令和6年1月15日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成27年(行ウ)第17号生活保護基準引下げ違憲処分取消等請求事件平成28年(行ウ)第3号生活保護基準引下げ違憲処分取消等請求事件口頭弁論終結日令和5年7月24日判決 主文 1 別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の各処分行政庁が同表の「処分の名宛人」欄記載の各人に対して平成27年4月1日付けでした生活保護法25条2項に基づく各保護変更処分をいずれも取り消す。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告28及び原告30と被告出水市との間においては同被告の負担とし、その余の原告らと被告鹿児島市との間においては同被告の負担とし、原告らと被告国との間においては原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項同旨 2 被告国は、原告らに対し、各1万円及びこれに対する平成27年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定に伴い、所轄の福祉事務所長から平成27年4月1日に生活扶助の支給額を減ずる旨の保護変更決定(以下「本件各処分」という。)を自ら受け又はこれを受けた者と同一世帯に属する原告らが、同改定が憲法25条、生活保護法 3条、8条に違反し、国家賠償法上も違法であると主張して、被告鹿児島市及 び被告出水市との間で本件各処分の取消しを求めるとともに、被告国に対し、同法1条1項に基づく損害賠償及びこれに対する同日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民事法定利率年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 生活保護法の定め ⑴ 条1項に基づく損害賠償及びこれに対する同日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民事法定利率年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 生活保護法の定め ⑴ 目的等生活保護法は、憲法25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする(1条)。生活保護法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水 準を維持することができるものでなければならない(3条)。 ⑵ 基準及び程度の原則等生活保護法による保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者(保護を必要とする状態にある者)の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われる (8条1項)。この基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない(同条2項)。 生活保護法による保護は、世帯を単位としてその要否及び程度が定められ る(10条)。 ⑶ 保護の種類生活保護法による保護には、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助がある(11条1項)。このうち生活扶助は、衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの及び移送 の範囲内において行われる(12条)。 ⑷ 保護の変更生活保護法による保護の実施機関は、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもってその決定を行い、決定の理由を付した書面をもって、これを被保護者(現に 。 ⑷ 保護の変更生活保護法による保護の実施機関は、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもってその決定を行い、決定の理由を付した書面をもって、これを被保護者(現に保護を受けている者)に通知しなければならない(25条2項、24条4項)。 2 生活保護法による保護の基準等⑴ 概要厚生労働大臣は、生活保護法8条1項の規定に基づき、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)を定める(乙1[枝番号は適宜省略する。以下同じ。])。 保護基準は、全国の市町村を1級地-1、1級地-2、2級地-1、2級地-2、3級地-1及び3級地-2の6つの級地に区分し、級地別に生活扶助等の基準額を定める(乙1)。 生活扶助は、基準生活費及び加算により構成される。そして、基準生活費は、世帯を構成する個人毎に第1類の表により定められる額(以下「第1類 費」という。)及び世帯毎に第2類の表により定められる額(以下「第2類費」という。)により構成される。第1類費は、個人単位で消費する経費(食費、被服費等)に対応し、級地及び年齢階級(区分)別に定められる。第2類費は、世帯単位で消費する経費(光熱費、家具什器費等)に対応し、級地及び世帯人員別に定められる。基準生活費は、基本的に、世帯を構成する個人の 第1類費を合算した上で世帯人員に応じた逓減率を乗じた金額及び当該世帯の第2類費を合計して算定される(乙1、乙9[9頁])。 加算には、妊産婦加算、障害者加算、母子加算等の8種類がある(乙1)。 ⑵ 生活扶助基準の設定方法保護基準の定める生活扶助の基準は、日常生活に必要な基本的かつ経常的 な経費についての最低生活費を定めるものであるが、最低生活費は、世帯の がある(乙1)。 ⑵ 生活扶助基準の設定方法保護基準の定める生活扶助の基準は、日常生活に必要な基本的かつ経常的 な経費についての最低生活費を定めるものであるが、最低生活費は、世帯の 構成(世帯構成員の年齢階級、世帯人員、居住地域)によって異なる。そこで、保護基準は、昭和23年から、標準世帯(昭和61年4月1日以降は33歳、29歳、4歳の3人世帯)の1級地-1(東京都区部等)における生活扶助基準額を設定した上で、これを年齢階級別、世帯人員別、級地別に展開することにより世帯構成別の生活扶助基準額を設定してきた。具体的には、 まず、標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額を、一般世帯における第1類費に対応する支出額(以下「第1類費相当支出額」という。)と第2類費に対応する支出額(以下「第2類費相当支出額」という。)の割合を参考に、第1類費と第2類費に分解する。次に、標準世帯(1級地-1)の第1類費から、年齢階級別の栄養所要量を参考とする指数により、年齢階級別の第1類 費(1級地-1)を算定し、同様に、標準世帯(1級地-1)の第2類費から、消費支出を参考とする指数により、世帯人員別の第2類費(1級地-1)を算定する。最後に、年齢階級別の第1類費(1級地-1)及び世帯人員別の第2類費(1級地-1)から、級地間格差を示す指数により、各級地における年齢階級別の第1類費及び世帯人員別の第2類費を算定する。(甲12 の2、甲24の4、乙7の2、乙8、乙10、乙21、乙33、弁論の全趣旨)⑶ 生活扶助基準の検証平成23年2月、生活扶助基準について学識経験者による専門的かつ客観的な検証を実施することを目的として、社会保障審議会に生活保護基準部会 (以下「基準部会」という。)が設置された。基準部会は、平成21年 2月、生活扶助基準について学識経験者による専門的かつ客観的な検証を実施することを目的として、社会保障審議会に生活保護基準部会 (以下「基準部会」という。)が設置された。基準部会は、平成21年全国消費実態調査を用いて、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か等について検証を行い、その結果を平成25年1月18日付け「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」(以下「平成25年報告書」という。)に取りまとめた。(甲1、甲23の4、乙6、乙22、乙 77) 平成25年報告書は、生活扶助基準と比較する一般低所得世帯として年間収入階級第1・十分位層(世帯収入又は世帯構成員一人当たりの収入が全世帯の下位10%に属する層。以下「第1・十分位」という。)を用いた上で、当時の生活扶助基準(平成25年厚生労働省告示第174号による改正前のもの。以下「改定前基準」といい、改定前基準により算定される生活扶助の 具体的な額を「改定前基準額」という。)における年齢階級別に設定されている第1類費の年齢階級別の比率(指数)、世帯人員別に設定されている第1類費の乗数、世帯人員別に設定されている第2類費の世帯人員別の比率(指数)及び級地別に設定されている生活扶助基準額の級地別の比率(指数)が、消費実態における第1類費相当支出額の年齢階級別の比率(指数)、第1類費相 当支出額の世帯人員別の比率(指数)、第2類費相当支出額の世帯人員別の比率(指数)及び生活扶助で賄われる経費に相当する支出額(以下「生活扶助相当支出額」という。)の級地別の比率(指数)から、いずれも乖離している旨指摘した。(甲1、乙6)⑷ 保護基準の改定 厚生労働大臣は、平成25年厚生労働省告示第174号、平成26年同省告示第136号及 う。)の級地別の比率(指数)から、いずれも乖離している旨指摘した。(甲1、乙6)⑷ 保護基準の改定 厚生労働大臣は、平成25年厚生労働省告示第174号、平成26年同省告示第136号及び平成27年同省告示第227号により、生活扶助の基準を概要次の⑸、⑺及び⑻のとおり変更することを内容とする保護基準の改定を行った(以下上記各告示による改定を順に「平成25年改定」、「平成26年改定」及び「本件改定」といい、これらを「本件各改定」と総称する。)。 ⑸ 平成25年報告書を踏まえた変更(以下「ゆがみ調整」という。)厚生労働大臣は、第1類費について、年齢階級間の差を小さく、世帯人員の増加による逓減率を低く(逓減割合を高く)し、第2類費について、世帯人員の増加に伴う増額幅を大きくし、第1類費及び第2類費双方について、級地間の差を小さくすることなどを内容とする生活扶助基準の変更を行った (甲1、乙6、乙16、乙17、弁論の全趣旨)。 ⑹ 消費者物価指数消費者物価指数とは、全国の世帯が購入する財及びサービスの価格変動を総合的に測定し、物価の変動を測定するものであって、家計の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価の変動によりどう変化するかを示すものである。総務省が公表する消費者物価指数(以下「総務省CPI」 という。)は、概ね次の手順により算定される。(乙26~28)・西暦年の末尾が0又は5となる年を基準時とする。 ・指数の計算に利用する消費品目(以下「指数品目」という。)を指定する。 ・家計調査の結果から、基準時における各指数品目に係る支出が消費支出全体に占める割合を1万分比で表す(以下このように1万分比で表された 割合を「ウエイト」という。)