昭和31(う)14 放火未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和31年8月21日 仙台高等裁判所 秋田支部 破棄自判
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役壱年六月に処する。      原審における未決勾留日数中百日を右本刑に算入する。          理    由  検察官水野久の陳述

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判決文本文3,428 文字)

主文原判決を破棄する。 被告人を懲役壱年六月に処する。 原審における未決勾留日数中百日を右本刑に算入する。 理由検察官水野久の陳述した控訴趣意は検察官高橋千代作作成名義の控訴趣意書の記載と同一であり弁護人加藤定蔵の陳述した答弁は同弁護人作成名義の答弁書の記載と同一であるからこれらを夫々引用する。 検察官の控訴趣意第一点について。 原判決は被告人が原判示日時場所において本件枯柴に火を放ち、その枯柴の一部を焼燬したことは証拠上明かであるが、被告人が本件家屋を焼燬する意思(未必の故意をも含む)はなかつたことが認定されるとし、その理由として(一)乃至(五)の理由を挙げこれらの諸理由を綜合して本件は刑法第百八条所定の放火罪を以て問擬しえないものと断じているが後述の如くこれらの理由によつては輙く被告人にいて本件家屋焼燬の意思がなかつたものと即断しえない。以下その理由を詳述することとし最初に原判決のあげた(一)乃至(五)の理由につい<要旨>て検討を加える。然るところ右(一)乃至(五)の理由は(四)の理由以外は概ねこれを肯認しうるところであり且また本</要旨>件犯行及びその前後の被告人の行動を概括的に観察すると被告人の主たる意図は本件家屋を焼燬するにあつたものではなく、これを火災の危険にさらし家族等に恐怖心を与え被告人の意を迎えなかつたことに対する仕返しをなし引いては被告人の意思を無視しえないように仕向けるにあつたことは疑のないところではあるが、その行動の過程において被告人において本件家屋焼燬の意思特に未必の故意があつたか否は前述の如き被告人の主たる意図又は目的とは別個に検討されなければならぬ事柄である。換言すれば被告人には所論にいわゆる本件家屋焼燬の確定的犯意はなかつたことは明らか 燬の意思特に未必の故意があつたか否は前述の如き被告人の主たる意図又は目的とは別個に検討されなければならぬ事柄である。換言すれば被告人には所論にいわゆる本件家屋焼燬の確定的犯意はなかつたことは明らかであるが、確定的犯意がないからと云つて直に未必の故意も存しなかつたとは速断しえないものであるところ原審の挙げた理由は被告人に確定的犯意存しなかつたことの証明としては十分であるが未必の故意もなかつたことの証明としては不十分のそしりを免ない。即ち原審の検証調書の記載によれば本件枯柴のおかれた場所、その枯柴より南側障子及び天井桁或は棟木に至る距離は所論指摘のとおり極めて近接しておりこの数量の枯柴が焼燬するにおいてはその火力は直に家屋の一部に燃え移り該家屋を焼燬するに至るべきことは疑問の余地なく、更に被告人の検査官に対する昭和三十年八月十七日附供述調書第四項には被告人においては家が焼けた場合に電線が切れて漏電等をしてはと思つて予め電灯の安全器を開け姉から借りて来たマツチをとり枯柴の枯葉のついている部分にマツチを擦り火をつけた旨の被告人の供述記載があり、更に原審における検証の際にも同人は枯柴に火をつけたらそのまま家まで燃えるかも知れないと思い家まで燃えた場合安全器をそのままにしておくと漏電かなんかのために他家に迷がかかるかも知れないと思い安全器を外した旨の供述をなしており原審公判廷及び当審における検証の際にも立会人として同様な供述をなしているのであり、且前述の枯柴の質と量特にそれが十分乾燥された燃え易いものであつたこと即ち原審検証調書の記載によれば小枝の多い細い柴枝であり普通乾燥して燃料に供されているものであること、而してその量も相当多量であり即ち該調書の記載によれば枯柴は約五尺長さのもので数十本を一束にしてなわで縛つたものであると認められること、な い柴枝であり普通乾燥して燃料に供されているものであること、而してその量も相当多量であり即ち該調書の記載によれば枯柴は約五尺長さのもので数十本を一束にしてなわで縛つたものであると認められること、なおその枯柴が最も燃えた時の炎の高さは約四尺五寸もあつたこと等の諸事実を綜合すると被告人は前記枯柴に火を点じこれが焼燬するにおいては本件家屋に延焼して之を焼燬すべきことを十分認識していたものと認めるを相当とする。