平成21(ワ)5158 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年12月22日 大阪地方裁判所
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判決文本文26,072 文字)

主文 1 原告の本件訴えのうち,被告に対して義務の確認を求める部分はいずれも却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告には,以下の各義務があることを確認する。 (1) 原告を被告a車掌区に所属する車掌職として就労させることを目的とし,下記の段階的な職場復帰支援措置を講じることア原告について,a車掌区における1週間の出社の訓練期間をおくことイ原告について,a車掌区における車掌業務に関する教育及び同区所における車掌業務の補助業務を業務とする1か月間の復帰期間をおくこと(2) 原告を被告a車掌区に所属する車掌として就労させること 2 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成17年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要(1) 平成17年4月25日午前9時18分ころ,被告のd線f駅とe駅の間で列車脱線転覆事故(以下「本件事故」という。)が発生したところ,原告は,本件事故時,同脱線転覆した同列車(以下「本件列車」という。)に車掌として乗務していたが,同事故後,「不眠症・適応障害」との診断を受け,現在に至るまで休職している。 (2) 本件は,本件事故による上記精神症状を契機として休職中である原告が,被告に対し,労働契約上の信義則に基づき,①ⅰ被告a車掌区(以下「a車掌区」という。)に所属する車掌職として就労させることを目的とし,上記第1の1(1)記載の段階的な職場復帰支援措置を講じる義務,及びⅱ原告を被告a車掌区に所属する車掌として就労させる義務(以下,これら本件確 いう。)に所属する車掌職として就労させることを目的とし,上記第1の1(1)記載の段階的な職場復帰支援措置を講じる義務,及びⅱ原告を被告a車掌区に所属する車掌として就労させる義務(以下,これら本件確認請求に係る各義務をまとめて,「本件措置義務」という。)があることの確認(以下「本件措置義務確認の訴え」という。)とともに,②民法709条ないし715条,若しくは労働契約上の安全配慮義務違反(具体的には,ⅰ余裕のある運行計画を設定する義務違反,ⅱ本件列車に乗務していた運転士[以下「本件運転士」という。]に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務違反,ⅲ動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務違反,ⅳ本件事故現場曲線において自動列車停止装置(以下「ATS」という。)を設置する義務違反)に基づいて損害賠償(慰謝料100万円及び遅延損害金)の支払をそれぞれ求める事案である。 2 前提事実(ただし,文章の末尾に証拠等を掲げた部分は証拠等によって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)(1) 当事者ア被告は,西日本地域において鉄道事業等を営む株式会社である。 イ原告は,昭和××年×月,Aに就職し,駅員等として勤務した後,昭和××年×月,旧Aの分割民営化に伴って設立された被告に期間の定めなく雇用された。 その後,原告は,l駅において駅員として勤務し,平成元年6月に車掌試験に合格し,m車掌区で車掌として勤務するようになり,平成14年6月,a車掌区に配属され,本件事故に遭遇するまで約16年間,車掌として引き続き勤務してきた。 (2) 本件事故ア平成17年4月25日午前9時18分ころ,e駅発n駅行きの上り快速電車(本件列車)が被告のd線e駅とf駅の間の名神高速道路の南にある半径3 て引き続き勤務してきた。 (2) 本件事故ア平成17年4月25日午前9時18分ころ,e駅発n駅行きの上り快速電車(本件列車)が被告のd線e駅とf駅の間の名神高速道路の南にある半径304mの右曲線部分を制限時速70kmを超える時速約116kmの速度で走行したため,同列車が同部分で脱線転覆するという事故(以下,同事故現場を「本件現場」という。)が発生した(本件事故)。なお,同事故により同列車を運転していた運転士(1名)とともに同列車に乗車していた乗客106名が死亡し,乗客562名が負傷した(平成19年6月5日現在)。 (ただし,本件現場の状況,同事故の原因,同事故による死亡者数,負傷者数は甲1の①②)イ原告は,本件事故の際,脱線した本件列車の車掌として乗務し,業務に当たっていた。 (3) 原告に対する労災認定に至る経緯等ア原告は,本件事故後である平成17年4月30日,「不眠と全身倦怠感」を訴えてB病院を受診し,「同症状にて約1週間の自宅安静加療が必要」と診断され(甲4),同日からC病院に入院して治療を受けるようになった。 イ原告は,同病院に入院しながら,同年5月9日以降,同病院の紹介でD病院精神神経科に通院してE医師の診療を受けるようになり(ただし,同通院当初は同医師ではなかった。),ストレス反応状態の経過観察を経て,同年10月17日,「不眠症・適応障害」との診断を受けた(甲13,16,原告)。 ウ原告は,平成17年10月5日,F労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて罹患した「適応障害」を基礎に労災認定の申請をなし,平成18年1月19日,同認定(休業補償給付)を受けた(甲6の①)。 エ原告は,平成19年3月26日,C病院を退院し 険法」という。)に基づいて罹患した「適応障害」を基礎に労災認定の申請をなし,平成18年1月19日,同認定(休業補償給付)を受けた(甲6の①)。 エ原告は,平成19年3月26日,C病院を退院し,その後は,主治医であるE医師が勤務するGに通院しながら,自宅療養を続け,被告を休職している状況にある(甲7の①ないし⑪,13,原告)。 3 争点(1) 本件措置義務確認請求についてア本件措置義務確認の訴えの適法性(争点1)イ被告が原告に対し本件措置義務を有しているといえるか(争点2)(2) 損害賠償請求についてア被告の不法行為(民法709条及び同法715条)ないし債務不履行(安全配慮義務違反)の有無及び原告の損害額(争点3)イ不法行為に基づく損害賠償請求に係る消滅時効の成否(争点4) 4 争点に対する当事者の主張(1) 本件措置義務確認の訴えの適法性(争点1)について(原告)ア被告は,現段階において,原告を1週間にわたる通勤訓練及び1か月にわたる軽減勤務等,医学的に妥当と認められる職場復帰支援策を実施した上,車掌として就労させる労働契約上の義務を有し,原告は,これに対応する請求権を有しているというべきである。したがって,原告が被告に対して請求する本件措置義務請求は将来の確認請求には当たらない。 イ仮に本件措置義務確認の訴えが将来の確認請求であるとしても,同訴えには,以下のとおり確認の利益があるというべきである。 (ア) 原告は,本件措置義務確認の前提として,将来被告から「a車掌区以外の車掌区で車掌として就労せよ」又は「車掌以外の職種として就労せよ」との業務命令が正式に発令されたとしても,「そのような命令に従う義務はない」として業務命令を拒み(就労拒絶権),「a車 a車掌区以外の車掌区で車掌として就労せよ」又は「車掌以外の職種として就労せよ」との業務命令が正式に発令されたとしても,「そのような命令に従う義務はない」として業務命令を拒み(就労拒絶権),「a車掌区の車掌として就労させよ」と被告に対して請求する権利(就労請求権)を有しているところ,同各請求権は,いずれも「将来被告が業務命令を発した場合に」発生する条件付き権利であって,しかも,原告自身が被告との間の労働契約という契約の当事者としてどのような権利を有し,義務を負うかという問題にかかわる明確な権利である。