。 ・比較対象とする年又は月( 調査の結果から、基準時における各指数品目に係る支出が消費支出全体に占める割合を1万分比で表す(以下このように1万分比で表された 割合を「ウエイト」という。)。 ・比較対象とする年又は月(以下「比較時」という。)の各指数品目の価格を基準時の価格を100とした場合における指数(以下「価格指数」という。)で表す。 ・各指数品目の価格指数を基準時のウエイトを用いて加重平均する。 ⑺ 物価動向を勘案した変更(以下「デフレ調整」という。)厚生労働大臣は、総務省CPIを基礎として、全ての指数品目から①生活扶助以外の扶助で賄われる品目(家賃、教育費、医療費等)及び②被保護世帯の支出が想定されていない品目(自動車関係費、NHK受信料等)を除いた品目(以下「生活扶助相当品目」といい、除外した品目を「除外品目」と いう。)に係る消費者物価指数(以下「生活扶助相当CPI」という。)の平成20年から平成23年までの変化率を次のとおり算定した。 まず、平成22年(西暦2010年)を基準時とし同年のウエイトを用いて平成20年の生活扶助相当CPIを104.5と算定した。次に、平成22年を基準時とし同年のウエイトを用いて平成23年の生活扶助相当CPI を99.5と算定した。そして、平成23年の生活扶助相当CPI(99. 5)と平成20年の生活扶助相当CPI(104.5)の差(-5.0)を平成20年の生活扶助相当CPI(104.5)で除すことにより、平成20年から平成23年までの生活扶助相当CPIの変化率を-4.78%(以下「本件下落率」という。)と算定した。なお、平成20年から平成23年までの総務省CPIの変化率は、-2.35%であった。(乙18、乙29、弁 論の全趣旨)厚生労働大臣は、改定前基準における第1類費及 落率」という。)と算定した。なお、平成20年から平成23年までの総務省CPIの変化率は、-2.35%であった。(乙18、乙29、弁 論の全趣旨)厚生労働大臣は、改定前基準における第1類費及び第2類費にそれぞれ0. 9522(1-0.0478[本件下落率])を乗ずることにより、物価動向を勘案した生活扶助基準の変更を行った。なお、厚生労働大臣は、審議会等の専門機関による検討を経ずに同変更を行った。(乙17、乙18、弁論の全 趣旨)⑻ 激変緩和措置厚生労働大臣は、激変緩和措置として、本件各改定による生活扶助基準額の増減率が改定前基準額の10%を超えないようにし、なおかつ、平成25年8月から平成27年4月1日までの間に、平成25年改定、平成26年改 定及び本件改定の3回に分けて段階的に改定を実施することとした(甲2、乙18)。 3 本件各処分の経緯等原告らは、いずれも鹿児島市又は鹿児島県出水市に居住し、生活保護法による生活扶助を受けている。被告鹿児島市及び被告出水市は、いずれも普通地方 公共団体である。 別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の各福祉事務所長は、平成27年4月1日、同表の「処分の名宛人」欄記載の各人(原告又はこれと同一世帯に属する者)に対し、本件改定に従って、生活保護法25条2項に基づく保護変更決定(本件各処分)をした。上記各人の属する世帯に対する生活扶助の支給額 は、本件各処分により、同表の「減額」欄記載のとおり減少した(ただし、こ の減額の一部は本件改定以外の理由によるものである。)。(甲84)本件各処分の名宛人は鹿児島県知事に対し同表の「審査請求日」欄記載の各日に審査請求をし、鹿児島県知事は同表の「裁決日」欄記載の各日にこれらの審査請求を棄却する旨の裁決をした(弁論の )。(甲84)本件各処分の名宛人は鹿児島県知事に対し同表の「審査請求日」欄記載の各日に審査請求をし、鹿児島県知事は同表の「裁決日」欄記載の各日にこれらの審査請求を棄却する旨の裁決をした(弁論の全趣旨)。 原告1から29までは平成27年12月24日に、原告30は平成28年1 月14日に、それぞれ本件訴えを提起した(顕著な事実)。 4 争点⑴ 本件改定が憲法及び生活保護法に違反するか⑵ 本件改定の国家賠償法上の違法性及び原告らの損害 5 争点⑴に関する原告らの主張 ⑴ 判断枠組みア最低限度の生活を認定し原告らの生活と比較する手法憲法25条、生活保護法3条、8条の定める「(健康で文化的な)最低限度の生活」は、特定の時点において一応客観的に決定すべきであり、かつ、決定し得るものである。「健康な生活」を維持するためには、住居及び光熱 水道を確保し最低限の栄養を確保できなければならず、「文化的な生活」を営むためには、社会の情報を取り入れ、他者と交流し、子どもを教育する金銭的余裕が必要である。本件改定後の原告らの生活が、このような「(健康で文化的な)最低限度の生活」に達しない場合には、本件改定は、憲法25条、生活保護法3条、8条に違反する。 イ科学的、学術的な裏付けの有無を検討する手法生活保護法8条が厚生労働大臣に保護基準の設定を委任する趣旨は、最低限度の生活を具体化するに当たって、高度の専門技術的な考察に基づく政策的判断を必要とするためであり、厚生労働大臣に保護基準の設定に関して裁量権が認められるとしても、それは高度の専門技術的な考察の枠内 で許容される限定的なものである。したがって、本件改定に係る厚生労働 大臣の判断が、科学的、学術的な裏付けを有していない場合には、その判断の ても、それは高度の専門技術的な考察の枠内 で許容される限定的なものである。したがって、本件改定に係る厚生労働 大臣の判断が、科学的、学術的な裏付けを有していない場合には、その判断の過程及び手続に過誤、欠落があるといえ、本件改定は違憲、違法となる。 特に、従前の生活扶助基準を引き下げる場合には、生存権が個人の尊厳の維持に必要不可欠な権利である一方で多数派によりはく奪されやすい 権利であることに加え、憲法25条の定める「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化した生活保護法、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約等により導かれる制度後退禁止原則の要請から、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無の審査は厳格に行うべきである。 ⑵ ゆがみ調整をした判断について ゆがみ調整及びその前提となった平成25年報告書には次のような問題点があり、厚生労働大臣がゆがみ調整をした判断には、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。 ア生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたこと(ア) 第1・十分位には、最低限度の生活を営むのに必要な額を下回る所得水 準で生活している漏給層(生活保護の受給資格がありながらこれを受給していない世帯)が含まれており、生活扶助基準を第1・十分位の消費支出と比較すると、ほぼ自動的に生活扶助基準の方が高いという結果が出るため、生活扶助基準の際限ない引下げを招くことになる。 (イ) 中央福祉審議会の昭和58年12月23日付け「生活扶助基準及び加算 のあり方について(意見具申)」(以下「昭和58年意見具申」という。)は、平均世帯の消費支出、一般低所得世帯(第1・五分位層[世帯収入が下位20%に属する層]、第2・五分位層[世帯収入が下位40%に属する層のうち第1・五分位層を除くも 昭和58年意見具申」という。)は、平均世帯の消費支出、一般低所得世帯(第1・五分位層[世帯収入が下位20%に属する層]、第2・五分位層[世帯収入が下位40%に属する層のうち第1・五分位層を除くもの])の消費支出及び被保護世帯の消費支出の3つの間の格差の均衡に留意して、生活扶助基準の妥当性を検証しており、 生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたことは、昭和5 8年意見具申以降採用されてきた考え方との一貫性を欠く。 イ集団を比較する場合の統計学上のルールとの整合性(ア) 統計学上、比較する2つの集団は、比較項目以外において、可能な限り等質的であることが求められる。平成25年報告書は、一般低所得世帯(第1・十分位)の消費支出と被保護世帯の消費支出を比較するものであり、 このような比較が意味を有するためには、一般低所得世帯(第1・十分位)と被保護世帯が消費支出以外の点においては同じ集団的特徴を有している必要がある。しかしながら、平成25年報告書は、一般低所得世帯(第1・十分位)と被保護世帯との比較可能性を厳密に検討していない。 (イ) 統計学上、比較する2つの集団は、比較項目において、厳密に区別され なければならず、比較する一方の集団に他方の集団が含まれているとすれば、その2つの集団の比較は、統計学上全く意味をなさない。しかしながら、厚生労働大臣は、一般低所得世帯(第1・十分位)から被保護世帯を除去することなく、一般低所得世帯(第1・十分位)と被保護世帯を比較した。 ウ平成21年全国消費実態調査との整合性平成25年報告書は、平成21年全国消費実態調査を用いて世帯収入に基づく第1・十分位(3125世帯)及び世帯員1人当たりの収入に基づく第1・十分位(6697世帯)を設定したというが 調査との整合性平成25年報告書は、平成21年全国消費実態調査を用いて世帯収入に基づく第1・十分位(3125世帯)及び世帯員1人当たりの収入に基づく第1・十分位(6697世帯)を設定したというが、これらの世帯数は平成21年全国消費実態調査の調査世帯総数(5万6806世帯)の10 分の1になっておらず、平成25年報告書が検証の対象とした世帯は第1・十分位を代表していない可能性がある。 エ回帰分析の統計学の専門的知見との整合性平成25年報告書が設定した回帰式は、決定係数が信頼性の目安となる0.5を大幅に下回る低い値である上に、帰無仮説(被説明変数が説明変 数の影響を受けないとの仮説)が棄却されないために通常であれば除去さ れるべき説明変数を含んでおり、統計的信頼性が乏しい。 ⑶ デフレ調整をした判断についてデフレ調整には次のような問題点があり、厚生労働大臣がデフレ調整をした判断には、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。 ア物価変動を指標とする生活扶助基準改定方式を採用したこと 物価変動を指標として生活扶助基準を改定することは、生活扶助基準改定方式として昭和59年度以降採用されてきた水準均衡方式と矛盾し、専門的知見と整合しない。すなわち、水準均衡方式は、生活扶助基準が一般国民の消費実態との均衡上妥当であることを維持するものであるところ、物価は消費そのものではないため、物価変動を考慮して生活扶助基準を改 定すると、一般国民の消費実態との均衡が必ずしも図られなくなる。また、物価は消費の要素となるものであるから、消費を比較して生活扶助基準を定める水準均衡方式においては、物価変動も考慮されているのであって、水準均衡方式を採用しながら、物価変動を指標として生活扶助基準を改定することは、物価を二重評 あるから、消費を比較して生活扶助基準を定める水準均衡方式においては、物価変動も考慮されているのであって、水準均衡方式を採用しながら、物価変動を指標として生活扶助基準を改定することは、物価を二重評価することとなる。 