平成12(ネ)49 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年3月18日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 呉支部 平成9(ワ)52
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判決文本文14,517 文字)

主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほかは,原判決「第二事案の概要」に同じであるから,これを引用する。 2 原判決2丁裏10行目から11行目にかけての「A病院」を「B病院(本件当時の名称「A病院」,以下「控訴人病院」という。)」と改める。 3 原判決7丁表4行目の後に改行して次のとおり付加する。 (五) 絞扼性イレウスの鑑別に有意な症状,所見としては,持続的な腹痛,発熱,頻脈,呼吸促迫などの全身症状の悪化,腹部所見としては,圧痛,ブルンベルグ徴侯,筋性防御,臨床検査所見としては,白血球の増加,CRP値の上昇,腹腔穿刺所見としては,腹水が赤褐色,混濁して血性又は膿性であること,超音波所見としては,蠕動運動のない拡張腸管,混濁した腹水,腸管壁の肥厚,ケルクリング皺襞の不明瞭化,消失,CTの所見としても,腸管壁の肥厚,拡張腸管であると言われている。 ところで,本件でCの腹痛が持続的となったのは,平成6年2月27日からであるし,上腹部の圧痛も同日からである。また,同日,腹水が発生し,技術的には採取可能であったことが認められる。また,同月28日には,白血球の増加とCRP値の上昇が認められるから,前日の27日,絞扼性イレウスが発症したものである。また,同月28日に行われたCT診断によって拡張腸管,腸管壁の肥厚,腹水が確認できている。本件イレウスの特長として,全体として本件症例は,小範囲のイレウスの発生が 扼性イレウスが発症したものである。また,同月28日に行われたCT診断によって拡張腸管,腸管壁の肥厚,腹水が確認できている。本件イレウスの特長として,全体として本件症例は,小範囲のイレウスの発生が断続的に起こり,結果として非典型的な臨床症例に結びついたものと判断されるのであるから,絞扼の開始そのものは,かなり早い時期で2月27日頃と解するのが合理的と思われる。そして,上記病状の経過と検査内容から明らかなように,控訴人病院の担当医師は,超音波検査を行わなかったために,絶対的な手術適応となるブルンベルグ徴候,筋性防御の発現まで,手術を決定し得なかったものと考えられ,超音波による所見,とりわけ腹水の性状とケルクリング皺襞の不明瞭化,消失といった所見の有無が明らかにされなかった結果,手術の決定時期を遅らせたこととなった。 4 原判決9丁裏7行目の後に改行して次のとおり付加する。 (五)(1) 控訴人病院における典型的絞扼性イレウス症例の切除腸管と本件切除腸管を病理組織学的に対比すると,典型的絞扼性イレウス症例は入院後開腹手術まで10時間であったところ,腸管においては瀰漫性に広がる変色域が100cm前後に及んでおり,切除した長さも安全域を考慮して112cmに達したのに対し,本件症例では,入院後開腹手術まで65時間であって,腸管における変色域は全長としては約20cmに及ぶが,絞扼を解除した後に色調回復が不良であった部位も小さく,切除した長さは安全域を考慮しても20cmと短いばかりか,典型的絞扼性イレウスと違って,変色域が約20cmの間にまばらに,しかも,強弱をもって存在するのであって,肉眼的には変化の最も強い部分にも粘膜粗慥部が認められ,顕微鏡的には壊死像は認められず,回腸粘膜上皮の再生像が認められる。以上のように,本件は,典型的絞扼性イレウス 強弱をもって存在するのであって,肉眼的には変化の最も強い部分にも粘膜粗慥部が認められ,顕微鏡的には壊死像は認められず,回腸粘膜上皮の再生像が認められる。以上のように,本件は,典型的絞扼性イレウスに比べ,入院から開腹手術まで長時間経過しているにもかかわらず,切除腸管の長さは短く変色域の広がり方もまばらであるなどの顕著な差があること,また,回腸上皮の細胞再生周期が3日であることを考慮すると,肉眼的に粘膜粗慥部,顕微鏡的に回腸粘膜上皮の再生像が認められることから,時間単位で発症する血行障害と日単位で発生する粘膜再生が混在していることを意味している。