平成16(わ)334 住居侵入,強盗殺人未遂(認定は強盗致傷)被告事件

裁判年月日・裁判所
平成17年2月2日 広島地方裁判所
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判決文本文5,581 文字)

主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 広島地方検察庁で保管中のモンキーレンチ1個(平成16年広地領第731号符号12)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成16年3月9日午前9時ころ,広島県山県郡a町b番地のA(当時83歳)方を訪れ,その玄関において訪問販売をしようとしたが,これを断られるや,同人から金品を強取しようと企て,やにわに居室内に上がり込んで侵入した上,同人に対し,「わしをなめるなよ。」,「金を出せ。」などと語気鋭く申し向け,所携のモンキーレンチ(平成16年広地領第731号符号12)で頭部を殴打するなどの脅迫,暴行を加えて反抗を抑圧し,同人所有の現金5万5000円,キャッシュカード1枚,国民健康保険被保険者証1枚を強取し,さらに,同人が外部に通報するのを防ぐため,上記モンキーレンチでその頭部を複数回殴打し,これら暴行により,同女に対し,加療約3週間を要する頭部裂挫創,外傷性ショック及び出血性ショック等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 検察官の掲げる訴因は,被告人は,被害者から金品を強取した上同人を殺害しようと企て,判示のとおりの脅迫,暴行を加えて傷害を負わせたが,殺害するには至らなかったというもので,強盗殺人未遂の事実を主張するものであり,これに対して弁護人は,被告人には金品強取の意思はなく,また,殺意もなかったとして争っているところ,当裁判所は,判示のとおり強盗致傷の限度で認定したので,以下補足して説明する。 2 被害者A,被告人及び医師Bの各供述,本件現場の実況見分調書等関係各証拠を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成15年10月ころから,知人と共同で味噌や乾物の訪問販売業を始めたが,翌月には知人が事 医師Bの各供述,本件現場の実況見分調書等関係各証拠を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成15年10月ころから,知人と共同で味噌や乾物の訪問販売業を始めたが,翌月には知人が事業から手を引いたため1人で訪問販売をするようになり,仕入れていた在庫が思うように捌けなくなって売上げが大幅に減少し,平成16年1月には,妻に渡す生活費などを工面するため,母親から100万円を借り入れるなどしていた。本件当日朝,被告人は,訪問販売の商品を積んだ自動車で自宅を出て,約2年前に訪問販売のために訪れたことのあった被害者方に向かい,午前9時ころ,同人方付近に自動車を停め,ジャンパーのポケットにモンキーレンチを入れて被害者方に赴いた。 (2) 被告人は,被害者方玄関でチャイムを鳴らし,応対のために出てきた被害者に対して,仏壇のリフォームの要望がないかなどと持ちかけたが,新調したばかりだから必要ないなどとして断られた。被告人は,さらに,被害者宅の花瓶を褒めるなどした後,突然,靴を脱いで室内に上がり,被害者に歩み寄った。被告人は,後ずさりする被害者とともに台所に入り,その間,「わしをなめるなよ。」「金を出せ。」などと申し向け,ポケット内のモンキーレンチを取り出して右手で持ち,被害者の頭上から振り下ろして,頭部を2回殴打した。 (3) 被害者は,「金はこっちにある。」などと言いながら居間に入り,日頃財布を入れていた袋を指し示し,被告人が袋の中を見たが,財布はなかった。被告人は,「財布がないじゃないか。どこにある。」などと言い,居間にいる間に,被害者の頭部をモンキーレンチで1回殴打した。 (4) 被害者は,前日財布を2畳間の押入れのハンドバッグに入れておいたことを思い出して,2畳間に移動し,押入れからハンドバッグを出して財布を取り出して被告人に 頭部をモンキーレンチで1回殴打した。 (4) 被害者は,前日財布を2畳間の押入れのハンドバッグに入れておいたことを思い出して,2畳間に移動し,押入れからハンドバッグを出して財布を取り出して被告人に渡した。被告人は,被害者のさし出した財布内から現金5万5000円を取り出してポケットに入れ,さらに,ハンドバッグ内にあったキャッシュカード1枚と国民健康保険被保険者証1枚をポケットに入れ,その際暗証番号も被害者から聞き出した。