- 1 -平成30年3月23日判決言渡平成28年(行ウ)第348号損失補償請求事件 主文 1 原告の主位的請求をいずれも棄却する。 2 東京都収用委員会が平成28年1月29日付けでした別紙物件目録記 載1の土地に係る収用の裁決における原告に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億3356万4240円に変更する。 3 被告は,原告に対し,3051万0156円及びこれに対する平成28年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の予備的請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求 (1) 東京都収用委員会が平成28年1月29日付けでした別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)に係る収用の裁決(以下「本件裁決」という。)を変更し,被告が原告に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことを確認し,原告に対する損失補償額を8985万6238円とする。 (2) 被告は,原告に対し,8985万6238円及びこれに対する平成28年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求(1) 東京都収用委員会が平成28年1月29日付けでした本件裁決における原告に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億8718万1 354円に変更する。 - 2 -(2) 被告は,原告に対し,8412万7270円及びこれに対する平成28年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,原告が,別紙物件目録記載1の土地(本件土地)及び同記載2の建 8412万7270円及びこれに対する平成28年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,原告が,別紙物件目録記載1の土地(本件土地)及び同記載2の建物(以下「本件建物」という。)を所有していたところ,被告を起業者とする 東京都市計画道路補助線街路A(以下「本件街路」という。)に係る都市計画事業の用に供するため,東京都収用委員会がした本件土地に係る収用の裁決(本件裁決)において,原告に対する損失の補償が合計2億0305万4084円の金銭補償とされたことを不服として,土地収用法133条2項及び3項に基づき,被告に対し,①主位的に,替地及び移転の代行による補償がされる べきであるなどとして,本件裁決を変更して,被告が原告に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことを確認すること並びに原告に対する損失補償額を8985万6238円とすることを求めるとともに,同額及びこれに対する本件裁決における権利取得日である平成28年3月28日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②予備的に, 本件裁決における原告に対する損失補償額には家賃減収に係る補償額に不足があるとして,本件裁決における原告に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億8718万1354円に変更することを求めるとともに,その差額である8412万7270円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める事案である。 1 土地収用法の定め(1) 68条(損失を補償すべき者)土地を収用し,又は使用することに因って土地所有者及び関係人が受ける損失は,起業者が補償しなければならない。 (2) 70条(損失補償の方法) 損失の補償は,金銭をもってするもの )土地を収用し,又は使用することに因って土地所有者及び関係人が受ける損失は,起業者が補償しなければならない。 (2) 70条(損失補償の方法) 損失の補償は,金銭をもってするものとする。但し,替地の提供その他補- 3 -償の方法について,第82条から第86条までの規定により収用委員会の裁決があった場合は,この限りでない。 (3) 77条(移転料の補償)収用し,又は使用する土地に物件があるときは,その物件の移転料を補償して,これを移転させなければならない。(略) (4) 82条(替地による補償)ア 1項土地所有者又は関係人(略)は,収用される土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の全部又は一部に代えて土地又は土地に関する所有権以外の権利(以下「替地」と総称する。)をもって,損 失を補償することを収用委員会に要求することができる。 イ 2項土地所有者又は関係人が起業者の所有する特定の土地を指定して前項の規定による要求をした場合において,収用委員会は,その要求が相当であり,且つ,替地の譲渡が起業者の事業又は業務の執行に支障を及ぼさ ないと認めるときは,権利取得裁決において替地による損失の補償の裁決をすることができる。 ウ 3項土地所有者又は関係人が土地を指定しないで,又は起業者の所有に属しない土地を指定して第1項の規定による要求をした場合において,収用 委員会は,その要求が相当であると認めるときは,起業者に対して替地の提供を勧告することができる。 エ 4項前項の規定による勧告に基いて起業者が提供しようとする替地について,土地所有者又は関係人が同意したときは,収用委員会は,替地による損 失の補償の裁決をすることができる。 - 4 -オ 前項の規定による勧告に基いて起業者が提供しようとする替地について,土地所有者又は関係人が同意したときは,収用委員会は,替地による損 失の補償の裁決をすることができる。 - 4 -オ 7項起業者が提供すべき替地は,土地の地目,地積,土性,水利,権利の内容等を総合的に勘案して,従前の土地又は土地に関する所有権以外の権利に照応するものでなければならない。 (5) 85条(移転の代行による補償) ア 1項第77条に規定する場合において,起業者又は物件の所有者は,移転料の補償に代えて,起業者が当該物件を移転することを収用委員会に要求することができる。 イ 2項 収用委員会は,前項の規定による要求が相当であると認めるときは,明渡裁決において移転の代行による損失の補償の裁決をすることができる。 (6) 88条(通常受ける損失の補償)第71条,第72条,第74条,第75条,第77条,第80条及び第80条の2に規定する損失の補償の外,離作料,営業上の損失,建物の移転に よる賃貸料の損失その他土地を収用し,又は使用することに因って土地所有者又は関係人が通常受ける損失は,補償しなければならない。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等 ア原告は,電子機器の製作販売等を業とする株式会社である。 イ原告は,平成元年11月28日,本件土地を売買により取得した(甲2)。 また,原告は,平成2年から3年にかけて,本件土地上に本件建物を建築し(以下,本件土地と本件建物を併せて「本件土地建物」という。), 以後,これを所有して,事務所等の用途で賃貸に供していた(甲3,弁- 5 -論の全趣旨)。 