令和7年2月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第13626号診療代等請求事件口頭弁論終結日令和6年12月17日判決原告医療法人社団皓聖会 同訴訟代理人弁護士高橋将志被告 A同訴訟代理人弁護士吉原隆平同田中佑治 主文 1 被告は、原告に対し、258万7000円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、572万0246円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払 え。 3 被告は、原告に対し、16万9746円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を 被告の負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、277万0350円及びこれに対する令和6年8月1 5日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、258万7000円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、634万5569円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告に対し、213万3000円及びこれに対する令和6年8月15日から 対し、634万5569円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告に対し、213万3000円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告に対し、16万9746円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 6 被告は、原告に対し、2250万円及びこれに対する令和6年8月15日か ら支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 7 被告は、原告に対し、365万0567円及びこれに対する令和6年8月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、歯科医院を運営する原告が、同医院で診療業務を行っていた歯科医 師である被告に対し、以下の⑴ないし⑸の金銭及びこれらに対する請求又は不法行為の後の日である令和6年8月15日(訴えの変更申立書⑵の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 ⑴ 被告が、患者から受領した診療代金を原告に引き渡さず若しくは請求せず に放棄し又は業務上横領に相当する行為をしたとして、民法656条において準用する同法646条1項(受取物引渡義務)に基づく受取物又は不当利得に基づく診療代金相当額又は同法656条において準用する同法644条(善管注意義務。以下同じ。)の違反若しくは不法行為に基づく損害賠償金として、1170万2919円(前記第1の1項ないし3項の277万0 350円、258万7000円及び634万5569円の合計額) ⑵ 被告が、権限がないのに原告に無断で患者から受領した診療代金を返金したことによる善管注意義務違反(民法656 350円、258万7000円及び634万5569円の合計額) ⑵ 被告が、権限がないのに原告に無断で患者から受領した診療代金を返金したことによる善管注意義務違反(民法656条において準用する同法644条)又は不法行為に基づく損害賠償金として、213万3000円(前記第1の4項)⑶ 原告が、歯科医院の経費の一部を立替払いしたとして、不当利得に基づく 利得返還金又は債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償金として、16万9746円(前記第1の5項)⑷ 被告が患者のカルテ等を不正に持ち出した不正競争行為又は不法行為に基づく損害賠償金として、2250万円(前記第1の6項)⑸ 上記⑴ないし⑷に係る不法行為に基づく弁護士費用に係る損害賠償金と して、365万0567円(前記第1の7項) 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠〔枝番の記載は特に付記する場合を除き省略する。以下同様。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等 ア原告は、(住所は省略)においてBという名称の歯科医院(以下「本件歯科医院」という。)を運営する医療法人社団である。 イ被告は、本件歯科医院に勤務していた歯科医師である。 ウ亡Cは、原告の理事長兼本件歯科医院の院長を務めていた者である。 エ Dは、亡Cの息子であり、本件歯科医院の事務に関与していた者である。 ⑵ 令和4年7月6日付けの合意(以下「旧契約」という。)の成立原告と被告は、令和4年7月6日、雇用契約書を作成した(なお、合意の法的性質については後記第3の1のとおり争いがある。)。その内容は、要旨、次のとおりである。(甲3)ア原告は、被告に対し、本件歯科医院で保険・自由歯科治療の申込みを受 けた患者の 合意の法的性質については後記第3の1のとおり争いがある。)。その内容は、要旨、次のとおりである。(甲3)ア原告は、被告に対し、本件歯科医院で保険・自由歯科治療の申込みを受 けた患者の治療を業務委託し、被告はこれを承諾する。(第1条) イ原告が被告に対して委託する業務の内容は、一般歯科、審美歯科、矯正歯科、インプラント、口腔外科とする。(第3条)ウ原告と被告との間の業務契約の期間は、令和4年7月6日から無期限とする。ただし、原告、被告は、双方が希望すれば期間満了6か月前までに話合いにより申し出て解除できる。また、理事長が逝去した場合には話合 いにより退職か存続かの判断をする。(第4条)エ原告は、被告に対し、保険・自由診療業務委託報酬を支払うものとする。 上記イの業務に対して日給4万円(基本8時間勤務とする。)。ただし、令和4年7月分と8月分の給与は先払いの100万円(歩合は別途)とする。歩合については、自由診療金額(消費税別)のみ発生する。令和4年 8月末までは歩合を40%とする。(第5条)⑶ 亡Cの死亡亡Cは、令和4年8月28日、急逝した。これに伴い、本件歯科医院は、同日から同年10月20日まで休診した。(弁論の全趣旨)⑷ 令和4年10月5日付け合意(以下「旧覚書」という。)の成立 原告と被告は、令和4年10月5日、覚書を作成した。その内容は、要旨、次のとおりである。(甲4)ア被告の1か月分の給与を次のとおりとする。 月間売上 450万円以下売上げの40%450万円超~700万円以下売上げの45% 700万円超~1000万円以下売上げの50%1000万円超~1500万円以下売上げの55%1500万円超~2 40%450万円超~700万円以下売上げの45% 700万円超~1000万円以下売上げの50%1000万円超~1500万円以下売上げの55%1500万円超~2000万円以下売上げの60%2000万円超売上げの65%ただし、売上げは自由診療分と保険診療分の合計額で、消費税抜きの金 額とする。前月分を翌月25日払いとする。クレジットカード決済の場合、 クレジットカード利用日を売上日とする。売上げは相互に詳細を把握できるようにする。 イ被告への手当として、毎月、住宅手当14万円と通勤手当2万円を支払う。 ウ被告の身分は正社員(期限の定めのない社員)であるが、3か月ごとに 給与・手当等に関し、協議を行い、契約内容を見直すこととする。 エ原告は、被告に対して、令和4年8月分の自由診療の歩合(I氏の報酬の5割)の半額を同年10月14日限り、残額を同月21日限り支払う。 ⑸ 本件歯科医院の再開被告は、令和4年10月20日、みなと保健所長に対し、本件歯科医院と 同一の所在地で、医院の名称を「E」、開設者及び管理者を被告として、医療法8条に基づく診療所開設届を提出するとともに、健康保険法65条に基づく保険医療機関の指定に関する申請を行った(乙3)。 そして、被告は、令和4年10月21日から、本件歯科医院において営業を再開した。 ⑹ 令和4年12月30日付けの合意(以下「新覚書」という。)の成立原告と被告は、令和4年12月30日、被告訴訟代理人立会いの下、覚書を締結した。その内容は、要旨、次のとおりである。(甲5)ア令和5年1月1日以降、被告が本件歯科医院を経営し、原告は経営に関して意見等をしない。 イ賃借物件の賃借 人立会いの下、覚書を締結した。その内容は、要旨、次のとおりである。(甲5)ア令和5年1月1日以降、被告が本件歯科医院を経営し、原告は経営に関して意見等をしない。 イ賃借物件の賃借人は原告のままとし、被告は、原告に対して、賃料分及び本件歯科医院の引継ぎに関する費用として、令和5年1月分及び同年2月分として合計130万円を支払う。 ウ原告が雇用している歯科衛生士2名の雇用は被告が引き継ぐものとする(原告と歯科衛生士との雇用契約は解消する。)。 エ人件費、技工代金、材料費、薬品代、通信費、消耗品代、工事費、修理 費、宅配便代等は、全て被告の負担とし、原告は一切負担しないものとする。令和5年1月1日以降の費用は、原告が同月末までに計算し、翌10日までに支払う(同年2月以降も同様とする。)。 オ本合意は、令和5年2月末日までの暫定的な合意とし、同年3月1日以降については、別途協議する。 ⑺ 原告と被告との契約の終了に至る経緯ア原告は、令和5年2月2日頃、被告に対し、本件歯科医院での診療業務の継続を希望するのであれば被告への事業譲渡が前提となるとして契約条件を提示したが、被告の希望とは折り合わなかった(甲6、弁論の全趣旨)。 そして、原告は、令和5年2月10日、被告に対し、上記のような経過 や過去の診療代金の精算について誠実な対応がないことを踏まえると、本件歯科医院における診療業務の委託を継続することはできないとして、同月末日をもって契約関係を終了することを求めた。