主文 一平成一一年四月二五日執行の大牟田市議会議員一般選挙の繰上補充における当選の効力に関する原告らの審査申立てについて、被告が同年一一月一六日にした審査申立てを棄却する旨の裁決を取り消す。 二訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨主文と同旨二請求の趣旨に対する答弁 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 第二事案の概要一原告Aほか三名は、平成一一年四月二五日執行の大牟田市議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)の繰上補充(以下「本件繰上補充」という。)の当選人とされたB候補の当選は無効であり原告A候補が当選人とされるべきであると主張し、被告が同年一一月一六日にした審査申立てを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)には右両候補の投票の効力の判定を誤った違法があるとして、その取り消しを求めたものである。 二争いのない事実等 1 本件選挙における選挙会が決定した得票数は、B候補一五七八票、A候補一五七六票で、両候補の得票差は二票であった(甲一)。 2 大牟田市選挙管理委員会は、平成一一年六月二五日、本件繰上補充に関しB候補を当選人とする決定を行った。 原告らは、同委員会に対し、右当選の効力に関する異議の申出をしたが、同年七月二三日右異議の申出は棄却された。 そこで、原告らは被告に対し、同年八月二日右棄却決定に対し審査申立てをしたところ、被告は同年一一月一六日右審査申立てを棄却する旨の本件裁決をし、原告らは同月一八日右裁決書の送付を受けた。 3 本件選挙において別記一の10及び47並びに別記三の6ないし10の投票があった。 三争点(投票の効力) 1 B候補の有効投票とされたもののうちに無効なものがあるか。 (原告らの主張)(一) 別 3 本件選挙において別記一の10及び47並びに別記三の6ないし10の投票があった。 三争点(投票の効力) 1 B候補の有効投票とされたもののうちに無効なものがあるか。 (原告らの主張)(一) 別記一の10の投票は、「ナガエナガエ」の下に本件選挙の候補者ではない「C」の記載が明瞭に判読できるから、他事記載として無効である。 (二) 同47の投票の拙劣な第一文字は、「な」ではなく「あ」と認めるべきであり、そうすると右投票は「あがえ」となるから、何人の名を記載しようとしたのか不明として無効である。 2 無効投票とされたもののうちにA候補への有効投票があるか。 (原告らの主張)(一) 別記三の6の「まつだ」の投票は、「だ」と「ば」の音は似通っていることから「A」の誤記と認めるべきである。 (二) 別記三の7の「松藤」の投票は、「葉」(は、ば)と「藤」(ふじ)は部首が同一であるハ行の字であり、比較的間違えやすい字であること、「松」の字がつく候補者は「A」と「D」であるが、「藤」と「尾」は間違えやすい字であるとは考えられず、音も似通っていないこと、「藤」の字のつく候補者には、E、Fがいたが、いずれの「藤」の字も一字目であり、「松藤」の記載を「E」、「F」の誤記と解釈することは困難であることなどから、「A」の誤記と認めるべきである。 (三) 同8の「マナルハ」の点字投票は「A」の誤記と認めるべきである。 すなわち、点字は、縦三点、横二点の六つの点の組み合わせからなる音標文字で、右上から下に順に1の点、2の点、3の点、左上から下に順に4の点、5の点、6の点という。紙の表面(凹面)から裏へ釘を突き出して書き、右から左への横書きである。盲人はその凸面を読むので左右が反対になる。点字の五十音及び濁音は別表(書く場合、すなわち凹面から見たもの。)のとおりであ いう。紙の表面(凹面)から裏へ釘を突き出して書き、右から左への横書きである。盲人はその凸面を読むので左右が反対になる。点字の五十音及び濁音は別表(書く場合、すなわち凹面から見たもの。)のとおりである(濁音は、清音の前に5の点を加えて表記する。)。 同8の投票者は、別紙のとおり、一文字目は「マ」と突き出したものの、二文字目を「ツ」と表記するつもりで、1の点と3の点を突き出し、さらに4の点、5の点を突き出すつもりで、誤って隣の欄の4の点、5の点を突き出してしまい、その後、念のために、隣の欄の1の点を突き出したものと考えられる。