ウ本件土地建物は 物を建築し(以下,本件土地と本件建物を併せて「本件土地建物」という。), 以後,これを所有して,事務所等の用途で賃貸に供していた(甲3,弁- 5 -論の全趣旨)。 ウ本件土地建物は,JR京浜東北線α駅から道路距離で約600mの都道沿いの場所に位置し,その近隣は,中低層の店舗兼共同住宅,事務所,一般住宅等が建ち並ぶ住商混在する地域である(乙18の1~3)。 (2) 本件街路に係る都市計画事業の概要等 ア本件街路は,都市計画において定められた道路であって,東京都(住所省略)を起点とし,(住所省略)を終点とする,延長6050m,標準幅員20mの補助線街路である。その当初の都市計画においては,本件土地は本件街路の区域に含まれていなかった。 イ建設大臣は,都市計画法59条2項に基づき,被告を施行者として,本 件街路に係る東京都(住所省略),(住所省略)及び(住所省略)地内における都市計画事業(以下「本件事業」という。)の認可をし,平成9年3月6日,同法62条1項に基づき,その告示(同日付け建設省告示第373号)をした(乙1)。上記認可に係る都市計画事業においては,本件土地は事業地(都市計画事業を施行する土地をいう。以下同 じ。)に含まれていなかった。 ウ東京都知事は,本件街路に係る都市計画を変更し,平成15年8月15日,その告示をした(乙3)。上記変更後の都市計画においては,本件土地が本件街路の区域に含まれることとなった。 エ国土交通省関東地方整備局長は,都市計画法63条1項に基づき,本件 事業につき,上記ウの都市計画変更に伴う事業計画の変更を認可し(以下「本件事業計画変更認可」という。),平成16年12月28日,同条2項,62条1項に基づき,その告示(同日付け関東地方 本件 事業につき,上記ウの都市計画変更に伴う事業計画の変更を認可し(以下「本件事業計画変更認可」という。),平成16年12月28日,同条2項,62条1項に基づき,その告示(同日付け関東地方整備局告示第373号。以下「本件告示」という。)をした(乙4)。上記認可に係る変更後の事業計画においては,本件土地が新たに事業地に編入され ることとなった。 - 6 -(3) 本件裁決に至る経緯等ア被告は,本件事業の事業地である本件土地の取得のため,平成17年8月29日頃,原告に対し,土地に対する補償の金額を4353万4800円,物件に対する補償(建物移転補償,家賃減収補償及び移転雑費補償)の金額を1億4271万4390円(総額1億8624万9190 円)とする旨の補償金額の提示をしたが,合意に至らなかった(乙5)。 その後も,被告は,原告との間で,原告の事業の再建策を提示するなどして,本件土地の任意取得に向けた交渉をしたが,合意に至らなかった。 イ被告は,本件事業の起業者として,東京都収用委員会に対し,平成25年12月20日付けで,土地収用法39条1項に基づき,本件土地に係 る収用の裁決を申請し(以下「本件申請」という。),平成26年6月5日付けで,同法47条の2第3項に基づき,本件土地に係る明渡裁決の申立てをした(乙6,8)。 原告は,本件申請に係る審理において,東京都収用委員会に対し,特定の土地を指定しないで,替地による補償をすること及び移転の代行によ る補償をすることを要求した。 ウ東京地方裁判所は,平成28年1月6日,みずほ信用保証株式会社の申立てにより,同社が本件土地建物に有する抵当権に基づき,原告が被告に対して有する土地収用法71条に基づく本件土地に係る補償 ウ東京地方裁判所は,平成28年1月6日,みずほ信用保証株式会社の申立てにより,同社が本件土地建物に有する抵当権に基づき,原告が被告に対して有する土地収用法71条に基づく本件土地に係る補償金請求権(2535万0229円)及び同法77条に基づく本件建物に係る補償 金請求権(7622万9472円)を差し押さえる旨の債権差押命令をした(甲7)。また,同裁判所は,同月15日,株式会社みずほ銀行の申立てにより,同社が本件土地建物に有する根抵当権に基づき,原告が被告に対して有する同法71条に基づく本件土地に係る補償金請求権(2975万3801円)及び同法77条に基づく本件建物に係る補償 金請求権(8947万1252円)を差し押さえる旨の債権差押命令を- 7 -した(甲8)。さらに,同裁判所は,その頃,同社の申立てにより,原告が被告に対して有する補償金(工作物補償,家賃減収補償及び移転雑費補償)請求権(3000万円)を仮に差し押さえる旨の債権仮差押命令をした(乙9)。 エ東京都収用委員会は,平成28年1月29日付けで,収用する土地及び 明け渡すべき土地を本件土地とし,損失の補償の内容を定め,権利取得の時期を同年3月28日,原告による明渡しの期限を同年7月11日と定める権利取得裁決及び明渡裁決をした(両裁決を併せたものが本件裁決である。甲4)。 本件裁決において定められた原告に対する損失の補償は,全て金銭によ るものであって,その内訳は次のとおりである(甲4)。 (ア) 土地に対する損失の補償(補償項目) (補償金額)土地 4725万3693円(イ) 土地に対する損失の補償以外の損失の補償 (補償項目) (補償金額) (補償項目) (補償金額)土地 4725万3693円(イ) 土地に対する損失の補償以外の損失の補償 (補償項目) (補償金額)建物移転 1億3447万9750円工作物 401万9139円家賃減収 572万8968円移転雑費 1157万2534円 合計 1億5580万0391円なお,本件裁決は,上記「家賃減収」につき,原告の本件建物に係る賃料収入の減少に対する補償として,建物の再築期間等を考慮して家賃減収期間を14か月と認定した上,2階(賃借人株式会社ワイズ(以下「ワイズ」という。))及び3階(賃借人株式会社産業経済新聞社)の 賃料並びに基地局設置料(賃借人WirelessCityPlanning株式会社)の- 8 -月額合計42万1000円から管理修繕費(管理費及び修繕費相当額をいう。以下同じ。)として10%に相当する4万2100円を控除した額に14を乗じ,これに消費税等相当額42万4368円を加えた572万8968円を補償額と認めた。他方,本件裁決は,本件事業の認可がなければ本来得られるはずであった賃料についても補償されるべきで ある旨の原告の主張につき,収用に伴う損失とは認められないとして,採用しなかった。 (ウ) 原告に対する補償金合計額2億0305万4084円オ被告は,平成28年3月4日,土地収用法95条2項4号,97条2項 に基づき,本件裁決が定めた原告に対する補償金の全額を供託した(乙9)。 (4) 本件訴えの提起原告は,平成28年7月29日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点及び当事 に基づき,本件裁決が定めた原告に対する補償金の全額を供託した(乙9)。 (4) 本件訴えの提起原告は,平成28年7月29日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点及び当事者の主張 (1) 替地及び移転の代行による補償の要否(争点(1))(原告の主張)ア土地収用法に基づく損失の補償は,完全な補償,すなわち,収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償でなければならないのであり,被収用者が現実に利用している土地を収用する場合には, 収用後も従前と同程度の生活・事業を実施できるような補償がされなければならない。したがって,金銭補償では生活・事業の再建ができないような場合には,替地や移転の代行による補償がされるべきである。 