また、原告は、同月14日、被告に対し、精算未了の診療代金の支払を求めたが、被告からは明確な応答がなかった。(甲6、7、弁論の全趣旨)。 イ被告は、令和5年3月1日、原告に対し、同年2月28日をもって原告と 4日、被告に対し、精算未了の診療代金の支払を求めたが、被告からは明確な応答がなかった。(甲6、7、弁論の全趣旨)。 イ被告は、令和5年3月1日、原告に対し、同年2月28日をもって原告との契約を終了する意向であり、同日をもって本件歯科医院を退去した旨連絡した(甲8、弁論の全趣旨)。 上記の連絡を受けて、Dは、本件歯科医院の状況を確認したところ、患者のカルテ、自由診療代金を記録したノート(以下「自費ノート」という。) などの存在を確認することができなかった。また、原告は、被告に対し、カルテ等の資料の返還や立替費用を請求したが、被告はこれに応じなかった。(甲8、9、弁論の全趣旨)⑻ 診療代金の受領権限及びその管理方法各合意期間中の診療代金の受領権限とその実際の管理方法は、次のとおり であり、当事者間に争いはない(第7回弁論準備手続調書)。 ア旧契約期間中(令和4年7月6日から同年10月4日まで)の診療代金は、原告に受領権限があり、原告名義の口座で管理をしていた。 イ旧覚書期間中(令和4年10月5日から同年12月31日まで)の診療代金は、原告に受領権限があり、被告名義の口座が開設されるまでは現金、開設後は被告名義の口座で管理をしていた。 ウ新覚書期間中(令和5年1月1日から同年2月28日まで)の診療代金は、被告に受領権限があり、被告名義の口座で管理をしていた。 2 争点⑴ 旧契約期間中の精算未了の診療代金(別紙1関係)請求の当否⑵ 旧契約期間中の精算未了の診療代金(別紙2関係)請求の当否 ⑶ 旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否⑷ 旧覚書期間中の被告による返金の違法性の有無⑸ 立替費用の支払義務の有無⑹ カルテ等の持出行為についての損害賠償請求の可 求の当否 ⑶ 旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否⑷ 旧覚書期間中の被告による返金の違法性の有無⑸ 立替費用の支払義務の有無⑹ カルテ等の持出行為についての損害賠償請求の可否⑺ 相殺の抗弁の成否 第3 争点に対する当事者の主張 1 争点⑴(旧契約期間中の精算未了の診療代金〔別紙1関係〕請求の当否)について(原告の主張)⑴ 旧契約の法的性質は準委任契約であり、被告は、原告に対し、患者から受 領した診療代金を引き渡すべき義務がある。 ⑵ 原告は、別紙1記載のとおり、旧契約期間中に別紙1記載①ないし⑤の患者に紐づける形で、診療に必要な補綴物や材料(以下「補綴物等」という。)を仕入先業者から購入したが、これに対応する診療代金の入金を確認することができなかった。そのため、被告は、上記各患者から原告が把握できない ような方法で診療代金を受領したか、意図的に徴収しなかった可能性がある。 ⑶ 上記各患者の上記補綴物等に係る診療代金の額は、本件歯科医院のホームページで公表されている診療料金表(甲12)に基づけば、別紙1記載の「診療代(税抜)」のとおり算定することができる。 ⑷ 以上によれば、旧契約期間中の精算未了の診療代金の額は、別紙1「未収診療代(税込)」の「合計額」欄記載のとおり、277万0350円である。 (被告の主張)否認ないし争う。 被告は、別紙1記載①ないし⑤の患者から診療代金等を受領しているし(乙1の1ないし4)、一部の患者の診療代金を受領することなく放置したこともない。また、原告主張の診療代金の額は一般的相場よりも高い架空のものであ る。なお、旧契約の法的性質は雇用契約である。 2 争点⑵(旧契約期間中の精算未了の診療代金〔別紙2関係〕請求の こともない。また、原告主張の診療代金の額は一般的相場よりも高い架空のものであ る。なお、旧契約の法的性質は雇用契約である。 2 争点⑵(旧契約期間中の精算未了の診療代金〔別紙2関係〕請求の当否)について(原告の主張)⑴ 前記1⑴のとおり、旧契約の法的性質は準委任契約であり、被告は、原告 に対し、民法656条において準用する同法646条1項又は不当利得に基づき、患者から受領した診療代金を引き渡すべき義務がある。また、患者から受領した診療代金を引き渡さないという被告の行為は業務上横領にも当たるから、善管注意義務違反(民法656条において準用する同法644条)又は不法行為も構成する。 ⑵ 原告は、旧契約期間中の自由診療の売上げとして把握していたものについては、被告に対して歩合報酬の支払を行った(甲14、18)。しかしながら、被告が本件訴訟において持参した領収書(甲19)及び患者の陳述書(乙18)によれば、原告が歩合報酬算定の際に把握していなかった診療代金があることが明らかになった。そのため、被告が、旧契約期間中に原告の把握 していない自由診療代を受領した上、それを原告に伝えずに秘匿していたこ とは明らかである。 ⑶ 原告は、旧契約に基づいて、被告に対し、自由診療の売上げ(税抜)の40%を歩合報酬として支払う義務があるところ、上記診療代金の合計額からこれを控除すると、旧契約期間中の精算未了の診療代金の額は、別紙2「原告追加請求」欄の「合計額」記載のとおり、258万7000円である。 (被告の主張)否認ないし争う。 3 争点⑶(旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否)について(原告の主張)⑴ 旧覚書の法的性質は準委任契約であり、被告は、原告に対し、民法656 条 の主張)否認ないし争う。 3 争点⑶(旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否)について(原告の主張)⑴ 旧覚書の法的性質は準委任契約であり、被告は、原告に対し、民法656 条において準用する同法646条1項又は不当利得に基づき、患者から受領した診療代金を引き渡すべき義務がある。また、患者から受領した診療代金を引き渡さないという被告の行為は業務上横領にも当たるから、善管注意義務違反(民法656条において準用する同法644条)又は不法行為も構成する。 ⑵ 被告は、旧覚書期間中、患者から受領した診療代金を原告に支払わず、令和4年12月30日付けで「F」と題するデータ(甲13)をメールで送付するまで、原告に売上げの詳細を報告しなかった。そして、被告が本件訴訟において持参した旧覚書期間中の自由診療に係る診療代金の領収書によれば、各月の自由診療の診療代金の合計額は、別紙3-1⑴の「消費税抜自由 診療代」欄記載のとおりである。また、「F」によれば、各月の保険診療代金の売上げの合計額は、別紙3-1⑴の「保険診療代」欄記載のとおりである。 ⑶ 原告は、旧覚書に基づいて、被告に対し、保険診療及び自由診療の売上合計額(税抜き)に応じた歩合報酬を支払う義務があるところ、上記診療代金 の合計額からこれを控除すると、旧覚書期間中の精算未了の診療代金の額は、 別紙3-1⑶記載のとおり、634万5569円となる。 ⑷ 被告の主張に対する反論被告は、「E」の医院長かつ開設者として、財務管理権限を有しており、自由診療代として計上された金額のうち、患者に返金した分については売上げから控除すべきであるし、患者から仮受金として受領したものについては 売上げとして計上すべきではない旨主張する。しかしながら、 由診療代として計上された金額のうち、患者に返金した分については売上げから控除すべきであるし、患者から仮受金として受領したものについては 売上げとして計上すべきではない旨主張する。しかしながら、本件歯科医院の経営主体は原告である。そのため、被告は、原告から本件歯科医院の診療業務を受託しているにすぎず、患者に対して診療代を返金したり、患者から受領した金銭の経理上の処理を決めたりする権限はない。また、患者から受領した金銭が仮受金であるという主張は不合理である。 (被告の主張)⑴ 否認ないし争う。 一般に診療所の医院長は、医療提供に関する責任のみならず、経営や財務管理に関する責任を負い、医院の運営全体を統括する立場にある。そして、被告は、「E」の医院長であるから、財務管理に関する権限を有しており、 個別の患者への返金に関する権限もこれに含まれる。したがって、返金分については売上げから控除すべきであるし、仮受金については売上げに計上すべきではない。 ⑵ 返金について被告は、旧覚書期間中の自由診療代金のうち、次のとおり、一部の患者に 対して返金をした(甲13)。したがって、別紙3-1⑴の「消費税抜自由診療代」欄記載の金額からこれらの返金額を控除するべきである。 ア令和4年11月9日 100万円(Gに対するもの)イ令和4年12月17日 113万3000円(Hに対するもの)⑶ 仮受金について 令和4年12月17日にHから受領した201万8500円は預かり金で あるから(乙18)、売上げとして計上すべきではない。 また、G、I、J及びKからの各入金についても、仮受金として預かったにすぎないから、売上げとして計上すべきではない。 4 争点⑷(旧覚書期間中の被告による返金の違法 上げとして計上すべきではない。 また、G、I、J及びKからの各入金についても、仮受金として預かったにすぎないから、売上げとして計上すべきではない。 4 争点⑷(旧覚書期間中の被告による返金の違法性の有無)について(原告の主張) ⑴ 被告は、次のとおり、患者に対して、合計213万3000円を原告に無断で返金した。 ア令和4年11月9日 100万円(Gに対するもの)イ令和4年12月17日 113万3000円(Hに対するもの)⑵ 前記3⑷のとおり、被告には、診療代金を患者に返金する権限はなく、上 記⑴の返金は違法であり、善管注意義務違反(民法656条において準用する同法644条)又は業務上横領に当たるものとして不法行為を構成する。 