令和6(行コ)80 鈴鹿市指導違反処分取消等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年6月26日 名古屋高等裁判所 津地方裁判所 令和4(行ウ)26
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判決文本文11,001 文字)

- 1 - 主文 1 原判決中、国家賠償請求に関する部分を次のとおり変更する。 ⑴ 控訴人は、被控訴人に対し、11万円及びこれに対する令和4年11月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 控訴人のその余の控訴を棄却する。 3 訴訟費用のうち、控訴人及び被控訴人に生じた費用は第1、2審とも控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は第1、2審とも参加人の負担とする。 4 この判決は、第1項⑴に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要(以下、本判決で新たに定義するものを除き、略語の定義は原判決の例による。) 1 本件は、処分行政庁が、生活保護法による保護を受けていた被控訴人に対し、自動車の保有を認めないこととし、自動車の売却処分に係る複数社の見積書の 追加提出を求める旨の法27条の規定による指導又は指示(本件指導)をしたが、被控訴人がこれに従わなかったことから、被控訴人に対し、令和4年11月1日付けで保護を停止する処分(本件停止処分)をしたところ、被控訴人が、控訴人に対し、本件停止処分が違法であると主張して、その取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金55万円(慰謝料50万円、 弁護士費用5万円)及びこれに対する本件停止処分の日である令和4年11月 - 2 -1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 原審は、被控訴人の請求のうち、本件停止処分の取消し並びに15万円(慰謝料10万円 11月 - 2 -1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 原審は、被控訴人の請求のうち、本件停止処分の取消し並びに15万円(慰謝料10万円、弁護士費用5万円)及びこれに対する同日から支払済みまで年3%の割合による金員の各支払を命じ、被控訴人のその余の請求を棄却する旨 の判決(原判決)をしたところ、控訴人が、控訴人敗訴部分を不服として控訴した。 2 関係法令、関係通達等、前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり控訴人及び参加人の当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第2、2~4(原判決別紙1から 3までを含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。上記引用のとおり、本件の争点は、審査請求前置の要否(争点1)、本件自動車の保有を認めないことの違法性(争点2)、本件指導の違法性(争点3)、本件停止処分の違法性(争点4)及び国家賠償請求の成否(争点5)である。 (原判決の補正) ⑴ 原判決4頁6行目から7行目にかけての「甲A21、22、乙3の2」を「甲A20、21、22、乙3の2」に改める。 ⑵ 原判決6頁13行目、7頁23行目、8頁15行目、同18行目の各「最小限度」を「最少限度」に改める。 3 控訴人及び参加人の当審における主張 (参加人の主張)本件自動車の保有を認めないことの違法性(争点2)について、次官通知及び局長通知は自動車の保有を広く認めるものではなく、課長通知と整合するものである。また、課長通知のうち、平成26年に改正されたタクシー移送に関する部分は、従前の課長通知の趣旨をより明確にしたものであり、次 官通知及び局長通知とも整合するものであって、合理性がある。 である。また、課長通知のうち、平成26年に改正されたタクシー移送に関する部分は、従前の課長通知の趣旨をより明確にしたものであり、次 官通知及び局長通知とも整合するものであって、合理性がある。 - 3 -(控訴人の主張)⑴ 本件自動車の保有を認めないことの違法性(争点2)について課長通知の合理性については参加人の主張を援用する。 