等 20 ア 被告の親会社であるサノフィ(フランス法人。以下「サノフィ社」という。) は、本件特許それぞれについて特許無効審判(本件特許1 につき無効2016-800004 号、本件特許2 につき無効2016-800066 号)を請求した。 原告は、上記各特許無効審判請求事件において、いずれも平成29 年5 月8 日付 け訂正請求書(甲11)により、本件特許に係る特許請求 本件特許2 につき無効2016-800066 号)を請求した。 原告は、上記各特許無効審判請求事件において、いずれも平成29 年5 月8 日付 け訂正請求書(甲11)により、本件特許に係る特許請求の範囲の訂正を請求した(以 25 下、上記各訂正請求を「本件訂正」という。)。本件訂正後の特許請求の範囲のうち、 4 本件特許1 に係る請求項1 及び9 並びに本件特許2 に係る請求項1 及び5 は、それ ぞれ、以下のとおりである。 (ア) 本件特許1 【請求項1】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、配列番号49 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 5 と、配列番号23 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と 競合する、単離されたモノクローナル抗体。 【請求項9】 請求項1 に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組 成物。 (以下、請求項9 に係る発明(ただし、請求項1 に係るもの)を「本件発明1」 10 という。また、「配列番号49 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、 配列番号23 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」を 「21B12 抗体」という。)。 (イ) 本件特許2 【請求項1】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 15 との結合に関して、配列番号67 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 と、配列番号12 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と 競合する、単離されたモノクローナル抗体。 【請求項5】 請求項1 に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組 成物。 20 (以下、請求項5(ただし、請求項1 に係るもの)に係る発明を 競合する、単離されたモノクローナル抗体。 【請求項5】 請求項1 に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組 成物。 20 (以下、請求項5(ただし、請求項1 に係るもの)に係る発明を「本件発明2」と いう。また、本件発明1 及び2 を併せて「本件発明」という。さらに、「配列番号 67 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12 のアミノ酸配 列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」を「31H4 抗体」といい、これ と21B12 抗体を併せて「参照抗体」ともいう。)。 25 イ 特許庁は、平成29 年8 月2 日、本件訂正を認めた上で、本件特許1 に関し 5 ては「請求項1、9 に係る発明についての審判請求は成り立たない。」などとする審 決を、本件特許2 に関しては「請求項1、5 に係る発明についての審判請求は成り 立たない。」などとする審決を、それぞれ行った(甲12)。 ウ サノフィ社は、上記各審決につき、それぞれ、審判請求は成り立たないとし た部分の取消しを求める訴訟(本件特許1 につき、知的財産高等裁判所平成29 年 5 (行ケ)第10225 号審決取消請求事件。本件特許2 につき、同第10226 号審決取 消請求事件。以下、これらを併せて「別件審決取消訴訟」という。)を提起したが、 知財高裁は、平成30 年12 月27 日、サノフィ社の請求をいずれも棄却する判決を 言い渡した(甲13)。 サノフィ社は、同判決を不服として上告受理申立てをしたが、最高裁判所は、令 10 和2 年4 月24 日、上告不受理決定をし、同判決は確定した(甲17)。 (4) 構成要件の分説 本件発明を構成要件に分説すると、以下のとおりである。 ア 本件発明1 A PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することがで し、同判決は確定した(甲17)。 (4) 構成要件の分説 本件発明を構成要件に分説すると、以下のとおりである。 ア 本件発明1 A PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、 15 B PCSK9 との結合に関して、21B12 抗体と競合する、 C 単離されたモノクローナル抗体 D を含む、医薬組成物。 イ 本件発明2 A PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、 20 B’ PCSK9 との結合に関して、31H4 抗体と競合する、 C 単離されたモノクローナル抗体 D を含む、医薬組成物。 (5) 被告製品 ア 製造販売承認の取得等 25 被告は、被告製品について、平成28 年7 月4 日付けで厚生労働大臣から医薬品 6 製造販売承認を得、同年8 月31 日付けで薬価基準収載された被告製品を、遅くと も同年9 月5 日より輸入し、販売し、販売の申出をした(ただし、被告による被告 製品の製造の有無及び現在までの輸入、販売、販売の申出の継続の有無については 当事者間に争いがある。)。 イ 構成 5 被告製品の構成は、以下のとおりである(以下、被告製品に含まれる抗体を「ア リロクマブ」又は「316P 抗体」という。)。 a PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を阻害し、 b PCSK9 との結合に関して、21B12 抗体と競合し、 b’ PCSK9 との結合に関して、31H4 抗体と競合する、 10 c 単離されたモノクローナル抗体 d を含む、医薬組成物。 (6) 関連訴訟等 ア 当事者間の前訴 原告は、平成29 年に、被告に対し、本件特許権に基づき被告製品の譲渡等の差止 15 め等を求める訴訟(当庁平成29 年(ワ)第16468 号特許権侵害差止請求 関連訴訟等 ア 当事者間の前訴 原告は、平成29 年に、被告に対し、本件特許権に基づき被告製品の譲渡等の差止 15 め等を求める訴訟(当庁平成29 年(ワ)第16468 号特許権侵害差止請求事件。以下 「前訴」という。)を提起した。これについて、東京地方裁判所は、平成31 年1 月 17 日、被告に対し、被告製品の譲渡等の差止め等を命じる判決を言い渡した(甲14)。 これに対して被告が控訴したところ(知的財産高等裁判所平成31 年(ネ)第10014 号特許権侵害差止請求控訴事件)、知財高裁は、令和元年10 月30 日、被告の控訴 20 を棄却した(甲15)。これに対する被告の上告受理申立事件につき、令和2 年4 月 24 日、最高裁判所が上告不受理決定をした(甲16)ことにより、東京地方裁判所 の上記判決は確定した。 イ リジェネロンによる審決取消訴訟 リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド(以下「リジ 25 ェネロン」という。)は、令和2 年2 月12 日、本件特許について特許無効審判(本 7 件特許1 につき無効2020-800011 号、本件特許2 につき無効2020-800012 号)を 請求した。特許庁は、令和3 年4 月7 日、上記各事件につき、いずれも、無効審判 請求は成り立たない旨の審決をした(甲22)。 これに対し、リジェネロンは、上記各審決の取消しを求める訴訟(本件特許1 に つき、知的財産高等裁判所令和3 年(行ケ)第10093 号審決取消請求事件。本件特 5 許2 につき、同第10094 号審決取消請求事件。)を提起した。これについて、知財 高裁は、令和5 年1 月26 日、本件発明はいずれもサポート要件に適合するものと は認められないとして、上記各審決につき、それぞれ、審決を取り消す旨の 決取消請求事件。)を提起した。これについて、知財 高裁は、令和5 年1 月26 日、本件発明はいずれもサポート要件に適合するものと は認められないとして、上記各審決につき、それぞれ、審決を取り消す旨の判決を 言い渡した(乙51)。原告は、これに対して上訴している。 3 争点 10 (1) 被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1) (2) 無効理由の有無(争点2) ア サポート要件違反(争点2-1) (ア) サポート要件違反の有無(争点2-1-1) (イ) 訂正の再抗弁の成否(争点2-1-2) 15 イ 実施可能要件違反(争点2-2) ウ 進歩性欠如(争点2-3) エ 明確性要件違反(争点2-4) オ 発明該当性要件違反(争点2-5) カ 被告による無効理由の主張と信義則違反の有無(争点2-6) 20 (3) 原告の損害(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について 〔原告の主張〕 ア 被告製品の構成a、b 及びb’、c 並びにd は、それぞれ本件発明の構成要件 25 A、B 及びB’、C 並びにD に該当するから、被告製品は本件発明の構成要件を全て 8 充足する。したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。 イ 被告の主張について (ア) 被告は、機能的クレームであることを理由に被告製品が本件発明の技術的範 囲に属しない旨主張する。しかし、機能的クレームであることを理由に特殊なクレ ーム解釈をすべきではない。 5 特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、 その場合、明細書の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意 義を解釈するものとされている。このことは、そのクレームが被告の主張するよう な 求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、 その場合、明細書の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意 義を解釈するものとされている。このことは、そのクレームが被告の主張するよう な機能的クレームか否かにより異ならず、被告が問題とする実施可能要件の問題は、 無効の抗弁の問題として処理すべきものである。 10 また、本件発明は実施可能要件に違反するものではなく、「機能的クレーム」(実 施可能要件に違反する広すぎるクレーム)に該当するものではない。したがって、 有効性維持の原則からも、限定解釈される余地はない。 (イ) 機能的クレームであることを理由に、被告製品が本件発明の技術的範囲に属 しない旨を被告が主張することは、前訴の知財高裁判決において示された文言解釈 15 と相容れず、信義則に反して許されない。 〔被告の主張〕 以下のとおり、本件発明は、その対象を機能的観点のみで定義している機能的ク レームであり、その技術的範囲は当業者が明細書から理解し、実施することができ る構成に限定されるところ、これによれば、被告製品は、本件発明の技術的範囲に 20 属さない。 すなわち、本件発明1 においては、21B12 抗体が競合の対象として参照されてい るにすぎず、参照抗体である21B12 抗体についてはその構成が特定されているが、 本件発明1 の対象である抗体については、何らその構成の特定がされていない。す なわち、本件発明1 は、「抗体を含む医薬組成物」という物の発明であるが、その対 25 象の構成が特定されておらず、(抗体が)「結合を中和することができる」ことと、 9 「参照抗体と競合すること」という機能のみによって特定される、いわゆる機能的 クレームである。本件発明2 も同様である。 このように、特許請求の範囲に記載された構 とができる」ことと、 9 「参照抗体と競合すること」という機能のみによって特定される、いわゆる機能的 クレームである。本件発明2 も同様である。 このように、特許請求の範囲に記載された構成が機能的、抽象的な表現で記載さ れている場合(機能的クレームの場合)に、当該機能ないし作用効果を果たし得る 全ての構成がその技術的範囲に含まれると解するならば、当業者が明細書の記載か 5 ら理解し、実施することができる範囲を超えて特許発明の技術的範囲を拡張するこ ととなり、明細書に開示されていない技術的思想に属する構成までもが権利範囲に 含まれる結果をも招きかねず、発明の公開の代償として独占権を付与するという特 許制度の趣旨に反する。したがって、機能的クレームの場合、その技術的範囲は、 当業者が明細書から理解し、実施することができる構成に限定され、これを超える 10 構成は技術的範囲に含まれないと解すべきである。 被告製品はアリロクマブを有効成分とするところ、アリロクマブはEGFa ミミッ ク抗体である。EGFa ミミック抗体とは、LDLR のEGFa ドメインのPCSK9 への 結合を模倣(ミミック)する抗体であり、すなわち、LDLR のEGFa ドメインが認 識するPCSK9 の表面上のアミノ酸の大部分を認識する結合中和抗体をいう。しか 15 し、後記((2)及び(4)の各〔被告の主張〕イ)のとおり、EGFa ミミック抗体は、本 件明細書から当業者が理解することができ、かつ、実施(取得)することができる ように記載されているとはいえない。そうである以上、EGFa ミミック抗体は、機 能的クレームである本件発明の技術的範囲に含まれない。したがって、EGFa ミミ ック抗体であるアリロクマブを有効成分とする被告製品は、本件発明の技術的範囲 20 に属さない。 ( ミック抗体は、機 能的クレームである本件発明の技術的範囲に含まれない。したがって、EGFa ミミ ック抗体であるアリロクマブを有効成分とする被告製品は、本件発明の技術的範囲 20 に属さない。 (2) サポート要件違反の有無(争点2-1-1)について 〔被告の主張〕 ア 理由1 以下のとおり、「参照抗体と競合する抗体であれば、高い蓋然性をもってPCSK9 25 とLDLR との結合を中和する抗体である」などとはいえないことから、本件発明は、 10 発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるよ うに記載された範囲」を超えるものである。 (ア) サポート要件は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の 課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるもの であるか否かにより判断される。 5 本件発明の解決すべき課題は「結合中和抗体を提供する」ことであり、それ自体 は周知の課題である。他方、本件発明の構成は、「参照抗体と競合する(単離された モノクローナル)抗体」であるということだけであり、「参照抗体との競合の程度」 については規定されていない。このような本件発明において、特許請求の範囲の記 載がサポート要件に適合するためには、「参照抗体と競合する(単離されたモノクロ 10 ーナル)抗体」であれば、高い蓋然性をもって「PCSK9 とLDLR との結合を中和 する抗体」であることを、当業者が理解できるように明細書に記載されていなけれ ばならないといえる。 (イ) 本件発明は、「結合中和抗体の提供」という本件発明が解決すべき課題と、 「参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル)抗体」という課題解決手段の 15 みによって特定されている。したがって、本件発明に含まれる抗体の数は数え 体の提供」という本件発明が解決すべき課題と、 「参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル)抗体」という課題解決手段の 15 みによって特定されている。したがって、本件発明に含まれる抗体の数は数え切れ ず、少なくとも何百万に上る。のみならず、本件発明には、本件明細書の実施例抗 体とは全く異なる種々の性質・構造・結合部位を有する抗体が含まれる。 他方、本件明細書記載の「参照抗体と競合する抗体」の例は、いずれも、先に、 「結合中和する抗体」のみスクリーニングにより選別した上で、次に、「参照抗体と 20 の競合」の有無により分類した結果得られた抗体であり、その結果、全て結合中和 抗体となるというに過ぎない。このため、本件明細書の実施例の記載は、論理関係 からして、「参照抗体と競合する抗体」であれば「結合中和抗体」であることを示す ものではなく、「結合中和抗体」であれば、「参照抗体と競合する抗体」であること を示すものでもない。 25 したがって、本件明細書には、 「参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル) 11 抗体」であれば、高い蓋然性をもって「PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」 であると当業者が理解できる記載は存在しない。 (ウ) そもそも、参照抗体は、LDLR(のEGFa ドメイン)が結合するPCSK9 表 面上の部位のごく末端においてPCSK9 に結合するに過ぎず、LDLR(のEGFa ド メイン)が結合するPCSK9 表面上の部位とは無関係な部位であって、参照抗体と 5 競合し得る部位において、PCSK9 上に結合する抗体は無数に存在し得る。したがっ て、科学的事実としても、 「参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル)抗体」 であれば、高い蓋然性をもって「PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」であ るなど 無数に存在し得る。したがっ て、科学的事実としても、 「参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル)抗体」 であれば、高い蓋然性をもって「PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」であ るなどとはいえない。 (エ) したがって、本件発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決で 10 きることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、サポ ート要件に違反する。 イ 理由2 以下のとおり、本件発明にはEGFa ミミック抗体までもが含まれるが、原告が本 件優先日から約5 年後においても見つけることができていなかったEGFa ミミッ 15 ク抗体は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。 (ア) 本件発明に含まれる膨大な数の種々の結合中和抗体には、EGFa ミミック抗 体までもが含まれる。EGFa ミミック抗体とは、LDLR のEGFa ドメインのPCSK9 との結合を模倣するかのように、LDLR のEGFa ドメイン(PCSK9 に結合するド メイン)が結合する部位であるPCSK9 の表面上におけるアミノ酸の大部分を認識 20 する結合中和抗体である。PCSK9 とLDLR の結合を中和する抗体としては、PCSK9 の表面上におけるLDLR のEGFa ドメインが結合するアミノ酸をなるべく多く認 識する抗体である方が、結合中和活性においてより有利であることが技術的に期待 される。 12 しかし、本件明細書には、EGFa ミミック抗体は記載されていない。すなわち、 本件明細書には、PCSK9 の表面における、LDLR のEGFa ドメインの結合部位と して15 個のアミノ酸が示されているが、参照抗体である21B12 抗体はそのうち4 ~6 個、31H4 抗体はそのうち3 個を認識するに過ぎないから、こ る、LDLR のEGFa ドメインの結合部位と して15 個のアミノ酸が示されているが、参照抗体である21B12 抗体はそのうち4 ~6 個、31H4 抗体はそのうち3 個を認識するに過ぎないから、これらはEGFa ミ ミック抗体ではない。 5 また、別紙3 の表(以下「結合部位対照表」という。)は、表中に「アムジェンの 抗体」と示される、本件明細書記載の各実施例抗体が認識する、LDLR が結合する PCSK9 表面上のアミノ酸(「PCSK9 結合部位」と表記された欄の計15 個のアミノ 酸)を示すものであるところ、紺色で塗りつぶされたセル(■)は、その抗体が当該 アミノ酸を認識することを示す。このように、本件明細書に記載されたアムジェン 10 の抗体は、いずれもEGFa ミミック抗体とは異なる。 のみならず、本件発明の発明者自身、本件優先日から約5 年後の2012 年(平成 24 年)においてさえ、「(我々は)現在、EGFa ミミック抗体を取得できていない」、 「EGFa ミミック抗体は、我々が現在有する抗体の2 つの一部重複するエピトープ のちょうど中間に位置することから、EGFa ミミック抗体を見つけることは一筋縄 15 ではいかないだろう」と述べていた。このことは、本件明細書にEGFa ミミック抗 体が記載されたものとはいえないことを示している。 したがって、本件発明のうち、少なくともEGFa ミミック抗体に関する部分につ いては、本件明細書に記載されているとはいえず、サポート要件に違反する。 13 (イ) 原告の主張について a 原告は、①本件優先日又は出願日において、EGFa ミミック抗体という概念や 同抗体を取得するといった課題は存在せず、出願時に存在しない課題について解決 手段を提供することは求められない、②被告によるEGFa 、①本件優先日又は出願日において、EGFa ミミック抗体という概念や 同抗体を取得するといった課題は存在せず、出願時に存在しない課題について解決 手段を提供することは求められない、②被告によるEGFa ミミック抗体という用語 及び定義は独自のものであり、また、技術的意義を有しないEGFa ミミック抗体が 5 本件明細書に記載されているかどうかは、サポート要件とは関係がない、③本件明 細書によれば、「EGFa ドメインを十分にミミックする抗体」を取得できることが当 業者であれば理解できる、④被告がEGFa ミミック抗体と称するアリロクマブは本 件優先日当時から用いられていた一般的な手法により本件明細書に依拠して作成さ れたものであり、EGFa ミミック抗体が本件明細書の記載から取得できないという 10 主張は事実に反すると主張する。 b ①について 本質的問題は、EGFa ミミック抗体に例証されるとおり、本件発明には、明細書 に開示された内容を遥かに超え、明細書においてサポートされているとはいえない 抗体まで広範に含まれていることであり、EGFa ミミック抗体という概念や課題が 15 当時存在していたかではない。加えて、「EGFa ミミック抗体」という用語自体が周 知でなかったとしても、PCSK9 とその天然のリガンドであるLDLR との天然にお いて生じている結合を忠実に模倣する抗体という概念は、本件発明に係る特許出願 当時の当業者が認識し得たことである。また、そのような抗体であればLDL-C レ ベルを減少させるのに好適であることも同様である。 20 c ②について 甲55 文献(後記〔原告の主張〕ウ(イ))はEGFa ミミック抗体の定義を意味する ものではなく、1D05 抗体の立体構造が解析された文献であるから、立体構造の観 点でそのように説明されて ついて 甲55 文献(後記〔原告の主張〕ウ(イ))はEGFa ミミック抗体の定義を意味する ものではなく、1D05 抗体の立体構造が解析された文献であるから、立体構造の観 点でそのように説明されているに過ぎない。EGFa ミミック抗体が構造的類似性の 意味で用いられていたのであれば、本件発明の発明者が1D05 抗体ではないファイ 25 ザー社の抗体(RN316、J16 とも呼ばれる。)を「EGFa ミミック抗体」と認識する 14 はずもなく、「見つからないエピトープ」を図示するスライドにおいて、当該「見つ からないエピトープ」の部分に当該J16 抗体が結合した図を示すはずもない。 また、上記のとおり、EGFa ミミック抗体は、本件明細書においてサポートされ ているとはいえない抗体まで広範に本件発明に含まれていることの端的な例証に過 ぎず、EGFa ミミック抗体自体の技術的意義を論じる必要性はない。その点を措く 5 としても、理論的に、EGFa ミミック抗体はPCSK9 のLDLR 結合部位である15 個のアミノ酸の大部分と結合する抗体であるから、PCSK9 の表面上のLDLR 結合 部位をほぼ完全に塞ぐことにより、確実に結合中和活性を示すことが技術的に理解 できる。 さらに、21B12 抗体自体がEGFa ミミック抗体と同様に優れた結合中和能を有す 10 るとしても、そのことは、本件発明に含まれる抗体がその通有的な特徴として同様 に優れた結合中和能を有することを意味するものではないから、21B12 抗体とアリ ロクマブを比較することに意味はない。 d ③について 9C9 抗体は、本件明細書においては弱い中和抗体とされている抗体であり、結合 15 部位対照表のとおり、LDLR と結合する際のPCSK9 上のアミノ酸の大部分をエピ トープとし d ③について 9C9 抗体は、本件明細書においては弱い中和抗体とされている抗体であり、結合 15 部位対照表のとおり、LDLR と結合する際のPCSK9 上のアミノ酸の大部分をエピ トープとして認識するEGFa ミミック抗体とはいえない。原告も、本件明細書では EGFa ミミック抗体を得られていないことを理解している。 e ④について アリロクマブ(316P 抗体)は、原告の本件明細書の公開よりも前に出願された最 20 先の基礎出願であるリジェネロンの特許の第1 基礎出願において、本件明細書の内 容を全く知得していない状態で独自に作成され、優れた結合中和抗体として既に選 択されていた。 また、本件発明に含まれる(何らかの)結合中和抗体を、本件優先日当時の一般 に利用可能な方法を用いて容易に取得することが可能であったことは事実であるが、 25 EGFa ミミック抗体を取得するには、そもそも、動物免疫法等により多数の結合中 15 和抗体をランダムに作製する時点において、EGFa ミミック抗体が含まれていなけ ればならない。したがって、抗体作製時に種々の工夫を行う必要がある上に、所望 のEGFa ミミック抗体が得られなければ、更に多数の結合中和抗体を作製して選択 するという工程を繰り返すほかなく、種々の試行錯誤を重ねた末にアリロクマブが 得られたのである。 5 ウ 理由3 以下のとおり、本件発明には参照抗体との競合の程度が低い抗体も含まれるが、 そのような低競合抗体について、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体の提供 という本件発明の課題を解決できると当業者が認識することはできない。 すなわち、本件発明の解決すべき課題は、PCSK9 に結合し、PCSK9 とLDLR と 10 の結合を中和する抗体の提供であるところ、本件発明 課題を解決できると当業者が認識することはできない。 すなわち、本件発明の解決すべき課題は、PCSK9 に結合し、PCSK9 とLDLR と 10 の結合を中和する抗体の提供であるところ、本件発明の発明特定事項は、この課題 自体のほかは、参照抗体と競合する(単離されたモノクローナル)抗体であること しかない。しかるに、本件発明には、「競合」及び「中和」のいずれに関しても、何 らの限定もない。このため、参照抗体との競合の程度が低い抗体であっても、何ら かの結合中和をする限り、本件発明に含まれることになる。 15 しかし、参照抗体と競合すれば結合中和抗体であるとの蓋然性が高いとはいえな い。仮に参照抗体との競合こそが結合中和の良い指標であると考えたとしても、参 照抗体とわずかにしか競合しない抗体(低競合抗体)について、類型的に、その全 て又は大部分が結合中和抗体であるとはいえない。本件明細書のどこにも、参照抗 体との低競合抗体について、類型的にPCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体で 20 ある蓋然性が高いと当業者が理解し得る記載はなく、そのような技術常識も存在し ない。 したがって、本件発明に含まれる低競合抗体について、PCSK9 とLDLR との結 合を中和する抗体の提供という本件発明の課題を解決できる蓋然性が高いと当業者 が認識することはできない。 25 エ 小括 16 以上のとおり、本件発明はサポート要件に違反する。