- 1 -主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求外務大臣が原告に対して平成18年4月27日付けでした行政文書の開示請求に係る不開示決定(情報公開第○号)を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す文書」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)をしたのに対し,処分行政庁が平成18年4月27日付けで該当する文書を保有していないことを理由として不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,その取消しを求める事案である。 1 琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(以下「沖縄返還協定」という。)の定め別紙2沖縄返還協定の定めのとおり 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 本件開示請求の経緯等ア原告は,処分行政庁に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づき「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す文書」の開示請求(本件開示請求)をし,同請求は,平成18年3月28日に受け付けられた。 イ処分行政庁は,本件開示請求に対し,平成18年4月27日付けで「当 - 2 -省では該当する文書を保有していないため,不開示(不存在)としました。」という理由を付して不開示とする決定(本件不開示決定)をした。 ウ原告は,処分行政庁に対し,平成18年5月30日付けで,本件不開示決定を取り消すとの決定を求めて,異議申立て 不存在)としました。」という理由を付して不開示とする決定(本件不開示決定)をした。 ウ原告は,処分行政庁に対し,平成18年5月30日付けで,本件不開示決定を取り消すとの決定を求めて,異議申立てをした。 エ原告は,平成21年3月16日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)(2) アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)の国立公文書館からは,次のような公文書が公開されている。(甲4ないし9)ア 「CONFIDENTIALSUMMATIONOFDISCUSSIONOfArticleIV, Para 3」と題するSNEIDER(リチャード・スナイダー米駐日公使(肩書は当時のもの(以下同じ。)。以下「スナイダー」という。))とYOSHINO(吉野文六外務省アメリカ局長(以下「吉野」という。))による討議を記録した1971年(昭和46年)6月12日付け文書(以下「本件米国文書1」という。)イ 「SECRETMemo」と題する1971年6月11日付け文書(以下「本件米国文書2」という。)ウ 「SECRETMemoNotedbyD.M.K」と題する1969年(昭和44年)12月2日付け文書(以下「本件米国文書3」という。)(3)ア本件米国文書1には,スナイダーの「沖縄返還協定4条3項に基づき支払われる(土地の原状回復費用に充てる)自発的支払に関するこれまでの議論を参照し,最終的な金額はいまだ不明ではあるが,現在の我々の理解では,金額はおよそ400万ドルとなるであろうことに留意する。」との発言,吉野の「貴国の支払の最終的な支払額はいまだ不明であるが,日本国政府は,自発的支払を行う信託基金設立のために,7条に基づき支出する3億2000万ドルのうち400万ドルを確保しておくことを予定している。」との発言等の記載 終的な支払額はいまだ不明であるが,日本国政府は,自発的支払を行う信託基金設立のために,7条に基づき支出する3億2000万ドルのうち400万ドルを確保しておくことを予定している。」との発言等の記載がある。また,本件米国文書1の左下には手書きで「B.Y.」と記載され,右下にも判読不能な手書き文字のようなも - 3 -のが記載されている。(甲4,5)イ本件米国文書2には,VOA(アメリカの短波放送の中継局であるヴォイス・オブ・アメリカ(アメリカの声))施設と同等の代替放送局として両国政府間で合意することになっているVOA施設を日本国外に建設する実費を1600万ドルから控除した額は,予算規定の施設改善移転費6500万ドルから差し引くものとする旨の記載がある。(甲6,7)ウ本件米国文書3には,日本国大蔵省の代表と合衆国財務省の代表の協議の結果,概要次のような理解に至ったとして,(ア) 民政用・共同使用資産の買取り-1億7500万ドルa 電力会社b 琉球開発金融公社c 水道会社d 行政組機構e 基地外の道路網f 合意される航行及び通信補助装置(イ) 軍の移転費及びその他の返還に関連する費用-2億ドル等の記載がある。(甲8,9)(4)ア平成21年9月16日,岡田克也外務大臣(以下「岡田外務大臣」という。)は,外務事務次官に対し,「外交は国民の理解と信頼なくして成り立たない。しかるに,いわゆる「密約」の問題は,外交に対する国民の不信感を高めている。今回の政権交代を機に,「密約」をめぐる過去の事実を徹底的に明らかにし,国民の理解と信頼に基づく外交を実現する必要がある。」とした上で,1972年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」(以下「本件密約」という。)等四つの「密約」について外務省 かにし,国民の理解と信頼に基づく外交を実現する必要がある。」とした上で,1972年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」(以下「本件密約」という。)等四つの「密約」について外務省内に存在する原資料を調査し,その調査結果を報告するよう命じた。(甲20) - 4 -イ平成22年3月5日,上記アの命令を受けた外務省調査チーム(以下「調査チーム」という。)は,「いわゆる「密約」問題に関する調査報告書」(以下「外務省調査報告書」という。)を公表した。外務省調査報告書の主な内容は次のとおりである。(乙3の1)(ア) 調査チームは,四つの「密約」の調査のため,外務省に存在する4423冊のファイル(整理されたファイルとして保管されているものだけではなく,バインダーに挟まれているもの,単なる文書の束等様々な形態のものがあった。)を調査した。調査対象となったファイルは,外務本省に存在する日米安保関係のファイル2694冊,沖縄返還関係のファイル571冊,在米大使館に存在する約400冊のファイルに,日米安保及び沖縄返還問題の担当課室以外の課室から受領したいわゆる「密約」に関連する可能性のあるファイル及び関連幹部が保管するファイルのうち,関連があり得ると思われるものを加えたファイル(外務本省に存在するもの3957冊及び在米大使館に存在するもの466冊)である。 (イ) 上記調査の結果,本件密約の存否・内容を明らかにする文書として別紙3文書目録記載の報告対象文書(甲21の2ないし10。同目録の「報告文書番号」欄に番号が記載されている9点の文書。以下「本件報告文書」と総称し,個々の文書については,同欄に記載された番号と対応させて同欄に「1」が付された文書を「本件報告文書1」というようにいう。)を特定し,さらに,これに準ずる文書と の文書。以下「本件報告文書」と総称し,個々の文書については,同欄に記載された番号と対応させて同欄に「1」が付された文書を「本件報告文書1」というようにいう。)を特定し,さらに,これに準ずる文書として同目録記載の関連文書(同目録の「関連文書番号」欄に番号が記載されている26点の文書。以下「本件関連文書」と総称し,個々の文書については,同欄に記載された番号と対応させて同欄に「1」が付された文書を「本件関連文書1」というようにいう。)を特定した。 (ウ) 上記(イ)の文書等から判明した事実関係は,① 今回調査したファ - 5 -イルの中からは,吉野がイニシャルを書き込んだとされ,米国で公表された「議論の要約」(本件米国文書1と同内容を記載した文書。以下「本件文書①」という。)は発見されず,また,この「議論の要約」が作成されたかどうかは確認できなかったこと,② 一方,この原状回復補償費の400万ドルの支払の問題に関し,米側の強い要請に基づき,外務大臣からの書簡の発出について日米間で交渉が行われたものの,最終的に大臣の判断により,日本側としてこのような文書を作成しないとの結論に至ったことを示すメモが今回発見されたこと,③ なお,この400万ドルについて,米国が沖縄返還に伴い日本側から受け取る3億2000万ドルの中から手当てしようとしており,日本側もそのことを承知していたことが,この間の日米間のやり取りの中からうかがわれることであった。 ウ調査チームの上記アの命令による調査によっても,上記のとおり本件文書①は発見されず,本件米国文書2と同内容を記載した文書(以下「本件文書②」という。)及び本件米国文書3と同内容を記載した文書(以下「本件文書⑤」という。)も発見されなかった。(乙3の1・2)(5)ア平成21年11月27日,岡田外 容を記載した文書(以下「本件文書②」という。)及び本件米国文書3と同内容を記載した文書(以下「本件文書⑤」という。)も発見されなかった。(乙3の1・2)(5)ア平成21年11月27日,岡田外務大臣は,歴史研究者6名を構成員とする「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会」(以下「有識者委員会」という。)に対し,本件密約を含む4つの「密約」の存否・内容に関する検証を行い,かつ外交文書の公開の在り方について提言を行うことを委嘱した。(乙3の2)イ有識者委員会は,外務省調査報告書,本件報告対象文書及び本件関連文書を精査し,更に資料を収集し,元外務省職員その他の関係者に対するインタビューを行うなどして調査を進め,平成22年3月9日に「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書」(以下「有識者報告書」という。)を公表した。 - 6 -有識者報告書では,「補章外交文書の管理と公開について」という見出しの下に,失われた関連文書や交渉記録の欠落があることについて,その背景と問題点を指摘し,外交文書の保存・管理及び公開の在り方について提言を行うとともに,「おわりに」という見出しの下に,多くの文書の欠落については,今後,何らかの調査が必要であろうと指摘していた。 (以上,乙3の2)(6)ア平成22年4月6日,岡田外務大臣は,有識者報告書等で指摘された外交文書の欠落問題について,その事実関係を調査・確認するため,自らを委員長とし,他に外務副大臣及び大学教授2名を構成員とする「外交文書の欠落問題に関する調査委員会」(以下「欠落委員会」という。)を設置した。欠落委員会の調査対象の一つは,本件文書①等本件密約に関する文書の存否であった。(乙7,8)イ欠落委員会は,東京地方裁判所平成○年(行ウ)第○号文書不開示決定処分取消等 という。)を設置した。欠落委員会の調査対象の一つは,本件文書①等本件密約に関する文書の存否であった。(乙7,8)イ欠落委員会は,東京地方裁判所平成○年(行ウ)第○号文書不開示決定処分取消等請求事件(以下「別件訴訟」という。)について平成22年4月9日に判決が言い渡され,歴代の事務次官,アメリカ局長,条約局長,北米一課の課長を始めとする同課在籍者等に対し,逐一,本件密約に関する文書の取扱いや行方等について聴取することによって,初めて合理的かつ十分な探索をしたと評価することができると指摘されたことも踏まえ,OBを中心とする外務省関係者(事務次官経験者2名,条約局長経験者4名,北米局長(アメリカ局長)経験者4名(重複あり)を始めとする15名)からの聴き取り及び既存の資料から確認できる事実関係の整理を中心に調査を行い,同年6月4日,「外交文書の欠落問題に関する調査委員会調査報告書」(以下「欠落委員会報告書」という。)を公表した。(乙8)ウ欠落委員会報告書には,欠落委員会において本件文書①を知り得る立場にある事務次官,北米局長(アメリカ局長)及び条約局長経験者計6名に対する聴き取りを行い,また,有識者委員会において別途2名の条約局長, - 7 -アメリカ局長経験者に対する聴き取りを実施したが,本件文書①を見たとする者及び本件文書①を記憶している者はいなかった旨記載されている。 (乙8) 3 争点本件の争点は,本件不開示決定の適法性であるが,その検討に当たっては,次の2点が主として問題となる。 (1) 本件開示請求の対象となる文書(以下「本件対象文書」という。)の範囲(以下「争点(1)」という。)(2) 本件対象文書の存否(以下「争点(2)」という。) 4 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件対象文 以下「本件対象文書」という。)の範囲(以下「争点(1)」という。)(2) 本件対象文書の存否(以下「争点(2)」という。) 4 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件対象文書の範囲)についてア原告(ア) 本件対象文書には以下の文書を含む。 a 本件文書①b 本件文書②c 本件文書①及び本件文書②に関する報告,記録又は引用をした報告書及び公電などの文書(以下「本件文書③」という。)d 上記①及び②に関する翻訳文(以下「本件文書④」という。)e 本件文書⑤f 本件文書⑤に関する報告,記録又は引用をした報告書及び公電などの文書(以下「本件文書⑥」という。)g 本件文書⑤に関する翻訳文(以下「本件文書⑦」という。)本件文書①ないし本件文書⑦は,沖縄返還に際し,日本がアメリカに対し,返還軍用地の原状回復に関して財政負担をする旨の合意をした文書であり,アメリカが占領を終えて日本を立ち去るに当たっての費用を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容の文書である - 8 -から,本件対象文書に含まれる。