平成12(行コ)19 各損害賠償請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成8年(行ウ)第10号ないし第15号)

裁判年月日・裁判所
平成13年9月19日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文22,459 文字)

主文 1 原審第10号ないし第14号事件原告らの訴えについて(1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 控訴費用は,控訴人らの負担とする。 2 原審第15号事件原告らの訴えについて(1) 原判決を取り消す。 (2) 本件を横浜地方裁判所に差し戻す。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,横浜市に対し,連帯して金1億9122万7740円及びこれに対する,被控訴人日新電機株式会社においては平成8年3月10日から,被控訴人株式会社安川電機においては同月12日から,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人らは,川崎市に対し,連帯して金8149万2158円及びこれに対する,被控訴人日新電機株式会社においては平成8年3月10日から,被控訴人株式会社安川電機においては同月12日から,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人らは,鎌倉市に対し,連帯して金2億8647万4518円及びこれに対する,被控訴人日新電機株式会社においては平成8年3月10日から,被控訴人株式会社安川電機においては同月12日から,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被控訴人らは,茅ヶ崎市に対し,連帯して金2134万5720円及びこれに対する,被控訴人日新電機株式会社においては平成8年3月10から,被控訴人株式会社安川電機においては同月12日から,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被控訴人らは,大和市に対し,連帯して金1億3503万0940円並びにこれに対する,被控訴人神鋼 ,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被控訴人らは,大和市に対し,連帯して金1億3503万0940円並びにこれに対する,被控訴人神鋼電機株式会社及び同富士電機株式会社においては平成8年3月10日から,その余の被控訴人らにおいては同月12日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被控訴人らは,秦野市に対し,連帯して金453万2000円並びにこれに対する,被控訴人神鋼電機株式会社及び同富士電機株式会社においては平成8年3月10日から,その余の被控訴人らにおいては同月12日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 当事者の主張 当事者の主張当事者の主張は,次のとおり補正し,後記2のとおり控訴人らの主張を追加するほかは,原判決の「事実」中「第二当事者の主張」の記載と同一であるから,これを引用する。 (1) 原判決28頁10行目の「同年」を「平成4年」に改める。 (2) 原判決36頁4行目の「棄却」を「却下」に,5行目の「11月27日」を「12月11日」それぞれ改める。 (3) 原判決42頁1行目及び49頁5行目の各「地方地方」を「地方」にそれぞれ改める 2 控訴人らの当審における主張原判決は,本件各自治体につきされた本件各監査請求が監査請求期間を徒過してされたものであり,かつ,徒過したことにつき正当な理由がなかったとして,本件訴えを不適法であると判断したものであるが,①本件がいわゆる「真正怠る事実」に関する事案であるか,「不真正怠る事実」に関する事案であるか,②仮に「不真正怠る事実」に関する事案であり,監査請求期間の制限を受けるとしても,その期間の起算点をどの時点に求めるか,③仮に監査請求期間の制限を前提とするとしても,こ 事実」に関する事案であるか,②仮に「不真正怠る事実」に関する事案であり,監査請求期間の制限を受けるとしても,その期間の起算点をどの時点に求めるか,③仮に監査請求期間の制限を前提とするとしても,これを徒過したことについての「正当の理由」の要件は何かの3点につき、誤った判断をしている。 (1) 本件は「真正怠る事実」に関する事案である。 ア法242条1項が定める住民監査請求及び法242条の2第1項が定める住民訴訟は,普通地方公共団体(以下,単に「地方公共団体」という。)の長又は職員の非違行為を中心とした地方公共団体に対する職務違反行為を是正するために住民に付与されている権能である。そして,法242条1項がいう「違法若しくは不当」とは,地方公共団体の長又は職員の「公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」(以下「財務会計上の行為」という。)と「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」(以下「怠る事実」という。)が地方公共団体に対する関係で職務義務に違反する場合をいうのであり,それ以外の分野について違法・不当があったとしても,それ自体は違法な財務会計上の行為を構成しない。 したがって,違法な財務会計上の行為とは,地方公共団体の財務会計上の行為に,その長又は職員の地方公共団体に対する職務規律違反などがある場合をいうものであり,このことは,一方で,地方公共団体が,当該行為たる契約(財務会計上の行為)が詐欺などによるもので,その財務会計上の行為から地方公共団体が相手方に対して実体法上の請求権を持つに至ったとしても,その長又は職員に職務違反がなければ,損害の回復措置が自律的に執られることが期待されるので,このことから直ちに住民の是正請求権を与える必要もないことになる。このような場合 求権を持つに至ったとしても,その長又は職員に職務違反がなければ,損害の回復措置が自律的に執られることが期待されるので,このことから直ちに住民の是正請求権を与える必要もないことになる。このような場合は,地方公共団体が持つに至った請求権を適切に行使せず,その不作為が違法な状態に至ったとき,「財産の管理を怠る事実」として監査請求の対象となるのである。換言すれば,地方公共団体と相手方との間の契約の瑕疵・違法(外部関係における違法)と,その長又は職員の地方公共団体に対する職務規律違反としての違法(内部関係における違法)とは別のものであり,法242条1項において違法な財務会計上の行為として規律するのは,後者の違法のあったときなのである。 