したがって、本件特許は特 許法36 条6 項1 号所定の要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、 特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123 条1 項4 号)、原 告は、被告に対し、本件特許権を行使し得ない(同法104 条の3 第1 項)。 〔原告の主張〕 5 ア 本件発明がサポート 判により無効にされるべきものであるから(同法123 条1 項4 号)、原 告は、被告に対し、本件特許権を行使し得ない(同法104 条の3 第1 項)。 〔原告の主張〕 5 ア 本件発明がサポート要件を充足すること 本件明細書においては、参照抗体が極めて良好にPCSK9 とLDLR との結合を遮 断すること、及び、参照抗体と競合する抗体はPCSK9 とLDLR との結合を遮断で きることが示されている。すなわち、本件明細書の記載によれば、PCSK9 への結合 に際して参照抗体と競合する抗体は、PCSK9 上で参照抗体と重なる位置に結合す 10 るため、参照抗体と同様に、結合によって形成される立体障害によって、LDLR の PCSK9 への結合を中和することに有利であることが立体構造学的に明らかである。 このため、当業者は、本件明細書の記載から、参照抗体は、PCSK9 上の、PCSK9 とLDLR との結合を遮断できる位置、いわば「スウィートスポット」に結合するも のであり、参照抗体と競合する抗体は、PCSK9 とLDLR との結合を中和する結合 15 中和抗体である蓋然性が高いことを認識できる。 また、本件明細書には、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗PCSK9 モノク ローナル抗体が、血清LDL コレステロールレベルの減少に有効であることを示す 記載がある。 さらに、本件明細書には、免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫 20 化マウスの作製、免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製、参照抗体と競合 し、PCSK9-LDLR との結合を強く遮断する抗体を同定するためのスクリーニング 及びエピトープビニングアッセイの方法が記載されている。当業者は、これらの方 法を用いれば、本件明細書に具体的に記載された抗体以外にも参照抗体と競合す 合を強く遮断する抗体を同定するためのスクリーニング 及びエピトープビニングアッセイの方法が記載されている。当業者は、これらの方 法を用いれば、本件明細書に具体的に記載された抗体以外にも参照抗体と競合する 中和抗体(クレームに含まれる抗体)を得ることができ、また、参照抗体と競合す 25 るものの結合を中和しない抗体(クレームに含まれない抗体)を容易に除外できる 17 ことを認識できる。 以上から、当業者は、本件明細書の記載から、PCSK9 とLDLR タンパク質の結 合を中和し、参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体を得ることがで きること、このような本件発明のモノクローナル抗体を使用した本件発明の医薬組 成物によって、高コレステロール血症等の上昇したコレステロールレベルが関連す 5 る疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること を認識できる。 したがって、本件発明はサポート要件に適合する。 イ 被告主張に係る理由1 について 被告主張に係る理由1 は、本件発明において、参照抗体との競合という要件のみ 10 が実質的な要件であり、結合中和は単なる解決課題ないし効果だという理解を前提 とする。しかし、そもそも、本件発明は、参照抗体との競合という特性のみで規定 したものではなく、結合を中和することも実質的な構成要件として規定しており、 両者を満たすものにしか権利は及ばない。 本件発明の課題は、参照抗体とPCSK9 との結合に関して競合するという特性と、 15 PCSK9 とLDLR との結合を中和するという特性の両方を備えた抗体を提供するこ とである。当業者は、本件明細書と本件優先日及び出願日当時の技術常識に基づき、 そのような抗体を取得することができる。また、取得された抗体が本件発明の効果 を奏すること 性の両方を備えた抗体を提供するこ とである。当業者は、本件明細書と本件優先日及び出願日当時の技術常識に基づき、 そのような抗体を取得することができる。また、取得された抗体が本件発明の効果 を奏することが理解できるように、本件明細書には本件発明が記載されている。し たがって、本件発明はサポート要件を満たす。 20 仮に、本件発明の課題をPCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体を得ることと したとしても、当業者は本件明細書と本件優先日及び出願日当時の技術常識に基づ いて、上記各特性のそれぞれに基づき抗体を選別することにより、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体を得ることができる(実際には、得られる抗体は、参照抗 体とPCSK9 との結合に関して競合するという特性をさらに有する抗体である。)。 25 ウ 被告主張に係る理由2 について 18 (ア) 本件発明に係る抗体は、LDLR のEGFa ドメインと重複する位置(又は同様 の位置)に結合してLDLR とPCSK9 の触媒ドメインとの結合を中和できる抗体で あり、本件明細書で初めて開示された新しいクラスの抗体である。本件特許の出願 までは、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 の触媒ドメインの特定の部位との結合 を阻害するような抗体が、PCSK9 とLDLR との結合を中和し、最終的に体内の 5 LDL-C レベルを低下させる上で有効であろうとの知見は知られていなかった。本件 発明により初めて、参照抗体と競合し(すなわち、PCSK9 の触媒ドメインの特定の 領域に結合し)、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 の触媒ドメインの小さな15 ア ミノ酸の領域との結合を阻害するような抗体が、PCSK9 とLDLR との結合を中和 し、最終的に体内のLDL-C レベルを低下させる上で有 GFa ドメインとPCSK9 の触媒ドメインの小さな15 ア ミノ酸の領域との結合を阻害するような抗体が、PCSK9 とLDLR との結合を中和 し、最終的に体内のLDL-C レベルを低下させる上で有効であることを見出したの 10 である。したがって、本件優先日又は出願日には、EGFa ドメインを模倣する抗体 という概念は存在せず、EGFa ミミック抗体と称する抗体を取得しようという課題 も存在しなかった。 我が国の特許制度においては、出願人又は特許権者は、出願時に存在しない課題 について解決手段を提供することまでは求められていない。上記のとおり、本件明 15 細書には、出願当時に認識できている範囲で、発明の課題を解決することができる と合理的に理解できる程度に本件発明につき記載がされているから、サポート要件 を満たす。出願時に課題として認識されたことのないEGFa ミミック抗体が本件明 細書に記載されていないことを理由として、サポート要件に反するとすることはで きない。 20 (イ) 被告がEGFa ミミック抗体と称するアリロクマブは、原告が21B12 抗体に 基づいて開発したエボロクマブと同等の作用効果しか示さず、参照抗体を超える技 術的意義を有するものでもない。 また、被告はEGFa ミミック抗体を「PCSK9 の表面上におけるLDLR 結合部位 の大部分のアミノ酸を認識するような結合中和抗体」と定義する。しかし、PCSK9 25 とLDLR との結合を中和する抗体に対して「ミミック」という用語を用いたのは、 19 1D05 抗体を作製し、1D05 抗体の立体的構造がEGFa ドメインの立体構造をミミ ックしていることを明らかにしたメルクの科学者らによる論文「LDL 受容体の EGF(A)ドメインを構造的に模倣するPCSK9 結合抗体は、生 05 抗体の立体的構造がEGFa ドメインの立体構造をミミ ックしていることを明らかにしたメルクの科学者らによる論文「LDL 受容体の EGF(A)ドメインを構造的に模倣するPCSK9 結合抗体は、生体内でLDL コレステ ロールを減少させる」(甲55。以下「甲55 文献」という。)が初めてであるところ、 同文献では、「ミミック」の語は、抗体自体の立体構造に着目したものであり、これ 5 がLDLR のEGFa ドメインと似ているかどうかという観点で記述されている。ま た、甲55 文献から理解できるように、「ミミック」という用語がPCSK9 上で抗体 がいくつのアミノ酸を認識するかという意味で用いられたことはない。 さらに、原告の科学者の大半は、「EGFa ミミック」という用語を、21B12 抗体と 31H4 抗体の両方と競合する抗体を指すために用いていた。 10 このように、被告による「EGFa ミミック抗体」という用語及びその定義は独自 のものであり、当業者に受け入れられたものではなく、発明の技術思想に関係する 技術的意義を有しない。また、「大部分のアミノ酸を認識」という技術事項は、本件 発明の課題の解決において何らの技術的意義も有しない。このような技術的意義を 有しないミミック抗体が本件明細書に記載されているかどうかは、サポート要件と 15 は関係がない。 (ウ) 本件明細書に記載された9C9 抗体は、PCSK9 上のEGFa 結合領域の正に中 心部分に結合するものであり、程度はともかくとして、EGFa ドメインを模擬(ミ ミック)する抗体である。上記のとおり、「LDLR 結合部位の大部分を認識」するか どうかは本件発明の課題の解決において何らの技術的意義も有しないから、本件明 20 細書には、十分にEGFa ドメインを模擬(ミミック)する抗体が開示さ り、「LDLR 結合部位の大部分を認識」するか どうかは本件発明の課題の解決において何らの技術的意義も有しないから、本件明 20 細書には、十分にEGFa ドメインを模擬(ミミック)する抗体が開示されている。 (エ) アリロクマブは、本件優先日当時から用いられていた一般的な手法によって 産生されたものであり、優先日後に新たに開発された技術を用いたものではないと 被告自身が自認している。しかも、その開発経緯においては、抗体を2 つの参照抗 体(21B12 抗体及び31H4 抗体)の両方と競合することを競合試験により確認し、 25 その後に316P と命名された抗体が選択され、同抗体に向けられた請求項(クレー 20 ム)が新設されて、アリロクマブとして製品化されたのである。このように、被告 がEGFa ミミック抗体であると称するアリロクマブは、本件優先日当時から用いら れていた一般的な手法により、本件明細書に完全に依拠して作成されたものであり、 EGFa ミミック抗体が本件明細書の記載から取得できないという主張は事実に反す る。 5 エ 被告主張に係る理由3 について 当業者は、本件明細書と本件優先日及び出願日当時の技術常識に基づき、参照抗 体とPCSK9 との結合に関して競合するという特性と、PCSK9 とLDLR との結合 を中和するという特性のそれぞれで抗体を選別することにより、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体のうち、参照抗体とPCSK9 との結合に関して競合する抗 10 体群(この抗体群は、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 の触媒ドメインとの結合 を中和すると考えられる。)を得ることができる。したがって、本件発明はサポート 要件を満たす。 仮に低競合であったとしても、PCSK9 とLDLR との結合は一般的な抗体によ の触媒ドメインとの結合 を中和すると考えられる。)を得ることができる。したがって、本件発明はサポート 要件を満たす。 仮に低競合であったとしても、PCSK9 とLDLR との結合は一般的な抗体による 結合親和性と比較して弱く、低競合抗体がよい中和抗体となることは特に不思議で 15 はない。そもそも、本件発明はPCSK9 とLDLR との結合を中和するという特性を 有することで特定されているから、本件発明の抗体がこの特性を有することは明ら かである。 (3) 訂正の再抗弁の成否(争点2-1-2)について 〔原告の主張〕 20 ア 訂正の内容 (ア) 本件特許1 a 特許請求の範囲 以下のとおり、各請求項に下線部を追加し、請求項9 を独立項とする(以下、訂 正後の請求項1 に係る発明を「本件再訂正発明1-1」、請求項9 に係る発明を「本件 25 再訂正発明1-2」といい、これらを併せて「本件再訂正発明1」という。)。 21 【請求項1】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、配列番号49 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 と、配列番号23 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗 体と競合する、単離されたモノクローナル抗体。 【請求項9】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 5 との結合に関して、配列番号49 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 と、配列番号23 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗 体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、 前記モノクローナル抗体のFab 断片がPCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中 和することができ、かつ、前記モノクローナル抗体のF む参照抗 体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、 前記モノクローナル抗体のFab 断片がPCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中 和することができ、かつ、前記モノクローナル抗体のFab 断片が、PCSK9 との結 10 合に関して、上記参照抗体のFab 断片と競合することができる、単離されたモノク ローナル抗体 を含む、医薬組成物。 b 明細書 以下のとおり、本件明細書1 の【0138】について、取消線部分を削除し、本件発 15 明1 における「中和」の意義を限定する。 「『中和抗原結合タンパク質』又は『中和抗体』という用語は、リガンドに結合し、 そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タンパ ク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖すること によって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネル 20 ギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行うこと ができる。」 また、以下のとおり、本件明細書1 の【0140】について、取消線部分を削除し、 本件発明1 における「競合」の意義を限定する。 「通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定 25 される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパ 22 ク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに、 基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピ トープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定するための方法 に関するさらなる詳細は、本明細書中の実施例に提供されている。通常、競合抗原 結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40 から45%、45 タンパク質が含まれる。競合結合を測定するための方法 に関するさらなる詳細は、本明細書中の実施例に提供されている。通常、競合抗原 結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40 から45%、45 から50%、 5 50 から55%、55 から60%、60 から65%、65 から70%、70 から75%又は75%又 はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例 えば、低下させる)。」 (イ) 本件特許2 a 特許請求の範囲 10 以下のとおり、各請求項に下線部を追加し、請求項5 を独立項とする(以下、訂 正後の請求項1 に係る発明を「本件再訂正発明2-1」、請求項5 に係る発明を「本件 再訂正発明2-2」といい、これらを併せて「本件再訂正発明2」という。)。 【請求項1】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、配列番号67 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 15 と、配列番号12 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗 体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、配列番号3 に記載のアミ ノ酸配列を有するPCSK9 の374 位のアスパラギン酸(D)がチロシン(Y)に置換 した変異体(PCSK9 のD374Y 変異体)とLDLR タンパク質との結合を中和する ことができ、かつ、前記モノクローナル抗体のFab 断片が、PCSK9 との結合に関 20 して、前記参照抗体のFab 断片と競合することができる、抗体。 【請求項5】 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、配列番号67 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 と、配列番号12 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含 9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、配列番号67 のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖 と、配列番号12 のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗 体と競合する、単離されたモノクローナル抗体であって、競合の程度が80%以上で 25 あり、かつ、前記モノクローナル抗体のFab 断片がPCSK9 とLDLR タンパク質の 23 結合を中和することができる、単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。 b 明細書 以下のとおり、本件明細書2 の【0138】について、取消線部分を削除し、本件発 明2 における「中和」の意義を限定する。 「『中和抗原結合タンパク質』又は『中和抗体』という用語は、リガンドに結合し、 5 そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タンパ ク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖すること によって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネル ギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行うこと ができる。」 10 また、以下のとおり、本件明細書2 の【0140】について、取消線部分を削除し、 本件発明2 における「競合」の意義を限定する。 「通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定 される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、基準抗原結合タンパ ク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに、 15 基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピ トープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定するための方法 に関するさらなる詳細は、本明細書中の 、 15 基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接エピ トープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定するための方法 に関するさらなる詳細は、本明細書中の実施例に提供されている。通常、競合抗原 結合タンパク質が過剰に存在する場合には、少なくとも40 から45%、45 から50%、 50 から55%、55 から60%、60 から65%、65 から70%、70 から75%又は75%又 20 はそれ以上、共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例 えば、低下させる)。」 イ 訂正要件の充足 上記の訂正(以下「本件再訂正」という。)は、いずれも特許請求の範囲の減縮な いし従属項を独立項にするものであるから訂正要件を満たし(特許法126 条1 項1 25 号及び4 号)、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の 24 範囲内のものであり、また、独立特許要件を欠く事情もない。 ウ 無効理由の解消 (ア) 本件特許1 a 本件再訂正発明1-1 本件明細書1 の【0140】の訂正により、「競合」するタンパク質から、重複しな 5 いエピトープに結合するものは除外されている。したがって、「配列番号49 のアミ ノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23 のアミノ酸配列からな る軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む参照抗体と競合する」抗体は、参照抗体である 21B12 抗体と重複したPCSK9 上のエピトープに結合する抗体を意味する。 また、本件明細書1 の【0138】の訂正により「中和」の意義が限定され、「中和」 10 とは、「リガンド上の結合部位を直接封鎖する」態様を意味する。したがって、ここ でいう「中和」とは、PCSK9 とLDLR との結合面に結合して両者の 正により「中和」の意義が限定され、「中和」 10 とは、「リガンド上の結合部位を直接封鎖する」態様を意味する。したがって、ここ でいう「中和」とは、PCSK9 とLDLR との結合面に結合して両者の結合を直接中 和することを意味する。 このような本件再訂正により、本件再訂正発明1-1 は、参照抗体である21B12 抗 体と標的上の同様の部位に結合し、かつ、21B12 抗体と同様にPCSK9 とLDLR と 15 の結合を直接中和する抗体に限られることとなる。すなわち、「21B12 抗体が PCSK9 と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLR のEGFa ドメ インの位置とも異なる部位に結合し、21B12 抗体に軽微な立体的障害をもたらして、 21B12 抗体のPCSK9 への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)」 抗体は、もはや本件再訂正発明1-1 に含まれない。 20 したがって、仮に本件発明1 に参照抗体(21B12 抗体)がPCSK9 と結合する部 位と異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLR のEGFa ドメインの位置とも異なる 部位に結合し、21B12 抗体に軽微な立体的障害をもたらして、21B12 抗体のPCSK9 への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含まれ得る ことを理由として本件特許がサポート要件違反により無効にされるべきものである 25 としても、その無効理由(以下「本件無効理由1」という。)は本件再訂正により解 25 消される。 b 本件再訂正発明1-2 本件明細書1 の【0138】及び【0140】の訂正のみによって、既に、本件無効理由 1 は解消されているが、次の訂正により、重ねて本件無効理由1 は解消されている。 すなわち、本件再訂正発明1-2 では、「前 の【0138】及び【0140】の訂正のみによって、既に、本件無効理由 1 は解消されているが、次の訂正により、重ねて本件無効理由1 は解消されている。 すなわち、本件再訂正発明1-2 では、「前記モノクローナル抗体のFab 断片が 5 PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ」、かつ、「前記モノクロ ーナル抗体のFab 断片が、PCSK9 との結合に関して、上記参照抗体のFab 断片と 競合することができる」ことを規定している。Fab 断片が「参照抗体のFab 断片と 競合する」ためには、PCSK9 上の参照抗体と同様の位置に結合する必要があること から、この規定により、クレームされた抗体が、参照抗体と同様の部位に結合し、 10 かつ、PCSK9 とLDLR との結合を効果的に中和する位置に結合すること、及び、 参照抗体と同様のメカニズムでPCSK9 とLDLR との結合を中和できることが更に 明らかになっている。 (イ) 本件特許2 a 本件再訂正発明2-1 15 本件再訂正発明1-1 と同様に、本件明細書2 の【0138】及び【0140】の訂正のみ によって、仮に本件発明2 に参照抗体(31H4 抗体)がPCSK9 と結合する部位と 異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLR のEGFa ドメインの位置とも異なる部位 に結合し、31H4 抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4 抗体のPCSK9 への 特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含まれ得ること 20 を理由として本件特許がサポート要件違反により無効にされるべきものであるとし ても、その無効理由(以下「本件無効理由2」という。)は本件再訂正により解消さ れる。 さらに、次の訂正により、重ねて、本件無効理由2 が解消されている。 すなわち 効にされるべきものであるとし ても、その無効理由(以下「本件無効理由2」という。)は本件再訂正により解消さ れる。 さらに、次の訂正により、重ねて、本件無効理由2 が解消されている。 すなわち、本件再訂正発明2-1 は、「配列番号3 に記載のアミノ酸配列を有する 25 PCSK9 の374 位のアスパラギン酸(D)がチロシン(Y)に置換した変異体(PCSK9 26 のD374Y 変異体)とLDLR タンパク質との結合を中和することができる」ことで 特定されている。PCSK9 のD374Y 変異体は、LDLR に対して、野生型PCSK9 よ りも強く結合する。PCSK9 に対して同等の結合親和性を有する抗体がPCSK9 の D374Y 変異体とLDLR との強い結合を中和するためには、当該抗体にはD374Y 変 異体のLDLR との相互作用を遮断できるに適したエピトープに結合することが更 5 に要求されることとなる。また、本件再訂正発明2-1 は、「前記モノクローナル抗体 のFab 断片が、PCSK9 との結合に関して、前記参照抗体のFab 断片と競合するこ とができる」ことを規定している。Fab 断片が「参照抗体のFab 断片と競合する」 ためには、PCSK9 上の参照抗体と同様の位置に結合する必要がある。 以上から、本件再訂正発明2-1 は、参照抗体である31H4 抗体と標的上の同様の 10 部位に結合し、31H4 抗体と同様のメカニズムによってPCSK9 とLDLR との結合 を中和する抗体に限られる。 b 本件再訂正発明2-2 上記のとおり、本件明細書2 の【0138】及び【0140】の訂正のみによって、既に、 本件無効理由2 は解消されている。 