主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを10分し,その1を被告らの,その余を原告らの負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して,5583万1122円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して,5583万1122円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,被告国立大学法人D大学が運営するD大学病院(以下「被告病院」という。)において,歯根嚢胞の処置のために抜歯及び嚢胞開窓術を受けたC(昭和57年10月4日生)が同手術後に死亡したことについて,担当医である被告Eらは,麻酔注射を不適切に行い,またその後の救命処置も適切に行わなかったなどとして,Cの相続人である原告らが相続分に応じて,被告Eに対しては,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づき,被告D大学に対しては,診療契約の債務不履行又は使用者責任に基づき, それぞれ5583万1122円及びこれに対する平成20年2月20日(Cが死亡した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実,各項末尾記載の証拠又は弁論の全 れに対する平成20年2月20日(Cが死亡した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実,各項末尾記載の証拠又は弁論の全趣旨により認められる事実。)(1) Cは,左下臼歯部(左下6番歯)に疼痛を感じ,平成20年1月5日,I歯科医院で診察を受け,同医院の医師から被告病院を紹介され,同月7日,被告病院の顔面口腔外科外来医長である被告E及び同科のF医師(以下「F医師」といい,被告Eと併せて「被告医師ら」という。)の診察を受けた。 なお,同日のCの身長は172cm,体重は56kgであった。(争いがない事実,乙A1,A2)(2) 被告医師らは,Cの症状は,左下5番・6番歯の顎骨に存在する歯根嚢胞によるものであると診断し,F医師は,同月8日,Cに対し,左下6番歯の抜歯及び嚢胞開窓術の手術(以下「本件手術」という。)を行うことを説明し,Cはこれを受けることに同意した。(争いがない事実,乙A1)(3) 本件手術は,同月10日(以下,同日については,年月日の記載を省略する。),被告病院の顔面口腔外科の処置室において実施された。(乙A1)(4) 被告医師らは,午前10時頃,Cに,伝達麻酔・浸潤麻酔として,2%キシロカイン(1/8万エピネフリン含有)を3.6ml投与した。(争いがない事実)(5) 被告医師らは,その後,Cの左下6番歯の抜歯を試みたが,動揺しないため,タービンにて分割を試みた。これにより,Cの左下6番歯の歯冠部のみが割れたので,被告医師らは,さらに歯根部を近遠心方向に分割し,遠心根と近心頬側根を抜去した。(乙A1)(6) その後,残根部分の確認のためX線撮影が行われることになり,Cは,処置室からX線撮影のための検査室に移動した。そして,Cに対するX線 方向に分割し,遠心根と近心頬側根を抜去した。(乙A1)(6) その後,残根部分の確認のためX線撮影が行われることになり,Cは,処置室からX線撮影のための検査室に移動した。そして,Cに対するX線撮影 は,午前11時10分頃終了した。(甲A3の2,乙A1)(7) 被告医師らは,処置室に帰室したCに,浸潤麻酔として2%キシロカイン(1/8万エピネフリン含有)0.9mlを追加投与し,抜歯を再開した。 しかし,Cの全身に振戦が出現したことから,本件手術は中断され,また,Cには,過換気症候群の治療法の一つであるペーパーバック法が実施されたが,Cが余計苦しいと訴えたため中止された。この頃,Cには,頻呼吸があり,上肢にはチアノーゼがみられた。また,Cの体温が42℃であることも確認された。(争いがない事実,甲A3の1,乙A1)以下,本項記載のCに生じた一連の症状の急変を「本件急変」という。ただし,各症状の急変の発生時刻については争いがある。 (8) 被告病院の歯科麻酔科のG医師は,午前11時50分頃,被告医師らの応援要請により処置室に到着し,Cへの救急措置を開始した。そして,G医師は,午前11時52分頃,Cにミダゾラム1mgを投与し,午後零時頃,ミダゾラム2mgを追加投与した。(乙A1)(9) その後,Cは,被告病院の救命救急センターに搬送され,午後零時15分に到着した。(争いがない事実)(10) Cの病態は,午後6時頃には,播種性血管内凝固症候群(以下「DIC」という。)になったことが判明し,翌11日午前9時頃には多臓器不全となったことが判明した。その後も,被告病院の救命救急センターにおいて治療が続けられたものの,Cは,同年2月20日に死亡した。(甲A3の1,A4)(11) Cに子はおらず,原告AはCの父,原告BはCの母であ が判明した。その後も,被告病院の救命救急センターにおいて治療が続けられたものの,Cは,同年2月20日に死亡した。(甲A3の1,A4)(11) Cに子はおらず,原告AはCの父,原告BはCの母である。(甲C1,弁論の全趣旨) 3 争点及び当事者の主張(1) 機序ア原告らの主張 (ア) Cは,本件手術の際の麻酔薬投与により,アナフィラキシーショック及び悪性高熱を発症し,その後,DIC等となり,死亡した。 (イ) 仮に悪性高熱の発症がなかったとしても,Cは,本件手術の際の麻酔薬投与により,アナフィラキシーショックを発症し,その後,DIC等となり,死亡した。 (ウ) 仮にアナフィラキシーショックの発症がなかったとしても,Cは,歯根嚢胞の感染症により,敗血症性ショック及び悪性高熱を発症し,その後,DIC等となり,死亡した。 (エ) 仮にアナフィラキシーショック及び悪性高熱の発症がなかったとしても,Cは,歯根嚢胞の感染症により,敗血症性ショックを発症し,その後,DIC等となり,死亡した。 イ被告らの主張Cは,アナフィラキシーショック又は悪性高熱のいずれも発症していない。 Cは,歯根嚢胞の感染症により,敗血症性ショック,その中でも特に毒素性ショック症候群(以下「TSS」という。)を発症し,DIC等となり死亡したものである。 (2) 本件急変がアナフィラキシーショック又は悪性高熱の発症によるものであることを前提とする被告らの義務違反の有無ア原告らの主張(ア) 準備段階における義務違反Cは,通常人よりショックを引き起こしやすいアレルギー体質であったから,被告医師らは,Cに対して詳細な問診を行い,Cに麻酔薬であるキシロカインを投与するにあたっては,事前にパッチテストを行ってショック症状の危険性がないかを確 き起こしやすいアレルギー体質であったから,被告医師らは,Cに対して詳細な問診を行い,Cに麻酔薬であるキシロカインを投与するにあたっては,事前にパッチテストを行ってショック症状の危険性がないかを確認し,キシロカイン投与の際は,万が一の場合に備えて静脈路を確保できるように準備すべき義務を負って いたにもかかわらず,この義務を怠った。 (イ) キシロカインの投薬量を必要最小限にする義務違反キシロカインの添付文書には,浸潤麻酔又は伝達麻酔の場合には,通常成人に対し0.3ml~1.8mlを使用すると記載され,使用量も「できるだけ必要最小量にとどめること」と記載されている。このことから,被告医師らは,キシロカインを投与するにあたって,用量を守るだけではなく,用量の範囲内であっても必要最小限度の量を投与すべき義務があった。特に,Cは喘息の既往症があり,アレルギー体質であったのだから,より一層投与量については注意すべき義務があった。 しかし,被告医師らは,Cに対し,キシロカインを午前10時00分に3.6ml,午前11時30分に0.9ml,計4.5ml投与し,通常成人の2.5倍の量を投与しており,上記義務を怠った。 (ウ) アナフィラキシーショックに対する救護処置を施す際の義務違反Cにアナフィラキシーショック症状が出ていた以上,被告医師らは,Cに対し,アドレナリンを投与すべき義務を負っていたにもかかわらず,この義務を怠った。 (エ) 悪性高熱に対する救護処置を施す際の義務違反Cに悪性高熱の症状が出ていた以上,被告医師らは,悪性高熱の特効薬であるダントロレンの投与をすべき義務を負っていたにもかかわらず,この義務を怠った。 イ被告らの主張Cは,アナフィラキシーショック又は悪性高熱のいずれも発症していないので,被告医師らには,こ であるダントロレンの投与をすべき義務を負っていたにもかかわらず,この義務を怠った。 イ被告らの主張Cは,アナフィラキシーショック又は悪性高熱のいずれも発症していないので,被告医師らには,これらを前提とする義務違反はない。 なお,Cの血液献体の生化学的分析によると,Cの血中リドカイン濃度は標準的投与量で使用された場合と同程度であり,キシロカインの過剰投与があったとは認められない。さらに,キシロカインは,添付文書におい て,口腔外科領域の場合には3~5ml使用すべきと記載されており,本件手術の際の投与量に問題はない。 (3) 初期救命救急処置を施す際の義務違反の有無ア原告らの主張(ア) 救命救急センターへの連絡の遅れa被告医師らは,午前11時26分に,Cの上肢と唇にチアノーゼが現れたことを確認した。 チアノーゼは,血中酸素濃度の低下を意味するものであり,これらの症状は歯科医師の専門領域外である。したがって,このような症状を観察した時点で,被告医師らは,直ちにCを被告病院内の救命救急センターに搬送し,適切な処置を受けさせるべき義務を負っていた。 それにも関わらず,被告医師らは直ちに救命救急センターに連絡しなかった。 bまた,被告医師らは,Cに42℃の熱が生じていることを午前11時26分,又は遅くとも午前11時47分には認識していた。 42℃以上の高熱の発生は,一刻も争う緊急事態であり,被告医師らは,これを認識した時点で,救命救急センターに連絡すべきであった。 それにも関わらず,被告医師らは,直ちに救命救急センターに連絡をせずに歯科麻酔医に連絡を取ったに過ぎず,午後零時10分に至って初めて救命救急センターに連絡をした。 c以上から,被告医師らが,救命救急センターに直ちに連絡すべき義務を怠ったこ ンターに連絡をせずに歯科麻酔医に連絡を取ったに過ぎず,午後零時10分に至って初めて救命救急センターに連絡をした。 c以上から,被告医師らが,救命救急センターに直ちに連絡すべき義務を怠ったことは明らかである。 (イ) 過換気症候群との誤診及び誤診に基づく誤った治療Cは,午前11時26分に,血中酸素濃度の低下を示すチアノーゼが認められ,内因性ショック状態に陥っていることは明らかであった。 したがって,被告医師らは,この時点で,Cの気道及び輸液ルートを確保した上で,酸素を補給すべき義務を負っていた。 それにも関わらず,被告医師らは,Cの症状が過換気症候群によるものと誤診し,血中酸素濃度を低下させるペーパーバック法を実施しており,上記義務に違反していることは明らかである。 (ウ) ミダゾラムの投与Cは内因性のショックを発症していたことが明らかであったのだから,ショック状態の患者に禁忌のミダゾラムを投与すべきではなかった。 それにも関わらず,G医師は,Cにミダゾラムを投与した。 (エ) クーリングの遅れ被告医師らは,Cに42℃の熱が生じていることを午前11時26分に認識していた。 そして,42℃以上の高熱の発生は,一刻も争う緊急事態であるから,被告医師らには,この時点において,Cの生命を維持するため,最低限の措置としてクーリングを直ちに行う義務があった。 それにもかかわらず,現実にクーリングがされたのは,午後零時2分であった。 イ被告らの主張(ア) 救命救急センターへの連絡の遅れCの体にチアノーゼが出現し始めたのは,午前11時40分頃であり,被告医師らがCに42℃の高熱が生じていることを確認したのは,午前11時47分頃である。 そして,その頃のCは,血圧が測れる状態にあり,動脈血酸素飽和度(以下「S のは,午前11時40分頃であり,被告医師らがCに42℃の高熱が生じていることを確認したのは,午前11時47分頃である。 そして,その頃のCは,血圧が測れる状態にあり,動脈血酸素飽和度(以下「SpO₂ 」という。)も正常であり,自発呼吸もあり,受答えもできていた。また,歯科麻酔科の医師は,蘇生のインストラクターの資格を持ち,全身麻酔下において全身管理のできるスペシャリストである。 そうすると,被告医師らが,直ちに救命救急センターに連絡せず,歯科麻酔科で対応したことについて,何ら過失はない。 (イ) 過換気症候群との誤診及び誤診に基づく処置Cが救命救急センターに搬送された時点でSpO₂ が99%であったことから,Cの気道が十分に確保されていたことは明らかである。 また,被告医師らは,Cが浅く早い呼吸をしていたことから過換気症候群を疑いペーパーバック法を実施したものであって,さらに1~2回実施したところでCが苦しいと訴えたので即座にこれを中止していることからも,被告医師らには過失はない。 (ウ) ミダゾラムの投与G医師がミダゾラムを投与した時点で,Cが敗血症ショックに陥っていると確定診断することは不可能であり,ショックに禁忌であることのみから,ミダゾラムの投与について過失があったとはいえない。 さらに,ミダゾラムの投与は,血管確保のルートを引き抜こうとして暴れるCを制御するため必要な処置であり,また,3mg程度の量で症状が悪化することはあり得ないので,ミダゾラムの投与行為に過失があったとはいえない。 (エ) クーリングの遅れ被告医師らがCに42℃の高熱が生じていることを確認したのは,午前11時47分頃である。 そして,その後,速やかに看護師がクーリング準備を開始し,その2~3分後にはクーリングを開始したのである 被告医師らがCに42℃の高熱が生じていることを確認したのは,午前11時47分頃である。 そして,その後,速やかに看護師がクーリング準備を開始し,その2~3分後にはクーリングを開始したのであるから,クーリングの対応に問題があったとはいえない。 (4) 適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務違反ア原告らの主張被告病院は,組織的に,医師らに,ショック症状の発現可能性を踏ま えた上で,患者の容態急変後に適切な処置を行うことができるような手技を習得するよう指導するなどして,初期救急救命処置体制を構築しておくべき義務を負っていた。 しかし,被告医師らは,喘息の持病を有するCに対して事前のパッチテストも行わず,適量以上のキシロカインを投与し,ショック症状を発現したCを心因性過換気症候群と誤診し,ショックの患者には禁忌とされるミダゾラムを2回も使用し,手に負えなくなって初めて救命救急センターに連絡しており,これらの被告医師らの行動からすれば,被告医師らが,容態急変後に適切な処置をするための手技を習得していなかったことは明らかである。 そうすると,被告病院は組織的に上記指導をしていなかったといわざるを得ず,被告病院は,適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務に違反している。 イ被告らの主張否認ないし争う。 (5) 因果関係の有無ア原告らの主張(ア) 準備段階における義務違反との因果関係被告医師らが事前に適切に,問診・準備義務を果たしていれば,そもそも麻酔が投与されることはなかったか,最小限度の量が投与されていたのであるから,Cには,アナフィラキシーショック及び悪性高熱は生じず,死亡という結果も発生しなかった。 (イ) キシロカインの投薬量を必要最小限にする義務違反と結果との因果関係キシロカ ていたのであるから,Cには,アナフィラキシーショック及び悪性高熱は生じず,死亡という結果も発生しなかった。 (イ) キシロカインの投薬量を必要最小限にする義務違反と結果との因果関係キシロカインの添付文書どおりに浸潤麻酔及び伝達麻酔を実施していれば,Cにアナフィラキシーショック及び悪性高熱が生じることはなく, Cが死亡することはなかった。 (ウ) アナフィラキシーショックに対する救護処置を施す際の義務違反と結果との因果関係アドレナリンが投与されていれば,Cが死亡することはなかった。 (エ) 悪性高熱に対する救護処置を施す際の義務違反と結果との因果関係悪性高熱の特効薬であるダントロレンが投与されていれば,Cが死亡することはなかった。 (オ) 初期救急救命処置を施す際の義務違反と結果との因果関係aCの本件急変に対し,適切な初期救急救命処置が適切に行われていれば,Cの死亡という結果を回避することができた。 b特に,ミダゾラムの投与の過失と結果との因果関係については次のとおりである。 Cはショック状態に陥り,血流が低下し,脳への酸素供給量も低下していた。このような状態においてG医師がミダゾラムを投与したことによって,Cの血管が拡張し,さらに酸素供給量が減少した。また,被告医師らやG医師らは,ミダゾラムの鎮静効果でCが鎮静したと思いこんだことによって,脳機能の低下による意識消失も見過ごした。 その結果,Cの脳は著しい低酸素状態に陥り,結果として救命救急センターに運び込まれる前にCは脳死状態になり,その後,脳の状態が戻ることはなかった。 このような結果は,ミダゾラムを投与していなければ生じなかったものであり,Cの死亡とミダゾラム投与との因果関係が認められる。 (カ) 適切な初期救急救命処置体制を構築しておく 戻ることはなかった。 このような結果は,ミダゾラムを投与していなければ生じなかったものであり,Cの死亡とミダゾラム投与との因果関係が認められる。 (カ) 適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務違反と結果との因果関係適切な初期救急救命処置が構築されていれば,Cは死亡することはなかった。 イ被告らの主張(ア) 上記ア(原告らの主張)~についてそもそも,Cは,アナフィラキシーショック又は悪性高熱のいずれも発症していないので,被告医師らの行為と結果との間に因果関係はない。 (イ) 初期救急救命処置を施す際の義務違反と結果との因果関係否認ないし争う。 なお,本件でG医師がCに投与したミダゾラムの量に問題はなく,ミダゾラム投与によって結果が発生したとはいえない。また,Cが脳死状態に陥ったのは,平成20年1月22日に「脳浮腫著明」,「脳波微弱」,「脳幹反応なし」とされた時点であり,救命救急センターに運び込まれる前ではない。 (ウ) 適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務違反と結果との因果関係否認ないし争う。 (6) 損害の発生及び額ア原告らの主張次のとおり,合計1億1166万2245円の損害が生じた。 (ア) 休業損害 31万7329円(イ) 逸失利益 7619万3803円(ウ) 本人の死亡慰謝料 2000万円(エ) 原告らの慰謝料合計500万円(オ) 弁護士費用 1015万1113円イ被告らの主張いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 医学的知見について 各項末尾記載の証拠又は弁論の全趣旨によれば,本件に関する医学的知見は,次のとおり認められる。 (1) キシロカインは,麻酔効果を有するリドカイン塩酸塩を含有する麻酔薬で 的知見について 各項末尾記載の証拠又は弁論の全趣旨によれば,本件に関する医学的知見は,次のとおり認められる。 (1) キシロカインは,麻酔効果を有するリドカイン塩酸塩を含有する麻酔薬である。 キシロカインの副作用としては,アナフィラキシーショックを含むショック,重篤な悪性高熱等がある。(甲B5)(2) チアノーゼとは,皮膚が青くなることを意味し,毛細血管内の静脈叢内に暗青色の還元ヘモグロビン(酸素が結合していないヘモグロビン)が過剰に存在するため,表在毛細血管の色調が変化して皮膚又は粘膜が青色を帯びることにより生じる。 チアノーゼのうち,SpO₂ が低下して生じるチアノーゼを中枢型チアノーゼといい,SpO₂ が正常な場合に認められるチアノーゼを末梢型チアノーゼという。中枢型チアノーゼは,低酸素血症を反映し,末梢型チアノーゼは,ショック等による末梢循環不全を反映するものである。一般に,中枢型チアノーゼは,口腔粘膜,舌,口唇内側で観察しやすく,末梢型チアノーゼは,四肢末梢,爪床,耳介,鼻,頬,口唇外側などで観察される。 チアノーゼの出現は,緊急度・重症度の高い状態を示唆し,高度の低酸素血症の存在を反映しているため,酸素療法の適応であることを示唆する。チアノーゼが生じた場合,SpO₂ を測定し,急性疾患でその値が90%未満であれば,直ちに酸素投与を行うべきであるとされている。また,チアノーゼの原因が不明確な場合や治療が専門的な場合には,専門医に相談するとされている。(甲B10)(3) ショックとは,循環不全により生じた組織低酸素症である。 生体には,ショックに対する種々の生理的代償機構が備わっており,低下した酸素供給量を補うために交感神経系や内分泌系などが活性化され,末梢血管抵抗,心拍数・心収縮力,循環血液量を増加 酸素症である。 生体には,ショックに対する種々の生理的代償機構が備わっており,低下した酸素供給量を補うために交感神経系や内分泌系などが活性化され,末梢血管抵抗,心拍数・心収縮力,循環血液量を増加させ,血圧を維持しようと する。しかし,これら代償機構すべてをもってしても酸素需給のアンバランスが解消できなくなると,細胞・組織レベルで嫌気的代謝が惹起され,DICが進展し,不可逆な臓器不全を生じる。 ショックの初期段階では,生理的代償機構により血圧が維持される。同時に,同機構の影響により特徴的な「なんとなくおかしい」所見が出現するので,この所見をとらえて蘇生処置を開始することができれば,全身の組織酸素代謝障害は比較的軽度であるため,速やかな回復が期待できる。一方,生理的代償機構が破綻し血圧低下が起こると,循環不全の進行に応じ症状もより重度となる。この時点では,蘇生処置をしても効果が得られない,又は,循環動態回復後もDICから多臓器不全へと進展する危険がある。 ショックの初期診療は,まず生命を脅かす生理学的異常を気道,呼吸,循環,意識,体温や身体所見から素早く評価し蘇生処置をしつつ,並行して原因疾患の検索を進めることが重要である。バイタルサインの評価には,視診,聴診,触診,打診から得る身体所見とモニター所見(血圧,心電図,SpO₂ ,体温は最低限)を併用する。(甲B11)(4) アナフィラキシーショックとは,人体の免疫機構に備わった「抗原抗体反応」により引き起こされるアレルギー反応である。体内に侵入するアレルゲン(抗原)に対して,極めて過剰な免疫応答が起こり,全身的に多量の科学伝達物質が放出され,「毛細血管拡張」を起こしてショック状態となる。 アナフィラキシーショックは,典型的な症状として,「蕁麻疹」をはじめとして「呼吸困難」 過剰な免疫応答が起こり,全身的に多量の科学伝達物質が放出され,「毛細血管拡張」を起こしてショック状態となる。 アナフィラキシーショックは,典型的な症状として,「蕁麻疹」をはじめとして「呼吸困難」,「腹痛」,「嘔吐」,「下痢」及び「血圧低下」を伴うショック状態を呈する。(甲B7の1)(5) 悪性高熱症とは,常染色体優性遺伝性疾患である。悪性高熱症は,ハロゲン化吸入麻酔薬,脱分極性筋弛緩薬に反応して,カルシウムが骨格筋の筋小胞体から過剰に遊離する。 悪性高熱症の臨床症状は,突然の呼気終末二酸化炭素分圧の上昇後,数分 から数時間内に,全身の筋硬直が現れ,それが急速に広範な筋細胞の壊死等へ進展することがある。筋硬直で生じた熱が,悪性高熱症の体温の著明な上昇(しばしば40℃を超す)の原因である。(乙B4)(6) 敗血症とは,感染の結果,全身性炎症反応症候群,すなわち発熱や白血球増加などの全身の炎症の徴候によって特徴づけられる状態になることをいう。 敗血症のうち,主要臓器障害を伴う敗血症を重症敗血症といい,さらに輸液投与に不応性の低血圧を伴う重症敗血症を,敗血症性ショックという。 敗血症性ショックの一種にTSSがある。TSSは,TSStoxin-1産生性のブドウ球菌や溶連菌から血中に放出されるtoxinによって,急速にショック状態を発症し,多臓器不全に陥る予後不良の病態である。 プロカルシトニン値は,感染性疾患に対して高い感度を示す値であり,敗血症の重症度にも相関するものといわれており,その正常値は0.5ng/ml未満とされている。(甲B2,乙B4)(7) DICとは,敗血症や多発外傷により起こる広範な血管内皮傷害により,組織因子として知られるタンパクが放出され,内因性凝固カスケードや線溶系が活性化し,その結果,血小板と凝固 B2,乙B4)(7) DICとは,敗血症や多発外傷により起こる広範な血管内皮傷害により,組織因子として知られるタンパクが放出され,内因性凝固カスケードや線溶系が活性化し,その結果,血小板と凝固因子の減少を伴う広範な微小血管内血栓を特徴とする重篤な凝固障害が発生した病態である。 DICでの微小血管内血栓により多臓器機能障害が発症する。進行したDIC症例では死亡率が80%を超えるが,基礎疾患に対する治療以外に有効な治療法はない。(乙B4) 2 臨床経過等について(1) 午前11時30分時点における状況ア証拠(甲A3の2,被告E145項)によれば,Cには本件手術中にレントゲン撮影が行われ,その結果が午前11時10分に電子カルテシステムに反映されたことが認められる。また,Cが午後零時15分に救命救急センターに到着したことは当事者間に争いがない。 そして,上記レントゲン撮影から救命救急センター到着までの間におけるCの状態変化やそれに対する被告医師らの対応については,被告病院のカルテ(乙A1)に一応の記載があるものの,その時刻の記載が不正確であることは被告らも認めるところである。 ところで,上記レントゲン撮影から救命救急センター到着までの間における臨床経過の正確な時刻を示すものは,大型モニター(乙A3の3。 血圧,心拍,SpO₂ 等について計測可能なもの)による計測時刻の記録しかないところ,大型モニターに午前11時30分に計測が行われたとの記録(乙A1・16頁の「11:50 ケイソクエラー」との記録を指す。なお,同記録に記載されている時刻が,すべて本来の時刻より20分進んでいることについては,当事者間に争いがない。)があることについて,原告らは,同記録はCに対する計測行為を示すものであると主張し,被告らは,大型モニター ている時刻が,すべて本来の時刻より20分進んでいることについては,当事者間に争いがない。)があることについて,原告らは,同記録はCに対する計測行為を示すものであると主張し,被告らは,大型モニターで計測を開始したのは午前11時47分であって,午前11時30分の記録は本件手術以前の記録が残存したものに過ぎないと主張するので,この点につき判断する。 イまず,Cに振戦が生じた後に,被告医師らがCの血圧を測定しようとしたが,振戦のために測定できなかったことは当事者間に争いがないところ,上記のとおり,大型モニターの午前11時30分の記録は「ケイソクエラー」というものであり,これは,Cの血圧測定を行えなかったという事実と合致する。 また,被告医師らが作成した事例概要報告書(甲A3の1)中の「歯科での経過」と題する一覧表の「11:46」の「患者の状態」欄には,「小型式モニター」でSpO₂ 及び心拍を計測した後,「モニター」で振戦にて血圧が測定不能であったとの記載があり,また,同時刻の「看護師の処置」欄には,看護師が「モニター」を持参したとの記載がある。 そして,「11:47」の「患者の状態」欄には,「モニター」にて血 圧を測定したとの記載がある。