したがって,同権利は,確認の対象として適当であると解される。 (イ) ところで,被告は,現時点において既に原告に対し,「乗務員を含む運転関係業務に従事させる状況にない」と断言しており,しかも,被告がその判断の根拠として挙げるのは,現時点での原告の車掌としての能力や適性ではなく,本件事故における原告の行動という,動かし難い過去の歴史的事実である。このような事実関係からすると,被告は,今後,原告に対し復職の命令を出す際,上記の判断を改め,原告に対し車掌としてはもちろん,a車掌区の車掌として就労を命ずる可能性は皆無であって,少なくとも現時点で既に原告の上記就労拒絶権及び就労請求権を争っているといわざるを得ない。したがって,原告は,現時点においても,原被告間で上記のような条件付き権利の存否を確定されれば,原告の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえる。 ウそうすると,原告の当該訴えには即時確定の利益があるというべきである。 (被告)ア原告の本件措置義務確認の訴えのうち,上記第1の請求1(2)の訴えは,現在において被告が原告に就労させる,あるいは就労させない義務を負担していない以上,将来の である。 (被告)ア原告の本件措置義務確認の訴えのうち,上記第1の請求1(2)の訴えは,現在において被告が原告に就労させる,あるいは就労させない義務を負担していない以上,将来の法律関係の確認請求である。したがって,同訴えは,確認の利益を欠くものである。 また,原告の本件措置義務確認の訴えのうち,上記第1の請求1(1)の段階的職場復帰支援措置義務の確認の訴えは,被告が原告を将来a車掌区の車掌職に就労させる義務を負担することを前提としてこれと一体をなす義務の確認である。したがって,原告の当該訴えも確認の利益を欠くものである。 イところで,原告は,被告の原告に対する,「乗務員を含む運転関係業務に従事させる状況にないものと判断し」ている旨の通知(甲8の①ないし⑦)及び被告のE医師に対する通知(甲21)をもって,被告は,本件措置義務確認の訴えには確認の利益があると主張する。しかし,同各通知における被告の判断は,未だ原告が就労可能状態にならない時点におけるものであるから,この点をもって,直ちに確認の利益が存在するとはいえない。 (2) 被告が原告に対し本件措置義務を有しているといえるか(争点2)について(原告)ア使用者は,疾病休業者について,職場復帰可能な程度にまで症状が快復した場合,当該休業措置が疾病罹患の故になされたこと,休業は労働者にとって種々の不利益をもたらすものであることからすると,当該労働者に対して当然に復帰措置ないし復帰措置を前提とした職場復帰支援策を講じるべき義務がある。特に本件の原告の疾病休業のように使用者である被告の行為に起因している場合(本件では,後記のとおり被告の安全配慮義務違反又は注意義務違反に基づいて発生した本件事故による。)には使用者の同義務はより一層 本件の原告の疾病休業のように使用者である被告の行為に起因している場合(本件では,後記のとおり被告の安全配慮義務違反又は注意義務違反に基づいて発生した本件事故による。)には使用者の同義務はより一層強くなる。 イところで,現在の原告の症状であるが,本件事故後,長年にわたり原告を診療し,現在も原告の主治医であるE医師は,原告の適応障害の症状はかなりの程度快復し,現状の原告の健康状態が原職(車掌職)に求められている程度のレベルに回復しているか,少なくとも一定期間の勤務軽減等の職場復帰支援措置を講ずることにより原職復帰が可能なレベルにまで快復している旨診断し,被告の産業医も同様の判断をしている。そこで,原告が復職すべき職種であるが,疾病休職の復帰という観点から,また,原告が約16年間の長きにわたって携わってきた車掌職という職種の特殊性(資格,職務内容,賃金〔乗務手当〕等),それに関わる原被告間の労働契約の客観的,合理的意思解釈として,原告の原職たる車掌職となる。 原告は,被告がE医師の原告に対する車掌職復帰への指示(第1段階の出社訓練は1~2週間程度,第2段階の段階的復帰は1か月程度の措置等)を踏まえ,K省作成の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(甲15)の内容を参考にしつつ,段階的な職場復帰措置を講じれば,従前の業務であるa車掌区での車掌業務に就労することは十分可能な状況にある。 ウしたがって,被告は,原告に対し,上記イで記載したような段階的な職場復帰支援措置を含む復帰支援策も含めて原告が従前の業務であるa車掌区での車掌業務に就労できるよう,適切な措置を講ずるべき信義則上の義務があるというべきである。 エ以上の点に,被告自身が提案している職場復帰支援の内容においても,1~2 業務であるa車掌区での車掌業務に就労できるよう,適切な措置を講ずるべき信義則上の義務があるというべきである。 エ以上の点に,被告自身が提案している職場復帰支援の内容においても,1~2週間程度の出社訓練期間をおいた上で,1か月程度の教育及び補助業務を主とする段階を設けていることをも併せかんがみると,被告は,原告に対し,①a車掌区おける1週間の出社訓練期間をおくこと,②a車掌区における車掌業務に関する教育及び同業務の補助業務を内容とする1か月の段階的な復帰期間を置くこと,という段階的な復帰支援措置を講ずるべき義務を負っているというべきである。 (被告)ア仮に本件各義務確認の訴えについて,確認の利益があるとしても,労働者には労働契約上就労請求権は認められず,また,使用者に労働者を就労させる義務も労働契約上認められていない。したがって,その限りにおいて,原告をa車掌区に所属する車掌として就労させる義務の存在確認請求は理由がない。 イまた,原告は,本件措置義務に関する法的根拠について,原告との労働契約に付随する信義則上の義務である旨主張する。しかし,被告は,原告との労働契約上の使用者として原告に対する労務指揮権を有しており,原告をいかなる職にいかなる条件で就労させるかは,当該労働契約及び就業規則の範囲内で広い裁量権を有しているところ,精神疾患に罹患している原告の職場復帰に際しても,その時期,期間,方法,態様等について,労務指揮権の行使として,原告の快復状況,知識・経験,能力や,受入先の業務内容,施設,要員等を勘案する等して,その裁量により適切な措置を講ずることになる。したがって,被告は,原告の職場復帰措置として,特定の時期,期間,方法,態様を採用すべきであるとの法的義務を負担しているとはいえない。 する等して,その裁量により適切な措置を講ずることになる。したがって,被告は,原告の職場復帰措置として,特定の時期,期間,方法,態様を採用すべきであるとの法的義務を負担しているとはいえない。 ウさらに,K省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」であるが,同手引きは,行政指導の範囲を超えるものではなく,もとより使用者に行政上の義務を負担させるものでもない。したがって,同手引きにより,原告に対する本件措置義務が発生するとはいえない。 エなお,原告は,緊急時における列車乗務員の心構えが十分とはいえない。 被告は,異常時ないし事故発生に遭遇した車掌が取るべき措置について定め,その内容を車掌職にある者に指導しているところ,原告は,本件事故に際して,基本的ともいうべき①列車防護措置(列車が脱線,転覆等により他の関係列車にも事故が発生することを防止するために,関係列車を緊急に停止させるための措置),②人命救助措置,③連絡・報告措置のいずれをも履行しなかった。したがって,原告には車掌業務を遂行するための能力,適格性が欠如しているといわざるを得ない。 (3) 被告の不法行為(民法709条及び同法715条)ないし債務不履行(安全配慮義務違反)の有無及び原告の損害額(争点3)について(原告)ア使用者責任(民法715条)の点について以下の事情からすると被告が使用者責任を負うことは明らかである。 (ア) 本件事故の直接的な原因は,本件運転士が曲線であった本件現場に制限速度を超過する高速度で本件列車を進入させたことによること(イ) 被告が同運転士の使用者であること(ウ) 同運転士による運転行為は,被告の事業の執行につき行われたことなお,同運転士に過失があっ 高速度で本件列車を進入させたことによること(イ) 被告が同運転士の使用者であること(ウ) 同運転士による運転行為は,被告の事業の執行につき行われたことなお,同運転士に過失があったことは本件事故に係る鉄道事故調査報告書(以下「本件事故調査報告書」という。甲1の①②)の記載の他,本件現場にさしかかるまでの間の同運転士が車掌として乗務していた原告と通常の会話を交わしていたことや本件現場の直前でブレーキをかけていたことからも明らかである。 イ安全配慮義務違反及び不法行為責任(民法709条)について(ア) 被告は,労働者である原告を本件列車に車掌として乗務させるに当たり,その生命及び身体等についての安全配慮義務(具体的には,①余裕のある運行計画を設定する義務,②本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務,③動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務,④曲線であった本件現場においてATSを設置する義務)を負っている。しかし,被告は,同各義務を履行しなかったため,本件事故を発生させ,よって,多数の乗客の方々の尊い生命が失われるとともに,原告にも適応障害等の損害を発生させた。 以上のような被告の各義務違反は,債務不履行であるとともに,不法行為の内容をなす注意義務違反の内容をなすものである。 (イ) 余裕のある運行計画を設定する義務違反について① 本件事故の背景には,本件運転士がb駅で所定停止位置行き過ぎの事象を起こしたことで,本件列車についてb駅出発時点で約1分20秒の遅れを生じさせていた事実が存在する。同運転士は,その遅れを短縮しようと,いわゆる「回復運転」を行い,結果としてブレーキ操作が遅れ,曲線であった本件現場に制限速度を大幅に超過して進入した 秒の遅れを生じさせていた事実が存在する。同運転士は,その遅れを短縮しようと,いわゆる「回復運転」を行い,結果としてブレーキ操作が遅れ,曲線であった本件現場に制限速度を大幅に超過して進入した可能性がある。 ② 被告作成の運行計画が通常通りの運転をしたとしても,一定程度までの列車の遅れについて,これを運行計画全体の中で徐々に解消することができるような余裕をもったものでない場合には,動力車乗務員が,何らかの事象を起こして乗務列車に遅れを生じさせたとき,当該乗務員がその遅れを短縮しようとして回復運転を行い,結果として,制限速度を超過して列車を走行させ,脱線事故を起こしてしまう。被告は,そのことについて予見可能性及び結果回避可能性があったというべきである。 ③ しかし,被告は,運行計画を検証し,本件運転士を含む動力車乗務員が危険な回復運転をしなくとも,運行計画全体の中で徐々に遅れを解消することができるように,余裕のある運行計画を設定する義務があったにもかかわらず,これに違反したというべきである。 (ウ) 本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務違反について① 被告は,同運転士に対し,曲線であった本件現場を含めた危険箇所において制限速度を超過して列車を運行する場合,列車が脱線する可能性のあることについて,十分に認識させるだけの教育を行う義務を負っていた。 ② しかし,被告は,以下のとおり同義務に違反した。 ところで,被告が運転士に対する教育の中で使用しているR省令等や規程,準則の中で,曲線における速度超過が転覆や脱線につながる危険性について具体的に記載されている箇所は,「わかりやすい運転法規」の1頁分(乙6の146頁部分)くらいであり,制限 しているR省令等や規程,準則の中で,曲線における速度超過が転覆や脱線につながる危険性について具体的に記載されている箇所は,「わかりやすい運転法規」の1頁分(乙6の146頁部分)くらいであり,制限速度を超過した場合の脱線の危険性の指摘としては極めて不十分である。また,被告も認めているように,本件事故前まで,運転士に対し,実際に列車が転覆する「転覆限界速度」については教育しておらず,実際,本件事故後に調査委員会が実施したアンケートによれば,a電車区の運転士53名のうち,半数の運転士が「120㎞以上」という,実体とは乖離した速度を転覆限界速度であると認識していた。本件運転士も,転覆限界速度と制限速度との関係について誤った認識を有していた可能性が高い。したがって,被告は,本件運転士に対し,転覆限界速度と制限速度との関係について認識させる等,制限速度を超過することの危険を具体的に教育すべき義務を怠ったというべきである。 (エ) 動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務違反について① 被告は,乗務員が何らかの事象を起こしたとき当該事象に対する適切な教育を行うべき義務があったところ,同義務に反して乗務員に対して不合理な内容の日勤教育を行ってきた。 本件運転士に対して行った平成16年6月の13日間の日勤教育も,その内容は技術的な指導とは全く無関係なものが多く含まれていた。 その結果,同運転士は,日勤教育を受けさせられることを恐れて注意力が散漫となり,制限速度を超過して曲線であった本件現場に進入するに至った。なお,鉄道事故調査委員会(甲1の①)も,本件事故の直接の原因となった本件運転士のブレーキ使用の遅れについて,同運転士が,日勤教育を免れるために虚偽報告を求めた車内電話を原告に切られたと思い,原告 なお,鉄道事故調査委員会(甲1の①)も,本件事故の直接の原因となった本件運転士のブレーキ使用の遅れについて,同運転士が,日勤教育を免れるために虚偽報告を求めた車内電話を原告に切られたと思い,原告と輸送指令員との交信に特段の注意を払っていたこと,日勤教育を受けさせられることを懸念する等して言い訳等を考えていたことによるものと考えられると結論づけている。 ② 被告は,被告が行っていた日勤教育が動力車乗務員が何らかの事象を起こしたとき,同運転手のように「日勤教育」を免れるために,虚偽の報告を同僚に依頼したり,事象の言い訳等を考えて,列車の運転が疎かになり,結果として,制限速度を超過して列車を走行させ,脱線事故を起こしてしまうことについて,予見可能性があったというべきであり,また,かかる結果を回避することも可能であったというべきである。 ③ しかし,被告は,行ってきた日勤教育が乗務員らにとってどのような心理的影響を与えているのかについて調査検討し,これを適切なものに変更すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったというべきである。 (オ) 曲線であった本件現場においてATSを設置する義務違反について① 平成8年12月に発生したc線の脱線事故は,本件現場と同様の曲線区間において発生したものであるところ,当該c線の事故現場にATSが設置されていれば,同脱線事故を防ぐことができた旨本件事故以前である平成9年1月に被告内で開催された安全対策委員会で報告されている。以上のような事情に照らすと,被告は,本件事故当時,SW曲線速照機能ないしP曲線速照機能が付加されたATSの設置を先送りすれば上記c線と同様の脱線事故が発生することを予見することができ,同ATSが現に設置されて使用開始されていたとすると 事故当時,SW曲線速照機能ないしP曲線速照機能が付加されたATSの設置を先送りすれば上記c線と同様の脱線事故が発生することを予見することができ,同ATSが現に設置されて使用開始されていたとすると,本件列車が本件現場に制限速度を上回る速度で進入しそうになった時点で,非常ブレーキ(SW曲線速照機能の場合)又は常用最大ブレーキ(P曲線速照機能の場合)が作動し,本件事故の発生を回避することができたはずである。