平成28(ネ)149 賃金等,損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成28年9月28日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 岡崎支部 平成27(ワ)62
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判決文本文15,438 文字)

平成28年9月28日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(ネ)第149号賃金等,損害賠償請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所岡崎支部平成27年(ワ)第62号〔甲事件〕,同第500号〔乙事件〕)主文 1 原判決中,甲事件に係る部分を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人会社は,控訴人に対し,127万1500円及びこれに対する平成25年7月●日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人会社に対するその余の請求を棄却する。 2 控訴人の乙事件に係る控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人と被控訴人会社との間に生じた部分はこれを5分し,その1を被控訴人会社の負担とし,その余は控訴人の負担とし,控訴人と被控訴人【A】との間に生じた部分は,全て控訴人の負担とする。 4 この判決は,主文第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 甲事件(被控訴人会社に対する請求)(1) 控訴人が,被控訴人会社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 (2) 被控訴人会社は,控訴人に対し,平成25年7月●日から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額33万5940円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人会社は,控訴人に対し,平成25年7月●日から本判決確定の日まで,毎年7月1日及び12月1日限り83万9850円並びにこれに 対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (4) 被控訴人会社は,控訴人に対し,200万円及びこれに対する平成25年7月●日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 乙事件(被控訴人【A で年6分の割合による金員を支払え。 (4) 被控訴人会社は,控訴人に対し,200万円及びこれに対する平成25年7月●日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 乙事件(被控訴人【A】に対する請求)被控訴人【A】は,控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成25年7月●日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要1(1) 甲事件(被控訴人会社に対する請求)被控訴人会社においては,平成24年10月2日から平成25年10月1日の間に60歳に達して定年退職を迎える従業員について,再雇用の選定基準を満たした者は定年後再雇用者就業規則に定める職務を提示し(雇用期間は最長5年間。この職務に就く再雇用者《控訴人と同等の在籍資格を有する者の場合》は「スキルドパートナー」と呼ばれる。),当該基準を満たさない者はパートタイマー就業規則に定める職務(雇用期間は1年間で契約更新はない。)を提示することとされているところ,被控訴人会社に雇用されていた控訴人(昭和●●年●月●日生まれ)は,被控訴人会社に対し,(1)定年退職後にスキルドパートナーとして再雇用されなかったことに関して,①被控訴人会社における再雇用の選定基準が不相当であり,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)9条1項に反している状態にあるから,同条項に基づいて再雇用の希望のある従業員が満65歳に至るまでの雇用を確保するべきである,②被控訴人会社に再雇用の選定手続の違反がある,③被控訴人会社が再雇用の選定基準を満たしている控訴人の再雇用を拒否することはできないことを理由として,控訴人に対する再雇用拒否の通告は無効であると主張し,控訴人と被控訴人会社との間のスキルドパートナーとしての再雇用契約に基づいて控訴人が雇用契約上の権利を 用を拒否することはできないことを理由として,控訴人に対する再雇用拒否の通告は無効であると主張し,控訴人と被控訴人会社との間のスキルドパートナーとしての再雇用契約に基づいて控訴人が雇用契約上の権利を有する 地位にあることの確認を求めるとともに,定年退職の日の翌日である平成25年7月●日から本判決確定に至るまで毎月25日限り1か月33万5940円の割合による賃金及び平成25年7月●日から本判決確定に至るまで毎年7月1日及び12月1日限り83万9850円の一時金並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被控訴人会社には使用者として労働者である控訴人の健康を配慮する義務を含む安全配慮義務等があるにもかかわらず,通常受け容れられるはずのスキルドパートナーとしての再雇用を拒否して,控訴人の心身の状況や従前の経歴を考慮せずに1年間のパートタイマーとして清掃業務等の雇用を提示するなどし,上記義務に違反したとして,雇用契約上の債務不履行又は不法行為(なお,控訴人は不法行為に基づく請求を含むか否か明示していないが,単に被控訴人会社に義務違反があったと主張している部分もあることからすると,債務不履行に加えて不法行為に基づく請求も選択的に行っているものと善解できる。)