主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,3815万5400円及びこれに対する平成28年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は原判決の例による。) 1 本件は,Aから本件土地の遺贈を受けた控訴人が,本件土地がAの成年後見人により売却され,Aの死亡の時において相続財産に属さなかったとしても,民法996条ただし書が適用される場合に該当するから,遺贈の効力は生じると主張して,民法997条2項の価額弁償請求権に基づき,又は,民法999条1項によって本件土地の代金債権が遺贈の目的となり,民法1001条2項によりその代金額が遺贈の目的となると主張して,同項の代金額請求権に基づき,Aの相続人である被控訴人らに対し,本件土地の売却益相当額3815万5400円の連帯支払を求めた事案である(附帯請求は,催告の後の日である平成28年12月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。)。 原審は,①Aが,本件土地が相続財産に属さなくなったとしても,これを遺贈の目的物とする意思を持っていたと認めることはできないから,民法996条ただし書が適用される場合に該当しない,②本件売買は「遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失」(民法999条1項)に該当しないし,仮に該当しても,本件土地の代金債権はAの死亡の時において弁済により消滅していたから,「第三者に対して償金を請求する権利を有するとき」(民法999条1項)に当 たらない,と判断して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は本件控訴を提起 死亡の時において弁済により消滅していたから,「第三者に対して償金を請求する権利を有するとき」(民法999条1項)に当 たらない,と判断して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は本件控訴を提起した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決2頁18行目の「本件土地」の前に「自身が所有する」を加える外,原判決「事実及び理由」第2の2及び3(原判決2頁16行目から5頁17行目まで)及び別紙(原判決9頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 判断の概要当裁判所も,①原審と同様に,Aが,本件土地が相続財産に属さなくなったとしても,これを遺贈の目的物とする意思を持っていたと認めることはできないから,民法996条ただし書は適用されないと判断する。他方で,②原審と異なり,本件売買は「遺贈の目的物の滅失」(民法999条1項)に該当すると解するものの,本件土地の代金債権はAの死亡の時において弁済により消滅していたから,「第三者に対して償金を請求する権利を有するとき」(民法999条1項)に該当しないし,このような場合には,民法1001条2項は適用されないと解する。 よって,控訴人の請求は理由がないと判断する。 2 争点(1)(民法996条ただし書の事情の有無)について原判決6頁25行目の「本件土地本件建物」を「本件土地建物」と改め,同7頁25行目末尾に改行の上,次のとおり加える外,原判決「事実及び理由」第3の1(1)及び(2)(原判決5頁20行目から7頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 「(3) 控訴人は,B後見人の本件売買によっては遺言の撤回の効力がないことが明らかであるから,本件遺言の効力が生じることは言うまでもないと主張する。しかし,これは,民法996 れを引用する。 「(3) 控訴人は,B後見人の本件売買によっては遺言の撤回の効力がないことが明らかであるから,本件遺言の効力が生じることは言うまでもないと主張する。しかし,これは,民法996条の原則と例外との関係を逆転させることを意味するものであって,採用できない。 ところで,遺贈の目的とされた権利が,遺言の後から遺言者の死亡までの 間に,遺言者の意思によらず相続財産に属さなくなる例は,強制競売等が考えられるところ,民法996条ただし書が適用されるときとは,このような場合にもなお,遺言者が,自身の相続人等に対し,当該目的物を再取得して受贈者に移転させたり,価額を弁償させたりするような遺贈義務を課すことを相当とするだけの強い意思が認められるときでなければならないというべきである。本件において,Aが,控訴人のために,それだけの強い意思を有していたことを認める事情は,何ら認められない。 すなわち,前記(2)のとおり,Aと控訴人が格別深い関係にあったとは認められないし,控訴人と本件土地が格別深い関係にあったとも認められないのであって,これらの事実は,むしろ,前記民法996条ただし書所定の意思を有していたとは認められない事情と評価できるのである。 そもそも,Aの遺言によれば,AがCより先に死亡した場合には,控訴人が本件土地建物を取得することはなかった。控訴人は,Aには,控訴人に対し,せめて本件土地建物に相当する価値を取得させる意思があったと主張する。しかし,Aは,本件遺言の後,本件建物を取り壊したものの,推定受遺者である控訴人等のために代償措置を講じたわけではないから,控訴人主張の意思は推認し難い。また,定まってもいないAの遺産の内の本件土地建物に相当する価値というのは,具体性に欠け,前記民法996 受遺者である控訴人等のために代償措置を講じたわけではないから,控訴人主張の意思は推認し難い。また,定まってもいないAの遺産の内の本件土地建物に相当する価値というのは,具体性に欠け,前記民法996条ただし書所定の意思を評価できるほど明確なものともいえない。したがって,控訴人の前記主張は採用できない。」 3 争点(2)(民法999条,同1001条の適用または類推適用の有無)について控訴人は,B後見人による本件売買を原因とするAの本件土地に対する所有権の喪失が「遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失」(民法999条1項)に該当し,その代金債権が「償金を請求する権利」(同条項)に該当し,Aがその弁済を受けたときも,その金額を遺贈の目的としたものと推定される(民法1001条2項)と主張する。 確かに,「遺贈の目的物の滅失」(民法999条1項)とは,同条の趣旨からすると,遺贈の目的物が存在しなくなったことに伴い,償金を生じる場合一般を含むと解されるから,目的物自体の物理的な滅失のほか,目的物に対する所有権の喪失も含むと解することが相当であって,B後見人による本件売買を原因とするAの本件土地に対する所有権喪失も,これに該当するものと認められる。 しかし,遺言者がこれによって得た第三者に対する償金請求権について,遺言者が生前に弁済を受け,消滅した場合には,民法999条1項も民法1001条2項も適用されないと解するのが相当である。このことは,弁済を受けた代金額に相当する金銭がなお相続財産中にあるとしても,左右されるものではない。 なぜなら,遺贈は,その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属さなかったときは,その効力を生じないのが原則(民法996条本文)であるから,民法999条1項が,「第 のではない。 なぜなら,遺贈は,その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属さなかったときは,その効力を生じないのが原則(民法996条本文)であるから,民法999条1項が,「第三者に対して償金を請求する権利を有するとき」と定めているのは,遺言者がその死亡の時に償金請求権を有する場合に関する例外であると解するべきであって,遺言者が死亡した時点で償金請求権を有しないときは,同項によって遺言者の意思が推定される場合に当たらないといわなければならないからである。このように,遺言者の死亡の際に償金請求権が存在しない場合には,民法999条1項の推定が働く余地はないから,民法1001条2項の推定も適用される余地はないといわなければならない。 以上により,本件について,控訴人の前記主張を採用することはできない。 なお,控訴人は,本件請求が認められなければ,控訴人が本件土地を奪われ,被控訴人らを不当に利得させて,法的正義に反する結果になると主張する。しかし,受遺者は,将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持ってはいないから(最高裁判所昭和31年10月4日第1小法廷判決・民集10巻10号1229頁参照),Aの死亡の時において本件土地もその代金債権も相続財産に属さなかった以上,控訴人が本件土地を奪われた等と評価することはできず,控訴人の前記主張は採用できない。 よって,本件遺言中の本件土地の遺贈に係る部分は,Aの死亡時に,本件土地が相続財産中に存在せず,その代金債権も弁済により消滅していたから,効力を生じなかったものと認められる。 第4 まとめ以上のとおり,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決 なかったものと認められる。 第4 まとめ 以上のとおり,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所岡山支部第2部 裁判長裁判官松本清隆 裁判官永野公規 裁判官西田昌吾
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