平成25(ワ)953 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年9月9日 千葉地方裁判所
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判決文本文39,502 文字)

平成25年(ワ)第953号損害賠償請求事件平成27年9月9日千葉地方裁判所民事第1部判決口頭弁論終結日平成27年5月13日 主文 1 被告は,原告ら各自に対し,22万円及びこれに対する平成24年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを30分し,その13を原告Aの,その13を同Bの,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,被告に送達された日から14日を経過したときは,第1項に限り仮に執行することができる。 ただし,被告が,各原告につき18万円の担保を供するときは,当該原告の仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告は,原告ら各自に対し,165万円及びこれに対する平成24年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,公判前整理手続が進行中の刑事被告事件において,検察官が,勾留中の被告人から,弁護人らとの間の接見の内容にわたる記載を含むノート,弁護人ら宛ての信書の草稿その他の被告人作成文書の任意提出を受けた行為について,弁護人ら2名が,弁護人に固有の秘密交通権を侵害する違法な行為に当たると主張して,国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,弁護人1名につき損害賠償金165万円(慰謝料150万円,弁護士費用15万円)及びこれに 対する上記任意提出の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実次の事実は,当事者間に争いがなく,又は後掲証拠若しくは弁論の全趣旨から明らかである(以下,書証の摘示は,特に明示しない限り,当該書証の枝番号を含む。)。 ア原告A及び原告Bは,いずれも,千葉県弁護士会所属の弁護士で 争いがなく,又は後掲証拠若しくは弁論の全趣旨から明らかである(以下,書証の摘示は,特に明示しない限り,当該書証の枝番号を含む。)。 ア原告A及び原告Bは,いずれも,千葉県弁護士会所属の弁護士であり,C及びDに係る保護責任者遺棄致死傷被告事件(以下「本件刑事事件」という。)において,Cの国選弁護人であった。 イ E(以下「E検事」という。)は,検事であり,平成24年5月当時,千葉地方検察庁に所属し,本件刑事事件の公判を担当していた。 本件刑事事件の起訴に至る経過のうち,主としてCに関する部分の大要は,次のとおりである。 ア Cは,保護責任者遺棄致死被疑事件について,平成23年8月9日に逮捕され,同月11日に勾留されて,同月12日には原告Aが,同年9月7日には同Bが,それぞれ国選弁護人に選任され,同年8月30日,夫であるDとともに起訴された(千葉地方裁判所,事件番号省略)。公訴事実の要旨は,C及びDは,夫婦として千葉県柏市内の共同住宅に居住し,同所において長男を養育していたものであるが,同児に十分な栄養を与えずにその発育が遅れ,低体重であったところ,同児が平成23年4月頃から栄養失調により衰弱し始めたのであるから,同児に適切な医療措置を受けさせる責任があったにもかかわらず,共謀の上,その頃以降,同児に適切な医療措置を受けさせず,よって,同年5月26日午後5時46分頃,同市内の病院において,同児を低栄養に起因する飢餓により死亡させたというものであった。 イ Cは,上記アとは別の保護責任者遺棄致傷罪で,平成23年11月4日, Dとともに追起訴された。追起訴に係る事件は,上記アの事件と弁論が併合され,原告らの弁護権は追起訴に係る事件に及ぶこととなった。追起訴に係る公訴事実の要旨は,C及びDは,夫婦として千葉県柏市内の共同住宅に に追起訴された。追起訴に係る事件は,上記アの事件と弁論が併合され,原告らの弁護権は追起訴に係る事件に及ぶこととなった。追起訴に係る公訴事実の要旨は,C及びDは,夫婦として千葉県柏市内の共同住宅に居住し,同所において二女を養育していたものであるが,同児に十分な栄養を与えずにその発育が遅れ,低体重であったところ,同児が平成23年4月頃から栄養失調により衰弱して食事がほとんどできなくなり,食べた物も未消化で排泄されるなどの状態になったのであるから,同児に適切な医療措置を受けさせる責任があったにもかかわらず,共謀の上,その頃から同年5月25日までの間,同児に適切な医療措置を受けさせず,よって,同児に入院加療36日間を要する栄養失調に陥らせたというものであった。 E検事は,平成24年4月,千葉地方検察庁に配置換えとなり,公判部所属となって,本件刑事事件の公判を担当することとなった。 E検事は,平成24年5月1日,Cの勾留されている千葉刑務所において,Cに対し,刑務所内において所持している文書等を任意に提出するよう求め,ノート3冊,封書3通及び便せん42枚の任意提出を受けて,検察事務官に指示してこれらを領置した。(以下,この任意提出を「本件任意提出」と,E検事の上記行為のうち,Cに対して本件任意提出を求める部分を「本件任意提出を求める行為」と,Cから本件任意提出を受けた部分を「本件任意提出を受ける行為」と,それぞれいうほか,本件任意提出に係るノート,封書及び便せんを,それぞれ「本件ノート」,「本件封書」及び「本件便せん」といい,これらを併せて「本件任意提出物」という。)本件便せんには,Cから原告B宛ての信書の草稿等(草稿,書きかけ又は書き損じの便せんをいう。以下同じ。)が含まれていた。その内容は,大要別紙2記載のとおりである。 本件任意提出物」という。)本件便せんには,Cから原告B宛ての信書の草稿等(草稿,書きかけ又は書き損じの便せんをいう。以下同じ。)が含まれていた。その内容は,大要別紙2記載のとおりである。 本件ノートは,Cが身柄拘束中の日記として用いていたものであり,これ には,大要別紙3記載のとおり,Cと原告らとの間の接見の内容にわたる記載が含まれていた。 なお,本件封書3通のうち,1通は平成24年3月15日の消印で,中にはDからC宛ての信書があり,1通は同月28日の消印で,中にはDからC宛ての信書があり,1通は未発信で,中にはCからD宛ての信書があった。 2 争点本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法性の有無E検事の故意又は過失の有無原告らの損害額 3 争点に関する当事者の主張 争点 (本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法性の有無)について(原告らの主張)E検事のCに対する本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為は,以下のとおり,国家賠償法上違法である。 ア接見交通権の秘密性秘密性は,接見交通権の本質的な構成要素である。すなわち,もし捜査機関が接見内容を知り得るのであれば,被疑者又は被告人(以下,単に「被疑者等」という。)と弁護人との間には,これを慮って自由な情報伝達が差し控えられるという萎縮的効果が生じるから,被疑者等が弁護人から有効かつ適切な援助を受けるためには,捜査機関にその内容を知られることなく,相互に自由かつ十分な意思疎通,情報提供及び法的助言等(以下,単に「意思疎通等」という。)が行われる必要があるのであって,接見交通権の秘密性は,その権利の性質自体から当然に導かれる性質である。そして,秘密性が接見交通権の本質的な構成要素であることは (以下,単に「意思疎通等」という。)が行われる必要があるのであって,接見交通権の秘密性は,その権利の性質自体から当然に導かれる性質である。そして,秘密性が接見交通権の本質的な構成要素であることは,刑訴法39条1項の「立会人なくして」という文言に端的に 表現されている。 また,接見交通権の秘密性の保障は,黙秘権の保障からも要請される。 すなわち,被疑者等は,接見の場において,弁護人に対し,自身に不利益な内容であるか否かに関わりなく自由に供述をすることができるが,仮に,捜査機関が被疑者等の接見時の供述内容を知り得るのであれば,被疑者等は接見時においても黙秘権行使の問題に直面せざるを得なくなる。そうであれば,捜査機関が接見内容を知ることは,黙秘権の保障との関係で法が予定していないことであり,また,被疑者等の黙秘権を侵害するものである。立法当時の記録からは,立法者も同様の理解に立っていたことが裏付けられている。 さらに,接見交通権の秘密性の保障は,当事者主義からも要請される。 すなわち,現行刑訴法の基礎にある当事者主義を実質化するのは,当事者間における武器対等であるが,一方当事者である捜査機関が接見内容を知り得るとすれば,反対当事者の手の内を知ることが可能となり,当事者間の武器対等は損なわれ,当事者主義は画餅に帰する。 したがって,秘密性は,接見交通権の本質的構成要素であるとともに,憲法や刑訴法の諸原則からも当然に要請されるものである。 接見交通権の秘密性は,捜査機関との関係において絶対的に保障され,これに対する制約は一切許されない。 すなわち,上記のとおり,秘密性は接見交通権の本質的構成要素であること,秘密性が制約されることにより被疑者等と弁護人とが自由な意思疎通等をなしえなくなるという萎縮的効果が生じること,秘密性に対する制約 わち,上記のとおり,秘密性は接見交通権の本質的構成要素であること,秘密性が制約されることにより被疑者等と弁護人とが自由な意思疎通等をなしえなくなるという萎縮的効果が生じること,秘密性に対する制約を認めることは憲法及び刑訴法の諸原則を歪めることにもなることに加えて,接見内容の秘密性は,一度侵害されると回復することが不可能であることからすれば,接見内容の秘密性は,捜査機関との関係において絶対的に保障されなければならない。 また,接見交通権は憲法に由来する重要な権利であり,秘密性の保障はその本質的構成要素であるところ,このような重要な事項を制約するのであれば,法律の規定によるべきであり,法律の規定によらない制約を許容することはできない。ところが,現行法上,接見内容の秘密性を捜査機関との関係において制約することを許容する条文は一切存在せず,このことは接見内容の秘密性が捜査機関との関係において制約される場面を現行法が想定していないことを端的に示している。 これに対し,被告は,最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁(以下「最高裁平成11年判決」という。)の判示を根拠に,接見交通権の秘密性の保障も捜査権ないし刑罰権と合理的な調整が必要である旨を主張する。しかしながら,最高裁平成11年判決においては,接見をしたい弁護人と取調べをしたい捜査機関との間で一つしかない被疑者の身体を巡って利用が競合する場面,すなわち接見交通権の「行使」と捜査権の「行使」との調整が必要となる場面が問題とされたのに対し,接見交通権の秘密性が問題となる場面においては,利用の競合が生じ,個別の調整が必要となることはないから,最高裁平成11年判決の射程は接見交通権の秘密性が問題となる場面に及ばない。 秘密性を本質的構成要素 の秘密性が問題となる場面においては,利用の競合が生じ,個別の調整が必要となることはないから,最高裁平成11年判決の射程は接見交通権の秘密性が問題となる場面に及ばない。 秘密性を本質的構成要素とする接見交通権は,弁護人の固有権として保障されるから,その秘密性を被疑者等が一方的に放棄することはできない。 以上のとおり,接見交通権の秘密性に対する制約は一切許されず,被疑者等がこれを放棄することはできない。 