そして、「バ」の表記のために、濁点の5の点突き出すことを忘れて、そのまま「ハ」を表記したものと考えられる。よって、右点字投票は「A」の誤記と認めるべきである。 (四) 同9の投票の第三文字は、上二文字が「まつ」と平仮名であることに照らすと、「ギ」とカタカナで判読するべきではなく、「まつ」の文字から手の震えが窺われることからすると、平仮名の「ば」の左側を書き損じた上、右側を書くときの筆圧が弱かったため下の部分が切れてしまったものであると考えられるので、平仮名の「ば」と判読すべきである。 (五) 同10の「まつおさちお」の投票は、「A」と一字しか違わないから、D候補とA候補のいずれを記載したか不明ではなく、A候補への投票と判断すべきである。 第三当裁判所の判断一別記一10の投票(争点1(一))について公職選挙法六八条一項がいわゆる他事記載を無効とした趣旨は、他事記載があることにより、それが何人の投票であるかが推知されて無記名投票の精神が侵されひいては選挙の自由公正が害されるのを防止することにあると解される。したがって、右他事記載とは、選挙人において投票の記載をするに当たり、意識的に何らかの含みをもって目印をしたも 名投票の精神が侵されひいては選挙の自由公正が害されるのを防止することにあると解される。したがって、右他事記載とは、選挙人において投票の記載をするに当たり、意識的に何らかの含みをもって目印をしたものと認められるような記載をさし、これに反し無意識的にされたものと認められる書き損じはこれに当たらないと解するのが相当である。 別記一10の投票については、投票者は、投票用紙中央部分に一旦候補者名ではない「C」と記載し(乙二、一〇によれば、本件選挙は単独選挙であり、その候補者にC又はこれと類似した氏名の候補者はいなかったことが認められる。)、その後氏の「C」の「(吉)」の一部を消してその左側に濃く「B」と記載するとともに、名の「C」の文字の上に重ねて濃く「B」と記載しているが、右抹消の程度では依然として「C」という候補者名ではない記載が認識できるのであって、右記載は、何人の投票であるかを推知させることになる可能性が高い上、無意識的な記載と断定することもできないのであって、他事記載に当たるというべきである。 二別記一47の投票(争点1(二))について投票の効力を判定するに当たっては、投票者は一人の候補者に投票する意思をもって投票を記載したものと推定すべきであり、また、公職選挙法六七条後段の規定の趣旨に照らし、投票に記載された文字に誤字、脱字があり、又は明確を欠く点があっても、その記載された文字の全体的考察によって当該選挙人の意思がいかなる候補者に投票したか明白である以上、これを有効投票として選挙人の投票意思を尊重すべきである(最高裁昭和二五年七月六日第一小法廷判決、民集四巻七号二六七頁、最高裁昭和三二年九月二〇日第二小法廷判決、民集一一巻九号一六二一頁)。 右投票の第一文字が「あ」と判読しうる可能性が否定できないとしても、「な」と判読しうる 第一小法廷判決、民集四巻七号二六七頁、最高裁昭和三二年九月二〇日第二小法廷判決、民集一一巻九号一六二一頁)。 右投票の第一文字が「あ」と判読しうる可能性が否定できないとしても、「な」と判読しうる可能性もある上、第二、第三文字は「がえ」と明記されていること、他に類似した名字の候補者はいないこと(弁論の全趣旨)などを総合すると、全体として「B」と記載されていると判読するのが自然であり、B候補の有効票と判断すべきである。 三別記三6の投票(争点2(一))について右投票は「まつだ」と明確に記載されている。「だ」と「ば」は共に濁音でかつ母音が同一であるという共通点があるが、「まつだ」と「A」とは発音が混同されやすいとはいえないこと、本件選挙では他に「まつ」がつく候補者としてD候補がいたこと(乙二)などを総合すると、右投票はいずれの候補者の氏を記載したか判断し難い無効票と判断すべきである。 四別記三7の投票(争点2(二))について右投票は「松藤」と明確に記載されている。「葉」(は、ば)と「藤」(ふじ)とは部首が同一ではあるが、字形及び音感の類似性は認めにくいこと、A候補のポスターの表示及び投票記載台の氏名掲示は「A」と氏が平仮名で記載されていたこと(乙二、四)、「松」「藤」の字がつく候補として、他にD候補、E候補及びF候補がいたこと(乙二)などを総合すると、右投票はいずれの候補者の氏を記載したか判断し難い無効票と判断すべきである。 