イ本件についていえば,本件各自治体に対して違法行為(不法行為)を行ったのは,談合に参加した被控訴人会社ら重電メーカー各社であり,本件各自治体と被控訴人事業団との間で締結された委託協定に関しては,各自治体の長又は職員には当該自治体に対する職務違反は存在しない。したがって,「内部関係における違法」は存在しないのであるから,委託協定ないしその履行たる支払自体が監査の対象となることはないのである。後日,被控訴人らの不法行為の事実が明らかになるに至って,なお,本件各自治体の長が被控訴人らに対して損害回復の措置を執らないままに放置したとき,初めてその長による不当な行為としての「財産の管理を怠る事実」が生まれ,この事実が住民による監査請求の対象となるのである。 ウ本件においては,本件各自治体の財務会計上の行為である年度実施協定ないし同協定の一部を変更する協定の直接の相手方ではない被控訴人会社らが談合して被控訴人事業団との契約を締結したものであり,本件各自治体の長や職員の行為には,職務違反に当たる行為はない。しかも,これらの協 同協定の一部を変更する協定の直接の相手方ではない被控訴人会社らが談合して被控訴人事業団との契約を締結したものであり,本件各自治体の長や職員の行為には,職務違反に当たる行為はない。しかも,これらの協定は被控訴人事業団の発注行為に先行するから,その後の談合行為によって協定条項が左右される余地はない上,協定上の費用額は国土交通省(当時建設省)の通達に係る設計積算基準に基づいて決定されるので,内容的にも被控訴人事業団と被控訴人会社らとの間の現実の代金額によって影響されるものではない。適法に契約が締結されたのに,その後第三者の一方的な行為によって,適法だった契約がさかのぼって違法となることはあり得ないから,本件各自治体の長や職員に財務会計上の違法はない。そして,談合によって不当に競争を排除して請負代金額をつり上げ,その結果本件各自治体の負担を増大させることは,本件各自治体に対する不法行為であり,財務会計上の行為の違法から損害が発生しているわけではない。 したがって,財務会計上の行為の違法と実体法上の請求権が「表裏の関係にある」ということにはならないから,本件各監査請求に法242条2項が適用される余地はない。 エまた,原判決は,談合により本件各自治体が結果的に過大な支払を約束させられたのであるから,地方公共団体の事務処理は最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならないと定めた法2条13項(平成11年法律第87号による改正前のもの)に,また,地方公共団体の経費はその目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えてこれを支出してはならないと定めた地方財政法4条1項にそれぞれ結果的に違反するものとなり,財務会計上の行為の違法を結果的に招来するというべきであるとする。 しかし,上記各条項については,一般に,最少費用・最大効果の判断は第一次的に 財政法4条1項にそれぞれ結果的に違反するものとなり,財務会計上の行為の違法を結果的に招来するというべきであるとする。 しかし,上記各条項については,一般に,最少費用・最大効果の判断は第一次的には予算執行権限を有する財務会計職員の裁量に委ねられており,当該具体的な支出が事務の目的・効果との均衡を著しく欠き,その裁量を逸脱するものと認められるとき,初めて違法となると解されている。 公共工事の契約に関しては,あらかじめ入札予定価格が設定され,その価格は,工事請負の場合その契約金額の上限を画するものであって,業者間の談合により競争が排除されても,契約金額が入札予定価格を上回ることはあり得ない。すなわち,談合とは,契約金額を入札予定価格の水準まで押し上げるための謀議であって,それ以上の水準を追求し得るものではない。そして,入札予定価格は,国土交通省等の定める積算基準に基づき算定されるものであるから,談合の結果,契約金額が入札予定価格の基準に届いてしまったからといって,この基準自体が目的・効果との均衡を著しく欠く違法・不当な高額であるということはできない。 (2) 監査請求期間の起算点について仮に本件がいわゆる「不真正怠る事実」の事案であるとしても,監査請求期間は,最も早くとも被控訴人会社らが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反被告事件の第1回公判において犯罪事実を認めた時点(平成7年11月10日)から起算すべきである。すなわち,本件の談合行為は,いずれも秘密裡に行われていたものであるが,この事実が公になったのは,平成7年6月15日に被控訴人会社ら及びその担当者が独占禁止法3条違反の罪で,被控訴人事業団の元工務部次長が同違反幇助の罪で,それぞれ起訴されたことが翌16日に新聞報道され,さらに,同年7月 たのは,平成7年6月15日に被控訴人会社ら及びその担当者が独占禁止法3条違反の罪で,被控訴人事業団の元工務部次長が同違反幇助の罪で,それぞれ起訴されたことが翌16日に新聞報道され,さらに,同年7月13日には,公正取引委員会が被控訴人会社らに対し,独占禁止法3条違反の行為をしたとして,課徴金納付命令を発し,そのことが報道されてからである。少なくとも同報道以前において,本件各自治体が,被控訴人らに対し,現実に損害賠償請求権を行うことは不可能であり,およそ期待できないことは明らかである。したがって,平成7年6月15日以前には本件各自治体が現実に損害賠償請求権を行使することは不可能であり,同年11月10日の罪状認否以前に損害賠償請求をしないことが財産の管理を不当に怠るものと評価することにも無理がある。したがって,本件各監査請求は,監査請求期間の起算点を上記いずれにとっても1年以内に行われていることは明らかであるから,適法である。 (3) 「正当な理由」の要件についてア監査請求が期間徒過後にされたとされる場合に,これを例外的に許容すべき「正当な理由」の要件については,最高裁判所昭和63年4月22日判決(裁判集民事154号57頁,以下「昭和63年最判」という。)により,①当該行為が秘密裡にされたかどうか,②住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,③当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかという3つの基準が示されたとされている。 