仮に、患者から何らかの要望があって返金せざるを得なかったとしても、被告が、患者に対する適切な対応を怠ったことに起因するものであるから、原告がこれを負担すべき理由はない。 (被告の主張)否認ないし争う。 前記3⑴のとおり、被告は、「E」の医院長として、個別の患者に対する返金も含む財務管理に関する権限を有している。被告は、患者から治療が遅れたために返金してほしいという要望を受け、上記権限に基づいて返金したもので あり、何ら違法性はない。なお、被告は、原告の理事長と面識がなく、Dは、歯科医師でも原告の役員でもないため、返金について相談、報告ができる状況にはなかった。 5 争点⑸(立替費用の支払義務の有無)について(原告の主張) 被告は、新覚書に基づいて、新覚書期間中における本件歯科医院に係る諸費 用の一切を負担すべき義務を負っており、原告は、別紙4記載の費用を立替払した。したがって、被告は、上記立替費用の合計額16万9746円の支払義務が における本件歯科医院に係る諸費 用の一切を負担すべき義務を負っており、原告は、別紙4記載の費用を立替払した。したがって、被告は、上記立替費用の合計額16万9746円の支払義務がある。 (被告の主張)否認ないし争う。 看板代及びごみ処理代は、原告と所有者間の賃貸借契約の賃料に付随するものであり、被告に支払義務はない。 6 争点⑹(カルテ等の持出行為についての損害賠償請求の可否)について(原告の主張)⑴ 被告は、令和5年2月28日に本件歯科医院を退去するに当たり、以下の 資料を持ち出した。 ア本件歯科医院の患者の少なくとも307名分のカルテ等資料イ 5529名分の全患者リスト(管理ソフトウェアのデータ)⑵ 上記⑴の資料等は、本件歯科医院の患者の氏名、性別、生年月日、電話番号及び住所等の個人情報を含んでおり、本件歯科医院にとっては重要な顧客 情報であるから、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当する。そして、被告が、上記⑴の資料等を本件歯科医院での診療行為に利用する以外の目的で、原告に無断で持ち出す行為は、「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に該当する。したがって、被告が上記⑴の資料等を原告に無断で持ち出した行為は、営業秘密不正取得行為(同法2条1項4号)に該当する。 ⑶ 被告の上記行為により、原告は、新たな歯科医師を迎えて本件歯科医院の営業を再開することが極めて難しい状況にあり、その損害は、少なくとも本件歯科医院の休診直前の診療代金収入の6か月分である2250万円(375万円×6か月)を下らない。したがって、被告は、原告に対し、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、2250万円の損害賠償義務を負う。 ⑷ また、被告は、個人情報の保護に関する法律( 5万円×6か月)を下らない。したがって、被告は、原告に対し、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、2250万円の損害賠償義務を負う。 ⑷ また、被告は、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」と いう。)、刑法違反(窃盗罪、業務上横領罪)を根拠とする不法行為に基づき、上記と同様の損害賠償義務を負う。 (被告の主張)⑴ 被告が、カルテの一部(30名程度)を持ち出したことは認めるが、その余のカルテ及び患者リスト(データ)を持ち出したことは否認する。 ⑵ 被告は、Eの開設者かつ管理者であり、管理者として当該医療機関を医療法に適合するように適正に管理する義務を負い、医療の安全等を確保するための措置を講じるべき立場にある。また、被告は、患者との診療契約の主体である。このように、被告は、患者との関係で患者の個人情報を適切に管理すべき義務を負っており、治療継続のためにはカルテを移動させざるを得な い以上、被告の行為が個人情報保護法や刑法に違反するものではないことは明らかである。なお、被告は、保健所、東京都個人情報委員会及び関東信越厚生局東京事務所にも、他所で治療を継続するためであれば持ち出しに問題はない旨を確認している。 したがって、上記⑴のカルテの一部の持出しについて、被告に損害賠償義 務はない。 7 争点⑺(相殺の抗弁の成否)について(被告の主張)被告は、原告に対し、以下の⑴ないし⑷の債権を有しているから、これらの債権を自働債権として、本件の各請求債権を受働債権として対当額で相殺する。 ⑴ Iに対する診療代金返金に関する不当利得返還請求権Iは、令和4年8月24日、本件歯科医院に対し、クレジットカード払で自由診療代金311万3000円を支払った。 そして、 殺する。 ⑴ Iに対する診療代金返金に関する不当利得返還請求権Iは、令和4年8月24日、本件歯科医院に対し、クレジットカード払で自由診療代金311万3000円を支払った。 そして、被告は、令和4年12月、Iから上記自由診療代金の返金請求を受け、令和5年1月上旬、Iに対し、上記311万3000円を現金で返金 した。上記自由診療代金は、原告が返金義務を負うものであるが、被告はこ れを立て替えている。したがって、被告は、原告に対し、不当利得に基づき311万3000円の支払請求権を有している。 ⑵ 備品代立替金相当額の不当利得返還請求権被告は、令和4年12月、ストローマンのインプラント関係の材料を購入したが、上記材料代は、原告が負担すべき費用である。しかしながら、原告 は、上記の費用を負担しなかったため、被告は、令和5年2月1日、上記材料費の請求を受けて、26万3560円を支払った。したがって、被告は、原告に対し、不当利得に基づき26万3560円の支払請求権を有している。 ⑶ 未払労働債権被告は、令和4年7月1日から稼働したが、同月分の給与明細が発行され ていない。同年8月分は、給与明細上の支給額は144万6727円となっているが、実際の支給額は18万2063円であった。同年9月分は、給与明細上の支給額は92万9378円となっているが、実際の支給額は50万円であった。同年10月分の給与明細は発行されていない。 ⑷ 源泉徴収額相当額の不当利得返還請求権 被告は、原告に対し、源泉徴収したと主張する金額について納税の事実を示す資料を提出するように求めているのに、原告はこれを提出しない。そうすると、原告が、容易に提出可能な資料を提出しない以上、納税の事実はないものとして扱うのが相当 と主張する金額について納税の事実を示す資料を提出するように求めているのに、原告はこれを提出しない。そうすると、原告が、容易に提出可能な資料を提出しない以上、納税の事実はないものとして扱うのが相当である。したがって、被告は、原告に対し、原告が主張する源泉徴収額相当額の支払請求権を有している。 (原告の主張)否認ないし争う。以下のとおり、被告の原告に対する自働債権は存在しない。 ⑴ Iに対する返金診療代金に関する不当利得返還請求権について否認ないし争う。Iへの返金は、被告が無断で行ったものであり、原告に対して返金要求があったものではないから、原告は、Iに対する返金義務を 負わない。そもそも被告の責めに帰すべき事由により返金を余儀なくされた のであれば、被告が負担すべきであるし、そうでないとしても、被告は、新覚書期間中に自身の判断と責任で返金した以上、原告の利得と被告の損失の間に因果関係はない。したがって、原告に対する不当利得は成立しない。 ⑵ 備品代金立替金相当額の不当利得返還請求権について否認ないし争う。被告は、本件歯科医院の患者の診療に使用した材料であ るか否かについて、容易に提出できるはずの証拠を提出しない。 ⑶ 未払労働債権について前記1のとおり、原告と被告との契約関係は労働契約ではないが、この点を措くとしても、以下のとおり、原告に未払の報酬はない。 ア原告は、被告に対し、以下のとおり、報酬を支払った(甲15,16、 乙8)。 令和4年 7月 6日 20万円(現金)同月14日 30万円(現金)同月28日 50万円(現金)同年 8月25日 65万7885円 同年 9月27日 18万2063円 同月14日 30万円(現金)同月28日 50万円(現金)同年 8月25日 65万7885円 同年 9月27日 18万2063円同年10月14日 50万円同年11月9日 42万9378円イ原告及び被告は、旧契約において、支度金として、7月、8月分給与100万円(歩合は別途)を先払いする旨合意しており、原告は、これに基 づいて、上記アないしの合計100万円を支払った。 令和4年7月分の報酬は、令和4年8月給与明細一覧(甲16の1)記載のとおりであり、基本給50万円(上記支度金100万円の半額)と歩合給94万6727円の合計144万6727円が課税支給額であり、同額に基づいて算出した所得税28万8842円を控除し、更に支払済みの 基本給50万円を控除した残額である65万7885円を支払った(前記 ア)。 令和4年8月分の報酬は、令和4年9月給与明細一覧(甲16の2)記載のとおりである。Iから受領した311万3000円についての取扱いが決まっていなかったため、これを除いた診療代金24万3320円を元に算出した歩合給を、仮の金額として支払った。原告に、前記アの算定 根拠となる資料が残っていないため詳細は定かではないが、前記アの振込金額は適正に算定されている。その後、Iの自費診療額の取扱いが確定したため、令和4年8月分の報酬額を確定的に算定し(甲16の2)、その残額を前記ア、のとおり、2回に分けて支払った。 令和4年9月分の報酬は、本件歯科医院が休診していたため、対応する 報酬及び給与明細書(令和4年10月分給与明細一覧)は発行していない。 なお、令和4年10月分以降は、被告から売上げの報告がなかっ 4年9月分の報酬は、本件歯科医院が休診していたため、対応する 報酬及び給与明細書(令和4年10月分給与明細一覧)は発行していない。 