平成21(ワ)126 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年12月16日 岐阜地方裁判所 棄却
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判決文本文11,934 文字)

- 1 -平成21年12月16日判決言渡平成21年(ワ)126号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成21年11月4日主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実 第1当事者の求めた裁判 請求の趣旨(1)被告らは,原告Aに対し,550万円及びこれに対する平成20年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被告らは,原告Bに対し,550万円及びこれに対する平成20年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)訴訟費用は,被告らの負担とする。 被告らの請求の趣旨に対する答弁主文同旨第2当事者の主張 請求原因(1)被告Cに対する請求ア不法行為その1(ア)原告Aは,平成19年2月22日,岐阜地方裁判所大垣支部に対し,D村監査委員(以下「監査委員」という。)E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)を作成名義人とする平成12年2月18日付け住民監査請求監査報告書(以下「本件監査報告書」という。)を疎明資料として添付して,被告Cを債務者とし,揖斐郡G町e- 2 -字f番g(ただし,旧地名は,揖斐郡D村大字e字f番gである。以下「本件土地」という。)の88分の1の共有持分権移転登記請求権を被保全権利として,本件土地の処分禁止の仮処分を申し立てた(以下,後述の保全異議申立事件を併せて「本件保全事件」という。)。 (イ)岐阜地方裁判所大垣支部は,平成19年4月24日,本件土地の処分禁止の仮処分の決定をした。 (ウ)被告Cは,平成20年2月8日,上記処分禁止の仮処分に対し,訴訟代理人弁護士に依頼して,保全異議の申立て(以下「本件保全異議申立」という。)をした。 被告Cの訴訟代理人弁護士は,保全異議申立書において,「原告 平成20年2月8日,上記処分禁止の仮処分に対し,訴訟代理人弁護士に依頼して,保全異議の申立て(以下「本件保全異議申立」という。)をした。 被告Cの訴訟代理人弁護士は,保全異議申立書において,「原告らが本件監査報告書を偽造」し,「仮処分決定を騙取」するという「断じて許し難い犯罪行為」を行った旨記載し,保全異議手続や本案の口頭弁論期日において,同様の主張を陳述した。 イ不法行為その2(ア)被告Cは,平成20年2月ころ,原告らが本件監査報告書を偽造したとして,原告らを公文書偽造罪で告発した(以下「本件告発」という。)。 (イ)本件監査報告書の作成の経緯は次のとおりであり,原告らはこれを偽造しておらず,本件告発にかかる事実は虚偽の事実である。 a原告Bは,平成11年12月24日,監査委員に対し,村有地を二重譲渡した問題の解決を求める旨の住民監査請求をした(以下「本件住民監査請求」という。)。 bE及びFは,平成12年2月18日ころ,作成日付を同日付とした住民監査請求監査報告書(以下「改訂前監査報告書」という。)を原告Bに対し送付した。 c原告Bは,平成12年2月ころ,E及びFに対し,監査結果に不服- 3 -がある旨の文書を添えて改訂前監査報告書を返送した。 dE及びFは,再調査を行い,改訂前監査報告書を一部改訂した本件監査報告書を作成した。 (ウ)a原告Bは,本件監査請求を行ったのは,被告Cの所有地が登記簿上部落民共有地となっていたことから,当該土地が被告Cの所有地であることを明らかにするためであり,原告Bは本件監査請求を行ったことやその結果をその都度被告Cに報告していた。 したがって,被告Cは,本件告発時,本件監査報告書は偽造されたものでないことを知っていた。 b(a)本件監査報告書と改訂前監査報告書の相違部分は,本件保全 やその結果をその都度被告Cに報告していた。 