そして,被告人は,押入れ内の金庫を見て開けるように言ったが,被害者は,金庫内に通帳や大切な書類があったことから,ダイヤルを回す素振りをするなどして実際には開けずにいた。 (5) 被告人は,早く金庫を開けるよう被害者を急かしていたものの,しばらくして,被害者に対し,廊下に出るよう言った。被害者が廊下に出たところ,被告人は,「ここに入っていろ。」などと言って,廊下に面した便所内に入るよう促した。被害者は,便所内で被告人に殴打されるなどして死んでしまうのではないかと恐れて,被告人のそばをすり抜けて逃げ出し,廊下の先の縁側に面したガラス戸を開けようとした。被告人はこれを追い,被害者の腕の辺りを掴み,背後からモンキーレンチで頭部を殴打し,外部から見えない位置まで被害者を移動させて,さらにモンキーレンチで複数回,頭部を殴打した。被告人は,被害者が倒れ込んでぐったりした様子になったのを見てその場を離れ,玄関を通って現場から逃走したが,被害者は,その直後,外部に電話で連絡するなどして,救助を求めた。 (6) 本件に用いられたモンキーレンチは,金属製で,長さ約21センチメートル,重さ約260グラムである。被害者が負った頭部創傷は,複数方向に裂けたものを含む計8か所の裂挫創であり,その多くは頭蓋骨に達していたが,頭蓋骨には表面に軽くこすって 製で,長さ約21センチメートル,重さ約260グラムである。被害者が負った頭部創傷は,複数方向に裂けたものを含む計8か所の裂挫創であり,その多くは頭蓋骨に達していたが,頭蓋骨には表面に軽くこすってえぐれたような痕が2か所あった以外に損傷はなく,頭蓋骨の骨折や陥没はなかった。また,脳自体に損傷はなく,頭蓋骨内部の出血もなかったが,外部に動脈性出血が2か所あるなど,出血量は多く,そのまま放置すれば出血により死亡するに至っていた可能性があった。 3 以上の事実を基に,被告人の金品強取の意思の有無を検討するに,被告人が,被害者に対し,「金を出せ。」と申し向け,所携のモンキーレンチで殴打する暴行を加えた上,財布の所在を問いただし,金庫を開けるよう促し,キャッシュカードの暗証番号を聞き出すなど,財物奪取に向けた種々の言動をとっていること,被害者所有の現金やキャッシュカード等を現場から持ち去っていること,本件当時収入が激減して苦慮していたことなどからすると,遅くとも被告人が訪問販売を断られた時点で強盗の犯意を固め,金品強取の意思をもって判示の脅迫,暴行を行ったことを優に推認することができる。もっとも,被告人は,「玄関を上ってすぐの暴行は,被害者が自分を追い払うような態度を示したためであり,居間での暴行は,金取りと思われて立腹したためであって,金銭を要求する言動は一切行っていない。」などと弁解し,強盗の犯意を否認するのであるが,高齢の女性をモンキーレンチで殴打する理由として不自然であるばかりか,上記認定の事実経過に照らして,到底信用できない。よって,被告人は判示脅迫,暴行の際,金品強取の意思を有していたと認められる。 4 次に,被告人が強盗殺人の故意を有していたか否かについて検討するに,上記認定の事実経過によれば,被告人が被害者を殺害した上で金品を奪取 示脅迫,暴行の際,金品強取の意思を有していたと認められる。 4 次に,被告人が強盗殺人の故意を有していたか否かについて検討するに,上記認定の事実経過によれば,被告人が被害者を殺害した上で金品を奪取しようとした状況はうかがわれない上,被告人が持参したのは一般的な工具であるモンキーレンチであり,それ自体確実に相手を死亡させるような凶器ではないことや,被告人が被害者に金庫を開けさせるのをあきらめて逃走しようとした際,同人を廊下に出させて便所内に入らせようとするなど,さらなる暴行を加えることなく逃走の時間を確保しようとしたともとれる行動をとっていることなどからすれば,被告人が,強盗の犯意を抱いた当初から,金品強取後被害者を殺害して逃走しようと考えていたとも認めがたく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そこで,被告人が金品強取後逃走するに際し,殺意を生じて被害者を殴打したか否かについて,さらに検討を加える。 この点につき,被告人は,「逃げようとする被害者を後ろからモンキーレンチで1回殴り,外から見えない位置まで移動した後,さらに1回殴り,被害者がひざまずいて頭を下に向けた姿勢になったので,上から振り下ろす感じで何回も頭部を殴り続けた。被害者がぐったりしてうつ伏せの姿勢で倒れ込んだので,殴るのをやめた。 殴った回数は覚えていない。力一杯殴ったわけではないが,手加減はしていない。」