このように,上記一覧表では,「小型式モニター」と「モニター」とは明確に区別して記載されているところ,「小型式モニター」とは小型モニター(乙A3の1。SpO₂ ,心拍について計測可能なもの)と解され,午前11時47分に計測したのは大型モニターであること(乙A1・16頁)からすれば,上記の「11:46」に振戦にて血圧が測定不能であった「モニター」とは大型モニターを指すと解するのが自然である。 さらに,大型モニターは画面を備え,車輪のついた台で移動させる機材である(乙A3の3)ところ,上記一覧表に 振戦にて血圧が測定不能であった「モニター」とは大型モニターを指すと解するのが自然である。 さらに,大型モニターは画面を備え,車輪のついた台で移動させる機材である(乙A3の3)ところ,上記一覧表に,看護師が「11:46」に「モニター」を持参したとあえて記載され,その後,モニター類を持参したとの記載がないことからすれば,看護師が「11:46」に持参したとされるモニターは,大型モニターであると解される。そして,看護師の持参した「モニター」と並列して,振戦にて血圧が測定不能であった「モニター」についての記載があることからすれば,その「モニター」もまた大型モニターを指すと解するほかはない(「11:46」の「患者の状態」欄に,Cが「すいません。こんなになってしまって。」と発言したと記載されているが,上記のとおり大がかりな機材が持ち込まれ,処置室が物々しい雰囲気になったことに応じてのものであったと推察される。)。 以上を総合すると,午前11時47分に血圧を正常に測定する以前にも1回,大型モニターを使用した(ただし,振戦にて測定不能であった。)ことが認められるのであり,その1回は,まさしく大型モニターの記録どおり,午前11時30分「ケイソクエラー」の時であったと考えるのが最も自然かつ合理的である。 これに対し,被告Eは,振戦にて血圧を測定できなかった際に使用した機材は,手動式血圧計(乙A3の2)であると供述する(被告E供述 171項)が,被告病院のカルテ(乙A1)だけではなく,事故後に被告医師らが作成した報告書(甲A3の1・2)にも,手動式血圧計を用いたことを窺わせる記載は一切ない。また,上記一覧表には「モニター上BP:測定不能(振戦にて)」と記載されているところ,手動式血圧計を「モニター」と表現したり,その計測結果を「モニター上」 圧計を用いたことを窺わせる記載は一切ない。また,上記一覧表には「モニター上BP:測定不能(振戦にて)」と記載されているところ,手動式血圧計を「モニター」と表現したり,その計測結果を「モニター上」と表現したりすることはおよそ考え難い。したがって,被告Eは,振戦にて血圧を測定できなかった際に使用した機材について,殊更に虚偽供述をしていると考えざるを得ない。 そうすると,被告病院のカルテ(乙A1・18頁)及び上記事例概要報告書(甲A3の1・2頁)の時刻の記載については,大型モニターの記録上明らかな午前11時47分の記載から1分刻みに遡っていく形で,Cの全身に振戦が出現した時刻を遅らせるよう記載されたものと見ざるを得ない(乙A1・18頁の記載自体,「11:45」の文章の途中で,「11:46」が加入され,「11:47」へ繋がる不自然なものとなっている。)。 なお,被告らが行った実験(乙B3の1~3)によれば,大型モニターの記録には,測定日前の記録も,測定日に記録したかのように残ることもあるとは認められるものの,かかる事実は,上記判断を左右するものではない。 (2) 臨床経過等に関する事実認定上記のとおり認められる午前11時30分時点における状況に加えて,各項末尾記載の証拠又は弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア Cは,午前11時10分過ぎに,レントゲン撮影のための検査室を退出し,処置室に戻った。 そして,被告医師らは,Cにレントゲン撮影の結果を説明し,処置用の椅子の周辺の消毒を行った後に,キシロカインの追加投与を行い,抜 歯を再開しようとしたところ,抜歯窩に白色膿を確認したので,細菌検査のために微量の血性液体を採取した。その後,被告医師らは,抜歯をしようと鉗子で歯根をつかもうとした際に,Cから「少し手が震える 歯を再開しようとしたところ,抜歯窩に白色膿を確認したので,細菌検査のために微量の血性液体を採取した。その後,被告医師らは,抜歯をしようと鉗子で歯根をつかもうとした際に,Cから「少し手が震える。」と訴えられ,治療を中断した。 そして,看護師が今朝の体調を尋ねたところ,Cは,特段変わりはなかった旨応答するとともに,軽い寒気も訴えた。このことから,看護師がバスタオル及びタオルケットで保温措置をとるとともに,処置用の椅子も起こされた。Cの所見は,小型モニター上で,SpO₂ が100%,心拍が120回/分であった。 この後,看護師は,Cの血圧を測るために大型モニターを処置室に運び込むとともに,H医師が応援のために処置室にきた。(甲A3の1・2,A6の2・7頁,乙A1,A2)なお,レントゲン撮影のための検査室と処置室は,同じ建物の4階と5階にあること,Cが処置室に戻ってから,処置再開までは5分程度を要すること,キシロカインの追加投与から抜歯再開まで5分程度かかること(甲A3の2,被告E本人供述100,119,154項)を前提とすれば,Cがレントゲン撮影のための検査室を退出した午前11時10分過ぎから,大型モニターを装着された午前11時30分までの間に,上記各処置が行われたとしても不自然ではない。 (3) 看護師は,午前11時30分,Cの血圧等を測るために大型モニターを装着したが,振戦のために測定できなかった。 また,これと並行して,H医師は,Cの前額部に熱感がないことを確認し,ゆっくり深く呼吸するよう促した後に,ペーパーバック法も実施したが,Cから余計に苦しいと訴えられたことから,1度実施するだけで終了した。 この頃のCの所見は,頻呼吸,手指冷感あり,手指の硬直なし,意識清明,発汗なし,上肢にチアノーゼがあり,小型モニターでSp が,Cから余計に苦しいと訴えられたことから,1度実施するだけで終了した。 この頃のCの所見は,頻呼吸,手指冷感あり,手指の硬直なし,意識清明,発汗なし,上肢にチアノーゼがあり,小型モニターでSpO₂ は96%,心拍数 は150台/分と測定された。(甲A3の1・2,A6の2・4・7頁,乙A1)なお,原告らは,Cにチアノーゼが確認されたのは午前11時26分であると主張する。しかし,被告病院のカルテ(乙A1)の本件事故前後の部分の記載は,Cが救命救急センターに搬送された直後に記載されたもの(甲A9の2・6頁)であって,時刻以外の部分の信用性を否定することはできないところ,同カルテには振戦のために血圧を測定できなかった事実に続けて,チアノーゼを確認したとの記載があるので,Cにチアノーゼが確認されたのは,振戦のために血圧を測定できなかった時刻と同時間帯であると認められる。 (4) 被告医師らは,午前11時47分頃,Cの体温を測定し,42℃であることを確認し,直ちに,被告医師らは,歯科麻酔医であるG医師に連絡をした。 この時のCの血圧は,122/53(収縮期/拡張期。以下同じ。)であった。(乙A1)なお,原告らは,Cの体温が42℃であることが確認されたのは午前11時26分であると主張する。しかし,被告Eは,体温確認と大型モニターによる血圧測定を並行して行ったと供述(被告E本人319項)するところ,被告病院のカルテ(乙A1)には,同血圧測定の時刻は午前11時47分であるとの記載がある。また,上記のとおり,被告病院のカルテ(乙A1)の時刻以外の部分の信用性を否定することはできないところ,同カルテには42℃の熱が計測された時点で,直ちに麻酔科医に連絡した旨の記載があり,その連絡時刻が午前11時47分頃であることについては当事者間に 以外の部分の信用性を否定することはできないところ,同カルテには42℃の熱が計測された時点で,直ちに麻酔科医に連絡した旨の記載があり,その連絡時刻が午前11時47分頃であることについては当事者間に争いがない。そうすると,被告医師らがCの体温を確認したのは,午前11時47分であると認められる。 (5) G医師は,午前11時50分頃に処置室に到着した。G医師は,Cが浅く速い呼吸をしていること,脈拍が非常に速いことを確認し,手足の末梢血管 が非常に収縮しており冷たいこと,顔が紅潮していることや振戦が非常に強いことを確認し,Cがショックを起こしていると判断した上で,G医師は,輸液ルートを確保するために点滴をとった。その後,G医師は,振戦に影響されない正確な血圧を測定し,また,末梢の循環を改善した上で呼吸状態を正確に確認するため,午前11時52分頃にミタゾラムを投与し,原因疾患を特定しようとした。 その後,G医師は,Cにマスクにて酸素投与を開始し,またCの浮腫の程度について注視していたが,Cは点滴を引き抜くような異常行動をとったので,G医師は,Cを鎮静させるために午後零時頃にミタゾラムを再度投与した。 その頃,G医師は,衣服による締め付けを軽減させるとともに,体温を下げるために,看護師に氷等を持ってくるよう指示し,午後零時2分頃,頚部,腹部,腋窩に氷又はアイスノンを当てる形でクーリングが開始された。