平成20年1月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第12366号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年11月1日判決主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告に対し,各自5億8628万5586円及び内金5億3107万7806円に対する平成12年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告学校法人a(以下「被告法人」という。)が開設するb大学医学部附属病院(以下「被告病院」という。)において,増殖性糖尿病網膜症等により眼の手術を受けた原告が,①左眼手術中,インフュージョンカニューラを硝子体部分まで挿入させなかった手技ミスによって左眼が失明状態となり,②右眼手術にあたり,分割照射を行わず,一度に大量の過剰照射を行ったことによって右眼が高度視野狭窄に陥ったと主張して,上記手術を担当した被告病院の医師である被告c(以下「被告c医師」という。)及び被告d(以下「被告d医師」という。)に対しては不法行為責任(民法709条)に基づき,被告法人に対しては不法行為責任(民法715条)又は医療契約上の債務不履行責任(民法415条)に基づき,それぞれ損害賠償金の支払を求めた事案である。 前提事実(争いのない事実並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨 より容易に認められる事実,証拠を掲記しない事実については争いがない。)(1)当事者等ア原告は,昭和20年○月○○日生まれの男性である(甲A11)。 イ被告法人は,被告病院を開設する学校法人であり,被告c医師及び被告d医師は,平成12年から平成15年ころ,被告病院に勤務する医師であった。 (2)診療の経過ア原告は,平成12年 A11)。 イ被告法人は,被告病院を開設する学校法人であり,被告c医師及び被告d医師は,平成12年から平成15年ころ,被告病院に勤務する医師であった。 (2)診療の経過ア原告は,平成12年5月23日(以下月日のみを示す場合には,平成12年を指す。),被告病院眼科外来を受診し,このとき,被告法人との間で診療契約を締結した。原告は,同日の診断で,両眼増殖性糖尿病網膜症,右牽引性網膜剥離,左硝子体出血と診断された。なお,このときの原告の視力は,右眼が0.3,左眼が0.4であった(甲A1の2)。 イ原告は,6月7日,被告病院第3内科に,検査入院し,同月21日,被告病院眼科に転床した。 ウ原告は,6月22日,右眼につき硝子体手術・白内障手術(以下「本件右眼手術」という。)を受けた(甲A1の2・107頁,111頁,114頁)。 同手術の内容は次のとおりであり,午前9時28分に開始し,午後0時07分に終了した。 (ア)水晶体乳化吸引(イ)硝子体切除術(ウ)膜剥離(エ)粘弾性物質分層(オ)眼内光凝固(2099発照射)(カ)液・空気置換(キ)眼内レンズ挿入 (ク)20%6フッ化硫黄(SF)タンポナーデ その後,原告は,7月2日に被告病院を退院したが,その際の所見では,右眼視力0.2,網膜剥離(-),右眼圧16mmHgであった。 エ原告は,8月30日,左眼の手術のため,被告病院眼科に入院した。入院時の左眼の診断は,左眼増殖性糖尿病網膜症であり,左眼の視力(裸眼)は0.2(矯正視力は0.5),左眼圧は13mmHgで,硝子体出血が見られた(甲A1の2・170頁)。 オ原告は,8月31日,左眼につき硝子体手術・白内障手術(以下「本件左眼第1回手術」という。)を受けた。 同手術の内容は,次のとおりであった。また,術中及び 血が見られた(甲A1の2・170頁)。 オ原告は,8月31日,左眼につき硝子体手術・白内障手術(以下「本件左眼第1回手術」という。)を受けた。 同手術の内容は,次のとおりであった。また,術中及び術後の眼底図に関する記録については,別紙「眼底図」(略)のとおりの記載がある(甲A1の2・176,177頁。以下左の図を「術前眼底図」と,右の図を「術後眼底図」という。)。 (ア)水晶体乳化吸引(イ)硝子体切除術なお,被告病院の医師らは,本件において,3ポートシステム(硝子体に灌流水を流入させるポート,硝子体を切除吸引するためのカッター及びバキュームのポート,硝子体内を照らすライト用のポートが別になったもの)を使用した経毛様体扁平部硝子体切除術を施行した。 (ウ)粘弾性物質分層(エ)眼内レンズ挿入(オ)液・空気置換(カ)眼内光凝固(2度施術,午前11時42分及び午後2時00分)なお,光凝固を行った際に,術後眼底図のABCの部分の瘢痕については確認が困難であった。 (キ)ガスタンポナーデ カ原告は,9月13日に退院し,同月19日の外来を受診した。その際,本件左眼第1回手術の前にはなかった裂孔原性網膜剥離及び硝子体ゲルの収縮が認められたため,速やかに入院する必要があると判断され,翌20日,被告病院眼科に入院した。 キ原告は,9月21日,左眼につき,硝子体切除術,眼内光凝固,膜剥離,胞状網膜剥離及び14%CFタンポナーデの手術(以下「本件左眼第2 回手術」という。)を受けた。 原告の9月26日の左眼の状態は,視力が15cm手動弁で眼圧が12mmHgであり,翌27日退院した。 ク原告の左眼の状態は,平成13年1月5日の時点では,眼圧が2mmHgであり,硝子体出血があり,眼底はよく見えない状態で,網膜剥離は,はっきり 動弁で眼圧が12mmHgであり,翌27日退院した。 ク原告の左眼の状態は,平成13年1月5日の時点では,眼圧が2mmHgであり,硝子体出血があり,眼底はよく見えない状態で,網膜剥離は,はっきりしないというものであった。 ケ原告は,平成13年1月24日,手術のため被告病院眼科に入院した。 入院時の診断は,増殖糖尿病性網膜症,硝子体出血で,視力が5cm手動弁,眼圧が3mmHg,前房出血及び硝子体出血のため,眼底の透見ができない状態であった。 コ原告は,平成13年1月25日,左眼の硝子体手術(以下「本件左眼第3回手術」という。)を受けた。 本件左眼第3回手術の内容は次のとおりである。 (ア)前房洗浄(イ)硝子体切除(ウ)眼内ジアテルミー(エ)網膜冷凍凝固(オ)膜剥離(カ)輪状締結術(キ)空気置換 (ク)空気タンポナーデ(ケ)レーザー(114発)(コ)原告の左眼の平成13年1月27日における所見では,眼圧が3ないし4mmHg,網膜剥離及び出血は(-)とされ,同月31日,退院となった。 サ原告は,平成13年2月8日,被告病院眼科の外来を受診し,被告c医師の診察を受けたところ,眼圧が4ないし5mmHg,硝子体出血のため透見ができず,出血源は不明とされた。 シその後,原告は,平成15年2月まで被告病院に通院し,同年8月,h病院に転院した。 ス被告病院におけるその他の診療経過については,別紙診療経過一覧表の(略)とおりである(当事者間に争いのある部分を除く。)。 (3)原告の現在の状況原告の右眼は,光凝固療法による広範囲の瘢痕が存し,進行性の高度求心性視野狭窄が残存している。また,原告の左眼は,光覚がなく,角膜混濁と低眼圧(眼球ろう)の状態である。 原告は,平成17年4月8日,l眼科クリニックで,身体障害 る広範囲の瘢痕が存し,進行性の高度求心性視野狭窄が残存している。また,原告の左眼は,光覚がなく,角膜混濁と低眼圧(眼球ろう)の状態である。 原告は,平成17年4月8日,l眼科クリニックで,身体障害者福祉法3級に相当する障害と診断され,同月26日,視力障害6級,視野狭窄3級の障害により身体障害者手帳の交付を受けた(甲A3,甲C1)。 (4)なお,医学用語の意味については,別紙「医学用語一覧表」(略)記載のとおりである(弁論の全趣旨)。 争点 (1)争点1(左眼第1回手術における注意義務違反)(原告の主張)ア注意義務違反(本件左眼第1回手術における灌流水途絶等による脈絡膜 剥離及び眼圧低下の発生)(ア)硝子体切除術を行う場合には,カニューレの尖通不足により灌流水が硝子体部分にまで到達せず,灌流水が途絶して脈絡膜下に流入することにより,術中低眼圧を来し,また,脈絡膜下剥離による駆逐性出血又はそれに準ずる多量の出血(以下「駆逐性出血」という。)が生じることがあることから,硝子体切除術を行う医師は,術中に,灌流水の硝子体腔への流入を途絶させてはならない義務がある。 (イ)ところが,被告c医師及び被告d医師は,8月31日の本件左眼第1回手術において,硝子体カッターにより吸引を行うに際し,インフュージョンカニューラ(硝子体腔内への灌流水注入用に挿入するカニューレ)を硝子体部分まで挿入させなかったことにより,灌流水を硝子体腔まで流入させず,脈絡膜下又は網膜下に灌流液を注入させた。 (ウ)上記手技上の注意義務違反により,原告の左眼球内の眼圧が低下するとともに,脈絡膜出血,脈絡膜剥離,駆逐性出血が生じたものである。 イ本件左眼第1回手術中に駆逐性出血が生じたことは,次の各事実から判明する。 (ア)本件左眼第1回手術中の被告c医師と が低下するとともに,脈絡膜出血,脈絡膜剥離,駆逐性出血が生じたものである。 イ本件左眼第1回手術中に駆逐性出血が生じたことは,次の各事実から判明する。 (ア)本件左眼第1回手術中の被告c医師と被告d医師の会話本件左眼第1回手術開始早々,被告c医師が,被告d医師に対し,「水がきていないんじゃないか?」と尋ね,その後「来ていないじゃないか」と激怒したことがあり,同時に原告は,左眼に非常な痛みを感じた。このような会話が交わされたのは,インフュージョンカニューラの尖通刺不足による灌流水の途絶があったからと考えられる。 (イ)術後眼底図の記載本件左眼第1回手術の術後眼底図には,多くの裂孔が記載されているが,いずれも本件左眼第1回手術中の4時間以内に発生したものであり, これだけ多くの裂孔が生じたのは,本件左眼第1回手術中に駆逐性出血が発生したことから,被告c医師がリカバリー手技として,網膜下の血液や網膜下液の排除を行うために開けたからである(いわゆる意図的裂孔)と考えられる。 この点被告らは,裂孔の一部は菲薄化した網膜であると主張するが,術後眼底図の描画記号によれば,網膜裂孔であって網膜色素上皮が露出していることを表す記号となっているのであって,網膜が菲薄化した部分ではない。 (ウ)液体パーフルオロカーボン,CFガスの使用及び三方活栓の不使 用被告病院の医師らは,本件左眼第1回手術中,上記(ア)のリカバリー手技において,網膜下にたまった血液を排除するために,血液の排出の用途で用いられる液体パーフルオロカーボン(PFCL)を使用し,さらに,ガスタンポナーデを施行しているが,これらは駆逐性出血に対処したものである。 (エ)網膜下の襞の存在本件左眼第1回手術においては,網膜下に襞があったこと,若しくは第2回手術時には,血液 さらに,ガスタンポナーデを施行しているが,これらは駆逐性出血に対処したものである。 (エ)網膜下の襞の存在本件左眼第1回手術においては,網膜下に襞があったこと,若しくは第2回手術時には,血液凝固によるフェブリンネットが発見されていることが指摘されているが,これは,駆逐性出血により,脈絡膜が剥離して襞になるような状況が起きていたことを裏付けるものである。 (オ)光凝固による瘢痕化が一部出にくかったこと本件左眼第1回手術においては,汎網膜光凝固をするも3箇所に瘢痕が出にくかったことが指摘されているが,これは,原告の出血性脈絡膜剥離や上記(ア)等の原因で網膜にあいた裂孔がふさがらなかったことから,広く網膜色素上皮が露出することとなるとともに,駆逐性出血の一 部が左眼の網膜下に残存して出血塊(フェブリンネット)となり,本件左眼第1回手術における光凝固による瘢痕化を妨げたものと考えられる。 (カ)本件左眼第1回手術当日及びその後の大量出血原告は,本件左眼第1回手術の当日から翌日にかけて透見が不能になるほどの出血を来し,被告病院では,同日から翌日にかけてガーゼを大量に使用しているが,この事実は,本件左眼第1回手術において大量の出血があったことを裏付けるものである。 また,原告は,本件左眼第1回手術後の平成13年1月5日及び同年2月8日にも大量に出血し,特に2月8日の出血は,一瞬にして緞帳が降りるほど大量のものであったのであり,これらの事実も,本件左眼第1回手術時に出血性脈絡膜剥離による駆逐性出血が存在していたことを裏付けるものである。 (キ)本件左眼第2回手術前に確認された胞状網膜剥離本件左眼第2回手術前,原告の左眼には胞状網膜剥離が確認されているが,これは,脈絡膜出血,網膜下出血によって血液が網膜の裏に回り,最重篤な広範囲の胞状 本件左眼第2回手術前に確認された胞状網膜剥離本件左眼第2回手術前,原告の左眼には胞状網膜剥離が確認されているが,これは,脈絡膜出血,網膜下出血によって血液が網膜の裏に回り,最重篤な広範囲の胞状網膜剥離(非裂孔の可能性も大)を発生させたものと考えられる。 すなわち,胞状網膜剥離が生じたことは,本件左眼第1回手術において出血性脈絡膜剥離が発生し,その排出のために意図的裂孔を作成したことを裏付け,かつ,上記(ア)のリカバリー手技があったことを裏付けるものである。 (ク)本件左眼第2回手術時における出血塊の存在本件左眼第2回手術時においては,原告の左眼に出血塊が存在していたことが確認されており,これは,本件左眼第1回手術時に出血があったことを裏付けるものである。 (被告らの主張)ア注意義務違反について本件左眼第1回手術において,インフュージョンカニューラを硝子体部分まで挿入させなかったこと,灌流水を脈絡膜下又は網膜下に流入させたことは否認する。 本件左眼第1回手術の経過は次のとおりである。 被告c医師は,本件左眼第1回手術において,まず,原告の左眼に対し球後麻酔を施行し,左眼の9時から5時の範囲に結膜切開を加え,ジアテルミーで止血を行い,硝子体郭清を有利に行うため,超音波乳化吸引術を施行して水晶体の皮質を吸引したうえで,3ポートを通常どおりの方法で形成した。 その後,灌流水の流入を開始するとともに,被告c医師が硝子体カッターを作動させたところ,灌流水の流入が認められなかったため,被告d医師に対し,灌流水流入の有無を確認し,灌流水が流入したことを確認した上で,硝子体切除を開始したものである。 イ原告の主張に対する反論原告は,本件左眼第1回手術の際に灌流水の途絶により大量の出血が生じたと主張するが,増殖膜処理などの際に大きな出 したことを確認した上で,硝子体切除を開始したものである。 イ原告の主張に対する反論原告は,本件左眼第1回手術の際に灌流水の途絶により大量の出血が生じたと主張するが,増殖膜処理などの際に大きな出血が生じると,術中の視認性が損なわれ,出血部位で切除端と網膜との関係を確認することができなくなり,安全に増殖膜と網膜との間に剃刀などを挿入することができなくなるといったことにより,網膜復位,網膜光凝固などの硝子体手術を完成させることはできないところ,本件左眼第1回手術においては,網膜復位まで終了して手術を終えたのであるから,術中の大量出血がなかったことは明らかである。 ウ原告の主張する根拠に対する反論原告は,本件左眼第1回手術において駆逐性出血が生じ,そのため医原 性裂孔を作成する必要が生じ,同裂孔から硝子体が流出し,左眼圧が低下したと主張するが,原告が指摘する事実は,いずれも原告の主張を裏付けるものではない。 (ア)術後眼底図の記載について原告は,術後眼底図に巨大裂孔が記載されており,これは,本件左眼第1回手術の際に生じた駆逐性出血に対するリカバリー手術で生じた意図的裂孔であると主張する。 しかし,本件左眼第1回手術眼底図に記載された9個の赤印は,医原性裂孔ないし裂孔相当の網膜菲薄化部分を示すものであって,巨大裂孔ではない上,意図的裂孔でもない。 術後眼底図に記載された9個の赤丸のうち,裂孔①,②とされている部分は,同部付近に存在した繊維血管増殖膜を処理する際に生じたものであり,繊維血管増殖膜と網膜との癒着が強固であったため,裂孔を生じたものである。 その他の赤丸の部分は,裂孔相当の網膜菲薄化部分である。 網膜剥離を合併する増殖糖尿病網膜症に対する手術においては,繊維血管増殖膜の処置を不完全なままにして手術を終了することは,網膜復 たものである。 その他の赤丸の部分は,裂孔相当の網膜菲薄化部分である。 網膜剥離を合併する増殖糖尿病網膜症に対する手術においては,繊維血管増殖膜の処置を不完全なままにして手術を終了することは,網膜復位の妨げとなり,増殖性変化の再発に繋がることから,可及的に増殖膜の膜分断・膜分層などの処置を行う必要がある。そのため,増殖糖尿病網膜症の手術において網膜復位を優先するためには,医原性裂孔の出現は不可避である。 (イ)光凝固による瘢痕の確認が困難であったことについて術中に光凝固による瘢痕が出にくかったのは,本件のように最重症の増殖糖尿病網膜症における網膜については,そもそも瘢痕の判定が困難であることから生じたものであり,硝子体手術の失敗を意味するものではない。 (ウ)液体パーフルオロカーボン(PFCL)及びCFガスの使用につ いて液体パーフルオロカーボンは,増殖膜処理を行った後に網膜復位を行ったところ,網膜下液が認められ,新生血管膜や網膜下増殖膜による網膜牽引が残存していることが疑われたことから,増殖膜の残存を確認するために使用したのであって,血液の排出を目的としたものではない。 また,CFガスを充填した理由は,原告の左眼につき増殖性変化が 強かったこと,陳旧性の網膜変化が存在したと推測されたことから,長期間の眼内タンポナーデを行うことが適切であると判断されたことによる。 (エ)本件左眼第1回手術翌日の出血について原告は,本件左眼第1回手術後に見られた左眼の眼内出血が,大量出血であると主張するが,前房内ないし硝子体腔内にわずかな血液が混入することによって容易に眼底透見が困難となるのであって,本件においても,出血量はわずかであった。また,同出血については,9月11日には,網膜剥離(-)との所見が確認できるほどに透見可 かな血液が混入することによって容易に眼底透見が困難となるのであって,本件においても,出血量はわずかであった。また,同出血については,9月11日には,網膜剥離(-)との所見が確認できるほどに透見可能な状態となっていたのであり,このことからも,同日までには出血が止血され,自然に吸収されていることが判明する。 原告はまた,平成13年1月5日及び同年2月8日の出血が本件左眼第1回手術時の駆逐性出血を示唆すると指摘するけれども,原告が指摘する出血は,本件左眼第1回手術からは時間的な間隔があきすぎている。 これらの出血は,手術時に処理した新生血管や繊維血管性増殖膜の断端から生じた再出血と考えられ,最重症の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術にとって不可避の合併症である。 (オ)本件左眼第2回手術の際に確認された出血塊について原告は,本件左眼第2回手術の際に出血塊が確認されたことをもって 本件左眼第1回手術時に出血があったことの根拠とするが,増殖膜処理に際しては,大なり小なり網膜血管からの出血は避けられないのであって,確認された出血塊も,本件左眼第1回手術時において行った膜処理の結果生じた出血と考えられ,脈絡膜剥離による駆逐性出血や大量出血を来したものとはいえない。 (2)争点2(右眼に関する義務違反)(原告の主張)ア術前の光凝固に関する注意義務違反硝子体手術を行う前に光凝固を行う場合には,1回での照射は汎光凝固と同様に300発から400発とし,間隔は1週間とし,凝固瘢が過剰,過密にならないように配慮し,部位ごとに出力や時間を変えて適正に凝固するなど,分割照射をすることとされている。 上記の光凝固については,硝子体出血や増殖組織を認める場合であっても同様であり,可能な限り汎網膜光凝固を施行し,その後に硝子体手術を行うべきである。 イ するなど,分割照射をすることとされている。 上記の光凝固については,硝子体出血や増殖組織を認める場合であっても同様であり,可能な限り汎網膜光凝固を施行し,その後に硝子体手術を行うべきである。 イ義務違反行為ところが,被告医師らは,これらの義務を怠り,①術前に光凝固分割照射治療を行わず,②硝子体手術時に1度に大量かつ過密・過剰の光凝固照射(2099発)を行った。 ウ原告の主張の根拠(ア)本件右眼手術前の診療録には,視野検査も全く行われておらず,原告が視野の異常を訴えたとの記載も存しないが,本件右眼手術後の平成13年8月14日には,ゴールドマン視野検査において,原告の視野は正常視野の8分の3程度になり,平成15年2月18日には,正常視野の4分の1程度に狭窄している。これは,被告病院の医師らによる本件右 眼手術時の過凝固が原因と考えられる。 (イ)被告らは,原告の右眼の増殖糖尿病網膜症は,牽引性網膜剥離を伴う最重症に分類されるもので,裂孔併発型網膜剥離,硝子体出血が存在し,網膜剥離が血管アーケード(耳側網膜動静脈によって囲まれる後極部網膜)を超えて黄斑中心窩に迫っていたため,一度に2099発のレーザー照射を行う必要があったと主張するが,裂孔併発型網膜剥離,硝子体出血の存在は診療録に記載されておらず,超音波検査もフルオレセン蛍光眼底検査をもとにしたパノラマ写真の作成も行われていないから,症状の重篤度や手術の必要性を判断し,治療計画を立てることは困難である。 (被告らの主張)ア分割照射義務について原告が主張するような分割照射が推奨されるのは,早期の段階で汎網膜光凝固を施行する場合であり,牽引性あるいは裂孔併発型網膜剥離を合併しているような重篤な病態に至っている場合には,硝子体手術後に再出血や角膜混濁などにより,術後の網膜 されるのは,早期の段階で汎網膜光凝固を施行する場合であり,牽引性あるいは裂孔併発型網膜剥離を合併しているような重篤な病態に至っている場合には,硝子体手術後に再出血や角膜混濁などにより,術後の網膜光凝固追加が早期にできず,その間に新生血管の増殖が活発になる可能性があるのだから,術中に網膜光凝固をできるだけ照射する必要があるのであって,分割照射に適しているとはいえない。 