原告の開示請求は,文書名を特定してしたものではなく,文書の内容を特定してしたものであるから,その内容を含む外務省保有のすべての文書が請求対象となる。 本件文書①は,沖縄返還以前にアメリカが軍用地として使用していた土地の原状回復費用400万ドルを日本が肩代わりするという合意であり,本件対象文書に該当することは明らかである。本件文書②は,VOA施設の日本国外への移設費用を日本が負担することの合意であり,この費用(1600万ドル)は,沖縄返還協定7条に基づいて日本政府が肩代わりした沖縄からの核撤去費用(7000万ドル)を流用して行われたものであるから,これが返還軍用地の原状回復費用の肩代 であり,この費用(1600万ドル)は,沖縄返還協定7条に基づいて日本政府が肩代わりした沖縄からの核撤去費用(7000万ドル)を流用して行われたものであるから,これが返還軍用地の原状回復費用の肩代わりに関する費用であることは明らかである。本件文書⑤は,沖縄返還協定に記載された3億2000万ドルを超える金額を日本が負担することの合意であり,これには,アメリカ軍の基地移転費等として2億ドル相当を日本が支払う内容が含まれているのであるから,これが返還軍用地の原状回復費用に関する内容を有する文書であることは明らかである。 また,本件文書③及び本件文書⑥は,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤に関する報告,記録又は引用をした報告書及び公電等の文書であるが,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤は,沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した文書であるから,これらの文書に関して,報告,記録又は引用をした報告書及び公電等の文書は,当然に上記合意の内容を含み合意内容を明らかにするものであって,約束あるいは合意した内容を示す文書に該当する。本件文書④及び本件文書⑦も,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤の翻訳文であり,基本となる文書が本件対象文書に含まれる以上,本件対象文書に含まれる。 返還軍用地の原状回復費に関する問題は,被告主張の「沖縄返還協定 - 9 -4条3項においてアメリカ政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりすることを内容とする非公表の文書(「議論の要約」)が作成されたのではないかというもの」に限られない。上記主張は,本件密約が合意内容を記した文書の存在する「狭義の密約」であることを前提とするものであるが,有識者報告 る非公表の文書(「議論の要約」)が作成されたのではないかというもの」に限られない。上記主張は,本件密約が合意内容を記した文書の存在する「狭義の密約」であることを前提とするものであるが,有識者報告書は,本件密約は明確な文書による合意がない「広義の密約」であったとしているのであり,上記主張は前提を欠く。 沖縄返還交渉の経緯によれば,本件対象文書を特定する「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容」とは,返還軍用地の原状回復費400万ドルを含む「3億2000万ドルによる一括パッケージ解決」の内容を含むものであり,本件密約が広義の密約である以上,交渉過程で作成された関連文書を精査することによって初めてその内容が明らかとなるのであるから,上記一括パッケージ解決に至る交渉過程で作成された関連文書は,全て本件対象文書となる。本件文書②及び本件文書⑤は,上記関連文書に該当するから,本件対象文書に該当することは明らかである。 (イ) 本件対象文書は,本件文書①ないし本件文書⑦に限られるものではない。原告は,合意文書ではなく合意内容を示す文書,すなわち関連文書を含むその合意内容とその経緯が分かる行政文書の開示請求をしているのである。外務省及び有識者委員会の調査によれば,原状回復補償費の肩代わりの関連文書として外務省が作成,取得した本件報告文書及び本件関連文書が保有されていることが判明し,これらは行政文書に該当するところ,有識者報告書によれば,「原状回復補償費として米側が自発的支払を行うものの,その財源を日本側が負担するという合意が成立していたこと,その財源の400万ドル(VOA施設移転費1600万 - 10 -ドルと併せて2000万ドル)を日本側支払総額の3億ドルに追加す うものの,その財源を日本側が負担するという合意が成立していたこと,その財源の400万ドル(VOA施設移転費1600万 - 10 -ドルと併せて2000万ドル)を日本側支払総額の3億ドルに追加することについて双方が了解していたこと」は明確に文書化されていない「広義の密約」に該当するというのであるから,その合意内容は,交渉過程で作成された関連文書を精査することによって初めて明らかになる性質のものであり,本件報告文書及び本件関連文書は合意内容を示す文書として本件対象文書に該当する。 原告は,原状回復費の肩代わりの広義の約束あるいは合意をした内容を示す文書として,その内容とその経緯が分かる行政文書の開示を請求しているのである。原告の本件開示請求に対し,外務省は,行政文書の名称ではなく行政文書の内容において特定されているものと判断し,原告に補正を求めなかった。昭和47年当時,沖縄返還に当たっては,表向きは日本政府がアメリカに原状回復費を支払うことは一切ないとされていたにもかかわらず,実は原状回復補償費としてアメリカ側は自発的支払を行うものの,その財源を日本側が負担するという約束が成立していた,すなわち,沖縄返還に伴いアメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることになったという経緯を示す文書もまた,その内容あるいは内容を示す文書として開示請求の対象文書となる。外務省が,本件開示請求に対し,本件報告文書及び本件関連文書を原告の開示請求の対象外文書とし,その保有状況すら明らかにしなかったのは,情報公開法4条及び22条の趣旨に反する隠蔽行為であったというべきである。日本政府は,「米国政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりする」密約など一切存在しないと主張してきたので 反する隠蔽行為であったというべきである。日本政府は,「米国政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりする」密約など一切存在しないと主張してきたのであり,本件不開示決定時に,外務省職員において,このような狭義の密約の存在を前提として,その狭義の密約に開示請求対象文書が特定されていたと解釈することは,およそ想定されない。 - 11 -さらに,被告は,有識者報告書の記載が,本件対象文書の特定に当たり考慮すべき事情になったり,外務省職員の判断が不合理であるとされる根拠になったりするものではないというが,有識者報告書で存在が明らかになった本件報告文書及び本件関連文書は本件不開示決定時にも存在していたことからすれば,有識者報告書の記載により,本件文書①ないし本件文書⑦が本件対象文書に含まれること及び本件不開示決定が不合理であったことが明らかになったというべきである。 被告は,原告が異議申立書及び訴状において本件対象文書を「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費400万ドルを日本政府が支払うことに合意した内容を示す文書」である旨記載していたと主張するが,当該記載部分は,アメリカ国立公文書館において発見された文書の説明をした部分にすぎず,本件対象文書は,それよりも広く,「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す文書」として表示されていた。 イ被告(ア) 開示請求対象文書の特定に当たっては,請求を受けた行政機関の専門職員が合理的努力で特定するものとされているところ,本件開示請求については,請求書の記載から,外務省職員において,本件対象文書としては,沖縄返還交渉の最終局面において,沖縄返還 受けた行政機関の専門職員が合理的努力で特定するものとされているところ,本件開示請求については,請求書の記載から,外務省職員において,本件対象文書としては,沖縄返還交渉の最終局面において,沖縄返還協定4条3項においてアメリカ政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりすることを内容とする非公表の文書が作成されたのではないかという問題についての文書であると特定し,本件不開示決定に至ったものであり,外務省職員のこの判断は,本件開示請求書の記載からして極めて合理的である。原告が,有識者報告書を根拠として「返還軍用地の原状回復費400万ドルを含む3億2 - 12 -000万ドルによる一括パッケージ解決に至る交渉過程で作成された関連文書がすべて本件対象文書になる」としているが,この有識者報告書の作成時期からしても,その内容の性格からしても,その記載が,本件対象文書の特定に関して,考慮すべき事項になったり,外務省職員の判断が不合理であるとされる根拠になったりするものではない。 (イ) 本件米国文書2(甲6)及び本件米国文書3(甲8)には,「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容」そのものの記載はないから,これらの文書と同内容の本件文書②及び本件文書⑤が本件対象文書に含まれるということはできない。 原告の主張する本件米国文書2及び本件米国文書3の記載内容からしても,これらの記載内容が本件対象文書の内容とされている「返還軍用地の原状回復費の肩代わり」と異なるものであることは明らかである。 本件文書③及び本件文書④のうち本件文書②に係る部分並びに本件文書⑥及び本件文書⑦についても同様である。 本件対象文書は返還軍用地の原状 状回復費の肩代わり」と異なるものであることは明らかである。 本件文書③及び本件文書④のうち本件文書②に係る部分並びに本件文書⑥及び本件文書⑦についても同様である。 本件対象文書は返還軍用地の原状回復補償費に関するものであって,VOA施設移転費や基地移転費等に関するものではないことは文言から一見して明らかである。この返還軍用地の原状回復補償費に関する問題は,沖縄返還交渉の最終局面において,沖縄返還協定4条3項においてアメリカ政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりすることを内容とする非公表の文書(「議論の要約」)が作成されたのではないかというものであり,原告自らも異議申立書や訴状においては,この問題についての文書を開示請求対象文書とする意思であったことを明らかにしていた。本件文書②及び本件文書⑤は,上記問題に関する文書でないことは明らかであり,本件対象文書には含まれない。 - 13 -(ウ) 原告は,本件報告文書及び本件関連文書が本件対象文書に含まれるというが,本件開示請求の対象である「約束あるいは合意した内容を示す文書」という文言を合理的に解釈すれば,約束あるいは合意の内容を明示した文書を指すと解するほかなく,約束あるいは合意に至る経緯を記載した関連文書までをも含むとは解し得ないから,原告の上記主張は失当である。 (2) 争点(2)(本件対象文書の存否)についてア原告(ア) 昭和47年の沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費400万ドルを日本政府が支払うことに合意した文書が,アメリカ国立公文書館で,数多く見つかっている。通常,日米両国間の合意内容を示す文書がアメリカにしか存在しないということはあり得ない。 これらの文書は,原告が開示を求めた文書 うことに合意した文書が,アメリカ国立公文書館で,数多く見つかっている。通常,日米両国間の合意内容を示す文書がアメリカにしか存在しないということはあり得ない。 これらの文書は,原告が開示を求めた文書(本件対象文書)であるところ,日本政府内においても存在しなければならず,とりわけ返還交渉を進めてきた外務省に存在しなければならないはずである。 少なくとも本件米国文書1ないし本件米国文書3は,現に存在している。これらの文書はアメリカ国立公文書館で公開されており,また沖縄県公文書館においても公開されている。 本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤は,いずれも沖縄返還交渉の当事国であった日本とアメリカの代表がイニシャルを付して合意をした正式な文書であり,行政文書として日本が保有し管理をする義務を負うものである。また,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤は,日本がアメリカに対して支払う財政に関する取り決めであるから,日本は,アメリカとの間で将来財政負担の内容について紛争が生じないよう,その内容を明確化する目的でこれらの文書を保有・管理していなければならないはずである。さらに,日本は,沖縄返還協定7条により,5年間に - 14 -わたりアメリカに対して支払を予定し,また,本件文書⑤の合意によって,物品,役務により基地移転費及びその他の費用2億ドルを5年間にわたり負担し,通貨交換後の預金については25年以上経過した後にその返還を求めるはずであり,これらの日本のアメリカに対する財政負担が長期にわたる以上,その支出根拠を明確化しておく必要があるため,日本は本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤を保有・管理していなければならない。 