平成12(ワ)136 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年4月23日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7217.txt

判決文本文20,948 文字)

判決平成14年4月23日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第136号損害賠償請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,連帯して,原告に対して,金1353万円及びこれに対する平成12年2月22日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,原告が,被告労働福祉事業団(以下「被告事業団」という。)との間で診療契約を締結し,被告事業団が運営する神戸労災病院(以下「被告病院」という。)に入院し,被告病院の被告A医師(以下「被告A」という。)らによる冠状動脈バイパス術を受けたところ,被告Aにその診療に関連して義務違反があったため,損害を蒙ったと主張して,被告Aに対しては不法行為に基づき,被告事業団に対しては,診療契約の債務不履行ないしは民法715条に基づき損害賠償を請求した事案である。 第3 前提事実(証拠に基づく事実は証拠摘示する。) 1 当事者(1) 原告は,昭和2年11月8日生の現在無職の男性であり,生活保護により生活している。 (2) 被告事業団は,被告病院を始め,全国39個所に存在する労災病院の運営を行っている,労働省外郭団体である特殊法人である。 (3) 被告Aは,平成8年7月8日当時,被告事業団が運営する被告病院に勤務する勤務医として稼働しており,被告事業団に雇用されている者である。 2 原告は,平成4年3月に昭生病院で経皮的冠状動脈形成術(以下「PTCA」という。)を受け,その後引き続き3回PTCAを受けたが,冠動脈造 して稼働しており,被告事業団に雇用されている者である。 2 原告は,平成4年3月に昭生病院で経皮的冠状動脈形成術(以下「PTCA」という。)を受け,その後引き続き3回PTCAを受けたが,冠動脈造影検査で多枝病変が認められたため,冠状動脈バイパス術を勧められ,被告病院に紹介された(甲1,38の3頁,甲2,10頁,11の1頁,乙7,10頁)。 3 原告は,平成8年7月8日,被告病院に入院し,同月18日,被告Aらによる冠状動脈バイパス術(以下「本件手術」という。)を受けた。 その際,胸部正中皮膚切開-胸骨縦切開法が採用された。胸骨縦切開は電気のこぎりを用いて鋭的に胸骨を離断する方法で施行された。開心術後,離断した胸骨を固定するため,ステンレススティール鋼線による7対の単一結節縫合法が取られた(手術法の詳細については,乙4,5)。 本件手術によって,冠状動脈のバイパスを造設するという所期の目的は達せられた。 4 原告は,平成8年7月26日,胸部CT検査を受け,同月20日,同月22日胸部X線検査(以下,いずれの検査も胸部を略す。)を受けた。 5 原告は,平成8年8月12日,被告病院を退院した。 6 原告は,同月26日,同年10月7日,9日,14日,同年11月11日,平成9年1月20日,同年4月21日,同年6月9日,10日,16日,被告病院に通院した(甲2,3,乙6,7,19ないし22,乙25の1ないし5,乙26の1ないし4)。 7 原告は,同年10月7日の通院時に被告Aの診察を受けた。その際,「胸の骨がグリグリする。」と訴え,診察の結果,胸骨に動揺が認められた。 同月9日付けのCT検査用紙には,「前回CT(’96/7/26)と比較して,開胸術後の胸骨縫合部は離開し,間に軟部組織の濃度の構造物が認められま と訴え,診察の結果,胸骨に動揺が認められた。 同月9日付けのCT検査用紙には,「前回CT(’96/7/26)と比較して,開胸術後の胸骨縫合部は離開し,間に軟部組織の濃度の構造物が認められます。・・・縫合部の金属輪も各々に偏位・歪みを生じています。」と記載されている(甲2,5頁,甲3,4頁,乙6,4頁,乙7,5頁)。 被告Aは,その頃,原告に対し,胸骨の自然癒合を促すための胸部を固定するバストバンドを渡し,その装着を指示した(装着の指示の日,具体的内容については争いがある。)。 8 平成9年1月20日付X線検査において,1番上部の鋼線は切断しており,他に鋼線が1本外れていた。 9 同年6月9日,被告Aは,原告の外来カルテに「胸骨の離断が気になる。・・・動揺高度 CT後OPか」の記載をした(甲2,3頁)。平成9年6月10日,CT検査の結果,原告には,胸骨の完全離開が認められた(甲2,4頁,甲3,3頁)。原告は,同月16日外来診療を受けたが,その頃,被告Aから,胸骨離開の事実とそれに対し胸骨再固定術という治療法があることを告げられた(同月15日,被告Aが,原告に電話をしたか,同月16日,被告Aが原告に告げた具体的内容については争いがある。)。 10 原告は,平成9年6月16日の後は,被告病院に通院していない。原告は,平成10年8月,大阪府立総合医療センターで,胸骨再固定術(以下「本件再固定術」という。)を受けた。 第4 争点及び当事者の主張 1 閉胸操作上の過誤(原告の主張)(1) 被告Aの閉胸操作には,過誤があった。 (2) そのことは,ア本件手術直後である平成8年7月20日,22日等のX線検査で鋼線のかけ方が杜撰で不揃いであることが明瞭に看取されること,イ 過誤があった。 (2) そのことは,ア本件手術直後である平成8年7月20日,22日等のX線検査で鋼線のかけ方が杜撰で不揃いであることが明瞭に看取されること,イ本件手術直後である同月26日のCT検査(乙24の1,2)で胸骨切開部の離開が看取できること,ウ原告は,入院中から仰臥位をとると胸が左右に開くような異常な感覚を覚える,動くと胸部に痛みがあり,左横には向きにくいなどの症状が発現し,かつ,その旨訴えていたこと(甲1,58の1頁,59の2頁参照),エ(ア) 看護記録に,「開胸手術操作による胸骨,肋骨損傷と思われる」,(イ) 看護記録の問題リスト#8に「胸骨切開後の不適切なワイヤー固定」が原因であるとの記載が見られること(甲1,34の2頁),オ同年10月9日のCT検査の結果(前提事実7),カ平成9年1月20日のX線検査の結果(前提事実8)と同年4月のX線検査の結果も同様であったこと(乙21),キ同年6月10日のCT検査の結果(前提事実9),ク一般的に,心臓手術において,退院後胸骨の離開をきたし,胸骨再固定術が行われた症例の割合は低いこと(鑑定の結果では0.07%),から明らかである。 (被告らの主張)(1) (原告の主張)(1)は争う。 (2)ア同(2)アのうち,鋼線のかけ方が不揃いであることは認め,杜撰であることは争う。 通常どの症例でも,若干の差はあるが不揃いであり,不揃いだから杜撰とはいえない。 イ同(2)イについては,否認する。 胸骨上部の一部の離開が初めて疑われたのは,平成8年10月9日のCT検 干の差はあるが不揃いであり,不揃いだから杜撰とはいえない。 イ同(2)イについては,否認する。 胸骨上部の一部の離開が初めて疑われたのは,平成8年10月9日のCT検査の時である。 ウ同(2)ウについては,原告が,平成8年7月25日「胸のところが動くと痛い。だから左の横に向きにくい。」と訴えたことを認める。手術直後のことで当然の訴えである。 入院中から「仰臥位をとると胸が左右に開くような異常な感覚を覚える。」と訴えていたことは,否認する。 なお,原告の,同年8月26日の1回目の通院の際の訴えは,「退院してから元気です」というもので,特段の異常を訴えていない。 エ同(2)エについては,看護記録に原告の主張する記載があることは認める。 (ア) 同(2)エ(ア)については,胸骨切開に当然伴う損傷についての記載であり,胸骨の切開部の痛みのことである。 (イ) 同(2)エ(イ)については,a 問題リストの欄は,当該患者を看護する上において留意すべき諸点を担当看護婦が,最初に書き出しておくものである。 b 看護婦Bは,原告入院時に,問題リストの欄に,#1から#10までのチェックリストを書き込んだ。#は創痛の項目であり,その項目について留意すべき事項として,文献(乙2,554頁)をそのまま転記した(乙1)。 c したがって,これは,本件手術に問題があったことを示すものではない。 オ同(2)オ,カの事実関係は認めるが,評価は争う。 カ原告の下記の症状,検査結果の推移に照らすと,本件手術の誤りによって,胸骨が離開したとは認められない(乙5,鑑定の結果)。 オ同(2)オ,カの事実関係は認めるが,評価は争う。 カ原告の下記の症状,検査結果の推移に照らすと,本件手術の誤りによって,胸骨が離開したとは認められない(乙5,鑑定の結果)。 (ア) 平成8年7月20日,22日付X線検査鋼線はしっかり掛けられており適正である。X線検査上,開胸手術操作により胸骨,肋骨損傷などの不適切な処置があったとは認められない。 (イ) 平成8年7月26日付CT検査(乙24の1,2)胸骨の離開は読みとれない。 (ウ) 同日付X線検査(乙15)胸骨は7か所で固定されている。上から4番目の鋼線の掛け方が斜めになっているので不揃いであるが,骨にずれがなく,1本の鋼線が斜めになっていることによって,胸骨が離開することはない。なお,後に切断した鋼線は,1番上である。 (エ) 同年8月5日付X線検査(乙18)同上(オ) 同月26日付X線検査(第1回外来通院時)(乙19)鋼線に異常はなく,胸骨の離開も認められず,この時点までは何の異常もない。 (カ) 同年10月9日付CT検査の頃(外来通院時)(乙25の1ないし5)a 同月7日の外来通院時に,原告が,「胸骨がグリグリする」と訴え,触診で胸骨の動揺を認めた。 b 上記CT検査で,胸骨切開部の上部に軽度の離開が認められた。骨間に軟部組織があって骨癒合が未完成であった。胸骨の離開が疑われたのはこの時が初めてである。 (キ) 平成9年1月20日付X線検査(外来通院時)(乙20)1番上の鋼線が 組織があって骨癒合が未完成であった。胸骨の離開が疑われたのはこの時が初めてである。 (キ) 平成9年1月20日付X線検査(外来通院時)(乙20)1番上の鋼線が切断されており,その下の2番目の鋼線は,骨が裂け,外れている。その他の鋼線に異常はない。 上記の状況は,何か強い力が胸部に働いたことを推測させる。たとえば,喫煙時の咳き込みとか,上体を激しく捻るなどである。1番上の鋼線の切断と2番目の鋼線部分の骨の破損は,手技の誤りによって生じるものではない。 当日,原告は,「随分楽になった。」と説明しており,胸骨の離開によって生活上特に支障があるとの訴えはない(甲2,2頁)。 (ク) 同年6月10日付CT検査(乙26の1ないし4)胸骨全体が完全に離開し,離開部は軟部組織で埋められていた。 胸骨の離開が切断部全体に及び,その動揺も従前より高度であった。 (3)ア文献では,閉胸は,4ないし5本の鋼線で結合するとされている(乙4)が,本件では,7本で接合していること,イ前記のとおり,固定に用いた鋼線は,少なくとも術後8週間は断裂していないことからすると,被告Aの閉胸操作に過誤はなかった(乙5,鑑定の結果)。 2 胸骨接合のための治療懈怠(原告の主張)(1) 胸骨の離開に対し,保存的治療として,バストバンドを装着することも一つの治療方法であるが,保存的治療が効果がない段階では,被告Aには,胸骨再固定術等の指示をする必要がある。 (2)ア 1(原告の主張)(2)アないしエ記載のとおり,原告については,鋼線が,胸骨の縫合に有効に機能せず,その結果,縫合部に離開が生 ,被告Aには,胸骨再固定術等の指示をする必要がある。 (2)ア 1(原告の主張)(2)アないしエ記載のとおり,原告については,鋼線が,胸骨の縫合に有効に機能せず,その結果,縫合部に離開が生じていることが明らかになった。 イ平成8年10月9日のCT検査では離開がさらに大きくなったことが確認された。なお,原告が,被告Aからバストバンドを支給されたのは,同月7日の時点である。バストバンド装着に当たって,被告Aは,原告に装着の目的などを何ら説明しておらず,装着方法について説明,指導したのは,看護婦であった。 