イ物価動向を勘案する期間を平成20年から平成23年までとしたこと社会保障審議会福祉部会に設置された「生活保護の在り方に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)は、平成16年12月15日付け「生活保護の在り方に関する専門委員会報告書」(以下「平成16年報告書」という。)において、生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態との均衡上 妥当であると評価しており、このことを踏まえると同年を物価動向勘案の始期とすべきであった。しかしながら、厚生労働大臣は、平成13年から平成25年までの13年間で総務省CPIが最も高くなった平成20年を物価動向勘案の始期とし、その結果、物価下落率が過大に算定されることとなった。 また、本件各改定の予定は、平成25年1月27日に公表されたところ、 その時点における最新の総務省CPIは、同月25日公表の平成24年のものであったのであるから、同年を物価動向勘案の終期とすべきであった。 ウ生活扶助相当CPIにおけるウエイトの設定生活扶助相当CPIは、一般国民を母集団とする調査である家計調査の結果に基づく総務省CPIのウエイトを用いて算定されるところ、調査対 象のほとんどが被保護世帯以外の世帯で構成される家計調査の結果は、どのように加工しても被保護世帯の消費実態を示す指標とはならない。被保護世帯の消費構造は、たとえば全消費支出に占める食費及び光熱費に対する支出の割合が高いなど、一般国民の消費構造と大きく異なる上に、生活扶助相当CPIの算定に際して除外品目を設 指標とはならない。被保護世帯の消費構造は、たとえば全消費支出に占める食費及び光熱費に対する支出の割合が高いなど、一般国民の消費構造と大きく異なる上に、生活扶助相当CPIの算定に際して除外品目を設けたために、生活扶助相当C PIの計算上は、被保護世帯の全消費支出に占める家電製品、ゴルフ、海外旅行、英会話教室等の品目に対する支出割合が一般国民と比較して高いこととなるといった不自然な事態が生じた。 以上の結果、生活扶助相当CPIは、被保護世帯の消費実態を反映しないものになった。たとえば、被保護世帯の全消費支出に占めるテレビ及び パソコン(以下「テレビ等」という。)に対する支出の割合は、平成20年の生活扶助相当CPIにおいては4.3%とされ、平成22年の生活扶助相当CPIにおいては2.1%とされたが、同年の社会保障生計調査によれば、被保護世帯の全消費支出に占めるテレビ等に対する実際の支出割合は0.4%にすぎなかった。 エ平成22年のウエイトを用いたこと厚生労働大臣は、平成22年のウエイトを用いて平成20年の生活扶助相当CPIを算定したところ、この算定方法は、価格指数が下落した一方で購入数量が増加した指数品目の価格変化の影響を過大に評価するために物価下落率を過大に評価する性質(下方バイアス)を有するパーシェ方 式(比較時のウエイトを用いて消費者物価指数を算定する方式)と同様で あるため、平成20年から平成22年までの物価下落率が過大に算定されることとなった。具体的には、地上デジタル放送移行及び家電エコポイント制度実施に伴う特需が起こったテレビ並びに品質向上による品質調整(統計上の操作)を受けたパソコンについて、平成20年から平成22年までの間に価格指数の下落及び購入数量の増加が生じたため、これらの ト制度実施に伴う特需が起こったテレビ並びに品質向上による品質調整(統計上の操作)を受けたパソコンについて、平成20年から平成22年までの間に価格指数の下落及び購入数量の増加が生じたため、これらの品 目の価格下落が過大に評価されることとなった。 このこと及び上記ウの結果、本件下落率のうち、-1.59ポイントはテレビの価格変化が、-0.76ポイントはパソコンの価格変化がそれぞれ寄与することとなった。 オ比較時の生活扶助相当CPIの計算 厚生労働大臣は、上記エのとおり平成20年の生活扶助相当CPIについてはパーシェ方式と同様の方式を用いて算定した一方で、平成23年の生活扶助相当CPIについてはラスパイレス方式(基準時のウエイトを用いて消費者物価指数を算定する方式)を用いて算定しており、このような異なる2つの物価計算式を同時に用いる計算方法は、科学的、学術的な裏 付けを欠くものである。また、異なる2つの計算式により得た指数を比較するためには接続処理(過去の基準における指数を、現在の基準における指数に換算する処理)を行うべきであるが、厚生労働大臣は、そのような処理を行っていない。 さらに、物価変動率を算定するためには、比較する消費者物価指数を同 じ指数品目及びウエイトを用いて算定しなければならないが、厚生労働大臣は、平成20年の生活扶助相当CPIを485品目の指数品目(総ウエイト6189)により算定し、平成23年の生活扶助相当CPIを517品目の指数品目(総ウエイト6393)により算定した。 カゆがみ調整とデフレ調整を併せてしたこと ゆがみ調整は、生活扶助基準の水準(高さ)である標準世帯の生活扶助 基準額を一般低所得世帯の消費実態との均衡を図るために引き下げるものであり、これにより仮に改 整を併せてしたこと ゆがみ調整は、生活扶助基準の水準(高さ)である標準世帯の生活扶助 基準額を一般低所得世帯の消費実態との均衡を図るために引き下げるものであり、これにより仮に改定前基準と一般低所得世帯の消費実態との間に乖離があったとしても、その乖離は解消されたはずである。それにもかかわらず、さらに物価下落を理由としてデフレ調整をしたことは、標準世帯の生活扶助基準額を二重に引き下げるものであり不当である。 キ専門家の関与する審議会等による検証を経ていないこと厚生労働大臣には、最低限度の生活の需要に係る高度の専門技術的な考察を行う能力がない。また、生活保護法は、保護基準が専門機関による審議検討に基づいて設定されることを前提として立法された。さらに、平成16年報告書は、生活扶助基準の検証に係る調査方法及び評価手法につい て専門家の知見を踏まえることが妥当である旨提言した。しかしながら、厚生労働大臣は、専門家による審議検討を経ずにデフレ調整をする判断を行った。 6 争点⑴に関する被告らの主張⑴ 判断枠組み 厚生労働大臣には、保護基準を設定するに当たり、専門技術的かつ政策的な見地からの広範な裁量権が認められるところ、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無の判断に当たっては、裁判所が独自の観点から特定の衡量利益や考慮事情を選び出してこれをよりどころとすべきではなく、厚生労働大臣が判断の過程において考慮した統計等の客観的な数値等や専門的知見を前提 に、これらと厚生労働大臣の判断との間に論理の飛躍や連関を欠くところがないかという観点から、当該判断と統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を審査すべきである。 そして、仮に厚生労働大臣の判断過程の一部に瑕疵があるとしても、その を欠くところがないかという観点から、当該判断と統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を審査すべきである。 そして、仮に厚生労働大臣の判断過程の一部に瑕疵があるとしても、その瑕疵が判断の結論に影響する可能性がおよそない場合には、厚生労働大臣の 判断が違法になるとはいえず、その瑕疵のために現実の生活条件を無視した 著しく低い基準が設定されたなど憲法及び生活保護法の趣旨、目的に反したと評価できる場合に限り、厚生労働大臣の判断が違法となる。 ⑵ ゆがみ調整をした判断についてア生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたこと平成25年報告書は、被保護世帯間の公平が図られているかを検証する 目的を有しており、その検証の手掛かりとする一般低所得世帯は、被保護世帯と消費実態が近いものとするのが相当である。そのような観点からは、平成25年報告書が、生活扶助基準と比較する世帯として、被保護世帯と近い消費構造を持つ第1・十分位を用いたことには相当の根拠があるといえる。また、生活扶助基準については、従前から一貫して、第1・十分位 の消費実態との比較に着目して検証が行われてきた。具体的には、社会福祉審議会生活保護専門分科会による昭和39年12月26日付け中間報告は第1・十分位と生活保護階層との格差縮小を見込んだ改善を行うべきであるとの指摘をし、昭和58年意見具申は、大部分の国民が維持してきた生活様式が保たれる限界点における収入分位が第2.99・五十分位(収 入が全世帯の下位約6%に相当する層)であることを踏まえて第2.99・五十分位の生活扶助基準額と生活扶助相当支出額を比較し、平成16年報告書及び厚生労働省に設置された「生活扶助基準に関する検討会」(以下「基準検討会」という。)による平 あることを踏まえて第2.99・五十分位の生活扶助基準額と生活扶助相当支出額を比較し、平成16年報告書及び厚生労働省に設置された「生活扶助基準に関する検討会」(以下「基準検討会」という。)による平成19年11月30日付け報告書(以下「平成19年報告書」という。)はいずれも第1・十分位の生活扶助基準額 と生活扶助相当支出額を比較した。 イ集団を比較する場合の統計学上のルールとの整合性平成25年報告書及びゆがみ調整は、第1・十分位の生活扶助基準額と生活扶助相当支出額を比較したものであって、被保護世帯の消費支出と一般低所得世帯の消費支出を比較したものではない。 ウ平成21年全国消費実態調査との整合性 平成21年全国消費実態調査は、調査対象である市町村毎に定められた抽出率を用いて調査対象世帯を抽出し、集計の際には、調査対象世帯から母集団を推計するために、調査対象世帯の情報に集計用乗率(一般的には抽出率の逆数)を乗じている。そして、平成25年報告書が設定した第1・十分位は、集計用乗率を乗じた後の世帯数を基準として、その下位10% に属する層を指すものである。したがって、平成25年報告書が第1・十分位として設定した世帯の数が調査対象世帯数の10分の1にならないことは、平成25年報告書と平成21年全国消費実態調査の不整合を意味しない。 エ回帰分析の統計学の専門的知見との整合性 決定係数は回帰分析における当てはまりの良さを示す指標であるところ、当てはまりの良さについての一般的な基準は存在せず、決定係数が一定値以上でなければ回帰式を採用し得ないといった統計学の専門的知見は存在しない。なお、平成25年報告書における回帰分析は、クロス・セクションデータの分析であるところ、クロス・セクションデータの分析に 値以上でなければ回帰式を採用し得ないといった統計学の専門的知見は存在しない。なお、平成25年報告書における回帰分析は、クロス・セクションデータの分析であるところ、クロス・セクションデータの分析におい ては、決定係数が0.3程度しか得られない場合も多く、決定係数が0. 5であっても極めて良い値と評価される。 帰無仮説が棄却されないことは、帰無仮説が積極的に支持されることを意味しない。