被控訴人が居住する地域は、三重県鈴鹿市内で最も賑わっている地域であり、当該地域のタクシー事情、待機台数等(乙26~29、33~35)か らすれば、被控訴人がタクシーを利用することは困難ではない。 ⑵ 本件指導の違法性(争点3)について本件自動車と同じ車種、年式、走行距離の自動車については、価値が低くない上(乙30の1、2、36、37)、ディーラーによる査定は買取り業者による査定よりも安いから(乙38)、処分行政庁が、被控訴人に対し、 本件自動車の見積書の追加提出を求めたことには十分合理性があった。 ⑶ 本件停止処分の違法性(争点4)について被控訴人は、複数回にわたって、処分行政庁からの口頭による指導又は指示を受けたにもかかわらず、指導に従わないことを明言していた上、提出されていた本件自動車の見積書には疑問があり、単に複数社の追加の見積書の 提出を求められただけであるから、本件停止処分には必要性、相当性があり、違法ではない。 ⑷ 国家賠償請求の成否(争点5)について処分行政庁は、被控訴人に対し、本件停止処分に至るまでの間、約2年3か月余、約50回以上に及び指導・説得を重ねてきたにもかかわらず、被控 訴人がこれに従わなかったのであるから、本件停止処分を漫然と行ったものではなく、国家賠償法上の違法性はない。 第3 当 か月余、約50回以上に及び指導・説得を重ねてきたにもかかわらず、被控 訴人がこれに従わなかったのであるから、本件停止処分を漫然と行ったものではなく、国家賠償法上の違法性はない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、本件停止処分は違法であるから取り消すべきであり、同処分は国家賠償法上も違法であるが、損害賠償の額については、11万円(慰謝料1 0万円、弁護士費用1万円)の限度で認めるのが相当であると判断する。その - 4 -理由は、次のとおりである。 2 認定事実次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3、1記載のとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正) ⑴ 原判決11頁22行目の「令和4年11月」を「令和4年12月」に改める。 ⑵ 原判決12頁10行目から11行目までを以下のとおり改める。 「エ平成31年3月現在、三重県鈴鹿市内には身体障害者を対象とする福祉有償運送事業者が4社あったが(甲A26)、令和3年4月、控訴人又は 被控訴人が、これらの事業者に対して被控訴人による利用の可否を問い合わせたが、いずれも利用は困難であるとの回答がされた(乙15・39頁~43頁)」⑶ 原判決12頁22行目の「自賠責保険料」から23行目の末尾までを以下のとおり改める。 「また、今後、必要に応じて被控訴人の息子から車検代を負担してもらうことが予定されている(甲A33、被控訴人本人)。さらに、自賠責保険料及び任意保険料も生活扶助及び障害者加算で賄うことができている。そして、被控訴人が現在居住している賃借物件については、駐車場代は0円となっており(甲A40)、三重県鈴鹿市内の他の賃借物件においても無料で駐車場 を利用できるものが少なくない(甲B52)。」 て、被控訴人が現在居住している賃借物件については、駐車場代は0円となっており(甲A40)、三重県鈴鹿市内の他の賃借物件においても無料で駐車場 を利用できるものが少なくない(甲B52)。」⑷ 原判決12頁25行目の「また、」の次に「令和4年3月末日現在、」を加える。 ⑸ 原判決13頁3行目から21行目までを以下のとおり改める。 「⑵ 本件停止処分に至る経緯 ア処分行政庁は、被控訴人から令和元年7月8日に再度の生活保護 - 5 -の申請がされたことを受けて、同月9日、被控訴人宅を訪問して初回訪問調査を行い、被控訴人に対し、保護決定後の自動車の使用は原則認められないと伝えた(乙15・1頁)。 イ処分行政庁は、同月23日付けで、被控訴人に対する保護開始を決定し、同月25日、被控訴人に対し、保護決定通知書等に基づいて保護 の権利義務について説明した。その際、被控訴人は、自動車の使用を認めてほしいと述べ、処分行政庁に対して、通院のため自動車の使用を認めてほしい旨を記載した保護申請書(乙3の1)を提出した。これに対し、処分行政庁は、病院等への通院であれば福祉有償運送の対象になる旨説明し、福祉有償運送事業者のリストを交付するなどした(乙15・4頁)。 ウその後、処分行政庁は、被控訴人に対し、被控訴人の通院状況及び病状の確認のほか、福祉有償運送の利用について指導を繰り返し行った。 