したがって,被告Cは,本件告発時,本件監査報告書は偽造されたものでないことを知っていた。 b(a)本件監査報告書と改訂前監査報告書の相違部分は,本件保全事件の対象土地とは何ら関係がなく,原告Aには本件監査報告書を偽造する動機がなかった。 (b)被告Cは,本件告発に先立ち,G町役場において,当時のD村の担当者に確認したり,本件監査報告書の作成名義人であるE及びFから作成の経緯を確認することは可能であった。 (c)Eは,本件監査請求についての経緯を記したファイルを所持しており,被告Cがこれを見せてもらうことは可能であった。 (d)被告Cは,上記の確認などを行わず,客観的根拠もなく本件告発を行った。 ウ原告らは,上記被告Cの不法行為により,名誉を毀損され,名誉感情を侵害され,本件告発により,岐阜県警から揖斐警察署に呼び出されて被疑者として取調べを受けるという迷惑,屈辱を受け,刑事手続における防御の負担を強いられた。 エ損害(ア)慰謝料被告Cの不法行為により原告らが受けた精神的苦痛を慰謝する金額- 4 -は,それぞれ250万円を下らない。 (イ)弁護士費用被告Cの上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告らそれぞれにつき25万円を下らない。 (2)被告町に対する第1次的請求ア(ア)D村は,岐阜県揖斐郡にあった村で,平成17年1月31日に揖斐郡内の他5町村と合併し,被告町になった。 (イ)Iは,平成13年3月ころ,D村参事であった。 イ(ア)請求原因(1)イ(イ)aと同じ。 (イ)同bと同じ。 (ウ)同cと同じ。 (エ)同dと同じ。 ウIは,平成13年3月ころ,D村役場において本件監査報告書を保管していた。 エ(ア)I又は被告町(D村)職員は,平成13年3月ころ イ)同bと同じ。 (ウ)同cと同じ。 (エ)同dと同じ。 ウIは,平成13年3月ころ,D村役場において本件監査報告書を保管していた。 エ(ア)I又は被告町(D村)職員は,平成13年3月ころから平成20年2月ころまでの間に,故意に,本件監査報告書を廃棄又は隠ぺいし,改訂前監査報告書にすり替えた。 (イ)I又は被告町(D村)職員は,本件監査報告書を適切に保管すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,本件監査報告書が保管されず,改訂前監査報告書が正式な監査報告書として保管されることとなった。 オI又は被告町(D村)職員の上記違法行為が原因となって,被告Cの不法行為が発生した。 カ損害(ア)慰謝料I又は被告町(D村)職員の上記違法行為により原告らが受けた精神- 5 -的苦痛を慰謝する金額は,それぞれ250万円を下らない。 (イ)弁護士費用I又は被告町(D村)職員の上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告らそれぞれにつき25万円を下らない。 (3)被告町に対する第2次的請求ア(ア)請求原因(2)アに同じ。 (イ)J(以下「J」という。)は,平成12年2月ころ,監査委員事務局長であり,Eは,同じころ,監査委員であった。 イ仮に,本件監査報告書が無効であるとすると,E及びJは,平成12年2月ころ,原告Bに対し,改訂前監査報告書につき,「なかったことと了解すること。」と虚偽の事実を告げたことになる。 ウ原告Bは,上記発言により,地方自治法に定める監査結果に対する不服申立ての機会を奪われた上,本件監査報告書が有効であると信じて,本件監査報告書を原告Aが申し立てた本件保全事件の疎明資料として添付した。そのため,原告Bは,原告Aとともに被告Cから偽造の汚名を着せられるに至った。 エ損害(ア)慰謝料 効であると信じて,本件監査報告書を原告Aが申し立てた本件保全事件の疎明資料として添付した。そのため,原告Bは,原告Aとともに被告Cから偽造の汚名を着せられるに至った。 エ損害(ア)慰謝料E及びJの上記違法行為により原告らが受けた精神的苦痛を慰謝する金額は,それぞれ250万円を下らない。 (イ)弁護士費用J及びEの上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告らそれぞれにつき25万円を下らない。 (4)よって,原告らは,被告Cに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,被告町に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ275万円及びこれに対する不法行為日である平成20年2月8日から支払済みまで民- 6 -法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 請求原因に対する被告Cの認否請求原因(1)アの事実は認める。イ(ア)の事実は認める。イ(イ)a,bの事実は認め,c,dの事実は否認する。イ(ウ)の事実は否認する。ウの事実は否認する。エは争う。 請求原因に対する被告町の認否(1)請求原因(2)アの事実は認める。イ(ア)のうち,原告Bが平成11年12月24日,監査委員に対し,住民監査請求をしたことは認め,その余は知らない。イ(イ)の事実は認める。イの(ウ),(エ)の事実は否認する。ウないしオの事実は否認し,カは知らない。 (2)請求原因(3)アの事実は認め,イないしエの事実は知らない。 請求原因に対する被告Cの主張(1)原告Bは,平成12年2月以降に,被告Cに対し,本件住民監査請求の監査報告において監査委員が二重譲渡を認めた旨の報告をした。 (2)K公団職員は,被告Cが上記報告を受けてから数か月以内に,被告Cに対し,K公団から二重譲渡を認めた監査報告書はないと伝えた。 (3)被告Cは,その後,原 員が二重譲渡を認めた旨の報告をした。 (2)K公団職員は,被告Cが上記報告を受けてから数か月以内に,被告Cに対し,K公団から二重譲渡を認めた監査報告書はないと伝えた。 (3)被告Cは,その後,原告Bに対し,二重譲渡を認めた監査報告書の存在について問い合わせたところ,原告Bは,「K公団が間違っている。」と説明した。 (4)被告Cは,本件保全異議申立に先立ち,弁護士Lを通じて,G町長に対し,本件住民監査請求の監査報告書の公開を申し出た。 (5)G町長は,平成20年1月28日ころ,上記公開申出に基づき,弁護士Lに対し,改訂前監査報告書を公開した。 (6)被告Cは,上記情報公開請求でのやりとりを通じて,G町職員から,G町は本件監査報告書を保管していないことを確認した。 (7)原告Aは,本件保全異議申立に対し,改訂前監査報告書が改訂され本件- 7 -監査報告書が作成された旨記載した答弁書を提出した。 (8)被告Cは,上記答弁書記載事実の確認のため,平成20年3月6日の保全異議の第1回審尋(口頭弁論)期日に先立つ同月4日,改訂前監査報告書及び本件監査報告書の作成名義人であるE及びFに対し,弁護士Mを通じて,改訂前監査報告書を改訂していないことを確認した。 (9)被告Cは,平成20年3月5日,弁護士Lを通じて,G町長に対し,改訂前監査報告書と一部記載内容が相違し,趣旨が異なる同日付同件番号の監査報告書の公開を申し出た。 (10)G町長は,平成20年3月13日ころ,上記公開申出に対し,申出に係る公文書を保有していないと回答した。 (11)したがって,被告Cは,本件保全事件及び本案において,原告らが本件監査請求報告書を偽造するという犯罪行為を行ったと主張し,本件告発を行うに足りる客観的な根拠を確認していた。 被告Cの主張に対する原告らの て,被告Cは,本件保全事件及び本案において,原告らが本件監査請求報告書を偽造するという犯罪行為を行ったと主張し,本件告発を行うに足りる客観的な根拠を確認していた。 被告Cの主張に対する原告らの認否,反論被告Cの主張(1)の事実は認め,(2)の事実は知らず,(3)の事実は認め,(4)ないし(6)の事実は知らず,(7)の事実は認め,(8)ないし(10)の事実は知らない。 第3当裁判所の判断 被告Cに対する請求について(1)請求原因(1)ア,イ(ア),イ(イ)a,b,抗弁(1),(3),(7)の各事実は原告らと被告Cとの間で争いがない。 (2)まず,請求原因(1)ア(ウ)の被告Cの行為が不法行為を構成するか否かについて検討する。 