令和4(行ウ)549 α市立保育園廃止処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月22日 東京地方裁判所
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判決文本文30,159 文字)

- 1 - 令和6年2月22日判決言渡令和4年(行ウ)第549号 α市立保育園廃止処分取消等請求事件主文 1 本件訴えのうち、被告がα市長の令和4年9月29日付け専決処分によってしたα市立保育園条例の一部を改正する条例(令和4年α市条例第〇号)に係る制定処分の取消しを求める部分及び被告が同条例の制定をもってした令和5年4月1日からのα市立A保育園の0歳児募集を廃止する旨の処分の取消しを求める部分をいずれも却下する。 2 α市長が令和5年1月26日付けで原告に対してした別紙児童目録2記載の児童のα市立A保育園の施設利用を不可とした処分を取り消す。 3 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する令和4年9月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求1⑴ 主位的請求被告が、α市長の令和4年9月29日付け専決処分によってしたα市立保育園条例の一部を改正する条例(令和4年α市条例第〇号。以下「本件募集廃止条例」という。)の制定処分を取り消す。 ⑵ 上記⑴の予備的請求被告が、α市長の令和4年9月29日付け専決処分による本件募集廃止条例の制定をもってした令和5年4月1日からのα市立A保育園(以下「本件保育園」という。)の0歳児募集を廃止する旨の処分を取り消す。 2 主文2項と同旨- 2 - 3 被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する令和4年9月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 α市議会(以下「市議会」という。)に提出された、本件保育園の令和5年度にお し、50万円及びこれに対する令和4年9月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 α市議会(以下「市議会」という。)に提出された、本件保育園の令和5年度における0歳児募集の廃止及び令和9年度末をもっての廃園などを内容とする本件募集廃止条例の制定に係る議案(以下「本件議案」という。)につき、市議会が継続審査としたため、令和4年9月29日付けで、当時のα市長は、「議会において議決をすべき事件をしないとき」(地方自治法(以下「地自法」という。)179条1項本文)に該当するとして、本件募集廃止条例を制定する旨の専決処分(以下「本件専決処分」という。)をした。また、令和5年1月26日付けで、当時のα市長は、当時0歳児であった第2子につき令和5年度からの本件保育園の利用申請をした原告に対して、本件募集廃止条例の規定が有効であることを前提に、その施設利用を不可とする旨の処分(以下「本件利用不可処分」という。)をした。 本件は、本件保育園に第1子を通園させている原告が、被告に対し、本件専決処分は違法であると主張し、⑴主位的請求として本件専決処分による本件募集廃止条例の制定、その予備的請求として本件募集廃止条例の制定による令和5年4月1日からの本件保育園における0歳児募集の廃止(以下、処分性については争いがあるものの、原告が主位的又は予備的に取消しを求める各行為を併せて便宜上「本件各処分」という。)の各取消しを求め、⑵本件利用不可処分の取消しを求めるとともに、⑶国家賠償法1条1項に基づき、本件専決処分及び本件利用不可処分によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金50万円及びこれに対する本件専決処分の日である令和4年9月29日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 可処分によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金50万円及びこれに対する本件専決処分の日である令和4年9月29日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、特に断りのない限り書証番号は枝番を含- 3 - む。)⑴ 当事者等原告は、令和2年3月にβ市から被告区域内の肩書住所地に転居し、同所において、夫と2人の子と共に居住している(甲2、原告本人)。原告の第1子である別紙児童目録1記載の児童(以下「児童1」という。)は、令和3年4月に本件保育園の0歳児クラスに入園し、現在、本件保育園の2歳児クラスに通園している(甲9、原告本人)。 ⑵ 本件募集廃止条例に係る事実経過ア被告における保育園の募集廃止の方針の策定α市立保育園条例(昭和43年α市条例第〇号。以下「本件条例」という。)1条は、児童福祉法35条3項の規定に基づき、保育園を設置することを目的とする旨を定め、本件条例2条及び別表は、本件保育園及びα市立B保育園(以下併せて「本件2園」という。)を含む5園の公立保育園の名称、位置及び定員を定めている(甲7)。 被告は、令和3年7月、公立保育園の今後の運営に関し、地方公共団体における保育士等の人材確保が厳しい状況にあること、公立保育園5園中3園(本件2園を含む。)は築年数が約50年を超えて建物等の老朽化が進んでいること、公立保育園運営に係る経費の負担が増加していること等を理由として、令和4年4月から本件2園の段階的募集廃止をする「新たな保育業務の総合的な見直し方針(案)」(乙3。以下「方針案(当初版)」という。)を策定した。 被告は、方針案(当初版)を基に、段階的募 して、令和4年4月から本件2園の段階的募集廃止をする「新たな保育業務の総合的な見直し方針(案)」(乙3。以下「方針案(当初版)」という。)を策定した。 被告は、方針案(当初版)を基に、段階的募集廃止を1年延伸して令和5年4月から開始する旨修正するなどして、令和4年5月、「新たな保育業務の総合的な見直し方針」(乙8。以下「本件方針」という。)を策定した。 イ本件議案及び市議会におけるその審議- 4 - C前α市長(以下「前市長」という。)は、令和4年9月1日、本件方針に基づき、本件条例の一部を改正し、本件2園について、令和5年度の0歳児の定員を0とし、令和6年度の0歳児及び1歳児の定員を0とし、令和7年度の0歳児、1歳児及び2歳児の定員を0とし、令和8年度の0歳児、1歳児、2歳児及び3歳児の定員を0とし、令和9年度の0歳児、1歳児、2歳児、3歳児及び4歳児の定員を0とし、令和10年3月31日の終了をもって本件2園を廃園とすることを主たる内容とする本件募集廃止条例(令和5年4月1日施行)の制定に係る本件議案を令和4年度第3回市議会定例会に提出した(甲3、乙9)。 本件議案は、α市厚生文教委員会(以下、市議会が置いている各委員会については単に「厚生文教委員会」のようにいう。)に付託され、令和4年9月12日、同月22日、同月26日及び同月27日、厚生文教委員会で審議された。厚生文教委員会は、同日、参考人を招致すべきであるとして本件議案を継続審査とすることに決し、本件議案の議決には至らなかった。(乙10) 令和4年度第3回市議会定例会の会期は、令和4年9月1日から同年10月7日までであり、うち本会議の日程は、同年9月1日、同月2日、同月6日ないし9日(一般質問)、同月28日及び同年10月7日とされてい 4年度第3回市議会定例会の会期は、令和4年9月1日から同年10月7日までであり、うち本会議の日程は、同年9月1日、同月2日、同月6日ないし9日(一般質問)、同月28日及び同年10月7日とされていた(甲12)。 ウ本件専決処分及び議会の不承認 前市長は、令和4年9月29日、本件方針に基づき、令和5年4月から本件2園の段階的縮小を開始するためには、本件募集廃止条例を制定する必要があり、本件議案を提出したところであるが、市議会において議決すべき事件を議決しないことを理由に、地自法179条1項本文の規定に基づく専決処分として、本件募集廃止条例を制定する本件専決処分をした(甲5、乙13)。 - 5 - 前市長は、令和4年10月7日、市議会に対し、地自法179条3項に基づいて本件専決処分の報告をして承認を求めたが、市議会は、同日、本件専決処分について不承認とした(甲15の2。不承認20票、承認2票。以下「本件不承認」という。)。前市長は、同月14日、地自法145条ただし書の規定に基づき市議会の同意を得て退職した(乙15)。 エ本件募集廃止条例を廃止する条例案の議会での否決 令和4年11月28日、前市長の退職を受けて実施されたα市長選挙において、本件募集廃止条例を廃止して本件2園の0歳児の募集を再開することを公約に掲げて当選したD市長(前市議会議員。