これに対し、被控訴人は、代理人弁護士を通じて、通院に自動車の使用が必要である旨の主治医の診断書(甲A9)の存在を指摘しつつ自動車の使用許可を求めたため、処分行政庁は、自動車の使用を認めるためには、福 祉有償運送を含む他の方法の利用の可否を検討する必要があると回答した(乙15・7頁)。 エ被控訴人は、令和元年9月27日 用許可を求めたため、処分行政庁は、自動車の使用を認めるためには、福 祉有償運送を含む他の方法の利用の可否を検討する必要があると回答した(乙15・7頁)。 エ被控訴人は、令和元年9月27日から令和2年1月16日までの間、代理人弁護士を通じて、処分行政庁に対して、質問状を複数回送付し、課長通知等の解釈運用のほか、福祉有償運送の利用は困難と見込まれるた め、福祉有償運送を利用するための障害支援区分認定の申請手続を行う必要性が乏しいことなどを伝えた。処分行政庁は、それぞれの質問状に対して、被控訴人については福祉有償運送の利用が可能であること、障害支援区分申請の手続がされていない現状では、自動車の保有の可否についての検討を行うことができないことなどを記載した回答書を送付した(甲A1 4の1~19の2)。 - 6 -オ被控訴人は、令和元年11月13日、障害者支援区分認定の申請手続を行い、処分行政庁は、同年12月19日、同区分につき、区分1と認定した(前提事実⑸)。 その後、処分行政庁は、被控訴人に対し、福祉有償運送の利用について指導を繰り返し行ったところ、令和3年4月までに、いずれの福祉 有償運送事業者も利用が困難であることが判明した(前記2⑵)。 カ処分行政庁は、令和3年5月、被控訴人の福祉有償運送の利用は困難であることを踏まえ、改めて自動車の保有の可否を検討することとし、被控訴人にこれを伝えた。処分行政庁は、被控訴人から本件自動車に係る資料の提出を受け、タクシーの利用の可否についての事情を聴取するなど した。被控訴人は、処分行政庁に対し、タクシー会社が少なくなってきており、来てもらいたいときに来てもらえないことがあったり、予約をしていても来てもらえないことがあることなどを伝えた。処分行政 した。被控訴人は、処分行政庁に対し、タクシー会社が少なくなってきており、来てもらいたいときに来てもらえないことがあったり、予約をしていても来てもらえないことがあることなどを伝えた。処分行政庁は、同年6月30日、三重県に対し、被控訴人がタクシーで通院せず本件自動車で通院することは下記②の及びを満たさず、本件自動車の保有及び使用 を認めないと判断しようと考えていると示した上で、次の回答要望事項について厚生労働省へ回答を求めることを依頼する旨の照会をした(乙15・43~47頁、乙18)。 ① 当市の判断に問題がないか。また問題がある場合は、その問題点をご指摘ください。 ② 当市においてケース検討会議を実施した際に、「検討要件」の解釈について意見があったため、以下の部分の解釈及び具体的な例示をお願いします。 「地域の実態に照らし、社会通念上妥当であるとの判断」の基準 「自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況」の状況 これに対し、令和4年7月21日、三重県から同日の厚生労働省 - 7 -社会・援護局保護課からの回答によるものとして、要旨次のような回答があった。 ① 実施機関において適切に判断されたい。 ② 課長通知第3の問12の答1⑵の記載以上の具体例はありません。 キ処分行政庁における担当者であるAは、これを受けて、被控訴人 の本件自動車の保有は認められないと判断し、それを前提として本件指導をすることにした(乙15・52頁、18、証人A)。 ク処分行政庁は、同年8月19日頃、被控訴人に対し、自動車の保有は認められないので、以前に提出したものとは異なる2社以上の本件自動車の処分に係る見積書を提出するよう口頭で指導し(前提 ク処分行政庁は、同年8月19日頃、被控訴人に対し、自動車の保有は認められないので、以前に提出したものとは異なる2社以上の本件自動車の処分に係る見積書を提出するよう口頭で指導し(前提事実⑻)、さらに同 年9月9日付けで本件指導をした(前提事実⑼)。 ケ処分行政庁は、被控訴人が本件指導に従わなかったことから、同年11月1日付けで本件停止処分をした。 3 審査請求前置の要否(争点1)被控訴人は、身体障害を抱えながら(前提事実⑴)、日々の生活費のほか、 毎月の通院等にも費用が必要であったところ(認定事実⑴ウ)、本件停止処分によって生活保護費の入金が途絶えたこと、本件停止処分の前日(令和4年10月31日)における被控訴人の普通預金口座の残高は、2万1687円であったこと(前提事実⒁)からすれば、審査請求をして裁決を待つゆとりがなかったと認められる。