要するに,全体として,本件は,腸管の小範囲の部分に,絞扼が部分的,かつ時間差をもって起こるという,絞扼性イレウスとしてはまれな経過をたどった症例であると判断される。したがって,結果として典型的な絞扼性イレウスの症状を最後まで示さない非典型的な臨床症状に結びついたといえるのであるから,本件絞扼性イレウスの発症時期の解明は極めて困難である。そして,本件絞扼性イレウスは,本件手術の直前に発症したとしても矛盾はなく,本件の開腹手術の結果をもって,発症後ある程度の時間が経過していたと断定することはできず,手術時期が遅かったということもできない。 (2) 持続的腹痛及び上腹部圧痛の存在,白血球数とCRP値の上昇,小腸の拡張,小腸壁の肥厚,小腸内の液体貯留,少量の腹水の所見だけでは,絞扼性イレウスとの確定診断はできない。控訴人病院の医師らは,保存療法を継続することを選択するに当たっては,極めて頻繁にCを診察し,適宜CT等の必要な検査を行った上で,複数の医師が合議しながらその治療方針を慎重に決定しているのであって,ただ漫然とCの症状を見守っていたのではない。イレウスの治療に当たって,保存的治療を選択する 適宜CT等の必要な検査を行った上で,複数の医師が合議しながらその治療方針を慎重に決定しているのであって,ただ漫然とCの症状を見守っていたのではない。イレウスの治療に当たって,保存的治療を選択するか手術を選ぶかの判定は,しばしば難しく,単純性イレウスか絞扼性イレウスかを決定する確実な方法がいまだ存しないことに加え,前記のとおりCのイレウスが非典型的な臨床症状であったことに照らし,多数回の開腹手術を行うことにより,さらなる腸管癒着の憎悪を引き起こす結果を避けなければならないほか,イレウスに対しては,可及的速やかに保存的治療を行うべきとする外科治療の常識に裏打ちされた明確な根拠が存在することからすれば,基本的にその治療方法選択については,控訴人病院の医師らに医学的見解及び医師の経験に基づく広い裁量が認められる。更に,病態は絶えず変化するものであって,いったん幾つかの数値が高値を示したとしても,その後再び低下することもあり得るのであるから,本件の手術時期の判断は,医師の合理的な裁量の範囲内として許される。 5 原判決10丁表9行目から11丁表1行目までを次のとおり改める。 (二) Cに,術後の3月3日,胸部レントゲンで肺水腫の像が認められるが,これは輸液過剰に起因するものである。控訴人は,この時点で敗血症が発症したと主張するが,当時の検査データによって判断されるCの状態は,Cが緊急開腹手術を受けた時点とそれほど変わらないことが認められるところから明らかなように,これだけで敗血症と診断することはできず,更に敗血症と確定診断するためには,細菌によって感染されていること,すなわち,血中内にエンドトキシンが存在することが確認されなければならないが,この検査は,3月16日以外には実施されていない。したがって,この時点では,敗血症の発症の確定診断はで 感染されていること,すなわち,血中内にエンドトキシンが存在することが確認されなければならないが,この検査は,3月16日以外には実施されていない。したがって,この時点では,敗血症の発症の確定診断はできない。 (三) その後,利尿剤の投与により,Cの全身状態は,いったん快方に向かっていたが,同月6日,ダグラス窩に留置したドレーンより多量の緑茶色の排液(腸液)が,認められるようになり,この時点で縫合不全が臨床的に明らかとなった。小腸縫合不全による腸液漏出においては,大腸と異なり,自然治癒は望めないことが多いので,吻合部より口側の回腸に,又は縫合不全部に係蹄式人工肛門を造設して腹膜炎手術を実施する必要がある。控訴人は,再手術によるリスクが高く,Cが約2時間の侵襲に耐えうる状態ではなかったと主張する。しかしながら,Cの検査データは,少なくとも当時のCの病状が再手術を断念しなければならないほど悪化していなかったことを表している。臨床的に縫合不全が明らかとなった3月6日の時点で,血圧の収縮期の値は,100前後で70以下に下がったことはない。