令和2(わ)773 嘱託殺人、有印公文書偽造

裁判年月日・裁判所
令和5年12月19日 京都地方裁判所
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判決文本文14,514 文字)

判決要旨令和5年12月19日宣告令和2年(わ)第773号、第1021号嘱託殺人、有印公文書偽造被告事件 主文 被告人を懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 京都地方検察庁で保管中のメディカルレポート2通(令和3年領第206号符号1-1、1-2)の各偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実) 第1 被告人は、甲と共謀の上、令和元年9月28日午後7時20分頃から同日午後8時45分頃までの間に、福岡市a区b所在のc空港内において、行使の目的で、Aの病歴、病状及び予後等が記載され、d大学病院の記名及び医師・医学博士「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」との記名のある英文のメディカルレポート2通の各署名欄に、被告人において「C(注:Cの名をアル ファベットで表記)」と署名し、もって公文書である国立大学法人d大学d大学病院医師・医学博士「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」作成名義のメディカルレポート2通(主文掲記のもの)を偽造した。 第2 被告人は、甲と共謀の上、令和元年11月30日午後5時21分頃から同日午後5時37分頃までの間に、京都市e区内のB方において、筋萎縮性側索硬 化症(ALS)に罹患していた同人(当時51歳)の嘱託を受け、殺意をもって、ペントバルビタール相当量を同人の身体に造設されていた胃ろうから胃内に注入し、よって、同日午後8時10分頃、同市f区内の病院において、同人を急性ペントバルビタール中毒により死亡させて殺害した。 (証拠) 省略 (事実認定の補足説明)第1 第1の事件(有印公文書偽造)について 1 争点等被告人が、甲の指示の下、判示日時場所において、Aから手渡 て殺害した。 (証拠) 省略 (事実認定の補足説明)第1 第1の事件(有印公文書偽造)について 1 争点等被告人が、甲の指示の下、判示日時場所において、Aから手渡されたメディカルレポートと題する文書2通(以下「本件各文書」という。)に「C(注: Cの名をアルファベットで表記)」と署名したこと、本件各文書の文案は甲がAと連絡を取り合って作成したものであることは関係証拠上明らかであり、当事者間に争いもない。 本件の争点は、①本件各文書が公文書に該当するか、②被告人が共同正犯の罪責を負うかである。 2 争点①(本件各文書の公文書該当性)について関係証拠によれば、本件各文書は、いずれも①「MedicalReport」と題し、英語で表記された3頁からなる書面であり、各頁のヘッダー部分にはd大学病院の記名と同病院の所在地が記載され、同大学医学部のロゴマークが印字されており、②患者であるAの氏名や生年月日等の個人情報のほか、「私の検診に 基づき、下記の情報を提供します。」との文章に続いて現在の病状等について記載され、③末尾の記名欄には、「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」との記名に続いて医師・医学博士を意味する「M.D、Ph.D」との記載があり、その下の署名欄には、「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」との署名があることが認められる。 以上の記載内容を含む本件各文書の体裁からすれば、本件各文書は、一般人から見て、国立大学であるd大学の附属病院(d大学病院)の医師が患者の病状等について職務上作成したものと信ずるに十分な形式、外観を備えたものであることは明らかである。そして、d大学病院は、国立大学法人d大学の附属病院であり、同病院の職員は公務員とみなされる(国立 の病状等について職務上作成したものと信ずるに十分な形式、外観を備えたものであることは明らかである。