また,術前汎網膜光凝固の施行によって硝子体の収縮が急速に生じ,牽引性あるいは裂孔併発型網膜剥離,硝子体出血を生じるリスクを伴うため,硝子体の二次的変化を誘発する危険性を考慮して光凝固を行うか否かを検討すべきであるところ,原告の右眼の術前状態は,乳頭新生血管が±で,繊維血管増殖膜が乳頭から血管アーケードに沿って存在して網膜を牽引し,網膜の剥離が血管アーケードを超えて黄班部中心窩に迫っているなど,増殖糖尿病網膜症としては最重症のレベルであったのであり,網膜光凝固の 副作用によって牽引性網膜剥離の急激な進行や硝子体出血を引き起こす危険性が高いことを考慮すれば,硝子体手術及びそれと同時に徹底的な汎網膜光凝固を行う方がより安全適切であったといえる。 イ2000発以上の照射について原告の糖尿病網膜症は前記のとおり最重症に至っていると評価できるところ,このような段階では,徹底的な網膜光凝固を術中に施行して,再出血,再剥離,ルベオーシスの出現による低眼圧・眼球ろうの出現を防止する必要があり,異常血管の原因となっている無血管領域や網膜裂孔周囲を可能な限り凝固するためには,2000ないし3000発もの照射が必要とされる。 また,本件においては,従前,汎網膜光凝固が不十分であり,網膜病変が進行していたため,それを抑制するためには相当程度の照射が必要であったのであり,施行しなければ血 000発もの照射が必要とされる。 また,本件においては,従前,汎網膜光凝固が不十分であり,網膜病変が進行していたため,それを抑制するためには相当程度の照射が必要であったのであり,施行しなければ血管新生緑内障などを引き起こしていた。 (3)争点3(本件左眼第1回手術における義務違反と現在の左眼の状態との間の因果関係)(原告の主張)ア被告病院の医師らは,原告に対し,本件左眼第1回手術を行った際,インフュージョンカニューラを硝子体部分まで挿入させなかったことにより,灌流水を硝子体腔まで流入させず,脈絡膜下又は網膜下に流入させ,そのまま硝子体切除術を続行した。そのことによって,原告の左眼に急激な低眼圧,出血性脈絡膜剥離が発生し,これにより駆逐性出血を発生させた。 被告病院の医師らは,この出血に対処するため,リカバリー手技として,網膜を切開し,多数の意図的裂孔(医原性裂孔)を作成し,多数の閉鎖不能の裂孔を網膜上に形成させた上,出血性脈絡膜剥離を原因として最重篤な広範囲の胞状網膜剥離まで発生させた。 上記裂孔及び胞状網膜剥離が存在したことにより,原告の左眼は,術後 に急激な低眼圧を発生させて,継続的かつ回復不能の低眼圧症に至り,その結果,原告の左眼は,結局,眼球ろうとなり,光覚不能の状態,すなわち失明に至ったものである。 したがって,本件左眼第1回手術時に硝子体腔への灌流水途絶がなければ,原告の左眼が失明状態になることはなかったといえ,被告医師らの義務違反と原告の現在の左眼の状況との間には因果関係がある。 イ被告らは,本件において原告の左眼が眼球ろうに至ったのは,前部硝子体血管の増殖から虹彩ルベオーシスが出現したことによると主張する。 しかしながら,原告の左眼の低眼圧は,虹彩ルベオーシスが出現した11月14日より前の10月3日からすでに 球ろうに至ったのは,前部硝子体血管の増殖から虹彩ルベオーシスが出現したことによると主張する。 しかしながら,原告の左眼の低眼圧は,虹彩ルベオーシスが出現した11月14日より前の10月3日からすでに生じ,時間的近接性もない上,虹彩ルベオーシスが出現すると,その後眼圧が上昇するにもかかわらず,本件では,虹彩ルベオーシスが出現した後も眼圧の上昇は見られなかったのであり,虹彩ルベオーシスの出現が低眼圧,眼球ろうの原因とはいえない。 ウまた,被告らは,本件左眼第2回手術後に,原告の左眼の視力が回復していることから,本件左眼第1回手術の際に駆逐性出血は生じていなかったと主張する。 しかしながら,本件左眼第1回手術の際には,駆逐性出血に対してリカバリー手技を行ったことから,黄班部付近の状態は確保されたため,視力は一時的に回復したが,その後,眼圧の低下を避けることができず,眼球ろうに移行したにすぎず,左眼の視力が一時的に回復したからといって,必ずしも本件左眼第1回手術において駆逐性出血が生じていないとはいえない。 (被告らの主張)ア原告の左眼の眼球ろうの原因について(ア)術後低眼圧の原因について 本件において原告に低眼圧が生じたのは,増殖糖尿病網膜症の病態進展を抑制できなかったこと,すなわち,前部増殖性変化による毛様体房水産生機能の低下による。 増殖糖尿病網膜症を合併する眼の場合には,網膜以外にも炎症性変化や虚血変化の合併が考えられるところ,前部増殖性変化は,周辺部網膜から毛様体の虚血によって発生するものである。このような毛様体の虚血と手術侵襲により,毛様体上皮の機能が低下して毛様体房水産生が低下し,その結果,低眼圧となったものである。 原告は,術後眼底図に裂孔が9個あり,これが巨大裂孔となっていることが低眼圧の原因であると主張する。 襲により,毛様体上皮の機能が低下して毛様体房水産生が低下し,その結果,低眼圧となったものである。 原告は,術後眼底図に裂孔が9個あり,これが巨大裂孔となっていることが低眼圧の原因であると主張する。しかし,これらの裂孔は,いずれも円周方向に90度に及ぶ巨大裂孔とはいえず,これにより網膜色素上皮の広範な露出を来しているものとはいえないから,これらの裂孔が低眼圧の原因とは考えられない。 (イ)左眼失明の原因について原告の左眼が失明状態となったのは,増殖性糖尿病網膜症に起因する網膜虚血の進行等に続発して,虹彩面に新生血管が生じる,虹彩ルベオーシスが合併し,これにより眼球ろうが発生したことによると考えられる。したがって,原告の左眼の失明と本件左眼第1回手術との間に因果関係はない。 イ原告の主張に対する反論(ア)駆逐性出血の発生について原告は,本件左眼第1回手術の際に駆逐性出血が生じたと主張するが,同事実が認められないことは,(1)(被告らの主張)イのとおりである。 (イ)術中低眼圧の発生について原告は,灌流水が硝子体内に入らないままに吸引カッターを作動させたことから,左眼が低眼圧になった旨主張する。 しかし,例えば眼内の生検時には,一時的かつ意図的に灌流水を流入しないで硝子体を切除することもあり,一時的に灌流水が入らない硝子体手術によって,術後に重篤な視力障害が生じることはない。 また,本件左眼第2回手術の終了時に,網膜は復位し,術後視力が0. 2,眼圧が正常に回復している。このことは,本件左眼第1回手術の操作によって低眼圧となっていないことを明らかにするものである。 (4)争点4(本件右眼手術と右眼の症状との間の因果関係)(原告の主張)上記のとおり,術前の光凝固分割照射治療が行われず,被告医師らによって,右眼に2099発もの ことを明らかにするものである。 (4)争点4(本件右眼手術と右眼の症状との間の因果関係)(原告の主張)上記のとおり,術前の光凝固分割照射治療が行われず,被告医師らによって,右眼に2099発もの過剰な光凝固を一度に受けたことから,原告は,高度求心性視野狭窄に陥ったものである。 原告は,平成12年6月22日の本件右眼手術前に視野検査を施行されていないが,それまでに視野の異常を訴えたことはない。 その後,原告は,平成13年8月14日及び平成15年2月18日に,それぞれ右眼の視野検査を受けたが,平成13年8月14日の時点で正常視野の8分の3程度,平成15年2月18日の時点で正常視野の4分の1程度であった。また,原告は,平成17年4月8日,l眼科において視野検査を受けたところ,右眼の視能率は6.8%,損失率93.2%であるとされたのである。 したがって,原告の右眼の視野狭窄は,本件右眼手術によって生じたと推認される。 (被告らの主張)進行性の視野異常が生じたということであれば,手術よりも,むしろ糖尿病網膜症による長期的な視神経・血管に対する影響によって生じた可能性があり,仮に汎網膜光凝固療法によって視野異常が付加されたとしても,最重度の糖尿病網膜症による失明を回避するための不可避な合併症である。 したがって,原告の右眼の視野狭窄が,本件右眼手術によって生じたとは言えない。 原告の右眼は,網膜剥離が黄班部中心窩に波及していないため,中心部の視野は確保されているものの,他方,周辺部から黄班部付近にかけては既に網膜剥離が存在する以上,中心部を除いた周辺の領域では当初から視野の欠損があったことは容易に判断できる。 また,原告の右眼の視力は,本件左眼第3回手術後には,1.0まで回復している。 (5)損害(原告の主張)原告は,被告らの上記過失 辺の領域では当初から視野の欠損があったことは容易に判断できる。 また,原告の右眼の視力は,本件左眼第3回手術後には,1.0まで回復している。 (5)損害(原告の主張)原告は,被告らの上記過失により,合計5億8628万5586円の損害を被った。 ア逸失利益4億8107万7806円原告は,被告病院に入通院を開始する前には,会社を経営し,平成11年には5121万1178円の年収を得ていた。 ところが,本件により被った後遺症のため,100%労働能力を喪失し,その結果,会社の一つを廃業し,また,別の会社の役員を退任せざるをえなくなり,すべての収入を失った。 原告は,本件当時54歳であり,就労可能年数は13年(対応するライプニッツ係数は9.394)であった。 したがって,次の計算式のとおり,4億8107万7806円の逸失利益が生じている。 (計算式)5121万1178円×9.394=4億8107万7806円イ後遺症慰謝料ほかの精神的損害5000万円本件の障害によって,原告は,身体障害者福祉法上3級の障害と認定 された。また,それにとどまらず,原告は,一人旅,読書,車の運転,ゴルフ等の趣味をすべて失い,また,性欲減退によって性生活もままならなくなってしまった。 のみならず,被告医師らは,初診時の診断において必要とされる検査を行わず,また,硝子体手術に伴う合併症の危険性やバックリング術についても説明をすることなく,原告の左眼が失明状態となってもなお,原告に対してその状態の詳細や原因について十分に説明をすることはなかった。 以上の事情があることからすれば,本件において原告は,重大な精神的苦痛を被ったといえ,金銭に評価するとすれば,5000万円を下らない。 ウ弁護士費用5520万7780円(被告らの主張)原告の主張は争う。 第 ことからすれば,本件において原告は,重大な精神的苦痛を被ったといえ,金銭に評価するとすれば,5000万円を下らない。 ウ弁護士費用5520万7780円(被告らの主張)原告の主張は争う。 第3争点に対する判断 認定事実前記前提事実,証拠(各掲記のとおり。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)原告の既往症,既往歴原告は,平成元年ころ,e大学病院で糖尿病と診断され,食事療法の指導を受け,その後平成7年9月20日ころから,糖尿病網膜症の治療のためにf病院に通院し,同病院において,レーザー治療を受けた(甲A1の2・9,385頁,甲A11)。 