令和元年7月11日判決言渡平成31年(行コ)第23号一時金申請却下処分等取消,支援給付申請却下処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第140号,同第484号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 厚生労働大臣が控訴人に対し平成28年10月5日付けでした一時金の支給申請却下処分を取り消す。 3 厚生労働大臣が控訴人に対し平成28年10月5日付けでした厚生労働省発 社援1005第9号についての裁決を取り消す。 4 H市福祉事務所長が控訴人に対し平成27年12月8日付けでした支援給付申請却下処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が,中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した 中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律(以下「支援法」という。)2条に定める「中国残留邦人等」に該当するとして,①H市福祉事務所長に対し,支援法14条の支援給付の申請をしたところ,「中国残留邦人等」に該当しないとして,申請を却下する処分(以下「本件支援給付却下処分」という。)を受け,引き続き,審査請求を経て,厚生労働大臣に対し,再審査請 求をしたものの,再審査請求を棄却する裁決(以下「本件再審査請求棄却裁決」 という。)を受け,②厚生労働大臣に対し,支援法13条3項の一時金の支給の申請をしたところ,上記①と同様に「中国残留邦人等」に該当しないとして,申請を却下する処分(以下「本件一時金却下処分」といい,本件支援給付却下処分と併せて「本件各処分」という。 3項の一時金の支給の申請をしたところ,上記①と同様に「中国残留邦人等」に該当しないとして,申請を却下する処分(以下「本件一時金却下処分」といい,本件支援給付却下処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたため,被控訴人H市に対し,本件支援給付却下処分の取消しを求めるとともに,被控訴人国に対し,本件再 審査請求棄却裁決及び本件一時金却下処分の取消しを求めた事案である。 原審は控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人が本件控訴を提起した。 2 関係法令等の定め及び前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これ を引用する。 (原判決の補正)原判決5頁4行目の「(第1事件)」及び同頁6行目の「(第2事件)」をいずれも削る。 同10頁17行目の「又は」の次に「類型Cのうち」を加える。 同12頁18行目の「又は」の次に「類型Cのうち」を加える。 3 当審における控訴人の補充主張支援法2条1項1号の類型B該当性についてア支援法2条1項1号の「同日(昭和20年9月2日)において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」について,「日本国民」は,大日本 帝国国籍保有者であった者で,かつ,日本国籍保有者との趣旨であり,「として本邦に本籍を有していたもの」は,朝鮮戸籍令又は台湾戸口規則の適用対象者でない者を意味する。 以上の要件を満たせば,引揚可能性(帰国の希望)など検討されることもなく,支援法の対象者となる。 イ控訴人の父であるDは,昭和20年9月2日の時点において,大日本帝 国国籍を有しており,旧戸籍法に基づき,宮崎県(住所省略)に本籍を有 されることもなく,支援法の対象者となる。 イ控訴人の父であるDは,昭和20年9月2日の時点において,大日本帝 国国籍を有しており,旧戸籍法に基づき,宮崎県(住所省略)に本籍を有していた。控訴人の母であるEは,同日の時点において,大日本帝国国籍を有し,朝鮮戸籍令又は台湾戸口規則の適用対象者ではなかった。 控訴人は,DとEとを両親として,昭和21年▲月▲日,中華民国河南省(住所省略)で出生した。 ウよって,控訴人は,類型Bに該当する。 類型Cのうちの支援法施行規則1条3号の類型c該当性についてア支援法施行規則1条3号について,昭和20年9月2日において,その両親につき日本国民として本邦に本籍を有していた者に準ずる程度の本邦への引揚げの可能性があったといえる特段の事情が認められることが要件 であるとしても,控訴人の両親にはそのような特段の事情が認められる。 イ Dの帰国希望の意思(引揚可能性)は,究明用カード(乙29)中の1頁「帰国希望」への「○」印,2頁「近日中に帰国証明書を請求して帰ります」との記載のみによっても明白である。 