15 さらに、次の訂正により、重ねて本件無効理由2 が解消されている。 すなわ り、本件明細書2 の【0138】及び【0140】の訂正のみによって、既に、 本件無効理由2 は解消されている。 15 さらに、次の訂正により、重ねて本件無効理由2 が解消されている。 すなわち、本件再訂正発明2-2 は、「競合の程度が80%以上」の抗体に限定され ている。これにより、31H4 抗体との競合により適したエピトープに結合すること が更に要求されることとなる。これは、クレームされた抗体に、参照抗体である 31H4 抗体と同様の位置に結合することを更に要求する。加えて、本件再訂正発明 20 2-2 は、「前記モノクローナル抗体のFab 断片がPCSK9 とLDLR タンパク質の結 合を中和することができる」ことを規定している。Fab 断片が「結合を中和する」 ためには、抗体がLDLR タンパク質が結合するPCSK9 上の部位に結合し、両者の 結合を中和することが要求される。 以上から、本件再訂正発明2-2 は、参照抗体である31H4 抗体と標的上の同様の 25 部位に結合し、31H4 抗体と同様のメカニズムによってPCSK9 とLDLR との結合 27 を中和する抗体に限られる。 エ 訂正審判請求 本件では、本件特許の特許無効審判が、本訴の提起(令和2 年3 月31 日)より も前の令和2 年2 月12 日に請求され、これがまだ確定していない。そのため、原 告は本件再訂正に係る訂正審判請求を法律上行い得ないから(特許法126 条2 項)、 5 本件において、訂正審判請求を行うことは不要である。 オ 被告製品が技術的範囲に属すること 本件再訂正を踏まえると、被告製品の構成は、次のとおりである。 ①被告製品の抗体は、参照抗体(21B12 抗体及び31H4 抗体)とPCSK9 への結 合に関して競合し、31H4 抗体との競合割合は 本件再訂正を踏まえると、被告製品の構成は、次のとおりである。 ①被告製品の抗体は、参照抗体(21B12 抗体及び31H4 抗体)とPCSK9 への結 合に関して競合し、31H4 抗体との競合割合は、91~99%である。 10 ②被告製品の抗体のFab 断片は、参照抗体(21B12 抗体及び31H4 抗体)のFab 断片と競合することができる。 ③被告製品の抗体は、PCSK9 とLDLR タンパク質との結合を中和することがで きる。 ④被告製品の抗体のFab 断片は、PCSK9 とLDLR タンパク質との結合を中和す 15 ることができる。 ⑤被告製品の抗体は、配列番号3 に記載のアミノ酸配列を有するPCSK9 の374 位のアスパラギン酸(D)がチロシン(Y)に置換した変異体(PCSK9 のD374Y 変 異体)とLDLR タンパク質との結合を中和することができる。 このような構成の被告製品は、本件再訂正発明1 及び2 それぞれの技術的範囲に 20 属する。 〔被告の主張〕 争う。 (4) 実施可能要件違反(争点2-2)について 〔被告の主張〕 25 ア 理由1 28 以下のとおり、本件発明には、個性豊かな全く異なる種々の性質・構造・結合部 位を有する膨大な数の抗体が含まれるが、これらの抗体を当業者が本件明細書に記 載の方法により過度の試行錯誤及び実験を強いられることなく製造し得たとはいえ ない。 すなわち、本件発明に含まれる抗体はアミノ酸配列によって特定されていないた 5 め(アミノ酸配列で特定されているのは参照抗体である。)、本件発明に含まれる抗 体の数は少なくとも何百万に上り、その数自体が膨大であるのみならず、本件発明 は、本件明細書の実施例抗体とは全く異なる種々の性質・構造・結合部位を有する 抗体を含む。これに る。)、本件発明に含まれる抗 体の数は少なくとも何百万に上り、その数自体が膨大であるのみならず、本件発明 は、本件明細書の実施例抗体とは全く異なる種々の性質・構造・結合部位を有する 抗体を含む。これに対し、本件明細書には、動物免疫法を用いてPCSK9 に結合す るモノクローナル抗体を多数作成し、結合中和アッセイによりPCSK9 とLDLR と 10 の結合を中和できる抗体を取得した旨が記載されているに過ぎない。また、本件明 細書において実際に得られた実施例抗体も、本件発明に含まれる膨大な数の抗体の うちのわずか一部でしかない。加えて、本件明細書には、参照抗体と競合する抗体 をスクリーニングすることにより、PCSK9 とLDLR との結合中和抗体を効率的に 取得できる旨が記載されているわけでもない。 15 このため、本件発明に含まれる抗体を取得しようとする当業者は、依然として、 本件特許の発明者と実質的に同じ量の仕事を行うことを要求されるといった、過度 の試行錯誤及び実験を繰り返さなければならないこととなる。 しかも、抗体の産生方法が異なれば得られる抗体の反応性も異なるため、本件明 細書に記載された方法を過度に繰り返したとしても、本件発明に含まれる膨大な数 20 の抗体に含まれる、個性豊かな全く異なる種々の性質等を有する抗体群が得られる とは理解し得ない。 以上のとおり、本件発明には個性豊かな全く異なる種々の性質・構造・結合部位 を有する膨大な数の抗体が含まれるが、これら全ての抗体を、当業者が本件明細書 に記載の方法により過度の試行錯誤及び実験を強いられることなく製造し得たとは 25 いえない。したがって、本件発明は実施可能要件に違反する。 29 イ 理由2 本件発明には、EGFa ミミック抗体までもが含まれるが、以下のとおり、原告が 本件 く製造し得たとは 25 いえない。したがって、本件発明は実施可能要件に違反する。 29 イ 理由2 本件発明には、EGFa ミミック抗体までもが含まれるが、以下のとおり、原告が 本件優先日から約5 年後においても見つけることができていなかったEGFa ミミ ック抗体を本件明細書に記載の方法により当業者が過度の試行錯誤なく製造し得た とはいえない。 5 すなわち、本件発明にはEGFa ミミック抗体までもが含まれるところ、本件明細 書には、EGFa ミミック抗体に関する記載はない。また、本件明細書記載の方法を 誰よりも熟知する原告自身、EGFa ミミック抗体は1 つも取得することができてお らず、また、本件優先日から約5 年後の2012 年(平成24 年)においてさえ、その 取得について「一筋縄ではいかない」と述べていることに鑑みると、過度の試行錯 10 誤や実験を繰り返し行うことなく、当業者が確実にEGFa ミミック抗体が得られた と理解できる記載はないといえる。 したがって、本件発明のうち、少なくともEGFa ミミック抗体に関する部分につ いては、その実施には過度の試行錯誤及び実験を強いられるため、実施可能要件に 違反する。 15 ウ 理由3 本件発明には参照抗体との競合の程度が低い抗体も含まれるところ、以下のとお り、低競合抗体であってPCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体を、当業者が、 本件明細書記載の方法により過度の試行錯誤及び実験を強いられることなく製造し 得たとはいえない。 20 本件発明においては、「競合」及び「中和」のいずれに関しても、何らの限定もな いから、参照抗体との競合の程度が低い抗体であっても、何らかの結合中和をする 限り、本件発明に含まれることになる。しかし、参照抗体と僅かにしか競合しない 抗体(低 和」のいずれに関しても、何らの限定もな いから、参照抗体との競合の程度が低い抗体であっても、何らかの結合中和をする 限り、本件発明に含まれることになる。しかし、参照抗体と僅かにしか競合しない 抗体(低競合抗体)について、類型的に、その全て又は大部分が結合中和抗体であ るとはいえない。 25 したがって、そのような低競合抗体であってPCSK9 とLDLR との結合を中和す 30 る抗体を、当業者が、明細書に記載の方法により過度の試行錯誤及び実験を強いら れることなく製造し得たとはいえず、本件発明は実施可能要件に違反する。 エ 小括 以上のとおり、本件発明は実施可能要件に違反する。したがって、本件特許は特 許法36 条4 項1 号所定の要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、 5 特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123 条1 項4 号)、原 告は、被告に対し、本件特許権を行使し得ない。 〔原告の主張〕 ア 本件発明が実施可能要件を充足すること 本件明細書には、免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウス 10 の作製、免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製、参照抗体と競合し、 PCSK9-LDLR との結合を強く遮断する抗体を同定するためのスクリーニング及び エピトープビニングアッセイの方法が記載されている。当業者は、これらの方法を 用いれば、本件明細書に具体的に記載された抗体以外にも参照抗体と競合する中和 抗体を得ることができ、また、参照抗体と競合するものの結合を中和しない抗体を 15 容易に除外できる。 このように、当業者は、本件明細書の記載や出願当時の技術常識に基づいて、ク レームに含まれる抗体全体を生産でき、かつ、使用できるのであるから、本件明細 書は、当業者が明細書及び図面の記載並 できる。 このように、当業者は、本件明細書の記載や出願当時の技術常識に基づいて、ク レームに含まれる抗体全体を生産でき、かつ、使用できるのであるから、本件明細 書は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その 物を生産でき、かつ、使用できるように具体的に記載されているものといえる。す 20 なわち、本件発明は実施可能要件を充足する。 イ 被告主張に係る理由1 について 実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書 及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、 使用できるように、明細書に具体的に記載されていれば足りる。本件発明は、PCSK9 25 とLDLR タンパク質の結合を中和することができ、PCSK9 との結合に関して、参 31 照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体についての技術的思想である。 発明の詳細な説明に、このような技術的思想を具体化した抗体を作ることができる 程度の記載があれば、当業者は、その実施をすることが可能というべきであり、特 許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することが できることまで記載されている必要はない。 5 ウ 被告主張に係る理由2 について 被告の主張は、特許請求の範囲に含まれる実施品(抗体)の全てが明細書に実施 可能に記載されていることが実施可能要件に適合する要件になる、との理解を前提 とするものである。しかし、特許請求の範囲に含まれる実施品の全てを明細書に実 施可能に記載することを求めることは、特許出願人に不可能を強いることになり妥 10 当でないから、前提となる理解が誤っている。 本件発明は、抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない抗体の発 明であるから、EGFa とは、特許出願人に不可能を強いることになり妥 10 当でないから、前提となる理解が誤っている。 本件発明は、抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない抗体の発 明であるから、EGFa ミミック抗体が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載 されているかどうかは、実施可能要件とは関係しない。 また、本件優先日又は出願日に課題として認識されたことのないEGFa ミミック 15 抗体が本件明細書に記載されていないなどとして実施可能要件を否定できないこと などは、サポート要件の場合(前記(2)〔原告の主張〕ウ)と同様である。 エ 被告主張に係る理由3 について そもそも、本件発明は、参照抗体との競合という特性のみで規定したものではな く、結合を中和することも実質的な構成要件として規定している。当業者は、本件 20 明細書の記載に従えば、過度の試行錯誤なく、参照抗体と競合し、かつ、PCSK9 と LDLR との結合を中和する抗体を作製し、使用できる。 (5) 進歩性欠如(争点2-3) 〔被告の主張〕 ア 乙1 文献の記載事項 25 (ア) Nature Structural & Molecular Biology、vol.14(5)、pp.413-419(2007)(乙 32 1。以下「乙1 文献」という。また、同文献記載の発明を「乙1 発明」という。)は、 PCSK9 が脂質異常症の治療のための魅力的なターゲットであることを述べた上で、 結論部分において、PCSK9 を標的とし、心血管疾患の治療に用いるための薬剤とし て、「PCSK9 に結合し、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」を具体的に提 案しており、そのような抗体を治療に用いるという技術的思想としての発明(乙1 5 発明)を開示している。 また、乙1 文献に に結合し、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」を具体的に提 案しており、そのような抗体を治療に用いるという技術的思想としての発明(乙1 5 発明)を開示している。 また、乙1 文献には、実験結果と従来の知見を踏まえた分析として、PCSK9 と LDLR との直接結合が細胞表面へのLDLR のリサイクルの阻害をもたらすメカニ ズムが記載されている。これに基づいて、乙1 文献には、PCSK9 に結合して、PCSK9 とLDLR の結合を中和する抗体を治療に用いることが開示されているといえる。 10 (イ) さらに、乙1 文献には、PCSK9 とLDLR との結合において、PCSK9 の374 位が極めて重要であること、PCSK9 の374 位がPCSK9 の表面に存することが示 されている。 イ 本件発明と乙1 発明との対比 乙1 文献には、乙1 発明が示されている一方で、「モノクローナル抗体」との文 15 言自体はない。しかし、「PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」を疾患の治療 のための抗体として用いることが記載されている。本件優先日当時の技術常識や周 知技術を踏まえれば、治療に用いることを意図した抗体は当然に「モノクローナル 抗体」を意味するが、以下では一応の相違点とする。 また、本件発明は「参照抗体と競合する」抗体である旨を規定するが、乙1 文献 20 にはその点に関する記載はない。 以上より、乙1 発明と本件発明は、高コレステロール血症や心血管疾患の治療の ために「PCSK9 に結合して、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体」を用いる 点において一致するが、「モノクローナル抗体」であるか不明である点(相違点1)、 「参照抗体と競合する」抗体であるか不明である点(相違点2)において相違する。 25 ウ 進歩 中和する抗体」を用いる 点において一致するが、「モノクローナル抗体」であるか不明である点(相違点1)、 「参照抗体と競合する」抗体であるか不明である点(相違点2)において相違する。 25 ウ 進歩性の判断基準 33 本件においては、本件発明の発明特定事項である参照抗体自体につき当業者が容 易に想到し得たか否かにかかわらず、本件発明の抗体の中に含まれる何らかの抗体 を当業者が容易に取得できた場合には、本件発明は、その限度で、当業者が容易に 想到し得た発明と判断されなければならない。 エ 理由1 5 以下のとおり、乙1 発明及び周知技術に基づき、PCSK9 全長を抗原として結合 中和モノクローナル抗体を取得するだけで、本件発明に含まれる抗体を容易に取得 できることから、本件発明は進歩性を欠く。 (ア) 相違点1 について 乙1 文献は、PCSK9-LDLR 結合中和抗体が有効な治療薬になるであろうことを 10 述べ、PCSK9-LDLR 結合中和抗体の取得を動機付ける。本件優先日当時、治療用 に用いられる抗体としては単一の抗体であるモノクローナル抗体を用いることが技 術常識であり、また、そもそもモノクローナル抗体でなければ抗体毎の特性を評価 し得ない。したがって、乙1 文献に接した当業者であれば、「PCSK9 に結合し、 PCSK9 とLDLR との結合を阻害する抗体」をモノクローナル抗体として取得する 15 ことを動機付けられたといえる。 また、本件優先日当時、タンパク質の全長を抗原としてモノクローナル抗体を取 得することや所望の活性を有する抗体を結合中和アッセイにより選別することは、 既に確立した周知技術であった。 したがって、乙1 文献により動機付けられた当業者は、 「PCSK9 に結合し、PCSK9 20 とLDLR との結 る抗体を結合中和アッセイにより選別することは、 既に確立した周知技術であった。 したがって、乙1 文献により動機付けられた当業者は、 「PCSK9 に結合し、PCSK9 20 とLDLR との結合を阻害する抗体」を、PCSK9 全長を抗原としてモノクローナル 抗体として取得できた。 (イ) 相違点2 について 以下のとおり、乙1 文献及び周知技術に基づき、PCSK9 全長を抗原として結合 中和モノクローナル抗体を取得するだけで、本件発明に含まれる抗体を容易に取得 25 することができる。 34 すなわち、まず、参照抗体はPCSK9 とLDLR との結合部位に結合するから、 PCSK9 とLDLR との結合を阻害する結合中和抗体には、参照抗体と競合する抗体 が少なからず含まれる。このため、乙1 文献及び周知技術に基づき、PCSK9 全長 を抗原として結合中和モノクローナル抗体をいくつか取得するだけで、当業者は、 参照抗体と競合する抗体すなわち本件発明に含まれる抗体を容易に取得し得る。 5 また、本件発明には、結合中和活性の程度については何の限定もなく、本件明細 書でも、「中和抗体」の説明として、少なくとも約1~20%の中和能しか有しない抗 体も中和抗体に含まれるとしていることから、本件発明は、その抗体の通有性とし て顕著な効果を備えるものとはいえない。加えて、本件発明は、参照抗体との競合 についても何ら限定がなく、競合の程度が低いものも含む。このように、結合中和 10 活性の程度も競合の程度も無限定である以上、周知技術に基づき結合中和抗体をい くつか取得し、そのような抗体を結合中和の程度や参照抗体との競合の程度で分類 した際に、参照抗体と何らかの程度において競合するものが含まれることになる。 したがって、周知技術に基づき取得される結合中 くつか取得し、そのような抗体を結合中和の程度や参照抗体との競合の程度で分類 した際に、参照抗体と何らかの程度において競合するものが含まれることになる。 したがって、周知技術に基づき取得される結合中和抗体の1 つ1 つが常に参照抗 体と競合するとはいえないとしても、所定の低くない割合で本件発明に含まれる抗 15 体を取得できるのであれば進歩性を否定すべきところ、本件発明には結合中和の程 度及び参照抗体との競合の程度のいずれにおいても何らの限定もないから、当業者 は、本件発明に含まれる抗体を容易に取得できたものといえる。 (ウ) 小括 このように、乙1 発明及び周知技術に基づき、PCSK9 全長を抗原として結合中 20 和モノクローナル抗体を取得するだけで、本件発明に含まれる抗体を容易に取得で きるため、本件発明は進歩性を欠く。 オ 理由2 以下のとおり、乙1 発明及び周知技術に基づき、PCSK9 の374 位周辺ペプチド を抗原として結合中和モノクローナル抗体を取得するだけで、本件発明に含まれる 25 抗体を容易に取得できるため、本件発明は進歩性を欠く。 35 (ア) 乙1 文献は、PCSK9-LDLR 結合中和抗体が有効な治療薬になるであろうこ とを述べ、PCSK9-LDLR 結合中和抗体の取得を動機付ける。本件優先日当時、治 療用に用いられる抗体として単一の抗体であるモノクローナル抗体を用いることが 技術常識であったことなどから、乙1 文献に接した当業者であれば、「PCSK9 に結 合し、PCSK9 とLDLR との結合を阻害する抗体」をモノクローナル抗体として取 5 得することを動機付けられたといえる。 また、乙1 文献には、特にPCSK9 の374 位がPCSK9 とLDLR との結合におい て重要であり、かつ、PCSK9 の3 クローナル抗体として取 5 得することを動機付けられたといえる。 また、乙1 文献には、特にPCSK9 の374 位がPCSK9 とLDLR との結合におい て重要であり、かつ、PCSK9 の374 位がPCSK9 の表面を形成することが示され ていることから、当業者は、PCSK9 の374 位周辺ペプチドを抗原として、結合中 和モノクローナル抗体を取得することを動機付けられるといえる。 10 本件優先日当時、特定の抗原に対して結合する抗体を作成する方法としては、タ ンパク質の全長を抗原として用いて取得する方法のほか、タンパク質の特定部位の ペプチドを抗原として用いて取得する方法も周知であった。 したがって、乙1 文献により動機付けられた当業者は、PCSK9 の374 位周辺ペ プチドを抗原として、「PCSK9 に結合し、PCSK9 とLDLR との結合を阻害する抗 15 体」をモノクローナル抗体として取得することができた。 (イ) 参照抗体はPCSK9 とLDLR との結合部位に結合するため、PCSK9 とLDLR との結合を阻害する結合中和抗体には、参照抗体と競合する抗体が少なからず含ま れる。したがって、乙1 文献及び周知技術に基づき、PCSK9 の374 位周辺ペプチ ドを抗原として結合中和モノクローナル抗体をいくつか取得するだけで、当業者は、 20 参照抗体と競合する抗体、すなわち本件発明に含まれる抗体を容易に取得できる。 また、本件発明には結合中和活性の程度や参照抗体との競合の程度については何 の限定もないため、なおさら、本件発明には当業者が容易に取得し得た抗体が含ま れることは、理由1 の場合と同様である。 (ウ) 小括 25 このように、乙1 発明及び周知技術に基づき、PCSK9 の374 位周辺ペプチドを 36 が容易に取得し得た抗体が含ま れることは、理由1 の場合と同様である。 (ウ) 小括 25 このように、乙1 発明及び周知技術に基づき、PCSK9 の374 位周辺ペプチドを 36 抗原として結合中和モノクローナル抗体を取得するだけで、本件発明に含まれる抗 体を容易に取得できるため、本件発明は進歩性を欠く。 カ 小括 以上のとおり、本件発明は理由1 及び2 により、進歩性を欠き(特許法29 条2 項)、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123 条 5 1 項2 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を行使し得ない。 〔原告の主張〕 ア 本件発明と乙1 発明との対比 (ア) 乙1 文献には、単離されたモノクローナル抗体が取得されたことは記載され ていない上に、PCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体が取得されたことも全く 10 記載されていない。したがって、乙1 発明と本件発明との間には一致点は存在せず、 相違点は、本件発明はPCSK9 とLDLR との結合を中和する単離されたモノクロー ナル抗体であるのに対して、乙1 発明は単離されたモノクローナル抗体であるか不 明である点(相違点1’)、及び本件発明はPCSK9 との結合に関して参照抗体と競合 する抗体であるのに対して、乙1 発明は抗体が参照抗体と競合するかどうか不明で 15 ある点(相違点2’)である。 (イ) 乙1 文献は、単にPCSK9 が脂質異常症の治療のターゲットになり得ること を述べ、その抽象的な候補として、「理論の上では、PCSK9 の自己プロセシング及 び分泌を阻害し、PCSK9 の機能喪失型変異と同様の効果を奏する細胞透過性のプ ロテアーゼ阻害剤の標的とすることができるかもしれない。」、 「血漿中のPCSK9 に 20 結合し、その ロセシング及 び分泌を阻害し、PCSK9 の機能喪失型変異と同様の効果を奏する細胞透過性のプ ロテアーゼ阻害剤の標的とすることができるかもしれない。」、 「血漿中のPCSK9 に 20 結合し、そのLDLR との結合を阻害する抗体や低分子もPCSK9 の機能の効果的な 阻害剤となり得る。」として、複数の候補を列挙しているに過ぎない。また、乙1 文 献に開示された実験結果は、PCSK9 とLDLR の結合が細胞内で行われ、血漿中の PCSK9 が生理的に不活性であることを強く示唆するものであった。このため、乙1 文献は、当業者にとって抗体(細胞内に入ることができない)による治療の有効性 25 に様々な懸念を生じさせる内容であった。 37 したがって、乙1 文献は、PCSK9 とLDLR の結合を中和する抗体によって治療 することを当業者に動機付け得るものではなく、むしろ、抗体による治療の困難性 を示唆するものである。 そればかりか、乙1 文献には、特にPCSK9 に存在するプロドメインがLDLR と の結合に寄与することが示された上、PCSK9 の3 つのドメインがLDLR との結合 5 面の形成に関与しており、プロドメイン及び触媒ドメインでは活性に不十分である 旨が記載されている。乙1 文献は、PCSK9 とLDLR との結合領域について、当業 者に何も教えていない。 以上から、乙1 文献は、結合中和抗体のターゲットとすべき部位(PCSK9 上の LDLR との結合領域)に関しても、当業者に動機付けを与えるものではなく、PCSK9 10 上のLDLR との結合領域(触媒ドメイン)の中でも特定の位置に結合することによ り結合を中和する本件発明の参照抗体を取得する動機付けや、この参照抗体と競合 する抗体を取得する動機付けを当業者に与えるものでもない R との結合領域(触媒ドメイン)の中でも特定の位置に結合することによ り結合を中和する本件発明の参照抗体を取得する動機付けや、この参照抗体と競合 する抗体を取得する動機付けを当業者に与えるものでもない。 イ 進歩性の判断基準 特許法29 条2 項は、容易想到性の対象は技術思想である「発明」であり、「発明」 15 に含まれる個々の物ではないことを明確に規定しているところ、本件発明は、 PCSK9 とLDLR の結合を中和し、参照抗体と競合するという構成要件によって規 定された単離されたモノクローナル抗体であり、個々の抗体ではない。 仮に結合中和抗体のプールの中に参照抗体と競合する抗体が含まれていたとして も、本件優先日当時にはその抗体が参照抗体と競合するという特性を認識すること 20 すらできなかった。そうであれば、抗体分野の技術常識に基づけば、「競合する抗体 が得られた」などということはできない。したがって、仮に被告の主張する進歩性 判断基準を前提とした場合であっても、本件発明は進歩性を有する。 ウ 容易想到性 (ア) 相違点1’について 25 本件優先日当時の技術常識によれば、PCSK9 は細胞内でLDLR と相互作用して 38 いるとみられていたため、結合中和抗体による治療は有望ではないと考えられてい た。また、未だPCSK9 上の結合領域が特定されていなかったことから、結合中和 抗体を作製しようにも、その抗体のターゲットにすべきPCSK9 上の領域すら分か っていなかった。 さらに、本件発明は、試行錯誤の末、有効な結合中和抗体が得られる条件(固相 5 化方法、D374Y 変異体を用いたスクリーニング方法、強力な免疫法等)を見出した のであり、本件発明のモノクローナル抗体は周知技術によって容易に取得できるも のではない。その根拠は る条件(固相 5 化方法、D374Y 変異体を用いたスクリーニング方法、強力な免疫法等)を見出した のであり、本件発明のモノクローナル抗体は周知技術によって容易に取得できるも のではない。その根拠は、例えば次のとおりである。 ・本件明細書では参照抗体と競合する結合中和抗体の有用性を実証したが、周知 技術や乙1 文献には参照抗体と競合する抗体を選択する動機付けがないため、抗体 10 を選択して本件発明のモノクローナル抗体を取得することはできない。 ・技術常識に従ったとしても、当然に結合中和抗体が得られたということはでき ない。 ・本件発明では、本件発明において初めて構築されたスクリーニング方法を用い ており、当該スクリーニング方法では、PCSK9 のD374Y 変異体とLDLR との結 15 合を中和するアッセイも用いられているが、PCSK9 のD374Y 変異体とLDLR と の結合を中和する抗体を得ることは、乙1 文献には開示も示唆もされていない。 ・PCSK9 のD374Y 変異体とLDLR との結合を中和するアッセイ系を用いるこ とで、PCSK9 とLDLR のEGFa ドメインとの結合が中和できる抗体が多く得られ たが、乙1 文献には、どのようにしてPCSK9 とLDLR のEGFa ドメインとの結合 20 を中和する抗体を得るかについては開示も示唆もされていない。 ・本件明細書では、PCSK9 に結合する抗体のバリエーションを増やすために新 しく強力な免疫法を確立し(実施例1)、有用な抗体群を特定したが、そのような免 疫法についても、乙1 文献には開示も示唆もされていない。 したがって、相違点1’については、このような抗体を具体的に着想し、これを取 25 得すること自体、当業者にとって容易想到とはいえない。 39 (イ) 相違点 示も示唆もされていない。 したがって、相違点1’については、このような抗体を具体的に着想し、これを取 25 得すること自体、当業者にとって容易想到とはいえない。 39 (イ) 相違点2’について 本件優先日当時、参照抗体は未だ得られておらず、乙1 文献にも、また本件優先 日当時の技術常識にも、参照抗体と競合する抗体を「選択する動機付け」はなく、 参照抗体と競合する抗体を「選択する技術手段」も示されていない。そもそも、 PCSK9 上のLDLR との結合領域(触媒ドメイン)が特定されていなかったことか 5 ら、触媒ドメインの中でも特定の位置に結合し、これにより、LDLR の特にEGFa ドメインとの結合を中和することができる抗体はもちろん、上記特定の位置に結合 する参照抗体に着目する動機付けすら存在していない。そうすると、本件明細書の 開示内容に基づく後知恵なく、参照抗体と競合する抗体に想到することはできない。 他方、本件発明は、参照抗体と競合する結合中和抗体の有用性を実証している。 10 すなわち、本件発明には、参照抗体と競合する抗体が、生体内でPCSK9 と結合し、 PCSK9 の機能を阻害し、LDLR の特にEGFa ドメインとPCSK9 との結合を中和 することによって、LDLR タンパク質とその活性を増加させ、血漿コレステロール を適切に低下させることができるという新しい情報が開示されていた。LDLR の EGFa ドメインとPCSK9 との結合を中和することの技術的意義は、本件明細書に 15 おいて初めて明らかにされ、それ故に、参照抗体の有用性及び参照抗体と競合する 抗体の有用性が明らかになったのである。乙1 文献には、LDLR のEGFa ドメイン とPCSK9 との結合を中和すること(又は参照抗体と競合する抗体)の技術的意義 に の有用性及び参照抗体と競合する 抗体の有用性が明らかになったのである。乙1 文献には、LDLR のEGFa ドメイン とPCSK9 との結合を中和すること(又は参照抗体と競合する抗体)の技術的意義 については、何ら開示も示唆もされていない。そのような状況で、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 との結合を中和する抗体に容易に想到することができたとはい 20 えない。なお、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 との結合を中和すること(又は 参照抗体と競合する抗体)と、LDLR とPCSK9 との結合を中和することとは同一 視することはできないから、乙1 文献から、LDLR のEGFa ドメインとPCSK9 と の結合を中和すること(又は参照抗体と競合する抗体)に容易に想到し得たという こともできない。 25 したがって、相違点2’も、容易想到とはいえない。 40 エ 被告主張に係る理由1 について 被告がその主張の基礎とする「PCSK9 とLDLR との結合を阻害する結合中和抗 体には、参照抗体と競合する抗体が少なからず含まれることを示している」とする 実験結果自体が誤りである。 オ 被告主張に係る理由2 について 5 乙1 文献には、3 つのドメイン全てが結合に関与し、触媒ドメインのみでは結合 に不十分であり、プロドメインが結合に関与していること、D374Y だけでなく、 S127R もLDLR と強固に結合することが記載されている。また、乙1 文献にも別 の文献(乙8 の1)にも、D374Y の機能獲得型点突然変異があるPCSK9 がLDLR と強固に結合することは示されているものの、この部位が結合面であることは示唆 10 されていなかった。このように、乙1 文献は、PCSK9 上のLDLR との結合部位に ついて、何も示唆し がLDLR と強固に結合することは示されているものの、この部位が結合面であることは示唆 10 されていなかった。このように、乙1 文献は、PCSK9 上のLDLR との結合部位に ついて、何も示唆していない。したがって、当業者は、乙1 文献により、374 位周 辺ペプチドを抗原として抗PCSK9 抗体を取得することを動機付けられたとはいえ ない。 また、被告が、本件優先日当時の周知技術を用いてPCSK9 の374 位周辺ペプチ 15 ドを抗原として得られた抗PCSK9 モノクローナル抗体について結合中和試験及び 参照抗体との競合試験を行った結果として提出した証拠に係る実験は、抗体-ファ ージディスプレイのライブラリーとしてHAL4 及びHAL7 を用いているところ、 このようなライブラリーが本件優先日前に抗体作成に有用なライブラリーとして入 手可能であったとはいえず、本件優先日前の技術水準には無かったものを含むから、 20 その結果を本件発明の進歩性を否定する資料として考慮することは許容されない。 (6) 明確性要件違反(争点2-4) 〔被告の主張〕 本件発明は、「競合」及び「中和」いずれについても、その程度に関して何らの限 定もない。このため、本件発明の「参照抗体と競合する」という発明特定事項は、 25 その外延が不明確である。 41 また、PCSK9 との結合に関し、ある抗体が参照抗体と競合するか否かを判断する に際しては、ある抗体を最初に抗原(PCSK9)に結合させて参照抗体をその後に加 える場合と、参照抗体を最初に抗原に結合してある抗体をその後に加える場合とで、 「競合」について異なる結果が生じ得るが、これらの結果が異なる場合に「競合」 するといえるのかは不明である。本件明細書においても、片方のパターンで競合す 5 るからといって をその後に加える場合とで、 「競合」について異なる結果が生じ得るが、これらの結果が異なる場合に「競合」 するといえるのかは不明である。本件明細書においても、片方のパターンで競合す 5 るからといって他方のパターンで競合するとは限らず、競合試験において抗体が使 用される順序が重要であることが開示されている(【0495】)。 さらに、本件発明においては、いかなる試験方法で「競合」の程度を評価するの かも特定されておらず、この点でも、本件発明の外延は不明確である。 以上のとおり、本件発明の「参照抗体と競合する」との発明特定事項は、その外 10 延が不明確であるから、本件発明は明確性要件に違反する。したがって、本件特許 は特許法36 条6 項2 号所定の要件を満たしていない特許出願に対してされたもの であり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123 条1 項4 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を行使し得ない。 〔原告の主張〕 15 本件明細書には、「競合」につき、「検査されている抗原結合タンパク質(例えば、 抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例えば、PCSK9 又はその断 片)への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は参照抗体)の特異的結合 を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)アッセイによって測定された抗原結 合タンパク質間の競合を意味する」と規定されている(【0140】)。当業者であれば、 20 この記載と出願当時の技術常識に基づいて適切に実施された競合アッセイにより、 有意な競合を検出できることを理解し、PCSK9 との結合に関して競合する抗体を 得ることができたはずである。 また、本件明細書の記載から明らかであるように、PCSK9 とLDLR との結合を 中和し、かつ「競合」するならば、当該ある抗体 SK9 との結合に関して競合する抗体を 得ることができたはずである。 また、本件明細書の記載から明らかであるように、PCSK9 とLDLR との結合を 中和し、かつ「競合」するならば、当該ある抗体が参照抗体と重複する位置に結合 25 して、PCSK9 とLDLR との結合を中和すると考えられるから、ある適切な条件下 42 で競合を示す抗体であれば、本件発明の効果を奏することとなる。 さらに、被告が指摘する本件明細書の記載(【0495】)は、競合の順序によっては、 重複するエピトープに結合する抗体であっても競合しないように見える場合がある ことを述べたものであり、いずれかの順番で競合試験をした場合に、「競合」するこ とが示されれば権利範囲であることを明確にしたものである。本件明細書では、順 5 番によらずに競合することを「互いに競合する」と区別しており、 「競合する」は「互 いに競合する」場合と「互いに競合しない」場合を含むことは明らかであって、不 明確ではない。 試験方法の点については、本件明細書は、当業者が、本件出願日当時の技術常識 と本件明細書の記載に基づいて適切に設定した条件下で、適切に競合アッセイをす 10 ることにより、有意に「競合」するか否かを判定することが理解できるように本件 発明を記載しているから、本件発明は明確であり、第三者に不測の不利益をもたら すことはない。 (7) 発明該当性要件違反(争点2-5) 〔被告の主張〕 15 本件発明は、課題を解決するための具体的手段を何ら提示するものではないから、 「技術的思想の創作」とはいえず、「発明」(特許法2 条1 項)に該当しない。 すなわち、本件発明は、①「PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和すること ができ」、②「PCSK9 との結合に関して参照抗体と競合す はいえず、「発明」(特許法2 条1 項)に該当しない。 すなわち、本件発明は、①「PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和すること ができ」、②「PCSK9 との結合に関して参照抗体と競合する」、③「単離されたモノ クローナル抗体」、④「を含む、医薬組成物」という構成要件からなる。 20 発明の解決すべき課題はPCSK9 とLDLR との結合を中和する抗体を提供するこ とであるから、①は、解決すべき課題を特定するものであり、課題を解決する手段 を提示するものではない。また、③及び④は、本件発明がモノクローナル抗体及び 医薬組成物についてのものであることを特定する以上の意味はない。そうすると、 課題の解決手段として実際に意味を持ち得るのは②のみである。 25 しかし、本件明細書は、PCSK9 に結合し、かつ、PCSK9 とLDLR との結合を中 43 和することができる抗体をスクリーニングし、PCSK9 に対する抗体の最も高い力 価を有するハイブリドーマを同定してから、競合するか否かの試験を行い、参照抗 体と競合するか否かによって分類している。このように、競合するか否かの試験を 行う前にPCSK9 とLDLR との結合を中和することができる抗体をスクリーニング し、PCSK9 に対する抗体の最も高い力価を有するハイブリドーマを選択している 5 のであるから、いかなる意味でも、「PCSK9 との結合に関して、参照抗体と競合す る抗体であれば、PCSK9 とLDLR の結合を中和することができる」という技術思 想を読み取ることはできない。そうすると、②も、PCSK9 とLDLR との結合を中 和する抗体を提供するとの課題に対する具体的な課題解決手段を提供していない。 このため、本件発明は、課題を解決するための具体的手段を何ら提示するもので 1 ②も、PCSK9 とLDLR との結合を中 和する抗体を提供するとの課題に対する具体的な課題解決手段を提供していない。 このため、本件発明は、課題を解決するための具体的手段を何ら提示するもので 10 はなく、「技術的思想の創作」とはいえないから、「発明」に該当しない。 したがって、本件特許は、「発明」に該当しないものに対して特許された点で特許 法29 条1 項柱書に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされる べきものであるから(同法123 条1 項2 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を 行使し得ない。 15 〔原告の主張〕 本件発明は、PCSK9 とLDLR の結合を中和することができ、参照抗体と競合す る、単離されたモノクローナル抗体及びこれを含む医薬組成物の発明であり、「自然 法則を利用した技術的思想が、課題解決の主要な手段として提示されている」から、 「技術的思想の創作」に該当する。したがって、本件発明は「発明」に該当する。 20 (8) 被告による無効理由の主張と信義則違反の有無(争点2-6)について 〔原告の主張〕 被告がサポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由を主張することは、訴 訟上の信義則に反して許されない。 すなわち、被告の親会社であり被告と実質的に同一人であるサノフィ社は、サポ 25 ート要件違反及び実施可能要件違反等を理由に、本件特許につき無効審判を請求し 44 た上、その不成立審決につき別件審決取消訴訟を提起したが、既に無効審判請求は 成り立たない旨の審決が確定している。 サポート要件及び実施可能要件に関しては「同一の事実及び同一の証拠」(特許法 167 条)の範囲を法条単位で考えるべきことや前訴の経緯に鑑みると、本件におい ては、サノフィ社の完全子会社である被告がサポート要件違 件及び実施可能要件に関しては「同一の事実及び同一の証拠」(特許法 167 条)の範囲を法条単位で考えるべきことや前訴の経緯に鑑みると、本件におい ては、サノフィ社の完全子会社である被告がサポート要件違反及び実施可能要件違 5 反の主張を行うことは紛争の蒸し返しであり、信義則に反して許されない。 仮にサポート要件及び実施可能要件に係る審決の効力の範囲につき法条単位で考 えないとしても、被告が本件で新たに加わったものとして主張するサポート要件違 反及び実施可能要件違反に係る理由3 の主張は、別件審決取消訴訟において排斥さ れた理解を前提とした主張であり、「同一の事実及び同一の証拠」の要件を回避でき 10 るものではない。他方、ミミック抗体に関する主張(サポート要件違反及び実施可 能要件違反に係る理由2 の主張)に関しては、本件発明は抗原上のどのアミノ酸を 認識するかについては特定しない抗体の発明であるから、LDLR が認識するPCSK9 上のアミノ酸の大部分を認識する特定の抗体(EGFa ミミック)が発明の詳細な説 明の記載に実施可能に記載されているかどうかは、サポート要件、実施可能要件と 15 は全く関係しない。さらに、サポート要件違反及び実施可能要件違反に係る理由1 の主張は、別件審決取消訴訟においてその請求が成り立たないことが既に確定して おり、単なる紛争の蒸し返しに過ぎない。 〔被告の主張〕 被告がサポート要件違反及び実施可能要件違反として主張する無効理由は、前訴 20 の事実審の口頭弁論終結時点では未だ日本の訴訟手続で提出することを不可能とさ れていた、EGFa ミミック抗体に関する原告自身が作成した電子メール及びプレゼ ンテーション資料に関する証拠等の新証拠に基づくものであることなどから、別件 審決取消訴訟及び前訴におけるものと「同一の事実及び同一 EGFa ミミック抗体に関する原告自身が作成した電子メール及びプレゼ ンテーション資料に関する証拠等の新証拠に基づくものであることなどから、別件 審決取消訴訟及び前訴におけるものと「同一の事実及び同一の証拠」に基づくもの ではない。したがって、被告がこれらの主張をすることが許されないとされる理由 25 はない。 45 (9) 原告の損害(争点3) 〔原告の主張〕 ア 特許法102 条2 項に基づく原告の損害額 被告は、遅くとも平成28 年9 月5 日から、被告製品を製造、販売している。 被告製品の販売開始から販売中止までの売上高は35 億3446 万5151 円と推計さ 5 れるところ、このうち、仕切価格売上の割合が約88%であるとすると、被告に生じ た売上は31 億1032 万9333 円となる。被告の限界利益率は少なくとも仕切価格売 上の70%を下回らないと考えられるから、限界利益額は少なくとも21 億7723 万 0533 円を下回らない。 イ 特許法102 条3 項に基づく原告の損害額 10 特許法102 条3 項に基づく相当実施料は、被告に発生した被告製品の売上の少な くとも65%であり、この額が原告の損害となる。 ウ 原告は、上記原告の損害の一部である10 億円の損害賠償を求める。 〔被告の主張〕 争う。 15 第3 当裁判所の判断 1 事案に鑑み、まず、サポート要件違反(争点2-1)及び実施可能要件違反(争 点2-2)の被告主張に係る理由2 について検討する。 (1) 本件明細書の記載 本件明細書の記載(別紙2)によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次の 20 事項が開示されている。 ア 本件発明は、PCSK9(プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン 9 型)に結合する抗原結合タンパク質 2)によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次の 20 事項が開示されている。 ア 本件発明は、PCSK9(プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン 9 型)に結合する抗原結合タンパク質等に関するものである。PCSK9 は、低密度リ ポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与するセリンプロテ アーゼであり、LDLR タンパク質と直接相互作用し、LDLR と共に肝臓の細胞内に 25 取り込まれ、肝臓中のLDLR タンパク質のレベルを減少させ、さらには、細胞表面 46 (細胞外)でLDL への結合に利用可能なLDLR タンパク質の量を減少させること により、対象中のLDL の量を増加させる。(【0002】、【0003】、【0071】) イ 21B12 抗体及び31H4 抗体(参照抗体)は、PCSK9 とLDLR タンパク質と の結合を強く遮断する中和抗体である(【0138】、【0377】~【0379】(実施例11)、 表2)。参照抗体は、結晶構造上、LDLR のEGFa ドメインの位置と部分的に重複 5 し、PCSK9 へのその結合を立体的に妨害する(【0444】(実施例31)、図20A)。 ウ LDLR のEGFa ドメインは、PCSK9 の触媒ドメインに結合する。結晶構造 上、EGFa ドメインの5 オングストローム以内に存在するPCSK9 のアミノ酸残基 は、LDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基 (コア残基)である。また、EGFa ドメインの5 オングストロームから8 オングス 10 トロームに存在するPCSK9 残基は、LDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の 境界PCSK9 アミノ酸残基である。これらのアミノ酸残基のいずれかと相互作用し、 又は遮断する抗体は、PC 0 トロームに存在するPCSK9 残基は、LDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の 境界PCSK9 アミノ酸残基である。これらのアミノ酸残基のいずれかと相互作用し、 又は遮断する抗体は、PCSK9 とLDLR のEGFa ドメイン(及び/又はLDLR 一 般)との間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。(【0428】~【0432】 (実施例28)、図17)。 15 図19A に図示されるように、参照抗体は、PCSK9 の触媒ドメインに結合する。 21B12 抗体と31H4 抗体とは異なる結合部位を有し、両者は同時にPCSK9 に結合 することができる。結晶構造上、21B12 抗体及び31H4 抗体の5 オングストローム 以内に存在するPCSK9 のアミノ酸残基は、それぞれ、21B12 抗体及び31H4 抗体 との相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基(コア残基)である。LDLR 20 のEGFa ドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基(コア残基) 又はLDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の境界PCSK9 アミノ酸残基のい ずれかの残基と相互作用し、又は遮断する抗体は、PCSK9/LDLR 相互作用の阻害 のために有用であり得る(【0433】、【0434】、【0437】(以上、実施例29)、【0438】 ~【0440】、【0443】(以上、実施例30)、図19A)。 25 【図19A】 47 また、実施例30 から得られた三次複合体(PCSK9/31H4/21B12、図19A)の 構造をPCSK9/EGFa ドメイン構造(実施例28、図17)上に重ね合わせた結果が 図20A である。この図が示すように、21B12 抗体及び31H4 抗体のいずれも、LDLR のEGFa ドメインの位置と CSK9/EGFa ドメイン構造(実施例28、図17)上に重ね合わせた結果が 図20A である。この図が示すように、21B12 抗体及び31H4 抗体のいずれも、LDLR のEGFa ドメインの位置と部分的に重複し、PCSK9 へのその結合を立体的に妨害 5 する(【0444】(実施例31)、図20A)。 【図20A】 10 15 他方、LDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の15 個の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基(コア残基。S153、I154、P155、R194、D238、A239、I369、S372、 D374、C375、T377、C378、F379、V380 及びS381。以下「PCSK9 のコア残基」 48 という。結合部位対照表の「PCSK9 結合部位」欄参照)は、21B12 抗体との相互 作用界面の20 個の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基(コア残基)とは6 アミノ酸 残基が、31H4 抗体との相互作用界面の32 個の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基 (コア残基)とは3 アミノ酸残基が、それぞれ共通している(結合部位対照表の 「21B12」欄と「31H4」欄の紺色で塗りつぶされたセル(■)参照)。また、EGFa 5 ドメインへの結合に関与し、かつ、抗原結合タンパク質(21B12 抗体又は31H4 抗 体)が結合する領域に近い残基は、LDLR へのPCSK9 の結合を操作するのに有用 であり得る(【0446】、【0447】、表12)。 エ 参照抗体と「競合」するモノクローナル抗体は、PCSK9 への参照抗体の結合 を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体である(【0138】、 【0140】、 【0261】、 10 【0262】、【0269】)。 オ PCSK9 に対する中和 SK9 への参照抗体の結合 を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体である(【0138】、 【0140】、 【0261】、 10 【0262】、【0269】)。 オ PCSK9 に対する中和ABP(抗体)は、PCSK9 とLDLR との結合を中和し、 LDLR の量を増加させることにより、対象中のLDL の量を低下させ、対象中の血 清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、また、この効果により、高コレス テロール血症等の上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予 15 防し、疾患のリスクを低減することができるので、治療的に有用であり得る(【0155】、 【0270】、【0271】、【0276】)。 (2) 本件発明の概要 本件明細書の上記開示事項によれば、本件発明は、LDLR タンパク質の量を増加 させることにより、対象中のLDL の量を低下させ、対象中の血清コレステロール 20 の低下をもたらす効果を奏し、また、この効果により、高コレステロール血症等の 上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリス クを低減すること、そのために、LDLR タンパク質と結合することにより、対象中 のLDLR タンパク質の量を減少させ、LDL の量を増加させるPCSK9 とLDLR タ ンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することを課題 25 とした上で、PCSK9 はLDLR のEGFa ドメインに結合すること、及び、参照抗体 49 は、結晶構造上、LDLR のEGFa ドメインの位置と部分的に重複する位置でPCSK9 とLDLR タンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体で あり、参照抗体と「競合」するモノクローナル抗体は、PCSK9 への参照抗体の結合 を妨げ、又 に重複する位置でPCSK9 とLDLR タンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体で あり、参照抗体と「競合」するモノクローナル抗体は、PCSK9 への参照抗体の結合 を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)抗体であることを明らかにするもの である。 5 (3) 「中和」の意味 本件発明における「中和」の意味について、本件明細書には、以下の記載がある。 ・「『中和抗原結合タンパク質』又は『中和抗体』という用語は、リガンドに結合 し、そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タ ンパク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖する 10 ことによって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエ ネルギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行う ことができる。」(【0138】) ・「本明細書中に提供されている抗原結合タンパク質は、PCSK9 とLDLR 間の相 互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することができる。このような抗原 15 結合タンパク質は、『中和』と表される。…中和ABP は、PCSK9 がLDLR に結合 するのを妨げる位置及び/又は様式で、PCSK9 に結合する。このようなABP は、 『競合的に中和する』ABP と特に記載することができる。」(【0155】) これらの記載に鑑みると、本件発明における「中和」とは、PCSK9 のLDLR タ ンパク質結合部位を直接封鎖することによって、又は、PCSK9 に結合し、間接的な 20 手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化等)を通じてLDLR タンパク質に 対するPCSK9 の結合能を変化させることによって、PCSK9 とLDLR タンパク質 の間の相互作用を妨害し、遮 0 手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化等)を通じてLDLR タンパク質に 対するPCSK9 の結合能を変化させることによって、PCSK9 とLDLR タンパク質 の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを意味するものと 解される。 (4) 「競合」の意味 25 本件発明における「競合」の意味について、本件明細書には、以下の記載がある。 