したがって、被控訴人は、「処分、処分の執行 又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行政事件訴訟法8条2項2号)に該当するものとして、裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができる。なお、上記の被控訴人の状況からすれば、審査請求手続においても執行停止の申立てができることは、上記判断を左右しない。 4 本件自動車の保有を認めないことの違法性(争点2) - 8 -⑴ 生活保護の被保護者による自動車の保有については、生活保護法の定めの下、次官通知及び局長通知を踏まえて、課長通知によって具体的な保有要件が定められている(課長通知第3の問12に対する答1⑴~⑸。以下順に「要件⑴」~「要件⑸」という。)。 ⑵ この課長通知の定めの合理性について当事者間に争いがあるが、本件に おいては、これに従って判 られている(課長通知第3の問12に対する答1⑴~⑸。以下順に「要件⑴」~「要件⑸」という。)。 ⑵ この課長通知の定めの合理性について当事者間に争いがあるが、本件に おいては、これに従って判断したとしても、被控訴人に自動車の保有が認められるというべきである。すなわち、被控訴人は障害者であって、自ら本件自動車を運転して定期的に通院していること(前提事実⑴、認定事実⑴ウ。要件⑴、⑸)、本件自動車は排気量2,000cc以下であり、その使用済車引取価格は1000円とされ、むしろ抹消登録手続代行費用等に 1万6226円を要するとされていること(前提事実⑶、認定事実⑴カ。 要件⑶)、本件自動車のガソリン代、車検代、自賠責保険料及び任意保険料も生活保護費等によって賄うことができており、駐車場代の支払も要しないこと(認定事実⑴キ。要件⑷)は、いずれも明らかである。 また、公共交通機関によることの困難性等に関する要件⑵についても、 被控訴人が福祉有償運送を利用することは困難であり(認定事実⑴エ)、また、三重県鈴鹿市内のタクシーの運行状況は、全国的かつ恒常的な運転手不足等もあり、運行台数が少なく、流し営業をしておらず、待機場所も限られていることから、早めに予約することを求められる上、確実に予約ができるわけではなく、タクシーを待たせて用事を済ませることも困難で あって、通院移送費の支給を受けられるとは限らない(認定事実⑴ウ)。 そして、三重県内の自動車の普及率は、総世帯では84.5%に達している上(認定事実⑴ク)、被控訴人の本件自動車は、ハンドルに旋回補助装置を付けるなどして、被控訴人の身体障害に即したものとなっており(甲A38)、通院に自動車の使用が必要である旨の主治医の診断書(甲A9) もある。 - 9 -以上の ドルに旋回補助装置を付けるなどして、被控訴人の身体障害に即したものとなっており(甲A38)、通院に自動車の使用が必要である旨の主治医の診断書(甲A9) もある。 - 9 -以上の事実からすれば、被控訴人については、通院等のために公共交通機関及び福祉有償運送を含む他の送迎手段によることは困難であって、自動車による通院等を行うことが真にやむを得ない状況であること(要件⑵を満たしていること)が明らかに認められる。 ⑶ 控訴人は、被控訴人が居住する地域は、三重県鈴鹿市内で最も賑わってい る地域であり、当該地域のタクシー事情、待機台数等(乙26~29、33~35)からすれば、被控訴人がタクシーを利用することは困難ではないと主張する。 しかし、控訴人が提出した上記各証拠は、各調査日における近鉄白子駅に待機しているタクシーの台数等を示すものにとどまり、実際に被控訴人が通 院等のためにタクシーを利用しようとする場合の配車の可否、配車に要する時間等は不明である。むしろ、認定事実⑴ウのとおりの三重県鈴鹿市内のタクシーの運行状況のほか、タクシー会社によっては、配車を受け付けない地域や時間帯もあるとされていること(原判決別紙4・弁護士法23条の2に基づく照会結果一覧表その1・番号5)からすれば、被控訴人がタクシーを 利用することは困難ではないとの控訴人の主張は採用できない。 5 本件指導の違法性(争点3)⑴ 前記4のとおり、被控訴人は本件自動車の保有が認められるための要件を満たしているにもかかわらず、処分行政庁は、被控訴人に対し、これを処分させる前提で見積書の追加提出を求める本件指導をしたものである。