弁論主義及び当事者主義を基調とする我が国の民事訴訟法下では,訴訟手続において当事者が忌憚なく主張を尽くすことが重要であって,その主張行為は,一般の言論活動以上に強く保護されなければならず,民事訴訟は利害- 8 -の相対立する当事者間の紛争解決の場であることから,ときに当事者の発言や主張に相手方の名誉感情を刺激するものが含まれるのもある程度やむを得ない面がある。 そうであれば,当事者の発言や主張に相手方の名誉を損なうものがあったとしても,それが訴訟における正当な弁論活動と認められる限り,その違法性は阻却されるものと解すべきである。しかし,弁論活動といっても,内在的制約には服すのであって,当初から相手方当事者の名誉を害する意図でことさらに虚偽の事実若しくは当該事件と何ら関連性のない事実を主張する場合,又は,そのような意図がなくとも,訴訟遂行上の必要性を超えて,著しく不適切で非常識な表現内容,方法による主張をし,相手方の名誉を著しく害する場合等は,その内在的制約を超え,社会的に許容される範囲を逸脱したも ような意図がなくとも,訴訟遂行上の必要性を超えて,著しく不適切で非常識な表現内容,方法による主張をし,相手方の名誉を著しく害する場合等は,その内在的制約を超え,社会的に許容される範囲を逸脱したものとして,違法性を阻却されず,不法行為責任を免れないというべきである。 これを本件についてみると,被告Cの訴訟代理人弁護士は,保全異議申立書において,「原告らが本件監査報告書を偽造」し,「仮処分決定を騙取」するという「断じて許し難い犯罪行為」を行った旨記載し,保全異議手続や本案の口頭弁論期日において,同様の主張を陳述したこと(以下「本件陳述行為等」という。)は当事者間に争いがないのであって,本件陳述行為等は,相手当事者たる原告が刑法上の犯罪行為をしたとの事実を摘示するものであり,原告らの社会的評価を低下させ,名誉感情を害するような言動である。 そこで,本件陳述行為等が正当な訴訟活動の範囲を逸脱するものか検討する。 本件陳述行為等と本件保全事件及びその本案との関連性については,本件住民監査請求の監査対象は,「揖斐郡D村大字e字h番iの土地(以下「e字h番iの土地」という。)が調定日誌に基づき昭和13年に村有地として- 9 -売却され,被告Cの所有地として登記されているにもかかわらず,同一の土地につき昭和39年に部落民共有地として部落民に対し譲渡されているため,昭和39年の譲渡は二重譲渡であるとして,D村村長に対しその是正を求めているのにその是正がされない。」というものであること(甲1),改訂前監査報告書と本件監査報告書とは,e字h番iの土地が二重譲渡されたか否かについて「しかし,昭和13年に村有林を売却したときにおいても同様措置がなされている(末尾目録④⑦)ことからみても,これが直ちに「二重売買」であるとは即断できない。」との部分が削除され されたか否かについて「しかし,昭和13年に村有林を売却したときにおいても同様措置がなされている(末尾目録④⑦)ことからみても,これが直ちに「二重売買」であるとは即断できない。」との部分が削除され,「本件土地(ただし,e字h番iの土地を指す。)の所有権は,関係当事者双方が確認すべき事項であり,両当事者間において対処し解決せざるを得ない事項であると解する。従って,当事者間において対処し解決するべく関係者に督励するよう尊重に勧告するものとし,平成12年2月18日,この旨勧告した。」との部分が「監査請求にある,昭和39年3月10日付けのO村よりP外84名に売買譲渡については,その真意は分からないが,これは現地と地図及び登記簿等との不合理による二重譲渡である。しかるにこの原因は,元O村の行政がかかわってきた問題であるのでD村は原状回復する等の行政措置をとるよう勧告するものとし,平成12年2月18日,この旨勧告した。」と変更されている点で異なること(甲2,3),本件保全事件は,被告Cを債務者とし,本件土地の88分の1の共有持分権移転登記請求権を被保全権利として,本件土地の処分禁止の仮処分決定を求めた事件及びその保全異議申立事件であることからすると,まったく関連性を欠くものとはいえない。 