主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第一当事者の求めた裁判一原告ら 1 被告は,原告らに対し,別紙1被害金額目録(省略)の被害金額合計欄記載の各金員及びこれに対する平成8年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 第1項につき仮執行宣言二被告主文と同旨第二事案の概要一本件は,泥炭地である札幌市a区bd条e丁目gないしh番地の地区(以下「本件地区」という。)に土地及び建物を所有する原告ら12名が,本件地区の地方自治体である被告に対し,被告の行った下水道管布設工事(以下「本件工事」という。)の瑕疵によって原告らの家屋周辺の地盤が沈下したため,家屋等の補修を余儀なくされたなどとして,被告に対し,国家賠償法2条1項,同法1条1項又は不法行為に基づき,補修費用等の損害合計1億0129万8283円及びこれに対する上記損害発生後である平成8年4月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 二前提となる事実(争いのない事実以外は証拠を併記) 1 原告らは,いずれも,別紙2所有関係一覧表(省略)のとおり,本件地区に土地及び建物を所有する者であり,亡Aは,別紙2所有関係一覧表に記載のとおり,本件地区に土地及び建物を所有していたが,平成12年11月24日に死亡し,同人の妻である原告Bがこれを相続した(甲1ないし21,弁論の全趣旨)。 被告は,本件地区の属する地方自治体である。 2 本件地区は,上層約5メートルが泥炭層(植物の遺体が低温多湿のもとで分解不完全なまま自然に堆積したものであり,含水比が高く,代表的な軟弱地盤とされている。)で覆われた軟弱地盤地域であった。本件地区の泥炭層 は,上層約5メートルが泥炭層(植物の遺体が低温多湿のもとで分解不完全なまま自然に堆積したものであり,含水比が高く,代表的な軟弱地盤とされている。)で覆われた軟弱地盤地域であった。本件地区の泥炭層は,地盤の軟弱度を示すN値(標準貫入試験により求める土質の軟弱の度合を表す値であり,その値から地盤の構成土質,支持層の位置,軟弱層の有無を推定できる。)が0ないし2,地下水位が地表下0.5メートル,含水比(土の隙間中に含まれている水分の重量と土の乾燥重量との比を百分率で表したもの)が400ないし800パーセント,間隙比(土中の水分及び空気の体積と土粒子の体積との比率)が8ないし17であり,湿地性の高い軟弱地盤であった。 一般に,泥炭層においては,①分解作用(実質部分の消失(ガス化),及び構造変化による凝集),②乾燥収縮作用(水分の減少及び水分減少に伴う骨格部分の収縮),③圧密作用(載荷重による収縮及び自重による収縮)等の現象が生じ,このような現象によって地盤沈下が生じやすいといわれている。特に,泥炭層における地下水位の低下は,上記②のみならず,上記③の現象も引き起こすため(地下水面以下に存在する泥炭の単位体積重量は,水による浮力の影響で,地下水面以上に存在する泥炭の単位体積重量より著しく軽いため,地下水位が低下して地下水位以上の重い泥炭が増えると,それが荷重になって圧密沈下が生じる。),泥炭層中の地下水位の低下は地盤沈下の大きな要因になる。 3 本件地区が前記のように地盤沈下を生じやすい軟弱な泥炭地であったことから,本件地区内の家屋は,地盤沈下に備えて,杭基礎工法,摩擦杭基礎工法,筏基礎工法等の工法によって建築されたものが多かったが,中には,地盤と一緒に家屋が沈下する直接基礎工法によって建築された家屋もあった。 原告らの家屋は,杭基礎工法又 て,杭基礎工法,摩擦杭基礎工法,筏基礎工法等の工法によって建築されたものが多かったが,中には,地盤と一緒に家屋が沈下する直接基礎工法によって建築された家屋もあった。 原告らの家屋は,杭基礎工法又は摩擦杭基礎工法によって建築された。(乙11)。杭基礎工法とは,支持杭によって家屋を下部の固い地盤に支持させるもので,摩擦杭基礎工法とは,摩擦杭の摩擦によって家屋を支持する工法である。杭基礎工法で建築された家屋は,地盤が沈下しても家屋は沈下せず,摩擦杭基礎工法で建築された家屋は,地盤沈下に伴ってある程度沈下するが,杭と地盤の摩擦によって家屋の沈下を抑えることができるという利点があり,他方で建物周辺の地盤沈下により杭が相対的に抜け上がり,耐震性が低下し,給排水管の内外取合部が破損するなどの難点があった(乙11,甲159)。 4 被告は,平成元年5月22日から,本件地区において本件工事を行い,同年12月19日ころ,本件工事は完了した。 本件工事は,別紙3(省略)のとおり第1工区から第5工区に区分され(本件の原告らの家屋は,第2工区ないし第5工区に囲まれた約2万5000平方メートルの土地の上に建築されており,第1工区は,原告らの家屋から比較的離れた場所であった。),第1工区,第4工区及び第5工区は開削工法(下水道管を埋設する地面を開削し,下水道管を布設して再び埋め戻す工法),第2工区及び第3工区は開削工法と小口径推進工法(小口径推進管又は誘導管の先端に小口径管先導体を接続し,発進立坑から遠隔操作により圧入あるいは掘削,ずり出しを行いながら推進して管を埋設するもので,管内での作業ができない口径700ミリメートル以下の管を用いるもの。小口径推進工法にもいくつかの分類があり,本件工事は,オーガー式の1工程式のホリゾンガー工法で行われた。甲158,16 するもので,管内での作業ができない口径700ミリメートル以下の管を用いるもの。小口径推進工法にもいくつかの分類があり,本件工事は,オーガー式の1工程式のホリゾンガー工法で行われた。甲158,164)との併用により施工され,下水を処理する下水ポンプ場については地下連続壁工法(開削工法の一種で,地中を壁状に開削し,当該部分を地盤安定溶液で満たし,鉄筋を挿入した後,地盤安定溶液を底部から順次コンクリートと置き換えて,地中の開削部分に鉄筋コンクリート壁を築造していく工法)に属する工法が採用された。 5 本件工事に伴い,平成2年に,本件地区の雨水桝が整備され,道路の素堀側溝が埋め立てられて舗装されるなど,道路部分の排水設備が整備された。 6 本件工事期間中,本件地区住民から,地盤沈下に関する苦情申立があり,被告は,これらの申立に対応して,簡易なものについては直ちに措置を行い,盛土やコンクリート補修を要するものについては,本件工事の竣工が降雪期に入っていたことから,凍害の影響を受けない翌平成2年の春に,請負業者を通じて補修を行い,別紙4「原告に関する確認書及び措置事項取りまとめ表」(省略)記載のとおり盛土や補修工事等の原状回復の措置を講じ,補修等を受けた者から,上記措置に対する確認書等の提出を受けた。 7 同年秋ころ,本件地区住民から,本件工事に起因する地盤沈下が続いているとして,被告に対して,再び盛土等の措置をとるよう要求があった。被告は,地盤沈下は本件地区の地盤特性によるものであるから個別補償的な対応はできないとして,地域に対する提供という形で本件地区の空き地に盛土材料を搬入し,原告らがこれを各自自宅に運搬して,地盤沈下に対する措置を行った。 8 原告らは,平成7年8月31日,被告に対して本件地区内の家屋の被害状況等を調査するよう要求し, 地区の空き地に盛土材料を搬入し,原告らがこれを各自自宅に運搬して,地盤沈下に対する措置を行った。 8 原告らは,平成7年8月31日,被告に対して本件地区内の家屋の被害状況等を調査するよう要求し,被告は,これに応じてC開発コンサルタント株式会社に依頼してb地区の土質等の調査を行い,平成8年4月21日,原告らに対し,同調査結果について説明会を行った。 9 原告らは,同年12月25日,被告を相手方として,北海道公害審査会に対し,公害紛争処理法26条に基づいて調停を申し立て,調停が行われたが,平成9年6月16日,当事者間に合意が成立する見込みがないとして,調停はうち切られた。 10 Cコンサルタントによる上記調査結果は,おおむね以下のとおりであった。 本件地区の道路地盤高の実測値として,被告が本件工事を施工するにあたって専門業者に依頼して昭和62年当時の地盤高を調査した結果,Cコンサルタントが平成7年当時の地盤高を調査した結果が存在しており,その他,実測値ではないが,各家屋の痕跡から家屋の新築時の道路地盤高を推定した値が存在しており,それぞれの値は,別紙5(省略)のⅠ,Ⅱ及びⅢ記載のとおりであった。 上記の実測値及び推定値から,本件地区の地盤沈下の速度を予想すると,別紙6(省略)のとおり,昭和49年1月1日から昭和56年12月までは年2.4センチメートル,昭和57年1月から平成元年5月までは年3.9センチメートル,平成2年6月から平成7年10月までは年4.7センチメートルの速度で沈下していたと考えられる(本件工事後の地盤沈下傾向については,別紙5のとおり,サンプル数が少なく,ばらつきが大きいため,沈下傾向を断定することは困難であるが,年間約4.7センチメートル毎年の割合で沈下していたように読みとることができる)。本件地区の地盤が上記のよ のとおり,サンプル数が少なく,ばらつきが大きいため,沈下傾向を断定することは困難であるが,年間約4.7センチメートル毎年の割合で沈下していたように読みとることができる)。本件地区の地盤が上記のような速度で沈下していたとすれば,本件工事が開始された平成元年6月から1年後の平成2年6月までの沈下量の平均は,約40センチメートルであったと推測される。もっとも,このうち,本件工事期間中である平成元年6月から平成元年12月ころまでの6か月の沈下量は約10センチメートルであった(したがって,両者をあわせ読むと,平成2年1月から同年6月の6か月間に約30センチメートルの沈下が生じたことになる。)。 本件地区において,上記のような地盤沈下が生じた原因については,本件地区は泥炭層であることから,①泥炭層厚と性状,②経過時間,③地下水位の低下(道路の排水,下水管整備,地下水の汲上,河川等の整備等による),④造成盛土量などが関係していると考えられる。本件地区は,周辺の市街化地区に比して泥炭層が厚いこと,地下水位が,平成7年の時点で,本件工事前より約1.0メートル低い位置にあったこと(もっとも,本件地区内で最も地下水位が低下している推進工法併用部分の立坑部分(深さ5.5メートル)の付近においても,掘削底面より2メートル程度高い位置に地下水位が保たれていた。),近年では,このような軟弱地盤地帯においては宅地造成にあたってプレロード等の地盤沈下対策工を実施して地盤を改良してから宅地が建築される傾向にあるが,本件地区では,軟弱地盤の改良が十分とはいえないかったことなどが影響していると思われる。 本件地区の地下水位が本件工事前より約1メートル低下したまま回復していない原因については,①工事後の地下水流線が透水性の高い道路に向かって形成されたこと,②道路部の排水 どが影響していると思われる。 本件地区の地下水位が本件工事前より約1メートル低下したまま回復していない原因については,①工事後の地下水流線が透水性の高い道路に向かって形成されたこと,②道路部の排水管に地下水が一部流出しており工事前の水位までの回復を阻害していること,③工事前の水位は都市化前に形成されたものであり,都市化の進んだ現時点の方が必然的に低くなること,④四季による地下水の変動などが考えられる。 