そして、d大学病院は、国立大学法人d大学の附属病院であり、同病院の職員は公務員とみなされる(国立大学法人法19条)か ら、本件各文書は、公務員の作成すべき文書、すなわち公文書に該当すると認 められる。 なお、本件において、検察官は、「MedicalReport」と題する文書を「診断書」と和訳して起訴したものであるが、起訴の対象とされた文書が本件各文書(メディカルレポート)のことをいうことは明らかであるから、判示のとおり認定する(弁護人は、検察官が本件各文書(メディカルレポート)を「診断書」 と和訳して起訴したことを論難するが、上記認定・判断を何ら左右しない。)。 3 争点②(共同正犯の成否)について関係証拠によれば、被告人は、甲から、C医師になりすましてAと会った上で、甲がAと連絡を取り合って作成した診断書をAが持参するので、その診断書に「C(注:Cの名を漢字で表記)」として署名するよう依頼され、それを 了承した上で、判示日時場所においてAと会い、同人が持参した本件各文書の形式・内容を確認した上で、それらにそれぞれ「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」と署名したことが認められる。 以上の事実関係からすれば、本件各文書に「C(注:Cの名をアルファベットで表記)」と虚偽の署名をすることについての被告人と甲との間の共謀に基 づき、被告人が本件各文書の形式・内容を確認した上で、その署名を行ったと認められる。そして、弁護人が主張するように本件各文書の文案について被告人が関与していないとしても、被告人が正に偽造行為たる署名を行っている以上、幇助犯に留まらず共同正犯の罪責を負うことは明らかである。 れる。そして、弁護人が主張するように本件各文書の文案について被告人が関与していないとしても、被告人が正に偽造行為たる署名を行っている以上、幇助犯に留まらず共同正犯の罪責を負うことは明らかである。 4 まとめ 以上の次第で、被告人が甲と共謀して公文書である本件各文書を偽造したとの事実を認定した。 第2 第2の事件(嘱託殺人)について 1 争点等筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患していたBがSNSで知り合った甲に 対して自らの殺害を嘱託したこと、甲が令和元年11月30日午後5時21分 頃から同日午後5時37分頃までの間に、B方マンションの居室内において、Bの身体に造設されていた胃ろうから胃内にペントバルビタール相当量を注入し、その結果、Bが同日午後8時10分頃、搬送先の病院において急性ペントバルビタール中毒により死亡が診断されたことは関係証拠上明らかに認められる。 本件の争点は、被告人が甲と共謀してBを殺害したと認められるか否かである。 2 認定事実関係証拠によれば、次の事実が認められる。 (1) 被告人の経歴、甲との関係等 被告人は、平成12年4月にg大学医学部医学科に入学し、平成14年春頃、h大学医学部医学科に在籍していた甲と知り合った。その後、被告人は、大学を退学していたが、当時、厚生労働省において医師国家試験の受験資格認定審査業務に携わっていた甲の指南を受け、平成21年3月に厚生労働省に内容虚偽の資料を提出して医師国家試験受験資格認定を受け、平成22年 3月に医師国家試験に合格して同年5月に医師免許を取得し、その後も甲とは連絡を取り合う仲であった。 なお、甲は、平成22年3月に厚生労働省を辞職し、同年4月からd大学法医学教室助教の職に就き、平成30年5月 国家試験に合格して同年5月に医師免許を取得し、その後も甲とは連絡を取り合う仲であった。 なお、甲は、平成22年3月に厚生労働省を辞職し、同年4月からd大学法医学教室助教の職に就き、平成30年5月から宮城県i市内でj呼吸器内科・メンタルクリニックを開業して医師として勤務していた。 (2) 本件当時のBの状況等ア Bは、平成24年にALSの診断を受け、同年5月以降、D医師が主治医となった。 イ Bは、嚥下機能の低下により飲食物の経口摂取が困難な状態となっており、平成25年に胃ろう造設手術を受け、介護者が栄養補助剤を胃ろうに 注入することで栄養摂取をしていた。また、Bは、平成25年以降、寝た きりの状態にあり、本件当時、自己の意思で動かすことのできる部位は、眼球、瞼及び顔面の一部に限られ、B方において、訪問介護士等による24時間体制の介護等を受けていた。 (3) 本件当日に至るまでの経過ア Bは、令和元年(以下、特に断りのない限り、令和元年のこととする。) 10月25日、甲に対し、SNSのダイレクトメッセージを送信し、自身の病状や安楽死を希望している旨を伝え、以後、甲と連絡を取り合うようになった。 イ甲は、11月2日、被告人に対し、「しごと」との件名で、詳細は今度話すが、銀行口座を教えてほしい、入金があるので手数料を抜いて自分にく れればよい旨のメールを送信した。これを受けて、被告人は、同月3日、甲に対し、自身の銀行口座を記載したメールを送信した。 ウ甲は、Bとの間で、11月7日から同月8日にかけて、甲がB方に赴いてBを殺害する旨の合意を遂げた。 エ甲は、11月7日、被告人に対し、近々京都に行く用事がないか尋ねる とともに、ALS患者の家に行って家の様子などを見てほしい旨依頼する 、甲がB方に赴いてBを殺害する旨の合意を遂げた。 エ甲は、11月7日、被告人に対し、近々京都に行く用事がないか尋ねる とともに、ALS患者の家に行って家の様子などを見てほしい旨依頼する内容やB方の住所を記載したメールを送信した。 オ甲は、被告人に対し、11月16日、「こないだの話だけど、関西で仕事があるときに京都で落ち合えんね。一時間で終わるんだけども」と記載したメールを、同月17日、「年内くらいかな振込があると思うんだが、金 額は不明それを見て動く感じで」と記載したメールをそれぞれ送信した。 被告人は、同月18日、甲に対し、「金額が不明って、金額設定がテキトーなのやねえ?それじゃビジネスにならんと思うけど大丈夫なんかな」などと記載したメールを送信した。甲は、同日、被告人に対し、「事情はメールではいえんのどすえ。。詳細がわかればまた連絡します」などと記載した メールを送信した。被告人は、同日、甲に対し、「細かい事情は全然NPっ す。」と記載したメールを送信した。 カ甲は、11月19日、被告人に対し、「医療に紛れて殺害マニュアル」と題する文書を被告人に対して送信した。 なお、被告人は、平成23年頃に甲との間で自身の父親の殺害計画を立てて準備したことがあり、令和元年9月には判示第1の公文書偽造に関し て甲の依頼を受けて偽造行為に協力するなどしていたほか、これまでの甲とのやり取りを通じるなどして、甲が安楽死や医療に紛れて人を殺害することに興味を持っていることを認識していた。 キ Bは、11月21日及び同月23日、ヘルパーに依頼し、甲の指示した被告人名義の銀行口座に合計130万円を振込送金する手続をとった。 ク被告人は、11月21日、甲との間で、130万円ぐらいの入金があること、被告 同月23日、ヘルパーに依頼し、甲の指示した被告人名義の銀行口座に合計130万円を振込送金する手続をとった。 ク被告人は、11月21日、甲との間で、130万円ぐらいの入金があること、被告人の口座に同日、50万円の入金があったこと、翌日と翌々日に更に入金があることを共有した上で、甲に対し、「思ってた金額ゾーンと全然違うので、さすがに早期に動かないとまずいのかと思った。まだ確定じゃないけど、11/29(金)に京都入りする可能性あり。」と記載した メールを送信した。 ケ甲は、11月24日、Bに対し、早ければ月内に訪問する旨伝え、さらに、同日から同月28日にかけてのBとのやり取りの中で、B方には常時ヘルパーがいることを把握した上で、不信感をもたれない方法として、東京の友人としてB方を訪問し、ヘルパーには席を外してもらうことを確認 したが、ヘルパーの存在を懸念していた。 コ被告人は、11月25日、Bが振込送金手続をとった130万円を出金した上、別の被告人名義の銀行口座に入金し、その翌日までには全額被告人自身の支払に費消した。 サ被告人と甲との間で11月26日から同月27日まで京都に行く日程調 整に関するやり取りがあり、同日、甲から被告人に対し、「ひとりでケリつ けるかなあ」と記載したメールを送信した。さらに、被告人から甲に対し、「29日京都行くとしたら、特に時間帯の指定とかはなし?あと現地で必要な時間はそれほど長くないんだっけ?」と記載したメールを送信し、甲が「現地では30分~1時間で退散できる予定。」などと返信した後、被告人と甲は通話した上で、11月30日の夕方に京都で落ち合うことを約束 した。 (4) 本件当日(11月30日)の経過ア被告人は、午後4時5分頃、B方付近に所在するk 城 と返信した後、被告人と甲は通話した上で、11月30日の夕方に京都で落ち合うことを約束 した。 (4) 本件当日(11月30日)の経過ア被告人は、午後4時5分頃、B方付近に所在するk 城の写真を撮影し、その写真をSNSに投稿した。 イ甲と被告人とは個別に京都市内まで移動した後、午後4時48分頃、B 方付近のホテルラウンジで合流した上でB方に向かった。 ウ甲と被告人は、午後5時21分頃、B方を訪問した。当時、B方には、BのほかはヘルパーのEのみが在宅しており、甲はインターフォンを通じてヘルパーのEに対して、自身を鈴木と名乗った。 エ B方はいわゆるワンルームマンションであるところ、ヘルパーのEは、 甲と被告人をBが過ごしている居室(B居室)に案内した上、自身は同居室とドアを挟んだ廊下部分にいた。甲と被告人は、同居室に案内されてからB方を退去するまでの間、同居室内から出ることはなかった。 オヘルパーのEは、被告人らがB居室に滞在している間、数回、ノックし、失礼しますなどと告げた上でドアを開けることがあり、最初の2回ははさ みやペンを取りに入室し、3回目はドアの近くに被告人がいたことからドアを開けきらずに入室することなく、被告人に対してペンとメモ帳を渡した上で氏名を記載するよう依頼して退室した。被告人は、同メモ帳に自身の名を「佐々木誠」と記載するなどした上で、ヘルパーのEに同メモ帳を渡した。 カ甲と被告人は、午後5時37分頃にB方から退去したが、甲は、遅くと もそれまでの間に、被告人が同室しているB居室内において、Bの身体に造設されていた胃ろうから胃内にペントバルビタール相当量を注入した。 キヘルパーのEは、甲と被告人が退去した直後、Bの異変に気付き、当番看護師に連絡するなどし、 ているB居室内において、Bの身体に造設されていた胃ろうから胃内にペントバルビタール相当量を注入した。 キヘルパーのEは、甲と被告人が退去した直後、Bの異変に気付き、当番看護師に連絡するなどし、午後5時51分頃には主治医であるD医師がB方に駆け付け、午後6時41分頃にはBが病院に搬送されるも、午後8時 10分頃、Bの死亡が診断された。死因は、胃ろうから胃内にペントバルビタール相当量を注入されたことによる急性ペントバルビタール中毒である。 ク被告人と甲は、B方を退去後、午後6時48分頃、京都発東京行きの新幹線に乗車し、それぞれ帰路についた。 3 争点に対する判断(1) 前記認定事実に基づく推認についてア前記2(3)及び(4)によれば、甲は、遅くとも11月7日から同月8日にかけて、Bの依頼に基づき、B方に赴いてBを自然死に見せかけて殺害することを決意し、その計画を実行するために被告人に対して京都への同行 を依頼した上、同月30日、被告人と共にB方を訪れ、B居室内に甲、被告人及びBの3名がいる中でBの胃ろうにペントバルビタールを注入してBの殺害を実行したことが認められる。また、このような殺害方法等からすれば、甲がペントバルビタール等を事前に準備してB方に赴いたことが認められるところ、甲としては、B居室内で同薬品を胃ろうに注入する方 法も含めた殺害計画を事前に立案していたことが推認でき、だからこそ、犯行の発覚を防ぐためにB方に常駐しているヘルパーの存在を懸念していた(前記2(3)ケ)と考えられる。 以上の事情からすれば、甲は、Bを殺害するに当たってヘルパーに犯行を気付かれないようにすることを主要な目的として被告人に同行を依頼し たと考えるほかなく、その他の目的で被告人に同行を依頼したとは考え 事情からすれば、甲は、Bを殺害するに当たってヘルパーに犯行を気付かれないようにすることを主要な目的として被告人に同行を依頼し たと考えるほかなく、その他の目的で被告人に同行を依頼したとは考え難 い。 そこで、甲がこのような目的を被告人に対して事前に伝えていたかが問題になるところ、ヘルパーに犯行を気付かれないようにするためには、被告人に目的や担ってほしい役割を事前に説明しておく必要性が相当に高い反面、仮に、被告人に対して事前にそのような目的等を正しく説明して いない場合、被告人のその場での対応によっては、犯行がスムーズに進まなかったり、結果、ヘルパーに犯行が発覚したりするなどのリスクが生じることは容易に想定できる。甲がそのようなリスクがありながら、事情も告げずに被告人に同行を依頼するとは考え難い。