令和1(行コ)156 精神保健指定医の指定取消処分の取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和2年2月6日 東京高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92255.txt

判決文本文12,286 文字)

令和2年2月6日判決言渡令和元年(行コ)第156号精神保健指定医の指定取消処分の取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第263号)主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要等 1 本件は,平成24年6月20日,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「法」という。)18条1項の規定に基づき,厚生労働大臣により精神保健指定医(以下「指定医」という。)として指定された被控訴人が,平成28年10月26日,同大臣から,指定医の指定申請時に精神科実務経験証明書類(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則1条1項5号参照)の一部として提出された報告書(いわゆる指定医ケースレポート)のうち1通が被控訴人自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例に関するものとは認められず,不正なケースレポートを作成・提出した被控訴人は指定医として著しく不適当と認められる(法19条の2第2項参照)などとして,同年11月9日をもって上記指定を取り消すとの処分(以下「本件処分」という。)を受けたことを不服として,本件処分は,事実的根拠を欠き,処分行政庁である厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して行われたものであるなどと主張して,控訴人に対し,本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の指摘するケースレポートは被控訴人が自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持ったと評価し得る症例に関するものと認めら れ,指定医の指定申請に当たり不正が行われたとはいえないから,本件処分は,処分要件該当性の有無に係る重要な事実の基礎を欠いた判断に基づき,処分行 りを持ったと評価し得る症例に関するものと認めら れ,指定医の指定申請に当たり不正が行われたとはいえないから,本件処分は,処分要件該当性の有無に係る重要な事実の基礎を欠いた判断に基づき,処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用してされた違法なものであるとしてこれを取り消し,原審の判断を不服とした控訴人が控訴をした。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次項のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,略称は原判決の例による。 3 当審における控訴人の主張指定医制度は患者本人の意思に基づかない入院医療や行動制限など患者の人権に対する重大な制約を伴う医療を行うことを前提としたものであるから,入院や行動制限等の判定を担う指定医が患者の人権にも十分に配慮した医療を行うに必要な資質を備えることは必須の要請であり,当該資質は,指定医として指定される際はもとより,指定後に指定医として患者を診断ないし治療する際にも当然に要求される。そして,指定医の資質に関する判断は,法を所管し,法的側面を含めた精神医療の実情に通じた厚生労働大臣の最もよく行い得るところであるから,指定医としての「職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者」(法18条1項柱書き)という要件の具体的内容及び判断材料の選定並びに要件該当性の判断は,法の趣旨に基づく厚生労働大臣の広範な合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。 厚生労働大臣が定めた審査基準である別紙「指定医事務取扱要領」は,候補者が常時勤務する医療機関に常時勤務する指定医の指導のもとに「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わり」を持ち,原則として 厚生労働大臣が定めた審査基準である別紙「指定医事務取扱要領」は,候補者が常時勤務する医療機関に常時勤務する指定医の指導のもとに「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わり」を持ち,原則として,当該患者の入院から退院までの期間,継続して診療に従事した症例について報告することを求めており(指定医事務取扱要領2のア及びイ),これを具体的に整理すると,①初診時,患者及び家族に対して問診(面接)を行い,その時点に おける臨床症状(精神症状)や現病歴を把握し,検査による身体疾患の除外を行い,病名を診断し,診察結果を患者に説明して,入院させる判断をしたこと,②入院中に,投薬や治療法等の治療計画を立案遂行し,その経過を観察したこと,③退院後に向けた療養指導を経て,患者を退院させる判断をしたことを要し,上記①ないし③の全ての場面において(継続性),申請者自身が患者に直接接して観察・思考し(直接性),自ら判断したこと(主体性)が要求され,これらを充足することによって初めて「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わり」を持ったといえるのであり,このことは,いわゆるチーム診療体制の下で診断又は治療等を行う場合も同様である。 