第三争点についての当事者の主張一本件工事における瑕疵又は被告の過失の有無(原告ら) 1 本件地区のような軟弱地盤においては,地下水位の低下が地盤沈下を引き起こすため,下水道管布設工事によって地下水位が低下しないように下水道工事を施工する必要があり,具体的には,土と下水管の間に隙間が生じることがなく,荷重も軽くて済む推進工法又は連続地下壁工法で施工すべきであり,仮に開削工法で施工することが許されたとしても,埋戻材として透水係数の小さい粒状発泡スチロールとセメントを配合した軽量盛土を用い,薬液注入を泥炭層の下のシルト層に達するまで施工するなどの十分な止水措置を施す必要があるところ,被告は,本件工事を施工するに際し,上記のような必要性について認識していたはずである(被告が,本件工事直後の平成2年4月18日に作成した,「札幌市地盤沈下防止対策に係る行政指導」についての「行政指針についての実施事業の説明」の中で,「下水道施設の施工における配慮として,将来の沈下を想定した埋設深さ,管渠基礎構造,土留工法,埋戻材料に関し,検討のうえ,適切な工法の採用に努める」,「地下鉄工事以外における排水量の低減として,土留背面及び掘削底盤部の地盤改良(薬液注入)や,推進工法等の採用を検討し,必要に応じて適切な工法の採用に努める。」との記載がある。)。 と に努める」,「地下鉄工事以外における排水量の低減として,土留背面及び掘削底盤部の地盤改良(薬液注入)や,推進工法等の採用を検討し,必要に応じて適切な工法の採用に努める。」との記載がある。)。 ところが,本件工事は,本件地区のような泥炭層の軟弱地盤において,開削工法を採用したうえ,開削部分を泥炭層より透水係数及び密度の大きい砂及び砕石で埋め戻し,止水措置として泥炭層の下にあるシルト層まで達しない不十分な薬液注入しか行わなかったため,泥炭層から埋戻部分へ地下水が流出した後,埋戻部分の外に排出され,地盤が沈下するという状態となったから,下水道管布設工事が通常備えるべき安全性を欠いており,本件工事による下水道施設という公の造営物の設置には国家賠償法2条1項の瑕疵があるとともに,地価水位の低下を防止する工法を実施しなかった被告の過失があったといえる。 2 これに対し,被告は,推進工法について,本件工事当時,推進工法が泥炭地における地盤沈下対策として有効であるという認識はなく,かえって,軟弱地盤において小口径推進工法を用いると,蛇行が生じやすく,施工精度の低下,地表面の盛り上がりや陥没,屈曲や不同沈下による地下水の管内への流出が生じるなどの難点があったから,本件工事に適した工法であったとはいえず,埋戻材及び薬液注入の範囲については,埋戻部分に地下水が流出したとしても,地下水が埋戻部分に帯水するだけで,埋戻部分から排出されることはないのであるから,地盤沈下が生じるほどの地下水位の低下が生じるとは考えられず,砂及び砕石を埋戻材として使用し,埋戻部分を薬液によって完全に遮断しなかったことに問題はない旨主張するとともに,原告らの主張する軽量盛土の採用やシルト層と薬液によって完全に埋戻部分を囲んでしまうという方法は,被告においては冬期間の道路凍結防止 によって完全に遮断しなかったことに問題はない旨主張するとともに,原告らの主張する軽量盛土の採用やシルト層と薬液によって完全に埋戻部分を囲んでしまうという方法は,被告においては冬期間の道路凍結防止のため,地表下約1メートルまでは,砕石及び砂を埋戻材として使用する必要があったほか,原告らの主張する軽量盛土は,本件工事当時,試行段階であり,これを埋戻材として使用すると,埋戻部分が,後日,産業廃棄物になるのみならず,シルト層と薬液で埋戻部分を取り囲むと,埋戻部分とその他の地盤との地下水の行き来が遮断され,埋戻部分だけが地盤沈下しない状態になるなど,かえって不都合が生じることから,そのような工法が本件地区の下水道工事に適した方法であったとはいえない旨主張する。 しかし,推進工法は,地盤を開削しないため,開削工法より浸水量が少ないのであるから,軟弱地盤地域において有効な工法であることは明らかである。実際,被告は,本件地区以外の軟弱地盤地域の下水道工事において小口径推進工法を採用している(本件工事前の昭和47年にi地区において,昭和63年にb中継ポンプ場へ流入する道路において,平成元年に13号の乾道排水に至るb地区において推進工法を実施し,本件工事後ではあるが,bc条付近の道路及びj川の対岸地域で行われた札幌市営住宅建設工事において,推進工法を実施している。)。推進工法は,昭和50年代に全国的に普及し,昭和58年当時には,極軟弱地盤から崩壊性の耐水砂層でも小口径推進工法を施工できる技術が開発され,平成元年には,方向や姿勢の制御方法について,施工精度,推進可能距離とも著しく増大し,軟弱地盤において推進工法を用いた場合の難点は克服されていた。被告において,本件工事前の昭和62年に圧入方式2工程式のアイアンモール方式,昭和63年にオーガ方式1工程式 進可能距離とも著しく増大し,軟弱地盤において推進工法を用いた場合の難点は克服されていた。被告において,本件工事前の昭和62年に圧入方式2工程式のアイアンモール方式,昭和63年にオーガ方式1工程式ホリゾンガー方式及びオーケーモール工法の歩掛が定められており,そのころまでには,被告において,各工法は一般化していたと考えられるから,本件地区のような泥炭地において小口径推進工法を用いることに問題はなかった。被告は,小口径推進工法を採用するか否かの判断において,土質区分及びN値等は考慮するものの,泥炭地域であるか否かによって採用する工法を区別していないことから,泥炭地域において小口径推進工法を採用することは特に支障がなかったといえる。 次に,埋戻材及び薬液注入の範囲については,本件地区において道路部分の地下水位が埋戻部分底部まで低下しているのは,本件工事において泥炭層より透水係数の大きい砂及び砕石を使用し,薬液及びシルト層によって埋戻部分を遮断しなかったために,地下水が埋戻部分を通じて外部に排出されていたことによると考えられるから,埋戻材として透水係数の低い改良土を使用する必要があった。そして,冬期間の凍結防止のため,地表面下1メートルにおいては,軽量盛土を使用することができなかったとしても,1メートル以下の部分については,軽量盛土で埋め戻すことが可能であり,軽量盛土は,本件工事より前に埼玉県の下水道工事において実際に使用されて荷重の軽量化に成功しているから,軽量盛土の使用が不可能であったということはできない。そして,これと同時に,シルト層まで薬液を注入して埋戻部分への地下水の流入を遮断する必要がある。シルト層に達するまで薬液を注入して,薬液の外側と内側で地下水の流れが遮断されたとしても,工事による地下水位の低下がなければ,本件地区にお 液を注入して埋戻部分への地下水の流入を遮断する必要がある。シルト層に達するまで薬液を注入して,薬液の外側と内側で地下水の流れが遮断されたとしても,工事による地下水位の低下がなければ,本件地区における年間の沈下量は数センチメートルにすぎず,埋戻部分とそうでない部分の地価水位の高低差は数センチメートルにとどまるはずであるから,本件工事によって実際に生じた1メートル近い地盤沈下よりその被害の程度は少なかったはずである。 (被告) 1 開削工法は,技術的に容易なため施工精度がよく,施工のための設備の規模も小さくて済み,経済的にも有利であることから,下水道工事において最も一般的に用いられている工法であった。ただ,施工深度が深い場合や,地下に埋設物があり,これを避ける必要がある場合,地表の交通量が多く,長期間地表を使用できないことによる弊害が大きい場合等は,開削工法が適しないこともあるが,本件工事において開削工法を採用した部分は,埋設深度が1.8ないし3.5メートル(掘削底面の深さは2.4ないし4.1メートル)と深くなく,地下埋設物もなく,交通量もそれほど多くなく,開削部分は1日以内に埋め戻すように施工していたため,1日程度道路の一部が使えなくなったとしても,それほどの影響はなかったことから,開削工法に適していたといえる。 もっとも,一般的には,本件地区のような軟弱地盤地域において,開削工法を用いると,地盤を開削することによる地盤の攪乱,地下水の流出による地盤沈下が生じるおそれがあったが,本件においては,そのような弊害を防止するため,布設する管の口径を小さくし(最大で雨水管の600ミリメートル),中央集水方式を採用し,開削深度を浅くして掘削部分を少なくし,掘削部分は1日以内に埋め戻し,埋め戻す際には家屋前面において矢板の埋殺しを行い,薬液注入 小さくし(最大で雨水管の600ミリメートル),中央集水方式を採用し,開削深度を浅くして掘削部分を少なくし,掘削部分は1日以内に埋め戻し,埋め戻す際には家屋前面において矢板の埋殺しを行い,薬液注入工を施すなどの補助工を併用して,地盤の攪乱,地下水の流出を防止する措置をとり,これらの措置によって,本件工事期間中,地下水の流出はほとんどなかった。 ただ,開削工法と推進工法の併用によった工区において,立坑の底面からわずかに地下水が出て,流入した雨水とともに,これをポンプでくみ上げて排水したことはあったが,地盤沈下を招くような排水量ではなかった。したがって,本件工事は,開削工法を用いた場合の止水措置として十分な措置を施しており,本件工事は,軟弱地盤地域における下水道工事として通常求められる安全性を備えており,被告が本件工事を施工したことについて何の過失もない。 2 原告らは,本件工事においては,推進工法又は連続地下壁工法によって施工すべきであり,仮に開削工法によって施工することが許されたとしても,埋戻材として透水係数が泥炭土より小さい軽量盛土を使用し,薬液注入をシルト層に達するまで施工して,泥炭層から埋戻部分に地下水が流出しない状態にすべきであったと主張する。 しかし,連続地下壁工法は,そもそも,地下鉄の設置など,地下に大規模な施設を建築する際に用いられるものであって,下水道管の布設に通常用いられるものではないうえ,本件地区のような軟弱地盤において連続地下壁工法を用いると,使用する重機の重みで道路地盤や道路に接する宅地の地盤が沈下するおそれがあった。 また,小口径推進工法については,本件工事当時,軟弱地盤に下水道管を布設する場合に小口径推進工法が地盤沈下対策として有効であるとの見解はなく,かえって,軟弱地盤において小口径推進工法を用いると, また,小口径推進工法については,本件工事当時,軟弱地盤に下水道管を布設する場合に小口径推進工法が地盤沈下対策として有効であるとの見解はなく,かえって,軟弱地盤において小口径推進工法を用いると,蛇行が生じやすく(推進方向の制御及び推進管の屈曲防止のためにはコンピューターによる精密な推進方向制御技術の開発が必要であったが,平成元年当時は,浅い深度における十分な施工技術が普及していなかった。),施工精度の低下,地表面の盛り上がりや陥没,屈曲や不同沈下による地下水の管内への流出が生じるなどの難点があったから,本件工事当時,公共工事としての下水道工事において小口径推進工法を選択することは到底できない状況にあった。被告は,本件工事前にも昭和56年に試験的に小口径推進工法を用い,平成元年に実施された13号幹道排水に至る工事,平成2年にbc条附近で実施した下水道工事において,小口径推進工法を用いて下水道管等の布設工事をしたことがあったが,これらの地区は,本件地区のような泥炭地盤ではなく,砂質系の土質であり,土被りは3.78ないし6.98メートル,4.73ないし7.12メートルと深いものであった(なお,i地区における下水道管布設工事は,昭和47年に国及び北海道の認可を受けたが,実際に施工されたのは昭和59年以降であった。昭和63年のb中継ポンプ場付近における下水道管布設工事においては,小口径推進工法ではなく,中大口径推進工法が採用された。)。 開削工法によって施工した場合の埋戻材及び薬液注入については,本件工事の第4工区及び第5工区の埋戻部分に流出した地下水は,より低い位置に布設されている第2工区及び第3工区に流下するが,第2工区及び第3工区においては立坑部分に難透水性のセメント入り改良土を埋め戻しているうえ,そこから先は管と土の間に隙間のない 下水は,より低い位置に布設されている第2工区及び第3工区に流下するが,第2工区及び第3工区においては立坑部分に難透水性のセメント入り改良土を埋め戻しているうえ,そこから先は管と土の間に隙間のない推進工法によって施工されているから,上記地下水の流れは第2工区及び第3工区においてせき止められるから,地下水は埋戻部分にプール状に帯水するだけで,本件地区外に流出することはなく,地盤沈下に影響を与えるほどの地下水位の低下は生じない。