イ検察官の注意義務の内容,程度国家賠償法1条1項の違法性は,各公務員の職責,職質,特にその公権力の行使による国民に対する権利侵害の性質,程度等を勘案し,職務上通 常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かにより判断される。 検察官は,憲法尊重擁護義務(憲法99条),法律上の義務,職責(検察庁法4条),資格(同法18条1項)及び刑事裁判における一方当事者としての地位に照らし,法律の専門家として,高度の注意義務を負っている。 そして,接見交通権の秘密性は,弁護人依頼権(憲法34条前段)の保障を実質化すべく認められた権利であり,憲法上の保障に由来する重要な権利である。 このような検察官の職責,職質及び接見交通権の秘密性の性質に照らすと,検察官は,接見交通権の秘密性を絶対に侵害することのないよう配慮すべき高度の注意義務を負っている。 ウ本件任意提出を求める行為の違法性以下のとおり,接見交通権の秘密性の保障は,Cが留置場内において所持するあらゆる文書に及ぶから,E検事が,Cに対し,留置場内において所持する文書の提出を求めた行為は,違法である。 a 被疑者等が留置場内において所持する文書等には,被疑者等と弁護人との間のコミュニケーションの内容に関わる事項が記されることがある。すなわち,被疑者等は,これらの文書等に直接的に弁 違法である。 a 被疑者等が留置場内において所持する文書等には,被疑者等と弁護人との間のコミュニケーションの内容に関わる事項が記されることがある。すなわち,被疑者等は,これらの文書等に直接的に弁護人との間のコミュニケーションの内容を記載していることがあるが,それにとどまらず,これらの文書等を,例えば,接見の場面において,弁護人に提示し,あるいは自身の記憶喚起の道具として利用等するのであって,このことによって,被疑者等と弁護人との間で円滑なコミュニケーションが図られる。したがって,被疑者等と弁護人との間のコミュニケーションの秘密性を確保するためには,被疑者等が留置場内において所持する文書等の秘密性が保障される必要がある。 b これらの文書等の秘密性の保障は,身柄拘束を受けた被疑者等が留 置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶ。 すなわち,被疑者等が留置場内において所持する文書等の大半は,通常,被疑者等が逮捕勾留後に留置場内において作成したものか,又は逮捕勾留後に弁護人,家族及び知人等から郵送あるいは差し入れを受けたものである。このうち,被疑者等が日常の様子や考えをつづった日記には,弁護人との間の接見のみならず,刑事手続に関する事柄や社会復帰に向けた事柄等,直接ないし間接に防御に関わる事柄が記載されていることが予想される。また,被疑者等が外部に発信する手紙のうち,弁護人に向けて発信するものは,直接的に弁護人との間のコミュニケーションに関わるし,弁護人以外の者に向けて発信する手紙であっても,反省の情や社会復帰後の環境調整に関するものなど,ほぼ全てのものが防御に関係する。被疑者等が逮捕後に郵送等を受けた文書等についても,弁護人から郵送等を受けた文書等は,直接的に弁護人との間のコミュニケーションに関わるし,弁護人以外の者から郵 ど,ほぼ全てのものが防御に関係する。被疑者等が逮捕後に郵送等を受けた文書等についても,弁護人から郵送等を受けた文書等は,直接的に弁護人との間のコミュニケーションに関わるし,弁護人以外の者から郵送等を受けた文書等も,直接間接を問わず防御に関係する。したがって,被疑者等が留置場内において所持する文書等は,その全てが防御に関係し,そうである以上,その内容は弁護人との間のコミュニケーションに関わるから,接見交通権の秘密性の保障は,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶと解される。 そして,前記のとおり,接見交通権の秘密性は絶対的に保障されるから,捜査機関は,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等にアクセスすることを禁止される。 c 接見交通権の秘密性は,これを放棄することが一切許されないものではないが,その重要性に鑑みると,弁護人の関与なしにこれを放棄することについては慎重な考慮が必要である。 すなわち,逮捕勾留された被疑者等が真に自発的又は任意に接見交 通権の秘密性を放棄した事実を担保する手段は存在しない上に,現実問題としても,逮捕勾留された被疑者等は,肉体的にも精神的にも外部と隔絶され,孤立感を深める状況にあるから,そのような被疑者等が,弁護人が介在しないうちに,全くの自由意思によって,接見交通権の秘密性という重要な権利の放棄に関する判断を行うことは,困難である。 また,被疑者等と弁護人との間のコミュニケーションの秘密性は,一たび被疑者等が独断で放棄すれば,回復することが不可能である。 そうすると,接見交通権の秘密性の放棄に当たっては,法律の専門家である弁護人の判断を介在させることが必要不可欠であって,被疑者等が,弁護人が介在しないうちに,単独で接見交通権の秘密性を放棄することはできない。前記のと 権の秘密性の放棄に当たっては,法律の専門家である弁護人の判断を介在させることが必要不可欠であって,被疑者等が,弁護人が介在しないうちに,単独で接見交通権の秘密性を放棄することはできない。前記のとおり接見交通権の秘密性が弁護人の固有権として保障される意義は,この点にある。 したがって,捜査機関は,事前に弁護人が了解していない限り,被疑者等に対し,留置場内において所持する文書等の提出を求めてはならない。 d 接見交通権の秘密性の保障に関し,前記のとおり解釈したとしても,以下のとおり,捜査機関に不都合はない。 第一に,前記のとおり,被疑者等が留置場内において所持する文書等は,そのほとんどが,被疑者等が逮捕勾留後に留置場内において作成したものか,逮捕勾留後に弁護人,家族及び知人等から郵送あるいは差し入れを受けたものであって,被疑事実ないし公訴事実の発生時よりも後に作成された文書等が大半を占めており,事件自体と直接の関連性がないか又は低いものがほとんどである上に,被告人の場合には,既に捜査期間は終了し,公判請求により被告人たる地位が付与され,当事者的地位が尊重される場面でもあるから,これらの文書等に 対するアクセスが禁じられたとしても,捜査機関に特段の不利益はない。 第二に,被疑者等が自宅において所持する文書等については,弁護人との間のコミュニケーションに関わる文書等でない限り,接見交通権の秘密性の保障は及ばないところ,捜査機関がこれらの文書等にアクセスすることは,何ら禁止されていない。 第三に,捜査機関が,被疑者等が留置場内において所持する文書等の内容を知る必要があると考えたのであれば,その旨を弁護人に説明した上で,その了解を取り付ければよい。 e 以上のとおり,本件において,E検事は,Cの弁護人である原告らの了解を得ること する文書等の内容を知る必要があると考えたのであれば,その旨を弁護人に説明した上で,その了解を取り付ければよい。 e 以上のとおり,本件において,E検事は,Cの弁護人である原告らの了解を得ることなく,Cに対し,留置場内において所持する文書等の提出を求めてはならない義務を負っていた。 したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任意提出を求める行為は,違法である。 仮に,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等に接見交通権の秘密性の保障が及ぶものではないとしても,以下のとおり,接見交通権の秘密性の保障は,本件任意提出物の全てに対して及ぶから,本件任意提出を求める行為は違法である。 a 仮に,被疑者等が留置場内において所持するあらゆる文書等に接見交通権の秘密性の保障が及ぶものではないとしても,接見交通権の秘密性の保障が及ぶ文書等の範囲については,当該文書等の性質毎に個別に決する必要がある。 そして,本件ノート,本件便せん及び本件封書のいずれについても,接見交通権の秘密性の保障が及ぶことは,以下のとおりである。 本件ノート本件ノートは,勾留期間中の日記として用いられていたところ, そのことは,本件ノートをぱらぱらめくるだけで容易に判断することができ,E検事も,本件ノートをぱらぱら見たことを認めるとともに,日記であったことにも気付いていたと思う旨を証言している。日記には,その者が経験した日々の出来事が記されるところ,勾留中の者にとって,接見等の弁護人とのやり取りは,日々起こる出来事の一つであるから,勾留中の被疑者等の日記には,接見時に話し合った内容等の弁護人とのやり取りが記されることが想定される。また,日記には,弁護人との接見の結果考えたことや,弁護人に質問したいことなど,弁護人との間のコミュニケ 疑者等の日記には,接見時に話し合った内容等の弁護人とのやり取りが記されることが想定される。また,日記には,弁護人との接見の結果考えたことや,弁護人に質問したいことなど,弁護人との間のコミュニケーションにまつわる多種多様な事柄が記されることが想定され,そのほかにも,共犯者との関係や社会復帰に向けた考え等,弁護人との間のコミュニケーションと密接不可分である防御に関係する事柄が多く記される。したがって,勾留中のCの日記である本件ノートには,原告らとのやり取りに関する事項が多々記載されている可能性が客観的に高い状況にあったものであり,現に,原告らとのやり取りの内容や防御に関する内容が記されていたから,本件ノートには接見交通権の秘密性の保障が及ぶ。 本件便せん被疑者等が弁護人に手紙を書くことは,一般的によく行われているから,Cが所持していた便せんに何らかの事項が記載されていれば,それが今後Cが原告らに送る手紙の草稿等である可能性は,客観的に高いものといえ,現に,Cが所持していた本件便せんの中には,弁護人である原告らに送る手紙の草稿等が含まれていた。また,直接弁護人宛てに発送を予定する便せんでないとしても,Cの心情など,弁護人との間のコミュニケーションと密接不可分である防御に関係する事柄が記されている。したがって, 本件便せんには接見交通権の秘密性の保障が及ぶ。 本件封書本件封書は,Dから送られた手紙であるが,通常,Dから送られた手紙にCと原告らとの間のコミュニケーションの内容が記されることはない。しかしながら,CがDから送られた手紙を原告らに示して防御方針について協議することは,十分に想定されることであり,実際に,離婚するか否かなど,Dとの関係をどうするかは,防御に関わる事柄であるから,Dからの手紙も,間接的に原告ら 手紙を原告らに示して防御方針について協議することは,十分に想定されることであり,実際に,離婚するか否かなど,Dとの関係をどうするかは,防御に関わる事柄であるから,Dからの手紙も,間接的に原告らとの間のコミュニケーションに関わるものとして,接見交通権の秘密性の保障が及ぶ。 b 以上のとおり,本件において,E検事は,Cの弁護人である原告らの了解を得ることなく,Cに対し,本件ノート,本件便せん及び本件封書の提出を求めてはならない義務を負っていた。 したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任意提出を求める行為は,違法である。 エ本件任意提出を受ける行為の違法性E検事が本件ノート,本件便せん及び本件封書を受領する行為は,E検事がCと原告らとの間のやり取りをいつでも知ることができる状況が生じるという意味で,原告らの接見交通権の秘密性を侵害する行為である。 また,本件ノート,本件便せん及び本件封書の受領後には当然これらを複写することが予定されているところ,複写物を廃棄することができないのであれば,接見交通権の秘密性が侵害された違法な状況は永続し,固定化されることとなる。 