したがって、回帰式の設定に際し、帰無仮説が棄却されない説明変数を除外することは必要ではない。 ⑶ デフレ調整をした判断についてア物価変動を指標とする生活扶助基準改定方式を採用したこと一般的に、消費者物価指数が下がる中で名目の可処分所得が変わらなければ、実質的な可処分所得は増加するため、デフレ傾向が続く中で生活扶助基準が据え置かれてきたことにより、被保護世帯の実質的な可処分所得 が増加し、生活扶助基準が引き上げられたのと同様の状態が生じ、生活扶 助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分な程度を超えていたため、生活扶助基準の水準(高さ)の適正化を図る必要があった。 また、平成19年報告書を踏まえた生活扶助基準の据置き以降、賃金、物価、家計消費等がいずれも下落する経済情勢にありながら生活扶助基準が据え置かれており、生活扶助基準の水準(高さ)と一般国民の生活水準 との均衡が大きく崩れた状態となった。そうした中で、平成21年の全国消費実態調査を基礎として生活扶助基準の水準(高さ)を検証し、それに基づいて生活扶助基準の改定を行う場合には、減額幅が必要以上に大きくなることが予想されたことから、消費実態そのものではなく、消費の構成要素の一つである物価を指標として生活扶助基準の水準(高さ)の適正化 を図る必要があった。 合には、減額幅が必要以上に大きくなることが予想されたことから、消費実態そのものではなく、消費の構成要素の一つである物価を指標として生活扶助基準の水準(高さ)の適正化 を図る必要があった。 厚生労働大臣は、これらの事情に加えて、専門委員会による平成15年12月16日付け「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」(以下「平成15年中間取りまとめ」という。)が消費者物価指数を生活扶助基準改定の指標にする可能性を指摘したこと、生活扶助のうちの各種加算に ついてはそれまでも物価の伸び率を基礎とした改定を行ってきたこと、消費税が導入された平成元年度及び消費税率が引き上げられた平成9年度に被保護世帯の実質的な可処分所得を維持するために財やサービスの価格を考慮して生活扶助基準を改定した実績があること、平成25年報告書が生活扶助基準の改定をする場合には物価を含む合理的説明が可能な経 済指標を用いるよう指摘したこと等を踏まえて、物価変動を指標として生活扶助基準を改定する判断をした。 イ物価動向を勘案する期間を平成20年から平成23年までとしたこと平成25年報告書の直前に行われた専門機関による生活扶助基準の検証結果は平成19年報告書にまとめられており、平成19年報告書を踏まえ た生活扶助基準の改定の判断は平成20年度の改定に係るものであった。 そして、同年までの社会経済情勢の変化は、同年度の改定に係る判断において斟酌されていた。そのため、厚生労働大臣は、同年を物価動向勘案の始点とした。また、デフレ調整が同年9月のリーマンショック以降の社会経済情勢の変化によって拡大した生活扶助基準の水準(高さ)と一般国民の生活水準との不均衡の是正を目的とするものであったことも同年を物 価動向勘案の始点とした理由である。 ーマンショック以降の社会経済情勢の変化によって拡大した生活扶助基準の水準(高さ)と一般国民の生活水準との不均衡の是正を目的とするものであったことも同年を物 価動向勘案の始点とした理由である。 厚生労働大臣は、デフレ調整を検討した当時参照可能であった最新の総務省CPIが平成23年のものであったため、物価動向勘案の終期を同年とした。 ウ生活扶助相当CPIにおけるウエイトの設定 デフレ調整は一般国民の生活水準の変化を通じた相対的なものとして生活扶助基準の水準(高さ)を改定するものであるから、デフレ調整において総務省CPIのウエイトを用いて生活扶助相当CPIを算定することは相当である。また、総務省CPI算定の基礎となっている家計調査は、基幹統計の1つであり、居住地域等の偏りが生じないようにして、約90 00世帯を調査対象として行われるものであって、政策決定において広く利用されている。そして、被保護世帯の消費構造を反映したウエイトを設定するためのより的確な資料は存在しない。なお、社会保障生計調査は、調査対象世帯の選定に偏りが生ずる可能性があり、また、約1100世帯を調査対象とするものにとどまる上に、詳細な品目毎のウエイトを把握で きないものである。 水準均衡方式による生活扶助基準の毎年度の改定においては、民間最終消費支出の伸びが指標とされているところ、その計算の際には生活扶助費により支出されない費用が除外されており、また、平成16年報告書、平成19年報告書及び平成25年報告書は、いずれも生活扶助相当品目に対 する支出額を検証に用いている。このように、総務省CPIの指数品目か ら除外品目を除外することは、これまでの検証等が用いてきた恣意性を排除した客観的かつ明確な手法である。 テレビ等の教養娯 る支出額を検証に用いている。このように、総務省CPIの指数品目か ら除外品目を除外することは、これまでの検証等が用いてきた恣意性を排除した客観的かつ明確な手法である。 テレビ等の教養娯楽用耐久財は、被保護世帯においても一般国民同様に普及しているのであって、被保護世帯が教養娯楽耐久財を生活扶助費で購入することは十分に考えられる。かえって、生活扶助相当品目の一部を生 活扶助相当CPIの算定から除外し又はそのウエイトを調整することは、除外等の判断が恣意的に行われるおそれがあって不適当である。 エ平成22年のウエイトを用いたこと国民の消費の内容は経時的に変化するので、可能な限り比較時に近接した時点のウエイトを用いることが相当であり、平成22年のウエイトが最 も比較時に近接した時点のウエイトであった。また、物価動向を勘案する期間の任意の時点のウエイトを用いて算定する消費者物価指数は、消費者物価指数マニュアルにおいて「中間年指数」として紹介される、理想的な目標指数に近いと評価されるものである。 なお、生活扶助基準の改定に当たっては、恣意的な判断が介在しないと いう意味での合理性や被保護世帯を含む国民に対する分かりやすさという意味での簡便さも考慮し得るのであるから、本件下落率が被保護世帯の可処分所得の実質的増加を正確に反映する必要はない。 オ比較時の生活扶助相当CPIの計算平成22年のウエイトを用いて算定した平成20年及び平成23年の生 活扶助相当CPIは、ロウ指数と呼ばれるものであり、専門的知見による裏付けを有する。 総務省は平成22年に総務省CPIの指数品目を32品目(以下「追加品目」という。)を追加した。追加品目については、平成20年における価格指数のデータがないため、厚生労働大臣は、同年の生 を有する。 総務省は平成22年に総務省CPIの指数品目を32品目(以下「追加品目」という。)を追加した。追加品目については、平成20年における価格指数のデータがないため、厚生労働大臣は、同年の生活扶助相当CPI を算定する際には、追加品目を除いた生活扶助相当品目を指数品目とした。 このように価格指数のデータがない品目(以下「欠価格品目」という。)を除外して消費者物価指数を算定することは不合理ではない。仮に、追加品目を除外した上で、平成22年を基準時として平成23年の生活扶助相当CPIを算定した場合には、平成20年から平成23年までの生活扶助相当CPIの変化率は-4.88%となり、本件下落率よりもむしろ高くな るから、追加品目を除外しなかったことをもって、厚生労働大臣がデフレ調整をした判断について裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 カゆがみ調整とデフレ調整を併せてしたことゆがみ調整は、生活扶助基準の展開のための指数の適正化を目的とする ものであり、生活扶助基準の水準(高さ)に影響を及ぼすものではない。 なお、ゆがみ調整により、標準世帯の生活扶助基準額が引き下げられたとしても、そのことをもって、生活扶助基準の水準(高さ)が引き下げられたとはいえない。一方、デフレ調整は、生活扶助基準の水準(高さ)を一般国民の生活水準と均衡させることを目的とするものであり、ゆがみ調整 とデフレ調整を併せてしたことが不合理であるとはいえない。 キ専門家の関与する審議会等による検証を経ていないこと厚生労働大臣(所部の職員を含む。)は、生活保護制度や被保護世帯の状況に精通し、生活扶助基準を適切に設定する上で必要となる専門的知見を有している。また、保護基準の改定に当たり専門家の関与する審議会等に (所部の職員を含む。)は、生活保護制度や被保護世帯の状況に精通し、生活扶助基準を適切に設定する上で必要となる専門的知見を有している。また、保護基準の改定に当たり専門家の関与する審議会等に よる検証が必要である旨の法令の規定はない。なお、基準部会の審議事項は保護基準の定期的な評価及び検証を行うことであり、評価及び検証の結果を踏まえた保護基準の改定の在り方等については、基準部会の審議事項とされていない。 ⑷ 結果の妥当性について 平成29年12月14日付け基準部会報告書(以下「平成29年報告書」 という。)は、平成26年全国消費実態調査を用いて、夫婦子1人世帯(第1・十分位)の本件各改定後の生活扶助基準額が平成26年11月当時の夫婦子1人世帯(第1・十分位)の生活扶助相当支出額と均衡する妥当なものであると評価した。 7 争点⑵に関する原告らの主張 厚生労働大臣は、生活扶助基準を定めるに当たっては誤りがないよう慎重に審議、検討すべき高度の注意義務を負うが、これを怠り違法な本件改定を行った。本件改定により、原告らは精神的苦痛を負い、これを慰謝するのに必要な金額は各1万円を下らない。 8 争点⑵に関する被告国の主張 本件改定は、生活保護法3条、8条の規定に違反せず、本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用はなく、厚生労働大臣に職務上の注意義務違反は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(掲記の証拠等により認定できる事実) ⑴ 水準均衡方式採用前の生活扶助基準改定方式生活扶助基準改定方式については、昭和21年から昭和58年までの間、標準生計費方式(経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算定する方式)、マーケットバスケット方式(最低生活を営む 定方式生活扶助基準改定方式については、昭和21年から昭和58年までの間、標準生計費方式(経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算定する方式)、マーケットバスケット方式(最低生活を営むために必要な品目を積算して最低生活費を算定する方式)、エンゲル方式(栄養所要量を満たし得 る食費を理論的に積算し、別にこの食費を支出している世帯のエンゲル係数を求め、これらから逆算する方式)及び格差縮小方式(一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式)が順次採用されてきた(乙7の2)。 ⑵ 水準均衡方式の採用等 ア昭和58年意見具申の内容 昭和58年意見具申は、生活扶助基準の評価及び生活扶助基準改定方式について、次のとおり指摘した(乙8)。 (ア) 生活保護において保障すべき最低生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであるところ、(昭和58年意見具申)当時の生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水 準に達している。しかしながら、国民の生活水準の向上が見込まれるため生活扶助基準の妥当性の検証を定期的に行う必要がある。 (イ) 生活扶助基準の改定については、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必要であり、当該年度に予想される一般 国民の消費動向に対応する見地から、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当である。賃金及び物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、その伸びは参考資料に留めるべきである。 イ水準均衡方式の採用厚生大臣は、昭和58年意見具申を受け の伸びに準拠することが妥当である。賃金及び物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、その伸びは参考資料に留めるべきである。 イ水準均衡方式の採用厚生大臣は、昭和58年意見具申を受け、昭和59年以降、生活扶助基 準改定方式として水準均衡方式を採用し、生活扶助基準について、一般国民生活における消費水準との比較において相対的なものとして設定する観点から、当該年度に想定される一般国民の消費動向に対応するよう、毎年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎として改定を行うこととした(乙13)。 ⑶ 専門委員会による生活扶助基準の検証ア専門委員会の目的専門委員会は、生活保護の基準の在り方を始めとする生活保護制度全般について議論するために、平成15年7月28日に社会保障審議会福祉部会の下に設置された(乙12)。 イ平成16年報告書等 専門委員会は、平成15年中間取りまとめ及び平成16年報告書において、次のとおり指摘した(乙4、乙7、乙13、弁論の全趣旨)。 (ア) 生活保護において保障すべき最低生活の水準は、一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであり、その適否を判断する際には、第1・十分位の消費水準に着目することが適当である。 (イ) 勤労3人世帯(夫婦子1人世帯のうち、世帯主が会社等に勤めているもの)の生活扶助基準額は、勤労3人世帯(第1・十分位)の消費水準との比較において、基本的に妥当である。 (ウ) 標準世帯を基軸とした生活扶助基準の展開が、世帯人員別にみると必ずしも一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっておらず、世帯規模 の経済性を高めるような展開の設定等について検討する必要がある。 (エ) 今後、生活扶助基準と一般低所得世帯 別にみると必ずしも一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっておらず、世帯規模 の経済性を高めるような展開の設定等について検討する必要がある。 (エ) 今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため、たとえば、全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要がある。 ⑷ 標準世帯の生活扶助基準額の推移 標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額は、平成15年4月1日当時の月額16万2490円が平成16年4月1日に月額16万2170円に切り下げられて以降、平成17年度から平成19年度までの間、毎年4月1日に、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸び率を基礎とし、前年度までの一般国民の消費水準との調整を行った結果、据え置くこととされた(乙10、乙 52~54)。なお、平成17年度から3年かけて、平成16年報告書を踏まえて、世帯人員に応じた第1類費の逓減率(世帯構成員の第1類費の合計額に4人世帯については0.95を、5人以上世帯については0.9をそれぞれ乗ずる。)を導入するとともに、4人以上世帯の第2類費を抑制することを内容とする生活扶助基準の改定がされた(乙7の3、乙53)。 平成20年度については、夫婦子1人世帯(第1・十分位)の生活扶助基 準額が生活扶助相当支出額と比べてやや高めであるとの平成19年報告書の指摘(後述)があったが、平成20年2月以降、世界的な原油価格及び穀物価格の高騰等によって生活関連物資を中心とした物価上昇が生じており、それが消費に与える影響等を見極めるために、生活扶助基準を据え置くこととされた(甲42、乙55)。なお、同年の総務省CPIの変化率は前年比+1. 4%であり、平成10年から平成24年までで最も高い値 が消費に与える影響等を見極めるために、生活扶助基準を据え置くこととされた(甲42、乙55)。なお、同年の総務省CPIの変化率は前年比+1. 4%であり、平成10年から平成24年までで最も高い値となった(乙11、弁論の全趣旨)。 平成21年度については、平成20年9月に生じたリーマンショックに端を発する世界金融危機が実体経済に深刻な影響を及ぼしており、国民の将来不安が高まっている状況にあると考えられるとして、このような社会経済情 勢に鑑みて、生活扶助基準を据え置くこととされた(乙15、乙56)。 平成22年度については、完全失業率が高水準で推移するなど、厳しい経済・雇用状況を踏まえ、国民生活の安心が確保されるべき状況にあることに鑑みて、生活扶助基準を据え置くこととされた(乙57)。 平成23年度及び平成24年度については、経済、雇用情勢等を総合的に 勘案して、生活扶助基準を据え置くこととされた(乙58、乙59)。 ⑸ 基準検討会による検討基準検討会は、専門委員会の提言等を踏まえて、平成16年全国消費実態調査を用いて生活扶助基準について学識経験者による専門的な分析・検討を行うために設置された。基準検討会は、平成19年報告書において、次のと おり指摘した。(乙5、乙14)(ア) 生活扶助基準は、これまで第1・十分位の消費水準と比較することが適当とされてきたが、これを変更する理由は特段ない。 (イ) 平成16年報告書は、勤労3人世帯(第1・十分位)の生活扶助基準と消費水準を比較し、均衡が図られているかどうかを検討したが、平成19 年報告書は、夫婦子1人世帯だけでなく、被保護世帯の多くを占める単身 世帯の生活扶助基準と消費水準も比較することとする。 (ウ) 有業者ありの夫婦子(20歳未満)1人世 、平成19 年報告書は、夫婦子1人世帯だけでなく、被保護世帯の多くを占める単身 世帯の生活扶助基準と消費水準も比較することとする。 (ウ) 有業者ありの夫婦子(20歳未満)1人世帯(第1・十分位)の生活扶助相当支出額(14万8781円)とそれらの世帯が仮に生活扶助を受給した場合における生活扶助基準額の平均(15万0408円)及び60歳以上の単身世帯(第1・十分位)の生活扶助相当支出額(6万2831円) とそれらの世帯が仮に生活扶助を受給した場合における生活扶助基準額の平均(7万1209円)を比較すると、有業者ありの夫婦子1人世帯(第1・十分位)については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりもやや高めとなっており、60歳以上の単身世帯(第1・十分位)については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりも高めになっている。 (エ) 生活扶助基準額と生活扶助相当支出額を比較すると、世帯人員別にみると、生活扶助基準額は世帯人員の多い世帯に有利、世帯人員の少ない世帯に不利であり、年齢階級別にみると、若年者については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額を下回り、高齢者については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額を上回るといった状態が生じている。また、級地制度におけ る地域差を設定した昭和59年当時の消費実態と平成16年の消費実態を比較すると地域差が縮小している。 (オ) 仮に生活扶助基準の体系が消費実態と整合性が取れているのであれば、標準世帯を基軸として生活扶助基準を設定する必要はない。 ⑹ 平成25年報告書 ア検証手法等基準部会は、平成19年報告書の問題提起を受けて、年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助基準額と消費実態の乖離を詳細に分析し、生活扶助基準を様々な世帯構成に展開するための指数に ア検証手法等基準部会は、平成19年報告書の問題提起を受けて、年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助基準額と消費実態の乖離を詳細に分析し、生活扶助基準を様々な世帯構成に展開するための指数について検証を行い、その結果を平成25年報告書において報告した(甲1、乙6)。 平成25年報告書は、平成21年全国消費実態調査を用いて、生活扶助 基準と比較する一般低所得世帯として第1・十分位を用いた上で、第1類費相当支出額の年齢階級別の比率(指数)、第1類費相当支出額の世帯人員別の比率(指数)、第2類費相当支出額の世帯人員別の比率(指数)及び生活扶助相当支出額の級地別の比率(指数)を算定し、その際に第1類費相当支出額を被説明変数とし、世帯人員、級地、ネット資産、家賃地代支出 等を説明変数とする回帰分析を行った。そして、その際に用いられた2つの回帰式は、有意水準5%で帰無仮説が否定できない説明変数を含むものであり、決定係数を0.28及び0.36とするものであった。また、平成25年報告書は、第1類費相当支出額及び第2類費相当支出額の世帯人員別の比率(指数)並びに生活扶助相当支出額の級地別の比率(指数)の 算定結果の確からしさを検討するために、有意水準5%で帰無仮説が否定できない説明変数を含む回帰式を用いた。(甲1、乙6)イ検証結果平成25年報告書による検証の結果の概要は次のとおりであり、生活扶助基準に係る指数と生活扶助相当支出額に係る指数の間には乖離がみら れた(甲1、乙6)。 (ア) 生活扶助基準における年齢階級別の第1類費の比率(指数・上段)及び消費実態における年齢階級別の第1類費相当支出額の比率(指数・下段)は次表のとおりである(60歳から69歳までの額を1とするもの)。 0~2 歳3~5 齢階級別の第1類費の比率(指数・上段)及び消費実態における年齢階級別の第1類費相当支出額の比率(指数・下段)は次表のとおりである(60歳から69歳までの額を1とするもの)。 