- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 第2事案の概要 本件は,日本航空株式会社(現株式会社日本航空インターナショナル)の客室乗務員(チーフパーサー)として勤務していた被控訴人が,日本・香港間の国際線に乗務するため滞在していた香港のホテルにおいて,脳動脈瘤の破裂に起因するくも膜下出血(以下「本件疾病」という)を発症し(以下「本件発症」という,療養及び休。 。)業をしたことから,控訴人に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」とい。),,うに基づき2度にわたり療養補償給付ないし休業補償給付の請求をしたところ控訴人が,本件疾病は労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当せず,業務上の疾病に当たらないとして,いずれも不支給決定をし,それらの決定に対する審査請求等も棄却されたため,各不支給決定の取消しを求めた事案である。 原審は,本件発症前の業務は疲労を蓄積する程度の過重な負荷を伴うものであり,基礎疾患である被控訴人の脳動脈瘤をその自然の経過を超えて増悪させた結果,本件発症に至ったとみるのが相当であって,被控訴人の業務と本件発症との間には相当因果関係があると判断して,被控訴人の請求をいずれも認容したため,控訴人が控訴を申し立てた。 本件の前提事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,後記3項のとおり当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1項,2項(2頁25行目から40頁4行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 当審における主張(控訴人の主張)(1)被控訴 ,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1項,2項(2頁25行目から40頁4行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 当審における主張(控訴人の主張)(1)被控訴人の嚢状脳動脈瘤破裂は,自然的経過の下に発生・成長・破裂したとみるのが医学的にみて自然かつ合理的であることア動脈血の内圧は非常に高く,これを受ける血管壁には強い張力がかかる。特に血管分岐部では他の部分と異なる血管壁への力が加わり,血行力学的負荷が大きい。そして,ウィルス動脈輪(内頸動脈と椎骨動脈との枝が大脳に分布する前に脳底で吻合しあって形成する動脈輪)のような不完全な壁構造を持った局所的な脆弱部分の血管壁は,こうした張力に対する耐応力が弱いため,内圧によって圧排・伸展され,次第に瘤状にふくれ,嚢状脳動脈瘤を形成するに至る。嚢状脳動脈瘤は,こうした脳動脈中膜平滑筋層の部分的欠損と内弾性板の断裂という先天的因子に,血行力学的因子等の後天的因子が関与して発生するというのが現時点における医学的コンセンサスである。嚢状脳動脈瘤は,発生- 2 -後も血管壁の脆弱性と血行力学的因子とが相まって加齢とともに成長し,破裂に至る程度に成長するまでには,数年から数十年を要すると考えられている。 また,嚢状脳動脈瘤が破裂の臨界に達した場合,その破裂に関与する血圧上昇については,持続的に動脈血圧が上昇する高血圧よりも,日常生活において一過性の血圧上昇を生じる動作が重要な要因となると考えられており,臨界に達,。 した嚢状脳動脈瘤はいつどのような状況においても破裂し得るものといえるところで,脳・心臓疾患は,一般には,いわゆる私病と評価される生活習慣病がその根底にあり,長年の血管への負担が動脈硬化をもたらし,脳梗塞,脳出血,心筋梗塞を発症するに至るものが通常である。 といえるところで,脳・心臓疾患は,一般には,いわゆる私病と評価される生活習慣病がその根底にあり,長年の血管への負担が動脈硬化をもたらし,脳梗塞,脳出血,心筋梗塞を発症するに至るものが通常である。しかし,嚢状脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は,脳卒中として脳血管疾患の中に分類されるものではあるが,先天的に存在する局所的な血管壁の脆弱性を基礎として発症する疾患であるために,専ら後天性要因を発症要因とする他の脳・心臓疾患とは自然的経過において区別されるべき特質を有している。すなわち,嚢状脳動脈瘤は,先天的に存在する局所的な血管壁の脆弱性を基礎に発生,成長し,かつ,その破裂によるくも膜下出血は,嚢状脳動脈瘤の存在抜きには発生し得ないため,他の脳・心臓疾患のように,高血圧,肥満等の生活習慣病に端を発する危険因子の存在がなくても,日常生活の下での自然的経過により,発生,成長,破裂し,発症する可能性が十分にあるものなのである。 イ被控訴人は,本件発症時49歳の女性で,くも膜下出血発症の重大なリスクファクターである喫煙歴があり,他方で,過去10年にわたる健康診断において一度も高血圧をうかがわせる所見がなく,動脈硬化の症状も全く確認されなかったが,本件発症の際の被控訴人の嚢状脳動脈瘤の大きさは,既に6.5ないし7ミリメートルにまで達していたのである。また,被控訴人は,平成2年9月14日ないし本件発症直近の平成8年5月20日までの間に実施された健康診断において,常に「まぶしい」との訴えを申告しており,そのほとんどが「まぶしい」症状が「常にあり」と訴えていたし,本件発症の1週間ないし10日ほど前には,吐き気や嘔吐,頭痛,右手の麻痺及び項部痛などの脳動脈瘤の小出血を示す症状を訴えていた。さらに,被控訴人は,本件発症の前日である同月28日,関西空港から香港 本件発症の1週間ないし10日ほど前には,吐き気や嘔吐,頭痛,右手の麻痺及び項部痛などの脳動脈瘤の小出血を示す症状を訴えていた。さらに,被控訴人は,本件発症の前日である同月28日,関西空港から香港への搭乗勤務に従事して午後2時29分ころには同日の勤務を終え,その後,香港において同僚と夕食を取り,午後10時には変わった様子もなく香港のホテルに帰室しており,翌29日午前9時15分のモーニングコールに答えたが,午前10時15分の集合時間に集合場所のホテルロビーに出頭せず,その後,午前11時15分ころ,ホテルの部屋で傾眠状態にあり嘔吐等した状況にあることを同僚に確認されたもので,被控訴人は,上記9時15分ころから11時15分ころまでの間に本件疾病を発症させたと考えられる。 ウところで,未破裂の脳動脈瘤,特に被控訴人の内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤では,動眼神経圧迫による視力障害や瞳孔散大等を示すことがあるとされており,被控訴人の嚢状脳動脈瘤は,平成2年9月以前に既に発生しており,その後5年以上かけて更に成長し,破裂に至ったものであることが推認される- 3 -のである。 エ以上を総合すると,被控訴人の嚢状脳動脈瘤の客観的所見は,自然的経過によって長期間をかけて成長・破裂に至った典型的な嚢状脳動脈瘤と何ら区別できるところがなく,局所的な血管壁の脆弱性という先天性因子に,後天的な血行力学的因子があいまって発生し,自然的経過において加齢と共に数年から数十年をかけて成長し,通常の日常生活上の誘発因子によって嚢状脳動脈瘤が破裂したとみるのが,極めて自然かつ合理的というべきである。 (2)被控訴人の業務は,疲労を蓄積させることにより嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪を与えるものではなかったことア長時間労働は,これにより睡眠が十分取れず,疲労の回 合理的というべきである。 (2)被控訴人の業務は,疲労を蓄積させることにより嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪を与えるものではなかったことア長時間労働は,これにより睡眠が十分取れず,疲労の回復が困難となることにより生ずる疲労の蓄積の原因となり,くも膜下出血等の脳血管疾患や虚血性心疾患などへの影響が医学的に指摘されており,このような,長時間労働,睡眠時間及び疲労の蓄積との関係に有意性が認められることから,労働時間と労働時間外の非拘束時間の長さが,医学的な疲労の蓄積又は回復の判断に重要な指標となる。そして,厚生労働省労働基準局長が脳・心臓疾患の業務起因性の認定基準として定めた新認定基準においては,1か月当たりおおむね45時間の時間外労働を,業務による疲労の蓄積と脳・心臓疾患発症との関連性の目安としている。この基準は,パイロット・客室乗務員等の不規則で時差のあるような勤務に従事する労働者をも前提とした上で,1日7時間程度の睡眠が確保できないような状況においては,労働時間以外の要因を疲労を蓄積させる要因として考慮し得るが,1日7ないし8時間の睡眠を確保できるような状況(月おおむね45時間より少ない時間外労働時間に止まるような状況)では,原則として,他の要因は疲労の回復に影響することがなく,十分な疲労の回復が期待されるとの医学的知見を疫学的に検証した上で採用されたものである。 イそこで,被控訴人の業務の過重性を検討すると,被控訴人の乗務時間は航空法において安全基準と位置づけられる乗務時間制限の範囲内であったこと(年間900時間との乗務制限時間を定める日本航空の就業規則は,国土交通大臣の承認を経て制定されたものであるほか,960時間とする全日空及び日本エアシステムより厳格な制限をとっていた,日本航空の客室乗務員における。)くも膜下出 定める日本航空の就業規則は,国土交通大臣の承認を経て制定されたものであるほか,960時間とする全日空及び日本エアシステムより厳格な制限をとっていた,日本航空の客室乗務員における。)くも膜下出血の発症率は,我が国の代表的な疫学調査と比べても低いものであったこと,被控訴人の勤務は長い非拘束時間が確保され,本件発症前1年間においても勤務から勤務までの間の非拘束時間が月の大半を占めていたり,本件発症前6か月間の時間外労働時間は最高でも月4時間30分であるなど,被控訴人には医学的知見に照らして疲労回復に十分な時間が確保されており,疲労の蓄積があったと認めることができないこと,以上によれば,被控訴人の業務は,疲労を蓄積させるものではなく,嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪を与えるものではなかったということができる。