前記ウのとおり,本件ノート,本件便せん及び本件封書のいずれについても,接見交通権の秘密性の保障が及ぶから,E検事は,Cの弁護 人である原告らの了解を得ることなく,Cから本件ノート,本件便せん及び本件封書を受領してはならない義務を負っていた。 したがって,E検事が,原告らの了解を得ることなく行った本件任意提出を受ける行為は,違法である。 オ比較衡量説に対する反論被告は,捜査機関による接見交通権の秘密性の制限の違法性の有無は,当該捜査の目的の正当性,当該捜査の必要性,当該捜査の態様等諸般の事情を考慮して決せられる旨を主張する。 し 衡量説に対する反論被告は,捜査機関による接見交通権の秘密性の制限の違法性の有無は,当該捜査の目的の正当性,当該捜査の必要性,当該捜査の態様等諸般の事情を考慮して決せられる旨を主張する。 しかしながら,前記のとおり,接見交通権の秘密性は絶対的に保障される権利であるから,捜査の必要性を理由とする制限は許されない。現行刑訴法が予定する真相解明は,被疑者等及び弁護人の諸権利が十分に確立され,当事者主義が実質的に機能する中でこそ実現されるものであるから,接見交通権の秘密性の絶対的保障は,むしろ真相解明の観点からも必要不可欠である。 また,被告の主張も,接見交通権の秘密性の保障が原則であり,その制限が例外であることを前提としているが,被告の主張する基準は,捜査の必要性さえあれば接見交通権の秘密性を制限することが許され,例外的に捜査の態様に問題があった場合に限り,当該捜査が違法となるとするものであって,被告の主張には自己矛盾がある。 したがって,捜査の必要性等との比較衡量により接見交通権の秘密性を制限し得るとする被告の主張は,失当である。 仮に,被告の主張する判断基準に立脚したとしても,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為は,以下のとおり,違法である。 a 捜査の目的被告は,捜査の目的について,Dが捜査段階の供述を翻し,Cもこ れに呼応するようにして捜査段階の供述を変遷させていたことから,事案の真相を解明し,本件刑事事件の訴因変更の要否を検討し,あるいはCの捜査段階における検面調書の証拠請求のための疎明資料を収集するためであった旨を主張する。 しかしながら,被告の主張する目的は,CとDとの間のやり取りの内容を知る必要性を示すものにすぎず,Cと原告らとの間のやり取りの内容を知る必要性を示すものではないから,E ためであった旨を主張する。 しかしながら,被告の主張する目的は,CとDとの間のやり取りの内容を知る必要性を示すものにすぎず,Cと原告らとの間のやり取りの内容を知る必要性を示すものではないから,E検事がCと原告らとの間のやり取りを知ることを正当化するものではない。 また,E検事は,原告Aに対し,Cに対する取調べの目的はDの公判のための証人テストである旨を告げていたこと,E検事自身が,Cとの関係での訴因変更を視野に入れていなかった旨を証言していること,検察官は平成24年3月の公判前整理手続期日において訴因変更を考えていない旨を述べていることからすれば,E検事が被告の主張する目的を有していたとは考えられない。 b 捜査の必要性被告は,Cが供述を変遷させた理由を鮮明にするため,Cから手紙や日記等を押収する必要性が認められると主張する。 しかしながら,前記のとおり,被告の主張する必要性は,CとDとの間のやり取りの内容を知る必要性にすぎず,Cと原告らとの間のやり取りの内容を知る必要性ではないから,E検事がCと原告らとの間のやり取りを知ることを正当化するものではない。 また,前記のとおり,被告の主張する捜査の目的の存在自体が疑わしい以上,それに伴う捜査の必要性についても疑わしい。 c 捜査の態様被告は,①外見上明らかにCと原告らとの間の通信と判断できるものは,内容を読むことなくCに返還していること,②その際に,原告 らとの接見内容が分かる書類について任意提出を受けないと説明していること,③その説明は分かりやすいものであったことを挙げ,これらの配慮を尽くしたことをもって,捜査の態様が相当であった旨を主張するものと解される。 しかしながら,①の事実は認められるが,②について,Cは任意提出を受けない旨の話を受けたことはなく,③につい らの配慮を尽くしたことをもって,捜査の態様が相当であった旨を主張するものと解される。 しかしながら,①の事実は認められるが,②について,Cは任意提出を受けない旨の話を受けたことはなく,③について,E検事の説明が分かりやすかったと評価することはできないから,十分な配慮がなされたとは到底いうことができない。 また,被告の主張する捜査の目的を前提とすると,本件における捜査は,DとCとの間のやり取りに限定して行うことで足りたはずであって,E検事は,千葉刑務所の職員を通じてCに所持品を持ってくるよう指示する際に,Dとの間のやり取りに関わるものだけを持参するよう指示したり,実際にCが所持品を持参した後も,DとCとの間でやり取りされた手紙に限定して提出を求めたり,Dとのやり取りを日記に記載しているか確認し,当該記載内容の確認だけを求めたりすることができたし,Cの所持品を閲覧等したい旨を原告らに告げ,その了解を求めることも可能だった。ところが,E検事は,これらの措置を一切講じず,Cが留置場内において所持する全ての文書等を持参するよう指示し,原告らに事前の了解を求めることもしないで,それら全ての文書等を差し出させ,自らその内容を確認し,領置すべき文書等とそれ以外の文書等を選別するなどしたのであって,これらのE検事の行為は,被告の主張する捜査の目的及び必要性を逸脱したものであり,相当性を欠くことが明らかである。 (被告の主張)争う。 以下のとおり,本件任意提出を求める行為又は本件任意提出を受ける行為 が国家賠償法上違法とされる余地はない。 ア捜査機関による秘密交通権侵害行為の違法性に係る判断枠組み国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背す 捜査機関による秘密交通権侵害行為の違法性に係る判断枠組み国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいい,その判断に当たっては,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と当該行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り,違法の評価を受けると解される。 最高裁平成11年判決は,勾留されている被疑者の身柄を巡る弁護人等と捜査官との間の調整の場面において,接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図る必要性を判示したものであるが,秘密交通権も接見交通権の一内容に他ならないのであるから,この合理的な調整を図る必要性は,本件のような秘密交通権の保障の要請と捜査権の行使の必要性とが対立する場面でも妥当するものといえる。 すなわち,国家の刑罰権ないし捜査権は,刑事事件につき,公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現する(刑訴法1条)ために発動されるものである。この点,事案の真相について最も端的に語ることができるのは被疑者等であって,その供述の信用性については慎重に吟味されなければならないところ,その供述に変遷が認められる場合には,その理由等が解明されなければならず,そのためには,被疑者等の取調べや日記等の所持品の押収等の捜査が必要不可欠となる。しかるに,被疑者等が,取調べにおいて供述の変遷理由に関し弁護人等との間の接見内容について言及することもあれば,供述の変遷理由に関する事柄について接見内容を記載した日記等に記載することも多々あり得るのであるから,上記の捜査が弁護人等との間の接見内容に及び得ることは不可避であるといわざるを得ない。更に言えば,被 の変遷理由に関する事柄について接見内容を記載した日記等に記載することも多々あり得るのであるから,上記の捜査が弁護人等との間の接見内容に及び得ることは不可避であるといわざるを得ない。更に言えば,被疑者等の供述の変遷の有 無にかかわらず,当該被疑者等が自己の弁護人等との間の接見内容を記載して所持する物に別件刑事事件に関する記載が存することも当然あり得るのであって,かかる場合に捜査機関が被疑者等が所持する当該物について押収等の捜査が一切できないと解することは到底できない。したがって,秘密交通権も,供述の変遷等の合理性を解明するなど,事案の真相を明らかにするために例外的に制限を受けざるを得ない場面も存在するといわざるを得ず,その意味で捜査権との間で合理的な調整を図る必要があるというべきである。 以上のとおり,接見交通権の一内容である秘密交通権の保障も捜査権ないし刑罰権と合理的な調整が必要なものであるから,捜査の過程において被疑者等と弁護人等との間の接見内容が捜査機関に明らかになったとしても,そのことから直ちに捜査機関による当該捜査が国家賠償法上違法と評価されるべきではなく,飽くまでも捜査機関が被疑者等が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという刑訴法39条1項の趣旨を損なうような態様で捜査を行った場合に,国家賠償法上違法の評価を受け得るものと解すべきである。 そして,当該捜査が秘密交通権を侵害したものとして国家賠償法上違法の評価を受けるか否かの判断に当たっては,当該捜査の目的の正当性,当該捜査の必要性,当該捜査の態様等諸般の事情を考慮すべきである。 原告らは,接見交通権の秘密性の保障は絶対的なものであり,捜査権ないし刑罰権との間には調整原理が妥当しないなどとして,捜査機関が被疑者等に対し任意提出を求めるなど被疑者等 情を考慮すべきである。 原告らは,接見交通権の秘密性の保障は絶対的なものであり,捜査権ないし刑罰権との間には調整原理が妥当しないなどとして,捜査機関が被疑者等に対し任意提出を求めるなど被疑者等の所持する文書等についてアクセスすることは一切禁止されるなどと主張する。 しかしながら,検察官を始めとする捜査機関は,公訴提起の前後を問わず,所有者,所持者又は保管者が任意に提出した物を領置することができるのであって(刑訴法221条),領置することができる対象が限 定されることはない。 また,被疑者等が所持する文書等の一部に被疑者等と弁護人等との間の接見内容が記載されているだけで,当該文書等の全部が一切押収の対象とならないことになれば,当該文書等に記載されたその他の事項を明らかにすることができず,ひいては,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することは不可能となってしまい,国家の刑罰権ないし捜査権との関係上,極めて妥当性を欠く結果が生じる。 さらに,一たび接見内容が捜査機関の知るところとなれば,その秘密性は失われてしまうから,原告らの主張を前提とすると,捜査機関において,ある一つの文書等のうち,刑事事件に関係すると思料される部分と接見内容が記載されている部分とを選別し,接見内容が記載されている部分を押収しないといった手段を採ることはできないこととなるが,そうであれば,被疑者等は,捜査機関からの押収に当たって,当該文書等に弁護人等との間の接見内容が記載されている旨を申し述べさえすれば,当該文書等に弁護人等との間の接見内容が現実に記載されているか否かを問わずに,自由に当該文書等の押収を不可能にすることができることになってしまい,事案の真相を解明し,刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを目的とする刑訴法の趣旨に反す 実に記載されているか否かを問わずに,自由に当該文書等の押収を不可能にすることができることになってしまい,事案の真相を解明し,刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを目的とする刑訴法の趣旨に反する事態が生じる。 