平成9年12月13日,f病院から,被告c医師に対して,両増殖糖尿病症との診断名で,手術の適応等の確認を依頼する紹介状が出されたが,原告は,これを2年半放置し,平成12年5月23日になって物がかすんで見え るように感じたため,初めて被告病院を受診した(甲A1の2・383ないし385頁)。 (2)被告病院における診療経過ア初診(ア)初診時の訴等5月23日,原告は,4,5日前に眼底出血を起こした後に,両眼でものがかすんでみえる症状が出現したとして,被告病院眼科外来を受診し,このとき,被告法人との間で診療契約を締結した(甲A1の2・385,387)。 (イ)初診時の検査結果5月23日,眼底撮影,ケラトスペクラー,入院検査が実施され,原告の所見として,視力は,右眼が裸眼視力0.3(矯正視力0.7),左眼が裸眼視力0.4(矯正視力1.0),眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg,眼底所見は,右眼は網膜がかなり薄く,襞が少しと牽引性網膜剥離が認められ,汎網膜光凝固は少なく,左眼は,硝子体出血があり,汎網膜光凝固は少ないことが確認された(甲A1の2・387・39 6mmHg,眼底所見は,右眼は網膜がかなり薄く,襞が少しと牽引性網膜剥離が認められ,汎網膜光凝固は少なく,左眼は,硝子体出血があり,汎網膜光凝固は少ないことが確認された(甲A1の2・387・392頁)。 (ウ)初診時の診断原告は,両眼増殖性糖尿病網膜症,右牽引性網膜剥離,左硝子体出血と診断され,内科診察の結果を待って,手術入院予約を検討することとなった(甲A1の2・384,387,392頁,乙A2・5頁)。 (エ)経過観察報告5月23日付けで,被告病院の担当医師から,f病院に対して,視力(矯正視力)は,右0.7,左1.0と良好であるが,手術をする方向で,検討する旨の紹介患者経過報告がなされた(甲A1の2・384頁)。 イ被告病院の第3内科への入院(ア)6月7日,原告は,眼科の術前血糖コントロールを目的として,被告病院第3内科に入院した。6月8日の血液凝固検査結果ではPT98,APTT30.2,フィブリノーゲン316で基準値内であった(甲A1の2・4,46頁)。 (イ)6月16日,被告病院内科の担当医師は,被告c医師に対して,糖尿病,糖尿病性網膜症を診断病名として眼科への受診依頼をした。原告は,内科に入院後インスリンの投与を受け,血糖は空腹時150台,尿糖は1日当たり28グラムから3グラムへと改善傾向を示した(甲A1の2・396頁)。 また,同日の検査において,原告の視力は右眼0.6,左眼1.0,眼圧は,右眼12mmHg,左眼14mmHg,右眼底について牽引性網膜剥離が確認された(甲A1の2・398頁)。 ウ眼科への転科6月21日,原告は眼科に転科した。 同日,視野検査,超音波検査,蛍光眼底検査が実施され,検査所見として,視力は,右眼0.4,左眼0.6,眼圧は,右眼15mmHg,左眼15mmHg,前眼部所見とし 6月21日,原告は眼科に転科した。 同日,視野検査,超音波検査,蛍光眼底検査が実施され,検査所見として,視力は,右眼0.4,左眼0.6,眼圧は,右眼15mmHg,左眼15mmHg,前眼部所見として,右眼は前房がやや浅く,硝子体出血について福田分類でグレードⅣ,前房内細胞(-),白内障,後嚢下白内障であり,核硬化2,左眼についても,前房やや浅く,硝子体出血について福田分類でグレードⅣ,前房内細胞(-),核硬化2,眼底所見として,右眼は,牽引性網膜剥離(+),乳頭新生血管(±),線維血管膜(+),レーザー瘢痕あり,左眼についても,牽引性網膜剥離(+),乳頭新生血管(+),線維血管膜(+),レーザー瘢痕あり,網膜下出血(+)との結果が確認された(甲A1の2・104,106頁)。 また,病歴要約には,入院時眼底所見として,両眼においてレーザー瘢痕が良好である旨の記載がある(甲A1の2・104頁)。 エ本件右眼手術6月22日,原告は,右眼について,被告c医師を術者,被告d医師を第1助手,m医師を第2助手とする本件右眼手術を受けた(甲A1の2・107頁,108頁,111頁,114頁)。 午前9時18分に麻酔を行い,同28分に手術が開始された。同手術は①水晶体乳化吸引(PEA),②硝子体切除術,③膜剥離,④粘弾性物質分層,⑤眼内光凝固,⑥液・空気置換,⑦眼内レンズ挿入,⑧20%フッ化硫黄(SF)タンポナーデが実施され,午後0時7分に手術が終了し た(前提事実,甲A1の2・107ないし111頁)。 午前11時18分には,レーザーが1771発照射され,同40分にも照射されたレーザーを合わせて,合計で2099発が手術中に照射された(甲A1の2・107頁)。 オ本件右眼手術後の術後経過(ア)6月23日,原告は,右眼視力は5センチメートル手動 ,同40分にも照射されたレーザーを合わせて,合計で2099発が手術中に照射された(甲A1の2・107頁)。 オ本件右眼手術後の術後経過(ア)6月23日,原告は,右眼視力は5センチメートル手動弁で矯正不能とされ,右眼圧は19mmHg,右眼底所見として,眼球内ガス100パーセント,出血はなさそうとの所見が確認された(甲A1の2・114頁)。 (イ)6月24日ないし7月1日,原告には,連日,視力検査,右眼圧測定,前眼部,右眼底所見の検査等が行われ,経過観察がなされた。 (ウ)7月2日の検査において,原告は,右眼裸眼視力0.04(矯正視力0.2),右眼圧は16mmHgであった。右前眼部所見として,角膜は透明で,眼内レンズ良好であるとされ,右眼底所見として,眼球内ガス20パーセント,血管アーケード内は浮腫状であるが,網膜剥離は なし,動脈狭小化(+)とされ,退院可能と判断され,退院となった(甲A1の2・120・121頁)。 カ本件右眼手術後の外来受診及び手術入院(ア)7月11日,原告は,被告病院の眼科を受診し,同日行われた検査において視力は,右眼裸眼視力0.2(矯正視力0.4),左眼裸眼視力0.4(矯正視力0.8),眼圧は,右眼12mmHg,左眼13mmHgであった。右眼底所見としては,耳側浮腫状であり,下方の汎網膜光凝固瘢足りないかとされた(甲A1の2・404頁)。 (イ)8月1日,原告は,被告病院の眼科を受診した。同日行われた検査において視力は,右眼0.5,左眼0.9,眼圧は,右眼11mmHg,左眼13mmHgであった(甲A1の2・405,406頁)。 (ウ)8月15日,原告は,被告病院の眼科を受診し,1週間前より左眼上方やや耳側に動く影のようなものがかかる,影の色は灰色で濃くなったり薄くなったりする,視力低下の自 1の2・405,406頁)。 (ウ)8月15日,原告は,被告病院の眼科を受診し,1週間前より左眼上方やや耳側に動く影のようなものがかかる,影の色は灰色で濃くなったり薄くなったりする,視力低下の自覚があり,1週間前より浮遊物(++)と訴えた。同日行われた検査において,視力は右眼0.7,左眼0. 9,眼圧は右眼10mmHg,左眼11mmHgであった。左眼底所見として,鼻側に牽引性網膜剥離,下方に牽引性網膜剥離(又は裂孔原性網膜剥離の疑い)があり,硝子体出血が増悪しているとの所見が確認された。 診断としては,左白内障で硝子体手術の適応があり,眼内レンズも検討することとされ,原告に対し,原告の目の状態,ガスタンポナーデによる腹臥位の必要性の説明がなされた(甲A1の2・408ないし411頁)。 (エ)8月30日,原告は,左眼手術目的で被告病院に入院した。入院時に は,視野検査,超音波検査,蛍光眼底写真撮影等の検査が行われ,視力は右眼裸眼視力0.2(矯正視力0.3),左眼裸眼視力0.2(矯正視力0.5),眼圧は,右眼12mmHg,左眼13mmHgであった。 眼底所見として,右眼は,汎網膜光凝固斑は良好,下方の汎網膜光凝固斑は少なく,耳側には点状出血あり,血管蛇行あり,耳側下方には浮腫状の部分ありとされた。また,左眼は,汎網膜光凝固斑が少ししか入っていない状態で,下方に硝子体出血と牽引性網膜剥離,線維血管膜が認められた。また,鼻側には網膜牽引があり,硝子体出血は減少していたが,牽引性網膜剥離は不明であり,後部硝子体剥離がなく,光凝固瘢はあり,中心窩は良いが,索引ありとの所見が確認された(甲A1の2・169,170ないし172,178頁)。 同日,被告d医師より原告に対し,眼内レンズを入れない可能性,視力がそれほど変わらない可能性についての 窩は良いが,索引ありとの所見が確認された(甲A1の2・169,170ないし172,178頁)。 同日,被告d医師より原告に対し,眼内レンズを入れない可能性,視力がそれほど変わらない可能性についての説明がなされた(甲A1の2・178頁)。 キ本件左眼第1回手術(前提事実,甲1の2・173ないし177頁)原告は,8月31日,左眼につき本件左眼第1回手術を受けた。 手術室には同日10時40分に入室し,同50分には麻酔実施,午前11時には手術が開始された。 手術は,①水晶体乳化吸引,②硝子体切除術,③粘弾性物質分層,④眼内レンズ挿入,⑤液・空気置換,⑥眼内光凝固(2度施術,午前11時42分及び午後2時),⑦ガスタンポナーデ(CFガス)が実施され,午 後2時43分に終了した。 後部硝子体剥離は12時から5時の周辺ではおきていたが,鼻側は網膜との接着が強固であり,後部硝子体剥離を広げてゆく際,鼻側の癒着部分に医原性裂孔ないし裂孔相当の菲薄化部分が生じた。また,周辺硝子体でも癒着が強く,後部硝子体剥離を広げる際,裂孔ないし裂孔相当の菲薄化 部分が生じた。さらに,虚血網膜の認められた部分に裂孔が大きくなった。 続いて,午後0時7分には眼内レンズが挿入され,その後,液・空気置換が実施されると,網膜下液が認められ,新生血管膜と小さい線維血管膜が確認されたため,上記血管膜を除去した。再び液・空気置換すると,再度同一部分に網膜下液が認められ,網膜下の皺襞か,牽引性網膜剥離のための襞かはっきりしないため,液体パーフルオロカーボンを注入して網膜を伸展させ,空気に置換してドレナージすると,網膜復位が確認された。 眼内レーザーは,午前11時42分と午後2時のものを合わせて2307発照射された。 その後,14パーセントCFガスを左眼硝子体腔に充填のうえ,3ポ に置換してドレナージすると,網膜復位が確認された。 眼内レーザーは,午前11時42分と午後2時のものを合わせて2307発照射された。 その後,14パーセントCFガスを左眼硝子体腔に充填のうえ,3ポ ート部の強膜創,結膜を縫合し手術を終了した。 なお,光凝固を行った際に,術後眼底図のA,B,Cの部分は瘢痕が出にくかった。 ク本件左眼第1回手術後の術後経過(ア)手術当日原告は,8月31日午後3時に帰棟し,その際ガーゼ汚染はなかった。 午後5時には,眼痛はないが,異物感があり,血性のガーゼ汚染が確認された。午後8時には,眼痛はないが,異物感があり,ガーゼ汚染の増量が確認され,午後9時にはg医師によりガーゼ交換がなされた(甲A1の2・215頁)。 (イ)術後経過a9月1日,原告は,痛みはなく,左眼圧25mmHg,前房出血のため,眼底の透見不能の状態であったが,網膜の反射は良好であった(甲A1の2・178頁)。 b9月2日,原告は,痛みはなく,左眼圧18mmHg,前房中の出血は減少していたが,左眼底は透見困難であった(甲A1の2・17 9頁)。 