なお、チーフパーサーという,。 業務の性質は本件においては疲労の回復を妨げると評価する根拠にならない(3)原判決が依拠した被控訴人の医学的知見は不合理であることア原判決は,動脈瘤壁の脆弱化は一方的に進行するわけではなく,損傷された- 4 -動脈瘤壁の修復機序も存在し,早期の破裂を免れた脳動脈瘤は,壁の修復がされながら血行力学的負荷により緩徐に増大した脳動脈瘤に傷害性に作用する因子が加えられて,動脈瘤壁の脆弱化が進行することによって破裂に至る旨説示するが,いったん損傷されたヒトの嚢状脳動脈瘤壁が,どのような機序で,どのように修復されるか,その修復作用,修復機序の実態は,ヒトでは未だ確認されていないのであり,かつ,膠原線維による壁の肥厚化によって脳動脈瘤全体が修復され,破裂を免れるとする考え方は事実に反する。また,類線維素変性は嚢状脳動脈瘤破裂の前段階病変(破裂寸前の病変)であり,暫定的補強作用ではない。 さらに,不良な睡 肥厚化によって脳動脈瘤全体が修復され,破裂を免れるとする考え方は事実に反する。また,類線維素変性は嚢状脳動脈瘤破裂の前段階病変(破裂寸前の病変)であり,暫定的補強作用ではない。 さらに,不良な睡眠が血管壁の修復を妨げ,嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪をもたらすとの医学的知見も,実証的根拠を欠いたものである。 イ被控訴人は,これまで長年にわたる健康診断時の問診票において「よく眠れない」の項目にマークをしたことがなく,不眠に伴う頭痛や不安症状等を示したこともないのであって,被控訴人に良質な睡眠が確保されなかったと認めるべき客観的根拠は全くない。さらに,原判決は,被控訴人は乗務中の血圧が高く,夜間の血圧低下が得られなかったと推定しているが,これも根拠がない。 (4)労災保険における業務起因性が認められるためには,当該疾病が当該業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したと認められる関係が存在することが必要であり,血管病変等の基礎疾患を有する労働者が脳・血管疾患を発症した場合,それが業務に内在する危険の現実化と認められるためには,本人のみならず,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として,当該業務が,当該基礎疾患を,その自然的経過を超えて増悪させるようなものであったと認められなければならない。 ,,,これを本件についてみると前記で述べたとおり被控訴人の嚢状脳動脈瘤は,,,その客観的所見から先天的な血管壁の脆弱性を主要な要因として加齢や喫煙日常生活の営みによる自然的経過の下に,発生,成長,破裂したとみるのが医学的にみて自然かつ合理的なものであり,他方,被控訴人の業務は,疲労を蓄積させることにより,被控訴人の嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪をもたらすよ 的経過の下に,発生,成長,破裂したとみるのが医学的にみて自然かつ合理的なものであり,他方,被控訴人の業務は,疲労を蓄積させることにより,被控訴人の嚢状脳動脈瘤に自然的経過を超える増悪をもたらすようなものではなかったというべきである。したがって,本件発症は,被控訴人の業務に内在する危険の現実化と認められるものではなく,被控訴人の業務と本件発症との間に相当因果関係を認めることはできない。 (被控訴人の主張)(1)嚢状脳動脈瘤の発生・成長・破裂の機序ア控訴人は,ウイリス動脈輪を形成する血管群は血管構築に形成異常が起こり,,,やすく局所的な脆弱部位が形成されやすいことが確認されているすなわちウイリス動脈輪ではときに平滑筋からなる中膜や内弾性板などが一部欠損することが起こると主張するが,このような事実は確認されていない。そして,脳動脈中膜平滑筋層の部分的欠損や内弾性板の断裂により,必然的に嚢状脳動脈瘤が形成されるものではない。中膜筋細胞の欠損は,すべての人の脳動脈の分- 5 -岐部先端部に認められるが,さまざまな後天的な理由による筋細胞の退行性変,,,性によって増強されると考えられこの退行変性をもたらす因子として加齢血行力学的因子が最も重視されるのである。 嚢状脳動脈瘤は,主幹脳動脈の血管分岐部に発生し,その血管分岐部には中膜の欠損が認められ,その中膜欠損の範囲が400ミクロン以上に拡大すると嚢状脳動脈瘤の発生に結びつくのであり,嚢状脳動脈瘤の発生には主幹脳動脈の血管分岐部の分岐角の開大が関与している。しかし,この中膜欠損の範囲の拡大と血管分岐角の開大は,成長に伴う血管径の増大と,血管壁にかかる血行力学的な負荷による血管中膜自身の老化,疲労によって加齢とともに次第に拡大していくものであり,個体に特異な先天的なものではなく普遍 大と血管分岐角の開大は,成長に伴う血管径の増大と,血管壁にかかる血行力学的な負荷による血管中膜自身の老化,疲労によって加齢とともに次第に拡大していくものであり,個体に特異な先天的なものではなく普遍的な現象なのである。 イ脳動脈瘤が形成された後,破裂を免れた未破裂脳動脈瘤は,その内腔を血管内皮細胞が被い,コラーゲン層などが形成され,血管平滑筋細胞が存在するようになり脆弱な動脈瘤構造が修復されていくのであり,その修復過程で脳動脈瘤はより強度を増し,破裂しにくくなる。そして,その修復された脳動脈瘤の動脈瘤壁に,血行動態による動脈硬化性変化等の負荷要因が加わることによって,動脈瘤壁の再度の脆弱化をもたらし,動脈瘤サイズの増大や破裂の可能性が高くなるのである。 ウ高血圧が脳動脈瘤の増悪の原因であることは明らかであるが,血圧による血行力学的負荷の存在と程度につき,健康診断時等の一時的に測定された血圧が従来の高血圧の診断基準に該当するか否かという画一的な基準のみによって判断することは不十分であって,勤務中の血圧の上昇,夜間睡眠時の血圧の低下の程度を含めた負荷の総合的考察が必要である。 また,高血圧や動脈硬化等の嚢状脳動脈瘤の危険因子がない場合も,日常生活の下での自然経過において,局所的な血管壁の脆弱性と血行力学的因子があいまって嚢状脳動脈瘤が発生,成長し,破裂することがあるとの控訴人の主張については,それが血管構築異常等の先天的因子に基づくということであれば認めることができない。血管壁の脆弱性は血行力学的因子によってもたらされるのであって,その血管壁の脆弱性が自然経過上の血行力学的因子により惹起され得るか否かについては,個々の嚢状脳動脈瘤の発症,破裂例について,その業務上の精神的身体的負荷を含む全生活上で発生した血行力学的負荷を個別具体的かつ 脆弱性が自然経過上の血行力学的因子により惹起され得るか否かについては,個々の嚢状脳動脈瘤の発症,破裂例について,その業務上の精神的身体的負荷を含む全生活上で発生した血行力学的負荷を個別具体的かつ詳細に検討して,はじめて判断が可能となることである。 (2)被控訴人の勤務状況についてア客室乗務員という被控訴人の業務は,①労働環境の特殊性,②労働態様の特殊性,③作業内容の特殊性を伴うものである。 すなわち,高速で時差帯を移動する旅客機内は,0.8という低気圧,腰をかがめて顔を近づけなければ旅客の声を聞き取れない騒音,水平飛行中の床面の傾斜,不測に生じる揺れなど,立っているだけでも肉体的な疲労を生じさせる条件下にある(労働環境の特殊性。客室乗務員はかかる労働環境下で,エ)ンジン音,旅客の様子など保安に気を配り,ドリンク・ミールのサービス,機- 6 -,,内販売その他旅客の対応のため身体を動かし続けなければならないのであり地上での作業とは比べものにならないほどの肉体的負担を強いられている。 また,深夜便で帰宅が12時を回る勤務や早朝便のため深夜に起床しなければならない勤務が不規則に組み込まれるなどの労働時間帯の不規則,たびたび変更され通院の予約も入れにくいスケジュール,長距離国際線等起床から現地ホテルでの就寝まで24時間を超える長時間乗務,南米便やシドニー・デンパサール便等で組み込まれる徹夜乗務,時間も施設も十分に確保されていない機内での食事・休憩の不十分,1年の総回数の約30パーセントにあたるステイ先での質量ともに不良な睡眠等,心身ともに負荷が高く,かつ業務で蓄積する疲労を回復する条件が欠落している(労働態様の特殊性。 )さらに,航空機事故や不法行為など不測の事態で旅客を危険にさらさないよう常に機内の環境に配慮する保安責任,旅客の 荷が高く,かつ業務で蓄積する疲労を回復する条件が欠落している(労働態様の特殊性。 )さらに,航空機事故や不法行為など不測の事態で旅客を危険にさらさないよう常に機内の環境に配慮する保安責任,旅客のリクエストに応じながら飛行時間内にすべてのサービスを終了しなければならない接客業務は,精神的緊張を強いるものである。加えて,チーフパーサーは,保安・接客を含めた客室内の最終責任を負うだけでなく,アロケーションチャートや報告書作成等の業務があるし,乗務以外でも会議のためのグループ員調整や資料作成,グループ員の成績考課・昇格考課など,固有の業務・責任がある(作業内容の特殊性。こ)のため,乗務において緊張することはもちろん,休日もグループ管理に費やすなど,チーフパーサーは恒常的にストレスから開放されにくい職務である。 このように客室乗務員の業務は,労働環境,労働態様,作業内容のいずれをとっても特殊なものであり,日中勤務を中心とするサラリーマンとは,疲労の内容・回復の行程等,全く異なるものである。 イ本件発症の1年前において被控訴人の乗務時間は常に最長レベルであったものであるが,月間乗務時間の75時間超が5か月連続し,比較対象の同僚の中で最も乗務時間が長かった。加えて,75時間超と重畳的にニューヨーク便が3か月連続する例は被控訴人以外に見られず,また,有給休暇を取得していないため,実休日数も比較対象者中で最も少なかったのであって,乗務時間・スケジュールいずれの点から見ても,本件発症前の被控訴人の乗務パターンは,通常の乗務の負荷をはるかに超えていた。 