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主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。理由 上告代理人青木義人、同真鍋薫、同菅春見の上告理由第一点の一ないし三について。所論は要するに本件賠償機械の撤去が事実上ほとんど不可能であつたことが被上告人の代金債務の履行遅延についての宥恕すべき事情にあたり、信義則適用の一要件をなす事実であるとした原審の判断が前上告審の判断に抵触するとするものである。しかし、この点に関する前上告審の判断は、要するに、被上告人が第一回分納金を支払う以前に上告人において使用可能な状態を実現し賠償機械の引渡をすることが上告人の義務であつた如く判断した差戻前原判決の判断が本件契約の解釈について審理不尽の違法があるものとするのである。従つて、前記原審の判断が右前上告審の判断に抵触するものと云えないことは明らかであり、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。同四について。前上告審判決は、原審が、本件契約をもつて「原判示のような趣旨の契約」であるとの前提に立ち解除の意思表示を民法一条二項にしめされた信義則に反し無効であるとした判断を違法であるとするものである。そして、右にいう「原判示のような趣旨の契約」とは、本件契約は被上告人への賠償機械の引渡、使用可能が前提となつており、被上告人が第一回分納金を支払う以前に上告人において使用可能な状態を実現し引渡をすることが上告人の義務とされている旨の原判示をいうものであることは前上告審判決および前控訴審判決の判文により明らかである。- 1 -しかし、差戻後の原審は、本件契約の内容を右に述べた前控訴審判決のごとく認定、判断しているものではない。すなわち、原判決は、本件契約においては被上告人の第一回分納金の支払と同時に本件土地建物内の本件賠償 し、差戻後の原審は、本件契約の内容を右に述べた前控訴審判決のごとく認定、判断しているものではない。すなわち、原判決は、本件契約においては被上告人の第一回分納金の支払と同時に本件土地建物内の本件賠償機械を他に搬出、移動し、被上告人が本件物件の現実の占有を取得し直ちに申請目的に従つて使用しうることが言葉の厳密な意味において契約の前提であるとすることはできないとしているのであるから、右前控訴審の判断と異なる前提に立つて所論の事実を信義則適用の一要件をなす事実としているのであつて、その判断に所論のごとき判断抵触の違法はない。 契約においては被上告人の第一回分納金の支払と同時に本件土地建物内の本件賠償機械を他に搬出、移動し、被上告人が本件物件の現実の占有を取得し直ちに申請目的に従つて使用しうることが言葉の厳密な意味において契約の前提であるとすることはできないとしているのであるから、右前控訴審の判断と異なる前提に立つて所論の事実を信義則適用の一要件をなす事実としているのであつて、その判断に所論のごとき判断抵触の違法はない。それ故、論旨は理由がない。同五について。前上告審判決は、所論の事実をもつて信義則適用の一要件事実とすることが違法であるとするものではない。それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。同六について。原審のした本件契約の解釈についての判断は前控訴審の判断と異なるものであるから、原審は異なる前提に立つて信義則の適用を肯定したものである。のみならず、本件契約成立後上告人の催告から解除にいたるまでの経過について原審の認定は、前控訴審の認定と異なるのであつて、この認定事実を総合して、原審は、上告人の解除権の行使をもつて信義則に反すると判断したものであるから、右原審の判断は所論の前上告審の判断と抵触するものとは言えない。従つて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。同第二点について。原審の確定する事実によれば、被上告人は、昭和二五年一一月八日上告人との間に本件不動産について売払契約を締結し、右契約に基づく第一回分納金の納入期日を昭和二六年二月二〇日、第二回分納金の納入期日を同年三月三一日と定められた- 2 -が、右各期日に所定の支払をしなかつたので、上告人は、昭和二六年一二月二五日付書面をもつて 一回分納金の納入期日を昭和二六年二月二〇日、第二回分納金の納入期日を同年三月三一日と定められた- 2 -が、右各期日に所定の支払をしなかつたので、上告人は、昭和二六年一二月二五日付書面をもつて被上告人に対し支払遅延を理由に右契約を解除する旨の意思表示をしたというのである。しかし、被上告人が分納金の支払を遅延した主たる原因は本件建物内に撤去不能ともいうべき賠償機械が存在したからであり、それにもかかわらず被上告人が本件契約を締結するに至つたのは、契約に際し上告人の所管庁たる関東財務局の契約担当官が右機械の撤去は容易であるとの趣旨の説明をし、被上告人もこれを信じたからにほかならず、従つて、このような事態を招いた原因については上告人も一半の責を負うものであり、また、本件分納金の支払期限が延期されたうえ契約解除がされるに至つた経過についてみるも、被上告人は、前記のごとく約定の分納金の支払を遅延していたところ、昭和二六年一〇月ころ、上告人より同月二六日を期限とする催告を受けたので、当時他よりの資金援助が得られる見とおしがあつた被上告人は、上告人にこの旨を告げて期限の延期方を懇請したところ、上告人側ではこれを了承し、同年一一月七日までの延期を承認し、右期限にも支払がないときには契約を解除すべき旨書面で通知した。 