また,同事故現場に同ATSを設置することは,被告にとって特段不可能な状況にはなかった。 したがって,被告には,同事故現場部分に同ATSを設置すべき義務があったというべきである。 ② しかし,被告は,本件現場において同設置義務を怠ったというべきである。 (カ) なお,原告は,被告の上記義務違反について,鉄道事業法及びこれに関連する各種法令に直接的な根拠を求めているわけではない。もっとも,鉄道事業法1条に定められた「輸送の安全」は,原告のような鉄道車両に勤務する労働者に対する安全と重なることは当然である。したがって,同法が鉄道事故を防止することを直接又は間接の目的として鉄道事業者に義務づけ,又は求める措置は,被告が原告ら車内勤務労働者に対してなすべき安全配慮義務に含まれるか,少なくとも後者の具体的内容を事案に応じて特定するに当たって前者が考慮されるべきことも当然のことといえる。 また,原告は,被告の上記各義務違反の根拠として,被告が利用者に対して負担する運送契約上の注意義務を直接援用しているわけではない。 もっとも,労働者の生命,身体等の安全の確保を目的とする安全配慮義務の趣旨目的に照らし,鉄道事業者が,自ら雇用し,指揮命令を与え,就業場所を指定する労働者に対し,運送契約の相手方である けではない。 もっとも,労働者の生命,身体等の安全の確保を目的とする安全配慮義務の趣旨目的に照らし,鉄道事業者が,自ら雇用し,指揮命令を与え,就業場所を指定する労働者に対し,運送契約の相手方である顧客に対すると同程度か,若しくはそれ以上の注意義務を負うことはいうまでもない。とりわけ,鉄道事故防止の観点から,被告が鉄道事業者として関係業法ないし運送契約法理上求められる措置は,労働者に対する安全配慮義務の内容となるというべきである。 ウ原告の損害(ア) 原告は,被告の安全配慮義務違反(注意義務違反)により惹起された本件事故により,適応障害等を発症し,長期間にわたり,車掌として就労することができないという不利益を被っている。原告の休業の期間,年齢,車掌としての経験等の事情を考慮して原告が被った精神的な損害を金銭に評価すると,少なくとも100万円を下ることはない。 (イ) 不法行為又は債務不履行による原告の損害が現実に発生したのは本件事故の日であるから,本件事故の日の翌日から遅延損害金が発生する。 (被告)ア一般不法行為責任(民法709条)について当該法人がいかに企業規模が大きくて社会的,外見的には実在の人間のように活動しているようにみえても,それは結局のところ中にいる構成員の存在が不可欠であって,具体的,法律的には機関を通じて活動するほかない上,民法の不法行為に関する実体法の体系からしても,法人の不法行為については,民法715条によって評価すべきであって,同法709条によって評価すべきものではない。したがって,民法709条に基づいて被告の責任を問うことはできない。 イ本件運転士の過失に基づく使用者責任(民法715条)について本件事故は,本件運転士が曲線であった本件現場に本件 。したがって,民法709条に基づいて被告の責任を問うことはできない。 イ本件運転士の過失に基づく使用者責任(民法715条)について本件事故は,本件運転士が曲線であった本件現場に本件列車を高速度で進入させたものであるが,同運転士は,本件事故により死亡しており,同運転士の本件事故当時の認識ないし心身の状況は明らかではなく,同運転士の過失については明白とはいえない。 ウ安全配慮義務について(ア) 余裕のある運行計画を設定する義務について① 原告が主張する同義務は,対旅客との関係において,その安全を確保するために,「鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発展を図る」目的で制定された鉄道事業法及びこれに関連する各種法令において,鉄道事業会社に義務づけられたものである。 したがって,同義務は,旅客鉄道運送事業を営む被告において,安全に旅客を運送するために必要な行政上の義務として問題となる余地があっても,被告の従業員として安全に旅客を運送すべき職責を負う乗務員との関係で,直ちに,被告が負担すべき労働契約上の付随義務として,安全配慮義務となるものではない。 ② また,仮に上記①で記載した点をおくとしても,以下のとおり同義務と原告の損害との間に相当因果関係のみならず事実的因果関係もない。 仮に被告が,d線のe駅-f駅間において余裕のある運行計画を設定していたとしても,本件事故の発生を回避できたといえず,本件運転士によるブレーキ操作の遅れの原因が,回復運転をしたことの原因であるともいえない上,それらについては何ら立証されていない。 (イ) 本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務について① 被告は,運転士の養成 であるともいえない上,それらについては何ら立証されていない。 (イ) 本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務について① 被告は,運転士の養成を万全に行い,特に曲線部を含めた速度制限の重要性,速度調節の意識ないし技術等について,徹底した教育を行っている。 なお,運転士養成時の教育・訓練及び適性の確認等については,専門的な研究の成果とこれまでの実績を踏まえ,R省令ないし同省の通達により定められているところ,被告は,これら省令及び通達等に基づいて,「動力車操縦者養成規程」(乙4)を策定している。 ② 被告は,本件運転士に対しても,運転士養成時において,速度制限を遵守し,速度超過をしないような教育を十分に実施しており,さらに運転士登用後においても,その定着度を確認してきた。被告の同運転士に対しする曲線部の速度制限に関する教育が不十分であったことはない。 ③ ところで,原告は,被告が本件事故前に転覆限界速度に関する教育を行っていない旨主張するが,そもそも速度制限に関する教育に当たっては,転覆限界速度の数値を教育するよりも,これより低く定められている制限速度を絶対に超過しないように教育することの方が重要であり,かつ,それで十分である。かえって,運転士に対して曲線部における転覆限界速度を知らせることは,制限速度を超過してもその速度まで安全であるとの安易な考えに陥る弊害を産むリスクがある。 したがって,被告の同速度についてあえて教育しないという方針には一定の合理性がある上,それを裏付けるものとして,当時,R省令及びそれを受けた通達等にも転覆限界速度について教育することを義務づける規定もなかったことが挙げられる。そうすると,被告が同速度に関する教育をしていな ある上,それを裏付けるものとして,当時,R省令及びそれを受けた通達等にも転覆限界速度について教育することを義務づける規定もなかったことが挙げられる。そうすると,被告が同速度に関する教育をしていないことをもって,運転士に対する上記義務が果たしていなかったということにはならない。 (ウ) 動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務について① 原告が主張する同義務は,上記(ア)で記載したと同様,被告の従業員として安全に旅客を運送すべき職責を負う乗務員との関係で,直ちに,被告が負担すべき労働契約上の付随義務としての安全配慮義務となるものではない。 ② 仮に上記①で記載した点をおくとしても,原告は,本件事故調査報告書が,本件運転士の注意が運転からそれた原因として,被告の日勤教育や懲戒処分等の運転士管理方法の関与に言及していることを受けて同義務違反を主張していている。