に基づく損害賠償として,慰謝料200万円及びこれに対する定年退職の日の翌日である平成25年7月●日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 (2) 乙事件(被控訴人【A】に対する請求)控訴人は,被控訴人会社において組織的ないじめを受けたと主張し,被控訴人会社の代表取締役である被控訴人【A】はこれを防止するべき任務を負い,又は控訴人に対してこれを防止するべき債務を負うにもかかわらず, 人は,被控訴人会社において組織的ないじめを受けたと主張し,被控訴人会社の代表取締役である被控訴人【A】はこれを防止するべき任務を負い,又は控訴人に対してこれを防止するべき債務を負うにもかかわらず,その任務懈怠又は債務不履行があったと主張して,被控訴人【A】に対し,会社法429条1項又は債務不履行に基づく損害賠償として,慰謝料500万円及びこれに対する定年退職の日の翌日である平成25年7月●日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 (3) 原審の判断及び控訴の提起 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴した。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者ア控訴人(昭和●●年●月●日生まれ)は,大学卒業後,被控訴人会社において事技職として雇用され,その後定年までデスクワークを主体とする一般に事務職といわれる業務に従事してきた者であり,定年前は●●●●部に所属し,主任の資格を有していた。 イ被控訴人会社は,a県b市に本店を置く,自動車,産業車両,船舶,航空機,その他の輸送用機器および宇宙機器ならびにその部分品の製造・販売・賃貸・修理等を目的とする株式会社である。 ウ被控訴人【A】は,被控訴人会社の代表取締役の地位にある者である。 (2) 高年法の改正経過ア平成24年法律第78号による改正前の高年法は,別紙のとおり,9条1項において,事業主に対し,当該定年の引上げ(1号),継続雇用制度の導入(2号),当該定年の定めの廃止(3号)のいずれかの措置を講ずることを義務付けており,同条2項において,労使協定により,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,当該基準に基づく制度を導入したときは,前項2号に掲げる措置を講 )のいずれかの措置を講ずることを義務付けており,同条2項において,労使協定により,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,当該基準に基づく制度を導入したときは,前項2号に掲げる措置を講じたものとみなすと定められていた。 イ平成24年法律第78号による改正により,高年法9条2項で定めていた継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止されることになり,継続雇用制度の導入に当たっては希望者全員を対象としなければならなくなったが(施行日は平成25年4月1日),改正附則において,この法律の施行の際現にこの法律による改正前の9条2項の規定により同条1項2号に掲げる措置を講じたものとみなされている事業主については,同条2項の規定は,平成37年3月31日までの間は,なおそ の効力を有することとされ,この場合において,同項中「係る基準」とあるのは,この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については「係る基準(61歳以上の者を対象とするものに限る。)」とする旨が定められた(以下,同改正後の改正附則を含む高年法を「改正高年法」という。)。 (3) 被控訴人会社における高年齢者雇用確保措置について被控訴人会社では,改正高年法の定める継続雇用制度につき,社員就業規則(乙24)の24条1項において,社員が満60歳の誕生日に定年により退職すると定め,同条2項において,被控訴人会社を定年退職する社員のうち,再雇用を希望する者については,定年時点で解雇事由に該当する者を除き,労使協定に定めるところにより再雇用されるとし,再雇用との文言を用いて継続雇用制度の内容を定めている。 同規定に対応する労使協定として,従前から被控訴人会社と被控訴人会社労働組合との間で「60歳以降の再雇用制度の選定基準等に関する協定書」と 再雇用との文言を用いて継続雇用制度の内容を定めている。 同規定に対応する労使協定として,従前から被控訴人会社と被控訴人会社労働組合との間で「60歳以降の再雇用制度の選定基準等に関する協定書」と題する労使協定(乙18の1)を締結していたところ,改正高年法が施行されることに伴い,平成25年3月31日付け「60歳以降の再雇用制度に関する協定書」と題する労使協定(乙18の2。