平成11(ワ)442 慰謝料請求

裁判年月日・裁判所
平成14年6月12日 前橋地方裁判所
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判決文本文15,382 文字)

平成14年6月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成11年(ワ)第442号慰謝料請求事件口頭弁論終結日平成14年4月17日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,連帯して,原告に対し,金2000万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日(被告K町につき平成11年8月28日,被告群馬県,同A及び同Bにつき同月27日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,K町立中学校の教師であった原告が,バレーボール部員の女子生徒にテーピングを施した件について,保護者からいわゆるセクハラであるとの苦情を受けた同校校長の被告Aが,事実関係の調査を十分行わず,独断で原告に退職願の提出を強要し,原告の同意を得ないでそれをK町教育委員会(以下「町教委」という。)を経由して群馬県教育委員会(以下「県教委」という。)に提出し,新聞に誤った報道をさせ,また,町教委教育長であった被告Bが,事実関係を十分調査せずに上記退職願を県教委に提出し,新聞に誤った報道をさせ,これらの被告らの行為により原告は公務員の地位を失い,精神的苦痛を受けたと主張して,被告A及び同Bに対して不法行為に基づき,被告K町(被告Bの公権力の行使に関し)及び同群馬県(被告Aの公権力の行使に関し)に対して国家賠償法1条(被告群馬県については1条又は3条)に基づき,慰謝料2000万円及び各訴状送達日の翌日以降の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 2 争いのない事実(1)ア原告は,昭和57年4月から平成9年6月20日まで群馬県内の中学校の教諭として地方公務員の地位を有していた。 原告は,平成9年6月当時,K町立中学校の教諭で,バレーボール部の いのない事実(1)ア原告は,昭和57年4月から平成9年6月20日まで群馬県内の中学校の教諭として地方公務員の地位を有していた。 原告は,平成9年6月当時,K町立中学校の教諭で,バレーボール部の顧問であった。 イ被告Aは,平成9年6月当時,K町立中学校の校長であった。 ウ被告Bは,平成9年6月当時,町教委教育長であった。 (2) 原告は,平成9年5月17日,K町立中学校の課外授業としてバレーボール部の指導をしていた際,同校生徒のC(中学校2年生)にテーピングを施した(以下「本件テーピング行為」という。)。 (3) 本件テーピング行為に関し,同月20日,その保護者から被告Aに対し,いわゆるセクハラであるとの苦情が寄せられた。 (4)ア原告は,平成9年6月15日,被告Aに同月13日付け退職願を提出した。 イ被告Aは,そのころ,被告Bに上記退職願を提出し,更に被告Bから県教委に提出された。 ウ県教委は,同月20日,県教委の西部事務所において,原告に対し,願いにより本職を免ずる旨の辞令書を交付した。 3 争点及び当事者の主張本件の主な争点は,①被告A及び被告群馬県の責任原因,②被告B及び被告K町の責任原因,③損害の発生・額である。 (1) 争点①(被告A及び被告群馬県の責任原因)について【原告の主張】ア調査,弁明の機会の付与被告Aは,中学校の校長として,その中学校の教員と生徒・保護者との間のトラブルについて,事実関係を十分に調査し,教員に弁明の機会を与え,事実誤認に基づく不利益な取扱いとなる進退に関する意見等を町教委に申し出ることのないようにする職務上の注意義務があったのにこれを怠り,本件テーピング行為について十分な事実関係の調査を行わず,また,自ら原告の弁明を聴かず,さらに,原告を保護者会等に参加させ,保護者に対して事実関係の うにする職務上の注意義務があったのにこれを怠り,本件テーピング行為について十分な事実関係の調査を行わず,また,自ら原告の弁明を聴かず,さらに,原告を保護者会等に参加させ,保護者に対して事実関係の説明をさせるなどの弁明の機会を与えなかった。 (ア) 不利益な処分に際して弁明の機会が与えられ,トラブルが起きた際に当事者に事情を聴き,公平な調査がされるべきことは当然である。