平成15年11月17日判決言渡平成15年(手ワ)第168号,第169号,第180号各約束手形金請求事件手形判決 主文 1 本件各訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用はいずれも原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第168号事件同事件被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 第169号事件同事件被告は,原告に対し,金800万円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 第180号事件同事件被告は,原告に対し,金1300万円及びこれに対する平成15年6月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告らからそれぞれ約束手形の振出を受けたとして,その各手形金とこれに対する手形を呈示したとする日からの手形法所定の法定利息金の支払を,手形訴訟により求めた事案であり,頭書支配人が訴訟提起したものである。なお,本件各訴えは,水戸地方裁判所に提起されたものが,当裁判所に移送されたものである。 被告らは,後記のとおり本件各訴えが不適法であるとして,訴えの却下を求めている。 当裁判所裁判長は,第1回口頭弁論期日の指定に伴い,原告に対し,①本件各訴えを提起した支配人が商法38条1項所定の営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する支配人に当たるか,及び②上記のほか,被告らの本案前の主張(特に本件各訴 件各訴えを提起した支配人が商法38条1項所定の営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する支配人に当たるか,及び②上記のほか,被告らの本案前の主張(特に本件各訴えが手形訴訟制度を濫用したもので不適法であること)に対する具体的な反論を明らかにした主張・立証書面を同期日前に提出するよう命令したが,原告は,何らの書面を提出せず,かつ,同期日に出頭しなかった。 2 請求原因(1) 被告Aは,次の約束手形を有限会社B及びCと共同して原告に対して振り出した。 ア金額 1000万円イ支払期日一覧払い(呈示期間は5年間とする)ウ支払地東京都中央区エ支払場所株式会社Dオ振出日平成10年10月30日カ振出地茨城県日立市振出人有限会社Bキ振出地茨城県日立市振出人 Cク振出地水戸市振出人 Aケ受取人株式会社D(2) 被告Eは,次の約束手形を有限会社B及びCと共同して原告に対して振り出した。 ア金額 800万円イ支払期日一覧払いウ支払地東京都中央区エ支払場所株式会社Dオ振出日平成14年11月27日カ振出地茨城県日立市振出人有限会社Bキ振出地茨城県日立市振出人 Cク振出地茨城県那珂郡a村振出人 Eケ受取人株式会社D(3) 被告Fは,次の約束手形 地茨城県日立市振出人 Cク振出地茨城県那珂郡a村振出人 Eケ受取人株式会社D(3) 被告Fは,次の約束手形を有限会社B及びCと共同して原告に対して振り出した。 ア金額 1300万円イ支払期日一覧払い(呈示期間は5年間とする)ウ支払地東京都中央区エ支払場所株式会社Dオ振出日平成10年4月28日カ振出地茨城県日立市振出人有限会社Bキ振出地茨城県日立市振出人 Cク振出地茨城県那珂郡a村振出人 Fケ受取人株式会社D(4) 原告は,平成15年6月6日,(1)ないし(3)の各手形(本件各手形)を支払場所に呈示したが,支払を拒絶された。 (5) 原告は,本件各手形を所持している。 3 被告らの本案前の主張(1) 二重起訴の禁止(民訴法142条)本件各訴えは,被告らが原告を相手方として東京地方裁判所に不当利得返還等請求訴訟(別件訴訟)を提起した後に,嫌がらせのために提起したもので,本件各訴えと別件訴訟とは当事者,請求内容,争点(利息制限法の適用の有無)が同一であり,既判力抵触の可能性,審判の重複による訴訟不経済,被告の応訴の煩わしさをその趣旨とする二重起訴の禁止に抵触する。 (2) 原告支配人の訴訟代理権の欠缺(民訴法54条1項)原告の支配人は,単に訴訟活動を遂行するための従業員であり,訴訟代理権の基礎となる商法38条1項の「営業主ニ代リテ其ノ営業ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁 訟代理権の欠缺(民訴法54条1項)原告の支配人は,単に訴訟活動を遂行するための従業員であり,訴訟代理権の基礎となる商法38条1項の「営業主ニ代リテ其ノ営業ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限」を有していない。 (3) 手形訴訟制度の濫用ア原告は,貸付に当たり,主債務者び保証人に本件各手形と同様の手形に振出署名させているところ,原告担当者から被告らに対し,同手形についての説明が全くされておらず,被告らには,本件各手形に署名した記憶はない。 イ本件各手形には,支払期日を一覧払い,支払地を東京都中央区,支払場所を株式会社Dと印刷され,振出日は空欄のまま振出人に署名させる方法をとっており,主債務者及び保証人から貸金を回収するためだけに作成されたものであり,第三者間を転々流通し,手形交換所による決済を予定されている通常の約束手形とは異なるもので,手形訴訟制度を利用すべき理由を見出すことはできない。 ウ原告の貸付は,利息制限法を大幅に上回る出資法の上限金利の年40%(当時)近くの高金利であり,原告の訴訟上の請求に対しては,利息制限法に基づく計算の主張ができるのに,原告の手形訴訟は,利息制限法を無視した原告の計算に基づく元金額,根保証金額全額につき強力な取立手段を行使するものであり,手形訴訟制度の濫用以外の何ものでもない。 エ原告の貸付は,証書貸付であり,証拠制限を伴う手形訴訟制度を利用する必要は全くないのに,本件各手形は,原告において手形訴訟制度を不当利用(悪用)するためだけに作成されたものであり,これにより原告が手形訴訟制度を利用することは,権利の濫用である。 オ原告の手形訴訟は,債務名義取得を第一義にするものであり,手形判決に対する異議申立てによ だけに作成されたものであり,これにより原告が手形訴訟制度を利用することは,権利の濫用である。 オ原告の手形訴訟は,債務名義取得を第一義にするものであり,手形判決に対する異議申立てにより通常訴訟に移行しても,その間に手形判決の仮執行宣言に基づき強制執行をする例が頻繁に現れており,手形訴訟に敗訴した被告は,強制執行停止の保証金を用意できなければ,事実上争う道が封じられ,応訴を断念せざるを得ないことになるが,このような暴挙が許されてよいはずがない。 4 原告の反論(1) 有限会社Bが原告から貸付を受けるに当たり,被告ら連帯根保証人が限度付連帯根保証契約を締結したところ,本件各手形は,その連帯根保証契約の基本約定に基づき連帯保証を担保するために差し入れられたものである。 (2) 本件各手形とその原因関係である契約と,どちらを先に権利行使するかの選択は,債権者の随意である。そして,手形行為は,独立してその効力を生じ,前提たる行為の無効の影響を受けないのである(手形法7条)。 (3)(二重起訴の禁止について)手形債権と原因債権とは,訴訟物としては別個のものであるから,二重起訴に当たらない。 (4)(支配人について)原告水戸支店の支配人(現在2名)は,当然支店長,営業所所長より上席の地位にあり,自らの責任と判断において水戸支店を基幹店とする茨城県内の5つの支店,営業所の業務について監督権を有し,原告の訴訟行為を本人の有利不利に遂行する実質的な権限を与えられている。支配人においても,会社の業務方針に則って業務を遂行する義務がある以上,必要に応じて社内決済を得る必要がでてくることは当然であり,法人の意思決定に従っていることをもって支配人の適格性について問題とするのは誤りである。 社の業務方針に則って業務を遂行する義務がある以上,必要に応じて社内決済を得る必要がでてくることは当然であり,法人の意思決定に従っていることをもって支配人の適格性について問題とするのは誤りである。 