また、 被控訴人は、既に本件自動車の見積書を提出していたのであり(甲A10)、その内容に照らし、本件 被控訴人に対し、これを処分させる前提で見積書の追加提出を求める本件指導をしたものである。また、 被控訴人は、既に本件自動車の見積書を提出していたのであり(甲A10)、その内容に照らし、本件自動車について処分価値があるとの見積書が得られる可能性が大きかったともいえない。 したがって、本件指導は違法であったと認められる。 ⑵ 控訴人は、本件自動車と同じ車種、年式、走行距離の自動車については、 価値が低くない上(乙30の1・2、乙36、37)、ディーラーによる - 10 -査定は買取り業者による査定よりも安いから(乙38)、処分行政庁が、被控訴人に対し、本件自動車の見積書の追加提出を求めたことには十分合理性があったと主張する。 しかし、控訴人が提出した上記各証拠は、あくまで本件自動車と同じ車種、年式等による参考価格を示すものにすぎず、本件自動車の実際の状況をも とに査定を行ったものではない。特に本件自動車は、ボンネットの塗装が一部剥げかかるなどしており(甲A38)、本件自動車の実際の状況を把握した上で作成された見積書(甲A10)は十分な合理性があり、一概にディーラーによる査定が買取り業者による査定よりも安いということはできないから、控訴人の上記主張は採用できない。 6 本件停止処分の違法性(争点4)⑴ 前記5とおり、本件指導は違法であったから、被控訴人がこれに違反したことを理由とする本件停止処分も違法である。なお、被控訴人は、本件停止処分について手続的違法があったと主張するが、処分行政庁が被控訴人に対して弁明の機会を与えなかったとまでは評価できない(前提事実⑽及び⑾)。 また、本件停止処分の通知書面(甲A8の1・2)における理由の記載の文字が小さいからといってこれが直ちに違法となるとはい して弁明の機会を与えなかったとまでは評価できない(前提事実⑽及び⑾)。 また、本件停止処分の通知書面(甲A8の1・2)における理由の記載の文字が小さいからといってこれが直ちに違法となるとはいえず、本件停止処分の理由として、被控訴人が本件指導に違反したこと及び適用条文が記載されており、被控訴人はこれらを了知し得たといえる。したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。 ⑵ 控訴人は、被控訴人が、複数回にわたって、処分行政庁からの口頭による指導又は指示を受けたにもかかわらず、指導に従わないことを明言していた上、被控訴人が提出した本件自動車の見積書(甲A10)には疑問があり、単に複数社の追加の見積書の提出を求められただけであるから、本件停止処分には必要性、相当性があり、違法ではないと主張する。 しかし、被控訴人は、代理人弁護士を通じて、処分行政庁に対して不明な - 11 -点について質問するなどの対応をしていたほか、処分行政庁の指導に応じて、障害者支援区分認定の申請手続を行うなど、必ずしも一貫して指導に従わない姿勢を示していたわけではない。また、提出されていた本件自動車の見積書には十分合理性があると認められることは前記のとおりであるから、控訴人の上記主張は採用できない。 7 国家賠償請求の成否(争点5)⑴ 本件停止処分は、公務員(処分行政庁)が、その職務行為として、公権力の行使として行ったものであり、これが違法であることは前記6のとおりである。もっとも、本件停止処分が違法と判断される場合であっても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項に定める違法があるとの評価を受 けるものではなく、処分行政庁が本件停止処分をするに当たって、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件停止処分を のことから直ちに国家賠償法1条1項に定める違法があるとの評価を受 けるものではなく、処分行政庁が本件停止処分をするに当たって、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件停止処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り、国家賠償法1条1項にいう違法があったというべきである(最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 これを本件についてみるに、前記3で説示した本件停止処分当時の被控訴人の生活状況、財産状況に照らせば、処分行政庁は、被控訴人の生活保護が停止されれば日常の生活を営むことが極めて困難な状況に陥ることが容易に認識できたのであって、保護を停止するに当たっては慎重な検討を行うことが求められていたというべきである。