原告が主張する弁明の機会がないとは,本件に即して言えば,保護者会に出席して事実の正確な説明や保護者の疑問に答える等の機会や,教育委員会において事実の釈明を行う等の機会を与えるべきであったのに与えていないことを言うのであり,行政処分に際しての弁明の機会と同列ではない。 (イ) 原告は,平成9年6月3日,被告Aに校長室に呼ばれ,その場で「大変なことが起こった。」,「今夜,保護者会がある。」との話をされた。原告は,「自分も保護者会に行きます。」と言って自ら保護者会で事情を説明しようとしたにもかかわらず,被告Aに保護者会への参加を拒否された。同月4日及び7日に開かれた保護者会にも原告は参加を申し出たが,同じく被告Aに拒否された。 原告は,被告Aに保護者との話合いや事実の説明の機会を懇願したが,被告Aに拒否され,手続的な権利を違法に侵害された。 イ退職願提出の強要,約束に反した町教委・県教委への提出被告Aは,原告によるテーピングを問題視した投書を受けて以降,原告の退職を意図する行動をとり始め,次のような言動により退職願の提出を強要した。しかも,被告Aは,平成9年6月15日に原告から退職願の提出を受けた際,町教委に提出するときには必ず原告に連絡してほしい旨の原告の申し出について承諾したのに,この約束を無視して勝手に町教委を経由して県教委に提出し,原告を辞職に追いやった。 (ア 職願の提出を受けた際,町教委に提出するときには必ず原告に連絡してほしい旨の原告の申し出について承諾したのに,この約束を無視して勝手に町教委を経由して県教委に提出し,原告を辞職に追いやった。 (ア) 原告は,6月9日午前9時ころ,被告Aから「町の教育委員会が開かれるので,退職願を出すなら午後9時までに持ってくるように」と言われた。 (イ) 翌10日には,被告Aは,電話で強硬に退職願の提出を促し,「事は重大だ。事態は予断を許さない。処分は厳しいものになるらしい。懲戒免職は免れない。懲戒免職になると退職金も出ない。履歴に傷が付く。議会が開かれると新聞報道になる。来週の初めに県教委で審査会が開かれる。そこがタイムリミットだ。自主退職ならそれが受理され不問になるが,懲戒免職なら新聞に出る。自主退職の願いが出れば文教委員会は開かれないだろう。退職願が出ているか来週の山になる。 免職をさけるためには願いを出すのが最大の策だ。こういった状況を判断すると今がタイムリミットだ」と原告を困惑させ,退職願の提出を強要した。 (ウ) さらに,6月11日,原告は,被告Aから学校に呼び出され,西部事務所からの調査のことで一方的に質問され,原告の主張や言い分は悉く無視され,最後に「とにかく事態を納めるためには退職願を出すように」と強要された。 (エ) また,6月13日午後7時ころには,被告Aは,原告の自宅に原告夫婦及び両親,祖母を同席させ,一方的に「退職願の提出に関して両親を説得させたい」と話をした上,「これらの行為は地方公務員法33条に該当するので,退職願を出してほしい。退職願が出ていないと懲戒免職になる。願いが出ているか否かが問題だ。懲戒免職になれば新聞報道になり,退職金も出ないし,本人はもちろん家族も苦しみ,本人の将来にも傷が付く。16日月曜日午前9時が提出の期限だ が出ていないと懲戒免職になる。願いが出ているか否かが問題だ。懲戒免職になれば新聞報道になり,退職金も出ないし,本人はもちろん家族も苦しみ,本人の将来にも傷が付く。16日月曜日午前9時が提出の期限だ」と期限を付けて退職願の提出を強要した。また,帰り際に玄関でも「話した中身は分かったか」と退職願の提出を強要した。 ウ新聞社に対する誤った情報の提供(ア) 本件テーピング行為の問題については,平成9年6月24日に上毛新聞及び朝日新聞が,翌25日に読売新聞,産経新聞,東京新聞及びスポニチがこれを報道した。上毛新聞と朝日新聞の記者は,6月20日から23日にかけて町教委,被告B,被告Aに取材した。 上毛新聞は,「諭旨退職」の最終確認として6月23日午後10時ころ,被告Bに電話で取材し,朝日新聞は町教委への取材で「事実上の諭旨免職」を確認した。 (イ) 被告Aは,県教委に提出した報告書(6月9日付け)に基づき,① 「体操着を『脱がせ』て」,「これまで『計4人の体操着を脱がせて胸』や腰にテーピングをした」と誤った情報を,② 「学校側が『調査した』結果」,「『明らかに行きすぎた行為』だ」,「学校運営に『支障をきたす』と判断」,「『緊急避難』的な措置」,「『辛い十字架を背負った』子供たち」などと,原告があたかもセクハラを行ったと誤解を与えるような情報を,それぞれ新聞記者に提供した。 エ被告Aは,その任命が県教委に係るから被告群馬県の地方公務員であり,しかも,被告群馬県はその俸給等の費用負担者である。 