原判決は,以上の3つの基準を前提に,「原告らは,平成7年11月27日以降本件各監査請求をしているが,これは,原告らが,当該行為の違法性,不当性を知ることができた平成7年7月13日ごろから約4か月を経過してしたものであるから,このよう 原告らは,平成7年11月27日以降本件各監査請求をしているが,これは,原告らが,当該行為の違法性,不当性を知ることができた平成7年7月13日ごろから約4か月を経過してしたものであるから,このような期間を経過してされた本件各監査請求は,いずれも前記の『相当な期間』を徒過しているものといわざるを得ない。」としている。 イしかしながら,昭和63年最判は,当該行為から1年経過後にされたあらゆる監査請求について,「正当な理由」の判断基準の枠組みを設定したものではない上,本件とは事案を異にするものである。 また,昭和63年最判は,法242条2項ただし書の趣旨について,当該行為が地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にも1年の期間制限の趣旨を貫くことが相当でないことはいうまでもないとして,当該行為が秘密裡にされた場合の「正当な理由」について,その判断基準を判示したものにすぎない。 さらに,昭和63年最判は,「正当な理由」の有無につき,住民が相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであるとし,その相当な期間内かどうかは,4か月余を経過したかどうかとう単純な一定の期間のみで判断されるべきではなく,各事案ごとに相当な期間内か否かが判断されるべきものであって,3か月なら「正当な理由」が認められ,4か月では認められないといった単純な期間の線引きをしたものではない。 したがって,原判決が課徴金納付命令に関する報道がされたときから4か月を経過しているからという理由のみで,実質的には何らの理由を示さず,昭和63年最判の判断に従ったかのように「正当な理由」がないと判示したことは,同最判の趣旨を誤解したものであって,「正当な理由」の有無の解釈を誤ったものである。 ウ本件は,入札が自由競争によって行われ 63年最判の判断に従ったかのように「正当な理由」がないと判示したことは,同最判の趣旨を誤解したものであって,「正当な理由」の有無の解釈を誤ったものである。 ウ本件は,入札が自由競争によって行われた場合に比して,談合による入札によって工事代金額が不当に高額となったために,本件各自治体が被った損害について,不法行為に基づき被控訴人らに対して賠償請求をすべき事案であるから,まず,本件各自治体が入札は談合に基づき行われたものであるとの認識に至らなければ,そもそも損害賠償請求を行うことは不可能であり,したがって,この請求を怠ることが不当であるとの客観的な評価は成立しない。 また,談合によって本件各自治体が被った損害の立証は容易ではなく,談合の事実認定も慎重でなければならないから,談合がされていたとの疑惑報道等がされたら,とにかく早急に監査請求を行いさえすれば,談合に対する何らかの是正措置が採られることが強く期待できるというような状況にはなかったのである。 エかかる観点からすれば,刑事訴追の報道がされた時点からは5か月余,課徴金納付命令からは4か月余,課徴金納付命令による納付期限である平成7年9月13日からはわずか2か月余,刑事公判の罪状認否からはわずか17日経過したにすぎない時期にされた本件各監査請求には,「正当な理由」は当然認められるべきである。 第3 当裁判所の判断1(1) 請求原因1(当事者)の各事実は,当事者間に争いがないか,又は弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。 (2) 前記のとおり補正後の請求原因4(監査請求の経由)の各事実は,当事者間に争いがないか,又は証拠(甲1,1315ないし1319)によってこれを認めることができる。川崎市監査委員が法242条2項所定の請求期間の徒過を理由に措置請求(以下,用語を「監査請求」に統 当事者間に争いがないか,又は証拠(甲1,1315ないし1319)によってこれを認めることができる。川崎市監査委員が法242条2項所定の請求期間の徒過を理由に措置請求(以下,用語を「監査請求」に統一する。)を却下したほかは,他の5市の各監査委員は,いずれも請求には理由がないとして監査請求を棄却した。 (3) 控訴人らが主張する本件不法行為に基づく損害賠償請求権の発生原因事実とは,要するに,後記2(1)の本件各監査請求の内容と同旨の主張事実(なお,本訴においては,不干渉ルールなるものがあったことも主張している。)を前提に,談合行為(本件不法行為)によって請負代金額が引き上げられることは、「精算額」の引上げになり,その限度で「納入済額と精算額との差額」について,本件各自治体が年度実施協定に基づき被控訴人事業団に対して有する還付請求権が減縮又は消滅するから,この還付請求権の減縮・消滅が本件不法行為によって本件各自治体が被った損害であるというものである(控訴人らの平成12年8月30日付け準備書面)。 2 本件各監査請求と法242条2項の適用の有無(1) 本件各監査請求の内容(措置請求書の記載内容)は,次のようなものである(甲1,1315ないし1319,乙A7,弁論の全趣旨)。 被控訴人9社は,被控訴人事業団(以下,単に「事業団」ということがある。)の発注する電気設備工事又は自家発電設備工事(本件各監査請求に関係する工事)に関して,平成4年及び同5年の両年度については,各年度当初に事業団から工事の件名及び発注予定金額の提示を受けた上で,ドラフト会議と称する会合を開き,受注予定者を決定し,かつ,各工事の入札に先立って,受注予定者が必ず落札できるよう相指名者間で入札価格を調整するという談合を行った。もしも受注業者間に公正な競争が確保されていたとすれ る会合を開き,受注予定者を決定し,かつ,各工事の入札に先立って,受注予定者が必ず落札できるよう相指名者間で入札価格を調整するという談合を行った。もしも受注業者間に公正な競争が確保されていたとすれば,落札価格,従って契約金額は実際の価格よりも20%以上は低額になったはずである。すなわち,被控訴人9社及び同事業団は,談合という不法行為を通じて契約金額を不当につり上げることにより,工事委託者として最終的にこの契約代金を負担した本件各自治体に対し,上記差額に相当する損害を与えた。本件各自治体の長は,同自治体が上記不法行為者に対して有する損害賠償請求権を行使すべきであるのに,これを怠っているので,この損害補てんの措置を講ずるよう勧告することを求める。 (2) そこで,まず,本件各監査請求が問題としている電気設備工事及び自家発電設備工事(本件各工事)に関する本件各自治体と被控訴人事業団との間の法的関係を考える基礎的事実を概観する。 証拠(甲20ないし98,乙F17ないし27,乙J1ないし3,6,7,20,21,23,26ないし29。