以下「本件労使協定」という。)を締結した。 本件労使協定において,①本件労使協定3条各号に定める判断基準の全てを充たすものに対しては,定年後再雇用者就業規則(乙20)に定めるスキルドパートナーとしての職務を提示し,②当該基準のいずれかを満たさない者のうち定年退職日が平成25年5月1日から平成26年4月1日までの者(控訴人は,このカテゴリーに含まれる。)に対しては,パートタイマー就業規則(乙21)に定める職務を提示することとされている(なお,同就業規則は,本件労使協定が締結されたことを受けて平成25年4月1日付けで改正され,その附則2条において,社員就業規則24条2項に基づきパート タイマーとして採用される場合の勤務条件について別途の定めが設けられた。)。 (4) 本件労使協定3条に定める判断基準ア本件労使協定3条は,再雇用制度に基づき60歳以降の再雇用を希望する者のうち,以下の基準の全てを満たす者に対しては,スキルドパートナーとしての職務を提示すると定める(乙18の2)。 (ア) 健康基準直近に行われた健康診断に基づく健康判定の結果が,「Ⅰ~Ⅲ判定」(4ランク中,上位3ランク)であること(イ) 職務遂行能力基準定年退職前に職務提示を判断する前の最も直近に評価された職務遂行能力が,以下のとおり,定年退職前の在籍資格に相応しい水準である,具体的 ンク中,上位3ランク)であること(イ) 職務遂行能力基準定年退職前に職務提示を判断する前の最も直近に評価された職務遂行能力が,以下のとおり,定年退職前の在籍資格に相応しい水準である,具体的には,職能考課の考課点が「D評価(資格の期待水準)以上」(5ランク中,上位4ランク)であること(ウ) 勤務態度基準定年退職日以前の3年間に,就業規則違反またはチームワークや職場秩序を乱すような行為がないことイ職務遂行能力基準(上記ア(イ))の具体的判断方法評価の目処は,「2WAYコミュニケーション・シート」と称する書面(以下「2WAYシート」という。)の上司評価が全て「○」以上であること。なお,高い方から順に「◎」「○」「△」の三段階評価である。)。 休職していた場合などの例外を除いて,平成24年度の職能考課で判定する。 なお,職能考課は高い方から順に「A」「B」「C」「D」「E」の五段階評価であり,評価の対象となる期間はその前年度(平成24年度の職 能考課であれば,平成23年度《平成23年4月1日から平成24年3月31日まで》)である。 (5) 手続本件再雇用制度の対象となる従業員(以下「対象者」という。)で再雇用を希望する者(以下「再雇用希望者」という。)は,平成24年4月上旬頃までに,当該従業員の上司に当たる従業員に対して,「『60歳以降の働き方』希望調査・面談シート」(雛型は原判決添付別紙1。以下「本件帳票」という。)に所定事項を記入(〔1〕項については①を選択)及び押印して提出する方法により,再雇用を希望する旨を申し出る。 (6) 再雇用の効果アスキルドパートナーとしての再雇用の場合(乙18の2,乙20)雇用期間は,原則1年ごとの契約であり,契約期間は,定年退職後の再契約日(各月1日)より当該 を申し出る。 (6) 再雇用の効果アスキルドパートナーとしての再雇用の場合(乙18の2,乙20)雇用期間は,原則1年ごとの契約であり,契約期間は,定年退職後の再契約日(各月1日)より当該従業員の誕生日の属する月の末日(ただし,1日生まれは前月末日)までとする。 契約更新は,本件選定基準を充足していることを再確認して判断し,最長の雇用期間は,昭和24年4月2日以降に生まれた者については,満65歳に達する誕生日の属する月の末日(ただし,1日生まれは前月末日)までとする。 イパートタイマーとしての再雇用の場合(乙21)雇用契約期間は原則1年で契約更新は行わない(附則5条)。 労働時間は原則として1日4時間とする(附則7条)。 (7) 控訴人は,平成25年7月●日付けで,60歳に達したことにより被控訴人会社を定年退職した。定年退職時の控訴人の職制上の役職は部付きスタッフ(主任職以下)である。 控訴人は,定年退職に際して,本件再雇用制度により被控訴人会社に再雇用されることを希望していたが,被控訴人会社に再雇用されることはなかっ た。 3 争点及びこれに関する当事者の主張は,以下のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決6頁18行目,21行目,24行目及び26行目から7頁1行目の「再雇用」の前に,それぞれ「スキルドパートナーとして」を付加する。 (2) 原判決7頁2行目及び4行目の「安全配慮義務違反」を,それぞれ「雇用契約上の債務不履行又は不法行為」と改め,3行目の「(安全配慮義務違反)」を「(雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任)」と改める。 (3) 原判決15頁24行目の「(安全配慮義務違反)」を「(雇用契約上の債務不履行又は不 行為」と改め,3行目の「(安全配慮義務違反)」を「(雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任)」と改める。 (3) 原判決15頁24行目の「(安全配慮義務違反)」を「(雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任)」と改め,25行目冒頭から16頁19行目末尾までを,次のとおり改める。 