れるに至つた経過についてみるも、被上告人は、前記のごとく約定の分納金の支払を遅延していたところ、昭和二六年一〇月ころ、上告人より同月二六日を期限とする催告を受けたので、当時他よりの資金援助が得られる見とおしがあつた被上告人は、上告人にこの旨を告げて期限の延期方を懇請したところ、上告人側ではこれを了承し、同年一一月七日までの延期を承認し、右期限にも支払がないときには契約を解除すべき旨書面で通知した。しかし、被上告人は、右期限にも支払ができなかつたので、同年一一月九日被上告人協会D理事長は融資を内諾したE株式会社の常務取締役Fをともない関東財務局に出頭し、財務局長Gに対してEが融資承諾をしたからしばらく支払を猶予されたい旨を申し入れ、F常務もその旨口添えした。そこで、G局長もさらに支払を猶予するから納入を期待する旨言明し、一応再度期限を同年一二月二〇日に延長した。このように、上告人が当初の約定期限より相当期間支払をまち、さらに再度にわ の旨口添えした。そこで、G局長もさらに支払を猶予するから納入を期待する旨言明し、一応再度期限を同年一二月二〇日に延長した。このように、上告人が当初の約定期限より相当期間支払をまち、さらに再度にわたつてその延期を認めたのは、そもそも、上告人は、本件売払にあたつて被上告人が代金の調達を銀行借入金および寄付金によりまかなわなければならない財政状態にあることを知りながらも、なお被上告人の事業目的を意義あるものと認め、これを積極的に助成する意図のもとに本件売払契約を締結したものであり、契約締結後においても上告人は、右意図の- 3 -もとに被上告人に対し相当好意的な態度を示してきたものにほかならない。そのようなことから、右の再度の期限延長のさいは、右期限を徒過すれば契約は解除されるとの警告はそれほど重さを置かれず、被上告人に充分納得されていなかつたものである。しかるに、E株式会社は、被上告人の要求に応じる融資を内定していたものの、都合により予定の期日に融資の運びにいたらず、そのため、被上告人は、延期された分納金支払期限を経過した。しかるところ、上告人は、他に転用するためにわかに当初の方針を変更し、被上告人が再度延長された期限を徒過するや、ただちに本件売払契約をとりやめるため突如として本件契約解除の意思表示をするに至つたものである。原審の右に確定した事実関係のもとにおいては、上告人のした本件契約解除の意思表示は、上告人が本件契約の締結以来契約の当事者として被上告人に対しみずから示してきた態度と相反するものであり、その態度を信頼してきた被上告人の信頼をうらぎるものであつて、民法一条二項にもとるものといわなければならない。 を徒過するや、ただちに本件売払契約をとりやめるため突如として本件契約解除の意思表示をするに至つたものである。原審の右に確定した事実関係のもとにおいては、上告人のした本件契約解除の意思表示は、上告人が本件契約の締結以来契約の当事者として被上告人に対しみずから示してきた態度と相反するものであり、その態度を信頼してきた被上告人の信頼をうらぎるものであつて、民法一条二項にもとるものといわなければならない。従つて、本件契約解除の意思表示はその効力を有しないものと解するを相当とするから、これと同旨の原審の判断は正当である。頼をうらぎるものであつて、民法一条二項にもとるものといわなければならない。従つて、本件契約解除の意思表示はその効力を有しないものと解するを相当とするから、これと同旨の原審の判断は正当である。所論は、あるいは原審の認定を争い、その認定にそわない事実を前提とするものもあり、また所論のごとく被上告人の事業計画が杜撰なものであるとしても、これをもつて前記判断を左右するに足りない。原審は、本件賠償機械の移動、撤去が困難でありこれに対処する用意を欠いたまま本件契約を締結したことについての上告人の態度、上告人が本件契約の締結、履行にあたつて被上告人に対し示した好意的態度、被上告人が本件売買物件の維持、管理などの費用の支出をしたことなどをもつて、ただちに本件解除の意思表示が信義則に違反するとするものではなく、それらの事実を総合して判断するものであり、右各事実をもつて信義則違反の有無の判- 4 -断資料とすることを妨げるものではない。また、被上告人の本件分納金の支払を遅延した態度が必ずしも所論のごとく誠実さを欠くものとすることはできないから、これをもつて不誠実であるとする所論は独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎない。所論引用の判例は本件に適切でなく、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官草鹿浅之介裁判官城戸芳彦裁判官色川幸太郎- 5 - 彦裁判官 色川幸太郎
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