ヘモグロビンの値も3月6日で10.6mg/dlで7mg/dl以上あり貧血状態ではない。BUNも19.3 mg/dlと70mg/dl以下で腎不全の状態ではない。FDPの値も,20μg/mlと70μg/ml以下である。体温は高いときでも39℃で概ね38℃台であるし,CVPの値も高い時で10cmHOで17cmHO以上にはなっていない。Plt(血小板数)については,11500と17000以下となっているが,これは血小板輸血によって改善することができ,現に7日に血小板輸血がなされ8日には,19000まで上昇している。重症感染症については,3月16日にのみエンドトキシン検査が行われているが,その時点18.4Pg/mlであ って改善することができ,現に7日に血小板輸血がなされ8日には,19000まで上昇している。重症感染症については,3月16日にのみエンドトキシン検査が行われているが,その時点18.4Pg/mlであるから,敗血症が発症していなかった3月6日の時点で17Pg/mlを上回っていたとは考えられない。血漿PHも7.4以上で7.3以下にはなっていない。T.Bilの値も1.1で7以下である。 (四) そして,同月8日には,正中創からの多量の便汁のもれを認め,同月9日には,腸内容物が正中創から漏出し,ダグラス窩からのドレーンの排出が止まったことが認められたにもかかわらず,控訴人病院の担当医師は,被控訴人Dに対し,腹腔内の感染が改善しないこと,循環動態が不安定になりつつあると説明しながら,快方に向かうかどうかはこの先3日間の経過いかんによるとして,保存治療のまま,経過観察を継続するという誤った措置を選択した。 (五) 更に,本件患者が播種性血管内凝固症候群(以下「DIC」という。)の状態に陥ったのは,3月11日であり,敗血症性ショックの症状が現れたのは3月9日であるから,縫合不全の徴候が出現した3月6日から8日までに再手術を行っていれば,成功していた可能性が高かったと認められる。したがって,控訴人病院の担当医師は,縫合不全が起こった3月6日から,ドレーンからの排出が止まりその有効性に疑問を抱く事態に至った3月9日の時点までに再手術を実施すべきであり,これによってCが救命できた可能性が認められる以上,この点においても,担当医師の過失は認められる。 6 原判決12丁裏11行目の後に改行して次のとおり付加する。 (四) ダグラス窩からは1日に100ml以上も排液されており,左右側腹部からも,相当量が排出していたのであって,適正ドレナージのゆえに縫合不全が早 2丁裏11行目の後に改行して次のとおり付加する。 (四) ダグラス窩からは1日に100ml以上も排液されており,左右側腹部からも,相当量が排出していたのであって,適正ドレナージのゆえに縫合不全が早期に診断できたのであるから,腹腔ドレナージは有効に機能していた。 (五) 一般的には,小腸縫合不全による腸液漏出においては,大腸とは異なり,自然治癒は望めないことが多いので,吻合部より口側の回腸に,又は縫合不全部に係蹄式人工肛門を造設して,腹膜炎手術を実施する。しかしながら,本症例では,敗血症やDIC傾向に対する早期治療にもかかわらず,それらが存続しており,Cは,このために必要な約2時間の手術侵襲に耐えうる状態ではなかった。 (六) Cには,縫合不全の発症(3月6日)前に絞扼性イレウスによる敗血症(3月3日)があった。すなわち,3月2日の腹水には病的細菌が検出されているし,また,切除腸管の顕微鏡所見からも,絞扼性イレウスによる急性腹膜炎が存在して,敗血症になる原因があった。更に,3月4日の皮下創には病的細菌が検出されている。したがって,Cに対し,縫合不全の発症後,早期に再開腹手術を行っていても,早期開腹術による救命の可能性がより高かったとは認め難い。 また,Cに発症した敗血症の症状が軽快しなかったのは,3月9日に敗血症が再発した後,多臓器不全(MOF)に陥り,3月18日の死亡に至るまで,重症化に打ち克つだけの抵抗力に乏しかったためである。敗血症の治療は原因菌に対する抗菌療法と,感染巣に対する局所療法と,SIRSの病態に対する全身治療であって,本症例ではそのいずれも実施されたが,病態の進行の方が早く,反応するべき体力が消耗しきっていたと推測される。例えば,通常,若い成人では大量輸液に耐えられるのに,Cは,短い日時で肺水腫を起こしている。