- 1 -平成24年11月27日判決言渡平成22年(行ウ)第61号国家賠償等請求事件主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用は原告ら補助参加人の負担とし,その余は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告らそれぞれに対し,1000万円及びこれに対する平成22年10月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 原告らの請求の骨子本件は,主に社会保険診療等を業として行う民間病院等の開設者である原告らが,健康保険法等の法律により診療報酬が公定価格とされているため,社会保険診療等について消費税額相当額を価格に上乗せすることが認められていないにもかかわらず,消費税法が非課税取引である社会保険診療等の仕入れに係る消費税額について仕入税額控除を認めなかった結果,原告らにおいて,同消費税額相当額を消費者に転嫁することもできず,強制的に負担させられる仕組みとなっていることは,憲法14条1項,22条1項,29条1項及び84条に違反していると主張して,主位的に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,予備的に不当利得返還請求(民法703条)及び損失補償請求(憲法29条3項)として,原告らが平成20年度から平成22年度の3年間に負担した上記消費税額相当額の一部(各1000万円)及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成22年10月14日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 2 -原告らは,国家賠償法上の違法行為として,①国会議員による消費税法(昭和63年12月30日号外法律第108号)の立法行為及び国会議員が遅くとも平成9年に行われた消費税の税 ある。 - 2 -原告らは,国家賠償法上の違法行為として,①国会議員による消費税法(昭和63年12月30日号外法律第108号)の立法行為及び国会議員が遅くとも平成9年に行われた消費税の税率改定時(平成6年法律第109号による改正)に原告ら主張の負担を解消する措置を採らなかったという立法不作為(以下,これと上記消費税法の立法行為とを併せて「本件立法行為等」という。)並びに②平成20年度及び平成22年度の厚生労働大臣の告示による診療報酬改定行為(以下「本件改定行為等」という。)を挙げている。 なお,以下,社会保険診療等を非課税取引と定め(消費税法6条1項,別表第1の6号及び7号),課税期間における課税売上割合が95パーセントに満たない事業者には,上記非課税取引の仕入れに係る消費税額につき仕入税額控除を認めていない(同法30条1,2項)という消費税法の仕組みを,「本件仕組み」といい,当該仕組みを構成する上記の消費税法の規定を「本件各規定」という。また,本件仕組みによって病院等の経営主体が負担していると原告らが主張する不利益を,「原告ら主張の負担」という。 2 関連する法令の定め(1) 税制改革法ア税制改革法は,昭和63年6月15日に行われた税制調査会の答申の趣旨に則って行われる税制の抜本的な改革の趣旨,基本理念及び方針を明らかにし,かつ,簡潔にその全体像を示すことにより,同改革についての国民の理解を深めるとともに,同改革が,整合性をもって,包括的かつ一体的に行われることに資するほか,同改革が我が国の経済社会に及ぼす影響にかんがみ,国等が配慮すべき事項について定めることなどを目的とする(1条)。 イ同法は,消費税が「消費に広く薄く負担を求めるもの」であり,その仕組みについては「事業者による商品の販売,役務の提供等の がみ,国等が配慮すべき事項について定めることなどを目的とする(1条)。 イ同法は,消費税が「消費に広く薄く負担を求めるもの」であり,その仕組みについては「事業者による商品の販売,役務の提供等の各段階において課税し,経済に対する中立性を確保するため,課税負担の累積を排除す - 3 -る方式によるもの」とするなどと定め(10条1,2項),累積排除型の多段階課税方式について言及している。また,「事業者は,消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ,消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。…」と定めて(11条1項),消費税の担税者が消費者となることを予定している。 (2) 消費税法(昭和63年12月30日法律第108号)等一般概念としての消費税は,物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税であり,最終的な消費行為そのものを対象として課される租税である直接消費税と,最終的な消費行為よりも前の段階で物品やサービスに対する課税が行われ,税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁することが予定されている租税である間接消費税とに区分される。そして,間接消費税は,法令の定めによって特に課税の対象とされた物品やサービスに対してのみ課される租税である個別消費税と,原則として全ての物品及びサービスの消費に対して課され,法令の定めによって課税対象から除外されない限り,課税の対象とされる一般消費税とに区別される。また,間接消費税には,製造から小売に至る1個の取引段階でのみ課税する単段階消費税と,複数の段階で課税する多段階消費税の区別があり,多段階一般消費税には,各段階の売上金額を課税標準として課税する取引高税と,各段階の付加価値を課税標準として課税する付加価値税の区別がある。我が国の消費税は,以上の区別のう 段階消費税の区別があり,多段階一般消費税には,各段階の売上金額を課税標準として課税する取引高税と,各段階の付加価値を課税標準として課税する付加価値税の区別がある。我が国の消費税は,以上の区別のうち付加価値税の性質を持つ多段階課税一般消費税である。 以下,税率を除いて内容に変更がないので,現行の条文によることとする。 ア課税対象等(ア) 消費税法は,「国内において事業者が行った資産の譲渡等」(4条1項)を課税対象としており,ここにいう「資産の譲渡等」とは,「事 - 4 -業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。」と定められている(2条1項8号)。 (イ) 国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第1に掲げるものは非課税と定められているところ(6条1項),資産の譲渡等のうち6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの(以下,「非課税取引」といい,別表第1の6号及び7号(健康保険法等の公的な医療保障制度や介護保険等に係る療養の給付等)で規定されている資産の譲渡等のうち,健康保険法等の規定によってその対価となるべき金額が公定されているものを,「社会保険診療等」という。)以外のものを「課税資産の譲渡等」という(2条1項9号)。なお,以下,非課税取引以外の取引を「課税取引」ということがある。 イ納税義務者国内において課税資産の譲渡等を行った事業者(事業を行う個人及び法人をいう。以下同じ。)は課税資産等の譲渡について,消費税の納税義務を負う(5条1項,2条1項3,4号)。 ウ課税標準等課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡 う個人及び法人をいう。以下同じ。)は課税資産等の譲渡について,消費税の納税義務を負う(5条1項,2条1項3,4号)。 ウ課税標準等課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)と定められ(28条1項本文),これに税率を乗じて税額の計算がされる(29条)。 消費税の税率は,消費税法施行当初は3パーセントであったが(平成6年法律第109号による改正前の消費税法29条),同改正により,平成 - 5 -9年4月1日以後は4パーセントに引き上げられている。また,平成6年法律第111号による地方税法の改正において地方消費税が導入されたところ,同税の税額は消費税額を課税標準としてその25パーセント(したがって,課税資産の譲渡等の対価の合計額の1パーセント)であるため(同法72条の82,83),消費税及び地方消費税の税額の合計は5パーセントである。以下,消費税と地方消費税について特に区別はしない。 エ仕入税額控除制度(ア) 9条1項の規定により消費税の納税義務を免税されている事業者(免税事業者)を除く事業者が,国内において「課税仕入れ」を行った場合には,その課税仕入れを行った日の属する課税期間(法人の場合は,法人税法に規定する事業年度が課税期間となる(19条1項2号))の課税標準額に対する消費税額から,その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した額をいう。以下「仕入税額」という。)を控除して, 額に対する消費税額から,その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した額をいう。以下「仕入税額」という。)を控除して,消費税の納付税額を算出することと定められており(30条1項),ここにいう「課税仕入れ」とは,「事業者が事業として他の者から資産を譲り受け,若しくは借り受け,又は役務の提供を受けること…をいう」と定められ(2条1項12号),「課税標準額」とは,「その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等…に係る課税標準である金額の合計額」をいうと定められている(45条1項1号)。 (イ) 30条1項柱書きは,事業者の課税期間中の課税標準額に対する消費税額(45条1項2号)からの仕入税額控除のみを定めているところ,上記のとおり,非課税取引は課税資産の譲渡等に当たらないことから,その対価の額は課税標準額に含まれない。 もっとも,30条1項は,仕入税額控除の対象となる課税仕入れに係 - 6 -る消費税については課税資産の譲渡等に対応するものに限定して規定していないことから,同項の規定上は,非課税取引に対応する仕入税額も含めて控除することができる。しかし,同条2項は,課税期間における課税売上割合が95パーセントに満たない場合には,仕入税額のうち控除できる対象を課税資産の譲渡等を行うために要する部分に限定して定めており,ここにいう「課税売上割合」とは,「当該事業者が当該課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該事業者が当該課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合…」とされている(同条6項)。 したがって,課税期間中の国内における資産の譲渡等の対価の額の合計額のうち非課税取引に係る対価 間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合…」とされている(同条6項)。 したがって,課税期間中の国内における資産の譲渡等の対価の額の合計額のうち非課税取引に係る対価の合計額の占める割合が5パーセントを超える場合には非課税取引に対応する部分の仕入税額を控除対象から除いていることとなるから,消費税法上,社会保険診療等に関する仕入税額は,仕入税額控除の対象とならないこととなる。 オ還付免税事業者以外の事業者は,その課税期間分の消費税につき課税標準額に対する消費税額から仕入税額等を控除した場合において,なお不足額があるときは,税務署長に申告を行うことにより,当該不足額に相当する消費税の還付を受けることができる(46条1項,45条1項2,3,5号,52条1項)。 カ輸出免税免税事業者以外の事業者が国内において課税資産の譲渡等を行った場合において,それが輸出として行われる資産の譲渡又は貸付等に該当する場合には消費税が免除される(以下「輸出免税取引」という。7条1項1号,2項,消費税法施行令17条)。輸出免税取引は,課税資産の譲渡等が行われたことを前提として消費税の課税を免除するものであるから,同 - 7 -取引に対応する仕入税額は,仕入税額控除の対象となる。 (3) 健康保険法ア健康保険法は,全国健康保険協会及び健康保険組合を保険者,健康保険法に定められた適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者を被保険者と定め(3条1項,3項,4条。なお,平成18年法律第83号による改正以前の健康保険法では,政府及び健康保険組合が保険者とされている。),被保険者は,厚生労働大臣(厚生大臣を含む。以下同じ。)の指定を受けた病院等(以下「保険医療機関等」という。)のうち自己が選 改正以前の健康保険法では,政府及び健康保険組合が保険者とされている。),被保険者は,厚生労働大臣(厚生大臣を含む。以下同じ。)の指定を受けた病院等(以下「保険医療機関等」という。)