令和4 年8 月2 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和3 年(ワ)第29388 号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和4 年6 月10 日判決原告ザケマーズカンパニーエフシー リミテッドライアビリティカンパニー同訴訟代理人弁護士大野聖二同大野浩之被告 AGC株式会社同訴訟代理人弁護士片山英二 同大月雅博同黒田薫同辛川力太同訴訟代理人弁理士加藤志麻子主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30 日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品の生産、使用、譲渡又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は、発明の名称を「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1- トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テ トラフルオロプロぺンを含む組成物」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が製造販売している別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は本件特許に係る発明の 」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が製造販売している別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は本件特許に係る発明の技術的範囲に属しており、被告がこれらを生産、使用、譲渡又は譲渡の申出をする行為は本件特許権を侵害すると主張して、特許法100 条1 項及び2 項に基づき、被 告製品の譲渡等の差止及び廃棄を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者原告は、 フッ素製品、酸化チタン顔料、特殊化学品等の生産、販売等を業とする 株式会社である。 被告は、ガラス、フッ素化学製品等の生産、販売等を業とする株式会社である。 (2) 本件特許原告は、次の特許(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する。 特許番号特許第6752438 号 出願日令和元年9 月4 日分割の表示特願2018-101571 号の分割(以下、特願2018-101571 号の出願を「本件原出願」という。)原出願日平成21 年5 月7 日優先日平成20 年5 月7 日(以下「本件優先日」という。) 登録日令和2 年8 月21 日発明の名称2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロぺンを含む組成物 (3) 本件発明 本件特許に係る特許請求の範囲請求項1 記載の発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりである(なお、以下、本件特許に係る願書添付の明細書を「本件 (3) 本件発明 本件特許に係る特許請求の範囲請求項1 記載の発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりである(なお、以下、本件特許に係る願書添付の明細書を「本件明細書」という。)。 「HFO-1234yf と、HFC-143a、およびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、HFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有す る組成物。」(4) 構成要件の分説本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、符号に従い、「構成要件A」などという。)。 AHFO-1234yf と、 BHFC-143a、および、CHFC-254eb、を含む組成物であって、DHFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、EHFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有する組成物。 (5) 本件訂正 被告は、令和2 年11 月30 日、本件特許について無効審判を請求した(無効2020- 800115 号。甲21)。これに対し、原告は、令和3 年4 月5 日、本件特許の特許請求の範囲の記載を訂正する旨の訂正請求をした(甲18。以下、同訂正請求で求められた訂正を「本件訂正」という。)。 本件訂正後の発明(以下「本件訂正発明」という。)に係る特許請求の範囲請求項 1 の記載は、次のとおりである(下線部は訂正箇所である。)。 「77.0 モルパーセント以上のHFO-1234yf と、HFC-143a、およびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、HFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有する組成物。」(6) 被告の行為等 よびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、HFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有する組成物。」(6) 被告の行為等 被告は、製品名を「AMOLEA 1234yf」とする製品(以下「本件製品」という。)の 生産、使用、譲渡及び譲渡の申出をしている。 原告主張に係る被告製品の構成は別紙被告製品説明書記載のとおりであるところ、本件製品が本件発明の構成要件A を充足することは、当事者間に争いがない。 2 争点(1) 被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1) (2) 無効の抗弁の成否(争点2)ア新規性欠如(争点2-1)イサポート要件違反(争点2-2)(3) 訂正の再抗弁の成否(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告製品の本件発明の技術的範囲への属否)〔原告の主張〕ア本件発明の構成要件の充足被告製品の構成は、別紙被告製品説明書記載のとおりである。 これによれば、被告製品は、HFC-143a を0.0017 重量%の割合で含有し(構成b、 d)、本件発明の構成要件B 及びD を充足すると共に、HFC-254eb を0.0789 重量%の割合で含有する組成物であり(構成c、e)、本件発明の構成要件C 及びE を充足する。 また、被告製品が本件発明の構成要件A を充足することは当事者間に争いがないことから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。 イ被告の主張について(ア) 被告は、原告主張に係る被告製品の構成につき、本件特許の登録日より4 年前に被告が販売したとされる製品の分析結果であることを理由に、裏付けを欠く旨主張する。しかし、被告は同じ製品名の製品を平 ア) 被告は、原告主張に係る被告製品の構成につき、本件特許の登録日より4 年前に被告が販売したとされる製品の分析結果であることを理由に、裏付けを欠く旨主張する。しかし、被告は同じ製品名の製品を平成27 年4 月から現在まで継続して製造販売しているところ、同じ製品名の製品である限り同じ成分の製品と考えるの が合理的である。また、原告が分析の対象とした製品を製造した工場と現在被告が 同じ製品名の製品を製造している工場が異なるとしても、両者間で設計変更をしたといった事情はない上、現在製造を行っている工場で製造された被告製品にはHFC-143a 及びHFC-254eb が含まれている。 (イ) 被告は、前記分析結果に係る測定条件が本件明細書記載の条件と異なることを理由に、原告主張に係る被告製品の構成の立証方法は誤りであると主張する。し かし、本件明細書記載の分析方法は例示である旨明確に記載されており、分析方法がこれに限定されることはない。 (ウ) 被告は、面積%からモル%や重量%への変換が本件優先日における当業者の技術常識であることが示されていない旨や、本件発明のHFC-143a やHFC-254eb の含有量は少なくとも0.05 面積%を下限と解釈すべきであるとの前提の下、被告の成 分分析結果によれば、本件製品にはHFC-143a 及びHFC-254eb が含有されていない旨をも主張する。 しかし、前者については、本件優先日より前に公表された公表特許公報に面積%から重量%へ変換する例が開示されていることなどから、面積%から重量%やモル%へ変換することは、本件優先日における当業者の技術常識であるといえる。 他方、後者については、ppm のオーダーで化合物が存在する場合、当業者は、当該化合物が含まれている から重量%やモル%へ変換することは、本件優先日における当業者の技術常識であるといえる。 