また,被告Eは,救命救急センターとの間でCの受け入れについて電話連絡を始めた。 この間のCの血圧及びSpO₂ の推移は次のとおりであった。 血圧 SpO₂11時47分 122/53 96%11時49分 125/58 91%11時50分 113/64 血圧 SpO₂11時47分 122/53 96%11時49分 125/58 91%11時50分 113/64 92%11時56分 102/42 99%12時00分 97/38 100%12時02分 96/40 100%12時06分 78/44 ―(甲A6の2・9~12・16・17頁,甲A3の1・2,乙A1,被告E383~386項) なお,被告らは,午前11時47分に42℃の熱を計測してから直ちにクーリングを開始した旨主張するが,被告らが事件当日作成したカルテには,その時刻について午後零時2分と記載されている上,事件後に作成した経過表(甲A3の1・2)においても,午後零時2分にクーリングを開始した旨記載されていることからすると,クーリング開始時点は,上記のとおりであると認められる。 (6) Cは,午後零時10分に被告病院の救命救急センターにむけて搬送され,午後零時15分に到着した。 この時点で,Cの血圧は88/29,心拍数は167/分,SpO₂ は99%,呼吸数は34回/分であり,午後零時18分に測定された体温は42度であった。(乙A1,甲A3の1・2,A9の1)(7) 救命救急センターは,Cの症状が敗血症又は局所麻酔によるアレルギーによって発生した可能性があることを前提に処置が続けられた。 そして,午後零時37分に血液培養検体が採取されたが,細菌,エンドトキシンは検出されなかった。 また,Cには,輸液が継続して投与されていたが,血圧は低下したままであったので,午後1時4分にノルアドレナリンの投与が開始された。なお,午後1時4分のCの体温は41.4℃であった。 されなかった。 また,Cには,輸液が継続して投与されていたが,血圧は低下したままであったので,午後1時4分にノルアドレナリンの投与が開始された。なお,午後1時4分のCの体温は41.4℃であった。 午後1時4分までのCの所見は,血圧は72~88/29~35,心拍数は170~180/分,SpO₂ は98~99%であった。(甲B1,B2,乙A1)(8) Cには,午後1時48分に経口的気管挿管の上,人工呼吸器が装着され,午後2時40分頃に行われた各種CT検査等では心臓,頭部,胸部に異常のないことが確認され,午後3時45分には,敗血症の疑いのもとにエンドトキシン吸着療法が開始され,抗菌薬投与も開始された。 その後,血液検査の結果,午後6時頃には,Cの病態がDICになったこ とが判明した。 Cに対するエンドトキシン吸着療法は効果がみられなかったことから,午後6時24分以降,持続性血液濾過透析が試みられた。(甲B1,B2,乙A1)(9) Cは,平成20年1月11日午前9時頃,多臓器不全となったことが判明した。(甲A3の1)(10) 歯根嚢胞部分から採取された膿についての病理組織検査の結果は,平成20年1月14日に報告された。同報告では,Cの急変直前に採取された膿について,細菌のコロニー形成や好中球浸潤が確認され,また嫌気性菌であるMicromonasmicrosが少量検出されるとされた。また,CのICU入院後の午後9時45分頃に採取された膿からは,Streptococcusoralis及びグラム陽性球菌が少量検出されたが,グラム陽性球菌の菌種の同定はできず,ブドウ球菌又は溶連菌を含むか否かについては明らかにはならなかった。 また,Cの救命救急センターに到着直後に採取された血液からは,同月31日,プロカルシトニン値が4. 陽性球菌の菌種の同定はできず,ブドウ球菌又は溶連菌を含むか否かについては明らかにはならなかった。 また,Cの救命救急センターに到着直後に採取された血液からは,同月31日,プロカルシトニン値が4.7ng/mlであることが確認された。 (甲B1,2,乙A1・11~14頁)(11) Cは,平成20年2月20日午前5時54分,死亡した。 被告病院の救命救急センターの医師は,同日,死亡診断書に,Cの直接死因として多臓器不全,その原因としてDIC,DICの原因として敗血症性ショックと記載し,直接の死因には関係しないが,これらの傷害経過に影響を及ぼした傷病名として,出血性ショック及び重症感染症(MRSA,緑膿菌による肺炎,腹膜炎)と記載した。(甲A4) 3 事故調査Cの死亡後に,その原因究明等のため事故調査が行われたところ,証拠(各項末尾記載のもの)によれば,その内容等について,次のとおり認められる。 (1) 被告病院は,病院長からの委嘱に基づき,本件におけるCの死亡について, その発生の原因並びに再発防止の検討のために医療事故調査委員会(以下「本件委員会」という。)を設置した。本件委員会は,数度にわたる審議に基づき,平成20年8月19日付け医療事故調査委員会報告書(以下「本件調査報告書」という。)を作成した。 本件調査報告書には,大要,本件急変の原因として,①キシロカインによる局所麻酔薬中毒は,2回の麻酔に使われたキシロカインの量は4.5mlと少ない量であり,中毒とされる量には達していないので,考え難いこと,②キシロカインアレルギー(アナフィラキシーショック)は,アナフィラキシー症状がCにはみられず,Cに対するX線写真により過去に局所麻酔が必要な歯科治療を繰り返していることが推察できることから,考え難いこと,③悪性高熱に関し アナフィラキシーショック)は,アナフィラキシー症状がCにはみられず,Cに対するX線写真により過去に局所麻酔が必要な歯科治療を繰り返していることが推察できることから,考え難いこと,③悪性高熱に関しては,鑑別診断の一つに考えられたものの,キシロカイン自体が悪性高熱を引き起こしにくい薬剤として一般的に認知されていること,Cに筋拘縮がみられず,救命救急センター外来へ搬送直後の採血結果でCK値が正常範囲内であったこと,Cには,悪性高熱の特徴的な症状であるミオグロビン尿が認められていないこと,血清カリウムの上昇がないこと,PaCO₂ の上昇がないことから,本件委員会においては可能性が低いとの意見が多数を占めたと記載されている。ただし,「歯科用キシロカインカートリッジ」の添付文書には,重要な副作用として,「悪性高熱」が挙げられていること,Cの急変直後のCK値は,数時間後に771U/Lと上昇していること,Cの体温が非常に短時間で42℃まで上昇していること,Cには,臨床症状として不自然な頻呼吸,洞性頻脈が認められることから,悪性高熱について検討の余地があるとの意見があったことも記載されている。 そして,本件委員会は,Cの急変の原因としては,④敗血症が最も可能性が高いとし,その診断の根拠としては,Cには,感染性嚢胞が存在し,抜歯処置の途中で膿が確認されたこと,臨床症状として42℃の発熱や頻脈,頻呼吸が認められたこと,Cが救命救急センターに搬送された直後の保存血清 から,細菌感染の指標とされるプロカルシトニン値の上昇がみられたことを挙げている。 ただし,本件急変の原因を敗血症とする場合,極短時間での急激な体温上昇を来している点,通常の敗血症性ショックとは異なる症状を呈している点,血液培養においてエンドキシンが陰性であった点については,疑問が だし,本件急変の原因を敗血症とする場合,極短時間での急激な体温上昇を来している点,通常の敗血症性ショックとは異なる症状を呈している点,血液培養においてエンドキシンが陰性であった点については,疑問が残るものとしている。 その上で,本件調査報告書は,検証の結果として,本件委員会の多数意見は,Cの本件急変の原因は敗血症であるとし,反対少数意見として,悪性高熱が原因であるとの意見があった旨記載している。(甲B1)(2) 被告病院は,Cの死亡の調査分析を,診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業に依頼した。 同事業のI地域評価委員会は,Cの解剖等をした上で,平成20年10月,「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業評価結果報告書」と題する報告書を作成した(以下「本件評価結果報告書」という。)。本件評価結果報告書には,Cの死亡の原因について,歯根嚢胞感染を起因とした敗血症性ショックとそれに伴う多臓器不全が直接的死因であると推定され,さらに,発症後極めて急速に病態が進行悪化し,迅速かつ濃厚な救急医療が行われたにもかかわらずDIC,多臓器不全から死に至るという極めて希有な臨床症状を辿ったことを考えると,一般に経験する敗血症とは異なる致死率の高いTSSであった可能性が示唆されると記載されている。もっとも,本件評価結果報告書は,起炎菌やトキシンが明らかではなく,また感染経路も推測の域を脱し得ず,敗血症性ショックを直接的死因と断定する客観的,医学的証拠を明確に示すことは出来なかったとしている。 