令和3(う)258 業務上横領

裁判年月日・裁判所
令和3年8月25日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文5,542 文字)

- 1 -令和3年8月25日宣告令和3年(う)第258号 業務上横領被告事件 主 文本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中180日を原判決の刑に算入する。 理 由本件控訴の趣意は,弁護人横藪達広作成の控訴趣意書に記載のとおりである。 論旨は,要するに,被告人を懲役5年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 そこで,記録を調査し,当審での事実取調べの結果をも併せて検討する(なお,以下の説示では,基本的に原判決と同様の略称を用いる。また,原審での被告人供述調書の該当箇所を記載する場合は,公判期日回数と頁数で示す。)。 1 本件は,A大学及びB高等学校からなる学校法人C(被害法人)理事長である被告人が,不動産の管理等を行う会社代表者,不動産の仲介業等を行う会社代表者,不動産の売買等を行う会社代表者(株式会社D代表取締役のEら),経営コンサルタント事業等を行う会社代表者ら共犯者6名と共謀の上,平成29年7月6日頃,被害法人所有の大阪市a区所在の本件土地(計7287.21㎡,前記高校の約半分の敷地)につき,被害法人を売主,共犯者の会社を買主,売買代金を31億9635万1000円とする売買契約を締結し,被害法人名義の銀行口座に,その契約の手付金として21億円の振込入金を受け,これを被告人が被害法人のために業務上預かり保管中,被告人らの用途に充てる目的で,共犯者の会社名義の銀行口座を複数経由し,順次,振込送金して横領したという事案である。 2 原判決は,量刑の理由において,概要,次のような量刑事情を指摘し,懲役5年6月の刑が相当であると判断した。 本件の結果- 2 -被害金額は21億円に上っており,業務上横領の事案において最も高額な部類に属する。本件土地は高校の 次のような量刑事情を指摘し,懲役5年6月の刑が相当であると判断した。 本件の結果- 2 -被害金額は21億円に上っており,業務上横領の事案において最も高額な部類に属する。本件土地は高校の敷地であり,被害法人の重要な財産であるその土地が売り払われた上,売却代金の約3分の2に相当する額が横領された点で,経営難にあった被害法人の経営を一層困難な状態に陥らせかねないものであり,本件の結果は非常に重大といえる。 犯行の経緯,態様,被告人の役割,取得した利益等本件は,被害法人の経営権を取得したいがその資金のない被告人と,莫大な利益が見込めるマンション建設用地として本件土地を取得したい共犯者(Eら),これを実現させて多額の仲介手数料などの利益を得たい共犯者らの利害が一致した結果,被告人らが,被告人に被害法人の経営権を取得させることによって被害法人に本件土地を売却させ,その土地をEの会社に取得させる一方で,自身らで負担すべき費用を専ら被害法人に負担させるために仕組まれたもので,計画的で悪質といえる。 加えて,本件土地の売却や手付金の交付先について,Eに至るまでに複数の会社等を経由させて犯行の発覚を防ごうとするなど,犯行態様も巧妙である。 被告人は,本件犯行の1年半以上も前から,自身の個人としての債務を被害法人の資産で弁済することを前提とする枠組みへの関与を共犯者らに熱心に働き掛け,手段を選ばぬやり方で経営権を取得し,その後も,理事会において,本件土地を売却する理由等について虚偽の説明をして,売却に関する決議を取り付けるなどした上,最終的に理事長として本件犯行を遂行したものであり,果たした役割は非常に重大といえる。また,被告人は,被害法人の経営権を獲得するという自己の欲求を満たすために負った18億円の借入金を本件犯行によって帳消しにするこ として本件犯行を遂行したものであり,果たした役割は非常に重大といえる。また,被告人は,被害法人の経営権を獲得するという自己の欲求を満たすために負った18億円の借入金を本件犯行によって帳消しにすることにより,共犯者等にわたった金や被害法人への寄付金相当額を除いても,少なくとも10億円は実質的に取得したと認められ,他の共犯者と比較しても,得た利益は大きいといえる。 