加えて,本件米国文書1及び本件米国文書2については,当時の交渉担当者であった吉野自身が秘密の合意の存在とイニシャルが自身 本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤を保有・管理していなければならない。 加えて,本件米国文書1及び本件米国文書2については,当時の交渉担当者であった吉野自身が秘密の合意の存在とイニシャルが自身のものであることを認めている。吉野証言によれば,本件米国文書1の写しが作成され,外務省がこれを取得したことが認められる。 また,外務省は,自主的に行政文書を公開する外交記録の公開制度により,日米間の沖縄返還交渉のうち,昭和42年に行われた佐藤栄作・ジョンソン会談についての文書及び関連文書を詳細に開示しているにもかかわらず,沖縄返還交渉が本格化し,沖縄返還協定が締結された昭和44年から昭和46年までに作成された本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤について何らの記録も無いというのは極めて不自然である。そして,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤は吉野又は柏木雄介大蔵省財務官が日本の代表として合意したものであるから,その交渉当事者でなかった総理大臣,外務大臣及び大蔵大臣等の関係各所に対し合意の内容を報告する文書,公電及び翻訳文(本件文書③,本件文書④,本件文書⑥及び本件文書⑦)が作成され,現在まで所轄の省庁に保管されているのは,行政実務上当然である。 本件文書①は,文書の作成者や表現振りを含め,密約成立の経緯を踏まえて,最終的に確定した文書の内容を外務省において保管しておく必要性は極めて高かったし,吉野らが外務大臣に対し最終的な文書の内容 - 15 -を示す必要性もあったはずである上,沖縄返還交渉における難局を打開した経緯又は手法を示す外交関係文書として,第一級の歴史価値を有するものであり,極めて重要性が高い文書であるにもかかわらず,本件文書①が保管されていないのは,本件報告文書及び本件関連文書が保管されていることと比較して極めて不自然 書として,第一級の歴史価値を有するものであり,極めて重要性が高い文書であるにもかかわらず,本件文書①が保管されていないのは,本件報告文書及び本件関連文書が保管されていることと比較して極めて不自然である。日本政府が密約の存在を秘匿し,隠蔽してきた事実からすれば,これらの文書は相当高位の立場の者が関与した上で通常と異なる方法で管理が行われたと考えるほかない。 1960年1月の安保条約改定時の核持ち込みに関する「密約」に関する東郷和彦外務省条約局長(以下「東郷」という。)の衆議院外務委員会における証言によれば,同人は,前任の条約局長から引き継いだ文書等からなる日米安保関連資料を赤,青及び黒の箱形ファイルにまとめたというのである。本件文書①は,昭和47年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する密約に関する重要文書であるから,これらの箱形ファイルのいずれかに含まれていたか,文書管理規程に基づく一定水準以上の管理体制下に置かれ,外務省内のどこかに保管されているかの蓋然性が高い。 被告の主張は,「ないものはない」という形式論であり,本件文書①が存在しない理由について合理的な説明をしていない。 なお,欠落委員会報告書は,外務省が本件文書①の原本又は写しを保有していたことを強く示唆しているというべきである。 (イ) 外務省の文書管理規程・規則に照らし,本件文書①ないし本件文書⑦は存在する。本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤は,昭和36年9月1日改正施行の外務省文書編さん規程(甲17の2)11条の「本邦関係の条約書,批准書等一切の国際約束に関する文書」に該当し,同規程16条により別に保存することとされており,また,保存期間につ - 16 -いては,外務省記録及び記録文書保管,保存・廃棄規程(甲17の4)により,本件文書①,本件文書 る文書」に該当し,同規程16条により別に保存することとされており,また,保存期間につ - 16 -いては,外務省記録及び記録文書保管,保存・廃棄規程(甲17の4)により,本件文書①,本件文書②,本件文書⑤及びその翻訳文である本件文書④,本件文書⑦は,日本国が諸外国と締結した一切の条約本書として,また,本件文書③,本件文書⑥は条約の締結交渉に関する一切の文書としていずれも第一類文書に該当し,保存期間は永久とされていることからして,廃棄されることはない。その後,平成13年4月1日に施行された外務省文書管理規程により,同規程の施行以前に永久保存とされた文書については,作成又は取得から30年が経過した時点で廃棄又は外交史料館への移管のための手続に付するよう努めることとされた(同規程附則5)が,文書が廃棄される場合には,廃棄記録が作成されるところ,本件文書①ないし本件文書⑦についてそのような廃棄記録はないから,いまだ外務省が保有していると解すべきである。なお,外務省文書管理規程は,平成15年に改定され,平成16年に外務省文書管理規則に改められ,平成18年に改正されているが,廃棄記録を作成する必要があることには変わりはない。 (ウ) 行政文書の不存在を理由とする不開示決定の取消訴訟において,同訴訟の原告である開示請求者が行政機関が当該行政文書を保有していることについて主張立証責任を負うとしても,原告が① 過去のある時点において,当該行政機関の職員が当該行政文書を職務上作成し,又は取得し,当該行政機関がそれを保有するに至り,② その状態がその後も継続していることを主張立証した場合は,被告は,当該行政文書が不開示決定の時点までに廃棄,移管等されたことによってその保有が失われたことを主張立証しない限り,当該行政機関は不開示決定時に当該行政 継続していることを主張立証した場合は,被告は,当該行政文書が不開示決定の時点までに廃棄,移管等されたことによってその保有が失われたことを主張立証しない限り,当該行政機関は不開示決定時に当該行政文書を保有していたと認められるべきである。本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤については,吉野がその存在を認めており,また,これらの文書は,当時の外務省記録及び記録文書保管,保存・廃棄規程によ - 17 -り,保存期間は永久とされていたことから,外務省が保有していたというべきである。同規程によれば,永久保存文書に関し廃棄することができるのは,「保存の必要がないと認められるに至ったもの」で「関係局部課長と協議の上,官房長の決裁を経」たものであるところ,本件文書は沖縄返還における交渉の経緯又は手法を示す外交関係文書として極めて重要性が高いものであるから,保存の必要がないと判断されることはあり得ない。 行政文書は,行政機関が定める文書管理規程によって類別され,保存年限が定められ,保有期限の終了等によって廃棄・移管がされる。一般には,行政機関は,行政文書の管理を文書管理規程に従って行うと考えられるから,一旦作成,取得,保有された行政文書は一定水準の管理体制に置かれていることになり,保有の状態が継続していることが事実上推認される。こうした経験則は,行政機関の文書管理規程が存在していることに鑑みれば,行政機関の行政文書の保有に関する一般的な経験則と考えられる。被告が主張する文書の性格,作成・取得の状況,保存の状況,作成・取得の時点から保有の有無が問題となるまでの期間,当該文書やその取得等の経過を記録すべき必要性,文書管理規程の内容等の諸般の事情による文書の取扱いの差異といった点は,上記経験則を支えるものではなく,行政機関において主張立証すべきも るまでの期間,当該文書やその取得等の経過を記録すべき必要性,文書管理規程の内容等の諸般の事情による文書の取扱いの差異といった点は,上記経験則を支えるものではなく,行政機関において主張立証すべきものとされた「当該行政文書が不開示決定の時点までに廃棄,移管等されたことによってその保有が失われたこと」を行政機関が主張立証する際に機能する,事案に応じた個別具体的な事情である。また,行政機関側で不開示決定の時点までに行政文書の保有が失われたことを主張立証することはそれほど困難なことではない。 本件文書①ないし本件文書⑦が示す内容は,外務省によって,長年にわたり意図的に秘匿されてきた密約そのものであり,取扱いや行方等に - 18 -ついて聴取しなければ文書の存在が確認できないのは,外務省があえて行った通常と異なる管理方法によって生じた事態であって,上記事実上の推認を破るために,外務省に対し,高度の探索方法を求めることは不合理ではないし,そのような文書だからといって「組織的に用いるもの」の要件が失われるとはいえない。 イ被告(ア) 沖縄返還に際しての支払に関する日米の間の合意は,沖縄返還協定がすべてであり,そのほかに,沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることの約束あるいは合意等は存在せず,外務大臣は,本件対象文書を保有していない。 平成17年12月から平成18年2月にかけて外務省において行われた確認作業では,本件文書①は発見されなかった。 平成21年9月16日の岡田外務大臣の命令に基づく調査チームの調査及び調査チームの作成した外務省調査報告書の検証等を行った有識者委員会の調査によっても本件文書①ないし本件文書⑦は発見されず,また,外務省に設置された欠落委員会の調査によっても本件文書① ームの調査及び調査チームの作成した外務省調査報告書の検証等を行った有識者委員会の調査によっても本件文書①ないし本件文書⑦は発見されず,また,外務省に設置された欠落委員会の調査によっても本件文書①は発見されなかったのであるから,外務省がこれらの文書を保有していないことが明らかとなった。 吉野も,本件米国文書1について,日本側が写しを取得したかどうかについては推測による供述をしているにとどまり,また,保存の状況については,知らない旨述べ,廃棄された可能性があることも述べている。 有識者報告書も廃棄された可能性を指摘している。 (イ) 原告は,外務省の文書管理に関する規程・規則を根拠に,本件文書①ないし本件文書⑦が不存在ということはあり得ないというが,そもそも,外務省としてこれらの文書を取得していたかどうかは明らかではない。また,仮に,外務省がこれらの文書を取得し,これらの文書が,一 - 19 -旦は永久保存の文書として保存されていたとしても,その後文書管理規程にのっとって廃棄された可能性は排除されない。本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤に記載されている年月日における外務省の文書管理体制は,外務省記録及び記録文書保管,保存・廃棄規程(甲17の1,4及び5)によって運営されていたが,この規程の12条2項によれば,一旦永久保存文書とされた文書であっても,その後,保存の必要がないとして保存を廃止する判断がされることがある。したがって,仮に外務省が,本件文書①,本件文書②及び本件文書⑤と同一内容の文書を取得していたとしても,保存の必要がないとして廃棄された可能性は排除できず,また,廃棄されていたとしても文書管理の諸規定に抵触することはない。 文書が廃棄される場合,廃棄に関する文書が作成されることがあるが,これらは,5年保存の文書とさ て廃棄された可能性は排除できず,また,廃棄されていたとしても文書管理の諸規定に抵触することはない。 文書が廃棄される場合,廃棄に関する文書が作成されることがあるが,これらは,5年保存の文書とされ得るものであるから,廃棄に関する具体的な記録自体が現時点までに廃棄され,存在していないことも十分に考え得るし,このことが文書管理の諸規定に反することもない。 (ウ) 行政文書の不開示決定の主張立証責任に関する原告の主張は,誤った経験則に基づくもので失当である。すなわち,行政機関が一旦文書を作成又は取得して保有するに至った場合,その後,その保有の有無が問題となる時点まで行政機関がその保有を継続していると推認できるという一般的な経験則は存在しない。一般に,処分時点において行政機関がそれより過去に一旦は作成・取得した行政文書の保有を継続しているとの事実上の推認が働くかどうか,また,その文書の作成・取得,保存,廃棄等の経過が明らかになるかどうかについては,当該文書の性格,作成・取得の状況,保存の状況,作成・取得の時点から保有の有無が問題となる時点までの期間,当該文書やその取得等の経過を記録し保存すべき必要性,当該行政機関における文書管理のための規定の内容等の諸般 - 20 -の事情に左右されるのであって,これらの文書の取扱いの差異を無視して,一律に一定の経験則を立てることはできない。そもそも,外務省が過去に対象文書を取得,保存したと認めるに足りる明確かつ十分な証拠はない。 また,上記のとおり,行政機関が不開示決定の時点においても当該行政文書を保有していたと推認される場合には,当該行政機関が合理的かつ十分な探索を行ったにもかかわらずこれを発見できなかったときに,上記推認が破られるものと考えるとしても,その合理的かつ十分な探索として実効が非 していたと推認される場合には,当該行政機関が合理的かつ十分な探索を行ったにもかかわらずこれを発見できなかったときに,上記推認が破られるものと考えるとしても,その合理的かつ十分な探索として実効が非常に困難な高度のものを要求するのは相当ではなく,また,そのような探索をしなければ発見されないような文書はもはや業務上必要なものとして利用又は保存されているとはいい難く,行政文書とはいえないものであるから,このような探索を求めることは不合理である。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件密約に関する経緯ア沖縄返還協定4条1項は,日本と日本国民のアメリカに対する請求権を放棄しているが,同協定4条3項には,沖縄返還時に,アメリカが軍用地として使用していた土地で,1950年(昭和25年)7月1日前に損害を受け,かつ1961年(昭和36年)6月30日後から協定の発効前にその使用を解除された土地について,アメリカが原状回復のための「自発的支払」を行う旨の規定が置かれている。