したがって,原告らの主張は,独自の見解といわざるを得ず,失当である。 イ本件任意提出を求める行為の違法性E検事は,本件任意提出を求める行為に当たり,Cと原告らとの間の秘密交通権を侵害することがないように,封書の宛先や差出人に弁護人の名前が記載してある物や「被疑者ノート」と呼ばれる弁護人等に示すことを予定したノートについて,中身を一切見ることなく,Cに差し戻している。その際に,E検事は,Cに対し,「あなたには弁護人との間 で私たちに内容を知られずに接見,つまり打合せをする権利がありますと。なので,私たちはあなたと弁護人との間の接見とか打合せの内容については知っちゃいけないことになっています。だから,こういうものについては中を見ませんし,当然任意提出を受けませんからこのままお返しします」と告げている。その上で,E検事は,Cに対し本件任意提出物の任意提出を求め,Cは,これに対し,本件任意提出物に原告らとの間の接見内容が記載されているなどとは何ら言うことなく,本件任意提出物の任意提出に応じたものである。 このような態様による本件任意提出を求める行為は,Cと原告らとの間の秘密交通権に配慮した上でなされたものであり,また,捜査機関において接見内容の秘密性を保ったままでの押収は不可能であるから,このような配慮は捜査機関としてでき得る最大限の配慮であったといえる。 本件任意提出の目的は,Dが捜査段階の供述を翻し,Cもこれに呼応するようにして捜査段階の供述を変遷させていたことから,公判担当検察官として,事案の真相を解明し, る最大限の配慮であったといえる。 本件任意提出の目的は,Dが捜査段階の供述を翻し,Cもこれに呼応するようにして捜査段階の供述を変遷させていたことから,公判担当検察官として,事案の真相を解明し,本件刑事事件の訴因変更の要否を検討し,あるいは,Dの公判において刑訴法321条1項2号後段に基づいてCの捜査段階における検面調書の証拠調べ請求のための疎明資料を収集することにあったものであり,Cと原告らとの間の接見内容それ自体を明らかにすることを目的とするものではないから,その捜査目的は正当である。 また,自己に有利な状況を作出するために,共犯者間において通謀することは珍しくなく,共犯者の関係が夫婦であるなどの人的関係がある場合は,特にその傾向は顕著であるばかりか,被疑者等において日記を付ける習慣がある場合には,共犯者からの働きかけがあったことや,供述を変遷させることにした理由について日記に記載すること自体も珍しくないから,被疑者等の供述が変遷したような場合において,公判担当 検察官として,その日記等を押収した上で,変遷の理由を明らかにすることは必要不可欠というべきであって,捜査機関において本件任意提出物を領置する必要性が認められる。 そして,E検事は,上記のとおり,Cと原告らとの間の秘密交通権に配慮した上で,本件任意提出を求める行為に出たものであるから,その態様は不当なものではない。 以上のとおり,捜査の目的の正当性,捜査の必要性,捜査の態様等の諸般の事情を考慮しても,E検事が刑訴法39条1項の趣旨を損なうような態様で捜査を行ったとはいえず,本件任意提出を求める行為が国家賠償法上違法ということはできない。 ウ本件任意提出を受ける行為の違法性原告らは,本件任意提出を受ける行為が,本件任意提出物の複写が当然に予定されることと ず,本件任意提出を求める行為が国家賠償法上違法ということはできない。 ウ本件任意提出を受ける行為の違法性原告らは,本件任意提出を受ける行為が,本件任意提出物の複写が当然に予定されることとなるから国賠法上も違法である旨を主張するが,接見内容の秘密性は,捜査機関が接見内容を知ることによって侵害され,接見内容について記載された物が複写されることによって別個に侵害されるものではないから,原告らの主張は失当である。 また,原告らは,E検事は,Cの弁護人である原告らの了解を得ることなく,Cから本件ノート及び本件便せんを受領してはならない義務を負っていた旨を主張する。しかしながら,所有者等が任意に提出した物を領置することは,捜査機関に認められた法的権限であること(刑訴法221条),捜査機関には,当該文書等における接見内容の記載の有無は事前には不明であり,他方,弁護人等にとっても,必ずしも,当該文書等における接見内容の記載の有無は明らかではないこと,上記のとおり,被疑者等が所持する文書等に弁護人等との間の接見内容が記載されていたとしても,そのことから直ちに捜査機関が当該文書等を押収することができないものとなるものではないことに照らすと,秘密交通権が 弁護人等の固有権の一つであると解されるとしても,当該文書等の所有者等が任意に提出するにもかかわらず,それ以上に捜査機関が弁護人等に領置についての了解を得なければならないとする法的義務を負っていると解することはできず,ましてや,弁護人等の了解を得なければ,当該文書等を押収することができないとは到底解することができない。 以上のとおり,原告らの主張は,いずれも独自の見解といわざるを得ず,失当である。 そして,上記イのとおり本件任意提出を求める行為が国家賠償法上違法ではないのと同様に,本 解することができない。 以上のとおり,原告らの主張は,いずれも独自の見解といわざるを得ず,失当である。 そして,上記イのとおり本件任意提出を求める行為が国家賠償法上違法ではないのと同様に,本件任意提出を受ける行為についても,何ら刑訴法39条1項の趣旨を損なうような態様であったと評価することができる事情は認められないから,国家賠償法上違法とはいえない。 争点 (E検事の故意又は過失の有無)について(原告らの主張)前記のとおり,検察官には,秘密交通権を侵害しないようにするために最善の注意義務が要求され,その基準は,近時の裁判例や学説の動向等の諸般の事情を考慮し,本件当時の司法実務の水準によって決せられるべきである。 裁判例の動向として,刑訴法39条1項の「立会人なくして」との文言が秘密交通権を保障する意味であることは,本件任意提出の10年以上前から,数多く判示されていたところであり,また,学説の動向としても,上記の裁判例について,秘密交通権の保障が極めて重要であることを説く数多くの判例評釈がされているところであって,秘密交通権の保障の重要性について了知すべきことは,司法実務において要求される水準となっている。 よって,E検事は,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為について,秘密交通権を侵害しないようにするために最善の注意義務を尽くしておらず,また,上記の裁判例,学説及び実務の運用等に照らし,E検事において本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為が違 法性を帯びることにつき認識可能性が認められることに疑いはない。 したがって,E検事には,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為について,国家賠償法上の過失がある。 (被告の主張)争う。 本件任意提出があった平成24年5月当時, いはない。 したがって,E検事には,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為について,国家賠償法上の過失がある。 (被告の主張)争う。 本件任意提出があった平成24年5月当時,被疑者等の所持品についての任意提出及び領置に関し,検察官が,当該被疑者等と弁護人等との間の秘密交通権に配慮するために,当該被疑者等から任意提出を受ける際に何らかの措置を講じなければならないのか否かという点については,参考となる裁判例や学説は乏しく,何らかの措置を講じなければならないとの見解が検察官の職務行為の基準として確立されていたわけではなく,また,一般的に検察官が被疑者等に所持品の任意提出を求め,これを領置するに際して,秘密交通権に配慮するとしても,その具体的な措置が定められていたわけでも,一定の定められた運用がなされていたわけでもない。 そうすると,E検事が,本件任意提出の際に,外見上明らかに原告らとの接見内容に関する記載が含まれると判断することができる物についてその内容を読むことなく任意提出を受けるのを拒否するとともに,併せて,Cに対し,口頭で,弁護人等との間の接見内容に関する記載が含まれているものについては任意提出を受けない旨を説明し,Cに注意を促すことのほかに,何らかの措置を講じなかったとしても,E検事に過失があったとはいえないというべきである。 したがって,本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為のいずれについても,E検事に過失は認められない。 争点 (原告らの損害額)について(原告らの主張)E検事による本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為は, 弁護人と被告人との秘密交通権を明らかに侵害するものであるところ,秘密交通権は,刑事手続上最も重要な基本的権利であるとともに,弁護人の固有権の 意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為は, 弁護人と被告人との秘密交通権を明らかに侵害するものであるところ,秘密交通権は,刑事手続上最も重要な基本的権利であるとともに,弁護人の固有権の最も重要なものの一つであって,E検事の行為は,原告らの刑事手続における根本的かつ核心的な権利を侵害したものである。 E検事の行為により秘密交通権が侵害されたことにより,接見内容が検察官に筒抜けになってしまい,それまで原告らとCとの間で行われていた自由かつ十分な意思疎通等が損なわれる重大な危険が生じた。 そのため,原告らは,Cとの接見内容が検察官に知られていることを前提に,裁判員裁判の期日の直前であるにもかかわらず,被告人質問の内容などを再検討することになり,円滑な業務の遂行に支障を来した。 また,原告らは,検察官によって今後また同じようなことが行われることで,Cとの間の接見内容が知られてしまうのではないかと不安を感じるとともに,E検事の行為が想定外のものだったことで,事前に十分なアドバイスができなかったことから,Cとの間の信頼関係を損ないかねないとの危惧を覚えた。 さらに,原告Aが,E検事の言動に対する抗議と是正措置の申入れを千葉地方検察庁に対して行ったものの,後日口頭注意が行われただけで,担当検察官に対する処分や任意提出させた物品の破棄など,何らの是正措置が採られることすらなかった。 以上の秘密交通権侵害の重大性及び原告らの精神的苦痛の甚大性に照らせば,原告らの精神的損害に係る慰謝料は,それぞれ150万円,弁護士費用は,それぞれ15万円を下回ることはない。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件刑事事件の捜査ないし審理の経過について,以下の事実が認められる。 D及 ることはない。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件刑事事件の捜査ないし審理の経過について,以下の事実が認められる。 D及びCは,捜査段階では,D及びCが二人で長男及び二女(以下,併せて「長男ほか」という。)を養育していた旨並びにD及びCは長男ほかが平成23年4月頃から栄養失調により衰弱し始めたことを認識していた旨を供述していた。 ところが,Dは,平成23年12月22日の第1回公判前整理手続期日以降,上記とは異なり,平成22年10月頃以降は,長男ほかの養育に全く関与せず,Cが目の届かない部屋に入れて外に出さないようにしていたので,その頃以降,長男ほかの健康状態を全く知らなかった旨を主張するようになった(以下,本件刑事事件におけるD又はCの供述ないし主張については,供述と主張とを併せて「供述等」という。)