ところで,本件発症前半年間の被控訴人の睡眠実態をみると,5時間以下の睡眠しか取れなかった日数は,平成7年11月が4日,同年12月が4日,平成8年1月が6日,同年2月が5日,同年3月が6日,同年4月が5日 で,本件発症前半年間の被控訴人の睡眠実態をみると,5時間以下の睡眠しか取れなかった日数は,平成7年11月が4日,同年12月が4日,平成8年1月が6日,同年2月が5日,同年3月が6日,同年4月が5日,同年5月が5日,不良睡眠日数(質を確保できない睡眠しか取れなかった日数。ステイ先での睡眠,時差帯フライトの後の睡眠3日間,翌日5時以前に起床が予,,定されている睡眠国内・アジア・南行等時差帯ではない場所での昼間の睡眠スタンドバイとなっている睡眠)は,平成7年11月が16日,同年12月が16日,平成8年1月が14日,同年2月が12日,同年3月が13日,同年4月が14日,同年5月が11日,5時間以下ないし不良の睡眠日数は,平成7年11月が17日,同年12月が18日,平成8年1月が16日,同年2月が14日,同年3月が14日,同年4月が14日,同年5月が13日に及ぶ。 - 7 -被控訴人の業務は,前記のとおり,労働環境の特殊性,労働態様の特殊性,作業内容の特殊性を伴うものであり,乗務による疲労を解消するには,時差・徹夜・早朝・深夜などの影響を受けない良質な睡眠を通常就業者以上に確保しなければならないところ,被控訴人の睡眠状況はこれと正反対の状況であった。 ,,5時間以下の睡眠日数は月毎に4から6日と1週間に1回以上の割合であり圧倒的な睡眠不足となっていた上,不良睡眠日数は,発症した平成8年5月の11日を最低として,月毎に12から16日と2日に1回は良質な睡眠を得られておらず,不良でない睡眠日数はおよそ月の半分以下であった。毎月75時間以上の乗務をこなして極度に疲労が蓄積していた被控訴人にとっては,まとまった良質の睡眠が取れないことは致命的であり,業務の疲労が回復されずに本件発症に至ったものというべきである。 なお,本件発症の約1週間前にはく なして極度に疲労が蓄積していた被控訴人にとっては,まとまった良質の睡眠が取れないことは致命的であり,業務の疲労が回復されずに本件発症に至ったものというべきである。 なお,本件発症の約1週間前にはくも膜下出血の前駆症状としての警告症状があり,被控訴人は,こうした警告症状があるにもかかわらず,医師の受診もしないままに「きつい」といわれる成田・香港・関空・香港・成田という香,港シャトル便に乗務しているが,被控訴人が医師の診断を受けることができなかった理由として,被控訴人が本件発症の約1か月前に病院に行くために所属のa室長に対して「病院へ行くため休みをください」と言ったところ「そん,なことを言ったら部下に示しがつかない」と拒否されたという事情があったのであって,この事情も本件発症の業務起因性判断の要素とされるべきである。 ウ控訴人は,被控訴人の勤務状況につき長い非拘束時間が確保され,非拘束時,,,間が月の大半を占めているなど疲労を蓄積させるようなものではないまた医学的にみて,嚢状脳動脈瘤を自然的経過を超えて増悪させるような過重なものであったとは到底いえないなどと主張する。しかし,業務の過重性は,量的過重性(労働時間の長さ)と質的過重性の両面から評価するのが相当であり,これらの両要因は等しく重要であるというべきであり,客室乗務員は,出頭から乗務終了までの時間以外にも,通勤時間(被控訴人は,出社後の準備時間を含めて,成田空港出頭の場合は出頭時刻の5時間前,羽田空港出頭の場合は出頭時刻の2時間前に自宅を出ていた,出社後の準備時間(アロケーション。)チャートの作成,掲示板及びPHASE体制(ハイジャック,爆発物に対する保安体制)の確認,メールボックスから必要な業務文書をピックアップ,職制との面談など,業務終了後の地上移動時間,荷造り・ 。)チャートの作成,掲示板及びPHASE体制(ハイジャック,爆発物に対する保安体制)の確認,メールボックスから必要な業務文書をピックアップ,職制との面談など,業務終了後の地上移動時間,荷造り・事前準備時間(自宅に)おける荷造りやマニュアル閲読等の準備作業は,客室乗務員としての業務を行うために必要不可欠なことであり,少なくとも1時間を労働時間として算入すべきである,自宅スタンバイの時間,デッドヘッドの時間も含めて拘束さ。)れ,疲労が蓄積していくのである。控訴人の主張は,このような客室乗務員の業務の特殊性を無視しており,かつ,客室乗務員の労働が「朝起きて夜眠る」という人間の本来的な睡眠リズムを破壊される特質(時差,不規則勤務など)を持つために,睡眠の量の不足と質の低下等により疲労回復が困難な性質を有することを全くといってよい程考慮に入れていない。 エ日本航空では,運航乗務員等は,飛行前にチーフパーサーと打ち合わせを行- 8 -い,チーフパーサーに指示を与え,飛行中には安全情報をチーフパーサーに伝え,サービスの状況等や機材の不具合などについてチーフパーサーから報告を受けるなどしている。しかし,チーフパーサーがあらゆる事項について運航乗務員等に報告をし,運航乗務員等がそれらについて指示を与えているわけではなく,機内においては,運航乗務員から提供された安全情報を基に,サービスの内容・範囲などを決定するのはチーフパーサーである。また,旅客のサービスその他に対するクレームについてはチーフパーサーが責任をもってそれに対処するが,旅客のクレームは千差万別であって,想定の範囲外であることもあ,,。 り場合によっては暴言を吐かれたり暴力をふるわれそうになることもあるこれらの業務によるストレスを運航乗務員等が肩代わりすることはなく,チーフ 千差万別であって,想定の範囲外であることもあ,,。 り場合によっては暴言を吐かれたり暴力をふるわれそうになることもあるこれらの業務によるストレスを運航乗務員等が肩代わりすることはなく,チーフパーサーが正面からこれに対処するしかないのである。さらに,チーフパーサーは,客室乗務員の1機当たりの編制数が削減される中で,チーフパーサー自身実務実践要員の1人であるし,客室内の最終責任者としてあらゆる事態に対処する立場にあるのである。そして,これによるストレスは,いわゆる同時多発テロ以降,運航乗務員等が客室内に一切出られなくなったこと,1990年代以降顕著になった日本航空の合理化策によって,地上の支援体制が極端に貧弱になったこと,旅客の層・要求・要望が多様化していることにより,いよいよ増大している。 このほか,被控訴人のようなチーフパーサーは,機内免税品売上やJALカード会員獲得などのグループ間競争による精神的負担,グループ員の第一次の成績考課,昇格適性考課を行う精神的負担,客室乗務員組合に所属している場合の日本航空からの脱退工作や嫌がらせによる精神的負担を抱えている。加えて,被控訴人は,平成8年4月にグループメンバーの入れ替えがあったため,新しいメンバーの能力や人間性の把握,担務の決定,グループ目標の策定を行わなければならなかった。 オ客室乗務員の疲労を蓄積させる要因は,以上のように,乗務時間の長短のみならず,時差,長時間勤務,徹夜勤務,深夜早朝にかかる不規則勤務,路線ごとに異なるサービス,精神的緊張など多岐にわたる。客室乗務員の疲労の蓄積を検討するためには,これらの諸要素を複合的に検討しなければならず,被控訴人の本件発症前6か月間のスケジュールを見れば,長大路線,時差,徹夜,深夜早朝,スケジュールチェンジなど,業務の疲労を蓄積させ,か 討するためには,これらの諸要素を複合的に検討しなければならず,被控訴人の本件発症前6か月間のスケジュールを見れば,長大路線,時差,徹夜,深夜早朝,スケジュールチェンジなど,業務の疲労を蓄積させ,かつ回復を妨げる内容となっている。また,時差のある勤務,勤務時間帯が深夜や早朝に及び,勤務時間帯が常に固定していない極めて不規則な勤務や徹夜勤務に従事していた被控訴人の血圧が,夜間の睡眠時等に,脳動脈瘤壁の修復に必要とされる血圧の低下が得られない状態にあった可能性が高いことは,合理的に強く推認されるのである。 なお,日本航空の就業規則に規定された乗務時間制限は,運航規定審査要領,,細則の中の運航乗務員に関する基準の一部を転用したものであるが同基準は()プロペラ機低速移動時代の1958年に制定された米国民間航空規則FAR121章中の規定を一部抜粋したものであって,パイロットの疲労の蓄積防止- 9 -などの観点から出たものではなく,しかも,プロペラ機のみであったFAR制定当時と,ジェット機が主流となっている現在とでは,飛行速度,飛行高度,航続距離,旅客数等,乗務が運航乗務員・客室乗務員の健康に与える影響は格段に重くなっているのである。かかる条件の差異を無視して,単に数字だけを抜粋した就業規則には安全基準としての機能はない。就業規則が疲労の蓄積防止等を考慮したものではないのであるから,乗務時間が就業規則の範囲内であることと疲労の蓄積があるかどうかは無関係であり,被控訴人の乗務時間が就業規則の範囲内であったことをもって疲労の蓄積がなかったとの推定は働かな。 ,,,いまた被控訴人が発症した当時時差を伴う国際線が多かった日本航空と時差がなく,徹夜便もない国内線が中心で,国際線については日本航空と比べて,旅客数・便数・路線が限定されてい かな。 ,,,いまた被控訴人が発症した当時時差を伴う国際線が多かった日本航空と時差がなく,徹夜便もない国内線が中心で,国際線については日本航空と比べて,旅客数・便数・路線が限定されていた国内他社との間で,乗務時間制限を比較する意味はない。 また,専門検討会報告書は,業務の過重性については,労働時間のみによって評価されるものではなく,就労態様の諸要因も含めて総合的に評価されるべきものであるとしている。 (3)業務起因性の判断についてア控訴人は,厚生労働省労働基準局長の定める通達である新認定基準(2001年12月12日基発第1063号)に従って本件の業務起因性を検討し,本件各処分は適法であると主張しているが,この認定基準は,行政内部の命令であって法規としての性質を有しないものであるから,裁判所が労災保険法の業務起因性を解釈適用するにあたって拘束されるものではない。したがって,控訴人が新認定基準に従って業務起因性がないと主張し立証したとしても,そのことのみで本件各処分の適法性を主張立証したことにはならない。 