他方、後者については、ppm のオーダーで化合物が存在する場合、当業者は、当該化合物が含まれていると判断するといえるところ、被告自身、被告製品に含有される成分に係る分析結果において、ppm のオーダーで化合物を示している。しかも、原告の分析結果によれば、HFC-254eb に関しては、ppm 単位でいえば789ppm で含まれており、当業者は、この結果につきHFC-254eb が含まれていないとは考えない。 (エ) 被告は、差止の対象である「中間製品」につき、特定が欠ける旨主張する。 しかし、特許法上、「物の生産」が実施行為に該当すると規定されており、反応途中のものや蒸留途中のものであっても、「物」として製造されるのであれば、特許法上の差止の対象となる。 〔被告の主張〕 ア被告は、被告製品の業としての生産、使用、譲渡及び譲渡の申出をしていな い。被告が現に業として生産等している製品が原告主張に係る被告製品の構成のとおりであることの根拠はない。 イ別紙被告製品説明書は、原告による被告の製品の分析結果に基づくものとされているところ、その測定の対象は、本件特許の登録日よりも4 年も前である平成 28 年に被告が販売したとされるものであり、その分析結果は現に被告が業として生 産等している製品の構成を示す根拠にはならない。また、上記分析の対象となった製品を製造した工場では、令和2 年4 月にその生産を中止しており、現在、HFO-1234yf を含む製品の生産を行っているのは別の工場である。これらの工場では、設備が異なり、生産工程も異なるため、各工場で生産された製品に含まれる各成分の含有量が同一になるとは限らない。 FO-1234yf を含む製品の生産を行っているのは別の工場である。これらの工場では、設備が異なり、生産工程も異なるため、各工場で生産された製品に含まれる各成分の含有量が同一になるとは限らない。 ウ原告による前記分析に係る測定方法は、本件明細書記載の測定方法とは異なるものであるから、被告の製造販売に係る製品が本件発明の構成要件を充足することを示す根拠とはなり得ない。 エ原告は、前記分析結果に記載された各化合物の重量%の値をクロマトグラフィーの面積%の値から求めた点について、化合物の定量ではFIDGC 面積%を利用 し、FIDGC 面積は応答係数を用いてモル%に変換され、さらに重量%に変換されたと説明している。しかし、このような試料に基づいて換算を行うことは本件明細書に示されていない。しかも、このような換算方法が本件優先日における当業者の技術常識であることも何ら示されていない。 また、被告が本件明細書記載の分析方法により本件製品を分析したところ、HFC- 143a 及びHFC-254eb は検出されなかった。したがって、本件製品は、本件発明の構成要件B~E を充足しない。 仮に、原告による前記分析を前提としても、その対象製品は、少なくとも構成要件B を充足しない。すなわち、本件明細書の記載を参酌すれば、構成要件B 及びCの「含む」とは、ガスクロマトグラフィーの測定において、その面積%が小数点第2 位を四捨五入してゼロにならない数値である0.05 面積%をもってその下限とするも のと解釈すべきところ、少なくともHFC-143a の面積%は0.0018 面積%であって、小数点第2 位を四捨五入して得られる値は、全てゼロである。したがって、仮に原告の前記分析結果を前提としても、その対象製品は ころ、少なくともHFC-143a の面積%は0.0018 面積%であって、小数点第2 位を四捨五入して得られる値は、全てゼロである。したがって、仮に原告の前記分析結果を前提としても、その対象製品は、少なくとも構成要件B の「含む」の要件を充足しない。 オ 「中間製品」の特定ができていないこと 原告の主張に係る別紙被告製品目録には、製品名に「1234yf」を含む製品のほか、「それらの製品の中間製品(製品の製造の中間過程で造られた上記の構成を備えるものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの)」と記載されている。これによれば、「中間製品」とは、以後の製造工程(例えば、反応工程や蒸留工程など)を経ることでその構成が変化していくことを前提とした反応途中のもの 又は蒸留途中のものを指すと考えられる。しかし、上記別紙に例示された「中間製品」は、その性質上、反応や蒸留が進むにつれて構成が変化していくものであって、その構成を特定することは不可能である。このようなものを包含する上記別紙の記載は、対象製品の構成を特定しているとはいえない。 (2) 争点2-1(新規性欠如を無効理由とする無効の抗弁の成否) 〔被告の主張〕ア分割の不適法性本件特許の出願は本件原出願の分割出願に係るものであるが、以下のとおり、当該分割出願は不適法である。 本件発明は、数値限定をした特定の成分(組成)を組み合わせた組成物である。 したがって、本件における分割出願の適法性に関しては、(a)HFO-1234yf、(b)0.2 重量%以下のHFC-143a 及び(c)1.9 重量%以下のHFC-254eb の成分の組合せからなる組成物が、本件原出願の出願当初の明細書(以下「原出願当初明細書」という。)等に記載されていたかどうかを検 のHFC-143a 及び(c)1.9 重量%以下のHFC-254eb の成分の組合せからなる組成物が、本件原出願の出願当初の明細書(以下「原出願当初明細書」という。)等に記載されていたかどうかを検討することになる。 しかし、このような組合せからなる組成物は、原出願当初明細書等に記載されて いたとはいえない。すなわち、原出願当初明細書等においては、単に、「追加の化合 物」が特段の技術的意義なく多数列挙され(ちなみに、HFC-254eb は同段落に列挙された化合物にも含まれていない。)、特定の発明の解決課題について明らかにされず、実施例においても、工程中に生成された組成物の組成比が示されるだけであり、それらの組成物が有する作用効果に関する記載は全くない。そもそも、上記(b)及び(c)に関しては、原出願当初明細書等には、数値範囲の根拠として導入された「0.2 重 量パーセント」、「1.9 重量パーセント」という上限値の根拠となる数値についてすら記載がされていない。 このように、本件特許に係る出願は分割要件を欠くから、本件特許に係る新規性・進歩性の基準日は、現実の出願日である令和元年9 月4 日となる。 イ新規性の欠如 本件原出願に係る公開特許公報(乙6。以下「乙6 文献」という。)には、別紙「乙 6 実施例15 の化合物一覧表」の「1 モル%による各化合物の割合」記載のとおり、HCFC-244bb を603℃及び626℃の反応温度で加熱して得られた各化合物(いずれも、HFO-1234yf、HFC-143a 及びHFC-254eb 等が含まれる。)の組成割合がモル%で記載されている(【表6】(表5)。以下、前者を「乙6 発明1」、後者を「乙6 発明2」 という。)。これらの化合物の組成を重量%に換算した結 -254eb 等が含まれる。)の組成割合がモル%で記載されている(【表6】(表5)。以下、前者を「乙6 発明1」、後者を「乙6 発明2」 という。)。これらの化合物の組成を重量%に換算した結果は、「未知」とされている化合物の分子量を50、100 又は150 と仮定した場合、別紙「乙6 実施例15 の化合物一覧表」の「2 重量%への換算」記載のとおりとなる。 上記換算結果のとおり、乙6 発明1 及び乙6 発明2 の各組成物は、それぞれ、0.2重量%以下のHFC-143a(構成要件B、D)、1.9 重量%以下のHFC-254eb(構成要件 C、E)を含有するものであるから、いずれも本件発明の構成要件を全て満たす。 したがって、本件発明は、乙6 文献に記載された発明であり、新規性を欠く無効なものである。 ウ原告の主張について原告は、原出願当初明細書に基づく分割要件違反を主張しつつ、同じく本件原出 願に係る公開特許公報である乙6 文献に基づく新規性欠如の無効理由を主張するこ と自体が妥当性を欠くなどと主張する。 しかし、分割要件違反の判断において問題となるのは、本件発明、すなわち、HFO-1234yf(あらゆる比率)に対して、0.2 重量%以下のHFC-143a、及び1.9 重量%以下のHFC-254eb を組み合わせ、かつ、他の化合物を含むことを許容するという「包括的な組成物」が原出願当初明細書に記載されていたといえるかどうか、という点で ある。これに対し、新規性欠如の無効理由のために必要となる引用発明の認定の問題は、乙6 文献から、603℃、626℃の反応温度で得られた上記各組成物が記載されていたといえるかどうか、という点である。このため、分割出願の適法性の判断対象となる上記「包括的な組成物」が原 の問題は、乙6 文献から、603℃、626℃の反応温度で得られた上記各組成物が記載されていたといえるかどうか、という点である。このため、分割出願の適法性の判断対象となる上記「包括的な組成物」が原出願当初明細書には記載されていないと認定し、かつ、乙6 発明1 及び乙6 発明2 に係る上記各組成物が乙6 文献に記載されて いると認定することには何ら矛盾はない。 〔原告の主張〕ア分割の適法性本件特許の出願に係る本件原出願の分割は、以下のとおり、適法である。 