平成28(行ウ)35 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年6月19日 札幌地方裁判所
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判決文本文44,748 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 処分行政庁が原告に対して平成26年12月16日付けでした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,株式会社N(以下「本件会社」という。)での勤務開始当初からう つ病にり患していたA(以下「亡A」という。)が自殺した原因は,亡Aの上司の発言及び本件会社が亡Aの要望に応じて業務量を増加させなかったことなどにより,極度に強い心理的負荷を与えられた亡Aがうつ病の程度を悪化させたことにあるとして,札幌東労働基準監督署長(処分行政庁)に対して労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を申請し,処分行政庁からこれら を支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)を受けた亡Aの母である原告が,被告を相手に,本件各処分の取消しを求めた事案である。 1 前提事実⑴ 当事者等ア亡A(昭和▲年▲月▲日生)は,原告の子であり,平成24年11月1 2日,本件会社と臨時従業員雇用契約を締結し,以降,本件会社が設置する札幌工場(以下「本件工場」という。)において,一般事務を担当する臨時従業員として勤務していたが,平成▲年▲月▲日,自宅において,縊首して死亡した(甲1〔38,39,67,135,207,208,242,243,307,317頁〕,乙8〔1頁〕,9〔6頁〕,10〔1 頁〕)。 イ本件会社は,牛乳,乳製品,菓子及び食品の製造販売等の事業を営む株式会社であり,札幌市a区内に,牛乳,ヨーグルト,プリン及びゼリー等の製造業務並びに出荷業務を行う本件工場を設置している。 イ本件会社は,牛乳,乳製品,菓子及び食品の製造販売等の事業を営む株式会社であり,札幌市a区内に,牛乳,ヨーグルト,プリン及びゼリー等の製造業務並びに出荷業務を行う本件工場を設置している。 本件工場は,工場長の下に製造係,装置技術係及び流通係の3つの係を置いており,装置技術係は,主に,牛乳等の製品のためのタンク及び 充填機等の製造設備,ボイラー,圧縮機及び排水処理設備の保守管理,製造ラインの改廃等の工場設備の保守管理に係る業務を行っていた。 製造係は,牛乳等の製品の製造に係る業務を行っていたところ,製造係の下には,その生産管理を担当する班(以下「生産管理班」という。)を含む6つの班が設けられていた。 (甲1〔207,261,270,275頁〕,6,乙8〔1,2頁〕) 亡Aが本件工場に勤務していた間,Bは,本件工場の装置技術係長かつ亡Aの上司の地位にあり,Cは,本件工場の流通係長の地位にあった(甲1〔280頁〕,6,13〔1,6頁〕,乙8〔1頁〕,9〔1頁〕)。 ⑵ 亡Aの疾病及び本件工場における勤務を開始するまでの状況等 ア亡Aは,平成21年9月頃から平成22年2月頃までの間にうつ病(国際疾病分類第10回修正版〔以下「ICD-10」という。〕におけるF32エピソード)を発症し,同年3月16日から平成24年2月10日までは,OメンタルクリニックのD医師の,同月13日から平成25年9月9日までは,P心療内科(以下「本件心療内科」という。)のE医師の, それぞれ治療を受け,平成24年6月18日には,障害等級3級の認定を受けた。 また,亡Aのうつ病は,本件会社における勤務開始前の同年9月頃には軽度といえる程度に改善していたが,勤務開始後の平成25年6月頃,中等度以上に悪化した。 障害等級3級の認定を受けた。 また,亡Aのうつ病は,本件会社における勤務開始前の同年9月頃には軽度といえる程度に改善していたが,勤務開始後の平成25年6月頃,中等度以上に悪化した。 (甲1〔22,234,238,286,292,294,297~30 1頁〕,乙28~30)イ亡Aは,平成18年9月から書店で働いていたが,うつ病を発症して同書店での就労に困難を感じるようになったため,平成24年5月頃,障害者相談支援事業所である相談室Qに相談を持ち掛けた。相談室Qは,亡Aに特定非営利活動法人Rを紹介し,亡Aは,同月27日,特定非営利活動 法人Rを訪れ,転職の相談をした。特定非営利活動法人Rは,就業・生活相談室Sを開設しており,就業・生活相談室Sに所属するFが,亡Aの担当相談員となった。 亡Aは,同年9月15日頃,同書店を退職した。特定非営利活動法人Rは,同月26日,亡Aに対し,本件会社の求人情報を伝えたところ,亡A も関心を持ったため,特定非営利活動法人Rは,同年11月2日,ハローワークを通じ,本件会社に亡Aを紹介し,亡Aは,同月6日,本件会社の採用面接を受けた。 その結果,本件会社は,障害者雇用枠で,本件工場の事務職員として亡Aを採用することとし,亡Aは,同月12日,本件会社と雇用契約を締結 し,同日から勤務し始めた。 (甲1〔112,142,208,213,233,234,236,239,241~243,292,316,317頁〕,乙8〔1,10,11頁〕,9〔5,6頁〕,10〔1頁〕)⑶ 亡Aの本件工場における勤務の概況 亡Aは,装置技術係に配属され,Bの座席の右前にある座席において,事務作業の補助業務を担当していたところ,平成25年4月下旬頃,生産管理班の座席に移動し,生 Aの本件工場における勤務の概況 亡Aは,装置技術係に配属され,Bの座席の右前にある座席において,事務作業の補助業務を担当していたところ,平成25年4月下旬頃,生産管理班の座席に移動し,生産管理班の業務も担当するようになったが,所属は装置技術係のままであり,亡Aの上司として業務指示をしていたのは,Bであった。 Fは,亡Aが本件工場において勤務を開始した後も,亡Aと連絡を取り合 い,また,B及び本件工場の従業員とも面談するなど,亡Aに対する支援を継続した。 (甲1〔41,208,214~216,262,284,316~327頁〕,13〔1,6頁〕,乙8〔12,13頁〕,10〔1~3,5頁〕,19,25〔1頁〕,31) ⑷ 本件各処分の内容並びに本件各処分に対する不服申立て及びその結果等ア原告は,平成26年4月25日,処分行政庁に対し,労災保険法に基づき,亡Aの死亡に係る遺族補償給付及び葬祭料の支給申請をしたところ,処分行政庁は,同年12月16日,業務による心理的負荷が主要な原因となって精神障害が悪化したものとは認められないことを理由に本件各処分 をし,本件各処分は,同月17日,原告に通知された(甲1〔2,3,19,20頁〕)。 イ原告は,平成27年1月28日,北海道労働者災害補償保険審査官に対し,本件各処分の取消しを求めて審査請求をしたが,同審査官は,同年6月18日,同審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決は,同月22日, 原告に送達された。 そこで,原告は,同年7月13日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成28年3月11日,同審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決は,同月14日,原告に送達された。 (甲1〔1,346,361~446頁〕,2) に対し,再審査請求をしたが,同審査会は,平成28年3月11日,同審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決は,同月14日,原告に送達された。 (甲1〔1,346,361~446頁〕,2) ウ原告は,平成28年9月9日,本件各処分の取消しを求め,本件訴えを提起した。 2 精神障害の業務起因性に関する行政通達⑴ 行政通達の制定及び改廃経過業務による心理的負荷を原因として精神障害を発病し,又は自殺したこと を理由として労災保険法に基づく保険給付がされる事案については,従前, 労働省労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(以下「判断指針」という。)に基づき,業務上外の判断がされていたところ,法学及び医学等の専門家によって構成される精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会(以下「専門検討会」という。)は,判断の迅速化及び効率化を目的として,労災認定の在り方を検討するため,平 成22年10月15日から平成23年10月21日までの間に合計10回の検討会を実施し,同年11月8日,「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(乙6。以下「専門検討会報告書」という。)を取りまとめた。厚生労働省は,専門検討会報告書の内容を踏まえ,同年12月26日付け厚生労働省労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害の認定基準につ いて」(基発1226第1号)(乙3。以下「認定基準」という。)を都道府県労働局長宛に発出し,判断指針を廃止するとともに,今後は認定基準に基づき業務上外の判断を行うよう通達した。 (乙1,3~6)⑵ 認定基準(乙3)の内容 ア対象疾病認定基準で対象とする疾病(以下「対象疾病」という。)は,ICD-10第Ⅴ章「精神お 判断を行うよう通達した。 (乙1,3~6)⑵ 認定基準(乙3)の内容 ア対象疾病認定基準で対象とする疾病(以下「対象疾病」という。)は,ICD-10第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって,器質性のもの及び有害物質に起因するものは除外される。 対象疾病のうち,業務に関連して発病する可能性のある精神障害は,主 としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害であり,このうち,F3は気分(感情)障害を指し,代表的なものとしてうつ病が挙げられる。 イ認定要件次の①ないし③のいずれの要件も満たす対象疾病は,労働基準法施行規 則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。 ① 対象疾病を発病していること(以下「認定要件①」という。)。 ② 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること(以下「認定要件②」という。)。 ③ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと(以下「認定要件③」という。)。 ウ認定要件に関する基本的な考え方対象疾病の発病に至る原因の考え方は,今日の精神医学及び心理学で広く受け入れられている「ストレス-脆弱性理論」(乙1〔5頁〕)に依拠している。すなわち,環境由来のストレス(心理的負荷)と,個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり,心理的負 荷が非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし,逆に脆弱性が大きければ,心理的負荷が小さくても破綻が生ずる。 このため,心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては,対象疾病の発病の有無,発病 くても精神的破綻が起こるし,逆に脆弱性が大きければ,心理的負荷が小さくても破綻が生ずる。 このため,心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては,対象疾病の発病の有無,発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え(認定要件①),当該対象疾病の発病の前おおむ ね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることが必要となる(認定要件②)。 この場合の強い心理的負荷とは,精神障害を発病した労働者がその出来事及び出来事後の持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく,同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるもので あり,「同種の労働者」とは職種,職場における立場や職責,年齢,経験等が類似する者をいう。 さらに,これらの要件が認められた場合であっても,明らかに業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には,業務起因性が否定される(認定要件③)。 エ認定要件の具体的判断 認定要件①対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名は,「ICD-10 精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」に基づき,主治医の意見書や診療録等の関係資料,請求人や関係者からの聴取内容,その他の情報から得られた認定事実により,医学的に判断される。 認定要件②認定要件②は,対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり,当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められる場合をいう。 