被告Aは,校長として教員に対する任免その他の進退に関する意見を町教委に申し出る等の権限を有しており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律39条),上記アないしウの行為はその「職務」行為に当たる。 よって,被告Aは民法709条に基づき,被告群馬県 する意見を町教委に申し出る等の権限を有しており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律39条),上記アないしウの行為はその「職務」行為に当たる。 よって,被告Aは民法709条に基づき,被告群馬県は国家賠償法1条又は3条に基づき,上記アないしウの一連の行為により原告に生じた損害の賠償責任を負う。 【被告A及び被告群馬県の主張】ア調査,弁明の機会の付与被告Aは,相当な方法で事実関係を調査し,原告に弁明の機会を与えた。被告Aが十分調査したことは,乙1~5により明らかである。 また,原告は自らの意思で退職願を提出し,それが受理されたものであるから,退職に対する手続としては被告Aに事実関係の調査義務や弁明の機会を与える義務はない。 イ退職願提出の強要,約束に反した町教委・県教委への提出原告の主張イの事実(被告Aが原告に退職願の提出を強要した事実,原告に退職願を勝手に町教委に提出しないとの約束をした事実)は,いずれも否認する。 被告Aは,先輩の一教師としてその時点での原告のセクハラ疑惑に係る諸般の事情を知らせ,懲戒免職された場合の不利益を説明した事実はあるが,これらはいずれも原告が身の処し方を判断する上で参考になる有益な事項である。被告Aがそれを越えて依願退職を強要したり,違法に困惑させた事実はない。なお,懲戒免職の不利益を説明したのは,それ以前に原告自身が依願退職を口にしたり,書面にしていたからである。 また,原告自身退職願の扱いについて辞令の出た時点で何ら争おうとしなかった。このこと自体,原告の退職が自らの意思によるものであり,強要等がなかったことを何よりもよく物語るものである。 ウ新聞社に対する誤った情報の提供記事内容の編集・表現その他は,基本的には各新聞社の責任においてなされるべきものであるから,その責任は被告らにない なかったことを何よりもよく物語るものである。 ウ新聞社に対する誤った情報の提供記事内容の編集・表現その他は,基本的には各新聞社の責任においてなされるべきものであるから,その責任は被告らにない。また,次のとおり被告Aが,新聞社の取材に誤った情報を提供したこともない。原告が誤った情報提供と主張するものは,何ら誤った事実の摘示といえるものではなく,単に原告の主観において受け容れがたかったというものにすぎない。 (ア) 原告の主張ウ(イ)①は否認する。原告が作成・説明した乙4によれば,No.6のD,No.15のE,No.16のFについて大胸筋へのテーピングをしている(乙4の該当部分の注書によれば,2の部分で「波を打たせるようにして(皮膚の伸びを狙う)そのまま乳首のところ(腹直筋鞘前葉)まで貼っていく」とあるから,一般に言われる「胸」にテーピングをしたことは明らかである)。 また,甲3の1によれば,原告自身が「ジャージのそでがじゃまになり,体操着をおろしてテーピングした」と言った旨の報道がされている。 原告の主張ウ(イ)②の発言内容は認めるが,真実又は社会常識に照らして正当な意見である。 (イ) 原告の主張ウ(ウ)の発言内容は認めるが,真実又は社会常識に照らして正当な意見である。 (2) 争点②(被告B及び被告K町の責任原因)について【原告の主張】ア被告Bは,町教委の教育長として,町立中学校の教員が問題を起こしたとされた場合には,事実関係を正確に把握し,教員に対して弁明の機会を十分に与えて,殊更に事実に反する報告を真に受けて,当該教員に対して不利益な処分ないし処分と同等な措置をしないようにする職務上の注意義務があるのにこれを怠り,本件テーピング行為について事実関係の正確な調査をせず,原告の弁明を聴かず,被告Aから報告書と原告の退職願が 利益な処分ないし処分と同等な措置をしないようにする職務上の注意義務があるのにこれを怠り,本件テーピング行為について事実関係の正確な調査をせず,原告の弁明を聴かず,被告Aから報告書と原告の退職願が提出された際,これを鵜呑みにして,本件テーピング行為を漫然と地方公務員法33条の「教職の社会的信用を失墜させた行為」に該当すると判断し,「非違行為の引責辞職」と評価される諭旨免職として処分すべく,被告Aに原告を依願退職させるよう指示し,結果的に被告Aの強制と詐言によって原告から退職願を提出させた。 