本件明細書の実施例15 では、【表6】(表5)の550℃以上の温度において、HFO- 1234yf の含有量を増加させつつ、HFC-143a 及びHFC-254eb を含む組成物が連続して得られていることが示されており、HFO-1234yf、HFC-143a 及びHFC-254eb を含む組成物が実施例として具体的に開示されている。この【表6】は、本件明細書【0092】~【0099】で開示された態様に相当するものであり、図1 の最後の工程(符号16 から符号18 への工程)に対応する実施例である。 また、原出願当初明細書【0011】、【0012】では、HFO-1234yf と少なくとも1 つの追加の化合物とが含まれることが明記された上で、HFO-1234yf の含有量を増加させる態様が【0032】~【0099】で記載され、当該記載に合致した図1 が示され、かつ、当該記載に合致した実施例1~17 が記載されている。このうち実施例15 では、【表6】(表5)において、HFO-1234yf の含有量を増加させつつ、HFC-143a 及びHFC-254eb を含む組成物が連続して得られていることが示されている。さらに、この【表6】 (表5 いて、HFO-1234yf の含有量を増加させつつ、HFC-143a 及びHFC-254eb を含む組成物が連続して得られていることが示されている。さらに、この【表6】 (表5)においてモル%で示されている含有割合を重量%に変換すると、HFC-143aは0.2 重量%以下、HFC-254eb は1.9 重量%以下の範囲となる。 したがって、原出願当初明細書等には本件発明に対応する発明が開示されており、本件特許に係る出願は分割要件に違反するものではない。 イ本件発明は新規性を有すること 本件特許に係る出願は分割要件に違反しないことから、その出願は、本件原出願時にしたものとみなされる。したがって、乙6 文献記載の発明に基づいて本件発明が新規性を欠くことにはならない。 ウ被告の主張について被告は、原出願当初明細書に基づく分割要件違反を主張しつつ、同じく本件原出 願に係る公開特許公報である乙6 文献に基づく新規性欠如の無効理由を主張するものであり、それ自体が妥当性を欠く。 (3) 争点2-2(サポート要件違反を無効理由とする無効の抗弁の成否)〔被告の主張〕本件発明は、以下のとおり、2 つの観点からサポート要件に違反する。すなわち、 ①発明の解決課題が不明確であることに基づくサポート要件違反及び②本件明細書に記載された「背景技術」を発明の解決課題と理解した場合のサポート要件違反である。 ア ①の観点でのサポート要件違反本件明細書には、「新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置 に用いる新たな組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に着目されている。」(【0002】)との「背景技術」が記載されている。また、当該「背景技術」の記載の直後に「出願人 装置 に用いる新たな組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に着目されている。」(【0002】)との「背景技術」が記載されている。また、当該「背景技術」の記載の直後に「出願人は、1234yf 等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」(【0003】)との記載がある。これらの記載からすると、本件発明は、単なる発見であって、明確 な解決課題がないようにも理解できる。 本件発明は組成物の発明であるところ、組成物の発明は、これを構成する化合物が公知であることを前提として、特定の発明の解決課題に対応すべく、特定の化合物を選択し、かつ、これを特定の割合で組み合わせるという技術的思想に基づく発明である。そうすると、組成物の発明においては、当該組成物が技術的思想たる発明であることに対応して、特定の発明の解決課題が存在しなければならない。しか るに、本件明細書の上記各記載からは、組成物の発明に対応した特定の発明の解決課題が明確に理解できない。 このように、本件発明の課題について当業者が理解できるように記載されていない場合には、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認めることはでき ず、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものとは認められない。 したがって、発明の解決課題が不明確な本件発明は、サポート要件に違反する。 イ ②の観点でのサポート要件違反仮に、本件明細書の「背景技術」の記載等から、本件発明の解決課題は「低地球 温暖化係数の新たな組成物を提供すること」である 発明は、サポート要件に違反する。 イ ②の観点でのサポート要件違反仮に、本件明細書の「背景技術」の記載等から、本件発明の解決課題は「低地球 温暖化係数の新たな組成物を提供すること」であると一応理解することとした場合、本件発明は、その構成が発明の課題解決手段であることが一切理解できないこと、及び発明の課題を解決できない組成物が多々含まれることから、サポート要件に違反する。 すなわち、本件発明のような組成物の発明は、前記のとおり、これを構成する化 合物が公知であることを前提として、特定の発明の解決課題に対応すべく、特定の化合物を選択し、かつ、これを特定の割合で組み合わせるという技術的思想に基づく発明である。そうすると、組成物の発明において、特定の構成成分を特定の成分割合に組み合わせることによる、原料成分にみられない新たな技術的効果が理解できなければ、そのような組成物は、発明の特定の課題を解決できるかどうかも理解 できないことになる。 本件発明は、(a)HFO-1234yf、(b)0.2 重量パーセント以下のHFC-143a 及び(c)1.9 重量パーセント以下のHFC-254eb を必須成分として組み合わせて含有させる組成物であるから、本件明細書において、(a)~(c)の成分の組合せが明確に記載されており、かつ、このような組合せを必須とする組成物がどのような技術的意義を有し、作用効果を奏するのかについても本件明細書中で明確に説明されているのでなければ、 当業者が、本件発明により本件発明の課題が解決されることを理解できるとはいえない。しかるに、本件明細書においては、(a)~(c)の成分の組合せは一切記載されておらず、また、(a)~(c)の成分の組合せを必須とする組成物がどのような技術的意義や作用効 とを理解できるとはいえない。しかるに、本件明細書においては、(a)~(c)の成分の組合せは一切記載されておらず、また、(a)~(c)の成分の組合せを必須とする組成物がどのような技術的意義や作用効果を有するのかについて説明はされていない。このため、当業者が、本件発明によって本件発明の課題を解決できると認識することはない。 また、本件明細書に記載されていない化合物には、地球温暖化係数の高い物質も多数含まれ得る上、本件明細書に記載された化合物にも、HFC-23、CFC-13 をはじめとして、地球温暖化係数の高い化合物が多数含まれている。そうすると、本件発明には、低地球温暖化係数の組成物の提供という解決課題を解決し得ない組成物を多々含むことになる。このため、この意味においても、本件明細書の記載及び本件 優先日の技術常識に基づいて、当業者が、本件発明によって本件発明の課題を解決できると理解することはない。 以上より、本件発明はサポート要件に違反する。 〔原告の主張〕サポート要件を充足するには、明細書に接した当業者が、特許請求された発明が 明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り、また、課題の解決についても、当業者において、技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りる。 本件明細書の記載によれば、本件発明は、低地球温暖化係数を有するHFO-1234yfを含有し、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤として有用な組成物 を提供することを目的としていることが認識され得る。また、本件発明は、HFO- 1234yf、0.2 重量パーセント以下のHFC-143a 及び1.9 重量パーセント以下のHFC-254eb を組み合わせることを要件としている れ得る。また、本件発明は、HFO- 1234yf、0.2 重量パーセント以下のHFC-143a 及び1.9 重量パーセント以下のHFC-254eb を組み合わせることを要件としている。このため、技術常識も踏まえれば、本件明細書には、低地球温暖化係数を有するHFO-1234yf を含有し、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤等として有用な組成物を提供できるであろうと、当業者が合理的に期待できる程度には十分な記載がされている。 したがって、本件発明につき、サポート要件違反は成立しない。 (4) 争点3(訂正の再抗弁の成否)〔原告の主張〕ア本件訂正が新規事項の追加に該当しないこと原告は、本件無効審判手続において訂正請求を行い、本件発明の特許請求の範囲 請求項1 について、HFO-1234yf の含有量を「77.0 モルパーセント以上」とする旨の本件訂正を行った。 本件訂正に係るHFO-1234yf の含有量を増加させる態様は、本件明細書に記載されている。すなわち、本件明細書には、「HFO-1243zf のフルオロ塩素化」についての記載がされ、HFO-1243zf からHCFC-243db、HFO-1234yf 及びHFC-245cb を生成 する記載がある。また、本件明細書には、「HCFC-243db のフッ素化」についての記載がされ、上記で得られたHCFC-243db からHFO-1234yf、HCFC-244bb 及びHCFO-1233xf を生成する記載がある。さらに、本件明細書には、「HCFO-1233xf のフッ素化」についての記載がされ、上記で得られたHCFO-1233xf からHCFC-244bb 及びHFO-1234yf を生成する記載がある。その上で、「HCFC-244bb O-1233xf のフッ素化」についての記載がされ、上記で得られたHCFO-1233xf からHCFC-244bb 及びHFO-1234yf を生成する記載がある。その上で、「HCFC-244bb の脱塩化水素化」につ いての記載があり、上記で得られたHCFC-244bb の脱塩化水素化を用いて、HFO-1234yf を作製することが記載されている。加えて、本件明細書には、これらの記載に合致した図1 が記載され、また、これらの記載に対応する実施例1~17 がそれぞれ提供されている。このうち、図1 の最後の工程に対応する実施例である実施例15に係る【表6】(表5)では、温度を調整することでHFO-1234yf の濃度を高めるこ とができる内容が開示されており、実際に77.0 モル%以上のHFO-1234yf を得るこ とができたことが示されている。 したがって、HFO-1234yf を77.0 モル%以上に限定する本件訂正は、出願当初の本件明細書に記載された内容での訂正であり、新たな技術的事項を導入するものではない。 イ本件訂正発明に無効理由がないこと (ア) 新規性欠如の無効理由は存在しないこと本件特許に係る出願に分割要件違反がないことは、前記(2)〔原告の主張〕のとおりであって、この点は、本件訂正に係る発明についても同様である。 したがって、本件訂正発明につき新規性欠如の無効理由は存在しない。 (イ) サポート要件違反の無効理由は存在しないこと 本件明細書の【表6】(表5)には、550℃以上の温度において、HFO-1234yf が77.0モル%以上の範囲のいずれにおいても、HFC-143a が0.2 重量%以下、HFC-254eb が1.9 重量%以下となっていることから、発明 ℃以上の温度において、HFO-1234yf が77.0モル%以上の範囲のいずれにおいても、HFC-143a が0.2 重量%以下、HFC-254eb が1.9 重量%以下となっていることから、発明としてそのような組成物が開示されていることになり、かつ、通常の当業者であればそのように理解する。 したがって、前記(3)〔原告の主張〕と同様の理由により、本件訂正発明にもサポ ート要件違反はない。 ウ被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属すること被告製品の構成は別紙被告製品説明書記載のとおりであり、被告製品は、本件訂正発明の技術的範囲に属する。 〔被告の主張〕 ア本件訂正が新規事項の追加に該当すること本件訂正は、新規事項の追加に当たるため、不適法である。 すなわち、本件訂正発明のような組合せに係る発明は、訂正の基準となる本件明細書には一切記載がない。本件明細書には、単に「追加の化合物」が特段の技術的意義もなく多数列挙され、特定の発明の解決課題について明らかにされず、実施例 においても、工程中に生成された組成物の組成比が示されるだけであり、それらの 組成物が有する作用効果に関する記載は全くない。そもそも、0.2 重量%以下のHFC-143a 及び1.9 重量%以下のHFC-254eb に関しては、本件明細書において、その数値範囲として導入された上限値の根拠となる数値についてすら記載がない。これに加え、77.0 モル%以上のHFO-1234yf に対して特定の化合物を組み合わせるという記載はない。 そうすると、本件訂正も、本件発明についての分割が不適法であることと実質的には同様の理由で、新規事項の追加に該当し、不適法である。 イ本件訂正発明には無効理由が存在すること前記((2)及び( そうすると、本件訂正も、本件発明についての分割が不適法であることと実質的には同様の理由で、新規事項の追加に該当し、不適法である。 イ本件訂正発明には無効理由が存在すること前記((2)及び(3)の各〔被告の主張〕)のとおり、本件発明には新規性欠如及びサポート要件違反の無効理由が存在するところ、本件訂正によっても、これらの無効 理由は解消されていない。 よって、本件訂正発明には無効理由が存在する。 ウ被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属しないこと被告製品は、本件訂正発明の技術的範囲に属しない。 第3 当裁判所の判断 1 事案に鑑み、まず、争点2-1(新規性欠如を無効理由とする無効の抗弁の成否)について判断する。 (1) 分割の適法性についてア分割出願が適法な場合、「新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす」(特許法44 条2 項本文)という遡及効が生じることに鑑みると、適法な 分割出願といえるためには、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であることを要し、これに違反して新規事項の追加となるような分割出願の出願日は、原出願の出願日まで遡及することなく、実際に分割出願をした日となると解される。 イ本件発明に係る特許請求の範囲請求項1 は、「HFO-1234yf と、HFC-143a、お よびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、 HFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有する組成物。」である。 他方、本件特許出願の原出願(本件原出願)に係る原出願当初明細書等(乙4)には、次の記載がある。 (ア) 技術分野「本開示 254eb を1.9 重量パーセント以下で含有する組成物。」である。 他方、本件特許出願の原出願(本件原出願)に係る原出願当初明細書等(乙4)には、次の記載がある。 (ア) 技術分野「本開示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、 クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,3,-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf または1234yf)または2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(HCFC-243db または243db)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロ ペン(HCFO-1233xf または1233xf)または2-クロロ-1,1,1-2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)を含む組成物の熱伝達組成物として有用な組成物に関する。」(【0001】)(イ) 背景技術「新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな 組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に着目されている。」(【0002】)(ウ) 発明が解決しようとする課題「出願人は、1234yf 等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」(【0003】) (エ) 課題を解決するための手段「従って、本発明によれば、HFO-1234yf と、HFO-1234ze、HFO-1243zf、HCFC-243db、HCFC-244db、HFC-245cb、HFC-245fa、HCFO-1233xf、HCFO-1233 、HFO-1234yf と、HFO-1234ze、HFO-1243zf、HCFC-243db、HCFC-244db、HFC-245cb、HFC-245fa、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-253fb、HCFC-234ab、HCFC-243fa、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1336、HCFC-133a、 HCFC-254fb、HCFC-1131、HFC-1141、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、 HCFC-226ba およびHFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1 つの追加の化合物の約1 重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)「HCFC-243db、HCFO-1233xf および/またはHCFC-244db を含む組成物が、HFO-1234yf を作製するプロセスにおいて有用である。