FOY ではそのいずれも実施されたが,病態の進行の方が早く,反応するべき体力が消耗しきっていたと推測される。例えば,通常,若い成人では大量輸液に耐えられるのに,Cは,短い日時で肺水腫を起こしている。FOY,アンスロビンP,ガンマベニンなどの早期使用にもかかわらず,また,血漿交換までしたのに,縫合不全,DIC,MOFの悪循環を打破できなかったことは最新医学の及ばざるところである。 (七) いずれにしても控訴人病院医師らに術後の縫合不全等に対する措置に不適切な対応は存しない。 第3 争点に対する判断 1 絞扼性イレウスの診断と処置について原判決13丁裏8行目から16丁裏10行目までに同じであるから,これを引用する。 2 Cの症状経過について次のとおり付加・訂正するほかは,原判決17丁表1行目から19丁裏5行目までと同じであるから,これを引用する。 (1) 17丁表2行目の「一五」の後に「,16の1・2,18ないし26」と,「E」の後に,「,鑑定(当審)」と付加する。 (2) 原判決17丁表3行目の「1」を「(1)」と,同丁表9行目の「2」を「(2)」と,18丁表1行目の「3」を「(3)」と,同丁裏9行目の「4」を「(4)」とそれぞれ改める。 (3) 原判決19丁表7行目の「腹部に」から9行目の「手術となった。」までを「E医師,F医長,G医長らが協議して緊急手術することとなった。その後,午後7時頃,Cの腹部に筋性防御とブルンベルグ徴候(腹膜に炎症が及んでいることを示す)が出現した。」と改める。 (4) 原判決19丁表10行目から同丁裏4行目までを次のとおり改める。 (5) Cは,3月1日午後7時頃,手術室に到着し,午後7時15分頃より麻酔を開始した。手術は,F医長,E医師及びH医師の3人により,午後7時37分頃から開始し,翌 4行目までを次のとおり改める。 (5) Cは,3月1日午後7時頃,手術室に到着し,午後7時15分頃より麻酔を開始した。手術は,F医長,E医師及びH医師の3人により,午後7時37分頃から開始し,翌2日午前0時30分頃終了した。 (6) 担当医師らは,開腹した後,Cの小腸及び小腸間膜には著しい発赤,浮腫を認め,回腸末端付近にも変色,浮腫の強い部位が約10cmにわたって存するのを認めた。更に,腸管を引き出し,腸全体を観察し,回腸は回腸末端より5cmの部位で腸間膜を中心に捻転を生じ,同部より口側数cmのところでも別の捻転が生じているのを認めた。捻転した腸間膜の根部には癒着性の索状物も確認でき,同部には外の小腸部位が癒着し,約50cmにわたり腸管が一塊となっていた。担当医師らは,捻転を起こしていた腸管壁は暗赤色を呈していたことなどから,Cは絞扼性イレウスであると診断した。そこで,担当医師らは,小腸の癒着を剥離し,捻転を解除したところ,絞扼されていた回腸は回腸末端より約20cmにわたる腸管を除いて色調が改善された。色調の改善しない部分は切除し,回腸と回腸を端々吻合させた。また,一塊となった小腸にメッケル憩室と思われる憩室を認め,同部から索状物が延びているため,この憩室も癒着の一因になっていると診断し,憩室を含む回腸壁も併せて同時に部分切除した。最後に,腹腔内を生理食塩水により十分に洗浄した後,ドレーンを左右側腹部,ダグラス窩に置き閉腹した。 (7) 担当医師らは,Cの腹腔内には血性腹水が貯留していたことから,腹水の一部を採取し,細胞診と細菌培養検査を行った。後日,細胞診はクラス2と判定されて悪性所見が存せず,細菌培養検査ではクレブジエラとエンテロバクタを少数認めたとの結果が得られた。 (8) 3月2日午前1時35分頃,麻酔が終了され 行った。後日,細胞診はクラス2と判定されて悪性所見が存せず,細菌培養検査ではクレブジエラとエンテロバクタを少数認めたとの結果が得られた。 (8) 3月2日午前1時35分頃,麻酔が終了され,抜管されて,午前2時頃,Cは,集中治療室(ICU)に収容された。収容時,Cの意識は清明であり,血圧は収縮期100/拡張期55mmHg,心拍数は毎分110,酸素マスク(毎分3l)にて動脈血酸素飽和度(SaO2)は98%であり.全身状態は良好であった。DICの予防のため,メシル酸ガベキセート(FOY)の静脈内投与を開始した。