平成24年11月8日宣告平成23年第1144号 主文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人に負担させる。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 平成23年11月16日の夕方頃から,兵庫県伊丹市内の居酒屋で内縁の夫であるAと飲食していた際,Aからその携帯電話機に保存されていた女性の写真を見せられるなどしたため嫉妬・立腹し,その後,居酒屋を出て普通乗用自動車(軽自動車。以下「被告人車両」という。)を運転して帰宅する途中,助手席に同乗中のAが被告人の気持ちを理解していない様子であったことにさらに怒りを募らせた末,あえて危険な運転をしようと考えた。そこで,被告人は,同日午後9時55分頃,被告人車両を運転し,同市ab丁目c番d号付近道路上の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を東から西に向かって直進するに当たり,対面信号機が赤色信号を表示しているのを本件交差点東詰めの停止線の手前約105mの地点で認め,直ちに制動措置を講じれば同停止線の手前で停止することができたにもかかわらず,これを殊更に無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約60ないし70㎞の速度で被告人車両を運転して本件交差点内に進入し,これにより,同車両前部を,折から左方道路から青色信号に従って本件交差点内に進入してきたB(当時58歳)が運転する原動機付自転車の右前部及びC(当時62歳)が運転する原動機付自転車の右側面にそれぞれ衝突させ,B及びCをいずれも各原動機付自転車もろとも路上に転倒させ,よって,Bに胸部大動脈断裂の傷害を負わせて即時同所でBを失血死させるとともに,Cに入院加療約114日間を要する脳挫傷(遷延性意識障害の Cをいずれも各原動機付自転車もろとも路上に転倒させ,よって,Bに胸部大動脈断裂の傷害を負わせて即時同所でBを失血死させるとともに,Cに入院加療約114日間を要する脳挫傷(遷延性意識障害の後遺症を伴うもの),外傷性くも膜下出血,骨盤骨折,出血性ショック,右鎖骨骨折及び右腓骨骨折の傷害を負わせた。 第2 酒気を帯び,呼気1ℓにつき0.15㎎以上(約0.35㎎)のアルコールを身体に保有する状態で,前記第1の日時・道路で,被告人車両を運転した。 第3 前記第1の日時・道路で,被告人車両を運転中,前記第1のとおり,Bらに前記各傷害を負わせる交通事故を起こし,もって,自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,Bらを救護する等法律の定める必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断) 1 争点本件の中心的な争点は,判示第1の危険運転致死傷の事実について,被告人が本件交差点の赤色信号を殊更に無視したか否かであり,その前提として,㋐ 被告人が本件交差点の対面の赤色信号を認識した地点と, 被告人が本件交差点に進入した際の速度とが争われている。 2 争点(赤色信号を認識した地点)について 本件交差点は,東西方向の道路(以下「本件道路」という。)と南北方向の道路との交差点である。被告人が東から西へと走行していた本件道路は,最高速度が時速40㎞に制限されている。その西行き車線は,本件交差点の東側にある交差点(以下「東側交差点」という。)付近から本件交差点にかけて緩やかに右方向(北方向)にカーブし,東側交差点を過ぎた付近は2車線(以下,南側から「第1車線」,「第2車線」 差点の東側にある交差点(以下「東側交差点」という。)付近から本件交差点にかけて緩やかに右方向(北方向)にカーブし,東側交差点を過ぎた付近は2車線(以下,南側から「第1車線」,「第2車線」という。)であるが,本件交差点の東詰め停止線(以下「本件停止線」という。)手前約60.5m付近から本件交差点にかけては,第2車線の北側に右折専用車線(以下「第3車線」という。)が設けられている。被告人は,捜査段階では,東側交差点の東詰め横断歩道上付近の地点(本件停止線から約105m手前の,実況見分調書〔甲13〕添付の交通事故現場見取図記載③の地点。以下「③地点」という。)で本件交差点の対面信号(以下「本件信号」という。)が赤色であることを確認したと指示説明するとともにその旨供述し,公判でも,本件信号は赤色ではなく青色だったと供述してはいるものの,③地点付近で本件信号を確認したこと自体は認めている上,③地点から本件信号を十分に見通すことができることが明らかであるから,被告人が③地点で本件信号を確認したと認めることができる。 そこで,被告人が③地点で確認した本件信号の色が何色であったかを検討すると,本件当時,被告人車両前方の本件道路西行き車線上を,Dが運転し,Eが助手席に同乗する車両(以下「D車両」という。)が走行していたところ,この両名は,D車両が東側交差点付近を通過した際,東側交差点の対面信号が黄色となった旨一致して証言しており,また,Dは,東側交差点の東詰め停止線の手前で本件信号が黄色から赤色に変わったとも証言している。ところで,D及びEは,いずれも被告人と面識がなく利害関係が全くない上,上記各証言の内容は,本件交差点及び東側交差点の信号サイクルとも整合していることなどから,これらの証言の信用性に疑いを容れる余地はない。そし 及びEは,いずれも被告人と面識がなく利害関係が全くない上,上記各証言の内容は,本件交差点及び東側交差点の信号サイクルとも整合していることなどから,これらの証言の信用性に疑いを容れる余地はない。そして,このように信用できるE証言によれば,D車両が時速約40ないし50㎞から減速して本件停止線手前の第2車線上に停止した数秒後に,被告人車両がその後方から第3車線を走行してきて本件交差点に進入したことが認められ,このこともあわせて考えると,被告人車両が③地点を通過した時点では,既に本件信号が赤色であったことが明白である。