従って、1234yf を含む組成物は、 ある量のHCFC-243db、HCFO-1233xf および/またはHCFC-244db を、他の化合物に加えて含有していてもよい。」(【0005】)「従って、本発明によれば、HCFC-243db と、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1234yf、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1234ze、HFO-1336、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFC-245fa、HFC-245cb、HCFC- FC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1234ze、HFO-1336、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFC-245fa、HFC-245cb、HCFC- 133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFO-1242zf、HCFC-253fb、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226ba およびHFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。組成物は、ゼロ重量パーセントを超え、約99 重量パーセントまでのHCFC-243db をどこかに含有していてよい。」(【0006】) 「さらに、本発明によれば、HCFO-1233xf と、HCFO-1233zd、HCFO-1232xd、HCFO-1223xd、HCFC-253fb、HCFC-233ab、HFO-1234yf、HFO-1234ze、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1336、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFC-245fa、HFC-245cb、HCFC-133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226ba およ びHFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物がさらに提供される。組成物は、ゼロ重量パーセントを超え、約99 重量パーセントまでのHCFO-1233xf をどこかに含有していてよい。」(【0007】)「さらに、本発明によれば、 を含む組成物がさらに提供される。組成物は、ゼロ重量パーセントを超え、約99 重量パーセントまでのHCFO-1233xf をどこかに含有していてよい。」(【0007】)「さらに、本発明によれば、HCFC-244bb と、HCFO-1233zd、HCFO-1232xd、HCFO-1223xd、HCFC-253fb、HCFC-233ab、HFO-1234yf、HFO-1234ze、エチレン、HFC-23、 CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、 HFO-1336、HCFC-244db、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-245eb、HCFC-133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226ba およびHFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物も提供される。組成物は、ゼロ重量パーセントを超え、約99 重量パーセントまでのHCFC-244bb をどこかに含有していてよい。」(【0008】) (オ) 発明を実施するための形態「HFO-1234yf には、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤としての用途が示唆されてきた。また、HFO-1234yf は、…低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このように、HFO-1234yf は、高GWP 飽和HFC 冷媒に替わる良い候補である。」(【0010】) 「一実施形態において、本開示内容は、HFO-1234yf と、HFO-1234ze、…HFC-143a、…HFC-227 GWP 飽和HFC 冷媒に替わる良い候補である。」(【0010】) 「一実施形態において、本開示内容は、HFO-1234yf と、HFO-1234ze、…HFC-143a、…HFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。」(【0011】)「ある実施形態において、HCFC-243db、HCFO-1233xf およびHCFC-244bb 中に存在する不純物は、HFO-1234yf を作製する反応中そのままであるため、追加の化合物 に含まれる。」(【0013】)「他の実施形態において、本開示内容は、HCFC-243db と、エチレン、…HFC-143a、…HFO-1234yf、…HFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。」(【0014】)「ある実施形態において、HCFC-243db に対する特定の前駆体化合物は、HCFC- 243db に現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFC-243db を生成する反応条件では副生成物も生成され、これは、HCFC-243db を生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」(【0016】) 「他の実施形態において、本開示内容は、HCFO-1233xf と、HCFO-1233zd、…HFO- 1234yf、…HFC-143a、…HFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。」(【0017】)「ある実施形態において、HCFO-1233xf に対する特定の前駆体化合物は HFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。」(【0017】)「ある実施形態において、HCFO-1233xf に対する特定の前駆体化合物は、HCFO-1233xf に現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFO-1233xf を生成する反応条件では副生成物も生成され、これは、HCFO-1233xf を生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」(【0019】)」「他の実施形態において、本開示内容は、HCFC-244bb と、HCFO-1233zd、…HFO-1234yf、…HFC-143a、…HFC-227ca からなる群から選択される少なくとも1 つの追 加の化合物とを含む組成物を提供する。」(【0020】)「ある実施形態において、HCFC-244bb に対する特定の前駆体化合物は、HCFC-244bb に現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFC-244bb を生成する反応条件では副生成物も生成され、HCFC-243db に現れ、これは、HCFC- 244bb を生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」(【0022】)」「HFO-1234yf を含む本明細書に開示された組成物は、低地球温暖化係数(GWP)熱伝達組成物、エアロゾル噴霧材、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレ タンの膨張剤、ガス状誘電体、消 GWP)熱伝達組成物、エアロゾル噴霧材、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレ タンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用である。開示されている組成物は、熱を熱源からヒートシンクへ伝えるのに用いる作業流体として作用し得る。