。 Cも,平成24年2月22日の第3回公判前整理手続期日以降,Dは,平成22年10月頃以降は,長男ほかの養育に全く関与せず,Cは,長男ほかをDの目の届かない部屋に入れて外に出さないようにしていた旨の供述等をするようになった。 千葉地方裁判所は,平成24年2月22日,本件刑事事件の弁論を,Dに係る保護責任者遺棄致死傷被告事件とCに係る保護責任者遺棄致死傷被告事件とに分離した。 E検事は,平成24年4月に千葉地方検察庁に配置換えとなり,公判部において本件刑事事件の公判を担当することとなったが,上記のとおりD及びCの供述等が変遷していることから,Dに係る保護責任者遺棄致死傷被告事件の公判においてCの証人尋問を行う可能性が高く,そのためには,Cの供述等が変遷した理由を明らかにし,Cの捜査段階の供述内容とCの公判前整理手続における主張内容とのいずれが真実か 者遺棄致死傷被告事件の公判においてCの証人尋問を行う可能性が高く,そのためには,Cの供述等が変遷した理由を明らかにし,Cの捜査段階の供述内容とCの公判前整理手続における主張内容とのいずれが真実かを確認する必要があると考え,Cに対する取調べを行うとともにCが所持する文書等の任意提出を受けるこ ととした。 E検事は,平成24年4月11日及び同月12日,Cが勾留されている千葉刑務所に赴き,Cの取調べを行うとともに,同月11日,DからC宛ての封書12通の任意提出を受けたが,その取調べにおけるCの供述や任意提出を受けた封書の記載によっても,Cが供述等を変遷させた理由は判然としないと判断した。 E検事は,平成24年5月1日,Cが千葉刑務所内で所持しているノート等にCが供述等を変遷させた理由に関する事柄が記載されている可能性があると考え,その任意提出を受けることとし,同日に千葉刑務所でCの取調べを予定するとともに,その取調べに先立ち,千葉刑務所の職員に連絡して,Cが千葉刑務所内で所持しているノート等を同日の取調べに持参するようCに伝えることを依頼した。 Cは,上記の依頼を受けた千葉刑務所の職員から,ノート,便せん,手紙及び写真等を全て取調室に持ってくるよう言われたものの,勾留後に日記として用いていた本件ノート,弁護人や家族との間でやり取りした手紙及び弁護人宛ての手紙の草稿等を含む本件便せんには,弁護人と話した内容や自分が考えたことなどが記載されていたことから,これをE検事に見られると自分の考えが全て知られてしまうと思うとともに,従前からE検事に対し恐怖感を抱いていたこともあって,これらを取調室に持っていきたくないと考えたが,最終的には,千葉刑務所内において所持していたノート,便せん,手紙及び写真等を,被疑者ノートも含め,全て取調室 事に対し恐怖感を抱いていたこともあって,これらを取調室に持っていきたくないと考えたが,最終的には,千葉刑務所内において所持していたノート,便せん,手紙及び写真等を,被疑者ノートも含め,全て取調室に持参した。 なお,この被疑者ノートは,弁護人が,接見の際に見ながら取調べ状況の説明を受けるとともに,後日返却を受け,弁護活動に役立てることを予定し,被疑者等に差し入れ,取調べ状況の記録を要請するものとして使用されているものである。そして,Cが使用していた被疑者ノートには,他の欄と区別して,弁護人との間の接見の結果を記載する欄は設けられていなかった。 以上の経過を経て,E検事は,平成24年5月1日,千葉刑務所に赴いてCに対する取調べを行ったが,その際,E検事から,Cに対し,Dの裁判に使うため,Cが取調室に持参したノート,便せん,手紙及び写真等を提出してもらいたい旨を伝えたところ,Cは,E検事に対し,これらを手渡すとともに,ノートは日記として使っているので早く返してもらいたい旨を伝えた。 E検事は,Cから手渡された物の中に,封筒に差出人や受取人として原告らや弁護人側証人の名前が記載されている封書や,表紙に被疑者ノートと記載されている書類があったことから,その内容を見ればCの接見交通権等を侵害することになるかもしれないと考え,その内容を見ることなくこれらの封書や書類をCに返却するとともに,その際,Cに対し,検察官はCと弁護人との間の接見の内容を知ってはいけないことになっている旨を伝えた。 E検事は,Cから手渡された本件ノートについて,本件刑事事件との関連性を確認するため,その内容に目を通し,本件ノートがCの日記として用いられているものであることを認識したが,手書きの小さな文字で大量の記載がされていたことや,Cから早く返すよう言われて 事件との関連性を確認するため,その内容に目を通し,本件ノートがCの日記として用いられているものであることを認識したが,手書きの小さな文字で大量の記載がされていたことや,Cから早く返すよう言われていたことから,その場で内容をよく読まないで領置したため,本件任意提出の際には,本件ノートの中に原告らとの間の接見内容に関する記載が含まれていることに気付いていなかった。 また,本件便せん42枚のうち,33枚は,本件ノートに挟まれた状態でE検事に手渡されたが,E検事は,遅くともCが本件任意提出に係る任意提出書を作成するまでには,本件ノートにこれらの便せんが挟まれていることを認識していた。もっとも,E検事は,本件便せんのうちに弁護人宛ての信書の草稿等が含まれていたことについては認識しておらず,本件便せんのうちに弁護人宛ての信書の草稿等が含まれていないかCに確認することもしなかった。 E検事は,Cに対し,本件ノート,本件便せん及び本件封書について,必 要なので読ませてほしいと伝えたところ,Cは,分かりましたと答えた。 そして,Cは,任意提出の手続について説明を受けた上で,「品名」欄に本件任意提出物の記載のある任意提出書に署名及び指印をするとともに,その「提出者処分意見」欄に用済み後返して下さいと記載し,本件任意提出をした。 E検事は,千葉地方検察庁に帰庁後,立会事務官に本件任意提出物の謄本作成報告書を作成させた上,平成24年5月2日,本件任意提出物をCに仮還付した。 原告Aは,平成24年5月7日,千葉地方検察庁検事正に対し,本件任意提出に抗議するとともに,本件任意提出物の謄本の破棄を求める旨の書面を提出した。しかし,本件任意提出物の謄本は破棄されていない。 その後,千葉地方検察庁公判部副部長は,E検事に対し,結果的に本件任意提 抗議するとともに,本件任意提出物の謄本の破棄を求める旨の書面を提出した。しかし,本件任意提出物の謄本は破棄されていない。 その後,千葉地方検察庁公判部副部長は,E検事に対し,結果的に本件任意提出物にCから原告らに宛てた手紙の下書き又は書き損じと思われる便せんが含まれていた点について,今後同様のことがないように気を付けるよう注意した。 2 争点(本件任意提出を求める行為及び本件任意提出を受ける行為の違法性の有無)について身柄拘束中の被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書及び両者間の信書の保護についての一般的な検討ア憲法34条前段,刑訴法39条1項の趣旨等憲法34条前段の定める弁護人依頼権は,身体の拘束を受けている被疑者等に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解されるところ,刑訴法39条1項が身体の拘束を受けている被疑者等と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下,併せて「弁護人等」という。)との接見交通権を規定 しているのは,憲法34条の前記の趣旨にのっとり,身体の拘束を受けている被疑者等が弁護人等と相談し,その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり,その意味で,刑訴法の前記規定は,憲法の保障に由来するものであって,この弁護人等との接見交通権は,刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁,最高裁平成11年判決参照)。 刑訴法の前記規定が立会人のない接見を定める趣旨は,被疑 ものの一つである(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁,最高裁平成11年判決参照)。 刑訴法の前記規定が立会人のない接見を定める趣旨は,被疑者等と弁護人等との間の接見においては,被疑者等の防御に関わる事項についての意思疎通等が当然に予定されているため,被疑者等と弁護人等が,接見に際し,捜査機関等にその内容を知られることなく,自由かつ十分な意思疎通等を行うことが,被疑者等が弁護人等から援助を受ける機会を実質的に保障するために必要であることに求められる。 イ被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書の保護ところが,被疑者等と弁護人等との間の立会人のない接見がされても,その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなるのであれば,捜査機関側に弁護側の防御方針が明らかとなり,被疑者等の防御に支障が生じ,上記規定の趣旨が損なわれることは明らかである。また,仮に,結果としてみれば,接見の内容が事後的に捜査機関等の知るところとはならずに終わったとしても,接見の時点において,その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなる可能性が否定されていないとすれば,接見に際しては,その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなって被疑者等の防御に支障が生じることを慮る余りの萎縮的効果として,自由かつ十分な意思疎通等が差し控えられ,ひいては被疑者等が弁護人等から援助を受ける機会の実質的保障が十分に確保されなくなるおそれが生じる。 そうであれば,刑訴法39条1項の「立会人なくして」との定めは,被疑者等と弁護人等との間で行われる接見の内容を事後的に秘匿する利益をも保護する趣旨であると解するのが相当であり,また,上記のとおり,接見交通権が弁護人等の固有の権利としても認められていることに照らすと,この 護人等との間で行われる接見の内容を事後的に秘匿する利益をも保護する趣旨であると解するのが相当であり,また,上記のとおり,接見交通権が弁護人等の固有の権利としても認められていることに照らすと,この秘匿利益も,被疑者等の利益のみならず,弁護人等の固有の利益としても保護されるものと解するのが相当である。 ウ被疑者等と弁護人等との間の信書の保護以上に対し,被疑者等と弁護人等との間で授受される信書については,前記規定は,信書の内容を秘匿する利益を保護する旨を明文で規定しているわけではない。 しかしながら,被疑者等と弁護人等との間での信書の発受は,被疑者等と弁護人等との間の接見には時間的,場所的制限があることなどに鑑み,接見による意思疎通等を補完する手段として用いられ,その内容は,被疑者等の防御に関わる事項についての意思疎通等に及ぶことも当然に予定されるところである。そうであれば,その信書の内容が事後的に捜査機関等の知るところとなれば,捜査機関側に弁護側の防御方針が明らかとなり,被疑者等の防御に支障が生じることや,その発受の時点において,その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなる可能性が否定されていないとすれば,その授受に際しては,その内容が事後的に捜査機関等の知るところとなって被疑者等の防御に支障が生じることを慮る余りの萎縮的効果として,信書による自由かつ十分な意思疎通等が差し控えられ,ひいては被疑者等が弁護人等から援助を受ける機会の実質的保障が十分に確保されなくなるおそれが生じることは,接見の場合と何ら異なるものではない。 