そして、現実に甲が、被告人が同室している、さほど広くないB居室内で殺害行為に及んでいるこ とや、甲が本件以前から、安楽死や医療に紛れて人を殺害することに興味を持っていることを被告人に隠すことなく伝えたり、以前にも被告人と甲との間で被告人の父親の殺害計画を立て、あるいは判示第1の公文書偽造についても甲の依頼を受けて被告人が協力する関係にあったこと(前記2(3)カ)からすれば、甲が被告人にB殺害の目的を隠さなければならない事 情はなかったと認められる。また、後記(2)イで説示するとおり、甲が事前に被告人に対してBの殺害計画等を知らせていたとすれば説明がつかないような事情もない。 以上によれば、甲があえて同行させた被告人に対し、Bを殺害するという目的やヘルパーの存在の懸念を伝えることなく、被告人が同室している、 さほど広くないB居室内で突如としてBを殺害するに至ったとは到底考え難いのであって、甲が本件犯 人に対し、Bを殺害するという目的やヘルパーの存在の懸念を伝えることなく、被告人が同室している、 さほど広くないB居室内で突如としてBを殺害するに至ったとは到底考え難いのであって、甲が本件犯行以前に被告人に対してBの殺害やヘルパーの存在の懸念を伝えていたと推認することができる。 イその上で、被告人が甲の依頼の下でB方へ同行し、ヘルパーがB居室に入室するなどした際には専ら被告人が対応していたこと(前記2(3)オ、サ、 (4)ウ、オ)、被告人が同室しているB居室内で甲がBの殺害行為を実行し ていること(同カ)、さらに帰路までの両名の行動について当初の計画から逸脱したことを示すような破綻が見当たらないことからすれば、被告人が事前に伝えられた甲の目的を認識し、了承した上で協力していたと推認することができる。 (2) 弁護人の主張について ア以上に対し、弁護人は、甲と被告人との間には共謀が認められない旨主張し、その根拠として、①証拠上、甲が本件当日までに被告人との間で具体的な殺害計画の内容についてやり取りをした事実はうかがわれず、第三者に見られることを前提にしていないメールのやり取りにおいても、ALS患者の家に行って家の様子を見てほしいとの甲の依頼しかなく、殺人計 画の片鱗も垣間見えないこと、②甲はヘルパーさえいなければ犯行を完遂できると考えていたのであるから、犯行の全貌を事前に伝える必要はなく、別室でヘルパーの相手をしておくことのみを依頼すれば足りたこと、③被告人が本件犯行直前に京都市内にいることが分かるような写真をSNSに投稿していること、④被告人は、B方を訪れる際、マスクで顔を隠すなど していないこと、⑤被告人が、ヘルパーのB居室内への立入りを阻止していないこと、⑥医師である甲が被告人に気 な写真をSNSに投稿していること、④被告人は、B方を訪れる際、マスクで顔を隠すなど していないこと、⑤被告人が、ヘルパーのB居室内への立入りを阻止していないこと、⑥医師である甲が被告人に気付かれないままペントバルビタール注入の準備をすることは不可能とはいえず、注入自体はすぐに終わり、注入さえ始めれば後から気付いた被告人に止められるという心配をする必要はないことを指摘する。 イしかしながら、甲は、被告人に対してメールでは事情をいえない旨伝えている(前記2(3)オ)上、少なくとも京都に行く日程が決まる前には両者で通話していること(同サ)や他の連絡手段もあることからすれば、具体的な殺害計画等については証拠に残らないよう配慮したとも考えられ、そのようなやり取りが残っていなかったとしても不自然とまではいえない。 かえって、甲が被告人に送った「ひとりでケリをつける」というメッセー ジ(同サ)は、単なる転院や渡航申請の書類のやり取りや相談といった用件にはそぐわない表現となっているし、被告人が甲に送った「思ってた金額ゾーンと全然違うので、さすがに早期に動かないとまずいのかと思った。」とのメッセージ(同ク)は被告人がその報酬をどのような仕事の対価なのか具体的に念頭に置いた上での発言と理解できる(前記①)。 また、甲にとって、ヘルパーの対応のみならず目的や犯行計画全体を被告人に伝える必要性が相当高かったことや、甲が被告人に何ら告げずに殺害行為を実行することが到底考え難いことは、前記(1)で述べたとおりである(前記②、⑥)。さらに、当初から自然死を装おうとしていたことからすれば、甲や被告人の認識として事件化することはないと考えて計画を実 行に移していたといえるのであり(現に、被告人の供述を前提にしても、被 )。