したがって,被告Aは,同月9日ないしその次の診察時である同年11月11日に,胸部を触診するなどして,胸骨離開を確認し,バストバンドによる治療の重要性及び継続の必要性の説明をする義務があるのに,それを怠り(なお,被告Aは,原告の触診を一切していない。),原告に対して「必ずひっつく」などと漫然と言い続け,何らの措置及び説明もしていない。 ちなみに,原告は,被告Aの指示どおり,常に,バストバンドの装着をしていた。 ウ(ア) 平成9年1月20日のX線検査では鋼線の切断及び外れがそれぞれ確認され,平成8年10月以降,原告が,バストバンドの装着をしたのに,骨癒合が遷延化していることが判明した(補充鑑定書4頁2行目ないし4行目)。 したがって,被告Aは,この時点で,胸部の触診,CT検査等の適切な治療を行う義務があるのに,それらを怠り,原告に対し,「必ずひっつく」などと漫然と言い続け,何らの治療も行っていない。 更には,被告Aは,この時期,胸骨の状態については頻繁に診察すべき義務があるのに,次回診察時期を3,4か月もの先の4,5月と指定した(甲2, い続け,何らの治療も行っていない。 更には,被告Aは,この時期,胸骨の状態については頻繁に診察すべき義務があるのに,次回診察時期を3,4か月もの先の4,5月と指定した(甲2,乙7各3頁)。 なお,平成9年1月20日の外来診療時に,原告が,被告Aに,「楽になりました」と伝えたのは,心臓の症状であって,胸骨離開による症状についてではない。原告は,この際,胸骨が音がする旨も伝えている(乙7,3頁)。 (イ) 平成9年4月のX線検査(乙21)でも,1番上の鋼線が切断し,3番目の鋼線が外れているので,被告Aは,その頃,胸部の触診,CT検査等の適切な治療を行う義務があるといえるのに,それらを怠った。 エ原告は,平成9年6月9日の外来診療時に,被告Aに,胸骨が接合しないことについて納得の行く説明を求めたところ,被告Aは,胸骨再固定術の説明を一切せず,CT検査をすることを約束したのみであった。 そして,その際のCT検査の結果及びそれによる診断は,前記のとおりであった。 被告Aは,同月15日,原告に対し,電話で,「CTをみた結果,だめやね~,ひっつかんわ」と連絡した。そこで,原告は,同月16日,被告病院で外来診療を受け,被告Aから,「胸の真ん中の骨を切って手術をしたあと,7か所をワイヤでとめたのだが,その内一番上の一本が切れている,また2本目ははずれている。胸の真ん中の骨をくっつけるためには再手術が必要だ。ただ,心臓と肋骨の間隔があいているから,このまま骨をくっつけなくとも,心臓に影響することはないから,辛抱しようと思えばできる。」と説明した。このように,被告Aは,この後に及んでも,保存的治療で終始できると原告に説明したのみで,胸骨再固定術を勧めなか っつけなくとも,心臓に影響することはないから,辛抱しようと思えばできる。」と説明した。このように,被告Aは,この後に及んでも,保存的治療で終始できると原告に説明したのみで,胸骨再固定術を勧めなかった。 オ原告は,それまで,被告Aが「必ずひっつく」と説明したのに,まったく違う説明を聞いたので,被告らに対し,不信感が募り,被告病院への通院を止め,被告病院の紹介先である昭生病院C医師のもとに通院した。 なお,原告の胸骨再固定術が遅れた理由は,それが,病状の悪化に伴い生命の危険があるという疾患の手術ではなく,現状の厳しい疼痛の解決という意味だけの手術であるのに,大きな外科的侵襲を伴うものであるから,患者である原告にとって,非常につらく,判断しかねるものだからである。 このような事情から患者である原告が再手術を躊躇し,そのため時間が経過しても,何ら責められるべきではなく,むしろ,再固定術といういわば「ばかばかしい手術」が必要な状況に追い込んだ被告の本件手術及びその後の治療行為,説明義務違反こそ責められるべきである。 カ原告の診療録(甲2,4頁)の「8月中に来る」,「9月にOPしてほしい」などの記載は,被告において,後日書き加えられた可能性が高い。 (3) このように,被告Aは,保存的治療が効を奏さない段階に至っても,胸骨再固定術を説明し,勧めたことはなく,胸骨再接合のための有効な処置及び指導を行わなかった。 なお,原告は,前記のとおり,入院時から一貫して胸骨離開の症状を訴えていたのに,診療録にはその記載がないところ,鑑定の結果は,その診療録の記載が正しいことを前提として,この点の被告Aの過失を否定するものであるから,採用することができない。 (被告らの主張) ていたのに,診療録にはその記載がないところ,鑑定の結果は,その診療録の記載が正しいことを前提として,この点の被告Aの過失を否定するものであるから,採用することができない。 (被告らの主張)(1) (原告の主張)(1)は,一般論としては認める。 (2)ア同(2)アについては,1(被告らの主張)(2)アないしエ記載のとおり,胸骨離開が最初に疑われたのは,平成8年10月9日のCT検査である。 イ同(2)イについては,平成8年10月9日のCT検査で,初めて胸骨の離開が疑われたので,直ちに,原告に,バストバンドの装着を指示し,胸部を弾性圧迫固定をして,自然治癒を待つこととした。 一般的に,できるだけ手術による身体の侵襲を避けて可能な限り自然治癒を見守るべきであることからすると,当時のこの処置は妥当である。 また,被告Aは,原告に,バストバンドの装着を勧める際,その時の症状とバストバンド装着の目的を十分に説明して,原告にバストバンドを購入させ,看護婦にその装着方法や注意事項を説明させているから,説明に不足はない。 なお,原告は,バストバンドの装着を勧める際,被告Aは,その重要性と継続の必要性及びそれを怠ると胸骨離開になる可能性を説明しなかったと主張するが,そのために,原告にどのような損害が生じたという趣旨か不明である。仮に,原告の主張が,被告Aが,そのような説明をしなかったために,原告がバストバンドの装着を怠り,そのために胸骨の離開が生じたという主張であれば,それは,医師の指示を守らなかった原告自身の責任によるものといえ,医師にその責任を転嫁すべき筋合いではない。 ウ同(2)ウについては,前記のとおり,原告は,鋼線の切断及び外れが明らかになった平成9年 指示を守らなかった原告自身の責任によるものといえ,医師にその責任を転嫁すべき筋合いではない。 