- 1 -主文被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,かつてA1株式会社に在籍し,A2株式会社に出向して勤務し,その後有限会社B(以下「B」という)取締役社長となったものであるが,株式会社。 A3が,同社の見掛け上の売上高を増加させるなどの目的で,同社やA1を含めた複数の協力会社との間で架空の商品売買契約を締結し,その代金決済名下に資金を(「」。),受け渡して循環させる取引以下循環取引というを計画・実行するに際し株式会社A3代表取締役Cから,協力会社の選定,協力会社が取得し,株式会社A3が最終的に負担することになる取引利益名目の手数料の決定,協力会社に対する代金決済時期等の連絡,調整を行う事務を委託され,株式会社A3が最終的に負担する協力会社に対する上記の手数料の決定等を厳格にし,株式会社A3にこれを過大に負担させるなどして不要な支出をさせないよう誠実に事務処理を行うべき任務を有していたところ,上記Cからの委託に基づく任務に背き,自己の利益を図る目的で,平成15年3月ころ,循環取引外の取引として,株式会社A4を買い主,Bを売り主とする代金8001万円の架空の商品売買契約を作出し,同金額を株式会社A3が最終的に負担することになる協力会社に対する手数料分に潜ませ,A4,株式会社A5ら協力会社を介して,株式会社A3に対し,上記8001万円を上乗せした合計6億7908万7500円を循環取引に係る売買代金名下に過大請求し,,た上株式会社A3の循環取引上の直接の資金移動先であるA5担当社員らをして同年5月15日及び6月12日の合計2回にわたり,株式会社A6銀行a支店に開設されたA7株式会社名義の当座預金口座に合計5億63 上株式会社A3の循環取引上の直接の資金移動先であるA5担当社員らをして同年5月15日及び6月12日の合計2回にわたり,株式会社A6銀行a支店に開設されたA7株式会社名義の当座預金口座に合計5億6385万円,同日,株式会- 2 -社A8銀行b支店に開設されたA4名義の普通預金口座に1億473万6975円を,それぞれ売買代金名下に先に振込入金させて,株式会社A3に上記過大請求分8001万円を含めた合計6億7908万7500円の債務を負担させ,その後,同月19日,A4代表取締役Dらをして,売買代金名下に8001万円を同口座から東京都港区株式会社A9銀行c支店に開設されたB名義の普通預金口座に振込入金させ,同額を不正に利得するとともに,株式会社A3に同額の損害を加えたものである。 (証拠の標目)省略(主位的訴因を排斥し,予備的訴因を認定した理由)第1当事者の主張等検察官は,主位的訴因として「被告人は,かつてA1株式会社に勤務し,,その後有限会社B取締役社長となったものであるが,被告人において,株式会社A3代表取締役Cがいわゆる循環取引と称される架空売上及び架空仕入による架空取引を敢行した際,同人から依頼を受けて,その取引先の選定及び取引手数料の額の指定等を行い,その架空仕入代金として株式会社A3等から出金された資金につき,中間に介在した取引業者の手数料を控除した後,同社に対する売上として戻入すべき業務に従事していたところ,上記循環取引に係る株式会社A3の資金を着服しようと企て,平成15年6月19日,東京都豊島区株式会社A8銀行b支店の上記取引のために用いられていた株式会社A4名義の普通預金口座において,株式会社A3の資金8001万円を同社のために業務上預かり保管中,上記株式会社A4代表取締役Dらに指示し,同日これを東京都港区株式 取引のために用いられていた株式会社A4名義の普通預金口座において,株式会社A3の資金8001万円を同社のために業務上預かり保管中,上記株式会社A4代表取締役Dらに指示し,同日これを東京都港区株式会社A9銀行c支店における上記有限会社B名義の普通預金口座に振り込ませ,もって上記各金員を着服して横領したものである」という内。 容の業務上横領罪の成立を主張する。そして,仮に業務上横領罪が成立しないとしても,上記罪となるべき事実記載の事実と概ね同旨の予備的に追加された公訴事実により背任罪が成立すると主張する。 - 3 -,,,他方弁護人は金銭の流れ等に関する事実関係は基本的に争わないものの業務上横領罪の訴因について,資金占有の事実が認められないことなどから,業務上横領罪は成立せず,また,背任の訴因については,判示のような任務を負っていた事実がなく,したがって任務に違背した事実もないなどとして,背任罪の成立を否定し,さらに,本件取引に関しては,手数料を約25パーセントないし30パーセントとすることについて,Cの了解を得ており,その範囲内での取引であったとなどと主張し,被告人も公判廷においてほぼこれに沿う供述をしている。 当裁判所は,被告人には業務上横領罪は成立せず,背任罪が成立すると判断したので,以下その理由を補足して説明する。 第2当裁判所が認定した事実関係証拠によれば,次の各事実が認められる。 株式会社A3について株式会社A3は,平成13年6月27日に株式会社A10から商号変更し,コンピューター及びその周辺機器の販売・レンタル業務等を目的とする会社であり,代表取締役はCである。 被告人について被告人は,昭和57年4月,当時のA11株式会社に入社し,その後,約10年間にわたり経理職として稼働していた。同社はその後,社名をA 目的とする会社であり,代表取締役はCである。 被告人について被告人は,昭和57年4月,当時のA11株式会社に入社し,その後,約10年間にわたり経理職として稼働していた。同社はその後,社名をA1に変更,,,した被告人は平成14年4月に同社の子会社であるA2株式会社に出向し財務経理部長の職に就いたが,平成15年3月に同社を退社した。 被告人は,A2で稼働するかたわら,平成14年7月にEとともに有限会社(「」。 「」F平成15年4月に有限会社Bに名称変更以下名称変更前も含めてBという)を設立し,取締役社長に就任して経営に当たっていたが,平成16。 年10月同社を退社した。 株式会社A3が循環取引を行うようになった経緯等- 4 -( )Cは,平成6,7年ころ,当時A1の従業員であったEと知り合い,株 式会社A10(変更後株式会社A3。以下商号変更前も含めて「A3」という)とA1との取引を行いたいと考え,EらA1の営業担当従業員を度々。 接待したほか,Eの個人的負債を負担するなどした。しかし,実質的な取引はそれほど増えず,A3とA1との間の取引は,少額の取引が数回行われたにとどまった。 ( )平成9年初めころ,Cは,Eから持ちかけられ,A1を含む2社間の取 引の間にA3が入り,伝票を操作するだけで,A3が手数料収入を得ることができる取引を行った(なお,商品が実在することを前提に,既に合意されている2社間の取引の間に別会社が入り,間に入った会社は,仕入れ,販売について伝票のやり取りをするものの,実在する商品の移動には関与せず,特段の付加価値を有する活動をしない取引形態を以下「スルー取引」という。 。)その後も,A3は,A1との間で,介在会社との伝票を操作するだけのスルー取引様の取引を行っていた。この中には, せず,特段の付加価値を有する活動をしない取引形態を以下「スルー取引」という。 。)その後も,A3は,A1との間で,介在会社との伝票を操作するだけのスルー取引様の取引を行っていた。この中には,A3が手数料を負担することで,損をすることになるものもあったが,Cは,A3のA1に対する売り上げを上げることで,信用を得る目的で取引に応じていた。 このような取引を数回行う中,Cが介在会社であったGの担当従業員と話をした際,A3がGから仕入れてA1に販売した商品を,A1がGに販売していたことが明らかになり,Cは,当該取引について,商品が実在せず各取引が環状につながっているのではないかと疑いをもち,Eにその旨確認したところ,Eから,各取引が環状に循環していること,1社だけ損をすることとなり,それが今回A3であったこと,そのうちプラスになる取引もできるなどという説明を受けた。 ( )Cは,循環取引を行うことでA3の見かけ上の売上額を上げ,多くの有 力企業と取引実績があると見せかけることにより,株式上場を果たして株式- 5 -発行による資金調達を行うことや,銀行に対する信用を得ることを考えるとともに,仕入先に対する支払日と販売先からの入金日をずらして設定することで,入金日から支払日までの間,入金された金銭を運転資金として用いることができるなどのメリットがあることから,A3が手数料を負担することもやむを得ないと考え,循環取引を繰り返し行っていた。 ( )A3がA1との間で行っていた循環取引の方法は概ね,以下のとおりで ある。 ,,,CはA3従業員のHに対し前月の取引先からの請求書を示すなどしてその支払い金額に見合う循環取引を行うように指示をし,Hは,その請求書に対応する形でA3への入金額,入金時期を設定し,A1従業員でEの部下であった 員のHに対し前月の取引先からの請求書を示すなどしてその支払い金額に見合う循環取引を行うように指示をし,Hは,その請求書に対応する形でA3への入金額,入金時期を設定し,A1従業員でEの部下であったIらに,循環取引に参加する協力会社の選定等を依頼する。IらはEの了解を得て,協力会社の担当者に話を持ちかけ,順次売買契約を設定する(なお,A3側で一部の協力会社を選定することもあった。協力会社。)の手数料額の設定もEらに委ねられていたが,Cは,Eに対して,最終的にA3が負担する手数料の額をできるだけ低く抑えるように依頼していた。 ,,,( )被告人はA1に在職していた平成9年ころEの紹介でCと知り合い A1との取引を望んでいた同人から度々接待を受けたり小遣いを受け取るなど,親しい間柄となっていたところ,平成十二,三年ころ,Eから,A3が絡んだ循環取引の方法を聞き,EやCから依頼され,A1の経理担当者としての地位を利用して,取引の代金支払い日を早めにしたり,A1が資金の出発点となるよう便宜を図るなど,循環取引に関与していた。 ( )被告人は,A2への出向後である平成14年9月ころ,A2の売り上げ が目標額に達していないことを経営会議などで知り,自分の発案による取引で目標額に到達させようと考え,循環取引をCに持ちかけた。Cは,この取引を実行するに当たり,被告人に対し,循環取引を設定するに際しては,協力会社に支払う手数料を安く抑えるように依頼した上,協力会社の選定,手- 6 -数料金額の決定,資金移動の指示を被告人に任せ,被告人もCの依頼を認識していた。そして,被告人は,これを受けて,A2の社長らに対しては,スルー取引案件であると装って,その了解を得た上,A2の営業担当従業員に協力会社の選定,手数料額の交渉などを行わせ,これを 頼を認識していた。そして,被告人は,これを受けて,A2の社長らに対しては,スルー取引案件であると装って,その了解を得た上,A2の営業担当従業員に協力会社の選定,手数料額の交渉などを行わせ,これをHを介してCに報告していた。 このようなA2の関係した循環取引は数回にわたって行われたが,それ以降は,資金繰りに窮するなどしていたCから被告人に循環取引の設定の依頼がなされるようになっていた。 本件公訴事実に係る循環取引(以下「本件循環取引」という)に至る経緯。 及び取引内容について( )被告人は,平成14年秋ころ,Eから,CらA3関係者が協力会社に直 接問い合わせ等をしておらず,A3に入金される金額と同社が支払うべき金額の差額が全て協力会社への手数料になっているかどうかをA3関係者が確認できないことを奇貨として,A1を最初に売買代金を支払う会社とする循環取引について,Cに無断で循環取引から分岐する架空の取引を付け加え,循環取引に係る資金の一部をそこに流すことで,資金の一部を不正に入手する計画を持ちかけられ,これに参加した。被告人は,この時の取引で,株式会社A4名義の銀行口座に約2000万円を振込送金した後,同社代表取締役Dから約1200万円を受領し,Eとこれを分配取得した。 ( )被告人は,Eらと共に,平成14年7月にBを設立し,同年11月ころ クラブJを開店したが,平成15年1月には資金繰りも苦しい状態となり,被告人は同年2月ころ,B及びJのオーナーないしスポンサーのように振る舞っていたCにそれらの運転資金を出して欲しいと再三頼んだが,Cは,十分な資金を出してくれなかった。しかも,被告人は,同年3月にはA2を退社して,Jやその後開店する予定のレストランKの経営に専念することしていたが,十分な資金的な裏付けもない状態となってし ,Cは,十分な資金を出してくれなかった。しかも,被告人は,同年3月にはA2を退社して,Jやその後開店する予定のレストランKの経営に専念することしていたが,十分な資金的な裏付けもない状態となってしまった。他方,上記の- 7 -ように,同年2月ころ,A2では,同年3月期の売上が目標に達しなかったが切っ掛けとなって,A2とA3との間の取引を行う話が出たことから,被告人は,自分の生活費やJの運転資金に当てるために,自己が企画するA2を資金提供会社とする循環取引から,上記と同様の方法で資金の一部を抜き出して不正に取得することを計画した。 