さらに、当初から自然死を装おうとしていたことからすれば、甲や被告人の認識として事件化することはないと考えて計画を実 行に移していたといえるのであり(現に、被告人の供述を前提にしても、被告人は甲がいずれはBを殺害する可能性を感じた上で、偽名を名乗るなどしていながらも顔を隠すなどはしていない。)、そうであれば、被告人が犯行直前にSNSに投稿したことや、顔を隠すなどしていなかったことが、被告人が甲の計画を知らなかったことの裏付けになるとまでは評価でき ない(前記③、④)。 被告人がヘルパーのB居室内への立入りを阻止していない点についても、その時点で甲が殺害の準備等を始めていなければ、立入りを阻止する必要はない。また、ヘルパーは、B居室内に入る前には必ずノックをし、ひと声かけてから入室しているのであるから、甲において犯行等が発覚しない ような対応を取ることは可能であり、被告人がヘルパーの立入りを阻止するまでの必要がなかったとみることもできる。いずれにせよ、前記(1)のとおり、専ら被告人がヘルパーの対応を担っていたことに変わりがない(前記⑤)。 ウ以上のとおり、弁護人の上記主張をもって前記(1)の認定・判断を左右さ せるものとは評価できない。 (3) 被告人の供述についてア以上に対し、被告人は、要旨、①甲からは事前に殺害計画につき何ら聞かされておらず、詳しくは京都で話すと言われ、京都で落ち合うことになり、被告人としては、尊厳死を望むALS患者の家に行き、甲が書類のやり取りか渡航の相談などを行うものだと考えていた、②甲が将来的にBを 殺害するかもしれないということが頭をよぎった気がするが、現実的・具体的なこととしては考えていなかった、③京都で甲と会った後も、甲からは、被告人は甲の うものだと考えていた、②甲が将来的にBを 殺害するかもしれないということが頭をよぎった気がするが、現実的・具体的なこととしては考えていなかった、③京都で甲と会った後も、甲からは、被告人は甲の友人として同行することになっており、何もしなくてよいが、部屋は二つあるので、ヘルパーがいる方の部屋で世間話でもしていてくれればよいと伝えられた、④B方に入ると、B居室の手前のスペース が狭かったことなどから、甲と共にB居室内に留まることになり、甲がBと文字盤を通じて会話する様子を見るなどしていた、⑤途中、ヘルパーからペンとメモ帳を渡されて名前を書くよう依頼されたことから、偽名を記載するなどした上、半開きの状態のドアの向こうにいるヘルパーにメモ帳を返却したところ、ドアから振り返ると甲が右手に持ったシリンジで胃ろ うチューブから何らかの液体を注入している様子が目に入ったが、甲から、向こうを向いておくよう言われたことで、ドアの方を向いた、⑥その後、すぐに甲が帰ろうと言ったことから、ヘルパーに声をかけて二人でB方を退去し、帰路の途中、甲から、胃ろうにラボナ(ペントバルビタールの商品名)を注入したことや、朝にはBの呼吸が止まって主治医が自然死、病 死として扱うはずであるといった説明を受けたが、甲がこのようなことをするとは考えもしなかった旨供述する。 イしかしながら、甲があえて同行させた被告人に対し、Bを殺害するという目的やヘルパーの存在の懸念を伝えることなく被告人が同室する中で突如としてBを殺害するに至ったという供述内容自体が不自然というほかな いし、わざわざ京都に出向いたり、偽名を用いてB方を訪れたりするに当 たり、甲の目的も聞かずに被告人が納得して同行するとも考え難い。そもそも、甲自身がB方を訪問するのであ うほかな いし、わざわざ京都に出向いたり、偽名を用いてB方を訪れたりするに当 たり、甲の目的も聞かずに被告人が納得して同行するとも考え難い。そもそも、甲自身がB方を訪問するのであれば、B方の様子を確認したり、書類のやり取りや渡航の相談などをしたりするためだけに甲に加えて被告人までもが同行する必要性は乏しいところ、それでも被告人が日程を調整してまで京都まで赴くには、それらを超えるような目的で、かつ、甲とBと のメールなどでのやり取りだけでは済まされない目的を甲から聞かされていたからであると考えるのが自然である。 また、被告人において、甲が将来的にBを殺害するかもしれないという考えが頭をよぎったのであれば、B方への同行がB殺害のための準備等につながることは容易に予想できるから、そのような状況認識の下では、当 日の甲の目的を聞いてしかるべきである。 