50 ・「同じエピトープに対して競合する抗原タンパク質(例えば…中和抗体)という 文脈において使用される場合の『競合する』という用語は、検査されている抗原結 合タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例 えば、PCSK9 又はその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は 参照抗体)の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)アッセイに 5 よって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味する。… 競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質) には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質及 び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトー プに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。」 10 (【0140】) ・「競合する抗原結合タンパク質…PCSK9 への特異的結合に関して、本明細書中 に記載されているエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の1 つと競 合する抗原結合タンパク質が提供される。このような抗原結合タンパク質は、本明 細書中に例示されている抗原結合タンパク質の1 つと同じエピトープ又は重複する 15 エピトープにも結合し得る。」(【0269】) これらの記載に鑑みると、本件発明における参照抗体との 質は、本明 細書中に例示されている抗原結合タンパク質の1 つと同じエピトープ又は重複する 15 エピトープにも結合し得る。」(【0269】) これらの記載に鑑みると、本件発明における参照抗体との「競合」とは、参照抗 体がPCSK9 と結合する部位と同一もしくは重複するPCSK9 上の部位に結合して、 又は、参照抗体がPCSK9 と結合する部位に近接した部位に結合し、参照抗体と PCSK9 との結合を立体的に妨害して、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する 20 (例えば、低下させる)ことを意味するものと解される。 (5) 「EGFa ミミック抗体」について ア 証拠(甲2、4、乙4、50)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認めら れる。 本件発明の発明者の1 人は、本件特許の優先日から約5 年後、出願日から約4 年 25 後の2012 年(平成24 年)の電子メール(以下「本件メール」という。)に、「我々 51 は、現在、EGFa ミミック抗体を取得できていない、しかし、ファイザーは有して いるから、それは可能なはずである〔(RN316)〕…EGFa ミミック抗体は、我々が 現在有する抗体の2 つの一部重複するエピトープのちょうど中間に位置することか ら、EGFa ミミック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろう。」と記載して いた。また、原告が2012 年(平成24 年)に作成した資料には、次の「Conceptual 5 Epitope Space(概念的なエピトープスペース)」と題する図(以下「本件プレゼン テーション資料」という。)が含まれている。これには、21B12 抗体及び31H4 抗 体を示す各楕円形の中間に’Missing Epitope…’(見つからないエピトープ)との記 載がある。 10 前記((1)ウ) )が含まれている。これには、21B12 抗体及び31H4 抗 体を示す各楕円形の中間に’Missing Epitope…’(見つからないエピトープ)との記 載がある。 10 前記((1)ウ)のとおり、15 個のPCSK9 のコア残基、すなわちLDLR のEGFa ドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基(S153、I154、P155、 R194、D238、A239、I369、S372、D374、C375、T377、C378、F379、V380 及 52 びS381)と相互作用し、又は遮断する抗体は、PCSK9/LDLR 相互作用の阻害の ために有用であり得る。本件明細書の各実施例抗体と、それらが認識し、結合する PCSK9 のコア残基との対応関係は、結合部位対照表のとおりである。なお、同表中 に「アムジェンの抗体」と示される抗体が本件明細書記載の各実施例抗体である。 また、同表の「J16」は、ファイザー社の抗体であり、本件メールに「RN316」、本 5 件プレゼンテーション資料に「J16」と記載されているものと同一の抗体である(以 下「J16 抗体」という。)。 イ 「EGFa ミミック抗体」の意味 上記アのとおり、「EGFa ミミック抗体」なる語は、本件発明の発明者自身が使用 したものである。そこで、その意味について検討する。 10 (ア) 「EGFa ミミック抗体」との用語は、「ミミック(mimic)」の語義(「模倣す る」、「擬態する」等)に照らせば、「模倣」ないし「擬態」といい得る程度に、LDLR のEGFa ドメインが結合する部位であるPCSK9 の表面上のアミノ酸を多く認識す る抗体を意味するものと理解できる。 (イ) 本件発明の発明者は、本件メールにおいて、EGFa ミミック抗体は、原告が 15 有する2 が結合する部位であるPCSK9 の表面上のアミノ酸を多く認識す る抗体を意味するものと理解できる。 (イ) 本件発明の発明者は、本件メールにおいて、EGFa ミミック抗体は、原告が 15 有する2 つの抗体(21B12 抗体及び31H4 抗体)の一部重複するエピトープのちょ うど中間に位置するとしている。原告が作成した本件プレゼンテーション資料にお いても、PCSK9 に結合する21B12 抗体と31H4 抗体の間の、「EGFa」と記載され たPCSK9 上のスペースが「見つからないエピトープ」とされ、当該部分にJ16 抗 体が結合した図が示されている。また、「エピトープ」につき、本件明細書には、「エ 20 ピトープは、その抗原を標的とする抗原結合タンパク質によって結合される抗原の 領域であり、抗原がタンパク質である場合、抗原結合タンパク質に直接接触する特 定のアミノ酸を含む。」との記載がある(【0142】)。これらの事情を踏まえると、原 告は、「EGFa ミミック抗体」につき、「見つからないエピトープ」とされている特 定の結合部位に結合する抗体を示す意味で用いていたものと理解される。 25 加えて、本件メール及び本件プレゼンテーション資料によれば、原告は、J16 抗 53 体をEGFa ミミック抗体と認識していたとみられるところ、結合部位対照表によれ ば、同抗体は、15 個のPCSK9 のコア残基のうち14 個を認識する抗体である。 そうすると、本件発明の発明者を始めとする原告側において、「EGFa ミミック抗 体」の語は、15 個のPCSK9 のコア残基の大部分を認識する、すなわち、LDLR の EGFa ドメインが結合する部位であるPCSK9 表面上の各アミノ酸を覆うように直 5 接的に結合する抗体を意味するものとして使用されていたことがう ア残基の大部分を認識する、すなわち、LDLR の EGFa ドメインが結合する部位であるPCSK9 表面上の各アミノ酸を覆うように直 5 接的に結合する抗体を意味するものとして使用されていたことがうかがわれる。 (ウ) これらの事情を総合的に考慮すると、「EGFa ミミック抗体」とは、15 個の PCSK9 のコア残基の大部分を認識する結合中和抗体を意味するものと理解される。 (エ) これに対し、原告は、EGFa ミミック抗体は21B12 抗体と31H4 抗体の両 方と競合する抗体を指すとか、9C9 抗体がEGFa ミミック抗体であるかのような主 10 張をする。 しかし、原告は、本件メールにおいて「EGFa ミミック抗体」をいかなる文脈に おいて用いていたのか明らかにしない。その点を措くとしても、21B12 抗体と31H4 抗体の両方と競合する抗体も9C9 抗体も本件明細書に記載されているところ (【0138】、実施例37、【表17】、【0494】)、これらがEGFa ミミック抗体であると 15 すれば、本件発明の発明者が、本件特許の出願日から約4 年後に、本件メールにお いて、EGFa ミミック抗体を取得できていないとしていることとおよそ整合しない。 なお、原告は、甲55 文献では「ミミック」は抗体自体の立体構造に対して向けら れており、これがLDLR のEGFa ドメインと似ているかどうかという観点で記述 されているから、「ミミック」という用語がPCSK9 上で抗体がいくつのアミノ酸を 20 認識するかという意味で用いられてはいないと主張する。 甲55 文献は、2010 年(平成22 年)に公表された文献であり、結合部位対照表 にも記載のある1D05 抗体について記載されている。 同文献には、「我々は、PCSK9 にナノモルの親和性で結合す 55 文献は、2010 年(平成22 年)に公表された文献であり、結合部位対照表 にも記載のある1D05 抗体について記載されている。 同文献には、「我々は、PCSK9 にナノモルの親和性で結合するフラグメント抗原 結合型(Fab)1D05 を同定した。この完全ヒト型抗体1D05-IgG2 は、野生型PCSK9 25 及び2 つの機能獲得型ヒトPCSK9 変異体(S127R 及びD374Y)の阻害作用を完 54 全に遮断する。PCSK9 に結合した1D05-Fab の結晶構造から、1D05-Fab はLDLr EGF(A)結合部位全体を含むPCSK9 触媒ドメインのエピトープに結合することが 明らかとなった。また、1D05-Fab のCDR-H3 及びCDR-H2 ループは、LDLr の EGF(A)ドメインを構造的にミミックしていることが注目される。」、「PCSK9/1D05 とPCSK9/EGF(A)の構造(12,27)の重ね合わせから、1D05 のCDR-H3 はヘアピン 5 構造をとり、構造的にEGF(A)の2 つのβ 鎖…をミミックしている。」、 「残基Gly50- Gly56 からなるCDR-H2 ループの先端は、構造的にEGF(A)のヘリカルターン(残 基Gly293-Asp299)をミミックしている。」との記載がある。これらの記載は、「ミ ミック」の語につき、抗体の立体構造に着目して使用しているものとも理解し得る。 しかし、他方で、「PCSK9ΔC/1D05 複合体において無秩序であるSer153 及び 10 Ile154 を除いて、EGF(A)と接触するPCSK9 のすべてのアミノ酸も1D05 と相互 作用する。以上のように、構造的分析は、1D05 がPCSK9 との相互作用において LDLr のEGF(A)ドメインを構造的にミミ GF(A)と接触するPCSK9 のすべてのアミノ酸も1D05 と相互 作用する。以上のように、構造的分析は、1D05 がPCSK9 との相互作用において LDLr のEGF(A)ドメインを構造的にミミックし、その結果、PCSK9 が受容体に結 合するのを立体的に防止することによりPCSK9 を阻害することを明らかにした。」 と、PCSK9 のコア残基に着目しているかのような、1D05 抗体が15 個のPCSK9 15 のコア残基のうち13 個を認識する(相互作用する)旨の記載もある。また、上記(イ) のとおり、原告は、EGFa ミミック抗体の語を、構造的類似性ではなく特定の結合 部位に結合する抗体を示す観点で使用していたものである。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 (6) EGFa ミミック抗体が本件発明に含まれること 20 EGFa ミミック抗体とは、15 個のPCSK9 のコア残基の大部分を認識する結合中 和抗体である(前記(5)イ(ウ))。また、本件発明における「中和」とは、PCSK9 の LDLR タンパク質結合部位を直接封鎖することによって、PCSK9 とLDLR タンパ ク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを含む意味で ある(前記(3))。さらに、参照抗体との「競合」とは、参照抗体がPCSK9 と結合す 25 る部位と同一又は重複するPCSK9 上の部位に結合して、参照抗体の特異的結合を 55 妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)ことを含む意味である(前記(4))。 結合部位対照表によれば、15 個のPCSK9 のコア残基の大部分を認識するEGFa ミミック抗体は、参照抗体である21B12 抗体及び31H4 抗体のいずれに対する関 係でも、同各抗体が結合するPCSK9 のコア残基と れば、15 個のPCSK9 のコア残基の大部分を認識するEGFa ミミック抗体は、参照抗体である21B12 抗体及び31H4 抗体のいずれに対する関 係でも、同各抗体が結合するPCSK9 のコア残基と同一又は重複する部位に結合し、 参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害すると共に、LDLR タンパク質結合部位を 5 直接封鎖して、PCSK9 とLDLR タンパク質の間の相互作用を妨害等するものとい える。 したがって、EGFa ミミック抗体は本件発明に含まれる。 (7) サポート要件違反及び実施可能要件違反の有無 ア 本件明細書には、本件発明に関し、前記各認定の記載に加え、次の事項が記 10 載されている。 (ア) PCSK9 に対する抗体を作製するためにXenoMouse(R)マウスの2 つのグル ープを使用し、表3 の免疫化プログラムのスケジュールに従って免疫化マウスを作 製し、PCSK9 に対して特異的な抗体を産生するマウス(10 匹)を選択し、脾臓及 びリンパ節から脾細胞及びリンパ球を単離した。(【0312】~【0314】(実施例1)、 15 【0320】、【0321】) (イ) 上記(ア)で選択したマウスのリンパ系組織からB 細胞を解離させ、非分泌性 骨髄腫P3X63Ag8.653 細胞と混合し、融合された細胞を遠心沈降させる等の手順を 経て、PCSK9 に対する抗原結合タンパク質を産生するハイブリドーマを作製した。 (【0322】~【0324】(実施例2)) 20 (ウ) ニュートラビジンで被覆したプレートに結合させたV5 タグを持たないビオ チン化されたPCSK9 を捕捉試料とするELISA による一次スクリーニングを行い、 これによって合計3104 の抗原(野生型PCSK9)特異的ハイブリドーマを得た。 (【0325】~【0328】) ン化されたPCSK9 を捕捉試料とするELISA による一次スクリーニングを行い、 これによって合計3104 の抗原(野生型PCSK9)特異的ハイブリドーマを得た。 (【0325】~【0328】) 安定なハイブリドーマが確立されたことを確認するために、野生型PCSK9 の結 25 合に関して上記の合計3000 の陽性を再スクリーニングして合計2441 の陽性を第2 56 のスクリーニング(確認用スクリーニング)で反復し、次いで、抗体がヒト及びマ ウスの両方に結合することを確認するために「マウス交叉反応スクリーニング」を 行い、579 抗体がマウスPCSK9 と交叉反応することを確認した。 (【0329】、 【0330】) 捕捉試料としてLDLR を結合させたプレートに、ハイブリドーマ枯渇上清と、 LDLR に対して高い結合親和性を有するビオチン化されたD374YPCSK9 変異体を 5 移し、LDLR に結合されたビオチン化されたD374Y 変異体をストレプトアビジン HRP を用いて検出するスクリーニング(大規模受容体リガンド遮断スクリーニン グ)を行い、PCSK9 とLDLR ウェル間での相互作用を遮断する384 の抗体を同定 し、うち100 の抗体は、PCSK9 とLDLR の結合相互作用を90%超阻害することを 確認した。(【0332】) 10 次いで、第1 の大規模受容体リガンド遮断スクリーニングにおいて同定された中 和物質384 に対してD374Y 変異体を用いて受容体リガンドアッセイを反復し、90% を超えてD374Y 変異体とLDLR 間の相互作用を遮断する85 の抗体を同定した。 (【0333】、【0334】(以上、実施例3)) (エ) これらのアッセイ(スクリーニング)に基づいて同定されたPCSK9 との所 15 望の相互 間の相互作用を遮断する85 の抗体を同定した。 (【0333】、【0334】(以上、実施例3)) (エ) これらのアッセイ(スクリーニング)に基づいて同定されたPCSK9 との所 15 望の相互作用を有する抗体を産生するハイブリドーマから産生される21B12 抗体 及び31H4 抗体(参照抗体)は、PCSK9 とLDLR との結合を強く遮断する中和抗 体である。(【0138】、【0377】~【0379】(実施例11)、表2) (オ) 第1 の抗体(2µg/mL)で被覆し、3%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッ クしたELISA プレート上にビオチン化されたヒトPCSK9(30ng/mL)を第2 の抗 20 体と共に適用して洗浄後、同じ結合特性を有する抗体を同じエピトープビンにグル ープ分けした結果は、表8.3 のとおりであり、21B12 抗体はビン1 に、31H4 抗体 はビン3 にグループ分けされた。(【0373】、【0374】(実施例10)、表8.3) 次いで、ヒトIgG 捕捉抗体で被覆されたビーズコートを1%BSA を加えたリン酸 緩衝化生理食塩水(PBSA)で3 回洗浄して2µg/mL の抗PCSK9 抗体を加えPBSA 25 で3 回洗浄した後に2µg/mL のPCSK9 を添加し、さらに2µg/mL の抗PCSK9 抗 57 体を添加してビニングを行って、競合する抗体を同定した結果が表37.1 のとおり であり、ビン1(21B12 抗体と競合する)及びビン3(31H4 抗体と競合する)は互 いに排他的であり、ビン2 はビン1 及びビン3 と競合し、ビン4 はビン1 及びビン 3 と競合しない。上記の結果によれば、ビン1(21B12 抗体と競合するが、31H4 抗 体と競合しないもの)が19 個、ビン2(21B12 抗体と31H4 抗体 と競合し、ビン4 はビン1 及びビン 3 と競合しない。上記の結果によれば、ビン1(21B12 抗体と競合するが、31H4 抗 体と競合しないもの)が19 個、ビン2(21B12 抗体と31H4 抗体のいずれとも競 5 合するもの)が3 個、ビン3(31H4 抗体と競合するが21B12 抗体と競合しないも の)が10 個である。そして、ビン1 に含まれる抗体のうち16 個は、表2 に掲げら れた抗体であり、そのうち27B2 抗体を除く15 個は中和抗体であること、ビン3 に 含まれる抗体のうち7 個は、表2 に掲げられた抗体であり、中和抗体であることが 確認されている。また、ビン2 に含まれる抗体のうち2 個(27B2 抗体)は、表2 10 に掲げられた抗体であり、非中和抗体であることが確認されており、残りの1 個 (12H11 抗体)は、表2 に掲げられておらず、結合中和抗体であるのか明らかでは ない。ビンのそれぞれの中の抗体は、PCSK9 上のエピトープ位置の異なる種類の代 表であり、それらの幾つかは互いに重複する。(【0138】、【0489】~【0495】(実施 例37)、表2、表37.1) 15 (カ) ヒトPCSK9 を発現する遺伝子組み換えマウスに21B12 抗体及び31H4 抗 体の10mg/kg 又は30mg/kg のいずれかの単回大量瞬時注射を行った結果、対照マ ウスと比較して、21B12 抗体及び31H4 抗体はいずれも投与後最大48 時間(48 時 間を含む)著しいLDL-コレステロール低下を示した。(【0422】、【0423】(実施例 26)) 20 イ 本件発明は、LDLR タンパク質の量を増加させることにより、対象中のLDL の量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、また、 この効果により、高コレステロール 20 イ 本件発明は、LDLR タンパク質の量を増加させることにより、対象中のLDL の量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し、また、 この効果により、高コレステロール血症等の上昇したコレステロールレベルが関連 する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを低減すること、そのために、LDLR タンパク質と結合することにより、対象中のLDLR タンパク質の量を減少させ、 25 LDL の量を増加させるPCSK9 とLDLR タンパク質との結合を中和する抗体又は 58 これを含む医薬組成物を提供することを課題とするものである(前記(2))。 また、前記(1)及び上記アによれば、本件明細書には、実施例抗体の作製方法とし て、免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製、免疫化 マウスを使用したハイブリドーマの作製、参照抗体と競合する、PCSK9-LDLR と の結合を遮断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア 5 ッセイの方法が記載されている。 ところで、EGFa ミミック抗体とは、15 個のPCSK9 のコア残基の大部分を認識 する結合中和抗体である。本件明細書の記載によれば、参照抗体である21B12 抗体 はそのうち6 個のアミノ酸残基を、31H4 抗体はそのうち3 個のアミノ酸残基を認 識するに過ぎないから(前記(1)ウ)、参照抗体はいずれもEGFa ミミック抗体では 10 ない。また、結合部位対照表に記載されている本件明細書の各実施例抗体は、最大 でも8 個のアミノ酸残基を認識するにとどまるから(1A12 抗体)、これらはいずれ もEGFa ミミック抗体とはいえない。他に本件明細書の各実施例抗体がEGFa ミ ミック抗体であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件明細 にとどまるから(1A12 抗体)、これらはいずれ もEGFa ミミック抗体とはいえない。他に本件明細書の各実施例抗体がEGFa ミ ミック抗体であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件明細書には、 EGFa ミミック抗体が取得できたことが記載されているとはいえない。 15 当業者が、本件明細書の記載に基づき、一連の手順を最初から繰り返し行うこと によって、本件明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体(ビン1 に含まれる21B12 抗体と競合する15 個の抗体、ビン3 に含まれる31H4 抗体と競 合する7 個の抗体)以外に、参照抗体と競合する中和抗体を作製できると仮定して も、A教授の第2 鑑定書(乙43)では、「特定のマウスが特定の抗体を生成するか 20 どうかは運に支配されるため、候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングす ることは不可能である」とされるところ、この点につき疑義を抱くべき合理的な事 情は見当たらない。そうすると、本件明細書記載の抗体の作製過程を経たとしても、 免疫化されたマウスの中でPCSK9 のどの位置に結合する抗体が得られるかは「運 に支配される」ものといえることになる。しかるに、EGFa ミミック抗体を含め、 25 特定の位置に結合する抗体を作製する方法が本件特許の出願時における技術常識で 59 あったことを認めるに足りる証拠はない。 これらの事情を踏まえると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記 載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明が、本件発明に含まれるEGFa ミミッ ク抗体を当業者が作製できるように記載されているということも、また、本件発明 に含まれるEGFa ミミック抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されてい 5 るということもできない。 そもそも、原告は、本件特 が作製できるように記載されているということも、また、本件発明 に含まれるEGFa ミミック抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されてい 5 るということもできない。 そもそも、原告は、本件特許の出願日から約4 年後の2012 年(平成24 年)に至 っても、EGFa ミミック抗体を取得できていないことを自認している上、EGFa ミ ミック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろうと述べている(前記(5)ア)。 このように、EGFa ミミック抗体は、特許権者が本件出願日の後にあっても取得で 10 きておらず、取得困難と認識している抗体である。 以上によれば、本件明細書にはEGFa ミミック抗体及びその具体的な作製方法は 記載されておらず、当業者において、本件明細書の記載及び本件特許出願当時の技 術常識によっては、これを作製できないものと認められる。 したがって、本件発明は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものとはいえ 15 ず、また、発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識 を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものと もいえない。すなわち、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反し、特 許無効審判により無効にされるべきものである。 ウ 原告の主張について 20 (ア) 原告は、本件優先日又は出願日には、EGFa ドメインを模倣する抗体という 概念も、EGFa ミミック抗体と称する抗体を取得しようという課題も存在せず、我が 国の特許制度においては、出願時に存在しない課題について解決手段を提供するこ とまでは求められていないから、出願時に課題として認識されたことのないEGFa ミミック抗体が本件明細書に記載されていないとして、サポート要件及び実施可能 25 要件違反とすることはできな 提供するこ とまでは求められていないから、出願時に課題として認識されたことのないEGFa ミミック抗体が本件明細書に記載されていないとして、サポート要件及び実施可能 25 要件違反とすることはできない旨を主張する。 60 しかし、原告の主張を前提としても、EGFa ミミック抗体の作製という将来解決 すべき課題及びその課題解決手段の構成について、本件明細書に記載されておらず、 公開されたものといえないにもかかわらず、特許発明として保護することは、発明 を公開した代償として特許権を付与するとの特許制度の趣旨・目的に適合せず、相 当でない。特許権者である原告でさえも本件発明に含まれるEGFa ミミック抗体を 5 取得できない状況にあったことを踏まえると尚更である。 (イ) 原告は、被告がEGFa ミミック抗体と称するアリロクマブは、原告が21B12 抗体に基づいて開発したエボロクマブと同等の作用効果しか示さず、本件発明の課 題の解決において、「大部分のアミノ酸を認識」という技術事項には技術的意義が認 められない旨をも主張する。 10 しかし、LDLR のEGFa ドメインを模倣するように、15 個のPCSK9 のコア残基 を多く認識し結合する抗体の方が、完全適合に近くなり、PCSK9 のLDLR 結合部 位を広く覆う形で結合することになるものといえ、PCSK9 とLDLR タンパク質の 結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断すること、すなわち、PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和する能力が高くなることが期待できる。また、PCSK9 のコ 15 ア残基との結合の数が多ければ、PCSK9 と抗体との間の総合的な結合力も強くな り、PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和する能力が高くなることが期待でき る。このように、抗体と抗原の関係を論 ア残基との結合の数が多ければ、PCSK9 と抗体との間の総合的な結合力も強くな り、PCSK9 とLDLR タンパク質の結合を中和する能力が高くなることが期待でき る。このように、抗体と抗原の関係を論理的にみて、EGFa ミミック抗体は、PCSK9 とLDLR タンパク質の結合中和活性において、より有利であると考えられる。 また、21B12 抗体は、本件発明の抗体そのものではなく、参照抗体であるにとど 20 まる。本件発明には多種多様な抗体が含まれるところ、本件明細書では9C9 抗体や 3B6 抗体が「弱い中和物質」とされていること(【0138】)からもうかがわれるとお り、本件発明に含まれる抗体全てが参照抗体と同等の作用効果を有するわけではな い。