c9月3日,原告は,痛みがなく,左眼圧21mmHg,前房中の赤血球の減少が著明で,左眼底は透見困難であった。午前6時にはガーゼ汚染が確認されたが,以後,ガーゼの汚染は確認されなかった(甲A1の2・179,180,218頁)。 d9月4日,原告は,左眼底所見として,上方4分の1ほどの汎網膜光凝固斑が確認され,下方硝子体には出血があり,また,鼻側上方部分には網膜剥離のないことが確認された(甲A1の2・180頁)。 e9月8日,左眼底所見として,上方網膜剥離はなく,上方汎網膜光凝固斑が見える,眼球内ガスが30パーセント残存し,下方は硝子体出血のため見えないとされた(甲A1の2・182 A1の2・180頁)。 e9月8日,左眼底所見として,上方網膜剥離はなく,上方汎網膜光凝固斑が見える,眼球内ガスが30パーセント残存し,下方は硝子体出血のため見えないとされた(甲A1の2・182,183頁)。 f9月10日,原告は,今日は割合と見えると述べた。左眼底所見としては,下方硝子体の出血が減少しているとされ,まだ血管見えないが少し見やすくなったとされた(甲A1の2・184頁)。 g9月11日,左眼底所見としては,眼球内ガスは25パーセントが残存し,上方4分の1の部分の眼内光凝固斑が確認され,硝子体出血が減少していることが確認された(甲A1の2・185頁)。 (ウ)退院9月13日,原告はだいぶ上方が明るくなってきたと述べた。同日,原告の左眼圧は20mmHgであり,左眼底所見としては,下方の瘢痕に関しては確認ができなかったものの,上方の眼内光凝固斑は良好であり,下方の硝子体の出血の減少が著明で,網膜の透見性が上昇し,網膜剥離がないことが確認された。 そこで,術後の経過が良好であると診断され,原告は,同日退院した(甲A1の2・189,190頁)。 ケ本件左眼第1回手術後の外来受診及び入院 (ア)9月19日,原告は,被告病院の眼科外来を受診した。その際,原告の左眼には,本件左眼第1回手術の前にはなかった裂孔原性網膜剥離及び硝子体ゲルの収縮が認められたため,速やかに入院する必要があると判断された(甲A1の2・420,421頁)。 (イ)9月20日,原告は被告病院眼科に入院した。入院時,視力は右眼裸眼視力0.2(矯正視力0.4),左眼裸眼視力0.1(矯正不能)であり,眼圧は右眼11mmHg,左眼12mmHgであった。また,左眼の眼底所見は,上方の裂孔は閉鎖しているが,下方に2箇所の裂孔があり,これを発生起源として胞状網 ,左眼裸眼視力0.1(矯正不能)であり,眼圧は右眼11mmHg,左眼12mmHgであった。また,左眼の眼底所見は,上方の裂孔は閉鎖しているが,下方に2箇所の裂孔があり,これを発生起源として胞状網膜剥離があり,網膜下液のあることが確認された(甲A1の2・244,245,247,253頁)。 コ本件左眼第2回手術9月21日,原告は,左眼につき,硝子体手術を受けた。 手術は,同日午後1時35分に開始され,残存ガスを除去したところ,術前の眼底検査で確認された裂孔から下方に胞状の網膜剥離が認められた。 被告c医師らは,本件左眼第1回手術の際の出血塊が網膜下にあり,裂孔の閉鎖,凝固を妨げたのではないかと考えた。周辺に網膜前膜は存在しなかった。被告c医師らは,周辺の硝子体ゲルを切除し,液・空気置換を行った後,1318発の網膜光凝固を行い,14%CFタンポナーデを施 行して,午後2時50分に手術を終了した(前提事実,甲A1の2・248ないし254頁)。 サ本件左眼第2回手術後の術後経過9月26日,原告は明るくなったと述べた。原告の左眼の状態は,視力が15cm手動弁,眼圧が12mmHgであり,網膜復位が認められ,下方の光凝固瘢痕,裂孔閉鎖が良好と認められたため,翌27日,経過良好として,退院となった(甲1の2・258)。 シ本件左眼第2回手術後の外来受診及び入院(ア)10月3日,原告の左眼は,眼圧が8mmHgに低下した。また,同月31日,原告の左眼は,矯正視力は0.2であったが,眼圧が3mmHgに低下した。眼底検査の結果,鼻側下方に裂孔か剥離あるいは脈絡膜剥離を疑う所見が認められた(甲A1の2・421ないし423頁)。 (イ)11月14日,原告の左眼前眼部には,後発白内障が確認された。 左眼眼圧は3mmHgで低眼圧が継続した。また 剥離あるいは脈絡膜剥離を疑う所見が認められた(甲A1の2・421ないし423頁)。 (イ)11月14日,原告の左眼前眼部には,後発白内障が確認された。 左眼眼圧は3mmHgで低眼圧が継続した。また,左眼眼底検査では,下方に脈絡膜剥離と網膜剥離が認められた(甲A1の2・429頁)。 (ウ)12月26日,原告の左前眼部にルベオーシス(異常な新生血管)が認められた。また,左眼眼圧は,3mmHgで低眼圧が継続した(甲A1の2・430,431,433頁)。 (エ)平成13年1月5日,原告の左眼は,眼圧が2mmHgで,硝子体出血があり,眼底はよく見えない状態となった。網膜剥離ははっきりしなかった(甲A1の2・432頁)。 (オ)平成13年1月24日,原告は,左眼手術のため被告病院眼科に入院した。 入院時の左眼の診断は,増殖糖尿病性網膜症,硝子体出血で,視力が左眼5cm手動弁,眼圧が左眼3mmHgであり,前房出血があり,硝子体出血のため,眼底の透見ができない状態であった(甲A1の2,296,299,305,439頁)。 ス本件左眼第3回手術(前提事実,甲A1の2・300ないし304頁)平成13年1月25日,原告は,左眼の硝子体手術を受けた。 本件左眼第3回手術は,午前9時41分に開始され,①前房洗浄,②硝子体切除,③眼内ジアテルミー,④網膜冷凍凝固,⑤膜剥離,⑥輪状締結 術(バックリング術),⑦空気置換,⑧空気タンポナーデ,⑨レーザー(114発)が行われ,午前11時54分に終了した。 手術の際,下方に線維性増殖が認められ,その前方を切除してゆくと,2か所に医原性と思われる裂孔が生じた。冷凍凝固を施行するが,凝固瘢が出ず,後極の網膜上膜を剥離したところ,出血が少しあった。 セ本件左眼第3回手術後の術後経過(ア)平成13年1月29日,原告 2か所に医原性と思われる裂孔が生じた。冷凍凝固を施行するが,凝固瘢が出ず,後極の網膜上膜を剥離したところ,出血が少しあった。 セ本件左眼第3回手術後の術後経過(ア)平成13年1月29日,原告の左眼には,虹彩新生血管が認められた。左眼眼底所見は,黄斑部の網膜復位が認められ,下方の網膜剥離がないことが確認された(甲A1の2・314,316頁)。 (イ)平成13年1月31日,原告は,左眼裸眼視力0.06(矯正視力0.15),左眼眼圧9ないし10mmHgで,退院となった(甲A1の2・317,318頁)。 ソ本件左眼第3手術後の外来受診(ア)平成13年2月8日,原告は,左眼の異常を訴えて被告病院眼科の外来を受診し,被告c医師の診察を受けた。原告の左眼は,眼圧が4ないし5mmHgで,左前眼部には新生血管が見られ,ルベオーシスは増加傾向にあった。また,左眼底は硝子体出血のため透見ができず,出血源は不明であった(甲A1の2・444頁)。 (イ)その後,原告は,前房出血著明のため透見不能の状態が続き,平成15年2月18日まで被告病院に通院したが,同年7月10日,両増殖糖尿病網膜症(網膜剥離合併)術後,右眼内レンズ挿入眼,左眼球ろうの診断名で,h病院眼科の紹介を受けた(甲A1の2・453頁)。 (ウ)平成15年8月,h病院に転院した(甲A1の2・453,457,459頁)。 タ原告の現在の状況 原告の右眼は,光凝固療法による広範囲の瘢痕が存し,進行性の高度求心性視野狭窄が残存している。また,原告の左眼は,光覚がなく,角膜混濁と低眼圧(眼球ろう)の状態である。 原告は,平成17年4月8日,l眼科クリニックで,身体障害者福祉法3級に相当する障害と診断され,同月26日,視力障害6級,視野狭窄3級の障害により身体障害者手帳の交付を受けた( ろう)の状態である。 原告は,平成17年4月8日,l眼科クリニックで,身体障害者福祉法3級に相当する障害と診断され,同月26日,視力障害6級,視野狭窄3級の障害により身体障害者手帳の交付を受けた(甲A3,甲C1)。 争点1(本件左眼第1回手術における注意義務違反)について(1)原告は,本件左眼第1回手術において,被告病院の担当医師らがインフュージョンカニューラを硝子体部分まで挿入させなかったことにより,灌流水を硝子体腔まで流入させず,脈絡膜下又は網膜下に注入した注意義務違反があり,これにより,原告の左眼球内の眼圧を低下させ,脈絡膜剥離,駆逐性出血を生じさせたと主張する。 そこで,原告主張の事実の存否につき検討する。 (2)原告の指摘する事実についてアインフュージョンカニューラの尖通刺不足による灌流水の途絶の有無について原告は,本件左眼第1回手術開始早々,被告c医師が,被告d医師に対し,「水がきていないんじゃないか?」と尋ね,その後「来ていないじゃないか」と激怒したことがあり,その際原告は,左眼に非常な痛みを感じたものであるから,この時,インフュージョンカニューラの尖通刺不足による灌流水の途絶があった旨主張する。 そして,原告作成の陳述書(甲A11・6頁)には,上記主張に沿うやりとりがあった旨の記載があり,被告c医師も,同医師と被告d医師との間で,上記のようなやりとりが交わされた可能性を否定していないところである。また,硝子体手術の合併症として,インフュージョンカニューラが硝子体腔に穿通していない場合に,灌流液が脈絡膜下に流入 し,脈絡膜剥離や網膜剥離を生じることがあり,その際,患者は強い疼痛を訴えることが多いとの指摘があること(甲B1の3⑥)が認められる。 しかしながら,仮に,上記のようなやりとりがあったとしても,①手 し,脈絡膜剥離や網膜剥離を生じることがあり,その際,患者は強い疼痛を訴えることが多いとの指摘があること(甲B1の3⑥)が認められる。 しかしながら,仮に,上記のようなやりとりがあったとしても,①手術中,灌流水が一時的に出なくなるという事態は,手術の始めや灌流水の入ったボトルを交換する時,また,助手が灌流水のボトルからのラインのクランプを外さなかった時などにしばしばありうること(被告c反訳書1・14頁),②硝子体手術では,硝子体の切除を始めた後,灌流液が流れていない場合には灌流ラインをもう一度確認することとされており(乙B2・222頁),文献上も,一時的に灌流水が来なくとも直ちに大きな障害が生じるとされてはないこと,③仮に灌流水の途絶があった場合には,硝子体カッターで硝子体を吸引しながら,吸引分のスペースを補うための灌流水が流入しないため,眼球自体に徐々に萎みが生じ,あるいは網膜の裏側のほうに灌流水の流入があった場合には,網膜自体が剥がれていくこととなり,手術を続行することが不可能であること(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・51ないし53頁),④仮に網膜下,脈絡膜下に灌流水の流入があった場合,インフュージョンカニューラを一旦抜去し,下液を排液してから鼻下側に設置し直す手技が必要となるところ(甲B1の3⑥),本件手術経過において,そのような手技が採られたことを窺わせる事情も存しないことを併せ考えると,本件左眼第1回手術中において,一時的な灌流水の途絶を越えて,原告主張のような灌流水の途絶があったと推認することはできない。 