返還交渉の過程において,当初アメリカ側は,既に必要な原状回復補償は終了しており,これ以上の財政支出を求めないことを議会に約束していたことから,支払に応じようとしなかったが,琉球政府及び沖縄住民の強い要望を背景に,日本側の粘り強 - 21 -い交渉の結果,アメリカ側は「自発的支払」に応ずることになったものである。その財源について,アメリカ側は,原状回復のための新たな財政支出について議会を説得することは困難との立場を崩さなかったため,「自発的支払」に必要な額を日本政府が支出することになったとされる。つまり,原状回復費用を日本側が「肩代わり」することになり,そのことを確認するため,協定調印の直前で 難との立場を崩さなかったため,「自発的支払」に必要な額を日本政府が支出することになったとされる。つまり,原状回復費用を日本側が「肩代わり」することになり,そのことを確認するため,協定調印の直前である昭和46年(1971年)6月12日に,吉野とスナイダーとがイニシャルを書き込んだ非公表の本件米国文書1が作成され,これが沖縄返還交渉に係るいわゆる「密約」の一つとされてきた。 沖縄返還に伴う財政経済措置に関する交渉過程では,その他の「密約」として,本件米国文書2及び本件米国文書3がアメリカ側公開資料によって確認されている。 イ沖縄を占領したアメリカ軍は,占領行為の結果として沖縄の土地を無償で接収し,日本の独立後も引き続き軍用地として使用していたが,日本国との平和条約19条により日本政府が請求権を放棄していることを根拠に,補償の義務は負わないとしていた。しかし,昭和30年頃から補償要求が高まり,アメリカは,政治的配慮から昭和25年6月30日以前に損害(形質変更)を受けた軍用地であって,昭和36年6月30日以前に解放されたものについては,補償金(見舞金)を支払っていた。他方,同年7月1日以降に解放された軍用地について,アメリカ政府は,何らの補償措置も執っていなかった。 昭和45年10月,琉球政府は,愛知揆一外務大臣(以下「愛知外務大臣」という。)に対し,昭和25年6月30日以前に形質変更され,昭和36年7月1日以降に返還(予定を含む。)された土地について,法的責任とは別に施政権者として当然適切な措置を講ずべきものであり,このまま放置することは事実上補償された同年6月30日までに返還された土地 - 22 -に比べて著しく公平を欠くとして補償を要請した。琉球政府は,返還されたが未補償となっている土地は139万坪,補償金は430万ドル は事実上補償された同年6月30日までに返還された土地 - 22 -に比べて著しく公平を欠くとして補償を要請した。琉球政府は,返還されたが未補償となっている土地は139万坪,補償金は430万ドルに上ると推計していた。外務省も,アメリカ側に地主に対する見舞金の支払を主張する考えであった。 昭和45年12月,外務省は沖縄住民の対米請求の取扱いについて日本政府の基本的な考え方を取りまとめ,対米要求項目を絞った上でアメリカ側に提示した。非公式にもたらされたアメリカ側の反応は,上記原状回復補償の問題等についてはアメリカ側による処理が妥当であることを認めつつも,その財源の捻出に苦慮している模様であった。また,この提案に関連し,愛知外務大臣は,同年12月22日のアーミン・マイヤー駐日大使(以下「マイヤー大使」という。)との定例会談において,土地の原状回復等については,衡平の観点から「自主的支払」を要求する趣旨の請求権に関するTalkingpaper を手交し,かつ口頭で説明を行った。マイヤー大使は,請求権問題については,「復帰は米国にとり出費を伴うことなし」との原則からして,請求事項について財政支出を議会に要求することは甚だ困難である旨述べた(本件報告文書1)。 請求権問題が難航したのは,アメリカ側の「支出を伴わぬ復帰」という原則的立場に加え,自発的支払のためには,議会に対する歳出権限の取付けが必要であり,それが困難であったからである。一方,日本側は,請求権問題についてアメリカ側支出による解決をみることは,返還協定の国会審議上,また,復帰後の施設区域用地の円滑な確保のためにも是非とも必要との立場であった。 アメリカ政府の公式的な立場は,昭和46年4月21日の日米協議で示され,この日の協議で,スナイダーは,日本側が現地からの請求を合理的 区域用地の円滑な確保のためにも是非とも必要との立場であった。 アメリカ政府の公式的な立場は,昭和46年4月21日の日米協議で示され,この日の協議で,スナイダーは,日本側が現地からの請求を合理的な範囲に整理されたことを高く評価するが,アメリカ政府は議会に対し将来追加支出はない旨を約束しており,日本側請求権に対する支払は遺憾な - 23 -がら困難であると改めて従前の立場を強調した(本件報告文書2)。この頃から,返還協定の案文の具体的内容の検討が始まっていたが,請求権問題は第4条で扱われることになり,特に日本側は,アメリカ側による見舞金(補償費)の「自発的支払」の明記を求めていた。 愛知外務大臣は,昭和46年5月11日のマイヤー大使との会談で,講和前補償の対象となっていない軍用地地主の補償請求について,公平の見地からアメリカの見舞金の自発的支払を協定中に規定することを強く要請した。マイヤー大使は,土地所有者への公平性は認識しているが,議会に対し講和前補償についてはこれ以上の財政支出を要求しない旨約束しているとの主張を繰り返した。これに対し,愛知外務大臣が,この問題が解決しない限り沖縄住民の納得は得られない旨指摘する一方,「私見ではあるが,アメリカ側の見舞金支払財源は当方としても考慮してもよいのではないかと思う」と述べたところ,マイヤー大使らは,愛知外務大臣の示唆を,アメリカ議会に財政支援を求めることを回避できるとして歓迎した。同月12日の事務レベル協議で日本側は,軍用地地主への補償の財源を日本政府が支払う財政措置に含ませることを示唆した。また,この日の協議では,日本側はアメリカ側の議会対策を考慮し,代替基地建設のため全額を補償すること,その支払は3億ドルの一括総額支払に含めるという修正提案を行い,アメリカ側はこれを了承した。ま 。また,この日の協議では,日本側はアメリカ側の議会対策を考慮し,代替基地建設のため全額を補償すること,その支払は3億ドルの一括総額支払に含めるという修正提案を行い,アメリカ側はこれを了承した。またVOA施設移転費についても5年間は暫定的に沖縄において運用し,2年後には協議を開始するという条件の下で1600万ドルとすることに合意した。外務省は,VOA施設移転費(1600万ドル)と請求権対応を合わせた2000万ドルをそれまでに決まっていた支払額である3億ドルの外枠として扱う方針の下で大蔵省側と折衝を進め,同年5月下旬には福田赳夫大蔵大臣と愛知外務大臣の間で合意が成立し,佐藤栄作総理大臣の了承も得たとみられる。 マイヤー大使は,同月28日の協議で「財源の心配までしてもらったこ - 24 -とは多としているが,議会に対し見舞金については予算要求しないとの言質をとられているので,非常に困難に直面している。」と述べ,同年6月2日の愛知外務大臣との会談でも,マイヤー大使は請求権について日本案を受諾するよう何度もワシントンに督促しているが,ワシントンでは「下院の実力者を説得する要ありとして未だ回答をよこしていない。」と述べた(本件報告文書5)。 同月5日,愛知外務大臣はOECD理事会出席のため,パリに向けて出発した。スナイダーは,同日,国務省の法律専門家が請求権問題の財源について,議会に政府歳出を求めるプロセスを回避できる新方式を発見した模様であると述べ(本件報告文書6),同月9日の会合(本件報告文書7)で,1896年2月制定の信託基金法に基づき,請求権に関する日本側提案を受諾することが可能となった旨述べた上,① 日本側案の4条3項に「400万ドルを超えない」という条件を追加すること,② 信託基金(TrustFund)設立のため,愛知外 請求権に関する日本側提案を受諾することが可能となった旨述べた上,① 日本側案の4条3項に「400万ドルを超えない」という条件を追加すること,② 信託基金(TrustFund)設立のため,愛知外務大臣からマイヤー大使宛てに,「日本政府は米政府による見舞金支払のための信託基金設立のため400万ドルを米側に支払うものである。」という趣旨の「不公表書簡」を提出することの2点を要望した。スナイダーは,②の「不公表書簡」はアメリカ政府部内における説明が必要とされる場合にのみ提示されるもので,その場合も極秘資料として取り扱うとし,この書簡がないと請求権に関する日本側の提案は受諾し得なくなると付言し,アメリカ国内で説明が必要な場合には,「必要な支払のため」について,「4条の下でされる自主的支払の財源の設定を含む」と追加説明をせざるを得ないことを了承願いたい旨述べた。 これに対して,日本側は,上記①はアメリカ側内部の問題であり,こうした規定がなくともその支出を400万ドルに抑えることはできるはずであるとして追加部分の削除を求め,上記②の不公表書簡については,いかに秘密であろうと資金源について触れることは受け入れ難いとして以下の - 25 -「日本側書簡案」を提示した(本件報告文書7)。 「外務大臣からの秘密の書簡日本政府は,沖縄返還に伴う財政問題の一括決済として7条に合意した。 日本政府は,アメリカ政府が,4条3項の規定に従って自発的支払をするための信託基金を設定するために,この一括決済額から400万ドルを留保することを了知する。」スナイダーは,この案に対し,本省からの訓令とは異なるとしつつも日本側提案をアメリカ政府に取り次ぐことを約束した。日本側も,パリの愛知外務大臣と協議することとした。 一方,パリの愛知外務大臣は,吉野及びA法規課 この案に対し,本省からの訓令とは異なるとしつつも日本側提案をアメリカ政府に取り次ぐことを約束した。日本側も,パリの愛知外務大臣と協議することとした。 一方,パリの愛知外務大臣は,吉野及びA法規課長と共に,昭和46年6月9日(現地時間),駐仏アメリカ大使館でロジャーズ国務長官との会談に臨んだ。ロジャーズ国務長官はアメリカ政府の自主的支払のため日本側が財源を提供することに感謝の意を表すとともに,やはり書簡を必要とすると述べたのに対し,愛知外務大臣は公表しないものと了解してよろしいかと念を押した。ロジャーズ国務長官は,行政府としてはできるだけ不公表としておくよう努力するが,議会との関連でこれを公表せざるを得ない場合も皆無ではないと応じた。そこで,愛知外務大臣は,書簡の表現振りについては,これが公表されるというのであれば,表現もより慎重に考えたいと答え,ロジャーズ国務長官もこれに応じた。こうして書簡内容に関する交渉は東京における日米の作業に委ねられた(本件報告文書8)。 東京では,吉野を含め,書簡の内容と扱いについて,日米間の集中的な協議がされ,アメリカ側資料によれば,同月12日の最終協議において,「署名による書簡」とするか「交渉記録」とするかが議論となり,日本側の交渉当事者の意見は二分されたという。吉野は,交渉経緯の全体に言及することを避けるため,両者を折衷させた「議論の要約」を作成し,アメリカ議会の有力者を説得することを提案したようである。アメリカ側資料 - 26 -によれば,吉野は,「合意された交渉記録」として吉野とスナイダーによってイニシャルが書き込まれるのであれば議会関係者の説得材料として文書の価値は確保される旨指摘したと記録している。日米の交渉当事者間で合意した「4条3項に関する議論の要約」が本件米国文書1である。スナ イニシャルが書き込まれるのであれば議会関係者の説得材料として文書の価値は確保される旨指摘したと記録している。日米の交渉当事者間で合意した「4条3項に関する議論の要約」が本件米国文書1である。スナイダーは,この「議論の要約」を双方が受諾可能なものとして本国政府に勧告する旨述べている。 (以上につき,甲4ないし15,21の1ないし10,同22,23,26,乙3の1・2,同5)ウ昭和46年6月12日頃,スナイダーが本件米国文書1を持って外務省のアメリカ局長室を訪れたため,吉野はその左下部分に「B.Y.」と自分のイニシャルを書き込み,スナイダーもイニシャルを書き込んだ。スナイダーは,イニシャルが書き込まれた本件米国文書1を持ち帰った(このとき,コピーが作成されたと認められるかどうかについては後に検討する。 なお,乙第8号証(欠落委員会報告書)では,本件米国文書1の原本が2通あり,1通を日本側が保管した可能性についても触れられているが,吉野は,欠落委員会のインタビューに対し,原本が1通あったか2通あったかの記憶はないと話すにとどまっていることに加え,乙第5号証(別件訴訟における吉野の証人調書)に照らし,原本はスナイダーが持ち帰った1通のみであったと認めるのが相当である。)。なお,本件米国文書1に吉野及びスナイダーがイニシャルを書き込むことについては,事前に愛知外務大臣及び条約局長との間で合意があり,吉野がイニシャルを書き込んだ後には条約局長への報告がされた(事後に愛知外務大臣への報告がされたことを認めるに足りる証拠はない。)。(乙5,8)エ上記イ記載の交渉は秘密裏に行われたが,昭和47年になって,野党に所属する国会議員が上記交渉の経過を伝える外務省極秘公電の写しを入手し,その内容が日本政府の説明と異なっていることについて,外務大 エ上記イ記載の交渉は秘密裏に行われたが,昭和47年になって,野党に所属する国会議員が上記交渉の経過を伝える外務省極秘公電の写しを入手し,その内容が日本政府の説明と異なっていることについて,外務大臣に - 27 -就任していた福田赳夫(以下「福田外務大臣」という。)らを追及した。 特に,沖縄返還条約でアメリカ側が負担することとなっている返還軍用地の原状回復費400万ドルについて沖縄返還協定で日本政府がアメリカに対して支払う3億2000万ドルの中に含まれており,日本政府が負担するとの密約があるのではないかとの追及がされ,福田外務大臣らはそれを否定する答弁をした。また,その頃,公電の写しを持ち出した外務省職員と毎日新聞記者が国家公務員法違反で有罪となる事件が起きた。