このため,業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては,精神障害発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考えら のある強い心理的負荷であると認められる場合をいう。 このため,業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては,精神障害発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり,また,その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し,それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて,「業務による心理的負荷評価表」(以下 「別表1」という。その内容の抜粋は別紙のとおりである。)を指標として「強」,「中」,「弱」の三段階に区分する。「強」とは,業務による強い心理的負荷が認められるもの,「中」とは,経験の頻度は様々であって「弱」よりは心理的負荷があるものの,強い心理的負荷とは認められないもの,「弱」とは,日常的に経験するものであって一般的に 弱い心理的負荷しか認められないものをいう。 具体的には次のとおり判断し,総合評価が「強」と判断される場合には,認定要件②を満たすものとする。 a 「特別な出来事」に該当する出来事がある場合発病前おおむね6か月の間に,別表1の「特別な出来事」に該当す る業務による出来事が認められた場合には,心理的負荷の総合評価を 「強」と判断する。 b 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合以下の手順により心理的負荷の総合評価を行い,「強」,「中」又は「弱」に評価する。 (a) 第1点目として,「具体的出来事」への当てはめを行う。すなわ ち,発病前おおむね6か月の間に認められた業務による出来事が,別表1の「具体的出来事」のどれに該当するかを判断する。ただし,実際の出来事が別表1の「具体的出来事」に合致しない場合には,どの「具体的出来事」に近いかを類推 月の間に認められた業務による出来事が,別表1の「具体的出来事」のどれに該当するかを判断する。ただし,実際の出来事が別表1の「具体的出来事」に合致しない場合には,どの「具体的出来事」に近いかを類推して評価する。 (b) 第2点目として,出来事ごとの心理的負荷の総合評価を行う。ま た,出来事後の状況として,「心理的負荷の総合評価の視点」(別紙参照)のほか,次に該当する状況のうち,著しいものは総合評価を強める要素として考慮する(総合評価における共通事項)。具体的には,ⅰ)仕事の裁量性の欠如(他律性,強制性の存在。具体的には,仕事が孤独で単調となった,自分で仕事の順番ややり方を決 めることができなくなった,自分の技能や知識を仕事で使うことが要求されなくなった等),ⅱ)職場環境の悪化(具体的には,騒音,照明,温度〔暑熱・寒冷〕,湿度〔多湿〕,換気,臭気の悪化等),ⅲ)職場の支援・協力等(問題への対処等を含む。)の欠如(具体的には,仕事のやり方の見直しの改善,応援体制の確立,責任の分 散等,支援・協力がされていない等),ⅳ)上記以外の状況であって,出来事に伴って発生したと認められるもの(他の出来事と評価できるものを除く。)の4つである。 まず,該当する「具体的出来事」に示された具体例の内容に,認定した「出来事」や「出来事後の状況」についての事実関係が合致 する場合には,その強度で評価する。次に,事実関係が具体例に合 致しない場合には,「具体的出来事」ごとに示している「心理的負荷の総合評価の視点」及び「総合評価における共通事項」に基づき,具体例も参考としつつ,個々の事案ごとに評価する。なお,具体例はあくまでも例示であるので,具体例の「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではなく,また,「心理的 通事項」に基づき,具体例も参考としつつ,個々の事案ごとに評価する。なお,具体例はあくまでも例示であるので,具体例の「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではなく,また,「心理的負荷 の総合評価の視点」及び具体例のうち,「事故や災害の体験」以外の出来事については,「出来事」と「出来事後の状況」の両者を軽重の別なく評価し,総合評価を「強」と判断するのは,ⅰ)出来事自体の心理的負荷が強く,その後に当該出来事に関する本人の対応を伴っている場合,ⅱ)出来事自体の心理的負荷としては中程度で あっても,その後に当該出来事に関する本人の特に困難な対応を伴っている場合である。このほか,いじめやセクハラのように出来事が繰り返されるものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価し,また,その継続する状況は,心理的負荷が強まるものとする。 (c) 第3点目として,出来事が複数ある場合には全体評価を行う。すなわち,上記第1点目及び第2点目によりそれぞれの出来事について総合評価を行い,いずれかの出来事が「強」の評価となる場合は,業務による心理的負荷を「強」と判断する。いずれの出来事でも単独では「強」の評価とならない場合には,それらの複数の出来事に ついて,関連して生じているのか,関連なく生じているのかを判断した上で,ⅰ)出来事が関連して生じている場合には,その全体を一つの出来事として評価することとし,原則として最初の出来事を具体的出来事として別表1に当てはめ,関連して生じた各出来事は,出来事後の状況とみなす方法により,その全体評価を行う。具体的 には,「中」である出来事があり,それに関連する別の出来事(そ れ単独では「中」の評価)が生じた場合には,後発の出来事は先発の出来事の出来事後の状 法により,その全体評価を行う。具体的 には,「中」である出来事があり,それに関連する別の出来事(そ れ単独では「中」の評価)が生じた場合には,後発の出来事は先発の出来事の出来事後の状況とみなし,当該後発の出来事の内容,程度により「強」又は「中」として全体を評価する。また,ⅱ)一つの出来事のほかに,それとは関連しない他の出来事が生じている場合には,主としてそれらの出来事の数,各出来事の内容(心理的負 荷の強弱),各出来事の時間的な近接の程度を元に,その全体的な心理的負荷を評価する。具体的には,単独の出来事の心理的負荷が「中」である出来事が複数生じている場合には,全体評価は「中」又は「強」となる。また,「中」の出来事が一つあるほかには「弱」の出来事しかない場合には原則として全体評価も「中」であり,「弱」 の出来事が複数生じている場合には原則として全体評価も「弱」となる。 認定要件③a 認定要件③は,ⅰ)業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない場合,又は,ⅱ)業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認め られるものの,業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合をいう。 b 業務以外の心理的負荷の判断対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考えられる業務以外の出来事(自己又は自己以外の家族・親族に 関する出来事,金銭関係,事件・事故・災害の体験,住環境の変化,他人との人間関係に関する出来事)の有無を確認する。 c 個体側要因の評価本人の個体側要因については,その有無とその内容について確認し,個体側要因の存在が確認できた場合には,それが発病の原因であると 来事)の有無を確認する。 c 個体側要因の評価本人の個体側要因については,その有無とその内容について確認し,個体側要因の存在が確認できた場合には,それが発病の原因であると 判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して,上記ⅱ)に該当す るか否かを判断する。業務による強い心理的負荷が認められる事案であって個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合としては,例えば,就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており,請求に係る精神障害がその一連の病態である場合等がある。 オ精神障害の悪化の業務起因性業務以外の原因により発病して治療が必要な状態にある精神障害が悪化した場合,悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められることをもって直ちにそれが当該悪化の原因であるとまで判断することはできず,原則としてその悪化について業務起因性は認められない。 ただし,別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり,その後おおむね6か月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合については,その「特別な出来事」による心理的負荷が悪化の原因であると推認し,悪化した部分について,労働基準法施行規則別表1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。 ここでいう「治療が必要な状態」とは,実際に治療が行われているものに限らず,医学的にその状態にあると判断されるものを含む。 次のとおり報告している。 すなわち,既に業務外の精神障害を発病している労働者が,発病後に 生じた業務による心理的負荷が要因となって,精神障害を悪化させることはあり得る。 しかしながら,一般に,既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者は,病的状態に起因し 働者が,発病後に 生じた業務による心理的負荷が要因となって,精神障害を悪化させることはあり得る。 しかしながら,一般に,既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者は,病的状態に起因した思考から自責的・自罰的になり,ささいな心理的負荷に過大に反応するから,悪化の原因は必ずしも大きな心理 的負荷によるものとは限らない。また,自然経過によって悪化する過程 においてたまたま業務による心理的負荷が重なっていたにすぎない場合もある。このような精神障害の特性を考慮すると,悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められたことをもって,直ちにそれが精神障害の悪化の原因であるとまで判断することは現時点では医学上困難であり,したがって,業務起因性を認めることも困難といわざるを 得ない。 これらの事情も勘案し,既に精神障害を発病している労働者本人の要因が業務起因性の判断に影響することが非常に少ない極めて強い心理的負荷があるケース,具体的には「特別な出来事」に該当する出来事があり,その後おおむね6か月以内に精神障害が自然経過を超えて著しく悪 化したと医学的に認められる場合については,その心理的負荷が悪化の原因であると推認して,業務起因性を認めるのが適当である。 (,乙6〔5,6頁〕)カ自殺について業務によりICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発病し たと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認める。 (2全体につき,乙3,6,7,44) 3 ICD-10におけるうつ病エピソードの分類及びその治療等⑴ I 抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認める。 (2全体につき,乙3,6,7,44) 3 ICD-10におけるうつ病エピソードの分類及びその治療等⑴ ICD-10におけるうつ病エピソードは,軽症(F32.0),中等症(F32.1),重症(F32.2及びF32.3)に分類され,いずれも,抑うつ気分,興味及び喜びの喪失並びに活動性の減退による易疲労感の増大,活動性の減少に悩まされることに加え,①集中力及び注意力の減退,②自己 評価及び自信の低下,③罪責感及び無価値感,④将来に対する希望のない悲 観的な見方,⑤自傷又は自殺の観念及び行為,⑥睡眠障害,⑦食欲不振がみられる。 このうち,軽症に該当するうつ病エピソード(F32.0)は,抑うつ気分,興味及び喜びの喪失,活動性の減退による易疲労性という典型的な症状のうち少なくとも2つを満たすとともに, 上記①ないし⑦の症状のうち少な くとも2つが存在することが必要とされる。 また,中等症に該当するうつ病エピソード(F32.1)は,上記の典型的な症状のうち少なくとも2つを満たすとともに,上記①ないし⑦の症状のうち少なくとも3つ(4つが望ましい)が存在しなければならない。中等症のうつ病エピソードの患者は,通常,社会的,職業的あるいは家庭的活動を 続けていくことがかなり困難になることが想定されている。 (甲11)⑵ うつ病の経過は,前駆期,極期,回復期,中間期の4期に分けられる。 前駆期は,更に2つの段階に分けられ,気分が正常な水準にあった状態から,気分が衰え,生活がだらだらする第1段階,気分症状が激しく変動し, 憂うつ感及びイライラ感が顕著になる第2段階があり,第2段階は,食欲不振,強度の身体的不調に悩まされる時期である。 