ただし,枝番のあるものはそのすべてを含む。以下,証拠番号の掲記につき同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア事業団は,地方公共団体(以下「委託者」ということがある。)の委託に基づき,終末処理場及びこれに直接接続する幹線管渠,ポンプ施設等の根幹的施設(以下「下水道施設」という。)の建設工事を行う(事業団法26条1項1号)が,その委託関係の基本となる委託協定(甲20「日本下水道事業団業務方法書(昭和50年8月規程第43号)」5条。なお,この規程を以下「業務方法書」という。)は,基本協定と年度実施協定とによって構成される。基本協定は,数年次にわたる建設工事の全体について,委託者が事業団に委託 0年8月規程第43号)」5条。なお,この規程を以下「業務方法書」という。)は,基本協定と年度実施協定とによって構成される。基本協定は,数年次にわたる建設工事の全体について,委託者が事業団に委託する委託の対象及び範囲を取り決め,建設工事の着手及び完成予定,予定概算事業費,その他建設工事の実施及び費用の支払等に関する基本的事項を協定するものである。年度実施協定は,基本協定基づいて,各年度の予算の範囲内において,当該年度に発注する施設の内容,費用の額及びその支払方法等の実施の細目について協定するものである。 イ事業団は,下水道施設の建設を行うときは,これに要する費用を委託者に負担させるものとされており(業務方法書6条1項),この費用の範囲は,①工事の施行に直接必要な工事請負費,原材料費その他の工事費,②工事の監督,検査その他工事の施行のため必要とする人件費,旅費及び庁費,③建設業務の処理上必要とする一般管理費,④その他建設業務の処理に伴い必要を生じた費用とされている(同条2項)。 ウこの業務方法書の定めを受け,「受託業務費用負担細則(昭和51年2月達第6号)」(乙J2。以下「細則」という。)においては,「受託業務に要する費用(以下「受託費」という。)は,直接費及び間接費に大別するものとし,直接費は,受託業務に直接必要な工事費,設計費その他の費目をもって構成し,間接費は,受託業務のため又はその処理上必要とする人件費,旅費,庁費及び一般管理費(以下これらを「管理諸費」と総称する。)をもって構成する。」(2条1項)と定め,さらに,「受託費の算定は,原則として次によるものとする。」(同条3項)として,「直接費の費目に係る経費については,積上計算により得た額とする。」(同項1号)と定めている。その上で,「下水道施設の建設に係る受託費は,次に掲 ,原則として次によるものとする。」(同条3項)として,「直接費の費目に係る経費については,積上計算により得た額とする。」(同項1号)と定めている。その上で,「下水道施設の建設に係る受託費は,次に掲げるところにより算定した額の合算額とする。」(3条1項)として,①業務方法書6条2項1号に掲げる経費の合計額(同項1号),②受託費を次に掲げる額(a5億円以下,b5億円を超え10億円以下,c10億円超)に区分して,それぞれの率(a5.3%,b4.3%,c3.3%)を乗じて得た額の合計額(同項2号)と定め,上記①と②の合算額を受託費とするものと定めるとともに,上記①の経費の算定については,「建設省所管補助金等交付規則(昭和33年建設省令第16号)に基づく補助事業の設計積算基準によるほか,これに準拠して理事長が定める基準により行うものとする。」と定めている。 エ以上のような業務方法書及び細則の定めの下に,例えば,「横浜市公共下水道根幹的施設の建設工事委託に関する基本協定」(甲22)においては,2条で建設工事の委託の対象及びその範囲を,3条で建設工事の着手及び完成予定を,4条で予定概算事業費の額をそれぞれ定め,5条1項で,事業団は,横浜市が毎年度予算に計上する範囲内において,年度実施協定で定めるところにより,建設工事を行うものと,8条1項で,建設工事に要する費用は横浜市が負担すると,同条2項で,横浜市は,前項の費用を年度実施協定で定めるところにより事業団に支払うとそれぞれ定めている。さらに,同基本協定の9条1項には,事業団は,建設工事に関し,建設業者と工事請負契約を締結したときは,速やかに横浜市にその概要を通知するものと定めるとともに,同条2項で,横浜市は,建設工事の施行に関し必要があると認めるときは,事業団に報告を求めることができると定めている 事請負契約を締結したときは,速やかに横浜市にその概要を通知するものと定めるとともに,同条2項で,横浜市は,建設工事の施行に関し必要があると認めるときは,事業団に報告を求めることができると定めている。 オそして,この基本協定に基づき締結された「平成4年度における横浜市公共下水道根幹的施設の建設工事委託に関する年度実施協定」(甲23)においては,1条で,平成4年度において事業団が施行する建設工事の内容及びその範囲を定め,2条で,その建設工事の完成期限を定め,3条1項で,同建設工事の施行に要する費用を51億5300万円(内訳・国庫補助対象額21億2000万円,市単独事業費5300万円,債務負担行為額29億8000万円)とし,同条2項で,賃金又は物価の変動等により前項の金額では建設工事を完成することが困難であると認めるときは,横浜市と事業団とが協議して,同項の金額を変更し,又は1条の建設工事の内容若しくはその範囲を変更するため,この協定を変更するものと定めている。また,同実施協定の4条で,横浜市は,次の各号に定めるところにより,建設工事の施行に要する費用を事業団に支払うとして,①3条1項の費用のうち国庫補助対象額及び市単独事業費に係る資金計画については,事業団が横浜市と協議してこれを定め,所要金額を決定する(1号),②横浜市は,前号の資金計画に基づき,事業団の請求により,所要金額を事業団に前金払する(2号),③3条1項の費用のうち債務負担行為額に係る資金計画及び支払方法等については,別に横浜市と事業団とが協議して定める(3号)とし,さらに,7条1項で,事業団は,建設工事が完成したときは,費用の精算を行うものとすると定め,同条3項で,精算の結果生じた納入済額と精算額との差額は,横浜市に還付するものと定めている。 以上のような基本協定及び年度 で,事業団は,建設工事が完成したときは,費用の精算を行うものとすると定め,同条3項で,精算の結果生じた納入済額と精算額との差額は,横浜市に還付するものと定めている。 以上のような基本協定及び年度実施協定の協定内容は,他の本件各自治体の下水道施設の建設工事に係る委託協定についても同様である。 カそして,「日本下水道事業団受託業務精算事務処理要領(昭和50年3月総企発第9号)」(乙J1。以下「精算事務処理要領」という。)には,委託者に対する精算報告について,次のように定めている。