かかる熱伝達組成物はまた、流体が相変化する、すなわち、液体から気体へ、そして戻るまたは反対も同様のサイクルで冷媒としても有用である。」(【0023】) 「開示された組成物を作製する化合物を表1 に示す。」(【0027】) 「【表1】」【0028】「HCFC-244bb の脱塩化水素化/ある実施形態において、HCFC-244bb の脱塩化水素化を用いて、HFO-1234yf を作製する。」(【0092】。「/」は改行部分を示す。以下同じ。) 「一実施形態において、HFO-1234yf は、HCFC-244bb の熱脱塩素水素化により調製される。一実施形態において、この反応は、触媒なしでなされる。一実施形態において、HCFC-244bb を、HCFC-244bb の熱脱塩素水素化を行うのに十分に高い温度 に維持された反応容器に入れる。一実施形態において、温度は、少なくとも50%のパーセント変換率までHCFC-244bb の熱脱塩素水素化を行うのに十分に高い。他の実施形態において、温度は、少なくとも65%のパーセント変換率までHCFC-244bbの熱脱塩素水素化を行うのに十分に高い。さらに他の実施形態において、温度は、少なくとも80%のパーセント変換率までHCFC-244bb の熱脱塩素水素化を行うのに 十分に高い。さらに他の実施形態において、温 素化を行うのに十分に高い。さらに他の実施形態において、温度は、少なくとも80%のパーセント変換率までHCFC-244bb の熱脱塩素水素化を行うのに 十分に高い。さらに他の実施形態において、温度は、少なくとも12 時間の連続操作について、少なくとも70%のパーセント変換率までHCFC-244bb の熱脱塩素水素化を行うのに十分に高い。」(【0095】)「一実施形態において、HCFC-244bb を、約500℃~約700℃の範囲の温度に維持された反応容器に入れる。他の実施形態において、反応容器の温度は、約500℃~ 約650℃の範囲に維持される。さらに他の実施形態において、反応容器の温度は、HCFC-244bb のHFO-1234yf への熱分解が、80%以上の選択性でなされるのに十分に高い温度に維持される。さらに他の実施形態において、反応容器の温度は、HCFC-244bb のHFO-1234yf への熱分解が、85% 以上の選択性でなされるのに十分に高い温度に維持される。」(【0096】) 「一実施形態において、反応ゾーンは、耐食性材料で構成された反応容器である。 一実施形態において、これらの材料は、合金、例えば、…Inconel(登録商標)…という商標名で市販されているニッケル-クロム合金…またはフルオロポリマーライニングを有する容器を含む。」(【0097】)「一実施形態において、HCFC-244bb を、約30℃~約100℃の温度まで、気化器 で予熱する。他の実施形態において、HCFC-244bb を、約30℃~約80℃の温度まで、気化器で予熱する。」(【0098】)「ある実施形態において、不活性希釈ガスを、HCFC-244bb のためのキャリアガスとして用いる。一実施形態において、選択されるキャリアガ 80℃の温度まで、気化器で予熱する。」(【0098】)「ある実施形態において、不活性希釈ガスを、HCFC-244bb のためのキャリアガスとして用いる。一実施形態において、選択されるキャリアガスは、窒素、アルゴン、ヘリウムまたは二酸化炭素である。」(【0099】) (カ) 実施例 「実施例15 は、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)への触媒なしでの変換を示すものである。」(【0121】)「加熱ゾーンが約12 インチの空のInconel(登録商標)管(1/2 インチOD)を、500℃~626℃の温度まで加熱し、HFC-244bb を、0.52mL/時で、40℃に設定された気 化器を通して、2.4sccm(4.0×10-8m3)のN2 スイープを用いて供給した。リアクタ流出物を、オンラインGSMS で分析した。結果をモルパーセントで記録してある。」(【0122】)「【表6】(表5) 」(【0123】)「実施例16 は、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO- 1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパン)への触媒なしでの変換を示すものである。」(【0124】)「加熱ゾーンが約12 インチの空のInconel(登録商標)管(1/2 インチOD)を、575℃まで加熱し、HFC-244bb を、0.35mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、3.6sccm(6.0×10-8m3)のN2 スイープを用いて供給した。リアクタを連続で合計19 時間操作し、試料を周期的に採取して、分析し、HFC-244bb の% 定された気化器を通して、3.6sccm(6.0×10-8m3)のN2 スイープを用いて供給した。リアクタを連続で合計19 時間操作し、試料を周期的に採取して、分析し、HFC-244bb の%変換率およびHFO-1234yf への選択性を求めた。リアクタ流出物を、オンラインGCMS を用いて分析した。以下の表6 のデータは、与えられた条件での少なくとも2 つのオンライン注入の平均であり、パーセンテージはモルパーセントである。」(【0125】)「【表7】 」(【0126】)(キ) 特許請求の範囲「【請求項1】HFO-1234yf と、HFC-254eb と、並びに、HFC-245cb 及びHFC-143a からなる群から選択される少なくとも1 つのメンバーと、/を含む組成物。 【請求項2】前記メンバーがHFC-245cb を含有する請求項1 に記載の組成物。 【請求項3】前記メンバーがHFC-143a を含有する請求項1 に記載の組成物。 【請求項9】 液体から気体まで相転移し戻る組成物を含むサイクルにおいて冷媒として請求項1、2 又は3 に記載の組成物を用いる方法。」ウ検討(ア) 原出願当初明細書等によれば、本件原出願に係る発明(以下「原出願当初発明」という。)は、熱伝達組成物等として有用な組成物、特に、HFO-1234yf、HCFC- 243db、HCFO-1233xf 又はHCFC-244bb を含む組成物の熱伝達組成物として有用な組成物に関するものであり(【0001】)、新たな環境規制によって、冷蔵、空調及びヒートポンプ装置に用いる新たな組成物が必要とされ、特に、低地球温暖化係数の化合物が着目されていることを背景とするものであ 物に関するものであり(【0001】)、新たな環境規制によって、冷蔵、空調及びヒートポンプ装置に用いる新たな組成物が必要とされ、特に、低地球温暖化係数の化合物が着目されていることを背景とするものであり(【0002】)、HFO-1234yf 等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在 することを見出した(【0003】)ものと理解される。また、原出願当初明細書に開示 された組成物は、低地球温暖化係数(GWP)熱伝達組成物等として有用であるなどともされている(【0023】)。 さらに、原出願当初明細書において、「冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤としての用途が示唆されてきた。」、「低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このように、HFO-1234yf は、高GWP 飽和HFC 冷媒 に替わる良い候補である。」(いずれも【0010】)とされていることに鑑みると、HFO-1234yf をHFC 冷媒に代替する低地球温暖化係数の冷媒の用途に用いることは、原出願当初発明との関係では従来技術であることが理解される。 他方、原出願当初発明の解決すべき課題について、明示的な記載は見当たらない。 もっとも、上記各記載によれば、新たな環境規制に対応し得る低地球温暖化係数の 新たな組成物を提供することが原出願当初発明の解決すべき課題とされていることが示唆されているものと理解することも可能である(なお、原出願当初明細書と共に願書に添付された要約書には、【課題】として、「本発明は、新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな組成物、低地球温暖化係数の化合物を提供することを課題とする。」旨の記載がある。)。 (イ) 原出願当初明細 発明は、新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな組成物、低地球温暖化係数の化合物を提供することを課題とする。」旨の記載がある。)。 (イ) 原出願当初明細書等によれば、原出願当初発明は、HFO-1234yf と、HCFC-243db、HCFC-244db、HCFO-1233xf、HCFC-244bb、HFC-143a 等からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物を提供するものである(【0001】、【0004】、【0011】)。 