以下「現市長」という。)が就任した(甲15、乙16)。 現市長は、令和4年12月21日、市議会において前市長の本件専決処分が不承認とされた本件募集廃止条例について廃止する必要があるとして、「α市立保育園条例の一部を改正する条例を廃止する条例」(以下「本件募集再開条例」という。)に係る議案を令和4年第4回市議会定例会に提出した(乙17)。しか 止条例について廃止する必要があるとして、「α市立保育園条例の一部を改正する条例を廃止する条例」(以下「本件募集再開条例」という。)に係る議案を令和4年第4回市議会定例会に提出した(乙17)。しかしながら、同定例会は、同月26日、同議案を否決(反対12票、賛成10票。以下「本件否決」という。)した(乙18)。 ⑶ 原告の本件保育園の利用申請に係る事実経過ア被告における令和5年度からの保育施設等への入所手続について 被告の区域内にある保育施設の利用を希望する保護者は、被告に対し、利用を希望する施設を第16希望までの範囲で記載した申請書類を提出して申請する必要がある。そして、申請をした保護者は、保育の必要性について認定を受けた後、利用調整を経て希望する保育施設の利用につき内定を得る。当該保育施設での面接・健康診断を経て利用可能と判断されれば、被告の利用承諾又は事業者との契約により当該保育施設の利- 6 - 用を開始することができる。 上記の利用調整とは、保護者のそれぞれについて「保育の実施基準指数表(保護者)」の各類型(就労、保護者の一方の不存在、妊娠・出産等、保育の実施を必要とする事情を類型化したもの)のいずれかに当てはめて導かれる保育の実施基準指数に、「調整指数表(保護者)」及び「調整指数表(世帯)」を基に導かれる各調整指数を合計して入所指数を算定し、これが高いものから選考の上、順次あっせんを行うことを基本として実施するものとされている。このうち「調整指数表(世帯)」では、特定保育施設等を利用していて転園を希望する場合は-10とされているが、きょうだいが在籍する別施設への転園を希望する場合や本件2園からの転園を希望する場合は除外されている上、本件2園からの転園の場合は更に特例申請として+1とされる。また、き 合は-10とされているが、きょうだいが在籍する別施設への転園を希望する場合や本件2園からの転園を希望する場合は除外されている上、本件2園からの転園の場合は更に特例申請として+1とされる。また、きょうだいが施設の利用を同時申請する場合であっても、いずれかの申請が転園申請のときには同時申請の+1が適用されないが、当該転園申請が本件2園からの転園の場合は原則どおり+1とされることになっている。 入所指数が同一の場合には優先項目における順位の高い者を優先させるものとされており、優先項目としては、きょうだいが在籍している特定保育施設又は特定地域型保育事業の利用を申請した場合を第1順位、保護者合算の前年度の市区町村民税の所得割の額が低い世帯を第2順位とすることが定められている。 (以上につき、甲16、20、21、乙1)令和5年4月からの保育施設の利用を希望する保護者の場合、令和4年10月17日から同年11月8日までの一次募集受付期間内に申請する必要があり、一次募集の結果通知が令和5年1月末までに行われ、一次募集の結果空きが生じた場合には、同年2月1日から同月17日まで二次募集の受付が行われる予定となっていた。なお、年度途中からの利- 7 - 用申請についても、入所希望月ごとに申請受付期間が定められていた。 (甲16)イ原告の本件保育園の利用申請及びこれに対する本件利用不可処分原告は、令和4年11月8日、α市長に対し、当時0歳児であった原告の第2子である別紙児童目録2記載の児童(以下「児童2」という。)を申請児童として、令和5年4月1日から本件保育園の利用を希望する利用申請書を提出した(乙1。以下「本件利用申請」という。)。本件利用申請においては、利用を希望する施設として本件保育園のみが記載され、第2希望以下の記載はなか 月1日から本件保育園の利用を希望する利用申請書を提出した(乙1。以下「本件利用申請」という。)。本件利用申請においては、利用を希望する施設として本件保育園のみが記載され、第2希望以下の記載はなかった。 現市長は、令和5年1月26日、本件利用申請に対し、「あなたが希望する施設は該当クラスにおいて定員の設定がなく、募集を行っていないため」、その施設利用を不可とする本件利用不可処分をした(甲13)。 原告は、β市内のスーパーマーケットで平成22年頃から働いていたところ、令和4年5月以降は児童2の出産に伴う産前・産後休業及びそれに引き続いた育児休業中である。原告の夫は、大手建設会社に勤務しており、現在、都内の建設現場で業務に従事している。なお、原告自身の親及びきょうだい、原告の夫の親はいずれも都内には在住していない。 (甲2、9、原告本人)⑷ 原告の訴訟提起原告は、当裁判所に対し、令和4年12月13日、本件各処分の取消し及び国家賠償を求める訴訟を提起し、同月28日には、行政事件訴訟法25条2項本文に基づき、その判決確定まで本件各処分の効力を停止するよう求めた。当裁判所は、令和5年1月24日、原告には本件各処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとはいえないとして、原告の上記申立てを却下する旨の決定をし、原告はこれに対し抗告をしたが、東京高等裁判所は、同年3月29日、原告の抗告を棄却する旨の決定をした。 - 8 - 原告は、同年2月10日、本件利用不可処分の取消し及び国家賠償を求める訴訟を追加して提起した。 (以上につき、顕著な事実) 3 主たる争点⑴ 本件各処分の処分性の有無⑵ 本件専決処分の適否⑶ 本件利用不可処分の適否⑷ 国家賠償請求の成否 4 主たる争点に関する当事者 (以上につき、顕著な事実) 3 主たる争点⑴ 本件各処分の処分性の有無⑵ 本件専決処分の適否⑶ 本件利用不可処分の適否⑷ 国家賠償請求の成否 4 主たる争点に関する当事者の主張の要旨⑴ 争点⑴(本件各処分の処分性の有無)について(原告の主張の要旨)最高裁平成21年(行ヒ)第75号同年11月26日第一小法廷判決・民集63巻9号2124頁(以下「平成21年最判」という。)は、保育園の廃止を内容とする条例の制定行為について、実質上行政処分と同視し得ること及び救済方法の合理性を論拠に処分性を認めたところ、本件各処分は、以下のとおりこれらを満たすものであって、処分性が認められる。 ア当該年度において、当該保育所の募集対象となる児童を現に監護する保護者は、原則として、希望する保育所において保育の実施を受けることを期待し得る法的地位にあり、少なくとも、利用申請につき利用調整を受け、入所対象の保育所の決定を受けて通知される法的地位ないし利益を有する。 現に特定の保育所で保育を受けている児童と、そのきょうだいの保育を必要とする保護者は、より具体的に、当該児童のきょうだいも同じ保育所で保育を受けることを期待し得る法的地位を有する。本件募集廃止条例は、これらの利益を奪う法的効果を有し、その効果は条例の効力によって直接生ずる。 上記利益を奪われる者は、α市内に在住し、その監護する0歳児につい- 9 - て、令和5年度において、本件2園のいずれかで保育を希望する保護者に特定される。 よって、本件募集廃止条例の制定行為は、実質上行政処分と同視し得る。 イ本件では、第三者効が認められている取消訴訟において、本件募集廃止条例の制定行為の適法性を争い得るとする方が、保育園の利用申請に対する通知を待ってその取消訴 為は、実質上行政処分と同視し得る。 イ本件では、第三者効が認められている取消訴訟において、本件募集廃止条例の制定行為の適法性を争い得るとする方が、保育園の利用申請に対する通知を待ってその取消訴訟をするよりも、救済方法として適切かつ合理的である。 (被告の主張の要旨)ア平成21年最判は、当該改正条例によって当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者が当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものとして処分性を認めたが、本件募集廃止条例は、本件2園について、0歳児の募集を停止することから開始して段階的に児童の募集を廃止することによって、最終的にはこれらを廃止とするものの、現に入所中の児童が通常卒園することを保証し、入所中の児童が存在する間は廃止されない措置を講ずるものであって、平成21年最判の事案における条例の制定行為と異なり、直接、本件2園に現に入所中の児童及びその保護者が当該保育園において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものではないから、処分性は認められない。 イ児童1は、特段の理由がない限り、卒園まで本件保育園に在籍することができ、児童1及び原告は、本件保育園において保育を受けることを期待し得る法的地位が奪われることはない。 