(甲12,14,15,23,乙3の1・2)(2) 本件米国文書2及び本件米国文書3の作成経緯ア沖縄にあったVOA施設については,日本側が,日本国外への移転を求めたのに対し,アメリカ側は,VOA施設が果たしている役割の重要性から,これに難色を示した。交渉の結果,アメリカにおいて5年後にVOA施設を日本国外へ移転することになったが,日本側は,遅くとも昭和46年5月下旬には,佐藤栄作総理大臣,愛知外務大臣及び福田赳夫大蔵大臣も了承の上,VOA施設の移転費用として見積もられた1600万ドルを現金による支払額3億ドルに上乗せして支払うこととしていた。 吉野は,昭和46年6月11日,外務省のアメリカ局長室において,スナイダーが持参した本件米国文書2にスナイダーと共にそれぞれイニシャルを書き込んだ。なお,本件米国文書2が作成された趣旨は,本件米国文書1と同じく,アメリカ政府の議会に対する説明のための資料としてのものであり,また,吉野がスナイダーと共に本件米国文書2にイニシャルを を書き込んだ。なお,本件米国文書2が作成された趣旨は,本件米国文書1と同じく,アメリカ政府の議会に対する説明のための資料としてのものであり,また,吉野がスナイダーと共に本件米国文書2にイニシャルを書き込むことについて,愛知外務大臣及び条約局長はあらかじめ了承していた。 本件米国文書2は,日本が,昭和46年6月11日,沖縄返還協定7条によってアメリカに支払う3億2000万ドルのうち1600万ドルがVOA施設の移転費に充てられることを前提に,仮にVOA施設の移転費の - 28 -実際の金額が1600万ドル未満で済んだ場合には,1600万ドルとの差額分をアメリカが日本に返金するのではなく,日本においてこれとは別に負担することとしていた施設改善移転費6500万ドルから差し引くことによって調整することとしていることを,アメリカとの間で合意した旨の文書である。 (以上につき,甲6,7,22,乙3の2,同5)イ本件米国文書3は,沖縄返還交渉の初期段階である昭和44年12月2日に作成された,沖縄返還における財政経済問題に関して後に行う詳細の折衝において日米両国が従うべき原則についての共通認識の概要を示したもので,① 日本がアメリカに買取資産の対価として1億7500万ドルを5年間の均等年賦払いにより現金で支払うこと,② 日本がアメリカに移転費等関連費用2億ドル相当の物品及び役務を提供すること,③ 日本銀行が通貨交換によって取得したドルの実際額又は6000万ドルのいずれか多い方の金額をアメリカの連邦準備銀行に25年間無利子で預金すること,④ 日本が社会保障費用として3000万ドルを負担することと要約される内容を含むものである。(甲8,9,22,乙3の2)(3) アメリカ公文書館から公開された本件密約に関連する文書について平成10年頃 が社会保障費用として3000万ドルを負担することと要約される内容を含むものである。(甲8,9,22,乙3の2)(3) アメリカ公文書館から公開された本件密約に関連する文書について平成10年頃,アメリカ国立公文書館が保管していた本件米国文書1ないし本件米国文書3を含む沖縄返還関係の外交文書の機密指定が解かれ,上記各文書の存在が明らかとなった。これらには,返還軍用地の原状回復費400万ドルは3億2000万ドルに含まれており,実質的に日本政府が負担していること,日本側が7000万ドルとして発表していた核撤去費は実際には500万ドルしか必要ではなく,残余は他の費目に流用されていたこと,沖縄返還協定に定められた3億2000万ドルとは別に在日米軍基地改善費などとして1億9000万ドルを日本政府が補償していたことなどの記載があった。(甲4ないし9,11ないし13,乙3の1・2) - 29 -(4) 有識者報告書による分析ア有識者報告書は,上記(1)ア及びイのような事実を基礎として,本件米国文書1の性質について,次のように分析している。 日本側書簡案の結末については,A法規課長(昭和47年1月から条約課長)が国会対策用として同年3月に作成したメモ(本件報告文書9)が残されており,このメモによれば,日本側は,3億2000万ドルを日本側が支払うにせよ,400万ドルをアメリカ側が「自発的」に支払うことで合意したのであるから,「我が国が信託基金の財源を支払うというのは筋違いであり,他方,アメリカ政府が復元補償の財源をどこにどういう形で求めるかはアメリカ側内部の問題であり,日本政府の関知するところではない」という立場によりつつ,愛知外務大臣はパリからの帰国前に書簡の発出を見合わせたものであろう。 他方,東京では,上記のように,交渉当事者間 メリカ側内部の問題であり,日本政府の関知するところではない」という立場によりつつ,愛知外務大臣はパリからの帰国前に書簡の発出を見合わせたものであろう。 他方,東京では,上記のように,交渉当事者間において書簡案に代わるオプションとして,交渉当事者(吉野)によるイニシャルを前提とした本件米国文書1を作成することで日米が合意し,愛知外務大臣の帰国前後(日付は昭和46年6月12日)に吉野とスナイダーがイニシャルを書き込んだものと考えられる。この本件米国文書1の作成とイニシャルの書込みを愛知外務大臣が承知していたのか否かは不明である。 パリにおける愛知外務大臣とロジャーズ国務長官との会談直前に国務省が用意した準備資料によれば,アレクシス・ジョンソン国務次官らは,請求権問題は日本政府との交渉はもはや必要がないという程度まで解決され,多少不満のある議員たちもいるが,返還協定の可決の雰囲気は醸成されつつある旨認識していたという。さらに,この資料によれば,この頃,不満のある議員たちを返還協定の署名前に説得するため集中的な協議が続けられていたが,関係議員たちが6月12日までワシントンを離れて不在であり,最終的な説得はそれ以降となったことが明らかとなる。これらによれ - 30 -ば,本件米国文書1は,関係議員の最後の説得のために用意されたということができる。 不公表書簡にせよ「議論の要約」にせよ,自発的支払をアメリカ政府内部の処理の問題と理解する日本側とすれば無用のものであった。アメリカ側としても,交渉の最終局面においては,このような書類がなくとも返還協定の調印と議会承認にこぎつけられるという見通しはあったが,少数の関係議員の抵抗に一抹の不安を覚え,東京において作成されていた本件米国文書1に吉野がイニシャルを書き込むことを求めたということであろ 協定の調印と議会承認にこぎつけられるという見通しはあったが,少数の関係議員の抵抗に一抹の不安を覚え,東京において作成されていた本件米国文書1に吉野がイニシャルを書き込むことを求めたということであろう。 他方,日本側(吉野)は,同月15日の閣議決定,17日の調印というタイムリミットが迫るなか,アメリカ側(スナイダー)に請われるままに,本件米国文書1にイニシャルを書き込んだものであろう。 イまた,有識者報告書は,不公表書簡又は本件米国文書1が,日米間の密約として疑惑が深まっていった理由について,返還協定調印後の国会(予算委員会等)の場において,漏えいした機密電報によって不公表書簡案の存在が明るみにされ,しかも,その内容が,アメリカ側が当初求めていた日本政府が400万ドルの財源を肩代わりするという趣旨ではないかと疑われたことにあるとして,次のとおり分析している。 沖縄の財政経済問題をめぐる交渉では,本件密約のほか,いくつかの非公表の合意や了解の存在が指摘されているが,本件密約の存否が注目されてきたのは,毎日新聞記者であったBが,秘密を漏らした容疑で逮捕され,有罪となったいわゆるB事件による。 この事件に関しては,B記者が入手した原状回復補償に関する交渉経緯の一部を示す機密電報が野党議員に渡ったため,国会における政府追及の有力な資料となった。野党議員が入手した主な機密電報は,① 昭和46年5月28日の愛知外務大臣とマイヤー大使の会談の内容を伝える電報,② 昭和46年6月9日のパリにおける愛知外務大臣とロジャーズ国務長 - 31 -官の会談の記録を伝える電報(本件報告文書8),③ 同日のC条約局長とスナイダーの会談等の内容を伝える電報(本件報告文書7)であり,いずれも交渉の途中段階のものであったが,不公表書簡が存在する可能性をうかが 記録を伝える電報(本件報告文書8),③ 同日のC条約局長とスナイダーの会談等の内容を伝える電報(本件報告文書7)であり,いずれも交渉の途中段階のものであったが,不公表書簡が存在する可能性をうかがわせる内容が含まれていた。これらの機密電報を入手した野党議員は,アメリカ側の「自発的支払」(沖縄返還協定4条3項)の交渉過程,それに関連して総額3億2000万ドルの日本側支払の内訳に質問を集中させた。これに対し,福田外務大臣は,昭和46年12月13日の特別委員会で,3億2000万ドルの内訳について「高度の政治的判断」として決めたもので「具体的中身を詰めておらない金額である」と応じ,「アメリカは3億2000万ドルを受け取るわけであります。そのうち,7500万ドルは労務費に使う,これははっきりしておる。しかし,資産継承に見合うところの1億7500万ドル,これをアメリカがどういうふうに使おうとアメリカの御自由でございます。それから,最後に残りまする7千万ドルは,これは出す以上,核の問題をはっきりしなければならぬ,こういうふうに思います。また,われわれと約束をいたしました特殊部隊の撤去,そういうものもしなければならぬ,こういうふうに思いますが,残った金が出るとしますれば,これをどういうふうにアメリカがお使いになりましょうが,これはアメリカ政府の御自由である。」とした。 昭和47年3月27日の衆議院予算委員会において,機密電報の写しが政府側にも示され,野党側は,さらに,密約の存在にからむ交渉経緯を明らかにするよう迫った。福田外務大臣は,上記のような答弁を繰り返した。 政府側は,真偽の調査を約束し,同月28日,政府委員は,機密電報は省内にある原議と,大臣,次官,審議官などの重要な決裁がない点を除けば,「内容は全部同じである」とその存在を認めた。さらに, 返した。 政府側は,真偽の調査を約束し,同月28日,政府委員は,機密電報は省内にある原議と,大臣,次官,審議官などの重要な決裁がない点を除けば,「内容は全部同じである」とその存在を認めた。さらに,不公表書簡の存否について追及が及び,福田外務大臣は,「愛知書簡はついに発出に至らなかった。」と述べたが,その内容については触れず,また経緯の説明も - 32 -曖昧であった。 さらに,野党側の追及により,政府側は苦しい答弁を強いられることになり,また,同年4月12日の外務委員会で,政府委員は,昭和46年12月の国会で電報や記録の存在を一切否定したことを陳謝したが,秘密書簡の存否を問われて,交渉の最終段階で書簡や了解案の提出を求められたが,「わがほうは全部拒否した。」と答えている。 その後,政府の一貫した否定にもかかわらず,不公表書簡の疑惑は解けないまま推移し,また,B事件の審理を通じても,その内容は明らかにならなかった。 今回の調査で明らかになったことは,不公表書簡は検討されたが発出には至らなかったこと,その内容は,必ずしも400万ドルの肩代わりを日本側が約束するものではなかったこと,さらに,日本側の不公表書簡案とほぼ同趣旨の本件文書①の外務省における不存在である。 ウその上で,有識者報告書は,次のように述べている。 日本側の不公表書簡案にせよ本件米国文書1にせよ,それ自体は,両国政府を拘束するような内容ではなく,両政府間の秘密の合意や了解を意味する「密約」に当たるわけではない。アメリカ政府のとる行動を日本政府は了解しているという程度のものである。その点では,「狭義の密約」に当たるわけではない。 また,日本側の不公表書簡案は,確かに大臣レベルの署名が予定されていたが,最終的には愛知外務大臣の判断で取りやめられたものである。他 ものである。その点では,「狭義の密約」に当たるわけではない。 また,日本側の不公表書簡案は,確かに大臣レベルの署名が予定されていたが,最終的には愛知外務大臣の判断で取りやめられたものである。他方,本件米国文書1は,事務当局レベルのものであり,確かにアメリカ側には渡されてはいたが,その作成とイニシャルの書込みを愛知外務大臣や後継の福田外務大臣等の政府首脳が認識していたかは疑わしい。 しかし,財政経済に関する日米間の交渉プロセスにおいて,原状回復補償費としてアメリカ側は自発的支払を行うものの,その財源を日本側が負 - 33 -担するという合意が成立していたこと,その財源の400万ドル(VOA施設移転費1600万ドルとを合わせて2000万ドル)を日本側支払総額の3億ドルに追加することについて双方が了解していたことは,3億2000万ドルの処理に関する日本側の考え方や主張にかかわらず確認できる経緯である。 そして,これらの合意や了解は非公表扱いとされ,明確に文書化されているわけでもなく,返還協定や関連取り決めにも明記されていないものであるが,両国政府の財政処理を制約するものとなる。その点では,これらは「広義の密約」に該当するといえるであろう。 交渉当事者がイニシャルを書き込んだ本件米国文書1は,米側の議会対策という要請に抗しきれず,文書化されていない合意や了解の内容を日本側が婉曲に確認した文書という意味はあるが,それ以上のものではない。 沖縄返還に伴う財政経済交渉は,アメリカの国際収支が悪化し,主要国の政策運営をめぐって黒字国と赤字国の責任分担をめぐる対立が激しさを増すという国際経済環境の下で行われた。大幅な黒字国としての日本は,「支出を伴わぬ復帰」という原則的立場から全面的な財政負担を迫るアメリカ政府の外交攻勢の前に,絶えず守勢 分担をめぐる対立が激しさを増すという国際経済環境の下で行われた。大幅な黒字国としての日本は,「支出を伴わぬ復帰」という原則的立場から全面的な財政負担を迫るアメリカ政府の外交攻勢の前に,絶えず守勢に回り,早期返還の実現のために,財政負担の中身を詰めるより,「高度の政治的判断」を優先したことは充分に理解できる。その過程では,公表できない合意や了解も必要となり,本件米国文書1もその一つといえるかもしれない。 