Cから創痛の訴えはなく,呼吸状態も安定していたため,午前10時頃,酸素吸入が中止された。ドレーンからの排液は多いが汚濁は認められなかった。 (9) 3月3日Cは,早朝は落ちついており,安静に睡眠していたが,午前6時頃より血圧の低下(最高血圧70ないし80mmHg),心拍数の増加(毎分140前後)が生じ,尿量も減少するとともに,頻呼吸となり,動脈血液ガスでは酸素分圧が65mmHg水銀柱に低下した。そのため,Cに対し,午前10時頃,酸素マスク(毎分3l)が再開されるとともに,循環血漿量を確保するためプラスマネート・カッター(加熱人血漿蛋白製剤)が投与された。胸部レントゲンでは,肺水腫の像が認められ,中心静脈圧も15mmHgに上昇していた。担当医師は,Cに対し,午後6時頃,循環動態の正確な把握のため,スワンガンツ・カテーテルを肺動脈まで挿入した。測定の結果,心拍出量は毎分8.6lと良好であったが,末梢血管抵抗が低下しており,敗血症性ショックと診断された。そこで,担当医師は,Cに対し,昇圧剤としてノルアドレナリン,利尿剤としてラシックス及びマンニゲンを投与し,抗ショック療法を開始した。その結果,Cの最高血圧は100mmHgま 性ショックと診断された。そこで,担当医師は,Cに対し,昇圧剤としてノルアドレナリン,利尿剤としてラシックス及びマンニゲンを投与し,抗ショック療法を開始した。その結果,Cの最高血圧は100mmHgまで回復し,心拍数も毎分120台に低下し,尿量も確保された。 (10) 3月4日Cに対するノルアドレナリンの投与は続行され,心拍数は毎分120台,血圧は少し上昇して100mmHgを維持していた。酸素吸入(毎分10l)も継続されていたが,夕方には呼吸状態も良くなり,酸素投与量は毎分3lまで減少された。なお,この時点においても,Cに,胸部レントゲン像では肺水腫の所見が認められた。なお,皮下ドレーンから採取された膿から,病的細菌が検出されたことが,3月11日に判明した。 (11) 3月5日Cは,未明,「呼吸が楽になった」と話すほどに回復し,循環,呼吸状態も落ち着いてきた。 Cのダグラス窩に留置したドレーンの排液が膿性に変化してきたため,担当医師は,腹腔内感染を疑って,腹部CT検査を行ったが,腹腔内に膿瘍はなかったため,腹腔内のドレナージは良好であると判断した。なお,胸部レントゲン検査では,心拡大及び肺水腫の所見が依然として認められた。一方,心拍出量及び末梢血管抵抗は正常化し,中心静脈圧も8ないし9mmHgに低下していた。 (12) 3月6日Cのダグラス窩に留置したドレーンより多量の緑茶色の排液が認められたが,腸液は腹腔内に貯留せずよく体外に排出されていた。Cの循環,呼吸状態が改善してきたので,ノルアドレナリンの減量を図った。夜間,Cは,不穏状態が強く,鎮静剤としてセレネースを投与した。 (13) 3月7日Cの循環動態は安定していたため,午前8時頃,ノルアドレナリンの投与が中止された。終日,Cの呼吸,循 た。夜間,Cは,不穏状態が強く,鎮静剤としてセレネースを投与した。 (13) 3月7日Cの循環動態は安定していたため,午前8時頃,ノルアドレナリンの投与が中止された。終日,Cの呼吸,循環動態が比較的安定していたため,スワンガンツ・カテーテルが抜去された。ダグラス窩ドレーンから腸液の排出はなお続いていたので,担当医師は,腹腔内感染を疑い,抗生物質の投与も実施した。血小板数が1ml中8万と低下してきたので,血小板30単位を輸注した。 (14) 3月8日Cに,午後2時頃,頻脈が出現した。輸液が増量され,ノルアドレナリンの投与が再開された。手術創が?開し,大量の混濁した腹水が流出した。頻回に発熱(39℃前後)も認められたため,担当医師は,Cが再び敗血症性ショックに陥ったと考えた。このころ,Cはせん妄状態となり,控訴人病院精神科医師Iの診察を受けた。 (15) 3月9日ノルアドレナリンの増量と輸液の増量により,Cの心拍数は減少してきたが,手術創からの便汁様の腹水の流出が増加し,ダグラス窩ドレーンからの排液が減少してきた。そこで,腹部CT検査が施行されたが,腹腔内に膿瘍は認められなかったため,担当医師は,腹腔内のドレナージは良好であると判断した。 Cに対し,午後4時頃,循環動態の正確な把握のため,再度,スワンガンツ・カテーテルが挿入された。 