イ原告は,代表取締役であるB及び取締役である同人の母の2人だけで経営する同族会社であり,両名が共有する東京都(住所省略)所在の土地上 にBが所有する自宅兼事務所の建物(以下,当該土地及び建物を併せて- 9 -「自宅兼事務所不動産」という。)において,主たる事業を営んでいる。 また,原告は,平成元年から3年にかけて,収益物件として,約3億円の借入れにより本件土地を購入して本件建物を建築し,以後,本件建物の賃貸による賃料収入によってその借入金の返済をしていた。本件土地建物及び自宅兼事務所不動産は,その借入金の共同担保に供されており,これら の不動産を担保とする原告の債務は約2億6590万円(訴え提起時)に及ぶ。 しかるに,本件土地の収用に係る補償が金銭補償となれば,原告の補償金請求権は差押えを受けているため,原告は1円も取得できないから,代替地の取得及び代替建物の建築は不可能であるし,補償金に含まれている 本件建物の取壊費用を 補償が金銭補償となれば,原告の補償金請求権は差押えを受けているため,原告は1円も取得できないから,代替地の取得及び代替建物の建築は不可能であるし,補償金に含まれている 本件建物の取壊費用を別途捻出しなければならない。しかも,本件裁決による補償金が原告の債務に充当された後も6000万円を超える債務が残るところ,借入金の返済の基盤となっていた収益物件を失うため,その返済は困難であり,共同担保に供されている自宅兼事務所不動産も清算対象となり得る。そうすると,金銭補償となった場合,原告の経営及び原告代 表者家族の生活が破綻することは明らかであって,収用前後の被収用者の財産価値が等しくなるとはいえない。 ウこれに対し,被告が替地を提供し,移転を代行すれば,原告は収用前と同等の収益物件を所有することができ,その運用により債務の返済や事業の継続ができるのであるから,収用の前後を通じて被収用者の財産価値が 等しくなる。また,本件において,替地の提供及び移転の代行をしても,起業者たる被告の事業又は業務の執行に支障を及ぼすことはない。 したがって,本件土地の収用について正当な補償をするには,替地の提供及び移転の代行をしなければならないというべきである。 エまた,替地の提供及び移転の代行がされても,完全な補償とはいえず, それに加えて8985万6238円の金銭補償(本件告示から本件裁決ま- 10 -での家賃減収に対する補償として7476万1270円,建物移転に伴う家賃減収に対する補償として1509万4968円。各金額の内訳は後記(2)(原告の主張)のとおり。)がされるべきである。 オよって,原告は,主位的に,本件裁決を変更して,被告が原告に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことを確認すること並びに 後記(2)(原告の主張)のとおり。)がされるべきである。 オよって,原告は,主位的に,本件裁決を変更して,被告が原告に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことを確認すること並びに 原告に対する損失補償額を8985万6238円とすることを求めるとともに,被告に対して同額及びこれに対する権利取得日以降の遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)ア替地の提供の義務について (ア) 原告は,本件裁決に係る審理において,特定の土地を指定することなく替地による補償を要求しているところ,土地収用法82条3項は,このような場合においては,収用委員会が起業者に替地の提供を勧告することができる旨定めているにすぎない。そして,勧告をするか否かの判断は収用委員会の裁量によるものであるし,その勧告に法的拘束力は なく,起業者に努力義務が課されるにすぎない。 したがって,そもそも,本件において起業者たる被告が替地の提供の義務を負う法令上の根拠は存在しない。 (イ) 上記(ア)の点を措くとしても,収用に伴う損失の補償は,金銭をもってすることが原則とされており(土地収用法70条),替地による 補償の要求に相当性が認められるには,金銭補償によったのでは代替地の取得が困難であり,かつ,代替地を現実に取得しなければ,従前の生活及び生計を保持し得ないと客観的に認められるような特別の事情が存することを要する。 しかし,本件土地の近傍類地において,取引事例が存在し,土地売 買が一般的に行われていることからすれば,本件における原告の替地の- 11 -要求に相当性が認められないことは明らかである。 また,原告は,本件告示前に,既に本件土地建物の抵当権の被担保債務の返済を滞らせ,期限の利益を喪失し,平成17 おける原告の替地の- 11 -要求に相当性が認められないことは明らかである。 また,原告は,本件告示前に,既に本件土地建物の抵当権の被担保債務の返済を滞らせ,期限の利益を喪失し,平成17年3月29日には,保証委託契約により代位弁済を行うこととしたみずほ信用保証株式会社から,担保不動産に係る競売申立ての手続を開始する旨の通知を受けて いたのであり,本件土地建物が競売等による売却を免れていたのは,原告が起業者から損失補償を受けることでより多額の債権回収が可能であると金融機関が判断したことによるものにすぎない。したがって,金銭補償では原告の経営及び原告代表者家族の生活が破綻し,収用前と同程度の生活状態の復元が図られることにならないとする原告の主張は,そ の前提において失当である。 イ移転の代行の義務について移転の代行による補償を定める土地収用法85条は,移転工事を本体工事と一体として施行することが経済上又は工法上合理的であるという観点と,請負業者の確保等の事情による移転作業の困難・煩雑から物件の所有 者を解放するという被収用者の便宜の観点とに立つものであり,移転の代行の要求の相当性は,工事施行の経済,工法上の合理性,起業者・被収用者の便宜,事業施行の緊急性,移転先が合理的な区域内のものか否か等の点から判断されるべきである。 しかるに,本件裁決においては,建物の移転工法を構外再築工法と認定 しているため,本件事業と本件建物の移転とを起業者が一体で施行することによる経済上又は工法上の合理性はなく,そのほか,原告の要求を相当とするような事情は一切存在しない。 原告が移転の代行を求める根拠として主張する事情は,上記のとおりの土地収用法85条の趣旨にそぐわないものであって,移転の代行を相当と か,原告の要求を相当とするような事情は一切存在しない。 原告が移転の代行を求める根拠として主張する事情は,上記のとおりの土地収用法85条の趣旨にそぐわないものであって,移転の代行を相当と する原告の主張には理由がない。 - 12 -ウよって,被告は原告に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うものではないから,原告の主位的請求には理由がない。 (2) 正当な損失補償額(家賃減収補償の額)(争点(2))(原告の主張)ア本件裁決において定められた損失補償額(前記前提事実(3)エ)は,家 賃減収に対する補償額に不足がある。すなわち,本件裁決は,再築期間等を考慮して,建物移転に伴う家賃減収期間を14か月とし,本件裁決時の賃貸部分に係る同期間の賃料相当額である572万8968円を補償額としたものであるが,①本件告示から本件裁決までの家賃減収及び②建物移転に伴う家賃減収期間における空室の賃料相当額も土地収用法 88条所定の「通常受ける損失」に当たるから,これらを補償の対象としていない点で誤りがある。 