したがって,埋戻部分を薬液とシルト層で囲い込んで,周囲の地盤との地下水の行き来を遮断する必要はない。 地下水の流れを遮断してしまうと,かえって,本件地区のみが地盤沈下しないという不都合が生じる。また,下水管の接続部分からわずかな流量の地下水が浸出したとしても,そのような継目から,地下水位の低下を招くような量の地下水が下水道管に流入するとは考えられない(なお,被告は,本件工事の際,本件工事後の下水道管の屈曲による地下水流入を可能な限り抑制するため,下水道管の継目に止水ゴムを用いる措置を講じている。)。したがって,埋戻材として,砂及び砕石を用いることに問題はない。 原告らの主張する軽量盛土は,平成元年10月当時において,疲労破壊,耐久性,応力,ひずみ等の解決すべき問題が多々残された試行中の材質であって実用化の段階に至っていないものであり,北海道のような凍結防止を要する道路には適さないものであった。 なお,埋戻材が泥炭より密度の大きい材質であった点については,泥炭地の中に密度の大きい物を設置した場合,初めは,当該設置物の重みで泥炭が沈下するが,上記設置部分の方が,泥炭層の厚さが薄くなるため,都市化によって地下水位が低下するにつれて,泥炭層の厚い周辺部分の方が沈下し,当該設置物はむしろ浮き上がる仕組みになっており,本件 泥炭が沈下するが,上記設置部分の方が,泥炭層の厚さが薄くなるため,都市化によって地下水位が低下するにつれて,泥炭層の厚い周辺部分の方が沈下し,当該設置物はむしろ浮き上がる仕組みになっており,本件地区においても,道路のうち埋戻部分の方が浮き上がる現象が生じているのであるから,結局,本件地区内の道路部分の沈下は,地下水位の低下それ自体によってもたらされているということができ,埋戻材の密度が大きいことは,本件地区の地盤沈下とは無関係である。 二本件工事と地盤沈下との因果関係(原告ら)本件工事は,前記のとおり,開削工法によって施工され,開削部分を砂及び砕石で埋め戻したことから,泥炭層中の地下水が埋戻部分へ流出し,下水道管の勾配に従って流れて泥炭層から排出された(埋戻部分の暗渠排水路化)ために,地下水位が低下して泥炭層の表層部の密度が大きくなり,圧密沈下を生じたものと考えられる。本件地区内の地下水位は,埋戻部分において埋戻部分底部まで低下し,埋戻部分から離れると徐々に地下水位が回復する状態(朝顔型の地下水位曲線)になっていると推測され,地下水位がこのような曲線になるのは,埋戻部分に地下水が流出しているからにほかならない。また,本件地区では,本件工事開始後の平成元年6月から平成2年6月までの1年間で約40センチメートルという急激な地盤沈下が発生し,その後も,本件工事開始前(年3.9センチメートル)に比べて沈下速度が大きくなっており(年4.7センチメートル),本件工事と急激な地盤沈下との時間的関係からいっても,本件地区における地盤沈下は本件工事に起因するものというべきである。 これに対し,被告は,埋戻部分に流出した地下水には排出口がなく,埋戻部分に帯水するだけであるから,埋戻部分に地下水が流出したことによって,本件地区内で発生した急激な地盤 因するものというべきである。 これに対し,被告は,埋戻部分に流出した地下水には排出口がなく,埋戻部分に帯水するだけであるから,埋戻部分に地下水が流出したことによって,本件地区内で発生した急激な地盤沈下を生じさせるほど地下水位が低下することは考えられず,地下水位の低下は,排水機能の強化等の都市化によって生じたものであると主張するが,前記のとおり埋戻部分からの排出口は存在するものと考えられ,下水道管の接続部分から地下水が下水道管内に流出している事実もある。 また,地表面から見ることのできない地下水について,流出経路や低下量を正確に知ることは困難であり,これを解明するには高度の自然科学的知識が必要であるところ,本件のような公害訴訟において,自然科学的因果関係を解明しない限り被害者らが救済されないというのは不法行為法の拠ってたつ衡平の原理に照らして妥当でない。他方,被告は,専門技術職員を擁し,専門学者とのコネクションもあり,定期的な地下水位の測定を行い,資金的にも原告らを遙かに上回っているのであるから,本件地盤沈下のメカニズムを解明し,真実を明らかにする能力を有しているといえる。したがって,本件においては,原告らが,本件工事の埋戻部分への地下水の流出が生じたことによって地価水位が低下し,地価水位の低下によって地盤沈下が生じていることまで立証すれば,あとは被告の側でそれ以上の地下水流出のメカニズムを立証するなどして,本件地区内の地盤沈下は本件工事によって生じたものではないことを証明しない限り,本件工事と地盤沈下との因果関係を認めるべきである。そして,本件において,原告らは,本件の地盤沈下が地下水位の低下に起因していること,地下水位の低下は,本件工事の埋戻部分に地下水が流出したことによって生じたことまで証明しているのに対し,被告は,本件地盤沈 本件において,原告らは,本件の地盤沈下が地下水位の低下に起因していること,地下水位の低下は,本件工事の埋戻部分に地下水が流出したことによって生じたことまで証明しているのに対し,被告は,本件地盤沈下が生じたメカニズムについて明確な主張立証を行っていないのであるから,本件工事と地盤沈下との間の因果関係を認めるべきである。 被告は,地下水位の低下をもたらした都市化の内容として,本件工事やこれによる融雪期における排水機能の強化等を挙げるが,本件工事やこれによる融雪期の排水強化によって地下水位が低下して地盤沈下が生じたというのであれば,まさに,本件地盤沈下の原因は本件工事であったというべきである。また,本件地区においては,本件工事のほか,人口が増加したり,家屋が増加したりしているものの,ビルが建築されたり,高速道路が整備されたりしたというような事実はなく,この程度の開発で,本件のように大規模な地盤沈下を生じさせる地下水位の低下が生じるとは通常考えられない。さらに,都市化による地下水位の低下が原因であれば,地盤沈下は広域的かつ一律に生じるべきであるところ,地盤沈下量コンター図や札幌市衛生局の作成した「札幌市の環境」によれば,昭和63年ころの札幌市全体の地盤沈下は沈静化していたのみならず,平成3年の札幌市地下水収支調査の結果によれば,本件地区に近接する地域(a高校内)においても地盤沈下は沈静化していた(Cコンサルタントによる調査結果は,昭和50年以降も本件地区の地盤沈下割合が増加していたとするが,地盤沈下量コンター図,「札幌市の環境」及び平成3年の札幌市地下水収支調査の結果は,一致して,本件地区の地盤沈下が沈静化していたことを示しているから,この点に関するCコンサルタントの調査結果は信用できない。)というにもかかわらず,本件地区のみが,本件工 市地下水収支調査の結果は,一致して,本件地区の地盤沈下が沈静化していたことを示しているから,この点に関するCコンサルタントの調査結果は信用できない。)というにもかかわらず,本件地区のみが,本件工事後,急激に地盤沈下を生じているから,このような局部的な地盤沈下が都市化によるものとは考えられない。また,本件地区では,埋戻部分(道路部分)が特に大きく沈下しており,そのため直接基礎の家屋は埋戻部分(道路)の方向に傾いており(D作成の鑑定書及び証人D(以下「D鑑定」という。)は,家屋の傾斜は各家屋の重量物の配置等によるものであるというが,各家屋の重量物の配置や盛土の状況等を調査しているわけではなく,また,D鑑定の家屋傾斜のデータには,地盤の沈下に連動して沈下しない摩擦杭基礎家屋も含まれており,その鑑定結果は信用できない。),推進工法を用いた第3工区における道路中心部の沈下量が,開削工法を用いた地区の沈下量より少ないことから,本件地区内の地盤沈下の原因は,都市化による広域的な地下水位の低下ではなく,開削工法による埋戻部分が暗渠排水路化したために埋戻部分周辺の地下水位が低下したことにあるものと考えられる。 (被告) 1 原告らは,本件工事において,開削部分を砂及び砕石で埋め戻し,十分な止水措置を施さなかったことから,埋戻部分が暗渠排水路化して地下水位が低下して地盤沈下が生じた旨主張する。 しかし,前記のように,仮に,埋戻部分に地下水が帯水することがあったとしても,地下水を排出する出口がないから,埋戻部分が暗渠化することはあり得ない。仮に埋戻部分が暗渠化しているとすれば,地下水位は埋戻部分底面まで低下するものと考えられるが,地下水位は埋戻部分底面より高い位置にあり,下水道管の勾配に従った場合に最も低い位置にある第2工区においては,地下水位の下に しているとすれば,地下水位は埋戻部分底面まで低下するものと考えられるが,地下水位は埋戻部分底面より高い位置にあり,下水道管の勾配に従った場合に最も低い位置にある第2工区においては,地下水位の下に下水道管が存在しており,ポンプ場に近づくほど地下水位が高くなっている。この点からも,埋戻部分が暗渠排水路化しているとはいえない。 本件地区内の下水道管接続部分の内壁に赤い鉄さびが付着していることから,少量の地下水が本件地区内の下水道管に流入しているものと思われるが,下水道管に鉄さびが付着しているというだけでは,地下水の流入量が地盤沈下を引き起こすほどの量であったとは考えられない。本件のような軟弱地盤においては,地盤沈下に伴って下水道管が屈曲するなどして下水道管内にある程度地下水が流入することは避け難いといえる。 また,本件工事中においても,地下水位に影響を与えるような地下水の流出は生じていない。第3工区の到達立坑の掘削中に地下水を半日程度ポンプで排出したことがあったが,これは,地下水が湧出したものではなく,かつての排水路跡に貯留していた地下水と推定されるから,上記排水によって地下水位が低下したとは考えられない。 このように,本件工事中において,地下水位に影響を与えるような地下水の流出はなく,本件工事後においても,地下水が埋戻部分を伝って流出するということはあり得ないのであるから,本件地区における地盤沈下は本件工事に起因するものではない。 本件地区において,本件工事後,短期間に比較的大きな地盤沈下が生じた原因としては,本件地区が泥炭層に覆われており,もともと都市化によって1年間に数センチメートルの地盤沈下が生じていたことに加え,下水道が布設されるとともに,雨水桝等の排水施設も整備され,引き続いて道路の素堀側溝が埋め立てられて舗装されたことによ ともと都市化によって1年間に数センチメートルの地盤沈下が生じていたことに加え,下水道が布設されるとともに,雨水桝等の排水施設も整備され,引き続いて道路の素堀側溝が埋め立てられて舗装されたことによって,地表面の排水機能が強化され,雨水及び融雪水が下水道に集水される一方,住民の生活排水及びダクト式排水屋根に降った雨水も各戸の取付桝を通じて下水道に排出されるようになり,これらの雨水,融雪水及び生活排水の相当部分が下水道に集水され,その結果浅層地下水位が低下し,泥炭層の圧密沈下が生じたものと考えられる。本件地区を含むb地区においては,昭和40年代の前半ころから宅地造成がなされたため,昭和44年6月14日に施行された都市計画法の規定による開発認可を得ておらず,泥炭地における地盤沈下を考慮した宅地造成をしなかったため,特に通常の泥炭地以上に盛土や積雪等の荷重の負荷による影響が大きかったものと推定される。 なお,本件工事開始後の地盤沈下量については,Cコンサルタントの調査結果では,1年間に約40センチメートルと推定しているが,その推定値は,道路の沈下量を実測したものではない。実測値としては,昭和62年12月に実施された道路中心の標高値と平成7年10月に実施された道路中心の地盤高値があるのみであり,上記Cコンサルタントの調査結果は,平成7年に杭基礎家屋に残っている痕跡を,家屋建築当時の道路中心部の標高とみなして沈下量の推計を試みたものであり,また,データにもばらつきがあるから,約40センチメートルという値はおおよその傾向を示しているにすぎず,実際に上記1年間に約40センチメートルの地盤沈下が生じたというものではない。 