イ被告Bは,マスコミに原告について免職扱いとの誤った情報を提供して,その旨の報道をさせた。すなわち,被告Bは,産経新聞の取材に対し,「事実上の諭旨免職だ。今後とも再発防止のため,…」と,原告があたかも犯罪人であるかのような不適切な情報を提供した。また,上毛新聞の取材に対しても,わいせつ行為により諭旨免職処分になったとの不適切な情報を提供した。 また,被告Bは,新聞記者に対し,「今回の不祥事は,教師としてあってはならない行為であり,教職員として,特に,指導的立場にある教職員として,教職の社会的信用を失墜させた責任は重大であり,地方公務員法33条に違反する」と原告があたかもセクハラを行ったと誤解を与えるような県教委に提出した内申(平成9年6月19日)の内容(情報)を提供した。 ウ被告Bは,町教委教育長として,町立中学校の教員に対する任免その他の進退に関する権限を有している県教委に内申を行う権限を有する町教委に対し助言を行う等の権限を有する立場にあり(地方教育行政の組織及び運営に関する法律39条),これに基づいて,原告の退職願を町教委を経由して県教委に提出した行為は,その「職務」行為そのものである。 よって,被告Bは民法709条に基づき,被告K町は 育行政の組織及び運営に関する法律39条),これに基づいて,原告の退職願を町教委を経由して県教委に提出した行為は,その「職務」行為そのものである。 よって,被告Bは民法709条に基づき,被告K町は国家賠償法1条に基づき,被告Bの上記ア・イの行為により原告に生じた損害の賠償責任を負う。 【被告K町及び同Bの主張】ア原告が自らの意思で退職した以上,調査や弁明の機会が問題となることはなく,また,提出された退職願についても提出を強要したり,勝手に教育委員会に提出した事実はない。 イ記事内容の編集・表現その他は基本的には各新聞社の責任においてなされるものであるから,その責任は被告らにはないし,被告Bが誤った情報を提供したこともない。 (3) 争点③(損害の発生・額)について【原告の主張】被告らの一連の行為により,原告は公務員の地位を失ったばかりか,新聞報道等で受けた精神的苦痛は計り知れず,その精神的損害を金銭評価すると2000万円を下ることはない。 【被告らの主張】原告の主張を争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件経過に関する事実認定前記争いのない事実,甲1~4,6,9,11,13,乙1~10,丙1,2(以下,書証番号に枝番のあるものについては,その全てを含む。),証人Gの証言,原告本人,被告A及び被告B本人の各供述並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる(以下,年度は特に断らない限り,平成9年である。)。なお,各項目にもその事実認定に特に関連性のある証拠を掲げた。 (1) 原告は,昭和57年4月に教員になり,平成9年5月当時,K町立中学校(以下「学校」という。)に勤務して,英語を担当するほか,課外活動としてバレーボール部の顧問・監督に就いていた。 (2) 原告は,5月17日にバレーボール部に所属するC(中学校2年生) ,K町立中学校(以下「学校」という。)に勤務して,英語を担当するほか,課外活動としてバレーボール部の顧問・監督に就いていた。 (2) 原告は,5月17日にバレーボール部に所属するC(中学校2年生)に対する本件テーピング行為を施したが,5月20日午後4時30分ころ,その母親から担任のH教諭に対して,①テーピングの技術があることは理解できるが,医者でもないのに治療できるのか,②テーピングを行う場所が下半身の微妙なところであるから,前もって親に知らせてほしかった,③たとえ顧問の先生であっても,男の先生にそのような箇所にテーピングをしてほしくなかった旨の苦情が述べられた。 また,5月22日,PTA本部役員から学校に電話があり,バレーボール部の関係で保護者から話がある旨が伝えられ,直ちに教頭がバレーボール部に所属する他の女子生徒(I)の母親と面談したところ,同人から,原告によるセクハラがバレーボール部内で行われていること等の苦情が述べられた。 翌5月23日,原告は,教頭から,保護者の間でテーピングが問題視されている旨を聞き知り,教頭と保護者(Iの母親)らを交えて話合いの機会を持った。そして,この際,原告は,淫らな気持ちはなかったと述べてセクハラの疑いを否定して今後はテーピングをしないことを約束し,これによって本件テーピング行為に関する苦情の件はいったん終息した。 (3) しかし,その後の6月2日,被告Aは,町教委から,原告がテーピングと称してセクハラ行為を生徒に行っている旨の匿名の投書が県教委宛てにあったことを理由に,原告のセクハラ行為に関する調査・報告を指示されるに至った(丙1,2,証人Gの証言)。 (4)アさらに翌6月3日には,バレーボール部に所属する他の女子生徒(J)の母親から被告Aに対して電話で,「テーピングのことで10名前後の集まり 告を指示されるに至った(丙1,2,証人Gの証言)。 (4)アさらに翌6月3日には,バレーボール部に所属する他の女子生徒(J)の母親から被告Aに対して電話で,「テーピングのことで10名前後の集まりがあり,話を聞いてほしい」旨の要請があり,同日午後7時30分ころから,被告Aと教頭ら学校側とバレーボール部に所属する女子生徒の保護者14名との間で会合が持たれた。この際,原告は,被告Aに対し,自ら上記会合に参加して説明をしたい旨を申し出たが,被告Aはこれを断った。 上記会合では,保護者らの中には泣き出したり,学校側に怒声を浴びせるものもあり,保護者の側から,学校側に対し,原告が主にバレーボール部のアタッカー4名に対し股間,臀部,胸部にテーピングをすると称してセクハラをしていること,保護者が指摘すると部員に酷い仕打ちをするので何も言えないことが訴えられた。 そして,①原告をバレーボール部顧問から外す,②原告をバレーボール部員のいる学級の英語の授業担当から外すことが相当に強硬な姿勢で保護者側から要求された。被告Aらは,これに対する即答を求められたが,最終的に6月7日までに回答することで了承を得た。 イそして,翌6月4日,被告Aは,原告に対し,①原告の担当する英語の授業は,本日から全て自習とする,②本日をもってバレーボール部顧問を解任する,③学校内外で女子バレーボール部員との接触(電話も含む)をしないようにすることを指示し,更に同日の午後5時30分,指示があるまで年休扱いとして自宅で待機するよう伝えた。 ウその後,6月7日午後7時ころ,被告Aらは,6月3日の会合でされた約束に従い,2回目の保護者との間の会合を開催し,原告につき,女子バレーボール部顧問から外し,当分の間,出校させない措置を採る旨を説明し,参集した保護者らの了解が得られた。 (5) 日の会合でされた約束に従い,2回目の保護者との間の会合を開催し,原告につき,女子バレーボール部顧問から外し,当分の間,出校させない措置を採る旨を説明し,参集した保護者らの了解が得られた。 (5)ア他方,被告Aは,町教委から事実関係の調査等を行うよう指示を受けていたため,原告に対し,6月5日と6日に出校するように伝えた。 そして,原告は,このころ,被告Aの指示により,6月4日付け進上書(乙9),同日付け「この度のことを振り返って」と題する文書(乙1),6月5日付け反省文(乙2)をそれぞれ作成したが,その中で,本件テーピング行為の経緯・態様等について下記のとおり説明し,自己の処分について「新聞に掲載されることだけは避けて頂きたいと心からお願いします。私の名前が出るのはかまいません。 職を辞する覚悟もできていますし,どんな処遇も受けるつもりでいます」旨を記述している。 記Cさん(2年生)が5月12日の練習試合のレシーブ練習時に,足を開きすぎて鼠けい部(股関節の前面)を痛めてしまいました。それが解ったのは,翌日の13日でした。休養することをすすめました。翌週には,ストレッチとランニングを始めました。5月中旬に,スピードをあげてランニングができるようになったので,どうしても25日の試合に出場させたいと思い,本人に確認しました。痛みの具合,体の調子,そして,テーピングの教本を見せ,本人と私とで総合的に判断したつもりでした。また,過去にその部分のテープの経験があり,その時は母親に貼ってもらったと言ってました。 ちょうど,骨盤と大腿骨を結ぶ(大内転筋と短内転筋)部分に約10㎝,長さ40㎝ほどのキネシオテープを貼ることにしました。ジャージをぬぎ,ブルマーの中を通す予定でした。ただ,ブルマーの上部のゴムがゆるんでいて,ほとんどゴムが無い状態でした 短内転筋)部分に約10㎝,長さ40㎝ほどのキネシオテープを貼ることにしました。ジャージをぬぎ,ブルマーの中を通す予定でした。ただ,ブルマーの上部のゴムがゆるんでいて,ほとんどゴムが無い状態でした。したがって,ブルマーがずり落ち,下のパンツが見えてしまう状態でした。そこで,本人に「ブルマーがじゃまだけど,下げていいかい? はずかしいか? 恥ずかしければやめるけど」と尋ねると「大丈夫です」という返答があったので,テープを施しました。