その上で,本件評価結果報告書では,「再発防止策の提言」として,①被告病院の歯科外来での医療行為に決定的ミスがあったとは言えず,治療適応や手術説明などにも大きな問題はなかったにもかかわらず,本件のような事 態が生じ得ることを再認識すべきであり, して,①被告病院の歯科外来での医療行為に決定的ミスがあったとは言えず,治療適応や手術説明などにも大きな問題はなかったにもかかわらず,本件のような事 態が生じ得ることを再認識すべきであり,常にあらゆる事態に対応できるよう,より一層の知識の習得と診療体制の充実に努力すべきである,②全ての医療行為には合併症の可能性があることを再認識するとともに,二次医療災害の発生には十分留意し,合併症発生時にはより慎重かつ迅速にその手技を遂行すること,③カルテ記載の充実を図ることが提言された。(甲B2,乙B1) 4 争点1(機序)について(1) Cがアナフィラキシーショックを発症したかについてア上記医学的知見のとおり,アナフィラキシーショックを発症した場合,「毛細血管拡張」を起こしてショック状態となるのであって,その典型的な症状としても「血圧低下」があげられていることからすれば,アナフィラキシーショックを発症した場合には,早期の血圧低下が出現することが多いと認められる(甲A7の2・10頁参照)が,上記認定事実によれば,Cに本件急変が午前11時30分頃に生じた後も,午前11時49分までは収縮期血圧は120以上を維持しており,Cに早期の血圧低下は生じていない。 また,上記医学的知見のとおり,アナフィラキシーショックは,典型的な症状として「蕁麻疹」があげられているが,Cに蕁麻疹が生じたことを認めるに足りる証拠はない(甲B2・15頁参照)。 また,Cは本件手術以前にも歯の治療を受けており(甲A1),その際にキシロカインを用いた麻酔を受けたと考えられるが,その際にアナフィラキシーショックを発症していない(乙A1・2頁。なお,この問診票において,Cは歯科で麻酔を受けたことがないと記載しているが,歯を抜かれたことがあるとも記載していることからす るが,その際にアナフィラキシーショックを発症していない(乙A1・2頁。なお,この問診票において,Cは歯科で麻酔を受けたことがないと記載しているが,歯を抜かれたことがあるとも記載していることからすれば,Cが歯科で麻酔を受けたことがないと記載したのは,単なる誤記と考えるほかはない。) さらに,上記医学的知見には,アナフィラキシーショックの典型的な症状として,高熱はあげられていないが,Cには,本件急変により42℃の高熱が生じており,これはアナフィラキシーショックの典型的な症状と矛盾する(甲A7の2・10頁,B2・15頁参照)。 このような上記各事実からすれば,Cがアナフィラキシーショックを発症したとは認められない。 イなお,本件手術に用いられた麻酔薬はキシロカインであるから,念のため,キシロカイン中毒によるショックの可能性について検討する。 上記認定事実によれば,本件手術で使用されたキシロカイン(2%リドカイン)の投与量は合計4.5mlであると認められ,キシロカイン(2%リドカイン)の投与量については,口腔外科領域の場合には,3~5ml使用するものとされていること(甲B4)に照らせば,その投与量は適正であり,過剰投与があったとはいえない。また,キシロカイン中毒の症状では,全身痙攣といった神経症状が生じるが(甲B2,B4),Cにそのような神経症状が生じたと認めるに足りる証拠はない。 そうすると,Cに生じた症状が,キシロカイン中毒によるものとはいえない。 (2) Cが悪性高熱を発症したかについて上記医学的知見のとおり,悪性高熱症の臨床症状は,全身の筋硬直を伴うものであって,体温の著明な上昇も,かかる筋硬直で生じた熱によるものであるところ,上記認定事実によれば,Cの体温が42℃であることが確認された午前11時47分時点 症の臨床症状は,全身の筋硬直を伴うものであって,体温の著明な上昇も,かかる筋硬直で生じた熱によるものであるところ,上記認定事実によれば,Cの体温が42℃であることが確認された午前11時47分時点において,Cに筋硬直があったとは認められない。 また,上記医学的知見のとおり,悪性高熱症とは,常染色体優性遺伝性疾患であるから,Cがかかる疾患を有していた場合,過去のキシロカインを用いた麻酔においても異常が生じたはずである。しかし,上記のとおり,Cは本件手術以前の歯の治療でキシロカインを用いた麻酔を受けたと考えられる ところ,その際に,特に異常は発生していない。そうすると,Cがかかる疾患を有していたとは認めがたい(甲A7の2・12頁)。 なお,上記医学的知見のとおり,キシロカインの副作用の一つとして悪性高熱が挙げられているが,一方,悪性高熱症は,ハロゲン化吸入麻酔薬に反応して発症するものとされ,キシロカインに含有されるリドカイン塩酸塩がその原因とはされていないことからすれば,キシロカインの副作用の一つとして悪性高熱があげられていることをもって,Cが悪性高熱を発症したと直ちに認めるのも困難である。 このような上記各事実からすれば,Cが悪性高熱を発症したとは認められない。 (3) Cが敗血症性ショックを発症したかについてまず,上記認定事実のとおり,Cの抜歯処置の途中で,膿が確認されており,またその膿からは,病理組織検査の結果,細菌のコロニー形成や好中球浸潤が確認されており,Cの歯根嚢胞が,原因病巣となって敗血症が生じたと考えて矛盾はない。 また,上記医学的知見のとおり,敗血症の臨床症状としては,発熱があげられているところ,上記認定事実のとおり,Cには42℃の発熱が確認されている。 さらに,上記認定事実のとおり,Cの救命救急セン また,上記医学的知見のとおり,敗血症の臨床症状としては,発熱があげられているところ,上記認定事実のとおり,Cには42℃の発熱が確認されている。 さらに,上記認定事実のとおり,Cの救命救急センターに到着直後に採取された血液からは,プロカルシトニン値が4.7ng/mlであることが確認されているところ,上記医学的知見のとおり,プロカルシトニン値は感染性疾患に対して高い感度を示し,敗血症の重症度にも相関し,その正常値は0.5ng/mlであることからすれば,Cが重度の敗血症を発症していたことが窺われる。 一方,上記認定事実のとおり,Cに対しては,救命救急センター到着直後から,敗血症が疑われたものの,午後零時37分の血液培養検体検査では細 菌,エンドトキシンは検出されていない。しかし,救急的な治療のときには細菌が検出されないこともあるとされている(甲A7の2・15頁,B1)。 また,上記認定事実のとおり,午後3時45分に開始されたエンドトキシン吸着療法や抗菌薬投与,及び,午後6時24分以降試みられた持続性血液濾過透析といった,敗血症に対する治療によっても,その効果が特に上がっていない。しかし,上記認定事実のとおり,CのICU入院後の午後9時45分頃に採取された膿からは,グラム陽性球菌が検出されており,それがTSStoxin-1産生性のブドウ球菌や溶連菌か否かは明らかではないものの,ここで検出されたグラム陽性球菌がこれにあたるとすれば,Cは,急速にショック状態を発症し,多臓器不全に陥る予後不良のTSSを発症した可能性がある。そして,CがTSSを発症したことを前提とすれば,上記のとおり,Cにとられた敗血症の治療効果が上がらなかったことも説明がつく。 このような上記各事実に加えて,アナフィラキシーショック,悪性高熱の発症については上 SSを発症したことを前提とすれば,上記のとおり,Cにとられた敗血症の治療効果が上がらなかったことも説明がつく。 このような上記各事実に加えて,アナフィラキシーショック,悪性高熱の発症については上記のとおり否定されること,本件調査報告書及び本件評価結果報告書は,本件急変の原因について,敗血症性ショックによる可能性が高いものであると結論づけていることからすれば,Cは敗血症性ショックを発症したと認められる。 なお,原告らは,本件評価結果報告書の内容は信用できないと主張するが,本件評価結果報告書は,医師及び弁護士複数名が関与して作成されたものであって,Cを解剖した上で,その死因を探求したものであり,その作成過程において,信用性を疑わせる事情は認められないのであるから,少なくとも,Cの死亡に至る機序についての本件評価結果報告書が示した結論については,信用できるというべきである。 5 争点2(本件急変が,アナフィラキシーショック又は悪性高熱の発症によるものであることを前提とする被告らの義務違反の有無)について上記のとおり,Cはアナフィラキシーショック又は悪性高熱を発症したとは 認められないので,かかる事実を前提とする原告らの主張は理由がない。 6 争点3(初期救命救急処置を施す際の義務違反の有無)について(1) 救命救急センターへの連絡の遅れア上記認定事実のとおり,被告医師らは,午前11時30分頃に,Cの上肢にチアノーゼが現れたことを確認していることから,この時点で救命救急センターに連絡すべきであったかについて検討する。 (ア) 上記医学的知見のとおり,チアノーゼの出現は,緊急度・重症度の高い状態を示唆するものとされており,チアノーゼの原因が不明確な場合や治療が専門的な場合には,専門医に相談すべきであるとされている。 ま 上記医学的知見のとおり,チアノーゼの出現は,緊急度・重症度の高い状態を示唆するものとされており,チアノーゼの原因が不明確な場合や治療が専門的な場合には,専門医に相談すべきであるとされている。 また,上記認定事実のとおり,Cの午前11時30分頃の状況は,上肢にチアノーゼが現れているだけではなく,血圧が測定できないほどの振戦があり,頻呼吸,末梢循環障害を示す手指冷感,心拍数も150台/分(非常に速い心拍数である。