0~2 歳3~5 歳6~11 歳12~19 歳20~40 歳41~59 歳60~69 歳 70 歳以上0.580.730.941.171.121.061.000.900.780.810.820.860.870.961.000.84(イ) 生活扶助基準における世帯人員別の第1類費及び第2類費の比率(指数) 並びに消費実態における世帯人員別の第1類費相当支出額及び第2類費相当支出額の比率(指数)は次表のとおりである(単身世帯を1とするもの)。 単身2人3人4人5人第1類費1.002.003.003.804.50第1類費相当支出額1.001.542.012.342.64第2類費1.001.111.231.271.28第2類費相当支出額1.001.341.671.751.93(ウ) 生活扶助基準における級地別の生活扶助基準額の比率(指数)及び消費実態における級地別の生活扶助相当支出額の比率(指数)は、次表のとおりである(全級地平均を1とするもの)。 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2生活扶助基準額1.111.061.010.960.910.86生活扶助相当支出額1.091.050.980.980.940.92ウ検証結果を展開に反映させた場合の影響平成25年報告書 .010.960.910.86生活扶助相当支出額1.091.050.980.980.940.92ウ検証結果を展開に反映させた場合の影響平成25年報告書は、仮に第1・十分位の全世帯が上記イの生活扶助相 当支出額の比率(指数)を展開に反映させた生活扶助基準に基づいて生活扶助を受給した場合における生活扶助の平均受給額が、仮に第1・十分位の全世帯が改定前基準に基づいて生活扶助を受給した場合における生活扶助の平均受給額と等しくなるように調整すると、夫婦子(18歳未満)1人世帯の生活扶助基準額(第1類費及び第2類費に各種加算を加えた額) は改定前基準額と比較して-8.5%となり、高齢単身世帯の生活扶助基準額は改定前基準額と比較して+4.5%となるなど、生活扶助基準額への影響は、世帯構成員の年齢階級、世帯人員、居住地域の組合せにより様々である旨を報告した(甲1、乙6、弁論の全趣旨)。 ⑺ ゆがみ調整の内容 ゆがみ調整は、上記⑹ウのような調整を行うものであった。すなわち、ゆがみ調整は、第1・十分位の全世帯が生活扶助を受給したと仮定した場合における世帯当たりの生活扶助費の平均受給額を不変とした上で、展開のため の指数を、平成25年報告書の示した年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助相当支出額の比率(指数)と一致させようとしたものである。ただし、厚生労働大臣は、平成25年報告書の示した指数を展開の適正化に反映させる割合を増額方向及び減額方向を問わず2分の1とした。(甲2、乙18、弁論の全趣旨) ⑻ 本件下落率に対する寄与度等アウエイト等総務省CPIのウエイトは、総務省統計局が実施する家計調査に基づき設定されている(乙27~29)。家計調査は、統計法に基づく基幹 の全趣旨) ⑻ 本件下落率に対する寄与度等アウエイト等総務省CPIのウエイトは、総務省統計局が実施する家計調査に基づき設定されている(乙27~29)。家計調査は、統計法に基づく基幹統計である家計統計を作成するための統計調査であり、国民生活における家計収 支の実態を把握し、国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的とする。家計調査は、一部の例外を除く全国の世帯を調査対象としており約9000世帯を無作為に抽出して行われる。(乙63、乙64)総務省CPIはウエイトの合計が1万になるように設定されている(上 記第2の2⑹)が、生活扶助相当CPIにおいては、除外品目があるために、ウエイトの合計が1万に満たない(上記第2の2⑺)。生活扶助相当CPIにおけるウエイトの合計は、平成20年が6189であり、平成23年が6393である。これは、平成22年に総務省CPIの指数品目及びウエイトが改定され、生活扶助相当品目に相当する指数品目32品目(追 加品目)が追加されたためである(乙27~30、弁論の全趣旨)。 イ計算方式消費者物価指数の計算について、各指数品目の価格指数を基準時のウエイトを用いて加重平均する方式をラスパイレス方式といい、比較時のウエイトを用いて加重平均する方式をパーシェ方式という(乙26、乙27)。 物価変動の計算においては基準時が比較時に先行することが多いところ、 パーシェ方式は、ある指数品目の価格が下落し、これに伴って当該指数品目の需要が増えた場合には、増大後の需要を前提として当該指数品目のウエイトを算定することとなるため、物価下落率を過大に算定する傾向(下方バイアス)がある(甲60、乙26)。なお、基準時が比較時に後行する場合に、基準時のウエイトを の需要を前提として当該指数品目のウエイトを算定することとなるため、物価下落率を過大に算定する傾向(下方バイアス)がある(甲60、乙26)。なお、基準時が比較時に後行する場合に、基準時のウエイトを用いて加重平均する方式は、定義上ラスパイ レス方式であるが、下方バイアスを生じさせる(甲60、弁論の全趣旨)。 したがって、平成22年のウエイトを用いて算定された平成20年の生活扶助相当CPIは下方バイアスの影響により過大に算定されている可能性がある(甲60、弁論の全趣旨)。 ウ寄与度 寄与度とは、ある品目の指数の変動が総合指数の変化率にどの程度寄与したかを示すものであり、ある品目Aのα時点からβ時点までの物価変動に対する寄与度は、(β時点のAの指数×Aのウエイト-α時点のAの指数×Aのウエイト)÷(総合のウエイト×α時点の総合指数)×100という計算式により算定される。全品目の寄与度の合計は、総合指数の変化率 と一致する。(乙27、乙28、弁論の全趣旨)本件下落率(-4.78%)に対する寄与度が大きな指数品目は、テレビ(-1.99ポイント)及びパソコン(-0.89ポイント)であり、計算上、その余の全指数品目の寄与度の合計は-1.86ポイントである(乙30)。なお、寄与度の計算に当たっては、総合のウエイトとして平成 23年の生活扶助相当CPIの総ウエイト(6393)を用い、平成20年の総合指数として同年の生活扶助相当CPIである104.5を用いた。 ⑼ 被保護世帯の消費構造等ア社会保障生計調査社会保障生計調査は、厚生労働省が、統計法に基づき、被保護世帯の生 活実態を明らかにすることによって保護基準の改定等生活保護制度の企 画運営のために必要な基礎資料を得るとともに、厚生労働行政の企画運 は、厚生労働省が、統計法に基づき、被保護世帯の生 活実態を明らかにすることによって保護基準の改定等生活保護制度の企 画運営のために必要な基礎資料を得るとともに、厚生労働行政の企画運営に必要な基礎資料を得ることを目的として実施するものである。社会保障生計調査は、全国を地域別に10ブロックに分け、ブロック毎に都道府県、指定都市、中核市のうち1ないし3か所を調査対象自治体として選定し、選定された自治体から合計約1100世帯を抽出してこれを調査対象と している。(甲59、乙65)イ社会保障生計調査の結果と総務省CPIとの比較平成22年度に実施された社会保障生計調査の結果による被保護世帯の財、サービス等に対する支出の割合と平成22年基準の総務省CPIが前提とする一般国民のこれらに対する支出の割合は、次のとおりである。な お、「PC・AV機器」には、テレビ等、ビデオデッキ、携帯型音楽・映像用機器、カメラ及びビデオカメラが含まれる。 社会保障生計調査総務省CPI食料 30.0% 25.4%住居 17.8% 6.3% 水道・光熱 10.2% 7.6%家具・家事用品 4.9% 3.6%被服及び履物 4.8% 4.2%保健医療 2.1% 4.3%交通・通信 9.6% 13.5% 教育 3.4% 4.0%教養娯楽 6.4% 11.5%うちPC・AV機器 0.4% 1.4%その他 10.9% 19.6% 4% 4.0%教養娯楽 6.4% 11.5%うちPC・AV機器 0.4% 1.4%その他 10.9% 19.6%(甲59、乙29、乙65、乙92、弁論の全趣旨) ⑽ 本件各改定による標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額への影響 本件各改定後の標準世帯の生活扶助基準額は、月額14万5380円である(乙1)。改定前基準額からの変化率は、-10.4%((14万5380円-16万2170円)÷16万2170円)であり、そのうちゆがみ調整による変化率は、-5.9%((14万5380円÷0.9522-16万2170円)÷16万2170円)である(弁論の全趣旨)。 ⑾ 平成29年報告書基準部会は、平成29年報告書において、平成26年全国消費実態調査を用いて検証を行ったところ、夫婦子1人世帯(第1・十分位)の本件各改定後の生活扶助基準額(13万6495円)がその生活扶助相当支出額(13万4254円ないし13万6638円)と概ね均衡していた旨の結果を報告 した(乙62)。 2 争点⑴について⑴ 判断枠組み生活保護法3条、8条2項の規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民 生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、これを厚生労働大臣が保護基準において具体化するに当たっては、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする(最高裁昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁、最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁平成24年4月2日第 二小法廷判決・民集66巻6号2367 昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁、最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁平成24年4月2日第 二小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)。したがって、保護基準中の生活扶助基準に係る部分を改定するに際し、生活扶助基準を改定すべき事情があるか否か及び改定後の生活扶助基準の内容が最低限度の生活の需要を満たすに十分であるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべき である(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。 そして、生活扶助基準の改定の要否の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価が上記のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であることや、生活扶助基準についてこれまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基づく検討等がされてきた経緯(認定事実⑴~⑶、⑸)に鑑みると、厚生労働大臣による生活扶助基準の改定は、改定後の生活扶助基準が最低限度の 生活の需要を満たすに十分であるとした厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反して違法となる(前掲最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決参照)。