旨供述しているのであるが,約260グラムと比較的軽量であるモンキーレンチによる殴打の場合,力の入れ具合によって衝撃の強さにはかなりの違いが生ずると考えられるところ,被害者の頭蓋骨に骨折や陥没が生じておらず,脳内にも損傷がなかったことや,その直後に被害者が外部に電話連絡をしていることは前記のとおりであり,医師によって想定された生命の危険も,出血による死亡の可能性をいうもの に骨折や陥没が生じておらず,脳内にも損傷がなかったことや,その直後に被害者が外部に電話連絡をしていることは前記のとおりであり,医師によって想定された生命の危険も,出血による死亡の可能性をいうものであるから,被告人の鈍器による殴打の程度がとりわけ強度であったとは言い難く,攻撃の部位や態様のみから,未必的にせよ被告人が殺意をもって被害者を殴打したと推認するには,なお疑問が残るところである。そして,被告人は,捜査段階から公判に至るまで,被害者をモンキーレンチで殴打した状況を供述する一方で,「その場から逃げたい一心で,被害者が警察に通報できないよう動けなくしようと思って殴ったが,殺すつもりはなかった。」などと供述し,ほぼ一貫して殺意を否定していること(なお,警察官調書(乙12)において,「死んでも仕方ないと思いながら殴った」とし,被害者の死亡を認容していたかのような供述をしているが,この部分は自分の気持ちと違うとして数日後の検察官調書(乙18)で訂正している。)や,この際の暴行が,被害者が逃げようとしたのに応じてとっさになされた,突発的,衝動的な行動であり,その目的は,自らが逃亡する間,被害者が外部へ通報するのを妨げることにあったと考える余地があることなどに鑑みると,この時点においても,被告人が被害者の死亡を認識,認容する心理状態にまで至っていたと断ずることはできないというべきである。 よって,被告人には殺意は認められないので,判示のとおり強盗致傷の限度で認定した。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由)被告人は,自己の訪問販売業がうまくいかずに収入が激減したことから,抵抗力の弱い高齢の女性である被害者に暴行,脅迫を加えて,金品を強取することを決意したもので,もとより自己中心的で非情な犯行であって,動機に酌むべきものはない。犯行態様は, 収入が激減したことから,抵抗力の弱い高齢の女性である被害者に暴行,脅迫を加えて,金品を強取することを決意したもので,もとより自己中心的で非情な犯行であって,動機に酌むべきものはない。犯行態様は,モンキーレンチで被害者の頭部を殴打するという危険な暴行を加えて金品の所在を聞き出し,金品奪取後,被害者が逃げようとするや,外部に通報されることを恐れて,被害者が倒れ込むまで執拗な暴行を加えており,誠に悪質というほかない。被害者は,軽微とはいえない財産的被害を被ったほか,相当量の出血を伴う重傷を負い,長年平穏に暮らしてきた自宅において突然本件被害に遭った衝撃もあって入院生活が長引くなど,その被った精神的苦痛には重大なものがあったと察せられる。被害者の親族らもまた,夫と死別した後,民家のまばらな地域で一人暮らしする被害者が本件被害に遭ったことで,同人を心配して多大な心労を強いられたものと察せられる。これに対して,被告人からは何ら慰謝の措置はとられておらず,その刑事責任は重大というべきである。 しかしながら他方,本件は,前記のとおり計画的な犯行とまではいえないこと,救急隊員による適切な措置もあって,傷害結果は幸いにも重篤なものには至らなかったこと,被告人には,交通事犯による古い罰金前科のほかには前科,前歴がなく,本件までの社会生活に格別問題は見られないこと,被害品の投棄場所を案内し暴行態様を詳しく供述するなど,客観的事実については率直に認めており,反省の情も示していること,兄が出廷して今後も被告人を支える姿勢を示していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 よって,以上諸般の事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。 (求刑-懲役15年,モンキーレンチ1個没収)平成17年2月2日 主文 よって,以上諸般の事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。 (求刑-懲役15年,モンキーレンチ1個没収)平成17年2月2日 広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官田邉直樹 裁判官飯畑正一郎 裁判官三澤節史

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