なお、令和4年10月分以降は、被告から売上げの報告がなかったため、報酬及び手当の支払はしていない。 ⑷ 源泉徴収額相当額の不当利得返還請求権について否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実(前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。)⑴ 本件歯科医院の体制等ア亡Cは、自らを開設者として本件歯科医院を開設し、これを運営するた めの法人として原告を設立した。そして、Dを含む亡Cの家族は、本件歯科医院による売上げを経済的基盤にしていた。(甲25、証人D、被告本人)イ原告は、患者からの診療代金については、現金又はクレジットカードでこれを受領し、原告名義の口座に入金して管理していた。また、売上げに ついては、受付の日報に加え、健康保険診療については診療報酬明細書に、 自由診療については自費ノートに、それぞれ、患者名、診察日、診療代金及び診療代金支払方法を記入して記録し、口座の入金状況と照合して、その詳細を把握していた。(甲25、証人D)⑵ 旧契約締結の経緯及び旧契約期間中の被告の稼働状況等ア原告は、本件歯科医院で稼働していた歯科医師との業務委託契約が終了 したため、新たな歯科医師を募集し、被告との間で、旧契約を締結した(甲25)。 イ原告は、旧契約の締結に当たり、被告からの要望を受け、旧契約の表題を「業務委託契約書」から「雇用契約書」と改めた上、支度金として7月、8月分の月給100万円を先払いすること、歩合報酬割合については通常 20%を40%とし、9月以降は再度話し合うこ 約の表題を「業務委託契約書」から「雇用契約書」と改めた上、支度金として7月、8月分の月給100万円を先払いすること、歩合報酬割合については通常 20%を40%とし、9月以降は再度話し合うことを提案し、これに従って、次のとおり、被告に対して支度金100万円を支払った(甲17、25)。 令和4年7月6日 20万円(甲15の1)令和4年7月14日 30万円(甲15の2) 令和4年7月28日 50万円(甲15の3)ウ被告は、亡Cと共に、本件歯科医院において診療業務に当たっていたが、勤務時間や日数は自由とされ、診療業務の内容についても特段具体的な指示を受けることはなく、自らの裁量で業務に当たっていた(甲17、被告本人)。 エ被告は、令和4年8月25日、7月分の基本給、歩合報酬に対応する給与として、65万7885円を受領した(甲16の1、18の1、乙8)。 ⑶ 亡Cの死亡と本件歯科医院の休診亡Cは、令和4年8月28日、急逝した。そして、Dは、同月29日、被告と面談の上、契約関係や本件歯科医院の今後の運営について協議をしたが、 直ちに結論が出ず、本件歯科医院は当面休診することになった。 なお、原告は、本件歯科医院の休診中も、再開に備えて必要経費(建物賃料、歯科衛生士の給与など)の支払を継続していた。(甲25)⑷ 旧覚書の締結及び旧覚書期間中の本件歯科医院の体制等ア原告と被告は、令和4年10月5日、旧覚書を締結した。その後、原告は、本件歯科医院の業務を再開するに当たり、保険医療機関の指定を受け る必要があったが、本件歯科医院には被告以外に歯科医師がいなかったため、被告の名義で指定を受けることを了承した。また、原告は、健康保険の診療報酬の受領口座については保険医療機 機関の指定を受け る必要があったが、本件歯科医院には被告以外に歯科医師がいなかったため、被告の名義で指定を受けることを了承した。また、原告は、健康保険の診療報酬の受領口座については保険医療機関の指定申請を行った者の名義と一致させる必要があったため、健康保険の診療代金については、被告名義の口座で管理することを了承した。(甲25) そして、被告は、令和4年10月20日、みなと保健所長に対し、医院の名称を本件歯科医院の名称とは異なる「E」と記載し、その所在地を本件歯科医院の所在地と同一の所在地に、開設者及び管理者を被告として、医療法8条に基づく診療所開設届を提出した。また、被告は、「E」の開設者として、健康保険法65条に基づく保険医療機関の指定に関する申請 を行い、指定期日の遡及措置を受けた。(乙3)なお、被告は、原告に対し、保険医療機関の指定を受けるに当たり、上記のような内容の開設届を提出したことについて、何ら報告をしなかった(被告本人)。 イ被告は、本件歯科医院の診療の再開後、保険診療報酬のみならず、自由 診療代金についても自らが受領、管理するようになり、原告に対して、毎月の売上げの詳細を報告しなかった(甲25)。 他方で、原告は、本件歯科医院の建物賃料、機材や材料代、スタッフの給与といった経費を引き続き負担していた(証人D)。 これに対し、Dは、本件歯科医院に赴き、日報や自費ノートの内容を確 認しようとしたが見当たらず、詳細な売上げを把握することができなかっ たため、被告に対する歩合報酬の算定ができず、報酬の支払を留保した。 また、Dは、被告代理人に対し、日報と自費ノートの持出しや診療代金の一方的な管理について非難し、対応の改善を求めたが、その後も被告からの詳細な売上げの報 報酬の算定ができず、報酬の支払を留保した。 また、Dは、被告代理人に対し、日報と自費ノートの持出しや診療代金の一方的な管理について非難し、対応の改善を求めたが、その後も被告からの詳細な売上げの報告はなかった(甲21、25)。 ウ被告は、令和5年12月30日、原告に対し、旧覚書期間中の売上げの 詳細として、自らが作成した「F」(甲13)をメールで送付したが、これには診療報酬明細書、自費ノート、領収書などの根拠となる資料が何ら添付されていなかった(甲13、弁論の全趣旨)。 ⑸ 新覚書の締結及びその後の経緯ア原告及び被告は、被告代理人立会いの下、新覚書を締結した。その後、 被告は、本件歯科医院の経営を自ら行っていたが、令和5年2月28日、本件歯科医院から退去し、同年3月1日、原告との契約関係を終了する意向である旨を連絡した。 イ被告は、令和5年5月1日、本件歯科医院の近くで、新規に歯科医院を開業した(甲2)。 ウ被告は、本件訴訟において、原告からの求めに応じ、患者の領収書や陳述書を提出したところ、原告が把握していない売上げに関するものが含まれていた(甲19、20、乙18、弁論の全趣旨)。 2 争点⑴(旧契約期間中の精算未了の診療代金〔別紙1関係〕請求の当否)について 原告は、被告に対し、別紙1記載①ないし⑤の各患者について原告が購入した補綴物等に対応する診療代金を受領したにもかかわらず、原告に引き渡さなかった又は患者から診療代金を意図的に徴収しなかったと主張する。しかしながら、本件歯科医院が亡Cの急逝に伴い一定期間休診していたという特別の事情を考慮すれば、上記診療行為が行われなかった可能性を否定することはでき ず、本件全証拠を精査しても、被告が、上記各患者に対し、上記補綴物等に対 伴い一定期間休診していたという特別の事情を考慮すれば、上記診療行為が行われなかった可能性を否定することはでき ず、本件全証拠を精査しても、被告が、上記各患者に対し、上記補綴物等に対 応する診療行為を行ったと認めるに足りる証拠はない。 そうすると、補綴物等に関する原告主張に係る事実関係を十分に踏まえても、当該診療行為を裏付けるカルテその他の客観的証拠がない以上、原告の主張は憶測の域を出るものではなく、上記診療行為が現実にあったことを認めることはできない。 これに対し、原告は、被告が上記各患者に関する入金状況について回答するなど診療行為を自認していた旨主張し、これを裏付ける証拠として、Dが作成したメモ(甲11の1、2)や被告からのメール(甲22の2)を提出するとともに、証人Dもこれに沿う証言をしている。しかしながら、上記メモ(甲11の1、2)は、Dが補綴物等に関する請求明細書(甲10)と入金状況を照 合して疑問がある点をパソコンで箇条書きしたものに、Dが走り書きで数字などのメモを残したものにすぎず、その記載内容を踏まえても、被告が診療行為を自認するものでないことは明らかである。また、被告が送信した上記のメール(甲22の2)についても、かえって、被告において上記各患者の予約があるものの来院がない事実を記載するものであるから、被告が診療行為を自認す るものでないことは明らかである。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 3 争点⑵(旧契約期間中の精算未了の診療代金〔別紙2関係〕請求の当否)について⑴ 前記前提事実及び前記認定事実によれば、旧契約の内容は、原告が被告に 対し患者の治療を業務委託し、被告が本件歯科医院の診療業務を行うこととされており、勤務時間や日数 求の当否)について⑴ 前記前提事実及び前記認定事実によれば、旧契約の内容は、原告が被告に 対し患者の治療を業務委託し、被告が本件歯科医院の診療業務を行うこととされており、勤務時間や日数について実質的に格別の制約はなく、業務についても原告からの指揮監督なく、いずれも被告自身の裁量で行うものとされていたことが認められる。 そうすると、旧契約の法的性質は、「雇用契約書」という表題(甲3)に かかわらず、診療業務の委託を内容とする準委任契約であると解するのが相 当である。 したがって、被告は、民法656条において準用する同法646条1項に基づき、診療業務の過程で患者から診療代金を受領した場合には、これを原告に引き渡すべき義務を負っていたものと認めるのが相当である。 ⑵ これを本件についてみると、前記認定事実によれば、原告は、旧契約期間 中、日報、診療報酬明細書、自費ノート及び口座の入金状況から売上げを把握した上、被告の歩合報酬を算定して、その支払を行っていたところ、被告が本件訴訟で提出した患者の領収書及びHの陳述書(甲19、乙18)によれば、原告において把握していなかった診療代金に関するものが含まれていたことが認められる。 そうすると、被告は、当該領収書に係る診療代金及びHからの診療代金を受領したものの、これを原告に引き渡さなかったと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、被告は、原告に対し、民法656条において準用する同法646条1項に基づき、上記診療代金の引渡義務を負うものと認められる。 