のうち自己が選定したものから疾病又は負傷に関する療養の給付を受けるものと定められており(63条3項1号),ここにいう「療養の給付」としては,「診察」(同条1項1号),「薬剤又は治療材料の支給」(同項2号),「処置,手術その他の治療」(同項3号)等が挙げられている。 イ保険医療機関等から療養の給付を受ける者は,その給付を受ける際,療養の給付に要する費用(以下「診療報酬」という。)の額に所定の割合を乗じて得た額を一部負担金として当該保険医療機関等に対して支払わなければならないものと定められ(74条1項),保険者は,診療報酬の額から,上記一部負担金を控除した額を療養の給付に関する費用として当該保険医療機関等に支払うものと定められている(76条1項)。診療報酬の額に係る具体的な算定方法は,厚生労働大臣の定めに委ねられており(同条2項。いわゆる公定価格),同項の委任を受けて厚生労働大臣が定めた「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号。ただし,平成22年厚生労働省告示第69号によって一部が改正されている。)は,上記療養の給付に要する費用の額の算定方法について,点数制度をもって具体的に定めている(なお,同項の委任を受けた厚生労働大臣の定めとしての告示は,消費税法施行時以前から現在に至るまで幾度の改正等を経ているものの,診療報酬の算定方法について点数制度をもって具体的に - 8 -定めている点は共通している。以下,これらの告示による診療報酬の額の改定を「診療報酬改定」という。)。 ウ診療報酬改定にあたっては,中央社会保険医療協議会(以下「中 って具体的に - 8 -定めている点は共通している。以下,これらの告示による診療報酬の額の改定を「診療報酬改定」という。)。 ウ診療報酬改定にあたっては,中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)に諮問するものと定められ(82条1項),諮問を受けた中医協は,同事項について審議し,文書をもって答申するほか,自ら,厚生労働大臣に文書をもって建議することができると定められている(社会保険医療協議会法2条1号)。 3 前提事実(1) 当事者等ア原告らは,保険医療機関等として主に社会保険診療等を業として行う民間病院等の開設者であり,兵庫県内において当該病院等を経営している医療法人である。(弁論の全趣旨)イ原告ら補助参加人(以下,原告らと併せて「原告ら」ということがある。)は,民間病院の管理及び経営についての指導及び研究に関する事業等や民間病院相互の親睦を図ることを目的とする社団法人であり,兵庫県下の民間病院等によって組織されている。(弁論の全趣旨)(2) 原告らによる確定申告原告らは,平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(平成20年3月期。他の年度も同様に表記する。),平成21年3月期及び平成22年3月期に係る消費税について,別紙1記載のとおり確定申告又は修正申告を行った。原告らは,上記確定申告等において,上記各事業年度における課税売上割合が95パーセント未満であったため(別紙1「課税売上割合」欄参照),課税仕入れ等に係る消費税額に課税売上割合を乗じた仕入控除税額を控除対象仕入税額としていた(以下,原告らのように,保険医療機関等として主に社会保険診療等を業として行っているもので,その課税期間における課税売上割合が95パーセント未満であるために,消費税法 - 9 -上,社 ていた(以下,原告らのように,保険医療機関等として主に社会保険診療等を業として行っているもので,その課税期間における課税売上割合が95パーセント未満であるために,消費税法 - 9 -上,社会保険診療等の売上げに対応する仕入税額について控除が認められていない民間の病院や診療所等の開設者である事業者を「医療法人等」という。また,医療法人等以外の事業者を「一般の事業者」ということがある。)。(弁論の全趣旨)(3) 消費税の納付被告は,社会保険診療等に係る医療法人等の課税仕入れにつき,同仕入先業者から,消費税として,原告らを含む医療法人等の当該仕入額の4パーセントに相応する額の納付を受けている。(争いがない)(4) 訴訟提起等原告らは,平成22年9月28日,本件訴訟を提起し,原告ら補助参加人は,同日,原告らを補助するため本件訴訟に補助参加した。(当裁判所に顕著) 4 争点(1) 本件仕組みは,憲法14条1項,22条1項,29条1項及び84条に違反するか否か(本件仕組みの憲法適合性。争点1)。 (2) 本件立法行為等及び本件改定行為等に係る国家賠償請求の当否(争点2)。 (3) 不当利得返還請求の当否(争点3)。 (4) 損失補償請求の当否(争点4)。 (5) 原告らの損害額又は損失額(争点5)。 5 争点に対する当事者の主張(1) 本件仕組みの憲法適合性(争点1)【原告らの主張】ア本件仕組みの不合理性(ア) 本件仕組みがもたらす医療法人等の現状消費税法は,取引の性格又は社会的政策への配慮から一部の取引を非 - 10 -課税取引と定めており,医療法人等が行う社会保険診療等も非課税取引とされているものであるが,非課税取引については,そもそも消費税が発生しないために, 策への配慮から一部の取引を非 - 10 -課税取引と定めており,医療法人等が行う社会保険診療等も非課税取引とされているものであるが,非課税取引については,そもそも消費税が発生しないために,消費税法上,原則として仕入税額控除ができない。 また,我が国では国民皆保険制度が採用され,その保険給付は主として医療法人等の開設する病院等で行われることが予定されているため,医療法人等が行う事業は健康保険制度等の医療保険制度に基づいて行わざるを得ないが,社会保険診療等を通じて医療法人等が受け取る診療報酬は,公定価格とされている。そして,一般の事業者は,非課税取引を行っても,仕入税額相当額を取引価格に転嫁するという選択をすることで,仕入税額相当額を負担させられることを回避できるが,医療法人等は,診療報酬の額が公定されている結果,消費者に転嫁することによって仕入税額相当額の負担を避けることはできない。 すなわち,原告らのような医療法人等は,社会保険診療等に関する取引が非課税取引であるために仕入税額控除ができず(本件仕組み),かつ,診療報酬の額が公定されているため,消費者への転嫁によってその負担を回避することができない結果,仕入税額相当額の負担が滞留し,これを強制されるという極めて不利益な状況に置かれているのである。 このように,医療法人等は,消費税法における社会保険診療等を非課税取引とする施策と国民皆保険制度における診療報酬を公定価格とする施策との狭間で,一般の事業者には見られない著しい不利益が課せられており,この状態が放置されている。 (イ) 仕入税額控除制度の趣旨等a 消費税法は,原則として全ての物品とサービスの消費に「広く薄く」課税することを目的とするものであり,消費税は,転嫁を通じて最終的には消費者に負担を求めることを予定 ) 仕入税額控除制度の趣旨等a 消費税法は,原則として全ての物品とサービスの消費に「広く薄く」課税することを目的とするものであり,消費税は,転嫁を通じて最終的には消費者に負担を求めることを予定する間接税である。仕入税額控除制度の趣旨は,税負担の累積の防止であるが,これには,① - 11 -税の二重課税(タックス・オン・タックス)の防止と,②事業者の実質的な消費税負担の防止(事業者は消費税によって損も得もしない)という2個の意味・側面がある。 被告は,税負担の累積の防止を①の意味のみで理解しているが,消費税法は,課税取引であってもたまたま無償で譲渡された場合(別紙2図[丁])や免税取引の場合(別紙2図[戊])において,仕入税額相当額の還付を認めているのであって,このように税の二重課税が生じない場合にも仕入税額控除の適用があるものとして還付を認めているということは,税負担の累積の防止という仕入税額控除制度の趣旨において,上記①の意味のみならず②の意味も含まれていることを示すものである。 b このように,事業者が課税仕入れを行った場合には仕入税額控除ができるということ,すなわち事業者には消費税を実質的に負担させないということは,消費税法の基本的仕組みと解すべきであり,社会保険診療等を非課税取引と定め,その課税仕入れに対応する仕入税額相当額の負担(原告ら主張の負担)を医療法人等が強制されているという現状は,消費税法の基本的仕組みに明らかに反している。 イ憲法14条1項違反(ア) 原告らが問題とする取扱いの区別a 消費税法は,課税取引に係る仕入税額控除を認める一方で,課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない事業者については,仕入税額控除の対象を課税資産の譲渡等を行う部分に限定している。その結果,医療法人 課税取引に係る仕入税額控除を認める一方で,課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない事業者については,仕入税額控除の対象を課税資産の譲渡等を行う部分に限定している。その結果,医療法人等は,社会保険診療等に関する仕入税額を控除することができず(本件仕組み),また,診療報酬の額は健康保険法等において公定されているため,仕入れの際に負担する仕入税額相当額を値上げによって転嫁することが法律上不可能な状況に置かれて - 12 -いる。 原告らは,別紙2図[甲]のとおり,仕入先業者に交付した仕入税額相当額の全額について負担している。これに対し,一般の事業者の場合,仕入税額控除が認められるため,別紙2図[乙]のとおり,消費者から受け取った消費税額から仕入税額を控除した額のみ納付することとなる。また,一般の事業者は,売上額に含まれる課税標準額に対する消費税額よりも仕入税額の方が多ければ,別紙2図[丙]及び[丁]のとおり,その差額に相当する消費税額の還付を受けることができる。このように,一般の事業者については,仕入税額控除が認められることから,消費税法によって負担が生じることはない。 また,輸出免税取引を行う事業者も,別紙2図[戊]のとおり,輸出免税取引に係る仕入税額について還付を受けることができるので,この場合も消費税法により負担が生じることはない。 b 以上のとおり,医療法人等は,一般の事業者と同じく仕入れ段階において仕入税額相当額を支出しているにもかかわらず,仕入税額控除が認められていないために,医療法人等のみが仕入税額相当額の負担(原告ら主張の負担)を強いられるという扱いを受けている(以下,一般の事業者には原告ら主張の負担がなく医療法人等にはあるという取扱いの違いを「原告ら主張の区別」という。)。そして,消費税の の負担(原告ら主張の負担)を強いられるという扱いを受けている(以下,一般の事業者には原告ら主張の負担がなく医療法人等にはあるという取扱いの違いを「原告ら主張の区別」という。)。そして,消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には,法律上,105分の5の消費税額が含まれ,消費税法は,税の二重課税を防止するために,同消費税額相当額の控除(仕入税額控除)を認めているところ(28条1項,30条1項,45条1項2号),これは,事業者が仕入れ段階で消費税額相当額の法的負担をしていることを,消費税法自身が認めていることに他ならないのであるから,原告ら主張の区別は,消費税法自身が原告ら主張の負担を与え,法律の適用の結果とし - 13 -て必然的に生じている法律上の差別である。仮に,法律上の差別でないとしても,憲法14条1項で禁止される差別は法律上の取扱いに限定されるものではなく,事実行為による差別も含まれる。 (イ) 違憲審査基準a 憲法14条1項は国民に対して合理的理由のない差別を禁止しているところ,国民に対する取扱いについて区別がある場合,そのような区別した取扱いをする目的が正当であり(立法目的の正当性),かつ,その目的実現のための手段が当該目的に正しく適合したもの(立法目的と手段との間の合理的関連性)でなければ,合理的理由のない差別として違憲となる。 b この点について,被告が租税法分野に関する立法一般について立法府に広い裁量を認めた判決として指摘する最高裁判所昭和60年3月27日判決・民集39巻2号247頁(以下「昭和60年判決」という。)は,租税法分野に関する立法一般について立法府の広い裁量を認めたものではなく,立法府の政策的ないし技術的な理由に基づく区別であると認められた場合に広い裁量を認めたものにすぎないとこ 判決」という。)は,租税法分野に関する立法一般について立法府の広い裁量を認めたものではなく,立法府の政策的ないし技術的な理由に基づく区別であると認められた場合に広い裁量を認めたものにすぎないところ,社会保険診療等を非課税取引として医療法人等に仕入税額控除を認めないという立法をするか否かということについて,政策的・技術的理由があるとは認められない。したがって,本件において昭和60年判決の審査基準を援用するのは相当でない。 (ウ) 本件への当てはめa 消費税法において,社会保険診療等を非課税取引とした立法目的は,消費税による負担を診療報酬に上乗せしないことにより,社会的弱者であっても必要な診療を受けることができるようにする点にある。