ウ同(2)ウについては,前記のとおり,原告は,鋼線の切断及び外れが明らかになった平成9年1月20日の外来時にも,随分楽になったと述べ,胸骨離開による生活上の支障を訴えていないことからすると,なお,被告Aが,バストバンドによる固定を続けて経過を観察する処置を続けたことには特に問題はない。 エ同(2)エについては,平成9年6月9日に,外来診療において原告から胸骨の離断が気になると訴えがあり,動揺が以前に比較して高度になっていたので(甲2,2頁,甲3,3頁),被告Aは,同月10日にCT検査を行い,自然癒合の可能性がなくなり,胸骨再固定術を必要とすると診断し,同月16日の外来診療時に,その検査結果と胸骨再固定術の必要性を原告に説明した。 オ同(2)オについては争わない。 カ同(2)カについては,否認する。 (3) なお,喫煙は,胸骨離開の原因の一つであるが,被告病院看護婦は,原告の入院中,何度か,原告の喫煙を見咎め,指摘,注意し,骨癒合のための生活指導もしていた。 (4) このように,被告Aは,時期に応じた適切な治療を実施していたのであって,被告Aには,胸骨再接合のための治療懈怠はない(乙5,鑑定の結果)。 3 説明義務違反(原告の主張)2(原告の主張)(2)アないしウ記載のとおり,胸骨離開の事実及びそれが拡大している事実が判明していたから,被告Aとしては,平成8年10月7日のバストバンド装着を指示した時に,胸骨離開の可能性並びにバストバンド装着の重要性と継続の必要性を説明すべきであったのに,これを怠り,更に,平成8年10月9日頃には,被告Aは,原告に対し,胸骨離 日のバストバンド装着を指示した時に,胸骨離開の可能性並びにバストバンド装着の重要性と継続の必要性を説明すべきであったのに,これを怠り,更に,平成8年10月9日頃には,被告Aは,原告に対し,胸骨離開の病状,経過並びに今後の措置として経過観察をするか再固定術をするかの選択の説明をすべきであったのに,それらを平成9年6月まで説明せず,「必ずひっつく」と言い続けたものであり,原告に対する医師としての説明義務を怠った。 なお,原告は,前記のとおり,入院時から一貫して胸骨離開の症状を訴えていたのに,診療録にはその記載がない。鑑定の結果は,その診療録の記載が正しいことを前提として,この点の被告Aの過失を否定するものであるから,採用できない。 (被告らの主張)(1) (原告の主張)は,争う。 (2) 2(被告らの主張)(2)記載の症状の経過からすると,被告Aに,胸骨再固定術の説明をすべき義務が生じるのは,平成9年6月10日のCT検査の頃であって,被告Aは,同月16日の外来診療時に,原告にその点を説明しているから,被告Aに説明義務違反はない(乙5,鑑定の結果)。 (3) なお,原告の本件再固定術の実施が遅れたのは,原告がその実施を躊躇したことによるもので,被告Aの説明が遅れたためではない。 4 原告の損害等(原告の主張)(1) 合計 1353万円(2) 原告の症状ア原告は,本件手術後本件再固定術前は,胸骨が接合していないので,仰臥位では胸が左右に開き,胸骨部位に縦に溝状の窪みができる,側臥位では上側の肋骨が前に出る,そのため,横になっている時,起きあがる時に常に苦痛がある状態との症状に悩まされた。 イ原告は,本件再固定術後 に開き,胸骨部位に縦に溝状の窪みができる,側臥位では上側の肋骨が前に出る,そのため,横になっている時,起きあがる時に常に苦痛がある状態との症状に悩まされた。 イ原告は,本件再固定術後に,胸骨が安定したが,それは,胸骨を再接合し得たからではなく,肋骨を相互に鋼線で結び,さらに,その鋼線相互を別の鋼線で固定するという方法で,辛うじて安定を得ているものに過ぎない。 (3) 休業損害 534万円原告は,本件手術前には,甲南タクシー事故係として勤務し,少なくとも,平成6年度分の給与収入は,年収267万円以上であったが,本件手術から,平成10年8月に再手術するまでの2年間,本件手術による後遺障害によって,就業が不可能となった。 (4) 付添看護費 219万円原告は,上記2年間にわたり,上記の症状であったため,原告の妻和代が,常時,原告の介護に当たったところ,その相当損害金は次のとおりである。 3000円/日×365日×2年間=219万円(5) 慰謝料 500万円原告は,被告Aの前記不法行為により,前述のとおり日常生活上の基本的な動作にも苦痛を覚え,また不便を強いられ,その活動は著しく制限された。 また,離開の事実及びそれが拡大している事実を平成9年6月まで知らされなかったことは,原告の精神的苦痛を増大させた。 (6) 弁護士費用 100万円(被告らの主張)(1) (原告の主張)(1),(2)は,否認ないし争う。 (2) (原告の主張)(3)については,原告の本件手術前の症状,年齢からして,就労は困難で 100万円(被告らの主張)(1) (原告の主張)(1),(2)は,否認ないし争う。 (2) (原告の主張)(3)については,原告の本件手術前の症状,年齢からして,就労は困難であり,休業損害は発生しない。 (3) (原告の主張)(4)については,付添看護を要しない。 (4) (原告の主張)(5),(6)は争う。 第5 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実及び証拠(甲5ないし7,原告本人,被告A本人及び後掲各証拠)並びに弁論の全趣旨によると,以下の事実を認めることができる。 (1) 原告は,平成8年7月8日,被告病院に入院し,同月18日,被告Aらによって本件手術を受けた。 その際,胸部正中皮膚切開-胸骨縦切開法が採用された。胸骨縦切開は電気のこぎりを用いて鋭的に胸骨を離断する方法によった。開心術後,離断した胸骨を固定するため,ステンレススティール鋼線による7対の単一結節縫合法が取られた。 本件手術によって,冠状動脈のバイパスを造設するという所期の目的は達せられた。 (2) この方法を用いた胸骨は,4ないし8週,或いは,3か月で骨癒合が完成するとされており,胸骨の癒合が起こらないと決定的に判断できる期間は,3か月から6か月,長くて1年とされている。 