そうであれば,被疑者等と弁護人等との間で発受された信書の内容及び発受予定の信書の草稿等の内容を秘匿する利益も,接見の内容を秘匿する利益に準じて保護されるものであり,この利益も,接見の内容を秘匿する 利益 ば,被疑者等と弁護人等との間で発受された信書の内容及び発受予定の信書の草稿等の内容を秘匿する利益も,接見の内容を秘匿する利益に準じて保護されるものであり,この利益も,接見の内容を秘匿する 利益について述べたのと同様に,被疑者等及び弁護人等の双方の利益と解するのが相当である(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は,未決拘禁者又は被疑者等が弁護人等から受ける信書の検査は,そのような信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとしているところ(同法135条2項1号,222条3項1号イ),未決拘禁者又は被疑者等が弁護人等宛てに発する信書については他の信書と区別した規定を設けていないが,そうであるからといって,同法に基づく検査の目的の範囲を超えて,未決拘禁者又は被疑者等が弁護人宛てに発する信書の内容を確認することが無制限に容認されるわけではない。以下,被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を秘匿する利益並びに発受された信書の内容及び発受予定の信書の草稿等の内容を秘匿する利益を併せて「秘匿利益」ということがある。)。 エ原告らの主張のうち,以上と異なる部分に対する判断原告らは,被疑者等が留置場内において所持する文書等は,その全てが防御に関係し,そうである以上,その内容は弁護人との間のコミュニケーションに関わるから,接見交通権の秘密性の保障は,被疑者ないし被告人が留置場内において所持するあらゆる文書等に及ぶ旨を主張する。 また,仮にそうでないとしても,接見交通権の秘密性の保障は本件封書にも及ぶ旨を主張する。 しかしながら,被疑者等と弁護人等との間の接見又は信書による意思疎通等について,接見又は信書の内容が事後的に捜査機関等の知るところとなる可能性のないことを担保するには,その接見の内容にわたる記載のある文書な ら,被疑者等と弁護人等との間の接見又は信書による意思疎通等について,接見又は信書の内容が事後的に捜査機関等の知るところとなる可能性のないことを担保するには,その接見の内容にわたる記載のある文書ないしその信書を事後的にも秘匿する利益を保護すれば足りるところであって,これらに当たらない文書についてまで,それが被疑者等が留置場内において所持する文書等であることの一事をもって,直ちに,被疑者等と弁護人等との間のコミュニケーションに関わるもの として秘匿の対象となると解するのは困難である。 原告らの上記の主張は,採用することができない。 上記を前提とすると,本件においては,前提事実のとおり,本件便せんには,被疑者等と弁護人等との間の意思疎通等の内容を直接構成する文書が含まれており,また,本件ノートには,その内容を直接記載した部分が含まれていたということができるものの,その余の本件任意提出物である本件封書につき,被疑者等と弁護人等との間の意思疎通等の内容を直接構成し,又はその内容を直接記載した文書が含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。 オ小括及び本件への当てはめ以上のことからすれば,E検事の本件任意提出を受ける行為は,本件任意提出物のうち,Cと原告らとの間の接見の内容にわたる記載を含む本件ノートと,Cの原告ら宛て信書の草稿等を含む本件便せんとの任意提出を受けた部分において,原告らの固有の秘匿利益を制約する捜査活動であったというべきである。 この点につき,原告らは,本件任意提出を受ける行為に先立ち,本件任意提出を求める行為も違法行為である旨をも主張する。しかしながら,捜査機関が被疑者等に接見内容等の記載を含む文書等の任意提出を求めたとしても,被疑者等が任意提出を拒めば何ら秘匿利益の制約は生じないのであるから,任意提 違法行為である旨をも主張する。しかしながら,捜査機関が被疑者等に接見内容等の記載を含む文書等の任意提出を求めたとしても,被疑者等が任意提出を拒めば何ら秘匿利益の制約は生じないのであるから,任意提出を求める行為自体が直ちに違法行為であるということはできないというべきである。したがって,上記原告らの主張は採用することができない。 以下,本件任意提出が,上記のとおり原告らの固有の秘匿利益を制約するものであったことを前提に,そのような制約が捜査機関の捜査活動として許容されるものであったか否かについて検討する。 身柄拘束中の被疑者等と弁護人等との間の接見の内容にわたる文書又は両 者間の信書ないしその草稿等の任意提出が許される要件ア本件任意提出は,E検事の求めに応じ,CがE検事に対して本件任意提出物を任意に提出したものとされており,当然,Cにおいて,実際に,本件任意提出物を任意に提出し,もって,上記のような自らの秘匿利益を放棄していることが必要となる。そして,既に述べた秘匿利益の重要性のほか,この任意提出が,身柄拘束中であるのみならず,公判手続進行中に,被告人が公判担当検察官の取調べを受ける過程で,弁護人の関与なくしてしたものであることを踏まえると,本件任意提出が自由な意思に基づく真摯なものであったかどうかについては,特に慎重な吟味が必要となる。 イさらに,一般にも,捜査機関の捜査活動は,社会通念上相当な限りにおいてのみ許容されるものであるところ,本件のように,文書の任意提出による秘匿利益の制約が問題となる場面においては,前記の社会通念上の相当性は,捜査の必要性等の事情(捜査の目的,必要性,態様及び秘匿利益を制約する意図ないし認識の有無等)と秘匿利益の侵害の程度等に関わる事情(当該文書の作成目的,性質,記載内容及び接見内容等の記 の相当性は,捜査の必要性等の事情(捜査の目的,必要性,態様及び秘匿利益を制約する意図ないし認識の有無等)と秘匿利益の侵害の程度等に関わる事情(当該文書の作成目的,性質,記載内容及び接見内容等の記載を含む蓋然性の程度等)とを総合的に考慮して判断するのが相当である。そして,本件任意提出については,それが刑事手続上極めて重要な秘匿利益の放棄に関わることや,自ら固有の利益として秘匿利益を有する弁護人の関与なくして,被告人の秘匿利益の放棄によってされたものであることを踏まえると,この点についても慎重な検討を必要とする。 ウ原告らの主張のうち,以上と異なる部分に対する判断原告らは,被疑者等が弁護人等の承諾なしに一方的に秘匿利益を放棄することは許されない旨を主張する。その根拠として,身柄拘束中の被疑者等が,弁護人が介在しないうちに,全くの自由意思によって,接見交通権の秘密性という重要な権利の放棄に関する判断を行うことは困難であることや,秘密交通権が弁護人の固有権として保障されることを挙 げる。 確かに,身柄拘束中の被疑者等にとって,弁護人が介在しない状況の下で,全くの自由意思によって,接見交通権の秘密性という重要な権利を理解してその放棄の是非を判断することに一定の困難を伴うことも想定され得るところであり,この点については,上記アのとおり,自由な意思に基づく真摯な同意がされたかどうかを慎重に吟味する必要があるし,これに関連して,上記イのとおり,捜査機関が任意提出を求め,これを受ける際にも十分な注意が必要となるところである。 しかしながら,捜査機関が十分な注意を尽くし,被疑者等が自由な意思に基づく真摯な同意をして任意提出に至ったと認められる場合には,それが弁護人等の承諾なしにされた身柄拘束中の被疑者等からの任意提出であることの一事 捜査機関が十分な注意を尽くし,被疑者等が自由な意思に基づく真摯な同意をして任意提出に至ったと認められる場合には,それが弁護人等の承諾なしにされた身柄拘束中の被疑者等からの任意提出であることの一事をもって,秘匿利益の放棄として許されないものであるという根拠には乏しい。 また,確かに,秘匿利益は弁護人等の利益でもある。しかしながら,この固有の利益も,究極的には,被疑者等の利益の保護を目的とするものである。しかも,秘匿利益の中心は,接見又は信書による意思疎通等の当事者である被疑者等と弁護人等とのいずれの意思にも反してその内容が当事者以外の知るところとなるおそれ,とりわけ捜査機関の知るところとなるおそれがないことを保障することにある。弁護人との間の接見又は信書の内容について,被疑者等は,これを秘匿することにより自らの利益を保護される立場にあるものの,刑訴法上も職業倫理上も守秘義務を負うわけではなく,弁護人等としては,そのことを承知の上で接見又は信書の発受に当たるものである。そうであれば,弁護人に固有の秘匿利益があることも,身柄拘束中の被疑者等がその秘匿利益を放棄することを一律に許されないものとする根拠として十分ではない。 そうすると,原告らの上記の主張は,採用することができない。 本件任意提出は自由な意思に基づく真摯な同意に基づくものかア前記認定事実によれば,Cは,本件任意提出に先立ち,千葉刑務所の職員から,ノート,便せん,手紙及び写真等を全て取調室に持ってくるよう言われた際に,本件ノートに弁護人と話した内容や自分が考えたことなど様々な内容が記載されていたことや,本件便せんのうちに弁護人宛ての手紙の草稿等が含まれていたことから,これらをE検事に見られたくないと考えていたというのである。そうすると,Cは,本件ノートや本件 ど様々な内容が記載されていたことや,本件便せんのうちに弁護人宛ての手紙の草稿等が含まれていたことから,これらをE検事に見られたくないと考えていたというのである。そうすると,Cは,本件ノートや本件便せんをE検事に提出するとすれば,そこに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容が捜査機関に明らかになることを,十分に理解していたものということができる。 また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出に際し,Cから手渡された物のうち,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載されている封書や,表紙に被疑者ノートと記載されている書類については,その内容を見ることなくCに返却するとともに,その際に,Cに対し,検察官はCと弁護人との間の接見の内容を知ってはいけないことになっている旨を伝えたというのである。そうすると,Cは,このようなE検事の言動に接し,本件ノートのように原告らとの間の接見の内容が記載されていたり,本件便せんのように原告らとの間の意思疎通等の内容を構成していたりする文書等については,E検事としても積極的にCに対しその提出を求めようとするものではなく,かえって,そのような内容を含んでいることを理由として,E検事への任意提出を拒むことができる旨を認識したものと認めるのが相当である。 そして,前記認定事実によれば,Cは,E検事から,本件ノート,本件便せん及び本件封書について,必要なので読ませてほしいと言われたことを受け,分かりましたと答えた上で,任意提出の手続について説明を受け,任意提出書に署名及び指印したというのである。 イ以上のとおり,Cは,本件ノートや本件便せんをE検事に提出することにより,そこに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容が捜査機関に明らかになることを十分に理解するとともに,そのような内容を含むこと 以上のとおり,Cは,本件ノートや本件便せんをE検事に提出することにより,そこに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容が捜査機関に明らかになることを十分に理解するとともに,そのような内容を含むことを理由として,これらのE検事への任意提出を拒むことができることをも認識した上で,E検事からの任意提出の要求に対し,分かりましたと答え,任意提出の手続について説明を受け,任意提出書に署名及び指印したものである。 