上記のような圧密沈下は,本件工事の工法とは無関係に,下水道の本来的機能と,本件地区の地質的特性及び従前からの都市化による広域的 1年間に約40センチメートルの地盤沈下が生じたというものではない。 上記のような圧密沈下は,本件工事の工法とは無関係に,下水道の本来的機能と,本件地区の地質的特性及び従前からの都市化による広域的地下水位低下とが競合して生じたものであり,本件地区住民は,下水道の整備を強く要望しており,本件工事がその要望に基づいてなされた点を暫くおくとしても,下水道が原告らに都市生活上の利益を与える反面,下水道本来の排水機能により地下水位の低下をもたらすものであるとすれば,それによる地盤沈下は,都市化による広域的沈下の一環にほかならず,原告らにおいて受忍すべきものである。 これに対し,原告らは,都市化による沈下であれば,広域的に一律に地盤沈下が生じるところ,本件工事前は,本件地区を含む周辺地区において地盤沈下が沈静化しており,本件地区の周辺においては,本件工事後も地盤沈下が沈静化したままであるのに,本件地区のみ本件工事開始後に地盤沈下が増大しているとし,本件地区内においても,沈下状況は一律でなく埋戻部分が特に沈下しているとして,本件地区における地盤沈下は都市化によるものではない旨主張する。 しかし,本件地区において本件工事前に地盤沈下が沈静化していなかったことは,Cコンサルタントの調査結果から明らかであり,仮に札幌市内の他の地区の地盤沈下が本件工事前後を通じて沈静化していたとしても,地盤沈下は,各地域の土質特性,都市化の時期等によって地域によって差異が生じるものであり,本件地区が泥炭層の厚い軟弱地盤地域であることを考えれば,札幌市内の他の地区の地盤沈下が沈静化していたからといって,本件地区においても本件工事がなければ沈静化していたはずであるということはできない。平成3年の札幌市地下水収支調査結果によれば,本件地区に近接するa高校の地域は地盤沈下が沈静 していたからといって,本件地区においても本件工事がなければ沈静化していたはずであるということはできない。平成3年の札幌市地下水収支調査結果によれば,本件地区に近接するa高校の地域は地盤沈下が沈静化していたというが,同高校は十分な地盤造成を施してから建設されたものであって,十分な地盤沈下対策のための地盤造成を行っていない原告らの家屋の敷地と沈下速度が異なっても不合理ではない。 また,本件地区内における家屋の不同沈下については,道路側(埋戻部分)の方が沈下量が大きいのは,道路部分の方が下水道や舗装により地表水の浸透量が少ないことによるものであり,また,不同沈下が生じている家屋12軒のうち,8軒については本件工事の前後で傾斜方向は変わっていないのみならず,家屋の傾斜方向は北向きのものが多いところ,その傾斜の主な原因は,トイレ,浴室,台所等の荷重の大きな部屋を北向きに設置する家屋構造が一般的であることと冬期間の積雪が北側に偏重していることにあると考えられるから,家屋の不同沈下が生じていることから直ちに,傾斜によって地盤沈下が本件工事によって生じたものということはできない。 2 仮に,本件工事と地盤沈下との間にが本件工事と因果関係があるとしても,原告らが家屋建設の際,杭基礎工法ではなく直接基礎工法によっていれば,家屋と地盤面の乖離は避けられたのであるし,家屋建築時及び建築後の大量の盛土や積雪等による荷重の負荷による圧密沈下も地盤沈下の要因であると考えられるから,原告らの被った損害の全てが本件工事に起因するものとはいえない。 三受忍限度について(被告)本件地区は,含水比の非常に高い軟弱な泥炭地盤であり,付近における住宅建築,都市施設の整備等の都市化に伴う地盤沈下の避けられない土地であるということができ,本件地区のような泥炭地で下水道工事 被告)本件地区は,含水比の非常に高い軟弱な泥炭地盤であり,付近における住宅建築,都市施設の整備等の都市化に伴う地盤沈下の避けられない土地であるということができ,本件地区のような泥炭地で下水道工事を施工する場合,本件程度の地盤沈下は避けられないものである。原告らは,そのような軟弱地盤地区であることを承知で土地を取得し,地盤沈下によって家屋が相対的に抜け上がるという難点をもつ杭基礎工法又は摩擦杭基礎工法によって家屋を建築したうえ,本件地区において下水道工事を行うことを強く要望していたのであるから,仮に,本件下水道工事によって本件地区内の地盤沈下が生じたとしても,本件地区のような軟弱地盤地域に住む原告らにおいて,その結果を受忍すべきものである。 四消滅時効(被告)仮に,本件工事の施工により,原告らに国家賠償法2条1項,1条1項又は民法709条に基づく損害賠償請求権が発生したとしても,本件工事が完了した日である平成元年12月19日から3年が経過した平成4年12月19日において同損害賠償請求権の消滅時効が完成しており,被告は,平成10年10月19日,本件口頭弁論期日において,上記消滅時効を援用する意思表示をしたから,原告らの上記請求権は時効によって消滅している。 仮にそうでないとしても,遅くとも平成2年4月ないし5月ころに本件工事の請負業者が原告らの一部を含む本件地区住民に対して個別の原状回復等の補償措置を行ってから3年が経過した平成5年6月ころには本件工事の施工により生じた損害賠償請求権の消滅時効が完成している。 (原告ら)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は,「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知りたるとき」(民法724条)から進行するところ,ここにいう「損害」とは「賠償されるべき損害」であり,単に結果として損害の発 害賠償請求権の消滅時効は,「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知りたるとき」(民法724条)から進行するところ,ここにいう「損害」とは「賠償されるべき損害」であり,単に結果として損害の発生を知るというにとどまらず,加害行為が不法行為に当たること及び当該加害行為と損害発生との間の因果関係を知ることを要する。 本件においては,平成8年4月21日に被告がCコンサルタントの調査報告書に基づく説明会を行うまで,原告らは,地盤沈下現象については認識していたものの,何が地盤沈下の原因であるかを明確に知り得なかったのであるから,「賠償されるべき損害」を知っていたとはいえいないというべきである。 また,原告らが賠償を求めている損害は,地盤沈下による家屋等の被害であり,地盤沈下が進行している限り日々発生するのであるから,地盤沈下現象が終息して損害が確定した時点から消滅時効が進行すると解すべきであるところ,本件地区では,地盤沈下が現在も続いているのであるから,消滅時効は完成していない。 仮に,消滅時効が成立しているとしても,被告は,北海道公害紛争審査会の調停において消滅時効を援用することができたにもかかわらず,それをしなかったのであるから,本件訴訟に至って消滅時効を援用することは,信義則に反して許されないというべきである。 五損害(原告ら)原告らは,本件工事による地盤沈下によって,家屋や周辺地盤の補修等を余儀なくされ,別紙1被害金額目録の被害金額合計欄記載の金額に相当する損害を被った。 (被告ら)本件工事と因果関係のある原告の損害は,前記第二,二,前提となる事実6及び7記載の各工事請負人が講じた措置によって,すでに原状回復がなされたというべきである。 第四当裁判所の判断一証拠(甲1ないし96の1,2,97の1ないし4,98の1ないし 前提となる事実6及び7記載の各工事請負人が講じた措置によって,すでに原状回復がなされたというべきである。 第四当裁判所の判断一証拠(甲1ないし96の1,2,97の1ないし4,98の1ないし4,99,100,101の1ないし4,102の1ないし2,103の1ないし2,104の1ないし2,105ないし143,144の1ないし4,145ないし147,148の1ないし4,149ないし160,161の1ないし6,162ないし170,172,195ないし198,乙1ないし9,10の1ないし2,11ないし35,調査嘱託の結果,証人E,証人F,証人D,証人G,原告H本人,原告I本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 1 本件地区は泥炭地であり,泥炭地に家屋を建設する場合,最近では,宅地造成にあたってプレロード等の地盤沈下対策工を実施して地盤を改良してから団地施工がなされるのが一般的であるが,本件地区は,都市計画法(昭和44年6月14日施行)が施行される前の昭和40年代の前半に建築基準法の規定に基づいて宅地が造成され始めたため,都市計画法の規定による開発許可を得て実施する大規模な宅地造成と異なり,軟弱地盤の改良のための宅地造成が十分になされないまま家屋が建築された。 2 泥炭層は,前記第二,二,前提となる事実2記載の沈下傾向を有するほか,冬期間の積雪による荷重によって沈下量が大きくなり,融雪期の融雪水が地盤に供給されることによって沈下を残留させながらリバウンドし,夏期の地下水位の変動に追随して沈下量を変動させながら次第に沈下が累積していくというように,季節的な要因による特徴的な沈下傾向を有する。もっとも,上記のような沈下の累積は,泥炭層一般に生じるものではなく,短期的に地盤がかつて経験したことのない応力を受けたり,平均地下 ていくというように,季節的な要因による特徴的な沈下傾向を有する。もっとも,上記のような沈下の累積は,泥炭層一般に生じるものではなく,短期的に地盤がかつて経験したことのない応力を受けたり,平均地下水位がわずかずつ低下していった結果,積雪等による応力がこれまで地盤が経験したことのない応力となったりすることによって上記のような累積沈下が開始すると考えられている。 3 本件工事前における本件地区の状況等本件地区においては,本件工事以前から,別紙5のⅠ,Ⅱのとおり地盤沈下が生じており,昭和62年7月1日までに建築された杭基礎家屋12軒について,本件工事前である昭和62年当時までに,少なくとも年1.5ないし44センチメートル(各家屋の建築年次から昭和62年までの累積沈下量を各家屋の築年数で割った1年間の平均沈下量)の割合で地盤沈下が生じていた。 本件地区においては,本件工事前から上記のような地盤沈下が生じていたため,平成元年の春ころには,舗装道路や家屋,ブロック塀が傾いたり,亀裂が生じたり,家屋に基礎杭を使用していると思われる家屋では基礎の抜け上がりが生じたりし,抜け上がりを保護するために盛土をしたり,玄関の階段を追加補修したりしている家屋もあった。その他,空宅地に盛った土がその重さで地中に沈下してなくなったり,大きな庭石が沈下して小さくなったり,杭基礎の家で,地面に設置した便槽と杭基礎で支持して床に設置していた便器を接続するパイプが,地盤沈下のためにはずれたり,地表に設置した宅地の境界石(10×10×60センチメートル,14キログラム)がいつの間にかなくなったり,昭和62年ないし63年ころに水道局が水道管(直径100ミリメートル)を布設したが,地盤沈下で管がはずれそうになり,管と管の接続部分に逸脱防止装置を取り付けなければならなくなったり かなくなったり,昭和62年ないし63年ころに水道局が水道管(直径100ミリメートル)を布設したが,地盤沈下で管がはずれそうになり,管と管の接続部分に逸脱防止装置を取り付けなければならなくなったりするなどの地盤沈下に伴う被害が生じていた(なお,原告H本人及び原告I本人は,いずれも本件工事前は地盤沈下が全くなかった旨供述するが,昭和62年,平成7年の実測結果から得られる地盤沈下傾向に鑑みて,上記各供述は信用できない。)