F医長,E医師及びH医師は,午後7時頃よりCの呼吸状態が悪化したので,被控訴人Jらに対し,手術の所見を含めてこれまでの経過を詳細に説明し,被控訴人Jらの了解を得て,Cに対し,気管内挿管を施行し人工呼吸を開始した。 (16) 3月10日Cの循環動態はやや安定し,呼吸状態は人工呼吸器の補助下において,おおむね安定していた。創部からの腸液の流出は依然として多量に認め 内挿管を施行し人工呼吸を開始した。 (16) 3月10日Cの循環動態はやや安定し,呼吸状態は人工呼吸器の補助下において,おおむね安定していた。創部からの腸液の流出は依然として多量に認められた。 (17) 3月11日Cの血小板数が1ml中5万に低下したため,担当医師は,CのDICが悪化したと考え,血小板を30単位輸注するとともにヘパリン(血液凝固阻止剤)を投与した。胸部レントゲン検査では成人呼吸頻拍症候群(以下「ARDS」という。)様の像が見られた。その後,Cの血圧がやや低下したので,カテコラミン(血圧上昇,心不全の治療薬の総称)を増量した。 (18) 3月12日Cは,DICが続くとともに,出血傾向が出現し,腹壁?開創より出血が見られた。呼吸は,呼吸器の補助にて維持できていた。血液によるカンジテック検査(真菌を検出する検査)の結果,陽性であったので,担当医師は,真菌感染症の合併を考えた。 (19) 3月13日担当医師が,ガーゼ交換時に腹壁?開創より,腹腔内を観察したところ.腸管の色調は正常であり,肉眼的には小腸の循環障害は見られなかった。 (20) 3月14日Cの血小板数が1ml中3.3万と低下してきたため,再度,血小板が輸注された。創部より出血があり,発熱も持続した。血清ビリルビンが上昇し,肝機能の低下が認められた。 (21) 3月15日Cの呼吸状態には変化はなかったが,循環動態は不安定であり,前日まで維持されていた毎分120前後の心拍数が,毎分90台に低下することがあった。血清ビリルビンは1dl中9.9mgと更に上昇した。 (22) 3月16日Cは,手術創からの出血が増量し,貧血が更に進行したため,新鮮血が輸血された。この日は血清ビリルビンが1dl中19.9m ビリルビンは1dl中9.9mgと更に上昇した。 (22) 3月16日Cは,手術創からの出血が増量し,貧血が更に進行したため,新鮮血が輸血された。この日は血清ビリルビンが1dl中19.9mgと上昇したため,被控訴人Jの承諾を得たのち,血漿交換が施行された。3月11日に採取した創部からの排液及び便からは,メチシリン耐性ブドウ球菌(以下「MRSA」という。)が検出されたとの報告がなされた。 (23) 3月17日血圧の低下があり,血行動態が不安定になるとともに,呼吸状態の悪化も見られた。手術創より多量の出血が存したほか,発熱も持続し,感染の改善は認められなかった。 (24) 3月18日Cの動脈血ガスデータは朝から更に悪化し,血圧はノルアドレナリンを投与しても維持できなかった。気道内出血が出現し,尿量も減少,MOFが進行した。午後1時頃,Cが心停止したため心マッサージを行った結果,いったん蘇生したが,Cは,午後2時2分に死亡した。 3 控訴人病院担当医師らに,絞扼性イレウス診断の遅れと適切な治療の懈怠があったか否か(争点1)について(1) 絞扼性イレウスの発症及び完成の時期について証拠(乙1,16の1・2,18,鑑定(当審))によれば,Cの切除された回腸の組織学的(顕微鏡観察)所見は,① 最も変色の著しかった肛門側断端部分,口側断端部分,粘膜が粗慥な部分の3箇所のいずれの部分にも粘膜が認められ,肛門側断端部分及び口側断端部分の粘膜層は正常よりも背が低いが,粘膜が粗慥な部分の粘膜の背丈はほぼ正常である,② 肛門側断端部分及び口側断端部分においては粘膜下層に浮腫あるいは血管拡張が認められたが,出血は認められておらず,粘膜が粗慥な部分においてはこのような所見は極めて軽微であった,③ 肛門側断端部分には虚血変 断端部分及び口側断端部分においては粘膜下層に浮腫あるいは血管拡張が認められたが,出血は認められておらず,粘膜が粗慥な部分においてはこのような所見は極めて軽微であった,③ 肛門側断端部分には虚血変化は認められるが,3箇所いずれの組織にも壊死組織は認められないというのであるから,組織学的所見上,切除された消化管(回腸)は阻血後1時間前後の回腸であると認められる。