また,被告Cは,本件保全異議申立に先立ち,弁護士を通じて,G町が本件監査報告書とは異なる監査報告書(改訂前監査報告書)を保管していることを確認していること(甲10),本件監査報告書と改訂前監査報告書とは,同番号で,日付も同一であること(甲2,3),本件保全異議申立後に本件監査報告書の作成名義人であるE及びFに弁護士を通じて改訂前監査報- 10 -告書の改訂事実がないと電話聴き取りをして確認していること(甲8,9),被告Cは,平成12年2月ころに本件住民監査請 本件監査報告書の作成名義人であるE及びFに弁護士を通じて改訂前監査報- 10 -告書の改訂事実がないと電話聴き取りをして確認していること(甲8,9),被告Cは,平成12年2月ころに本件住民監査請求をしていた原告Bから二重譲渡を認める旨の監査結果が出たと聞いていたこと(争いのない事実),被告Cは,本件住民監査請求時,原告AがD村役場に勤めていたことを知っていたことが認められ,本件監査報告書の作成の真正に疑いを持ち,これを疎明資料として提出した原告Aが偽造したと疑うことに相当の根拠があったと認められる。加えて,保全異議申立書(甲5)には,「債権者は,本件土地につき,二重譲渡があったことを理由に,被保全権利として本件土地の共有持分権を主張する。」「債権者が二重譲渡の疎明資料として提出した疎甲第6号証,平成12年2月18日付け,D村監査委員E及びF作成名義の藤監第6524号住民監査請求報告書」「その他に二重譲渡の事実を認めるに足る証拠はない。」との記載があり,この記載によれば,被告C及び訴訟代理人弁護士は,本件監査報告書が原告Aの被保全権利及び保全の必要性を疎明する唯一の証拠であると考えていたことが推認され,本件陳述行為等は,本件保全事件及び本案の追行に向けてなされたものと認められる。 そうとすると,本件陳述行為等は,少なくともその当時,本件保全事件及び本案追行上,何ら関連性のない事実についてなされたものとも,専ら相手方当事者の名誉を害する意図に出たものとも認められない。 また,本件陳述行為等は,原告らが,公文書を偽造するという犯罪行為を行ったと断定的にいうものであり,それ自体穏当さを欠くものであることは否めないが,その表現が著しく不適切であるとまではいえない。 以上からすれば,被告Cによる本件陳述行為等は,正当な弁論活動としての内在的制約 定的にいうものであり,それ自体穏当さを欠くものであることは否めないが,その表現が著しく不適切であるとまではいえない。 以上からすれば,被告Cによる本件陳述行為等は,正当な弁論活動としての内在的制約を超え,社会的に許容される範囲を逸脱したものと認めるに足りず,不法行為は成立しない。 (3)次に,請求原因(1)イ(ア)の被告Cの行為が不法行為を構成するか否かについて検討する。 - 11 -ア告発とは,捜査機関に対し,犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示であり,刑事訴訟法239条1項は,「何人でも,犯罪があると思料するときは,告発をすることができる。」と規定する。 およそ一般人が他人の犯罪行為を認知した場合に,直ちに行為者を特定してその犯罪事実を捜査機関に申告することは犯罪の捜査を容易にし,犯人の検挙に協力することになるのであって治安維持上望ましいところであるが,被告発者は,一応犯罪の嫌疑を被りその人権を侵害される危険があるのであるから,特定人を犯罪者として捜査機関に申告するについては特に慎重な注意を要することは勿論であり,告発者が何らの合理的根拠がないのに単なる憶測に基づいて特定人を犯罪者として指摘し,被告発者が後日無実であることが判明したときは,告発者は被告発者が被った損害につき過失による不法行為上の責任を負うべき場合があり得ることは明らかである。しかしながら,告発者は捜査機関と異なり,犯罪の確証を挙げるために捜査する権能も義務も有しないのであるから,犯罪の嫌疑をかけるに足りる相当な根拠を確認した上で,その者を犯人と信じ,その所信に従って捜査機関に犯罪事実及び犯人を申告した場合には,後日犯人と指摘された者が真実の行為者ではなく又はその者の行為が犯罪を構成しないことが判明しても,その者が被った損害につき過失の責を負わないとい 従って捜査機関に犯罪事実及び犯人を申告した場合には,後日犯人と指摘された者が真実の行為者ではなく又はその者の行為が犯罪を構成しないことが判明しても,その者が被った損害につき過失の責を負わないというべきである。 