このような例での,胸骨離開の頻度は,文献上0.48ないし6.9パーセントと言われている。また,胸骨離開の誘因や危険因子として内胸動脈の剥離に伴う胸骨の虚血,手術操作による胸骨の挫滅,手術時間及び大動脈遮断時間の遷延,感染,肥満,術後長時間に及ぶレスピレーターの使用,術後出血,再手術,体外心マッサージ,術後の低心拍出量症候群,糖尿病,低栄養,ステロイド等免疫性の低下,骨系統疾患や骨粗鬆症,ワイ 遮断時間の遷延,感染,肥満,術後長時間に及ぶレスピレーターの使用,術後出血,再手術,体外心マッサージ,術後の低心拍出量症候群,糖尿病,低栄養,ステロイド等免疫性の低下,骨系統疾患や骨粗鬆症,ワイヤーのたるみや固定手技の問題,止血に用いたワックスなどの異物,慢性閉塞性肺疾患,喫煙等が挙げられる。 胸骨の癒合,或いは,離開の状況を確認するには,問診,視診,触診が重要で,CT検査も有意であり,X線検査は,補助的な役割しかない。 胸骨の癒合が遷延している場合は,手術後,癒合が期待できる時点までは,患者にバストバンドを装着させ,保存的治療を試みるべきであって,それで治療が不能と判断された時点に,胸骨再固定術が選択される。 (乙3,5,鑑定の結果)(3) 原告は,本件手術後,同月19日,20日,22日,24日,26日,29日,8月1日,5日にX線検査をし,同年7月26日にCT検査をした。 (乙11ないし18,乙24の1ないし5)(4) 原告の同月20日,22日のX線検査によると,上から4番目の鋼線がやや傾いていることは認められるが,しっかりと掛けられており,鋼線の切断や外れは見られず,胸骨の離開は窺われない。 (乙5,12,13,鑑定の結果)(なお,原告は,これらのX線検査によって,鋼線が不揃いであって,杜撰であると主張するが,その主張を裏付ける証拠はなく,その際の写真である乙12,13によると,鋼線はほぼ揃っているといえ,乙5,鑑定の結果に照らし,採用することができない。)。 (5) 同月26日のCT検査においても,胸骨の離開は看取ることはできない。 また,同月24日,26日,29日,同年8月1日,5日のX線検査においても鋼線の切断や外れは認められない ない。)。 (5) 同月26日のCT検査においても,胸骨の離開は看取ることはできない。 また,同月24日,26日,29日,同年8月1日,5日のX線検査においても鋼線の切断や外れは認められない。 (甲2,乙7の各5頁,乙14ないし18,乙24の1ないし5,鑑定の結果)(なお,原告は,同年7月26日のCT検査において,胸骨の離開を看取ることができる旨主張する。 しかし,その主張を裏付けるに足りる証拠はなく,乙24の1ないし5を精査しても,胸骨の離開は認め難いこと,当時の被告病院の担当者が作成したCT検査の所見が記載された甲2,乙7の各5頁及び鑑定の結果に照らし,上記主張は採用することができない。)(6) 看護記録1枚目の問題リストの#8の欄に,「手術による組織の損傷,胸骨切開後の不適切なワイヤー固定」などの記載があるが,これは,担当看護婦が,原告が入院した平成8年7月8日頃から,文献などを見ながら,留意すべき項目(チェックリスト)として原告に想定される問題を事前にそのまま転記したものである。 (甲1の2枚目,乙1,2,証人B)(なお,原告は,この記載は,原告に発現した症状を踏まえ,看護婦が,不適切なワイヤー固定があったと判断し,記載したものであると主張する。 しかし,乙1,証人Bの供述は,いずれも具体的なもので,それぞれの内容自体不自然ではなく,甲1の1,2枚目の記載内容と一致し,また,裏付けとなる文献も提出されていること(乙2)からすると,上記供述は,十分信用することができる。 したがって,原告のこの主張も採用することができない。)(7) 原告は,看護婦に対し,同月25日,「胸の所が動くと痛い。だから左横には向きにくいです。」 用することができる。 したがって,原告のこの主張も採用することができない。)(7) 原告は,看護婦に対し,同月25日,「胸の所が動くと痛い。だから左横には向きにくいです。」と,同月27日,「ちょっとした時に右の胸の骨が痛むね。」とそれぞれ訴えたところ,看護婦は,同日,看護記録に,「開胸OP操作による肋骨,胸骨損傷と思われる。」と記載した。 (甲1,58の1頁,59の2頁)(原告は,入院中,被告病院において,仰臥位をとると胸が左右に開くような異常な感覚を覚える旨訴えたと主張し,これに副う甲6,7,原告本人がある。 しかし,当時の原告の訴えが詳細に記載された看護記録(甲1)には,その訴えを窺わせる記載がないこと,その時点で,看護婦が特に原告の上記症状の訴えがあったのにそれを記載しない合理的理由がないことからすると,上記訴えがあったとは認め難く,この点の原告の主張は,これを採用することができない。)(8) 原告は,平成8年7月31日,術後造影検査で,大伏在静脈造影後,心室細動となり(30秒ないし1分),カウンターショックの施行を受け,回復した。 (甲2,乙7各13頁)(9) 原告は,平成8年8月12日,被告病院を退院した。 (10) 前記のとおり(前提事実6),原告は,同月26日,同年10月7日,同月9日,同月14日,同年11月11日,平成9年1月20日,同年4月21日,同月6月9日,同月10日,同月16日,被告病院に通院した。 (11) 原告は,同年8月26日の外来診療時に,被告Aに,退院してから元気ですと伝えた。当日の胸部X線検査においても,鋼線の異常は認められず,胸骨の離開を窺わせる所見はない。 (甲2,乙7,19) 26日の外来診療時に,被告Aに,退院してから元気ですと伝えた。当日の胸部X線検査においても,鋼線の異常は認められず,胸骨の離開を窺わせる所見はない。 (甲2,乙7,19)(なお,原告は,この際も,胸骨に関する症状を訴えたと主張し,原告本人は,概ねその主張に副う供述をする。 しかし,その点については,診療録である甲2に記載がないこと,同日のX線検査(乙19)においても,鋼線の異常も認められず,胸骨の離開を窺わせる所見もないことからして,採用できない。)(12) 原告は,同年10月7日の通院時に被告Aの診察を受けた。その際,「胸の骨がグリグリする。」