訴訟要件として,支配人が訴訟代理権を有するかどうかの職権調査・探知の内容は,当該支配人が本人によって選任されているかどうか,選任された本人かどうかについてであるから,支配人として選任が確認されれば,支配人の訴訟外・訴訟上の包括的代理権が認められるので,これを超えて調査を要しない。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(乙1の1・2,2,3,4の1・2),弁論の全趣旨,本件記録及び当裁判所に顕著な事実を併せると,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,いわゆる商工ローン業者であり,主に中小・零細事業者に対する貸付を業としており,貸付(貸増しを含む。)に当たっては,その都度,連帯保証人を付けさせており(貸付の都度,別のしかも複数の保証人を付けさせることが多い。),その連帯保証は,各貸付の際の実際の貸付額を大幅に超え(数倍に及ぶことが多い。),過去及び将来の貸付について包括的に一定限度額(根保証限度額)まで保証する(限度付)根保証で,根保証期間を5年間(原則)とするものである。その貸付内容は,利息及び損害金について,利息制限法所定の制限利率を大幅に超える利率で貸付しているもので,原則として,元金5年後に一括返済,約定利息(制限超過利息)の天引及び毎月先払い(各月5日に翌月分支払)で,その支払を1回でも怠ると期限の利益を喪失し,元利金及び損害金を即時弁済しなければならないというものである。 原告は,貸付に当たって,主債務者及び連帯保証人から金銭消費貸借契約書,保証契約書(限度付根保証承諾書),印鑑登録証明書等の交付を 損害金を即時弁済しなければならないというものである。 原告は,貸付に当たって,主債務者及び連帯保証人から金銭消費貸借契約書,保証契約書(限度付根保証承諾書),印鑑登録証明書等の交付を受けるとともに,根保証限度額を額面額とする約束手形を主債務者及び連帯保証人をして共同振出させているところ,その手形は,本件各手形と同じで,「約束手形」の表題の下に,「株式会社D殿」(受取人),「上記金額をあなたまたはあなたの指図人へこの約束手形と引替えにお支払いいたします」,「呈示期間は5年間とする」,「支払期日一覧払い」,「支払地東京都中央区」(原告本店所在地),「支払場所株式会社D」(原告),「指図禁止」と印刷されたいわゆる私製手形(以下,原告の使用する同手形を「私製手形」という。)で,原則として振出日を空欄のまま振出人に署名させている。その際,手形についての説明は,原則としてしないで,他の書類と一括して署名させる方法をとっており,押印は原告担当者において一括してすることが多い。 したがって,振出人(特に連帯保証人)は,手形に署名したこと,手形の振出をしたことを認識していない場合が多い。 また,原告は,連帯保証人に対して,根保証の趣旨について全く又は十分な説明をせずに契約書に署名させ,かつ,その契約書の交付をしていないので,連帯保証人において,根保証契約をする意思がなく,実際の貸付額の限度での通常の連帯保証であると認識している場合が少なくない。 (2) 被告らは,有限会社Bが原告から上記の内容の各貸付(実際の貸付日,貸付額は不明)を受けた際に,本件各手形額面額を根保証限度額とする保証契約書に署名し,かつ,本件各手形の振出人欄に同社及び同社代表者Cとともに署名したものである。その署名時期は,印鑑登録証明書の作成日付 額は不明)を受けた際に,本件各手形額面額を根保証限度額とする保証契約書に署名し,かつ,本件各手形の振出人欄に同社及び同社代表者Cとともに署名したものである。その署名時期は,印鑑登録証明書の作成日付に近接する日であると推認されるところ,第168号事件(本件(1)手形)については,印鑑登録証明書の作成日付と手形に記載された振出日とが一致(平成10年10月30日。同日,150万円の貸付がされている。)しているが,第169号事件(本件(2)手形)については,印鑑登録証明書の作成日付が平成9年11月26日(同月27日,200万円の貸付がされている。)であるのに対し,手形に記載された振出日は平成14年11月27日(平成11年3月以降,新たな貸付はない。)であり,第180号事件(本件(3)手形)については,印鑑登録証明書の作成日付が平成9年9月24日(同月25日,200万円の貸付がされている。)