このため、21B12 抗体とアリロクマブ(316P 抗体)の比較に基づきEGFa ミ ミック抗体の技術的意義を論じることの意義は乏しい。そもそも、本件メール及び 25 本件プレゼンテーション資料によれば、原告もEGFa ミミック抗体を探求していた 61 とみられるのであり、そのことからも、EGFa ミミック抗体には十分な技術的意義 があることがうかがわれる。 (ウ) さらに、原告は、被告がEGFa ミミック抗体と称するアリロクマブは、本件 優先日当時から用いられていた一般的な手法により、本件明細書に完全に依拠して 作成されたものであり、EGFa ミミック抗体が本件明細書の記載から取得できない 5 とはいえない旨をも主張する。 しかし、原告は、本件特許の出願日から約4 年後の2012 年(平成24 年)に至っ ても、EGFa ミミック抗体を取得できていないことを自認している上、EGFa ミミ ック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろうと述べており、この点のみを もってしても、EGFa ミミック抗体の ても、EGFa ミミック抗体を取得できていないことを自認している上、EGFa ミミ ック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろうと述べており、この点のみを もってしても、EGFa ミミック抗体の具体的な作製方法が本件明細書に記載されて 10 いるとはいい難く、また、本件優先日及び出願日当時の技術常識であったともいえ ない。被告が、EGFa ミミック抗体であるアリロクマブ(316P 抗体)の産生に当た り本件優先日前から用いられていた一般的な手法を用いていたとしても、「特定の マウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、候補となり得る抗 体を全て生成しスクリーニングすることは不可能」なものと考えられる以上(前記 15 イ)、そのことをもって、EGFa ミミック抗体を作製する具体的な方法が本件優先日 及び出願日当時の技術常識として確立していたことを示すものとはいえない。 さらに、証拠(甲8、乙35)及び弁論の全趣旨によれば、316P 抗体は、リジェ ネロンが取得した特許の特許請求の範囲に記載されたものであるところ、本件明細 書の公開(2009 年(平成21 年)2 月26 日)前であるその第1 基礎出願(出願日 20 2008 年(平成20 年)12 月15 日)において、試験された抗体の中で最も優れた結 合中和活性を示したものと記載されている。このような出願の経緯を踏まえれば、 316P 抗体が本件明細書に依拠して作成されたものとはいえず、他にこれを認める に足りる証拠もない。 (エ) その他原告が縷々主張する点を踏まえても、サポート要件及び実施可能要件 25 違反に関する原告の主張は採用できない。 62 (8) 小括 以上のとおり、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反し、特許法36 条6 項1 号及び同条4 項1 能要件 25 違反に関する原告の主張は採用できない。 62 (8) 小括 以上のとおり、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反し、特許法36 条6 項1 号及び同条4 項1 号所定の要件を満たしていない特許出願に対してされた ものであり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから(同法123 条1 項4 号)、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することができない(同法104 条 5 の3 第1 項)。 2 訂正の再抗弁の成否(争点2-1-2)について 原告は、訂正の再抗弁を主張する。 しかし、この再抗弁は、仮に本件無効理由1 及び2 があるとした場合(本件発明 に、参照抗体がPCSK9 と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、抗体がLDLR 10 のEGFa ドメインの位置とも異なる部位に結合し、参照抗体に軽微な立体的障害を もたらして、参照抗体のPCSK9 への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、 低下させる)もの等も含まれ得ることを理由として、本件特許がサポート要件違反 により無効にされるべきものである場合)を前提とするものである。本件特許は、 本件発明にはEGFa ミミック抗体が含まれると解されるところ、本件明細書に記載 15 された抗体の作製方法に関する記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明が、 本件発明に含まれるEGFa ミミック抗体を当業者が作製できるように記載されて いるということも、また、本件発明に含まれるEGFa ミミック抗体が本件明細書の 発明の詳細な説明に記載されているということもできないことにより、サポート要 件及び実施可能要件違反を理由として特許無効審判により無効にされるべきものと 20 考えられるものである。このため、本件発明からEGFa ミミック抗体が除外されな い限り上記無効理由が り、サポート要 件及び実施可能要件違反を理由として特許無効審判により無効にされるべきものと 20 考えられるものである。このため、本件発明からEGFa ミミック抗体が除外されな い限り上記無効理由が解消されることはないところ、原告の訂正の再抗弁が前提と する本件無効理由1 及び2 はこれとは異なるものであり、本件再訂正の内容を見て も、本件発明からEGFa ミミック抗体を除外するものとはいえない。 そもそも、被告製品に含まれるアリロクマブはEGFa ミミック抗体である。これ 25 が本件再訂正発明の技術的範囲に属するとする原告の主張の趣旨に鑑みると、本件 63 再訂正が本件発明からEGFa ミミック抗体を除外する趣旨とも理解し得ない。 したがって、本件再訂正によってはサポート要件違反(及び実施可能要件違反) の無効理由は解消されておらず、訂正の再抗弁は成り立たない。この点に関する原 告の主張は採用できない。 3 被告による無効理由の主張と信義則違反の有無(争点2-6)について 5 原告は、被告の親会社であるサノフィ社が、サポート要件違反及び実施可能要件 違反等を理由に、本件特許につき特許無効審判を請求したが、別件審決取消訴訟を 経て不成立審決が確定していることを踏まえ、特許法167 条の趣旨や前訴の存在に 照らせば、被告が本訴においてサポート要件及び実施可能要件違反の無効理由の主 張を行うこと自体紛争の蒸し返しであり、信義則に反して許されないと主張する。 10 しかし、本件において、被告は、EGFa ミミック抗体に係るサポート要件及び実 施可能要件違反の無効理由の主張に当たり、前訴及び別件審決取消訴訟では提出さ れなかった本件メール及び本件プレゼンテーション資料に主に依拠している。被告 又はサノフィ社において、これらの証拠を前訴又は別件審 能要件違反の無効理由の主張に当たり、前訴及び別件審決取消訴訟では提出さ れなかった本件メール及び本件プレゼンテーション資料に主に依拠している。被告 又はサノフィ社において、これらの証拠を前訴又は別件審決取消訴訟の事実審の口 頭弁論終結日以前に提出できたことをうかがわせる具体的な事情はないことに鑑み 15 ると、この点に関する被告の主張をもって信義則に反して許されないとまではいえ ない。この点に関する原告の主張は採用できない。 4 まとめ 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、 本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。 20 第4 結論 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決す る。 25 東京地方裁判所民事第47 部 64 裁判長裁判官 杉 浦 正 樹 5 裁判官 小 口 五 大 10 裁判官 15 久 野 雄 平 65 (別紙1) 物件目録 プラルエント®(英語名:Praluent®) 以上 5 66 (別紙2) 本件明細書の記載 1 発明の分野 本発明は、プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9) 5 に結合する抗原結合タンパク質並びに該抗原結合タンパク質を使用及び作製する方 法に関する。(【0002】) 2 背景技術 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PC K9) 5 に結合する抗原結合タンパク質並びに該抗原結合タンパク質を使用及び作製する方 法に関する。(【0002】) 2 背景技術 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9)は、低密度 リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与するセリンプロ 10 テアーゼである(Horton et al.、、2007;Seidah and Prat、、 2007)。インビトロ 実験は、HepG2 細胞へのPCSK9 の添加は細胞表面LDLR のレベルを低下させる ことを示している(Benjannet et al.、、 2004;Lagace et al.、、 2006;Maxwell et al.、、 2005;Park et al.、、 2004)。マウスを用いた実験は、PCSK9 タンパク質レ ベルを増加させることが肝臓中のLDLR タンパク質のレベルを減少させる 15 (Benjannet et al.、、 2004;Lagace et al.、、 2006;Maxwell et al.、、2005;Park et al.、、 2004)が、PCSK9 ノックアウトマウスは肝臓中のLDLR の増加したレベ ルを有する(Rashid et al.、、 2005)ことを示した。さらに、血漿LDL の増加又は 減少したレベルの何れかをもたらす様々なヒトPCSK9 変異が同定されている (Kotowski et al.、、 2006;Zhao et al.、、 2006)。PCSK9 は、LDLR タンパク質 20 と直接相互作用し、LDLR とともに細胞内に取り込まれ、エンドソーム経路全体を 通じてLDLR と同時に免疫蛍光を発する(Lagace et al.、、2006)ことが示されて いる。PCSK9 によるLDLR の し、LDLR とともに細胞内に取り込まれ、エンドソーム経路全体を 通じてLDLR と同時に免疫蛍光を発する(Lagace et al.、、2006)ことが示されて いる。PCSK9 によるLDLR の分解は観察されておらず、細胞外LDLR タンパク質 レベルを低下させる機序は不明である。(【0003】) 3 発明を実施するための形態 25 当業者によって理解されるように、本発明の開示に照らせば、PCSK9 とLDLR 67 の間の相互作用を変化させることは、LDL への結合に利用可能なLDLR の量を増 加させ、続いて、これは、対象中の血清LDL の量を減少させ、対象の血清コレステ ロールレベルの低下をもたらす。従って、PCSK9 に対する抗原結合タンパク質は、 上昇した血清コレステロールレベルを有する対象、上昇した血清コレステロールレ ベルのリスクを有する対象又は血清コレステロールレベルの低下が有益であり得る 5 対象を治療するための様々な方法及び組成物において使用することができる。従っ て、血清コレステロールの増加を低下させ、維持し、又は妨げるための様々な方法 及び技術も、本明細書中に記載されている。幾つかの実施形態において、抗原結合 タンパク質はPCSK9 とLDLR の間の結合を可能とするが、抗原結合タンパク質は LDLR に対するPCSK9 の有害な活性を妨げ、又は低下させる。幾つかの実施形態 10 において、抗原結合タンパク質は、LDLR へのPCSK9 の結合を妨げ、又は低下さ せる。(【0066】) 「PCSK9 活性」という用語は、PCSK9 のあらゆる生物学的効果を含む。ある種 の実施形態において、PCSK9 活性は、基質若しくは受容体と相互作用し、又は基質 若しくは受容体に結合するPCSK9 の能力を含む。幾つかの実施形態にお CSK9 のあらゆる生物学的効果を含む。ある種 の実施形態において、PCSK9 活性は、基質若しくは受容体と相互作用し、又は基質 若しくは受容体に結合するPCSK9 の能力を含む。幾つかの実施形態において、 15 PCSK9 活性は、LDL 受容体(LDLR)に結合するPCSK9 の能力によって表され る。幾つかの実施形態において、PCSK9 は、LDLR を含む反応に結合し、触媒す る。幾つかの実施形態において、PCSK9 活性は、LDLR の利用可能性を変化させ る(例えば、低下させる)PCSK9 の能力を含む。幾つかの実施形態において、PCSK9 活性は、対象中のLDL の量を増加させるPCSK9 の能力を含む。幾つかの実施形態 20 において、PCSK9 活性は、LDL への結合に利用可能なLDLR の量を減少させる PCSK9 の能力を含む。幾つかの実施形態において、「PCSK9 活性」は、PCSK9 シ グナル伝達から生じるあらゆる生物活性を含む。典型的な活性には、LDLR への PCSK9 の結合、LDLR 又は他のタンパク質を切断するPCSK9 酵素活性・・・が含 まれるが、これらに限定されない。(【0071】) 25 本明細書において使用される「抗原結合タンパク質」(「ABP」)は、特定された標 68 的抗原を結合するあらゆるタンパク質を意味する。本願において、特定された標的 抗原は、PCSK9 タンパク質又はその断片である。「抗原結合タンパク質」には、抗 体及びその結合部分(免疫学的に機能的な断片など)が含まれるが、これらに限定 されない。ペプチボディは、抗原結合タンパク質の別の例である。本明細書におい て使用される抗体又は免疫グロブリン鎖(重鎖又は軽鎖)抗原結合タンパク質の「免 5 疫学的に機能的な断片」(又は単に「断片」)という 。ペプチボディは、抗原結合タンパク質の別の例である。本明細書におい て使用される抗体又は免疫グロブリン鎖(重鎖又は軽鎖)抗原結合タンパク質の「免 5 疫学的に機能的な断片」(又は単に「断片」)という用語は、完全長の鎖中に存在す るアミノ酸の少なくとも幾つかを欠如するが、抗原になお特異的に結合することが できる抗体の部分(当該部分がどのようにして取得され、又は合成されたかを問わ ない。)を含む抗原結合タンパク質の種である。このような断片は、標的抗原に結合 し、あるエピトープへの結合に関して、完全な状態の抗体を含む他の抗原結合タン 10 パク質と競合し得るという点で生物学的に活性を有する。幾つかの実施形態におい て、断片は、中和断片である。幾つかの実施形態において、断片は、LDLR とPCSK9 の間の相互作用の可能性を遮断し、又は低下させることができる。一態様において、 このような断片は、完全長の軽鎖又は重鎖中に存在する少なくとも1 つのCDR を 保持し、幾つかの実施形態において、単一の重鎖及び/又は軽鎖又はその一部を含 15 む。・・・(【0109】) 「抗原結合領域」は、特定の抗原(例えば、パラトープ)を特異的に結合するタ ンパク質又はタンパク質の一部を意味する。例えば、抗原と相互作用し、抗原に対 するその特異性及び親和性を抗原結合タンパク質に対して付与するアミノ酸残基を 含有する抗原結合タンパク質のその部分は、「抗原結合領域」と称される。抗原結合 20 領域は、通例、1 つ又はそれ以上の「相補性結合領域」(「CDR」)を含む。ある種の 抗原結合領域は、1 つ又はそれ以上の「フレームワーク」領域も含む。「CDR」は、 抗原結合特異性及び親和性に寄与するアミノ酸配列である。「フレームワーク」領域 は、CDR の適切な立体構造の維持を補助して、抗原結合領域と抗原 はそれ以上の「フレームワーク」領域も含む。「CDR」は、 抗原結合特異性及び親和性に寄与するアミノ酸配列である。「フレームワーク」領域 は、CDR の適切な立体構造の維持を補助して、抗原結合領域と抗原の間の結合を促 進することができる。構造的には、フレームワーク領域は、抗体中においてCDR 間 25 に位置することができる。フレームワーク及びCDR 領域の例は、図2A から3D、 69 3CCC-JJJ 及び15A から15D に示されている。・・・(【0123】) 可変領域は、3 つの超可変領域(相補性決定領域又はCDR とも称される。)によ って連結された、相対的に保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般的構造 を典型的に呈する。各対の2 つの鎖から得られるCDR は、フレームワーク領域に よって通例並列され、これにより、特異的なエピトープへの結合が可能となり得る。 5 N 末端からC 末端へ、軽鎖及び重鎖可変領域は何れも、通例、ドメインFR1、CDR1、 FR2、CDR2、FR3、CDR3 及びFR4 を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当て は、通例、免疫学的に関心が持たれるタンパク質のKabat 配列の定義(National Institutes of Health、、Bethesda、、 Md.(1987 and 1991))、又は「Chothia & Lesk、、 J.Mol.Biol.、、 196:901-917 (1987);Chothia et al.、、 Nature、、 342: 10 878-883 (1989)」に従う。(【0127】) 「軽鎖」という用語は、完全長の軽鎖及び結合特異性を付与するのに十分な可変 領域配列を有するその断片を含む。完全長軽鎖は、可変領域ドメイン、V L 及び定 常領域ドメイン、C L (【0127】) 「軽鎖」という用語は、完全長の軽鎖及び結合特異性を付与するのに十分な可変 領域配列を有するその断片を含む。完全長軽鎖は、可変領域ドメイン、V L 及び定 常領域ドメイン、C L を含む。軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ 末端に位置する。軽鎖は、κ鎖及びλ鎖を含む。(【0132】) 15 「重鎖」という用語は、完全長の重鎖及び結合特異性を付与するのに十分な可変 領域配列を有するその断片を含む。完全長の重鎖は、可変領域ドメインV H 及び3 つの定常領域ドメインC H1、C H2 及びC H3 を含む。V H ドメインはポリペプチ ドのアミノ末端に、及びC H ドメインはカルボキシル末端に位置し、C H3 がポリ ペプチドのカルボキシ末端に最も近い。重鎖は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3 及びIgG4 20 サブタイプを含む。)、IgA(IgA1 及びIgA2 サブタイプを含む。)、IgM 及びIgE な どのあらゆるイソタイプのものであり得る。(【0133】) 「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」という用語は、リガンドに結合し、 そのリガンドの生物学的効果を妨げ、又は低下させる、それぞれ、抗原結合タンパ ク質又は抗体を表す。これは、例えば、リガンド上の結合部位を直接封鎖すること 25 によって、又はリガンドに結合し、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネル 70 ギー的変化など)を通じて、リガンドの結合能を変化させることによって行うこと ができる。幾つかの実施形態において、この用語は、それが結合しているタンパク 質が生物学的機能を発揮するのを妨げる抗原結合タンパク質も表し得る。抗原結合 タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的なその断片)の結合及び/又は特 異性を評価する際に、抗体の過剰が(インビト パク 質が生物学的機能を発揮するのを妨げる抗原結合タンパク質も表し得る。抗原結合 タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的なその断片)の結合及び/又は特 異性を評価する際に、抗体の過剰が(インビトロ競合的結合アッセイで使用された 5 場合に)少なくとも約1 から20、20 から30%、30 から40%、40 から50%、50 か ら60%、60 から70%、70 から80%、80 から85%、85 から90%、90 から95%、 95 から97%、97 から98%、98 から99%又はそれ以上、リガンドに結合された結 合対の量を低下させるときに、抗体又は断片はその結合対へのリガンドの結合を大 幅に阻害することができる。・・・幾つかの実施形態において、PCSK9 抗原結合タ 10 ンパク質の場合には、このような中和分子は、PCSK9 がLDLR を結合する能力を 低減させることができる。幾つかの実施形態において、競合アッセイを介して、中 和能力を性質決定し、及び/又は記載する。・・・幾つかの実施形態において、 ABP27B2、13H1、13B5 及び3C4 は、非中和ABP であり、3B6、9C9 及び31A4 は弱い中和物質であり、表2 中の残りのABP は強い中和物質である。幾つかの実 15 施形態において、抗体又は抗原結合タンパク質は、PCSK9 へ結合し、PCSK9 が LDLR に結合するのを妨げる(又はPCSK9 がLDLR に結合する能力を低下させ る)ことによって中和する。幾つかの実施形態において、抗体又はABP は、PCSK9 に結合し、PCSK9 をLDLR へ結合させながら、LDLR のPCSK9 媒介性分解を妨 げ、又は低下させることによって中和する。・・・(【0138】) 20 同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば LDLR へ結合させながら、LDLR のPCSK9 媒介性分解を妨 げ、又は低下させることによって中和する。・・・(【0138】) 20 同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば、中和抗原結合タ ンパク質又は中和抗体)という文脈において使用される場合の「競合する」という 用語は、検査されている抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は免疫学的に機能的 なその断片)が共通の抗原(例えば、PCSK9 又はその断片)への参照抗原結合タン パク質(例えば、リガンド又は参照抗体)の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例 25 えば、低下させる)アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意 71 味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを 決定するために、競合的結合アッセイの多数の種類、例えば、固相直接又は間接ラ ジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンド イッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al、、 1983、、 Methods in Enzymology 9: 242-253 参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al、、 5 1986、、 J.Immunol.137:3614-3619 参照)、・・・固相直接ビオチン-アビジン EIA(例えば、Cheung、、 et al.、、 1990、、 Virology 176:546-552 参照)・・・ を使用することができる。典型的には、このようなアッセイは、これらの何れかを 有する固体表面又はセルに結合された精製抗原、標識されていない検査抗原結合タ ンパク質及び標識された基準抗原結合タンパク質を使用することを含む。競合的阻 10 害は、検査抗原結合タンパク質の存在下で、固体 る固体表面又はセルに結合された精製抗原、標識されていない検査抗原結合タ ンパク質及び標識された基準抗原結合タンパク質を使用することを含む。競合的阻 10 害は、検査抗原結合タンパク質の存在下で、固体表面又はセルに結合された標識の 量を測定することによって測定される。通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存 在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タン パク質)には、基準抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タン パク質及び立体的妨害が生じるのに、基準抗原結合タンパク質によって結合される 15 エピトープに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含ま れる。・・・(【0140】) 「エピトープ」という用語は、抗体又はT 細胞受容体などの抗原結合タンパク質 によって結合され得るあらゆる決定基を含む。エピトープは、その抗原を標的とす る抗原結合タンパク質によって結合される抗原の領域であり、抗原がタンパク質で 20 ある場合、抗原結合タンパク質に直接接触する特定のアミノ酸を含む。最も頻繁に は、エピトープはタンパク質上に存在するが、幾つかの事例では、核酸などの分子 の他の種類上に存在することができる。エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、 ホスホリル又はスルホニル基などの分子の化学的に活性な表面基を含むことができ、 特異的な三次元構造の特徴及び/又は特異的な電荷的特長を有することができる。 25 一般に、特定の標的抗原に対して特異的な抗体は、タンパク質及び/又は高分子の 72 複雑な混合物中において、標的抗原上のエピトープを優先的に認識する。 (【0142】) PCSK9 に対する抗原結合タンパク質 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9)は、低密度 リポタンパク質 抗原上のエピトープを優先的に認識する。 (【0142】) PCSK9 に対する抗原結合タンパク質 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9 型(PCSK9)は、低密度 リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの制御に関与しているセリン プロテアーゼである(Horton et al、、 2007;Seidah and Prat、、 2007)。PCSK9 5 は、セリンプロテアーゼのスブチリシン(S8)ファミリーのプロホルモン-プロタ ンパク質コンベルターゼである(Seidah et al.、、2003)。・・・PCSK9 タンパク質 の構造は、2 つのグループによって最近解決された・・・。PCSK9 は、シグナル配 列、N 末端プロドメイン、スブチリシン様触媒ドメイン及びC 末端ドメインを含む。 (【0154】) 10 ヒトPCSK9 を含むPCSK9 を結合する抗原結合タンパク質(ABP)は、本明細 書中に記載されている。幾つかの実施形態において、提供される抗原結合タンパク 質は、本明細書に記載されているように、1 つ又はそれ以上の相補性決定領域(CDR) を含むポリペプチドである。同じ抗原結合タンパク質において、CDR は、CDR の 適切な抗原結合特性が達成されるようにCDR を方向付ける「フレームワーク」領 15 域中に包埋されている。幾つかの実施形態において、本明細書中に提供されている 抗原結合タンパク質は、PCSK9 とLDLR 間の相互作用を妨害し、遮断し、低下さ せ、又は調節することができる。このような抗原結合タンパク質は、「中和」と表さ れる。幾つかの実施形態において、抗原結合タンパク質が中和性であり、PCSK9 に 結合されている場合でさえ、PCSK9 とLDLR 間の結合はなお起こり得る。例えば、 20 幾つかの 「中和」と表さ れる。幾つかの実施形態において、抗原結合タンパク質が中和性であり、PCSK9 に 結合されている場合でさえ、PCSK9 とLDLR 間の結合はなお起こり得る。例えば、 20 幾つかの実施形態において、ABP は、PCSK9 上のLDLR 結合部位を封鎖すること なく、LDLR に対するPCSK9 の悪影響を妨げ、又は低下させる。従って、幾つか の実施形態において、ABP は、PCSK9 とLDLR 間の結合相互作用を抑制する必要 なしに、LDLR の分解をもたらすPCSK9 の能力を調節し、又は変化させる。この ようなABP は、「非競合的に中和する」ABP と特に記載することができる。