そして、厚生労働大臣の上記判断の適否に 係る裁判所の審理においては、統計等の客観的な数値等との合理的な関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。 ⑵ ゆがみ調整をした判断についてア生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたこ 合性の有無等について審査されるべきものと解される(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。 ⑵ ゆがみ調整をした判断についてア生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたこと まず、平成25年報告書及びゆがみ調整は、生活扶助基準における展開のための指数と第1・十分位の消費支出における年齢別、世帯人員別、級地別の比率(指数)を比較して前者を後者に一致させようとするものであって(認定事実⑺)、生活扶助基準額と第1・十分位の消費支出額を比較して前者を後者に一致させようとするものではない。したがって、第1・十 分位の消費支出額の多寡は、ゆがみ調整の結果に影響しないから、生活扶助基準と比較する世帯として第1・十分位を用いたことが生活扶助基準の引下げを招くとは認められない。 また、甲第38号証(布川日佐史「社会格差是正のための最低生活保障」『賃金と社会保障』2008年2月上旬号)には、水準均衡方式における 基準の妥当性の検証は、平均的一般世帯の消費支出、低所得世帯(第1・ 五分位層、第2・五分位層)の消費支出及び被保護世帯の消費支出の3つの間の格差の均衡に留意するということであって、第1・十分位の低所得世帯の消費支出に生活扶助基準をあわせるというものではないとの記載がある。しかしながら、平成25年報告書及びゆがみ調整が第1・十分位の消費支出額に生活扶助基準額をあわせようとするものではないことは 上記説示のとおりであり、甲第38号証の上記記載をもって厚生労働大臣がゆがみ調整をした判断が専門的知見との整合性等を欠くとはいえない。。 イ集団を比較する場合の統計学上のルールとの整合性原告らの主張は、平成25年報告書及びゆがみ調整が、被保護世帯の消費支出額と第1・十分位の消費支出額を比較し との整合性等を欠くとはいえない。。 イ集団を比較する場合の統計学上のルールとの整合性原告らの主張は、平成25年報告書及びゆがみ調整が、被保護世帯の消費支出額と第1・十分位の消費支出額を比較していることを前提とするも のであると解される。しかしながら、上記アで説示したとおり、平成25年報告書及びゆがみ調整は、生活扶助基準における展開のための指数と第1・十分位の消費支出における年齢別、世帯人員別、級地別の比率(指数)を比較したものであって、被保護世帯の消費支出額と第1・十分位の消費支出額を比較したものではない。したがって、原告らの主張は前提を欠き、 採用することができない。 ウ平成21年全国消費実態調査との整合性甲第1号証、乙第6号証、乙第74号証、乙第77号証及び弁論の全趣旨によれば次の各事実がいずれも認められる。 まず、平成21年全国消費実態調査は、世帯員数、市町村の規模等に応 じて抽出率を定めた上で、市町村毎に調査世帯数を配分した。このような調査によって得られたデータから母集団の実態を推計するためには、各データに集計用乗率(抽出率の逆数に比例した調査係数等)を乗ずる必要がある。そのため、平成25年報告書は、調査世帯数の10分の1の世帯を第1・十分位として設定するのではなく、集計用乗率を乗じた後の数が母 集団の世帯数の10分の1となるように第1・十分位を設定した。その結 果、平成25年報告書の設定した第1・十分位の世帯数は、世帯年収に着目したものが3125世帯となり、世帯員1人当たりの年収に着目したものが6697世帯となり、いずれも平成21年全国消費実態調査の調査世帯数である5万2404の10分の1と一致しないこととなった。 以上の認定事実によれば、平成25年報告書が設定した第1・十分 したものが6697世帯となり、いずれも平成21年全国消費実態調査の調査世帯数である5万2404の10分の1と一致しないこととなった。 以上の認定事実によれば、平成25年報告書が設定した第1・十分位の 世帯数が平成21年全国消費実態調査の調査世帯数の10分の1となっていないことをもって、前者が後者と整合していないと評価することはできない。 エ回帰分析の統計学の専門的知見との整合性まず、本件全証拠によっても、決定係数について、回帰式採用の可否を 決する基準となる統一的な数値がある旨の統計学の専門的知見があるとは認められない。かえって、消費等を扱うデータに係る回帰分析においては、決定係数が0.3程度であれば適合度が高いと評価する意見もあることが認められる(甲36の1[3頁。A 委員発言]、乙73、乙79、乙80、弁論の全趣旨)。したがって、平成25年報告書が決定係数を0.28 又は0.36とする回帰式を用いて第1・十分位の第1類費相当支出額を推計したこと(認定事実⑹ア)が統計学の専門的知見との整合性を欠くと認めることはできない。 また、平成25年報告書が用いた回帰式は有意水準を5%と設定した場合に帰無仮説を棄却できない説明変数を含むものであった(認定事実⑹ ア)。しかしながら、帰無仮説が棄却されないことは帰無仮説が支持されることを意味するものではなく、帰無仮説が棄却されない説明変数を含む回帰式を採用したことをもって直ちに統計学の専門的知見との整合性を欠くと認めることはできない。 オ小括 以上のとおり、ゆがみ調整及びその前提となった平成25年報告書が統 計等の客観的な数値等との合理的な関連性や専門的知見との整合性を欠くとはいえず、厚生労働大臣がゆがみ調整をした判断に裁量権の範囲の逸脱 ゆがみ調整及びその前提となった平成25年報告書が統 計等の客観的な数値等との合理的な関連性や専門的知見との整合性を欠くとはいえず、厚生労働大臣がゆがみ調整をした判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない。 ⑶ デフレ調整をした判断についてア物価変動を指標として生活扶助基準を改定したこと (ア) 被告らは、厚生労働大臣が物価変動を指標として生活扶助基準を改定する判断をした根拠の一つとして、デフレ傾向が続く中で生活扶助基準が据え置かれてきたことにより、被保護世帯の実質的な可処分所得が増加し、生活扶助基準が引き上げられたのと同様の状態が生じ、生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分な程度を超えていたから、生活扶助基 準の水準(高さ)の適正化を図る必要があったと説明する。 このような被告らの説明には、特段不合理な点は見当たらず、厚生労働大臣が上記の根拠により生活扶助基準を改定することとした判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない。 (イ) 被告らは、厚生労働大臣が物価変動を指標として生活扶助基準を改定す る判断をしたほかの根拠として、平成20年9月のリーマンショックに端を発する世界金融危機により、賃金、物価、家計消費等が大きく下落したことにより、生活扶助基準の水準(高さ)と一般国民の生活水準との均衡が大きく崩れたため、最低限度の生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであるとの考え方から、世界金融 危機による一般国民の生活水準の低下を物価下落率により把握し、これを用いて生活扶助基準の水準(高さ)の適正化を図ろうとしたと説明していると解される。 しかしながら、世界金融危機により一般国民の生活水準が低下したといえるとしても、そ 物価下落率により把握し、これを用いて生活扶助基準の水準(高さ)の適正化を図ろうとしたと説明していると解される。 しかしながら、世界金融危機により一般国民の生活水準が低下したといえるとしても、その低下の程度と物価下落率が一致するといえる理論的根 拠は何ら示されていない。また、仮に物価下落率が一般国民の生活水準の 低下の程度を示すものであり、一般国民の生活水準の低下に併せて生活扶助基準を引き下げることが相当であるといえるならば、物価下落率を算定する際に総務省CPIを加工する必要は認められず、被告らによる上記説明は、厚生労働大臣が生活扶助相当CPIを用いて物価下落率を算定したことと整合しない。このように、生活扶助相当CPIを用いて算定された 本件下落率は一般国民の生活水準の低下の程度を示す指標であるとはいえず、厚生労働大臣が一般国民の生活水準と生活扶助基準との均衡を図るために本件下落率を用いて生活扶助基準を改定した判断は統計等の客観的な数値等との合理的な関連性を欠く。 なお、被告らは、厚生労働大臣は、仮に平成21年の全国消費実態調査 の結果に基づいて生活扶助基準の改定を行えば、必要以上に大幅な減額になることを考慮して、物価動向に着目した改定を行うこととしたとも主張する。しかしながら、仮に全国消費実態調査の結果に基づいて生活扶助基準の改定を行うことが不相当であるとしても、そのことをもって、本件下落率を用いて生活扶助基準を改定することが統計等の客観的な数値等と の合理的な関連性を有するとはいえない。 イ物価動向を勘案する期間を平成20年から平成23年までとしたこと被告らは、厚生労働大臣は、平成20年度において、生活扶助基準が一般低所得世帯の消費水準と比較して高い旨を指摘する平成19年報告書を踏まえて を勘案する期間を平成20年から平成23年までとしたこと被告らは、厚生労働大臣は、平成20年度において、生活扶助基準が一般低所得世帯の消費水準と比較して高い旨を指摘する平成19年報告書を踏まえて、生活扶助基準を引き下げる必要性を認めたものの、原油価格 の高騰等を含む社会経済情勢等を総合的に勘案して、生活扶助基準の水準を据え置く判断をしたのであり、このように定められた平成20年度の生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであったことを前提として、同年以降の物価動向を勘案することとしたと説明する。 しかしながら、平成19年報告書は平成16年全国消費実態調査を用い て生活扶助基準の妥当性を検証したのであるから、平成19年報告書が生 活扶助基準は第1・十分位の消費水準と比較して高いと指摘したことをもって、平成20年の時点においても同様の不均衡が生じていたと直ちに評価することはできない。また、同年は、総務省CPIの前年比1.4%の上昇という前後数年間の中で突出した物価上昇がみられた年であり(認定事実⑷)、なおかつ、この物価上昇率は、平成19年報告書が指摘した夫婦 子1人世帯(第1・十分位)の生活扶助基準額が生活扶助相当支出額を超過する割合である1.1%((15万0408円-14万8781円)÷14万8781円。