イ前記を総合すると,被控訴人の業務は,労働密度が決して低くはなく,精神的緊張を伴い,不規則で拘束時間が極めて長く,被控訴人がかかる業務に相当長期間にわたり従事したことが,被控訴人にとって精神的身体的にかなりの負荷となり,慢性的な疲労をもたらしたものであるから,本件疾病について業務起因性が認められることは明らかである。 第3当裁判所の判断 判断の前提となる事実関係(客室乗務員の業務内容や作業環境等,被控訴人の勤務状況等,被控訴人の健康状態等)この関係の事実認定は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」「」()の第3当裁判所の判断の1項ないし3項40頁6行目から62頁1行目までに記載されたとお 訴人の健康状態等)この関係の事実認定は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」「」()の第3当裁判所の判断の1項ないし3項40頁6行目から62頁1行目までに記載されたとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決44頁15行目の「可能性もあるが」の次に「東西路線で勤務した場,合は,通常,数日後には逆回りで日本に帰る路線に乗務することから,短期間で逆の時差への適用をしなければならないことも考慮すると」を加える。 ,(2)原判決47頁10行目の末尾に「ただし,乗務時間が80時間を超える月が連続しないように配慮するとされ,乗務時間が80時間を超える月が年4回(当面の間は3回)に達した場合は,以降の月間乗務時間が80時間を超えることを予- 10 -定しないとされている(乙7」を,同12行目の末尾に「また,平成8年当)。 時,外国の航空会社においては日本航空の時間を下回る基準を設けているところもみられたが,他の国内航空会社(全日空及び日本エアシステム)における制限乗務時間は,いずれも月間90時間,年間960時間であった(乙118」)。 をそれぞれ加える。 (3)原判決47頁14行目の「されており」の次に「例えば原則として,基地を,離れた日数が2日の場合は1日が,3日から4日の場合は2日が,5日から9日の場合は3日が,それぞれ連続休日数として与えられ,かつ,休日に先立つ業務が予定着陸回数で1回,乗務時間で9時間を超える路線であった場合は,上記の休日に加え,予定乗務時間や時差に応じて更に連続した休日や自宅スタンドバイ。」,「」「」,が付与されるを加え同16行目の1暦日単位を1暦月単位と改め同18行目の「地上職の」の次に「うち交替制勤務者の」を加える。 (4)原判決47頁21行目の末 。」,「」「」,が付与されるを加え同16行目の1暦日単位を1暦月単位と改め同18行目の「地上職の」の次に「うち交替制勤務者の」を加える。 (4)原判決47頁21行目の末尾に「アロケーションチャートの作成自体は,客室乗務員の配置をコンピューターに入力する作業であるが,客況や路線の特徴を考,,えグループ内の公平やメンバーの育成に配慮して作成しなければならないため特にグループに属さない乗務員と同乗するときや,新たにグループが編成されたときは,個々のメンバーの履歴等について把握ができていないため,その作成に時間を要することになる(甲48,49,125,131,165」を加え)。 る。 (5)原判決47頁21行目の次に行を改め,次のとおり加える。 「カ)就業規則上,休養施設(自宅,ホテル等)に到着したときから次の業(務に就くために同施設を出発するまでの時間を「休養」と称し,すべての会社業務から開放されることになっている。国内線及び国際線における休養は,少なくとも連続12時間が保障されているが,航空機が遅延した場合などの例外的扱いについても就業規則に定めがあり,不測の事態により乗員交替の措置が講じられない場合は,休養時間が12時間未満であっても,8時間を超えていれば勤務を命じられることがある。また,国際線における休養は,1連続の勤務の前に少なくとも連続12時間が保障されているが,航空機の遅延などやむを得ない場合には,制限乗務時間等の範囲内で12分の10を超える部分の休養時間がカットされる場合もあり,さらに,会社の左右し得ない特別な状況が発生し,乗員交替の措置が講じられない場合は,10時間を超える休養がカットされることもある。 (キ)就業時間については,乗務時間の前後に一定の時間を加えることが定められてい 右し得ない特別な状況が発生し,乗員交替の措置が講じられない場合は,10時間を超える休養がカットされることもある。 (キ)就業時間については,乗務時間の前後に一定の時間を加えることが定められている。乗務のための勤務について,乗務終了後の業務終了までの時間は,東京とその他,通関の要否に応じ,20分から1時間とされている。始業時刻は,当該勤務のうち最初の乗務又はデッドヘッドのため所定の場所に出頭すべき時刻であり(航空機出発予定時刻前で,基地では国内線が1時間10分前から1時間20分前,国際線が1時間30分前から1時間45分前,基地外では国内線が1時間前,国際線が1時- 11 -間10分前から1時間30分前であり,デッドヘッドの場合は1時間前である,終業時刻は,当該勤務のうち最後の乗務又はデッドヘッド。)の航空機ブロックイン(航空機が完全に停止し車輪止めがセットされたとき)の予定時刻に,国内線,国際線,東京とその他,通関の要否に応じ,1時間20分から4時間を加えた時刻である。なお,就業時間は,自宅スタンドバイはその時間の2分の1を,年次有給休暇や夏季休暇等は1日当たり7時間余りを計上すべきものとされている。 (ク)航空法68条は「航空運送事業を経営する者は,省令で定める基準,に従って作成する乗務割によるのでなければ,航空従事者をその使用する航空機に乗り組ませて航空業務に従事させてはならない」と定め,これを受けて同法施行規則157条の3は,法68条の省令で定める基準につき「航空機乗務員の疲労により当該航空機の航行の安全を害さな,いように乗務時間及び乗務時間以外の労働時間が配分されていること」を求めている。そして,航空法104条1項は「本邦航空運送事業者,は,省令で定める航空機の運航及び整備に関する事項について運航規程及び整 に乗務時間及び乗務時間以外の労働時間が配分されていること」を求めている。そして,航空法104条1項は「本邦航空運送事業者,は,省令で定める航空機の運航及び整備に関する事項について運航規程及び整備規程を定め,所管大臣の認可を受けなければならない」とし,同条2項は「大臣は,前項の運航規程又は整備規程が省令で定める技,術上の基準に適合していると認めるときは,同項の認可をしなければならない」と定めているところ,同法施行規則214条は,法104条1項の運航及び整備に関する事項並びに技術上の基準につき,航空機乗務員及び客室乗務員の乗務割並びに運航管理者の業務に従事する時間の制限は,航空機乗務員の乗務割は上記の基準に従い,客室乗務員の乗務割はその職務に支障を生じないように定められているものであり,運航管理者の業務に従事する時間は運航の頻度を考慮して運航管理者の職務に支障を生じないように制限されているものであることと規定されている。日本航空の就業規則は,国際民間航空条約の定める飛行時間及び飛行勤務時間制限(乙76)に準拠し,従前においては所管大臣の認可を受けたものであった」。 (6)原判決49頁7行目の「前睡眠時間」を「全睡眠時間」と改め,51頁4行目の末尾に「また,ニューヨーク便に乗務した後は,原則として少なくとも3日の休日と1日のスタンドバイが与えられる」を加え,53頁23行目の「929。 時間38分」を「929時間36分」と,56頁4行目の「同年12月が2回」を「同年12月が0回(ただし,成田からロサンゼルスを経て南米を往復する合計9日間のいわゆる南米路線の乗務がある」とそれぞれ改め,57頁10行。)目の「ただし」の次に「夏季休暇及び」を加える。 ,(7)原判決58頁3,4行目を「被控訴人の平成8年3月のデッドヘッドを除いた いわゆる南米路線の乗務がある」とそれぞれ改め,57頁10行。)目の「ただし」の次に「夏季休暇及び」を加える。 ,(7)原判決58頁3,4行目を「被控訴人の平成8年3月のデッドヘッドを除いた乗務時間は88時間36分であり,就業規則上の制限乗務時間である85時間を上回っていたが,同月31日から翌月3日までの成田・ニューヨーク便の乗務時,,間を同年4月の乗務時間に組み入れると同年3月の乗務時間は76時間33分同年4月の乗務時間は75時間28分となる(乙1号証は,この後者の乗務時間- 12 -に基づいて作成されている」と改める。 。)。 (8)原判決59頁5行目の「疲れていると言って」を「疲れていたことからマネージャーに「失礼して寝ます」とことわって」と改め,同22行目から60頁2行目までを次のとおり改める。 「ア被控訴人は,平成8年5月23日は休日,同月24日は自宅スタンドバイ(S1,同月25日は自宅スタンドバイ(S2)であり,同月26日から)29日までの4日間日本と香港を2往復する香港シャトル便に乗務したな,(お,本件疾病を発症するまで1往復半乗務した。 。)この香港シャトル便の乗務状況は,同月26日の成田・香港便が旅客数319名,搭乗率82パーセント,客室乗務員編成14名,同月27日の香港,,,・関西便が旅客数328名搭乗率87パーセント客室乗務員編成17名同月28日の関西・香港便が旅客数202名,搭乗率48パーセント,客室乗務員編成17名であり,数名の乗務員が各便で入れ替わりとなった。各日の勤務の時間は,同月26日が始業時刻16時30分,終業時刻翌日2時15分,就業時間9時間45分,乗務時間4時間42分,同月27日が始業時刻13時45分,終業時刻21時45分,就業時間8時間,乗務時間3時間14分,同月 6日が始業時刻16時30分,終業時刻翌日2時15分,就業時間9時間45分,乗務時間4時間42分,同月27日が始業時刻13時45分,終業時刻21時45分,就業時間8時間,乗務時間3時間14分,同月28日が始業時刻8時45分,終業時刻17時20分,就業時間8時間35分,乗務時間3時間53分であり,同月22日に国内線3区間乗務を行ったときの就業時間が8時間45分(始業時刻13時45分,終業時刻22時30分であった乙1から本件発症前1週間の労働時間自)(),(宅スタンドバイを除く)は合計35時間5分で,週40時間の基準労働時。 間を4時間55分下回るが,自宅スタンドバイを含めた就業時間(就業規則に従い,自宅スタンドバイにつき2分の1を計上する)は43時間5分で。 