幾つか 25 の実施形態において、中和ABP は、PCSK9 がLDLR に結合するのを妨げる位置及 73 び/又は様式で、PCSK9 に結合する。このようなABP は、「競合的に中和する」 ABP と特に記載することができる。上記中和物質は何れも、対象中に存在している 遊離のLDLR のより大きな量をもたらすことができ、これにより、LDL に結合し ているより多くのLDLR がもたらされる(これにより、対象中のLDL の量を低下 させる。)。続いて、これは、対象中に存在する血清コレステロールの量の低下をも 5 たらす。(【0155】) 提供されている抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域の幾つかの具体例及びそれらの対 応するアミノ酸配列は表2 中に要約されている。(【0170】) 【表2】(【0171】) 10 同じく、表2 に列記されている典型的な可変重鎖の各々は、抗体を形成するため 74 に、表2 に示されている典型的な可変軽鎖の何れとも組み合わせることができる。 表2 は、本明細書中に開示されている抗体の幾つかの中に見出される典型的な 重鎖の各々は、抗体を形成するため 74 に、表2 に示されている典型的な可変軽鎖の何れとも組み合わせることができる。 表2 は、本明細書中に開示されている抗体の幾つかの中に見出される典型的な軽鎖 及び重鎖の対を示している。・・・(【0172】) ・・・幾つかの実施形態において、ABP はABP21B12 と競合する。(【0261】) ・・・幾つかの実施形態において、ABP はABP31H4 と競合する。(【0262】) 5 幾つかの実施形態において、ABP21B12 は、残基162 から167(例えば、配列番 号1 の残基D162-E167)を含むエピトープに結合する。・・・(【0268】) 競合する抗原結合タンパク質 別の態様において、PCSK9 への特異的結合に関して、本明細書中に記載されてい るエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の1 つと競合する抗原結合 10 タンパク質が提供される。このような抗原結合タンパク質は、本明細書中に例示さ れている抗原結合タンパク質の1 つと同じエピトープ又は重複するエピトープにも 結合し得る。例示された抗原結合タンパク質と同じエピトープと競合し、又は結合 する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的特性を示すと予想される。例示 された抗原結合タンパク質及び断片は、重鎖及び軽鎖可変領域ドメイン並びに表2 15 及び/又は図2 から3 及び15 に含まれるCDR を有するものなど、上述されてい るものを含む。従って、具体例として、提供される抗原結合タンパク質には、 (a)図2 から3 及び15 に列記されている抗体に対して列記されているCDR の 6 つ全て; (b)表2 中に列記されている抗体に対して列記されているVH 及びVL;又は 20 (c)表2 に列記されている抗体 15 に列記されている抗体に対して列記されているCDR の 6 つ全て; (b)表2 中に列記されている抗体に対して列記されているVH 及びVL;又は 20 (c)表2 に列記されている抗体に対して明記されている2 つの軽鎖及び2 つの 重鎖 を有する抗体又は抗原結合タンパク質と競合するものが含まれる。(【0269】) ある種の治療的用途及び医薬組成物 ある種の事例において、PCSK9 活性は、多数のヒトの病状と相関する。例えば、 25 ある種の事例において、高すぎる又は低すぎるPCSK9 活性は、高コレステロール 75 血症などのある種の症状と相関する。従って、ある種の事例において、PCSK9 活性 を調節することは治療的に有用であり得る。ある種の実施形態において、PCSK9 に 対する中和的抗原結合タンパク質は、少なくとも1 つのPCSK9 活性(例えば、 LDLR への結合)を調節するために使用される。このような方法は、上昇した血清 コレステロールレベルと関連する、又は上昇したコレステロールレベルが関連する 5 疾患を治療し、及び/又は予防し、及び/又は疾患のリスクを低減することができ る。(【0270】) 当業者によって理解されるように、本開示に照らして、変動したコレステロール、 LDL 又はLDLR レベルと関連し、変動したコレステロール、LDL 又はLDLR レベ ルを伴い、又は変動したコレステロール、LDL 又はLDLR レベルによって影響を 10 受け得る疾患は、抗原結合タンパク質の様々な実施形態によって対処することがで きる。幾つかの実施形態において、(「血清コレステロール関連疾患」を含む)「コレ ステロール関連疾患」には、例えば、上昇した総血清コレステロール、上昇したLDL、 上昇したトリグリセリド、上昇したVL きる。幾つかの実施形態において、(「血清コレステロール関連疾患」を含む)「コレ ステロール関連疾患」には、例えば、上昇した総血清コレステロール、上昇したLDL、 上昇したトリグリセリド、上昇したVLDL 及び/又は低HDL を呈し得る以下のも の:高コレステロール血症、心臓病、メタボリックシンドローム、糖尿病、冠状動 15 脈性心臓病、卒中、心血管疾患、アルツハイマー病及び脂質異常症全般の何れか1 つ又はそれ以上が含まれる。・・・(【0271】) 幾つかの実施形態において、PCSK9 に対する抗原結合タンパク質は、異常に高い レベル又は正常なレベルからPCSK9 活性の量を減少させるために使用される。幾 つかの実施形態において、PCSK9 に対する抗原結合タンパク質は、高コレステロー 20 ル血症を治療若しくは予防するために、並びに/又は高コレステロール血症及び/ 若しくは他のコレステロール関連疾患(本明細書中に記載されているものなど)に 対する医薬の調製において使用される。ある種の実施形態において、PCSK9 に対す る抗原結合タンパク質は、PCSK9 活性が正常である高コレステロール血症などの 症状を治療又は予防するために使用される。このような症状において、例えば、正 25 常を下回るPCSK9 活性の低下は、治療効果を提供することができる。(【0276】) 76 (実施例1) 免疫化及び力価測定 抗PCKS9 抗体及びハイブリドーマの作製 PCSK9 の成熟形態に対する抗体(図1A 中の配列として図示されており、プロド メインに下線が付されている。)を、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有するマウスで 5 あるXenoMouse(R)マウス(Abgenix、、 Fremont、、 CA)中で作製した。PCSK9 に対する抗体を作製する 付されている。)を、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有するマウスで 5 あるXenoMouse(R)マウス(Abgenix、、 Fremont、、 CA)中で作製した。PCSK9 に対する抗体を作製するために、XenoMouse(R)マウスの2 つのグループ(グル ープ1 及び2)を使用した。グループ1 は、完全ヒトIgG2κ及びIgG2λ抗体を産 生するXenoMouse(R)系統XMG2-KL のマウスを含んだ。グループ1 のマウス を、ヒトPCSK9 で免疫化した。GenBank 配列を参照として(NM174936)を使用 10 する標準的組換え技術を用いて、PCSK9 を調製した。グループ2 は、完全ヒトIgG4 κ及びIgG4λ抗体を産生するXenoMouse(R)系統XMG4-KL のマウスを含ん だ。グループ2 のマウスも、ヒトPCSK9 で免疫化した。(【0312】) 表3 中のスケジュールに従って、両グループのマウスに抗原を11 回注射した。 最初の免疫化において、腹部中に腹腔内送達された抗原計10µg を各マウスに注射 15 した。その後の強化免疫は5µg の用量であり、注射法は、腹部内への腹腔内注射と 尾の基部への皮下注射間でずらされる。腹腔内注射のために、TiterMax(R)Gold (Sigma、、 Cat # T2684)を加えたエマルジョンとして抗原を調製し、皮下注射 のために、抗原をAlum(リン酸アルミニウム)及びCpG オリゴと混合する。注射 2 から8 及び10 において、アジュバントalum ゲル中の抗原計5µg を各マウスに 20 注射した。マウス当り抗原5µg の最終注射をリン酸緩衝化された生理的食塩水中に 送達し、2 つの部位に送達する(腹部内へ50%腹腔内及び尾の基部に50%皮下)。 免疫化プログラムは、以下に示され 0 注射した。マウス当り抗原5µg の最終注射をリン酸緩衝化された生理的食塩水中に 送達し、2 つの部位に送達する(腹部内へ50%腹腔内及び尾の基部に50%皮下)。 免疫化プログラムは、以下に示されている表3 中に要約されている。(【0313】) 【表3】(【0314】) 77 ヒトPCSK9 に対する抗体の力価は、記載されている可溶性抗原を用いて免疫化 されたマウスに対するELISA アッセイによって検査した。表4 は、ELISA データ を要約し、PCSK9 に対して特異的であるように見受けられる幾つかのマウスが存 在したことを示す。例えば、表4 を参照されたい。従って、免疫化プログラムの終 5 78 わりに、10 匹のマウス(表4 中の太字)を採集のために選択し、本明細書中に記載 されているように、それぞれ、脾臓及びリンパ節から脾細胞及びリンパ球を単離し た。(【0320】) 【表4】(【0321】) 5 (実施例2) リンパ球の回収、B 細胞の単離、融合及びハイブリドーマの作製 この実施例は、免疫細胞がどのようにして回収され、ハイブリドーマがどのよう にして作製されたかについて概説する。選択された免疫化マウスを頚椎脱臼によっ て屠殺し、各コホートから流入領域リンパ節を採集し、プールした。細胞を組織か 10 ら放出させるために、DMEM 中で磨り潰すことによって、リンパ系組織からB 細 79 胞を解離させ、細胞をDMEM 中に懸濁した。細胞を計数し、穏やかに、但し、完 全に細胞を再懸濁させるために、1 億のリンパ球当りDMEM0.9mL を細胞沈降物 に添加した。(【0322】) 1:4 の比で、リンパ球をATCC、cat.#CR11580 から購入した非分泌性骨髄腫 P3X63Ag8.653 億のリンパ球当りDMEM0.9mL を細胞沈降物 に添加した。(【0322】) 1:4 の比で、リンパ球をATCC、cat.#CR11580 から購入した非分泌性骨髄腫 P3X63Ag8.653 細胞(Kearney et al.、、(1979)J.Immunol.123、、1548-1550)と 5 混合した。400×g で、4 分の遠心によって、細胞混合物を穏やかに沈降させた。容 器を傾けて上清を除去した後、1mL ピペットを用いて、細胞を穏やかに混合した。 1 分にわたって、穏やかに撹拌しながら、Sigma(cat#P7306)から得た事前加熱 されたPEG/DMSO 溶液(B 細胞100 万個当り1mL)をゆっくり添加した後、1 分間混合した。次いで、穏やかに撹拌しながら、2 分にわたって、事前加熱された 10 IDMEM(B 細胞100 万個当り2mL)(グルタミン、L-グルタミン、ペニシリン/ ストレプトマイシン、MEM 非必須アミノ酸なしのDMEM)(全て、Invitrogen か ら得た)を添加した。最後に、3 分にわたって、事前加熱されたIDMEM(10 の6 乗個のB 細胞当り8mL)を添加した。(【0323】) 400×g で6 分、融合された細胞を遠心沈降させ、100 万個のB 細胞当り選択培 15 地20mL(L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM 非必須アミノ 酸、ピルビン酸ナトリウム、2-メルカプトエタノール(全て、Invitrogen から入 手)、HA-アザセリンヒポキサンチン及びOPI(オキサロアセタート、ピルバート、 ウシインシュリン) (何れも、Sigma から入手)及びIL-6(Boeringer Mannheim) が補充された、DMEM(Invitrogen)、15%FBS(Hyclone)中に再懸 ート、 ウシインシュリン) (何れも、Sigma から入手)及びIL-6(Boeringer Mannheim) が補充された、DMEM(Invitrogen)、15%FBS(Hyclone)中に再懸濁した。37℃ 20 で20 から30 分間、細胞を温置し、次いで、選択培地200mL 中に再懸濁し、96 ウ ェルへの播種の前に、T175 フラスコ中で3 から4 日間培養した。このようにして、 PCSK9 に対する抗原結合タンパク質を産生するハイブリドーマを作製した。 (【0324】) (実施例3) 25 PCSK9 抗体の選択 80 本実施例は、様々なPCSK9 抗原結合タンパク質をどのようにして性質決定し、 選択したかについて概説する。(実施例1 及び2 で産生されたハイブリドーマから 産生された)分泌された抗体のPCSK9 への結合を評価した。抗体の選択は、結合 データ及びLDLR へのPCSK9 の結合の阻害及び親和性を基礎とした。以下に記載 されているように、ELISA によって、可溶性PCSK9 への結合を分析した。結合親 5 和性を定量するために、BIAcore(R)(表面プラズモン共鳴)を使用した。 (【0325】) 一次スクリーニング 野生型PCSK9 に結合する抗体に対する一次スクリーニングを行った。2 つの採 集物に対して、一次スクリーニングを行った。一次スクリーニングは、ELISA アッ 10 セイを含み、以下のプロトコールを用いて行った。(【0326】) Costar37-2 培地結合384 ウェルプレート(Corning Life Sciences)を使用した。 40µL/ウェルの容量で、1×PBS/0.05%アジ化物中、4µg/mL の濃度のニュート ラビジンでプレートを被覆した。4℃で一晩、プレート Corning Life Sciences)を使用した。 40µL/ウェルの容量で、1×PBS/0.05%アジ化物中、4µg/mL の濃度のニュート ラビジンでプレートを被覆した。4℃で一晩、プレートを温置した。次いで、Titertek プレート洗浄装置(Titertek、、Huntsville、、AL)を用いて、プレートを洗浄した。 15 3 サイクルの洗浄を行った。1×PBS/1%ミルク90µL でプレートをブロックし、 室温で約30 分間温置した。次いで、プレートを洗浄した。再度、3 サイクルの洗浄 を行った。捕捉試料は、V5 タグを持たないビオチン化合されたPCSK9 であり、 40µL/ウェルの容量で、1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中に0.9µg/mL で添 加した。次いで、プレートを室温で1 時間温置した。次に、3 サイクル洗浄を用い 20 て作動されるTitertek プレート洗浄装置を用いて、プレートを洗浄した。1×PBS /1%ミルク/10mMCa2+40µL 中に、上清10µL を移し、室温で1.5 時間温置し た。再度、3 サイクル洗浄を用いて作動されるTitertek プレート洗浄装置を用いて、 プレートを洗浄した。1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中、100ng/mL(1:4000) の濃度のヤギ抗ヒトIgGFcPOD40µL/ウェルをプレートに添加し、室温で1 時間 25 温置した。3 サイクル洗浄を用いて、プレートをもう一度洗浄した。最後に、1 工程 81 TMB(Neogen、、 Lexington、、 Kentucky)の40µL/ウェルをプレートに添加し、 室温で30 分後に、1N 塩酸の40µL/ウェルを用いて消光を行った。Titertek プレ ートリーダーを用いて、450nm でOD を直ちに読み取っ cky)の40µL/ウェルをプレートに添加し、 室温で30 分後に、1N 塩酸の40µL/ウェルを用いて消光を行った。Titertek プレ ートリーダーを用いて、450nm でOD を直ちに読み取った。(【0327】) 一次スクリーニングによって、2 つの採集物から同定された合計3104 の抗原特 異的ハイブリドーマが得られた。最高のELISAOD に基づいて、合計3000 の陽性 5 に対して、採集物当り1500 のハイブリドーマをさらなる操作に用いた。(【0328】) 確認用スクリーニング 次いで、安定なハイブリドーマが確立されたことを確認するために、野生型 PCSK9 への結合に関して、3000 の陽性を再スクリーニングした。・・・合計2441 の陽性を、第二のスクリーニングで反復した。次いで、その後のスクリーニングに 10 おいて、これらの抗体を使用した。(【0329】) マウス交叉反応スクリーニング 次いで、抗体がヒト及びマウスPCSK9 の両方に結合できることを確認するため に、マウスPCSK9 に対する交叉反応性に関して、ハイブリドーマのパネルをスク リーニングした。・・・579 抗体は、マウスPCSK9 と交叉反応することが観察され 15 た。次いで、その後のスクリーニングにおいて、これらの抗体を使用した。 (【0330】) D374Y 変異体結合スクリーニング PCSK9 中のD374Y 変異は、ヒト集団中において文献に記載されている(例えば、 Timms KM et al 、、“ A mutation in PCSK9 causing autosomal -dominant 20 hypercholesterolemia in a Utah pedigree”、、 Hum.Genet.114:349-353、、2 causing autosomal -dominant 20 hypercholesterolemia in a Utah pedigree”、、 Hum.Genet.114:349-353、、2004)。 抗体が野生型に対して特異的であり、又はPCSK9 のD374Y 形態に結合されてい るかどうかを測定するために、次いで、変異D374Y を含む変異体PCSK9 配列への 結合に関して、試料をスクリーニングした。・・・野生型PCSK9 に対する陽性ヒッ トの96%以上が、変異体PCSK9 も結合した。(【0331】) 25 大規模受容体リガンド遮断スクリーニング 82 LDLR へのPCSK9 結合を遮断する抗体をスクリーニングするために、 D374YPCSK9 変異体を用いたアッセイを開発した。LDLR に対してより高い結合 親和性を有するので、このアッセイに対して変異体を使用し、より感度が高い受容 体リガンド遮断アッセイの開発を可能とした。受容体リガンド遮断スクリーニング では、以下のプロトコールを使用した。スクリーニングでは、Costar3702 培地結合 5 384 ウェルプレート(Corning Life Sciences)を使用した。40µL/ウェルの容量で、 1×PBS/0.05%アジ化物中、2µg/mL のヤギ抗LDLR(R&DCat#AF2148)でプ レートを被覆した。4℃で一晩、プレートを温置した。次いで、Titertek プレート洗 浄装置(Titertek、、Huntsville、、AL)を用いて、プレートを洗浄した。3 サイク ルの洗浄を行った。1×PBS/1%ミルク90µL でプレートをブロックし、室温で約 10 30 分間温置した。次いで、Titertek プレート洗浄装置を用いてプレートを洗浄した。 3 サイク イク ルの洗浄を行った。1×PBS/1%ミルク90µL でプレートをブロックし、室温で約 10 30 分間温置した。次いで、Titertek プレート洗浄装置を用いてプレートを洗浄した。 3 サイクルの洗浄を行った。捕捉試料は、LDLR(R&D、Cat#2148LD/CF)で あり、40µL/ウェルの容量で、1×PBS/1%ミルク/10mMCa2+中に0.4µg/mL で添加した。次いで、プレートを室温で1 時間10 分間温置した。同時に、Nunc ポ リプロピレンプレート中のハイブリドーマ枯渇上清15µL とともに、ビオチン化さ 15 れたヒトD374YPCSK9 の20ng/mL を温置し、枯渇上清濃度を1:5 希釈した。 次いで、プレートを室温で約1 時間30 分間事前温置した。次に、3 サイクル洗浄を 用いて作動されるTitertek プレート洗浄装置を用いて、プレートを洗浄した。事前 温置された混合物50µL/ウェルを、LDLR で被覆されたELISA プレート上に移 し、室温で1 時間温置した。LDLR に結合されたb-PCSK9 を検出するために、ア 20 ッセイ希釈液中の500ng/mL のストレプトアビジンHRP40µL/ウェルをプレー トに添加した。プレートを室温で1 時間温置した。再度、Titertek プレート洗浄装 置を用いてプレートを洗浄した。3 サイクルの洗浄を行った。最後に、1 工程TMB (Neogen、、 Lexington、、 Kentucky)の40µL/ウェルをプレートに添加し、室 温で30 分後に、1N 塩酸の40µL/ウェルを用いて消光した。Titertek プレートリ 25 ーダーを用いて、450nm でOD を直ちに読み取った。スクリーニングによって、 83 PCSK9 とLDLR ウェル間での相互作用を遮 用いて消光した。Titertek プレートリ 25 ーダーを用いて、450nm でOD を直ちに読み取った。スクリーニングによって、 83 PCSK9 とLDLR ウェル間での相互作用を遮断する384 の抗体が同定され、100 の 抗体は相互作用を強く遮断した(OD<0.3)。これらの抗体は、PCSK9 とLDLR の 結合相互作用を90%超阻害した(90%超の阻害)。(【0332】) 遮断物質のサブセットに対する受容体リガンド結合アッセイ 次いで、第一の大規模受容体リガンド阻害アッセイにおいて同定された中和物質 5 の384 にサブセットに対して、変異体酵素を用いて受容体リガンドアッセイを反復 した。384 の遮断物質サブセットアッセイのスクリーニングでは、大規模受容体リ ガンド遮断スクリーニングにおいて行われたものと同じプロトコールを使用した。 この反復スクリーニングによって、最初のスクリーニングデータが確認された。 (【0333】) 10 この384 メンバーのサブセットのスクリーニングによって、90%を超えて、 PCSK9 変異体酵素とLDLR 間の相互作用を遮断する85 の抗体が同定された。 (【0334】) 野生型PCSK9 を結合するが、D374Y 変異体を結合しない遮断物質の受容体リガ ンド結合アッセイ3000 の上清の当初パネル中には、野生型PCSK9 に特異的に結 15 合するが、huPCSK9(D374Y)変異体に結合しないことが示された86 の抗体が存 在していた。LDLR 受容体への野生型PCSK9 の結合を遮断する能力に関して、こ れらの86 の上清を検査した。・・・(【0335】) スクリーニングの結果 記載されているアッセイの結果に基づいて、PCSK9 との所望の相互作用を有す 20 る抗体を産生す 力に関して、こ れらの86 の上清を検査した。・・・(【0335】) スクリーニングの結果 記載されているアッセイの結果に基づいて、PCSK9 との所望の相互作用を有す 20 る抗体を産生するとして、幾つかのハイブリドーマ株が同定された。各株からクロ ーンの管理可能な数を単離するために、限外希釈を使用した。ハイブリドーマ株の 数字(例えば、21B12)及びクローン数(例えば、21B12.1)によって、クローンを 表記した。一般に、特定の株の異なるクローン間の差は、本明細書中に記載されて いる機能的アッセイによって検出された。2、3 の事例では、機能的アッセイにおい 25 て異なる挙動を示した特定の株からクローンが同定された。例えば、25A7.1 は 84 PCSK9/LDLR を遮断しないが、25A7.3(本明細書において、25A7 と称される。) は中和性であることが見出された。単離されたクローンを、ハイブリドーマ溶媒50 から100mL 中でそれぞれ増殖させ、枯渇するまで増殖させた(すなわち、約10% 未満の細胞生存率)。これらの培養物の上清中でのPCSK9 に対する抗体の濃度及び 効力を、本明細書中に記載されているようなELISA によって、及びインビトロ機 5 能的検査によって測定した。本明細書に記載されているスクリーニングの結果とし て、PCSK9 に対する抗体の最も高い力価を有するハイブリドーマを同定した。図 2A から3D 及び表2 中に、選択されたハイブリドーマが示されている。(【0336】) (実施例10) エピトープビニング 10 抗PCSK9 抗体のビニングのために、競合ELISA を使用した。要約すれば、2 つ の抗体が同じエピトープのビンに属するかどうかを決定するために、一晩の温置に よって、2µg/mL で、 10 抗PCSK9 抗体のビニングのために、競合ELISA を使用した。要約すれば、2 つ の抗体が同じエピトープのビンに属するかどうかを決定するために、一晩の温置に よって、2µg/mL で、ELISA プレート(NUNC)上に、まず抗体(mAb1)の1 つ を被覆した。次いで、プレートを洗浄し、3%BSA でブロックした。一方、ビオチン 化されたhPCSK9 の30ng/mL を、室温で2 時間、第二の抗体(mAb2)とともに 15 温置した。混合物を被覆されたmAb1 に適用し、室温で1 時間温置した。次いで、 ELISA プレートを洗浄し、1:5000 の希釈で1 時間、Neutravidin-HRP(Pierce) とともに温置した。さらなる洗浄後、TMB 基質とともにプレートを温置し、Titertek プレートリーダーを用いて、シグナルを650nm で検出した。同じ結合特性を有す る抗体を、同じエピトープビンの中にグループ分けした。抗体ビニング研究の結果 20 が、表8.3 に示されている。(【0373】) 25 85 【表11】(【0374】) (実施例11) D374YPCSK9/LDLR 結合を遮断する31H4 及び21B12 の効果 本実施例は、PCSK9D374Y がLDLR に結合する能力を遮断する上での、抗体の 5 2 つに対するIC50値を提供する。緩衝液A(100mM カコジル酸ナトリウム、pH7.4) 中に希釈されたヤギ抗LDL 受容体抗体(R&D Systems)2µg/mL で、透明な384 ウェルプレート(Costar)を被覆した。緩衝液A でプレートを完全に洗浄した後、 緩衝液B(緩衝液A 中の1%ミルク)で2 時間ブロックした。洗浄後、緩衝液C (10mMCaCl2 が 透明な384 ウェルプレート(Costar)を被覆した。緩衝液A でプレートを完全に洗浄した後、 緩衝液B(緩衝液A 中の1%ミルク)で2 時間ブロックした。洗浄後、緩衝液C (10mMCaCl2 が補充された緩衝液B)中に希釈されたLDL 受容体(R&DSystems) 10 86 0.4µg/mL とともに、プレートを1.5 時間温置した。この温置と同時に、緩衝液A 中に希釈された31H4IgG2、31H4IgG4、21B12IgG2 又は21B12IgG4 抗体の様々 な濃度又は緩衝液A のみ(対照)とともに、ビオチン化されたD374YPCSK9 の 20ng/mL を温置した。LDL 受容体を含有するプレートを洗浄し、ビオチン化され たD374YPCSK9/抗体混合物をプレートに移し、室温で1 時間温置した。LDL 受 5 容体へのビオチン化されたD374Y の結合は、緩衝液C 中の500ng/mL のストレ プトアビジン-HRP(Biosource)とともに、次いで、TMB 基質(KPL)とともに 温置することによって検出した。1NHCl を用いてシグナルを消光し、450nm で吸 光度を読み取った。(【0377】) この結合研究の結果が、図6A から6D に示されている。要約すると、各抗体に 10 対してIC50値を測定し、31H4IgG2 に対して199pM(図6A)、31H4IgG4 に対して 156pM(図6B)、21B12IgG2 に対して170pM(図6C)及び21B12IgG4 に対して 169pM(図6D)であることが見出された。(【0378】) 抗体は、このアッセイにおいて、LDLR への野生型PCSK9 の結合も遮断した。 (【0379】) 15 (実施例12) 細胞LDL 取り込みアッセイ 本実施例は、様 【0378】) 抗体は、このアッセイにおいて、LDLR への野生型PCSK9 の結合も遮断した。 (【0379】) 15 (実施例12) 細胞LDL 取り込みアッセイ 本実施例は、様々な抗原結合タンパク質が細胞によるLDL の取り込みを低下さ せ得ることを示す。・・・(【0380】) 細胞取り込みアッセイの結果が、図7A から7D に示されている。要約すると、 20 各抗体に対してIC50 値を測定し、31H4IgG2 に対して16.7nM(図7A)、31H4IgG4 に対して13.3nM(図7B)、21B12IgG2 に対して13.3nM(図7C)及び21B12IgG4 に対して18nM(図7D)であることが見出された。これらの結果は、適用された抗 原結合タンパク質がPCSK9(D374Y)の効果を低下させて、細胞によるLDL の取 り込みを遮断できることを示している。