そこで,被告人は,Cに連絡をとり,当時,A3の運営資金のために循環取引を必要としていたCから,循環取引の設定を依頼され,循環取引であることが明らかになればA2の了承を得られないことを認識していたため,A2の代表取締役社長であるLらにはスルー取引と装って取引実行の了承をとり,A2の営業社員などを使って循環取引の設定に着手した。そして,被告人は,A1社員Mに対して,A1が最初に商品代金を支払う形で本件循環取引に参加することを持ちかけ,同人を介して本件循環取引の設定を行い,さらに同人においてはA7に当初の代金を支払う形での参加を持ちかけるなどし,被告人もA5のらに虚偽の説明をするなどして,循環取引から分岐Nし,株式会社A4を経てBに資金が流れる取引を設定した。ところが,A2においては他の取引案件により売上目標額が達成される見通しとなったことから,途中で本件循環取引に参加しないことになったが,本件循環取引自体については,被告人が上記のように関与する状況の下で,Cと連絡を取るなどして設定した。 各社間の金銭の流れは以下のとおりである。 ( )A3とA5との間で,甲商品,乙商品について,3月20日付御見積書 は,被告人が上記のように関与する状況の下で,Cと連絡を取るなどして設定した。 各社間の金銭の流れは以下のとおりである。 ( )A3とA5との間で,甲商品,乙商品について,3月20日付御見積書 (以下,()まで,月日のみで日付を表示する場合は平成15年の日付を意 味する,同日付注文書,3月31日付納品書,同日付請求書,同日付受。)領書がそれぞれ交わされ,5月12日に,A3から株式会社A9銀行d支店のA5名義の預金口座に,6790万8750円が,6月9日に1億円が振込等により支払われ,7月31日に2000万円が,8月8日に300万円- 8 -が現金で支払われた(別紙番号①のとおり。なお,請求額のうちの残額4)億8817万8750円については,A3の資金繰りの悪化により支払い未,,,了となったがA5がA3に対し売買代金請求訴訟を提起し12月25日請求を認容する判決が言い渡され,平成16年1月20日判決が確定している。 ( )A5と株式会社A7との間で,上記甲商品について,3月14日付御見 積書,3月20日付注文書,3月14日付請求書2通,納品書(日付記載なし)がそれぞれ交わされたが,( )のとおり,A3からの入金が遅延したこ とから,両社間で支払日を変更する旨の合意がなされ,5月15日にA5からA6銀行a支店のA7名義の当座預金口座に5638万5000円が,6月12日に5億746万5000円が入金された(別紙番号②のとおり。 )( )A7とA12株式会社との間で,上記甲商品について,3月20日付見 積書,3月27日付注文書,同日付請求書,3月31日付受領書がそれぞれ交わされ,4月30日,A7からA6銀行e支店のA12名義の預金口座に5億6279万9160円が入金された(別紙番号③のとおり。 )( )A1 付注文書,同日付請求書,3月31日付受領書がそれぞれ交わされ,4月30日,A7からA6銀行e支店のA12名義の預金口座に5億6279万9160円が入金された(別紙番号③のとおり。 )( )A12とA13株式会社との間で,甲商品について,3月20日付御見 積書,3月31日付納品書,同日付受領確認書がそれぞれ交わされ,4月30日A12からA13名義の銀行口座に5億6175万円が入金された(別紙番号④のとおり。 )( )A13とA1との間で,甲商品について,3月20日付御見積書,3月 31日付納品書,3月27日付成約報告書,同日付受領書がそれぞれ交わされ,4月30日A13からA6銀行f支店A1名義の普通預金口座に5億6070万円が入金された(別紙番号⑤のとおり。 )( )A1株式会社とA14株式会社との間で,甲商品について,3月19日 付御見積書,3月28日付注文書,3月31日付請求書等がそれぞれ交わされ,4月30日,A1からA15銀行g支店A14名義の当座預金口座に5- 9 -億3491万2000円が入金された(別紙図表番号⑥のとおり。 )( )A14株式会社とA3との間で,甲商品について,3月14日付御見積 書,注文書(日付記載なし,3月31日付請求書,同日付納品書がそれぞ)れ交わされ,4月30日A14からA16銀行h支店のA3名義の預金口座に5億3386万2000円が入金された(別紙番号⑦のとおり。 ),,,()A5と株式会社A4との間で乙商品について2月10日付御見積書 3月20日付注文書,3月31日付請求書,同日付納品書,同日付受入検査合格証がそれぞれ交わされ,6月12日A5からA8銀行b支店の株式会社A4名義の普通預金口座に1億473万6975円が入金された(別紙番号⑧のとおり。 ), 請求書,同日付納品書,同日付受入検査合格証がそれぞれ交わされ,6月12日A5からA8銀行b支店の株式会社A4名義の普通預金口座に1億473万6975円が入金された(別紙番号⑧のとおり。 ),,,,なおA5は同日5億746万5000円を同口座に振込入金し同日A4がA8銀行i支店のA5名義の当座預金口座に4億272万7500円,,,を振込入金しているがこれはA5が過誤払いしたものを返還したものでその差額から振込手数料525円を控除した金額が上記金額になる。 ()BとA4の間で,請求書等が交わされ,A4は6月19日8001万を ()。 A9銀行c支店のB名義の普通預金口座に入金した別紙番号⑨のとおり第3業務上横領罪の成否について 以上の事実関係を前提に,被告人に業務上横領罪が成立するか検討する。 業務上横領罪は「自己の占有する他人の物」を客体とする罪であるから,株式会社A8銀行b支店に開設された株式会社A4名義の預金口座にある8001万円について,被告人に占有が認められるかをまず検討する。 業務上横領罪にいう占有とは,事実的な支配のみならず法律的支配も含むと解され,占有の有無については,具体的事実関係をもとに被告人において対象となる物を自由に処分することが事実上可能な地位を有していたかどうかという見地から判断すべきである。 そこで検討するに,A8銀行b支店の株式会社A4名義の預金口座にある金- 10 -銭については,当該銀行のほか,当該口座を開設して管理している株式会社A4にも占有が認められるが,被告人らは,株式会社A4から同口座に関する預金口座に関する預金通帳や印鑑などの交付を受けておらず,代理権等,預金口座にある金銭に関与する権限も何ら授権されていない。また,被告人は,株式会社A4の会社としての業務の意 A4から同口座に関する預金口座に関する預金通帳や印鑑などの交付を受けておらず,代理権等,預金口座にある金銭に関与する権限も何ら授権されていない。また,被告人は,株式会社A4の会社としての業務の意思決定にも何ら関与していないことも明らかである。 ところで,検察官は,上記事情を前提としながら,被告人が,情を知らないA2代表取締役Lらをして,協力会社の担当者に対し,循環取引に係る資金について,被告人の指定時期に指定口座に入金することを指示させてこれに従わせており,協力会社にはあらかじめ定められた手数料を差し引く以外に当該資金を自由に処分することを一切認めておらず,協力会社の入出金が遅れたときは,被告人自ら各社の担当者に連絡して調整を図るなどして資金移動を管理していたという実態,及びCらは,A3の銀行預金口座に関する入出金時期・金額及び協力会社に対する手数料総額等を把握しているだけで,直接協力会社担当者に連絡を取ることもなく,資金に関する管理を被告人にほぼ全面的に委ねているという実態に照らし,循環取引に係る資金は,協力会社名義の預金口座にあったとしても,被告人が協力会社(担当者)を補助者として管理・占有していたと見るべきである旨主張する。 なるほど,被告人は,A2の営業社員などを介して協力会社の決定(なお,一部他の関係会社が循環取引に参加させた企業もあった,手数料額の決定,。)入金時期等について決定し,協力会社等に連絡していた。そして,他方,協力会社は,検察官の主張するように,本件循環取引による商品の売買代金として入金を受けた金額から手数料として定められた金額を差し引いた残額を指定された期日に支払代金として送金すべきとして合意しているのであるから,実質的には支払代金分の金額については,自社との関係で売主となる会社に送金するために預かっ て定められた金額を差し引いた残額を指定された期日に支払代金として送金すべきとして合意しているのであるから,実質的には支払代金分の金額については,自社との関係で売主となる会社に送金するために預かっているものに過ぎず,ひいては,そのような関係が連環する循- 11 -環取引についての作成・調整を行っていた被告人において,各協力会社が代金として受け取った資金について保管を委ねたという見方も一応考え得る。 