認定事実⑸)よりも高い。しかしながら、厚生労働大臣が、これらの点を考慮した上で、いかなる専門技術的な考察を経て、平成20年度の生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの であったと評価したのかについては、具体的な説明がない。なお、平成19年報告書は、高齢単身世帯(第1・十分位)については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりも13.3%高い((7万1209円-6万2831円) したのかについては、具体的な説明がない。なお、平成19年報告書は、高齢単身世帯(第1・十分位)については生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりも13.3%高い((7万1209円-6万2831円)÷6万2831円)と指摘したが(認定事実⑸)、このような乖離があったことをもって、標準世帯を基軸とする生活扶助基準の水準(高さ) が平成20年当時最低限度の生活の需要を満たすに十分な程度を超えていたと評価することはできない。したがって、物価動向を勘案する期間の期首を平成20年とした厚生労働大臣の判断は、統計等の客観的な数値等との合理的な関連性を欠く。 なお、被告らは、厚生労働大臣は、デフレ調整が平成20年9月のリー マンショック以降の社会経済情勢によって拡大した生活扶助基準の水準(高さ)と一般国民の生活水準との不均衡を是正することを目的とするものであったため、同年を物価動向勘案の期首としたとも説明する。しかしながら、本件下落率が一般国民の生活水準の低下の程度を示す指標であるとは認められないことは上記ア(イ)において説示したとおりである。 ウ生活扶助相当CPIにおけるウエイトの設定 被告らは、厚生労働大臣は、上記ア(ア)のとおり、デフレ傾向が続く中で生活扶助基準が据え置かれてきたことにより、被保護世帯の実質的な可処分所得が増加し、生活扶助基準が引き上げられたのと同様の状態が生じ、生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分な程度を超えていたから、生活扶助基準の水準(高さ)の適正化を図る必要があると判断し、 その適正化のために本件下落率を用いた旨説明する。 しかしながら、物価変動の影響は個々の世帯の消費構造によって異なるのであるから(乙27)、物価下落による被保護世帯の実質的な可処分所得の増加の有無 その適正化のために本件下落率を用いた旨説明する。 しかしながら、物価変動の影響は個々の世帯の消費構造によって異なるのであるから(乙27)、物価下落による被保護世帯の実質的な可処分所得の増加の有無及び程度を検証するためには、被保護世帯の消費構造を適切に反映したウエイトを用いて物価を算定しなければならない。ところで、 本件下落率に対するテレビ等の寄与度は-2.87ポイントと本件下落率の半分以上を占めており(認定事実⑻ウ)、テレビ等の価格変化が本件下落率に与えた影響は大きい。しかしながら、平成22年度の社会保障生計調査によれば被保護世帯の全消費支出に占めるPC・AV機器(テレビ等が含まれる分類)に対する支出の割合は同年基準の総務省CPIにおけるP C・AV機器のウエイトの3分の1を下回っており(認定事実⑼イ)、総務省CPIのウエイトは被保護世帯の消費構造を適切に反映するものであるとはいえない。さらに、本件下落率(-4.78%)は平成20年から平成23年までの総務省CPIの変化率(-2.35%。上記第2の2⑺)の2倍を超えているところ、乙第30号証及び弁論の全趣旨によれば、こ のような差が生じた一因は、生活扶助相当CPIにおいてテレビ等のウエイトが総ウエイトに占める割合が総務省CPIにおいてテレビ等のウエイトが総ウエイトに占める割合よりも高いためであると認められる。しかしながら、上記認定説示の被保護世帯の全消費支出に占めるPC・AV機器に対する支出割合と総務省CPIにおけるPC・AV機器のウエイトの 関係をみると、被保護世帯が一般世帯よりもテレビ等の価格の下落による 影響を強く受けたとは認め難い。 以上の各事情によれば、本件下落率は、被保護世帯の消費構造を適切に反映したものであるとは認められず、被保護世 帯が一般世帯よりもテレビ等の価格の下落による 影響を強く受けたとは認め難い。 以上の各事情によれば、本件下落率は、被保護世帯の消費構造を適切に反映したものであるとは認められず、被保護世帯の実質的な可処分所得の増加の有無及び程度を示す指標であるとは認められない。したがって、本件下落率を用いて生活扶助基準を改定した厚生労働大臣の判断は、統計等 の客観的な数値等との合理的な関連性を欠く。 エゆがみ調整とデフレ調整を併せてしたこと昭和23年から本件各改定に至るまで、生活扶助基準は、1級地-1に居住する標準世帯の生活扶助基準額を設定した上で、これを年齢階級別、世帯人員別、級地別に展開することにより設定されてきた(上記第2の2 ⑵)。すなわち、全世帯構成の生活扶助基準額が最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであることは、1級地-1に居住する標準世帯の生活扶助基準額が最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであること及び展開のための指数が適正であることにより確保されてきた。そして、1級地-1に居住する標準世帯の生活扶助基準額が最低限度の生活の需要を 満たすに十分なものであることは、標準世帯(又はそれに相当する夫婦子1人世帯、勤労3人世帯)の生活扶助基準額が一般国民(又は一般低所得世帯)の消費実態との比較において妥当であることにより確保されてきた(認定事実⑶、⑸、甲71)。 ところで、ゆがみ調整は、展開のための指数を適正化することを目的と するものであるが(認定事実⑺)、展開のための指数の適正化に当たって、標準世帯の生活扶助基準額を不変とするのではなく、第1・十分位の全ての世帯が生活保護を受給したと仮定した場合の生活扶助費の平均受給額を不変とした結果、標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額を5.9%減 世帯の生活扶助基準額を不変とするのではなく、第1・十分位の全ての世帯が生活保護を受給したと仮定した場合の生活扶助費の平均受給額を不変とした結果、標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額を5.9%減額することとなった(認定事実⑺、⑽)。すなわち、ゆがみ調整は、全世 帯構成の生活扶助基準額が最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの であることを確保する要素のうち、標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額を引き下げた上で、展開のための指数を適正化したものであるといえ、標準世帯(1級地-1)の生活扶助基準額の引下げは、展開を通じて、全世帯構成の生活扶助基準額に引下げ方向の影響を及ぼしたと認められる。 そうすると、厚生労働大臣は、ゆがみ調整が全世帯構成の生活扶助基準 額に引下げ方向の影響を及ぼすものであることを踏まえて、ゆがみ調整に加えて物価動向を勘案した生活扶助基準の改定を行う必要があるのか、その必要があるとしても物価動向を示す指標をそのまま用いた改定をしてよいのかについて検討を行うべきであった。しかしながら、厚生労働大臣がこのような検討を行ったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、 厚生労働大臣がゆがみ調整に加えてデフレ調整をした判断の過程には欠落がある。 これに対し、被告らは、ゆがみ調整は生活扶助基準の水準(高さ)に影響を及ぼすものではないと主張するところ、これはゆがみ調整が生活扶助基準額の平均を増減させるものではないという趣旨であると解される。し かしながら、最低限度の生活の需要を正しく評価するために生活扶助基準の展開を適正化することと生活扶助基準額の平均を不変とすることとの間に合理的な関連性があるとは認められず、被告らの上記主張は、厚生労働大臣の判断の内容の説明としては正確であるとしても、その合 助基準の展開を適正化することと生活扶助基準額の平均を不変とすることとの間に合理的な関連性があるとは認められず、被告らの上記主張は、厚生労働大臣の判断の内容の説明としては正確であるとしても、その合理性を説明するものであるとは認められない。 ⑷ 結果の妥当性について被告らは、平成29年報告書は、本件改定後の夫婦子1人世帯(第1・十分位)の生活扶助基準額がその生活扶助相当支出額と均衡する妥当なものであると評価した旨主張する。しかしながら、上記⑶説示のとおり、厚生労働大臣がデフレ調整をした判断の過程には欠落等があると認められるところ、 仮に本件改定後の生活扶助基準額が結果として一般低所得世帯の生活扶助相 当支出額と均衡していたとしても、そのことによって上記瑕疵が治癒されるとはいえない。 ⑸ 結論以上によれば、デフレ調整を含む本件改定後の生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分であるとした厚生労働大臣の判断の過程及び手続 には過誤、欠落があり、その判断には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる。したがって、本件改定は生活保護法3条、8条2項に違反して違法であり、これに基づく本件各処分は違法であって、取消しを免れない。 3 争点⑵について 原告らは、本件改定により精神的損害を負ったと主張する。しかしながら、そのような損害は、本件各処分の取消しにより回復されるというべきである。 したがって、本件各処分の取消しに加えて、国家賠償を求める原告らの主張は、採用することができない。 4 結論 以上によれば、原告らの請求のうち、鹿児島市及び出水市との間で本件各処分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容し、国に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求める部分は理由がないからこれを 以上によれば、原告らの請求のうち、鹿児島市及び出水市との間で本件各処分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容し、国に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求める部分は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 鹿児島地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官坂庭正将 裁判官多田真央 裁判官森政遼一
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