あった。 イ香港シャトル便に乗務していた間,被控訴人について特に変わった様子はなく,客とのトラブルなど異常な出来事もなかった。被控訴人は,同月28日の19時ころ,同乗の客室乗務員数名と滞在先のホテルの近くで夕食をとり,21時ころホテルに戻ってロビーでお茶を飲んだ後,22時ころ同僚と就寝の挨拶をして入室したが,その間も普段と変わった様子はなかった。そして,翌29日の9時15分(現地時間で8時15分)ころ,被控訴人は,ホテルのオペレーターのウェイクアップコールに応答した。被控訴人は,その後,11時15分ころ,意識が朦朧とした状態で同僚に発見され,脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を発症しているのが確認された。 被控訴人は,以後休業して加療を続けたが,予後は不良である(乙1,。 3,20,21,23,37ないし41,弁論の全趣旨」)(9)原判決60頁末行の末尾に「また,これらの健康診断における総合判定は,一般検診の範囲では異状なしというものであり,さらに,被控訴人 。 3,20,21,23,37ないし41,弁論の全趣旨」)(9)原判決60頁末行の末尾に「また,これらの健康診断における総合判定は,一般検診の範囲では異状なしというものであり,さらに,被控訴人は,それまで胃潰瘍や子宮筋腫など,消化器系疾患や婦人科系疾患等の多数の受診歴はあるが,本件疾病を示唆するような循環器系疾患の既往歴はなく,飲酒の嗜好もないし,近親者に同様な疾患を有する者もいない。その他,被控訴人は,時に白血球の増- 13 -多を示すことがあったが,特に何らかの疾病を示唆するようなものではなく,中性脂肪や血糖値も正常範囲内にあり,糖尿病を示唆するような所見もない」を。 加える。 (10)原判決61頁16行目の「夫」の前に「これまで愚痴を言うことがなかったにもかかわらず」を加え,同17行目から18行目の「考えたが,結局休暇を取ることができなかった」を「考え,夫からも仕事を休むよう言われたが,代わりの者がいないことや上司からチーフパーサーが仕事がきつい,疲れたなどと発言してはいけないなどと言われたことなどから,休暇を正式に申請しないままとなった」と,同26行目から62頁1行目にかけての「喫煙をしていた」を「喫煙をしていたが,4月ころにはタバコがおいしくないといって喫煙をやめた」とそれぞれ改める。 本件疾病に関する医学的知見本件疾病に関する医学的知見は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の4項(1)及び(2)のアからキまで(62),。 頁2行目から70頁14行目までに記載されたとおりであるからこれを引用する(1)原判決62頁3行目の「110」の次に「192,193,206,209,ないし211,245,253ないし255」を,同3行目の「74」の次,,に「84,85」 あるからこれを引用する(1)原判決62頁3行目の「110」の次に「192,193,206,209,ないし211,245,253ないし255」を,同3行目の「74」の次,,に「84,85」を,同4行目の「97」の次に「103,105ないし1,,11,113,114,124ないし126」を,同17行目の末尾に「被控,訴人において破裂した脳動脈瘤は,破裂瘤の大きさとしては普通である」を,。 「,,67頁20行目の末尾にただし脳血管疾患のうちのくも膜下出血については男性より女性に多いとする報告もある」をそれぞれ加える。 。 ()「」「,, 原判決68頁22行目の蓄積等がの次に交感神経系を持続的に刺激し下垂体・副腎系の反応を亢進させてカテコーラミン等が増加し,心拍数の増加や血圧の上昇などを招くというメカニズムのあることが医学上認められていて」,を加える。 (3)原判決68頁末行の次に行を改め,次のとおり加える。 「嚢状脳動脈瘤の発生・成長の成因について,従来は先天性と考えられていたが,現在では血管構築の異常という先天的な要因と高血圧等による血管変性という後天的な要因の双方が関与しているとの考え方が一般である。前記のウィリス動脈輪周辺の分岐部には,平滑筋でできた中膜層の欠損や内弾性板の断裂が高い,,割合で発生し血管壁の局所的な脆弱性や血管壁にかかる血行力学的負荷によりその欠損部位の範囲が通常400ミクロン以上になると,内膜に損傷が起こりやすくなって,血管壁が外側に膨隆し,嚢状脳動脈瘤の発生につながる。なお,加齢とともに中膜平滑筋層の欠損部位は大きくなっていくが,破裂に至るまでの期間は10年以上のものなど非常に幅がある。 血行力学的要因としては高血圧の存在が重視されるが,通常血圧であっても,血管形成異 齢とともに中膜平滑筋層の欠損部位は大きくなっていくが,破裂に至るまでの期間は10年以上のものなど非常に幅がある。 血行力学的要因としては高血圧の存在が重視されるが,通常血圧であっても,血管形成異常に伴う血行動態の変化により局所的かつ特異な負荷が生じ,脳動脈瘤を発生,成長させる場合があるとされている」。 (4)原判決69頁4行目の末尾に「なお,脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症- 14 -する際の患者の行動は,何らかの肉体的,精神的ストレス負荷時(排便,性交,興奮状態下,分娩,発咳,入浴,外傷時,頭位の挙上,階段の駈け上りなど)が多いが,睡眠中や特別な外的ストレスのない状態でも発症することが知られている」を加え,同5行目から7行目までを削る。 。 (5)原判決70頁14行目の次に行を改め,次のとおり加える。 「ク脳動脈瘤の発生,成長,破裂については,以上のように先天的要因と後天的要因が作用していること,そして更に具体的な要因として様々な要因が関与していることはほぼ解明されているといってよいが,どの要因がどの程度の影響力を有しているか,各要因間の相関関係はどうであるか,また,疲労が具体的にどのように作用するか,睡眠時間との関係などについては,様々な見解があるものの未だ医学的に解明されているということはできない状況にある」。 業務起因性の判断基準について(1)前記認定のように,嚢状脳動脈瘤について,その発生や成長,破裂の機序を医学上明確に解明することはできないといわざるを得ない。 そして,被控訴人の脳動脈瘤について,その発生から破裂に至る機序を明らかにする証拠はない。また,被控訴人の業務が直接の原因となって,嚢状脳動脈瘤が発生し破裂したことを認めるべき証拠もないし,被控訴人の身体に由来する先天的要因のみによって脳動脈瘤が発 に至る機序を明らかにする証拠はない。また,被控訴人の業務が直接の原因となって,嚢状脳動脈瘤が発生し破裂したことを認めるべき証拠もないし,被控訴人の身体に由来する先天的要因のみによって脳動脈瘤が発生し破裂したことを認めるべき証拠もない。 そうしてみると,元々被控訴人において脳動脈瘤や血管病変の基礎疾患を有し,それが何らかの原因によって破裂したものとみるのが自然である。 しかし,労働基準法及び労災保険法の労働者災害補償制度の趣旨に照らすと,被控訴人がそのような基礎疾患を有していたとしても,脳動脈瘤が破裂して本件発症に至る過程で,業務による過重な負荷を受け,基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させたものと認められる場合は,業務と疾病との間に相当因果関係があ,。 ,るというべきであり業務起因性が肯定されると解するのが相当であるそして,,相当因果関係の立証については一点の疑義も許さない自然科学的証明ではなく経験則に照らして特定の事実の存在を是認し得る高度の蓋然性を証明することと解されており,通常人が疑いを差し挾まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである。 (2)ところで,証拠(乙72,74,75,81)によれば,本件疾病のような脳血管疾患の業務起因性について,行政の運用に関して,次のとおりの運用基準が示され,また検討が加えられていることが認められる。 ア労働省労働基準局長は,平成7年2月1日付け基発第38号及び平成8年1月22日付け基発第30号をもって「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷,に起因するものを除く)の認定基準について」と題する通達を発し,次の各。 要件を満たすものを業務起因性のある疾病として取り扱うこととした。 ①次に掲げる(イ)又は(ロ)の業務による明らかな過重負荷を発症前に受 ものを除く)の認定基準について」と題する通達を発し,次の各。 要件を満たすものを業務起因性のある疾病として取り扱うこととした。 ①次に掲げる(イ)又は(ロ)の業務による明らかな過重負荷を発症前に受けたことが認められること。 (イ)発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関- 15 -連する出来事に限る)に遭遇したこと。 。 (ロ)日常業務に比較して,特に過重な業務に就労したこと。 ②過重負荷を受けてから症状の出現までの時間的経過が,医学上妥当なものであること。 そして,この運用基準として,①異常な出来事とは,極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態,緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な,,,事態急激で著しい作業環境の変化をいうものとし②特に過重な業務とは日常業務に比較して特に過重な精神的・身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいい,業務量,業務内容,作業環境等を総合して業務の過重性を評価するものとされるが,発症に最も密接な関連を有する業務は,発症直前から前日までの間の業務であるので,まず第一に,この間の業務が特に過重であるか否かを判断し,次いで,発症前1週間以内に過重な業務が継続していたか否かを判断し,次いで,発症前1週間以内の業務が日常業務を相当程度超えていた場合に,それより前の業務を含めて総合的に判断するものとされた。 