しかるに,消費税法が施行される以前から診療報酬は公定価格とされていたのであるから,消費税法が社会保険診療等を非課税取引と - 14 -するか否かによって,患者が負担することとなる診療報酬の額に差異は生じ得ない。そうすると,上記の立法目的の正当性を支える立法事実は存在しないことになるから,立法目的の正当性が存在しないことは明らかである。被告は,社会保険診療等を非課税取引とすることと仕入税額控除制度を採用したこととの間に関連性はなく,これらの規定が憲法に適合するか否かは別個独立に検討すべきと主張するが,ある規定だけをみれば違憲にならない場合であっても他の制度と合わせて検討することにより違憲となり得る。 b 仮に,本件について上記のような立法目的に正当性が認められるとしても,当該立法目的と原告ら主張の区別との間には,何ら関連性が認められないというべきである。すなわち,上記のとおり,社会保険診療等を非課税取引とするか否かによって患者が負担することとなる診療報酬の額に差異は生じ得ないのであるから,消費 の間には,何ら関連性が認められないというべきである。すなわち,上記のとおり,社会保険診療等を非課税取引とするか否かによって患者が負担することとなる診療報酬の額に差異は生じ得ないのであるから,消費税による負担を診療報酬に上乗せしないことによって社会的弱者であっても必要な診療を受けることができるようにするという立法目的は,社会保険診療等に関する取引を非課税取引としなくても達成できる。 この点について,被告は,価格への影響という観点からすれば,課税取引とするよりも非課税取引とした方が価格(公定価格)を低額にすることが可能となる旨主張する。しかし,仮にこのような事情が認められたとしても,その結果医療法人等に仕入税額控除を認めないで仕入税額相当額の負担(原告ら主張の負担)を課するということは,事業者に消費税を実質的に負担させないという消費税法の基本的仕組みに反するものであるから,立法目的との間に合理的関連性はないというべきである。 ウ憲法22条1項違反憲法22条1項は職業選択の自由を定めるところ,これには選択した職 - 15 -業を遂行する自由も含まれるから,原告らが病院等を経営するということが職業選択の自由に含まれることは明らかである。しかるに,本件仕組みにより生じた原告ら主張の負担は莫大な額になっており,その結果,原告らの病院等の経営が強く圧迫され,職業遂行の自由が制限されている。このような制限は,仮にその目的において正当性が認められたとしても,当該目的を達成するための手段として,社会保険診療等を非課税取引とせずに免税取引とする方法,非課税取引について仕入税額控除を認める方法等の,より医療法人等の負担とならない簡明かつ公平な方法が存在するから,目的と手段との間に合理的な関連性があるとはいえず,公共の福祉による制限として 方法,非課税取引について仕入税額控除を認める方法等の,より医療法人等の負担とならない簡明かつ公平な方法が存在するから,目的と手段との間に合理的な関連性があるとはいえず,公共の福祉による制限として正当化し得ないものである。 エ憲法29条1項違反本件仕組みにより生じた原告ら主張の負担が,原告らの財産権を制約することは明らかであって,これが公共の福祉による制限として正当化し得ないものであることは,イで述べた点から明らかである。 オ憲法84条違反(ア) 憲法84条は租税法律主義を定め,租税法律主義の内容として課税要件法定主義が導かれるところ,税の減免等の問題も,税負担の公平の観点から法律で決めなければならない。 ところで,上記のとおり,消費税法施行当時,診療報酬は公定価格とされていたから,医療法人等が,自らの判断で非課税売上げに対応する仕入税額相当額を消費者に転嫁することは法的に不可能であり,これにより医療法人等には原告ら主張の負担が発生し,一般の事業者との間で取扱いの区別を受けている。医療法人等が仕入先業者に支払う仕入税額相当額は,消費税そのものではないものの消費税法の規定によって生じている法的な負担であって,消費税法自身,事業者が仕入れ段階でこのような負担をしていることを認めていること(上記イ(ア)b)に照らす - 16 -と,税負担の公平という観点からは消費税に準じて扱われるべきものである。 したがって,原告ら主張の負担を解消するための措置は,消費税の減免の内容や程度を決める場合に準じて扱われるべきものであり,消費税法自体又は少なくとも他の法律によって定めなければならず,これを行政処分に委ねることは許されない。被告は,原告ら主張の負担を,厚生労働大臣が行う診療報酬改定によって是正・解消している旨 あり,消費税法自体又は少なくとも他の法律によって定めなければならず,これを行政処分に委ねることは許されない。被告は,原告ら主張の負担を,厚生労働大臣が行う診療報酬改定によって是正・解消している旨主張するが,このような主張が租税法律主義に反することは明らかである。 (イ) よって,社会保険診療等を非課税取引としておきながら,これに対する是正の手当を抽象的に診療報酬改定に委任している現行消費税法は,診療報酬改定の内容如何にかかわらず,憲法84条に明白に違反している。 【被告の主張】ア本件仕組みが不合理ではないこと(ア) 仕入税額控除制度の趣旨等a 仕入税額控除制度は,非課税取引とされるものを除く取引の各段階で消費税が課税されることにより,最終的に消費者に求める税負担が取引経路にかかわらず公平なものとなるように,すなわち,税負担の累積を排除・防止することを目的として,その納付税額の計算に当たって前段階の取引に係る消費税額を控除することとしたものである。 このように,あくまで課税対象となる取引において生じ得る税負担の累積を排除する必要から仕入税額控除制度が設けられたという趣旨を踏まえれば,非課税取引に対応する仕入税額については,このような意味での税負担の累積を排除する必要がないから,本来的に仕入税額控除をすることはできない。 b 非課税取引に対応する仕入税額については,当該取引の価格引上げ - 17 -によって転嫁するというのが消費税法の基本的な考え方である。すなわち,消費税は,最終的には物品やサービスの消費者に負担を求めることを予定する間接消費税としての性質があるところ,事業者は,消費税額分を他の様々なコストと共に販売価格に織り込むことによって,他の事業者あるいは消費者に転嫁していくことが,経済活動とし を求めることを予定する間接消費税としての性質があるところ,事業者は,消費税額分を他の様々なコストと共に販売価格に織り込むことによって,他の事業者あるいは消費者に転嫁していくことが,経済活動として事実上予定されている。 また,医療法人等が,社会保険診療等に係る仕入税額を控除することも診療報酬を値上げすることも認められていないという問題に対しては,診療報酬改定による制度的な手当がされているところ,現に,消費税が導入された平成元年度やその税率の引上げが行われた平成9年度には,通常は診療報酬改定が行われない年度であるにもかかわらず,消費税導入や税率引上げが医療法人等に与える影響に配慮して,臨時特例的に診療報酬の引上げが行われている。なお,診療報酬は,通常2年に1度改定を行っているが,その改定に際しては,物価・賃金の動向や保険財政の影響に加え,医療現場が抱える課題や消費税負担も含めた保険医療機関等の経営状況を総合的に勘案して全体の改定率を設定しており,消費税により医療法人等が負う負担についても改定の都度考慮しているものである。 (イ) 原告らの主張に対する反論a 原告らは,消費税法が最終的には消費者に税負担を求めていることから,最終的に事業者に消費税を負担させないことが消費税法の基本的な考え方であるとか,仕入税額控除制度の趣旨である税負担の累積の防止には,消費税の二重課税の防止と事業者の実質的な消費税負担の防止の双方が含まれていると主張し,消費税法が,事業者という主体に着目して事業者に対し消費税の負担をさせないことを本来的な目的にしているとする。 - 18 -しかし,消費税は「取引」を課税対象としているものであり,消費税法上,事業者の所得や財産などに着目して制度を組み立てていることをうかがわせる規定はなく,「事業 しているとする。 - 18 -しかし,消費税は「取引」を課税対象としているものであり,消費税法上,事業者の所得や財産などに着目して制度を組み立てていることをうかがわせる規定はなく,「事業者」という主体に着目していないことはもとより,事業者に税負担をさせないという基本的考え方を採用しているものでもない。事業者が仕入税額相当額の負担を負わないかのような外観を呈するのは,消費者への販売価格等に対する税負担の累積を防止する目的で仕入税額控除がされた結果として生じた現象にすぎず,仕入税額控除制度が事業者の税負担の防止を目的としているからではない。控除の対象とならない仕入税額について何らかの調整を行うことが,消費税の性格や仕組みなどから当然に要求されるものではない。 b 原告らは,事業者が仕入税額相当額を全く転嫁していない場合(別紙2図[丁])と輸出免税取引(別紙2図[戊])の場合を例に挙げて,仕入税額控除制度の趣旨である税負担の累積の防止には,事業者の税負担の防止という意味も含まれているなどと主張する。 しかし,消費税は,取引に対して課税を行うものであり,最終的には消費者に転嫁されることを予定する間接税であるところ,事業者の課税資産の譲渡等に対応する仕入税額について仕入税額控除を認めなければ,税負担の累積の問題が生じることが当然に想定されることから仕入税額控除を認めたものである。そして,仮に贈与等のみをしている事業者であればその贈与等は「資産の譲渡等」に当たらず仕入税額控除の対象とはならないし,現実の事業者は一般的には事業全体で所要の利益等を確保しようとするものであり,一部で贈与等を行ったとしてもその仕入れに係る費用はその他の商品等の販売価格等に転嫁していることが想定されるのであって,その部分で贈与等の仕入れに係る税負担の累 利益等を確保しようとするものであり,一部で贈与等を行ったとしてもその仕入れに係る費用はその他の商品等の販売価格等に転嫁していることが想定されるのであって,その部分で贈与等の仕入れに係る税負担の累積の問題が生じることになるのであるから,個別的か - 19 -つ一面的な取引のみを殊更に取り上げ,仕入税額控除制度の趣旨が税負担の累積排除の点以外に事業者の税負担防止にもあるとする主張は失当である。また,輸出免税取引の場合には,我が国の国内取引に限って考えれば税負担の累積が生じないとみられるし,輸出相手国の税制によっては結果として税負担の累積が生じないという場合もあり得るが,このような場合があるからといって,直ちに仕入税額控除制度の趣旨に事業者の税負担の防止が含まれるということはできない。輸出免税取引について,その取引に対応する仕入税額を控除しないということにすると,当該消費税額分について輸出相手国の消費者に日本の消費税の負担が及ぶこととなるため,そのような負担を求めないという輸出免税制度の趣旨を達成できなくなる。 イ憲法14条1項違反(ア) 原告らは,医療法人等が消費税法により社会保険診療等が非課税取引とされることによって仕入税額控除が認められない立場に置かれ,また,診療報酬が公定価格とされていることによって仕入れの際に取引価格の一部として支払っている仕入税額相当額を自らの意思により転嫁することができず,その結果,原告ら主張の負担を強いられているなどと主張する。 しかし,仕入税額は販売価格の一部を構成するものにすぎず,消費税法が事業者に直接課した法的負担ということもできないし,上記のとおり,仕入税額控除制度はあくまで消費者の公平な税負担の観点から税負担の累積を排除することを目的とした制度であり,事業者の税負担を排除 法が事業者に直接課した法的負担ということもできないし,上記のとおり,仕入税額控除制度はあくまで消費者の公平な税負担の観点から税負担の累積を排除することを目的とした制度であり,事業者の税負担を排除することを目的としたものではない。消費税法が最終的に消費者に転嫁することを予定しているということは,事業者が,現実の経済活動上,販売価格等の設定に当たって,消費税額分を販売価格等に織り込むことによって転嫁していくことが必要になるということを示したものに - 20 -すぎず,事業者に対し,転嫁を法的に保障することまでの意味を有するものではない。 また,このような仕入税額控除制度の趣旨に照らせば,非課税取引に対応する仕入税額については,そもそも税負担の累積を排除する必要がないから,仕入税額控除の対象とならないことは当然である。消費税法はあくまで課税対象である「取引」の性質に着目して制度を構築しているから,消費税法が,非課税取引を多く行っている原告らのような医療法人等と一般の事業者との間に取扱いの区別をしているなどとする原告らの主張は,その前提を欠くものである。 さらに,ある法律に基づく法的効果が憲法に反する結果となっているからこそ,当該法的効果を導く法律の条項が違憲であるとの判断が導かれるものであるから,当該法律の法的効果として生じているわけではない単なる事実上の負担があることをもって,当該法律を違憲とすることはできないところ,仮に医療法人等が原告ら主張の負担を負っているとしても,それは事実上の負担にすぎず,これにより消費税法において違憲の問題が生じることはない。 (イ) 憲法14条1項が定める平等の保障は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の 題が生じることはない。 (イ) 憲法14条1項が定める平等の保障は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら同条に違反するものではない。 そして,昭和60年判決の示すとおり,租税法の定立については,立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないというべきであるから,当該立法の立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明 - 21 -らかでない限り,その合理性を否定することはできず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないと解するのが相当である。 (ウ)a 仕入税額控除制度は,我が国の消費税が取引の各段階で課税されることに鑑み,その納付税額の計算に当たって税負担が累積することを防止する目的から設けられたものであって,このような立法目的は正当である。そして,上記の仕入税額控除制度の趣旨に照らすと,非課税取引に対応する仕入税額については,税負担の累積を考慮する必要がなく,仕入税額控除の根拠を欠くから,社会保険診療等について仕入税額控除ができないことが上記立法目的との関連で著しく不合理でないことは明らかである。 b また,社会保険診療等が非課税取引とされているのは,国民の生命・健康の維持に直接関わるものであることや,医療を必要とする者の社会的弱者としての立場を考慮すべきであることなどの社会政策上の目的によるものであり,このような立法目的が正当であることは明らかである。また,価格への影響という観 であることや,医療を必要とする者の社会的弱者としての立場を考慮すべきであることなどの社会政策上の目的によるものであり,このような立法目的が正当であることは明らかである。また,価格への影響という観点からすれば,非課税取引とした方が診療報酬を抑制することが可能となるから,社会保険診療等を非課税取引とすることは,上記目的を達成するための手段として合理的関連性があることも明らかである。なお,社会保険診療等を非課税取引としたことについては,消費税創設時において社団法人日本医師会からも要望されていたのであり,そのような要望も踏まえて政策判断されたものである。 c この点について,原告らは,社会保険診療等を非課税とすることと仕入税額控除を採用したことについて,別々に憲法適合性の判断をすることは適当ではないなどとした上で,社会保険診療等を非課税とした立法目的と,医療法人等が仕入税額控除をできないことによって原 - 22 -告ら主張の負担を強いられることとの合理的関連性は全くないと主張する。 しかし,上記のとおり,これらは,趣旨目的を異にする別個の制度であり,それぞれの立法目的や法的効果には何ら関連性がないのであるから,これらを関連づけて一つの仕組みと捉えて憲法適合性の判断をすることはできない。また,消費税法は,社会保険診療等を非課税取引とした立法目的を達成するための手段として医療法人等に仕入税額控除を認めないという手段を採用したものではないから,原告らの問題設定自体が誤っているというべきである。 ウ憲法22条1項違反,29条1項違反(ア) 上記のとおり,租税法の定立については,立法府の政策的・技術的な判断に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないというべきであるところ,非課税取引で 1項違反(ア) 上記のとおり,租税法の定立については,立法府の政策的・技術的な判断に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないというべきであるところ,非課税取引である社会保険診療等について仕入税額控除を認めないことは当然である。また,仕入税額控除を認めないことに対する手当はそれを行うか否かを含めて立法政策に委ねられるべき問題である上,診療報酬改定による制度的な手当がされているから,消費税法30条2項の規定が憲法22条1項及び29条1項に違反するとはいえない。 (イ) 仮に事業者が仕入れ段階で事実上負担している仕入税額相当額があるとしても,これは取引価格の一部を構成するものでしかなく,仕入税額そのものではない。原告ら主張の負担とは,消費税法により直接課される法的な負担ではなく,事実上の負担にすぎないから,消費税法30条2項の規定により原告らの職業遂行の自由及び財産権が侵害されているとはいえない。 エ憲法84条違反原告らの主張は,憲法84条にいう「あらたに租税を課し,又は現行の - 23 -租税を変更する」場合について述べるものではないから,同条の規律は及ばない。また,原告らのいう是正のための手当を設けるか否か,設けるとしてどのような内容にするかは立法政策に委ねられている問題であって,消費税法又は憲法84条の規定から,当然に手当を設けることが要求されるわけではない。 (2) 本件立法行為等及び本件改定行為に係る国家賠償請求の当否(争点2)【原告らの主張】ア本件立法行為等について立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不 て立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁。以下「平成17年判決」という。)。しかるに,前記(1)のとおり,本件仕組みは憲法に明白に違反しているから,国家賠償法1条1項の規定の適用上,本件立法行為等は違法と評価されるべきである。そして,原告ら主張の負担に対する国会の議論の経緯に照らすと,本件立法行為等について,公務員たる国会議員に故意過失が認められることは明らかである。 イ本件改定行為等について(ア) 消費税法は,事業者を納税義務者と定めているものの,消費税を納付することによる事業者の負担は消費者に円滑かつ適正に転嫁することが予定されているから,このような転嫁がされていない場合において是正措置をとらないということは,国家賠償法1条1項の規定の適用上, - 24 -違法となる。そして,前記(1)のとおり,医療法人等が仕入税額相当額につき円滑かつ適正な転嫁を行うためには適正な診療報酬改定が必要不可欠であるから,厚生労働大臣は,消費税導入及び引上げの際の診療報酬改定において消費税を円滑かつ適正に転嫁するという趣旨目的に沿った診療報酬改定をすべき法的義務がある。 (イ) 被告は,診療報酬改定は厚生労働大臣の広範な裁量に委ねられているなどと主張する。しかし,診療報酬改定の目的が原告ら主張の負担 するという趣旨目的に沿った診療報酬改定をすべき法的義務がある。 (イ) 被告は,診療報酬改定は厚生労働大臣の広範な裁量に委ねられているなどと主張する。しかし,診療報酬改定の目的が原告ら主張の負担を除去するというところにあることからすれば,この目的を達成していない診療報酬改定は,裁量権の濫用であって違法であるところ,平成元年度及び平成9年度に行われた診療報酬改定では,原告ら主張の負担が全く解消されていない。 (ウ) 平成元年度及び平成9年度の診療報酬改定の際に,実際に診療報酬が上乗せされた項目は別紙3のとおりであるところ,被告が説明するような消費税の影響が大きいと考えられる項目を「代表的」な項目と捉えたとみることはできない。 被告は,消費税による影響があると考えられる項目を全て選び出して消費税分と見込まれるものを上乗せすることとした場合には,上乗せ分が1点に満たない項目が多く生じることになってしまい合理的ではないとして,「代表的」な項目に限定された診療報酬項目に上乗せすることの合理性を強調する。しかし,平成元年度及び平成9年度に上乗せされた具体的項目によれば,このような限定をしたことについて合理性は見い出せない。 (エ) さらに,診療報酬改定の前提となる改定率の算出手法(別紙4)についても不合理な点が多数存在する。 (オ) 被告の主張によれば,基本的には,平成元年度及び平成9年度の上乗せ分が,消費税による影響分として,それ以後もそのまま残っている - 25 -ということを前提として,上記年度以後の診療報酬改定がされているものと考えられる。しかし,仮に上記上乗せ分が平成20年度ないし平成22年度における診療報酬項目に全て残っていると仮定したとしても,別紙5のとおり,原告らが受けることができた上乗せ改定分(上乗せ保険収 と考えられる。しかし,仮に上記上乗せ分が平成20年度ないし平成22年度における診療報酬項目に全て残っていると仮定したとしても,別紙5のとおり,原告らが受けることができた上乗せ改定分(上乗せ保険収入①ないし上乗せ保険収入②の各欄記載の額)は,診療報酬に相応する仕入税額には到底及ぶものではないのであって,消費税による影響分は全く解消されていない。 ウ以上のとおり,仮に本件仕組みが違憲ではなく,本件立法行為等が国家賠償法1条1項の規定の適用上違法と評価されないとしても,平成元年度及び平成9年度の診療報酬改定によって原告ら主張の負担は全く解消されていないのであるから,これを前提とした本件改定行為等は,税制改革法11条1項や健康保険法,消費税法に違反する違法なものである。したがって,本件改定行為等は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法というべきであり,これについて厚生労働大臣には故意過失が認められる。 【被告の主張】ア本件立法行為等について前記のとおり,消費税法は何ら憲法に違反するものではないから,本件立法行為等は違法性を有しない。 イ本件改定行為等について(ア) 診療報酬改定については中医協への諮問と中医協からの答申以外に法令上の規定がないから,診療報酬改定が厚生労働大臣の広範な裁量に委ねられていることは明らかである。実質的にみても,診療報酬改定は,保険者の財政状況,医療法人等の経営状況,国の財政状況等諸般の事情を総合的に考慮して行う必要があり,極めて専門技術的かつ政策的な要素が大きいものである。このような性質を踏まえ,健康保険法は,保険医療行政の円満な運営という見地から診療報酬改定について重大な - 26 -利害関係を有する保険者,事業主,被保険者等の支払者側と医療法人等側の対立する ような性質を踏まえ,健康保険法は,保険医療行政の円満な運営という見地から診療報酬改定について重大な - 26 -利害関係を有する保険者,事業主,被保険者等の支払者側と医療法人等側の対立する利害を調整し,もって関係当事者の権利利益を担保しているものであるから,他の法令により,診療報酬改定に係る厚生労働大臣の広範な裁量が拘束されると解することはできない。 (イ) 診療報酬改定は,慣行により2年に1度行っており,平成においては偶数年に改定を行うところ,平成元年度及び平成9年度においては,消費税法の制定又は改正により,保険医療機関等のコストが増大することが想定されたことから,これに対応するという政策的な理由から,健康保険法の規定に基づき,診療報酬改定を行ったものである。 (ウ) 平成元年度及び平成9年度における診療報酬の改定率は,別紙4のとおりであるが,これは消費税導入や税率引上げが医療法人等に与える影響分について診療報酬の増額改定により予算上確保すべき総額を算定するために算出した数値である。 このように確保した予算上の額を,具体的に個々の診療項目につきどの診療項目の点数にどのように反映させるかは,予算配分の問題である。医薬品等については,保険償還価格(薬価や材料価格等)の再算定の際に当該消費税額分を含めて保険償還価格を決定するという方法で,消費税額分を全て手当てし,医療に係る各種費用と技術料とが混在している診療項目に係る診療報酬の点数については,医薬品等のように直接的に勘案することができないところ,消費税の影響により費用が増加する代表的な項目に集中して診療報酬を引き上げることにより,上記のとおり確保した予算上の額が,保険医療機関等に全体として配分されるように措置をしたものである。 (エ) 以上のとおり,平成元年度及び平成9年 的な項目に集中して診療報酬を引き上げることにより,上記のとおり確保した予算上の額が,保険医療機関等に全体として配分されるように措置をしたものである。 (エ) 以上のとおり,平成元年度及び平成9年度になされた診療報酬改定は適法に行われたものであって,原告らの主張はその前提を欠くものである。本件改定行為等は,予算編成過程を通じて内閣が決定した改定率 - 27 -及び社会保障審議会においてまとめられた診療報酬改定の基本方針等に基づき,中医協の答申を経て,病院等の経費の実態を調査する医療経済実態調査等により消費税額分を含んだ医療法人等の支出を把握し,当該調査を踏まえ,中医協の答申等を経て決定されるものであり,何ら違法な点はない。 (3) 不当利得返還請求の当否(争点3)【原告らの主張】医療法人等は,社会保険診療等に関する薬剤等の仕入取引について仕入額の4パーセントに相応する消費税を仕入先業者に支払い,被告は,医療法人等の仕入先業者から同額の納付を受けて保持している。しかし,この仕入税額は,本来,仕入れをした医療法人等において仕入税額控除の対象となるべきものであるところ,これを認めていない本件仕組みは憲法に違反しているから,被告が医療法人等の仕入先業者から納付を受けた仕入税額は,法律上の原因のない利得となる。 