また,証拠(乙1,鑑定(当審))によれば,Cには,3月1日午後2時になって初めて,37.5℃を超える発熱と頻脈が出現していること,午後7時には筋性防御とブルンベルク徴候を医師が確認していることが認められる。以上によれば,3月1日午後2時頃から絞扼が開始され,腸管阻血状態が徐々に進行し始め,その後午後7時頃絞扼が完成されたと推認できる。 (2) 開腹手術を決定した時期は適切であったか否かについて前記認定のとおり,開腹手術は午後7時37分頃開始されたものであり,絞扼完成後の極めて短時間のうちになされたものであって,しかも虚血腸管の範囲は約10cmと短いこと,Cに腹部所見が発現する以前に緊急手術することを決定していることからすると,控訴人病院の医師らが手術を決定した時期は,通常の絞扼性イレウスの手術適応手順と比べて逸脱しているとは認められない。 ところで,被控訴人らは,控訴人病院の担当医師は,超音波検査などを行わなかったために,絶対的な手術適応となるブルンベルグ徴候,筋性防御の発現まで,手術を決定し得なかったものと考えられ,超音波による所見,とりわけ腹水の性状とケルクリング皺襞の不明瞭化,消失といった所見の有無が明らかにされなかった結果,手術の決定時期を遅らせたこととなったと主張する。確かに,担当医師らにおいて,Cの腹部超音波検査をしたと認めるに足りる証拠はない。 しかしな 明瞭化,消失といった所見の有無が明らかにされなかった結果,手術の決定時期を遅らせたこととなったと主張する。確かに,担当医師らにおいて,Cの腹部超音波検査をしたと認めるに足りる証拠はない。 しかしながら,当審鑑定の結果によれば,腹部超音波検査は腸管の蠕動,拡張,浮腫の程度や腹水の有無を見るのに有用ではあるが,CTや理学所見などほかの検査で代用しうること及び控訴人病院の担当医師は,その他の必要な検査を行っていることが認められ,腹部超音波検査をしなかったことによって,手術の決定時期が遅れたものと判断することはできない。 なお,当審鑑定の結果によれば,腹水検査によって,血性腹水が採取されれば,絞扼性イレウスの確定診断の参考にはなるが,必ずしも有効ではなく,腹水採取のための穿刺針が血管や腸管を誤って突くリスクがあることが認められ,控訴人病院の担当医師が腹水検査をしなかったことをもって,過失と断じることはできず,また,これによって,手術時期の決定が早まった可能性は低いというべきである。 被控訴人らは,Cに対する開腹手術が,腸管切除しなければならなくなる前に実施できた場合,救命できた可能性がより高かったと主張する。しかしながら,これを認めるに足りる証拠はなく,かえって,当審鑑定の結果によれば,一般に,絞扼性イレウスは急性のものであり,絞扼性イレウスが完成して12時間以内に手術できればよいことが認められ,前記認定のとおり,Cに腸管壊死が生じていなかったことを併せ考えると,Cに対する開腹手術が,腸管切除しなければならなくなる前に実施できたとしても,救命の可能性が高かったと判断することはできない。なお,当審鑑定の結果によれば,本件の場合,むしろ縫合不全やDICなどの全身状態の方が救命・致死に関係していることが認められる。 4 控訴人病院担当医 命の可能性が高かったと判断することはできない。なお,当審鑑定の結果によれば,本件の場合,むしろ縫合不全やDICなどの全身状態の方が救命・致死に関係していることが認められる。 4 控訴人病院担当医師らに縫合不全を招いた過誤とこれに対する適切な措置の遅れがあったか否か(争点2)について(1) 手術時の縫合操作は適切であったか否か。 前記認定の事実によれば,Cの小腸吻合部に縫合不全が生じていることは認められるが,その原因が手術時の縫合操作の不備にあったと認めるに足りる証拠はない。かえって,前記認定のとおり,手術直後のドレーンからの排液に汚濁が認められなかったことから,縫合操作は適切であったことが裏付けられており,証拠(乙18,当審鑑定の結果)によれば,縫合操作の手法自体も,適正であったこと及び縫合不全が生じたのは,吻合部局所だけでなく全身的にも循環動態不良に陥り,また,腹腔内感染症が吻合部の炎症や浮腫を増長させたからであると認められる。 