そうすると,Cがその当時身柄拘束中であったこと,その内心において本件任意提出につき消極的な意向を有していたこと及びE検事に対する恐怖心を抱いていたことを考慮しても,Cは,本件ノート及び本件便せんに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき,自由な意思に基づき真摯にこれに同意した上で,本件任意提出をしたものと認められる。 本件任意提出を受ける行為は社会通念上相当なものかア本件便せんの任意提出について前記認定事実によれば,E検事は,Dが,本件刑事事件につき,従前の供述等を変遷させて否認に転じ,Cも,これに近い時期に,Dの変遷後の主張に沿う形で供述等を変遷させたことから,Dの公判におけるCの証人尋問等に備え,Cの供述等の変遷の理由を明らかにするとともに,変遷前後のいずれの供述等が真実であるかを明らかにする必要があったため,Cが刑務所内において所持するノート等に,Cが供述等を変遷させた理由に関する事柄が記載されている可能性があると考え,その任意提出を受けることとしたというのであって,Cの供述等の変遷の理由を明らかにするなどの捜査の目的自体は,もとより正当である。 そして,身柄拘束中の被疑者等が外部との間で交わす信書において,自らの供述等の変遷の動機,その原因となる事情等を記載することは, あり得 明らかにするなどの捜査の目的自体は,もとより正当である。 そして,身柄拘束中の被疑者等が外部との間で交わす信書において,自らの供述等の変遷の動機,その原因となる事情等を記載することは, あり得ないことではないから,本件便せんの任意提出は,Cの供述等の変遷の理由を明らかにするなどの捜査の目的との関係で,全く必要性を欠く捜査であったとまでいうことはできない。 また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出を受けるに当たり,本件便せんの中にCの弁護人すなわち原告ら宛ての信書の草稿等が含まれていることを認識していなかったというのであるし,実際にも,本件便せんの記載のうち,原告ら宛ての信書の草稿等と認められる部分は一部にとどまっており,それも,信書の冒頭に位置する宛名等の部分ではなく,本文の一部に相当する文言が断片的に記載されているにとどまるのであるから,E検事には,本件便せんの任意提出を受けるに当たり,秘匿利益を制約する意図のみならず,その認識もなかったものということができる。 しかしながら,一般に,便せんは信書の作成に用いられるものであるし,本件任意提出の当時,Cは被告人として勾留中で,本件刑事事件の公判前整理手続が進行していたのであるから,そのような状況の下でCが刑務所内で所持する本件便せんには,弁護人である原告ら宛ての信書の草稿等が含まれる可能性があることは,便せんという任意提出物の類型に照らし,十分に想定されるところである。 そして,本件便せんに原告ら宛ての信書の草稿等が含まれていれば,それは,上記のとおり,被疑者等と弁護人等との間の信書の発受が接見による意思疎通等を補完する手段として用いられるものであることに照らしても,被疑者等の防御に関わる事項が記載されることが当然に予想されるところである。そうすると,捜査機関が との間の信書の発受が接見による意思疎通等を補完する手段として用いられるものであることに照らしても,被疑者等の防御に関わる事項が記載されることが当然に予想されるところである。そうすると,捜査機関が,被疑者等が弁護人等に向けて発信する予定であった信書の草稿等の任意提出を受ける行為は,客観的な秘匿利益の制約の態様としては,捜査機関が取調べにおいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為にも比肩 し得る捜査活動であるといわざるを得ず,これによる秘匿利益の侵害の程度は,極めて重大である。 そして,本件において,Cが原告らを通じてDとの間で通謀したなどの事情は全くうかがわれないから,本件便せんの任意提出について,上記のような秘匿利益に対する重大な侵害を正当化する高度の捜査の必要性があったということもできない。 また,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出に際し,本件任意提出物の中に便せんが含まれていることを認識していたというのであり,しかも,それに先立ち,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載されている封書を自らCに返却しているのであるから,E検事としても,Cから提出を受けた便せんのうちにCが原告らに対して発信する予定の信書の草稿等が含まれている可能性を認識することは,極めて容易であったというべきである。そうであれば,E検事としては,本件便せんの任意提出を受けるに当たり,Cに対し,弁護人宛ての信書の草稿等が含まれていないかをよく確認し,これが含まれていれば,それ以外の便せんのみを任意提出することとするよう促すなどの措置をとることも考えられるところ,そのような措置を何らとることなく,漫然と本件便せんの任意提出を受けたのであるから,本件便せんの任意提出に係る秘匿利益の侵害につき,E検事の落ち度は重大であったと 措置をとることも考えられるところ,そのような措置を何らとることなく,漫然と本件便せんの任意提出を受けたのであるから,本件便せんの任意提出に係る秘匿利益の侵害につき,E検事の落ち度は重大であったといわざるを得ない。そうすると,E検事において,Cと原告らとの間の信書による意思疎通等の内容を探索するなど,秘匿利益を損なう意図も認識もなかったことを踏まえても,本件便せんの任意提出が捜査の態様として相当なものであったとはいい難い。 さらに,本件便せんの任意提出が,客観的には,捜査機関が取調べにおいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為にも比肩し得る捜査活動であることは,上記のとおりであるところ,こ のような捜査活動を安易に許容するとすれば,たとえ被疑者等が弁護人等との間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき同意をしたと認められる場合であっても,捜査機関が,弁護側の防御方針を探知することなどを実質的な目的として,被疑者等と弁護人等との間の意思疎通等の内容に対し,探索的,網羅的な捜査活動をすることを許容することにつながりかねないのであって,このような捜査活動は,被疑者等の同意があるからといって,直ちに許容すべきものとは解し難い。そうすると,本件便せんの任意提出の社会通念上の相当性を判断するに当たり,Cが上記のような同意をしたことを重視し過ぎることは,相当でない。 以上のとおり,本件便せんの任意提出は,その捜査の目的は正当であり,必要性を全く欠くものでもなく,秘匿利益を制約する意図も認識もなく行われたものではあるが,それによる秘匿利益の侵害の程度は,捜査機関が取調べにおいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為にも比肩し得る極めて重大なものである上に,そのような重大な侵害を正当化する高度 それによる秘匿利益の侵害の程度は,捜査機関が取調べにおいて被疑者等と弁護人等との間の接見の内容を網羅的に聴取する行為にも比肩し得る極めて重大なものである上に,そのような重大な侵害を正当化する高度の捜査の必要性があったものではなく,また,このような秘匿利益の侵害はわずかな注意で容易に回避することができたものである。 以上のことに加えて,Cが,本件便せんに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき,自由な意思に基づき真摯にこれに同意したことを重視することもできないことは上記のとおりであるから,本件便せんの任意提出は,捜査機関の捜査活動としての社会通念上の相当性を欠くものであったといわざるを得ない。 したがって,E検事が,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為は,捜査活動としての社会通念上の相当性を欠き,国家賠償法1条1項の適用上違法である。 イ本件ノートの任意提出について本件ノートは,Cが身柄拘束中に日記として用いていたものであるところ,本件任意提出が行われるまで,本件刑事事件の公判前整理手続が既に数回経られていたことに照らすと,原告らとCとの間の接見も,その間に相当数行われていたものと推認される。また,弁護人との接見は,身柄拘束を受けている被疑者等の生活の中では,比較的非日常的な出来事であると想定されるから,それがあったことやその内容を被疑者等が日記に記載することは自然なことである。さらに,被疑者等にとって公判の帰趨は重大な関心事であり,ひいては弁護人との接見における弁護人の発言等にも強い関心があると考えられるところ,前記認定事実によれば,Cが所持している被疑者ノートには,他の欄と区別して,特に接見の結果を記載する欄は設けられていないとい 護人との接見における弁護人の発言等にも強い関心があると考えられるところ,前記認定事実によれば,Cが所持している被疑者ノートには,他の欄と区別して,特に接見の結果を記載する欄は設けられていないというのであるから,Cが備忘の目的で弁護人との間の接見の内容を書き留めておくに際し,被疑者ノートに記載するのではなく,本件ノートに記載することも,想定することができないものではない。 そうすると,被疑者等が,身柄拘束中の生活の中で生起する出来事の一環として又は備忘の目的で,弁護人と接見をしたことやその内容を自己が所持しているノートや日記に記載している可能性は,必ずしも低いものではない。しかも,前記認定事実によれば,E検事は,本件任意提出に際し,本件ノートがCの日記として用いられているものであることを認識していたというのであるから,本件ノート中にCと原告らとの間の接見内容の記載が含まれていることを予見することも可能であったというべきである。 したがって,E検事が本件ノートの任意提出を受けた行為は,秘匿利益を侵害するおそれのある行為であり,また,E検事においてそのおそれを予見することも可能であったというべきである。 しかしながら,本件任意提出の目的自体は正当であることは,上記のとおりである。また,Cの供述等はその身柄拘束中に変遷したものであるから,Cが,その供述等の変遷の前後の時期等において,身柄拘束中の日記として用いていた本件ノートに,その供述等の変遷の理由に関連する事柄を記載した可能性は,あながち否定することができない。そうすると,本件ノートについては,本件任意提出の目的との関係で,その任意提出を受ける必要性を肯定することができるというべきである。 また,前記認定事実によれば,E検事は,本件ノートの内容に目を通し,本件ノートがCの トについては,本件任意提出の目的との関係で,その任意提出を受ける必要性を肯定することができるというべきである。 また,前記認定事実によれば,E検事は,本件ノートの内容に目を通し,本件ノートがCの日記として用いられているものであることを認識したが,その場ではそれ以上に内容をよく読まなかったため,本件任意提出の際には,その中にCと原告らとの間の接見内容に関する記載が含まれていることに気付いていなかったというのである。そうすると,E検事には,本件ノートの任意提出を受けるに当たり,秘匿利益を制約する意図のみならず,その認識もなかったものということができる。 さらに,E検事が本件ノートの任意提出を受けた行為は,秘匿利益を侵害するおそれのある行為にとどまり,それによって必然的に秘匿利益の侵害が生じる行為ではない。