しかし,各協力会社は,売主となる会社及び買主となる会社との取引の可否について,各協力会社の社内決裁によって決定した上,各協力会社の意思に基づいて売買契約を締結し,各協力会社はその売買契約に基づいて金銭を移動させているものであること,被告人は協力会社の営業担当者に対しては,一定の働きかけができたとしても,契約の可否,支払条件の変更など,各協力会社の,,意思決定についてはそれら担当者を通じて働きかけることができたに過ぎず各協力会社は被告人などが持ちかけ設定した合意に基づく金銭の移動を行ってはいたものの,それは,各協力会社の判断による相手方会社との契約に基づくものであり,被告人が金銭の移動を管理し,その金銭を自由に処分することが事実上可能であったと評価することはできない。 以上のように,本件において,被告人が株式会社A4名義の預金口座内にあった金8001万円を占有していたとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく被告人には業務上横領罪は成立しない。 第4背任罪の成否について A3からの事務処理委託の有無及び委託内容について( )本件循環取引はA2において,平成15年3月期の売上が目標額に達し ,,なかったことを切っ掛けに被告人が企画し始めたとはいうものの被告人がCに循環取引をもちかけたところ,資金繰り等に窮していた 本件循環取引はA2において,平成15年3月期の売上が目標額に達し ,,なかったことを切っ掛けに被告人が企画し始めたとはいうものの被告人がCに循環取引をもちかけたところ,資金繰り等に窮していたCがこれに同意し,Hに被告人との交渉を任せ,一方,被告人は,スルー取引と装ってA2代表取締役社長のLの了解をとり付けた上,同社の営業担当従業員などに指示し,協力会社の選定や,手数料額の決定などの作業を進めさせたものである。 弁護人は,本件循環取引の設定は,Cから被告人に対し依頼があったものではなく,被告人はあくまでもA2の利益を図るために行ったものであり,- 12 -CやA3のために行ったものではないと主張する。 しかし,従前のA3とA1との循環取引においても,Eが循環取引の設定を持ちかけると,Cはその設定に合意した後は,設定内容の詳細にはほとんど関わらず,自社のH,A1のE及びその営業担当従業員らに循環取引の設定などを任せており,被告人もEらと共にかかる従前の取引に関わって事情を知っていた。そして,被告人がA2に移った後に,A2とA3との循環取引が数度行われ,具体的な取引の設定等については,H及びA2の営業担当者らに任されていた。このような被告人の本件犯行以前の循環取引への関与状況,被告人とCとの関係に鑑みると,被告人がCに循環取引を設定することを伝えて,Cがこれを了解し,循環取引を設定する旨の合意が成立しただ,,けでCは循環取引の具体的な内容について被告人に決定することを委任し子細についてはH及びA2の営業担当者らに設定させることを了解する趣旨であったと認められ,被告人の捜査官に対する供述調書及び公判廷における供述によれば,被告人もCから協力会社の選定や手数料の決定など具体的な内容を決定することを依頼されていることを十分認識してい 趣旨であったと認められ,被告人の捜査官に対する供述調書及び公判廷における供述によれば,被告人もCから協力会社の選定や手数料の決定など具体的な内容を決定することを依頼されていることを十分認識していたことが明らかである。 ( )そして,上記のとおり,本件以前の被告人が関わった循環取引において も,その循環取引により,A3に利益があることから,CはEらに循環取引の設定を依頼していたもので,被告人もそれを認識していたものと認められる。しかも,本件循環取引においては,被告人が間もなくA2を退社すると決まったころから,取引の交渉が始まっていること,A2の関係者はいずれも本件がスルー取引であると認識しており,被告人は,被告人が循環取引であることを告げれば上記Lらに本件循環取引を行うことが承認されないことを認識していたことから,A2の関係者に循環取引であることを秘して,スルー取引であるように装って本件循環取引の設定を行っていたこと,被告人がそもそも循環取引を行おうと考えた動機が自己が自由にできる金銭を入手- 13 -することであったことなどからすると,被告人が本件循環取引を設定するについて,A2の従業員としての業務として行っていたという要素は非常に希薄であると言わざるを得ない。 ( )上記のように被告人は,CからA3のために,協力会社の選定,入金時 期の指定,協力会社に支払う手数料の決定等の循環取引の設定などを依頼されていたものであるが,被告人は本件循環取引以前においても,A2の財務経理部長の地位にあり,それらの循環取引では具体的手数料額の決定や,金銭の移動日については,概ねA2の営業担当従業員らに任せていた。 しかし,被告人は本件においては,一部の協力会社の選定を自ら行い,A5の担当従業員であったに対して本件循環取引の取引の流れについ ,金銭の移動日については,概ねA2の営業担当従業員らに任せていた。 しかし,被告人は本件においては,一部の協力会社の選定を自ら行い,A5の担当従業員であったに対して本件循環取引の取引の流れについてのN,,,説明や同社の前後の取引相手金額条件などを説明あるいは指示しており同人は本件循環取引について他の関係者と連絡を取ったりしているものの,被告人をこの循環取引の責任者として認識していたこと,A1の担当社員であったMについても被告人から直接本件取引を持ちかけられ,代金額,支払期日などについて被告人から指示を受けていること,そして,分岐取引に関係したA4のDについては,被告人から直接連絡を受けて入金額等について取り決めていることからすると,一部の協力会社について被告人が直接交渉しておらず,その交渉をスルー取引と認識していたA2の営業社員や他の関係者がおこなっていたとしても,被告人の関与がなければ本件循環取引は成立し得なかったものであるといえる。 ( )以上のような事情からすると,被告人はCからA3のために委託を受け て本件循環取引を設定すること,すなわち協力会社の選定,協力会社に支払う手数料の決定,代金決済時期等の連絡調整を行う事務を委託されていたものということができる。 被告人の任務違背の有無についてCの公判供述によれば,同人はA3がA2と循環取引を始めたころから,A- 14 -3が協力会社に支払う手数料をできるだけ低く抑えるように度々求めていたことが認められ,A3が循環取引を行う意図,目的に照らしても,被告人がA3との間で循環取引を設定することを委託された際に,協力会社に支払う手数料の決定などを厳格にし,A3に過大な負担をさせたり,不要な支出をさせないよう誠実に事務処理を行う任務を有していたことは十分に認められるとこ 環取引を設定することを委託された際に,協力会社に支払う手数料の決定などを厳格にし,A3に過大な負担をさせたり,不要な支出をさせないよう誠実に事務処理を行う任務を有していたことは十分に認められるところである。ところが,被告人は,自己の生活費やJなどの運営資金を得る目的で,上記のように循環取引の設定に必要のない架空の取引を設定し,8001万円を利得しているのであるから,被告人がその任務に違背したことは明らかである。 なお,被告人及び弁護人は,本件循環取引については,Cから,手数料額を25パーセントないし30パーセントくらいにすることについて了解を受けており,本件循環取引において,A3が入金額と支払額との差額として負担することとなっていた金額は,その範囲内に納まっているので,任務違背はないなどと主張するが,Cはそのような了解の存在を否定する供述をしている上,A3との取引に関するA1の内部調査が行われており,本件前後においてA3が相当高率の手数料を負担する循環取引が行われていたことからすると,一定程度手数料額が嵩むことについて,Cが黙示に容認していた事実を推認しうるとしても,それはあくまで,監査,決済が厳しくなったことから協力会社に支払う手数料額が嵩まざるを得ないという事情を前提とするものであって,協力会社に支払われず,被告人が個人的に利得するような金銭の負担を認める趣旨でないことは当然である。そして,本件循環取引において,A3が負担するとされた手数料額は,入金額の約27パーセントであるが,そのうち約15パーセントは,被告人が分岐取引を通じて個人的に取得し,その分岐取引に協力した者の手数料が4パーセント以上であり,循環取引における協力会社の手数料額は8パーセント足らずであって,これらの事実によれば,本件取引がCの了解の範囲内であるというこ に取得し,その分岐取引に協力した者の手数料が4パーセント以上であり,循環取引における協力会社の手数料額は8パーセント足らずであって,これらの事実によれば,本件取引がCの了解の範囲内であるということはできず,任務に違背していることは明白である。 - 15 - 結論 以上によれば,被告人は,自己の利益を図り,Cから依頼されA3に対して負っていた任務に違背し,8001万円を利得し,同社に同額の損害を負わせたということができるから,背任罪の成立を認めた次第である。 (法令の適用),,,被告人の判示所為は刑法247条に該当するところ所定刑中懲役刑を選択しその所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中130日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文によりこれを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が自己の利益を図り,A3から委託された任務に違背し,8001万円を不正に利得すると共に,同社に同額の損害を加えた背任の事案である。 被告人は,本件前にもEとともにA3の資金を入手するための循環取引の実行に関係し,金銭を入手していたことから本件犯行を計画し,A1退社後の生活費や経営していた飲食店の運営費のために,安易に循環取引から不正に多額の資金を取得しようとしたもので,その犯行動機は利欲的かつ自己中心的なものと言わざるを得ない。また,その犯行態様は,A3の代表取締役Cから循環取引の設定の詳細について任されていたことを奇貨として,主として自己の勤務する会社の営業担当従業員などを介して複数の会社の担当者に取引を持ちかけ循環取引を設定するとともに,自己が管理する会社の口座への資金が流入する分岐取引を作って実行したもので,計画的で巧妙かつ悪質なものである。 本件犯行により,A 介して複数の会社の担当者に取引を持ちかけ循環取引を設定するとともに,自己が管理する会社の口座への資金が流入する分岐取引を作って実行したもので,計画的で巧妙かつ悪質なものである。 本件犯行により,A3は8001万円の損害を被ったのであって,その結果も重大である。 なお,弁護人は,本件により,不正に取得した資金については,Cがオーナーとして実質的に経営していたのに資金を提供しなかった飲食店などの運転資金に当てたのであり,犯行動機に酌むべき事情がある旨主張する。 - 16 -確かに,Cは飲食店を経営するBの設立及び,その後の店舗の開店に際して多額の資金を提供し,また,オーナーないしスポンサーのように振る舞うなどしていたことはうかがえるが,経営に積極的に関与した事実は認められず,また,飲食店の実質的経営者が誰であるとにかかわらず,Cは,A3の資金を飲食店の運転資金とすることは許していないのであるから,被告人が飲食店の運転資金にあてる目的で循環取引を設定し,実際にも多くをそれにあてたとしても,本件の違法性,有責性を減じるものとは言えず,有力会社の経理担当部長にまでなった被告人が,このような事理を理解していなかったはずはなく,動機に斟酌しうる余地が大きいとは言えない。 また,被告人は,A3に対して損害を与えたことをかろうじて認めるのみで,不正に入手した8001万円についても同社に弁償を一切行っておらず,資力がなく今後も弁償する見込みは乏しい。 以上からすると被告人の刑事責任は重い。 そうすると,他方で,A3側にも,不明瞭な循環取引の設定を被告人に依頼し不正な会計処理を行っていた問題がある上,手数料の確認等が杜撰で犯行を誘発した側面があること,被告人が入手した金銭の多くはCも深く関係していた飲食店の運転資金として費消していること,被告人には前科前歴は な会計処理を行っていた問題がある上,手数料の確認等が杜撰で犯行を誘発した側面があること,被告人が入手した金銭の多くはCも深く関係していた飲食店の運転資金として費消していること,被告人には前科前歴はなく,更生の意欲が認められること,被告人の父親が今後被告人を指導監督していくと述べていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められるものの,犯行態様の悪質さ及び損害の多額さに照らすと,刑の執行を猶予することはできず,上記の事情を総合勘案し,主文の刑を科することとした次第である。 よって,主文のとおり,判決する。 (求刑懲役3年6月)平成18年5月26日大阪地方裁判所第4刑事部- 17 -並木正男裁判長裁判官本つとむ裁判官栁中陳睦子裁判官- 18 -
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