。 本件地区における道路面の排水状況については,昭和57年ころ,道路は舗装されたものの,道路排水側溝は素堀であったため排水が十分ではなく,道路排水側溝は常に帯水している状態であり,素堀側溝だけでは満足に水が流れないため,水が流れるところまで素堀側溝の中に塩化ビニール管を配管するなどしていた。また,空宅地の中には,湿地状の所があり,立ち入るのに長靴が必要なこともあった。このように,本件地区の地表面における排水は不十分な状態であった。 本件地区周辺の地盤沈下状況をみると,札幌市内の中心部,k地方,m地方,n地方,o地方,p地方,q地方,r地方,s地方,u地方及びv地方においては,昭和58年から昭和62年までは,1年間に数センチメートルほど地盤沈下していたところもあったが,昭和63年から平成4年までは,地盤沈下は沈静化し,沈下量はわずかであった。本件地区を含むb地区においては,昭和54年から昭和59年の5年間でおおむね地盤沈下量合計10ないし15センチメートル,昭和59年から平成2年の5年間でおおむね地盤沈下量合計5センチメートルの地盤沈下が生じており(本件地区を含む札幌市全体の地盤沈下量を等量線で示した地盤沈下量コンター図による。ただし,道路部分に限定した測定ではない。),本件地区に近接するa高校(bw番地)内の観測井にお 盤沈下が生じており(本件地区を含む札幌市全体の地盤沈下量を等量線で示した地盤沈下量コンター図による。ただし,道路部分に限定した測定ではない。),本件地区に近接するa高校(bw番地)内の観測井における地表面下0ないし51メートルの間の累積沈下量は,昭和55年から昭和60年までの5年間で約11センチメートル,昭和61年から平成3年までの5年間で約4センチメートル,平成4年から平成6年までの約2年間で約1.7センチメートルであった(平成3年の札幌市地下水収支調査の結果による。ただし,道路部分に限定した測定ではない。)。このように,札幌市全体ないし本件地区に隣接するa高校においては,本件工事前後を通じて,地盤沈下量は減少する傾向にあった。 4 本件地区においては,下水道が整備されていなかったことから,原告らを含む本件地区の住民は,被告に対して,本件地区に下水道工事を行うよう要求し,被告は,これを受けて,従来の下水道整備計画を一部変更するなどして,以下のとおり本件地区において下水道管布設工事を実施することにした。 (一) 被告は,本件工事に先立ち,昭和62年度に路線測量を実施し,さらに平成元年に補足調査を行い,昭和61年度に2地点,昭和63年度に2地点の合計4地点のボーリング調査を実施し,本件地区は,地表面から約5メートルの厚さの泥炭層で覆われ,含水比が400ないし730パーセント,N値が0ないし2程度という測定結果を得た。本件工事において設計及び現場監督を担当した被告の職員であるGが,平成元年ころ,本件地区に赴いて現地調査を実施した結果,本件地区においては,前記第四,一,3のような地盤沈下に伴う被害が生じており,本件地区が極めて軟弱な地盤であり,かつ,湿地性の土地であることが判明した。 (二) Gは,本件地区が上記のような軟弱地盤である 区においては,前記第四,一,3のような地盤沈下に伴う被害が生じており,本件地区が極めて軟弱な地盤であり,かつ,湿地性の土地であることが判明した。 (二) Gは,本件地区が上記のような軟弱地盤であることをふまえて,次のような施工計画を立てた。 (1) 開削工法を採用した部分(第1工区,第4工区,第5工区並びに第3工区及び第2工区の一部)についてア工法の選択上記部分については,主工法として,当時最も一般的で施工性がよいとされていた開削工法を用いる。 イ開削及び埋戻について開削中の地盤の攪乱,地下水の湧出を防止するため,可能な限り開削深度を浅くし,開削部分を1日で埋め戻すこととし,埋戻のために使用する重機の重さをできるだけ軽くする。 開削深度を浅くするため,次のような措置を採る。下水管の管径を,将来的な人口の推移,管路が受け持つ収水面積,清掃点検等の維持管理を考慮して最小限必要と考えられる250ミリメートルとし,雨水管路については,最小管径の300ミリメートルを用いる。管路の勾配については,沈殿物がたまらない程度の流れ(1.00メートル毎秒)を確保しつつ,勾配が最小になるように0.8パーセントとする。集水方法は,中央集水方式を採用する。埋設が深くなる箇所については,各宅地に設置する汚水桝,雨水桝から直接深い下水道本管に接続させるのではなく,別に浅い位置に副官(上部に位置する枝線)を設けるなどして開削深度を可能な限り浅くする(以上の措置によって,開削深度は,第4工区で2.94ないし2.98メートル,第5工区で3.08ないし3.69メートルとなった。)。 開削部分の埋戻は,砂及び砕石で行う(砂の透水係数は,10-3センチメートル毎秒,砕石の透水係数は100センチメートル毎秒,本件地区の泥炭層の透水係数は10-7ないし10-4センチ となった。)。 開削部分の埋戻は,砂及び砕石で行う(砂の透水係数は,10-3センチメートル毎秒,砕石の透水係数は100センチメートル毎秒,本件地区の泥炭層の透水係数は10-7ないし10-4センチメートル毎秒であり,泥炭層より埋戻材の透水係数の方が大きい状態であった。砂及び砕石の湿潤密度は1.80ないし2.00tf/立方メートルで,泥炭層の湿潤密度(1.05ないし1.10tf/立方メートル)より大きかった。)。開削部分は1日以内に埋め戻すことにする(当時一般的であったコンクリート基礎による固定支承を用いると,コンクリートが固まるまでの間,埋め戻すことができず,掘削した状態で2,3日放置しなければならないため,その間に地下水が湧出する危険があったが,埋戻材として砂及び砕石を用いたため,1日以内に埋め戻すことが可能となった。)。また,砕石基礎を用いた場合,本件のような泥炭地では不同沈下により水が流れにくくなるなどの障害を生ずるおそれがあったことから,掘削底面に合板材を敷き,上部からの荷重を均等に広く分散させるようにするとともに,P-Pシートを用いて砕石が軟弱地盤に不均等にのめり込むのを防ぐ。 使用する重機の重さをできるだけ軽くするため,大型搬入車両の出入りを規制し,工事現場の入口に設けた資材置場に仮置し,現場までは小型車(4トン車)で少しずつ運搬する。 以上のほか,地下水が下水道管に流入するのを防止するため,下水管として,耐久性があり止水性の高いゴム止水継手の鉄筋コンクリート管を使用する。 ウ薬液注入工第4工区において,家屋前面に,深さ3.0メートルの薬液注入工を7か所22本(総注入量118.27キロリットル)施工し,第5工区においては,家屋前面に,深さ3.43ないし3. 74メートルの薬液注入工を14か所12本(総注入量167. .0メートルの薬液注入工を7か所22本(総注入量118.27キロリットル)施工し,第5工区においては,家屋前面に,深さ3.43ないし3. 74メートルの薬液注入工を14か所12本(総注入量167. 65キロリットル)施工する。なお,第1工区においては,薬液注入工を実施しない。 エ矢板の埋戻土留のために,開削部分には,掘削中に軽量鋼矢板の建込を行い,埋め戻す際に,家屋に面した部分で,矢板を支持している支保工とともに矢板をそのまま残置する(埋殺し)。 (2) 小口径推進工法を採用した部分(第2工区及び第3工区の一部)についてア工法の選択下水管の埋設深度が4メートル以上と深くならざるを得ない第2工区及び第3工区の一部については,開削工法で実施しようとすると,安全規制に基づき,鋼矢板での施工となるうえ,これを打ち込むための大型クレーン等が必要となり,重機械の重さによる地盤沈下や工期が長くなるなどの弊害が生じるおそれがあり,当該工区で開削工法を用いることには問題があった。 他方,本件工事当時,小口径推進工法は,軟弱地盤において施工することが困難な工法とされていたが,第3工区,第2工区については,埋設深度が深く,管が泥炭層の下に入ることになるため,推進工法を行う地層は表層部より強度があると考えられ,第3工区の推進距離も40メートルと比較的短いなどの事情から,成功率は高いと考えられる。 そこで,第3工区及び第2工区に限定して小口径推進工法を用いる。 イ立坑の掘削小口径推進工法においては,推進管を搬入したり推進機を搬出したりするために必要な立坑の掘削をする必要があった。第2工区の発進立坑については,水路の仮締切工にも使用される止水性の高い鋼矢板で土留をし,第3工区と第2工区の接続部分の3か所では,住宅が近接していることから,大型重機を の掘削をする必要があった。第2工区の発進立坑については,水路の仮締切工にも使用される止水性の高い鋼矢板で土留をし,第3工区と第2工区の接続部分の3か所では,住宅が近接していることから,大型重機を使用する必要がなく,振動騒音の少ないライナープレート土留工法で掘削する(立坑の土留工としては,この他に,連続地下壁土留工法や親杭横矢板工法などがあったが,これらの施工には超大型機械が必要となり,本件地区のような軟弱地盤で,道幅の狭い場所において用いることのできる工法ではなかった。)。 ウ薬液注入工上記の土留工と併せて薬液注入工を実施する。第2工区においては,各立坑とその付近の家屋との間に薬液注入工を施工し(立坑3つにつきそれぞれ,21.505キロリットル,32.425キロリットル,54.374キロリットルの薬液を使用する。),同工区に布設された下水道管のうち,径が600ミリメートルの管の管路に29.431キロリットル,径が250ミリメートルの管の管路に9.690キロリットルの薬液注入工を実施する。第3工区においては,各立坑とその付近の家屋との間に,1か所4.04キロリットルの薬液注入工を施工する。立坑底部においては,高圧噴射攪拌工法の補助工法を用いて止水する。なお,以上の薬液の注入は,いずれも泥炭層の下のシルト層に至るものではなかった。 エ埋戻立坑の埋戻の際は,マンホール頂版又は地表面から約1.5メートルの深さまではセメント系の材料と砂等を混合した固結性の埋戻材を用い,それより上の部分では開削工法部分において使用したのと同様の砂及び砕石を用いることとし,第3工区の発進立坑の仮設材は残置する。 (三) 本件工事は,平成元年6月ころ開始され,マンホール接続部分の開削について翌日の朝に埋め戻したことがあった(モルタルが硬化するのを待 を用いることとし,第3工区の発進立坑の仮設材は残置する。 (三) 本件工事は,平成元年6月ころ開始され,マンホール接続部分の開削について翌日の朝に埋め戻したことがあった(モルタルが硬化するのを待って埋め戻さざるを得なかったため。)ほか,おおむね上記計画どおりに施工された。 本件工事中は,掘削溝の底に地下水がしみ出してきたときのためにポンプを設置していたが,掘削中は,地下水が湧出することはほとんどなく,ときどきポンプからわずかな量の水が排出されるだけであった。もっとも,第3工区の推進工法併用部分の到達立坑(原告Jの家屋の付近)を掘削していた際には,まとまった出水があったが,半日程度ポンプで汲み出した後出水は止まっており,このような出水の態様や,以前,この部分に排水路があったことなどから考えて,上記出水は地下水が湧出たものではなく,排水路跡に溜まっていた水が出たものと推認される(地下水の排出と異なり,上記のように地盤の隙間に溜まっていた水は排出によって地下水位の低下にほとんど影響しない。なお,原告H本人は,第5工区においても,平成元年9月中旬ころ,地下水をポンプアップしていた旨供述するが,これは,同月12日の45ミリの降雨によって開削部分に貯留した雨水をポンプアップしていたものと推認される。また,原告I本人は,自宅が第4工区に面しており,本件工事中に,2,3日間,自宅から自動車を出すことができなかったから,2,3日間は,開削部分を埋め戻さずにいた旨供述するが,本件工事は,短距離開削をして埋め戻し,また続きを開削するというように進められたから,1日以内に埋め戻しても,2,3日間自宅前の道路を使用できないことも考えられるから,これをもって,本件工事において,1日以内に開削部分を埋め戻していなかったということはできない。)