甲A7の2・4頁)であって,ショックに関する上記医学的知見によれば,これらはショックの初期段階を示す徴候といえる(甲A6の2・9頁参照)。現に,被告医師らも,過換気症候群を疑い,ペーパーバック法も試みているのであるから,Cにショックを示す徴候が存することを認識していたものである。そして,上記医学的知見のとおり,ショックの初期診療は,蘇生処置をしつつ,並行して原因疾患の検索を進めることが重要であるとされ,また血圧や体温を継続的に計測することが重要であるとされている。 これらに加えて,Cに対するペーパーバック法も効を奏さないものであったのであるから,被告医師らとしては,Cの午前11時30分頃の状況は緊急度,重症度の高いものと認識すべきであって,かつ,被告医師らは歯科医であって,ショックの初期診療としての全身管理に精通していたとも認められないので,Cの全身管理を然るべき専門医に委ねるべきであったといえる。 そして,本件手術が行われた処置室と同じ階に歯科麻酔科があり,そこには,全身麻酔や静脈内鎮静を数多くこなし,全身管理について一定程度精通した歯科麻酔医が滞在している(甲A6の2の8・35・40頁)。なお,原告らも,歯科麻酔医が,生命維持について研鑽を積んでいる医師であることは認めるところである。 そうすると,被告医師 定程度精通した歯科麻酔医が滞在している(甲A6の2の8・35・40頁)。なお,原告らも,歯科麻酔医が,生命維持について研鑽を積んでいる医師であることは認めるところである。 そうすると,被告医師らは,午前11時30分頃に,歯科麻酔医に連絡をとった上で,Cの全身管理を歯科麻酔医に委ねるべき義務があったにもかかわらず,同義務に違反したものというべきである。 (イ) 一方,上記認定事実のとおり,午前11時30分頃のCの状況は,前額部に熱感がなく,意識も清明で,発汗もなかった上,SpO₂ も96%であり,上記のとおり隣室には歯科麻酔医が待機しているのであるから,被告医師らに,午前11時30分頃に,救命救急センターに連絡をとった上で,直ちにCを同センターに搬送すべき義務があったとまではいえない。 なお,原告らは,救命救急センターに連絡すべきであったと主張し,歯科麻酔医に連絡すべきであったとは主張していないものの,前者の主張は後者の主張を含むと解されることなどからすれば,上記認定は弁論主義に反するものではない。 イ次に,上記認定事実のとおり,被告医師らは,午前11時47分に,Cに42℃の熱が生じていることを認識していることから,この時点で救命救急センターに連絡すべきであったかについて検討する。 まず,42℃の高熱は,Cに明らかな異変が生じていることを表すものであり,これに加えて,上記認定事実によれば,Cは,11時30分頃以降,振戦やチアノーゼの改善がみられなかったこと,浅く早い呼吸が継続していたことが認められることからすれば,被告医師らは,午前11時47分にCの体温が42℃であることを認識した時点で,Cの全 身管理を適切に行うため,専門医に連絡すべき義務があったというべきである。 そして,上記認定事実のとおり,被告医師らは, 11時47分にCの体温が42℃であることを認識した時点で,Cの全 身管理を適切に行うため,専門医に連絡すべき義務があったというべきである。 そして,上記認定事実のとおり,被告医師らは,Cの体温が42℃であることを認識した後,直ちに,歯科麻酔医であるG医師に連絡をしているところ,上記のとおり,歯科麻酔医は,全身管理について一定程度精通していること,上記認定事実のとおり,午前11時47分の時点では,Cの血圧自体は122/53と正常であり,意識もあり受け答えもできていたことからすれば,G医師に連絡をしたことにより上記義務を尽くしたといえ,救命救急センターに連絡をしなかったことが上記義務に違反したということはできない。 (2) 過換気症候群との誤診及び誤診に基づく処置上記のとおり,Cは,午前11時30分頃に,チアノーゼが認められ,ショックの初期症状があったと認められるところ,この時点で,被告医師らには,過換気症候群を疑うのではなく,Cの気道及び輸液ルートを確保した上で,酸素を補給すべき義務を負っていたかについて検討する。 まず,上記認定事実のとおり,Cの午前11時30分頃の状況は,意識清明であり,会話もできている状態であったのであるから,この時点で,被告医師らに,Cの気道及び輸液ルートを確保すべき義務があったとはいえない。 また,これらの事実に加えて,上記認定事実のとおり,CのSpO₂ は,午前11時30分の前は100%,午前11時30分頃に96%,午前11時47分に98%と推移している。そして,末梢循環障害を生じているCにとって,これらの数値が血中酸素濃度をどこまで正確に示しているかについては疑問が残るものの(甲A6の2・12頁),上記SpO₂ の値によれば,Cが,午前11時30分頃に酸素を補給すべき状態にあったというの ,これらの数値が血中酸素濃度をどこまで正確に示しているかについては疑問が残るものの(甲A6の2・12頁),上記SpO₂ の値によれば,Cが,午前11時30分頃に酸素を補給すべき状態にあったというのは困難である。 なお,上記認定事実によれば,Cの症状について,過換気症候群の疑いのもとペーパーバック法が1度実施されたことが認められるところ,過換気症 候群と疑った点は,結果的に診断としては誤りであったといえるが,午前11時30分頃時点において,本件急変の原因が判然としない状況であったことからすれば,被告医師らが,可能性として過換気症候群を疑い,ペーパーバック法を1度実施したことは何ら問題のない行為である。 したがって,被告医師らには,過換気症候群との誤診及び誤診に基づく処置に関して義務違反は認められない。 (3) ミダゾラム投与について上記認定事実及び証拠(甲A6の2・11頁)によれば,Cは,遅くとも午前11時50分にはショックを起こしていたと認められるにもかかわらず,上記認定事実のとおり,G医師は,午前11時52分頃及び午後零時頃に,Cにミダゾラムを投与している。 この点,確かに,ミダゾラムは,ショックの患者には禁忌とされている(甲B6)。 しかし,上記認定事実のとおり,Cの収縮期血圧は,午後零時頃までは100前後を維持している。また,上記認定事実のとおり,ミダゾラムの投与量は午前11時52分頃に1mg(0.0178mg/kg),午後零時頃に2mg(0.0357mg/kg)であって,集中治療における人工呼吸中の鎮静のための投与量は,確実な鎮静導入をする際に0.06mg/kgとされており(乙B2),その投与量が多かったとはいいがたい(甲A6の2・19頁)。 さらに,上記認定事実のとおり,G医師がミダゾラムを投与した理由は は,確実な鎮静導入をする際に0.06mg/kgとされており(乙B2),その投与量が多かったとはいいがたい(甲A6の2・19頁)。 さらに,上記認定事実のとおり,G医師がミダゾラムを投与した理由は,第1回目は,振戦に影響されない正確な血圧を測定し,また,末梢の循環を改善した上で呼吸状態を正確に確認するためであって,第2回目は,点滴を引き抜こうとするCを鎮静させるためであって,それぞれミダゾラムを投与すべき合理的理由もあったものである。 そうすると,G医師らには,ミダゾラムの投与に関して義務違反を認める ことは困難である。 (4) クーリングの遅れについてア上記認定事実のとおり,被告医師らが,Cに42℃の熱が生じていることを認識したのは午前11時47分であるところ,体温が42℃に達した場合,血液中のタンパク質が変成し,これに対する反応により血栓が全身に生じ,DICに至ること,体温が42℃に達するか否かは極めて重要な境界であることがそれぞれ認められる(甲A7の2・12・35頁)ので,被告医師ら及びG医師は,午前11時47分にCの体温が42℃に達しているのを認識した時点で,直ちにクーリングを開始すべき義務を負っていたといえる。 イ次に,上記認定事実のとおり,G医師は,看護師に体温を下げるために氷等を持ってくるよう指示し,午後零時2分頃から,頚部,腹部,腋窩に氷又はアイスノンを当てる形でクーリングが開始されているところ,かかるクーリングの開始が,上記義務に違反するものであるかについて検討する。 まず,歯科医師において,42℃という体温がどの程度の緊急事態を示すとされているかについては明らかではない(甲A7・36頁)。 また,上記認定事実のとおり,歯科麻酔医であるG医師は,午前11時50分に処置室に入室してから,看護師 いう体温がどの程度の緊急事態を示すとされているかについては明らかではない(甲A7・36頁)。 また,上記認定事実のとおり,歯科麻酔医であるG医師は,午前11時50分に処置室に入室してから,看護師に氷等を持ってくるよう指示するまでに,Cの状態の確認,輸液ルートの確保,鎮静等のためのミダゾラムの注射,マスクによる酸素投与,浮腫の確認,衣服による締め付けの緩和などの処置を行っており,これらの処置は,ショック状態にあるCの全身管理を行う上で,いずれも必要なものであったといえる。 そうすると,全身管理に精通しない歯科医師である被告医師らが,クーリングを開始せず,また,G医師も,ショック状態にあるCについてほかの処置を優先させたことにより,クーリング開始の指示が午後零時 2分前頃になったとしても,被告医師ら又はG医師が,クーリングに関する上記義務に違反したと直ちにいうことはできない。 