そして、被告が精算すべき診療代金の具体的な額について検討すると、証拠(甲14、18、19、乙18)及び弁論の全趣旨によれば、被告が保有していた領収書及びHの陳述書記 うものと認められる。 そして、被告が精算すべき診療代金の具体的な額について検討すると、証拠(甲14、18、19、乙18)及び弁論の全趣旨によれば、被告が保有していた領収書及びHの陳述書記載の診療代金の合計額は、別紙2記載「金額」欄末尾の「合計額」記載のとおり561万9160円であることが認められる。このうち、原告が診療代金を把握し既に歩合報酬を支払済みのもの (甲14、18)及び原告が診療代金を把握せず支払を留保していた被告の歩合報酬額を除いた残額は、別紙2記載「原告追加請求」欄末尾の「合計額」記載のとおり258万7000円であると認められる。 そうすると、被告が支払うべき精算未了の診療代金の額は、258万7000円であると認めるのが相当である。 なお、原告は、上記の金銭請求の法的根拠として不法行為も主張し、これ に基づき弁護士費用相当額(前記第1の7項)の支払も請求するものの、原告は、業務上横領を構成する被告の行為を具体的に特定して当該要件を主張立証するものではなく、原告の主張は、採用の限りではない。 ⑶ これに対し、被告は、受付スタッフが旧契約期間中の診療代金を受領していたため、被告がこれを直接受領したことはなかった旨供述する。しかしな がら、被告は、原告の把握していない売上げに関する領収書を独自に保管していたのであるから、被告が診療代金を全く受領していなかったという上記供述は、直ちに信用することはできず、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告の主張は、採用することができない。 4 争点⑶(旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否)について ⑴ 前記前提事実及び前記認定事実によれば、旧覚書は、勤務条件として被告の報酬に関する合意を新たにしたものであり、その他 4 争点⑶(旧覚書期間中の精算未了の診療代金請求の当否)について ⑴ 前記前提事実及び前記認定事実によれば、旧覚書は、勤務条件として被告の報酬に関する合意を新たにしたものであり、その他に新たな取決めを格別行うものではなく、被告の稼働実態も、旧契約期間中と旧覚書期間中との間で格別変化があったものと認めることはできない。 そうすると、旧覚書に規定する契約の法的性質は、「正社員」という柱書 等の文言(甲4)にかかわらず、旧契約と同様に、診療業務の委託を内容とする準委任契約であると解するのが相当である。 したがって、被告は、民法656条において準用する同法646条1項に基づき、診療業務の過程で患者から診療代金を受領した場合には、これを原告に引き渡すべき義務を負っていたものと認めるのが相当である。 ⑵ これを本件についてみると、前記前提事実及び前記認定事実に加え、弁論の全趣旨(当裁判所は、期日間で、被告が任意に提出した旧覚書期間中の領収書に係る診療代の各月の合計額が別紙3-1⑴記載の「消費税抜自由診療代」欄の額になることを確認し、被告も、当該額の金銭の受領があったこと自体は認めている〔第8回弁論準備手続調書参照〕。)によれば、被告は、 別紙3-1⑴記載の「消費税抜自由診療代」欄記載の各金額を患者から受領 しているところ、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事情がない限り、診療代金と認めるのが自然であることからすれば、被告は、上記金額の診療代金を患者から受領したものの、これを原告に引き渡さなかったものと認められる。 これに対し、被告は、一部の患者からの入金については仮受金であるから 売上げとして計上すべきではなく、また、患者に返金した分については売上げから別途控除されるべきであ ったものと認められる。 これに対し、被告は、一部の患者からの入金については仮受金であるから 売上げとして計上すべきではなく、また、患者に返金した分については売上げから別途控除されるべきである旨主張するため、以下個別に検討する。 ⑶ 被告の患者に対する返金等の権限の有無について前記前提事実及び前記認定事実によれば、本件歯科医院の経営主体は原告であり、前記⑴のとおり、旧覚書は、旧契約と同様に診療業務の委託を内容 とする準委任契約であると認められる。そうすると、被告は、本件歯科医院の経営主体である原告から、診療業務の委託を受けたにすぎず、患者に対する返金などの金銭の管理に関する独立した権限を付与されていたものとはいえない。 これに対し、被告は、「E」の医院長として、医療提供に関する責任のみ ならず、経営や財務管理に関する責任を負っており、医院の運営全体を統括する立場にある以上、財務管理に関する権限を有していたし、個別の患者に対する返金に関する権限もこれに含まれる旨主張する。 しかしながら、被告が「E」の開設者兼管理者となる開設届を提出したことによって、対外的に医療機関の開設、経営の責任主体(医療法7条)とな ったとしても、これによって、原告の承諾がないにもかかわらず、当然に旧覚書の内容が変更され、直ちに被告が経営や財務管理に関する権限を取得するものとはいえない。 そして、被告が上記開設届を提出するに至る経緯をみても、前記認定事実によれば、原告は、被告に対し、旧覚書の締結に当たり、本件歯科医院が保 険医療機関の指定を受けるために必要な限度で、被告が被告個人の名義を使 用して対外的に必要な行政上の手続を行うことを承諾していたにすぎず、原告が旧覚書期間中の建物賃料やスタッフの給与その他の本 指定を受けるために必要な限度で、被告が被告個人の名義を使 用して対外的に必要な行政上の手続を行うことを承諾していたにすぎず、原告が旧覚書期間中の建物賃料やスタッフの給与その他の本件歯科医院の経費を全般的に負担していた事情を踏まえても、原告が、行政上の上記手続を行うに当たり、被告に対し、本件歯科医院又は「E」の経営主体となることまで承諾していたものと認めるに足りないことは明らかである。 したがって、被告は、患者に対する返金等に関する独立した権限を有していたとはいえず、これを前提とする被告の主張は、いずれも採用することができない。 ⑷ 個別の患者に関する入金、返金についてア Iについて 証拠(甲19の31、20の4、乙4,11)及び弁論の全趣旨によれば、Iについての入金及び返金の状況は、以下のとおりと認められる。 ① 令和4年8月24日 311万3000円入金② 令和4年11月28日 198万円入金③ 令和5年1月25日 311万3000円返金 被告は、上記②の入金については、仮受金として預かったものであるから売上げとして計上すべきではないと主張する。しかしながら、前記⑵のとおり、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事情がない限り、診療代金と認めるのが自然である上、上記②の入金に係る領収書(甲20の4)にも、「歯科診療代」という記載があることが認め られる。そうすると、上記②の入金は、診療代金として入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Iの陳述書(乙14)には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、その記載内容は、被告から、令和5年2月に治療を開始したので上記②の入金は同月分の売上げとして計上させてもらいたい旨 の説明を受けて承諾したとい には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、その記載内容は、被告から、令和5年2月に治療を開始したので上記②の入金は同月分の売上げとして計上させてもらいたい旨 の説明を受けて承諾したというものにすぎず、仮受金として処理すべき 合理的な理由を述べるものではなく、上記陳述書の内容は、上記判断を左右するものとはいえない。そもそも、旧覚書によれば、被告の給与額は、当該契約期間中の売上額を基準とするものであるから、上記のような患者とのやりとりをもって被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることは、被告において上記売上額、ひいては被告自身の給 与額を恣意的に修正することを可能とするものであるから、前記認定に係る旧覚書の趣旨目的に鑑みると、明らかに原告の許容するところではなく、許されないというべきである。 したがって、上記②の入金を売上げとして計上すべきではないとの被告の主張は、採用することができない。 イ Gについて被告は、Gからの入金は仮受金である旨主張し、具体的な入金及び返金の状況に関する証拠として、次に掲げる金銭の動きがあった旨の記載のあるGの陳述書(乙13)を提出する。 ① 令和4年10月31日 100万円入金(仮受金) ② 令和4年11月9日 100万円返金③ 令和4年11月10日 110万円入金(仮受金)そこで検討するに、証拠(甲13、20の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、上記①及び③の入金に関する領収書(ただし、領収書記載の金額は、上記①については98万2650円、上記③については1 00万1650円とされている。)があることが認められるものの、上記②の返金については「F」(甲13)に100万円との記載があるのみであって、これを裏付ける客観 650円、上記③については1 00万1650円とされている。)があることが認められるものの、上記②の返金については「F」(甲13)に100万円との記載があるのみであって、これを裏付ける客観的証拠はない。