平成15(う)1995 名誉毀損被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月22日 大阪高等裁判所 棄却 大阪地方裁判所
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判決文本文4,114 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人林正明作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する(なお,弁護人は,「控訴趣意中,Bの告訴が不適法であることをいう点は,親告罪で適法な告訴がないから,刑訴法338条4号で公訴棄却の判決をすべきであるのに,これをしなかったという同法378条2号の控訴理由をいう趣旨である。」と当審法廷で釈明した。)。 第1 刑訴法378条2号に該当するとの控訴趣意について論旨は,Bは,平成13年10月4日頃,ホームページの掲示板に本件書き込みがなされている事実を知り,かつ,その時点で被告人が犯人であることを知ったにもかかわらず,それから6ヶ月以上経過した平成15年4月22日に告訴をしたものであるから,同女の告訴は不適法であるのに,原判決は,これを看過して不法に公訴を受理し,同女に対する名誉毀損の事実についても,被告人を有罪としたものであり,刑訴法378条2号に該当し,破棄を免れない,という。 【要旨】刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは,犯罪終了後において,告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい,犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても,その日をもって告訴期間の起算日とされることはない。 そこで検討するのに,名誉毀損罪は抽象的危険犯であるところ,関係証拠によると,原判示のとおり,被告人は,平成13年7月5日,C及びBの名誉を毀損する記事(以下,「本件記事」という。)をサーバーコンピュータに記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定したものであり,これによって,両名の名誉に対する侵害の抽象的危険が発生し,本件名誉毀損罪は既遂に達したというべきであるが,その後,本件記事は,少なくとも平成15年6月末 用者らに閲覧可能な状態を設定したものであり,これによって,両名の名誉に対する侵害の抽象的危険が発生し,本件名誉毀損罪は既遂に達したというべきであるが,その後,本件記事は,少なくとも平成15年6月末ころまで,サーバーコンピュータから削除されることなく,利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので,被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから,このような類型の名誉毀損罪においては,既遂に達した後も,未だ犯罪は終了せず,継続していると解される。もっとも,関係証拠によると,平成15年3月9日,大阪府泉佐野警察署警察官によって,本件名誉毀損事件を被疑事実として被告人方が捜索されたことなどがきっかけとなり,その2,3日後,被告人は,同警察署に電話し,自分の名前を名乗った上で,「自分が書き込んだ掲示板がまだ残っており,消したいが,パスワードを忘れてしまったので消せない。ホームページの管理人の電話を教えてほしい。」旨申し入れたところ,同警察署側において,被告人に対し,「こちらから管理人に連絡の上削除してもらうよう依頼する。」と返答した上,直ちに本件ホームページの管理者であるDに対して,「パスワードを忘れたので消せないと言ってきた。そちらで削除してやってほしい。」と申し入れ,同人もこれに異を唱えていなかった事実が認められるところ,この事実は,被告人が,自らの先行行為により惹起させた被害発生の抽象的危険を解消するために課せられていた義務を果たしたと評価できるから,爾後も本件記事が削除されずに残っていたとはいえ,被告人が上記申入れをした時点をもって,本件名誉毀損の犯罪は終了したと解するのが相当である。 しかして,Bの本件告訴は,上記申入れの時点において犯罪が終了した後6ヶ月以内であることが明らかな平成15年4月22日になされているから,適法である。 誉毀損の犯罪は終了したと解するのが相当である。 しかして,Bの本件告訴は,上記申入れの時点において犯罪が終了した後6ヶ月以内であることが明らかな平成15年4月22日になされているから,適法である。 論旨は理由がない。 第2 事実誤認及び法令適用の誤りの控訴趣意について論旨は,本件記事の内容はなんら名誉毀損罪にいう事実を摘示したものではなく,また,Cの関係において,一部具体的事実の摘示が存したとしても,この点について真実性の証明があるのに,これらを否定して名誉毀損罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある,という。 しかしながら,原判決が,(弁護人の主張に対する判断)の項で説示しているところは,論旨が指摘する点を含め,全て正当として是認することができ,原判決に,なんら事実誤認や法令適用の誤りはない。 