されば被告人には本件家屋焼燬の未必の故意存しなかつたものと認定をした原判決は此の点において事実を誤認した違法があり且つその誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから到底破棄を免れない。論旨は理由がある。 弁護人の答弁は要するに検察官の所論は原審の採用しない証拠に基いて原審のなした事実認定を非難するものであつて失当であると云うに帰著するけれども、原判決挙示の証拠のみによつても優に被告人の本件家屋焼燬の未必の故意は勿論公訴事実全般を認定しうるのであるから所論は採るをえない。論旨は理由がない。 検察官の控訴趣意第二点について。 前述のとおり被告人には本件家屋放火の犯意存し本件枯柴に点火したのであるがAの発見するところとなり該家屋を焼燬するに至らなかつたものであるから後記自判の際示す如き擬律をなすべきに拘らず原判決は前述の如く事実を誤認した結果之が擬律を誤りその誤りは判決に影響を及すこと明らかであるから原判決は此の点においても亦破棄を免れない。論旨は理由がある。 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十二条第三百八十条により原判決を破棄し同法第四百条但書により改めて当裁判所において判決する。 (罪となるべき事実)被告人は山形県飽海郡a村大字b字cで出生、小学校六年卒業後炭焼き、土工等の仕事に従事し、その間二、三年位北海道へ土工の 法第四百条但書により改めて当裁判所において判決する。 (罪となるべき事実)被告人は山形県飽海郡a村大字b字cで出生、小学校六年卒業後炭焼き、土工等の仕事に従事し、その間二、三年位北海道へ土工の出稼ぎに出向いたこともあつたが収入は全部被告人一人で費消し家計を助けることもなく時々飲酒しては乱暴し家人を困惑させていたものであるが、昭和三十年八月五日午前六時頃自宅で実母Bに対し小遣銭を要求して拒絶され同人及び弟妹等家族全員が被告人を避けて外出してしまつたので已むなく午前十一時頃同郡d町に映画見物に出かけその帰途飲酒して午後六時半頃帰宅し、再び実母に対して金員を要求したのであるが前同様拒絶され又も家族全員が被告人を避けて姿をくらましたのに憤慨し、その意趣はらしをする考の下に午後七時頃右B方薪小舎から同人所有の枯松枝木二束(証第三号の一、二)を取出し、その内の一束(証第三号の一)を同家十畳の間に置きこれに点火するにおいては被告人の実母らの居住する同人所有の杉皮葺平家建家屋を焼燬するに至るべきことを認識しながらマツチ(証第一号)で前記枯柴に点火しその一部を焼燬したのであるが、Aに発見消火されたために前記家屋を焼燬するに至らなかつたものである。 (証拠の標目)一司法警察員作成の実況見聞書一原審及び当審における受命裁判官の各検証調書一原審第二回公判調書中証人B、C、Aの各供述記載部分一当審における受命裁判官の証人Bに対する証人尋問調書一押収にかかる(イ) 小型煙草用マツチ一個(証第一号)(ロ) 畳上敷一枚(証第二号)(ハ) 松枯柴木一束(証第三号の一)(ニ) 同一束(証第三号の二)一被告人の検察官に対する昭和三十年八月十七日附供述調書一被告人に対する身上調査についての回 )(ハ) 松枯柴木一束(証第三号の一)(ニ) 同一束(証第三号の二)一被告人の検察官に対する昭和三十年八月十七日附供述調書一被告人に対する身上調査についての回答書(法律の適用)被告人の判示所為は刑法第百十二条第百八条に該当するを以てその所定刑中有期懲役刑を選択し未遂にかかるものであるから同法第四十三条本文第六十八条第三号第七十二条により未遂減軽をなし犯情憫諒すべきものがあるので同法第六十六条第六十七条第七十一条第六十八条第三号第七十二条により更に酌量減軽をした刑期範囲内において被告人を懲役一年六月に処し、同法第二十一条により原審における未決勾留日数中百日を右本刑に算入し、原審ならびに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により全部被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官松村美佐男裁判官大島雷三裁判官松本晃平)

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