しかも、上記②ついては、被告が受領したと認められる上記の金額(98万2650円)を上回る金額となっている上、その翌日にはほぼ同額の入金を再度受けたと いうことになり、このような出入金を行う合理的な理由は見受けられず、 その経過自体が極めて不自然である。 そうすると、②の返金を認めることはできないと認めるのが相当である。そして、Gの陳述書(乙13)及び弁論の全趣旨によれば、最終的に被告に支払った金額は100万円程度であると認めるのが相当である。 これらの事情を総合すると、上記③の入金に係る領収書は、一旦返金 したという体裁を整える目的で作成されたものにすぎず、Gについては、上記①の入金額後、上記①と③との差額が追加で入金され、最終的に上記③の100万1650円の限度で入金があったものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠がない。 これに対し、被告は、上記①及び③の入金については、仮受金として 預かったものであるから売上げとして計上すべきではないと主張する。 しかしながら、前記アのとおり、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事情がない限り、診療代金と認めるのが自然である上、上記①及び③の入金に係る領収書(甲20の1ないし3)にも、「自費診療代として」という記載があることが認められる。そうすると、上記認 定の100万1650円の限度での入金は、いずれも診療代金として入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Gの陳述書には、仮受金として保管してもらった旨の記載があ うすると、上記認 定の100万1650円の限度での入金は、いずれも診療代金として入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Gの陳述書には、仮受金として保管してもらった旨の記載があるものの、仮受金として処理すべき合理的な理由を述べるものではなく、被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることが許 されないというべきことは、前記アにおいて説示したところと同様である。また、Gのカルテ(乙20)にも、被告の主張と同趣旨の記載があるが、事後的に追記された可能性を否定することはできず、直ちに信用することはできない。そうすると、上記陳述書の内容は、上記判断を左右するものとはいえない。 したがって、上記①及び③の入金を売上げとして計上すべきではなく、 上記②の返金を売上げから控除すべきであるとの被告の主張は、採用することができない。 ウ Jについて証拠(甲20の5、乙15)及び弁論の全趣旨によれば、Jについて、令和4年12月12日に160万円の入金があったことが認められる。 被告は、上記入金については、仮受金として預かったものであるから売上げとして計上すべきではないと主張する。しかしながら、前記ア及びイのとおり、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事情がない限り、診療代金と認めるのが自然である上、上記入金に係る領収書(甲20の5)にも、「歯科診療費代として」という記載があること が認められる。そうすると、上記入金は、診療代金として入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Jの陳述書(乙15)には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、仮受金として処理すべき合理的な理由を述べるものではなく、被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることが許 。 もっとも、Jの陳述書(乙15)には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、仮受金として処理すべき合理的な理由を述べるものではなく、被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることが許 されないというべきことは、前記ア及びイにおいて説示したところと同様である。 したがって、上記入金を売上げとして計上すべきではないとの被告の主張は、採用することができない。 エ Kについて 証拠(甲20の6、乙16)及び弁論の全趣旨によれば、Kについて、令和4年12月19日に77万円の入金があったことが認められる。 被告は、上記入金については、仮受金として預かったものであるから売上げとして計上すべきではないと主張する。しかしながら、前記アないしウのとおり、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事 情がない限り、診療代金と認めるのが自然であって、上記入金は、診療 代金として入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Kの陳述書(乙16)には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、仮受金として処理すべき合理的な理由を述べるものではなく、被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることが許されないというべきことは、前記アないしウにおいて繰り返し説示した ところと同様である。 したがって、上記入金を売上げとして計上すべきではないとの被告の主張は、採用することができない。 オ Hについて証拠(乙17、18)及び弁論の全趣旨によれば、Hについての入金 及び返金の状況は、以下のとおりと認められる。 ① 令和4年8月31日 361万9000円入金② 令和4年12月17日 113万3000円返金③ 令和4年12月17日 201万8500円入金被告は、上記 以下のとおりと認められる。 ① 令和4年8月31日 361万9000円入金② 令和4年12月17日 113万3000円返金③ 令和4年12月17日 201万8500円入金被告は、上記②の返金については、旧覚書期間の売上げから別途控除 すべきである旨主張する。しかしながら、Hのカルテ(乙23)をみても、上記金額に限って返金した理由や事情は明らかではなく、そもそも、被告が旧覚書期間中に独断で患者に返金する権限を有していなかったことは、前記⑶において説示したとおりである。したがって、被告の主張は、採用することができない。 また、被告は、上記③の入金については、仮受金として預かったものであるから売上げとして計上すべきではないと主張する。しかしながら、前記アないしエのとおり、歯科医院において患者から受領する金銭は、特段の事情がない限り、診療代金と認めるのが自然である上、弁論の全趣旨によれば、上記③の入金に係る領収書にも、「歯科診療代」との記 載があることが認められる。そうすると、上記③の入金は、診療代金と して入金されたものと認めるのが相当である。 もっとも、Hの陳述書(乙18)には、仮受金として預けた旨の記載があるものの、仮受金として処理すべき合理的な理由を述べるものではなく、被告が現実の入金日と異なる日を売上げの計上日とすることが許されないというべきことは、前記アないしエにおいて繰り返し説示した ところと同様である。 したがって、上記②の返金を売上げから控除すべきであり、上記③の入金を売上げとして計上すべきではないとの被告の主張は、採用することができない。 ⑸ 以上によれば、旧覚書期間中の売上げのうち、別紙3-1記載⑴及び⑵ の11月分の「自由診療代」については、 売上げとして計上すべきではないとの被告の主張は、採用することができない。 ⑸ 以上によれば、旧覚書期間中の売上げのうち、別紙3-1記載⑴及び⑵ の11月分の「自由診療代」については、323万9182円から、Gに対する令和4年11月10日付け領収書記載の金額100万1650円のうち入金の実体がない98万2650円(1650円+98万1000円。甲20の1及び2)に対応する消費税抜自由診療代89万3318円(98万2650円÷1.1)を控除した金額とすべきことになり、また、「消費税 代」についても、32万3918円から、上記98万2650円のうち消費税相当額8万9332円を控除した金額とすべきことになる。 そうすると、各売上げの合計額等は、別紙3-2⑴記載のとおりとなり、被告取り分は、別紙3-2⑵記載のとおりとなる。 したがって、被告が支払うべき精算未了の診療代金の額は、別紙3-2⑶ 記載のとおり、572万0246円となる。 なお、原告は、上記の金銭請求の法的根拠として不法行為も主張し、これに基づき弁護士費用相当額(前記第1の7項)の支払も請求するものの、原告は、業務上横領を構成する被告の行為を具体的に特定して当該要件を主張立証するものではなく、原告の主張は、採用の限りではない。 5 争点⑷(旧覚書期間中の被告による返金の違法性の有無)について 前記4⑷イのとおり、Gへの返金については、その事実があったものとは認めるに足りず、また、H及びIへの返金については、業務上横領を構成する行為が主張立証されていない上、そもそもこれらの返金が売上金額から控除されるべきではないことは、前記4⑷オ及び後記8のとおりであり、これらによって原告に損害が発生したものと認めるに足りない。 したがっ 立証されていない上、そもそもこれらの返金が売上金額から控除されるべきではないことは、前記4⑷オ及び後記8のとおりであり、これらによって原告に損害が発生したものと認めるに足りない。 したがって、原告の主張に係る事実を認めるに足りず、上記請求には理由がない。 6 争点⑸(立替費用の支払義務の有無)について前記前提事実及び前記認定事実に加え、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び被告は、新覚書において、被告自身が本件歯科医院を経営する ことのほか、賃料以外の経費については被告がその一切を負担する旨の合意をしたものと認めるのが相当である。 