児童2は、本件2園に入所すらしておらず、児童2及び原告が本件2園において保育を受けることを期待し得る法的地位が奪われることはない。 ⑵ 争点⑵(本件専決処分の適否)について(原告の主張の要旨)- 10 - 本件専決処分が対象とした本件議案は、地自法上、議会が条例という形で判断をすることが極めて強く要請される「公の施設」の改廃を内容とするものである上、「公の施設」の中でも高度の利用権が保障される保 本件専決処分が対象とした本件議案は、地自法上、議会が条例という形で判断をすることが極めて強く要請される「公の施設」の改廃を内容とするものである上、「公の施設」の中でも高度の利用権が保障される保育所利用権に関わる条例案であるから、専決処分の対象に本来的になじまないものである。そして、議会の会期中において、議会が定めるべき「事件」について、長が専決処分をすることは、議会の自律権との関係で極めて問題である。 本件議案は、α市民全体から、本件2園の廃園方針に反対する声、慎重審議を求める声が多数挙げられる中で上程された重要議案であり、市議会は、本件2園の廃園の是非については慎重な判断を要するとして参考人の招致を決定し、賛成多数で本件議案を継続審査としたものであって、通常の議事手続で審議をしていた。本件議案は、本件専決処分時には議決に至る途上にあったものであり、本件専決処分が地自法179条1項の「議会において議決すべき事件を議決しなかったとき」に該当しないことは明白であって違法である。 (被告の主張の要旨)厚生文教委員会は、令和4年9月27日、本件議案について参考人招致を可決して継続審査とし、同月28日、市議会本会議において継続審査を取りやめるような手続もされなかったことから、令和4年第3回市議会定例会の最終日である同年10月7日までに本件議案について議決がされないことが確定した。 市議会においては、令和3年7月の方針案(当初版)策定以降、本件方針及びその関連事項(本件方針の前身となった方針案等を含む。以下同じ。)について、厚生文教委員会で12回、その他にも庁舎等建設及び公共マネジメント推進調査特別委員会で4回、行政財政改革推進調査特別委員会で7回、決算特別委員会で1回、予算特別委員会で2回、全員協議会 )について、厚生文教委員会で12回、その他にも庁舎等建設及び公共マネジメント推進調査特別委員会で4回、行政財政改革推進調査特別委員会で7回、決算特別委員会で1回、予算特別委員会で2回、全員協議会で6回にわたり、説明や質疑等、議論されてきたところであり、市議会定例会最終日までに議- 11 - 決を得ようとすることに無理がある事情は全くなかった。 令和5年4月から本件2園の段階的縮小を開始するためには、これを踏まえた入所事務を令和4年10月から開始する必要があり、それまでに本件条例を改正する必要があることから、本件募集廃止条例の制定に係る本件議案は、同月初旬までに議決される必要があったのであり、これを議決する上で相当長期にわたって議論がされていたにもかかわらず、市議会が議決をしなかったのであるから、本件専決処分は、地自法179条1項の「議会において議決すべき事件を議決しなかったとき」に該当するものであって、適法である。前市長は、専決処分権が与えられた趣旨を殊更潜脱する目的でこれを行使したものではなく、本件専決処分が要件を充足する適法なものであったことは明らかである。 ⑶ 争点⑶(本件利用不可処分の適否)について(原告の主張の要旨)ア本件募集廃止条例の効力本件専決処分は、地自法179条1項の要件を充足しないものであり、違法かつ無効である。ましてや、本件専決処分の違法は重大であり、明らかに無効である。専決処分が無効である場合、それによる条例制定行為も無効になるから、本件募集廃止条例は無効である。 イ本件否決による瑕疵の治癒の有無市議会は前市長による本件専決処分について明確に不承認の議決をしていること、本件専決処分の対象となった本件議案については何ら市議会の議決がされ イ本件否決による瑕疵の治癒の有無市議会は前市長による本件専決処分について明確に不承認の議決をしていること、本件専決処分の対象となった本件議案については何ら市議会の議決がされていないこと、本件専決処分には重大な瑕疵があり、法律による行政の原理からして治癒を認めるべき事案でないことからすれば、本件否決によって本件専決処分の重大な瑕疵が治癒されることはない。否決という議決により議決を欠いた条例案が有効となることもあり得ない。 本件否決の審議状況を見ても、本件専決処分については、本件募集再開- 12 - 条例に反対した議員も含め、その問題性を指摘する姿勢に変わりはなく、本件専決処分に違法があるとの評価は変わっていなかったものであって、本件否決をもって瑕疵が治癒されたなどとは到底いえない。 ウ本件利用不可処分の処分性の有無等本件募集廃止条例は無効であり、これを前提とすれば、原告に本件保育園に対する利用申請権が存在するのはいうまでもなく、本件利用不可処分に処分性が認められることは明らかである。 本件募集廃止条例の存在を前提にされた本件利用不可処分には、存在しない条例を適用した違法がある。 (被告の主張の要旨)ア本件募集廃止条例の効力裁判例は、従前より、一般に、その瑕疵の程度の区別の基準として、重大かつ明白な違法の基準を採用し、これがある場合には無効原因となり、そうでない場合には取消原因にとどまるとしている。仮に本件募集廃止条例の制定行為が行政処分であるとしても、本件専決処分については、専決の基本的要件すら欠くとまで評価されるものでは全くなく、瑕疵の重大性は認められず、外形上、客観的に瑕疵が明白であると認められるものでもないのであって、本件募集廃止条例は 本件専決処分については、専決の基本的要件すら欠くとまで評価されるものでは全くなく、瑕疵の重大性は認められず、外形上、客観的に瑕疵が明白であると認められるものでもないのであって、本件募集廃止条例は無効ではなく、有効である。 イ本件否決による瑕疵の治癒の有無仮に本件専決処分に瑕疵があったとしても、後に議会が承認の議決をすれば瑕疵は治癒されるところ、本件では、市議会は本件専決処分について地自法179条3項の承認の議案を否決する本件不承認をしたものの、その後、現市長が提案した本件募集再開条例の制定に係る議案をも否決して、被告の団体意思として本件募集廃止条例の制定を是とする議決をしたのであるから、本件否決は実質的に本件専決処分を承認する議決をしたものであり、仮に本件専決処分に瑕疵があったとしても、その瑕疵は治癒されて- 13 - いる。 本件否決の趣旨が、本件募集廃止条例の存続に当たり、本件募集廃止条例制定の前市長の本件専決処分を承認ないし追認するものであったことは、本件否決の審議における各議員の発言から明らかである。 ウ本件利用不可処分の処分性の有無本件募集廃止条例の制定により本件保育園は0歳児を募集対象としておらず、保護者に本件保育園への入園の申請権は認められないから、本件利用不可処分に処分性はない。 ⑷ 争点⑷(国家賠償請求の成否)について(原告の主張の要旨)ア α市長の行為の違法性及び過失の有無本件専決処分の違法性及び前市長の過失の有無長の専決処分は極めて例外的な場合に許容されるものであること、条例制定は議会で議決されるのが大原則であること、本件専決処分は公の施設として市民の財産である公立保育園の廃止に関する判断であることから、前市長は、通常の て例外的な場合に許容されるものであること、条例制定は議会で議決されるのが大原則であること、本件専決処分は公の施設として市民の財産である公立保育園の廃止に関する判断であることから、前市長は、通常の職務上の法的義務と比較して、より高度な注意義務を負っていた。しかるところ、本件専決処分は、明らかに要件を満たしておらず、原告はこれによって就労の機会を長期間奪われたものであって、前市長の注意義務違反は明らかであり、その行為には違法及び過失が認められる。 本件利用不可処分の違法性及び現市長の過失の有無現市長は、本件専決処分が要件を欠いているという認識を有し、本件募集廃止条例の撤回を求めている状況下で、原告が本件各処分の取消訴訟やその執行停止の申立てをしていたのであるから、現市長は、本件利用申請に際して本件募集廃止条例の効力を判断するについては、極めて高度な注意義務が課せられていた。しかるところ、現市長は、漫然と本- 14 - 件募集廃止条例が有効であることを前提に原告に対して本件利用不可処分をしたものであって、現市長の注意義務違反は明らかであり、その行為には違法及び過失が認められる。 イ原告の損害の有無及び損害額原告は、出産後も職場に復職することを前提に、妊娠中であった児童1はもちろん、今後生まれることになれば第2子以降も本件保育園に入園させることを希望し、そのために児童1の出産前に現在の住居に引っ越してきたが、前市長の本件専決処分と、それに基づく現市長の本件利用不可処分により、児童2を児童1と同じ本件保育園に入園させ、原告自身が復職するという切実な希望が否定されることとなり、甚大な精神的苦痛を被ることとなった。