なお,被告が依拠する最高裁昭和63年1月21日第一小法廷判決は,文化的価値が損失補償の対象とならないことを判示したものであり,原告の主張を否定する根拠となるものではない。 イ上記①(本件告示から本件裁決までの家賃減収)について都市計画道路に係る事業認可の告示がされた場合,事業地上の建物は近く移転を余儀なくされることが確定するし,誰もが事業地の収用が間近であることを認識する。そして,当該建物を貸し出す際には,すぐにでも立退きを求められ契約を終了せざるを得ない状況にあることを説明し, それを条件として契約するほかないが,そのような状況及び条件の下で入居者 識する。そして,当該建物を貸し出す際には,すぐにでも立退きを求められ契約を終了せざるを得ない状況にあることを説明し, それを条件として契約するほかないが,そのような状況及び条件の下で入居者を確保することは困難である。このように,都市計画道路に係る事業認可の告示がされれば,その後に賃料収入が減少することは必然であって,家賃減収と収用との因果関係は明らかであるから,そのような家賃減収も「通常受ける損失」に当たり,補償の対象とすべきである。 本件告示から本件裁決までの期間における本件建物の入居・空室の状況- 13 -は別表2のとおりであり,同期間の賃料収入の状況は別表3のとおりである。そして,本件告示による本件建物に係る賃料収入の減少額は,別表1のとおり合計7476万1270円である。 具体的には,1階(以下,「1階」ないし「5階」は本件建物の1階ないし5階を指すものとする。)につき,本件告示前には賃料月額22万 2600円で賃貸していたが,本件告示後は,平成19年12月に立退きの問題が生じない短期間の物品販売目的での賃貸をしたほかは,賃借人の募集をいくら行っても借り手がいなかった。また,2階につき,賃借人であるワイズから,事業認可がされたことを理由に事務所を移転するとの申出を受けたため,契約継続のためやむなく月額5万3600円 もの大幅な賃料減額をせざるを得なくなった。さらに,4・5階につき,従前は合わせて賃料月額39万2800円で賃貸していたが,本件告示後,借り手がいなくなり又は賃料を従前の半分程度まで大幅に下げて賃貸せざるを得なくなった。これらによる賃料収入の減少は,不動産賃貸の一般常識からすれば事業認可の告示により当然に発生する損失であり, 現に損失が発生しているのであるから,補償の 大幅に下げて賃貸せざるを得なくなった。これらによる賃料収入の減少は,不動産賃貸の一般常識からすれば事業認可の告示により当然に発生する損失であり, 現に損失が発生しているのであるから,補償の対象となるのは当然である。 ウ上記②(建物移転に伴う家賃減収)について本件告示により新たに賃貸することができなくなった結果,本件裁決時に空室になっていたのであるから,建物移転に伴う家賃減収期間である 14か月につき,空室部分についても補償がされなければならない。本件告示により減額した賃料分についても同様である。 本件裁決時に空室であった1階及び4・5階の相当賃料額はそれぞれ月額22万2600円及び39万2800円であり,2階の賃料減額分は月額5万3600円である。これらの14か月分は合計936万600 0円であるから,これを本件裁決が認めた572万8968円に加算し- 14 -て補償すべきである。 エ正当な損失補償額家賃減収についての補償の不足額は上記イの7476万1270円及び上記ウの936万6000円の合計8412万7270円であり,これを本件裁決が定めた原告に対する損失補償額2億0305万4084円 に加算すると,2億8718万1354円となる。 よって,原告は,予備的に,本件裁決における原告に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億8718万1354円に変更することを求めるとともに,被告に対してその差額である8412万7270円及びこれに対する権利取得日以降の遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)ア土地収用法88条は,建物の移転による賃貸料の損失その他土地を収用することによって土地所有者又は関係人が通常受ける損失を補償しなければならない旨定めている る。 (被告の主張)ア土地収用法88条は,建物の移転による賃貸料の損失その他土地を収用することによって土地所有者又は関係人が通常受ける損失を補償しなければならない旨定めているところ,「建物の移転による賃貸料の損失」とは,賃貸の用に供している建物を移転することに伴い,建物所有者等が移転期 間中の賃料収入を失うことによる損失と解されており,また,「通常受ける損失」とは,客観的社会的にみて収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失をいうものと解されており(最高裁昭和63年1月21日第一小法廷判決),被収用者が現に受けた損失のうち収用と相当因果関係があると認められる損失の全てが事後的に 補償されるわけではない。 そこで,被告においては,土地収用法の規定を踏まえ,損失の適正な補償の確保を目的として,「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」(昭和38年9月30日東京都知事決定),同実施細目(同日東京都知事決定)及び「補償算定要領」(昭和39年4月1日東京都建設局長決 定)を策定し,東京都における損失補償の具体的な基準としている。こ- 15 -れらの基準は,公共用地の任意取得についての政府の統一的補償基準として定められた「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定)やこれに基づく「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)等に準じて定められたものであり,本件において被告が原告に提示した家賃減収に対 する損失補償額も,これらの基準に基づいて算出されたものである。 イ道路等の都市計画事業においては,事業認可後,事業地の取得等に長期間を要することはやむを得ないものであり,一般的に,道路事業において完成まで 額も,これらの基準に基づいて算出されたものである。 イ道路等の都市計画事業においては,事業認可後,事業地の取得等に長期間を要することはやむを得ないものであり,一般的に,道路事業において完成までに10年以上の期間を要することも稀ではなく,事業認可がされれば誰もが事業地が収用間近であると認識するような状況にはない。また, 本件において,被告は,本件告示後においても,本件建物の入居者に対して退去を求めたことは一切ないし,原告に対してテナントの募集や新たな賃貸借契約の締結を制限したこともない。 具体的に見ても,1階については,本件告示時には既に空室であったし,平成19年12月には新たな賃貸借契約が締結されており,本件告示によ り借り手がいなくなったとはいえない。また,2階について,原告が主張するような賃料減額の事情が存在したとしても,3階について本件告示前後を通じ同額の賃料での契約が継続されていたことからすれば,当該減収分をもって被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失と認めることはできない。さらに,4・5階については,平成15 年8月以前から空室状態にあり,その後本件告示までの1年以上の間にも賃借人は現れなかった一方,平成17年5月には新たな賃貸借契約が締結されており,本件告示により借り手がいなくなったとはいえない。 