所論は,本件記事内容は,どの点をとっても,名誉毀損罪における「事実の摘示」に該当する具体的事実であるとはいえず,ことに,原判決は,「教育者であるのに校則を知らない。」「うそをうそで塗り固める。」の2文をもって,C,Bが校則を知らず,うそをうそで塗り固める言動をしている教師,教育者であると理解されるとした上で,これを具体的事実の摘示であるとしているが,この2文は連動しておらず,校則を知らないことと,うそをうそで塗り固めることとは,何らの脈絡もないから,これらをもってしても,被害者らの社会的評価を低下させる程の具体的事実の摘示があるとは到底いえない,という。 確かに,本件記事内容のうち,「最悪。」「人間のくず。」「ただのでしゃばり。」「非常に陰湿。」「自分の理論のみで現世に生きている。」「今後,生きていく価値なし。」との文言は,それ自体としては,抽象的なものであって,具体的な事実を摘示するも 人間のくず。」「ただのでしゃばり。」「非常に陰湿。」「自分の理論のみで現世に生きている。」「今後,生きていく価値なし。」との文言は,それ自体としては,抽象的なものであって,具体的な事実を摘示するものとまでいえないことは,所論が指摘するとおりである。しかしながら,原判決も説示するように,「教育者であるのに校則を知らない。」という文言及び「うそをうそで塗り固める。」という文言は,いずれも具体的な事実を摘示するものであることは疑いがなく,しかも,これらの具体的事実は,「こんな人間に腹が立つ」という掲示板に「馬鹿教師」という題名で,C,Bという実名を挙げた上で,前記のとおりの抽象的な誹謗文言とともに書き込まれているものであって,このような本件記事の内容は,これを全体として観察すると,原判決も指摘するように,C,Bが,教育者であるのに校則も知らない人物であり,かつ,うそをうそで塗り固める言動をする教師である,という具体的な事実を摘示した上で,前記のとおりの抽象的な誹謗文言も加わって,同人らの社会的評価を低下させ,名誉を毀損するに足りるものと認めることができる。所論は理由がない。 また所論は,Cの関係で,「教育者であるのに校則を知らない」との部分が真実であると証明されており,そうである以上,本件記事の中に,他に具体的事実の摘示にわたる部分は存在しないから,同人に対する名誉毀損が成立する余地はない,という。 しかしながら,本件における具体的事実の摘示の内容が,所論指摘の点に限られるものでないことは,さきにみたとおりであるし,所論指摘にかかる真実性の証明があったとする具体的事実の摘示部分が,その中核を構成していたとまでは到底いえず,全体として真実性の証明があったということもできないから,この点の所論も失当である。 論旨は理由がない。 第3 量刑不当 たとする具体的事実の摘示部分が,その中核を構成していたとまでは到底いえず,全体として真実性の証明があったということもできないから,この点の所論も失当である。 論旨は理由がない。 第3 量刑不当の控訴趣意について論旨は,被告人を懲役1年4月に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり,罰金刑が相当である,という。 本件は,業務上過失致死傷被告事件で裁判中の被告人が,死亡した交通事故の被害者の両親の態度に立腹して,インターネット上に開設されたホームページの掲示板に,両親の名誉を毀損する内容の書き込みをして,不特定多数の者にこれを閲覧させたという名誉毀損の事案である。両親の態度に立腹したからであるとする動機に特に酌むべき点を見出し難く,本件書き込みが上記業務上過失致死傷被告事件の論告求刑が行われた直後に行われ,以後相当長期間にわたって閲覧可能な状態に置かれたことは,被告人の惹起した交通事故によって息子を失った両親の心情を逆なでするものであって,態様も悪質である。両親は息子の死に加えて,かかる誹謗中傷を受けており,その被った精神的被害は大きいものがあり,結果も重大といわざるを得ず,被告人の刑責は重い。 そうすると,被告人の反省の度合いや,父親が監督を誓っていること,被告人は前記業務上過失致死傷罪(平成13年7月26日宣告,同年8月10日確定,懲役2年,執行猶予5年付保護観察)以外に前科はなく,本件実刑判決の確定により,その刑の執行猶予が取消されることなどの被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人を懲役1年4月に処した原判決の量刑は相当であって,これが重すぎて不当であるとは認められない。 論旨は理由がない。 なお,前記のとおり,本件名誉毀損の犯罪終了時期は,平成15年3月9日の2,3日後と認められるところ,原判決は,(罪となる あって,これが重すぎて不当であるとは認められない。 論旨は理由がない。 なお,前記のとおり,本件名誉毀損の犯罪終了時期は,平成15年3月9日の2,3日後と認められるところ,原判決は,(罪となるべき事実)中において,当該終了時期を「平成15年5月15日ころ」と認定しているが,このくい違いは,判決に影響を及ぼすものではない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官那須彰裁判官白神文弘裁判官浅見健次郎)

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