加えて、HCFC-243db、HCFO-1233xf 及び/又はHCFC-244db を含む組成物は、 HFO-1234yf を作製するプロセスにおいて有用であり、HFO-1234yf を含む組成物は、ある量のHCFC-243db、HCFO-1233xf 及び/又はHCFC-244db を、他の化合物に加えて含有していてもよいとされる(【0005】)。このため、原出願当初発明によれば、HCFC-243db と、HFC-143a、HFO-1234yf、HCFC-244bb、HCFC-244db、HCFO-1233xf等からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物 (【0006】、【0014】)、HCFO-1233xf と、HFO-1234yf、HFC-143a、HCFC-244bb、HCFC- 244db 等からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物(【0007】、【0017】)及びHCFC-244bb と、HFO-1234yf、HFC-143a、HCFC-244db 等からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物も提供される(【0008】、【0020】) FC-244bb と、HFO-1234yf、HFC-143a、HCFC-244db 等からなる群から選択される少なくとも1 つの追加の化合物とを含む組成物も提供される(【0008】、【0020】)。 さらに、HCFC-243db、HCFO-1233xf 及びHCFC-244bb のいずれにおいても、ある 実施形態において、HCFC-243db 等に対する特定の前駆体化合物は、HCFC-243db 等に現れる不純物を含有し、他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成され、他の実施形態において、HCFC-243db 等を生成する反応条件では副生成物も生成され、これは、HCFC-243db 等を生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する(【0016】、 【0019】、【0022】)。 このうち、原出願当初明細書記載のHCFC-244bb の脱塩化水素化を用いたHFO-1234yf 作製方法のうち、触媒なしでされるもの(【0092】、【0095】~【0099】)により得られた生成物を分析したところ、HFO-1234yf、HFC-143a 及びHFC-254eb を含む8 つの化合物並びに未知の成分(実施例15。【0121】~【0123】)又はHFO-1234yf 及びHFC-254eb を含む8 つの化合物(HFC-143a は少なくとも明示的には含まれない。)並びに未知の成分(実施例16。【0124】~【0126】)が認められたことが理解される。 このように、原出願当初明細書には、原出願当初発明の実施形態としてHFO-1234yf と組み合わせる他の化合物が列挙されている。もっとも、HFC-143a はこれに 明示的に含まれているものの、HFC-254 当初明細書には、原出願当初発明の実施形態としてHFO-1234yf と組み合わせる他の化合物が列挙されている。もっとも、HFC-143a はこれに 明示的に含まれているものの、HFC-254eb は明示的には言及されておらず、開示された組成物を作製する化合物にも含まれておらず(【0027】、【0028】)、上記各実施例において、HCFC-244bb のHFO1234yf への触媒なしでの変換による生成物の1 つとして示されているにとどまる。また、これらの生成物は、HFO-1234yf 等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に少量存在する特定の追加の化合物(【0003】) に当たるものとも理解し得るものの、この「追加の化合物」が存在する技術的意義 等に関する記載や示唆は、原出願当初明細書には見当たらない。そうすると、実施例15 及び16 に示されるHFO-1234yf を除く生成物については、単に、HFO-1234yfを調製する際に、その原料等に含まれる不純物や副生成物(【0016】、【0019】、【0022】)が「追加の化合物」として少量存在することが記載されているに過ぎないものと理解される。 さらに、原出願当初明細書の実施例の記載を参酌しても、実施例15 及び16 の各表(【0123】、【0126】)に記載された8 つの化合物及び未知の成分の中から、HFC-143aとHFC-254eb を特に選択してHFO-1234yf と組み合わせ、原出願当初発明に係る構成とすることにつき、その技術的意義ないし作用効果等に係る明示的な記載はなく、これを示唆する記載も見当たらない。まして、これらの化合物の含有割合が持つ技 術的意義等に関する記載ないし示唆もない。そうすると、これらの実施例は、分析の結 用効果等に係る明示的な記載はなく、これを示唆する記載も見当たらない。まして、これらの化合物の含有割合が持つ技 術的意義等に関する記載ないし示唆もない。そうすると、これらの実施例は、分析の結果得られた化合物及びその含有割合を単に記載しているに過ぎないものと理解するほかない。 (ウ) 本件原出願に係る特許請求の範囲には、HFO-1234yf 及びHFC-254eb に、HFC-245cb 及びHFC-143a から成る群から選択される少なくとも1 つのメンバーを含む 組成物等が記載されている。しかし、この記載を踏まえても、上記組成物からHFO-1234yf のほかにHFC-143a とHFC-254eb を選択し、これら2 つの成分の含有量につき、HCFC-143a は0.2 重量%以下、HFC-254eb は1.9 重量%以下と特定して、これらをHFO-1234yf と組み合わせた構成とすることを導き出すことは必ずしもできない。 エ小括 以上によれば、原出願当初明細書等の記載から導かれる技術的事項は、低地球温暖化係数の化合物であるHFO-1234yf を調製する際に、その原料等に含まれる不純物や副生成物が追加の化合物として少量存在し得るという点にとどまるものと理解される。これに対し、本件発明は、HFC-143a とHFC-254eb を特に選択し、これらを特定の割合による含有量でHFO-1234yf と組み合わせた組成物とする構成であると ころ、原出願当初明細書等の記載から、上記3 つの化合物を選び出し、そのうちの 2 つの化合物を所定の割合で含有する組成物とすることは、原出願当初明細書等の記載から認識し得る事項とはいえず、新たな技術的意義を導入するものというべきである。したがって、本件特許に係 2 つの化合物を所定の割合で含有する組成物とすることは、原出願当初明細書等の記載から認識し得る事項とはいえず、新たな技術的意義を導入するものというべきである。したがって、本件特許に係る出願は、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内でされたものとはいえず、分割出願としては不適法である。 そうすると、本件特許に係る出願は、本件原出願の時にしたものとみなすことは できず、実際に本件特許に係る出願をした令和元年9 月4 日をもって出願日とすることとなる。 (2) 無効理由(新規性の欠如)についてア特開2018-154841 号公報(平成30 年10 月4 日公開。乙6 文献)には、次の記載がある。 「加熱ゾーンが約12 インチの空のInconel(登録商標)管(1/2 インチOD)を、500℃~626℃の温度まで加熱し、HFC-244bb を、0.52mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、2.4sccm(4.0×10-8m3)のN2 スイープを用いて供給した。リアクタ流出物を、オンラインGSMS で分析した。結果をモルパーセントで記録してある。」(【0122】) 「【表6】(表5) 」(【0123】)イ上記【表6】(表5)の各化合物の含有割合は、モル%で示されている。他方、本件発明において各化合物の含有割合は重量%で示されていることから、モル%を重量%に換算する必要がある。ここで、【表6】(表5)には、8 つの化合物のほかに「未知」とされる成分も記載されているところ、【表6】(表5)は、別紙「乙6 実施 例15 の化合物一覧表」記載2 の「分子量」欄記載のとおり、分子量150.5 のHFC- 244bb を500℃~626℃の温度ま ところ、【表6】(表5)は、別紙「乙6 実施 例15 の化合物一覧表」記載2 の「分子量」欄記載のとおり、分子量150.5 のHFC- 244bb を500℃~626℃の温度まで加熱し、熱分解させる反応(【0096】)で生じた生成物を表したものであるから、未知の成分の分子量は、最大で約150、最小でHFO- 1141 の分子量46 の範囲内にあると推定される。このため、未知の成分の分子量を50~150 と仮定して設定し、モル%で示された化合物の組成を重量%に変換することは、合理的な計算方法といえる。 