したがって,原告らは,被告に対し,上記仕入税額に相当する額に係る不当利得返還請求権を有するところ,原告らが過去3年間に負担してきた仕入税額相当額は,後記(5)記載のとおりである。 【被告の主張】社会保険診療等に係る仕入税額について,仕入税額控除の対象とならないことが憲法に違反するものでないことは,前記(1)のとおりである。 また,消費税は,課税資産の譲渡等を行う事業者を納税義務者として課さ 等に係る仕入税額について,仕入税額控除の対象とならないことが憲法に違反するものでないことは,前記(1)のとおりである。 また,消費税は,課税資産の譲渡等を行う事業者を納税義務者として課される間接税であり,事業者は取引の相手方である事業者又は消費者が支払う消費税額相当額の金員を売買等の契約という法律上の原因に基づいて取得するものであるから,原告らと被告との間で,原告らが売買契約の相手方に支払った消費税額相当額の金員について不当利得関係が生じるものではない。 (4) 損失補償請求の当否(争点4) - 28 -【原告らの主張】社会保険診療等を非課税取引とすることの目的が患者の負担軽減という社会政策にあるのであれば,その実現は国民全体の負担において行うべきである。消費税法は,原告らを含む医療法人等という特定の集団の負担(特別の犠牲)のもとで上記公益を実現しているのであるから,正当な補償がされない限り違憲であるというべきである。 医療法人等が原告ら主張の負担を強制されてきたことによる損失は,下記(5)記載のとおりである。 【被告の主張】原告らが特別の犠牲とする原告ら主張の負担は,消費税法により直接課される法的な負担ではなく,事実上の負担にすぎないから,消費税法によって原告らの財産権が侵害されているとはいえない。 また,消費税法上,非課税取引に対応する仕入税額が控除できないとされていることにより,原告らに事実上の経済的不利益が生じているとしても,租税は,およそ民主主義国家にあっては国家の維持及び活動に必要な経費であって,これは主権者たる国民が共同の費用として自ら負担すべきものであるところ,租税立法による経済的損失は一般的に当然受忍すべきものとされる制限の範囲を超えることはないというべきである。 (5) 原告ら ,これは主権者たる国民が共同の費用として自ら負担すべきものであるところ,租税立法による経済的損失は一般的に当然受忍すべきものとされる制限の範囲を超えることはないというべきである。 (5) 原告らの損害額又は損失額(争点5)【原告らの主張】原告らが,違法な本件立法行為等ないし本件改定行為等によって被った過去3年間の損害又は損失は,次のとおり,それぞれ1億円を超えているのであって,本件訴訟ではその一部である各1000万円を請求する。 ア原告医療法人A(合計1億0459万6692円)平成20年度:3530万6818円平成21年度:3709万4713円 - 29 -平成22年度:3219万5161円イ原告医療法人B(合計2億8887万3952円)平成20年度:1億1554万4310円平成21年度:8732万1781円平成22年度:8600万7861円ウ原告医療法人C(合計1億0082万1380円)平成20年度:3596万5326円平成21年度:3169万7111円平成22年度:3315万8943円エ原告医療法人D(合計5億0888万5709円)平成20年度:1億3886万0487円平成21年度:1億4817万0196円平成22年度:2億2185万5026円【被告の主張】争う。 第3 当裁判所の判断 1 仕入税額控除の趣旨・目的について(1) 消費税法は,消費に広く薄く負担を求めることを目的とするもので,原則としてすべての財貨・サービスの国内における販売,提供などを課税の対象とし,生産,流通,販売などの全段階において,他の事業者や消費者に財貨やサービスの販売,提供などを行う事業者を納税者としてその売上げに対して課税を行う,いわゆる多段階課税方式を採用し どを課税の対象とし,生産,流通,販売などの全段階において,他の事業者や消費者に財貨やサービスの販売,提供などを行う事業者を納税者としてその売上げに対して課税を行う,いわゆる多段階課税方式を採用している間接税であり,その税負担は,他のコストと共に販売価格に織り込まれることで,最終的には消費者に転嫁されることが予定されているものである(税制改革法11条,乙1,3,11)。 このような多段階課税方式を採用すると,取引の各段階で消費税に対して - 30 -さらに消費税が課されるという税の二重課税(タックス・オン・タックス)が生じる。そのため,たとえば,製造から小売りに至るまでの各段階を一貫して行う事業者は,累積した税負担が少ないために消費者に対する価格設定を低く抑えることが可能になるのに対して,小売りのみを営む事業者は,各取引段階において累積した税負担を消費者に転嫁するために累積税額を加えた価格設定を余儀なくされたり,価格の上昇を抑制するために価格への転嫁をあきらめざるを得なくなり,取引の各段階を一貫して行う事業者とそうでない事業者との間に税負担の相違が生じて事業者間で不公平な状況が生じ得るとともに,ひいては,取引経路の違いによって,最終的に消費者に転嫁される消費税の負担が増大しかねないこととなる。 そこで,このような税負担の累積を防止し,適正な転嫁が行われるようにすることを目的として,前段階の取引において生じた(前段階の取引から転嫁されてきた)税額を控除することとする仕入税額控除制度が設けられたものと解される。仕入税額控除制度により,我が国の消費税は実質的に付加価値税(各取引段階の付加価値を課税標準として課税するもの)としての性格を有することとなり,経済活動に対する中立性を維持することができるのである。 (2)ア上記のとお が国の消費税は実質的に付加価値税(各取引段階の付加価値を課税標準として課税するもの)としての性格を有することとなり,経済活動に対する中立性を維持することができるのである。 (2)ア上記のとおり,仕入税額控除制度は,付加価値税としての消費税の性質上,本質的に必要とされる制度であるところ,仕入税額控除制度の趣旨・目的が,「税負担の累積の防止」にあること,それが少なくとも上述した税の二重課税の防止を意味するものであることは,当事者間に特に争いがないところである。他方で,原告らは,上記「税負担の累積の防止」には,事業者の実質的な消費税負担の防止という意味も含まれている旨主張し,非課税取引に関して仕入税額控除制度が認められないことの不合理性を指摘する。しかし,この主張は採用できない。その理由は,以下のとおりである。 - 31 -イ(ア) 原告らは,上記主張の根拠として,課税取引であってもたまたま無償で譲渡された場合(別紙2図[丁])や輸出免税取引の場合(別紙2図[戊])を例に挙げ,これらの場合については税の二重課税が生じていないにもかかわらず,仕入税額控除が認められ,仕入税額について還付が行われていることを挙げる。すなわち,消費税法は,課税標準額に対する消費税額から仕入税額を控除した場合に不足があるときに当該不足額に相当する消費税分を還付することして(消費税法52条1項,46条1項,45条1項5号),仕入税額控除制度に関して還付の規定を定めているところ,別紙2図[丁],同[戊]の場合は,税の二重課税が生じていないにもかかわらず,還付を受けることによって結果的に事業者が仕入税額相当額の負担を免れているというのである。 (イ) ところで,消費税法は,課税取引の場合には,通常,税の二重課税が生じ得ることに鑑みて課税標準額に対する消 受けることによって結果的に事業者が仕入税額相当額の負担を免れているというのである。 (イ) ところで,消費税法は,課税取引の場合には,通常,税の二重課税が生じ得ることに鑑みて課税標準額に対する消費税額から仕入税額を控除し,不足がある場合には還付するという仕組み(仕入税額控除制度)を採用しているものと解される。そして,消費税法は,転嫁を行うことによって最終的に消費者が消費税額相当分を負担することを予定しているから,事業者が全く負担を転嫁しないで(あるいは全く転嫁できずに)課税取引を行うということは,法制度上,極めて例外的な場面であるといえる(税制改革法11条1項参照)。そうすると,別紙2図[丁]に係る原告らの主張は,課税取引につき税の二重課税を防止するために採用された仕入税額控除の仕組みにおいて,税の二重課税が生じないという極めて例外的な場面に対応する規定が設けられていないことを理由として仕入税額控除制度の趣旨を導こうとするものに等しいというべきであって,採用し難い。 さらに,別紙2図[丁]のような贈与等の取引を,宣伝等として一時的に行うのであればともかくとして,当該取引のみを行う事業者が - 32 -存在するとは到底想定し難く,仮にこのような贈与等の取引に関する仕入税額について控除を認めないとすれば,事業者において,当該仕入税額相当額の負担を当該贈与等以外の取引に係る販売価格に更に転嫁することで,負担を免れようとする事態が容易に想定できる。そうすると,当該贈与等以外の取引に係る販売価格に転嫁された額について消費税が課されることになり,結局,税の二重課税が生じることは避けられないから,贈与等の取引において仕入税額控除を認めるということは税の二重課税の防止に沿うものであるともいうことができるのであって,仕入税額控除制度の趣 なり,結局,税の二重課税が生じることは避けられないから,贈与等の取引において仕入税額控除を認めるということは税の二重課税の防止に沿うものであるともいうことができるのであって,仕入税額控除制度の趣旨として事業者の実質的な消費税負担の防止が含まれているとする原告らの主張を根拠付けるものとはいい難い。 (ウ) また,消費税法は,生産地(輸出国)では課税せず,消費地(輸入国)において課税するという消費地課税主義を採用し,輸入貨物に対しては消費税を課税する一方,輸出免税取引については免税とするとともに売上げに対応する仕入税額の控除を認めており,本来仕入税額控除が認められないはずの非課税取引についても,消費税法7条1項各号に該当するものであってその証明がされたものについては輸出免税取引に該当するものとみなして特に仕入税額控除制度の適用を認める(31条1項)ことで,国内において発生した消費税の負担を完全に除去することとしている。このように,本来であれば販売価格に仕入税額相当額の費用を織り込んで消費者に転嫁することで消費税の負担を免れることが想定されているはずの非課税取引についても特に仕入税額控除を認めていることに照らせば,消費税法は,仮に輸出免税取引とみなされる取引につき仕入税額控除ができず,その結果還付も認められないとすると,事業者において転嫁されてきた仕入税額相当額の負担を免れるために,これを上乗せした価格で資産の譲渡等を行うこと(国外消費者への転嫁) - 33 -が容易に想定され,その結果,実質的に国外の消費者が我が国の消費税の負担を負うという事態が生じかねないということを考慮して,国境税調整の観点から輸出免税取引とみなされる取引について仕入税額控除の適用を認めているものと解される(乙11参照)。 原告らは,輸出免税の制度趣旨 うという事態が生じかねないということを考慮して,国境税調整の観点から輸出免税取引とみなされる取引について仕入税額控除の適用を認めているものと解される(乙11参照)。 原告らは,輸出免税の制度趣旨が消費地課税主義の採用にあることを認めながら,そのためには仕入税額控除(及びその結果としての還付)は不要である旨主張するものであるが,上記のとおり,輸出免税取引とみなされる取引について仕入税額控除を認めないとするならば,消費地課税主義を採用した消費税法の趣旨は没却されてしまうのである。 ウしたがって,原告らが指摘する点は,いずれも,仕入税額控除が事業者に対する消費税の実質的な負担の防止という意味があるとの原告らの主張を積極的に根拠付けるものではなく,ほかに消費税法において事業者の消費税の実質的な負担に着目した規定も認められないから,結局,上記主張は採用し難いというべきである。 なお,原告らは「事業者は,消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ,消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。…」という税制改革法11条1項にも言及する。しかし,後述のとおり,消費税法の規定上,事業者は,仕入税額相当額の負担を,他の事業者や消費者に対して転嫁する権利や義務を有しているとは解されず,実際に転嫁できるか否かは当該事業者の経営状態,市場環境等の影響を受けざるを得ないことに照らせば,上記条項は,転嫁を通じて最終的に消費者が消費税を負担することが予定されているという消費税法の基本的な考え方を宣言したものにとどまるというべきであって,原告らが主張するような事業者に係る消費税の実質的な負担の防止を根拠付ける規定とは解せないものである。 課税取引の事業者は,仕入税額控除によって,仕入れ段階で支払った仕入税額相当額の負担を解消されることとなるが,これ な事業者に係る消費税の実質的な負担の防止を根拠付ける規定とは解せないものである。 