控訴人の両親は,昭和15年に河南省において婚姻し,昭和18年▲月 ▲日に長男Fが誕生した。Fは,「F」という日本名を与えられ,Dの兄であるGの三男として入籍したものの,控訴人の両親のもとで河南省において生育した。 仮に,Eが日本に帰国する意思がなかったならば,その実家はそれなりに裕福であったから,実家の援助を得ながら暮らすためにも,Fに中国名 をつけて中国人として育てたはずである。しかし,控訴人の両親は,Fに日本名を付け,日本戸籍をとり,自ら養育したのである。これは,Dのみならず,Eも,戦争終了後は,中国に留まるのではなく,家族全員で日本に帰国するこ して育てたはずである。しかし,控訴人の両親は,Fに日本名を付け,日本戸籍をとり,自ら養育したのである。これは,Dのみならず,Eも,戦争終了後は,中国に留まるのではなく,家族全員で日本に帰国することを望んでいたからにほかならない。 控訴人の両親の帰国意思は,昭和21年に生まれた控訴人に,戸籍の届 出はできなかったものの,日本名を付けて,日本の歌謡曲などを聞かせて 育てたことからも推認される。 ウ以上のとおり,控訴人の両親には特段の事情が認められるから,控訴人は類型cに該当する。 本件各処分の憲法14条1項違反について支援法の施策の対象者について,我が国の国籍保有者で,かつ,我が国へ の帰国意思を有している者として,その帰国意思の有無の認定を,昭和20年9月2日時点において旧戸籍法の規定に基づき本邦に本籍を有していたか否かという1個の事実に基づいてすること,特に,本件のように,その母が同日時点において本邦に本籍を有していた者は施策の対象とし,そうでなかった者は施策の対象としないという区別をすることは,不合理な差別であり, また,その母の戸籍の所在地が本邦内か否かという要件は,控訴人自身についてのものではなく,控訴人の責任によるものでもなく,自身の出生前の事象であるから,本件各処分は,出生による差別であり,憲法14条1項に違反する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の本件請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし6に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決19頁11行目の「限定されることとなったことから」を「限定され するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし6に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 原判決19頁11行目の「限定されることとなったことから」を「限定され」と改める。 同19頁12行目及び同頁21行目の「者」をいずれも「もの」と改める。 同19頁26行目の「3 」を「3 類型Cのうち」と改める。 同20頁21・22行目の「は本邦に引き揚げない」を「が中国に出自を 有し,両親が終戦とともに本邦に引き揚げることをしない」と改める。 同21頁7・8行目の「あるといえるものの」を「あるもの(類型c)の」と改める。 同22頁11行目の「者」を「もの」と改める。 同24頁20行目の「は本邦に引き揚げない」を「が中国に出自を有し,両親が終戦とともに本邦に引き揚げることをしない」と改める。 2 当審における控訴人の補充主張について支援法2条1項1号の類型B該当性について控訴人は,支援法2条1項1号の「同日(昭和20年9月2日)において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」について,「日本国民」は,大日本帝国国籍保有者であった者で,かつ,日本国籍保有者との趣旨であり, 「として本邦に本籍を有していたもの」は,朝鮮戸籍令又は台湾戸口規則の適用対象者でない者を意味すると主張する。 しかしながら,支援法2条1項1号にいう「同日において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」の意義については,その文理に照らせば,単に昭和20年9月2日において日本国民であった(すなわち,旧国籍法に基 づき日本国籍を有していた)だけではなく,同日において,旧戸籍法に基づき本邦に本籍を有していた者をいうものと解されること,支援法の制定経緯,目的に鑑みると,支援法2条1項1号 ,旧国籍法に基 づき日本国籍を有していた)だけではなく,同日において,旧戸籍法に基づき本邦に本籍を有していた者をいうものと解されること,支援法の制定経緯,目的に鑑みると,支援法2条1項1号は,第二次世界大戦に起因して生じた混乱等がなければ本来引揚援護の対象となるはずであった者として類型Aを規定し,具体的には,同号が類型Aを規定しているのは,我が国が降伏文書 