しかしながら,巨額の財政取決めに関する不透明な処理は,その後の日米両政府による責任ある説明を不可能なものとし,密約疑惑の背景となるのである。 (以上につき,乙3の2) 2 争点(1)(本件対象文書の範囲)について(1) 本件対象文書の範囲について,原告は,本件文書①ないし本件文書⑦,本 - 34 -件報告文書及び本件関連文書を含むと主張し,その根拠として,返還軍用地の原状回復費に関する問題は,返還軍用地の原状回復費400万ドルを含む「3億2000万ドルによる一括パッケージ解決」の内容を含むものであり,本件密約が明文化されていないいわゆる広義の密約である以上,交渉過程で作成された関連文書を精査することによって初めてその内容が明らかとなるのであるから,上記一括パッケージ解決に至る交渉過程で作成された関連文書は,すべて本件対象文書となるなどという。これに対し,被告は,本件対象文書は,沖縄返還交渉の最終局面において,沖縄返還協定4条3項において米国政府が自発的に支払うべきこととなっていた土地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりすることを内容とする非公表の文書が作成されたのではないかという問題についての文書であり,本件文書①はこれに該当し得るが,原告が主張するこれ以外の文書は,本件対象文書に該当しないという。 (2) ることを内容とする非公表の文書が作成されたのではないかという問題についての文書であり,本件文書①はこれに該当し得るが,原告が主張するこれ以外の文書は,本件対象文書に該当しないという。 (2) 情報公開法に基づく開示請求に当たっては,開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項を開示請求書に記載すべきことが定められている(情報公開法4条1項1号)。したがって,開示請求に係る文書が特定されていることは,開示請求が適法となるための要件であり,開示請求を受けた行政機関は,開示請求書に記載された行政文書を特定するに足りる事項によって,いかなる文書が請求の対象となっているかを判断すべきであるのが原則である。もっとも,行政機関の外部にいる開示請求者において,開示請求に係る文書を特定するに足りる情報を有していない場合もあり得ることから,行政機関の長は,開示請求書に形式上の不備があると認める時は,開示請求者に対し,その補正を求めることができ,この場合において,行政機関の長は,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を提供する努力義務が定められている(同条2項)。 以上によれば,開示請求書の記載によって開示請求に係る文書が特定され - 35 -ていると認められる場合には,行政機関の長は開示請求書の記載によって特定された文書を開示すれば足りると解するのが相当であり,この場合,開示請求書の記載から通常読み取れる文書以外の文書の開示請求の機会を与えるため,開示請求を受けた行政機関において,開示請求者に対し補正を促す必要はない。 (3)ア本件対象文書は「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す文書」であり,その文言の通常の意味並びに前記1で認定した沖縄返還交渉の経緯及び本 返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す文書」であり,その文言の通常の意味並びに前記1で認定した沖縄返還交渉の経緯及び本件密約に関するその後の経緯によれば,沖縄返還協定4条3項にアメリカが自発的に支払う旨定められている返還軍用地の原状回復費(400万ドル)を日本政府が肩代わりして負担することについてアメリカ政府と日本政府との間で意思の合致があった内容が記載されている文書を示すものであると解するのが相当である。 イ本件文書①は,3億2000万ドルの支払のうち400万ドルを上記原状回復費のために確保する旨を日本政府が予定していることを表明し,そのことについてアメリカ政府の担当者が留意すると述べたものであるから,アメリカ政府と日本政府との間で意思が合致した旨が明確に示されているものとまではいい難いが,実質的にみれば,意思の合致があった内容を示すものであって,上記アで述べた意味での本件対象文書に含まれると解すべきである。 しかし,本件文書②及び本件文書⑤は,前記1(2)によれば,沖縄返還に当たって日本とアメリカとの間で支払われる金員の使途及び額に関係する文書であると認められるものの,本件文書②の記載内容とされているVOA施設の移転費や施設改善移転費,本件文書⑤の記載内容とされている軍の移転費は,いずれも返還軍用地の原状回復費には該当せず,これらの文書には,原状回復費400万ドルを日本政府が肩代わりすることに直接関 - 36 -係する記載は含まれておらず,ましてやそのことについてアメリカ政府と日本政府の間で意思の合致があった内容を示しているものではない。したがって,本件文書②及び本件文書⑤は,上記アでいう本件対象文書には含まれない。そして,本件文書②及び本件 ことについてアメリカ政府と日本政府の間で意思の合致があった内容を示しているものではない。したがって,本件文書②及び本件文書⑤は,上記アでいう本件対象文書には含まれない。そして,本件文書②及び本件文書⑤の内容と実質的に同内容の文書と考えられる本件文書③及び本件文書④のうち本件文書②に係る部分並びに本件文書⑥及び本件文書⑦も,本件対象文書には含まれるとはいえない。 原告は,返還軍用地の原状回復費に関する問題には,返還軍用地の原状回復費400万ドルを含む「3億2000万ドルによる一括パッケージ解決」の内容が含まれるというが,そもそも,本件対象文書は,「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の原状回復費を日本政府が肩代わりすること」について約束又は合意した内容を示す文書であり,「返還軍用地の原状回復費の問題」に関する文書と特定されていたわけではないし,上記に照らせば,返還軍用地の原状回復費が,沖縄返還に際し日本政府がアメリカ側に支払う3億2000万ドルに含まれているかどうかという点は3億2000万ドルの内容のうち原状回復費400万ドル以外の部分の使途やその金額とは直接関係がないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は失当である。 また,原告は,本件報告文書及び本件関連文書も本件対象文書に含まれるというが,前記1(1)及び(4),本件報告文書の件名及び内容並びに本件関連文書の件名によれば,これらは,いずれも沖縄返還交渉の交渉過程で作成されたものであって,交渉の結果である「約束又は合意した内容」を示すものであるとはいえないから,本件対象文書に該当するとはいえない。 この点に関し,原告は,本件密約は,明確な合意のないいわゆる広義の密約であり,交渉過程で作成された関連文書を精査することによって初めてその内容が明らかとなるのであるか 象文書に該当するとはいえない。 この点に関し,原告は,本件密約は,明確な合意のないいわゆる広義の密約であり,交渉過程で作成された関連文書を精査することによって初めてその内容が明らかとなるのであるから,上記一括パッケージ解決に至る交 - 37 -渉過程で作成された関連文書は,すべて本件対象文書となるというが,「広義の密約」とは,有識者報告書において「明確な文書による合意ではなく,暗黙のうちに存在する合意や了解であるが,公表されている合意や了解と異なる重要な内容を持つもの」として定義付けられたものであり,有識者委員会は,交渉の経緯で作成された多種多様な文書等を総合し,また,当時の国内外の情勢等も考慮した上で,本件密約が広義の密約に該当するとの結論に至ったものである。そうすると,本件密約が広義の密約であるとの結論は,有識者委員会により,本件報告文書や本件関連文書その他の資料を総合し,それ以外の知見も踏まえてされた評価の結果であって,本件報告文書や本件関連文書に含まれる個々の文書又はそれらの全体そのものが直ちに狭義広義を問わず密約の内容を示すものといえるわけではないというべきであり,そもそも,本件開示請求の対象は「約束又は合意した内容」を示す文書とされているのであり,その文言の通常の意味からは,本件対象文書は上記アのように特定されると解されることからすれば,原告の上記主張は失当である。この点に関し,原告は,本件密約の存在を否定していた処分行政庁において,明文化された本件密約の存在が想定されるはずはないというが,前記1(1)エ,(3)及び(4)によれば,本件不開示決定当時において,本件密約については,① 外務大臣名の不公表書簡が存在するのではないか,② アメリカ公文書館から公表された文書と同様の文書が日本においても存在するのではないかと よれば,本件不開示決定当時において,本件密約については,① 外務大臣名の不公表書簡が存在するのではないか,② アメリカ公文書館から公表された文書と同様の文書が日本においても存在するのではないかという2点が主たる問題とされており,本件開示請求も,その点を追及する趣旨で行われたものと解するのが自然であり,原告の本件不開示決定に対する異議申立書(甲3)にも,本件不開示決定に対する不服の理由としては上記②の点について述べられているのみで,本件開示請求が,合意又は約束の内容が直接記されていない交渉の経緯等に関する文書であって合意又は約束の存在を認めるための資料となり得る文書の開示をも求める趣旨であると解し得る記載はないこ - 38 -とに鑑みても,この点に関する原告の主張は失当である。 なお,原告は,処分行政庁が補正をさせなかったことから,本件対象文書は広義の密約を含む約束又は合意の内容を示す文書に特定されたはずである旨主張しているとも解されるが,上記(2)のとおり,開示請求書の記載で開示請求に係る文書が特定されていれば,補正を求める必要はないのであり,開示請求書の記載を通常の意味に解すれば,上記アのように解されるのであるから,失当である。 3 争点(2)(本件対象文書の存否)について(1) 本件対象文書の存否に関する主張立証責任について情報公開法3条の規定する「行政文書」とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関が保有しているものをいう(同法2条2項)。そうすると,同法3条が規定する行政文書の開示請求権に基づく開示請求の対象は行政機関が保有している行政文書であるということになるから,行政機関において当該行政文書を保有していることは,当該行政文書の開示請求権発生の要件ということ 行政文書の開示請求権に基づく開示請求の対象は行政機関が保有している行政文書であるということになるから,行政機関において当該行政文書を保有していることは,当該行政文書の開示請求権発生の要件ということができる。 したがって,開示請求の対象である行政文書を行政機関が保有していないこと(当該行政文書の不存在)を理由とする不開示決定の取消訴訟においては,同訴訟の原告である開示請求者が,行政機関が当該行政文書を保有していること(当該行政文書の存在)について主張立証責任を負うと解するのが相当である。そして,取消訴訟の原告である開示請求者は,不開示決定において行政機関が保有していないとされた行政文書に係る当該行政機関の管理状況を直接確認する権限を有するものではないから,上記の主張立証責任を果たすため,基本的には,① 過去のある時点において,当該行政機関の職員が当該行政文書を職務上作成し,又は取得し,当該行政機関がそれを保有するに至り,② その状態がその後も継続していることを主張立証することになる。 - 39 -もっとも,上記のように原告である開示請求者は当該行政文書の管理状況を直接確認・調査することが困難であるのに対し,当該行政文書を保有するものとして開示請求を受けた当該行政機関はこれを調査し得る立場にあることや,行政機関が行政文書を保有するに至った場合,当該行政文書が,通常であれば,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして一定水準以上の管理体制下に置かれることを考慮すれば,上記①が認められる場合には,上記のような管理体制下に置かれたことを前提(通常はそのように推認される。)として,上記②が事実上推認され,特段の事情がない限り,当該行政機関は上記不開示決定の時点においても当該行政文書を保有していたと推認されるものというべきである。 (通常はそのように推認される。)として,上記②が事実上推認され,特段の事情がない限り,当該行政機関は上記不開示決定の時点においても当該行政文書を保有していたと推認されるものというべきである。 (2) 本件不開示決定当時,外務省が本件文書①を保有していたと認められるかどうかについてア外務省が昭和46年6月頃本件文書①を保有するに至ったかどうか(ア) 前記1(1)ウによれば,昭和46年6月12日頃,スナイダーが本件米国文書1を持って外務省のアメリカ局長室を訪れ,吉野及びスナイダーが同文書にそれぞれイニシャルを書き込んだことが認められる。 (イ) そして,本件米国文書1のコピーが作成されたかどうか,それが保管されたかどうかに関する別件訴訟の証人尋問における吉野の証言は,次のようなものである。 a 主尋問において,別件訴訟の甲第1号証(本件米国文書1)のコピーは取られましたかという質問に対し,吉野は「大体,それはすぐに僕の部屋にいた外務省員がとることになっておったと思います。」と答え,さらに,「事務官の方が写しをとることになってたからとったと,そういう趣旨ですか。」と質問されたのに対し,「ええ。」と答えている。また,「コピーは事務官がとって,当時外務省にあったわけですね。」という質問に対して,「そういうことですね。」と答え, - 40 -「そのコピーをとったものについては,外務省の中のどなたか別の方が見ていますか。」という質問に対し,「ええ,それは沖縄を主として担当しておった,沖縄返還を担当しておった,Dアメリカ第一課長以下,課の者は一応目を通しておったと思います。」