①年度実施協定による建設事業等が完成したときは,速やかに「年度完了精算報告書」により,委託者に対し費用の精算を行うものとする。この場合において,やむを得ない理由がある場合には,施設等の引渡しの日の属する会計年度の翌年度の4月15日までに行うものとする。②年度実施協定による工期が2年度にわたる建設事業等の中間年度が終了したときは,当該終了の日の属する会計年度の翌年度の4月15日までに「年度終了報告書」により,委託者に対し,年度内遂行実績を報告するものとする。 キ本件各監査請求に関係する次の各工事の工事請負契約は,以下のとおり,いずれも本件各自治体と被控訴人事業団との間で当該年度の年度実施協定又は同協定の一部を変更する協定(以下「変更協定」という。)が締結された後に,被控訴人事業団と各被控訴人会社との間で締結された。以下においては,本件各自治体ごとに,関係する基本協定と年度実施協定又は変更協定及び工事請負契約(ただし,当初契約)の各年月日を記載する。 (ア) 横浜市(平成4年度)①平沼ポンプ場電気設備工事その2(継続工事)②同発電設備工事(新規工事)基本協定昭和58年8月12日年度実施協定平成4年5月20日変更協定同年9月14日,平成5年1月29日,同年 年度)①平沼ポンプ場電気設備工事その2(継続工事)②同発電設備工事(新規工事)基本協定昭和58年8月12日年度実施協定平成4年5月20日変更協定同年9月14日,平成5年1月29日,同年3月23日,同年7月23日,同年9月24日,平成6年1月10日,同年3月18日請負契約 ①,②平成4年6月30日,請負者・被控訴人富士電機(イ) 川崎市(平成4年度)加瀬処理場拡張電気設備工事その7(継続工事)基本協定平成元年7月31日(一部変更協定平成4年7月23日)年度実施協定平成4年7月23日変更協定平成4年8月6日,平成5年3月8日請負契約平成4年9月21日,請負者・被控訴人東芝(ウ) 鎌倉市(平成4年度)①山崎下水道終末処理場電気設備工事その4(継続工事)②同電気設備工事その5(継続工事)③同自家発電設備工事(新規工事)基本協定平成元年6月22日(一部変更協定平成3年3月25日,平成4年3月30日)年度実施協定①,②平成4年5月22日,③平成4年10月30日変更協定変更協定平成5年2月1日,同年3月12日,同年7月19日,同年12月27日,平成6年3月4日請負契約 ①平成4年9月22日,②同年11月2日,③同年12月22日,請負者・被控訴人三菱電機(エ) 茅ヶ崎市(平成5年度)今宿ポンプ場自家発電設備工事(新規工事)基本協定平成3年6月3日年度実施協定平成5年6月1日変更協定平成5年7月12日,平成6年3月1日,同月16日請負契約平成5年7月5日,請負者・被控訴人安川電機(オ) 大和市(①,②平成4年度,③,④平成5年度)①北部下水処理場電気設備工事その6(継続工事)②同電気設備工事その7(継続工事)③同電気設備工事その8(継続工事)④同電気設備工事その9(継続工事)基本協定平成2年 年度,③,④平成5年度)①北部下水処理場電気設備工事その6(継続工事)②同電気設備工事その7(継続工事)③同電気設備工事その8(継続工事)④同電気設備工事その9(継続工事)基本協定平成2年6月25日(一部変更協定平成4年5月8日)(平成4年度関係)年度実施協定平成4年5月8日変更協定平成4年11月20日,平成5年3月1日,同年10月14日請負契約 ①平成4年6月23日,②平成5年1月19日,請負者・被控訴人日新電機(平成5年度関係)年度実施協定平成5年8月4日変更協定平成5年10月14日,平成6年1月14日,同年3月24日請負契約 ③平成5年11月19日,④平成6年1月27日,請負者・被控訴人日新電機(カ) 秦野市(平成5年度)浄水管理センター電気設備工事その5(新規工事と同様の入札方式)基本協定平成5年6月28日年度実施協定平成5年7月7日変更協定平成5年10月1日,平成6年3月15日,平成7年3月31日請負契約平成6年3月25日,請負者・被控訴人日立製作所ク事業団は,本件各工事の請負契約を締結する場合,新規工事については指名競争入札に付する方式により発注していたが,継続工事については随意契約の方式によって発注していた(甲16「日本下水道事業団会計規程(昭和48年3月規程第8号)」55条ないし58条,甲98)。 ケなお,上記キのとおり,実施協定の中には,当該年度の終了日後に当該年度関係の年度実施協定の変更協定が締結されているものがあるが,年度実施協定の対象工事は一つではないので,それらが本件各工事に係る受託費の増減とどのように関わるかを確定することは難しい。また,一例として,茅ヶ崎市に係る「平成5年度委託協定に基づく費用(建築工事)」の請求書等の資料(乙F19ないし27)によれば,委託者が 係る受託費の増減とどのように関わるかを確定することは難しい。また,一例として,茅ヶ崎市に係る「平成5年度委託協定に基づく費用(建築工事)」の請求書等の資料(乙F19ないし27)によれば,委託者が年度実施協定に基づいて被控訴人事業団に費用を支払うのは,必ずしも当該年度の終了日までに完了することが予定されているわけではない。 (3) 以上のような事実関係に基づき考察する。 控訴人らは,本件不法行為によって,被控訴人事業団と本件各請負契約を締結した被控訴人富士電機,同東芝,同三菱電機,同安川電機,同日新電機及び同日立製作所との間の各契約金額が不当につり上げられ,これによって本件各自治体が損害を被ったと主張して,その損害の補てん措置を求める本件各監査請求をした。しかし,前記(2)で認定した事実関係の下では,仮に本件各請負契約の契約金額がつり上げられたという事実があったとしても,その契約金額と,想定される公正な競争によって成立する契約金額との差額が直ちに本件各自治体の損害になるという関係は成立しない。この点は,年度実施協定によって本件各自治体が被控訴人事業団に支払わなければならないものとされる費用(細則に定める受託費)の算定方法に照らしても,容易に理解できることである。ただし,これは本案の判断に関わることであるから,その点はしばらく措くとして,本件各監査請求に係る談合行為と本件各自治体の損害の発生という問題を考えるに,本件各自治体が本件各工事の施行に係る費用を支払うのは,年度実施協定又は変更協定(以下,両者を含む意味で単に「実施協定」という。)によって,同協定の対象工事の施行に要する費用を支払うことを被控訴人事業団に約束した支出の原因行為(法232条の3にいう支出負担行為)があるからである。実施協定に基づいて約束した費用を支払うことは,委託者 ,同協定の対象工事の施行に要する費用を支払うことを被控訴人事業団に約束した支出の原因行為(法232条の3にいう支出負担行為)があるからである。