への調印を行った昭和20年9月2日を基準日として,「同日において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」については,仮にソ連軍が中国東北地域に侵攻を開始した同年8月9日以後の混乱等がなければ,終戦とともに本邦に引き揚げていた可能性が高かったといえることから,これに該当する者を支援法による施策の対象とする趣旨によるものであり,同号が類型B を規定しているのは,類型Aに該当する者を両親として同年9月3日以後に 中国の地域で出生した者も,上記の同年8月9日以後の混乱等がなければ,両親と共に本邦に引き揚げていたか,又は両親の引揚げ後に本邦で出生していた可能性が高かったといえることから,これに該当する者を支援法による施策の対象とする趣旨によるものと解され,このような同号の趣旨に照らせば,「同日において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」との文言 は,上記の昭和20年8月9日以後の混乱等がなければ本邦に引き揚げていた可能性が高い邦人であることを示す指標として,同年9月2日において日本国民であったことのみならず,本邦に本籍を有していたことをも必要としたものであると解するのが相当であること,日本国民のうち,本邦に本籍を有する者は,通常は本邦に出自を有する者であり,本邦に出自を有しないと しても,本邦に生活基盤を置く意思がある者であるといえるから,本邦に 解するのが相当であること,日本国民のうち,本邦に本籍を有する者は,通常は本邦に出自を有する者であり,本邦に出自を有しないと しても,本邦に生活基盤を置く意思がある者であるといえるから,本邦に本籍を有することは,本邦への引揚げの可能性が高いことを示す指標となり,ひいては本邦への引揚援護の必要性を基礎付ける重要な事情であるということができること,本邦に本籍を有すべきでありながらこれを有しない者について,「同日において日本国民として本邦に本籍を有していたもの」に含ま れると解することはできないことは,前記1説示のとおりである。同号の要件について,控訴人の主張のように解することは,上記のような支援法の文理及び趣旨に反するものといわざるを得ない。控訴人の主張は採用することができない。 類型Cのうちの支援法施行規則1条3号の類型c該当性について 控訴人は,支援法施行規則1条3号について,昭和20年9月2日において,その両親につき日本国民として本邦に本籍を有していた者に準ずる程度の本邦への引揚げの可能性があったといえる特段の事情が認められることが要件であるとしても,控訴人の両親にはそのような特段の事情が認められると主張する。 しかしながら,Eは,Dとの婚姻前に中華民国の国籍を有していたことか ら,同国に出自を有すると考えられる上,DとEは,同国の方式によって婚姻したものにとどまり,本件全証拠によっても,両名が,その婚姻届を在中国の大使館ないし領事館に提出するなど,EがDの戸籍にその妻として記載されるために必要な手続を履践した事実は認められないことからすれば,Eにつき,昭和20年9月2日において,日本国民として本邦に本籍を有して いた者に準ずる程度の本邦への引揚げの可能性があったといえる特段の事情が 手続を履践した事実は認められないことからすれば,Eにつき,昭和20年9月2日において,日本国民として本邦に本籍を有して いた者に準ずる程度の本邦への引揚げの可能性があったといえる特段の事情があるということはできないことは,前記1説示のとおりである。控訴人は,上記の特段の事情に関する事実として,究明用カード(乙29)にはDの帰国希望意思が記載されていること,DとEとの間の長男であるFは,日本名を付けられ,Dの兄であるGの三男として入籍していたが,控訴人の両親は Fを自ら養育し,控訴人も日本名を付けられていたことなどから,Dのみならず,Eも,戦争終了後は,中国に留まるのではなく,家族全員で日本に帰国することを望んでいたと主張するけれども,究明用カード(乙29)の記載は,同カードは昭和47年以降に作成されたものであることがうかがわれるところ,その「帰国希望」の欄に○印が付されているとしても,そのこと をもって,昭和20年9月2日において,控訴人の両親について日本国民として本邦に本籍を有していた者に準ずる程度の本邦への引揚げの可能性があったといえる特段の事情を直ちに裏付けるとはいえないし,Fに関する事情や控訴人も日本名を付けられていたことなどの事情を併せて考慮しても,上記の特段の事情があるとはいえないとの前示の判断を左右するに足りないと いうべきである。