仮に児童1と児童2を別々の保育園に通わせることで原告の復職が可能であったと 同じ本件保育園に入園させ、原告自身が復職するという切実な希望が否定されることとなり、甚大な精神的苦痛を被ることとなった。仮に児童1と児童2を別々の保育園に通わせることで原告の復職が可能であったとしても、本件専決処分や本件利用不可処分により、原告の保育所選択の権利又は法律上保護された利益が侵害され、原告に精神的苦痛が生じている。 本件では、本件専決処分によって、原告が本件保育園を選択して応募する権利がその時点で既に侵害され、その後の本件利用不可処分によって、原告の本件保育園を選択する権利がより明確かつ強固に侵害されたという関係にあり、本件保育園の0歳児を募集しない状態が継続している現時点までに生じている原告の精神的苦痛は、本件専決処分との関係においても因果関係のある損害といえる。 原告の精神的苦痛に対する賠償としては、50万円を下らない。 (被告の主張の要旨)ア α市長の行為の違法性及び過失の有無原告は、本件専決処分及び本件利用不可処分により保育所選択の権利が侵害されたと主張するが、児童2は本件保育園に入所していない以上、原告は保育を受けさせることを期待し得る法的地位にはなく、原告の権利侵- 15 - 害はない。本件専決処分は公益上の必要性に基づくものであり、本件利用不可処分は本件募集廃止条例の制定による当然の措置である上、原告は希望する保育施設等を本件保育園のみとした本件利用申請をし、これを維持しているのであって、本件専決処分及び本件利用不可処分につき、被告の公務員において職務上の法的義務違反はなく、違法はない。 本件専決処分は、裁判例や文献の解説等によれば瑕疵はなく、法令の解釈につき異なる見解が存在していたのであって、α市長に過失はない。 イ原告の損害の 的義務違反はなく、違法はない。 本件専決処分は、裁判例や文献の解説等によれば瑕疵はなく、法令の解釈につき異なる見解が存在していたのであって、α市長に過失はない。 イ原告の損害の有無及び損害額児童2は本件保育園で現に保育を受けておらず、原告の本件保育園への入園の希望は事実上の希望であって、希望どおりにならず従前勤めていたスーパーマーケットを退職せざるを得なかったとしても、それは被告が賠償すべき損害ではない。 原告の自宅付近には、通園に困難があるとはいえない複数の保育施設等があり、児童2が本件保育園に通園しなくても原告が退職を余儀なくされることはなく、その損害は生じない。 原告が児童1を本件2園以外の保育施設等へ転園することを申請し、同時に児童2を申請すれば、きょうだいが同一の保育施設等に入所できる可能性もあるのであって、原告主張の損害が生ずることはない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件各処分の処分性の有無)について⑴ 判断枠組み行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁、最高裁昭和37年- 16 - (オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。 条例の制定行為は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属し、一般的には、処分の取消しの訴えの対象となる処分に当たるものでないことはいうまでもないが、他に行政庁の法令の執行行為という処分を待つことなく、その施行により 地方公共団体の議会が行う立法作用に属し、一般的には、処分の取消しの訴えの対象となる処分に当たるものでないことはいうまでもないが、他に行政庁の法令の執行行為という処分を待つことなく、その施行により特定の個人の権利義務や法的地位に直接影響を及ぼし、行政庁の処分と実質的に同視し得ることができるような例外的な場合には、処分の取消しの訴えの対象となる処分に含まれるものと解するのが相当である(平成21年最判参照)。 ⑵ 検討ア本件2園に現に入所している児童及びその保護者は、当該保育所において保育の実施期間が満了するまでの間保育を受けることを期待し得る法的地位を有するものの、本件募集廃止条例は、段階的に募集を廃止するにとどまり、本件2園に現に入所している児童については通常卒園まで在籍することができるようにする措置を講じているから(前提事実⑵イ)、本件募集廃止条例の制定行為によっても、上記の法的地位が奪われる結果が生ずるとはいえない。 イ保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位は、当該保育所への入所承諾等をもって当該保育所での利用関係が生ずることに伴って初めて取得するものと解するのが相当であるところ、令和5年度から本件2園での保育を受けることを希望する0歳児又はその保護者は、本件募集廃止条例によってその希望を断念せざるを得なくなるという事実上の影響を受けるにすぎず、当該児童又はその保護者について、本件募集廃止条例の制定行為によってその法的地位に直接的な影響があるということはできない。そして、現に本件保育園で保育を受けているきょうだいが在籍しているとしても、当該児童のきょうだいが本件保育園を利- 17 - 用することができるかどうかは、本件保育園について、当該児童及びそのきょうだいの保護者以外にどの程度その利用 ょうだいが在籍しているとしても、当該児童のきょうだいが本件保育園を利- 17 - 用することができるかどうかは、本件保育園について、当該児童及びそのきょうだいの保護者以外にどの程度その利用を希望する保護者がいるかどうかや、他の保護者の入所指数の大小にもよるのであり、きょうだいが既に本件保育園に在籍している事実は、同一の入所指数の保護者がいた場合において優先的に扱われる事情にすぎず(前提事実⑶ア)、現に本件保育園で保育を受けているきょうだいが在籍していることをもって、当該児童のきょうだいが本件保育園における保育を期待し得る法的地位を有していたということはできない。 ウ以上に照らせば、本件募集廃止条例の制定行為は、その施行により特定の個人の権利義務や法的地位に直接影響を及ぼし、それが行政庁の処分と実質的に同視し得るような例外的な場合に該当するものということはできず、処分の取消しの訴えの対象となる処分に該当するとはいえない。そして、本件募集廃止条例の制定行為が処分に該当しないものと解する以上、本件保育園の0歳児募集が廃止されたことは本件募集廃止条例の施行による効果にすぎず、これについても同様に処分に該当するとはいえない。要するに、本件は平成21年最判とは事案を異にするのであって、原告の主張のうち、これと異なる前提に立つものと解される部分は、採用することができない。 エそうすると、本件訴えのうち、本件各処分の取消しを求める部分は、いずれも不適法であって却下を免れない。 2 争点⑵(本件専決処分の適否)について前記1のとおり、本件各処分の取消しを求める訴えは不適法であって、その本案である本件各処分の違法性の有無に関する争点⑵は、これらの訴えとの関係ではその判断を要しないものの、本件専決処分の違法性は、後記 記1のとおり、本件各処分の取消しを求める訴えは不適法であって、その本案である本件各処分の違法性の有無に関する争点⑵は、これらの訴えとの関係ではその判断を要しないものの、本件専決処分の違法性は、後記3(本件利用不可処分の適否)及び同4(国家賠償請求の成否)の判断の前提となる事項であるから、以下これについて判断をする。 - 18 - ⑴ 判断枠組み憲法93条は、「地方自治の本旨」(同法92条)である住民自治の原則を具体化するため、地方公共団体の長、議会の議員を住民が直接選挙することを定め、地自法は、これを受けて、いわゆる首長主義を採用し、議決機関としての議会と執行機関としての長とを共に直接民意に基礎を置く住民の代表機関として対立させ、それぞれその権限を分かち、その自主性を尊重しながら相互の間の均衡と調和とを図るという見地に立って、地方自治の運営を図ろうとしている。しかるところ、地自法179条1項本文に規定する長の専決処分は、議会がその本来の機能を発揮し得なくなっている場合に長の執行機能を確保するための制度であり、普通地方公共団体の長と議会との間の調整を図るため、長に対して議会の権限に属する事項を代わって決定する権限を与えるものである。もっとも、長は、議会の権限に属する事項については議会の意思決定に従うのが本来であることからすれば、専決処分は、議会の意思決定を得ようとしても得られない場合に、例外的に長に認められる手段にすぎないものというべきである。