これに対し、被告は、看板代及びごみ処理代は、原告と建物所有者との間の賃貸借契約の賃料に付随するものであり、被告に支払義務はない旨主張する。 しかしながら、原告と建物所有者との間の事業用定期建物賃貸借契約書(乙 2〔1頁〕)によれば、上記契約書には「賃料」、「ゴミ処理代(固定)」及び「看板代」が区分して明記されており、看板代及びごみ処理代を当然に「賃料」に含めて解することはできず、看板代及びごみ処理代は、本件歯科医院の経費の一部であるというべきである。そして、新覚書は、あえて「賃料分」という文言を使用し、「賃料分+医院引継ぎに関する費用」に限り原告が負担し (甲5の②)、その余の経費は被告が全て負担するものとされていること(甲5の④)は、前記において認定したとおりである。 これらの事情を踏まえると、看板代及びごみ処理代は、新覚書に基づき、被告において負担すべきものと解するのが相当である。 以上によれば、別紙4記載のとおり、原告は、被告に対し、不当利得に基づ く16万9746円の返還請求権を有するものと認められる。 なお、原告は、上記の金銭請求 当である。 以上によれば、別紙4記載のとおり、原告は、被告に対し、不当利得に基づ く16万9746円の返還請求権を有するものと認められる。 なお、原告は、上記の金銭請求の法的根拠として不法行為も主張し、これに基づき弁護士費用相当額(前記第1の7項)の支払も請求するものの、原告は、業務上横領を構成する被告の行為を具体的に特定して当該要件を主張立証するものではなく、原告の主張は、採用の限りではない。 7 争点⑹(カルテ等の持出行為についての損害賠償請求の可否)について ⑴ 原告は、被告によるカルテ等の持出行為が不正競争防止法2条1項4号所定の営業秘密不正取得行為に該当すると主張する。しかしながら、原告は、不正競争防止法2条6項に規定する「営業秘密」の3要件に係る具体的な主張立証をしておらず、少なくとも原告主張に係るカルテ等の資料が営業秘密に該当すると認めるに足りない。したがって、その余の要件について判断す るまでもなく、原告の主張は、採用することができない。 ⑵ 原告は、被告の行為が刑法上の窃盗罪又は業務上横領罪に該当するとして不法行為を構成する旨主張するものの、窃盗罪又は業務上横領罪を構成する被告の行為を具体的に特定して当該要件を主張立証するものではなく、これらを認めるに足りない。仮に、不法行為に該当するとしても、原告は、本件 歯科医院を再開できなかったことによる6か月分の逸失利益相当額を損害として主張するものの、被告の行為と本件歯科医院を再開できなかったことの因果関係はもとより、その損害との因果関係を認めるに足りる的確な証拠はない。 また、原告は、被告の行為が個人情報保護法に違反するとして不法行為を 構成するとも主張するものの、これが採用できない理由は上記と同様であり、仮に公法 関係を認めるに足りる的確な証拠はない。 また、原告は、被告の行為が個人情報保護法に違反するとして不法行為を 構成するとも主張するものの、これが採用できない理由は上記と同様であり、仮に公法上の規定に違反したとしても直ちに不法行為を構成するものとはいえない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 ⑶ 以上によれば、カルテ等の持出行為を理由とする原告の請求には、理由が ない。 8 争点⑺(相殺の抗弁の成否)について⑴ 被告は、次に掲げる請求債権を自働債権とする相殺を主張するため、自働債権の存否につき、以下判断する。 ア Iに対する診療代金返金に関する不当利得返還請求権について前記4⑷アのとおり、Iについての入金及び返金状況は、以下のとお りと認められる。 ① 令和4年8月24日 311万3000円入金② 令和4年11月28日 198万円入金③ 令和5年1月25日 311万3000円返金被告は、上記③の返金について、原告が返金義務を負うのに、被告が 自らの負担で返金しているから、原告が不当に利得したものである旨主張する。 しかしながら、前記前提事実及び前記認定事実に加え、証拠(甲4、5、14、16の2、18の2、乙8)及び弁論の全趣旨によれば、上記③の返金に対応する入金(上記①)については、売上げとして確定さ せて被告に対し既に歩合報酬を支払うなど、原告と被告との間で既に精算が完了していたにもかかわらず、被告は、新覚書期間中に被告の判断で、上記③の返金を行ったことが認められる。そして、新覚書期間中においては、被告は、本件歯科医院を経営する一方、賃料分以外の経費は被告が全て負担するものとされていたことからすると、原告と被告との 間で上 返金を行ったことが認められる。そして、新覚書期間中においては、被告は、本件歯科医院を経営する一方、賃料分以外の経費は被告が全て負担するものとされていたことからすると、原告と被告との 間で上記返金の取扱いについての特段の合意があれば格別、原告に何ら相談なく被告の判断で上記返金を行っている以上、上記③の返金については、新覚書の趣旨に鑑みても、被告がその経費として負担すべきものと認めるのが相当である。 以上によれば、原告が上記③の返金について、Iに対する返金義務を 負っているとはいえず、被告の主張は、採用することができない。 イ備品代立替金相当額の不当利得返還請求権について証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和5年2月1日、インプラントの材料費として26万3560円を支払ったことが認められるところ、被告は、上記材料費は、旧覚書期間中に購入した材料に対するものであり、原告が費用負担義務を負うと主張する。しかしながら、上記 材料費が購入された時期に関する証拠はなく、上記の支払時期に照らしても、新覚書期間中に支出された費用である可能性を否定し難く、原告において負担すべき経費であるとは認めるに足りない。したがって、被告の主張は、採用することができない。 ウ未払労働債権について 被告は、原告において令和4年7月分ないし10月分の給与について、給与明細書の発行がなく又は当該給与明細書上の支給額よりも少ない額しか支払っていないため、未払の労働債権がある旨主張する。しかしながら、前記認定事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告主張に係る給与は、いずれも支払がされていることが認められる。したがって、被 告の主張は、いずれも採用の限りではない。その理由は、次のとおりである 加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告主張に係る給与は、いずれも支払がされていることが認められる。したがって、被 告の主張は、いずれも採用の限りではない。その理由は、次のとおりである。 7月分報酬 144万6727円(甲16の1)について被告の7月分の報酬額は、基本給50万円、成果報酬94万6727円の合計額144万6727円であり、これから所得税の源泉徴収額2 8万8842円を控除した残金115万7885円については、以下のとおり、支払われたことが認められる。 ① 令和4年7月6日 20万円(甲17、甲15の1)② 令和4年7月14日 30万円(甲17、甲15の2)③ 令和4年8月25日 65万7885円(乙8) 8月分報酬 216万0920円(甲16の2)について 被告の8月分の報酬額は、基本給50万円、成果報酬166万0920円の合計額216万0920円であり、これから所得税の源泉徴収額55万5949円を控除した残金160万4971円(なお、年末調整額を加算した額としては、以下の合計のとおり161万1441円となる。)については、以下のとおり、支払われたことが認められる。 ① 令和4年7月28日 50万円(甲17、甲15の3)② 令和4年9月27日 18万2063円(乙8)③ 同年10月14日 50万円(乙8)④ 同年11月9日 42万9378円(なお、年末調整額6470円を加算した額)(乙8) 9月分報酬 0円休診中のため、報酬が発生したものと認めるに足りない。 10月分以降の報酬前記4のとおり、精算されたものと認めるのが相当である。 エ源泉徴収相当額の不当利得返還請求権について 被告は、原告が源泉徴収額の納 たものと認めるに足りない。10月分以降の報酬前記4のとおり、精算されたものと認めるのが相当である。 エ源泉徴収相当額の不当利得返還請求権について 被告は、原告が源泉徴収額の納税をしていないため、被告が納税すべきことになるから、原告は、被告に対し、源泉徴収額相当額を利得金として返還すべきである旨主張する。しかしながら、被告が主張するとおり、源泉徴収額として所得から控除されたというのであれば、原告においては、その納税義務を国に負う以上、利得金はなく、被告においても、直接の納税義務を国に負わない以上、損失が生じているともいえない。 以上によれば、被告が主張する自働債権については、いずれも認めることはできず、相殺の抗弁に関する被告の主張は、いずれも採用することができない。 