控訴人の主張は採用することができない。 本件各処分の憲法14条1項違反について控訴人は,支援法の施策の対象者について,我が国への帰国意思の有無の認定を,昭和20年9月2日時点において旧戸籍法の規定に基づき本邦に本籍を有していたか否かという1個の事実に基づいてすること,特に,本件の ように,その母が同日時点において本邦に本籍を有していた者は施策の対象 日時点において旧戸籍法の規定に基づき本邦に本籍を有していたか否かという1個の事実に基づいてすること,特に,本件の ように,その母が同日時点において本邦に本籍を有していた者は施策の対象 とし,そうでなかった者は施策の対象としないという区別をすることは,不合理な差別であり,また,出生による差別であるから,本件各処分は憲法14条1項に違反すると主張する。 しかしながら,支援法2条1項1号が,原則として,基準日である昭和20年9月2日において,本人(類型A)又は両親(類型B)が日本国民とし て本邦に本籍を有していたか否かによって支援措置の対象となる「中国残留邦人等」の範囲を画した趣旨は,同日において日本国民として本邦に本籍を有していた者については,仮にソ連軍が中国東北地域に侵攻を開始した同年8月9日以後の混乱等がなければ,終戦とともに本邦に引き揚げていた可能性が高かったといえ,また,類型Aに該当する者を両親として同年9月3日 以後に中国の地域で出生した者も,仮に上記の同年8月9日以後の混乱等がなければ,両親と共に本邦に引き揚げていたか,又は両親の引揚げ後に本邦で出生していた可能性が高かったといえることに鑑み,類型A及び類型Bを定めたものと解され,他方,両親の一方のみが日本国民として本邦に本籍を有していた者については,他方の親(日本国民として本邦に本籍を有してい なかった者)が中国に出自を有し,両親が終戦とともに本邦に引き揚げることをしない可能性が少なからず存し,その親と共に子も本邦に引き揚げない可能性もまた少なからず存したことから,仮に上記の混乱等がなければ,親と共に本邦に引き揚げていたか,又は親の引揚げ後に本邦で出生していた可能性が高かったとはいえないため,原則として,支援法による施策の対象と はし 存したことから,仮に上記の混乱等がなければ,親と共に本邦に引き揚げていたか,又は親の引揚げ後に本邦で出生していた可能性が高かったとはいえないため,原則として,支援法による施策の対象と はしないこととしたものであると解されること,そして,日本国民のうち,本邦に本籍を有する者は,通常は本邦に出自を有する者であり,あるいは,本邦に出自を有しないとしても,本邦に生活基盤を置く意思がある者であるといえるから,本邦に本籍を有することは,本邦への引揚げの可能性が高いことを示す指標となり,ひいては本邦への引揚援護の必要性を基礎付ける重 要な事情であるということができること,そうすると,支援法2条1項1号 が,上記のような趣旨から,基準日である昭和20年9月2日において,本人(類型A)又は両親(類型B)が日本国民として本邦に本籍を有していたか否かを「中国残留邦人等」の範囲を画する基準とし,両親が日本国民として本邦に本籍を有していた者については同法による施策の対象とする一方,両親の双方又は一方が日本国民として本邦に本籍を有していなかった者につ いては原則として同法による施策の対象としないこととしたことは,相応の合理的な根拠に基づく区別であるということができるから,同号は,憲法14条1項に反するものとはいえず,同号に照らして控訴人が「中国残留邦人等」に当たらないと判断することが適用違憲であるということもできないことは,前記1説示のとおりである。上記説示によれば,昭和20年9月2日 において日本国民として本邦に本籍を有していた者と日本国民であるが本邦に本籍を有していなかった者との間で,本邦への引揚げの可能性ひいては本邦への引揚援護の必要性について,差異があるものと捉え,そのことを前提として支援法2条1項1号の要件を定めたことに 民であるが本邦に本籍を有していなかった者との間で,本邦への引揚げの可能性ひいては本邦への引揚援護の必要性について,差異があるものと捉え,そのことを前提として支援法2条1項1号の要件を定めたことには,相応の合理的な根拠があるというべきであり,これが不合理な差別に当たるということはできない。 控訴人の主張は採用することができない。 3 結論よって,控訴人の本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部 裁判長裁判官後藤博 裁判官藤岡淳 裁判官小川雅敏
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