そして、地自法179条1項本文の定める専決処分をすることができる事由として列挙されているもののうち、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」以外の事由が、いずれも普通地方公共団体の執行機関である長にとって議会の議決を得ることが不可能ないし著しく困難な場合に当たることをも考慮 るもののうち、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」以外の事由が、いずれも普通地方公共団体の執行機関である長にとって議会の議決を得ることが不可能ないし著しく困難な場合に当たることをも考慮すれば、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」の意味するところについても、議決を欠く事態が出現すれば直ちにこれに当たるというのではなく、法改正との整合性、災害対応その他の公益的見地から客観的に議決をする緊急性が高い事件につき、何らかの事情により議会がその機能を発揮し得なくなっているために、長にとって議会の議決を得ることが社会通念上不可能ないしこれに準ずる程度に困難と認められるときでなければならないものと解するのが相当である。 - 19 - ⑵ 認定事実前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件専決処分に関して以下の事実が認められる。 ア被告においては、平成9年9月に「α市行財政改革大綱」が策定され、公立保育園の運営の見直しを検討することとなり、α市内の保護者が委員として参加するα市公立保育園運営協議会は、公立保育園の民営化について協議を行っていた(甲27、40、乙3)。 イ被告は、令和3年7月、令和4年4月から本件2園の段階的募集廃止をする方針案(当初版)を策定した。これは、本件2園の施設の老朽化が更に進んだことにより、その民営化自体が困難であるとの認識によるものであった。(甲40、乙3)被告は、令和3年7月31日、α市公立保育園運営協議会において方針案(当初版)に関する事項についての説明をしたところ、保護者からは、本件2園を廃園とすることに対して多くの反対の声が上がった(甲40)。 被告が、同年8月2日、公立保育園に入所中の児童の保護者に対し方針案(当初版)に 説明をしたところ、保護者からは、本件2園を廃園とすることに対して多くの反対の声が上がった(甲40)。 被告が、同年8月2日、公立保育園に入所中の児童の保護者に対し方針案(当初版)に関する意見募集を行ったところ、同月28日までの間に意見シートが96件提出され、その多くは廃園に反対する意見であった(甲17)。 令和3年度第3回市議会定例会において、4450名の署名のある「利用者等との十分な協議・理解を得ないまま公立保育園の廃園への準備行為の中止を求める陳情書」が提出され、同年9月27日、付託された厚生文教委員会において全会一致で採択された(甲15、18)被告は、同年10月、方針案(当初版)について、令和4年4月からの段階的募集廃止を1年延伸し、令和5年4月から開始すると修正をした(乙5。上記のとおり修正されたものを以下「方針案(令和3年10- 20 - 月版)」という。)。 ウ被告は、令和3年10月から同年12月まで、方針案(令和3年10月版)につき、公立保育園に入所中の児童の保護者に対する説明会を13回、市民説明会を3回開催した(乙4)。前市長は、同年10月9日、同保護者に対する説明会の中で、本件2園の段階的募集廃止に関しては、本件条例の改正が必要であり、市議会による議決が必要である旨の発言をした(甲25)。 エ被告は、令和4年1月、方針案(令和3年10月版)を更に修正するとともに、同月26日から同年2月25日まで、上記修正後の方針案を実行するための「α市立保育園条例の一部を改正する条例(案)」について、パブリックコメントを実施した(乙6、乙7)。同パブリックコメントに対しては、延べ212人・516件の意見の提出があり、廃園に賛同する意見は6件で、廃園に反対ない 部を改正する条例(案)」について、パブリックコメントを実施した(乙6、乙7)。同パブリックコメントに対しては、延べ212人・516件の意見の提出があり、廃園に賛同する意見は6件で、廃園に反対ないし更に検討を要する旨の意見が圧倒的に多数であった(甲26)。 被告は、同年5月、本件方針を策定した(乙8)。 オ前市長は、令和4年9月1日、本件議案を令和4年度第3回市議会定例会に提案し、同月2日の市議会本会議において、本件方針に基づき、本件2園を段階的に縮小した後に廃園するために提出すると提案理由を説明した。また、被告子ども家庭部長は、例年は翌年の1月中に保護者へ一次募集の内定を知らせていることからスケジュールを逆算すると、各園の募集人数の確定時期は令和4年10月初旬がリミットであるから、これに間に合うように議決をお願いするとの旨の説明をした。これらの説明に対し、複数の議員から質問が出され、その質疑の後、α市議会会議規則(昭和37年α市議会規則第1号。以下単に「会議規則」という。)の37条(会議に付する事件は、会議において提出者の説明を聞き、議員の質疑があるときは質疑の後、議長が所管の常任委員会又は議- 21 - 会運営委員会に付託する。)にのっとり、本件議案は所管の常任委員会である厚生文教委員会に付託された。なお、会議規則44条本文は、議会は、必要があると認めるときは、委員会に付託した事件の審査又は調査につき期限を付けることができると定めているが、上記付託の際には期限は付されなかった。(甲3、11、乙9)カ厚生文教委員会は、令和4年9月12日午前10時19分に開会し、本件議案と共に、5214名の署名がある「公立保育園を存続させ、今後のあり方の検討を求める陳情書」及び2059名の署名がある「公立 カ厚生文教委員会は、令和4年9月12日午前10時19分に開会し、本件議案と共に、5214名の署名がある「公立保育園を存続させ、今後のあり方の検討を求める陳情書」及び2059名の署名がある「公立保育園廃園案に関し、市民を交えたさらなる検討を求める陳情書」の陳情も一括して議題とすることとした。委員からは、本件議案に関し、待機児童の状況や園庭の状況、保育の質及び財政効果等の様々な質問が出され、これに対して前市長及び被告保育政策担当課長が答弁をするなどし、同日午後8時1分に延会となった(乙10の1)。 厚生文教委員会は、同月22日午後5時12分に開会し、本件議案を一時保留とすることを決定し、同日午後9時55分に延会となった(乙10の2)。 厚生文教委員会は、同月26日に開会し、本件議案を審議した。委員からは、同月12日の質問事項のほか、保護者との面談内容、廃園による児童への影響等の様々な質問が出され、これに対して前市長及び被告保育政策担当課長が答弁をするなどし、その中で、前市長は、同月の定例会で本件議案の議決を頂くべく努力している、入所案内の配布や公表時期からみてこれが最終リミットとなる、本件方針については全員協議会でも相当の時間にわたって議論したなどと述べた。厚生文教委員会は、同月26日午後11時54分に延会となった。(乙10の3)厚生文教委員会は、同月27日午前0時5分に開会し、委員から、本件議案につき会議規則68条の8所定の参考人招致を求める動議が提出- 22 - され、賛成者の起立多数で可決された。そして、本件議案について、委員長が継続審査の提案をしたところ、賛成者の起立多数で可決され、厚生文教委員会は、同日午前0時57分に閉会となった。(乙10の4)なお、α市議会 決された。そして、本件議案について、委員長が継続審査の提案をしたところ、賛成者の起立多数で可決され、厚生文教委員会は、同日午前0時57分に閉会となった。(乙10の4)なお、α市議会基本条例10条では「議会は、公聴会制度及び参考人制度を積極的に活用するよう努めるものとする。」と規定されている(甲10)。 キ厚生文教委員会委員長は、令和4年9月28日、市議会本会議において、厚生文教委員会での本件議案の審査の概要と結果を報告した。議員からは、本件議案を継続審査とすると市民に大きな影響があるため、参考人を招致するに当たっては論点が明確になっている必要があるが、委員はこの点を共有しているのかとの質問が出され、同委員長から、参考人招致に当たり一定の理由とスケジュール、あるいは参考人をどうするのかということについて一定の提案があったと理解しているとの説明がされた。また、他の議員からは、期限のある議案であることの質疑があったのかとの質問が出され、同委員長から、複数の委員よりそのような意見や主張があったということは理解しているとの回答がされ、更に他の議員から、期限について法令上根拠があるとのやり取りがあったのかと質問が出され、同委員長から、法的にという議論はなかったとの回答がされた。同日、本件議案に関する本会議における質疑は異議なく終了され、同委員長からの報告は終了した。