抗体は、このアッセイにおいて、野生型 25 PCSK9 の効果も遮断した。(【0381】) 87 (実施例13) 6 日の研究における31H4 抗体の血清コレステロール低下効果 PCSK9 タンパク質に対する抗体治療を介した野生型(WT)マウスにおける総血 清コレステロール(TC)低下を評価するために、以下の手順を行った。 (【0382】) 5 Jackson Laboratory(Bar Harbor、、ME)から得られた雄のWT マウス(C57BL /6 系統、9 から10 週齢、17-27g)には、実験の期間を通じて、通常の食餌(Harland -Teklad、、 Diet2918)を与えた。t=0 において、マウスの尾静脈を通じて、10mg /kg のレベルで、抗PCSK9 抗体31H4(PBS 中の2mg/mL)又は対照IgG(PBS 中2m eklad、、 Diet2918)を与えた。t=0 において、マウスの尾静脈を通じて、10mg /kg のレベルで、抗PCSK9 抗体31H4(PBS 中の2mg/mL)又は対照IgG(PBS 中2mg/mL)の何れかをマウスに投与した。ナイーブマウスも、ナイーブ対照群 10 として別に分けた。投薬群及び屠殺の時間が、表9 に示されている。(【0383】) 【表12】(【0384】) 表9 に示されている所定の時点でのCO2 窒息を用いて、マウスを屠殺した。大 静脈を介して、エッペンドルフチューブの中に血液を集め、室温で30 分間凝固さ 15 せた。次いで、血清を分離するために、10 分間、12、、000×g での卓上遠心機中で、 試料を遠心沈降させた。Hitachi912 臨床分析装置及びRoche/HitachiTC 及び HDL-C キットを用いて、血清総コレステロール及びHDL-C を測定した。 88 (【0385】) 実験の結果が、図8A から8D に示されている。要約すると、抗体31H4 が投与 されたマウスは、実験の間にわたって、減少した血清コレステロールレベルを示し た(図8A 及び図8B)。さらに、マウスは減少したHDL レベルを示すことも注目さ れる(図8C 及び図8D)。図8A 及び図8C に関して、%変化は、同じ時点での対照 5 IgG に対する(*P<0.01、#P<0.05)。図8B 及び8D に関して、%変化は、t=0 時間で、ナイーブ動物中において測定された総血清コレステロール及びHDL レベ ルに対する(*P<0.01、#P<0.05)。(【0386】) 低下したHDL レベルに関して、マウス中でのHDL の減少はHDL の減少がヒト で起きることを示唆せず、この生物中での血清コレステロールが減少したこと .01、#P<0.05)。(【0386】) 低下したHDL レベルに関して、マウス中でのHDL の減少はHDL の減少がヒト で起きることを示唆せず、この生物中での血清コレステロールが減少したことをさ 10 らに反映するに過ぎないことが当業者に理解されることが注目される。マウスは高 密度リポタンパク質(HDL)粒子中に血清コレステロールの大半を輸送し、これは LDL 粒子上に殆どの血清コレステロールを有するヒトとは異なることが注目され る。マウスでは、総血清コレステロールの測定は、血清HDL-C のレベルを最も近 似する。マウスHDL は、LDL 受容体(LDLR)に対するリガンドであるアポリポ 15 タンパク質E(apoE)を含有しており、LDLR によるHDL の排除を可能とする。 従って、HDL を調べることは、マウスにおける、本実施例での適切な指標である (HDL の減少は、ヒトに対しては予測されないことが理解される。)。これに対し て、例えば、ヒトHDL は、apoE を含有しておらず、LDLR に対するリガンドでは ない。PCSK9 抗体はマウス中でのLDLR 発現を増加させるので、肝臓はより多く 20 のHDL を排除させることができ、従って、血清HDL-C レベルを低下させる。 (【0387】) (実施例14) 6 日の研究における、LDLR レベルに対する抗体31H4 の効果 本実施例は、予想されたように、抗原結合タンパク質が、経時的に、対象中のLDLR 25 のレベルを変化させることを示す。LDLR レベルに対する抗体31H4 の効果を確認 89 するために、ウェスタンブロット分析を行った。実施例13 で記載した屠殺された マウスから得られた肝臓組織50 から100mgを、完全なプロテアーゼ阻害剤(Roche) を含有す を確認 89 するために、ウェスタンブロット分析を行った。実施例13 で記載した屠殺された マウスから得られた肝臓組織50 から100mgを、完全なプロテアーゼ阻害剤(Roche) を含有するRIPA 緩衝液(Santa Cruz Biotechnology Inc.)0.3mL 中において均質 化した。ホモゲネートを氷上で30 分間温置し、細胞破砕物を沈降させるために遠 心した。BioRad タンパク質アッセイ試薬(Bio Rad laboratories)を用いて、上清 5 中のタンパク質濃度を測定した。70℃で10 分間、タンパク質100µg を変性させ、 4 から12%Bis-TrisSDS 勾配ゲル(Invitrogen)上で分離した。0.45µmPVDF 膜 (Invitrogen)にタンパク質を移し、室温で1 時間、5%無脂肪ミルクを含有する洗 浄緩衝液(50mMTris PH7.5、、 150mMNaCl、、2mMCaCl2 及び0.05%Tween20) 中でブロックした。次いで、室温で1 時間、ヤギ抗マウスLDLR 抗体(R&Dsystem) 10 1:2000 又は抗βアクチン(sigma)1:2000 を用いて、ブロットのプローブ検査 を行った。ブロットを短時間洗浄し、ウシ抗ヤギIgG-HRP(Santa Cruz Biotechnology Inc.)1:2000 又はヤギ抗マウスIgG-HRP(Upstate)1:2000 と ともに温置した。室温で1 時間の温置後、ブロットを完全に洗浄し、ECLplus キッ ト(Amersham biosciences)を用いて、免疫反応性バンドを検出した。ウェスタン 15 ブロットは、図9 に図示されているように、抗体31H4 の存在下でのLDLR タンパ ク質レベルの増加を示した。(【0 biosciences)を用いて、免疫反応性バンドを検出した。ウェスタン 15 ブロットは、図9 に図示されているように、抗体31H4 の存在下でのLDLR タンパ ク質レベルの増加を示した。(【0388】) (実施例15) 13 日の研究における抗体31H4 の血清コレステロール低下効果 13 日の研究において、PCSK9 タンパク質に対する抗体治療を介した野生型(WT) 20 マウスにおける総血清コレステロール(TC)低下を評価するために、以下の手順を 行った。(【0389】) Jackson Laboratory(BarHarbor、、ME)から得られた雄のWT マウス(C57BL /6 系統、9 から10 週齢、17-27g)には、実験の期間を通じて、通常の食餌(Harland -Teklad、、Diet 2918)を与えた。t=0 において、マウスの尾静脈を通じて、10mg 25 /kg のレベルで、抗PCSK9 抗体31H4(PBS 中の2mg/mL)又は対照IgG(PBS 90 中2mg/mL)の何れかをマウスに投与した。ナイーブマウスも、ナイーブ対照群 として別に分けた。(【0390】) 投薬群及び屠殺の時間が、表10 に示されている。動物を屠殺し、肝臓を摘出し、 実施例13 のとおりに調製した。(【0391】) 【表13】(【0392】) 5 6 日の実験を13 日の研究に延長すると、6 日の研究において観察された同じ血清 コレステロール低下効果が、13 日の研究においても観察された。より具体的には、 10mg/kg で投薬された動物は、3 日目に、血清コレステロールの31%の減少を示 し、13 日までに、投薬前レベルまで徐々に戻った。図10A は、この実験の結果を 10 図示する。図10C は、31H4 /kg で投薬された動物は、3 日目に、血清コレステロールの31%の減少を示 し、13 日までに、投薬前レベルまで徐々に戻った。図10A は、この実験の結果を 10 図示する。図10C は、31H4 の10mg/kg 用量を用いた、及び同じく10mg/kg の 別の抗体16F12 を用いた上記手順を反復した結果を図示している。投薬群及び屠殺 の時間が、表11 に示されている。(【0393】) 図10C に示されているように、16F12 及び31H4 は何れも、単回投薬のみの後 に、総血清コレステロールの著しく、大幅な減少をもたらし、1 週以上にわたって 15 (10 日又はそれ以上)有益であった。反復された13 日の研究の結果は最初の13 日 の研究の結果と合致しており、3 日目における26%の血清コレステロールレベルの 91 減少が観察される。図10A 及び図10B に関して、%変化は、同じ時点での対照IgG に対する(*P<0.01)。図10C に関して、%変化は、同じ時点での対照IgG に対す る(*P<0.05)。(【0395】) (実施例26) インビボでLDL を低下させるPCSK9 及びABP の能力に対するマウスモデル 5 ヒトPCSK9 を過剰発現するマウスを作製するために、マウス中のLDL-コレス テロールの測定可能な増加を与える正しい力価を測定するためにヒトPCSK9 を発 現するように組換え的に修飾されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の様々な濃度を、 尾静脈投与を介して3 週齢WTC57B1/6 マウスに注射した。ヒトPCSK9 を発現 するこのウイルスを用いて、ウイルスの4.5×10E12pfu は循環血液中の約40mg/ 10 dL のLDL-コレステロールレベル(WT マウス中のLDL の正常レベルは、約10mg K9 を発現 するこのウイルスを用いて、ウイルスの4.5×10E12pfu は循環血液中の約40mg/ 10 dL のLDL-コレステロールレベル(WT マウス中のLDL の正常レベルは、約10mg /dL である。)をもたらすことが決定された。これらの動物中のヒトPCSK9 レベ ルは、約13µg/mL であることが見出された。この注射基準を用いて、マウスのコ ロニーを作製した。(【0422】) 注射から1 週後に、LDL-コレステロールレベルに関してマウスを評価し、異な 15 る処理群へ無作為に振り分けた。次いで、尾静脈注射を介して、16F12、21B12 又 は31H4 抗原結合タンパク質の10mg/kg 又は30m/kg の何れかの単回大量瞬時 注射を動物に投与した。投薬対照として、動物の別個の群にIgG2ABP を投与した。 次いで、ABP 動物から24 及び48 時間後に、動物のサブグループ(n=6 から7) を安楽死させた。何れの投薬量でも、IgG2 投与後に、LDL-コレステロールレベル 20 に対する影響は存在しなかった。31H4 及び21B12 は何れも、IgG2 対照(2 つの異 なる投薬量で図14A 及び14B に示されている。)と比べて、投与後最大48 時間ま で(48 時間を含む。)著しいLDL-コレステロール低下を示した。16F12 は、48 時 間の時点までに、約40mg/dL のベースラインに復帰するレベルで、中間のLDL -コレステロール低下応答を示す。このデータは、31H4 と21B12 の間でヒト 25 PCSK9 に対してほぼ等しい結合親和性を示し、PCSK9 に対して16F12 のより低 92 い親和性を示すインビトロ結合データ(Biacore 及びKinexa)と合致している。 (【0423】) (実施 ぼ等しい結合親和性を示し、PCSK9 に対して16F12 のより低 92 い親和性を示すインビトロ結合データ(Biacore 及びKinexa)と合致している。 (【0423】) (実施例27) 31H4 及び21B12 は、PCSK9 のProCat 領域に結合する 本実施例は、様々な抗体がPCSK9 のどこに結合するかを決定するための1 つの 5 方法を記載する。(【0426】) PCSK9 タンパク質のProCat(配列番号3 の31 から449)又はV ドメイン(配 列番号3 の450 から692)を、抗体31H4 又は21B12 の何れかと組み合わせた。 複合体の形成に関して、非変性PAGE によって、試料を分析した。図16A 及び図 16B から明らかなように、ProCat/31H4 及びProCat/21B12 試料に関してゲル 10 シフトが存在し、抗体がProCat ドメインに結合したことを示す。(【0427】) (実施例28) LDLREGFa ドメインは、PCSK9 の触媒ドメインに結合する本実施例は、2.9 オ ングストロームの分解能で(以下の実施例に記載されている条件)、LDLREGFa ド メイン(293 から334)に結合されたPCSK9ProCat(配列番号3 の31 から454) 15 の解明された結晶構造を表す。(【0428】) EGFa に結合されたPCSK9 の構造の図解が、図17 に示されている。結晶構造 (及び図17 中のその図解)は、LDLR のEGFa ドメインがPCSK9 の触媒ドメイ ンに結合することを明らかにする。さらに、PCSK9 とEGFa の相互作用は、図17 に図示されている構造中の残基D374 とS153 の間にあるPCSK9 の表面を横切っ 20 て起こるようであ ンに結合することを明らかにする。さらに、PCSK9 とEGFa の相互作用は、図17 に図示されている構造中の残基D374 とS153 の間にあるPCSK9 の表面を横切っ 20 て起こるようである。(【0429】) 25 93 【図17】 LDLREGFa ドメインとの相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基が、 EGFa ドメインの5 オングストローム以内に存在するPCSK9 残基として定義され た。コア残基は、以下のとおりである。S153、I154、P155、R194、D238、A239、 5 I369、S372、D374、C375、T377、C378、F379、V380 及びS381。(【0430】) LDLREGFa ドメインとの相互作用界面の境界PCSK9 アミノ酸残基は、EGFa ド メインの5 オングストロームから8 オングストロームに存在するPCSK9 残基とし て定義された。境界残基は、以下のとおりである。W156、N157、L158、E159、 H193、E195、H229、R237、G240、K243、D367、I368、G370、A371、S373、 10 S376 及びQ382。下線が付された残基は、PCSK9 内にほぼ埋没し、又は完全に埋 没している。(【0431】) 当業者に理解されるように、本実施例から得られた結果は、PCSK9 とEGFa が 相互作用することを示している。従って、これらの残基の何れかと相互作用し、又 は遮断する抗体は、PCSK9 とLDLR のEGFa ドメイン(及び/又はLDLR 一般) 15 との間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。幾つかの実施形態におい て、PCSK9 に結合された場合に、上記残基の何れかと相互作用し若しくは遮断す ドメイン(及び/又はLDLR 一般) 15 との間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。幾つかの実施形態におい て、PCSK9 に結合された場合に、上記残基の何れかと相互作用し若しくは遮断する 94 抗体、又は上記残基の15 から8、8、8 から5 若しくは5 オングストロームにある 抗体は、LDLR へのPCSK9 結合の有用な阻害を与えるものと想定される。 (【0432】) (実施例29) 31H4 は、PCSK9 のプロドメイン及び触媒ドメインの両方に由来するアミノ酸残 基と相互作用する 5 本実施例は、2.3 オングストロームの分解能になるように測定された(以下の実 施例に記載されている条件)、31H4 のFab 断片に結合された完全長PCSK9(配列 番号3 のN533A 変異体)の結晶構造を表す。図18A 及び18B に図示されているこ の構造は、触媒部位の領域中において、31H4 がPCSK9 に結合し、プロドメイン及 び触媒ドメインの両方に由来するアミノ酸残基と接触することを示す。(【0433】) 10 【図18A】 【図18B】 図示されている構造によって、PCSK9 との31H4 の相互作用界面のための特異 的コアPCSK9 アミノ酸残基を同定することも可能である。これは、31H4 タンパ ク質の5 オングストローム内に存在する残基として定義された。コア残基は、以下 15 のとおりである。W72、F150、A151、Q152、T214、R215、F216、H217、A220、 S221、K222、S225、H226、C255、Q256、G257、K258、N317、F318、T347、 L348、G349、T350、L351、E366、D367、D374、V380、S381、Q382、S383 S225、H226、C255、Q256、G257、K258、N317、F318、T347、 L348、G349、T350、L351、E366、D367、D374、V380、S381、Q382、S383 又 はG384。(【0434】) 95 当業者によって理解されるように、実施例29 から得られる結果は、PCSK9 に対 する抗体はPCSK9 に対して相互作用できること、及びEGFa との(従って、LDLR との)相互作用からPCSK9 を遮断できることを示す。従って、これらのPCSK9 残 基の何れかと相互作用し、又はこれらの残基の何れかを(例えば、これらの残基に 結合する他の抗原結合タンパク質から)遮断する抗原結合タンパク質は、PCSK9 と 5 EGFa(従って、LDLR)の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る。従って、 幾つかの実施形態において、上記残基の何れかと相互作用し、又は上記残基の5 オ ングストローム以内の残基と相互作用する抗原結合タンパク質は、LDLR への PCSK9 結合の有用な阻害を与えるものと想定される。同様に、上記残基の何れかを 遮断する抗原結合タンパク質(例えば、競合アッセイを介して測定することができ 10 る。)は、PCSK9/LDLR 相互作用の阻害のためにも有用であり得る。(【0437】) (実施例30) 21B12 は、PCSK9 の触媒ドメインに結合し、31H4 と異なる結合部位を有し、 31H4 と同時にPCSK9 に結合することができる。(【0438】) 本実施例は、2.8 オングストロームの分解能で測定された(以下の実施例に記載 15 されている条件)、31H4 及び21B12 のFab 断片に結合されたPCSK9ProCat(配 列番号3 の31 から449)の結晶構造を表す。図19A 能で測定された(以下の実施例に記載 15 されている条件)、31H4 及び21B12 のFab 断片に結合されたPCSK9ProCat(配 列番号3 の31 から449)の結晶構造を表す。図19A 及び19B に図示されているこ の結晶構造は、31H4 及び21B12 がPCSK9 上に異なる結合部位を有すること、両 抗原結合タンパク質はPCSK9 に同時に結合できることを示す。構造は、21B12 は PCSK9 の触媒ドメイン由来のアミノ酸残基と相互作用することを示す。この構造 20 において、PCSK9 と31H4 の間の相互作用は上に観察されたものと類似している。 (【0439】) 25 96 【図19A】 【図19B】 21B12 との相互作用界面の特異的コアPCSK9 アミノ酸残基が、21B12 タンパク 質の5 オングストローム以内に存在するPCSK9 残基として定義された。コア残基 は、以下のとおりである。S153、S188、I189、Q190、S191、D192、R194、E197、 5 G198、R199、V200、D224、R237、D238、K243、S373、D374、S376、T377 及 びF379。(【0440】) 当業者によって理解されるように、実施例30 から得られる結果は、PCSK9 に対 する抗体結合タンパク質のどこがPCSK9 に対して相互作用できるか、及びEGFa との(従って、LDLR との)相互作用からPCSK9 をなお遮断できることを示す。 10 従って、これらのPCSK9 残基の何れかと相互作用し、又はこれらの残基の何れか を遮断する抗原結合タンパク質は、PCSK9 とEGFa(従って、LDLR)の相互作用 を阻害する抗体として有用であり得る。従っ 、これらのPCSK9 残基の何れかと相互作用し、又はこれらの残基の何れか を遮断する抗原結合タンパク質は、PCSK9 とEGFa(従って、LDLR)の相互作用 を阻害する抗体として有用であり得る。従って、幾つかの実施形態において、上記 残基の何れかと相互作用し、又は上記残基の5 オングストローム以内の残基と相互 作用する抗体は、LDLR へのPCSK9 結合の有用な阻害を提供するものと想定され 15 る。同様に、上記残基の何れかを遮断する抗原結合タンパク質(例えば、競合アッ 97 セイを介して測定することができる。)は、PCSK9/LDLR 相互作用の阻害のため にも有用であり得る。(【0443】) (実施例31) EGFa、PCSK9 及び抗体の間の相互作用 上例から得られた三次複合体(PCSK9/31H4/21B12)の構造をPCSK9/EGFa 5 構造(実施例28 に記載されているとおりに決定された。)上に重ね合わせ、この組 み合わせの結果が図20A に図示されている。この図は、EGFa とのPCSK9 相互作 用を阻害するように有用に標的化することができるPCSK9 上の領域を示す。図は、 31H4 及び21B12 が何れも、LDLR のEGFa ドメインの位置と部分的に重複し、 PCSK9 へのその結合を立体的に妨害することを示している。さらに、構造から明ら 10 かなように、21B12 は、LDLREGFa ドメインへの結合に特異的に関与しているア ミノ酸残基のサブセットと直接相互作用する。(【0444】) 【図20A】 上述のように、結晶構造の分析によって、PCSK9 と対タンパク質(コア及び 15 PCSK9 表面上の界面の境界領域)間の相互作用に関与している特異的アミノ酸及 びこれらの対タンパク質がPCSK9 と 述のように、結晶構造の分析によって、PCSK9 と対タンパク質(コア及び 15 PCSK9 表面上の界面の境界領域)間の相互作用に関与している特異的アミノ酸及 びこれらの対タンパク質がPCSK9 と相互作用する空間的必要条件が同定された。 98 この構造は、PCSK9 とLDLR 間の相互作用を阻害する方法を示唆する。第一に、 上述のように、LDLR のEGFa ドメインの結合部位と共通する残基を共有している PCSK9 への因子の結合は、PCSK9 とLDLR 間の相互作用を阻害する。第二に、共 通の残基の外側に結合する因子は、EGFa ドメインに対してN 末端又はC 末端に あるLDLR のEGFa ドメイン又は領域を立体的に妨害して、PCSK9 とLDLR 間 5 の相互作用を妨害することができる。(【0445】) 幾つかの実施形態において、EGFa 結合に関与し、且つ上記抗原結合タンパク質 が結合する領域に近い残基は、LDLR へのPCSK9 の結合を操作するのに特に有用 である。例えば、異なる結合対に対してコア領域と境界領域の両領域中の共通する 界面由来のアミノ酸残基が、下表12 に列記されている。PCSK9 タンパク質内に完 10 全に埋没されているアミノ酸残基に、下線が付されている。(【0446】) 【表15】(【0447】) 当業者によって理解されるように、幾つかの実施形態において、抗原結合タンパ ク質は、上記残基の少なくとも1 つに結合し、及び/又は遮断する。(【0448】) 15 (実施例37) エピトープマッピング-ビニング 99 実施例10 中の組に加えて、ビニング実験の別の組を実施した。実施例10 におけ ると同様に、互いに競合するABP は、標的上の同じ部位に結合するものと考える ことができ -ビニング 99 実施例10 中の組に加えて、ビニング実験の別の組を実施した。実施例10 におけ ると同様に、互いに競合するABP は、標的上の同じ部位に結合するものと考える ことができ、一般的な語法では、互いに「ビン」を形成していると言われる。 (【0489】) Jia 他(J. Immunological Methods、、 288 (2004) 91-98)によって記載さ れた多重化ビニング法の改変を使用した。室温で1 時間、暗所にて、0.5µg/mL ビ 5 オチン化一価マウス抗ヒトIgG 捕捉抗体(BD Pharmingen、、#555785)100µL 中 で、ストレプトアビジンによって被覆されたLuminex ビーズの各ビーズコードを 温置し、次いで、PBSA(1%ウシ血清アルブミン(BSA)を加えたリン酸緩衝化生 理的食塩水(PBS))で3 回洗浄した。2µg/mL 抗PCSK9 抗体(CoatingAntibody) 100µL とともに、各ビーズコードを別々に1 時間温置した後、PBSA で3 回洗浄し 10 た。ビーズをプールした後、96 ウェルフィルタープレート(Millipore、、# MSBVN1250)に分配した。2µg/mL の精製されたPCSK9 タンパク質100µL を ウェルの半分に添加した。緩衝液を対照として他の半分に添加した。反応を1 時間 温置した後、洗浄した。2µg/mL 抗PCSK9 抗体(DetectionAb)100µL を全ての ウェルに添加し、1 時間温置し、次いで、洗浄した。別の対象として、無関係のヒ 15 トIgG(Jackson、、#009-000-003)を走行させた。各ウェルに、PE 連結され た一価マウス抗ヒトIgG(BD Pharmingen、、#555787)20µL を添加し、 ヒ 15 トIgG(Jackson、、#009-000-003)を走行させた。各ウェルに、PE 連結され た一価マウス抗ヒトIgG(BD Pharmingen、、#555787)20µL を添加し、1 時間 温置し、次いで、洗浄した。PBSA100µL 中にビーズを再懸濁し、最低100 事象/ ビーズコードをBioPlex 装置(BioRad)上で収集した。(【0490】) PCSK9 を含有する対応する反応のシグナルから、PCSK9 なしでの抗体対の中央 20 値蛍光強度(MFI)を差し引いた。抗体対が同時に(従って、異なるビンに)結合 したと考えられるためには、差し引かれたシグナルは、それ自身と競合する抗体の シグナルより3 倍大きく、且つ無関係の抗体と競合する抗体のシグナルより3 倍大 きくなければならなかった。(【0491】) 上記から得られたデータは、図23A から23D に図示されている。ABP は、5 つ 25 のビンに属した。影が付いた枠は、PCSK9 へ同時に結合することができるABP を 100 示している。影が付いていない枠は、結合に関して互いに競合するABP を示して いる。結果の要約が、表37.1 に示されている。(【0492】) 【表17】(【0493】) ビン1(ABP21B12 と競合する。)及び3(31H4 と競合する)は、互いに排他的 5 であり、ビン2 はビン1 及び3 と競合し、並びにビン4 はビン1 及び3 と競合しな い。この実施例において、ビン5 は、他のビンに適合するABP を記載するために、 「キャッチオール」ビンとして表される。従って、ビンのそれぞれの中の上記ABP は、PCSK9 上のエピトープ位置の異なる種類の代表であり、それらの幾つかは互い に重複する。(【0494】) 10 「キャッチオール」ビンとして表される。従って、ビンのそれぞれの中の上記ABP は、PCSK9 上のエピトープ位置の異なる種類の代表であり、それらの幾つかは互い に重複する。(【0494】) 10 当業者によって理解されるように、基準ABP がプローブABP の結合を妨げるの であれば、抗体は同じビン中にあると称される。ABP が使用される順序が重要であ り得る。ABPA が基準ABP として使用され、ABPB の結合を遮断すれば、逆は必 101 ずしも真ではない。基準ABP として使用されるABPB は必ずしもABPA を遮断し ない。ここで役割を果たしている多数の因子が存在する。ABP の結合は、標的中の 立体構造の変化を引き起こすことができ、これは、第二のABP の結合を妨げ、又は 互いに重複するが、互いを完全に封鎖しないエピトープは、結合を可能とするのに 十分な標的との高親和性相互作用を第二のABP がなお有することを可能にし得る。 5 ずっと高い親和性を有するABP は、遮断するABP を押し出すより大きな能力を有 し得る。一般に、何れの順序においても競合が観察されれば、ABP は互いにビンで あると称され、両ABP が互いに遮断することができれば、エピトープはより完全 に重複する可能性がある。(【0495】) 以上 10 102 (別紙3) 以上
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