パンツ前面の脇の内側をテープが通過するようにし,テープを引っ張るようにして貼りました。 その後,前後屈ができようになったので,軽い練習をしました。翌日は,ジャンプができ,課題のライト攻撃の練習に取り組み,週末の試合に出場できました。 テーピング(テープを貼ること)はさわやか交流館の喫煙室で行いました。部屋の鍵を掛けたのも,みんなの前では恥ずかしいだろうし,一般の知らない人が突然入ってきて見れば,絶対に誤解を生じると判断したからです。 Cさんのテーピングの時には,以前腰にテーピングを経験したことがあるDさんに入り口に立っててもらい,部屋を使いに来る人に「テーピングしてるので少しの間待ってて下さい」と言うようにたのんだと記憶しています。 数日経って,「セクハラ」ではないかと耳にしたとき,自分としては信念を持ってテープをしたつもりでしたが,「そう思われてもしかたない」と感じました。 その後,2年生の保護者のIさんとお会いして,今回の件が余りにも大きなこととして受け止められている事実をしり,私のしたことは間違っていたのかと考えました。Iさんとは,もうテープをしないと約束しました。 イまた,原告は,本件テーピング行為のほか,他のバレーボール部所属の女子生徒に施していたテーピングの内容を列記してその内容を説明した6月9 えました。Iさんとは,もうテープをしないと約束しました。 イまた,原告は,本件テーピング行為のほか,他のバレーボール部所属の女子生徒に施していたテーピングの内容を列記してその内容を説明した6月9日付け「テーピングについての報告」と題する文書(甲6の2,6の3,13,乙3)を作成し,その末尾に署名押印した。この中(2項のNo.2の欄)でも,本件テーピング行為については上記アと同趣旨の説明がされている。 (6)ア被告Aは,6月7日までの経過を6月9日付け「部活指導中の不祥事に関する報告書」(乙3)に取りまとめ,上記(5)イの「テーピングについての報告」と題する文書及びテーピングについての資料(乙4,テーピングに関する教本の写し)を添付資料として,町教委教育長被告B宛に提出した。上記報告書は,更に県教委に提出された。 イ上記報告書に対して県教委から質問があったため,被告A及び教頭は,6月11日に原告と面談して質問事項に関して聴取を行い,翌12日付けの回答書(乙5)として取りまとめ,町教委教育長被告B宛に提出した。 ウこのころ,被告Aは,町教委・県教委と接触する中で,原告について懲戒免職を含む相当に厳しい処分がされる見通しを持ち,電話や,原告の両親らも含めて面談をした機会などに,原告に対し,懲戒免職等の厳しい処分がされる可能性があることを告げてこれに伴う不利益を説明し,退職願を提出するよう促した。 (7) 他方,原告の父親は,6月12日,群馬県内の弁護士に相談に赴き,経緯を説明したところ,「セクハラかどうか結論は出ない。目的意識がはっきりしていればセクハラではない。貼ること自体は良くないだろう。反省文を読ませてもらうと,謝罪が一人歩きしている。自分の意識が周りの圧力から弱気になっている。謝罪か釈明かはっきりしたほうがよい。辞表は出す必要は セクハラではない。貼ること自体は良くないだろう。反省文を読ませてもらうと,謝罪が一人歩きしている。自分の意識が周りの圧力から弱気になっている。謝罪か釈明かはっきりしたほうがよい。辞表は出す必要はない」旨の助言を得,そのころ,これを原告に伝えた。 (8) その後の6月15日,原告はその妻とともに被告A宅を訪れ,被告Aに6月13日付け退職願(乙7)を提出した。 そして,被告Aは,翌16日,これを町教委に提出した。町教委教育長の被告Bは,県教委に対し,原告につき「教職の社会的信用を失墜させた責任は重大であり,地方公務員法第33条に違反する」として諭旨免職を相当とする内申とともに上記退職願を提出した。県教委においては,原告につき「諭旨免職」,更に被告Aの監督責任として「厳重文書訓告」が適当との判断がされた(甲7,8)。 県教委は,6月20日,その西部事務所において,原告に対し,願いにより本職を免ずる旨の辞令書(甲1,乙8)を交付した。 (9) その後,6月24日及び25日の新聞(甲3の1~3の3,3の5,3の7)において,「女子の体操着を脱がせテーピング中学教諭を諭旨免職」等の見出しで,本件テーピング行為等の報道がされた。 なお,6月25日の産経新聞では,県教委の話として「人事上は諭旨免職の形。 今後とも再発防止のため,教職員の服務規律の指導に努めたい」旨が掲載されている(甲3の2)。また,6月24日の上毛新聞では,校長(被告A)の話として「誠に遺憾なこと。