また,原告は,灌流水の途絶があった時点で,原告は左眼に非常な痛みを感じたと主張し,診療録上「体動あり」との記載がある(甲A1の2・173頁)のは,その時原告が激痛を感じたためであると主張する。 しかしながら,原告 流水の途絶があった時点で,原告は左眼に非常な痛みを感じたと主張し,診療録上「体動あり」との記載がある(甲A1の2・173頁)のは,その時原告が激痛を感じたためであると主張する。 しかしながら,原告は,灌流水の途絶があったのは手術開始早々であ ると主張しているにもかかわらず,「体動あり」との記載があるのは手術開始時刻である午前11時から約1時間30分を経過した午後0時30分ころのことであること(甲A1の2・173頁),手術開始から1時間30分もの間,灌流水の流入がないままに手術を継続することは不可能であること(被告c医師反訳書1・16頁),また,手術中に何らかの鈍痛があったとしても,それが直ちに灌流水の途絶によるものであったと推認できるわけでもないことに照らせば,上記「体動あり」との記載から,原告に灌流水の途絶による激痛が生じたと推認することもできない。 イ術後眼底図の記載について原告は,本件左眼第1回手術の術後眼底図には,多くの裂孔が記載されているところ,これらは,本件左眼第1回手術中に駆逐性出血が発生したことから,被告c医師がリカバリー手技として,網膜下の血液や網膜下液の排除を行うために開けたことによるものであると主張する。 そして,前記認定のとおり,術前眼底図に指摘のなかった裂孔を示す赤丸印が,術後眼底図に記載されていることに照らせば,裂孔ないし菲薄化部分が本件左眼第1回手術中に原告の左眼に生じたことを推認することができる。 しかしながら,①問題とされている赤丸印の部分(甲A1の2・177頁)は,本件左眼第1回手術の前日の8月30日の眼底写真(甲A4の42(鑑定調書別添6))において,網膜と増殖膜の癒着が強いと予測される部分と基本的に一致していること(j鑑定人,i鑑定人,k鑑定人,鑑定・48,49頁),②増殖膜と網膜に癒 日の眼底写真(甲A4の42(鑑定調書別添6))において,網膜と増殖膜の癒着が強いと予測される部分と基本的に一致していること(j鑑定人,i鑑定人,k鑑定人,鑑定・48,49頁),②増殖膜と網膜に癒着がある場合には,それを剥がすときに,医原性裂孔を生じることがやむを得ない合併症として十分ありうること(乙B4・83頁,k鑑定人,i鑑定人,j鑑定人,鑑定・48,49頁),③後述のとおり,本件左眼第1回手術にお いて,駆逐性出血が生じたことを窺わせる事情が存しないことからすると,術後眼底図の赤丸印は,線維血管増殖膜と網膜の癒着の強い部分について,手術中に剥離した際に,結果的に網膜に裂孔あるいは菲薄化が生じた部分であると推認するのが相当である(被告c医師反訳書1・18頁,i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・48,49頁。なお,原告は,術後眼底図の赤丸印は,甲A1の2・176頁の図では青色で囲んだ赤色で記載されていることから,全てが裂孔である旨主張するが,被告c医師反訳書1・18によれば,被告c医師は,裂孔相当に菲薄化した部分も含めて赤丸印として記載していると認めるのが相当である。)。 したがって,術後眼底図の裂孔あるいは菲薄化部分が本件左眼第1回手術中に発生したことが推認されるとしても,それが駆逐性出血のリカバリー手技として,網膜下の血液や網膜下液の排除を行うために意図的に開けられたものであると推認することはできず,原告の主張は理由がない。 ウ液体パーフルオロカーボン,CFガスの使用及び三方活栓の不使用 原告は,被告病院の医師らは,本件左眼第1回手術中,網膜下にたまった血液を排除するために,血液の排出の用途で用いられる液体パーフルオロカーボン(PFCL)を使用し,さらに,ガスタンポナーデにCFガスを使用しているところ,これらは 左眼第1回手術中,網膜下にたまった血液を排除するために,血液の排出の用途で用いられる液体パーフルオロカーボン(PFCL)を使用し,さらに,ガスタンポナーデにCFガスを使用しているところ,これらは駆逐性出血に対処したもので あると主張する。 そして,本件左眼第1回手術において,液体パーフルオロカーボンが利用され,タンポナーデのためにCFガスが利用されていることは前 記のとおりであるところ,液体パーフルオロカーボンが血腫の圧出に利用されることがあること(甲B1の3⑫,甲B1の7③),CFガス が眼内滞留期間が6週間と長く,ガス注入時の膨張率も高いとされてい ること(甲B1の7①)が認められる。 しかしながら,被告病院の担当医師らは,本件左眼第1回手術において,網膜下の皺襞か牽引性網膜剥離のための襞かを認めたため,液体パーフルオロカーボンを注入して網膜を伸展させ,網膜の復位を確認したことが認められること(前記1キ),文献上も液体パーフルオロカーボンは水より重い液体であって,これを用いて容易に網膜の復位が得られる方法が紹介されていること(甲B1の7⑦,乙B2・260頁),液体パーフルオロカーボンを使用することで,網膜上膜や増殖膜や硝子体による牽引の残存が観察しやすくなるとされていること(乙B2・263頁)に照らせば,液体パーフルオロカーボンが使用された事実から,駆逐性出血の存在を推認することはできない。 また,CFガスは,硝子体手術において利用される主なものの一つ として文献上紹介されていること(甲B1の7①),本件左眼第1回手術時に,原告の左眼には増殖性変化が強かったから(前記1キ),長期間のガスタンポナーデを行うことには合理性があると考えられることからすれば,本件左眼第1回手術でCFガスが使用された事実から 第1回手術時に,原告の左眼には増殖性変化が強かったから(前記1キ),長期間のガスタンポナーデを行うことには合理性があると考えられることからすれば,本件左眼第1回手術でCFガスが使用された事実から,駆 逐性出血の存在を推認することもできない。 さらに,原告は,本件左眼第1回手術において,三方活栓が使用されていないと主張する。そして,本件左眼第1回手術で材料欄の三方活栓の部分に使用の記載が存しないことが認められる(甲A1の2・173頁)。しかしながら,本件左眼第1回手術中には,液・空気置換が行われていることは前記認定のとおりであるから(前記1キ),これに必要な三方活栓が使用されていないとは認め難く(甲B1の13・82頁),これを前提とする原告の主張も採用できない。 エ網膜下の襞の存在原告は,本件左眼第1回手術において,網膜下に襞があったこと,本 件左眼第2回手術時には,血液凝固によるフェブリンネットが発見されていることから,これらが,駆逐性出血により脈絡膜が剥離して襞になるような状況が起きていたことを裏付けるものであると主張する。 しかしながら,網膜下の襞があったとしても,それが直ちに駆逐性出血を推認させる事実とは認められないし,増殖膜の処理にあたっては,新生血管からの出血を避けられない以上(乙B4・83頁),フェブリンネットは膜処理の際に生じた出血によるものと考えられ,直ちに駆逐性出血の存在を推認させる事実と言うことはできない。 オ光凝固による瘢痕化が一部出にくかったこと原告は,本件左眼第1回手術において,汎網膜光凝固をするも3箇所に瘢痕が出にくかったのは,出血性脈絡膜剥離や網膜にあいた裂孔がふさがらなかったことから,広く網膜色素上皮が露出することとなるとともに,駆逐性出血の一部が左眼の網膜下に残存して出血塊となり,本 箇所に瘢痕が出にくかったのは,出血性脈絡膜剥離や網膜にあいた裂孔がふさがらなかったことから,広く網膜色素上皮が露出することとなるとともに,駆逐性出血の一部が左眼の網膜下に残存して出血塊となり,本件左眼第1回手術における光凝固による瘢痕化を妨げたことによると主張する。 そして,本件左眼第1回手術では,3箇所に瘢痕化が出にくかったことが認められる(甲A1の2・177頁)。 しかしながら,変性が強く器質化した網膜については,網膜が平らになるのに時間がかかり,瘢痕が出にくいこと(被告c反訳書1・22頁)からすると,光凝固による瘢痕が出にくかったことから,駆逐性出血の一部が左眼の網膜下に残存して出血塊が生じたものであると推認することはできず,原告の主張には理由がない。 カ本件左眼第1回手術当日及びその後の出血について原告は,本件左眼第1回手術の当日から翌日にかけて透見が不能になるほどの出血を来し,被告病院では,同日から翌日にかけてガーゼを大量に使用していること,また,原告は,平成13年1月5日及び同年2 月8日にも大量に出血していることは,本件左眼第1回手術時の大量出血を裏付けるものであると主張する。 そして,原告の左眼は,9月1日,前房出血のため透見不能になったこと,平成13年1月5日にも,硝子体出血のため,眼底がよく見えない状態となったこと,2月8日にも左眼が硝子体出血のため透見できない状態になったことが認められる(前記1(2)ク(イ),ス(エ),タ(ア))。 しかしながら,①硝子体手術後に硝子体出血を生じることが稀ではなく,その原因としても,手術時に残存した硝子体出血,新生血管からの再出血,強膜創からの出血など複数の可能性が考えられること(乙B4・85頁,j鑑定人,i鑑定人,k鑑定人,鑑定・42ないし46頁),②特に本件では,眼 も,手術時に残存した硝子体出血,新生血管からの再出血,強膜創からの出血など複数の可能性が考えられること(乙B4・85頁,j鑑定人,i鑑定人,k鑑定人,鑑定・42ないし46頁),②特に本件では,眼底写真上確認できる新生血管が多く,9月1日の出血が第1回手術の翌日の出血であることも考え合わせると,線維血管性増殖膜を外した時に残存する新生血管の芽のようなもの(エピセンター)からの出血の可能性が高いと考えられること(i鑑定人,鑑定・44頁),③診療録上も通常生じる出血を越えた大量出血が生じたことを窺わせる記載がないこと,④硝子体手術においては,硝子体をとり除いた後を液体で置換した状態で,術後腹臥位を保持するため,手術後の出血が少量であっても,出血が前房内にまで流入し,大量出血のように感じることがあること(k鑑定人,鑑定・45頁)を併せ考えると,本件左眼第1回手術当日及びその翌日に生じた出血が大量であったと認めることはできず,手術翌日に原告の左眼が透見不能になったことをもって,同手術時にの駆逐性出血等の大量出血が存在したことを推認することはできない。 また,原告は,平成13年1月5日及び2月8日にも,硝子体出血のため,左眼が透見できない状態になったことが認められる。 しかしながら,増殖糖尿病網膜症では,手術後約75パーセントの症 例に新たな出血が見られるとの文献も存すること(甲B1の7⑨)に照らせば,術後出血があったことから,直ちに本件左眼第1回手術時に駆逐性出血に準ずる大出血が起こったと推認することはできない。 