課税取引の事業者は,仕入税額控除によって,仕入れ段階で支払った仕入税額相当額の負担を解消されることとなるが,これは,あくまで消費税 - 34 -の適正な転嫁が行われるようにするために,仕入税額控除によって税負担の累積(税の二重課税)を防止した結果にすぎないというべきである。 2 本件仕組みの憲法適合性(憲法14条1項,争点1)以上を踏まえて,本件仕組みの憲法適合性について検討する。 (1) 問題となる取扱いの区別についてア原告らは,医療法人等は課税取引を行う一般の事業者と同じく仕入税額を負担しているにもかかわらず仕入税額控除が認められていないために,仕入税額相当額の負担(原告ら主張の負担)を強いられるという取扱いを受けているとして,このような取扱いの区別が平等原則に違反する旨主張する。 イ(ア) 消費税法の適用において原告らのような医療法人等が置かれている状況について検討するに,証拠(乙4の2,5)及び弁論の全趣旨によれば,消費税法施行当初から,事業者が仕入れ段階で支出した仕入税額相当額の負担を免れる手段としては,仕入税額控除によるか,仕入税額控除が認められていない非課税取引については,自らの販売価格に仕入税額相当額の費用を織り込んで最終消費者に転嫁することで負担を免れるかの2通りの方法が想定されていたことが認められる。しかるに,医療法人等については,そもそも消費税法施行時以前から診療報酬が公定価格とされていたため,社会保険診療等において医療法人等が自由に価格を引き上げることができないという状況にあったところ,このような状況下において,消費税法が社会保険診療等を非課税取引と規定し,また,非課税取引について仕入税額控除を認めていない 療法人等が自由に価格を引き上げることができないという状況にあったところ,このような状況下において,消費税法が社会保険診療等を非課税取引と規定し,また,非課税取引について仕入税額控除を認めていない結果(本件仕組み),医療法人等が仕入税額相当額の負担を免れる方法は,消費税法において用意されていないという状況が生じている。 原告らは,このような状況を踏まえて,原告ら主張の負担は本件仕組みにより生じた法的な負担であって,消費税法がこのような負担を医療 - 35 -法人等にのみ強いているとして,一般の事業者との取扱いの区別を問題にしているものと解される。 (イ) この点について,被告は,消費税法は「事業者」の性質に着目して取扱いの区別をしているわけではなく,課税対象である「取引」の性質に着目して制度を構築しているのであるから,消費税法は,非課税取引を多く行っている医療法人等と一般の事業者との間に取扱いの区別をしているわけではないと主張するところ,確かに,社会保険診療等を非課税取引とし,非課税取引については仕入税額控除の対象としていない消費税法の各規定は,その趣旨等に照らすと,いずれも事業者の性質に着目したものではなく,あくまで取引の性質に着目して異なる取扱いを定めていると解される。しかし,上記のとおり,本件で問題となっている取扱いの区別は,診療報酬を公定価格とする健康保険法等の規定及び本件各規定によって生じていると認められるところ,たとえ事業者一般に平等に適用され得る規定であったとしても,それが適用されることによって生じた区別が合理的な理由のない差別的取扱いとなるときにおいても,憲法14条1項違反となり得ないとするのは相当ではない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 ウ(ア) イ(ア)の状況を踏まえて,消費税 由のない差別的取扱いとなるときにおいても,憲法14条1項違反となり得ないとするのは相当ではない。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 ウ(ア) イ(ア)の状況を踏まえて,消費税法の適用において原告らに生じている取扱いの差異について検討するに,上記のとおり,仕入税額控除制度は,税負担の累積を防止することにより消費税の適正な転嫁を行うための仕組みと解することができ,消費税法は,このような仕入税額控除あるいは価格の引上げを通じて仕入税額相当額の転嫁が図られることを想定しているものということができる。そうすると,医療法人等が置かれている上記の状況は,消費税法上,仕入税額相当額を転嫁するための仕組みとして想定されている仕入税額控除あるいは価格の引上げによる転嫁という方法について,一般の事業者であればいずれかの方法を採る - 36 -ことができるにもかかわらず,公定価格とされる社会保険診療等を主たる業としていることに基づいて,いずれの方法も採ることができないことによるものであるということができる。そうすると,医療法人等は,消費税法上,仕入税額相当額を転嫁する方法について一般の事業者とは異なる取扱いがされているといえ,その点において区別が生じているものと認められる(以下「転嫁方法の区別」という。)。 (イ) この点について,原告らは,消費税法が課税資産の譲渡等の対価の額に105分の5の消費税額(仕入税額)が含まれていることを前提とした規定を置き,同仕入税額を控除することとしていることを挙げ(仕入税額控除),消費税法自身,事業者が仕入れ段階で仕入税額相当額の法的負担をしていることを認めているなどとして,原告ら主張の負担を強制されていることが,一般の事業者との取扱いの区別であるなどと主張する(原告ら主張の区別)。 しか が仕入れ段階で仕入税額相当額の法的負担をしていることを認めているなどとして,原告ら主張の負担を強制されていることが,一般の事業者との取扱いの区別であるなどと主張する(原告ら主張の区別)。 しかし,このように仕入税額相当額の負担(原告ら主張の負担)の有無に着目し,これが原告らを含む医療法人等と一般の事業者との間の取扱いの区別であると理解する原告らの主張は採用できない。その理由は,次のとおりである。 a 原告らは,課税資産の譲渡等の対価の額には105分の5の消費税が含まれていることを前提として当該消費税額(仕入税額)の控除を認めている消費税法の規定(28条1項,30条1項)は,課税仕入れを行った事業者が同取引に係る仕入税額相当額を法的に負担していることを認める規定であるから,本件仕組みによって医療法人等についてのみ仕入税額相当額の負担を転嫁する方法が制限されている結果,一般の事業者との比較において,同負担が法的に強制されていることとなる旨主張するようである。 ところで,仕入れを行った事業者が同取引につき負担する仕入税額 - 37 -相当額が課税資産の譲渡等の対価の額(取引価格)の一部を構成するものにすぎないという点について当事者間に争いはないところ,現実には,市場の状況や両事業者間の力関係その他の事情により,仕入先業者において当該仕入取引に係る消費税額相当額(仕入税額相当額)の負担を取引価格に適切に転嫁できないという事態も当然に想定し得る。しかるに,消費税法28条1項は,課税標準額たる課税資産の譲渡等の対価の額につき,「対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭…」と定めているところ,これによれば,上記のように,実際には仕入先業者が仕入れに係る消費税を取引価格に適切に転嫁できていない場合であっても,当該取引価格には仕入税 収受し,又は収受すべき一切の金銭…」と定めているところ,これによれば,上記のように,実際には仕入先業者が仕入れに係る消費税を取引価格に適切に転嫁できていない場合であっても,当該取引価格には仕入税額が適切に転嫁されているものとして,消費税額の計算をすべきものと解される。以上からすれば,事業者が仕入れ段階で支払う対価から仕入税額を除いた額を課税標準とする消費税法の上記規定(28条1項)は,消費税法の適用によって,事業者に新たに仕入税額相当額の法的負担が生じることを意味するものではなく,同項は,あくまで,事業者が納付すべき消費税額を算定するために,計算上,当該仕入取引に係る仕入税額の全てが取引価格に含められることで他の事業者又は消費者に適正に転嫁されていることを前提とする技術的な規定にすぎないと解するのが相当であって,事業者が仕入れ段階において仕入税額相当額の法的負担をしていることを認める旨の規定とは解し難い。 b 次に,医療法人等が一般の事業者との比較において仕入税額相当額の負担を強制されているか否かという点について検討するに,前記のとおり確かに医療法人等については仕入税額控除が認められておらず,その結果,医療法人等が当該取引に係る仕入税額相当額を負担しているかのような外観が認められるとしても,上記のとおり,市場の状況や両事業者間の力関係その他の事情によっては,実質的に見て, - 38 -当該取引につき医療法人等が負う経済的な負担が,仕入税額控除が認められている一般の事業者のそれと変わらないという事態も十分に想定できる。また,一般の事業者のうち価格の引上げにより仕入税額の転嫁を図る事業者についても,上記同様の理由によって取引価格を引き上げることができず,その結果,自ら仕入税額相当額を負担せざるを得なくなる(仕入税額相当額の 事業者のうち価格の引上げにより仕入税額の転嫁を図る事業者についても,上記同様の理由によって取引価格を引き上げることができず,その結果,自ら仕入税額相当額を負担せざるを得なくなる(仕入税額相当額の負担が滞留する)ことによって,実質的に見て,当該取引につき医療法人等が負う経済的な負担と変わらないという事態も十分に想定できる。 そうすると,本件仕組みが,一般の事業者との比較において,医療法人等に対してのみ仕入税額相当額の負担を法的に強制しているとは認められないというべきである。 エしたがって,本件において問題となり得る原告らに対する取扱いの区別の実態は転嫁方法の区別であって,原告ら主張の区別(仕入税額相当額の負担に関する区別)ではない。以下,転嫁方法の区別を生じさせている本件仕組みが,憲法14条1項に違反するかにつき検討する。 (2) 憲法適合性についてア憲法14条1項の規定は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではない(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 転嫁方法の区別は,診療報酬を公定価格とする健康保険法等の規定が存在する状況下において,本件仕組みが採られたことにより生じたものであり,本件仕組みは本件各規定によって構成されているものである。そして,本件各規定の立法目的は,後記のとおり,それぞれ異なるものであっ - 39 -て,いずれも転嫁方法の区別を生じさせることを直接の目的としたものではないと認められるところ,転嫁方法の区別は,異 ,本件各規定の立法目的は,後記のとおり,それぞれ異なるものであっ - 39 -て,いずれも転嫁方法の区別を生じさせることを直接の目的としたものではないと認められるところ,転嫁方法の区別は,異なる立法目的を有する別個の規定の効果が組み合わさった結果として生じた区別ということができる。 この点について,原告らは,仮に社会保険診療等を非課税取引とした立法目的の正当性が認められるとしても,当該目的を達成するための手段として,本件仕組みを採用することとの間には合理的関連性はないなどとして,これらの規定をあたかも一体のものと捉えて合理性を検討すべきであると主張する。しかし,規定の目的がそれぞれ異なる以上,たとえば,非課税取引に関する規定の目的を達成することとその達成手段として仕入税額控除に関する規定を採用することとの間に合理的な関連性が存在しないことは当然であって,原告らの主張は採用し難い。 そこで,転嫁方法の区別が憲法14条1項に違反する差別的な取扱いであるか否かという点について判断するに当たり,まず,転嫁方法の区別という効果をもたらしている本件各規定について,個別に目的及び手段の観点から合理性を検討することとする。 イ本件各規定について(ア) 租税は,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とするものであるから,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはないところ,後記のとおり,本件各 るものであるから,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断に委ねるほかはないところ,後記のとおり,本件各規定はいずれも課税要件に関わる政策的ないし技術的判断に基づき定められた規定と解される - 40 -から,本件各規定が合理的なものといえるかについて,裁判所は,基本的には立法府の裁量的判断を尊重せざるを得ないというべきである。したがって,本件各規定については,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該規定が目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することはできないものと解するのが相当である(昭和60年判決参照)。 この点について,原告らは,社会保険診療等を免税取引として医療法人等に仕入税額控除を認める立法をするか,それとも,非課税取引として医療法人等に仕入税額控除を認めないという立法をするかということについて,上記のような観点による政策的・技術的理由があるとは認められないなどと主張するものであるが,このように本件各規定を一体のものとして捉える考え方が相当でないことは上記のとおりであるから,原告らの主張は採用できない。 (イ) 社会保険診療等に関する規定(消費税法6条1項,別表第1の6号及び7号)a 原告らは,社会保険診療等を非課税とした立法目的は消費税による負担を診療報酬に上乗せしないことによって社会的弱者であっても必要な診療を受けることができるようにする点にあると理解した上で,診療報酬は,消費税法が施行される以前から公定価格とされており,消費税法が社会保険診療等を非課税取引と規定しても患者の負担について差異は生じ得ないのであるから,上記立法目的の正当性を支える立法事実は存在しないなどとして,社 される以前から公定価格とされており,消費税法が社会保険診療等を非課税取引と規定しても患者の負担について差異は生じ得ないのであるから,上記立法目的の正当性を支える立法事実は存在しないなどとして,社会保険診療等を非課税取引とした消費税法の規定が不合理である旨主張する。 b 消費税法は,消費に対して負担を求めるという消費税としての性格から課税の対象とすることになじまない取引や,社会政策的な配慮から課税することが適当でない取引について,非課税取引として消費税 - 41 -を課税しないこととしているものであるところ,社会保険診療等は後者の類型に当たると解される。これに加え,日本医師会において,社会保険診療等が国民の生命と生活に関わるものであることを理由に社会保険診療等を非課税取引とすることを積極的に要求していたという事情(乙10)に照らせば,社会保険診療等を非課税取引とする規定が設けられた立法目的は,専ら社会保険診療等に係る患者の費用負担の抑制を図る点にあると解される。 そして,原告らが指摘するとおり,消費税法施行時において診療報酬を公定価格とする健康保険法等の規定が既に存在していたため,消費税法の導入によって,直ちに診療報酬が増額して社会保険診療等に係る国民の負担が増大するという関係になかったとしても,仮に社会保険診療等が課税取引であるとすると,医療法人等は仕入税額控除後の消費税額相当分について納税が必要となるところ(仕入れに係る消費税額よりも売上げに係る消費税額の方が高額であるのが通常の取引であると考えられる。),非課税取引とした場合には当該納税分を考慮する必要がなくなるのであるから,その分だけ診療報酬価格を引き下げることが可能となる。このように社会保険診療等を非課税取引とした場合には,課税取引の場合に比べて診療報酬を低額に には当該納税分を考慮する必要がなくなるのであるから,その分だけ診療報酬価格を引き下げることが可能となる。このように社会保険診療等を非課税取引とした場合には,課税取引の場合に比べて診療報酬を低額に抑制することが可能となるのであるから,上記立法目的の正当性が認められ,社会保険診療等を非課税取引とする消費税法の規定が,社会保険診療等に係る患者の費用負担の抑制という上記立法目的を達成するための手段として著しく不合理なものであることが明らかであるとはいえない。 c したがって,社会保険診療等を非課税取引とする消費税法の規定は合理性を有するものと認められる。 (ウ) 仕入税額控除制度(消費税法30条) - 42 -a 前記のとおり,消費税法は,我が国の消費税が取引の各段階で課税(多段階課税)されることによって生じる税負担の累積を排除・防止することを趣旨として,仕入税額控除の規定(30条1項)を定めたものと解され,上記の趣旨に基づき,消費税法は,仕入税額の全額を控除するのではなくて,課税取引に対応する仕入税額についてのみ控除の対象とすることとしたものであるが,例外的に,課税期間における課税売上割合が95パーセント以上の事業者については,事務処理を簡易なものとする見地から仕入税額の全額を控除できるとしているものと解される(同条2項)。したがって,上記各規定は,いずれも課税要件に関わる専門技術的な判断ないし政策的な判断に基づき定められた規定であるといえる。 b 上記各規定の立法目的は,いずれも合理的であって正当というべきであるところ,仕入税額控除制度の趣旨に照らすと,非課税取引に対応する仕入税額については税負担の累積を考慮する必要がなく,仕入税額控除を行う根拠を欠くことになるから,社会保険診療等の非課税取引については仕入 ろ,仕入税額控除制度の趣旨に照らすと,非課税取引に対応する仕入税額については税負担の累積を考慮する必要がなく,仕入税額控除を行う根拠を欠くことになるから,社会保険診療等の非課税取引については仕入税額控除をできないとされていることが,上記立法目的との関連で著しく不合理なものであることが明らかであるとはいえない。 c したがって,仕入税額控除制度に関する消費税法の規定はいずれも合理性を有するものと認められる。 ウ転嫁方法の区別について(ア) 上記のとおり,本件各規定はいずれも合理性を有するものと認められる。もっとも,転嫁方法の区別は本件各規定の効果が組み合わさった結果として生じているものであるところ,個々の規定自体は合理的であるとしても,結果として不合理な差別的取扱いが生じているような場合には,その原因となった仕組み全体について平等原則違反の - 43 -問題が生じ得るというべきである。そこで,本件仕組みによって転嫁方法の区別を生じさせていること,また,この仕組みを変更していないことが,立法裁量として許容されるものであるか否かについて検討する。 (イ) この点について,前記のとおり,消費税法は仕入税額相当額の転嫁をする権利又は義務に係る規定を置いていないし,事業者が仕入税額相当額の負担が生じた場合にこれを解消する権利を有していることをうかがわせる規定も見当たらないから,原告らが仕入税額相当額の負担の転嫁(解消)に関する権利を有しているとは認め難く,したがって,転嫁方法の区別によって,原告らが上記権利を制限されているとはいえない。 また,転嫁方法の区別は,本件仕組みによって,仕入税額相当額の負担を転嫁する方法として消費税法が想定する仕入税額控除又は価格の引上げという方法を,医療法人等だけが採ることができないという ない。 また,転嫁方法の区別は,本件仕組みによって,仕入税額相当額の負担を転嫁する方法として消費税法が想定する仕入税額控除又は価格の引上げという方法を,医療法人等だけが採ることができないという点において,医療法人等につき異なる取扱いをするものであるが,証拠(乙4の1・2,5)によれば,消費税法の制定当初から,消費税の導入による医療法人等の仕入れ価格の上昇に対する手当としては,健康保険法等における診療報酬の適切な改定によって対応することとされていたことが認められるのであるから,消費税法が想定する仕入税額相当額の負担を転嫁する方法に代替する手段は,法制度上,確保されているものと評価できる。 (ウ) 以上によれば,転嫁方法の区別は医療法人等に対する仕入税額相当額の負担の転嫁等に関する権利の制限を伴うものではなく,法制度上,当該区別を解消するための代替手段も確保されていることが認められるのであるから,これが立法裁量として許容することができないほどの不合理な差別的取扱いに当たるとは解せないというべきであ - 44 -る。 したがって,転嫁方法の区別が憲法14条1項に違反するとはいえないというべきである。 エなお,原告らは診療報酬改定によっては原告ら主張の負担が解消されないなどと主張するものであるが,前記のとおり,医療法人等と一般の事業者との取扱いの区別は,仕入税額相当額の負担の有無ではなく転嫁方法の区別であると認められるところ,転嫁方法の区別に係る代替手段としては,法制度上,診療報酬改定が想定されているのであるから,少なくとも,これがその仕組みにおいて代替手段として機能し得るものである限りにおいては,本件仕組み自体が憲法14条1項に違反するとはいえないというべきである。 原告らは,仕入税額控除の例外を定めた消費税法30条2 がその仕組みにおいて代替手段として機能し得るものである限りにおいては,本件仕組み自体が憲法14条1項に違反するとはいえないというべきである。 原告らは,仕入税額控除の例外を定めた消費税法30条2項を医療法人等には適用しないこととする条項を設け,又は,診療報酬に関する取引を非課税取引とせずに,同法7条1項所定の免税取引とすることで,原告ら主張の負担を容易に避けることができたなどとも主張するが,このような制度の優劣に関する問題は専ら立法府において判断すべき事項であるから,上記主張は採用できない。 (3) まとめよって,本件仕組みは,憲法14条1項に違反するものではない。 3 本件仕組みの憲法適合性(憲法22条1項,29条1項。争点1)原告らは,本件仕組みによって原告ら主張の負担を強制されているとして,このような仕組みは憲法22条1項又は29条1項に違反するものであるなどと主張する。 しかし,本件仕組みが医療法人等に対して仕入税額相当額の負担を法的に強制するものではないことや,本件仕組みを構成する本件各規定がいずれも合理性を有することは,前記のとおりであり,他に本件仕組みが憲法14条1項に - 45 -違反するものではなくても,憲法22条1項又は29条1項に違反すると認めるに足りる主張立証はない。 したがって,本件仕組みは,憲法22条1項及び29条1項のいずれにも違反するものではない。 4 本件仕組みの憲法適合性(憲法84条。争点1)(1) 原告らは,医療法人等が仕入先業者に支払う仕入税額相当額は,消費税そのものではないものの消費税法の規定によって生じている法的な負担であって,消費税法自身,事業者が仕入段階で仕入税額相当額の法的負担をしていることを認めていることに照らすと,税負担の公平という観点からは消費税に準じて の消費税法の規定によって生じている法的な負担であって,消費税法自身,事業者が仕入段階で仕入税額相当額の法的負担をしていることを認めていることに照らすと,税負担の公平という観点からは消費税に準じて扱われるべきものであるとした上で,租税法律主義(憲法84条)はその内容として課税要件法定主義を定めており,税の減免等の問題も,税負担の公平の観点から法律で決めなければならないのであるから,原告ら主張の負担を解消するための措置は,消費税法自体又は少なくとも他の法律によってなされなければならず,これを行政処分に委ねることは許されないなどと主張する。 しかし,上記のとおり,原告らが仕入先業者に支払う仕入税額相当額が,本件仕組みによって生じている法的な負担であるとは認められないから,上記主張はその前提を欠くものというべきであり,採用できない。そして,他に上記仕組みが憲法84条に違反していると認めるに足りる主張立証はない。また,原告ら主張の負担を解消するための措置を設けるか,設けるとしていかなる法形式,内容によるかは,立法政策に委ねられている問題であって,憲法84条から消費税法ないし他の法律にそのような措置を設けるべきことが当然に要求されているとはいえない。 (2) したがって,本件仕組みは,憲法84条に違反するものではない。 5 本件立法行為等及び本件改定行為等に係る国家賠償請求の当否(争点2)(1) 本件立法行為等に係る国家賠償法上の違法性 - 46 -原告らの主張によれば,本件立法行為等が国家賠償法1条1項の適用上違法であるというためには,本件仕組みを定めた本件立法行為等が違憲であることが前提となるところ(平成17年判決参照),前記(第3の2ないし4)のとおり,本件仕組みは,原告らが主張する憲法の各条項に違反するものとは認 めには,本件仕組みを定めた本件立法行為等が違憲であることが前提となるところ(平成17年判決参照),前記(第3の2ないし4)のとおり,本件仕組みは,原告らが主張する憲法の各条項に違反するものとは認められないのであるから,本件立法行為等は,いずれも国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法と評価できない。 (2) 本件改定行為等に係る国家賠償法上の違法性ア(ア) 原告らは,消費税を納付することによる事業者の負担が消費者に円滑かつ適正に転嫁されていない場合において,これを是正する措置をとらないことは国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるとした上で,厚生労働大臣は消費税導入及び税率引上げに際し,消費税を円滑かつ適正に転嫁するという税制改革法11条1項の趣旨目的に沿う告示(厚生労働省告示)を行うべき法的義務があるなどとして,平成元年度及び平成9年度に行われた診療報酬改定によって原告ら主張の負担は全く解消されていないから,これを前提とした本件改定行為等は違法である旨主張する。 (イ) 健康保険法は,厚生労働大臣が定めるところにより診療報酬の額を算定するものと定めているところ(76条2項),当該算定方法を具体的に定めるに当たっては,厚生労働大臣が中医協に諮問を行うことと定められている(82条1項)ほかに規定は設けられていない。また,税制改革法や消費税法は,健康保険法等に優位する規範ではないから,診療報酬価格の改定に係る厚生労働大臣の裁量権の行使について制約を加えるものとは,直ちには解されない。