にもかかわらず、処分行政 庁は、被控訴人から令和元年7月8日に再度の生活保護の申請がされた後、令和3年4月までの間、被控訴人に対し、主に福祉有償運送の利用を促す指導を続けていたのであり、本件自動車の見積書の追加提出やタクシーの利用に関する指導を継続的に行っていたわけではない(認定事実⑵ア~オ)。むしろ、処分行政庁は、福祉有償運送の利用が困難と判明した後間 もなく、同年6月30日、三重県に対し、被控訴人による本件自動車の利 - 12 -用の可否を照会し、同年7月21日にその回答があった後、立て続けに本件指導及び本件停止処分を行ったものである(認定事実⑵カ~ク)。しかも、上記回答は、実施機関において適切に判断されたいというものにすぎず(認定事実⑵カ)、必ずしも被控訴人による自動車の保有を否定するものではなかったというべきである。これらの事実に加え、被控訴人から提 出されていた本件自動車の見積書(甲A10)には、本件自動車に処分価値がないことが しも被控訴人による自動車の保有を否定するものではなかったというべきである。これらの事実に加え、被控訴人から提 出されていた本件自動車の見積書(甲A10)には、本件自動車に処分価値がないことが記載されていることから、本件指導を行う必要性の程度が大きいとはいえず、また、既に同見積書を提出していたことに照らして、本件指導に対する違反の程度も大きいとはいえないことからすれば、本件停止処分は、処分行政庁において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽く すことなく漫然と行われたものといわざるを得ない。 ⑵ 損害の額については、本件停止処分によって被控訴人が被った不利益の程度その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件停止処分からその効力の停止までの生活保護費が遡って支給されたこと(前提事実⒂)を踏まえても、被控訴人が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては10万円が相当で あると認める。また、本件の事案の難易、認容額その他諸般の事情を勘案すれば、弁護士費用は、1万円が相当であると認める。 ⑶ 控訴人は、処分行政庁が、被控訴人に対し、本件停止処分に至るまでの間、約2年3か月余、約50回以上に及び指導・説得を重ねてきたにもかかわらず、被控訴人がこれに従わなかったのであるから、本件停止処分を漫然と行 ったものではなく、国家賠償法上の違法性はないと主張する。 しかし、本件停止処分に至るまでの期間のうち約2年弱は、主として福祉有償運送の利用の可否の検討と、これに関する被控訴人とのやりとりに費やされていたのであり、この間は本件停止処分の理由となった本件自動車の見積書の追加提出は特段問題とされていなかった。また、福祉有償運送の利用 については、結局、被控訴人が利用することは困難であることが判明したの - 13 -であって となった本件自動車の見積書の追加提出は特段問題とされていなかった。また、福祉有償運送の利用 については、結局、被控訴人が利用することは困難であることが判明したの - 13 -であって、その対応・検討に時間をかけてきたことをもって、処分行政庁に国家賠償法上の違法がないと認めることはできない。 よって、控訴人の上記主張は採用できない。 第4 結論以上によれば、原判決中、国家賠償請求に関する部分は一部失当であって、 本件控訴は一部理由があるから、原判決の上記部分を変更することとし、訴訟費用については、控訴人及び被控訴人に生じた費用は、事案の性質等に鑑み、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法67条2項、61条、64条ただし書を適用して、第1、2審とも控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は、第1、2審とも参加人の負担とすることとして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部 裁判長裁判官 吉田彩 裁判官 加藤員祥 裁判官 小津亮太 小津亮太

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