五別記三8の投票(争点2(三))について点字は、縦三点、横二点の六つの点の組み合わせからなる音標文字で、右上から下に順に1の点、2の点、3の点、左上から下に順に4の点、5の点、6の点という。点字の五十音及び濁音は別表のとおりである(濁音は、清音の前に5の点を加えて表記する。)。点字を書く点字機は、板と定規 下に順に1の点、2の点、3の点、左上から下に順に4の点、5の点、6の点という。点字の五十音及び濁音は別表のとおりである(濁音は、清音の前に5の点を加えて表記する。)。点字を書く点字機は、板と定規と点筆とからなる。定規の上金には枠、下金には凹点があり、その間に紙を挟み、点筆で上から突き出して書く。 右から左への横書きである。盲人はその凸面を読むので左右が反対になる。(以上、甲二ないし五)同8の投票は、別表の点字表によれば、「マナルハ」と表記されていることになり、右表記が「A」に類似しているとはいえないから、右投票をA候補の有効投票と判断することはできない。 原告らは、右投票の投票者は、別紙のとおり、一文字目は「マ」と正しく突き出した、そして、二文字目を「ツ」と表記するつもりで、1の点と3の点を突き出し、さらに4の点、5の点を突き出すつもりで、誤って次の欄の4の点、5の点を突き出してしまい、その後、念のために、その欄の1の点を突き出した、最後に、三文字目の「バ」の表記する際、濁点の5の点を突き出すことを忘れて、「ハ」のみを表記したものと考えられ、右点字投票は「A」の誤記と認めるべきである、と主張し、これに副う意見書(甲一三)を提出する。しかしながら、誤記を生じた経緯として原告が主張する内容は、三度誤りが重ねられたことを前提として初めて成り立つものにすぎず、投票した選挙人の意思が「A」であることが明白であるとは認め難く、採用できない。 六別記三9の投票(争点2(四))について右投票は第一、第二文字が「まつ」と記載され、第三文字が「ギ」類似の記載になっている。 原告は、上二文字が「まつ」と平仮名であることに照らすと、「ギ」とカタカナで判読するべきではなく、「まつ」の文字から手の震えが窺われることからすると、平仮名の「ば」の左側を書 記載になっている。 原告は、上二文字が「まつ」と平仮名であることに照らすと、「ギ」とカタカナで判読するべきではなく、「まつ」の文字から手の震えが窺われることからすると、平仮名の「ば」の左側を書き損じた上、右側を書くときの筆圧が弱かったため下の部分が切れてしまったものであると考えられるので、平仮名の「ば」と判読すべきである、と主張する。しかしながら、「ば」と右の下の部分が共通している「ま」は明確に記載されていることなどに照らし、右主張は採用できない。前記のとおり、本件選挙では他に「まつ」がつく候補者としてD候補がいたことなどを総合すると、右投票はいずれの候補者の氏を記載したか判断し難い無効票と判断すべきである。 七別記三10の投票(争点2(五))について右投票は「まつおさちお」と記載されている。 本件選挙の候補者には、氏が「まつお」であるD候補と、名が「さちお」であるA候補がいたこと、A候補のポスターの表示及び投票記載台の氏名掲示は「A」であったこと(乙二、四)、名の「さちお」と「てつや」とは類似性が乏しいのに対し、姓の「A」と「まつお」は類似していることなどにかんがみると、右投票は、A候補に投票する意思をもって姓のうち一字を誤記したものと認めるのが相当であり、A候補に対する有効投票とみるべきである。 八以上によれば、B候補への有効票とされた一票(別記一10の投票)は無効であり、他方、無効票とされた一票(別記三10の投票)はA候補への有効票と認められ、結局両候補の得票は同数というべきところ、本件裁決には右両候補の投票二票の効力の判定を誤り本件繰上補充の当選人をB候補とした違法があるから、その取り消しを免れない。 第四以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六 誤り本件繰上補充の当選人をB候補とした違法があるから、その取り消しを免れない。 第四以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第四民事部裁判長裁判官川畑耕平裁判官岸和田羊一裁判官白石哲
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