(乙11)ク前市長は、令和4年9月29日、本件方針に基づき、令和5年4月から本件2園の段階的縮小を開始するためには、令和4年9月までに本件募集廃止条例を制定する必要があり、本件議案を提出したが、市議会において議決すべき事件を議決しないとして、地自法179条1項本文の規定を理由に、本件募集廃止条例に係る本件専決処分をした(甲5、乙13)。 - する必要があり、本件議案を提出したが、市議会において議決すべき事件を議決しないとして、地自法179条1項本文の規定を理由に、本件募集廃止条例に係る本件専決処分をした(甲5、乙13)。 - 23 - ケ前市長は、令和4年10月7日、市議会に対し、地自法179条3項に基づいて本件専決処分の報告をし、本件2園の老朽化の進行、保育定員空き状況の増加、人材確保の困難さ、市財政への影響等から本件2園の廃園を更に延伸することは難しいとしてその承認を求めた。議員からは、本件議案に期限があったことは確かであり、本件専決処分はやむを得ないとする意見が出た一方、本件専決処分が地自法179条1項本文の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」に該当すると判断することができなければその承認もできない、本件議案の期限は前市長の政策意思によって設定されたにすぎず法的根拠がない、本件専決処分は二元代表制を揺るがすものであり、本件2園の廃止自体はやむを得ないと考える議員にとっても承認し難いなどの意見も出された。市議会は、同日、本件専決処分について、本件不承認(不承認20票、承認2票)をした。(甲15の2、乙14)コ前市長は、令和4年10月14日、地自法145条ただし書の規定に基づき、市議会の同意を得て退職した(乙15)。 ⑶ 検討ア被告においては、本件専決処分の25年前から公立保育園の運営の見直しの検討をしてきたものであり、その中で民営化の議論もされてきたところであったが、令和3年7月の方針案(当初版)により、本件2園について令和4年4月から段階的に募集廃止とする方針が初めて定められた。これに対し、公立保育園に入所中の児童の保護者等から多数の反対意見が出されると、被告は、令和3年10月、段階的募集廃止を1年延伸するとした。これらの経緯 階的に募集廃止とする方針が初めて定められた。これに対し、公立保育園に入所中の児童の保護者等から多数の反対意見が出されると、被告は、令和3年10月、段階的募集廃止を1年延伸するとした。これらの経緯を踏まえてみれば、本件2園の築年数が約50年を超えて建物の老朽化が進んでいたなどの事情があるとしても、被告において、本件2園の段階的募集廃止を令和5年4月までに開始しなければならない緊急性が客観的に高かったとまでいえず、むしろ、本- 24 - 件議案を令和4年度第3回市議会定例会で可決しなければならないという期限は、基本的には前市長の政策的な意思決定の帰結として設定されたものであって、厚生文教委員会もかかる理解の下にその審議を進めていたことがうかがわれる。また、現市長が本件募集再開条例の制定を令和4年12月の市議会に提案していたこと(前提事実⑵エ)や、市議会から本件議案が厚生文教委員会に付託された際にその審査につき会議規則44条本文に基づく期限は付されていなかったこと(前記⑵オ)などからみて、被告において、令和5年度の本件2園の募集につき、改正前の本件条例の定員を適用した上でこれを行うことが人的・物的におよそ困難であったとの事情を認めることはできない。そうすると、前市長は、本件議案につき、令和4年度第3回市議会定例会の会期の最終日である令和4年10月7日までに議決がされなければ、本件募集廃止条例については同定例会においては成立しないものとして、それを前提に改正前の本件条例の募集要項に基づいて本件2園の次年度の募集をすることが不可能であったとまではいえないから、本件議案の議決が公益的見地から客観的に緊急性の高いものであったとまでいうことはできない。 イまた、市議会の審議の経緯をみるに、本件議案は、令和4年9月2日に市議会本会議に とまではいえないから、本件議案の議決が公益的見地から客観的に緊急性の高いものであったとまでいうことはできない。 イまた、市議会の審議の経緯をみるに、本件議案は、令和4年9月2日に市議会本会議において議題とされ、担当部局による趣旨説明と若干の質疑がされた後、所管の厚生文教委員会に付託されたものであり、これは会議規則にのっとった通常の取扱いであったものといえる。そして、前記⑵カのとおり、厚生文教委員会は、同月28日に予定されている本会議への報告が求められていることを踏まえ、同月12日、同月22日、同月26日及び同月27日の計4日にわたって、時に深更にまで及ぶ審議を行い、前市長側からは本定例会での議決がタイムリミットである旨の主張がされたものの、廃園の是非については更に慎重な判断を要するとして参考人の招致を決定し、賛成多数で継続審査となったというので- 25 - ある。しかるところ、厚生文教委員会が参考人招致を決定して本件議案を継続審査としたこともまた二元代表制の下における市議会による一つの政治的な意思決定であるといえ、このような決定が法的に許容されないものであったということもできない。これらの議論の経過は、同月28日の本会議で報告され、議員からは、継続審査となった経緯について若干の質問が出たものの、進行についてそれ以上の意見は出されなかったのであって、同日当時、市議会では、本件募集廃止条例につき十分な審査を経た上で議決に至るべく、審議が進められていたのであり、その過程が慎重であったということはいえても、市議会が故意に本件議案に係る議事の進行を遅らせたり、その議決を拒絶したりしたなどという事実も認められないから、本件議案をめぐって市議会がその機能を発揮し得なくなっていたと解することも相当ではない。 ウ以上のとおり、本件議案 事の進行を遅らせたり、その議決を拒絶したりしたなどという事実も認められないから、本件議案をめぐって市議会がその機能を発揮し得なくなっていたと解することも相当ではない。 ウ以上のとおり、本件議案は特定の日時までに議決をすべき緊急性が客観的に高い事件であるということはできず、また、何らかの事情により前市長にとって市議会の議決を得ることが社会通念上不可能ないしこれに準ずる程度に困難と認められる場合であったということもできないから、本件専決処分は、地自法179条1項本文の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」の要件を充足しないものというべきである。 エ被告は、市議会においては、令和3年7月の方針案(当初版)策定以降、本件方針及びその関連事項について、厚生文教委員会等において多数回にわたり、説明や質疑等が行われ、議論もされてきたところであり、令和4年度第3回市議会定例会の最終日までに議決を得ようとすることに無理がある事情は全くなかった旨主張する。しかしながら、本件2園の段階的募集廃止の方針に対しては、市民からも多くの反対意見が出されていたものであり、厚生文教委員会でも様々な意見が出されて議論がされていたものであって、上記最終日までに議決を得ることが容易であ- 26 - ったなどとはいえないし、令和3年7月以降議論の対象となってきた本件方針及びその関連事項と、本件条例の改正案である本件議案とを直ちに同視することも相当ではないから、被告の主張は採用することができない。 オしたがって、本件専決処分は違法であるといわざるを得ない。 3 争点⑶(本件利用不可処分の適否)について⑴ 本件募集廃止条例の効力について前記2のとおり、本件専決処分は地自法179条1項本文の要件を充足しない違法なものであるところ、地自法2条17項 3 争点⑶(本件利用不可処分の適否)について⑴ 本件募集廃止条例の効力について前記2のとおり、本件専決処分は地自法179条1項本文の要件を充足しない違法なものであるところ、地自法2条17項は、法令に違反した地方公共団体の行為は、これを無効とすると規定している。また、前記1のとおり、本件募集廃止条例の制定行為には処分性が認められないから、いわゆる取消訴訟の排他的管轄が及ぶものでもない。 そうすると、違法な専決処分であれば、重大かつ明白な違法性があるか否かを問わず、原則としてこれに基づいて制定された条例は無効と解すべきであって、本件募集廃止条例もまた無効であるといわざるを得ない。 ⑵ 本件否決による瑕疵の治癒の有無についてア判断枠組み地自法179条1項本文の要件を満たさない専決処分であっても、本来権限を有する議会が事後において承認を与えた場合には、議会の議決があった場合と同様の結果が生じたものといえるから、専決処分の瑕疵は治癒されるものと解するのが相当である。これに対し、専決処分の承認がされなかった本件のような場合には、承認によるその瑕疵の治癒は生じ得ない。 そして、その後の本件否決によって専決処分の瑕疵が治癒されるかについても、否決という議決は積極的な議会としての意思表示を明確に示すものではないことから、本件募集廃止条例と実質的に異ならない条例を再度議決し直したような場合と異なり、原則としてこれによって瑕疵の治癒があ- 27 - ったということはできない。