イこれを本件についてみると,被告Cは,告発に先立ち,弁護士を通じて,G町が本件監査報告書とは異なる監査報告書(改訂前監査報告書)を保管し,本件監査報告書を保管していないことを確認していること(甲10),本件監査報告書と改訂前監査報告書とは,同番号で,日付も同一であること(甲2,3),被告Cは,平成12年2月ころに本件住民監査請求をしていた原告Bから二重譲渡を認める旨の監査結果が出たと聞いていたこと(争いのない事実),原告Aが本件保全事件で証拠として本件監査- 12 -報告書を提出したこと(弁論の全趣旨),被告Cは,本件住民監査請求時,原告AがD村役場に勤めていたことを知っていたこと(弁論の全趣旨)が認められる。 そうとすると,被告Cは,犯罪の嫌疑をかけるに足りる相当な根拠を確認した上で,原告らを犯人と信じ,その所信に従って捜査機関に犯罪事実及び原告らを犯人と申告したものと認められるから,請求原因(1)イ(ア)の被告Cの行為は不法行為に当たらないというべきである。 (4)以上によれば,原告らの被告Cに対する請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却すべきである。 被告町に対する第1次的及び第2次的請求について(1)請求原因(2)ア,イ(ア),イ(イ),(3)アの各事実,原告Bが平成11年12月24日,監査委員に対し,住民監査請求をしたことは原告らと被告町との間で争いがない。 (2)請求原因(2)イ(ウ),(エ),(2)ウ,エにつき検討する。 ア上記争いのない事実に証拠(甲1ないし3,10) ,監査委員に対し,住民監査請求をしたことは原告らと被告町との間で争いがない。 (2)請求原因(2)イ(ウ),(エ),(2)ウ,エにつき検討する。 ア上記争いのない事実に証拠(甲1ないし3,10)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 (ア)原告Bは,平成11年12月24日,監査委員に対し,「e字h番iの土地が調定日誌に基づき昭和13年に村有地として売却され,被告Cの所有地として登記されているにもかかわらず,同一の土地につき昭和39年に部落民共有地として部落民に対し譲渡されているため,昭和39年の譲渡は二重譲渡である。D村村長に対しその是正を求めているのにその是正がされていない。」と主張して本件住民監査請求をした。 (イ)E,F,Q課長補佐,原告Aが出席して,監査委員会が平成12年2月18日午後2時より開催された。同委員会において,改訂前監査報告書の記載内容及び村長に対する勧告文案について審議,決定され,E及びFは,改訂前監査報告書に押印した。 - 13 -改訂前監査報告書は,e字h番iの土地が二重売買されたものとは認められないとの判断をし,関係当事者間で対処し解決するべく関係者に督励するようD村村長に勧告するものとし,同月18日付けでその旨勧告したとの記載がなされた。 E及びFは,平成12年2月18日,D村村長に対して上記勧告をした。監査委員事務局は,同日,村役場の掲示板に掲示する方法により同勧告を公表するとともに,原告Bに対し,改訂前監査報告書を送付した。原告Bは,翌日,改訂前監査報告書を受け取った。 (ウ)原告Bは,平成12年2月23日,E及びFに対し,改訂前監査報告書の記載内容のうち,二重譲渡でないとの判断及び関係者に督励する旨の勧告という結果結果に不服がある旨の文書を添えて改訂前監査報告書を返送した。 平成12年2月23日,E及びFに対し,改訂前監査報告書の記載内容のうち,二重譲渡でないとの判断及び関係者に督励する旨の勧告という結果結果に不服がある旨の文書を添えて改訂前監査報告書を返送した。 (エ)E,F,J及び原告Aは,平成12年2月24日,会議を行い,上記原告Bからの文書についての対応を検討し,原告Aは,「手紙の内容は二重譲渡をはっきりせよということなので,判断のところで記入する必要がある。」と述べた。 上記会議において,改訂前監査報告書が既に通知済みであることに対する対応が問題となったが,原告A及びJは,E及びFに対し,改訂前監査報告書が既に通知済みであることについて,「補充して通知及び勧告文を作成して届けることで良いではないか。」