「ア控訴人(ア) 改正高年法の趣旨改正高年法の趣旨は,定年退職したら無年金となる60歳から61歳の労働者に対して,その期間の継続雇用を企業の法的義務とすることによって,必要な生活給を保障することにある。したがって,仮に控訴人の61歳以降の再雇用が認められないとしても,同改正附則の趣旨からすれば,定年退職時から61歳までは差別的不利益的な取扱いがあってはならないというべきであって,定年退職時以降の雇用条件について事業主の合理的な裁量に委ねられていると解するべきではない。 (イ) 被控訴人会社の提示した業務内容控訴人は,35年間,デスクワークに専念してきたにもかかわらず,同一フロアで現業雑役への配置転換は,それ自体,人間としての倫理と道徳を著しく逸脱している。同僚部員の目の前でカートを押し,窓際棚やロッカーの清掃作業を日々繰り返す苦役は,残虐な迫害に他ならない。 (ウ) 被控訴人会社の提示した給与条件被控訴人会社が提示した再雇用後のパートタイマー収入は,92万4000円(4時間×231日《稼働日数243日から欠勤目安年間12日を控除》×時給1000円)であり,この収入は,定年退職前年の給与所得(970万8700円)の僅か9.5%,初年度老齢厚生年金(148万7500円)の僅か62%である。 このような再雇用後のパートタイマー収入は,あまりにも低額・貧弱・劣悪であるといわざるを得ない。 (エ) 被控訴人会社の上記の対応は改正高年法に反す 金(148万7500円)の僅か62%である。 このような再雇用後のパートタイマー収入は,あまりにも低額・貧弱・劣悪であるといわざるを得ない。 (エ) 被控訴人会社の上記の対応は改正高年法に反する違法なものであって,平等取扱義務及び人格尊重義務に違反し,雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するというべきである。 イ被控訴人ら(ア) 改正高年法の趣旨改正高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主としては,合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,結果的に労働条件等について合意が得られなかったとしても,高年法違反となるものではない。 (イ) 被控訴人会社の提示した業務内容について控訴人は,被控訴人会社が提示した現業雑役は,到底受け入れられないという趣旨の主張をするが,改正高年法は,事業者が定年退職者を再雇用する場合に従前の労働条件を維持することを義務付けるものではない。 控訴人は「60歳以降の再雇用制度」の選定基準(職務遂行能力及び勤務態度)に満たず,かつ,仕事を行う上で必須の同僚や上司との平穏なコミュニケーション能力を欠き,さらに,1日4時間のハーフタイム, 雇用期間も1年間のみという勤務形態に適した業務となると,その確保は必ずしも容易ではなく,控訴人については,清掃等の業務以外の業務を提示することは困難であった。 (ウ) 被控訴人会社の提示した給与条件改正高年法は,事業主に対して老齢厚生年金の報酬比例部分に相当する賃金を支払う法的な義務を課したもの(本来,国から支給されることが予定されていた年金の支払を私企業にそのまま転嫁したもの)と解するべきではない。 なお,仮に,控訴人がパートタイマー継続雇用制度に基 賃金を支払う法的な義務を課したもの(本来,国から支給されることが予定されていた年金の支払を私企業にそのまま転嫁したもの)と解するべきではない。 なお,仮に,控訴人がパートタイマー継続雇用制度に基づいて平成●●年●月●日から平成●●年●月●●日まで再雇用されていた場合,賃金97万2000円(4時間×243日×時給1000円)の他に,賞与として年間29万9500円が支給されたと推測されることから,控訴人が主張する老齢厚生年金の報酬比例部分との差額は,それほど大きくなかったはずである。」(4) 原判決16頁22行目冒頭から23行目末尾までを,次のとおり改める。 「控訴人は,被控訴人会社から,上記(5)アのとおり,パートタイマーとしての再雇用につき違法な条件提示を受け,再雇用されることはなかったが,控訴人はパートタイマー再雇用制度による再雇用そのものを拒否したわけではない。 控訴人は,被控訴人会社の上記の雇用契約上の債務不履行又は不法行為により,精神的苦痛等の損害を被ったが,控訴人の精神的苦痛の程度やパートタイマーとして再雇用された場合の賃金相当額を考慮すると,その損害としては200万円を下らない。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所の判断は,以下のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」第3の1ないし5のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決21頁16行目から17行目の「2.健康」を「1.職務遂行能力」と改める。 (2) 原判決22頁3行目,9行目及び23頁6行目の各「再雇用」の前,12行目の「継続雇用」の前,23頁22行目,24頁5行目,7行目,10行目,17行目,18行目,25行目,25頁7行目,10行目及び26頁25行目の各「再雇用」の前に「スキルドパートナーとしての」を,27頁3行目の 」の前,23頁22行目,24頁5行目,7行目,10行目,17行目,18行目,25行目,25頁7行目,10行目及び26頁25行目の各「再雇用」の前に「スキルドパートナーとしての」を,27頁3行目の「再雇用されない」の前,29頁7行目,15行目及び19行目の各「再雇用」の前に「スキルドパートナーとして」を,29頁21行目の「再雇用」の前に「スキルドパートナーとしての」を,それぞれ付加し,33頁1行目の「再雇用を」を「スキルドパートナーとして再雇用」と改め,33頁2行目及び4行目の各「再雇用」の前にそれぞれ「スキルドパートナーとしての」を付加し,33頁6行目冒頭から10行目末尾までを削除する。 (3) 原判決33頁11行目冒頭から35頁1行目末尾までを,次のとおり改める。 「4 争点(5)(雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任)について(1) 被控訴人会社は,スキルドパートナーとしての再雇用選定手続を経た後,控訴人に対し,パートタイマーとしての再雇用の勤務条件を提示したが,その経過について,乙4,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア(ア) ●●●●部【I】,【C】GMらは,平成25年2月25日,控訴人と面談し,高年法の改正に伴う60歳以降の就労について説明した上,控訴人が再雇用の基準に達していないことを前提として,控訴人に対して,「『定年後再雇用パートタイマー』希望調査・面談シート」(以下「本件パート勤務帳票」という。甲11)を交付し,定年後再雇用になる場合の労働条件について,次のとおり説明した上,本 件パート勤務帳票に氏名を記入して押印した上で3月4日までに提出する必要があること,職務とこの処遇に同意されない場合は再雇用されないことなどを伝えた。 雇用期間 1年間(更新はなし)所属 件パート勤務帳票に氏名を記入して押印した上で3月4日までに提出する必要があること,職務とこの処遇に同意されない場合は再雇用されないことなどを伝えた。 雇用期間 1年間(更新はなし)所属 ●●●●部主な業務内容シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等),その他被控訴人会社や上司の指示する業務勤務形態・時間ハーフタイム勤務(1日当たり4時間),午前8時から正午まで賃金等時給:1000円(昇給なし),賞与:支給することがある(イ) 上記の説明に対し,控訴人は,基準に達していないことについて,何が悪いなど,基準到達に向けた指導,育成を受けていないなどと言って,提示された処遇は受けられないと伝えた。 また,控訴人は,上記の条件提示について,「これは,追い出し部屋だよ。」「人間として,ありえない」「控訴人が隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べたが,【J】SKは,控訴人に対し,被控訴人会社が提示できる処遇・職務は説明したとおりであり,同意されない場合は,再雇用できなくなる旨を伝えた。 イ被控訴人会社は,平成25年4月8日,控訴人に対し,本件パート勤務帳票が同年3月4日までに提出されず,同月5日,同月19日及び同年4月4日の3回にわたって,本件パート勤務帳票の提出を促したが,まだ提出がないこと,同月19日午後5時までに本件パート勤務帳票の 提出がなければ,定年後の再雇用を希望しないものとみなすこと,を記載した通知文書(乙5)を交付した。 ウ控訴人は,平成25年4月8日,被控訴人会社に対し,被控訴人会社が提示したパートタイマーとしての再雇用も定年退職も受け入れ を希望しないものとみなすこと,を記載した通知文書(乙5)を交付した。 ウ控訴人は,平成25年4月8日,被控訴人会社に対し,被控訴人会社が提示したパートタイマーとしての再雇用も定年退職も受け入れず,あくまでも5年間のスキルドパートナーとしての再雇用を求める旨の書面(乙23)を提出した。 同書面には,被控訴人会社が提示したパートタイマー勤務について,65歳までの再雇用が基本原則であること,スキルドパートナーとして再雇用される者と,パートタイマーとして再雇用される者との間には,期間にして1対5,受給額にして1対10にもなる落差があり,労働権を超えて,基本的人権ないし人格権の侵害ではないかなどと記載されていた。 エ控訴人は,再雇用されることなく,平成25年7月●日付けで,60歳に達したことにより,被控訴人会社を定年退職した。 (2) 上記の事実経過を踏まえ,以下,被控訴人会社の対応が雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たるか否かについて検討する。 ア改正高年法は,継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方,従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。),60歳の定年後,再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから,この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために,老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。 