イその後,平成12年7月に最高裁判所が,くも膜下出血に係る労災請求事件の判決において慢性の疲労や過度のストレスを考慮すべきであるとの判断を示,,()したことを一つの契機として厚生労働省の依頼により埼玉医科大学当時の和田攻教授を座長とする脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会が設置され,専 トレスを考慮すべきであるとの判断を示,,()したことを一つの契機として厚生労働省の依頼により埼玉医科大学当時の和田攻教授を座長とする脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会が設置され,専門検討会は,従前の認定基準が明確に評価していない慢性の疲労や過度のストレスと脳・心臓疾患の発症との関係を中心に,業務の過重性の評価の具体化等について最新の医学的知見に基づき検討を重ね,平成13年11月16日報告書をとりまとめた。そして,厚生労働省労働基準局長は,専門検討会の報告書の考え方に基づき「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因す,るものを除く)の認定基準について(平成13年12月12日基発第10。 」63号)と題する通達を発し,また,同局労災補償部補償課長は,同時に発した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基。 」()準の運用上の留意点等について平成13年12月12日基労補発第31号の通達において,業務起因性の判断に当たっては,脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し,リスクファクター及び基礎疾患の状態,程度を十分検討する必要があるが,認定基準の要件に該当する事案については,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性が認められるものである旨述べている。 ウ上記専門検討会の報告書は,現時点における医学的知見に照らして,業務による過重負荷が加わることによって,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,脳・心臓疾患が発症する場合があるとし,その場合の過重負荷に関して次のとおり述べる。 ①脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷(異常な出来事及び短期- 16 -間の過重負荷)のほか,近年の 脳・心臓疾患が発症する場合があるとし,その場合の過重負荷に関して次のとおり述べる。 ①脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷(異常な出来事及び短期- 16 -間の過重負荷)のほか,近年の医学研究等により,長期間にわたる業務による疲労の蓄積(長時間の過重負荷)についても考慮すべきであり,疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価する期間は,発症前6か月間とすることが妥当である。そして,業務の過重性の評価は,発症前6か月間における就労状態を考察して,疲労の蓄積が,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患の発症に至らしめる程度であったかどうか,すなわち,発症時における疲労の蓄積度合いをもって判断することが妥当である。 ②業務の過重性は,この発症前6か月間における就労状態について,労働時間,勤務の不規則性,拘束性,交替制勤務(深夜勤務を含む,作業環境。)(温度環境,騒音,時差)等の諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因を考慮して,発症した労働者と同程度の年齢,経験等を有する同僚労働者又は同種労働者であって,日常業務を支障なく遂行できる労働者にとっても,特に過重な身体的・精神的負荷と認められるか否かという観点から,総合的に評価することが妥当である。 ③疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間については,長時間労働以外の種々の就労態様による負荷要因を総合的に評価する必要はあるが,1日4から6時間程度の睡眠が確保できない状態が継続していたかどうかという視点で検討することが妥当であり,大まかな目安は次のとおりである。 (ア)1日5時間以下の睡眠は脳・心臓疾患の発症との関連において有意性があり,1日5時間程度の睡眠が確保できない状態は,1日の労働時間が8時間を超え,5時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,これ )1日5時間以下の睡眠は脳・心臓疾患の発症との関連において有意性があり,1日5時間程度の睡眠が確保できない状態は,1日の労働時間が8時間を超え,5時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,これが1か月間継続して,概ね100時間を超える時間外労働に従事した場合が想定される。 (イ)発症前2か月ないし6か月間にわたって,著しいと認められる長時間労働に継続的に従事した状態として,1日4時間程度の時間外労働が継,,続し1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働に従事した場合は業務と発症との関連性は強いと判断される。 (ウ)疲労の蓄積が生じないような場合,すなわち,発症前1か月ないし6か月間にわたって,1か月当たり概ね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性は弱く,1か月当たり概ね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性は徐々に強まると判断される。 ④発症に近接した時期における明らかな過重負荷が脳・心臓疾患の発症の直接的原因になり得るとする考え方は是認できるものであり,この点に関しては,従来の行政実務上の取扱いは妥当性を持つものと判断される。 ⑤脳・心臓疾患の発症には,高血圧,飲酒,喫煙等の危険因子が関与し,多重の危険因子を有する者は発症の危険が高いことから,当該労働者の基礎疾患等の内容・程度や業務の過重性と発症した脳・心臓疾患の関連性について総合的に判断する必要がある。 (3)上記の専門検討会の検討結果は,最新の医学的専門的な知見を集約したもので- 17 -あって,脳動脈瘤の破裂の業務起因性について検討するに当たって,参考となる視点を与えるものと考えられる。 被控訴人の業務の過重性について(1)被控訴人は主に国際線の客室乗務員として勤務していたものであるが,前記のと 業務起因性について検討するに当たって,参考となる視点を与えるものと考えられる。 被控訴人の業務の過重性について(1)被控訴人は主に国際線の客室乗務員として勤務していたものであるが,前記のとおり,一般に日本航空における客室乗務員は,1か月単位の変形労働時間制がとられ,頻繁なスケジュールの変更と相俟って,勤務の開始・終了時刻が一定しておらず,1日の労働時間も日によって異なるのであって,不規則性を伴った業務であるといえるし,加えて,振動,騒音,タービュランスに曝露されたり,食事や休憩が満足に取れない,不審者への対応などの機内秩序維持に気を配らなければならないといったように,身体的・精神的ストレスにさらされやすい業務環境にある。また,国際線に乗務する場合は,長距離を数時間ないし十数時間もかけて乗務することがあり,時差や気候の急激な変化による心身の負担,かつ,早朝・深夜・徹夜勤務等による心身の負担は相当なものがある。さらに,被控訴人は,チーフパーサーをしていたものであり,客室乗務員で構成されるグループの責任者として,機内における保安業務やサービス業務について最終的な責任を負い,経験の浅い客室乗務員に対する教育・指導,指揮・監督を行い,搭乗前にはメンバーのアロケーションチャートを作成したり,グループメンバーの成績考課を行ったりなど,特段の緊張を強いられやすい立場にもある。 以上のような被控訴人の業務の特質に加え,当事者双方の本件訴訟における主張立証にも照らし,被控訴人の業務の過重性を検討するに当たって,本件発症前1年間における勤務の状況をまず検討することとする。 (2)本件発症前1年間の各月の乗務時間を始め,勤務実態は,一覧表のとおりであるが,さらに,各月の就業時間,深夜労働時間は,次のとおりである(乙1。 ),(。 ),ア平成 ることとする。 (2)本件発症前1年間の各月の乗務時間を始め,勤務実態は,一覧表のとおりであるが,さらに,各月の就業時間,深夜労働時間は,次のとおりである(乙1。 ),(。 ),ア平成7年6月乗務時間デッドヘッドを除く以下同じ56時間46分就業時間168時間38分(自宅スタンドバイを除くと164時間38分。ただし,年休取得分の28時間28分を含む,深夜労働時間6時間6分。 。)イ同年7月,乗務時間82時間49分,就業時間158時間,深夜労働時間7時間5分。 ウ同年8月,乗務時間59時間26分,就業時間165時間40分(自宅スタンドバイを除くと157時間40分。ただし,夏季休暇と年休取得分の35時間35分を含む,深夜労働時間14時間34分。 。)エ同年9月,乗務時間71時間54分,就業時間147時間55分(自宅スタンドバイを除くと143時間55分,深夜労働時間12時間26分。 。),,(,オ同年10月乗務時間77時間37分就業時間174時間29分ただし年休取得分の14時間14分を含む,深夜労働時間14時間49分。 。)カ同年11月,乗務時間65時間46分,就業時間156時間(自宅スタンドバイを除くと152時間,深夜労働時間9時間6分。 。)キ同年12月,乗務時間77時間51分,就業時間140時間40分,深夜労働時間25時間15分。 ク平成8年1月,乗務時間77時間29分,就業時間162時間20分(自宅- 18 -スタンドバイを除くと154時間20分,深夜労働時間29時間59分。 。)ケ同年2月,乗務時間76時間59分,就業時間156時間15分(自宅スタンドバイを除くと152時間15分,深夜労働時間15時間15分。 。)