主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実本件公訴事実は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,平成9年11月14日午前9時42分頃,北海道小樽市・・・・・A株式会社西側路上において,自動装てん式けん銃1丁を,同けん銃に適合する実包16発と共に携帯した」というものである。 第2 再審公判に至る経緯後記の再審開始決定及び同決定に対する即時抗告棄却決定によれば,本件再審公判に至る経緯は次のとおりである。 1 確定判決の概要確定審においては,捜査機関による違法なおとり捜査の有無等が争点となったが,確定判決は,現行犯逮捕の現場に居合わせた警察官3名及び被告人が捜査協力者として指摘した者2名の証言等に基づき,警察官が関与したおとり捜査はなかったと認定した上,被告人の公判廷供述,本件公訴事実記載のけん銃(以下「本件けん銃」という。)及び適合実包(以下,本件けん銃と合わせて「本件けん銃等」という。)の証拠物並びにこれに関する鑑定書等を挙げて,本件公訴事実記載の事実を認め,平成10年8月25日,けん銃加重所持罪により被告人を懲役2年に処したところ,同年9月9日,同判決は,確定した。 2 再審開始決定等の概要(1) 再審開始決定被告人は,平成25年9月25日,本件再審の請求をして,上記1の各証人らが,いずれも,警察官が関与してしたおとり捜査があったことを隠蔽するため,公判廷で偽証したほか,内容虚偽の捜査書類を作成したと主 張した。被告人は,その証拠として,主に,上記警察官3名のうちの1人であるB警部補(役職は当時のもの。)の供述調書等を新たに提出した。 再審請求審は,B警部補の尋問を実施した上,その証人尋問の結果及び新旧両証拠に基づいて,概要次のとおり事実を認定した。すなわち,①B警部補は 補(役職は当時のもの。)の供述調書等を新たに提出した。 再審請求審は,B警部補の尋問を実施した上,その証人尋問の結果及び新旧両証拠に基づいて,概要次のとおり事実を認定した。すなわち,①B警部補は,平成8年終わり頃から平成9年初め頃には,捜査協力者であるCを介して,ロシア人相手に中古車販売業を営むD及びそのいとこであるEと知り合い,日頃から,Dらに対し,「何でもいいからけん銃を持ってこさせろ。」と指示をしていた,②被告人は,事件当時,ロシアの船員として稼働していた者であり,ロシアマフィアや銃器取引に関与したことを窺わせるような事情はなかった,③被告人は,平成9年8月頃に初めて来日し,同僚の船員と共に車でDの店を含む中古車販売店を案内された際,Eから,けん銃があれば欲しい中古車と交換するなどと話しかけられた,④被告人は,ロシアに帰国した後,本件けん銃等を所持して来日し,同年11月13日,Eや同僚の船員と共に札幌の中古車販売店を訪れるなどした際,Eに対して,本件けん銃のポラロイド写真1枚を渡し,翌日も中古車販売店を回ることを約束して別れた,⑤同日夜,B警部補の下に,Cを通じて,被告人が日本にけん銃を持ち込んでDに売り込んでいるという情報がもたらされ,それを受けた銃器対策課では,捜査会議が開かれ,翌朝に,Dらを使って,被告人が本件けん銃等を船外へ持ち出すように仕向け,被告人を現行犯逮捕するという方針が決定された,さらに,捜査会議の前後に,捜査書類の作成等に当たり,Dの存在を隠すことが決められ,B警部補らにも伝えられた,⑥被告人は,翌14日午前8時頃,Eから,Dにけん銃が必要であるとして,けん銃と日産サファリとの交換を提案され,その後,Dから,1万ドルの値札が付いた日産サファリを見せられた,⑦被告人は,Dの指示を受けて,船から本件けん銃等 頃,Eから,Dにけん銃が必要であるとして,けん銃と日産サファリとの交換を提案され,その後,Dから,1万ドルの値札が付いた日産サファリを見せられた,⑦被告人は,Dの指示を受けて,船から本件けん銃等を持ち出し,車の中で待機していたDに渡そうとしたものの,Dがこれを受け取らず,Dからついてくるよう指示があり,Dの後を追って赴いた本件 逮捕現場において,本件けん銃等をDに手渡そうとしたところ,その場で待機していた警察官らによって取り囲まれ,現行犯逮捕された。 以上の事実を前提に,再審請求審は,平成28年3月3日,再審を開始する決定をした。その理由の要旨は,以下のとおりである。すなわち,新証拠により,上記一連の捜査が警察官の関与した,典型的な犯意誘発型のおとり捜査であったことが明らかとなった。