被告人は、「細かい事情は全然NPっす。」とのメールを甲に送っていることについて、「NP」はノープロブレムの略で、甲の事情は関心がないという意味でメッセージを送ったと供述するが、このようなメールの記載だけで、被告人が、犯行時に甲の目的を聞いていなかったということにはな らない。 さらに、判示第1の事案においては、その対価等として6000円を受け取ったにすぎなかったのに対し、Bからは合計で130万円もの金額が振り込まれたことだけからでも、判示第1の事案とは比較にならない重大な依頼がされていることは容易に認識でき、単なる書類のやり取りや渡航 の相談などであると思っていたとは到底認められない。 また、甲は、Bから、B方がワンルームであることを聞いていたことが認められることからすれば、甲から、B方は二部屋あり、別室でヘルパーの相手をするようにいわれたとか、甲 ていたとは到底認められない。 また、甲は、Bから、B方がワンルームであることを聞いていたことが認められることからすれば、甲から、B方は二部屋あり、別室でヘルパーの相手をするようにいわれたとか、甲がB方がワンルームであるのを見てびっくりしていたなどという被告人の供述も信用し難い。 加えて、被告人は、捜査段階において、甲がB居室内でBを安楽死させ ることに気付いて甲を制止したが、甲が大丈夫と言ったので安楽死させるのをやめて違う薬物を投与するものと信じ込んだ旨供述しており、その供述内容の核心部分において変遷が見られるところ、身体拘束を受けた直後であったという被告人の精神状態を踏まえても、その変遷の理由につき合理的な説明をなし得ていないというべきである。 以上によれば、被告人の上記供述は信用できない。 (4) 以上の事実認定を踏まえた検討ア以上によれば、甲は、本件犯行の実行に当たり、犯行の発覚を防ぐためにヘルパーの存在を懸念していたところ、被告人は、甲からBの殺害計画を聞いた上でB方への同行を依頼されてそれを了承し、甲と共にB方へ赴 き、甲がB居室内でBの殺害行為を実行する間、同室した上で時折入室するなどしたヘルパーの対応をしたことが認められ、本件犯行の実現に当たって、B方にいるヘルパーの対応は重要な役割を有していたと評価できる。 さらに、前記2(3)コのとおり、被告人は、Bからの報酬であると認識しながら合計130万円を本件犯行より前に自己の用途に全額費消したと認 められるのであって、被告人としては本件犯行の遂行に関して、自らも利害関係を有するに至っていたといえる。 以上によれば、被告人は、甲と共謀の上、本件犯行に関して利益を得るなど自らも利害関係を持ちながら重要な役割を果たしたの 件犯行の遂行に関して、自らも利害関係を有するに至っていたといえる。 以上によれば、被告人は、甲と共謀の上、本件犯行に関して利益を得るなど自らも利害関係を持ちながら重要な役割を果たしたのであるから、被告人は共同正犯の罪責を負うというべきである。 イ以上に対し、弁護人は、本件犯行の経過や実行行為の態様、見張りをしたにすぎないという被告人の関与状況に照らせば、被告人には幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。 しかしながら、被告人が殺害計画の立案に積極的に関与しておらず、被告人の果たした役割が見張りにとどまるとはいえ、本件犯行の発覚を防止 するにはヘルパーに怪しまれずに自然死に見せかけることが必要不可欠 であり、そのためにヘルパーの対応を行うことは、本件犯行の実現に重要な役割を有していたといえるのであって、弁護人の上記主張は採用できない。 ウ以上の次第で、被告人が甲と共謀してBを殺害したと認定した。 (法令の適用) 省略(量刑の理由) 1 本件は、被告人が、医師仲間である知人と共謀して、①海外での安楽死を望む難病患者の依頼を受けてそれに必要な国立大学病院医師・医学博士名義のメディカルレポート2通を偽造した有印公文書偽造(第1の事実)と、②ALS患者の 嘱託を受けて同患者を殺害した嘱託殺人(第2の事実)からなる事案である。 2(1) まず、嘱託殺人(第2の事実)についてみるに、被告人らは、自然死を装い、犯行の発覚を疑われることなく犯行を完遂するため、事前に用意した薬品を胃ろうに注入してBを殺害しているところ、その計画性は高い上、医師としての知識を悪用している点で悪質な犯行態様といえる。 