と言った。 E,F及びJは,上記会議の後,原告Bから事情聴取を行い,その場で,E及びJは,「既通知文(改訂前監査報告書)は回収し,改めて出すことに了解できるか。既通知文は無かったことと了解することと。」と言い,原告Bはこれを承諾した。 (オ)E及びFは,平成12年2月24日ころ改訂前監査報告書を一部改訂した本件監査報告書を作成し,原告Bに送付した。 - 14 -しかし,D村では,改訂前監査報告書と本件監査報告書が差し替えられることはなく,改訂前監査報告書のみが保管されたままとなった。 イ上記認定の事実によれば,本件監査請求書は作成権限を有するE及びFが改訂前監査請求書と差し替えるために内容を書き換えて作成されたものであることが認められる。 しかし,改訂前監査報告書は,平成12年2月18日付けで作成され,原告Bに通知され,公表もされ,D村村長に対し勧告されたものであるから,作成名義人であるとはいえ,これを差し替えることは許されず,その内容が書き換えられた本件監査報告書は違法に作成された虚偽公文書 原告Bに通知され,公表もされ,D村村長に対し勧告されたものであるから,作成名義人であるとはいえ,これを差し替えることは許されず,その内容が書き換えられた本件監査報告書は違法に作成された虚偽公文書であるというべきである。 そうとすると,I又は被告町(D村)職員が虚偽公文書である本件監査報告書を保管する義務はないというべきであって,I又は被告町(D村)職員に同義務があることを前提とする請求原因(2)ウ,エは失当である。 (3)請求原因(3)イ,ウにつき検討する。 上記(2)の認定事実に弁論の全趣旨を総合すると,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることは許されないにもかかわらず,EがJと共謀の上,平成12年2月24日に原告Bに対し,改訂前監査報告書につき,「なかったことと了解すること。」と告げて,原告Bから改訂前監査報告書を回収し,EとFが原告に対し本件監査報告書を作成して送付したこと,原告Bは,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることが正規の手続ではないことを知りながら上記発言を承諾し,改訂前監査報告書の回収に応じたことにより,地方自治法に定める監査結果に対する不服申立ての機会がなくなったこと,原告Bは,上記発言により,本件監査報告書が有効であると信じて,本件監査報告書を本件保全事件の疎明資料とすることに応じたため,原告Aとともに被告Cから本件保全事件や本案の口頭弁論期日において改訂前監査報告書を偽造したと主張されたり,告発されたりしたことが認め- 15 -られる。 しかし,原告Bが,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることが正規の手続ではないことを知りながら,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることを承諾し,改訂前監査報告書の回収に応じたことからすると,E及びJが,違法に原告Bに損害を加えたものとは ることが正規の手続ではないことを知りながら,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることを承諾し,改訂前監査報告書の回収に応じたことからすると,E及びJが,違法に原告Bに損害を加えたものとは認められない。 また,上記(2)の認定事実からすると,原告Aは,本件監査報告書が虚偽公文書であることを知りながら,本件監査報告書を本件保全事件の疎明資料としたことが認められる。そうとすると,E及びJが原告Aに対して違法に損害を加えたものとも認められない。 (4)以上によれば,原告らの被告町に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第2部裁判長裁判官内田計一裁判官永山倫代裁判官山本菜有子

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