しかし,同報告書においても,日勤教育等による運転士に対する管理方法が,本件事故列車を運転していた運転士の注意が運転からそれたことに関与した可能性が考えられると評価するに留まっている。また,仮に運転士に対する教育において一部ペナルティと受け取られるような不適切さがあったとしても,それによって,一般に,当該教育を受けた乗務員が曲線のあった本件現場部分で大幅な速度超過を発生させるであろうとは到底予見できないし,そのようなことは考え難い。 (エ) 本件現場曲線においてATSを設置する義務について① 国(R省)は,鉄道事業者に対して,安全な輸送を確保するため,鉄道営業法1条,同条を受けた「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年12月25日R省令第151号)(以下「技術基準省令」という。)に基づいて規制しているところ, な輸送を確保するため,鉄道営業法1条,同条を受けた「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年12月25日R省令第151号)(以下「技術基準省令」という。)に基づいて規制しているところ,被告は,同規制に従って鉄道運送事業を行っているが,同運輸行政上の規制においては軌道の曲線部においてATSを設置するよう義務づけられていない。 一般旅客に対する関係でも同義務づけがされていないのに事業者内部における従業員との関係において,それにも増して安全確保のための物的措置としてATSの設置義務を認められることはない。 ② そもそも,曲線部において高速で走行すれば遠心力によって外側に脱線することは物理的にあり得ることであって,それ故にこそ,技術基準省令で脱線防止のための様々な規制がなされている。問題は,対従業員との関係で,脱線防止のために具体的にどのような措置を講じるべきかということであり,技術基準省令によって命じられた基準を超えてまで設置すべき義務は,安全配慮義務の内容とはなり得ない。 エ原告が主張する損害について否認ないし争う。 (4) 不法行為に基づく損害賠償請求に係る消滅時効の成否(争点4)について(被告)ア遅くとも,原告が本件事故及び損害を知ったと認められる平成17年10月17日(原告の適応障害であるとの診断書が作成された日)から3年を経過した。 イ被告は,平成21年5月25日の第1回口頭弁論期日において,原告が本件事故を原因として上記請求する不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 ウ本件事故発生時,本件現場の状況からすると,同状況を思い出す等して一定期間は何らかの精神的苦痛を受けるであろうことは当然に予見可能というべく,本件にお 援用する旨の意思表示をした。 ウ本件事故発生時,本件現場の状況からすると,同状況を思い出す等して一定期間は何らかの精神的苦痛を受けるであろうことは当然に予見可能というべく,本件における損害賠償請求権の消滅時効は,本件事故が発生した平成17年4月25日から進行するというべきである。また,仮に受傷当時,原告が「不眠症・適応障害」に罹患することが予見できなかったとしても,原告は,平成17年10月17日,C病院精神神経科において,不眠症・適応障害との診断を受けたのであるから,同診断時期をもって,消滅時効の起算点であると認めるのが相当である。 (原告)ア心身障害に係る不法行為責任に関する消滅時効の起算点は,治癒ないし症状固定の時点であって,現在も治療中である原告については,未だ消滅時効は進行していないというべきである。原告の発症した心身障害は,後遺障害であり,本件事故当時,その発生を予見することはできないものであるから,本件事故時を起算点とすることはできない。また,原告については,治癒の判断も症状固定の診断もなされていないのであるから,消滅時効が進行することはない。 イ仮に就労可能な状態と医師が診断したことをもって,治癒ないし症状固定であると解したとしても,本件において,医師の判断として就労可能な状態と原告が初めて判断したのは,平成19年8月21日であるから,同日をもって消滅時効の起算点と解すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 本件措置義務確認の訴えの適法性(争点1)について(1) 将来の法律関係は,ある法律関係が将来成立するか否か,必ずしも明らかではなく,仮に現に法律上疑問があり将来争訟の起こり得る可能性があるような場合であっても,かかる争訟の発生は必ずしも確実なものではないし,争 関係は,ある法律関係が将来成立するか否か,必ずしも明らかではなく,仮に現に法律上疑問があり将来争訟の起こり得る可能性があるような場合であっても,かかる争訟の発生は必ずしも確実なものではないし,争訟発生前に予めこれに備えて未発生の法律関係に関して抽象的に法律関係の確認を行う必要があるとは言い難く,むしろ現実に争訟の発生するを待って現在の法律関係の存否につき確認の訴えを提起し得るものとすれば足りるものであると解するのが相当である(参考・最高裁昭和31年10月4日第一小法廷判決民集10巻10号1229頁等)。 (2) ところで,上記前提事実に証拠(甲4,5,6の①②,7の①ないし⑪,13,21,原告)を総合すると,①原告は,本件事故後,「適応障害」を発症し,現在に至るまで,同疾病により休職中であること,②現在,被告の職制上,原告は,車掌の職にあること,③同休職後,原告に対して,未だ車掌以外の職への配置転換命令が発出されていないこと,④被告から原告に対して,平成19年9月20日付け,同年10月5日付け,同月19日付け,同年11月8日付け,同月29日付け,平成20年1月24日付け,同年10月7日付けの各「休業からの職場復帰支援と題する書面」(甲8の①ないし⑦)が交付されているところ,同書面の中で,被告は,原告の勤務箇所,業務内容等について,被告の公共輸送機関としての使命及び原告の体調等を踏まえ,就業規則に基づき決定することになるが,原告の体調等を総合的に勘案すると,原告を乗務員を含む運転関係業務に従事させる状況にないものと判断している旨記載していること,⑤被告は,平成20年11月21日,E医師に対し,原告に係る「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」を送付しているところ,同書面の中で,原告について,「乗務員を含む運転関係業務に従事させる いること,⑤被告は,平成20年11月21日,E医師に対し,原告に係る「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」を送付しているところ,同書面の中で,原告について,「乗務員を含む運転関係業務に従事させる状況にないものと判断し」ている旨記載していることが認められる。 (3)ア原告は,本件措置義務確認の訴えについて,被告には現段階において,原告を1週間にわたる通勤訓練及び1か月にわたる軽減勤務等,医学的に妥当と認められる職場復帰支援策を実施した上,車掌として就労させる労働契約上の義務があり,原告は,これに対応する請求権を有しているというべきであるから,将来の確認請求には当たらない旨主張する。しかし,原告の本件措置義務確認の訴えは,原告をa車掌区に所属する車掌職として就労させることを目的として,本件措置義務が存在することの確認を求めているところ,上記認定したとおり原告は,現在,職制上,車掌の職にあって,未だ車掌以外の職に対する配置転換命令も発令されていない状況にある。そうすると,原告の本件措置義務確認の訴えは,将来,原告がa車掌区に所属する車掌として就労させることを意図したものであって,将来の権利又は法律関係に関する確認を求めているものと解するのが相当である。したがって,原告の上記主張は理由がないというべきである。 