犯行動機被告人は,かねてより学校法人の運営に関与すべく活動し,自己のノウハウを生- 3 -かして学校法人を立て直して自分の力を認められたいなどの思いから,どこでもよいから学校法人の経営権を取得し,理想の経営をしたいとの意を強くし,主に個人的な欲求を充たすことを動機として犯行に及んだものであり,犯行動機に酌量の余地はない。 以上によれば,被告人は,犯行の枠組みを立案し,強固な犯意に基づいて積極的に犯行を推進し,多額の利益を得たといえるから,本件犯行の主犯というべきであり,他の共犯者らと比べても厳しい非難を免れず,その刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。 もっとも,被告人が本件犯行後に被害法人の経営・教育改革に尽力し,被害法人の学生数を増加させ,他大学との連携を進めるなどして一定の成果を上げたことは,被告人のために相応に評価すべきである。その他にも,被告人が本件犯行を認め,捜査に協力し,反省の弁を述べていること,Eから借り入れた18億円のうちの5億円は寄付金として被害法人のために使われていること,前科がないこと,Eが被害法人に21億円を支払い,被害法人がこれを原資として前記売買契約を合意解除したことで,本件犯行による財産的被害が事後的に回復されていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,これらの事情を併せ考慮し,被告人を懲役5年6月 して前記売買契約を合意解除したことで,本件犯行による財産的被害が事後的に回復されていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,これらの事情を併せ考慮し,被告人を懲役5年6月の刑に処するのが相当である。 3 このような原判決の量刑事情の認定,評価に誤りはなく,定めた刑もこれが重過ぎて不当であるとはいえない。 所論は,被告人が本件犯行を起こしたのは,原判示のような「学校法人を経営し自分の力を認められたいという個人的な欲求を満たすため」だけではなく,被告人は教育事業への強い情熱があり,被害法人のために献身的に行動しており,それは被害法人の経営状態が良くなった点に顕著に表れており,この点は量刑上もっと大きく評価されなければならないなどと主張する。 しかし,所論の指摘を考慮しても,原判決の量刑事情の見方に誤りはない。被告- 4 -人は,原審公判で「学校にとって自分が救世主のつもりでやっていた」(第3回33頁,43頁,第4回10頁)「これまでの経営者の旧態依然の状況を考えると,私の方がマシだと思っていた」(第4回10頁)などと供述しているが,被告人なりに理想の学校運営をしたいという気持ちを有していたとしても,原判決も言及しているように,被告人が経営権を取得したのは被害法人側からの依頼に基づくものでも,法的な根拠に基づくものでもないのであり,なりふり構わず違法行為を行って目的を実現しようとしたのはまさに被告人の身勝手な考え方によるものであって,原判決が,犯行動機について,主に個人的な欲求を充たすためであって酌量の余地がないとしたことに誤りはない。 また,原判決は,被告人が本件犯行後に被害法人の経営・教育改革に尽力し,一定の成果を上げたことは,被告人のために相応に評価すべきであると説示していて,被告人のあげた がないとしたことに誤りはない。 また,原判決は,被告人が本件犯行後に被害法人の経営・教育改革に尽力し,一定の成果を上げたことは,被告人のために相応に評価すべきであると説示していて,被告人のあげた実績について相応に考慮しており,当審においても,被告人が理事に就任した平成28年4月以降(平成29年6月に理事長に就任し,令和元年6月に辞任),被告人が中心になって被害法人の経営改善5か年計画を立案して推進し,前記大学の入学定員を確保できるようになった事実があるほか,前記大学の留学生の増加に積極的に取り組んだりもしており,被告人なりに被害法人の経営改善に熱意をもって尽力していたことがうかがわれ,それ自体は肯定的に評価できる。しかし,本件における結果の重大性,被告人の果たした役割の重大性をはじめとする犯情の悪質さに鑑みると,被告人はやはり相当長期間の服役を免れないものであり,上記のような主に犯行後の事情についての考慮には自ずと限度がある。原判決の量刑,すなわち懲役5年6月という結論は,本件被害の重大性や態様の悪質さからみれば寛大ともいえるものであるが,そこには,原判決が明示するように,被告人の教育事業への思いや尽力,さらには一定程度実績を上げたことに対する配慮があるのであって,それらについての原判決の評価が不十分であるとは到底いえない。 