以上によれば,原告が補償を求める家賃減収分の損失は,本件土地の収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財 産的な損失に当たるとはいえず,土地収用法88条に定める「通常受け- 16 -る損失」に該当しないから,補償の対象とは認められない。 ウよって,原告の予備的請求にも理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(替地及び移転の代行 定める「通常受け- 16 -る損失」に該当しないから,補償の対象とは認められない。 ウよって,原告の予備的請求にも理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(替地及び移転の代行による補償の要否)について(1) 替地による補償について ア原告の主位的請求のうち替地による補償に係る部分は,本件裁決のうち金銭による補償を定めた部分の一部を替地による補償を定めるものに変更し,被告が原告に対して替地による補償をする義務を負うことを確認することを求めるものと解される。 イそこで検討すると,土地収用法の定めによれば,土地所有者又は関係人 (以下「土地所有者等」という。)は,収用される土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の全部又は一部に代えて替地をもって,損失を補償することを収用委員会に要求することができるところ(同法82条1項),土地所有者等が土地を指定しないで上記要求をした場合においては,収用委員会は,その要求が相当であると認めるときに,起業 者に対して替地の提供を勧告することができるにとどまり(同条3項),その勧告に基づいて起業者が提供しようとする替地について,土地関係者等が同意したときに初めて,替地による損失の補償の裁決をすることができるものとされている(同条4項)。そうすると,土地所有者等が土地を指定しないで替地による補償の要求をした場合に,収用委員会において, 同法82条3項及び4項に定める勧告その他の手続を経ずに,替地による損失の補償の裁決をすることはできないというべきである。 また,土地収用法133条2項及び3項に定める損失の補償に関する訴えは,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する部分に対する不服を実質的な内容とし,その適否を争うものであることからすれば,同 る。 また,土地収用法133条2項及び3項に定める損失の補償に関する訴えは,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する部分に対する不服を実質的な内容とし,その適否を争うものであることからすれば,同訴え により,収用委員会がした裁決を収用委員会においてすることができな- 17 -い内容の裁決に変更したり,収用委員会が裁決において定めることができない内容の義務を起業者に負わせたりすることはできないものと解される。 しかるに,本件申請に係る審理において,原告は,東京都収用委員会に対し,特定の土地を指定しないで,替地による補償をすることを要求した ものであるところ(前記前提事実(3)イ),同収用委員会による替地の提供の勧告がされたとも,これに基づいて被告が替地を提供しようとしたとも認められないから,同収用委員会において本件申請に対して替地による損失の補償の裁決をすることはできない。そうすると,本件訴えにおいて,本件裁決のうち金銭による補償を定めた部分の一部を替地による補償を定 めるものに変更することはできないし,被告が原告に対して替地による補償をする義務を負うということもできないから,原告の主位的請求のうち替地による補償に係る部分には,理由がないというべきである。 ウまた,上記イの点をさて措くとしても,以下のとおり,東京都収用委員会が本件裁決において替地による補償ではなく金銭による補償を定めたこ とに違法はないから,いずれにしても,原告の主位的請求のうち替地による補償に係る部分には,理由がないというべきである。 (ア) 土地収用法は,土地の収用による損失の補償は金銭をもってすることを原則としており(同法70条本文),替地による補償はその例外として認められるにとどまること(同条ただし書,同法82条)からす (ア) 土地収用法は,土地の収用による損失の補償は金銭をもってすることを原則としており(同法70条本文),替地による補償はその例外として認められるにとどまること(同条ただし書,同法82条)からすれ ば,土地所有者等がする替地による補償の要求が「相当」である(同条2項,3項)とは,これらの者について,金銭補償によったのでは代替地の取得が困難であり,かつ,代替地を現実に取得しなければ従前の生活,生計又は事業を保持し得ないと客観的に認められるような特別な事情が存することをいうものと解すべきである。 (イ) この点につき,原告は,本件土地の収用に係る原告の補償金請求権- 18 -が本件土地建物の担保権者により差押えを受けているため,本件土地の収用に係る補償が金銭補償となれば原告は1円も取得できないから,代替地の取得及び代替建物の建築は不可能である上,その後も借入金債務が残る一方で収益物件を失うため,その返済が困難となり,本件土地建物との共同担保に供されている自宅兼事務所不動産も清算の対象となっ て,原告の経営及び原告代表者家族の生活が破綻するおそれがある旨主張する。 しかし,本件土地の収用に係る補償金を原告自身が取得することができないという事情があるとしても,それは,原告が借入金債務を負担し,本件土地建物をその担保に供していたという,本件土地の収用とは関係 のない原因によるものであるし,当該補償金により当該借入金債務の相当部分が返済されることとなるものである。そして,本件土地は,事務所等の用途での賃貸用建物の敷地として使用されていた土地であり,その近隣は中低層の店舗兼共同住宅,事務所,一般住宅等が建ち並ぶ住商混在する地域であって(前記前提事実(1)イ,ウ),近傍類地の取引事 例も存するから( の敷地として使用されていた土地であり,その近隣は中低層の店舗兼共同住宅,事務所,一般住宅等が建ち並ぶ住商混在する地域であって(前記前提事実(1)イ,ウ),近傍類地の取引事 例も存するから(乙18の1~3),原告において,本件土地建物を取得したときと同様に新たな借入れをするなどして本件土地の代替地を取得し,その上に代替建物を建築することが困難であると客観的に認められるような事情が存するということはできない。 また,原告は,電子機器の製作販売等を業とする株式会社であるとこ ろ,本件土地上に本件建物を所有していたものの,原告自身では本件建物を使用しておらず,その全てを第三者への賃貸の用に供し,その賃料収入を得るにとどまっていたものである上(前記前提事実(1)ア,イ,争いのない事実),主たる事業を営む自宅兼事務所不動産については担保権の実行等による差押え等を受けているとはうかがわれないから(甲 5,6,弁論の全趣旨),このような事情の下では,原告において代替- 19 -地を現実に取得しなければ従前の電子機器の製作販売等を含む事業全般及び原告代表者家族の生活を保持し得ないと客観的に認められるような特別な事情が存するとまでいうことはできない。 (ウ) そうすると,本件申請に係る審理において原告が東京都収用委員会に対してした替地による補償の要求につき,相当な要求(土地収用法8 2条3項)であったとは認められないから,同収用委員会が本件裁決において替地による補償ではなく金銭による補償を定めたことに違法はないというべきである。 (2) 移転の代行による補償についてア原告の主位的請求のうち移転の代行による補償に係る部分は,本件裁決 のうち金銭による補償を定めた部分の一部を移転の代行による補償を定め ある。 (2) 移転の代行による補償についてア原告の主位的請求のうち移転の代行による補償に係る部分は,本件裁決 のうち金銭による補償を定めた部分の一部を移転の代行による補償を定めるものに変更し,被告が原告に対して移転の代行による補償をする義務を負うことを確認することを求めるものと解される。 イそこで検討すると,土地収用法は,収用する土地に物件があるときには,その物件の移転料を補償してこれを移転させることを原則とし(同法77 条),その例外として,起業者又は物件の所有者の要求に基づく移転の代行による補償を定めているところ(同法85条),この移転の代行による補償が認められているのは,移転工事を本体工事と一体として施行することが経済上又は工法上合理的であるという観点と,請負業者の確保の困難等の事情による移転作業の困難・煩雑さから物件の所有者を解放するとい う観点とに立つものと解される。そうすると,起業者又は物件の所有者がする移転の代行による補償の要求が「相当」である(同条2項)とは,収用する土地上の物件の移転につき,工事施行に係る経済性,工法上の合理性,移転作業に係る起業者及び物件の所有者の便宜等を考慮して,起業者において移転料を補償するのではなく移転を代行することが合理的である と認められる場合をいうものと解すべきである。 - 20 -ウしかるに,本件裁決は本件建物の移転の工法を構外再築工法と認定しているところ(甲4),本件裁決により本件建物の敷地である本件土地が全て収用されることとなること,本件建物が鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根5階建の事務所建物であることからすれば,上記工法は相当なものと認められる。そして,本件建物を構外再築工法により移転するについて,工 事施行に係る経済性,工法上 が鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根5階建の事務所建物であることからすれば,上記工法は相当なものと認められる。そして,本件建物を構外再築工法により移転するについて,工 事施行に係る経済性,工法上の合理性,移転作業に係る原告及び被告の便宜等を考慮して,起業者たる被告において移転料を補償するのではなく移転を代行することが合理的であるというべき事情があるとは認められない。 エこの点につき,原告は,原告の補償金請求権が差押えを受けているため,金銭補償の場合には原告は1円も取得できないから,本件建物の取壊しと 代替建物の建築は不可能であるとして,移転の代行による補償がされるべきである旨主張する。 しかし,原告の要求する被告による移転の代行は,代替建物の敷地となるべき本件土地の代替地を被告が提供することを前提とするものと解されるところ,本件土地の収用に係る補償金を原告自身が取得することができ ないという事情があるとしても,代替地の提供の要求が相当なものといえないことは前記(1)ウに述べたとおりであるから,原告の上記主張は,その前提において失当であり,上記ウの判断を左右するものではない。 オしたがって,原告の主位的請求のうち移転の代行による補償に係る部分には,理由がないというべきである。 (3) 主位的請求の当否についてそして,原告の主位的請求のうち金銭による補償を求める部分は,替地による補償及び移転の代行による補償が認められることを前提にするものであるところ,上記(1)及び(2)のとおりその前提を採用することができないから,同部分の請求にも理由がない。 以上によれば,原告の主位的請求にはいずれも理由がない。 - 21 - 2 争点(2)(正当な損失補償額(家賃減収補償の額))について とができないから,同部分の請求にも理由がない。 以上によれば,原告の主位的請求にはいずれも理由がない。 - 21 - 2 争点(2)(正当な損失補償額(家賃減収補償の額))について(1) 家賃減収補償の額についてア本件建物に係る賃料収入の状況証拠(甲9,10,11の1~3,甲12,13,17,21)及び弁論の全趣旨によれば,本件告示がされた平成16年12月から本件裁決 がされた平成28年1月までの間における,本件建物の賃貸による原告の賃料収入の状況は,別表3に記載のとおりと認められる。なお,同別表の各月欄の「1F」ないし「5F」欄に記載の各金額は,該当月における該当階の賃貸による賃料収入額(その支払期限は前月末日である。)であり,空白となっている部分は,該当月において該当階が空室で賃料 収入がなかったことを示している。また,賃料の金額は,共益費を含み,消費税等相当額を含まない(特に断らない限り,以下同じ。)。 イ本件告示から本件裁決までの家賃減収について(ア) 補償の要否本件建物は本件土地上に存在するところ,本件土地については,これ を新たに事業地に編入することを内容とする,道路の整備に関する都市計画事業の事業計画の変更が認可(本件事業計画変更認可)され,平成16年12月28日,その告示(本件告示)がされている。 道路の整備に関する都市計画事業又はその事業計画の変更が認可され,その告示がされた場合,同告示は土地収用法26条1項の規定による事 業の認定の告示とみなされ(都市計画法70条1項,2項),その後は,起業者において,当該事業地の収用又は使用の裁決の申請をし得ることとなる(土地収用法39条1項,都市計画法71条1項)。そのため,上記告 定の告示とみなされ(都市計画法70条1項,2項),その後は,起業者において,当該事業地の収用又は使用の裁決の申請をし得ることとなる(土地収用法39条1項,都市計画法71条1項)。そのため,上記告示がされることにより,当該事業地については,任意買収に応じない限り,起業者の申請により権利取得裁決がされて収用又は使用され ることが確定するのであり,当該事業地上の建物については,そのよう- 22 -な敷地の買収又は収用等に伴って移転を余儀なくされる状況の下に置かれ,かつ,そのことが公に周知されることとなる。このように継続的な使用の可否や期間について不確定な建物については,賃借人の確保や従前の賃貸借条件の維持に困難が生じることも当然に想定されるところであり,それによって生じる賃料収入の減少を起業者による損失補償の対 象から除外し,当該建物の賃貸人に負担させるのは,公平を欠くものというべきである。 そうすると,本件建物については,本件告示がされたことにより賃貸人たる原告の賃料収入が減少したと認められる場合には,その因果関係が認められる範囲の賃料収入の減少につき,本件土地を収用することに よって関係人が通常受ける損失(土地収用法88条)として,補償の対象と認めるのが相当である。 