キ本件左眼第2回手術前に確認された胞状網膜剥離さらに,原告は本件左眼第2回手術前に,原告の左眼に胞状網膜剥離が確認されたことから,本件左眼第1回手術において出血性脈絡網膜剥離が発生し,その排出のために意図的裂孔を作成したこと れた胞状網膜剥離さらに,原告は本件左眼第2回手術前に,原告の左眼に胞状網膜剥離が確認されたことから,本件左眼第1回手術において出血性脈絡網膜剥離が発生し,その排出のために意図的裂孔を作成したことをが裏付けられると主張する。 この点,左眼第1回手術前に胞状網膜剥離が存在したことは被告c医師も争うものではない。 しかしながら,増殖網膜症に網膜裂孔を生じた場合,増殖組織の牽引に加えて裂孔から液化硝子体液が組織下に移動することにより,牽引性裂孔原性網膜剥離から急速に広がる胞状網膜剥離が生じうることが指摘されており(乙B6・25頁),9月20日に観察された胞状網膜剥離は,本件左眼第1回手術時に処置をした裂孔が,術後の増殖性変化あるいは周囲の残存出血によって凝固に勝る牽引力が働いたことにより,閉鎖不全となり,そこから硝子体液が網膜下に流入し,網膜が盛り上がるようにして生じた裂孔原性網膜剥離であるとも考えられること(乙A2・31頁),術後網膜剥離については,糖尿病硝子体手術の15パーセント,増殖性硝子体網膜症では22パーセントで再発が見られると報告されていること(乙B3・795頁)に照らせば,本件左眼第2回手術前に胞状網膜剥離が確認されたことから,本件左眼第1回手術において原告の主張する出血性脈絡網膜剥離があったと推認することはできない。 ク本件左眼第2回手術時における出血塊の存在原告は,本件左眼第2回手術時に原告の左眼の出血塊が存在したのは,本件左眼第1回手術時に大量出血があったことを裏付けるものであると 主張する。 そして,本件左眼第2回手術において,被告c医師らは,本件左眼第1回手術の際の出血塊が,裂孔の閉鎖,凝固を妨げたのではないかと考えたと認められることは前記認定のとおりである(1(2)サ)。 しかしながら,増殖膜の処理にあたっ において,被告c医師らは,本件左眼第1回手術の際の出血塊が,裂孔の閉鎖,凝固を妨げたのではないかと考えたと認められることは前記認定のとおりである(1(2)サ)。 しかしながら,増殖膜の処理にあたっては,新生血管からの出血が避けられない以上(乙B4・83頁),第1回手術の際の増殖膜の処理に際して生じた出血が裂孔閉鎖を妨げた可能性は否定できず,したがって,仮に出血塊が存在したとしても,そのことが直ちに大量出血の存在を推認させるものとは言えない。 ケよって,原告の指摘する各事実は,いずれも直ちにインフュージョンカニューラの穿通不足や,駆逐性出血等の大量出血を推認させるものとは言えない。 (3)原告の眼球ろうの原因についてア原告の左眼は,5月23日の初診時,裸眼視力0.4(矯正視力1. 0),8月30日裸眼視力0.2(矯正視力0.5)であったものが,本件左眼第1回手術後,出血により透見不能となり,9月20には裸眼視力0.1(矯正不能)となったものの,その後,本件左眼第2回手術,本件左眼第3回手術を経て,結局眼球ろうに至ったことは,前記認定のとおりである(前記1(2)ア(イ),カ(エ),ク(イ),コ(イ),チ)。 イしかしながら,この点については,以下の点が指摘できる。 (ア)原告は,平成7年には糖尿病網膜症を指摘され,平成9年には増殖性糖尿病網膜症と診断されていたが,これを長年放置してきたものであり(前記1(1)),平成12年5月23日に被告病院眼科外来を訪れた時には,既に眼底周辺部の増殖性変化は進行し,線維血管性増殖膜の拡大や周辺部牽引性網膜剥離の進行により,重症度の高い増殖性糖 尿病網膜症であった。初診時まで著明な視力低下を来していなかったのは,後極部の変化が比較的軽度なまま推移していたためと考えられる(乙B6・20頁,乙 網膜剥離の進行により,重症度の高い増殖性糖 尿病網膜症であった。初診時まで著明な視力低下を来していなかったのは,後極部の変化が比較的軽度なまま推移していたためと考えられる(乙B6・20頁,乙B7)。 (イ)網膜表面に掲載された線維性増殖膜や硝子体内に立ち上がる新生血管の見られる症例では,網膜剥離や高度の硝子体出血の原因になり,硝子体手術の適応になるが(乙B6),原告の場合,硝子体手術の難度は,以下のとおり高いものであった(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人)。 a5月23日の初診時における原告の左眼の眼底写真(甲A4の1,4)によれば,血管の不自然な蛇行等と網膜の色調が白濁して見える部分があり,活動性の高い線維血管性の増殖膜が広範に広がって,一部牽引性網膜剥離の所見があることが認められる(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・34,35頁)。 bまた,同日の左眼の眼底写真(甲A4の7)によれば,下方に硝子体の濁りがある部分があり,硝子体出血があること認められる(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・35,36頁)。 cさらに,同日の左眼の眼底写真(甲Aの4の1)によれば,網膜前出血の所見と,神経乳頭状で増殖膜と神経乳頭の癒着が見られる所見があり,後部硝子体剥離がないことが推認される(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・36,37頁)。 dそして,同日の左眼の眼底写真(甲Aの4の3)によれば,増殖膜と網膜が面状あるいは線状に強く結合し,癒着している部分のあることが推測される(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・37ないし29頁)。 eしたがって,網膜を傷つけずに増殖膜と網膜を剥離し,硝子体を切除することが難しい,難度の高い症例であると言える(i鑑定人, j鑑定人,k鑑定人,鑑定・40ないし42頁)。 (ウ)原告の左眼は,本 たがって,網膜を傷つけずに増殖膜と網膜を剥離し,硝子体を切除することが難しい,難度の高い症例であると言える(i鑑定人, j鑑定人,k鑑定人,鑑定・40ないし42頁)。 (ウ)原告の左眼は,本件左眼第1回手術,本件左眼第2回手術後も病状が治まらず,10月3日ころからは眼圧が低下し,10月31日には裂孔か剥離を疑う所見が,11月14日には脈絡膜剥離と網膜剥離が,12月26日には左前眼部のルベオーシス(異常な新生血管)が確認され,平成13年12月25日の本件左眼第3回手術時には,前部増殖性変化が認められた(前記1(2)ス(ア),(イ),(ウ),甲A1の2・304頁,なお,本件左眼第3回手術記録中には,「AHFVP(前部硝子体線維血管増殖)の所見(-)」との記載があることが認められるが(甲A1の2・304頁),一方,同一手術記録中には,下方鋸状縁周囲に「Fibrosis(前部増殖性変化)(++)」との記載があること,硝子体手術後に硝子体出血と前房出血が生じたことを考え合わせると,客観的には前部硝子体線維血管増殖が存在していたと推認するのが相当である(被告c医師反訳書1・27頁)。)。 (エ)そして,本件左眼第3回手術後も,なお病状は進展し,平成13年2月8日にはルベオーシスが増加傾向で,その後前房出血著明のため透見不能の状態が続き,同年7月10日には,左眼眼球ろうとの診断を受けた(前記1(2)タ(ア),(イ))。 (オ)以上の経緯に照らせば,原告の左眼は,増殖性糖尿病網膜症の進行により,前部増殖性変化が進行し,これによる毛様体機能低下により,房水産生機能が落ち,その結果低眼圧に至り,眼球ろうが生じたとみるのが相当である(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・30ないし32頁)。 ウ以上の経緯に照らせば,原告の左眼が眼球ろうに至っ り,房水産生機能が落ち,その結果低眼圧に至り,眼球ろうが生じたとみるのが相当である(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・30ないし32頁)。 ウ以上の経緯に照らせば,原告の左眼が眼球ろうに至ったのは,増殖性糖尿病網膜症の進行によるものと考えられ,(ア)に記載の経緯から,本 件左眼第1回の手術時に,インフュージョンカニューラの穿通不足や,駆逐性出血があったと推認することもできない。 (4)駆逐性出血についてむしろ,本件左眼第1回手術については,以下の点を指摘することができる(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・46ないし47頁)ア本件左眼第1回手術は,前記認定のとおり,ガスタンポナーデを行い,網膜復位まで確認し,眼底図を作成するなどして終了した。そして,手術中に異常な大量出血があったことや,灌流水が脈絡下に流入したことを窺わせる事情は認められず,手術後の経過としても,残存ガス量が低下した後にも一定期間眼圧が維持されており,上部については継続して光凝固による瘢痕が確認されている。 イ加えて,手術中に駆逐性出血が生じたような場合の措置としては,直ちに閉創し,目の外側の強膜側から出血を抜くという処置をとることが一般的であるところ,本件においては,このような措置がとられた形跡は存在せず,強膜側から水を抜くという措置によって,本来残存しているはずの跡が存在することについて,後医の診断も含め,何らそれを窺わせる証拠は存しない。 ウ駆逐性出血が生じた場合には,視力の点においても,通常,即座に失明に近いような状態になってしまうものであり,本件のように手術後に0.1から0.2の視力が出るとは考え難い。 エそして,駆逐性出血のような重篤な合併症が生じた場合には,診療録に当該合併症ないし対処を記載するのが通常であるにもかかわらず,何ら 件のように手術後に0.1から0.2の視力が出るとは考え難い。 エそして,駆逐性出血のような重篤な合併症が生じた場合には,診療録に当該合併症ないし対処を記載するのが通常であるにもかかわらず,何らそれを窺わせる記載も存しない。 以上を併せ考えると,本件では,駆逐性出血が生じたとは認め難く(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・53,54頁),また,いわゆる駆 逐性出血とはいえないまでも,これに準ずるような大量出血が生じたとも認め難いと言うべきである(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・53,54頁)。 (5)したがって,本件左眼第1回手術において,被告c医師がインフュージョンカニューラの穿通不足により灌流水を途絶させ,灌流水を脈絡膜下又は網膜下へ流入させたことによって急激な低眼圧の発生を招いたとの事実を認めることはできないから,これを前提とする原告の主張は理由がない。 