態から,気分が衰え,生活がだらだらする第1段階,気分症状が激しく変動し, 憂うつ感及びイライラ感が顕著になる第2段階があり,第2段階は,食欲不振,強度の身体的不調に悩まされる時期である。 極期は,うつ病症状が最も重症の時期であり,抑うつ感,食欲不振,被害妄想が著しい時期であり,この時期においては,起きていることができず,寝たきりになる。 回復期は,極期から症状が改善し始める段階と,その段階から更に症状が改善し,気分症状の変動が減り,自信が出てくる段階の2つの段階に分けられる。前者の段階では,前駆期の第2段階に類似しているが,気分変動はより著しい。 中間期は,うつ病とうつ病の間の時期であり,気分が良いときは,全くの 健康人と変わらない状態にある。 (乙40〔5頁〕) 4 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 業務起因性をいかなる基準によって判断すべきか(原告の主張)ア労災保険制度は,労働者が従属的労働契約に基づいて使用者の支配的 管理下にあることを考慮し,労務を提供する過程において業務に内在する危険又は過重性が具体化して,疾病等が引き起こされた場合には,使用者は,当該疾病等の発生について過失がなくても,その危険等を負担し,労働者の損失填補に当たるべきであるとする危険責任の考え方に基づくものである。 これによれば,相当因果関係が認められるためには,当該疾病等が上記の危険等の現実化といえなくてはならないと解される。すなわち,①当該業務が危険等を内在するものであること(以下「危険性の要件」という。),これを前提として,②当該疾病等が当該業務に内在する危険等の現実化として発生したこと(以下「現実化の要件」という。)が必 要である。 a 危険性の要件の判断 険性の要件」という。),これを前提として,②当該疾病等が当該業務に内在する危険等の現実化として発生したこと(以下「現実化の要件」という。)が必 要である。 a 危険性の要件の判断においては,精神障害者であることを前提として業務に従事させた場合,精神障害者は,平均的労働者と比較して脆弱性が大きいことは当然なのであるから,「ストレス-脆弱性理論」(上記2⑵ウ参照)をそのまま適用して業務起因性を判断すれば,精 神障害者は,労災保険の適用から除外されるに等しくなる。このことは,憲法27条1項が,「すべて国民は勤労の権利を有し,義務を負ふ。」と規定し,国が障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)を定めて精神障害者の就労を積極的に援助し,企業もその協力を求められていることと反するものである。 そこで,精神障害者であることを前提として業務に従事させた場合 は,危険性の要件の判断に当たっては,平均的労働者を基準とするのではなく,当該精神障害を有する労働者本人(本件では亡A)を基準として判断すべきである。 同法5条は,障害者の実情に配慮することを事業主の責務として要求し,同法6条は,国に対しても障害者雇用の促進及びその職業の安 定を図るために必要な施策の推進に対する努力義務を課しており,危険性の要件の判断においては,これらの規定を参酌すべきであるから,本人を基準として危険性の要件を判断することが,労災保険制度の趣旨に反することになるものではない。 b 仮に,危険性の要件を,平均的労働者を基準に判断するとしても, 労働者の職種及び経験等の多様性から,心理的負荷の程度を判断するに当たっては,労働者の属性に基づく修正を行い,精神障害を発病した労 に,危険性の要件を,平均的労働者を基準に判断するとしても, 労働者の職種及び経験等の多様性から,心理的負荷の程度を判断するに当たっては,労働者の属性に基づく修正を行い,精神障害を発病した労働者と職種,年齢,経験等が類似する者を想定し,当該者にとっての心理的負荷の程度を判断するのが合理的というべきである。 そして,本件で危険性の要件の判断で基準となる平均的労働者とは, 亡Aが本件会社に雇用された時点と同程度の軽度のうつ病を発病した労働者と解するべきである。 現実化の要件の判断においては,業務上の危険等が業務外の要因に比して相対的に有力な原因となったことが必要であるところ,精神障害者であることを前提として業務に従事させた場合は,疾病等の発病につい て業務外の要因の存在が外面から確認できないときは,業務上に内在する危険等が現実化したものと理解すべきである。 イ認定基準は,精神障害の発病等を理由とする労災保険の請求件数の増加を背景に,審査の迅速化及び効率化を目的として策定されたものであり,認定基準に基づく判断は,画一的なものになる。 また,認定基準は,少なくとも「特別な出来事」がある場合には,既 に発病していた精神障害の悪化の業務起因性が肯定されることを認めたにとどまり,「特別な出来事」が存在しない場合には,業務起因性が否定されるとの医学的知見が存在することを示すものではない。そして,認定基準策定に先立って実施された専門検討会においては,認定基準によって画一的に判断することが困難な事案については,個別的な検討が 必要となることを認める意見が医師から出されており,既存の精神障害が悪化した場合について,必ずしも「特別な出来事」がなくても,個別具体的な検討次第では,業務起因性が認 ついては,個別的な検討が 必要となることを認める意見が医師から出されており,既存の精神障害が悪化した場合について,必ずしも「特別な出来事」がなくても,個別具体的な検討次第では,業務起因性が認められる場合もあるとの医学的知見が示されていたということができる。 さらに,既に精神障害を発病していた者に関する業務起因性の有無を 「特別な出来事」の有無のみによって判断すると,既に精神障害を発病している者は,労災補償の点において,これを発病していない者に比べて不利な立場に置かれ,精神障害者の就労に萎縮効果を与えかねず,そのような取扱いは,憲法14条1項,27条1項,障害者雇用促進法の趣旨に違反することになる。 このことに加え,本件会社は,亡Aが軽度のうつ病にり患していることを認識した上で亡Aを雇用し,亡Aを雇用することによって障害者雇用促進法上の利益を享受していたこと,E医師が,亡Aのうつ病の悪化について,本件会社での業務要因にあったと判断していたことからすれば,適正かつ個別的な判断が求められる本件訴訟における業務起因性の 有無は,亡Aのうつ病が悪化して死亡に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌し,必要に応じて認定基準を修正する方法により判断されるべきである。 すなわち,既存の精神障害を悪化させた場合であっても,精神障害を発病した場合と同様に,少なくとも精神障害の悪化前に業務による強い 心理的負荷が認められれば,業務起因性が認められるべきであり,精神 障害を新たに発病した場合に比して厳格な判断基準が用いられるべきではない。 (被告の主張)ア相当因果関係が認められるためには,危険性の要件及び現実化の要件が必要である点は認める。 危険性の要件の判断,つまり,業務が危険等を きではない。 (被告の主張)ア相当因果関係が認められるためには,危険性の要件及び現実化の要件が必要である点は認める。 危険性の要件の判断,つまり,業務が危険等を内在させたものであるか否か及びその程度の判断は,あくまで平均的労働者,すなわち日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準としてされるべきである。 すなわち,当該業務が危険等を内在させているか否かは,当該業務の内容や性質に基づいて客観的に判断されるべき事項であり,個体側の要 因は判断の対象である業務に内包されない業務外の要因であるから,個体側の要因の程度によって業務の危険性が左右され得るのは不合理である。また,通常の労働者にとっては日常的でささいな水準の危険(精神障害の場合は心理的負荷)であっても,個体側の要因(精神障害の場合は脆弱性)が大きな労働者にとって疾病等を発生させるおそれのある危 険等を伴う業務であれば,危険性の要件を満たすという本人基準説によれば,日常的でささいな危険等を伴う業務であっても,個体側の要因の大きな労働者にとっては危険等を内在させたものであったということになりかねないが,労災保険制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であり,労災保険制度が使用者の保険料の拠出に よって運営されていることに照らせば,個体側要因の大きな労働者に発生した精神障害まで労災保険制度によって救済することは,制度の趣旨に反する。 さらに,障害者雇用促進法5条及び6条は,障害者の雇用の安定及び促進に関する努力義務を内容とするものであり,労災保険制度における 業務起因性の判断基準に影響を与えるものではない。そもそも,雇用の 促進は,障害者の状況に合わせた配慮によって達成されるべきものであ 力義務を内容とするものであり,労災保険制度における 業務起因性の判断基準に影響を与えるものではない。そもそも,雇用の 促進は,障害者の状況に合わせた配慮によって達成されるべきものであり,そのような配慮の欠如によって精神障害が悪化した場合に業務起因性が認められるか否かとは別個の問題である。 現実化の要件の判断において,業務上の危険等が業務外の要因に比して相対的に有力な原因となったことが必要であることは争わない。 ただし,業務による心理的負荷が精神医学的にみて精神障害を発病させる程度に強いと認められない場合には,業務外の要因の存在が外部からは確認できない場合であっても,業務外の要因によって精神障害を発病したというべきである。 イ認定基準は,法学及び医学の専門家による検討を経て,最新の専門的 知見に基づく専門検討会報告書を踏まえ,上記アで主張した業務起因性に関する法的判断の枠組みを前提とした上で,業務起因性についての判断基準を示した判断指針に代わって策定されており,業務起因性の判断は,認定基準によるべきである。 亡Aのように,業務以外の原因により精神障害を発病して治療が必要 な状態にある精神障害が悪化した場合は,「特別な出来事」(別紙参照)に該当する事実があり,その後おおむね6か月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合に業務起因性が肯定されることになる。 原告は,本件における業務起因性の有無を,認定基準を修正して判断 すべきである旨主張するが,以下の理由により,認定基準に従って判断されるべきである。 a 認定基準は,法学及び医学の専門家を招集し,10回にわたって,専門検討会を開催し,専門検討会報告 すべきである旨主張するが,以下の理由により,認定基準に従って判断されるべきである。 a 認定基準は,法学及び医学の専門家を招集し,10回にわたって,専門検討会を開催し,専門検討会報告書(乙6)が提出され,これを踏まえて認定基準が発出された。専門検討会においては,精神障害が 悪化した場合の取扱いについて,集中的かつ十分な検討が行われ,そ の結果,精神障害が悪化した場合における業務起因性の判断は,上記医学及び法学の観点から十分な議論を経て定められたものである。 b 既存の精神障害が悪化した場合,悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められることをもって直ちにそれが精神障害悪 化の原因であるとまでは判断できない。一方,既に精神障害を発病している労働者本人の要因が,業務起因性の判断に影響することが非常に少ない場合である「特別な出来事」に該当し,その後おおむね6か月以内に精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合には,その心理的負荷が悪化の原因であると推認できる。 すなわち,精神状態が健常である者が精神障害を発病した場合とは異なり,既に業務以外の要因によって精神障害を発病している者がこれを悪化させる原因は,必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限らず,しかも,精神障害の自然的悪化だけでなく,薬物治療の状況により病状が悪化することもあり得る。そうすると,悪化前に強い心理 的負荷となる業務による出来事が認められたことをもって,直ちにそれが悪化の原因であると判断することは医学的に相当ではない。一方,「特別な出来事」として挙げられている生死に関わる出来事であれば,精神障害を発病している者の生物学的要因(脆弱性)等の業務以外の要因を考慮することなく,業務が病状悪 とは医学的に相当ではない。一方,「特別な出来事」として挙げられている生死に関わる出来事であれば,精神障害を発病している者の生物学的要因(脆弱性)等の業務以外の要因を考慮することなく,業務が病状悪化の有力な原因となったと判 断し得るが,これ以外の場合について,既存の精神障害の悪化と業務との間に相当因果関係を認めることは精神医学上困難である。仮に,「特別な出来事」以外の具体的出来事の心理的負荷の程度を考慮して業務起因性の判断をするとなれば,その評価において,労働者本人の脆弱性が自ずと介在しており,精神障害を前提に判断するに等しく, 不適切である。これらによれば,既に精神障害を発病している者につ いて,「特別な出来事」に至らない心理的負荷の程度が「強」と評価される具体的な業務上の出来事が生じた場合に業務起因性を肯定することはできないというべきであり,少なくとも,心理的負荷の程度が「強」と評価されるものよりも強い心理的負荷がなければ,業務による心理的負荷が相対的に有力な原因であるとは認められない。 また,心理的負荷の程度が「強」と評価されるものよりも強い心理的負荷であっても,出来事自体の心理的負荷だけでなく出来事後の状況をも含めて評価するとなると,精神障害発病後の病状の影響が介在する余地が大きくなり,専ら出来事自体の心理的負荷に対する評価だけで業務による心理的負荷の程度を判断することが望ましい。 ⑵ 亡Aのうつ病の悪化及び死亡が本件会社の業務に起因するものであるか(原告の主張)ア職場において就労できていることは,うつ病の程度が軽度であったことの証明になるというのが医学的知見であるところ,亡Aは,本件会社に入社した平成24年11月時点においては,問題なく業務をこなして おり,本件会社 きていることは,うつ病の程度が軽度であったことの証明になるというのが医学的知見であるところ,亡Aは,本件会社に入社した平成24年11月時点においては,問題なく業務をこなして おり,本件会社に入社した当初の亡Aのうつ病の程度は,軽度であったといえる。 その後,亡Aのうつ病の程度は,平成25年6月頃,中等度以上まで悪化した。 Bによる「障害者の雇用率を達成するため」との発言に係る心理的負 荷の程度aBは,同年4月19日,仕事が少なくて辛く,病気を再発してしまいそうであると訴えて業務量の増加を申し入れた亡Aに対し,亡Aを雇用した理由が「障害者の雇用率を達成するため」であるという発言(以下「本件発言」という。)をした。 本件各処分に対する審査請求においては,本件発言に係る出来事に ついて,別表1の「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)に該当すると判断された。 しかしながら,本件発言は,亡Aが数合わせの存在にすぎないことをいうに等しく,精神障害を有する亡Aの人格及び尊厳を否定する発言であって,Bとしても,亡Aが本件発言によって精神的ショックを 受けることを未必的に認識しつつ本件発言に及んだといえ,業務指導の範囲を超える発言であるといえる。また,本件発言は,障害者が経済社会を構成する労働者の一員として自立できるよう,障害者の雇用主に対して,障害のある労働者の自立に向けた努力に協力すべき責務を課す障害者雇用促進法の理念に反するものである。 そうすると,本件発言は,業務の範囲を逸脱してされたものであるから,具体的出来事としては,別表1の「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)に該当するといえる。 この場合の心理的負荷の程度に の範囲を逸脱してされたものであるから,具体的出来事としては,別表1の「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)に該当するといえる。 この場合の心理的負荷の程度についてみると,Bは,亡Aに対し,繰り返し本件発言をしたわけではないため,認定基準によれば,本件 発言の心理的負荷の程度は「中」となる。しかしながら,上記⑴アで主張したとおり,本件発言の心理的負荷の程度は,亡Aを基準に,少なくとも亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者を基準に判断されるべきである。 b 亡Aを基準に心理的負荷の程度を検討すると,亡Aは,本件発言に より,自らが完全な余剰人員であると考えるに至った上,本件発言を受けた後,本件工場を早退しただけでなく,本件発言から約2か月半が経過した同年7月4日時点においても,友人に対し,自分が完全な余剰人員であったと告げており,本件発言によって極めて強い精神的ショックを受け,極めて強い無力感,劣等感及び恥辱感を抱いたとい える。そして,発言者であるBは,本件発言によって亡Aが精神的シ ョックを受けることを未必的にではあれ認識していた。これらによれば,本件発言の心理的負荷の程度は「強」であったというべきである。 c また,亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者を基準に心理的負荷の程度を検討すると,ICD-10にいう「F32 うつ病エピソード」の一般的症状としては,自己評価及び自信の低下や無価値 感が挙げられているところ,本件発言は,本件会社にとって,労働者たる障害者が数合わせの存在にすぎず,当該労働者が無価値であることを告げるに等しく,障害者の尊厳を否定するものといえ,精神障害者に対して強い心理的負荷を与えるものである。そうすると,やはり本 働者たる障害者が数合わせの存在にすぎず,当該労働者が無価値であることを告げるに等しく,障害者の尊厳を否定するものといえ,精神障害者に対して強い心理的負荷を与えるものである。そうすると,やはり本件発言の心理的負荷の程度は「強」であったというべきである。 d なお,Bは,本件発言の内容について,「障害者の雇用率を達成するため」ではなく,「障害者の雇用率をアップさせるため」であったと供述を変遷させており,このような供述の変遷自体が不合理であり,変遷後の供述については信用できないが,仮に変遷後の供述を前提としても,これによる亡Aの心理的負荷の程度が「強」となることに変 わりはない。 亡Aの申出に対応せず,十分な説明を尽くさなかったという不作為に係る心理的負荷の程度a 亡Aは,従前の勤務先(書店)から契約更新の打診があったものの,家族の家計を支えるべく,自らの精神障害を明らかにした上で一から 仕事を探し,希望が叶って本件会社に入社したのであって,十分な労働意欲を有していた。 亡Aの本件工場における稼働状況についてみると,Bは,平成25年4月19日に亡Aから業務量を増やしてほしいとの要望を受けて,同月23日,仕事が少ないのは事実であるとして,同月末には業務量 を増やす方向での改善を約束した。それにもかかわらず,亡Aは,同 年5月23日,Fに対し,2時間半にわたって何もすることがなく,インターネットを閲覧していたが,誰にも何も言われなかった旨のメールを送信し,同年6月3日はE医師及びFに対し,同月14日はFに対し,業務量が少ないと述べており,亡Aの本件工場における業務量は,申入れによっても増加することはなかった。 また,Bは,同月18日,Fに対し,亡Aの業務は,スポット業務が多 月14日はFに対し,業務量が少ないと述べており,亡Aの本件工場における業務量は,申入れによっても増加することはなかった。 また,Bは,同月18日,Fに対し,亡Aの業務は,スポット業務が多く,毎日担当してもらう仕事は依頼していなかった旨を述べており,本件会社は,亡Aに対し,具体的な業務を担当させず,又は,亡Aの地位及び能力に比して著しく軽易な業務にしか従事させない状態を継続させていた。現に,Bは,同日,Fに対し,現状を改善したい とした上,具体的な業務の追加を検討する旨回答したにもかかわらず,追加の対象となった業務が亡Aに与えられることはなく,亡Aは,同月24日はE医師に対し,同年7月22日及び同月24日はFに対し,業務量が少ないと述べている。これらからすれば,亡Aの業務量が増加することはなく,Bも,亡Aの座席を装置技術係から生産管理班に 移動させたのみで,実際の亡Aの業務状況を把握しておらず,業務量が少ないために,亡Aがどの程度心理的負荷を受けているのかを確認せずに放置するとともに,亡Aに対し,担当させることのできる業務がこれ以上ないとの検討結果を伝えることもなかった。 このように,亡Aは,十分な労働意欲を有し,同年4月19日及び 同年6月18日,Fを介するなどしてBに対し,業務量の増加を申し出ていたにもかかわらず,本件会社は,同年4月19日の申出から約2か月にわたって亡Aの申出に対応しなかった。また,同年6月18日の申出に対しては,これに対応しなかったことに加え,同月下旬頃までにこれ以上亡Aに担当させる業務がないことを説明できたにもか かわらず,そのことについて十分な説明を尽くさなかった(以下,業 務量の増加に関する申出に対する不対応及び説明の懈怠を「本件不作為」という。)。 させる業務がないことを説明できたにもか かわらず,そのことについて十分な説明を尽くさなかった(以下,業 務量の増加に関する申出に対する不対応及び説明の懈怠を「本件不作為」という。)。 本件不作為は,亡Aが自己の経験,能力を十分に発揮できず,疎外感を覚えさせるものであったことからすると,別表1の「非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと」 (項目24)に該当するとともに,亡Aに与えるべき業務の内容について,亡AとBとの間に対立があったことからすると,別表1の「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)にも該当する。 本件不作為について,本件各処分に対する審査請求段階では,別表1の「非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取 扱いを受けたこと」(項目24)に該当するとした上で,その心理的負荷の程度は,「中」と判断された。 項目30との関係では,本件不作為は,「業務をめぐる方針等において,上司との考え方の相違が生じた(客観的にはトラブルとはいえないものも含む。)」に該当し,心理的負荷の程度は「弱」と判断さ れそうである。しかしながら,項目30の平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」,つまり「中」であるし,亡AがBに対して業務量の増加を度々求めていたことは,周囲の同僚も客観的に認識していたこと,本件不作為は,亡Aからの申出に対して具体的対応をすべきという障害者雇用法制の趣旨から導かれる合理的配慮義務に違反する重大なもの であることをも踏まえると,認定基準をそのまま適用したとしても,項目30の心理的負荷の程度は「中」となる。 加えて,上記⑴ア項目30における心理的負荷の程度を検討するにしても,本件不作為の心理的負荷の程度は 認定基準をそのまま適用したとしても,項目30の心理的負荷の程度は「中」となる。 加えて,上記⑴ア項目30における心理的負荷の程度を検討するにしても,本件不作為の心理的負荷の程度は,亡Aか,少なくとも亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病し た労働者かを基準に判断されるべきである。 b 亡Aを基準に心理的負荷の程度を検討すると,亡Aは,本件工場に出勤した全201日間のうち,僅か86日間しか業務に従事しておらず,業務に従事したとしても,それに要した時間はせいぜい1日2時間ないし3時間程度であり,著しく軽易な業務にしか従事していなかった。また,本件会社は亡Aからの申出に対応せず,対応しないこと について説明もしないという本件不作為に及んだ。このような状況から,亡Aは,本件不作為により,自分が本件工場にとって完全な余剰人員であると考えるに至り,転職の検討まで余儀なくされ,自身の将来について強い不安を感じていたことは明らかであって,約2か月にわたり,自身の今後について十分な説明を受けていなかったことが, 亡Aに対して強い心理的負荷を与えていたといえる。 これによれば,本件不作為が約2か月にわたって継続したことによる心理的負荷の程度は「強」であったというべきである。 c また,うつ病患者は,病的状態に起因した思考から自責的,自罰的になり,ささいな心理的負荷に過大に反応し,将来に対する希望のな い悲観的な見方等の症状を有するから,本件不作為が約2か月にわたって継続したことによる心理的負荷の程度は,亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者を基準にしても,「強」であったというべきである。 仮に,本件発言及び本件不作為の心理的負荷の程度がそれぞれ「中」 であっ 負荷の程度は,亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者を基準にしても,「強」であったというべきである。 仮に,本件発言及び本件不作為の心理的負荷の程度がそれぞれ「中」 であったとしても,これらを総合して評価すれば,その心理的負荷の程度は「強」であったというべきである。 すなわち,亡Aは,Bから本件発言をされて精神的ショックを受けただけでなく,その後も本件不作為によって十分な量の業務量を与えられることなく,そのことについての十分な説明もされない状況が継続して いたのであるから,本件発言と本件不作為が重畳的に作用することで, 自身が必要とされていないとの孤立感,無力感を一層強めたといえるから,その程度は「強」といえる。 たとしても,①亡Aは,2時間半にわたって何もすることがなく,インターネットを閲覧していても誰にも何も言われないほどに孤独であり, 自助努力によって業務量を改善することはできず,②ほとんど仕事がなく,与えられていた仕事も,スポット業務が多く,毎日担当する仕事は依頼されておらず,本件工場において自らの裁量,技能及び知識を仕事で使うことはなく,③亡Aが平成25年4月19日に業務量の増加を申し入れてから約2か月間に講じられた措置は,座席の移動のみで,同年 6月18日の再度の申出以降も,対応や何らかの説明はされず,その他の応援体制の確立や責任の分散等,支援や協力がされた形跡はない。これらの事情は,亡Aに対する心理的負荷の総合評価を強める要素として考慮されるべきであるところ,亡A又は亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者のいずれを基準としても,本件発言及び本件不作為に係 る出来事の心理的負荷の程度は「強」といえる。 これらによれば,危険性の要件 ,亡A又は亡Aと同程度の軽度のうつ病を発病した労働者のいずれを基準としても,本件発言及び本件不作為に係 る出来事の心理的負荷の程度は「強」といえる。 これらによれば,危険性の要件は満たされる。 イ亡Aのうつ病の悪化について,亡Aには,業務外で心理的負荷を受ける出来事は特に認められず,亡Aは精神障害を有することを前提に本件会社に雇用されていたことからすると,業務上の危険等が業務外の要因に比し て相対的に有力な原因となったといえ,現実化の要件も満たされる。 