ウしたがって,被告医師ら又はG医師に,クーリングの遅れに関して義務違反を認めることはできない。 7 争点4(適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務)について被告医師らの対応が,被告病院の初期救急救命処置体制が不十分であったことによって生じたといえるだけの的確な証拠はなく,被告病院が,適切な初期救急救命処置体制を構築しておく義務に違反したとは認められない。 8 争点5(因果関係の有無)(1) 上記のとおり,被告医師らには,午前11時30分頃に,歯科麻酔医に連絡をとった上で,Cの全身管理を歯科麻酔医に委ねるべき義務があったにもかかわらず,同義務に違反したと認められるところ,かかる被告医師らの過失と,Cの死亡との間に因果関係が認められるかについて検討する。 (2) まず,上記認定事実のとおり,被告医師らは,午前11時47分頃にG医師に連絡した したと認められるところ,かかる被告医師らの過失と,Cの死亡との間に因果関係が認められるかについて検討する。 (2) まず,上記認定事実のとおり,被告医師らは,午前11時47分頃にG医師に連絡したところ,G医師は,午前11時50分頃に処置室に入室し,その指示により午後零時2分頃からクーリングが開始され,午後零時15分にCは救命救急センターに到着している。 そうすると,被告医師らが,午前11時30分頃に歯科麻酔医に連絡をとった場合には,Cは,午前11時45分頃からクーリングを受け,午後零時15分よりも数分程度は早く救命救急センターに到着することができたと認められる。 なお,Cの体温がいつ上昇したかについては明らかではないが,上記認定事実のとおり,午前11時30分頃に激しい振戦があり,午前11時47分には42℃の体温に達していたことからすれば,Cに対するクーリングは,遅くとも午前11時45分頃からは開始することができたと認めることができる。他方,Cが午後零時頃に点滴を引き抜くような異常行動をとったこと を直接の原因として,G医師はCを救命救急センターに搬送するとの判断をしていること(甲A6の2・17・18頁)からすれば,仮に,午後11時30分頃に歯科麻酔医に連絡があったとしても,歯科麻酔医は,Cに異常行動があるまでは,自ら蘇生処置を行っていたと考えられるので,救命救急センターへの搬送を著しく早めることができたと認めることはできない。 (3) そこで,上記を前提とした場合に,Cについて,その死亡した時点において,生存していた高度の蓋然性が認められるかについて検討する。 ア上記認定事実によれば,Cの死亡に至る機序は,敗血症性ショックにより,DICを発症したことによると認められる。 そして,上記医学的知見のとおり,DICは,基礎 が認められるかについて検討する。 ア上記認定事実によれば,Cの死亡に至る機序は,敗血症性ショックにより,DICを発症したことによると認められる。 そして,上記医学的知見のとおり,DICは,基礎疾患に対する治療以外に有効な治療法がないとされているところ,上記認定事実のとおり,Cに対しては,救命救急センターに午後零時15分の到着直後から,敗血症を前提とした治療が行われたにもかかわらず,その治療が効を奏さず,午後6時頃にはDICになったこと,翌11日午前9時頃には多臓器不全となったことが判明している。 そうすると,仮にCが救命救急センターに午後零時15分の数分前に到着していたとしても,やはり敗血症を前提とした治療は効を奏さず,上記と同じ経過をたどった可能性が高いというほかはない。 イまた,上記のとおり,体温が42℃に達した場合,血液中のタンパク質が変成し,これに対する反応により血栓が全身に生じ,DICに至ること,体温が42℃に達するか否かは極めて重要な境界であることはいうことができる。 しかし,上記認定事実のとおり,Cの体温は午前11時47分に42℃に達していたことからすれば,仮にCに対するクーリングが午前11時45分頃から開始されていたとしても,Cの体温が42℃に達することはなかったとは認められない。 また,本件評価結果報告書(甲B2)は,Cの死亡の原因について,多臓器不全とするものの,その多臓器不全の原因として高熱をあげておらず,また,Cに生じた高熱が多臓器不全に与えた具体的影響も明らかではない。 そうすると,仮にCに午前11時45分頃からクーリングが開始されていたとしても,CにDIC,多臓器不全が生じ,死亡に至った経過が異なっていたと認めることはできない。 ウしたがって,仮に,被告医師らが,午前11時30 午前11時45分頃からクーリングが開始されていたとしても,CにDIC,多臓器不全が生じ,死亡に至った経過が異なっていたと認めることはできない。 ウしたがって,仮に,被告医師らが,午前11時30分頃に,歯科麻酔医に連絡をとり,歯科麻酔医がCの全身管理を行っていたとしても,Cについて,その死亡した時点において,生存していた高度の蓋然性を認めることは困難である。 (4) 次に,被告医師らが,午前11時30分頃に,歯科麻酔医に連絡をとり,その結果,Cが,午前11時45分頃からクーリングを受け,午後零時15分の数分前に救命救急センターに到着することができたと仮定した場合,Cについて,その死亡した時点において,生存していた相当程度の可能性を認めることができるかについて検討する。 まず,上記のとおり,体温が42℃に達した場合,血液中のタンパク質が変成し,これに対する反応により血栓が全身に生じ,DICに至るところ,午前11時45分頃からクーリングを受けることができたとすれば,42℃の体温が継続された状態は,より短時間であって,このことから,高熱によって生じた血栓量もより少なく,Cについて午後6時にDICを回避することができた可能性がある(甲A7の2・7頁参照)。 また,被告らは,Cに対する早期のクーリング実施が結果に影響を与えないことについて具体的な主張立証をしていないだけではなく,本件急変の発生時刻は午前11時30分頃であるにもかかわらず,被告らは,それを当初午前11時46分であるとし(甲A3の1),本件委員会で指摘を受けるこ とによりその時刻を午前11時40分頃と訂正し(甲A3の2,A7の2・40頁),本件訴訟においても,上記のとおり,被告Eは,振戦にて血圧を測定できなかった際に使用した機材について,殊更に虚偽供述を続けており, の時刻を午前11時40分頃と訂正し(甲A3の2,A7の2・40頁),本件訴訟においても,上記のとおり,被告Eは,振戦にて血圧を測定できなかった際に使用した機材について,殊更に虚偽供述を続けており,本件急変に対する対応時間を,真実よりも短くすべく対応していると認めざるを得ない。かかる被告らの対応は,本件急変に対する対応の時間が十分にあれば,より適切な処置を行うことができたことを推測させるものである。 そうすると,被告医師らが,午前11時30分頃に,歯科麻酔医に連絡をとっていれば,Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったと認められる。 9 争点6(損害の発生及び額)について上記のとおり,Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が侵害されたことに対する慰謝料の額としては,上記8記載の事情等を勘案し,200万円とするのが相当である。なお,これとは別に原告ら固有の慰謝料は認められない。 また,上記不法行為に基づく弁護士費用相当の損害金としては20万円とするのが相当である。 結論 以上のとおり,被告Eには過失が認められるので,原告らは,それぞれ相続分に応じて,被告Eには不法行為に基づき,被告D大学には使用者責任に基づき,各110万円の損害及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めることができる。なお,被告E及び被告D大学が診療契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとしても,その賠償額は上記金額を超えることはない。 よって,原告らの請求は,それぞれ110万円及び遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の請求を棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。また,仮執行免脱宣言は,その必要がないものと認め,これを付さないこととする。 福岡地方裁判所第3民 主文 限度で理由があるから認容し,その余の請求を棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。また,仮執行免脱宣言は,その必要がないものと認め,これを付さないこととする。 理由 事実 争点 判断 福岡地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官平田豊 裁判官片瀬亮 裁判官大野崇
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