また,所論は,原判決について,被告人がEから借り入れた18億円のうち5億円を寄付金として被害法人のために使っていることは認定しているが,それ以- 5 -外の使い道について詳細に認定していないと指摘し,残りの13億円のうちの10億円は反社会的勢力とも思われる旧理事長側への退職金として,残りの3億円もその半分は一部の共犯者に対する手数料として支払われ,その余の1億5000万円もほとんど被害法人のために使われてい うちの10億円は反社会的勢力とも思われる旧理事長側への退職金として,残りの3億円もその半分は一部の共犯者に対する手数料として支払われ,その余の1億5000万円もほとんど被害法人のために使われているのであって,被告人が自身のために購入したのは26万円の腕時計だけであり,被告人は決して私利私欲のために本件犯行を行ったものではなく,原判決はこの点を見誤っているなどと主張する。 しかし,所論のような見方は正当とはいえない。まず,被告人個人が取得したのは腕時計だけではない。親族に対する返済に2130万円を充てたことは被告人自身が原審公判で認めている(第3回8頁)。そして,所論が被害法人のために使ったという部分についても,結局は,被告人の個人的な欲求を充たすための本件犯行に関連して費消されていることになる点も看過できない。例えば,最も多額である旧理事長側に渡った10億円にしても,これは,被告人が,旧経営陣から経営権を取得するために旧経営陣に支払ったもので,それ故に,被告人自身及びその息のかかった人物らが理事,評議員となって被害法人の経営権を掌握することができたのである。したがって,これは,被害法人のために支出したものではなく,経営権取得という被告人の利益のために支出したものとみられる。そうすると,18億円の借入金を本件犯行によって帳消しにすることにより,少なくとも10億円は実質的に取得したとした上で,被害法人への5億円の寄付については被害法人のために使われているとして被告人のための有利な事情として考慮している原判決の評価に誤りはない。 さらに,所論は,共犯者のEが本件の被害額である21億円を被害法人に支払ったことにより被害は回復されている,また,被告人自身も,本件土地に関する21億円の穴埋めの方法は考えており,被害法人の内部改革を行った後, は,共犯者のEが本件の被害額である21億円を被害法人に支払ったことにより被害は回復されている,また,被告人自身も,本件土地に関する21億円の穴埋めの方法は考えており,被害法人の内部改革を行った後,30億円でM&Aを行い,その資金により本件土地を売却した残りの土地に高校・大学共通の新校舎を建てるという考えが実現すれば,被害法人は不要の不動産を売却し,経営陣や財務状況を良くしたうえで安定した経営を続けていくことができたなどと主- 6 -張する。 しかし,Eによる被害回復については原判決も明示して被告人に有利な事情として考慮している。また,M&Aの点については,その構想について述べる原審の被告人供述(第3回28頁,36頁)によっても,その実現可能性は不明である。事後の事情で,それも不確かなものである上,結局は,被告人の出捐によって被害弁償しようというのではなく,被告人個人の債務を被害法人の資産の売却等によって穴埋めしようとするのは本件犯行と同様の枠組みとも考えられる。そのような事情を被告人に有利な量刑事情とみることはできない。 そのほか所論が被告人は私利私欲のために本件犯行を行ったわけではないとして種々主張する内容や,当審における事実取調べ(被告人質問等)の結果により,被告人が更に反省を深め,更生の意欲を高めている様子がうかがわれることなどを踏まえて検討しても,原判決の量刑判断は左右されない。 論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。 令和3年8月25日大阪高等裁判所第6刑事部 裁判長裁判官 村 山 浩 昭 裁判官 木 山 暢 郎 - 7 - 裁判官 決する。 令和3年8月25日大阪高等裁判所第6刑事部 裁判長裁判官 村 山 浩 昭 裁判官 木 山 暢 郎 - 7 - 裁判官 末 弘 陽 一

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