本件症例において,①初診時の問診,臨床症状(精神症状)や現病歴の把握,検査による身体疾患の除外,病名の診断,患者に対する診察結果の説明などの医療行為のうち,各種検査以外の大部分を行ったのはA医師であり,被控訴人が自ら行ったと主張する神経診察も,実際にはB医師ら研修医が行い,被控訴人は,同医師らに対する指導ないし助言という補助的な関与をしたにすぎず,ウェルニッケ脳症など他の疾患との鑑別や頭部MRI検査の実施時期を判断したのが被控訴人であることを裏付ける客観的証拠もないこと,また,被控訴人がしたと主張する確定診断によってもA 与をしたにすぎず,ウェルニッケ脳症など他の疾患との鑑別や頭部MRI検査の実施時期を判断したのが被控訴人であることを裏付ける客観的証拠もないこと,また,被控訴人がしたと主張する確定診断によってもA医師がした入院時診断と診断名が変わらなかったのであるから,被控訴人がしたと主張する診断は,A医師の診断を裏付けたものにすぎないこと,②入院中の治療計画(投薬指示及びその調整,治療面接など)の立案遂行や経過観察はA医師が中心となって行われ,被控訴人が主張するCPK値の上昇への対応や薬剤の変更(セルシン静注・内服12mgからホリゾン内服15mgへ)も,実際に治療に当たったD医師への指導ないし助言という補助的な関与にとどまり,また,被控訴人のいう「動機付け面接」が行われたこと自体が明らかでなく,その主張によっても,入院期間の約3分の1に相当する10日間(平成23年11月1日から同月11日まで)を対象としたものにすぎないこと,③退 院に先立ちアルコール依存症専門医による外来診療への誘導を手配し,退院の判定をしたのもA医師であることなど,初診時,入院中及び療養指導の上での退院の判断などのいずれにおいても被控訴人の関与は補助的,断片的なものにとどまっており,本件症例が被控訴人において「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わり」を持った症例であるとはいえない。 控訴人が主張する被控訴人の「不正」は,補助的,断片的に関わっただけの本件症例を「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」と偽り,本件ケースレポートを作成・提出したことである。申請者であれば,このような行為が指定医制度の趣旨を没却することを当然認識していたはずであるから,悪質性は高く,それ自体で指定医として著しく不適当と評価すべきであり,故意等の主観的要件を検討する必要は 者であれば,このような行為が指定医制度の趣旨を没却することを当然認識していたはずであるから,悪質性は高く,それ自体で指定医として著しく不適当と評価すべきであり,故意等の主観的要件を検討する必要はない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人が本件症例について「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った」といえるかには疑問もあるが,被控訴人の本件症例への関わり等に照らすと,被控訴人が本件症例について自ら担当として十分な関わりを持っていないことが明らかとまではいうことができず,被控訴人が不正にケースレポートを作成・提出したとまではいえないから,結論として,本件処分を取り消すべきものと判断する。以下,その理由を述べる。 2 本件処分に係る処分要件該当性の判断枠組みについては,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1の⑴のア(8頁15行目から9頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 認定事実本件病院精神科病棟における診療体制及び被控訴人の勤務状況等については原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1の⑵のア(10頁21行目から12頁初行まで)に,本件ケースレポートの内容等については同じくエ(14頁21行目から16頁5行目まで)に,各記載のとおり であるから,いずれもこれを引用する。 本件患者の診療経過等(個別に引用する証拠のほか,全体につき乙3)ア入院までの経緯及び入院時診断本件患者は,平成23年3月ころ血液検査で肝機能異常及び電解質異常を指摘され,同月末ころから「外から動物がのぞいている。」,「寄生虫が歯についていて,磨いても取れない」などと幻視・幻覚の兆候を示していたところ,同年10月16日,ふらつき,手足が震える状態となり,翌17日夜,全 末ころから「外から動物がのぞいている。」