辛い十字架を背負った子供たちを,今後いかに守っていけるかが学校としての最大の務め」と掲載されている(甲3の5)。 2 争点①(被告A及び被告群馬県の責任原因)について原告は,慰謝料の支払原因として,(ア)被告Aが調査を怠り,原告に弁明の機会を付与しなかったこと,(イ)被告Aが,原告に対 ている(甲3の5)。 2 争点①(被告A及び被告群馬県の責任原因)について原告は,慰謝料の支払原因として,(ア)被告Aが調査を怠り,原告に弁明の機会を付与しなかったこと,(イ)被告Aが,原告に対して退職願の提出を強要し,勝手に教育委員会に提出しない旨の約束に違反したこと,(ウ)被告Aが,原告が免職扱いである等の誤った情報をマスコミに提供したことを主張している。そこで,事案の内容にかんがみ,上記(イ)から順次検討することとする。 (1) 退職願提出の強要,約束に反した町教委・県教委への提出についてア本件テーピング行為は,喫煙室という密室内で中学校2年生の女子を対象に下半身の着衣の下を通してテーピングを施すというものであり,その方法・態様自体からしていわゆるセクハラ行為であるとの疑惑を抱かれてもやむを得ないものであったことに加え,後日にその保護者から担任教諭に苦情の申入れがされ,他の保護者からもテーピング行為を非難する意見が相次いでいたことに照らすと,原告の行為は教師の行為として適切を欠き,その社会的信用を損ねるものであったといわざるを得ない。 そして,被告Aが校長として所属職員を監督する立場にあり,町教委・県教委との接触の中から,教育委員会が原告の処分につき相当厳しい意向を有しており,懲戒免職処分がされる可能性があることを知り得ていたことに照らすと,こうした認識に基づいて被告Aが原告に退職願の提出を求めた行為は,被告Aが主張するような一先輩としての助言程度の軽い意味合いのものではなく,懲戒免職処分に伴う不利益を避けるために自主退職を勧告する趣旨のものであったということができる。 原告は,これが強要・強制に当たる旨の主張をするが,仮に原告が主張するとおりの言辞(前記第2・3(1)【原告の主張】イ)によって被告Aが原告に自主退職を勧め 趣旨のものであったということができる。 原告は,これが強要・強制に当たる旨の主張をするが,仮に原告が主張するとおりの言辞(前記第2・3(1)【原告の主張】イ)によって被告Aが原告に自主退職を勧めていたとしても,これが強要・強制に当たる違法なものというには到底足りない。 他方,原告の側において,被告Aに作成を指示された書面(乙1,9)の中で辞職を示唆する一方で,父親を通じて弁護士に本件を相談することによって,本件テーピング行為の問題点のほか,対処方法に関する教示,とりわけ,辞表を出す必要はない旨の助言を受けていたことに照らすと,原告は,懲戒免職の可能性をも考慮して被告Aの上記勧告を自らの判断で受け容れた結果,退職願を被告Aに提出したとみるのが自然である。 イまた,原告の主張によっても,被告Aは「自主退職ならば受理されて不問になるが,懲戒免職ならば,退職金が出ず,新聞報道される。」等の説得をし,更に教育委員会への退職願の提出期限を明示していたというのであるから,原告から退職願が提出されればこれが町教委・県教委に提出されて依願免職の手続が進められるという前提での説得がされていたことが窺われ,こうした状況の下で被告Aが,原告との間で退職願を町教委・県教委に提出しない旨の約束を交わしたとは到底考え難い(これに反する原告の両親・妻作成の陳述書(甲18,19)は採用することができない。)。 ウ以上のとおり,原告が主張・供述するような強制・強要や,退職願を教育委員会に提出しない旨の約束の存在を認めることはできないから,原告の主張は前提を欠き,これを採用することはできない。 (2) 調査,弁明の機会の付与についてア上記(1)に説示したとおり,被告Aが原告に退職願の提出を促した行為は,懲戒免職処分を受けることから生ずる種々の不利益を回避する目的で することはできない。 (2) 調査,弁明の機会の付与についてア上記(1)に説示したとおり,被告Aが原告に退職願の提出を促した行為は,懲戒免職処分を受けることから生ずる種々の不利益を回避する目的で行われた自主退職の勧告というべきものであるが,その際に勧告に従わない場合には実際に懲戒免職処分を受ける可能性があることが示唆されていたのであるから,強制・強要に当たらないとはいえ,勧告に従うか否かに関する原告の意思決定の自由が事実上制約される面があったことは否定できない。