しかしながら、本件否決の審議の実態として、明らかに市議会による追認の意思表示が認められるといえるような特段の事情がある場合には、本件専決処分について瑕疵の治癒が認められると解する余地はあり得るものというべきである。 イ検討証拠(甲28、乙18)によれ の意思表示が認められるといえるような特段の事情がある場合には、本件専決処分について瑕疵の治癒が認められると解する余地はあり得るものというべきである。 イ検討証拠(甲28、乙18)によれば、本件否決の審議結果につき、本件募集再開条例の制定に反対の票を投じた議員は、E・F、G、H及びIの各会派からの出席者全員(議長を除く。)であること、その議事においては、E・Fの会派に属するJ議員、K議員及びL議員から、本件2園の段階的募集廃止については会派として賛成の立場が表明されていたことが認められ、本件不承認時に本件保育園の廃止自体はやむを得ないと考えていた旨の発言をした議員がいたこと(前記2⑵ケ)や、市議会が、本件募集廃止条例が一応有効に成立していることを前提に本件募集再開条例の採否を議論している(被告子ども家庭部長は、本件募集再開条例に係る議案の提案理由について、本件専決処分が不承認とされたことに伴い、本件2園の廃園の事務がそのまま進んでいくことは好ましくない、令和5年4月1日からの本件2園の0歳児募集を再開するには本定例会での可決がタイムリミットとなるなどと説明している。)ことも踏まえると、本件否決において反対の票を投じた議員の中には、本件募集廃止条例の内容自体には賛成であった者がいたものとみることはできる。 しかしながら、本件否決の議事録(甲28)から認められる審議内容によっても、市議会が、本件否決によって本件専決処分の瑕疵を治癒し、その内容を追認する明らかな意思表示をしたとまで認めることはできない上、前記のとおり、市議会は、本件募集廃止条例が有効であることを前提に本件募集再開条例の採否を議論しており、無効な本件募集廃止条例を有効なものとすべきか否かという観点から本件募集再開条例に係る議案を審査し- 28 - て 件募集廃止条例が有効であることを前提に本件募集再開条例の採否を議論しており、無効な本件募集廃止条例を有効なものとすべきか否かという観点から本件募集再開条例に係る議案を審査し- 28 - ていたともいえない。むしろ、前記2⑵で認定説示したとおり、本件2園の段階的募集廃止に関しては、被告において時間を掛けて慎重な議論がされてきたところであり、意見の分かれる内容であったことも踏まえると、市議会としては、本件2園における令和5年度からの0歳児の募集廃止にも本件募集再開条例の制定にも賛成することができず、まだいずれにも決めることができないという消極的な意思表示をしたにすぎないと見ることも十分に可能といえる(なお、その結果として現状が維持され、本件募集廃止条例の効力が存続するものと認識していた議員も多かったとは考えられるが、かかる法的に誤った認識を根拠に瑕疵の治癒を認め、事実上本件募集廃止条例を有効なものと扱うとすれば、無効な本件専決処分に現状を変更する法的な効力を認めるに等しい点で背理であるというほかはない。)。 また、本件募集再開条例を令和5年12月26日に可決して成立させた場合には、翌年度における本件2園の0歳児の募集受付事務を直ちに始める必要があり、被告の保育現場にも混乱をもたらすおそれがある等の考慮から、本件募集再開条例のこの段階における制定には賛成をしなかった議員がいたことも考えられる。以上の事情に加え、本件否決は、本件議案を継続審査とし、その時点で令和5年度からの本件2園における0歳児の募集廃止を事実上不可能とした厚生文教委員会の決定(その報告を受け、市議会も最終的には特段の異議なくこれを了承したものと解される。)及びこれを受けて行われた本件専決処分に対する本件不承認から3か月足らずでされており、その間に市議会議員選挙(現 定(その報告を受け、市議会も最終的には特段の異議なくこれを了承したものと解される。)及びこれを受けて行われた本件専決処分に対する本件不承認から3か月足らずでされており、その間に市議会議員選挙(現市長の議員辞職に伴うものを除く。)が行われたわけでもなく、基本的には同じ議員がそれぞれの意思表示をしていることも踏まえると、本件募集再開条例に係る議案の審議の実態としても、本件否決によって本件専決処分を追認して改めて本件募集廃止条例を成立させる趣旨の市議会による明らかな意思表示があったと認めることができるような特段の事情まではうかがうことができない。 - 29 - ウ小括したがって、本件否決をもって本件募集廃止条例が有効になったとか、本件専決処分に存する瑕疵が治癒されたということはできないものというほかはない。 ⑶ 以上のとおり、本件募集廃止条例は無効であり、本件否決をもってこれが有効になったということもできないから、現市長は、本件利用申請に対して本件募集廃止条例による改正前の本件条例を適用すべきであったところ、本件利用不可処分は、本件保育園の令和5年度の0歳児募集の定員を0人とすることを内容とする本件募集廃止条例が有効であることを前提とし、本件保育園の募集定員が存在しないことを理由にされているものであるから、その前提において重大な誤認があり、結果として違法であるから取消しを免れないものというべきである。 なお、被告は、本件募集廃止条例によって保護者の本件保育園への入園の申請権が消滅していることを理由に、本件利用不可処分には処分性がないと主張するが、前記のとおり本件募集廃止条例は無効であるから、被告の主張は前提を欠くものであって、これを採用することはできない。 4 争点⑷(国家賠償請求の成否)について⑴ α市長 性がないと主張するが、前記のとおり本件募集廃止条例は無効であるから、被告の主張は前提を欠くものであって、これを採用することはできない。 4 争点⑷(国家賠償請求の成否)について⑴ α市長の行為の違法性及び過失の有無についてア判断枠組み国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから、公務員による公権力の行使に同項にいう違法があるというためには、当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要である。本件利用不可処分については、前記3に説示したとおりの違法があ- 30 - り、取り消されるべきものであるが、行政処分が違法であるからといって、直ちに国家賠償法1条1項所定の違法が肯定されるわけではなく、その違法が肯定されるのは、当該公務員が上記注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限られるものと解される(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 また、ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではない(最高裁昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁、最高裁昭和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決 過失があったものとすることは相当ではない(最高裁昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁、最高裁昭和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号1049頁、平成14年(受)第687号同16年1月15日第一小法廷判決・民集58巻1号226頁等参照)。 イ検討 本件専決処分について前記2で説示したとおり、本件専決処分は地自法179条1項本文の要件を満たさない違法なものである。そして、同項本文の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」の解釈に関する裁判例としては、東京高裁平成25年8月29日判決・判例時報2206号76頁が、「議決を欠く事態が出現すれば直ちにこれに当たるのではなく、外的又は内的な何らかの事情により長にとって議会の議決を得ることが社会通念上不可能ないしこれに準ずる程度に困難と認められる場合、例えば、天災地変等の議決を不可能ならしめる外的事情がある場合、議会が議決しないとの意思を有し、実際にも議事が進行せずに議決にまで至らない- 31 - 場合などでなければならない」としているところ、同裁判例は本件専決処分時に既に存在していたものであって、前市長においても容易に調査して知り得たものといえる。そして、同裁判例の規範を当てはめれば、本件専決処分が地自法179条1項本文の要件を満たさないことは明らかであったものといえる。