コ同年3月,乗務時間76時間33分(ただし,同月31日か 同年2月,乗務時間76時間59分,就業時間156時間15分(自宅スタンドバイを除くと152時間15分,深夜労働時間15時間15分。 。)コ同年3月,乗務時間76時間33分(ただし,同月31日から翌月3日までの成田・ニューヨーク便の乗務時間のうち3月31日分を3月の乗務時間に組み入れると,3月の乗務時間は88時間36分,同年4月の乗務時間は63時間25分となる,就業時間170時間,深夜労働時間8時間18分。 。)サ同年4月,乗務時間75時間28分,就業時間155時間25分(自宅スタンドバイを除くと143時間25分,深夜労働時間16時間7分。 。)シ同年5月(ただし,本件発症日まで,乗務時間71時間53分,就業時間)147時間35分(自宅スタンドバイを除くと139時間35分,深夜労。)働時間16時間6分。 (3)次に,本件発症前1年間の各月の乗務パターンにより,過重な負荷があったか否かを検討するその認定判断は次のとおり付加訂正するほか原判決事。 ,,,,「実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の5項(2)のア(ウ(74頁15)行目から92頁7行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 ア原判決75頁10行目の「時点では」を「業務は」と,同11行目の「生じ」「」,「」ていたものを生じる程度のものであったと76頁24行目の時点でを業務はと同25行目の生じていたものとまでは認められないを生「」,「」「じる程度のものであったとはいえないまでも,相当の負荷を生じさせる程度の」,「」「」,ものであったと認められると78頁19行目の時点でを業務はと同20行目の「生じていたもの」を「生じる程度のものであった」と,79頁24行目の時 じさせる程度の」,「」「」,ものであったと認められると78頁19行目の時点でを業務はと同20行目の「生じていたもの」を「生じる程度のものであった」と,79頁24行目の時点でを業務はと同25行目の生じていたものを生「」「」,「」「じる程度のものであった」とそれぞれ改める。 イ原判決80頁7行目の「23時25分」を「23時35分」と,81頁10行目の「時点で」を「業務は」と,同10行目から11行目にかけての「生じていたものとまでは認められない」を「生じる程度のものであったとはいえないまでも,相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」と,82頁14行目の「時点で」を「業務は」と,同14行目から15行目にかけての生じていたものを生じる程度のものであったと84頁7行目の原「」「」,「告には」から同10行目の末尾までを「平成7年12月の業務は,それ自体で被控訴人に過剰な負荷を生じさせる程度のものであったとはいえないまでも,相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」とそれぞれ改め。 る。 ウ原判決85頁26行目の「ことからすれば」から86頁2行目の末尾までを「ことからすれば,平成8年1月の業務は,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」と改める。 。 エ原判決87頁10行目から11行目にかけての「実際は前日や当日に通知されることもあったということからすれば」を「事前のスケジュールでは乗務前5日間は休日又は自宅待機であったところが,このうち2日は出社待機と羽田- 19 -・小松便の乗務に変更となったことなどから」と,同21行目の「原告には」から同22行目の末尾までを「平成8年2月の業務は,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程 のうち2日は出社待機と羽田- 19 -・小松便の乗務に変更となったことなどから」と,同21行目の「原告には」から同22行目の末尾までを「平成8年2月の業務は,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」とそれぞれ改める。 。 「。」「,,オ原判決88頁18行目のなっているの次にまたこのときの乗務中提供したバナナが腐っていたとして乗客の1人から強いクレームを受けた(乙 」を加え,89頁15行目の「続いていること」から同19行目の末)。 尾までを「続いていたことに加え,1か月の乗務時間が76時間33分(前記のとおり,3月31日から4月3日までの成田・ニューヨーク便のうち31日分を3月に組み入れると,就業規則を超える88時間36分となる)であっ。 たことからすれば,平成8年3月の業務は,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」と改める。 。 カ原判決90頁15行目の「なお」から同22行目末尾までを「これまで75時間以上の乗務時間の月が続いていたことに加え,乗務時間が75時間28分(前記のとおり3月31日から4月3日までの成田・ニューヨーク便のうち3。),1日分を3月に組み入れると4月分は63時間25分となるであったこと前記ニューヨーク便の後に徹夜勤務となるジャカルタ・デンパサール便やホノルル便の乗務があったことを考慮すると,スケジュールの維持率が高かったことを考慮しても,平成8年4月の業務が,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」と改める。 。 キ原判決90頁25行目の「22時50分」を「22時40分」と,91頁6行目の「22時50分」を「22時40分」と,92頁2行目の「なお」から同7行目の末尾までを「5月には,長大路線で時差のあるフラ 原判決90頁25行目の「22時50分」を「22時40分」と,91頁6行目の「22時50分」を「22時40分」と,92頁2行目の「なお」から同7行目の末尾までを「5月には,長大路線で時差のあるフランクフルト便に乗務し,更に徹夜勤務となるケアンズ・ブリズベン便にも乗務して,その後本件発症時の香港シャトル便に乗務していたこと,これまで75時間以上の乗務時間の月が続いていたこと,本件発症までの現実の乗務時間は71時間53分であるものの,本件発症がなく香港・成田便に乗務していれば乗務時間は75時間を超えることが明らかであることからすると,スケジュールの維持率は高かったことを考慮しても,平成8年5月の業務は,被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったと認められる」とそれぞれ改める。 。 (4)上記に認定した被控訴人の乗務の状況をみてみると,本件発症前1年間において,デッドヘッドを含まない総乗務時間は870時間31分であり,月間の乗務時間が80時間を超える月は1回(平成8年3月末から4月初めにかけてのニューヨーク便の算入の仕方によっては2回となる)しかなく,就業時間や休日数。 を含めて,就業規則の定めが遵守されているほか,成田・ニューヨーク便には,平成7年8月30日から同年9月2日まで,同年10月29日から同年11月1日まで,平成8年1月17日から同月20日まで,同年2月21日から同月24日まで,同年3月31日から同年4月3日まで,合計5回乗務しているが,いずれも取決めに従って30日のインターバルが確保されている。また,月に数回の深夜勤務や徹夜勤務もあるが,国際線においてはその後に就業規則に定められた休日が確保され,国内線においてもその後に休日が確保されたり,出頭時刻の遅- 20 -い乗務となっている。さらに,時間外労働時間数は,多い 勤務もあるが,国際線においてはその後に就業規則に定められた休日が確保され,国内線においてもその後に休日が確保されたり,出頭時刻の遅- 20 -い乗務となっている。さらに,時間外労働時間数は,多い月でも数時間以下であり(乙1,前記の専門検討会の報告書で目安とされた月間45時間を大きく下)回っている。 (5)ところで,前記専門検討会の報告書の趣旨とするところは,業務の過重性は労,,,働時間のみによって評価されるものではなく労働時間のほか勤務の不規則性拘束性,深夜業務を含む交替制勤務の状況,作業環境等の諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因を考慮して,総合的に評価することが妥当であるというものである。このような観点に立って被控訴人の業務をみてみると,前記(1)に説示したとおり,国際線,国内線の航空機の客室乗務員として時差の大きな地域間の飛行,不規則な日程で行われる深夜業務等により生体リズムが乱れる機会が多いほか様々な緊張にさらされる業務であるということができ,そうしてみると,被控訴人の時間外労働時間数が上記専門検討会の報告書に示されている目安を大きく下回っているからといって疲労が蓄積することは考えがたいということはできない。むしろ,疲労の蓄積という事柄の性質及び被控訴人のこのような業務の特質に照らすと,被控訴人の業務の状況を各月ごとに,また,就業規則の要件ごとに,これを満たしているかどうかを個別的に検討するだけでは上記専門検討会の報告書の趣旨に添うことはできないというべきであり,上記報告書の示唆する6か月の間,被控訴人の業務が全体としてどのような実質を持ったものであったかについて,総合的に,そして時間の経過をも考慮して検討することが相当であると解される。 (6)このような観点から,まず乗務時間について検討してみると,就 体としてどのような実質を持ったものであったかについて,総合的に,そして時間の経過をも考慮して検討することが相当であると解される。 (6)このような観点から,まず乗務時間について検討してみると,就業規則における年間乗務時間の上限900時間を1か月に引き直すと75時間であるところ,被控訴人の本件発症前の1年間のうち前半の平成7年6月から11月までの6か月間における月間乗務時間の平均は69時間03分であるが,後半の同年12月から平成8年5月までの6か月間における月間乗務時間の平均は76時間02分で上記75時間を超過している。加えて,平成7年12月から平成8年4月まで,,,の5か月間は連続して月間乗務時間が75時間を超えており5月についても上記認定のとおり本件発症がなければ月間75時間を超えることになるような密度の濃い乗務であったということができる。 