なお,被告が定める「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」(乙12)は,第4章第1節において,土地等の取得又は使用に伴い建物の全部又は一部を賃貸している者が当該建物を移転することにより移転期 間中賃貸料を得ることができないと認められるときは,当該移転期間に応じた家賃減収の補償をする旨の定め(33条)を置くとともに,同章第7節において,「本節及び前6節に規定するもののほか,土地等の取得又は土地等の使用によって土地等の権 められるときは,当該移転期間に応じた家賃減収の補償をする旨の定め(33条)を置くとともに,同章第7節において,「本節及び前6節に規定するもののほか,土地等の取得又は土地等の使用によって土地等の権利者について通常生じる損失は,これを補償するものとする」旨の定めを置いており(59条),また, 「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定。乙16)も同様の定めを置いているから,これらの基準が,土地の取得に際して補償すべき建物賃貸人の賃料収入の減少の範囲を,特に建物の移転期間中のものに限っているとはいえない。また,被告は,道路の整備に関する都市計画事業においては,完成までに長期 間を要することも稀ではなく,事業認可がされれば誰もが事業地が収用- 23 -間近であると認識するような状況にはない旨主張するが,道路の整備には長期間を要するという事情があるとしても,事業認可の告示後は起業者において事業地の収用又は使用の裁決の申請をし得ることからすれば,上記のとおり賃借人の確保や従前の賃貸借条件の維持に困難が生じ得ることは否定できず,被告が主張する事情は,当該告示と賃料収入の減少 との具体的な因果関係の認定において考慮すべき事由にとどまるというべきである。 以下,これを前提に,原告が補償を求める1階,2階,4階及び5階に係る本件告示から本件裁決までの家賃減収について検討する。 (イ) 1階 証拠(甲10,17,21)及び弁論の全趣旨によれば,①原告から1階を賃借していたテナントが平成16年3月に退去したこと,②原告は,同年6月1日から同年11月30日までの間,株式会社永大ハウス工業に対し,1階を,店舗・事務所の用途で,賃料月額22万2600円の約定で賃貸して たテナントが平成16年3月に退去したこと,②原告は,同年6月1日から同年11月30日までの間,株式会社永大ハウス工業に対し,1階を,店舗・事務所の用途で,賃料月額22万2600円の約定で賃貸していたこと,③本件告示後,原告は,1階につき,都 市計画道路予定地であることを明示した上で賃借人の募集をしたが,平成19年12月頃から約5か月間,株式会社トリエルに対し,店舗・事務所の用途で,賃料月額21万9048円の約定で賃貸したほかは,本件裁決時に至るまで賃借人を見付けられなかったことが,それぞれ認められる。 上記事実関係によれば,1階につき,本件告示前には賃料月額22万2600円での賃貸借の実績があったものの,本件告示後には,減額した賃料での短期間の賃貸借がされたほかは,本件裁決時に至るまで賃借人がいなかったのであり,その要因の一つは,本件告示がされたことにより,賃借人の募集に際し,本件建物が同告示に係る都市計画事業の事 業地上にあることを前提にせざるを得なくなったことにあるものとみる- 24 -のが相当である。 そして,本件告示後である平成17年1月から本件裁決がされた平成28年1月までの期間における1階の賃料収入の減少額(賃料月額22万2600円を前提とするもの。)は,別表1の③のとおり,合計2853万9789円と認められる。ただし,この賃料収入の減少について は,本件告示がされたことのほか,本件建物の状況,本件建物の近隣における店舗・事務所用建物の需要の動向,景気の動向,原告による賃借人の募集の態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況等の種々の事情が影響した可能性があり,これらの影響の有無・程度についての立証が必ずしも十分にされているとはいえない本件においては,上記金 額の 態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況等の種々の事情が影響した可能性があり,これらの影響の有無・程度についての立証が必ずしも十分にされているとはいえない本件においては,上記金 額の3割に相当する部分(856万1936円)に限り,本件告示がされたことによるものと認め,これを補償の対象とするのが相当である。 なお,平成28年1月分の賃料収入の減少には,同月29日付けでされた本件裁決後の期間に係る賃料収入の減少分が含まれているが,本件裁決において定められた権利取得の時期及び本件建物の賃借人らの明渡 しの期限はいずれも同年3月28日であるため(甲4),上記減少分も損失補償の対象とすべきであるし,建物の移転期間に係る補償である後記ウの損失補償との重複も生じない(このことは,他の階についても同様である。)。 (ウ) 2階 証拠(甲11の1~3,甲21)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成11年7月14日,ワイズに対し,2階を,賃貸借期間を同月16日から3年間として,事務所の用途で,賃料月額20万3600円の約定で賃貸したこと,②原告とワイズは,平成14年7月3日,上記①の賃貸借期間を同月16日から3年間更新したこと,③上記②の更新 後の賃貸借期間の満了に際し,ワイズが,本件事業計画変更認可がされ- 25 -たことを理由に,事務所を移転するとして,賃貸借契約の終了を申し出たことから,原告は,賃料減額等と引き換えに賃貸借契約を継続することを求め,その結果,両者は,平成17年7月8日,賃料を月額15万円に変更し,従前は新賃料の0.5月分とされていた更新料の支払義務をないものとする一方,被告による収用時には原告の退室依頼にワイズ が速やかに応じることを約して,上記②の賃 日,賃料を月額15万円に変更し,従前は新賃料の0.5月分とされていた更新料の支払義務をないものとする一方,被告による収用時には原告の退室依頼にワイズ が速やかに応じることを約して,上記②の賃貸借契約を同月16日から3年間更新したこと(ただし,賃料額は同年5月分から変更された。),④その後本件裁決時に至るまで,上記③と同様の条件の賃貸借契約が継続したことが,それぞれ認められる。 上記事実関係によれば,原告は,本件告示後,本件建物が同告示に係 る都市計画事業の事業地上にあることから,2階につき,賃借人の確保のために賃料の減額(月額5万3600円)に応じざるを得なかったものといえ,また,本件告示がなければ,2階につき従前どおりの賃料額での賃貸借契約が継続していた蓋然性が高いといえるから,上記賃料の減額による賃料収入の減少は,本件告示がされたことによるものと認め られ,これを損失補償の対象とするのが相当である。そして,上記賃料の減額による賃料収入の減少額は,別表1の④のとおり,平成28年1月分までで合計691万4400円と認められるから,同額が補償されるべきである。 (エ) 4階及び5階 証拠(甲12,13,21)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,少なくとも平成12年6月1日から平成15年5月31日までの間,D株式会社に対し,4階及び5階を併せて,事務所の用途で,賃料月額39万2800円の約定で賃貸していたこと,②本件告示後,原告は,4階及び5階につき,都市計画道路予定地であることを明示した上で賃借 人の募集をしたが,平成17年5月から平成24年9月までの間,その- 26 -両階又は一方につき,都市計画道路予定地であることを前提に上記①よりも低い賃料額の約定で賃貸し 示した上で賃借 人の募集をしたが,平成17年5月から平成24年9月までの間,その- 26 -両階又は一方につき,都市計画道路予定地であることを前提に上記①よりも低い賃料額の約定で賃貸したほかは,本件裁決時に至るまで賃借人を見付けられなかったことが,それぞれ認められる。 