また、本件専決処分時に、これが上記要件を満たすことについて他に相当の根拠があったと認めるべき証拠もない。 そうすると、本件専決処分を行うに際し、前市長には国家賠償法上の注意義務違反があったものと認められ、国家賠償法1条1項の違法及び過失があるというべきである。 これに対し、被告は、本件専決 うすると、本件専決処分を行うに際し、前市長には国家賠償法上の注意義務違反があったものと認められ、国家賠償法1条1項の違法及び過失があるというべきである。 これに対し、被告は、本件専決処分は、他の裁判例や文献の解釈に照らせば瑕疵はないと主張する。しかしながら、その指摘する甲府地裁平成24年9月18日判決・判例地方自治363号11頁は、形式的には「議会において議決すべき事件を議決しないとき」という要件を一応充足しているように見える専決処分につき、種々の事実を認定した上、地方公共団体の長が専決処分に係る権限の与えられた趣旨を殊更潜脱する目的でこれを行使した場合であるとして専決処分を違法とした事案であり、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」の要件を満たす場合であっても違法となるときがあるとの趣旨で説示されたものであって、その控訴審である東京高裁平成25年5月30日判決・判例地方自治385号11頁では、長が議会の議決がない状態を作出したとはいえないと判断された事案である。そうすると、これらの裁判例は、地自法179条1項本文の「議会において議決すべき事件を議決しないとき」の解釈について直接判断したものということはできない。また、その指摘する新版逐条地方自治法第9次改訂版628頁(乙19)も、「議決を得ることができない一切の場合をいい、その原因が議会の故意に基づくものはもちろん、外的事情に基づく場合も包含する。例えば、議会が- 32 - 普通地方公共団体の長の提出に係る議案を議会において議決すべきではないとしてそのまま返付する等積極的に議決しない旨の意思を表明したとき、会期の定めがあるにもかかわらずいたずらに当該会期を空費し、あるいは会期を定めずして故意に議事を遷延し、法定の期間又は相当の期間内に議決を得ることが する等積極的に議決しない旨の意思を表明したとき、会期の定めがあるにもかかわらずいたずらに当該会期を空費し、あるいは会期を定めずして故意に議事を遷延し、法定の期間又は相当の期間内に議決を得ることができないとき等」としているものであって、その規範を当てはめたとしても、本件専決処分が地自法179条1項本文の要件を満たすものということはできず、被告が指摘する他の文献についても、本件専決処分が適法であることを根拠付けるものということはできない。そうすると、これらはいずれも本件専決処分が地自法179条1項本文の要件を満たすことについて相当の根拠となるものとはいえないから、被告の主張は採用することができない。 本件利用不可処分について本件利用不可処分がされた当時、地自法179条1項本文の要件を充足しない違法な専決処分によって制定された条例が無効になるとの見解が一般的であったとまで認めるに足りる証拠はなく、また、本件否決によっても本件専決処分の違法は治癒されないとして公務を遂行することに相当の根拠があったことをうかがわせる証拠もない。また、証拠(甲7)によれば、本件募集廃止条例は、令和4年9月29日条例第〇号と条例番号が付されてα市例規類集に現に掲載されていたことが認められ、形式的には有効に成立した通用力を有するものとして存在していたことは否定し難い。以上に加え、現市長がその選挙公約に従って自ら本件募集再開条例の制定を提案したものの、これが市議会によって否決された(本件否決)こと、上記審議においては現市長側も各議員も本件募集廃止条例が有効であるとの認識を前提に議論を行っていたこと(前記3⑵イ)をも踏まえると、現市長が本件利用申請に対し、本件募集廃止条例を有効なものとしてこれを適用せざるを得ないものと判断したことにも- 33 - 効であるとの認識を前提に議論を行っていたこと(前記3⑵イ)をも踏まえると、現市長が本件利用申請に対し、本件募集廃止条例を有効なものとしてこれを適用せざるを得ないものと判断したことにも- 33 - 相応の根拠があったというべきであり、現市長が本件保育園の募集定員が存在しないとして本件利用不可処分をしたことには無理からぬ面があったといわざるを得ない。そうすると、現市長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件利用不可処分をした事情は認められないというべきであるから、現市長が本件利用申請を拒絶したこと(本件利用不可処分)について国家賠償法上の違法及び過失を認めることはできない。 ⑵ 原告の損害の有無及び損害額について証拠(甲9、23、37、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、児童1が入園し、肩書住所地からも近い本件保育園に愛着を持ち、児童2をも同様に本件保育園に入園させ、その上で、10年以上勤務していた職場であるβ市内のスーパーマーケットに復職をする強い希望を有していたにもかかわらず、違法な本件専決処分がされ、本件利用申請に対して本件募集廃止条例が適用されたことによって、児童2をそのきょうだいと共に本件保育園に通園させて原告が復職をするという希望が絶たれ、これに対する憤りや悲しみにより心を痛めたものと認められ、これは本件専決処分と相当因果関係にある損害といえる(前記イにおける検討に照らすと、本件利用不可処分それ自体は本件募集廃止条例が形式的に有効なものとして存在していたことの必然的な帰結であるともいえ、上記のとおり原告に生じた損害の結果について被告が国家賠償法1条1項に基づいて負う責任は、前市長の過失に基づく違法な本件専決処分に起因するものと解すべきこととなる。)。そして、原告の上記のような精神的苦痛 おり原告に生じた損害の結果について被告が国家賠償法1条1項に基づいて負う責任は、前市長の過失に基づく違法な本件専決処分に起因するものと解すべきこととなる。)。そして、原告の上記のような精神的苦痛を慰謝する額としては、本件に現れた一切の事情を考慮すると、10万円と認めるのが相当である。 被告は、原告の本件保育園への入園の希望は事実上のものにすぎないこと、原告の自宅付近には複数の保育施設等があること、児童1を転園申請すればきょうだいが同一の保育施設等に入所できる可能性があること、原告の勤務- 34 - してきた職場の勤務形態の適切な設定ないし夫の勤務する会社の育休制度等の利用により原告が復職することは可能であることなどから、原告には損害が発生していない旨を主張する。しかしながら、被告の主張はいずれも抽象的な可能性を述べるにとどまるものである上、仮にいずれかの方策が可能となったとしても原告の当初計画していたのと同じ程度に通園や復職が容易であったと認めるに足りる証拠もない一方、原告が児童2に対する関係で本件保育園において保育を受けることを期待し得る法的地位を有していなかったとしても、前記のとおり、原告が児童2を児童1と同じく本件保育園に通園させて復職をするという希望が絶たれて精神的苦痛を被ったことは認められる。そして、仮に本件募集廃止条例がなくても選考の結果として児童2を本件保育園に通わせることができない可能性があった(もっとも、児童1を現に本件保育園に通わせている原告が優先される地位にあったのは前提事実⑶アのとおりであるし、証拠(甲28)によれば、令和4年4月1日の時点で被告区域内の待機児童はほとんどおらず、0歳児保育の定員は70人を超える欠員となっていたことが認められる。)とか、児童2を他の保育施設に通わせるなどして原告が復 )によれば、令和4年4月1日の時点で被告区域内の待機児童はほとんどおらず、0歳児保育の定員は70人を超える欠員となっていたことが認められる。)とか、児童2を他の保育施設に通わせるなどして原告が復職すること自体は可能であったとしても、原告の上記のような苦痛が回避されるものではないから、被告の主張は採用することができない。 第4 結論よって、本件訴えのうち、本件各処分の取消しを求める部分は、いずれも不適法であるからこれをいずれも却下することとし、本件利用不可処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容することとし、国家賠償請求については、10万円及びこれに対する本件専決処分の日である令和4年9月29日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととする。 - 35 - 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官岡田幸人 裁判官都野道紀 裁判官曽我学(別紙省略)

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