,「寄生虫が歯についていて,磨いても取れない」などと幻視・幻覚の兆候を示していたところ,同年10月16日,ふらつき,手足が震える状態となり,翌17日夜,全身性けいれんを起こし,同月19日には「自分の悪口の歌が聞こえてくる」,「ほら,そこに宇宙人がいるじゃないか」などと話し,じゅうたんの模様を見て「ありんこだ」と言って興奮する様子が深夜まで続くなどしたため,同月20日,本件病院精神科を外来受診し,直ちに姉を保護者として医療保護入院となった。 入院時診断に当たった指定医のA医師は,本件患者に幻覚妄想,意識変容,発汗,振戦等の症状が認められ,経過からはアルコール離脱せん妄が最も考えられるとして,補液及びビタミンB投与を指示し,全身管理を行うとの治療方針を立て,本件患者本人及び家族に対し,今後診断が変更となる可能性はあるが,現時点ではアルコール離脱せん妄が最も考えられること,認知機能障害の残存,神経障害などの症状が新たに出現する可能性があること,全身管理をする上で安静が保てない場合は拘束など行動制限をすること,肺炎,DVT(深部静脈血栓症)などの危険があることなどを説明した。 イ入院中の治療経過平成23年10月20日の入院当初,本件患者は多動興奮状態にあり,頭部MRI検査の実施が困難なため,C医師の指示を受けた被控訴人がB医師を助手として神経診察を実施し(甲23,34の1,原審被控訴人本人6頁,7頁),その結果を踏まえて,A医師による暫定的診断(ア ルコール離脱せん妄)を確定診断とし,被控訴人がこれを『傷病名情報』に登録した。 同日午前11時ころ,A医師は,本件患者の多動,不穏が顕著であり,その生命に危険が及ぶおそれがあるとして,本件患者の胴,上肢及び下肢の拘束を指示した。同日午 人がこれを『傷病名情報』に登録した。 同日午前11時ころ,A医師は,本件患者の多動,不穏が顕著であり,その生命に危険が及ぶおそれがあるとして,本件患者の胴,上肢及び下肢の拘束を指示した。同日午後1時ころ,本件患者の手指に振戦が出現したため,抗不安作用,抗けいれん作用等を薬効とするセルシン(ジアゼパム製剤)を内服させ,同日午後2時ころから発汗が顕著となり,本件患者は,誰もいない壁に向かって「おい,何とかしろ!」,「お前だよ!」などと叫ぶ状況となった。 翌21日(金曜日)午前11時ころ,本件患者に前日のような怒号はみられないものの,発汗は著明であり,見当識障害,独語,幻視の様相を呈し,同日午後2時ころ,「電話取って!俺が出るから」などと言った後,振戦が強まったため,セルシン(5mg)1アンプルを静注したところ,状態が落ち着き,経過観察とされた。同日,血中のAST値及びALT値はいずれも下がり,肝機能は改善傾向を示したが,CPK(クレアチンフォスフォキナーゼ)値が2252と亢進していたため,D医師は,被控訴人の指示を仰ぎ,DIV(点滴)3本を維持しつつ,同日夕刻から本件患者に投与する薬剤をセルシンからホリゾン(錠)(セルシンと同じくジアセパム製剤)に変更し,用量を12mgから15mgに増量した(1日3回毎食後内服)。なお,毎週金曜日はA医師の外勤の日であり(乙12),D医師は,不在のA医師に代わり,診療チームのもう一人の「指導医」(精神科三,四年目以上の医師)である被控訴人の指示を仰いだものと認められる。 同月22日から24日まで,本件患者の拘束を維持したまま経過観察が続けられたが,著変なく,C医師による病棟長回診を経て,静穏化が見られたとして拘束を解かれ,血液検査の結果も改善方向であったこと から点滴を中止し,ジアゼパ 患者の拘束を維持したまま経過観察が続けられたが,著変なく,C医師による病棟長回診を経て,静穏化が見られたとして拘束を解かれ,血液検査の結果も改善方向であったこと から点滴を中止し,ジアゼパムも病状評価を経て漸減中止とする治療方針が定められた。 本件患者は,平成23年10月25日以降,早期退院を希望し続けたが,患者本人に病識がなく,アルコール依存症及びアルコール離脱に対する理解が得られていないとして,教育的側面も含めて入院継続とされ,当該治療方針が本件患者に説明された。また,同月26日には頭部MRI検査が実施され,年齢(昭和50年▲月▲日生,入院時36歳▲か月)に比し頭頂葉から側頭葉にかけて著しい萎縮があり,脳室周囲に虚血性変化が認められるとの検査結果を得た。 本件患者については,入院当日のほかに,同年10月24日,同月25日,同月26日,同月31日,同年11月1日,同月2日,同月7日,同月8日,同月9日,同月14日に精神療法としての治療面接が実施され,同年10月31日及び同年11月14日を除き,面接を主導した指定医はA医師であった。 なお,被控訴人は,診療録に記載された同年11月8日及び同月11日の治療面接を自ら指導し,診療録に記載のない同月4日及び同月5日にもチームで面接等を実施するなどしたと主張し,この主張に沿う供述をする(甲5,20)。また,面接の実施に当たり,A医師は断酒に向けて本件患者を説得すべきと考えるのに対し,被控訴人は本件患者の節酒への意向に耳を傾け,治療意欲を引き出そうと考えるなど,採用すべき面接手法に関する見解が分かれ(甲24),診療チーム内で意見交換が行われた。 