本件においては,捜査協力者により,銃器犯罪への関与が何ら窺われない被告人に対し,高価な中古自動車と,被告人にとってはただ同然のけん銃との交換が持ちかけられているところ,そのような働きかけは誘引力が強い一方で,このような捜査手法を採用する必要性は乏しい。そうすると,本件捜査は,必要性もないのに,あえてけん銃という危険物を本邦内に招き入れ,国民の生命,身体を殊更危険にさらしたものであり,およそ犯罪捜査の名に価しないものであって,重大な違法があることは明らかである。将来の違法捜査抑止の観点等から,上記のとおり違法性の高い捜査により収集された各証拠の証拠能力が否定され,被告人の自白があるとしても,これを補強する証拠がなく,結局,刑訴法319条2項により犯罪の証明がないことに帰し,同法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当する。 (2) 再審開始決定に対する即時抗告及び同棄却決定平成28年3月7日,検察官が 罪の証明がないことに帰し,同法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当する。 (2) 再審開始決定に対する即時抗告及び同棄却決定平成28年3月7日,検察官が上記再審開始決定に対する即時抗告をしたところ,即時抗告審は,同年10月26日,原審で提出された新証拠は,確定判決において犯罪事実の認定に供された証拠の証拠能力の判断に影響を与えるものに過ぎないなどとして,刑訴法435条6号該当性を否定したものの,同法435条7号及び437条の各本文に該当する事由があるとして,上記即時抗告を棄却する旨の決定をした。その理由は,概要,以下のとおりである。原審が認定した上記⑴⑤ないし⑦などの事実を前提として,確定判決における罪となるべき事実の認定の用に供された証拠のうち上記1の警察 官3名が作成した捜査書類等は,警察官らが明らかに内容虚偽の書面を作成したものであり,この行為は虚偽有印公文書作成罪に当たる。担当の検察官にも,こうした事情は伝達されていなかった上,本件確定審において,銃器対策課の捜査官が組織ぐるみで徹底した虚偽証言に及んだことや,被告人と犯罪組織との関係について具体的な嫌疑を抱いていなかった一方で,EやDは被告人と一定の交友関係を有するに至っており,Dの存在を隠蔽するなどの手法を用いてまで,Dらを保護する特段の必要性もなかったことに照らすと,上記の内容虚偽の文書作成が正当化される余地はなかった。すると,確定判決の証拠となった書面を作成した司法警察職員が,本件被告事件について職務に関する罪を犯した事実が,確定判決後に判明したことになる。また,証拠がないという理由以外で有罪の確定判決を得ることができない場合に当たることも明らかである。 同年11月1日,本件即時抗告棄却決定が確定し,平成29年2月2 確定判決後に判明したことになる。また,証拠がないという理由以外で有罪の確定判決を得ることができない場合に当たることも明らかである。 同年11月1日,本件即時抗告棄却決定が確定し,平成29年2月23日,本件再審公判が開かれた。 第3 当裁判所の判断被告人は,当公判廷において,本邦にけん銃を持ち込んだことを認めたものの,自動車と交換してやるというDらの要求に応えたものであると供述し,弁護人は,被告人の上記供述や再審請求審及び即時抗告審の各決定内容等に基づいて,確定審において本件捜査の実態が明らかになっていれば,違法なおとり捜査によって得られた証拠が違法収集証拠として排除され,被告人に無罪判決が言い渡されていたことは明らかである旨,再審請求審と同様の主張をした。検察官は,弁護人の上記主張に一切反論することなく,被告人の有罪立証を放棄し,被告人質問において質問さえしなかった。さらには,論告においても,被告人に対し直ちに無罪判決が宣告されるべきであると述べた。 以上によれば,本件公訴事実について,被告人の自白はあるものの,自白を 補強する証拠がなく,結局,刑訴法319条2項により犯罪の証明がないこととなるから,同法336条により無罪の言渡しをする。 平成29年3月7日札幌地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官中桐圭一 裁判官高杉昌希 裁判官北島睦大
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