であるのに対し,手形に記載された振出日は平成10年4月28日(同日,200万円の貸付がされている。)である。 本件に係る貸付についても,平成15年5月30日まで継続して約定利息相当金の返済がされているところ,本件各手形の呈示日は,いずれも同年6月6日とされている。 (3) 原告は,上記のとおり主債務者が1回でも約定利息の先払いを怠ると,期限の利益を喪失したものとして,私製手形について,上記利息の支払を怠った日付で,支払呈示を受けたが内金の振込みがないことを理由に支払できない旨の付箋を作成(約定利息の支払期限から1か月以上経過しても支払がされない場合に,同支払期限に日付をさかのぼらせて作成している。したがって,本件各手形は,約定利息の最終支払日である平成15年5月30日から1か月程度経過した同年7月に入ってから,付箋を作成したものと推認さ 合に,同支払期限に日付をさかのぼらせて作成している。したがって,本件各手形は,約定利息の最終支払日である平成15年5月30日から1か月程度経過した同年7月に入ってから,付箋を作成したものと推認される。),貼付し,振出日について,上記日付からさかのぼって5年以内の日(手形を実際に振り出させた日又は印鑑登録証明書作成日と上記呈示日との間のいずれかの日)を白地補充している(第180号事件については,呈示日から5年以上さかのぼった日を振出日として補充しているが,原告において処理を誤ったものと推認される。)。そして,この私製手形に基づいて,本件のように原則として額面額の手形金及び法定利息金の支払を求める手形訴訟を提起し,手形判決を取得すると,差押可能な給料債権等が判明している場合には,相手方が手形判決に対して異議申立てをした場合でも,直ちに(仮執行宣言付)手形判決に基づき強制執行をしていた。 (4) 原告は,上記のとおり利息制限法所定の制限利率を超過した利率による貸付をしているため,主債務者,連帯保証人から,既にした貸付返済について,利息制限法所定の制限利率による元利充当計算(引直し計算)をした結果,過払いとなっているなどとして,過払い金の不当利得返還請求,債務不存在確認請求がされることが多い。この場合において,原告は,貸金業の規制等に関する法律43条1項のみなし弁済の主張をすることが多いが,これが原告の主張どおり認められることは少なく(札幌高裁平成14年2月28日判決・金商1142号23頁,東京高裁平成14年11月28日判決・金商1163号39頁があるが,いずれも最高裁で審理(上告受理)中である。),みなし弁済の適用を否定する裁判例が多く出されており,また,適用否定を前提として和解されている事例が多い(原告は,判決により自己に不利 39頁があるが,いずれも最高裁で審理(上告受理)中である。),みなし弁済の適用を否定する裁判例が多く出されており,また,適用否定を前提として和解されている事例が多い(原告は,判決により自己に不利益な判断がされるおそれがあると予測されると,これを回避するため,訴え・控訴の取下げ,請求の認諾,和解をすることが多い。)。 原告から連帯保証人に対して提起される連帯保証債務履行請求においては,上記みなし弁済の適否のほか,保証(特に根保証)意思の有無が争われ,保証したことについて詐欺取消しや錯誤無効の主張がされることが少なくなく,これが認められた裁判例も少なくない(詐欺取消しを認めた裁判例として,東京地裁平成4年3月6日判決・判タ799号189頁,新潟地裁平成11年11月5日判決・判タ1019号150頁等,錯誤無効を認めた裁判例として,東京地裁平成9年11月25日判決・金商1042号47頁等があるほか,東京高裁平成13年2月20日判決・判時1740号46頁は,原告の根保証の法形式及び手形の利用が公序良俗に反するなどとして,根保証契約を無効としたほか,詐欺取消し及び錯誤無効も認めた。)。また,保証契約が無効とまでされなくても,根保証について,信義則等により責任の範囲の制限を認める裁判例が多い(仙台地裁平成11年7月19日判決・判タ1019号153頁,東京地裁平成11年10月28日判決・金法1591号63頁,東京地裁平成12年1月26日判決・判時1735号92頁,東京地裁平成12年1月27日判決・判時1725号148頁,東京高裁平成13年6月25日判決・金商1150号43頁等)。