そして,厚生労働大臣は,後記のとおり,診療報酬改定に際し,医療機関側の委員を始めとする診療報酬の内容に利害関係を有する各委員によって構成される中医協に対する諮問等の所定の手続を経た上で,保険者の財政状況,医療機関の経営状 - 47 -況 定に際し,医療機関側の委員を始めとする診療報酬の内容に利害関係を有する各委員によって構成される中医協に対する諮問等の所定の手続を経た上で,保険者の財政状況,医療機関の経営状 - 47 -況,国の財政状況等諸般の事情を総合考慮して健康保険法等において診療報酬が公定価格と定められた趣旨に沿って,具体的な診療報酬の額を決定することが求められており,診療報酬の改定は,極めて専門的技術的であり,かつ政策的な要素が大きいことは明らかである。したがって,原告ら主張の負担,すなわち個別の仕入税額分が診療報酬に機械的に上乗せされていないことをもって,本件改定行為等が違法であると直ちに評価することはできない。 もっとも,前記のとおり,消費税法の施行により医療法人等と一般の事業者との間に転嫁方法の区別が生じており,転嫁方法の区別に対しては,消費税法施行当初から,代替手段として厚生労働大臣による診療報酬改定が想定されていたことに照らせば,厚生労働大臣が本件改定行為等に係る裁量権の行使に当たり,これを全く考慮しないということは,医療法人等の仕入税額相当額の負担に関する制度の整合性を損なうものであって許されないというべきである。 そこで,厚生労働大臣は,診療報酬改定に際し,個別の医療法人等に係る原告ら主張の負担を解消すべき義務を負うとまでは解されないものの,医療法人等の仕入税額相当額の負担に関する制度の整合性の見地に照らし,上記改定が転嫁方法の区別を解消するための代替手段として想定されていることに鑑みて,医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負うものと解するのが相当であり,このような配慮が適切に行われていない場合には,当該診療報酬改定は,裁量権を逸脱又は濫用するものと評価することができる。 点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負うものと解するのが相当であり,このような配慮が適切に行われていない場合には,当該診療報酬改定は,裁量権を逸脱又は濫用するものと評価することができる。 イ証拠(乙4の2,5,10,12,13ないし16の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば,平成元年度,同9年度,同21年度及び同22年度に行われた診療報酬改定につき,次の事実が認められる。 - 48 -(ア) 診療報酬改定について診療報酬を改定する場合,まず,内閣において,予算編成過程を通じて,予算上確保すべき総額を算定するための数値である「改定率」が決定され,次に,厚生労働大臣から診療報酬改定について諮問を受けた中医協が,社会保障審議会医療保険部会及び医療部会において策定された基本方針に基づき,当該改定率に基づき算定した予算上の額を原資として,具体的な診療報酬点数の設定や算定条件等について審議して,その結果を厚生労働大臣に答申し,当該答申を受けた厚生労働大臣が診療報酬の算定方法を厚生労働省告示として定め,同告示に基づき診療報酬の額が決定されることとなる。(乙12,弁論の全趣旨)(イ) 平成元年度及び平成9年度の診療報酬改定診療報酬改定は,慣行として2年に1度行われているところ,平成においては偶数年に改定が行われることとされていたが,消費税の導入及び税率の増加によって保険医療機関等における仕入れ価格の上昇分を勘案して,平成元年度及び平成9年度にも診療報酬改定が行われた。(乙4の2,5,10,14の1・2,弁論の全趣旨)平成元年度及び平成9年度における診療報酬の改定率を定めるに当たり,当時の各内閣は,昭和62年と平成7年の課税費用割合(消費税が課税されると考えられる項目(医薬品や食事材料等)の費用の占 趣旨)平成元年度及び平成9年度における診療報酬の改定率を定めるに当たり,当時の各内閣は,昭和62年と平成7年の課税費用割合(消費税が課税されると考えられる項目(医薬品や食事材料等)の費用の占める割合)及び上記各年に行われた医療経済実態調査のデータに基づき,平成元年と平成9年の課税費用割合につき,別紙6のとおり推計し,ここから,別紙4のとおり,平成元年度については,薬価基準分及び診療報酬分を基に予算ベース(4月から翌年の2月までの11か月間の診療分を対象とした数値。以下同じ。)0.76パーセント(満年度0.84パーセント),平成9年度については,薬価基準分,特定保険医療材料分及び診療報酬分を基に予算ベース0.71パ - 49 -ーセント(満年度0.77パーセント)として改定率を算定した。なお,平成元年度以降も,診療報酬改定においては,医療経済実態調査に基づき消費税分を含めた費用の動向を把握し,これを踏まえた上で改定率が決定されている。(乙10,13の1・2,弁論の全趣旨)厚生労働大臣は,中医協への諮問及び答申を経て,平成元年度及び平成9年度に,それぞれ別紙3のとおり,診療報酬改定を行った。これらの診療報酬改定は,診療報酬のうち消費税による影響が明らかであると考えられる項目を全て列挙し,そこから代表的である項目を選び出して点数を加算しているものではなく,診療報酬のうち,たとえば「物」代が含まれているため消費税の影響が大きいと考えられる項目を代表的な項目と捉え,その点数について改定を行ったものであり,技術の要素が大きく消費税による影響が大きいとはいえないような項目については,改定が行われていない。(乙4の2,5,10,14の1・2,弁論の全趣旨)(ウ) 平成20年度及び同22年度の診療報酬改定厚生労働大 よる影響が大きいとはいえないような項目については,改定が行われていない。(乙4の2,5,10,14の1・2,弁論の全趣旨)(ウ) 平成20年度及び同22年度の診療報酬改定厚生労働大臣は,平成20年度及び平成22年度についても,決定された改定率を踏まえ,中医協に対して諮問を行い,その答申を受けて診療報酬改定を行ったものであるが,平成元年度及び平成9年度とは異なり,個別の項目について消費税の負担を考慮して診療報酬改定を行うということはしていない。(乙15及び16の各1・2,弁論の全趣旨)ウ(ア) 上記認定事実によれば,消費税法が施行された平成元年度及び税率引上げの改正がされた平成9年度は,それによって医療法人等が支出する費用(仕入税額相当額)の上昇が見込まれることを考慮して,当該費用上昇分に対応する診療報酬改定が行われていること,同診療報酬改定に当たっては,診療報酬のうち消費税による影響が大きいと考えられる項目を選別して点数を改定していることが認められるところ, - 50 -これらの事実によれば,厚生労働大臣は,平成元年度及び平成9年度の診療報酬改定に際して,診療報酬改定が転嫁方法の区別を解消するための代替手段であることに鑑みて,医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁が図られるように配慮していたものとみることができる。 (イ) 上記認定事実によれば,平成20年度及び平成22年度になされた診療報酬改定については,個別の項目に着目した改定こそなされていないものの,内閣において医療経済実態調査に基づき消費税分を含めた費用の動向を把握した上で決定した改定率を前提として,中医協の答申を通じて行われたものと認められ,また,中医協の委員は,健康保険等の保険者及び被保険者等を代表する委員7名(社会保険医療協議 含めた費用の動向を把握した上で決定した改定率を前提として,中医協の答申を通じて行われたものと認められ,また,中医協の委員は,健康保険等の保険者及び被保険者等を代表する委員7名(社会保険医療協議会法2条1号),医師等を代表する委員7名(同項2号)及び公益を代表する委員7名(同項3号)の合計20名で構成されており,厚生労働大臣は,上記2号の委員を任命するに当たっては,地域医療の担い手の立場を適切に代表し得ると認められる者の意見に配慮するものとされている(同条3項)ところ,このような委員によって構成される中医協における審議に当たっては,消費税が医療法人等に与える影響についても議論されていることが推認される。 以上の点に照らすと,厚生労働大臣は,平成20年度及び平成22年度のいずれの診療報酬改定(本件改定行為等)においても,医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁について一定程度の配慮をしていたものと認めるのが相当である。 (ウ) 以上によれば,本件改定行為等は,医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定を行っているものというべきであり,裁量権を逸脱又は濫用するものではないということができる。 - 51 -エ原告らは,診療報酬改定の目的は個々の病院等が負う原告らの負担を解消するというところにあるとして,当該目的を達成していないことは明らかであるなどと主張するほか,改定率の不合理性についても主張する。 しかし,前記のとおり,厚生労働大臣には,診療報酬改定において個々の医療法人等が実際に負担する仕入税額相当額の負担を解消する義務があるとは解されないし,上記認定事実のとおり,改定率は内閣において決定されるものであって,厚生労働大臣の診療報酬改定は,当該改定率の枠内で行われるものであ 担する仕入税額相当額の負担を解消する義務があるとは解されないし,上記認定事実のとおり,改定率は内閣において決定されるものであって,厚生労働大臣の診療報酬改定は,当該改定率の枠内で行われるものであると認められる上,改定率により確保された予算の制約があることに照らせば,仮に個々の医療法人等の負担が解消されていなくても,また,改定率が個々の医療法人等にとって不合理であったとしても,本件改定行為等が違法になると断定することはできないというべきである。上記主張は採用できない。 オしたがって,本件改定行為等は,いずれも国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法とは評価できない。 (3) まとめよって,本件立法行為等及び本件改定行為等は,いずれも国家賠償法1条1項の規定の適用上違法とは評価できないものであるから,これらに係る原告らの国家賠償請求は認められない。 6 不当利得返還請求の当否(争点3)(1) 原告らは,医療法人等が社会保険診療等に関する仕入取引について仕入額の4%に相応する消費税を仕入先業者に支払い,被告が同額について仕入先業者から納付を受けて保持しているところ,上記消費税相当額は,本来,仕入れをした医療法人等において仕入税額控除の対象となるべきであるにもかかわらず,これを認めていない消費税法は憲法に違反しているとして,被告が医療法人等の仕入先業者から納付を受けた仕入税額相当額が法律上の原因のない利得になるなどと主張する。 - 52 -しかし,前記(第3の2ないし4)のとおり,消費税法が,医療法人等に対して仕入税額控除を認めていない(その結果,還付も認めていない。)ことは,憲法に違反するものでないから,上記主張はその前提を欠くものである。 (2) したがって,原告らの不当利得返還請求は認められない。 7 損失 認めていない(その結果,還付も認めていない。)ことは,憲法に違反するものでないから,上記主張はその前提を欠くものである。 (2) したがって,原告らの不当利得返還請求は認められない。 7 損失補償請求の当否(争点4)(1) 原告らは,被告が患者の負担軽減という公益を実現しようとするのであれば,それは国民全体の負担において行うべきであり,これを医療法人等という特定の集団の負担(特別の犠牲)の下で行う以上,正当な補償をすべきである旨主張する。 (2) 前記のとおり,消費税法は,医療法人等と一般の事業者について,仕入税額相当額の法的負担の有無という点で異なる取扱いをするものではないし,本件仕組みが原告らの財産権を侵害しているとも認められないものである。 また,原告らの主張する負担は,広く一般に適用される消費税法の仕組み自体に起因するものであるし,仕入税額相当額の負担が事業者において滞留するという事態は,前記のとおり,一般の事業者にも同様に生じうるものである。さらに,実際上,原告らが,仕入先業者から仕入税額相当額を転嫁されているのか否か,また,転嫁が行われているとしてどの程度を負担しているのか,そのうち診療報酬改定によってどの程度解消されているのかという点は,本件全証拠に照らしても明確ではない上,仕入税額控除の対象とならない仕入税額については,法人税法において,損金に算入することが認められている(法人税法施行令139条の4参照)。 このような事情に照らせば,原告ら主張の負担が存在するとしても,一般的に当然受忍すべきものとされる制限の範囲を超えているということはできず,これをもって直ちに原告らが特別の犠牲を負うものとは認め難いという - 53 -べきである。 (3) したがって,原告らの損失補償請求は認められない。 第4 を超えているということはできず,これをもって直ちに原告らが特別の犠牲を負うものとは認め難いというべきである。 (3) したがって,原告らの損失補償請求は認められない。 第4 結論 よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官栂村明剛 裁判官福島かなえ 裁判官小西俊輔
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