と訴え,診察の結果,胸骨に動揺が認められた。そこで,被告Aは,胸骨動揺と診断し,原告にバストバンドの装着及びCT検査の実施を指示した。看護婦が,原告にその装着方法を教えた。 その際,被告Aは,骨の癒合がよくないから,バストバンドをすると説明したが,常時装着しなければ胸骨が離開する危険があるとの踏み込んだ説明はしていない。 その後,原告は,常時,バストバンドを装着していた。 (甲2,3,乙6,7)(なお,被告Aの供述(本人調書22頁)には,同月7日に,原告にバストバンドの装着を指示した時点で,原告に対し,胸骨が離開してしまう可能性があることに言及した旨の部分もあるが,曖昧であって,逆に,骨の癒着が悪いからこれをしておきなさいと説明したに止まるとの部分もあること(本人調書12頁)も考慮すると,上記供述によっても,被告Aが,原告に対し,常時装着しなければ,胸骨が離開してしまう可能性があることまで言及したとは認められない。 また,被告Aの供述(本人調書24頁)に,その後の原告の症状や検査の経過 ,被告Aが,原告に対し,常時装着しなければ,胸骨が離開してしまう可能性があることまで言及したとは認められない。 また,被告Aの供述(本人調書24頁)に,その後の原告の症状や検査の経過,被告Aのバストバンドの装着の必要性の説明が上記の程度に止まり,バストバンドによる治療の重要性と胸骨の離開の危険があるとの説明はされていなかったこと,バストバンドはその構造からして胸を締め付けるものであるから,その装着の継続は,患者の強い意志の裏付がない場合は困難であることを総合すると,原告は,同日以降,必ずしも常時,継続的にバストバンドを装着していなかったのではないかとの疑念を抱かせる余地もないわけではない。 しかし,原告の妻の陳述書である甲5(「主人は,バストバンドの装着を指示されて以後は入浴時以外ずっとバストバンドをしていました。」「私は主人が1人でバストバンドを装着しいつもバストバンドをしていたことをはっきり覚えています。」)や,原告本人の陳述書である甲6(「私は,・・・バストバンドの装着を指示されてからは指示に従いいつもバストバンドを装着していました。この事実についても妻は良く知っています。」),7及び原告本人が一致して,継続的にバストバンドの装着をしていたとするので,それらを採用する。)(13) 同年10月9日付のCT検査において,その担当者は,「前回CT(’96/7/26)と比較して,開胸術後の胸骨縫合部は離開し,間に軟部組織の濃度の構造物が認められます。同病変部は,前縦隔内胸骨直下の手術後変化の一環かと思われる軟部組織濃度部と連続性を有しているように思える部位も(特に下方レベルにて)存在しています。縫合部の金属輪も各々に偏位・歪みを生じています。 手術後の2次的な肉芽性変化などを疑います」と判断した。 組織濃度部と連続性を有しているように思える部位も(特に下方レベルにて)存在しています。縫合部の金属輪も各々に偏位・歪みを生じています。 手術後の2次的な肉芽性変化などを疑います」と判断した。 同日付のCT検査に関し,鑑定人も,胸骨の離開を疑わせる所見が読みとれるとする。 また,同日付のCT検査に関し,被告が私的鑑定を依頼した,兵庫医科大学胸部外科学教授D医師も,胸骨上部の一部の離開が認められるとする。 (甲2,乙7各5頁,甲3,乙6各4頁,乙5,鑑定の結果)(14) 原告は,同年11月11日,被告病院で,被告Aの外来診療を受けた。 被告Aは,その際,原告の胸部の触診を十分したり,胸骨の癒合や離開に関する症状の詳細を問診をせず,原告に,胸骨の離開の可能性,バストバンド装着の重要性及びこれを継続する必要性等の説明もせず,CT検査とX線検査はされなかった。 (甲2,乙7)(被告Aは,一般的に,診察の際には,胸部の触診をする旨の供述をする。 しかし,それは,一般的な記憶であって,本件についての記憶ではなく,かつ,供述もやや曖昧であること,平成8年10月7日の診察の結果,同月9日のCT検査の結果からすると,原告には,胸骨の離開が認められる,ないし,窺われるのであるから,同年11月11日の胸部の触診の結果や問診の結果は,CT検査の実施をするかを決定する際,或いは,後日の診察の際,経過を検討する際に参考となるものであるから,その点に思いを至し,胸部の触診や問診を実施していたのであれば,その結果を診療録に記載しないことは通常考え難いことなどを併せ考慮すると(原告本人も,それらの実施を否定する供述をしている。),原告の胸部の触診,問診を実施した旨の被告A本人の供述は,たやすく信 ば,その結果を診療録に記載しないことは通常考え難いことなどを併せ考慮すると(原告本人も,それらの実施を否定する供述をしている。),原告の胸部の触診,問診を実施した旨の被告A本人の供述は,たやすく信用できず,これを採用することができない。)(15) 原告は,平成9年1月20日,被告病院の外来診療の際,被告Aに対し,胸骨はまだ音がするが,随分楽になりましたと説明し,胸骨に関する症状が少し治まってきた旨述べた。被告Aは,胸部の触診を十分したり,胸骨の癒合や離開に関する症状の詳細をそれ以上は問診していない。同日付X線検査において,原告の胸骨の1番上部の鋼線は切断し,他に鋼線が1本外れていたが,胸骨の離開が明らかとまでいえず,骨癒合が遷延化している状態であった。被告Aは,その際,胸骨離開と診断し,外来診療録の表紙に記載した。被告Aは,原告に対し,胸骨の離開の可能性,バストバンド装着の必要性等の説明をせず,CT検査もされなかった。被告Aは,原告に対し,次回は,4ないし5月に通院するよう指示した。 (甲2,乙7,20,鑑定の結果)(原告は,同日,楽になりましたと答えたのは,心臓の症状を答えたもので,胸骨の症状に対する回答ではない旨主張し,それに副う甲7,原告本人がある。 しかし,この点についての診療録(甲2,乙7)の記載の体裁の他,甲2,乙7,鑑定の結果,被告A本人によると,医師である被告Aが原告の心臓の症状を胸骨に関する症状と取り違えて診療録に記載することは通常考えられないこと,また,心臓の状態は術後から一貫して問題がなかったと認められるので,心臓の症状について,この段階で記載することは考えにくいことを併せ考慮すると,上記認定のとおり解するのが自然であり,甲7,原告本人は採用できない。)