平成23年10月31日のC医師による病棟長回診後にチャート・カンファレンスが実施されて,本件患者をアルコールプログラムに導入する る見解が分かれ(甲24),診療チーム内で意見交換が行われた。 平成23年10月31日のC医師による病棟長回診後にチャート・カンファレンスが実施されて,本件患者をアルコールプログラムに導入するとの治療方針が立てられ(甲34の1・12頁),A医師は,本件病院におけるアルコール依存症専門医であるE医師に依頼をした。同年11 月7日,A医師及びF医師が参加し,本件患者の婚約者の同席を得て,E医師による本件患者のインタビューが実施され,入院に至る経緯を振り返り,アルコール依存症に関する説明が行われ,現在の病態にまで進行すると,節酒ではなく断酒しないと元に戻ってしまうこと,本件病院の外来に通院して飲酒量をチェックする必要があることなどが説明され,同月9日には,A医師から本件患者に対し,入院時と比較し,正常値の7倍あったガンマGTP値並びに正常値の3倍あったGOT値及びGPT値が低下してきていること,アルコール性肝障害から肝硬変になると元には戻らないこと,頭部MRI画像からアルコールによる脳の器質的変化が生じていることが看取され,進行すると神経障害や歩行障害が生ずることなどが説明されたが,本件患者は断酒の意向を示さなかった。 それでも,節酒の意思表明がみられたため,同月11日,D医師による退院後の治療方針の説明(IC)が実施され,同月14日の病棟長回診及びチャート・カンファレンスを経て,同月15日,本件患者は,同月30日の外来受診を約束して退院した。 4 判断⑴ 法18条は,精神科医療においては患者本人の意思によらない入院治療や身体拘束など一定の行動制限を伴う医療を選択せざるを得ない場合があり,法19条の4に規定する入院や行動制限の判定等の職務を行う医師を一定の医療従事経験及び患者の人権にも十分に配慮した医療を行うのに必要な資質 ど一定の行動制限を伴う医療を選択せざるを得ない場合があり,法19条の4に規定する入院や行動制限の判定等の職務を行う医師を一定の医療従事経験及び患者の人権にも十分に配慮した医療を行うのに必要な資質を備えた医師に限ることとして,その資格要件を定め(18条1項),更に厚生労働省設置法6条1項の規定に基づき設置された医道審議会の意見を聴いた上で(法18条3項),医療等に関する事務を所管する厚生労働大臣において,上記の職務を行う医師を指定することとしている。そして,法18条1項3号所定の資格要件(厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療等に従事した経験を有すること)については, 指定医告示により,精神科実務経験の対象とすべき6種の精神障害を定め,①そのいずれかについて,措置入院者又は医療観察法入院対象者につき1例以上,②統合失調症圏については,措置入院者,医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき2例以上,③その他の精神障害については,それぞれ措置入院者,医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき1例以上の診断又は治療等に従事した経験が要求され,指定医事務取扱要領において,医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会における審査に供するため指定医の指定申請時に提出するケースレポートの記載要領等が定められ,ケースレポートは,申請者が精神病床を有する医療機関に常時勤務し,同医療機関に常時勤務する指定医(指導医)の指導のもとに申請者が「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」について報告するものとされている。 また,指定事務取扱要領が定めたケースレポートの様式には,「主治医あるいは担当医になった時の患者の年齢」及び「主治医あるいは担当医になった期間」の記載欄があるほか,医道審議会医 されている。 また,指定事務取扱要領が定めたケースレポートの様式には,「主治医あるいは担当医になった時の患者の年齢」及び「主治医あるいは担当医になった期間」の記載欄があるほか,医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会がとりまとめた「指定ケースレポートの評価基準」においても,「担当医または主治医としての,診断または治療への関わりは十分であるか」は非常に重要なものとして同部会における評価基準の一つとされている。 ⑵ 被控訴人は,法定の手続を経て,平成24年6月20日,法18条1項の規定により指定医として指定されており,本件処分は,指定申請時における審査対象とされていない診療録その他本件病院から提出された書類の内容を勘案した結果,被控訴人が指定医の指定申請時に提出したケースレポートのうち1通(本件ケースレポート)が被控訴人において「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」に関する報告ではないことが発覚し,このように不正なケースレポートを作成・提出して指定医の指定申請をした被控訴人は「指定医として著しく不適当」(法19条の2第2項)と認め られるとして,被控訴人を指定医として指定してから4年4か月余を経過した平成28年10月26日に至ってから,その指定を取り消したものである。 ⑶ 控訴人は,指定医の指定申請者であれば,自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを有していなかった症例に関するケースレポートを作成・提出することが指定医制度の趣旨を没却することを当然認識していたはずであるから,自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例に該当しない本件症例のケースレポートを作成・提出した被控訴人の悪質性は高く,これをもって直ちに指定医として著しく不適当と評価すべきであり,故意等の主観的要件の充足を 療等に十分な関わりを持った症例に該当しない本件症例のケースレポートを作成・提出した被控訴人の悪質性は高く,これをもって直ちに指定医として著しく不適当と評価すべきであり,故意等の主観的要件の充足を必要としないなどと主張する。 しかしながら,控訴人が主張する本件処分における指定取消原因は,被控訴人が指定医の指定申請の際に不正行為をしたことであり,被控訴人の行為が「不正」といえるか,また,指定医として「著しく不適当」といえるかは,いずれも規範的な評価を要するところであって,指定医の指定制度の趣旨等に鑑みると,指定医の申請者が,当該症例に関する診断又は治療の実績等を踏まえ,「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」に該当すると考えて行った指定医の申請について,後にそれが十分な関わりを持った症例とは認められず,上記要件を充足していないとして指定医の指定を受けられなかったとしても,同申請行為をもって不正な行為ということはできないものと解されるから,指定医の申請時における被控訴人による本件ケースレポートの作成・提出をもって,指定医として「著しく不適当」というためには,被控訴人が,本件ケースレポートが指定医事務取扱要領所定の要件を充足したケースレポートに当たらないこと,すなわち,本件患者の診断及び治療が「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」ではないことが明らかであるにもかかわらず,あえて本件ケースレポートを作成し,提出したことを要するものというべきである。 ⑷ しかるに,指定医事務取扱要領がケースレポートの対象とすることを求め る症例は,①指導医の指導のもとに申請者が自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例であること,②少なくとも1週間に4日以上,当該患者の診療に従事したこと,③原則とし とを求め る症例は,①指導医の指導のもとに申請者が自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例であること,②少なくとも1週間に4日以上,当該患者の診療に従事したこと,③原則として,当該患者の入院から退院までの期間,継続して診療に従事した症例とされるにとどまり(同要領2の),このうち「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」という要件は抽象的であって,指定医事務取扱要領の「別紙1」として添付された「指定医ケースレポートの評価基準」等を含め,その内容を子細に検討しても,控訴人が上記要件の具体的内容と主張する,初診時,入院中及び退院時の全過程における継続性,直接性及び主体性(①初診時,患者及び家族に対して問診(面接)を行い,その時点における臨床症状(精神症状)や現病歴を把握し,検査による身体疾患の除外を行い,病名を診断し,診察結果を患者に説明して,入院させる判断をしたこと,②入院中に,投薬や治療法等の治療計画を立案遂行し,その経過を観察したこと,③退院後に向けた療養指導を経て,患者を退院させる判断をしたことを要し,上記①ないし③の全ての場面において,申請者自身が患者に直接接して観察・思考し,自ら判断したこととされる。当審における控訴人の主張参照)が要求されていることを直ちに読み取るのは困難というべきである。 ⑸ 被控訴人は,指定医事務取扱要領が定める「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」とは,「診断と治療に関して,要領を押さえた診察を行い,患者に対して貢献できた症例」を指すものと考えていた旨を供述し(原審被控訴人本人24頁),被控訴人の指導医であるC医師も,別件訴訟の本人尋問において,「その症例の診断,治療に関する要点を十分理解しているケース」を指すものと考えている旨供述してお た旨を供述し(原審被控訴人本人24頁),被控訴人の指導医であるC医師も,別件訴訟の本人尋問において,「その症例の診断,治療に関する要点を十分理解しているケース」を指すものと考えている旨供述しており(甲34の1),これらの供述が平成24年当時の被控訴人及びC医師の認識と異なることを認めるに足りる証拠はない。