昭和56(オ)1094 売掛金

裁判年月日・裁判所
昭和61年9月11日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 昭和53(ネ)2478
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【DRY-RUN】主    文      本件上告を棄却する。      上告費用は上告人の負担とする。          理    由  上告代理人吉永多賀誠の上告理由第一点及び第五点について  一 原審の確定した本

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判決文本文4,784 文字)

主    文      本件上告を棄却する。      上告費用は上告人の負担とする。          理    由  上告代理人吉永多賀誠の上告理由第一点及び第五点について  一 原審の確定した本件の事実関係は、次のとおりである。  1 被上告会社は、たばこ製造機械及び小型デイーゼルエンジンの製造販売を業 とし三つの工場を有する株式会社であつたところ、専ら小型デイーゼルエンジンの 製造販売に当たつていたE工場の営業を一括して他に譲渡しようと考え、昭和三三 年末ころ訴外Dに対し新会社を設立してE工場の営業を買い取るよう働きかけたと ころ、Dとの間で昭和三四年三月三一日、(一) 被上告会社は、新会社の設立発起 人代表であるDに対しE工場に属する一切の営業(ただし、固定資産である土地・ 建物・機械設備については別途賃貸借契約を締結する。)を譲渡する、(二) 譲渡 代金は一六〇〇万円とし、昭和三四年九月から昭和三八年六月まで三か月ごとに分 割して支払う、(三) 新会社が設立されたときは、新会社が右契約に基づくDの権 利義務の一切を引継ぐものとする旨の営業譲渡契約(以下「本件営業譲渡契約」と いう。)を締結した。  被上告会社は本件営業譲渡契約をするについて株主総会の決議による承認手続を とらなかつたが、それは契約担当者らが商法二四五条による規制を知らなかつたこ とによるもので、右手続をとろうとすれば、容易に実現しうる状況にあつた。  2 かくして、上告会社は、昭和三四年五月二一日代表取締役をDとする株式会 社として設立登記を了し、本件営業譲渡契約に基づくすべての財産の引渡を受けて 営業を承継した。本件営業譲渡契約について上告会社の原始定款には商法一六八条 一項六号の定める事項は記載されなかつたが、Dは、実質的には上告会社の全株式 - 1 - を所有し、上告会社の設立及び当初の経 営業を承継した。本件営業譲渡契約について上告会社の原始定款には商法一六八条 一項六号の定める事項は記載されなかつたが、Dは、実質的には上告会社の全株式 - 1 - を所有し、上告会社の設立及び当初の経営を掌理していたものであり、所定事項を 記載しなかつたのは、商法一六八条による規制を知らなかつたことによるもので、 反対者の存在などの特別の障害があつたからではなかつた。  3 上告会社は、被上告会社から譲り受けた製品・原材料等を販売又は消費し、 売掛債権等の債権を回収し、従業員・仕入先・得意先・商標等及び被上告会社から 貸借した土地・建物・機械設備を使用し、小型デイーゼルエンジンの製造販売を行 い、当初は順調な営業を続け、その間被上告会社に対し本件営業譲渡契約につきな んら苦情を述べたことがなく、被上告会社との間で昭和三四年六月譲渡代金一六〇 〇万円につき債務承認並びに分割弁済契約をし、被上告会社に対し譲渡代金として 昭和三四年一〇月から昭和三五年二月までの間に合計二六四万円を分割して支払つ た。  4 被上告会社は、上告会社に対し昭和三五年四月未払譲渡代金一四一二万四七 七三円の支払を五年間猶予したうえ、これを分割して支払うことを認めたが、上告 会社は、経営者の内紛や従業員の大量退職などによつて、昭和四二年九月ころ事実 上営業活動を停止するに至つた。  5 上告会社は、昭和四三年一〇月一七日の本件第一審の第四回口頭弁論期日に おいて初めて本件営業譲渡契約について原始定款に所定事項の記載がないことを理 由とする無効事由を主張し、さらに、昭和五四年二月一四日の原審の第二回口頭弁 論期日において初めて被上告会社が本件営業譲渡契約をするについて株主総会の特 別決議による承認手続を経由しなかつたことを理由とする無効事由を主張するに至 つた。  そして、被上告会社及び上告会社は、いずれ 期日において初めて被上告会社が本件営業譲渡契約をするについて株主総会の特 別決議による承認手続を経由しなかつたことを理由とする無効事由を主張するに至 つた。  そして、被上告会社及び上告会社は、いずれもその株主・債権者等の会社の利害 関係人から本件営業譲渡契約が無効であるなどとして問題にされたことは一度もな かつた。 - 2 -  以上の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認する ことができ、その過程に所論の違法はない。  二1 原審の確定した右の事実関係によれば、Dが被上告会社との間で締結した 本件営業譲渡契約は、その契約の実質的な目的及び内容等にかんがみるならば、D が上告会社の発起人組合の代表者として設立中の上告会社のために会社の設立を停 止条件としてした積極消極両財産を含む営業財産を取得する旨の契約であると認め られるから、本件営業譲渡契約は、商法一六八条一項六号の定める財産引受に当た るものというべきである。そうすると、本件営業譲渡契約は、上告会社の原始定款 に同号所定の事項が記載されているのでなければ、無効であり、しかも、同条項が 無効と定めるのは、広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするも のであるから、本件営業譲渡契約は何人との関係においても常に無効であつて、設 立後の上告会社が追認したとしても、あるいは上告会社が譲渡代金債務の一部を履 行し、譲り受けた目的物について使用若しくは消費、収益、処分又は権利の行使な どしたとしても、これによつて有効となりうるものではないと解すべきであるとこ ろ、原審の確定したところによると、右の所定事項は記載されていないというので あるから、本件営業譲渡契約は無効であつて、契約の当事者である上告会社は、特 段の事情のない限り、右の無効をいつでも主張することができるものというべきで ある。   