(1 して問題がなかったと認められるので,心臓の症状について,この段階で記載することは考えにくいことを併せ考慮すると,上記認定のとおり解するのが自然であり,甲7,原告本人は採用できない。)(16) 原告は,平成9年4月21日,被告病院の外来診療を受けた。同日のX線検査の結果は,同年1月20日とほぼ同様であった。被告Aが,その際,胸部の触診を十分したり,胸骨の癒合や離開に関する症状の詳細の問診をしたりせず,原告に対し,胸骨の離開の可能性,バストバンド装着の必要性及び継続の必要性等の説明をせず,CT検査もされなかった。 (甲2,乙7,21)(17) 原告は,同年6月9日,被告病院の外来診療の際,被告Aに対し,「胸骨の離断が気になる」旨説明したところ,被告Aは,胸骨の離開が全長で,動揺が高度であると判断し,平成8年10月7日の術後2,3個月の頃と異なり,すでに術後1年近く経過していることも考慮して,胸骨の癒合の可能性はないと判断し,CT検査後OPかと診断し,原告にCT検査を受けるように指示した。 平成9年6月10日付CT検査において,その担当者は,「前回のCT(H8.10.9)同様,胸骨離開をみとめますが,胴部に前回みられた液体様のやや濃度の薄い部分は消失しています。」と判断した。被告Aは,胸骨の完全離開と診断した。 (甲2,3,乙6,7)(18) 被告Aは,平成9年6月15日,原告に電話し,もう胸骨の癒合の可能性はない旨伝えた。原告は,従前,被告Aから,胸骨が癒合しない可能性を十分伝えられていなかったので,従前の説明と一貫しないと考え,翌16日,被告病院で,被告Aの説明を求めた。その際,被告Aは,原告に,胸骨が離開し,癒合の可能性はない,原告の胸骨は,心臓とかなり間隔があり辛抱できる いなかったので,従前の説明と一貫しないと考え,翌16日,被告病院で,被告Aの説明を求めた。その際,被告Aは,原告に,胸骨が離開し,癒合の可能性はない,原告の胸骨は,心臓とかなり間隔があり辛抱できる,辛抱できないようであれば,その際に胸骨再固定術をすべきである旨説明した。原告は,その説明は,従前の説明と異なると感じ,不信感を抱き,その後は,被告病院に通院していない。 (甲2,乙7)(19) 原告は,平成10年8月,大阪府立総合医療センターで,本件再固定術を受け,現在,胸骨の症状は安定している。 2 被告Aの過失の有無(1) 開胸操作上の過誤前記認定のとおり,本件手術直後である平成8年7月20日,22日等のX線検査で,胸骨離開の所見は窺えず,鋼線は,やや不揃いの部分はあるが,しっかりと胸骨にかけられていること,同月26日のCT検査においても,胸骨の離開は窺えないこと,原告が入院中に心臓手術後の切開部に通常伴う痛みと異なる症状を訴えたとは認め難いこと,特に,仰臥位をとった際,胸が左右に開くような異常な感覚を覚える旨を訴えたとは認められないこと,当時の看護記録の「開胸OP操作による胸骨,肋骨損傷と思われる」との記載は,必ずしも,胸骨固定術の手技上の誤りを窺わせるとは言いきれないこと,看護記録の問題リスト#8に「胸骨切開後の不適切なワイヤー固定」との記載がある点は,原告の入院時に想定される問題として記載されたもので,原告の本件手術後に記載されたものではないから,それが,本件手術における手技上の誤りを窺わせるものとは言い難いこと,同年10月9日のCT検査の結果や平成9年1月20日のX線検査の結果は,その当時における胸骨離開ないし胸骨癒合の遷延を窺わせるもので,それが当然に本件手術の手技上の誤りを窺 るものとは言い難いこと,同年10月9日のCT検査の結果や平成9年1月20日のX線検査の結果は,その当時における胸骨離開ないし胸骨癒合の遷延を窺わせるもので,それが当然に本件手術の手技上の誤りを窺わせるものとは言い難いことが認められる。 また,原告が主張するように,一般的に,心臓手術において,退院後胸骨離開をきたし,胸骨再固定術が行われた症例の割合は低いことは認められるものの,その事実から,当然に,本件手術の手技上の誤りを推認することはできない。 他に,本件全証拠によっても,被告Aに,本件手術の際に手技上の誤りがあったこと及びそれによって原告の胸骨が離開したことを認めるに足りる証拠はない。 (かえって,平成8年10月9日以前のCT検査やX線検査の結果では,胸骨の離開が窺われないことからすると,むしろ,原告の胸骨の離開は,本件手術の手技上の誤り以外の原因によるものであることが窺われる。)したがって,原告のこの点の主張は,理由がない。 (2) 胸骨接合のための治療懈怠ア平成8年10月7日以前前記認定のとおり,最初に原告に胸骨離開が疑われたのは,平成8年10月7日の外来診療時であることからすると,それ以前に,原告に胸骨接合のための治療を施す必要はなく,胸骨接合のための治療懈怠は認められない(鑑定の結果同旨)。 イ平成8年10月7日以降,平成9年1月20日以前(ア) 被告Aは,最初に原告に胸骨離開が疑われた平成8年10月7日の外来診療時に,原告に胸骨癒合のためバストバンドを装着することを指示している。 この時期が,本件手術から3か月経過していない時点で,保存的治療で胸骨が癒合する可能性が十分あることから 療時に,原告に胸骨癒合のためバストバンドを装着することを指示している。 この時期が,本件手術から3か月経過していない時点で,保存的治療で胸骨が癒合する可能性が十分あることからすると,被告Aが上記指示をしたこと自体は,胸骨接合のための治療として適切である(乙5,鑑定の結果同旨)。 (イ) しかし,前記のとおり,被告Aは,同日,原告に対し,バストバンドを継続的に装着しなければ,胸骨離開の可能性があるとの踏み込んだ説明をしていないこと,平成8年11月11日の外来診療時に,バストバンドの装着の継続の指示をしていないことが認められるので,その点は問題となる。 バストバンドが,その性質上,装着の継続に困難が伴うものであることに鑑みると,その重要性や継続の必要性の説明が不十分であれば,患者が,バストバンドを継続的に装着しない虞は十分にある。