。 Gは,本件 ,1日以内に埋め戻しても,2,3日間自宅前の道路を使用できないことも考えられるから,これをもって,本件工事において,1日以内に開削部分を埋め戻していなかったということはできない。)。 Gは,本件工事が準備段階であった平成元年5月,6月前半は,週2回程度,工事が軌道にのり始めた同月後半から7月にかけては週4回程度,工事が順調に進んでいた同年8月から9月にかけては週2回程度,工事が完了に近づいてきた同年10月中旬ころからは週4回程度の割合で現場に赴いて監督し,施工状況の確認,他の工区との最終調整,復旧方法の打合せ及び地元住民からの問合せに対する対応等を行った。 (四) 本件工事中及びその直後においては,目立った地盤沈下はなく,宅地の道路に接した側で1ないし15センチメートル程度の沈下が生じたり,地面に小さな亀裂が生じたりしたこともあったが,被告は,これらについては,本件地区の住民と話合いのうえ,適宜措置をして納得を得てきた。 5 本件地区における地下水位の変化本件工事において,前記のとおり泥炭層より透水係数の大きい砂及び砕石を埋戻材として用いたことから,本件工事終了後,開削側面から,本件工事による埋戻部分に地下水が流出し,埋戻部分に帯水した。 本件地区においては,本件工事に伴い,平成2年に雨水桝が整備され,素堀の雨水桝が舗装されて,雨水や融雪水は下水道管に排出され,また,従前から本件地区内の家屋が増加して地表面が少なくなるなどしたため,本件地区の地盤に雨水や融雪水の浸透量が減少した。 以上のような要因により,本件地区においては,本件工事直前は,地表面から約0.5メートルの位置にあった地下水位が,本件工事終了後の平成7年には,地表面から約1.5メートルの位置になり,道路部分については,平成12年までにさらに約20センチメートル低下して地 地表面から約0.5メートルの位置にあった地下水位が,本件工事終了後の平成7年には,地表面から約1.5メートルの位置になり,道路部分については,平成12年までにさらに約20センチメートル低下して地表面から約1.7メートルの位置になった(本件地区内の道路部分では,平成12年までに,下水管が埋設された道路中央部分が,道路周辺部分より約10センチメートル盛り上がり,かまぼこ型に沈下する現象が生じており,この現象からも,本件地区内の道路部分においては,地下水位が本件工事終了時から約1.2メートル低下していると推認される。すなわち,泥炭地盤の圧密沈下量は,荷重の重さと圧密層の厚さで決まるところ,埋戻部分の方が,周辺部分と比べて,荷重は大きいが埋戻の深さの分だけ圧密層は薄いため,当初は,荷重の重い埋戻部分が沈下し,水位低下が進むにつれて圧密層の厚い周辺部分の方が大きく沈下するようになり,地下水位低下量が約80ないし90センチメートルに達したとき,荷重の重い埋戻部分とそうでない周辺部分の沈下が逆転し,さらに地価水位低下量が約1.2メートルに達したときには,埋戻部分の方が,周辺部分より約10センチメートル盛り上がるという現象が生じると考えられる。)。しかし,前記のとおり,埋戻部分底部は,地表面から2.94ないし3.69メートルであるから,平成12年度の時点においても,地下水位は,本件工事による埋戻部分底面まで低下していないことになる。 本件工事による下水道管の勾配は,第4工区,第5工区から第3工区へ下水が集められ,さらに第3工区から第2工区へと流れる仕組みになっているところ,平成7年当時,第2工区においては,上流より下流の地下水位の方が高くなっていた。 なお,本件工事後,本件工事によって布設された下水道管内部の接続部分には赤い鉄さびが付着してい みになっているところ,平成7年当時,第2工区においては,上流より下流の地下水位の方が高くなっていた。 なお,本件工事後,本件工事によって布設された下水道管内部の接続部分には赤い鉄さびが付着していた。 6 本件地区における本件工事後の地盤沈下状況本件地区においては,本件工事が開始してから終了するまでの間に,約10センチメートルの地盤沈下が発生した。 本件地区の地盤沈下状況は,前記のCコンサルタントによる実測値及び推定値のほか,D鑑定において平成12年当時の道路部分地盤高を実測した値(別紙5のⅣ欄記載のとおり。)があり,これらによれば,本件工事開始前の昭和62年7月1日までに建築された杭基礎家屋12軒については,昭和62年12月から平成7年10月までの約9年間(本件工事のあった平成元年6月から同年12月までの6か月間を含む。)は,年10.4ないし6.2センチメートル(各家屋の昭和62年から平成7年までの累積沈下量を各家屋の築年数で割った1年間の平均沈下量)の割合で地盤沈下が生じ,平成8年から平成12年10月までの約5年間は,年4.05ないし0.38センチメートルの割合で沈下した。本件工事開始後の昭和63年以降に建築された杭基礎家屋14軒については,建築後,平成7年10月までの間に,年15ないし1.5センチメートルの割合で地盤沈下が生じ,平成8年から平成12年までの約5年間は,年3.9ないし0.08センチメートルの割合で地盤沈下が生じた(この間に,逆に前面道路地盤高が隆起した家屋が2件あり,隆起量は,それぞれ,年平均2.5センチメートル,0.6センチメートルであった。)。 また,推進工法によって施工された第3工区内の雨水管及び汚水管は,昭和61年から平成7年までの間に0ないし72センチメートル沈下した(Cコンサルタントの調査結果)。 センチメートルであった。)。 また,推進工法によって施工された第3工区内の雨水管及び汚水管は,昭和61年から平成7年までの間に0ないし72センチメートル沈下した(Cコンサルタントの調査結果)。 なお,Cコンサルタントの調査結果によると,本件工事後に急激に生じた地盤沈下の沈下量は,別紙6のグラフのとおり,約40センチメートルというものであったが,この調査結果については,家屋建築時の地盤高が実測されていないこと,水分が抜けることによって急速に泥炭の体積が収縮するが,収縮するにつれ粒子の間の隙間が小さくなって,水分が抜ける速度が遅くなり,地盤沈下の速度も遅くなるという泥炭層における圧密沈下の特質が考慮されていないこと,平成2年6月以降に本件地区に建設された家屋の築年数と地盤沈下量の関係には統一性がなく,同グラフに引かれている直線の傾きが必ずしも実際の沈下傾向を示しているとはいえないことからして,本件地区においては,本件工事前から地盤沈下が生じており,本件工事後,短期間に数センチメートル規模の急激な地盤沈下が生じ,その後,再び,一定の割合で比較的緩やかな地盤沈下が続いたという地盤沈下のおおよその傾向を推認することはできるが,本件地区における正確な各時点の地盤沈下量を導き出すことはできないというべきである。 平成8年から平成11年までの本件地区周辺地域における年間地盤沈下量は,以下の表のとおりであり(D鑑定による調査結果),本件地区の地盤沈下は,遅くとも平成8年以降には,周辺の地盤とほぼ同じ速度まで沈静化した。 (単位センチメートル)地域区分平成8年平成9年平成10年平成11年累計本件地区3.01.81.01.06.8d条e丁 (単位センチメートル)地域区分平成8年平成9年平成10年平成11年累計本件地区3.01.81.01.06.8d条e丁目(下水道なし)3.02.51.01.07.5d条e丁目(平成7年に下水道工事が施工された)15.07.53.0 3.028.5周辺素地地盤3.02.30.50.56.5周辺幹線道路5.73.52.82.014.0また,本件地区の周辺で,本件工事による影響を受けていないと考えられるa区x地区及びa区y地区において,平成9年当時,本件地区におけると同程度の地盤沈下が生じており,抜け上がった家屋に補修が施されていた。 7 本件地区内の家屋の傾斜について本件地区内の家屋には,不同沈下を生じている家屋があるが,不同沈下量(同一の家屋において最も沈下している部分と最も沈下が少ない部分との差という意味で用いる。)が5センチメートル以上ある家屋で,直接基礎又は摩擦杭基礎によって建築されている12軒の家屋の傾斜方向・量について,本件工事前の平成元年と本件工事後の平成12年に調査した結果は,別紙7(省略)のとおりである。本件工事の前後で傾斜方向が変化した家屋は3軒あり,その他の家屋は,本件工事前と工事後で傾斜方向に変化はなかった。家屋の傾斜方向が変わった3軒のうち1軒は,本件工事前は第5工区にあたる道路(西)に向かって傾斜していたが,本件工事後,同道路に向かって斜め(北西)に傾斜方向が変わり,うち1軒は,本件工事前,第3工区にあたる道路(北)に向かって傾斜していたが,本件工事後,第2工区にあたる道路(西)に傾斜方向が変わり,残り1軒は,本件工事前,道路方向ではなく,宅地の方向(北東)に傾斜していたが, 事前,第3工区にあたる道路(北)に向かって傾斜していたが,本件工事後,第2工区にあたる道路(西)に傾斜方向が変わり,残り1軒は,本件工事前,道路方向ではなく,宅地の方向(北東)に傾斜していたが,本件工事後,別の方向の宅地(北)に傾斜方向が変わった。 8(一) 本件工事の行われた平成元年当時,下水道管布設工事に用いられていた工法としては,開削工法,推進工法,連続地下壁工法等があった。このうち,開削工法が,施工精度,安全性,経済性に優れており,一般的に用いられていたが,開削工法によると,工事期間中,道路を使用できなくなるため,交通事情を考え,当該道路の使用を続ける必要がある場合,地表面から埋設したい深度までの間に地下埋設物があって開削ができない場合,現場周辺の環境等の施工条件によって開削工法が困難とされる場合には推進工法が用いられていた。連続地下壁工法は,地下鉄の建設等,地下に大規模な施設を建設する際に用いられる工法であった。 (二) 開削工法によった場合,開削部分を埋め戻す必要があったが,北海道内では,道路の凍結防止の観点から,道路面から5センチメートル下に砕石を15センチメートルほど,その下に砂を65センチメートルほど埋め戻す必要があった。 軟弱地盤において,埋戻材等による荷重の軽減を図る目的で,平成元年ころ,発泡スチロールやセメント混合物を含んだ軽量盛土の開発及び特性試験がなされ,このころまでに,埼玉県久喜市において,推進工法による下水道工事の立坑3か所を上記軽量盛土を用いて埋め戻し,軽量盛土によって軟弱地盤の圧密沈下を軽減できるか否かの施工調査が行われるなどしていた。しかし,上記調査がなされた当時においても,上記軽量盛土は,繰返し応力による疲労破壊,耐久性,応力ひずみ関係等において,解明すべき課題が残され,施工場所での軽量 の施工調査が行われるなどしていた。しかし,上記調査がなされた当時においても,上記軽量盛土は,繰返し応力による疲労破壊,耐久性,応力ひずみ関係等において,解明すべき課題が残され,施工場所での軽量盛土の製造方法,自動品質管理の方法等実用化のための課題を抱えていた。 (三) 推進工法は,昭和40年代後半に開発され,昭和50年代以降に実用化されたもので,当初は,前記のように,開削工法を施工できない場合の代替的な工法として位置づけられていたが,昭和61年ころまでには,騒音,振動が少ないなどの利点に注目して,必ずしも開削工法では不適切といえない場合でも採用され始めていた。また,昭和63年には,推進工法は,工法の選択によっては,下水道工事による地盤沈下や地下水位の低下を軽減ないし防止できる工法であることが指摘されていた。被告においても,平成2年4月18日作成の「札幌市地盤沈下対策に係る行政指導」の中で,その点に言及している。 もっとも,原則的位置づけは,平成4年当時においても,推進工法は,前記のように,交通事情や地下埋設物のために開削工法を用いることのできない場合や,掘削深度が深いため開削工法で施工するより推進工法で施工した方が経済的に有利である場合に用いられるというものであった。 