所定事項は記載されていないというので あるから、本件営業譲渡契約は無効であつて、契約の当事者である上告会社は、特 段の事情のない限り、右の無効をいつでも主張することができるものというべきで ある。  2 つぎに、本件営業譲渡契約が譲渡の目的としたものは、原審の確定したとこ ろによると、たばこ製造機械・小型デイーゼルエンジンの製造販売を目的とする被 上告会社の有する三工場のうち専ら小型デイーゼルエンジンの製造販売に当たつて いたE工場の営業一切であるというのであるから、商法二四五条一項一号にいう営 業の「重要ナル一部」に当たるものというべきである。そうすると、本件営業譲渡 契約は、譲渡をした被上告会社が商法二四五条一項に基づき同法三四三条に定める - 3 - 株主総会の特別決議によつてこれを承認する手続を経由しているのでなければ、無 効であり、しかも、その無効は、原始定款に記載のない財産引受と同様、広く株主・ 債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから、本件営業譲渡契 約は何人との関係においても常に無効であると解すべきである。しかるところ、原 審の確定したところによると、本件営業譲渡契約については事前又は事後において も右の株主総会による承認の手続をしていないというのであるから、これによつて も、本件営業譲渡契約は無効であるというべきである。そして、営業譲渡が譲渡会 社の株主総会による承認の手続をしないことによつて無効である場合、譲渡会社、 譲渡会社の株主・債権者等の会社の利害関係人のほか、譲受会社もまた右の無効を 主張することができるものと解するのが相当である。けだし、譲渡会社ないしその 利害関係人のみが右の無効を主張することができ、譲受会社がこれを主張すること ができないとすると、譲受会社は、譲渡会社ないしその利害関係人が無効を主張す るまで営業譲渡を有効 けだし、譲渡会社ないしその 利害関係人のみが右の無効を主張することができ、譲受会社がこれを主張すること ができないとすると、譲受会社は、譲渡会社ないしその利害関係人が無効を主張す るまで営業譲渡を有効なものと扱うことを余儀なくされるなど著しく不安定な立場 におかれることになるからである。したがつて、譲受会社である上告会社は、特段 の事情のない限り、本件営業譲渡契約について右の無効をいつでも主張することが できるものというべきである。  3 そこで、上告会社に本件営業譲渡契約の無効を主張することができない特段 の事情があるかどうかについて検討するに、原審の確定した事実関係によれば、被 上告会社は本件営業譲渡契約に基づく債務をすべて履行ずみであり、他方上告会社 は右の履行について苦情を申し出たことがなく、また、上告会社は、本件営業譲渡 契約が有効であることを前提に、被上告会社に対し本件営業譲渡契約に基づく自己 の債務を承認し、その履行として譲渡代金の一部を弁済し、かつ、譲り受けた製品・ 原材料等を販売又は消費し、しかも、上告会社は、原始定款に所定事項の記載がな いことを理由とする無効事由については契約後約九年、株主総会の承認手続を経由 - 4 - していないことを理由とする無効事由については契約後約二〇年を経て、初めて主 張するに至つたものであり、両会社の株主・債権者等の会社の利害関係人が右の理 由に基づき本件営業譲渡契約が無効であるなどとして問題にしたことは全くなかつ た、というのであるから、上告会社が本件営業譲渡契約について商法一六八条一項 六号又は二四五条一項一号の規定違反を理由にその無効を主張することは、法が本 来予定した上告会社又は被上告会社の株主・債権者等の利害関係人の利益を保護す るという意図に基づいたものとは認められず、右違反に籍口して、専ら、既に遅滞 に陥つた 理由にその無効を主張することは、法が本 来予定した上告会社又は被上告会社の株主・債権者等の利害関係人の利益を保護す るという意図に基づいたものとは認められず、右違反に籍口して、専ら、既に遅滞 に陥つた本件営業譲渡契約に基づく自己の残債務の履行を拒むためのものであると 認められ、信義則に反し許されないものといわなければならない。したがつて、上 告会社が本件営業譲渡契約について商法の右各規定の違反を理由として無効を主張 することは、これを許さない特段の事情があるというべきである。  4 以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の 違法はない。論旨は、原審の認定にそわない事実に基づいて原判決を非難するか、 又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができ ない。  その余の上告理由について  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審 の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ とができない。  よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主 文のとおり判決する。      最高裁判所第一小法廷          裁判長裁判官    大   内   恒   夫 - 5 -             裁判官    谷   口   正   孝             裁判官    角   田   禮 次 郎             裁判官    高   島   益   郎             裁判官    佐   藤   哲   郎 - 6 -           裁判官    佐   藤   哲   郎 - 6 -

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