イまた,原告は,本件措置義務確認の訴えが将来の法律関係を確認する訴えであるとしても,被告が原告に対し,「乗務員を含む運転関係業務に従事させる状況にないものと判断し」ている旨通知していること,被告のE医師に対する通知(甲21)をもって,被告は,現時点で既に原告の就労拒絶権及び就労請求権を争っており,現時点において,原被告間で条件付き権利(原告の就労拒絶権ないし就労請求権)の存否を確定すれば,原告の法律上の地位に現に生 をもって,被告は,現時点で既に原告の就労拒絶権及び就労請求権を争っており,現時点において,原被告間で条件付き権利(原告の就労拒絶権ないし就労請求権)の存否を確定すれば,原告の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえるのであって,原告の当該訴えには即時確定の利益があるというべきである旨主張する。しかし,上記「休業からの職場復帰支援について」と題する書面(甲8の①ないし⑦)及び上記通知(甲21)は,いずれも,未だ原告が就労可能状態にならない時点において作成されたものであること,特に,同通知は,被告が,未だ休職中である原告について,将来,原告の職場復帰及び復帰後の運用を検討するに当たって,原告の主治医であるE医師に対し,情報提供及び意見を求めるものであることが認められる(甲21)ところ,以上の事実を踏まえると,被告は,同医師からの情報提供及び意見を踏まえて,原告の職場復帰及び復帰後の業務内容や勤務形態等を決定することが推認される。そうすると,上記通知等をもってしても,即時に本件措置義務確認の有無を確認する必要性があるとまでは解されない。したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ(ア) なお,原告の職場復帰であるが,確かに,原告の主治医のE医師は,原告の復帰先を車掌として想定して診断書や意見書の記載をしている(甲7の①ないし⑪,16)し,原告も,同医師の診断ないし意見を踏まえて車掌職への復帰を主張しているところ,仮に原告の希望ないし意思のみをもって職場復帰の考慮要因とできるのであれば,同意思を尊重して原告を車掌職へ復帰させるのが望ましいかもしれない。 しかし,原告を雇用する被告としては,原告の職場復帰について,以下の事情も考慮せざるを得ない。 ① 原告が遭遇した本件事故は前提事実(2)で認定した 帰させるのが望ましいかもしれない。 しかし,原告を雇用する被告としては,原告の職場復帰について,以下の事情も考慮せざるを得ない。 ① 原告が遭遇した本件事故は前提事実(2)で認定したとおり106名の乗客が死亡し,562名の乗客が負傷するという大惨事であって,未だ,被告と死亡者の遺族を含めた被害者との間で法的紛争状況が解決にいたっていない状況にあること② 本件事故で死亡した人の遺族が死亡した人に対して有している思いや残された遺族自身の同事故に対する思いを含めた精神状況,同遺族の本件事故に対する直接の関与者である原告も含めた被告に対する認識負傷者の後遺症状としての精神症状も含めた状況,負傷者及び負傷者を介護する人々の本件事故に対する直接の関与者である原告も含めた被告に対する認識③ 原告が本件事故直後,乗客や死亡者,負傷者にどのような行動を取ったか,また,上記大惨事の直接の関与者としての原告の精神状況(フラッシュバックの可能性も含めて)(イ) 被告は,使用者として,被用者である原告の職場復帰については,原告が長きにわたって車掌職として勤務してきたこと,原告の車掌職への復帰希望意思,原告の快復状況の他,上記(ア)の①ないし③で認定したような事実を総合考慮して委ねられた裁量の範囲内で,必ずしも車掌職に制限されることなく判断することができるとするのが相当である。 (4) 原告の本件措置義務確認の訴えは,上記(1)ないし(3)で認定説示したところからすると,未だ確定していない原告の復職段階での法律関係(本件措置義務)の確認を求めるものであって,現段階において,同義務の存在を確認したとしても原告被告間の紛争の終局的な解決にあるとはいえない。したがって,同訴えは,確認の利益を欠く不適法な 法律関係(本件措置義務)の確認を求めるものであって,現段階において,同義務の存在を確認したとしても原告被告間の紛争の終局的な解決にあるとはいえない。したがって,同訴えは,確認の利益を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。 2 被告の不法行為(民法709条及び同法715条)ないし債務不履行(安全配慮義務違反)の有無及び原告の損害額(争点3)について(1) 安全配慮義務違反ないし一般的な不法行為の点についてア労働契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本的な内容とする双務有償契約であるところ,通常,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて労務の提供を行うものであるから,使用者は,報酬支払義務にとどまらず,労働者が労務提供のため設置する場所,設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っていると解するのが相当である(参考・最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決民集29巻2号143頁等)。 イ原告は,被告の安全配慮義務違反(債務不履行)ないし注意義務違反(不法行為)として,以下の4つの義務の違反を挙げる。 (ア) 余裕のある運行計画を設定する義務違反(イ) 本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務(ウ) 動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務(エ) 本件現場曲線においてATSを設置する義務そこで,これらの各義務違反について,検討する。 ウ(ア) 原告は,鉄道事故防止の観点から,被告が鉄道事業者として関係業法ないし運送契約法理上求められる措置が労働者 Sを設置する義務そこで,これらの各義務違反について,検討する。 ウ(ア) 原告は,鉄道事故防止の観点から,被告が鉄道事業者として関係業法ないし運送契約法理上求められる措置が労働者に対する安全配慮義務の内容となるというべきであるとして,被告には,上記(ア)の余裕のある運行計画を設定する義務及び上記(ウ)の動力車乗務員一般に対する教育を適切なものとする義務がある旨主張する。 しかし,使用者たる被告が負う安全配慮義務は,労働契約に基づいて負う義務であって,同義務の根拠は飽くまでも労働契約にある。ところで,鉄道事業者である被告に対しては,鉄道事業の監督官庁から鉄道等の利用者の利益・安全を確保するという目的から鉄道営業法,R省令等の法令の制定及び日常の行政指導を通じて種々の行政的規制が行われているところ,同規制に従って被告が取るべき措置と,従業員に対して上記安全配慮義務の履行として取るべき措置とは事実上重なる部分があったとしも,その根拠は本質的に異なるものである。また,不特定多数の旅客が利用する鉄道事業においては,鉄道事業の公共的性格に照らして,利用者(旅客)との関係で,鉄道事業者は高度の安全を確保すべき義務を負うというべきところ,鉄道事業者が利用者に対して負担する運送契約上の注意義務の態様・程度と,従業員に対して労働契約上負担する安全配慮義務の態様・程度とは,異なるものというべきである。 以上の事情を踏まえると,原告が主張する上記各義務の内容は,鉄道を利用する旅客との関係において,その安全を確保するために,「鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発展を図る」目的で制定された鉄道事業法及びこれに関連する各種法令において措定されている義務というべきであって,労働契約に基づいて使用者で 鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発展を図る」目的で制定された鉄道事業法及びこれに関連する各種法令において措定されている義務というべきであって,労働契約に基づいて使用者である被告が被用者である原告に対して負っている義務であるとは解し難い(なお,この点は,使用者の被用者に対する一般的な不法行為上の注意義務についても同様であるというべきである。)