実施協定に基づいて約束した費用を支払うことは,委託者として当然の義務であり,どのような委託事項に関しいかなる費用を被控訴人事業団に支払うかは各自治体の財務会計上の判断に帰することであって,その行為に違法が存しなければ,当該自治体に損害が生じているとはいえない。すなわち,控訴人ら主張の不法行為(後述のとおり,談合行為は被控訴人事業団の発注する工事請負契約に関してされたものであって,地方公共団体の財務会計行為外の事由である。)によって本件各自治体に損害が生じたというからには,談合行為のために本来なら支払う義務のない(又は支払うべきでない)金員を支払う内容の委託協定が締結された,換言すれば,談合行為のゆえに客観的に違法又は無効な支出負担行為がされたという法律関係が前提になるはずである。なぜなら,地方公共団体においては,契約などの支出負担行為に基づいてされた履行行為としての支出は,当該支出負担行為が違法又は無効なものでない限り,支出自体を違法ということはできないと解するのが相当であるからである(法232条の4第2項参照)。 ところで,控訴人らは,本件各工事の請負契約の締結に先立ち談合行為があったから,これによって本件各自治体に損害が生じたというけれど,談合行為は,被控訴人事業団が発注者として行う請負契約に関し,関係する自治体の長その他の財務会計職員の関知しないところで行われたものであって,地方公共団体の財務会計上の作為又は不作為に関するものでないことは,前記本件各監査請求の内容自体,また,控訴人らの主張自体に照らして明らかである。 以上のように考えると,控訴人らが談合行為を理由に法242条1項に基づく 計上の作為又は不作為に関するものでないことは,前記本件各監査請求の内容自体,また,控訴人らの主張自体に照らして明らかである。 以上のように考えると,控訴人らが談合行為を理由に法242条1項に基づく監査請求をしたものである以上,本件各自治体が損害賠償請求権を有するという主張の中には,被控訴人事業団と本件各自治体との間に締結された実施協定の違法の主張がその前提として論理的に含まれており,それゆえに,違法な実施協定に基づいて支払われた費用の一部が当該自治体の損害であると主張されているものと見ざるを得ない。 なお,この点に関し,控訴人らは,実施協定又はその履行行為である費用の支払自体に「内部関係における違法」はなく,これが監査請求の対象となることはない旨の主張をしているが,独自の見解であり,失当というほかない。また,控訴人らは,年度実施協定又は変更協定が被控訴人事業団の発注行為に先行するから,その後の談合行為によって適法だった実施協定がさかのぼって違法となることはあり得ず,財務会計行為の違法は生じない旨主張するが,仮に公正な競争が妨げられた状況の下に,予定価格ぎりぎりまでつり上げられた価格で被控訴人事業団と請負者との間の契約金額(請負代金額)が定まり,これが委託者たる地方公共団体に転嫁される関係にあるならば,そのような費用の負担を定める実施協定には,客観的に違法の瑕疵が生じないものとはいえないから,控訴人らの上記主張は採用することができない。さらに,控訴人らは,談合によって不当に競争を排除して請負代金額をつり上げ,本件各自治体の負担を増大させることは,本件各自治体に対する不法行為であり,財務会計上の違法から損害が発生しているわけではない旨の主張をするが,この見解が採用できないことは,前記説示に照らして明らかである。 したがって,本件各監査請 ,本件各自治体に対する不法行為であり,財務会計上の違法から損害が発生しているわけではない旨の主張をするが,この見解が採用できないことは,前記説示に照らして明らかである。 したがって,本件各監査請求の対象は,表面的には不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実となっているが,その不法行為なるものは地方公共団体の財務会計上の作為・不作為に関するものではなく,当該怠る事実に係る損害賠償請求権の実態は,本件各工事の施行を委託した実施協定につき,談合行為に起因する違法事由があることに基づいて生ずるものを考えていると解せざるを得ないものである。現に,本件各監査請求を受けた本件各自治体の監査委員のうち,川崎市監査委員は,明確に「本件請求は,委託契約の締結若しくは履行の違法・不当を主張するもの」と理解しているし,他の5市の監査委員も,請求に係る損害賠償請求権の行使を怠る事実があるか否かの前提として,実施協定に基づく費用の支払の事実関係を調査している。 そうすると,本件各監査請求は,本件各自治体と被控訴人事業団との間に締結された実施協定の内容に談合行為に起因する違法があり,それゆえこれに基づいて費用を支払った本件各自治体に損害が生じていることを監査請求の対象としているもの,すなわち,本件各自治体における財務会計上の行為が違法であることに基づいて発生する損害賠償請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」があるとしているものと解するのが相当である。したがって,このような監査請求については,法242条2項所定の監査請求期間の適用があるものと解すべきである。以上と異なる控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。 3 本件各監査請求の請求期間の起算日(1) そこで,次に監査請求期間の起算日について検討するに,前記2(2)に認定の事実関係の下 。以上と異なる控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。 3 本件各監査請求の請求期間の起算日(1) そこで,次に監査請求期間の起算日について検討するに,前記2(2)に認定の事実関係の下においては,本件各監査請求の請求期間の起算日は,本件各工事の施行を委託した年度の年度実施協定の締結日(当該年度実施協定について変更協定が結ばれたものについては,その最後の変更協定の締結日)であると解するのが相当である。ただし,前述のとおり,地方公共団体においては,契約などの支出負担行為に基づいてされた履行行為としての支出は,当該支出負担行為が違法なものでない限り,支出自体を違法なものと解することはできないところ,前記認定のとおり,年度実施協定の締結の後に同実施協定の対象工事の請負契約が締結され,また,その後も当該年度の年度実施協定について変更協定が締結され,支出負担行為の内容に変更を生じているものがあると認めることができる事実関係の下では,その最後の変更協定が締結された時を基準に,当該年度の年度実施協定の内容に控訴人ら主張の談合行為に起因する違法事由がなかったかどうかを判断するのが相当であり,かつ,それが監査請求の対象になっていると考えられるからである。 