そして,こうした勧告は公務員の地位喪失に繋がる重大な措置であるから,勧告に至るまでの過程において,問題となった行為の内容等の諸事情が慎重に考慮されるよう合理的な手続を履践することが要請されるというべきである。 イ本件に即してこれをみると,上記1に認定したとおり,被告Aは,バレーボール部に所属する生徒の保護者らへの対応をする一方で,生徒(CやI)の母親から寄せられた苦情や保護者との会合における意見の内容を原告にも適宜伝えていたのであるから,原告は自己のいかなる言動が問題視されているのかを十分に認識する機会があったということができる。そして,被告Aは,原告に対し,本件テーピング行為に関連して上記1(5)の各書面の作成・提出を指示することによって事実の確認を行い,原告が自ら署名押印した「テーピングについての報告」をも添付して報告書を町教委(県教委)に提出しているのであるから,自主退職の勧告に至るまでの間の調査や弁明の機会の付与に適切を欠いた点はないというべきである。 なお,原告は,乙1,2は被告Aの強制により書かされ,乙3についても同様に強制され,甲6の1の原案に被告Aが教頭に指示して添削をさせた旨を主張している。しかし,Cを含めバレーボール部所属の生徒に対するテーピングの方法・ 2は被告Aの強制により書かされ,乙3についても同様に強制され,甲6の1の原案に被告Aが教頭に指示して添削をさせた旨を主張している。しかし,Cを含めバレーボール部所属の生徒に対するテーピングの方法・態様等は原告本人しか知り得ない事柄であり(被告Aらが生徒の側に調査を行った形跡はない。),被告Aらがその内容に関する詳細な記述を強制すること自体考え難い。また,原告が提出する甲6の1~6の3をみても,Cに対する本件テーピング行為の際の状況については,テーピングの方法・態様のほか,わいせつ目的の存否など根幹部分では原告が説明した事実が容れられているほか(本件テーピング行為に関する記載は,本件訴訟において原告が主張・供述するところとほぼ同様である。),他の訂正部分についても体裁や語句等に関するもの,あるいは説明が不足している部分を補足するものにすぎないことが窺われるから,原告の主張するような強制が加えられてその内容が歪曲されているということはできない。 ウまた,原告は,保護者らに説明をする際に原告を同席させて弁明する機会を与えなかった旨を主張するが,保護者らは原告の地方公務員としての地位を左右する立場にあるわけではないから,これに対する弁明の機会の付与が当然に要請されるとはいえないし,上記1(4)に認定した保護者との会合の状況に照らすとこれに原告を参加させなかった被告Aの措置はむしろ合理的なものであったということができるから,上記主張も失当である。 (3) 新聞社に対する誤った情報の提供原告が人事上諭旨免職に処されたことは上記1(9)に認定したとおり何ら事実に反する点はなく,新聞に掲載された他の部分につき被告Aが誤った情報を提供したことを認めるに足りる証拠もないから,この点に関する原告の主張も失当である。 3 争点②(被告B及び被告K町の責任 何ら事実に反する点はなく,新聞に掲載された他の部分につき被告Aが誤った情報を提供したことを認めるに足りる証拠もないから,この点に関する原告の主張も失当である。 3 争点②(被告B及び被告K町の責任原因)について原告は,慰謝料の支払原因として,(ア)被告Bが,原告の退職願が提出された際,何らの事実の正確な調査等をせずに,これを県教委に提出したこと,(イ)被告Bは,マスコミに原告について免職扱いとの誤った情報を提供したことを主張している。 しかし,上記1・2で認定・説示したとおり,既に被告Aらによって報告書や質問に対する回答書が作成されており,しかも,原告から任意に退職願が提出されている以上,本件テーピング行為につき更に自ら事実関係を調査すべき必要があったとは考え難いから,これを基に県教委に内申をした行為に何らの注意義務違反もない。 また,原告が人事上諭旨免職に処されたことは上記1(9)に認定したとおり何ら事実に反する点はなく,新聞に掲載された他の部分につき被告Bが誤った情報を提供したことを認めるに足りる証拠もないから,この点に関する原告の主張も失当である。 第4 結論以上によれば,その余の争点を判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないので,これをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第1部裁判長裁判官中野智明裁判官丹羽敏彦裁判官櫛橋明香

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