そうすると,事業者においては,労使協定で定めた基準を満たさないため 例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。 そうすると,事業者においては,労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても,60歳から61歳までの1年間は,その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって,定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。 なお,被控訴人会社は,改正高年法の定める継続雇用制度を採用するに当たり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するに当たっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものである。 イこれを本件について見ると,被控訴人会社が控訴人に対して提示した給与水準は,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円(4時間×243日×時給1000円)の他に,賞与として年間29万9500円が支給されたと推測されることが認められるから(弁論の全趣旨),控訴人が主張する老齢厚生年金の報酬比例部分(148万7500円)の約85%の収入が得られることになる。 上記の給与等の支給見込額に照らせば,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということは 500円)の約85%の収入が得られることになる。 上記の給与等の支給見込額に照らせば,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない。 ウ次に,被控訴人会社の提示した業務内容について見ると,控訴人に対して提示された業務内容は,シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュ レッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)というものであるところ,当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べているように,事務職としての業務内容ではなく,単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。 上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。 そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。 したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務に 政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。 したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。 この点につき,被控訴人らは,控訴人が本件選定基準(職務遂行能力及び勤務態度)に満たず,同僚や上司との平穏なコミュニケーション能力を欠き,さらに,1日4時間勤務で雇用期間も1年間のみという勤務 形態を前提とすると,控訴人については清掃等の業務以外の業務を提示することは困難であったなどと主張するが,上記選定基準に基づく評価は,控訴人の従前の職務上の地位を前提としてのものであって事務職全般についての控訴人の適格性を検討したものではないし,被控訴人会社において控訴人について解雇の手続を取った形跡はなく,勤務規律及び遵守事項に違反する行為があったとして,けん責処分にしたにとどまるのであって(甲31),控訴人の問題点が事務職全般についての適格性を欠くほどのものであるとは認識していなかったと考えられる。しかも,被控訴人会社は,我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず,従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど,清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難い。これらのことからすると,控訴人に対し清掃業務等の単純労働を提示したことは,あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して,控訴人が定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずるところである。 したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが 純労働を提示したことは,あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して,控訴人が定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずるところである。 したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが指摘するような問題点があることを考慮しても,被控訴人会社の提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受け入れ難いようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,被控訴人会社の上記一連の対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できる。 エ以上によれば,被控訴人会社は,控訴人に対し,上記違法な対応により控訴人が被った損害について債務不履行責任及び不法行為責任を負うというべきである。 5 争点(6)(被控訴人会社の雇用契約上の債務不履行又は不法行為による控訴人の損害額)について控訴人は,被控訴人会社の上記違法行為により,精神的苦痛を受けたほか,60歳から61歳までパートタイマーとして継続雇用する機会を奪われたと認められる。上記のとおり,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円の他に,賞与として年間29万9500円が支給され,合計127万1500円を得ることができたと認められるところ,控訴人は逸失利益の賠償を求めておらず慰謝料の支払を求めており,本件事案の内容からすると,債務不履行に基づいて慰謝料の支払を求めるのは困難であるが,不法行為に基づく慰謝料請求については,控訴人が上記賃金等の給付見込額と同額の損害賠償金を得ることができれば,その精神的苦痛も慰謝されるものと認められる。 よって,控訴人の被控訴人会社に対する請求は,不法行為に基づいて127万1500円及びこれに対する不法行為の 額と同額の損害賠償金を得ることができれば,その精神的苦痛も慰謝されるものと認められる。 よって,控訴人の被控訴人会社に対する請求は,不法行為に基づいて127万1500円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年7月●日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は棄却すべきである。」(4) 原判決35頁2行目の「5 争点(7)」を「6 争点(7)」と改め,35頁18行目末尾で改行して,次のとおり付加する。 「 なお,既に述べたとおり,被控訴人会社の担当者が控訴人に対してパートタイマーとしての清掃業務等を提示したことは違法行為に当たるというべきであるが,この違法行為が被控訴人【A】の任務懈怠によるものでありそれについて悪意,重過失があると認めることはできないから,被控訴人【A】が会社法429条1項の責任を負うものとは認められない。」 2 結論以上によれば,控訴人の被控訴人会社に対する請求は,127万1500円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年7月●日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これと異なる原判決を変更することとし,控訴人の被控訴人【A】に対する控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官前田郁勝 裁判官丹下将克 (別紙) 1 高年法の規定(平成24年法律第78号による改正前のもの)9条1項定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は,その雇用する (別紙) 1 高年法の規定(平成24年法律第78号による改正前のもの)9条1項定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。 一当該定年の引上げ二継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入三当該定年の定めの廃止2項事業主は,当該事業所に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め,当該基準に基づく制度を導入したときは,前項第2号に掲げる措置を講じたものとみなす。 2 平成24年法律第78号の改正附則(経過措置) 3 この法律の施行の際現にこの法律による改正前の第9条第2項の規定により同条第1項第2号に掲げる措置を講じたものとみなされている事業主については,同条第2項の規定は,平成37年3月31日までの間は,なおその効力を有する。この場合において,同項中「係る基準」とあるのは,この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については「係る基準(61歳以上の者を対象とするものに限る。)」と,同年4月1日から平成31年3月31日までの間については「係る基準(62歳以上の者を対象とするものに限る。)」と,同年4月1日から平成34年3月31 日までの間については「係る基準(63歳以上の者を対象とするものに限る。)」と,同年4月1日か 「係る基準(62歳以上の者を対象とするものに限る。)」と,同年4月1日から平成34年3月31 日までの間については「係る基準(63歳以上の者を対象とするものに限る。)」と,同年4月1日から平成37年3月31日までの間については「係る基準(64歳以上の者を対象とするものに限る。)」とする。

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