ウそうすると,本件発言及び本件不作為と亡Aのうつ病の悪化との間には相当因果関係があり,うつ病が悪化した亡Aは,正常な認識能力,行為選択能力,自殺を思いとどまるべき精神的抑制力が著しく阻害されていた状態にあったといえ,本件発言及び本件不作為と亡Aの死亡の間にも相当因 果関係があるといえる。 以上によれば,亡Aのうつ病の悪化及び死亡は,本件会社の業務に起因するものということができる。 (被告の主張)ア亡Aは,平成25年6月頃,うつ病の程度を悪化させたといえるところ,上記⑴イで主張したとおり,亡Aのうつ病の悪化及びその死亡が本件工場 における業務に起因するものであるかは,認定基準によって判断すべきである。本件は,認定基準にいうところの「精神障害の悪化の業務起因性」(上記2⑵オ)が問題となる事案であるから,別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり,その後おおむね6か月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合は,業務起因性が認 められる。 原告は,本件において,「特別な出来事」があることについて具体的に主張立証しないから,そもそも,本件において業務起因性が肯定されることはなく, る場合は,業務起因性が認 められる。 原告は,本件において,「特別な出来事」があることについて具体的に主張立証しないから,そもそも,本件において業務起因性が肯定されることはなく,また,この点を別にしても,以下のとおり,原告が主張する本件発言及び本件不作為に係る具体的事実が亡Aに対して極めて 強い心理的負荷を与えたとはいえない。 本件発言に係る心理的負荷の程度aBは,同月19日,亡Aに対し,本件発言をしたが(なお,本件発言の正確な内容は,「障害者の雇用率を達成するため」ではなく,「障害者の雇用率をアップさせるため」である。),これは,別表1の「上 司とのトラブルがあったこと」(項目30)に該当するというべきである。 Bは,本件発言において,亡Aを雇用したことにより本件工場における障害者雇用率が上昇した側面があることを指摘したにすぎず,障害者雇用率の達成のみを目的に亡Aを雇用した旨を述べたものではな い(現に,本件工場における障害者雇用率は,亡A採用当時において, 既に法定雇用率を達成していた。)から,本件発言をBと亡Aとの間のトラブルということはできない。むしろ,同日以降,亡A及びFからの申入れに基づいて,亡Aの業務量は調整されており,本件発言によって,亡Aの業務に大きな支障は生じていない。 これらによれば,本件発言は,客観的には上司とのトラブルと評価 されるものではないから,心理的負荷の程度は「弱」と評価される。 b 原告は,本件発言について,別表1の「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)に該当する旨主張する。 しかしながら,Bは,亡Aから,業務量が少なく,自らを雇わなくてよいのではないかなどと感情的に問われたため,亡Aが装置 ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)に該当する旨主張する。 しかしながら,Bは,亡Aから,業務量が少なく,自らを雇わなくてよいのではないかなどと感情的に問われたため,亡Aが装置技術係 に貢献しており,亡Aを採用したことによるメリットとして障害者雇用率がアップしたとの本件会社の立場を率直に話すために本件発言をするに至ったものであって,業務指導の範囲を逸脱したものということはできず,また,本件発言が反復的,継続的にされたこともない。 そうであれば,本件発言は,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」に該当す るとはいえない。 仮に,本件発言が別表1の項目29に該当するとしても,本件発言は,亡Aの採用によって障害者雇用率がアップしたという本件会社のメリットを伝えたものにすぎず,Bは,亡Aの存在によって装置技術係も助かっている旨も述べていることに加え,亡Aは,本件発言がさ れた3日後の同月22日,E医師の診療を受けた際,本件発言について言及せず,かえって,その後の業務改善について希望を有している旨述べていたから,本件発言による心理的負荷があったとはいえず,仮に心理的負荷があったとしても,その程度は「弱」というべきである。 本件不作為に係る心理的負荷の程度 a まず,本件会社は,亡Aを採用する以前から,亡Aがうつ病にり患し,障害者手帳の交付を受けていたことを認識しており,Fからも,亡Aは臨機応変な対応が困難であり,ストレスを抱え込みやすく,環境が変わる場合は事前に伝えてほしい旨の要望を受けていた。その上で,本件会社は,平成24年11月12日から平成25年4月下旬頃 までは装置技術係の各種一般事務を,それ以降は同事務に加えて生産管理班の事務を担当させただけではなく 旨の要望を受けていた。その上で,本件会社は,平成24年11月12日から平成25年4月下旬頃 までは装置技術係の各種一般事務を,それ以降は同事務に加えて生産管理班の事務を担当させただけではなく,他の従業員に対しても亡Aに仕事を与えるよう依頼している。 これによれば,本件会社が,亡Aに業務を与えない状況にはなく,亡Aの様子を見ながら適正に業務を与えていたものであり,亡Aに対 して与えた業務が不十分であったなどとはいえない。 むしろ,Bは,同月19日に亡Aから業務量の増加についての申出を受けて,Fとも相談の上,亡Aの座席を移動させ,生産管理班の業務をも担当してもらっており,亡Aの体調や状況を踏まえた必要な対応をしているし,現に,亡Aの業務量も増加しているから,亡Aに対 し,十分な量の業務を与えなかったとはいえない。 そして,このような対応をしても,なお業務量が少ないとの亡Aからの申出があったため,Bは,亡Aの体調に配慮しつつ,業務量の増加を具体的に検討して,亡Aの申出に誠実に対応していた。 亡Aは,平成25年5月23日,Fに対し,2時間半にわたって何 もすることがなく,インターネットを閲覧していたが,誰にも何も言われなかったとのメールを送信しているが,このメールは,亡Aが主観的に業務量に不満を有していたことの裏付けとはなっても,これだけで客観的な本件会社の対応が明らかになるものではなく,本件不作為が基礎付けられるものではない。 b 以上のとおり,本件不作為といわれるような状況はなく,本件会社 としては,亡Aの体調にも配慮した上で仕事を増やしていくことを具体的に伝えて亡Aの申出に誠実に対応していたところ,亡Aは,このような対応に対して一方的な不満を抱き,自己の経験,能力を十分 社 としては,亡Aの体調にも配慮した上で仕事を増やしていくことを具体的に伝えて亡Aの申出に誠実に対応していたところ,亡Aは,このような対応に対して一方的な不満を抱き,自己の経験,能力を十分に発揮することができず,疎外感を覚えるという心理状態に陥っていたにすぎない。このような心理状態は,亡Aの精神障害に起因した過大 な反応や悲観的な心理状態の表れであり,それ自体を心理的負荷の原因となった出来事ということはできない。 仮に,業務量に関する本件会社の対応によって亡Aが心理的負荷を受けたとしても,それは,別表1の「非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと」(項目24)に該 当すると評価すべきであるところ,その程度は「中」にとどまるというべきである。 c 原告は,本件不作為が別表1の「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)にも該当する旨主張する。 しかしながら,「トラブル」とは,「仕事をめぐる方針等に業務指 導の範囲内と評価される指導・叱責等」を指すものであるところ,本件会社は,亡Aの業務量増加に関する申出に対する対応を組織的に解決すべく,亡Aと向き合い,適時に,亡Aの体調にも配慮した上で仕事を増やしていくことを具体的に伝えていることからすれば,上司と部下の間に仕事をめぐる方針等に関する明確な対立が生じていたと はいえないのであって,本件不作為は,「上司とのトラブルがあったこと」には該当しない。 以上によれば,本件発言に係る具体的出来事の心理的負荷の程度は「弱」であり,本件不作為に係るそれはないか,あったとしても「中」であるところ,これらを総合評価したとしても,その心理的負荷の程度が「強」 に至ると評価することはできず,本件におい 荷の程度は「弱」であり,本件不作為に係るそれはないか,あったとしても「中」であるところ,これらを総合評価したとしても,その心理的負荷の程度が「強」 に至ると評価することはできず,本件において,亡Aのうつ病の悪化及 び死亡が,本件会社の業務に起因するものということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実⑴ 亡Aが本件会社に雇用されるまでの就業・生活相談室Sと本件会社との連絡状況等 ア Fは,平成24年10月30日,B及びCに対し,亡Aについて,うつ病にり患していることを含め,文書による情報提供を行った。 その際,Fは,亡Aがうつ病にり患し,障害者手帳(3級)を所持しているものの,体調面では生活習慣に気を付けながら,信頼できる医師の下で通院及び服薬により状態を維持しており,就業には問題がないと言われ ている旨記載するとともに,亡Aについて配慮を要する点として,不特定多数の人が行き交う環境での臨機応変な判断と相手に合わせた対応が難しいと思われる,周囲に気配りができる反面,ストレスを抱え込みやすい傾向があるため,環境が変わるようなことがあれば,事前に亡Aに伝えてもらいたい旨記載した。 (甲1〔234,235,280頁〕,乙8〔10頁〕,9〔4頁〕,10〔1頁〕)イ B及びCは,同年11月6日,亡Aとの面接後にF及びハローワークの担当者であるGと面談を行い,Fから,亡Aは,多くのことを言われると動きが悪くなるので考慮をしてもらいたい,亡Aは,動き,話し方及び考 えがゆっくりしているので,急かさないでほしいといった申入れを受け,また,亡Aの精神障害を職場において開示することはかまわないと言われた(甲1〔281頁〕,乙8〔10頁〕,9〔6,7頁〕,10〔1頁〕,11)。 ⑵ で,急かさないでほしいといった申入れを受け,また,亡Aの精神障害を職場において開示することはかまわないと言われた(甲1〔281頁〕,乙8〔10頁〕,9〔6,7頁〕,10〔1頁〕,11)。 ⑵ 亡Aの本件工場における勤務の状況及びその期間中におけるFとの相談状 況 ア亡Aの装置技術係における業務内容亡Aは,平成24年11月12日,本件工場の装置技術係の事務員として勤務を開始した。亡Aは,事務員としての職務を担当するのは初めてであったところ,本件工場においては,毎朝朝礼に参加するほか,電話対応,装置技術係で扱う書類全般の処理の補助(勤務割の作成,毎月1回実施さ れる班長会議に使用される資料の印刷,注文書の処理,本件工場に対する請求書に係る支払の管理,見積書の決裁受領及び編綴,テプラ貼り,パウチ加工等)や事務室及び給湯室の清掃等に従事した(甲1〔207,208,236,242,243,262,263,266,268,281,282頁〕,5,乙8〔3~9頁〕,19~24)。 イ本件工場での勤務開始後,平成25年4月19日までの亡A及びBとFとの連絡状況 亡Aは,Fに対し,①平成24年11月17日,本件工場における勤務が充実していること,Bがとても丁寧に教育してくれていること,仕事は上手くやっていることを内容とするメールを,②同月30日,以前 の職場よりも仕事が楽であり,苦にならないこと,手が空くと仕事をねだっているくらいであることを内容とするメールを,③同年12月21日,仕事について,1日,1か月の流れが分かってきたこと,Bが不在でも困らず動けるようになってきたことを内容とするメールを,④平成25年1月31日,Bにすぐ質問できる環境で,こんなに楽でいいのか と思 ついて,1日,1か月の流れが分かってきたこと,Bが不在でも困らず動けるようになってきたことを内容とするメールを,④平成25年1月31日,Bにすぐ質問できる環境で,こんなに楽でいいのか と思うこと,飲み会や組合のイベントも多く,Bや事務室の先輩方にフランクにいろいろ聞いていること,長いスパンで教育を考えてもらっており,かえって亡Aの気が緩みそうであることを内容とするメールを,それぞれ送信した。 Fは,同年2月5日,本件工場を訪問し,Bから亡Aの様子を聴取し たところ,期限内に問題なく仕事をこなし,自分から仕事がないかと積 極的に動いていること,体調面での不調もなく,飲み会にも参加して同僚と話をするなど上手くやっていること,同年3月から同年4月頃までルーチンワークを担当してもらい,その後に会計関係等新たな仕事をしてもらう予定であることの報告を受けた。その後,Fは,亡Aとも面談したところ,亡Aは,Bは話をしやすく,思ったことを伝えていること, 業務処理の余力があり,仕事はまだまだやれること,会議でファイルの整理の仕方を提案することもあることなどを表情良く,明るく笑いながら話した。 亡Aは,同年4月3日,Fに対し,春先は苦手であるとのメールを送信し,これを受けて,Fは,亡Aの体調があまり良くないとの印象を受 け,気が向いたら連絡をするよう返信した。亡Aは,同月17日,Fに対し,話がしたいので,同月22日午後に時間を作ってほしいと連絡した。 (イにつき,甲1〔317~319頁〕,乙10〔1,2頁〕)ウ平成25年4月19日のBと亡Aとの間のやり取り等 亡Aは,同日の朝礼後,Bに対し,話があると泣きながら話しかけてきたため,Bは,亡Aを個室に案内し,2人だけで話し合ったところ, )ウ平成25年4月19日のBと亡Aとの間のやり取り等 亡Aは,同日の朝礼後,Bに対し,話があると泣きながら話しかけてきたため,Bは,亡Aを個室に案内し,2人だけで話し合ったところ,亡Aは,Bに対し,仕事が少なくて辛い,亡Aを雇用する必要がないのではないかと述べた。 その際,Bは,亡Aの雇用が「障害者の雇用率を達成するため」であ るという本件発言をした(本件発言の内容の認定理由については,後記2〔事実認定の補足説明〕のとおりである。)。本件工場における障害者雇用率は,平成24年10月時点において,既に法定雇用率を上回っていたが,Bは,本件発言の前後において,亡Aに対し,そのことは伝えなかった。 亡Aは,平成25年4月19日,早退し,同月20日,欠勤した。 Bは,同月19日,Fに電話を掛け,亡Aの業務量について相談したいこと,本件工場としては,亡Aの業務量を増やすことは難しく,本件工場の工場長との相談が必要になってくること,亡Aの不調に気付けなかったことを伝えた。 亡Aは,同年7月4日,友人に対し,本件工場は法定雇用率を満たす ことが先にあり,雇用した者を具体的にどのように働かせるかというビジョンもノウハウもなかった,亡Aが完璧な余剰人員であった,暇でおかしくなったなどと訴える手紙を書いた。 ,甲1〔122,125,129,187,213,227,283,319,343,344頁〕,13〔2,3,33頁〕, 乙8〔11,12頁〕,10〔2頁〕,33)エ平成25年4月22日における亡AとFとの面談内容亡Aは,休日であった同日,就業・生活相談室Sを訪問し,Fに対し,仕事が暇であることに悩んでおり,同月19日,Bにそのことを相談したところ,「障害者の雇用率を達成するため」と とFとの面談内容亡Aは,休日であった同日,就業・生活相談室Sを訪問し,Fに対し,仕事が暇であることに悩んでおり,同月19日,Bにそのことを相談したところ,「障害者の雇用率を達成するため」と言われたこと(本件発言) がショックで,同日は早退したこと,Bから,気付けなくて申し訳なかったと謝罪されたが,業務量が変わらなければ大変辛い環境であることを相談した。 このような亡Aの相談を受け,就業・生活相談室Sとしては,仕事内容の見直しを検討してもらうこととし,FがBに電話を掛けて亡Aの状況を 伝えたところ,Bは,本件工場としては,亡Aの業務量を増やすために部署異動を検討しており,明日(同月23日)に亡Aにその旨伝えたい,調子が悪いことに気付けず放っておいた状況で失敗したなどと述べた。 (甲1〔227,319,320頁〕,乙10〔2頁〕)オ平成25年4月23日における面談の内容等 亡A,F及びBは,同日,本件工場において面談(以下「本件面談」と いう。)を実施した。本件面談において,Bは,亡A及びFに対し,仕事量が少ないのは事実であり,放っておいたわけではないが,そこまで深刻な状況になっているとは思っていなかったこと,同月末には部署異動をして,業務量を増やし,積極的に会議にも参加してもらうような体制を整えていくことを説明した。これを受けて,亡Aは,大変喜ぶとともに,退職 せずに済みそうで,また頑張る旨笑顔で述べた。 Bは,本件面談後に,本件工場の工場長,C及び製造係長と話し合い,亡Aの座席を生産管理班に移して,亡Aに生産管理班の業務も担当してもらうこと,装置技術係の係内会議にも出席してもらうこととした上,生産管理班の従業員に対し,亡Aに業務の補助をしてもらうよう依頼した。(甲 管理班に移して,亡Aに生産管理班の業務も担当してもらうこと,装置技術係の係内会議にも出席してもらうこととした上,生産管理班の従業員に対し,亡Aに業務の補助をしてもらうよう依頼した。(甲 1〔320頁〕,乙8〔12頁〕,10〔2頁〕,23〔1頁〕,25〔1頁〕)カ本件面談後の亡Aの業務状況等 亡Aは,同月26日,Fに対し,仕事をもらえて,手が空くことが少なくなり,やることがあれば安心できること,やることがなくなったら, 電話を取ってみたり,掃除をしてみたりして,あまり「暇」という言葉を考えないようにしていることを内容とするメールを送信した。 亡Aは,同月下旬頃,生産管理班の座席に移り,生産管理班の業務をも担当することになり,電話の取次ぎ,窓口対応,請求書の入力及び編綴作業,日報及び月報綴り,駐車許可証の作成,工場内使用ネル縫等に 従事した。 Bは,亡Aの座席が生産管理班に移ってからは,亡Aが仕事をしている様子は見ていたものの,具体的にどのような仕事をしているのかについては確認しておらず,亡Aと業務について話し合ったことはなかった。 (カにつき,甲1〔247,271,272,277,284,320 頁〕,13〔6,7頁〕,13〔6,7,23,24,29頁〕,乙8 〔4~6,9,12,13頁〕,20,21,23〔2~4頁〕,25〔1~6頁〕,31)キ平成25年5月から同年7月30日までの亡Aの業務状況等 Fは,同年5月22日,Bからの電話で,亡Aの状況について,業務面では落ち着いており,従前とは異なる業務を覚えてもらっているため, 以前のように時間を持て余すことはなくなったが,体調不良のせいか元気はあまりないとの報告を受けた。 亡Aは,同月23日,Fに対し,同 ており,従前とは異なる業務を覚えてもらっているため, 以前のように時間を持て余すことはなくなったが,体調不良のせいか元気はあまりないとの報告を受けた。 亡Aは,同月23日,Fに対し,同日は2時間半にわたって何もすることがなく,インターネットでナショナルジオグラフィックを眺めていたが,誰にも何も言われなかったこと,休憩室で寝ていても,誰にも何 も言われないのかもしれないこと,自分の机にはいるものの,やるべきことが思い付かないこと,何をさせたいのか,どのようなプランであるのかが不安であり,仕事を回してくれた人も,亡Aがどのような人員であるのか不思議そうであることを内容とするメールを送信するとともに,相談室Qに対し,本件工場に通うのが仕事なのかという内容のメールを 送信した。 また,亡Aは,同年6月3日,Fに対し,いつも手が空いている状態で,依然として頭痛や身体の痛みがある,Bは,亡Aの座席が変わったら臭いものにフタをしたみたいに知らんぷりをしていて,どうしたらいいのか分からず,辛いと訴えた。 さらに,亡Aは,同月14日,就業・生活相談室Sを訪問し,業務量は若干増えたものの,基本的に「自分だけの業務」と呼べるものがなく,一日中暇な日もあり,上司に対して仕事がないかを尋ねるのが怖いこと,このような状況が続くのであれば,やりがいのある仕事に転職も考えていることを相談した。そこで,就業・生活相談室Sは,本件工場を訪問 し,状況確認をすることとした。 Fは,同月18日,B及びCと面談し,亡Aの思いを伝えたところ,B又はCは,実際,亡Aの業務はスポット業務(雑務の一種)が多く,毎日こなしてもらう仕事(月次で回る業務)は依頼していなかったこと,装置技術係の業務をこれ以上増やすことは 亡Aの思いを伝えたところ,B又はCは,実際,亡Aの業務はスポット業務(雑務の一種)が多く,毎日こなしてもらう仕事(月次で回る業務)は依頼していなかったこと,装置技術係の業務をこれ以上増やすことはできないため,流通係の業務をやってもらうことを検討すること,今すぐ急激に業務量を増やせない ものの,現状を改善したいことを回答した。 亡Aは,同年7月2日,Fに対し,味覚とともに身体の感覚もぼんやりしていること,空腹感もなく,また,責任感及び義務感が欠落していることを内容とするメールを送信した。 亡Aは,同月22日,Fに対し,本件工場の従業員に「仕事をくださ い。」と伝えたところ,「今日はもう帰っていいですよ。」と言われたとのメールを送信した。 Bは,同日,Fに対し,亡Aから帰宅(早退)してよいかと言われたので了承したものの,亡Aは,仕事があるなら残ると答え,昼からルーチンワークがあったため,亡Aには残ってもらった,心配なので,辛い ようなら翌日は休んでもよい旨亡Aに伝えてほしい旨電話した。そこで,Fは,同日,亡Aに電話し,Bからの上記連絡事項を伝えたところ,亡Aは,Bがそこまで心配してくれるとは思っていなかったと述べるとともに,前の週は少し状態が良く,Bとも「調子が良くなった」と話していたが,土曜日に仕事がなくなり,週末から不調になった,仕事があれ ば順調だが,ルーチンワークがなくなると大変不安になると話した。 亡Aは,同月24日,就業・生活相談室Sを訪問し,同月22日は泣いてばかりで仕事が手につかなかった,入金業務等もあるため,今の思考力ではいつか大きなミスをしてしまうような気がして不安である,仕事を与えてもらう現状で今後も勤務を続ける意味があるのかなどと涙な がらに訴えた。また かなかった,入金業務等もあるため,今の思考力ではいつか大きなミスをしてしまうような気がして不安である,仕事を与えてもらう現状で今後も勤務を続ける意味があるのかなどと涙な がらに訴えた。また,亡Aは,感覚及び味覚がない,判断力が鈍ってい る,動悸が辛い,ここまで体への症状が出るのは初めてであり,泣きながらする仕事などないのではないかとも話した。 (キにつき,甲1〔169,321~324頁〕,13〔10,21,26頁〕,乙8〔13,14頁〕,9〔7,8頁〕,10〔3,4頁〕)ク平成25年7月30日から同年8月31日までの亡Aの状況 E医師は,同年7月30日,亡Aにつき,抑うつ状態にあり,同日から同年8月31日までの自宅療養を要する旨の診断をした。この診断を受けて,亡Aは,同年7月30日から同年8月31日までの間,欠勤した。 亡Aは,同月22日,B,C,F及びGと職場復帰に向けた面談を行ったところ,亡Aから更なる加療を要する旨の追加の診断書の提出はなく, 亡A自身も復帰を希望したため,亡Aの職場復帰に向けた話合いが行われ,その際,亡Aには,本件工場での勤務再開後,試験室の洗い物も担当してもらうこととした。 亡Aは,同年9月2日,本件工場における勤務を再開したが,試験室内の洗い物業務を担当することはなく,その理由の説明も聞かされなかった。 (甲1〔216,217,230~232,248,249,285,324~327頁〕,13〔10,18,26頁〕,乙8〔14,15頁〕,9〔9~11頁〕,10〔4,5頁〕,30〔17頁〕)ケ亡Aが本件工場に復帰した後の業務状況亡Aは,平成25年9月5日及び同月20日,Fに対し,復帰してみた ところ,すべき業務がなくなっていたこと, 〔4,5頁〕,30〔17頁〕)ケ亡Aが本件工場に復帰した後の業務状況亡Aは,平成25年9月5日及び同月20日,Fに対し,復帰してみた ところ,すべき業務がなくなっていたこと,暇であり,体調もおかしくどうすべきか分からないこと,1週間のうちで,Bから指示をもらえた仕事は1個だけであることを内容とするメールを送信した(甲1〔326,327頁〕,乙8〔15,16頁〕,10〔5,6頁〕)。 コ亡Aの日記の記載内容 亡Aは,平成25年7月5日,「ここ1週間は,暇を持て余すというこ とがない」と記載した。 亡Aは,同月22日,同日は何も考えられず,感じられない状況にあったところ,仕事をもらえたが,毎日は続かない優しさによるものであり,Bには,亡Aのことで仕事をする気がないのであろうこと,そのような余力のある職場とも思えないことを記載した。 また,亡Aは,同月23日,同日のFとの電話の内容を覚えていないこと,休職の助言を受けて仕事を休んだが,罪悪感もなく,何も感じないこと,同月25日,ここまで身体症状(味覚障害,動悸等)が出るのは初めてであることを記載した。 さらに,亡Aは,同年8月1日,味覚が弱く,匂いが感じられないよう に思われること,体の感覚もぼんやりしており,何も考えられないこと,同月2日,変な無感覚の世界に来て1か月ほどが経過しようとしていること,同月5日,いっそ死んでしまいたいこと,「突発的な仕事,障害者枠を埋める,仕事の優先順位が低い,暇なんだろうなと思ってた。」,「このへんな感じは,7月頭か6月末頃からだったと思う。薬は激的に変わっ たわけじゃないのに,考えられなくなってないか?」と記載した。 (甲1〔165,168,169,173,174頁〕) 2 事実認定 じは,7月頭か6月末頃からだったと思う。薬は激的に変わっ たわけじゃないのに,考えられなくなってないか?」と記載した。 (甲1〔165,168,169,173,174頁〕) 2 事実認定の補足説明⑴ Bは,平成25年4月19日における本件発言に関し,①平成29年2月7日,北海道労働局の地方労災補償訟務官に対し,亡Aの雇用は障害者雇用 率のアップという側面があると発言した旨述べ(乙8〔11頁〕),また,②平成30年12月17日,別件訴訟(原告が本件会社を被告として提起している損害賠償請求事件,当庁平成29年(ワ)第468号)の証人尋問において,亡Aを雇用したのは,「障害者雇用率を達成するため」であるとは発言しておらず,「障害者雇用率をアップさせるため」であると発言した旨供述し ている(甲13〔4頁〕)。 他方,Bは,亡Aの死後1年も経ない時点である平成26年8月11日には,札幌東労働基準監督署の職員に対し,亡Aとの会話の中で「障害者の雇用率を達成するため」と発言したことを明確に認めており(甲1〔283頁〕),Bの供述は変遷している。 ⑵ Bの各供述の信用性について検討するに,認定事実⑵エのとおり,亡Aは, 平成25年4月19日の3日後である同月22日,Fに対し,Bから,「障害者の雇用率を達成するため」と言われた旨相談しており,また,同⑵のとおり,その約2か月半後,友人に対する手紙の中で,本件工場は法定雇用率を充足することが先にあった旨記載しているところ,Bの平成26年8月11日時点での上記供述は,亡Aの相談内容及び手紙の記載内容とも整合 するものであり,信用性が高い。 