なお,被控訴人らは,小腸を吻合せず,人工肛門を増設しておれば,縫合不全も防止でき,Cが敗血症になることもなかったと主張するが,前記認定のとおり,縫合不全自体が,感染症により引き起こされたものであり,また,手術の際に採取されたCの腹水に,病的細菌が存在していたのであるから,小腸を吻合しなくても,Cが敗血症になった可能性も高かったものと認められる。 (2) Cに対し,早期に再開腹手術をしていれば,救命できた可能性が高かったといえるか否か。 ア被控訴人らは,3月6日の時点で,Cの縫合不全が臨床的に明らかになったところ,その時点から3月9日に正中創から多量の便汁のもれが認められるまで,Cの病状は,再手術に耐えられないほど悪くはなかったのであり,小腸縫合不全による腸液漏出においては,自然治癒は望 かになったところ,その時点から3月9日に正中創から多量の便汁のもれが認められるまで,Cの病状は,再手術に耐えられないほど悪くはなかったのであり,小腸縫合不全による腸液漏出においては,自然治癒は望めないことが多いのであるから,3月6日から3月8日までに再開腹手術をすべきであったと主張する。確かに,当審鑑定の結果によれば,小腸縫合不全による腸液漏出においては,自然治癒は望めないことが多いことが認められるが,一方,前記認定の事実及び当審鑑定の結果によれば,Cは,3月3日に最初の敗血症ショックに陥り,その後敗血症の治療が続けられたにもかかわらず,敗血症が治癒することはなかったのであるから,3月8日までに再開腹手術を行っていたとしても,同様の経過をたどって,Cが死亡した可能性も高く,被控訴人らのこの点の主張は理由がない。 なお,被控訴人らは,3月3日のCの症状は,敗血症ショックではなく,輸液過剰による肺水腫によるものであると主張する。しかしながら,前記認定のとおり,手術時に採取された腹水や,3月4日に採取された膿に病的細菌が認められたことに加え,当審鑑定の結果によれば,前記認定の3月3日におけるCの検査データは,全身性炎症性反応症候群の診断基準を満たしていることが認められる。 イ被控訴人らは,平成6年3月9日にダグラス窩のドレーンからの排出が止まって,本件ドレナージが有効に機能しなくなったのであるから,この時点で再開腹手術をして,ドレーンを設置し直すべきであったと主張する。確かに,前記認定のとおり,腸内容物が正中創から漏出し,ダグラス窩からのドレーンの排出が減少したことが認められる。しかしながら,当審鑑定の結果によれば,一般に複数のドレーンが留置されている場合には,一つが詰まったら近くにあるほかのドレーンから排出するのが普通であ らのドレーンの排出が減少したことが認められる。しかしながら,当審鑑定の結果によれば,一般に複数のドレーンが留置されている場合には,一つが詰まったら近くにあるほかのドレーンから排出するのが普通であって,複数ドレーンが同時に閉塞することは極めてまれであることが認められる上,前記認定のとおり,腹部CT検査の結果,Cの腹部に膿瘍が認められなかったのであるから,本件ドレナージが有効に機能していたものと認められる。したがって,ドレーンを設置し直すために再開腹手術をする必要性があったものと判断することはできない。 ウ当審鑑定によれば,一般的に,小腸縫合不全による腸液漏出においては,大腸とは異なり,自然治癒は望めないことが多いので,吻合部より口側の回腸に,又は縫合不全部に係蹄式人工肛門を造設して,腹膜炎手術を実施することになるものであるが,本件の場合,Cは,敗血症やDIC傾向に対する早期治療にもかかわらず,それらが存続しており,このために必要な約2時間の再開腹手術による手術侵襲に耐えうる状態ではなかったものと認められる。 エその他,控訴人病院担当医師らに縫合不全を招いた過誤とこれに対する適切な措置の遅れがあったと認めるに足りる証拠はない。 5 以上によれば,被控訴人らの請求はいずれも理由がない。 6 よって,原判決中,控訴人敗訴部分を取り消し,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第4部裁判長裁判官草野芳郎裁判官廣永伸行裁判官山口浩司 伸行裁判官 山口浩司

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