第5 結論 よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求については理由がないからこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 坂本達也 (別紙1) (別紙2) 証拠 枝番旧契約期間被告持参領収証(甲19)消費税抜金額被告歩合報酬支払済被告歩合報酬未払被告歩合報酬原告追加請求支払済 証拠 枝番 旧契約期間 被告持参領収証(甲19) 消費税抜金額 被告歩合報酬支払済 被告歩合報酬未払 被告歩合報酬 原告追加請求 支払済歩合 根拠 名前 入金日 金額 (省略)7/13 7,700 7,000 2,800 2,800 4,900 ― (省略)7/25 4,940 4,491 1,796 1,796 3,144 ― H7/25 1,606,000 1,460,000 584,000 584,000 甲18の1 (省略)7/28 2,000 1,818 1,273 ― (省略)7/28 16,500 15,000 6,000 6,000 甲18の1 (省略)8/11 1,000 10,000 4,000 4,000 7,000 ― G8/11 650 1,500 1,050 ― (省略)8/3 8,800 8,000 3,200 3,200 甲18の2 H8/31 650 1,500 甲18の2 (省略)8/3 5,500 5,000 2,000 2,000 甲18の2 (省略)8/4 1,650 1,500 甲18の2 (省略)8/4 3,000 30,000 12,000 12,000 甲18の2 (省略)8/4 甲18の2 (省略)8/433,00030,00012,00012,000 甲18の2 (省略)8/41,6501,500 甲18の2 G8/81,6501,500 甲18の2 (省略)8/123,3003,0001,200 1,2002,100― I8/141,6501,500 1,050― (省略)8/141,6501,500 1,050― (省略)8/14165,000150,00060,000 60,000105,000― (省略)8/147,1506,5002,600 2,6004,550― (省略)8/154,9504,5001,8001,800 甲18の2 (省略)8/155,5005,0002,000 2,000 甲18の2 (省略)8/1788,00080,00032,00032,000 甲18の2 (省略)8/175,5005,0002,000 2,000 甲18の2 (省略)8/175,5005,0002,0002,000 甲18の2 (省略)8/175,5005,0002,00 甲18の2 (省略)8/175,5005,0002,0002,000 甲18の2 (省略)8/175,5005,0002,0002,000 甲18の2 (省略)8/191,6501,500 甲18の2 (省略)8/19474,980431,800172,72086,60086,120150,710 甲18の2 (省略)8/191,1001,000 甲18の2 (省略)8/245,5005,0002,0002,000 甲18の2 I8/247,1506,5002,6002,600 甲14 I8/243,113,0002,830,0001,415,0001,415,000 甲14 (省略)8/241,6501,500 甲18の2 (省略)8/242,2002,000 1,400― (省略)8/312,2002,000 甲18の2 H8/314,9504,5001,8001,800 甲18の2 (省略)8/311,6501,500 甲18の2 (省略)8/312,4402,218 甲1 (省略)8/311,6501,500 甲18の2 (省略)8/312,4402,218 甲18の2 (省略)8/311,6501,500 甲18の2 (省略)8/311,6501,500 甲18の2 H氏8/313,619,0003,290,0001,316,000 0 1,316,0002,303,000― 合計額 5,619,1605,108,3272,326,3312,160,000166,3312,587,000 ①「消費税抜金額」=「旧契約期間被告持参領収証」の「金額」/1.1②「被告歩合報酬」=「消費税抜金額」×歩合率40%(甲3雇用契約書第5条) (ただし、証拠枝番31の明細のみ、甲14の記載に従い歩合率50%とした。)③「支払済被告歩合報酬」=甲14または甲18に記載の内容④「未払被告歩合報酬」=「被告歩合報酬」―「支払済被告歩合報酬」⑤「原告追加請求」=「旧契約期間被告持参領収証」の「金額」―「未払被告歩合報酬」*ただし、「支払済歩合根拠」に証拠の記載がない明細については、原告はすでに「旧契 約期間被告持参領収証」の「金額」列記載の額を受領済みであるため、「原告追加請求」をゼロとした。 *証拠枝番27及び37の明細については、原告がもともと把握していた受領済自由診療代の消費税抜きの金額(甲18の2の「自費金額」)が、上記旧契約期間被告持参領収証(甲19)に基づく消費税抜金額より少額であった。そこで、その差額分に いては、原告がもともと把握していた受領済自由診療代の消費税抜きの金額(甲18の2の「自費金額」)が、上記旧契約期間被告持参領収証(甲19)に基づく消費税抜金額より少額であった。そこで、その差額分につき、消費税込み 自由診療代相当額から被告が受領すべき歩合額を控除した額を、「原告追加請求」とした。 具体的には、証拠枝番27については、「原告追加請求」=(「旧契約期間被告持参領収証」の「金額」―甲18の2の「自費金額」×1.1)―「未払被告歩合報酬」86,120円 証拠枝番37については、「原告追加請求」=(「旧契約期間被告持参領収証」の「金額」―甲18の2の「自費金額」×1.1)―「未払被告歩合報酬」87円 以上 (別紙3-1)⑴ 旧覚書期間中被告受領自由診療代及び「F」(甲13)に基づくB診療代等(円) 保険診療代(*)消費税抜自由診療代消費税備品(甲13)合計10月174,470896,72789,673 1,161,32011月654,4203,239,182323,9181,1004,218,62012月463,7204,886,359488,636 5,839,085合計1,292,6109,022,268902,2271,92011,219,025*保険診療代=保険点数(「F」甲13)×10円⑵ 旧覚書に基づく被告取り分(円) 保険診療代自由診療代旧覚書売上高旧覚書委託報酬旧覚書被告手当旧覚書被告取り分10月174,470896,7271,071,197428,479160, 自由診療代旧覚書売上高旧覚書委託報酬旧覚書被告手当旧覚書被告取り分10月174,470896,7271,071,197428,479160,000588,47911月654,4203,239,1823,893,6021,557,441160,0001,717,44112月463,7204,886,3595,350,0792,407,536160,0002,567,536合計1,292,6109,022,26810,314,8784,393,456480,0004,873,456*旧覚書売上高=保険診療代+自由診療代(甲4旧覚書に基づく) *旧覚書委託報酬:10月・11月は旧覚書売上高が450万円以下であるため旧覚書売上高の40%、12月は旧覚書売上高が450万円超~700万円以下であるため旧覚書売上高の45%(甲4旧覚書に基づく)*旧覚書被告手当=住宅手当月14万円+通勤手当月2万円(甲4旧覚書に基づく)⑶ 原告の請求額 上記⑴合計額11,219,025円 ― 上記⑵合計額4,873,456円 = 6,345,569円以上 (別紙3-2)⑴ 旧覚書期間中被告受領自由診療代及び「F」(甲13)に基づくB診療代等(円) 保険診療代(*)消費税抜自由診療代消費税 備品(甲13)合計10月174,470896,72789,673 1,161,32011月654,4202,345,864234,5861,1003,235,97012月463,7204,886,359488,6 1,161,32011月654,4202,345,864234,5861,1003,235,97012月463,7204,886,359488,636 5,839,085合計1,292,6108,128,950812,8951,92010,236,375*保険診療代=保険点数(「F」甲13)×10円⑵ 旧覚書に基づく被告取り分(円) 保険診療代自由診療代旧覚書売上高旧覚書委託報酬旧覚書被告手当旧覚書被告取り分10月174,470896,7271,071,197428,479160,000588,47911月654,4202,345,8643,000,2841,200,114160,0001,360,11412月463,7204,886,3595,350,0792,407,536160,0002,567,536合計1,292,6108,128,9509,421,5604,036,129480,0004,516,129*旧覚書売上高=保険診療代+自由診療代(甲4旧覚書に基づく) *旧覚書委託報酬:10月・11月は旧覚書売上高が450万円以下であるため旧覚書売上高の40%、12月は旧覚書売上高が450万円超~700万円以下であるため旧覚書売上高の45%(甲4旧覚書に基づく)*旧覚書被告手当=住宅手当月14万円+通勤手当月2万円(甲4旧覚書に基づく)⑶ 原告の請求額 上記⑴合計額10,236,375円 ― 上記⑵合計額4,516,129円 = 5,720,246円以上 (別紙 当月2万円(甲4旧覚書に基づく)⑶ 原告の請求額 上記⑴合計額10,236,375円 ― 上記⑵合計額4,516,129円 = 5,720,246円以上 (別紙4) 費目請求期間立替額(円)算定方法 証拠 電気料金1/1~1/1011,052 35,367円(2022/12/10~2023/1/10)×10日/32日甲9の21/11~2/1035,9792/11~2/2818,424 28,660円(2023/2/11~2023/3/10)×18日/28日水道代1/1~2/104,542 6,979円(2022/12/10~2023/2/10)×41日/63日2/11~2/281,188 3,894円(2023/2/11~2023/4/10)×18日/59日看板代1月分33,0002月分33,000ゴミ処理代1月分3,4652月分3,465電話料金1月分11,580甲9の32月分11,496ネット代金2/1~2/282,555甲9の4合計169,746 以上
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