一方,Bの変遷後の供述についてみると,本件工場の障害者雇用率は,亡Aの雇用前の時点において,既に法定雇用率を上回ってい の相談内容及び手紙の記載内容とも整合 するものであり,信用性が高い。 一方,Bの変遷後の供述についてみると,本件工場の障害者雇用率は,亡Aの雇用前の時点において,既に法定雇用率を上回っていたものの(認定事),そのことをもって直ちに,Bの発言が「達成」ではなく「アップ」であったとまで推認できるものではない。また,Bは,別件訴訟の証人 尋問において,変遷前の供述をした時点では「達成」と「アップ」を混同していたとも述べるが(甲13〔4頁〕),合理的な内容とはいえず,Bの変遷後の供述は信用できない。 ⑶という内容の本件発言をしたと認められる。 3 争点⑴(業務起因性をいかなる基準によって判断すべきか)について⑴ア労災保険法上の遺族補償給付及び葬祭料は,労働者の死亡が業務上のもの,つまり業務起因性を有するものである場合に支給される保険給付であるところ(労災保険法12条の8第1項4号,5号,7条1項1号,労働基準法79条,80条),当該労働者の死亡が業務上のものであるといえる ためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ死亡しなかったという 条件関係が認められることを前提に,業務と死亡の間に相当因果関係が認められる必要があると解される(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 そして,労災保険法が定める業務災害に関する保険給付は,労働基準法が定める災害補償責任(同法第8章)を担保する制度であり(労災保険法 12条の8第2項),この責任は,労働者が使用者の支配管理下において労務を提供するという労働関係の特質に鑑み,労務を提供する過程において業務に内在又は随伴する危険が現実化して死亡等の結果が生じた場合には,使用者は,その死亡等について無過失の補償責任を負担さ おいて労務を提供するという労働関係の特質に鑑み,労務を提供する過程において業務に内在又は随伴する危険が現実化して死亡等の結果が生じた場合には,使用者は,その死亡等について無過失の補償責任を負担させるのが相当であるという危険責任の法理に基づくものである。このことからすれば, 上記の相当因果関係(法的観点から労災補償を認めるべき関係)は,労働者の死亡等が業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に認められると解される(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 イ精神障害を有する者が自殺した場合における相当因果関係の有無の判断においても,上記危険責任の法理は妥当するものであって,そうすると,その判断は,今日の精神医学及び心理学において広く受け入れられている,環境由来のストレス(心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じる(発病する)か否かが決まるという「ストレス-脆弱 性理論」(乙1〔5頁〕)を踏まえた客観的判断がされるべきである。 したがって,業務と精神障害の悪化及び死亡との間に相当因果関係が認められるか否かにつき,原告が主張するように,被災労働者本人を基準として判断することは,相当因果関係の有無を主観的に判断するものであって,相当ではない。 その一方で,障害者雇用促進法の趣旨及び精神障害を有する労働者とそ うでない労働者では,業務に内在又は随伴する危険が現実化する可能性の程度が異なることを考慮すると,健常者である平均的労働者を基準として判断することも相当とはいえない。 そこで,被災労働者と同種の平均的労働者,すなわち,当該労働者と職種,職場における立場及び経験並びに精神障害の とを考慮すると,健常者である平均的労働者を基準として判断することも相当とはいえない。 そこで,被災労働者と同種の平均的労働者,すなわち,当該労働者と職種,職場における立場及び経験並びに精神障害の程度の点で同種の平均的 労働者を基準として,当該労働者が置かれた具体的状況における心理的負荷が,一般に,既に業務外の要因によって発病していた精神障害を悪化させて死亡に至らせる危険性を有し,業務外の要因及び当該被災労働者の個体側要因に比して相対的に有力な要因となって当該精神障害を悪化させて死亡に至ったと認められれば,業務と精神障害の悪化及び死亡との間に相 当因果関係が認められると解すべきである。 ⑵ア精神障害に関する業務起因性の判断基準として定められた認定基準(乙3)は,行政処分の違法性に関する裁判所の判断を直接拘束するものではないものの,医学及び法学等の専門家によって構成された専門検討会による多数回の議論を経た成果物である専門検討会報告書(乙6)の内容を踏 まえて策定されたものであり(第2の2⑴),その内容(同⑵)に照らしても一定の合理性を有するものであると認められる。 イ認定基準では,業務外の要因によって精神障害を既に発病し,治療が必要な状態にある者が,精神障害を悪化させ,死亡した場合には,業務起因性が原則として認められないものの,「特別な出来事」に該当する出来事 があり,その後おおむね6か月以内に当該精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合には,業務起因性が肯定されることになる( その根拠は,既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者は,自責的・自罰的になっているためにささいな心理的負荷に対して過大に反応 する傾向がある上,自然経過によって精神障害が悪 その根拠は,既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者は,自責的・自罰的になっているためにささいな心理的負荷に対して過大に反応 する傾向がある上,自然経過によって精神障害が悪化する過程で偶然業務 による心理的負荷が重なるという場合もあり得ることから,精神障害の悪化前に強い心理的負荷となる業務上の出来事があったとしても,直ちに当該出来事が精神障害悪化の原因であると判断することは,医学的に困難で しかしながら,①専門検討会においては,既に発病していた精神障害が 悪化した場合の業務起因性の判断は困難であるから,専門家において個別に対応すべきであるとの意見や,初発の場合と同等に評価することが適切であるとの意見が医師から出され(乙38〔6~8頁〕),また,②厚生労働省の担当者は,既に発病していた精神障害が悪化した場合の業務起因性に関する認定基準の原案の内容について,「特別な出来事」があった場 合には,少なくとも業務起因性が認められるという点で専門検討会参集者の意見は一致していると考え,そのような基準を策定したと釈明したところ,これに対しては,既に発病していた精神障害が悪化した場合の業務起因性の判断について,一般的な労働者とは異なる判断基準になってしまうとの大学教授による指摘,既に精神障害を発病していた者全てについて, ささいな心理的負荷に過大に反応するといえるかは不明であるとの医師による指摘及び個別に業務起因性を判断していく可能性もあるとの医師による指摘がされていた(甲7〔4頁〕)ところでもある。 これらを踏まえれば,健常者であっても精神障害を発病するような強度の心理的負荷を生じさせる出来事があるにもかかわらず,「特別な出来事」 までは認められない場合に,既存の精神障 。 これらを踏まえれば,健常者であっても精神障害を発病するような強度の心理的負荷を生じさせる出来事があるにもかかわらず,「特別な出来事」 までは認められない場合に,既存の精神障害があることのみを理由として,裁判上一律に業務起因性を否定することは,相当とはいえない。 そこで,既に業務外の要因によって精神障害を発病していた者が精神障害を悪化させて死亡した場合における業務起因性の有無は,被災労働者が受けた心理的負荷の程度の判断は認定基準に依拠することを原則としつつ, 心理的負荷を生じさせる具体的な出来事については,「特別な出来事」に 該当するものがなかった場合であっても,それ以外の別表1記載の個々の具体的出来事があるかを検討し,それら具体的出来事による心理的負荷の程度及びその総合評価の結果に,業務外の心理的負荷の有無及び被災労働者の個体側要因を考慮して,すなわち,認定基準を一部修正して,判断すべきである。 ⑶ 以上によれば,既に業務外の要因によって精神障害を発病していた者が精神障害を悪化させて死亡した場合における業務起因性の有無は,職種,職場における立場及び経験並びに精神障害の程度の点において当該労働者と同種の平均的労働者を基準として,認定基準の別表1記載の具体的出来事の心理的負荷の程度の判断及びその総合評価をしつつ,業務外の心理的負荷の有無 及び被災労働者の個体側要因を考慮して判断することとなる。 4 争点⑵(亡Aのうつ病の悪化及び死亡が本件会社の業務に起因するものであるか)について⑴ 亡Aのうつ病の程度について亡Aが本件工場において勤務を開始した時点での亡Aのうつ病の程度が軽 症であり,亡Aが自殺した時点でのうつ病の程度が中等症以上の状態にあったことは争いが ⑴ 亡Aのうつ病の程度について亡Aが本件工場において勤務を開始した時点での亡Aのうつ病の程度が軽 症であり,亡Aが自殺した時点でのうつ病の程度が中等症以上の状態にあったことは争いがない。そこで,亡Aのうつ病の悪化及びこれによる自殺が,本件発言及び本件不作為によって強度の心理的負荷を受けたことに起因するものであったか否かを検討する。 ⑵ 本件発言及び本件不作為の心理的負荷の程度について ア本件発言について心理的負荷に関する具体的出来事の該当項目a 本件発言の心理的負荷の強度につき,原告は,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)に該当することを前提とすべきであると主張し,被告は,「上司とのトラブルがあった こと」(項目30)に該当することを前提とすべきであると主張する ところ,いずれの項目の出来事に該当するかは,業務指導の範囲を逸脱する言動か否かによる(第2の2⑵エ)。 bBは,平成25年4月19日,亡Aから,業務量が少ないことや亡Aを雇用する必要がないのではないかということを泣きながら訴えられ,これに対する返答の中で本件発言をしているところ(認定事実⑵ ),本件発言は,亡Aが本件工場における障害者雇用率の達成に寄与するための存在にすぎないと受け止められかねないものであり,しかも,泣いて訴えるほどに深刻に悩んでいたであろう亡Aにかける言葉として,穏当な発言であるとはいい難い。しかしながら,本件発言は,亡Aの業務に関する話合いの中でされたものであり,亡Aに対 する嫌がらせやいじめの一環としてされたものとも認められないから,業務指導の範囲を逸脱する発言とはいえず,心理的負荷に関する出来事の項目としては,「上司とのトラブルがあったこと」(項目30) する嫌がらせやいじめの一環としてされたものとも認められないから,業務指導の範囲を逸脱する発言とはいえず,心理的負荷に関する出来事の項目としては,「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)に該当するというべきである。 心理的負荷の程度 本件発言による心理的負荷の程度は,前記3⑴イで説示したとおり,職種,立場,経験及び精神障害の程度において,亡Aと同種の平均的労働者を基準として判断すべきである。 そこで検討すると,本件発言は,亡Aに精神障害が存在することを前提とするものであり,亡Aが障害者雇用率の達成に寄与するための存在 にすぎず,本件会社に必要な労働力ではなく,本件会社にとっての存在意義が小さいと言われたに等しいと捉えるものといえ,亡Aと同程度の精神障害を有する同種の平均的労働者の立場からすれば,本件発言は,相応の心理的負荷を与えるものと評価できる。 しかしながら,bのとおり,本件発言は,亡Aの業務に関する 話合いの中でされたものである。また,本件発言は,Bと亡Aの2人だ けの場においてされたものであって(認定事実⑵ウBが亡Aに対して本件発言をしたことが周囲に認識されたわけでもなく,さらにはこのような発言が繰り返されたわけでもない。 さらに,Bは,本件発言後の本件面談において,亡Aに対して業務量の増加を検討すると説明し,亡Aは,そのことを受け,喜び,また,そ の数日後には,仕事がもらえ,手が空くことが少なくなったと認識していることからすれば(同⑵オ,カ),本件発言後の亡Aの業務に大きな支障が生じたとは認められない。 これらを総合すれば,亡Aと同程度の精神障害を有する同種の平均的労働者の立場からみても,本件発言による心理的負荷の程度は「中」に とどまるというべき に大きな支障が生じたとは認められない。 これらを総合すれば,亡Aと同程度の精神障害を有する同種の平均的労働者の立場からみても,本件発言による心理的負荷の程度は「中」に とどまるというべきである。 確かに,亡Aは,本件発言の約2か月半後の平成25年7月4日,友人に対し,本件発言を踏まえ,自らが余剰人員であったとの手紙を作成しており(同⑵少なくともその頃において相当に本件発言を気に病んでいたと認められる。しかしながら,本件発言がされた状況やそ の後の亡Aの状況等は上記説示のとおりであり,既に精神障害を発病した者においては,具体的な出来事に対して過大な反応を示すことがある一方で,そのような反応が全てとは限らないこと(甲7〔4頁〕,第2からすれば,亡Aの上記反応は,亡Aと同程度の精神障害を有する者に共通するものと認めることはできない。 小括以上によれば,本件発言による心理的負荷の程度は「中」と判断すべきである。 