加えて,平成28年10月25日付け厚生労働大臣諮問書(厚生労働省発障1025第2号)により,医道審議会医師分科会精 神保健指定医資格審査部会長に宛てて,法19の2第3項の規定に基づき,過去に指定医として指定された者49名及びその指導医としてケースレポートの指導及び証明を行った者40名の指定の取消し又は職務の停止の処分に関する意見が求められ,指定医の指定取消し等の処分を受けた医師による処分取消訴訟が頻発したこと(乙16,18,19,24,25,27ないし30,37,38,弁論の全趣旨)にも照らせば,平成24年当時,ケースレポートの対象症例に関する控訴人の主張が我が国の精神医学界等において広く理解されていたものとは認め難い。 ⑹ そして,認定事実によれば,被控訴人は,本件患者の入院後,MRI検査が実施困難であったために他の疾病との鑑別を目的として実施された神経診察に関与し,精神療法として実施された調査面接においては,本件患者の節酒への意向に耳を傾け,治療意欲を引き出すべきである(被控訴人のいう動機付け面接)と主張して診療チーム内での意見交換を求め,自ら実際に複数回本件患者の面接を行うなど,本件患者の診断を確定し,また,採用すべき精神療法を検討する上で相当程度の貢献をしたことが認められ,これをもって,本件患者の診断及び治療が自ら「要領を押さえた診察を行い,患者に対して貢献できた」と考え,本件症例が「自ら担当として診断又は治療等 療法を検討する上で相当程度の貢献をしたことが認められ,これをもって,本件患者の診断及び治療が自ら「要領を押さえた診察を行い,患者に対して貢献できた」と考え,本件症例が「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」といえると考えたとしてもあながち不自然不合理ではない。 したがって,本件ケースレポートには,被控訴人が本件患者の主治医である,アルコール離脱せん妄の疑診を得るに先立ちMRI検査を実施したなどと実際の診療経緯とやや異なる記載があること,全体として,各種診断や診療録への記載,患者本人や家族への説明等を被控訴人自身が行ったかのような誤解を与える記述となっていることなど,本件ケースレポートの正確さや記述の誠実さについては疑問があるものの,本件症例は,被控訴人が参加するチーム診療の下で診断又は治療等が行われたものであり,チーム診療にお ける主治医あるいは担当医という概念は多義的で明確でなく,被控訴人においても相当程度本件患者の診療に関与していたことなどからすると,被控訴人が,本件症例は「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」ではないことが明らかであるにもかかわらず,あえて本件ケースレポートを作成し,提出したとまで認めるには足りない。 ⑺ 以上認定判断したところによれば,認定事実記載の診断及び治療等の経過を客観的かつ後方視的にみた場合,控訴人の主張する「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」の要件に関する前記内容等との関係では,本件症例を被控訴人において「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」とすることに疑問があるとはいえ,被控訴人の本件症例への前記関わり等に照らすと,本件症例について被控訴人が自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持っていないことが明ら 分な関わりを持った症例」とすることに疑問があるとはいえ,被控訴人の本件症例への前記関わり等に照らすと,本件症例について被控訴人が自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持っていないことが明らかとはいえないから,被控訴人が,指定医の指定申請をするに当たり,不正な行為をしたとまではいえず,他に,被控訴人が指定医として求められる資質を欠き,このまま指定を維持することが著しく不適当であると認めるに足りる証拠はない。 そうすると,いわゆる指定医の資格の不正取得が発覚して社会問題化し,厚生労働大臣の医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会長に対する前記諮問がされ,その後の再審査を経て本件処分が行われたことを踏まえても,被控訴人を指定医として指定してから4年4か月余を経過してから,被控訴人がその職務に関し著しく不適当な行為を行ったなどの事情がないにもかかわらず,指定申請時における被控訴人の行為を問題とし,そのことのみをもって指定医として著しく不適当と認められるとして行われた本件処分は,指定医の指定の取消しに関する厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱又は濫用し,法19条の2第2項の規定に反した違法なものというべく,取消しを免れない。 第4 結論よって,原判決は,結論において相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第24民事部 裁判長裁判官村田渉 裁判官一木文智 裁判官建石直子 申し訳ありませんが、テキストが不完全なため、整形を行うことができません。完全なテキストを提供していただければ、整形を行います。

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る