これらの点については,本件のような私製手形による手形金請求についても同様で,振出意思の有無(振出の真正な成立)等が争われるほか,原因関係として,以上の主張を 25日判決・金商1150号43頁等)。これらの点については,本件のような私製手形による手形金請求についても同様で,振出意思の有無(振出の真正な成立)等が争われるほか,原因関係として,以上の主張をされることが多い。 (5) 原告は,従前から,もっぱら手形金請求等の訴訟(仮差押手続を含む。)を担当させるために,本店(東京支店を含む。)及び各支店(全国に約50店ある。)ごとに,その従業員を支配人として登記しており,同支配人をして同訴訟を担当させているが,訴訟数に応じて同一支店に複数の支配人を選任することが多く(多いとき,多いところでは10人を超える。),かつ,その入れ替わりが激しく,支配人としての在任期間も短い者が多い。このような状況から,原告の登記支配人について,商法38条1項所定の権限を有する支配人でないとして,訴訟代理人としての適格性に疑問が持たれており,弁護士会等から再三にわたり支配人制度の濫用,弁護士法違反であるなどとして非難,警告されており,現に訴訟代理人としての適格性が争われるなどして,これが否定された裁判例もある(前橋地裁平成7年1月25日判決・判タ883号278頁,千葉地裁平成14年3月13日判決・判タ1088号286頁等)。 支配人が提起又は追行する訴訟については,相手方代理人から,当該支配人は商法38条1項所定の権限を有する支配人でないとして訴訟代理人としての適格性が争われることが多く,このような場合には,原告は,直ちに弁護士を訴訟代理人として選任し,既にされた訴訟行為について同訴訟代理人により追認する措置に出て,当該支配人が商法38条1項所定の権限を有する支配人で訴訟代理人としての適格性を有することについて主張・立証しようとせず,この点について裁判所に判断されることを回避しようとしている。 置に出て,当該支配人が商法38条1項所定の権限を有する支配人で訴訟代理人としての適格性を有することについて主張・立証しようとせず,この点について裁判所に判断されることを回避しようとしている。 2 私製手形について(1) 私製手形は,「約束手形」と記載され,「上記金額をあなたまたはあなたの指図人へこの約束手形と引替えにお支払いいたします」と記載されているものの,通常の手形のように,第三者へ転々流通譲渡されることは全く予定されておらず,現に,手形面にも,「指図禁止」の文言が原告により印刷されている。 (2) 約束手形については,「一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束」が記載されていることが手形要件とされている(手形法75条2号)ところ,私製手形の文言上はそのように記載されているが,私製手形の額面額は,根保証限度額であり,仮に,根保証契約がその約定どおり有効であるとしても,根保証限度額は,保証人の保証責任の範囲の上限を画するにすぎず,保証人において,同金額の支払義務が当然にあるものでないことは明らかであり,かつ,無条件に同金額を支払うべきものでない(支払う意思がない)ことも明らかであり,仮に,保証人において,根保証をしたこと及び私製手形の振出をしたことを理解していたとしても,私製手形の記載は,保証人の真意に沿わないものといわざるを得ない。また,主債務者においても,貸付を受けた(私製手形振出)時点において,私製手形記載の額面金額の支払義務が確定しているものでないことは明らかであるから,私製手形の記載は,主債務者の真意にも沿わない。そして,原告においても,これらのことを承知しながら,貸付書類の一つとして徴求しているものである。要するに,原告の貸付においては,本来,上記手形要件に合致する支払約束をした手形を振り出させること い。そして,原告においても,これらのことを承知しながら,貸付書類の一つとして徴求しているものである。