イ本件不作為について 原告は,本件会社による本件不作為が「非正規社員であるとの理由等 により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと」(項目24)及び 「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)に該当し,その心理的負荷は強度であった旨主張する。 他方,被告は,本件会社が亡Aに対して十分な業務量を与えなかったことはなく,また,亡Aからの申出に対しても誠実に対応していたものであり,本件不作為といわれるような状況はなかった旨主張する。 a そこで検討すると,そもそも,使用者側は,雇用する労働者の配置及び業務の割当て等について,業務上の合理性に基づく裁量権を有すると解されるが,労働者に労務提供の意思及び能力があるにもかか a そこで検討すると,そもそも,使用者側は,雇用する労働者の配置及び業務の割当て等について,業務上の合理性に基づく裁量権を有すると解されるが,労働者に労務提供の意思及び能力があるにもかかわらず,使用者側が業務を与えず,又は,その地位,能力及び経験に照らして,これらとかけ離れた程度の低い業務にしか従事させない状態 を継続させることは,業務上の合理性があるのでなければ許されない。 そして,上記の状態の継続は,当該労働者に対し,自らが使用者から必要とされていないという無力感を与え,他の労働者との関係においても劣等感や恥辱感を生じさせる危険性が高いといえ,上記の状態に置かれた期間及び具体的な状況等次第で,労働者に心理的負荷を与え ることは十分あり得るところである。 b 確かに,亡Aは,平成25年5月下旬から同年7月下旬にかけて,Fに対し,すべき業務がなく,インターネットを閲覧していたが,何も言われなかった,ルーチンワークがなくなると大変不安になると述べ,,現に,同月30日以降約1か月にわたっ て欠勤している(同⑵ク)。これによれば,亡Aは,この頃,少なくとも,自己に与えられている業務量が少ないと感じていたといえる。 しかしながら,Bは,同年4月19日,亡Aから業務量が少ないことの申出を受け,その日のうちに,Fに連絡を取った上,業務量を増やすことを検討することとし(同⑵エ),数日内にFも交えた本件面 談を実施し,その際,業務量増加を検討していることやその内容につ いて亡Aに説明したところ,亡Aも,Bの対応に喜んでいた上(同⑵オ),その後,Fに対し,仕事をもらえているため,手が空くことが少なくなった旨報告していた(同。また,亡Aは,同月下旬頃,生産管理班の座席に移り,従前 ところ,亡Aも,Bの対応に喜んでいた上(同⑵オ),その後,Fに対し,仕事をもらえているため,手が空くことが少なくなった旨報告していた(同。また,亡Aは,同月下旬頃,生産管理班の座席に移り,従前は担当していなかった業務も新たに担当するようにもなり(同),亡A自身,同年7月5日 の直近1週間は,時間を持て余すことがないと感じていた(同⑵コ)。 これらによれば,本件会社は,亡Aの業務量が少ないとの申出に対し,これを放置することなく,一定の対応をしていたといえるし,亡A自身も,自らの申出が無視されずに一定の対策が講じられていると認識していたと認められる。 もっとも,亡Aに対しては,同年6月18日時点で,実際に毎日こなしてもらう業務は割り当てられておらず(同また,同年8月22日時点で,亡Aに更に新たな業務を担当してもらうことが検討されたが,結局,新たに業務が与えられることはなく,その理由について説明されることもなかった(同⑵ク)。 しかしながら,そもそも,亡Aが一般事務を担当していたことからすれば,その担当可能な業務の種類にも自ずと限界がある上,亡Aは,本件工場において勤務するまで,事務員としての職務を担当したことはなかったところ(同⑵ア),業務量が少ないとBに申し出た同年4月19日時点において,本件工場での勤務を開始してから5か月程度 しか経過していなかった(前提事実⑴ア,⑵イ,認定事実⑵)。 そして,亡Aは,うつ病にり患しており,ストレスを抱え込みやすく,多くのことを言われると動きが悪くなるという特質を有しており,Bは,亡Aの雇用に当たって,Fから,上記特質に対する配慮を求められていたこと(同⑴ア,イ),また,うつ病にり患している者は,活 動性の減退による易疲労感が増大し,集中力 う特質を有しており,Bは,亡Aの雇用に当たって,Fから,上記特質に対する配慮を求められていたこと(同⑴ア,イ),また,うつ病にり患している者は,活 動性の減退による易疲労感が増大し,集中力及び注意力の減退という 現象がみられることがあることからすると(第2の3⑴),亡Aの申出にそのまま応じる形で業務量を増加させた場合,亡Aの負担感が増して疲労感も増大するなどし,かえって亡Aに対して心理的負荷を与える可能性も否定できない状況にあったといえる。 c これらによれば,Bは,亡Aのうつ病の状態に配慮した上で業務の 付与を検討するとともに,亡Aから業務量を増加させることの要望を受けて,亡Aの支援を継続していたFとも連絡を取り合った上で,亡Aの要望に対して具体的な措置を検討するなどの対応をしていたということができ,検討対象となった業務が割り当てられなかったことは結果にすぎず,Bの対応は,使用者側の合理的な裁量の範囲内のもの であったというべきであって,たとえ亡Aが業務量について主観的に満足していなかったとしても,そのことにより,原告が本件不作為と主張するような状況があったといえるものではなく,別表1の「非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと」(項目24)や「上司とのトラブルがあったこと」(項目3 0)に該当する出来事があったと評価することはできない。 小括以上によれば,亡Aの業務量に関する本件会社の対応が別表1の具体的出来事(それに近いものも含む。)のいずれかに該当するとは認められない。 ウ総合評価上記ア及びイで説示したところによれば,亡Aに対する心理的負荷を生じさせる具体的出来事は,「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)のみであ られない。 ウ総合評価上記ア及びイで説示したところによれば,亡Aに対する心理的負荷を生じさせる具体的出来事は,「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)のみであり,その心理的負荷の程度は「中」にとどまる。 ⑶ まとめ 以上の検討によれば,本件では,認定要件②(第2の2⑵イ)が満たされ ないから,亡Aのうつ病の悪化及び死亡が本件会社の業務に起因するものであると認めることはできない。 第4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきであり,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部裁判長裁判官武部知子 裁判官向井宣人 裁判官臼倉尭史 別紙「業務による心理的負荷評価表」(別表1)の内容(抜粋) 1 「特別な出来事」その類型の1つとして,心理的負荷が極度のもの,すなわち,出来事それ自 体の心理的負荷が極めて大きいため,出来事後の状況に関係なく強い心理的負荷を与えると認め得るもの(乙44〔4頁〕)があり,具体例は以下のとおりである。 ⑴ 生死にかかわる,極度の苦痛を伴う,又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをしたこと(業務上の傷病により6か月を超えて療 養中に症状が急変し,極度の苦痛を伴った場合を含む。)⑵ 業務に関連し,他人を死亡させ,又は生死にかかわる重大なケガを負わせたこと(故意によるものを除く。)⑶ 強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラを受けたこと ⑷ その他,上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの 2 「特別な出 によるものを除く。)⑶ 強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラを受けたこと ⑷ その他,上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの 2 「特別な出来事」以外の「具体的出来事」⑴ 「具体的出来事」として,項目1から項目36までが列挙され,その平均的な心理的負荷の強度が示されている(強い方から「Ⅲ」,「Ⅱ」,「Ⅰ」)。 ⑵ 「非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたこと」(項目24)これは,昇格,昇進等の人事面,賃金等労働条件面において組織的な差別,不利益取扱いを受けたことに伴う心理的負荷を評価する項目であり,「非正規社員であるとの理由」は例示であり,これ以外の理由による差別等もこの 項目で評価する。ここでいう差別等とは,同僚等と比べて明らかに均衡を失 した不利益取扱いが該当する。同僚等に比べて賃金等が現に低い等の処遇の差異があり,それを当該労働者が不利益取扱いと主張する場合には,当該処遇の差異が合理的なものであってもこの項目で評価するが,その場合,心理的負荷の総合評価は「弱」となる。(乙44〔12頁〕)平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり,「心理的負荷の総合評価の視 点」としては,差別又は不利益取扱いの理由,経過,内容,程度,職場の人間関係等及びその継続する状況が挙げられている。 心理的負荷の強度が「強」となる場合としては,仕事上の差別,不利益取扱いの程度が著しく大きく,人格を否定するようなものであって,かつこれが継続したことが,「中」となる場合としては,非正規社員であるとの理由等 により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたり,業務の遂行から疎外又は排除される取扱いを受けたりしたことが,「弱」となる場合としては,社 ,「中」となる場合としては,非正規社員であるとの理由等 により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けたり,業務の遂行から疎外又は排除される取扱いを受けたりしたことが,「弱」となる場合としては,社員間に処遇の差があるが,その差は小さいものであったことが挙げられている。 ⑶ 「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けたこと」(項目29)ここでいう嫌がらせ,いじめは,上司が部下に対して行った業務指導の範 囲を逸脱した言動と同僚等が多人数で結託して行う不快な言動(誹謗中傷,無視等)を指している。嫌がらせ,いじめ又は暴行が「ひどい」とはいえない場合にも,この項目に当てはめるが,その場合の心理的負荷の総合評価は「中」又は「弱」となる。(乙44〔13頁〕)平均的な心理的負荷の強度は「Ⅲ」であり,「心理的負荷の総合評価の視 点」としては,嫌がらせ,いじめ,暴行の内容,程度等及びその継続する状況が挙げられている。なお,上司から業務指導の範囲内の叱責等を受けた場合,上司と業務をめぐる方針等において対立が生じた場合等は,項目30等で評価する。 心理的負荷の強度が「強」となる場合としては,部下に対する上司の言動 が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するよう な言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われたこと等が挙げられている。上記の程度に至らない場合は,その内容,程度,経過と業務指導からの逸脱の程度により「弱」又は「中」と評価されるところ,「中」となる場合としては,上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発言があったが,これが継続していないこと等が,「弱」となる場合としては,複数の同僚等の発言 により不快感を覚えたこと(客観的には嫌がらせやいじめとはいえないものも含まれる。)が挙げら 逸脱した発言があったが,これが継続していないこと等が,「弱」となる場合としては,複数の同僚等の発言 により不快感を覚えたこと(客観的には嫌がらせやいじめとはいえないものも含まれる。)が挙げられている。 ⑷ 「上司とのトラブルがあったこと」(項目30)ここにいう「トラブル」とは,仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や,業務指導の範囲内と評 価される指導,叱責等を意味する。叱責等がささいなもので客観的にはトラブルとはいえない場合にもこの項目で評価するが,そのような場合には総合評価は「弱」にとどまる。(乙44〔14頁〕)平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり,「心理的負荷の総合評価の視点」としては,トラブルの内容,程度等及びその後の業務への支障等が挙げ られている。 心理的負荷の程度が「強」となる場合としては,業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来したことが,「中」となる場合としては,業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような対立が上 司との間に生じたこと等が,「弱」となる場合としては,業務をめぐる方針等において,上司との考え方の相違が生じたこと(客観的にはトラブルとはいえないものも含む。)が挙げられている。 以上

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