と答え,さらに,「それについて,どういう形で報告をするとか,どういう形で保存するとか,そういうことを決めるのはだれですが。」という質問に対し,「それは一課長 者は一応目を通しておったと思います。」と答え,さらに,「それについて,どういう形で報告をするとか,どういう形で保存するとか,そういうことを決めるのはだれですが。」という質問に対し,「それは一課長の問題ですが,私も当然ある程度保存していたんだろうと思いますが,しかしながら内容自身は,沖縄返還協定の日本側の立場については,何らこのような英文の覚書は必要ないですから,適当に保存ないし,処分していたことがあり得ると思います。」と答えている。 b 反対尋問においては,吉野が本件米国文書1にイニシャルを書き込んだ際に恐らくアメリカ一課の事務官が吉野のそばにいただろうと思う旨,アメリカ一課の事務官は,スナイダーを案内しつつ吉野の部屋に来たのであろう旨の証言をしたが,「記憶に残っている場面としては,一課の事務官の方がいた場面は覚えているんですか。」との質問に対しては,「それは覚えてませんね。」と回答している。また,本件米国文書1に署名した後,すぐにスナイダーに渡したのかという質問に対しては,「これは日本側にも写しをとらせたと思います。」と回答したが,「写しをとるように指示した場面を覚えているんですか。」という質問に対しては,「覚えておりませんが,おそらく私がサインする以上,ドキュメントとしてアメリカ一課の事務官がコピーしたと思います。」と回答し,「あなたは,その文書の写しを省内で,その後,見たことはあるんですか。」という質問に対して,「その後,私は,ドキュメントとしてサインした以上のことは何も覚えてません。」と回答している。加えて,他国の公使との交渉内容が記載され - 41 -た文書で署名された文書の保管状況についてのアメリカ局長時代における経験についての質問に対しては,そのような文書を自分で保管していたことはほとんどなく,沖縄返還協定 内容が記載され - 41 -た文書で署名された文書の保管状況についてのアメリカ局長時代における経験についての質問に対しては,そのような文書を自分で保管していたことはほとんどなく,沖縄返還協定に関する文書については,アメリカ一課が主たる管理者だと思う旨回答している。 c 補充尋問において,吉野は,「写しをとったというのは,ともかく,私がサインした以上,ドキュメントとして,しばらくは何かに使う必要があり得るかと思ってとったんだろうと思います。」と証言し,また,コピーをとった方法について具体的には覚えていないが,その頃出てきたコピー機で取ったのであろうと証言している。 (ウ) また,本件米国文書1についてみると,その形式は吉野とスナイダーとの間で行われた議論の内容をまとめた文書に吉野とスナイダーがイニシャルを書き込んだというものであるが,それに記載された吉野の発言は原状回復費用の400万ドルが沖縄返還協定7条に基づき日本からアメリカに支払われる3億2000万ドルの中から支出されていることを日本国政府が予定している旨のものであって,単に吉野個人の意見等を表したものではなく,日本国政府がその認識するところを他国政府に対して表明した文書であるということができる。そうすると,本件米国文書1は,その形式にかかわらず外交上重要な内容を有する文書であって,以上のような本件米国文書1の内容に鑑みれば,本件米国文書1にイニシャルを書き込むことは,吉野個人の一存によるものではなく,愛知外務大臣等の承認を経て行われたものと認めるのが相当である(吉野もその趣旨の証言をしている。)。また,前記1(1)イによれば,原状回復費用の財源の問題は沖縄返還交渉の最終段階において日本とアメリカとの間で折衝が続けられていた問題であり,沖縄返還交渉をまとめるためには何 の証言をしている。)。また,前記1(1)イによれば,原状回復費用の財源の問題は沖縄返還交渉の最終段階において日本とアメリカとの間で折衝が続けられていた問題であり,沖縄返還交渉をまとめるためには何らかの形でこの点を解決しなければならないという性質のものであって,吉野が本件米国文書1にイニシャルを書き込んだかどうかは, - 42 -外務省内はもとより政府部内においても重要な問題であったものと認められる。 (エ) 上記(イ)のとおり,吉野は,吉野及びスナイダーが本件米国文書1にイニシャルを書き込んだ後に,吉野が自ら写しを作成したこと又は写しの作成を指示したことの具体的な記憶はなく,また,外務省アメリカ局北米第一課(以下「北米一課」という。)の職員がその場に同席していた場面の具体的な記憶もないと証言しているものの,スナイダーを吉野の部屋に案内した北米一課の職員がその場に同席したであろうと証言し,また,本件米国文書1のコピーが作成されたかどうかについて,吉野がサインをした文書に関する通常の業務の流れとして写しが取られるはずであるという確実な根拠に基づき,吉野及びスナイダーが本件米国文書1にイニシャルを書き込んだ後,北米一課の職員がコピーを作成したはずであると明確に証言している。また,上記(ウ)によれば,本件米国文書1は,日本国政府として重要な内容を有する文書であって,そこに吉野がイニシャルを書き込んだかどうかは政府全体として利害を有する関心事項であったと認められることに鑑みれば,吉野がイニシャルを書き込んだことの直接的な記録として,本件米国文書1の写しが作成されたものと考えるのが自然である。これらによれば,吉野が本件米国文書1にイニシャルを書き込んだ際には通常の業務の流れに反して写しが作成されなかったというべき特段の事情が認められな 書1の写しが作成されたものと考えるのが自然である。これらによれば,吉野が本件米国文書1にイニシャルを書き込んだ際には通常の業務の流れに反して写しが作成されなかったというべき特段の事情が認められない以上,北米一課の職員の手によって本件米国文書1の写しが作成されたと認められるというべきである。そして,本件米国文書1が前示のような性質を有することに鑑みれば,本件文書①が作成されたと認められる以上,これが外務省において行政文書として保有されたことも認められるというべきである。 (オ) 以上によれば,外務省は,昭和46年6月頃,本件文書①を保有す - 43 -るに至ったと認められる。これに対し,外務省が,本件文書③及び④のうち,本件文書①に係るものを保有するに至ったことを認めるに足りる証拠はない。 イ上記アのとおり,外務省は,昭和46年6月頃,本件文書①を保有するに至ったことが認められる。そうすると,特段の事情がない限り,本件文書①を外務省がその後も継続して保有していたと推認することができると一応いうことができる。 ウ(ア) これに対して,被告は,調査チーム,有識者委員会及び欠落委員会による調査等の合理的かつ十分な調査によっても本件文書①が発見されなかったことからすれば,外務省が本件不開示決定当時,本件文書①を保有しているとは認められない旨主張する。 (イ) そこで,本件文書①について外務省が行った調査等について検討する。 a 前記前提事実(4)イのとおり,調査チームは,四つの「密約」の調査のために,外務本省に存在する日米安保関係のファイル及び沖縄返還関係のファイル並びに在米大使館に存在するファイルだけでなく,これらに日米安保及び沖縄返還問題の担当課室以外の課室から受領したいわゆる「密約」に関連する可能性のあるファイル及び関 ァイル及び沖縄返還関係のファイル並びに在米大使館に存在するファイルだけでなく,これらに日米安保及び沖縄返還問題の担当課室以外の課室から受領したいわゆる「密約」に関連する可能性のあるファイル及び関連幹部が保管するファイルのうち,関連があり得ると思われるファイルを加え,計4423冊という多量のファイル(バインダーに挟まれているものや単なる文書の束等を含む。)を調査している(なお,その後,有識者委員会は,対象文書が記録として編さんされず,別に保管されている可能性を探ったが,その事実はなかったと報告している(乙3の2)。)。 b そして,調査チームの調査は,政権交代を機に,「密約」をめぐる過去の事実を徹底的に明らかにし,国民の理解と信頼に基づく外交を - 44 -実現する必要があるとして(甲20)岡田外務大臣によって命じられたものであり,現に,調査チームによる調査により,1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」及び1960年1月の安保条約改定時の朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する「密約」については,対象文書が発見され,本件密約に関しても本件報告文書等が発見されていること,調査チームによる調査の時点で,本件米国文書がアメリカの公文書館に存在することは明らかになっており(前記1(3)),本件文書①の内容を秘匿する意味はなくなっていたことからすれば,外務省において,本件文書①の存在を殊更に秘匿しなければならない理由は見当たらない。 c また,本件文書①の行方については,その作成時の北米局長であった吉野がその後見た記憶はなく,後任者に引き継いだこともないとしているほか,有識者委員会や欠落委員会が行った外務省事務次官,北米局長及び条約局長経験者8名に対するヒアリングの結果でも,本件文書①を見たことがある者はいなかった ,後任者に引き継いだこともないとしているほか,有識者委員会や欠落委員会が行った外務省事務次官,北米局長及び条約局長経験者8名に対するヒアリングの結果でも,本件文書①を見たことがある者はいなかった(乙5,8。なお,吉野がアメリカ局長に在任していた当時の北米一課長は既に故人である。)。 d さらに,甲第24号証及び乙第8号証によれば,東郷が沖縄返還に関する重要資料を箱形ファイルにまとめていたことが認められ,原告は,この資料中に本件文書①が含まれていた可能性を指摘するが,東郷が有識者委員会に提出した上記資料の一部のリスト(甲25)には,本件文書①は含まれていないし,その他,本件文書①が上記箱形ファイルにまとめた資料に含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。 e 調査チームの調査後には,前記前提事実(5)及び(6)のとおり,有識者委員会や欠落委員会の調査が行われているが,有識者委員会は外部の歴史研究者によって構成されており,殊更外務省に有利な結論を導く動機は認められず,また,有識者報告書(乙3の2)が作成された - 45 -のは,吉野が本件米国文書1にイニシャルを書き込んだことを認める証言(乙5)をした後であり,有識者委員会の構成員はそのことを前提として調査チームの調査を検証したと考えられるが,有識者報告書には調査チームによる調査に特に問題があったとの記載はないし,別件訴訟の第1審判決における指摘を受けて,本件密約に関する文書の存否を調査対象の一つとした欠落委員会の調査によっても,本件文書①は発見されていない。 f 加えて,情報公開審査会は,別件訴訟の第1審判決後に答申をしているが,① 外務省が,本件開示請求前に,執務室,地下書庫等現に行政文書ファイルが保管されている又は保管されていると考えられる箇所全てを探索したが本件対象 査会は,別件訴訟の第1審判決後に答申をしているが,① 外務省が,本件開示請求前に,執務室,地下書庫等現に行政文書ファイルが保管されている又は保管されていると考えられる箇所全てを探索したが本件対象文書の存在を確認するに至らず,さらに,本件開示請求を受けて改めて入念に探索し,本件対象文書を保有していないことを確認済みであることを確認し,② 外務省報告書及び有識者報告書に,本件文書①が発見されなかった旨の記載があることを確認し,③ 外務省報告書及び有識者報告書について,外務省が,平成21年の政権交代を受けて新たに着任した外務大臣の命令に基づいて国民の理解と信頼に基づく外交を実現するとの目的の下で徹底的な調査を行って密約問題の事実関係を明らかにした結果であるとしているとした上で,これらの経緯に照らせば,仮に今回の密約問題の調査の過程で外務省内において対象文書が発見されていたのであれば,むしろこれを公表しようとすることが外務省の対応としては自然であると考えられるから,外務省が本件対象文書が存在するにもかかわらず,現時点においてもなおその存在を否定する合理的な理由は認められないとして,外務省が本件対象文書を保有しているものと認めることはできないとした。(乙6)(ウ) 本件文書①の管理状況等 - 46 -本件文書①の管理状況については,上記(イ)cのとおり,吉野が本件文書①をその後見たことがなく,後任者に引き継いだこともないとし(吉野は,別件訴訟において,日本側からすれば覚書は必要ないから適当に保存ないし処分していたことがあり得ると思うとも証言している(乙5)。),また,有識者委員会や欠落委員会が行った外務省事務次官,北米局長及び条約局長経験者8名に対するヒアリングの結果でも,本件文書①を見たことがある者はいなかったとされているこ 証言している(乙5)。),また,有識者委員会や欠落委員会が行った外務省事務次官,北米局長及び条約局長経験者8名に対するヒアリングの結果でも,本件文書①を見たことがある者はいなかったとされていること,同aのとおり本件文書①が通常存在すべき場所については網羅的な調査がされたものと考えられるが本件文書①は発見されていないことからすれば,通常の管理方法とは異なる方法で管理された可能性が高い。 そもそも,昭和36年9月1日改正施行の外務省文書編さん規程,外務省記録及び記録文書保管,保存・廃棄規程等の規定上,文書課に引き継がれた文書を「記録文書」といい,記録文書を編さんしたものを「記録」というものとされ,上記各規程はこれらをその対象とするものとされており(甲17の1ないし5),文書課に引き継がれない限り,記録文書として保存されることはないところ,有識者報告書(乙3の2)では,本件文書①等が,主管課の選別によって文書課に引き継がれることなく主管課に置かれ,複製を含め全く手許に置くことなく廃棄された可能性などがあるとされている(なお,文書課に保存されたとしても,ある段階で永久保存が必要な書類とはみなされず,手続に従って廃棄された可能性も皆無ではないとも指摘されている。)