北海道においては,昭和53年にz町において,昭和57年に釧路市において,昭和59年に岩見沢市において,昭和63年に苫小牧市及びa1町において,小口径推進工法が施工されたが,平成元年当時の小口径推進工法の採用割合は,1.8パーセントにとどまり,全国でも3.6パーセントにすぎなかった。被告においては,昭和59年以降にi地区で,昭和63年にb地区で,平成元年に13号幹道排水に至る地域で,平成7年にbc条附近の道路において,小口径推進工法が採用されたが(もっとも,i地区 なかった。被告においては,昭和59年以降にi地区で,昭和63年にb地区で,平成元年に13号幹道排水に至る地域で,平成7年にbc条附近の道路において,小口径推進工法が採用されたが(もっとも,i地区の工事は,昭和47年には着手されていた。),i地区の工事は,シルト層と砂層の互層によって構成された地盤における工事であり,泥炭地である本件地区と同一に扱うことはできず,その他の上記の各工事は,いずれも小口径推進工法と開削工法との併用によって施工され,本件工事と同様に,埋設深度の大きい箇所には推進工法が,小さい箇所には開削工法が用いられた。 推進工法においては,管の蛇行が生じやすく,特に軟弱地盤において施工した場合には顕著であり,蛇行の修正が極めて困難であるという問題点があったため,施工精度,土質の適用範囲において問題が指摘され,昭和52年ころまでは,普通土においてのみ施工可能とされていたが,技術開発によって,昭和58年ころには,崩壊性の帯水砂層や硬質の地盤においても施工が可能となり,昭和61年ころまでには,コンピューターの導入で施工精度が高まり,研究開発によって土質の適用範囲も広がりつつあった。しかし,本件のような泥炭層における推進工法の適合性については,平成10年当時の文献によると,N値0,含水比150パーセント以上の腐植土においては,オーガ方式は原則として不適合とされ,圧入方式,ボーリング方式,泥水方式では,補助工法を使用した場合に検討したうえで適用することも可能というレベルであり,平成12年当時の文献によっても,N値が1未満,含水比200パーセント以上の腐植土においては,圧入方式なら補助工法を併用すれば適用でき,オーガ方式,泥水方式及び泥土圧方式であれば,薬液注入工を補助工法として併用したうえ,十分に検討して,適用することも可能 パーセント以上の腐植土においては,圧入方式なら補助工法を併用すれば適用でき,オーガ方式,泥水方式及び泥土圧方式であれば,薬液注入工を補助工法として併用したうえ,十分に検討して,適用することも可能であるというレベルにとどまっていた。ただ,圧入工法のうち,昭和58年ころ開発されたアイアンモール工法及びアースアロー工法によれば,超軟弱地盤においても施工可能とされ,北海道においては,昭和62年に上記アイアンモール方式の歩掛が定められた。 二本件地区における地盤沈下についての専門家の意見 1 E及びFによる鑑定(以下「E・F鑑定」という。)本件地区においては,Cコンサルタントの調査結果である別紙6のグラフに示されているとおりに地盤沈下が生じており,このような地盤沈下が生じたのは,本件地区内の地下水位が低下したことによるが,本件地区の地下水位が低下したのは,泥炭層の地下水が,埋戻部分に流出し,ある程度溜まったところで下水管の勾配に従って流れ,下水管と土の間の隙間又は下水管の亀裂を通じて下水管内へ排出されるなどして,埋戻部分から排出されたことによるものと思われる。実際,本件においても,推進工法を併用し,埋戻部分が存在しない第3工区においては,地盤沈下量が0ないし4センチメートルにすぎず,開削工法で施工し,埋戻部分が存在する他の工区より地盤沈下量が小さくなっており,このことからも,本件地区の地下水位低下の原因は,埋戻部分への地下水の流出であると考えられる。また,埋戻部分に流出した地下水が排出されているとすれば,道路部分の地下水位は埋戻部分底部まで低下していると予想されるところ,そのように想定した場合の圧密沈下量が平成7年のCコンサルタントによる実測値とほぼ一致していることから,逆に,道路部分の地下水位は埋戻部分底部まで低下しているものと推定さ ていると予想されるところ,そのように想定した場合の圧密沈下量が平成7年のCコンサルタントによる実測値とほぼ一致していることから,逆に,道路部分の地下水位は埋戻部分底部まで低下しているものと推定され,このことは,埋戻部分に流出した地下水が埋戻部分の外に排出されていることを示している。 都市化による地盤沈下というのは,別紙6のグラフにおける本件工事開始前である平成元年6月以前及び本件工事から1年以上たった後の平成2年6月以降における一定割合での沈下のことをいうのであって,本件工事開始から平成2年6月までの1年間に,上記の一定割合を超えて生じた急激な地盤沈下が都市化によるものとは考え難い。土地利用の方法が急激に変化したとしても,地盤への雨水の流出量が1000分の1以上減少するということはほとんどないから,本件地区程度の土地利用の変化によって,上記のような急激な地盤沈下が生じるほど,地下への雨水流出量が減少したとは考え難い。また,都市化による地盤沈下であれば,地盤が一律に沈下するはずであるところ,本件地区においては,道路部分に近づくほど沈下が大きくなり,家屋も道路の方向に傾斜して不同沈下を生じている(D鑑定は,上記不同沈下を家屋内の荷重の偏重によるものであるとするが,実際に荷重がどの位置にあるかの調査がなされておらず,また,不同沈下を調査する際のサンプルとして,荷重が沈下の方向に正確に反映されていないと考えられる杭基礎家屋も含まれているから,D鑑定の上記考察は信用できない。)ことから,本件地区における地盤沈下は都市化によるものではないと考える。 本件地区において,下水道工事を施工する場合,上記のような地下水位の低下を防止するために考えられる工法としては,推進工法によって施工するか,開削工法を採用したうえ,埋戻材を泥炭層より透水係数の低 本件地区において,下水道工事を施工する場合,上記のような地下水位の低下を防止するために考えられる工法としては,推進工法によって施工するか,開削工法を採用したうえ,埋戻材を泥炭層より透水係数の低い軽量盛土(山砂に発泡スチロールを砕いたものに,セメントを混合させたもの。)にする方法や,埋め戻した範囲全てについて泥炭層の下にある不透水層であるシルト層まで薬液を注入して泥炭層と埋戻部分との地下水の行き来を完全に遮断する方法が考えられる。泥炭地においては,開削工法によると開削部分を埋め戻す必要が生じるが,推進工法によれば埋戻の必要はないから,上記のような暗渠排水路が生じることもない。また,推進工法によった場合,埋戻土の荷重増加に比べて圧倒的に荷重増加が少ない。したがって,本件のような泥炭地においては,推進工法が開削工法より適した工法であったといえる。そして,小口径推進工法は,昭和58年ころには,軟弱地盤や崩壊性の帯水砂層でも施工できるようになっており,方向や姿勢の制御方法の進歩と熟練により施工精度,推進距離及び信頼性も著しく増大してきていた。なお,推進工法に必要な最小土被り(施工可能深さ)は,一般的に管の外径に1.0ないし1.5メートルを乗じた数値以上とされており,本件工事においては,第1工区,第4工区及び第5工区の下水道管の埋設深度は約1. 8ないし3.5メートルであるから,推進工法を施工することは可能であった。埋戻材に軽量盛土を用いる方法は,平成元年2月に発行された「土と基礎」(土木関係者の間で著名な雑誌)に施工例が記載されており,本件工事当時,採用することができたはずである。また,小口径推進工法は,昭和58年ころに発行された「月刊下水道」という雑誌に施工例が記載されており,本件工事当時,採用できる工法であった。 本件工事は,開削工法 時,採用することができたはずである。また,小口径推進工法は,昭和58年ころに発行された「月刊下水道」という雑誌に施工例が記載されており,本件工事当時,採用できる工法であった。 本件工事は,開削工法によっているが,薬液注入の範囲及び深さが不十分であり,埋戻材として泥炭層より透水係数の大きい砕石及び砂を用いるなどしたために,前記のような地下水位の低下がもたらされたものと考えられる。 2 D鑑定本件地区においては,もともと緩やかな地盤沈下が進行していたところ,本件工事が終了した後の約半年間に急速な地盤沈下が生じ,その後,再び緩やかな沈下が続いている状況にある。これは,本件工事終了後,地下水位が低下し,泥炭層中の粒子の隙間が大きい間は,水分が抜けることによって急速に泥炭の体積が収縮していたが,収縮するにつれ粒子の間の隙間が小さくなって,水分が抜ける速度が遅くなり,地盤沈下の速度も遅くなったことによるものと考えられる(このような沈下傾向が泥炭層における圧密沈下の特徴である。)。Cコンサルタントの調査結果である別紙6のグラフは,泥炭層においては上記のような圧密沈下の特徴があるにもかかわらず,一直線による沈下傾向を示しており,また,基礎のデータにばらつきがあることから,おおまかな傾向を示したものにすぎず,沈下量値を明らかにするものではない。 上記のとおり,本件工事終了後,急激な地盤沈下が生じたことは違いないけれども,その原因が,埋戻部分を通じた地下水の排出にあるとは考えられない。すなわち,開削工法を採用したことにより,開削を埋め戻した部分に地下水が流れ込んでいるものと思われるが,第4工区,第5工区の埋戻部分に溜まった地下水は,下水道の勾配に従って第3工区の方へ流れても,推進工法を採用している第3工区においては,埋戻部分がないため,そこでせき止 込んでいるものと思われるが,第4工区,第5工区の埋戻部分に溜まった地下水は,下水道の勾配に従って第3工区の方へ流れても,推進工法を採用している第3工区においては,埋戻部分がないため,そこでせき止められ,第5工区と第2工区の接点においても同様であるから(なお,第5工区と第2工区の接点については段差があり,厳密にはつながっていない。),上記埋戻部分からどこかに排出されることはない。したがって,上記埋戻部分への地下水の流入は,地下水位の低下にはそれほど影響はないと考えられる。 このように,埋戻後の埋戻部分への地下水の流出が,地下水位には大きな影響を与えない以上,埋戻材に,泥炭層より透水係数の大きいものを用いず,埋戻部分を薬液注入工によって完全に遮断しなかったとしても問題ない。むしろ,原告らの主張する軽量盛土については,札幌においては,冬期間,シルト層が凍って膨張し,舗装面がひびわれることを防止するため,道路部分を開削した場合の埋戻は,地下約80センチメートルは砕石及び砂で埋め戻す必要があるうえ,軽量盛土には,発泡スチロール等が混合されており,これを後日開削した場合には,産業廃棄物になってしまうという問題があり,加えて,埋戻材として軽量盛土を用いると,地下水が低下するに連れて,埋戻部分が相対的に盛り上がり,下水管が浮いてしまうという現象が生じかねない。また,薬液注入工については,薬液をシルト層に達するまで注入すると,薬液で囲まれた部分とそうでない部分との地下水の出入りがなくなるため,かえって,囲まれた部分のみが地盤沈下するなどの弊害が生じるおそれがある。そして,推進工法については,本件工事の行われた平成元年当時,推進工法を軟弱地盤に用いると有効であるとの認識はなく,軟弱地盤において推進工法を用いた場合の技術上の問題点は解決されていない状 がある。そして,推進工法については,本件工事の行われた平成元年当時,推進工法を軟弱地盤に用いると有効であるとの認識はなく,軟弱地盤において推進工法を用いた場合の技術上の問題点は解決されていない状況であった。 本件地区において,上記のような急激な地盤沈下が生じたのは,本件工事によって下水道が整備され,同時に雨水桝が設置されて,道路面の排水機能が強化されたためと考えられる。