争点2(本件右眼手術における注意義務違反の有無)について(1)原告は,硝子体手術を行う前に光凝固を行う場合には,1回での照射は汎光凝固と同様に300発から400発とし,間隔は1週間とし,凝固瘢が過剰,過密にならないように配慮し,部位ごとに出力や時間を変えて適正に凝固するなど,分割照射をすることとされていることから,可能な限り事前に汎網膜光凝固を施行し,その後に硝子体手術を行うべきであると主張する。 そして,汎網膜光凝固の基本手技として,硝子体手術の前処置として,汎網膜光凝固又は可能な限り広範囲の光凝固を行うべきであり(甲B1の10・74頁),凝固斑の数は1回200ないし300発にとどめ,回数を多くするのが安全である(甲B1の10・57頁)との記載が存するところ,前記認定事実によれば,被告らが術前に光凝固分割照射治療を行わなかったこと,硝子体手術時に光凝固照射とし 00発にとどめ,回数を多くするのが安全である(甲B1の10・57頁)との記載が存するところ,前記認定事実によれば,被告らが術前に光凝固分割照射治療を行わなかったこと,硝子体手術時に光凝固照射として2099発を行ったことが認められる(前記1(2)アないしエ)。 また,原告は,平成17年4月8日時点で,求心性視野狭窄の状態であることが認められる(甲A3,甲A8の2,被告c医師反訳書1・10頁)。 (2)しかし,本件においては,以下の点を指摘することができる。 ア5月23日時点での原告の右眼の状態(ア)前記認定のとおり,原告は,平成7年には糖尿病網膜症を指摘され,平成9年には増殖性糖尿病網膜症と診断されていたが,これを長年放置 し,平成12年5月23日に被告病院眼科外来を訪れた時には,既に眼底周辺部の増殖性変化が進行し,線維血管性増殖膜の拡大や周辺部牽引性網膜剥離の進行により,重症度の高い増殖性糖尿病網膜症であったと認められる(前記2(1)ウ(イ))。 (イ)5月23日時点での原告の右眼後極部の眼底写真(甲A4の11)によれば,同写真上には,網膜の色調が変化し,血管の走行が拡張,蛇行を伴って正常とは異なる像を示している部分が広範囲にわたって存し,増殖膜も存在していることが認められ,中心窩を除いた部分の広範囲に牽引性網膜剥離があったと判断することができる(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・1ないし5頁)。したがって,原告の病状は中心窩に及んでおらず,そのため右眼の矯正視力は0.7であったことが認められるけれども,糖尿病網膜症としては,重症の部類に入るものであったと認められる(被告c本人反訳書1・3,4頁)。 イ手術適応牽引性網膜剥離は,自然復位することはないので,硝子体手術が唯一の治療法とされている(乙B6・20頁,乙B7) 症の部類に入るものであったと認められる(被告c本人反訳書1・3,4頁)。 イ手術適応牽引性網膜剥離は,自然復位することはないので,硝子体手術が唯一の治療法とされている(乙B6・20頁,乙B7)。増殖糖尿病網膜症であっても光凝固が施行可能な場合には,まず汎網膜光凝固術を完成させることが治療の第一選択となるが,牽引性網膜剥離を認める例では,もはや光凝固が施行困難となり,硝子体手術が治療の第一選択となる(乙B7・2頁)。 ウ光凝固法光凝固法は,レーザーの照射により,視細胞を殺すことによって網膜全体の低酸素状態を解消するために行う方法であるが,網膜剥離が起きている網膜に対しては施行することが不可能であり,そのような状況で,光凝固を強行すると,網膜の手前に存在する増殖膜にレーザーの熱エネルギーが加わることで膜が更に収縮して,網膜を牽引し,新たな裂孔,あるいは より広範囲な牽引性網膜剥離を生じる危険性が高いといえる(k鑑定人,j鑑定人,i鑑定人,鑑定・5ないし9頁)。 エ超音波検査,蛍光眼底検査等の不実施についてなお,原告は,超音波検査もフルオレセン蛍光眼底検査をもとにしたパノラマ写真の作成も行われていない中で,症状の重篤度や手術の必要性を判断し,治療計画を立てることは困難であると主張する。 しかしながら,超音波検査は,一般的に中間透光体,水晶体や硝子体が濁っていて眼底が見えない場合に網膜剥離の有無を判断するための検査であって,原告の症例のように眼底写真が鮮明であり,神経や網膜が透見できる場合は,超音波検査は必要がないと認められる(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・5頁)。 また,蛍光眼底検査についは,糖尿病網膜症においては不可欠であるとする文献もあるけれども(甲B1の6②,甲B1の10・16,17頁),同文献等によっても,上記 ,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・5頁)。 また,蛍光眼底検査についは,糖尿病網膜症においては不可欠であるとする文献もあるけれども(甲B1の6②,甲B1の10・16,17頁),同文献等によっても,上記検査は網膜剥離の範囲を同定するためではなく,むしろ血管,血液の循環の状態や新生血管の有無などを見る等の目的で用いられるものとされていることに照らせば,本件のように,眼底写真によって増殖性変化等血管の状態が明らかな病態の場合にまで,実施を義務づけているものとはいえず(甲B1の6②19頁,被告c反訳書1・5頁),かえって,本件のような症例で蛍光眼底撮影をやることは過剰な検査になるという指摘もあること(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・5頁)からすると,蛍光眼底検査も必要がないと言わざるをえない。 したがって,超音波検査,蛍光眼底検査が行われていないことから,原告の症状の重篤度に関する前記認定が左右されるものではない。 (3)分割照射についてそこで,原告に対し,術前に光凝固の分割照射を行わなかったことの適否につき検討する。 原告の提出する文献には,硝子体手術の前処置として,汎網膜光凝固又は可能な限り広範囲の光凝固を行うべきであるとする記載が見られることは前記のとおりである(甲B1の5①,B1の10・55,57,74頁)。 しかしながら,①原告指摘の文献においても,硝子体出血例,網膜剥離が存在する症例などでは,光凝固が困難な場合があるとされていること(甲B1の10・57頁),②原告の右眼のように,周辺部に広範囲に線維血管性増殖膜や牽引性網膜剥離が生じている症例では,光凝固の施行自体が困難であること(乙B7・4頁,i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・6ないし10頁)からすると,本件において,手術前に光凝固を照射すべきであると認めることはできな ている症例では,光凝固の施行自体が困難であること(乙B7・4頁,i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・6ないし10頁)からすると,本件において,手術前に光凝固を照射すべきであると認めることはできない。 (4)照射数についてまた,原告の提出する文献の中には,凝固斑の数は1回200ないし300発にとどめ,400発を超えるのは過剰であるとの記載があること(甲B1の10・57頁),平成17年10月14日撮影の原告の右眼の眼底写真(甲A8の3・3丁)によれば,光凝固が密に入っていると予想されること(i鑑定人,k鑑定人,鑑定・28,29頁)が認められる。 しかしながら,①上記文献は,通常外来で行われている汎網膜光凝固に関する文献であって,性質の異なる硝子体手術中の光凝固について妥当するものとは言えないこと,②事前の光凝固が少ない症例において,術中に十分な光凝固を行わずに硝子体手術を終了すると,術後に血管新生緑内障起こる可能性があり,血管新生緑内障は非常に失明に結びつきやすい重篤な合併症であること,③硝子体手術中の光凝固については,術後の黄斑浮腫は一般に少ないこと,④事後の分割照射については,重症の糖尿病網膜症の場合,虹彩の部分に炎症が生じ瞳が広がりにくい,あるいは癒着するという可能性が高く,適切なレーザー光凝固を行うことが困難になってしまうことが想定されること,⑤臨床上も2000発程度の照射は,一般的に行われているもので あること(乙B4・77,78頁,乙B5・11頁,i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・19,20頁)を合わせて考えると,手術中の光凝固について,1回の照射を300発から400発に抑えるべきであるとの注意義務を認めることはできない。 (5)原告の右眼の求心性視野狭窄の原因についてなお,原告は,平成17年4月8日,l眼科クリ 凝固について,1回の照射を300発から400発に抑えるべきであるとの注意義務を認めることはできない。 (5)原告の右眼の求心性視野狭窄の原因についてなお,原告は,平成17年4月8日,l眼科クリニックの担当医師によって,高度の求心性視野狭窄の状態であると診断され,その原因は,広範囲の光凝固瘢痕によると思われる旨指摘されていることが認められる(甲A3,甲A8の2,被告c医師反訳書1・10頁)。 しかしながら,①原告の右眼は,前記のとおり,初診時から線維血管性増殖膜の拡大や周辺部牽引性網膜剥離の進行が認められる重症度の高い増殖性糖尿病網膜症であったこと,②増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を行い,術後の視野について検討を行ったところ,ゴールドマン視野検査において86パーセントに視野異常が認められたこと,その原因としては,網膜血管床閉塞領域,網膜光凝固の瘢痕,網膜剥離,網膜循環の低下が挙げられており,さらに硝子体手術という侵襲が加わったことによる視野異常の原因として,眼内光凝固等の瘢痕,術中の光毒性,増殖膜処理時の網膜への機械的侵襲,灌流液・ガスタンポナーデ・シリコンオイルなどによる影響も考えられること(i鑑定人意見書添付参考資料1),③原告の場合も,長期間,牽引性網膜剥離が持続したことによる網膜機能の低下,視神経の虚血に硝子体手術自体による侵襲も加わって,網膜の萎縮が生じ,求心性視野狭窄に至ったと考えるのが相当であること(i鑑定人,j鑑定人,k鑑定人,鑑定・10ないし17頁)に照らせば,原告の求心性視野狭窄は,増殖糖尿病網膜症の進行に伴う不可避の合併症であったと見るのが相当であって,原告に求心性視野狭窄が生じたからといって,被告病院の担当医師らに義務違反があったと推認することはできない。 (6)したがって,被告病院の担当医師らが の合併症であったと見るのが相当であって,原告に求心性視野狭窄が生じたからといって,被告病院の担当医師らに義務違反があったと推認することはできない。 (6)したがって,被告病院の担当医師らが,硝子体術前に光凝固分割照射を行わなかったこと,硝子体手術時に2099発の光凝固照射を行ったことについて,注意義務違反があると認めることはできない。 第4 結論 以上によれば,原告の主張する義務はいずれも認めることができない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官田代雅彦裁判官古谷真良
▼ クリックして全文を表示