要するに,原告の貸付においては,本来,上記手形要件に合致する支払約束をした手形を振り出させることはできないものである。 (3) 私製手形は,一覧払いとされ,呈示期間は5年間とされているが,原則として振出日を空欄のまま振出させており,原告において,後記(4)のとおり呈示の外観作出とともに,振出日について任意の日を白地補充することができるから,いつでも,すなわち,実際には5年の呈示期間を超えても,呈示期間内に呈示したような外観を作出することが可能になっている。 また,一覧払いの手形は,振出日より1年内に支払のための呈示をすることを要するところ,振出人は,この期間を伸長することができるとされており(手形法77条1項2号,34条1項),原告は,これに基づき,呈示期間を根保証期間に合わせて5年間とする私製手形を印刷して使用しているものと認められる。しかしながら,呈示期間を伸長することができるのは振出人であり,私製手形に署名する振出人においては,手形であると認識していない者が多く(特に保証人の場合),まして,呈示期間を伸長する意思を有するとは到底考えられない。 原告としては,主債務者が毎月の約定利息の先払いを怠った場合に,直ちに連帯保証人らに対して支払請求をするために私製手形を利用しているので,その支払期日は一覧払いでなければならず,かつ,その呈示期間は1年では足りないので,上記のとおり根保証期間に合わせて5年間とする私製手形を印刷しているものである。 (4) 私製手形の支払場所は,原告とされているが,同所には,通常の手形のように振出人の支払のための金融口座があるものではなく,振出人が支払場所に金員を預託す 形を印刷しているものである。 (4) 私製手形の支払場所は,原告とされているが,同所には,通常の手形のように振出人の支払のための金融口座があるものではなく,振出人が支払場所に金員を預託することは想定されていない。そもそも,私製手形は,その決済により金員が支払われることを全く予定しておらず,主債務者が毎月の約定利息の先払いを怠った場合に,原告の一存で直ちに支払呈示の外観を作出するために,支払場所を原告としたものにすぎないのであり,付箋の作成日付に形式的にも支払呈示自体が行われているとは認められず,後日になって,日付をさかのぼらせて付箋を作成して私製手形に貼付し,支払呈示の外観を作出しているにすぎない。このような私製手形の支払場所及び支払呈示は,手形法の予定するところでないというほかない。 (5) 手形は金銭支払の手段として利用され,約束手形は一般に信用利用の用具として用いられるものであるが,私製手形は,以上に認定・説示したところから明らかなように,そのような手形としての手段性,用具性が全く認められず,形式的には手形法に合致するように手形要件が記載されているものの,手形としての本来の性質を全く見出せないものといわざるを得ないし,上記のとおり手形法の趣旨を逸脱して作成されているものというべきである。 3 それにもかかわらず,原告が主債務者及び連帯保証人をして私製手形を振出させているのは,手形訴訟により,同人らの抗弁を封じ,かつ,簡易・迅速に債務名義を取得して,同人らに対して強制執行手続をし,又は,同手続をすることを示して圧力をかけて金銭の取立てをすること(同人らをして原告に有利な和解をさせることなどを含む。)を目的としているものと認めざるを得ない。 手形訴訟制度が,証拠制限をし,簡易・迅速に債務名義を取得させること て金銭の取立てをすること(同人らをして原告に有利な和解をさせることなどを含む。)を目的としているものと認めざるを得ない。 手形訴訟制度が,証拠制限をし,簡易・迅速に債務名義を取得させることとしているのは,手形の信用を高め流通を促進するために,その簡易・迅速な金銭化が強く要請されるからであるところ,私製手形が手形の信用と流通とは無縁のものであることは,以上の認定・説示から明らかである。 以上に認定・説示したところを併せ考慮すると,原告が使用する私製手形は,手形訴訟を利用するために手形制度を濫用(悪用)しているものというべきで,このような私製手形により原告の提起する手形訴訟は,手形訴訟制度を濫用(悪用)したものというべきである。 