。また,情報公開法の施行前には,同法施行への対応作業の中で不用意な文書廃棄により密約関連文書が廃棄された可能性があることが欠落委員会報告書(乙8)によって指摘されており(本件文書①はもともとコピー機で作成された写しであることから,原本が別途保管されているものと誤信するなどして廃棄された可能性もある。),さらに,前記1(1)エ及び(4)イのとおり, - 47 -外務省としては本件密約の存在を一貫して否定していたことに照らし,かつての外務省においては本件密約と同一の内容が記載さ 可能性もある。),さらに,前記1(1)エ及び(4)イのとおり, - 47 -外務省としては本件密約の存在を一貫して否定していたことに照らし,かつての外務省においては本件密約と同一の内容が記載されている本件文書①を秘匿する意図が強く働いていたことがうかがわれることからすれば,情報公開請求に応じて本件文書①を公開しなければならなくなってそれまでの外務省の説明が事実に反していたことが露呈することを防ぐため,情報公開法の施行前に,通常の保管場所とは異なる場所に限られた職員しか知らないような方法で保管されていた可能性の高い本件文書①を秘密裏に廃棄し,ないし外務省の保管から外したという可能性も否定できない。 エ上記ウ(イ),(ウ)のとおり,本件文書①の管理状況については,通常の管理方法とは異なる方法で管理された可能性が高く,また,その後に通常とは異なる方法で廃棄等がされた可能性がある点を指摘することができ,一方,調査チーム,有識者委員会及び欠落委員会による調査は,かなり徹底した調査であったというべきであるところ,このような調査を経ても本件文書①が発見されなかったと認められることからすれば,外務省による本件文書①の保有が失われた相当高い可能性があるものと認めざるを得ず(特段の事情がない限り,保有が失われたと推認するに足りる事情と評価することもできる。),前記アのとおり,昭和46年6月頃,外務省が本件文書①を行政文書として保有するに至ったことが認められることを前提としても,その後35年が経過した本件不開示決定時において,外務省が本件文書①を保有していたと推認することを妨げる(推認を動揺させる)特段の事情があるというべきである。そうすると,本来原告が主張立証責任を負う,外務省が本件不開示決定時において本件文書①を保有していたことを認めるに ていたと推認することを妨げる(推認を動揺させる)特段の事情があるというべきである。そうすると,本来原告が主張立証責任を負う,外務省が本件不開示決定時において本件文書①を保有していたことを認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はないというほかはない。 (3) この点に関し,原告は,上記(1)の①が認められる場合には,同②が事実 - 48 -上推認され,被告において,当該行政文書が不開示決定の時点までに廃棄,移管等されたことによってその保有が失われたことを主張立証しない限り,当該行政機関は上記不開示決定の時点においても当該行政文書を保有していたと推認されるものというべきである旨主張する。 確かに,一般に行政文書は行政庁の内部規定等により管理,保存され,一定の手続を経て廃棄されるものであること(甲第17号証の1ないし5,第18号証,第19号証によれば,外務省においても,本件文書①の取得が問題となる昭和46年当時から現在まで文書の保存及び廃棄に関する規定が存在しており,これによれば,本件文書①は,日本国が諸外国と締結した一切の条約本書(文書保存廃棄類別基準の第一類文書1(1))又は条約の締結交渉に関する一切の文書(同(2))に該当し,永久保存されるべき文書に当たること(外務省記録及び記録文書保管,保存,廃棄規程9条参照)が認められる。),実質的にみても,上記のような内部規定等に従った取扱いがされていることを前提とすれば,被告の側で廃棄等によりその保有を失った事実を立証するのは容易であると考えられることに鑑みれば,一般的な行政文書については,原告の上記主張のとおり解され,また,本件文書①についても,上記のような前提の下で,外務省が本件不開示決定時においても保有していたと推認すべきであるようにも思われる。 しかし,上記の推認は ては,原告の上記主張のとおり解され,また,本件文書①についても,上記のような前提の下で,外務省が本件不開示決定時においても保有していたと推認すべきであるようにも思われる。 しかし,上記の推認は,行政文書が,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして一定水準以上の管理体制下に置かれることを前提としているところ,本件文書①については,上記(2)ウ(ウ)のとおり,通常の管理方法とは異なる方法で管理された可能性が高く,また,その後に通常とは異なる方法で廃棄等がされた可能性があることからすれば,上記推認の基礎は相当程度揺らいでいるというべきであり,原告の主張するような強い推認を認めることはできない。 (4) 原告は,外務省が本件文書①を保有していないのは,当該文書の重要性等 - 49 -に鑑み不自然であるとか,外務省の文書管理に関する規程等によっても,廃棄されているはずはないなどと主張するので,これらの点について検討する。 ア原告は,本件文書①は,日本がアメリカに対して支払う財政に関する取り決めであるから日本政府においてその文書を保管していなければならないとか,外務大臣等にその内容を報告する必要性が高かったことや,外交関係文書としての重要性からして保管されていないのは不自然であるとかいう。しかし,前記1(1)イによれば,本件米国文書1が作成されたのは,もともと,愛知外務大臣が作成する不公表書簡の発出が日米間で議論されてきたものの,最終的に日米間で合意に至らなかったため発出されないこととなり,いわば,その代替としてスナイダーと吉野の間の議論の内容をアメリカ側がまとめた本件米国文書1に吉野がイニシャルを書き込むという形式で作成されたものであって,しかも,その手順については,あらかじめ愛知外務大臣等の了解は得ていたものの(乙5,8), の内容をアメリカ側がまとめた本件米国文書1に吉野がイニシャルを書き込むという形式で作成されたものであって,しかも,その手順については,あらかじめ愛知外務大臣等の了解は得ていたものの(乙5,8),イニシャルを書き込んだ後の本件米国文書1の原本はスナイダーが持ち帰り,日本側に残されたコピーについてもどのように取り扱われたかは不明である(吉野は,イニシャルを書き込んだ後にそのことを条約局長には報告したものの愛知外務大臣に報告したかどうかは覚えていないとし,また,コピー(本件文書①)の行方は知らないとしている。)など,愛知外務大臣の名義で作成される予定であった不公表書簡よりは簡略な形式で作成されており,形式的に見て,日本とアメリカの国家間の合意を記載した条約等と同等の価値を有する文書であるとまではいい難いことに加え,その内容も,沖縄返還協定4条3項の明文で日本が負担するものとされた3億2000万ドルのうちの一部の使途を決めたものであって,新たに日本側の負担を定めたり,新たに日本側の権利を定めたりするものではなく,専らアメリカ側の議会対策という内部的な必要から作成されたものであることからすれば,日本側にとって,史料としての価値はともかく,これを保有し続けなけれ - 50 -ば我が国の利益を損なうかといった観点からみて記載内容自体の価値は高いものとはいえない。また,本件文書①は,アメリカ側でも,不公表書簡のような正式な文書は必要ないと考えていたが,抵抗する議員がいた場合に備えるために用意したものにすぎず,吉野がイニシャルを書き込んだ時点では,その必要性は低くなっていたものであり(前記1(4)ア),吉野ら日本側の交渉担当者も,交渉を通じてその点は認識していたと考えるのが相当である上,沖縄返還協定に基づく日本からアメリカへの3億2000万 の必要性は低くなっていたものであり(前記1(4)ア),吉野ら日本側の交渉担当者も,交渉を通じてその点は認識していたと考えるのが相当である上,沖縄返還協定に基づく日本からアメリカへの3億2000万ドルの支払とアメリカによる返還軍用地の原状回復費の支払が終了すれば,本件文書①は全く必要がなくなるものである。そうすると,吉野がイニシャルを書き込んだ時点で本件文書①が外交上重要な内容を有していたとしても,その後本件文書①が何らかの事由で廃棄されることがおよそ不自然であるとまではいい難い。また,原告は,本件報告文書や本件関連文書等他の文書が保存されていることとの関係で,本件文書①が保管されていないことは不自然であるともいうが,上記の点に鑑みれば,この点も,およそ不自然であるとまではいえない。 イまた,原告は,本件文書①が作成された当時の外務省の文書保管に関する規程によれば,本件文書①は永久保存となるはずであり,廃棄されているはずはないというが,上記(2)ウ(ウ)で説示したように,通常の保管場所とは異なる場所に限られた職員しか知らないような方法で保管されていた本件文書①が秘密裏に廃棄され,ないし外務省の保管から外されたのだとすれば,外務省の文書保管に関する規程に合致するかどうかはそもそも問題にならないというべきであるし,この点をおき,本件文書①が,昭和36年9月1日改正施行の外務省記録及び記録文書保管,保存,廃棄規程(甲17の4)によって,条約本書又は条約の締結交渉に関する一切の文書(同規程の付,文書保存廃棄類別基準(甲17の5)の第一類文書欄1(1)又は(2))等として永久保存(同規程9条)されるべきものであったとしても, - 51 -有識者報告書の指摘するとおり(前記(2)ウ(ウ)参照),局部課文書担当者から文書課に引き継がれたも 1)又は(2))等として永久保存(同規程9条)されるべきものであったとしても, - 51 -有識者報告書の指摘するとおり(前記(2)ウ(ウ)参照),局部課文書担当者から文書課に引き継がれたものが記録文書とされ,文書課に引き継がれないものは同規程の対象外であったところ,主管課の判断によって本件文書①が文書課に引き継がれなかった可能性もある上,文書課に引き継がれたとしても,同規程12条2項の手続又は平成13年3月31日制定の外務省文書管理規程(甲18)附則5項の手続を経て廃棄される可能性はあり,かつ,その廃棄記録も保存年限が到来して廃棄されている可能性がある(同規程によれば,行政文書の廃棄の状況が記載された文書の保存年限は5年である。)ことからすれば,仮に本件文書①が外務省記録及び記録文書保管,保存,廃棄規程に基づく文書保管体制の下に置かれたとしても,文書保管に関する規程の関係から,直ちに,本件文書①が廃棄されているはずはないとまではいえない。さらに,前記のとおり,欠落委員会では,情報公開法施行への対応作業の中で不用意な文書廃棄が行われて重要文書が失われた可能性は排除できないと報告している(乙8)。そうすると,前記ウ(イ)のような,かなり徹底した調査によっても発見されなかったことは,過去に本件文書①を保有するに至ったことが立証されたことによって本件文書①を本件不開示決定の時点においても保有していることを推認することを妨げる(動揺させる)に足りるものといえる。 4 本件不開示決定の適法性について本件文書①は,「条約本書」又は「条約の締結交渉に関する一切の文書」等として本来永久保存されるべき性質の文書であり,史料としての重要性のあるものであるところ,このような本件文書①について前記のような保管状況にあったことには問題があったとい 交渉に関する一切の文書」等として本来永久保存されるべき性質の文書であり,史料としての重要性のあるものであるところ,このような本件文書①について前記のような保管状況にあったことには問題があったといわざるを得ない。しかし,以上に説示したところによれば,本件証拠関係の下では,本件文書①が廃棄されたと断定までするものではないものの,本件不開示決定の時点において外務省が本件文書①を行政文書として保有していたと認定するには至らないと判断せざるを得ない。そ - 52 -うすると,外務省が本件対象文書である本件文書①を保有していると認めるに足りる証拠はないのであるから,本件開示請求に対して対象文書を保有していないことを理由としてされた本件不開示決定は適法である。 第4 結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官川神 裕 裁判官小海隆則 裁判官須 賀 康太郎 - 53 -(別紙2)沖縄返還協定の定め 1 アメリカ合衆国政府は,琉球諸島及び大東諸島内の土地であって合衆国の当局による使用中1950年7月1日前に損害を受け,かつ,1961年6月30日後この協定の効力発生の日前にその使用を解除されたものの所有者である日本国民に対し,土地の原状回復のための自発的支払を行なう。この支払は,1961年7月1日前に使用を解除された土地に対する損害で1950年7月1日前に加えられたものに関する請求につき1967年の高等弁務官布令第60号に基づいて行なった支払に比し均衡を失しないように行なう。(4条3項) 2 日本国政府は,合衆国の資産が6条の 950年7月1日前に加えられたものに関する請求につき1967年の高等弁務官布令第60号に基づいて行なった支払に比し均衡を失しないように行なう。(4条3項) 2 日本国政府は,合衆国の資産が6条の規定に従って日本国政府に移転されること,アメリカ合衆国政府が琉球諸島及び大東諸島の日本国への返還を1969年11月21日の共同声明第8項にいう日本国政府の政策に背馳(ち)しないよう実施すること,アメリカ合衆国政府が復帰後に雇用の分野等において余分の費用を負担することとなること等を考慮し,この協定の効力発生の日から5年の期間にわたり,合衆国ドルでアメリカ合衆国政府に対し総額3億2000万合衆国ドルを支払う。日本国政府は,この額のうち,1億合衆国ドルをこの協定の効力発生の日の後1週間以内に支払い,また,残額を4回の均等年賦でこの協定が効力を生ずる年の後の各年の6月に支払う。(7条)
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