そこで、未知の成分の分子量を①50、②100、③150 と仮定し、加熱温度を603℃及び626℃と設定した場合のHFO-1234yf、HFC-143a 及びHFC-254eb の含有量をモル%から重量%へ換算した以下の被告による計算結果は、合理性のあるものと認められる。 ①未知の成分の分子量が50 の場合 温度HFC-143aHFO-1234yfHFC-254eb603℃0.15589.2871.50626℃0.15988.8450.77②未知の成分の分子量が100 の場合温度HFC-143aHFO-1234yfHFC-254eb603℃0.15388.3911.481626℃0.15486.4370.746③未知の成分の分子量が150 の場合温度HFC-143aHFO-1234yfHFC-254eb603℃0.15287.5131.47626℃0.15084.1550.73上記換算結果によれば、乙6 文献には、本件発明の発明特定事項のうち含有割合が特定されて 603℃0.15287.5131.47626℃0.15084.1550.73上記換算結果によれば、乙6 文献には、本件発明の発明特定事項のうち含有割合が特定されていないHFO-1234yf に対し、HFC-143a の上限は0.2 重量%以下であり、HFC-254eb の上限は1.9 重量%以下であることが示されているということができる。 以上より、乙6 文献には、乙6 発明1 及び2 が開示されているものと理解される ところ、本件発明は、乙6 発明1 及び2 と同一であるといえる。 したがって、本件特許は、特許法29 条1 項3 号に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきもの(同法123 条1 項2 号)と認められる。 ウ原告の主張について(ア) 原告は、HFO-1234yf にHFC-143a 及びHFC-254eb を組み合わせてなる組成 物は、原出願当初明細書の実施例15 の【表6】(表5)において示されており、原出願当初明細書等には本件発明に対応する発明が開示されている旨と共に、原出願当初明細書に基づく分割要件違反を主張しつつ、同じく本件原出願に係る乙6 文献に基づく新規性欠如の無効理由を主張すること自体が妥当性を欠く旨を主張する。 しかし、原出願当初明細書に記載があるのは、原出願当初発明として開示された 組成物を作製する化合物である33 の化合物(原出願当初明細書【0027】、【0028】、【表1】)の中から複数の化合物を含む組成物を提供することであり、かつ、その組合せが多様となり得ることにとどまる。また、前記(1)ウのとおり、原出願当初明細書等には、これらの中から本件発明に係る3 つの化合物に着目して選択する理由やそのうち2 つ ることであり、かつ、その組合せが多様となり得ることにとどまる。また、前記(1)ウのとおり、原出願当初明細書等には、これらの中から本件発明に係る3 つの化合物に着目して選択する理由やそのうち2 つの化合物の含有割合を特定すること、及びその技術的意義等について 何らの記載も示唆もない。そうすると、当業者において、上記実施例における分析結果から、本件発明におけるHFO-1234yf、HFC-143a 及びHFC-254eb という3 つの化合物を特定し、かつ、そのうち2 つの化合物の含有割合を特定することを導き出すことはできないから、原告指摘に係る記載があるからといって、本件特許に係る出願が原出願明細書等記載の事項の範囲内においてされたものであるということは できない。 また、分割出願における新規事項の追加の有無は、原出願の当初の明細書等の記載と分割出願に係る発明とを比較して、分割出願に係る技術的事項が原出願の当初の明細書等から導くことが可能であるか否かを問題とするものであり、本件においては、特に含有割合に指定のないHFO-1234yf に対して0.2 重量%以下のHFC-143a 及び1.9 重量%以下のHFC-254eb を組み合わせ、かつ、他の化合物を含むことを排 除しない組成物を構成するための技術的思想が原出願当初明細書等に記載されていたといえるかどうかが問題となるものである。これに対し、新規性欠如(特許法29条1 項3 号)の無効理由の存否は、当該発明がその発明の出願前に刊行物に記載された発明(引用発明)と同一であるか否かを問題とするものであり、本件においてその判断に必要となる引用発明の認定は、乙6 文献において、HFO-1234yf に対して 0.2 重量%以下のHFC-143a 及び1.9 同一であるか否かを問題とするものであり、本件においてその判断に必要となる引用発明の認定は、乙6 文献において、HFO-1234yf に対して 0.2 重量%以下のHFC-143a 及び1.9 重量%以下のHFC-254eb を組み合わせた組成物が記載されているかどうかという問題である。このように、前者と後者とでは判断に当たっての着眼点が異なることから、同じく本件原出願に係る原出願当初明細書と乙6 文献に基づいて分割要件違反の有無と新規性の欠如の有無を主張したとしても、必ずしも妥当性を欠くものとはいえない。 したがって、この点に関する原告の主張はいずれも採用できない。 2 争点3(訂正の再抗弁の成否)について本件訂正は、本件発明の構成要件A に係るHFO-1234yf の下限値を77.0 モル%とするものである。しかし、前記1(1)のとおり、本件特許に係る出願が分割出願としては不適法とされるのは、原出願当初明細書等の記載から導かれる技術的事項につ き、低地球温暖化係数の化合物であるHFO-1234yf を調製する際に、その原料等に含まれる不純物や副生成物が追加の化合物として少量存在し得るという点にとどまるものと理解されるのに対し、本件発明は、HFC-143a とHFC-254eb を特に選択し、これらを特定の割合による含有量でHFO-1234yf と組み合わせた組成物とする構成であり、原出願当初明細書等の記載から、上記3 つの化合物を選び出し、そのうち の2 つの化合物を所定の割合で含有する組成物とすることは、原出願当初明細書等の記載から認識し得る事項であるとはいえず、新たな技術的意義を導入するものというべきであることによる。しかるに、本件発明に係るHFO-1234yf の含有される割合の下限値を定めたとして 初明細書等の記載から認識し得る事項であるとはいえず、新たな技術的意義を導入するものというべきであることによる。しかるに、本件発明に係るHFO-1234yf の含有される割合の下限値を定めたとしても上記事情が解消されることはない以上、本件発明に係る新規性欠如の無効理由は、本件訂正により解消されない。 したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、本件訂正に係る訂正の再抗弁 は成立しない。この点に関する原告の主張は採用できない。 3 まとめ以上より、その余の点につき論ずるまでもなく、原告は、被告に対し、本件特許権を行使することはできない(特許法104 条の3 第1 項)。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官杉浦正樹 裁判官小口五大 裁判官鈴木美智子 別紙被告製品目録 HFO-1234yf と、HFC-143a、およびHFC-254eb、を含む組成物であって、HFC-143a を0.2 重量パーセント以下で、HFC-254eb を1.9 重量パーセント以下で含有す る組成物。 例えば製品名に「1234yf」を含む製品及びそれらの製品の中間製品(製品の製造の中間過程で造られた上記の構成を備えるものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの) 製品名に「1234yf」を含む製品の 含む製品及びそれらの製品の中間製品(製品の製造の中間過程で造られた上記の構成を備えるものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの) 製品名に「1234yf」を含む製品の一例としては下記製品名の製品(ただし、製品名の一部に下記製品名を有するものを含む。) 記 1 AGCHFO-1234yf 2 AMOLEAHFO-1234yf 3 AGC 1234yf 4 AMOLEA 1234yfアサヒクリン 1234yf 以上 別紙被告製品説明書 甲3 乃至甲5 によれば、被告製品はHFO-1234yf を含んでいる。 甲4 及び甲5 によれば、被告製品は0.0017 重量%(0.0023 モル%)のHFC-143a を 含んでいる。 甲4 及び甲5 によれば、被告製品は0.0789 重量%(0.0776 モル%)の、HFC-254ebを含んでいる。 よって、本件発明と比較した場合、被告製品は、以下の構成を有する。 aHFO-1234yf と、bHFC-143a、およびcHFC-254eb、を含む組成物であって、dHFC-143a を0.0017 重量%で、 eHFC-254eb を0.0789 重量%で含有する組成物。 別紙乙6 実施例15 の化合物一覧表 1 モル%による各化合物の割合 2 重量%への換算
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