疲労の蓄積にとっては,ある時期の業務の負荷がそれ自体で過剰な負荷を生じさせることがなくても,一定程度の負荷を生じさせる業務が継続することが重要な意味を持つと考えられるところ,前記認定のとおり,日本航空において,乗務時間が80時間を超える月が連続しないように配慮することとされているのも,80時間を超える乗務を2か月の間継続することが疲労の蓄積をもたらす原因となるとの理解に基づいているものと解される。このような観点に立つと,被控訴人の各月の乗務時間が月間85時間の就業規則の制限を逸脱していないとはいえ,年間900時間の制限を12分した月間75時間を超える乗務を平成7年12月から平成8年4月まで5か月間連続し,更に5月にはそれに相当する乗務を続けていた(前記のとおり,平成8年3月31日から4月3日にかけてのニューヨーク便のうち3月31日の乗務を3月の乗務に組み入れるとすれば3月の乗務- 間連続し,更に5月にはそれに相当する乗務を続けていた(前記のとおり,平成8年3月31日から4月3日にかけてのニューヨーク便のうち3月31日の乗務を3月の乗務に組み入れるとすれば3月の乗務- 21 -時間が85時間を超えることになる)こと,すなわち半年間にわたって75時。 間を超える乗務を続け,続けようとしていたことになるのであって,この間の一連の業務は,80時間を超える乗務を2か月連続することに少なくとも匹敵し,これをも優に超える程度の業務であるというほかなく,この結果,被控訴人に非常に大きな負荷を生じさせるものであるというべきである。 次に,業務の実質的内容については,前記に認定したとおりであるが,これによれば,平成7年12月以降,各月の業務の実態は,いずれも被控訴人に相当の負荷を生じさせる程度のものであったこと,このように全体に負荷の高い1月から3月までの期間に,特別に負担の大きいニューヨーク便に3か月連続で乗務したこと,その間の間隔は取決めにある30日の要件をぎりぎり充足するインターバルであったこと,被控訴人は,平成7年10月に有給休暇を2日とって以降,本件発症まで有給休暇をとっていなかった(被控訴人が有給休暇を正式に申請したがこれが拒まれたことを認める証拠はないが,前記認定のとおり,被控訴人としては,上司の対応等から有給休暇を申請しにくい状況があったことも有給休暇をとらなかった理由となっていると認められる)こと,さらに,スケジュール。 の維持率は月により異なるが,特に平成7年12月以降,スケジュール変更のうち,乗務の予定が休日等の非乗務に変更される回数に比べ休日等の非乗務が乗務に変更される回数が格段に多かったことが認められる。 (7)同僚乗務員との比較証拠(甲68,69,76,178,乙29,30,91,121,122) 乗務に変更される回数に比べ休日等の非乗務が乗務に変更される回数が格段に多かったことが認められる。 (7)同僚乗務員との比較証拠(甲68,69,76,178,乙29,30,91,121,122)によれば,次の事実が認められる。 ア前記のとおり,被控訴人の本件発症前1年間の総乗務時間(デッドヘッドを除く)は870時間31分であり,月平均72時間32分であるところ,平。 成7年度及び平成8年度の日本航空のチーフパーサー約350名の統計で見ると,平成7年度の月平均乗務時間は52時間であり,年間総乗務時間は800時間から860時間程度の者がほとんどを占め,870時間を超える者は9名(2.6パーセント)しかなく,また,平成8年度の月平均乗務時間は45. 8時間であり,年間総乗務時間は800時間前後の者がほとんどを占め,870時間を超える者は2名(0.6パーセント)しかいない。被控訴人の上記月,,. 間平均乗務時間はチーフパーサーの平均時間と比べ平成7年において約138倍,平成8年において約1.57倍となっている。 イ被控訴人と同様に,女性で年齢が近く,同程度の経験を積んだチーフパーサー9名を選び出して,本件発症前6か月間(平成7年12月から平成8年5月まで)の乗務時間や就業時間を比較すると,被控訴人の乗務時間(デッドヘッドを除く)は456時間を超え,同僚の中で最も長く,他の同僚の平均を1。 0パーセント以上上回っており,被控訴人の就業時間は900時間を超え(自宅スタンバイを加えると932時間余り,この点でも同僚の中で最も長く,)他の同僚の平均より概ね10パーセント程度上回っている。また,被控訴人と同程度の職位にいるチーフパーサー22名を選び出して,深夜労働時間を比較すると,被控訴人の深夜勤務は,本件発症前1年間においては少ない方である り概ね10パーセント程度上回っている。また,被控訴人と同程度の職位にいるチーフパーサー22名を選び出して,深夜労働時間を比較すると,被控訴人の深夜勤務は,本件発症前1年間においては少ない方である- 22 -といえるが,本件発症前6か月間についてみると逆に多い方である。 ウ被控訴人と同様に,女性で同程度の経験を積んだチーフパーサー20名を選び出して,本件発症前6か月間における時差5時間以上の地域の移動業務の回数を比較すると,被控訴人は8回でほぼ平均に位置し,被控訴人の回数を上回る者が11名いる。また,特に精神的身体的負荷が大きいといわれるニューヨーク便について,日本航空では現在この路線を担当するチーフパーサー(キャビン・スーパーバイザー)で45歳以上の者が22名いるが,平成17年4月から9月までの間の乗務実績を見ると,連続して3か月間ニューヨーク便に乗務した者が6名いる。 (8)以上に認定したとおり,被控訴人の業務は,1か月単位の変形労働時間制がとられ,頻繁なスケジュール変更など不規則性の高い業務であり,長距離を長時間かけて乗務する等拘束時間が長く,深夜・徹夜業務,時差への対応等から心身の負担が大きい業務であるほか,機内における保安業務やサービス業務など身体的精神的ストレスにさらされやすい業務であり,その労働密度は相当なものであったということができる。そして,被控訴人について,本件発症の6か月前である平成7年12月から平成8年5月までの間,毎月の乗務がいずれも75時間を超えていたこと,この間の乗務時間の状況は他の同僚と比べても抜きん出ていること,各月の乗務便等の業務内容の実質をみても,いずれも相当な負荷を生じさせる程度のものであったこと,これに加えて,この間,乗務時間及び業務の実質の両面からみてこのように相当負荷の大きい業務が6か こと,各月の乗務便等の業務内容の実質をみても,いずれも相当な負荷を生じさせる程度のものであったこと,これに加えて,この間,乗務時間及び業務の実質の両面からみてこのように相当負荷の大きい業務が6か月の間継続していたことを考慮すると,この間の業務は被控訴人に過重な負荷を生じさせ,疲労を蓄積させるに十分なものであったということができる。 また,被控訴人には,くも膜下出血の基礎疾患である脳動脈瘤があったものと認められるが,平成8年4月から5月にかけての被控訴人の健康状態は,上記に認定したとおり,4月ころ以降,顔色も悪く,自宅で寝ていることが多く,夫などに疲れを頻繁に訴えるようになり,5月10日ころには,偏頭痛,右手のしびれ,肩の凝り,首の付け根あたりの張り及び鈍痛を訴え,本件発症の1週間前ころからは,更にこれらの症状が強まり,食欲不振になるとともに吐き気を催すようになったというものであり,これらの諸状況は,被控訴人の心身に通常では考えがたい疲労が蓄積していたことをうかがわせるに十分であるということができる。 そして,被控訴人の本件疾病の発症については,前記認定のとおり,その機序を明らかにする証拠はなく,また,脳動脈瘤破裂の危険因子という意見のある喫煙について,被控訴人に長期間にわたって1日11ないし20本の喫煙歴がある,,ことが認められるもののこの喫煙と本件発症の関係を明らかにする証拠もなく他の危険因子が本件発症をもたらしたとする事情も認められない。なお,控訴人は,日本航空が実施した健康診断において,被控訴人が,平成2年9月以降常に「まぶしい」との訴えを問診票を通して申告していたことをとらえて本件発症は自然の経過のもとで生じたものであると主張するが,まぶしいとの訴えと本件発症の関係を明らかにする証拠はない。また,被控訴人は平成8年5月2 との訴えを問診票を通して申告していたことをとらえて本件発症は自然の経過のもとで生じたものであると主張するが,まぶしいとの訴えと本件発症の関係を明らかにする証拠はない。また,被控訴人は平成8年5月20日の健- 23 -康診断の問診票において「よく眠れない」の項目について自覚症状を訴えていないが,この項目の表現は多義的である上,上記認定の被控訴人の平成8年4月ないし5月の健康状態に照らして「よく眠れない」との訴えが問診票にないこと,が被控訴人に疲労の蓄積があったとの認定を左右するものではない。 (9)以上に説示した被控訴人の基礎疾患の内容,本件発症に近接した時期における被控訴人の健康状態,本件発症前の6か月間の被控訴人の業務の内容を総合考慮すれば,被控訴人の上記基礎疾患である脳動脈瘤が本件発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂するという程度に増悪していたとみることはできず,他に確たる増悪要因が認められない以上は,被控訴人が本件発症前に従事した業務による過重な精神的,身体的負荷が被控訴人の基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ,その結果本件発症に至ったものとみるのが相当であり,その間に相当因果関係があるということができる。したがって,被控訴人の発症した本件疾病は,労働基準法施行規則35条,別表第1の2第9号に「」。 いうその他業務に起因することの明らかな疾病に該当するというべきである第4 結論 よって,被控訴人の本件各請求はいずれも理由があるというべきであり,これらを認容した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第23民事部裁判長裁判官安倍嘉人裁判官内藤正之裁判官後藤健 主文 することとして,主文のとおり判決する。 理由 東京高等裁判所第23民事部裁判長裁判官安倍嘉人裁判官内藤正之裁判官後藤健
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