また,D車両の後方かつ被告人車両の前方の第2車線上を走行していた車両の運転手であるFの供述などによれば,被告人車両は,東側交差点を通過後程なくして,F運転の車両をその左後方から追い抜きながら第1車線から第3車線にまで一気に車線変更した後,本件交差点に進入したこと,その車線変更の時点で,被告人車両前方の第2車線及び第1車線上には,本件停止線手前で減速するか又は停止していたD車両及びもう1台の別の車両がいたことが認められるが,このような被告人の走行態様は,被告人が③地点で本件信号が赤色であることを認識していたことを裏付けるものといえる。 そもそも,本件交差点西詰め北側の信号機の手前約30mの地点で同信号機を見て初めて本件信号が赤色であることに気付いたなどという被告人の公判供述は,これまでに認定した被告人車両の走行態様と全く整合しない上,被告人車両の助手席に同乗していたAの証言(本件停止線手前約30mの地点で対面信号が黄色から赤色に変わったというもの。本件交差点の信号サイクルや信用できる目撃者の供述等と明らかに矛盾する。)とも一致せず,これらの被告人の供述やAの証言は到底信用できない。 以上によれば,被告人 色から赤色に変わったというもの。本件交差点の信号サイクルや信用できる目撃者の供述等と明らかに矛盾する。)とも一致せず,これらの被告人の供述やAの証言は到底信用できない。 以上によれば,被告人が本件停止線手前約105mの③地点で本件信号が赤色であることを認識したことは,合理的な疑いなく認めることができる。 3 争点(被告人車両の速度)についてEは,自らも自動車を運転するE自身の感覚で,被告人車両が本件停止線に進入する際の時速は約70から80㎞であったと証言しており,時速40㎞くらいで車を走らせていたFも,左後方から被告人車両がFの車を追い抜き目の前で車線変更をした後,そのまま第3車線を走行して本件交差点に進入して行った際の速度について,すごく速いと感じた旨供述している。また,本件交差点南詰めの停止線手前の被害車両2台の後方で信号待ちをした後,発進させ始めた自己の車両内から本件を目撃したGは,被告人車両が体感で時速約60から70㎞で東側から本件交差点に進入してきたと供述している。これらの証言や供述は,相互にほぼ一致している上,本件交差点の信号サイクル等とも矛盾がなく,信用性が高い一方,時速約40㎞で走行していたという被告人の公判供述は,上記の証言などに照らして,明らかに信用できない。よって,被告人は,少なくとも時速約60ないし70㎞の速度で第1車線から第2車線,第3車線へと車線変更し,その速度を維持したまま本件交差点に進入したことが認められる。 4 結論以上のとおり,被告人は,本件停止線手前約105mの③地点で,本件信号が赤色であることを認識し,直ちにブレーキをかければ本件停止線手前で停止することができたのに,判示のとおり,時速約60ないし70㎞の高速度のまま本件交差点に進入したのであるから,被告人が本件交 信号が赤色であることを認識し,直ちにブレーキをかければ本件停止線手前で停止することができたのに,判示のとおり,時速約60ないし70㎞の高速度のまま本件交差点に進入したのであるから,被告人が本件交差点の赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転したと認めることができる。(法令の適用)省略(量刑の理由)被害者の1人は,被告人車両のフロントガラスに激突して路上に落下し,全身に骨折などの重傷を負い,胸部の大動脈が断裂して,その場で失血死した。もう1人の被害者は,10m以上も跳ね飛ばされて路上に落下し,重篤な傷害を負わされた末,現在でも回復の見込みがない重度の意識障害の状態にある。被告人のあきれ果てた動機による浅はかな行為により,これからも楽しもうとしていた人生の円熟期を突然奪われることとなった被害者らはもちろんのこと,妻や母を失った遺族や,意識の戻らない妻や母に寄り添う家族の悲しみや苦しみは計り知れず,これらの多くの人々が被告人に対する厳しい処罰を求めるのは当然である。また,被告人は,相当程度の酒気を帯びた状態で,追い越しを繰り返しながら高速度で車を走行させ,1つ手前の交差点付近で本件交差点の対面信号が赤色であることを認識したにもかかわらず,無謀にも右折専用車線を直進して本件交差点内に進入し,衝突後もブレーキを踏むことなく進行し続けたのであり,その走行態様は,無差別に何人もの人を死傷させるおそれの高い極めて危険なものであった。その上,被告人は,無責任かつ無慈悲にも,被害者らを何ら救護等することなく事故現場から走り去っている。加えて,被告人は,公判廷で被害者らに対する謝罪の言葉を口にしてはいるものの,危険運転の犯行状況について不合理な弁解に終始し,自己の行為を真摯に反省していると となく事故現場から走り去っている。加えて,被告人は,公判廷で被害者らに対する謝罪の言葉を口にしてはいるものの,危険運転の犯行状況について不合理な弁解に終始し,自己の行為を真摯に反省しているとは到底見受けられない。何度も飲酒運転を繰り返していたことなどをあわせ考えると,被告人に交通ルールに対する規範意識が欠如していることは明らかである。そうすると,被告人の刑事責任は重大であり,その長女が公判に出廷し,社会復帰後の被告人に対する支援を約束していることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,被告人の本件各犯行に対しては,主文のとおりの刑をもって臨むのが相当であると判断した。(求刑懲役15年)平成24年11月8日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官細井正弘 裁判官西森英司 裁判官内藤智子
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