。そうすると,原告の上記各義務違反に基づく損害賠償請求は,その限りにおいて,失当といわざるを得ない。 (イ) 仮に原告が主張する上記各義務が安全配慮義務の内容になるとしても,原告が主張する内容は抽象的であって,被告に対し,本件事故を起こした本件運転手との関係で,具体的ないかなる事実関係を基にして法的な義務として同義務が発生するのか,また,同義務違反との関係で同事故が発生するのか,本件全証拠によるも必ずしも明らかでない。そうすると,原告の上記各主張は,この点からしても理由がない。 エ原告は,被告が,本件運転士に制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務に違反している旨主張する。 (ア) 証拠(甲1の①,乙1ないし10,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ① 運転士の免許は,動力車操縦者運転免許に関する旧r省(現R省)令(昭和31年7月20日運輸省令43号。乙1)3条は,「地方運輸局長の運転免許を受けた後でなければ,動力車を操縦してはならない」と定めている。 また,「動力車操縦者運転免許に関する省令の事務取扱いについて」(昭和41年8月9日鉄運第109号。乙2)と題する通達は,免許を取得するための具体的な講習内容について定めており,同22項には,学科講習については第1類甲種運転講習課程にあっ 務取扱いについて」(昭和41年8月9日鉄運第109号。乙2)と題する通達は,免許を取得するための具体的な講習内容について定めており,同22項には,学科講習については第1類甲種運転講習課程にあっては400時間以上,技能講習については指導操縦者の指導の下列車運転により400時間以上の教育が義務づけられている。 そして,「指定動力車操縦者養成に対する指導基準について」(昭和44年5月21日鉄運第92号。乙3)と題する通達には,学科講習,技能講習の内容や教材等について詳細に定められている。 そこで,被告は,同省令及び同省令を受けた通達等に基づいて,「動力車操縦者養成規程」(乙4)を定めている。 ② 被告における運転士養成の流れは,おおむね以下のとおりである。 被告に入社した社員が運転士を目指す場合,最短のケースで,駅員として約1年,車掌として約1年間勤務した上で,①動力車操縦者養成所(社員研修センター)の運転士科入所試験に合格し,②同所において必要な時間の学科講習を受け,修了試験に合格し,③運転区所において必要な時間の技能講習を受け,修了試験に合格し,④地方の運輸局長から免許証の交付を受けることが必要となる。 このうち,学科講習における学科項目は,「鉄道一般」「鉄道車両」「運転法規」「信号・線路」「鉄道電気」「運転理論」「検査修繕」「作業安全」であり,教育時間は,478時間が必要とされている(乙4)。同講習において,運転速度に関しては,教材として「運転取扱実施基準規程」(乙5)66条ないし74条を使用するとともに,補助教材として「わかりやすい運転法規」(乙6)を使用して,主として「運転法規」に関する講習の中で教育がなされている。具体的な運転速度については,被告の規程である「列車運転速度表」(乙8) ともに,補助教材として「わかりやすい運転法規」(乙6)を使用して,主として「運転法規」に関する講習の中で教育がなされている。具体的な運転速度については,被告の規程である「列車運転速度表」(乙8)を配布して説明し,特に,曲線の制限速度については,曲線(カーブ)における制限速度の意義,制限速度をオーバーして運転すると列車が脱線する可能性があること,曲線半径毎の制限速度について教育がなされている(甲1の②)。制限速度に関しては,上記速度表の数値を完全に記憶することが要求されている(証人H)。 また,技能講習で習得する科目は,「基本講習」「乗務講習」「出区点検」「応急処置」であり,同講習の教育時間は,512時間が必要とされている(乙4)。同講習における曲線の速度制限に関しては,線路図を見ながら曲線箇所の半径と制限速度を逐一確認させることにしている。また,乗務講習においては,指導操縦者の指導の下,実際にハンドルを持って列車の運転操縦を行い,その際,乗務する線区の信号機の配列・曲線制限・ポイント制限等を習得し,曲線の速度制限については,曲線半径に関する具体的な数値を口頭試問等により確認している。 そして,技能試験においては,「動力車操縦者養成取扱準則」(乙7)において具体的な取扱いが定められているところ,速度に関しては,「速度目測」,「速度調節」が実施細目として定められており,特に,制限速度超過の場合は,即不合格になると定められている等厳しい対応がなされている。 ③ 本件運転士は,上記養成プロセスを経て,平成16年5月14日,I運輸局長から甲種電気車運転免許の交付を受けている。また,同運転士は,免許取得後,合計44回の添乗指導及び定例訓練を受け,基本動作の実施状況のほか,制限速度を守って運転しているか等の点を含めた運転操 輸局長から甲種電気車運転免許の交付を受けている。また,同運転士は,免許取得後,合計44回の添乗指導及び定例訓練を受け,基本動作の実施状況のほか,制限速度を守って運転しているか等の点を含めた運転操縦の技能に関する確認がなされており,いずれも問題があるとは認められなかった。なお,同運転士は,本件事故発生までの間,特に問題なく,当該区間を250回以上運転していた。 (甲1の①,弁論の全趣旨)。 (イ) 上記(ア)の①ないし③で認定した事実を踏まえると,被告は,本件運転士に対して,運転士養成時及び運転免許取得後のいずれの時点においても,速度制限を遵守し,速度超過をしないよう十分な教育をしていたことが推認される。以上の事実からすると,被告が同運転士に対して,制限速度超過の危険性を十分に認識させるだけの教育を行う義務に違反していたと認めることができず,その他,同事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,かえって,上記認定したとおり同運転手に対して速度制限を遵守し,速度超過をしないよう指導をしていたことが窺われる。そうすると,原告の上記主張は理由がない。 オ原告は,被告が,本件現場曲線においてATSを設置する義務に違反している旨主張する。 (ア) 証拠(甲1の①)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ① G省令は,被告を含む鉄道営業者に対して,安全な輸送を確保するための行政上の主な規制を定めている。 本件事故当時,適用されていた同省令は,ATSについて,「閉そくによる方法により列車を運転する場合は,信号の現示及び線路の条件に応じ,自動的に列車を減速させ,又は停止させることができる装置を設けなければならない。ただし,列車の運行状況及び線区の状況により,列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は 示及び線路の条件に応じ,自動的に列車を減速させ,又は停止させることができる装置を設けなければならない。ただし,列車の運行状況及び線区の状況により,列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は,この限りでない。」と定めている。同省令において,ATSは,信号の現示(赤信号の場合)に列車を停止させるべきものとして規定されており,曲線部については何らの規定も設けられていない。