すなわち,例年,冬期間に積雪のため,地下に水が供給されずに地下水位が低下し,また,積雪の荷重がかかることによって地盤が沈下し,融雪水や夏期間の雨水によって地下水が供給されて地盤が膨張するというサイクルであったところ,上記のとおり,本件地区内の道路部分の排水機能が強化されたことから,融雪水が地下に供給されず,地下水位が回復しなかったことが大きく影響していると考えられる。 3 E・F鑑定に対する評価についてE・F鑑定は,前記のとおり,道路部分の地下水位が埋戻部分底部まで低下していること,推進工法によって施工された第3工区の道路中心部分の地盤沈下量が0ないし4センチメートルにすぎず,開削工法によって施工された部分に比べて少ないこと等を前提として,埋戻部分から地下水が流出し,排出されて本件地盤沈下が生じたとするが,平成7年の実測値によっても,道路部分の地下水位は,埋戻部分底部より数メートル上に位置していることが明らかであること,推進工法によって施工された第3工区では0ないし72センチメートルの沈下が生じており,推進工法によった工区の沈下量が少ないという事実はないから,E・F鑑定は,前提を欠くものといわざるを得ない。また,E・F鑑定は,埋戻部分に流出した地下水が本件地区外に排出される経過について,合理的説明をしているとはいい難い。そして,小口径推進工法や軽量盛土を採用す は,前提を欠くものといわざるを得ない。また,E・F鑑定は,埋戻部分に流出した地下水が本件地区外に排出される経過について,合理的説明をしているとはいい難い。そして,小口径推進工法や軽量盛土を採用すべきとする点についても,実際的見地からの検討を欠くきらいがある。 以上のとおりであるから,E・F鑑定を軽々に採用することはできない。 三以上の事実に基づき,検討を進める。 1 本件地区は,厚い泥炭層に覆われた湿地性の軟弱地盤で,地下水位の低下によって容易に地盤沈下が生じる地域であったから,本件地区において下水道工事を行う場合は,下水道工事によって地盤沈下を招来するほどに地下水位が低下しないよう配慮して設置することが求められていたのであり,地下水位を低下させないための配慮を欠く工法によって下水道を設置した場合,当該下水道工事には下水道という公の営造物の設置に瑕疵があるとともに,これに携わった被告の職員に不法行為上の過失があったといえる。 そして,本件工事は,開削工法によって施工された部分についても,地盤の攪乱を防ぐため,下水道管の直径,勾配を必要最小限に抑え,副管を設けるなどして,開削の深度,幅を少なくし,開削中に開削面から地下水が湧出したり,地盤が崩れたりしないよう,開削部分の全面に矢板を建て込み,家屋前面に薬液注入を施したうえ,下水管の基礎としてコンクリートを使用せずに開削部分は1日以内に埋め戻し,家屋前面部分においては,矢板を埋め殺し,下水管には耐久性があり止水性の高いゴム止水継手の鉄筋コンクリート管を用いたというのであるから,本件工事は,地下水位を低下させないよう配慮して施工されたというべきであって,瑕疵又は過失があったとはいえない。 2 これを敷衍すると,まず,工法の選択については,推進工法は,地盤を攪乱しないため,地下水位の低下 下水位を低下させないよう配慮して施工されたというべきであって,瑕疵又は過失があったとはいえない。 2 これを敷衍すると,まず,工法の選択については,推進工法は,地盤を攪乱しないため,地下水位の低下をもたらす危険性が低いという利点がある一方で,昭和50年代に実用化された比較的新しい工法で,開削工法等の一般的な工法に比べ,施工に高度な技術を要し,用いる機械の規模が大きく,費用が高いなどの難点もあった。特に,泥炭層において推進工法を用いると,蛇行が生じやすく,施工性が悪いため,昭和58年に開発されたアイアンモール工法やアースアロー工法以外は,原則として泥炭層には不適切な工法であるとされており,泥炭層において推進工法を施工する場合には,土質,補助工法等について十分な検討を要するとされており,本件工事当時は,泥炭地盤において施工するには,なお不安を残す工法であったといえる。昭和63年には,推進工法が地盤沈下対策に有効であるとの指摘がされ始めていたものの,本件工事が施工された平成元年までに,小口径推進工法が泥炭地盤の下水道工事に有効であるとの見識が一般化していたとはいえなかった(本件工事以前にも小口径推進工法による工事が実施されていた事実が認められるが,いずれも,泥炭地盤において地盤沈下対策のために施工されたものではなく,埋設深度が深いなどの理由で開削工法による施工に適しない場合であったと推認される。)。他方,開削工法は,地盤を開削するため,推進工法に比べれば,地下水位に影響を与えることが考えられるが,従来から行われていた一般的な工法で,施工性がよく,薬液注入や矢板の使用など,地盤の攪乱や地下水位の低下を防止するための補助工法も発達していた。このような状況において,被告が,地盤の攪乱や地下水位低下を防止するための補助工法を採用しつつ,開削工 ,薬液注入や矢板の使用など,地盤の攪乱や地下水位の低下を防止するための補助工法も発達していた。このような状況において,被告が,地盤の攪乱や地下水位低下を防止するための補助工法を採用しつつ,開削工法で本件工事を施工したことをもって,本件工事の工法の選択において,地下水位の低下に対する配慮を欠いていたということはできない。 そして,本件工事においては,前記のとおり,地盤の攪乱や地下水位低下を防止するための種々の配慮がなされていたといえる。たしかに,埋戻材である砕石及び砂(10-3ないし100)の透水係数は,泥炭層(10-7ないし10-4)より大きいため,泥炭層から埋戻部分に地下水が流出することになるが,流出した地下水は,下水道管の勾配に従って流下し,下水道管と土の間に隙間がなく,かつ,薬液注入工が施されている推進工法部分にたどりつくから,そこから先には移動することはなく,外部に排出されることはない。この点について,原告らは,上記流出分は,本件埋戻部分から排出されたと主張するが,仮に地下水が下水道の勾配に従って流下し,排出されているとすれば,勾配に従って地下水位が低下し,埋戻部分においては底部まで地下水位が低下しているはずであるのに,平成7年の時点においても,第2工区の地下水位は,勾配の低い方が地下水位が高くなっており,また,本件地区内の道路部分の地下水位は,平成12年の時点においても,埋戻部分底部から最低でも2メートル以上のところに位置していたこと等に照らし,埋戻部分に流出した地下水が,埋戻部分の外に排出されている事実は認められない。 その他,下水道管の接続部分内側には,たしかに赤い鉄さびが付着しており,地下水が流入している痕跡が認められるが,本件地区のような軟弱地盤においては下水道管がゆがむなどしてある程度地下水が流入してくるこ 他,下水道管の接続部分内側には,たしかに赤い鉄さびが付着しており,地下水が流入している痕跡が認められるが,本件地区のような軟弱地盤においては下水道管がゆがむなどしてある程度地下水が流入してくることはやむを得ないことであり,その付着状況等からして,地下水位に影響を与え得ないわずかな量であったと推認される。 このように,埋戻部分に帯水した地下水が埋戻部分から排出されているという事実は認められず,埋戻部分に帯水する程度であれば,地盤沈下を生じさせるほどの地下水位の低下を招くとは考えられないから,泥炭層より透水係数の大きい砂及び採石を用い,埋戻部分を薬液及びシルト層によって囲んで地下水の流れを遮断しなかったことをもって,泥炭層における下水道布設工事に関する瑕疵又は過失があったということはできない。 なお,原告らの主張する軽量盛土については,北海道においては,凍結防止の観点から,少なくとも地表面下約85センチメートルまでは,砂及び砕石で埋め戻す必要があったため,この部分には使用できないうえ,そもそも軽量盛土は,本件工事当時,未だ試用段階であって,本件工事において通常使用すべき埋戻材であったとはいえない。また,同じく薬液注入工については,原告らの主張するように開削部分を取り囲んで,シルト層に達するまで薬液を注入した場合,埋戻部分の地下水の流れが遮断されて周囲の泥炭層からの地下水の供給がなくなり,埋戻部分は舗装されていて雨水による地下水供給も期待できないため,埋戻部分周辺だけが極端に地盤沈下して,道路や下水道施設を使用できない状態になるおそれもあることが推認されるから,埋戻部分を取り囲んで,シルト層に達するまで薬液を注入することが適切とはいえない。 3 本件地区においては,本件工事終了後約6か月の間に,急激な地盤沈下が生じているが,その原因は次 が推認されるから,埋戻部分を取り囲んで,シルト層に達するまで薬液を注入することが適切とはいえない。 3 本件地区においては,本件工事終了後約6か月の間に,急激な地盤沈下が生じているが,その原因は次のようなものであったと認められる。 すなわち,本件地区は,もともと地表面の排水が十分でなく,雨水桝が帯水している状態であったところに,雨水桝や下水道が整備されたことによって,地盤への地下水供給量が相当程度減少し(特に,本件工事が終了したのは12月であり,その後,6か月の間に,融雪期に本来地盤に供給されるべき融雪水が雨水桝及び下水道を通じて排水されることになった。),道路部分の排水機能が強化されることによって地下水位が低下したため,急激な地盤沈下が生じたものと認められる(都市化による地盤沈下)。本件地区は,泥炭地盤の上に十分な宅地造成を行わずに家屋を建築していたために,地下水位の低下によって地盤沈下が生じやすい状態であったといえるから,上記のような都市化による排水機能の強化によって本件程度の急激な地盤沈下が生じることも不合理ではない。 本件地区の周辺地域や,本件地区に近接しているa高校付近では上記のような急激な地盤沈下は生じていないけれども,泥炭層における地盤沈下の有無・程度は,泥炭層の厚さや性質に大きく影響されるから,地域によって沈下量に差があることは当然であり,本件地区周辺のa区a2地区及びa区x地区においても,平成9年には,本件地区におけるとほぼ同程度の地盤沈下が生じており,また,a高校は本件地区に近接していることから,本件地区とそれほど地盤が異ならないと考えられるが,a高校は,建築当時,地盤沈下が生じないよう対策が講じられた建物であり,本件地区内のように,素地地盤にそのまま家屋を建築している地域と同列には論じ得ないから,本件地区周辺 異ならないと考えられるが,a高校は,建築当時,地盤沈下が生じないよう対策が講じられた建物であり,本件地区内のように,素地地盤にそのまま家屋を建築している地域と同列には論じ得ないから,本件地区周辺地域で急激な地盤沈下が生じていないからといって,本件地区における急激な地盤沈下の原因が都市化による排水機能の強化にあることが否定されるものではない。 また,本件地区内の家屋の傾斜については,本件工事以前から同じ方向に傾斜している家屋がほとんどであるうえ,本件工事後に傾斜方向が変わった家屋についても,本件工事との関連性は認められない。 4 以上のとおりであるから,本件工事について,下水道設置工事としての瑕疵は認められず,また,これを施工した被告の職員の過失も認められない。 もっとも,本件地区における本件工事後の急激な地盤沈下は,本件工事によって設置された下水道及びこれに伴う雨水桝の設置等の道路面の排水機能の強化にあったことは否定できないけれども,下水道等の設置自体について瑕疵又は過失を論じる余地はないというべきである。 第五結論以上によると,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部裁判長裁判官坂井満裁判官小田桐泉裁判官飛澤知行は,転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官坂井満
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