したがって,被告Aが,バストバンドの装着の指示をした際,その説明を十分していないこと,その後,装着の継続を指示していないことは,不適切といわざるをえない。 (なお,医師がバストバンド装着を一応は指示はしたものの,その趣旨等の説明が不十分なことによって,患者が,バストバンドの装着を怠り,胸骨の離開が生じたと認められる事案においては,過失相殺も問題となるが,患者側に過失相殺すべき事情があるからといって,直ちに,医師の落ち度や因果関係が否定されるものではない。)しかし,本件では,前記認定のとおり,原告は,平成8年10月7日以降,バストバンドを継続的に装着していたと認められるから,同日ないし同年11月11日の被告Aの装着の指示内容等が不十分,不適切であった点は,原告の胸骨離開と因果関係のある過失行為とはいえない。 ストバンドを継続的に装着していたと認められるから,同日ないし同年11月11日の被告Aの装着の指示内容等が不十分,不適切であった点は,原告の胸骨離開と因果関係のある過失行為とはいえない。 したがって,この点を理由とする原告の主張は採用できない。 ウ平成9年1月20日以降同年6月9日以前(ア) 平成8年10月7日の外来診察及び同月9日の時点で,胸骨離開が窺われていること,被告Aが同年1月20日時点に胸骨の離開と診断したことに鑑みると,平成9年1月20日,同年4月21日のX線検査で鋼線の切断及び外れがそれぞれ確認された時点において,被告Aは,原告に対し,積極的に胸部の触診,問診をし,その胸部の症状を確認し,必要があると判断すれば,CT検査を施し,バストバンドの装着によって胸骨の癒合が促進されたか,離開する方向に進んだかを積極的に検討すべき(以下「十分な診察等」という。)であるのに,それを怠ったといえる。 しかし,他方,同年1月20日に,原告が,胸骨の症状が軽減した旨を被告Aに伝えていること,同年4月21日の時点は,本件手術からの期間は10か月で,胸骨の再癒合の可能性は完全には否定はできない時期であること,再手術は外科的侵襲を伴うものであって,他方,原告は,胸骨離開によって,苦痛を感じていたが,呼吸器,循環器等の症状があったとは窺われないから,再手術の実施を急ぐ必要性は必ずしも高くなかったこと,現に,原告が,胸骨再固定術を受けたのは,同年6月16日に胸骨が離開していること及びそれに対し胸骨再固定術という治療手段もあることを理解してから1年以上経過した時点であったことに鑑みると,同年1月20日,4月21日時点で,原告に,胸骨再固定術が必要な症状が発現していたと認めることはで 対し胸骨再固定術という治療手段もあることを理解してから1年以上経過した時点であったことに鑑みると,同年1月20日,4月21日時点で,原告に,胸骨再固定術が必要な症状が発現していたと認めることはできない。 したがって,被告Aが,十分な診察等を怠ったことによって,原告が胸骨再固定術が必要な症状であったことを確認することができず,それによって,原告の胸骨再固定術の実施が遅れたとは,認められない。 よって,被告Aが,十分な診察等を怠ったことは,原告主張の損害と相当因果関係のある過失行為とはいえない。 (イ) また,平成8年10月7日及び同月9日の時点で,胸骨上部の離開が疑われていること,被告Aが平成9年1月20日の時点で胸骨の離開と診断したことに鑑みると,同日と同年4月21日のX線検査で鋼線の切断及び外れがそれぞれ確認された時点において,被告Aは,それ以前にも増して,原告に対し,バストバンド装着の重要性とその継続の必要性を説明し,その装着の継続を指示すべきであったにもかかわらず,それらを怠ったといわざるを得ない。 しかし,前記のとおり,この時期も,原告は,バストバンドを継続的に装着していることが認められるのであるから,この点の懈怠も,原告主張の損害と相当因果関係のある過失行為とはいえない。 エ平成9年6月9日,15日,16日被告Aは,前記認定のとおり,この時点で,胸骨の癒合の可能性がなくなったと判断し,平成9年6月16日に,原告に対し,胸骨が離開していること及び症状に耐えることができなければ,胸骨再固定術という治療手段があることを伝えているが,これは適切である。 原告は,この際,被告Aが,原告に,胸骨再固定術を勧めなか 開していること及び症状に耐えることができなければ,胸骨再固定術という治療手段があることを伝えているが,これは適切である。 原告は,この際,被告Aが,原告に,胸骨再固定術を勧めなかったことを義務違反と主張するが,原告の場合,胸骨離開の症状は,苦痛が主なもので,呼吸器,循環器等の症状があったことは窺われないことからすると,胸骨再固定術の実施を原告の症状によって決めるべきとする説明に問題があるとはいえず,原告のこの主張は採用できない。 したがって,この点の,原告の主張は,理由がない。 (3) 説明義務違反ア平成8年10月7日以降のバストバンドに関する説明義務懈怠については,(2)イ,ウ各(イ)記載のとおり,原告主張の損害と因果関係のある過失行為とはいえない。 イ更に,原告が,平成8年10月9日頃には,被告Aは,原告に対し,胸骨離開の病状,経過並びに今後の措置として経過観察をするか再固定術をするかの選択の説明をすべきであったのに,それらを平成9年6月16日頃まで説明しなかったと主張する点については,前記認定のとおり,その前の時点で,医学上胸骨再固定術を必要とする症状の発現があったことを認めるに足りる証拠はないから,この点も,原告主張の損害と因果関係のある過失行為とはいえない。 3 結論したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 よって,原告の本訴請求をいずれも棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法61条に従い,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第6民事部裁判長裁判官松村雅司裁判官水野有子 主文 り判決する。 理由 神戸地方裁判所第6民事部裁判長裁判官松村雅司裁判官水野有子裁判官増田純平

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る