なお,同省令を具体化,数値化して明示した標準的な解釈のATS規定に関する部分においても同様である(甲1の①の138頁,139頁)② 同省令等による軌道の曲線部の安全の確保は,曲線半径の規制(同省令13条,14条),曲線部における運転速度の規制(同13条,103条),カント(曲線部外側のレールは内側より高く設置されており,その高低差を指す。)の適正な設定(同15条),スラック(曲線部での円滑な走行のため,軌間を曲線内側に拡大させることを指す。)の適正な設定(同16条),緩和曲線の設置(同17条)等を遵守することであって,被告は,これらの定めについて実施基準を設けてR省に届け出をしている上,本件現場も含めて同定めの内容に沿った措置をとっている。 (甲1の①,弁論の全趣旨)③ 他方,本件事故調査報告書(甲1の①の230頁)には,「事故現場の右曲線については,現在の線形になったのが(略)平成8年12月であり,また(略)簡略な計算式により試算した転覆限界速度(本件列車1両目定員150名乗車時)104㎞/hをその手前の区間の最高速度120㎞/hが大きく超えていたことから,同曲線への曲線速照機能の整備は優先的に行うべきであったと考えられる。」,仮に本件現場において,「P曲線速照機能(注:ATS-P形の曲線速度超過防止機能。甲1の①・261頁参照) えていたことから,同曲線への曲線速照機能の整備は優先的に行うべきであったと考えられる。」,仮に本件現場において,「P曲線速照機能(注:ATS-P形の曲線速度超過防止機能。甲1の①・261頁参照)が使用開始されていれば,本件列車のように本件曲線に制限速度を大幅に上回る速度で進入しそうな場合には,本件曲線の手前で最大Bが作動し,本事故の発生は回避できたものと推定される。」と記載されている。 また,平成8年12月4日,c線においてY貨物列車の脱線事故が発生したところ,同事故は,本件現場と同様の曲線区間において発生したものであった。同事故については,平成9年3月,被告で開催された総合安全対策委員会の付属資料に「他会社における事故」として記載されている(甲1の①の180頁)。 ④ 本件現場を含めて,被告の運行する在来線の列車は,軌間1067mmの2本のレールを走行するところ,そのような軌道上を走行するため,本件運転士(運転中の目の高さはレール面上2.5m程度)も含めて運転士は,曲線区間における速度超過による転覆の危険性を一般的な自動車を運転する運転手よりも強く感じる。そのようなことから,運転士は,急いでいたとしても制限速度よりも時速で数十kmも高い速度で運転することは通常あり得ない。特に,曲線部では外側への遠心力が働くため,そのような運転をすることはなおさらあり得ない。 (甲1の①の79頁,222頁,弁論の全趣旨)(イ) そこで,被告が原告に対し,本件現場曲線においてATSを設置する義務を負っていたか検討する。 確かに,本件現場に原告が主張するようなATSが設置されていたとすると,本件事故が発生しなかった可能性が高いこと,曲線部で一定の速度を超えて列車を運行すると外側に飛び出そうとする遠心力が働き,列 確かに,本件現場に原告が主張するようなATSが設置されていたとすると,本件事故が発生しなかった可能性が高いこと,曲線部で一定の速度を超えて列車を運行すると外側に飛び出そうとする遠心力が働き,列車の脱線の危険性があること(甲1の①②)は公知の事実である。しかし,そのような事実があるからこそ,鉄道事業を指導監督するR省は,一般の利用者の安全を確保するため,鉄道事業を行う者に対して曲線部での脱線事故を防止する趣旨から,上記①②で認定したとおり行政上の各種の規制(ただし,G省令は,ATSに係る付加的な機能についてまでは義務づけておらず,被告を含む鉄道事業者に対して,曲線速照機能の整備を義務づけていなかった。)をしてそのような事故防止をはかっていたこと,被告は,曲線部の安全の確保に関し,上記省令等の規制に沿って整備等をしていたことが認められる。以上の事実に,上記のとおり本件現場の客観的な状況(曲線の形状等)や同種曲線区間におけるc線における脱線事故の発生及び同事故に係る報告がなされていることを総合すると,本件現場において,曲線速照機能のあるATSを整備する必要があったことが窺われる。しかし,使用者である被告が被用者である原告に対して負っている安全配慮義務は,労働者が労務提供のため設置する場所,設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務であるところ,①被告は,上記認定したとおり曲線部の安全の確保に関して上記省令等の規制に沿って整備等をしていたこと,②同省令は,被告を含む鉄道事業者に対して,曲線速照機能のあるATSの整備までを義務づけていなかったこと,③上記のとおり被告は,本件運転士に対し,運転免許取得前後において,制限速度を遵守するよう十分な教育 は,被告を含む鉄道事業者に対して,曲線速照機能のあるATSの整備までを義務づけていなかったこと,③上記のとおり被告は,本件運転士に対し,運転免許取得前後において,制限速度を遵守するよう十分な教育指導をしていたこと,④本件現場は,半径304mの右曲線であったところ,本件事故はそのような右曲線部を本件運転士が制限速度時速70kmを約40km超える時速約116kmで走行したことに主要な原因があるところ,同事実に上記被告の制限速度に関する教育及び上記(ア)④で認定した事実を総合すると,同運転士の本件現場である右曲線部分への進入速度は通常の予想を遙かに超える速度であって,そのような速度で進行するようなことは通常想定し難かったことが認められ,以上の事実を踏まえると,被告においてかかる人的物的措置が講じられている以上,被告の被用者である原告との関係においては,被告は,さらに制限速度を大きく上回る速度で本件現場の曲線区間に進入するということを想定して,本件現場にATSを設置すべき義務があったとまで認定することはできない。したがって,原告の同義務違反の主張は,その限りにおいて理由がないというべきである。 (2) 使用者責任について原告は,本件事故に係る原告の損害について,本件運転士の一般的な不法行為責任を前提として,使用者責任(民法715条)を負う旨主張する。 しかし,被告が本件運転士の不法行為責任を基礎として使用者責任(民法715条)を負っているか疑問があるところ,仮に,これを負うとしても,原告は,本件事故から6か月余り経過した平成17年10月17日,C病院精神神経科において不眠症,適応障害との診断を受けているが,同事故後原告と診療した医師との意思疎通には問題がなく,また,前提事実(3)ウで記載したとおり同月5日にはF労働基準監 10月17日,C病院精神神経科において不眠症,適応障害との診断を受けているが,同事故後原告と診療した医師との意思疎通には問題がなく,また,前提事実(3)ウで記載したとおり同月5日にはF労働基準監督署長に対し,労災保険法に基づいて罹患した「適応障害」を基礎に労災認定の申請をなし,平成18年1月19日,同認定(休業補償給付)を受けているところ,以上の事実を踏まえると,被告が平成21年5月25日の第1回口頭弁論期日において行った上記不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効を援用する旨の意思表示は有効と言わざるを得ない。したがって,この点からも,原告の上記主張は理由がない。 3 結論以上の次第で,原告の被告に対する各義務確認の訴えは不適法であるからいずれ却下することとし,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとして,主文とのとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中村哲 裁判官内藤裕之 裁判官峯金容子

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