したがって,本件各手形により提起した本件各手形訴訟は,手形制度及び手形訴訟制度を濫用(悪用)したものとして,不適法なものというべきである。 4 ところで,本件各訴えは,頭書の原告水戸支店支配人により提起されているところ,原告の支配人については,前記1(5)のとおりの問題がある。原告は,頭書支配人(平成14年6月19日登記)について当然支店長等より上席の地位にあると主張するものの,この点についての立証をせず,かつ,この点についての裁判長の命令に対して,何らの主張・立証をしない。 したがって,本件各訴えを提起した頭書支配人についても,商法38条1項所定の営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する支配人に当たると認めることはできず,本件各訴えは,権限のない者が提起したものとして,この点でも不適法であるといわざるを得ない。 原告が従前大量の手形訴訟を提起してきたのは,このように権限のない従業員を支配人として登記することによって初めて可能であ 者が提起したものとして,この点でも不適法であるといわざるを得ない。 原告が従前大量の手形訴訟を提起してきたのは,このように権限のない従業員を支配人として登記することによって初めて可能であったのであり,原告のこのような支配人の利用は,支配人制度の濫用(悪用)といわざるを得ない(この場合において,後に正当な権限を有する訴訟代理人が選任されたとしても,原告が支配人制度を濫用していることについて悪意であると認められるから,違法性が重大なものとして,同訴訟代理人(又は代表者本人)による権限のない支配人のした訴訟行為の追認(による瑕疵の治癒)は,原則として認めるべきではないと解する。)。 5 よって,本件各訴えはいずれも不適法であるから,これらを却下することとし,主文のとおり判決する。 6 なお,本件口頭弁論終結後の平成15年11月4日に至り,本件各訴訟について,原告代表者代表取締役Gを委任者として,弁護士Hを訴訟代理人と定めて委任(訴えの取下等の特別授権事項を含む。)する旨の全文印刷による訴訟委任状が提出され,これとともに,同訴訟代理人名により本件各訴えを全部取り下げる旨の取下書が提出されたが,訴訟委任状の原告代表者名下の押印は,「株式会社D 支配人印」と刻印された印章によるものであり(真正な同代表者印は,「株式会社DG」と刻印されている。),訴訟委任状は,原告代表者が作成したものとは認められないから,原告代表者作成の訴訟委任状としての効力を認めることができず,他に上記訴訟代理人の権限を証明する書面はない(民事訴訟規則23条1項)。したがって,同訴訟代理人の権限を認めることはできないから,同訴訟代理人名による訴えの取下げの効力を認めることはできない(仮に,訴えの取下げが有効であれば,被告らは本案前の答弁をしているので,その たがって,同訴訟代理人の権限を認めることはできないから,同訴訟代理人名による訴えの取下げの効力を認めることはできない(仮に,訴えの取下げが有効であれば,被告らは本案前の答弁をしているので,その同意を要せず,訴えの取下げの効力を生じるから,判決で訴訟終了宣言をするのが相当であるが,上記のとおりであるので,同宣言をせず,主文のとおり判決する。なお,同訴訟代理人は,その後の同月11日に同月7日付けで辞任した旨の辞任届を提出した。)。 また,最後に付言するに,原告は,平成14年11月に,当裁判所からの求めで,私製手形による手形訴訟について打合せをし,当裁判所から,原告の私製手形による手形訴訟は手形制度,手形訴訟制度,支配人制度を濫用するもので不適法であると考えられるので,同訴訟を控えるように指摘され,当裁判所に対し,今後私製手形による手形訴訟は提起しない(訴訟提起する場合には,本来の貸金請求,保証債務履行請求による。)旨の回答をし,その後は当裁判所に私製手形による手形訴訟を提起していないところ,平成15年5月ころ以降,当裁判所を除く全国各地の裁判所に私製手形による手形訴訟を提起しているのは,極めて遺憾である。 東京地方裁判所民事第7部裁判長裁判官杉山正己裁判官田村政巳裁判官井筒径子
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