したがって,この点について,川崎市監査委員は「当該契約が終了した日は,年度実施協定に基づく完了精算報告書を受理した日といえる」(甲1315)としているが,この見解は採用することができない。被控訴人事業団が委託者に報告する年度終了報告や年度完了精算報告は,被控訴人事業団が精算事務処理要領に基づいて行う独自の事後報告であって(乙J23の1),地方公共団体の財務会計行為に直接関係するものではないと解されるからである。また,委託者が年度実施協定に基づいて被控訴人事業団に費用を支払うのは,必ずしも当該 独自の事後報告であって(乙J23の1),地方公共団体の財務会計行為に直接関係するものではないと解されるからである。また,委託者が年度実施協定に基づいて被控訴人事業団に費用を支払うのは,必ずしも当該年度の終了日までに完了するものではないが,委託者の費用の支払義務は,年度実施協定に基づいて当然発生するものであるから,変更協定があるものについては,その最後の変更協定が締結された日をもって委託者の支払義務の内容が確定すると見られるからである。さらに,本件各監査請求は,実施協定に基づき被控訴人事業団が完成して委託者に引き渡す成果物を問題にしているわけではないから,「本件の委託契約については,契約の締結,施設の引渡し,費用の支払及び精算の各行為を一連の財務会計上の行為としてみる」(甲1315)必要はないものというべきである。なお,控訴人らは,監査請求期間は,地方公共団体及び住民において現実に損害賠償請求権を行使することが可能となった時点をもって起算点とすべきである旨の主張をするが,その中身は,要するに,被控訴人会社らの談合行為は,秘密裡に行われていたので,本件各監査請求の直前近くまで,本件各自治体及びその住民においてその事実を知り得なかったというものにすぎず,これは,後述の期間徒過の「正当な理由」の有無の問題として考慮すべきことであって,監査請求期間の起算点の主張としては失当である。 (2) そして,以上の見地から本件各工事に係る年度実施協定の締結日又は最後の変更協定の締結日を見ると,前記2(2)キ(ア)ないし(オ)に認定のとおり,横浜市関係は平成6年3月18日が最後の変更協定の締結日,川崎市関係は平成5年3月8日が最後の変更協定の締結日,鎌倉市関係は平成6年3月4日が最後の変更協定の締結日,茅ヶ崎市関係は平成6年3月16日が最後の変更協定の締結 月18日が最後の変更協定の締結日,川崎市関係は平成5年3月8日が最後の変更協定の締結日,鎌倉市関係は平成6年3月4日が最後の変更協定の締結日,茅ヶ崎市関係は平成6年3月16日が最後の変更協定の締結日,大和市関係は,平成4年度につき平成5年10月14日,平成5年度につき平成6年3月24日がそれぞれ最後の変更協定の締結日であるから,それぞれの監査請求は,いずれも法242条2項本文所定の監査請求期間を経過した後にされたものであることが明らかである。 (3) 他方,秦野市関係については,前記2(2)キ(カ)に認定のとおり,平成7年3月31日に平成5年度の年度実施協定の変更協定が締結されているから,原審第15号事件原告らのした監査請求は,監査請求期間内にされた適法なものというべきである。ところで,被控訴人らは,他に本案前の主張(なお,以下において,「市」とは秦野市を,「本件訴え」とは同事件原告らの訴えを,「本件監査請求」とは同事件原告らのした監査請求を指す。)として,①市の被控訴人事業団に対する委託料の支払が違法無効となる余地はないから,本件訴えは住民訴訟の対象事項がなく不適法である,②本件訴えに係る損害賠償請求権の不行使について市に裁量の逸脱・濫用の違法はないから,このような怠る事実は住民監査請求・住民訴訟の対象たり得ず,本件訴えは不適法である,③委託協定の相手方でない被控訴人会社らには被告適格がない,④市の財務会計職員と共同不法行為の関係にない被控訴人らには被告適格がない,⑤不法行為者について本件監査請求と本件訴えとでは主張が異なるから,本件訴えは適法な監査請求を経ておらず不適法である旨の主張をしている。しかし,上記①及び②の主張は,住民において違法があると認めるときは住民監査請求及びこれを経て住民訴訟を提起できるとする法の趣旨を誤解して は適法な監査請求を経ておらず不適法である旨の主張をしている。しかし,上記①及び②の主張は,住民において違法があると認めるときは住民監査請求及びこれを経て住民訴訟を提起できるとする法の趣旨を誤解しているものであって,採用することができない。また,被控訴人らは法242条の2第1項4号所定の「怠る事実に係る相手方」として訴えを提起されているものであって,被告適格を欠くとはいえないから,上記③及び④の主張も採用することができない。さらに,本件訴えにおいて被控訴人らの不法行為責任が民法715条に基づくものと明示されたことにより本件監査請求との間に同一性を欠くことになるものとはいえないから,上記⑤の主張も採用することができない。 したがって、同事件原告らの訴えを適法な監査請求を経ていないとの理由で不適法なものとし,これを却下した原判決は,その余の点について判断するまでもなく,失当なものとして取消しを免れない。 4 法242条2項ただし書の「正当な理由」の有無そこで,以下においては,原審第10号ないし第14号事件原告らのした監査請求について,監査請求期間徒過の「正当な理由」の有無について検討する(以下,「本件各監査請求」「本件各自治体」「本件各工事」「本件各委託協定」などというときは,いずれも秦野市関係(原審第15号事件原告らの訴えに関するもの)を除く意味であり,原判決を引用する場合もその趣旨である。)。 (1) この点に関する当裁判所の判断は,次のとおり補正し,後記(2)のとおり追加するほかは,原判決の「理由」中「二2」(ただし,原判決98頁1行目から104頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決98頁5行目の「前示のとおり,」を削る。 イ原判決99頁9行目の「そこで定められた」から100頁2行目の「秘密裡に行われ」 104頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決98頁5行目の「前示のとおり,」を削る。 イ原判決99頁9行目の「そこで定められた」から100頁2行目の「秘密裡に行われ」までを「本件談合はその性質上秘密裡に行われたものであって,本件各自治体において本件各工事の施行を被控訴人事業団に委託した本件各委託協定と本件談合との関連性については」に改める。 ウ原判決100頁5行目の「,弁論の全趣旨)」を「)及び弁論の全趣旨」に,101頁5行目の「元に」を「基に」にそれぞれ改める。 