また、有印公文書偽造(第1の事実)については、海外での安楽死のために ろうに注入してBを殺害しているところ、その計画性は高い上、医師としての知識を悪用している点で悪質な犯行態様といえる。 また、有印公文書偽造(第1の事実)については、海外での安楽死のために用いられることが予定されていたことを踏まえれば、国立大学病院の医師が作成する文書に対する信用を害する危険性の高い悪質な犯行である。 (2) 他方で、弁護人も指摘するとおり、嘱託殺人については、Bは、ALSに罹患しており、日々自らの命を絶つことを望みながら病状上それをなし得ず、そ の手段として他者に自らの殺害を依頼するほかなかったことがうかがわれるのであって、このようなBの真摯な嘱託に基づいた本件犯行は、自殺幇助に近い側面もあり、そのような状況にない者を被害者とする他の嘱託殺人の事案と同列に扱うことは相当でない。また、Bが苦痛なく死亡したとうかがわれることも、量刑上相応に酌むべき事情というべきである。 3(1) 次いで、被告人に対する責任非難について検討する。 被告人らは、医師としての職責上、人命を守り、高度の倫理性を持つことが求められていたにもかかわらず、その立場を利用し、SNSを通じて素性を偽るなどしながら、ALS患者等から安楽死あるいは安楽死のための診断書等の作成の依頼を受け、対価を得た上で、いわばビジネスとして本件各犯行に及んだものと認められる。嘱託殺人については、Bにとっては他に命を絶つ手段が なかったにせよ、被告人らは、医師という立場にありながら、その日会ったにすぎないBを、わずか15分程度の間に、ろくに診察することもなく、主治医や親族等にも秘密裏に殺害に及んでいる。これらの事情からすれば、被告人らが本件各犯行に及んだ意思決定は強い非難に値するというべきである。 (2) その上で、被告人個別の事情をみ ることもなく、主治医や親族等にも秘密裏に殺害に及んでいる。これらの事情からすれば、被告人らが本件各犯行に及んだ意思決定は強い非難に値するというべきである。 (2) その上で、被告人個別の事情をみる。 本件各犯行は共犯者が主導・立案したものであり、被告人は主として共犯者の依頼を受けてその指示に従っていたにすぎず、従属的な立場にあったとはいえる。しかしながら、嘱託殺人については、報酬の全額を費消し、犯行現場に同行して犯行遂行のための重要な役割を担っているし、有印公文書偽造については、自ら偽造行為たる署名という犯行に不可欠な役割を果たしている。また、 共犯者が主導していたにせよ、被告人は、いずれの場面でも安易に犯行に加担している上、B又は文書の交付相手に対する真摯な気持ちから本件各犯行に及んだとは到底うかがわれず、その動機・経緯に酌むべき事情もない。 4 以上によれば、被告人の刑事責任は重いのであって、嘱託殺人事件の多くに執行猶予が付されているといった量刑傾向を踏まえても、本件については、実刑は 免れないといわざるを得ない。その上で、前示のとおり、嘱託殺人について自殺幇助の側面があることやBに苦痛を与えずに殺害しているとうかがわれることなどの面で、実刑となったほかの嘱託殺人の事案と比較すれば、その犯情が殊更に重いとはいえず、加えて、被告人に前科が見当たらないこと、さらに、同時審判の可能性があった殺人の罪により懲役13年の判決の宣告を受けており(控 訴中)、その刑と併せて相当長期間服役する可能性があることなどの事情も考慮 して、量刑した(なお、未決勾留日数の算定においては、前記判決において算入されている分などを考慮して算定した。)。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑・懲役6年、主文同旨の没収 して、量刑した(なお、未決勾留日数の算定においては、前記判決において算入されている分などを考慮して算定した。)。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑・懲役6年、主文同旨の没収)令和5年12月19日 京都地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官川上宏裁判官檀上信介裁判官中谷洸

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