上記事実関係によれば,4階及び5階につき,本件告示前には賃料月額39万2800円での賃貸借の実績があったものの,本件告示後には, 本件裁決時に至るまで,その両階又は一方につき減額した賃料での賃貸借がされるか,賃借人がいなかったのであり,その要因の一つは,本件告示がされたことにより,賃借人の募集に際し,本件建物が同告示に係る都市計画事業の事業地上にあることを前提にせざるを得なくなったことにあるものとみるのが相当である。 そして,本件告示後である平成17年1月から本件裁決がされた平成28年1月までの期間における4階及び5階の賃料収入の減少額(賃料月額39万2800円を前提とするもの。)は,別表1の⑧のとおり,合計3930万7081円と認められる。ただし,この賃料収入の減少については,本件告示がされたことのほか,本件建物の状況,本件建物 の近隣における店舗・事務所用建物の需要の動向,景気の動向,原告による賃借人の募集の態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況等の種々の事情が影響した可能性があり,これらの影響の有無・程度についての立証が必ずしも十分にされているとはいえない本件においては,上記金額の3割に相当する部分(1179万2124円)に限り,本件 告示がされたことによるものと認め,これを補償の対象とするのが相当である。 ウ建物移転に伴う家賃減収について(ア) 補償期間等本件裁決は 円)に限り,本件 告示がされたことによるものと認め,これを補償の対象とするのが相当である。 ウ建物移転に伴う家賃減収について(ア) 補償期間等本件裁決は,本件建物の移転に伴う家賃減収について,建物の再築期 間等を考慮してその補償期間を14か月とし,また,補償額の算定の基- 27 -礎となる賃料額から管理修繕費として10%相当額を控除する一方で,消費税等相当額(8%相当)を加算しているところ,これらの点については当事者間にも争いがなく,相当と認められる。 以下,これを前提に,原告が補償を求める1階,2階,4階及び5階に係る建物移転に伴う家賃減収について検討する。 (イ) 1階本件裁決時において,1階の賃借人はおらず,1階の賃料収入はなかったところ,その要因の一つは,本件告示がされたことにあるものと認められるから(前記イ(イ)),1階の賃料についても,建物移転に伴う家賃減収の補償の対象に含めるのが相当である。ただし,前記イ(イ)と 同様の理由により,賃料月額22万2600円を前提として算定される金額の3割に相当する部分に限り,補償の対象とするのが相当である。 そうすると,1階につき,建物移転に伴う家賃減収の補償として,次の計算式のとおり,90万8742円が補償されるべきである。 (22万2600円-2万2260円)/月×14か月×1.08×0. 3=90万8742円(ウ) 2階本件裁決時において,原告は,2階をワイズに賃料月額15万円の約定により賃貸していたが,従前の賃料月額20万3600円からの賃料の減額(月額5万3600円)は,本件告示がされたことによるものと 認められるから(前記イ(ウ)), イズに賃料月額15万円の約定により賃貸していたが,従前の賃料月額20万3600円からの賃料の減額(月額5万3600円)は,本件告示がされたことによるものと 認められるから(前記イ(ウ)),この減額分についても,建物移転に伴う家賃減収の補償の対象に含めるのが相当である。 そうすると,2階につき,建物移転に伴う家賃減収の補償として,本件裁決の認定額(前記前提事実(3)エ(イ))のほか,次の計算式のとおり,72万9388円が補償されるべきである。 (5万3600円-5360円)/月×14か月×1.08=72万9- 28 -388円(エ) 4階及び5階本件裁決時において,4階及び5階の賃借人はおらず,4階及び5階の賃料収入はなかったところ,その要因の一つは,本件告示がされたことにあるものと認められるから(前記イ(エ)),4階及び5階の賃料に ついても,建物移転に伴う家賃減収の補償の対象に含めるのが相当である。ただし,前記イ(エ)と同様の理由により,賃料月額39万2800円を前提として算定される金額の3割に相当する部分に限り,補償の対象とするのが相当である。 そうすると,4階及び5階につき,建物移転に伴う家賃減収の補償と して,次の計算式のとおり,160万3566円が補償されるべきである。 (39万2800円-3万9280円)/月×14か月×1.08×0. 3=160万3566円エ小括 以上によれば,本件土地の収用による原告の本件建物に係る賃料収入の減少に対する補償として,本件裁決が認定した家賃減収額(572万8968円)のほか,本件告示から本件裁決までの家賃減収分として2726万8460円(前記イ(イ)ないし(エ)),建物移転に 賃料収入の減少に対する補償として,本件裁決が認定した家賃減収額(572万8968円)のほか,本件告示から本件裁決までの家賃減収分として2726万8460円(前記イ(イ)ないし(エ)),建物移転に伴う家賃減収分として324万1696円(前記ウ(イ)ないし(エ))の,合計305 1万0156円を認めるべきである。 (2) 正当な損失補償額について前記(1)に係る部分を除き,本件裁決が認定した原告に対する損失補償の額については,当事者間にも争いがなく,相当と認められる。 そうすると,本件土地の収用につき被告が原告に対して補償すべき損失の 額は,本件裁決が定めた2億0305万4084円に前記(1)エの3051- 29 -万0156円を加えた2億3356万4240円である。 (3) 予備的請求の当否についてしたがって,原告の予備的請求は,本件裁決における原告に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億3356万4240円に変更することを求めるとともに,被告に対してその差額である3051万0156円 及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。ただし,原告は権利取得日以降の遅延損害金の支払を求めているが,上記差額分は明渡裁決に係る補償金であり(土地収用法49条1項1号),明渡裁決で定められた明渡しの期限までに払渡しがされるべきであったものであること(同法97条1項)からすれば,原告が請求することができるのは,本件裁決が定 める明渡しの期限の翌日である平成28年7月12日から支払済みに至るまでの民法所定の年5分の法定利率に相当する金員というべきである。 3 結論よって,原告の請求は,予備的請求につき主文第2項及び第3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の予備 済みに至るまでの民法所定の年5分の法定利率に相当する金員というべきである。 主文 よって,原告の請求は,予備的請求につき主文第2項及び第3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の予備的請求及び主位的請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官古田孝夫 裁判官貝阿彌亮 裁判官志村由貴は,差支えのため,署名押印することができない。
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