エ原判決102頁2行目の冒頭から6行目の「いうべきである。」までを次のように改める。 「さらに,証拠(乙B2,C2ないし8,10ないし13,D6,F1ないし8,14,15,G1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。①横浜市の委託工事については,平成4年6月23日及び同年7月7日各発行の「週間下水道情報」に,平沼ポンプ場電気設備工事その2及び同発電設備工事の入札日,受注業者,契約金額及び工期等の記事がある。また,平成7年3月8日発行の毎日新聞湘南版には,同月7日に同市が被控訴人各社を同年6月6日までの3か月間指名停止処分にした旨の報道記事がある。②川崎市の委託工事に関しては,平成7年3月8日発行の毎日新聞湘南版及び「神奈川新聞」に、同月7日に同市が未登録の被控訴人神鋼電機以外の被控訴人各社を同年6月6日までの3か月間指名停止にした旨の報道記事がある。③鎌倉市の委託工事については,広報「かまくら」平成元年6月15日号及び「かまくら議会だより」同年8月1日第126号に,同年6月の定例市議会において,同市が被控訴人事業団に対し山崎下水道終末処理場等の建設工事を委託する基本協定を締結すること及びその期間は平成元年度から平成4 ら議会だより」同年8月1日第126号に,同年6月の定例市議会において,同市が被控訴人事業団に対し山崎下水道終末処理場等の建設工事を委託する基本協定を締結すること及びその期間は平成元年度から平成4年度までとすること等が審議され,可決された旨の広報記事がある。また,平成7年6月9日,同月10日各発行の朝日新聞湘南版及び讀賣新聞神奈川版や同月10日発行の毎日新聞湘南版には,同市が談合事件を重くみて今年度着工予定の下水道施設の被控訴人事業団への委託を見送る方針を決め,同事業団に委託の取下げを通告した旨の報道記事がある。④茅ヶ崎市の委託工事については,平成3年7月31日発行の「ちがさき市議会だより」をはじめ,同年6月及び平成5年6月の各市議会定例会会議録並びに各年度の決算に係る主要な施策の成果に関する説明書などによって,同市の下水道施設の建設工事の委託に関する市議会の審議内容や決算に係る施策の概要が市民に公表されている。また,平成5年7月13日発行の「週刊下水道情報」には,今宿ポンプ場自家発電設備工事の入札日,受注業者,契約金額及び工期等の記事がある。さらに,平成6年11月18日発行の「神奈川新聞」に今宿ポンプ場の建設工事が完成したことを報じる記事があり,また,同月,同市下水道部が制作・発行した「今宿ポンプ場」と題するパンフレットには,同ポンプ場の概要として,事業年度や事業費等が掲載されている。 ⑤大和市の委託工事については,平成4年4月1日発行の「広報やまと」に北部下水処理場の増設工事を継続する旨の予算説明があり,同年5月6日開催の臨時市議会の会議録により,平成2年6月に締結された基本協定の一部変更に関する審議状況が公表されている。また,平成4年6月23日,同月30日,平成5年1月12日,同月26日,同年11月16日,同月23日,平成6年1月 により,平成2年6月に締結された基本協定の一部変更に関する審議状況が公表されている。また,平成4年6月23日,同月30日,平成5年1月12日,同月26日,同年11月16日,同月23日,平成6年1月18日及び同年2月1日各発行の「週間下水道情報」には,北部下水処理場電気設備工事その6ないしその9について,受注業者,契約金額及び工期等の記事がある。 以上の事実によれば,本件各自治体の住民は,相当の注意力をもって調査をすれば,遅くとも被控訴人各社及びその担当者並びに被控訴人事業団の元幹部が独占禁止法違反の罪で起訴された旨の新聞報道があった同年6月16日から公正取引委員会が被控訴人各社に対し課徴金納付命令を発した旨の新聞報道がされた同年7月13日ごろまでには,前記新聞報道等を通じて,本件各工事に係る請負契約が本件談合に関わった業者を請負者としていること,また,同工事の施行を被控訴人事業団に委託した本件各委託協定によって,上記請負契約の契約金額を含む費用を本件各自治体が負担する関係にあったことを知ることができたと認めるのが相当である。」オ原判決102頁11行目の冒頭から104頁2行目の末尾までを削る。 (2) 控訴人ら(原審第10号ないし第14号事件原告ら)は,本件の事案においては,まず,本件各自治体が被控訴人事業団の発注する工事の入札に談合があったとの認識に至らなければ損害賠償請求権を行使することが不可能であるし,また,談合によって本件各自治体が被った損害の立証は容易でなく,談合の事実認定も慎重でなければならないから,談合がされていたとの疑惑報道等により監査請求を行いさえすれば,何らかの是正措置が採られることを期待できるという状況にはなかったとして,本件各監査請求をした時期については「正当な理由」があると認められるべきである旨主張する。 等により監査請求を行いさえすれば,何らかの是正措置が採られることを期待できるという状況にはなかったとして,本件各監査請求をした時期については「正当な理由」があると認められるべきである旨主張する。 しかし,住民監査請求においては,本件の事案に即していえば,住民において,いかなる違法行為によってどのような損害が地方公共団体に生じたものと住民が認識しているかを主張し,その主張を裏付ける資料を添付すれば足りるのであって,監査委員の監査の結果に不服があるときは住民訴訟の方途があるのであるから,前記認定の事実関係の下においては,上記控訴人ら又はその代理人において監査請求をする前提として事実関係の調査及び資料の収集にある程度の期間を必要としたであろうことを考慮しても,なお本件各監査請求が相当な期間内にされたものと認めることはできない。したがって,上記控訴人らの主張は採用することができない。 5 以上によれば,原審第10号ないし第14号事件原告らの訴えについては,いずれも適法な監査請求を経たものということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,不適法な訴えとして却下すべきものであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。 原審第15号事件原告らの訴えについては,前示のとおり,これを不適法なものとして却下した原判決は失当であるから,これを取り消し,本件を第1審裁判所である横浜地方裁判所に差し戻すこととする。 よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第22民事部裁判長裁判官石川善則裁判官土居葉子裁判官酒井正史

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