のみならず,日記は,上記のとおり,後に被疑者等の防御のために活用することが本来的に予定されている文書ではないから,そこに接見の内容が記載されることがあるとしても,被疑者等の防御に関わる核心的な内容が記載されるのが通常であるということはできないし,また,接見の内容が網羅的に記載されるのが通常であるということもできない。そうすると,E検事が本件ノートの任意提出を受けた行為は,秘匿利益を侵害するおそれのある行為にとどまる上に,仮にそれによって秘匿利益の侵害が生じたとしても,重大な侵害に至る可能性が一般に高いものであったとまではいい難い。 以上のとおり,本件ノートの任意提出は,秘匿利益を侵害するおそれ のある行為であり,また,E検事においてそのおそれを予見することも可能であったというべきであるが,その捜査の目的は正当で,必要性も肯定することができるものであり,秘匿利益を制約する意図も認識もなく行われたものであって,また,それによる秘匿 おそれを予見することも可能であったというべきであるが,その捜査の目的は正当で,必要性も肯定することができるものであり,秘匿利益を制約する意図も認識もなく行われたものであって,また,それによる秘匿利益の侵害も,そのおそれがあるというにとどまる上に,仮にそれが生じたとしても,重大な侵害に至る可能性が一般に高いとまではいい難いものであったということができる。 以上の諸事情に加えて,Cが,本件ノートに記載された原告らとの間の意思疎通等の内容を捜査機関に明かすことにつき,自由な意思に基づき真摯にこれに同意していると認められることも考え合わせれば,本件ノートの任意提出は,捜査機関の捜査活動として,社会通念上相当な範囲を逸脱するものではなかったと認めることができる。 したがって,E検事が,Cから,原告らとの間の接見の内容の記載を含む本件ノートの任意提出を受けた行為は,捜査活動としての社会通念上の相当性を欠くものではないから,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められない。 3 争点(E検事の故意又は過失の有無)について以上のとおり,E検事が,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為は,国家賠償法1条1項の適用上違法であるところ,刑訴法39条1項が秘匿利益を保護していることに照らし,捜査機関等が被疑者等と弁護人等との間で発受される信書をむやみに閲読等してはならないことについては,本件任意提出がされた平成24年当時,これを肯定する裁判例や学説が一定数存在していた上に,前記認定事実によれば,E検事自身,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載されている封書については,その内容を見ればCの接見交通権を侵害することになるかもしれないと考え,内容を見ることなくCに返還したというのであるか 検事自身,封筒に差出人や受取人として原告らの名前が記載されている封書については,その内容を見ればCの接見交通権を侵害することになるかもしれないと考え,内容を見ることなくCに返還したというのであるから,E検 事は,本件任意提出の当時,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受ける行為が,国家賠償法1条1項の適用上違法であることを認識することが可能であったというべきである。 したがって,E検事には,Cから,Cが原告らに宛てて発信する予定の信書の草稿等を含む本件便せんの任意提出を受けた行為について,過失があったというべきである。 4 争点(原告らの損害額)について原告らは,本件便せんの任意提出により,Cが原告らに対して発信する予定の信書の草稿等の内容を捜査機関が知り得る状態が生じたことによって,Cの公判における被告人質問の内容を再検討することを余儀なくされ,Cのための防御活動に支障が生じたとともに,今後同様の捜査が行われ,Cとの間の意思疎通等の内容を検察官に知られてしまうのではないかと不安を感じたことが認められる。 他方で,上記のとおり,E検事は,本件任意提出を受けるに際し,本件便せんのうちにCが原告らに対して発信する予定の信書の草稿等が含まれていることを認識していなかったのであるから,本件任意提出における秘匿利益の制約の態様は,悪質なものであったとまでいうことはできない。 以上のほか,本件における諸般の事情を考慮すると,原告らの被った上記の精神的苦痛に対する慰謝料は,原告らそれぞれについて20万円を認めるのが相当である。 また,本件の事案の性質,内容等に照らすと,原告らが本件訴訟の追行に要した弁護士費用は,それぞれ2万円を認めるのが相当である。 5 まとめ以上の判断の要旨刑訴法39 るのが相当である。 また,本件の事案の性質,内容等に照らすと,原告らが本件訴訟の追行に要した弁護士費用は,それぞれ2万円を認めるのが相当である。 5 まとめ以上の判断の要旨刑訴法39条1項は,身柄拘束中の被疑者等が弁護人との間で立会人なくして接見することができる旨を規定し,接見の時点でその内容を秘匿する利 益を保護しているが,その趣旨に照らすと,接見終了後もその内容を引き続き秘匿する利益も保護しており,更には,被疑者等と弁護人等との間で授受される信書についても,授受の時点でその内容を秘匿し,授受後もその内容を引き続き秘匿する利益も保護しており,これらの秘匿利益は,被疑者等の利益であるとともに,弁護人等の固有の利益でもあると解釈すべきである。 そこで,捜査機関として,身柄拘束中の被疑者等から,弁護人等との間の接見の内容にわたる記載のある書類や,弁護人等との間の信書の任意提出を受けるに当たっては,上記の解釈を踏まえ,被疑者等の自由な意思に基づく真摯な同意による提出を受ける必要があり,更には,その任意提出を受ける行為が社会通念上相当と認められるものでなければならない。 ところで,本件刑事事件は,夫婦両名による共犯事件として起訴された保護責任者遺棄致死傷被告事件であり,その公判前整理手続の進行中に,夫の関与の度合い等に関する夫婦両名の供述等に変遷が生じたことから,担当検察官が,供述等の変遷の理由等について,刑務所に勾留されている妻を取り調べ,その際,妻が刑務所内において所持する文書の任意提出を受けたのであるが,その任意提出物のうち,妻が日記として使用するノートには,妻と弁護人らとの間の接見の内容にかかわる記載があり,便せんには,妻から弁護人宛ての信書の草稿等に当たる記載があった。前記1で認定した事実関係に基づき,前記2のとお が日記として使用するノートには,妻と弁護人らとの間の接見の内容にかかわる記載があり,便せんには,妻から弁護人宛ての信書の草稿等に当たる記載があった。前記1で認定した事実関係に基づき,前記2のとおり判断したところによれば,検察官がノートの任意提出を受けたことは,妻の自由な意思に基づく真摯な同意によるもので,社会通念上相当とも認められるので,違法な行為に当たらないが,検察官が便せんの任意提出を受けたことは,妻の自由な意思に基づく真摯な同意によるものではあるが,社会通念上相当とは認められないから,弁護人の秘匿の利益を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の違法な行為に当たる。そして,検察官が便せんの任意提出を受けたことに伴う弁護人らの損害は,弁護人1人につき,慰謝料20万円,弁護士費用2万円の合計22万円と評価す るのが相当である。 結論 よって,原告らの請求は,原告ら各自22万円及びこれに対する平成24年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官金子直史裁判官田中一隆裁判官工藤智) 別紙1【原告ら代理人目録】(省略) 別紙2 1 面会の時は取り乱してしまい,すみませんでした。3年~20年という期間があることは分かっていたのですが,30年と聞いた時,まず子供の顔が浮かびました。(中略)あまりにも衝撃的だったので,自分の心の整理がまだつきません。 ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。 2 お手紙,資料に切手ありがとうございます。(中略)資料を見ると,モラルハラッサーの行動パターンは13コ中10コも当てはまり驚きました。DV加害者タイプはチェックしてみると『最高 訳ありません。 2 お手紙,資料に切手ありがとうございます。(中略)資料を見ると,モラルハラッサーの行動パターンは13コ中10コも当てはまり驚きました。DV加害者タイプはチェックしてみると『最高権威男』タイプと『水攻め男』のタイプそのままでした。本当に驚きました。この9年弱何も気づかなかった自分が情けなくなりました。(以下略) 別紙3 1 2011年9月30日その後,PM4:30頃,弁護士さん2人が来ていろいろ話した。Fの状態,病院,児相へ連れて行こうとしたのはいつだったのか?なぜ連れていかなかったのか?いろいろ質問されて何て答えればいいのかわからなかった。Fの事思い出したら,また泣いてしまった。 2 2011年10月7日今日弁護士さんが来た。Fが亡くなった日を思い出してたら,泣いてしまった。 自分の事しか考えていなかった・・・。こうなるんだったら,早く病院へ連れて行ってれば,今ごろは元気でいたかと思うと,本当にFには,辛い思い,苦しい思いばかりをさせてしまった・・・。男の子として生まれてきてくれたのに・・・ごめんなさい・・・。Fに会いたい・・・。 3 2011年11月15日午前中,弁護士さんが来た。追起訴の事,その事についての事実を認めるかとか,なんで自分から行動できなかったのか。これからどうして行きたいか。を話した。 4 2012年2月17日午前中,弁護士さんが来た。忙しかったみたい。不安な事,今思っている事を言ったら楽になった。りん床何とかってゆう精神科の先生に当初の私を診てもらったそうで,『モラルハラスメント』という結果だったみたい。 5 2012年2月28日今日,午前中弁護士さんが来てくれた,この前の手続きで不安な所はありましたか?と聞かれて,後の席に座ってた人は刑事さんだって。責任をかぶるかぶら という結果だったみたい。 5 2012年2月28日今日,午前中弁護士さんが来てくれた,この前の手続きで不安な所はありましたか?と聞かれて,後の席に座ってた人は刑事さんだって。責任をかぶるかぶらないについては分からないけど,Cさん1人ではないことを主張したいとの事。 6 2012年3月15日B先生が離婚届を郵送するので記入して又,私の所へ送って下さいって。その 離婚届をDの弁護士さんに送るって。裁判の時にしっかりと離婚の意志を見せるため。Dが応じなければ協議離婚になるって。いろいろと責められそうで恐いと言ったら,法律とかいろんな対処方(ママ)があるから大丈夫だって。どういう刑になったとしても新しいスタートを切るためにもしっかりとしていかないといけないと思います。って言われた。そうだよね子供達守って行くんだから,しっかりして行かなきゃね 7 2012年3月22日夕方,B先生から手紙届いた。カウンセリングの先生の住所も書いてあった。 離婚届の書き方がよく分からなくて,月曜日聞いてみようと思う。封筒も大きいのじゃないと入らないし。Dは承諾してくれるだろうか…。難かしそう…。緊張する。Dの気持ちを弁護士さんを通じて聞いてみようと思いますって。利用できるか分からないのでその点はご了承下さいって。ん…。やっぱり難しいかも。でも諦めちゃダメよ!もしかしてもう聞いてるのかな?だから遅くなったとか…。 何って言ってんだろう…。聞きたい事がいっぱいある。 8 2012年4月23日弁面の声が掛かり,B先生に会った。出所後にしたい事。仕事のこと。子育ての時悩んでしまった時どうするか。を話した。離婚の意思はかたい事。心配な事も言った。Dは離婚の話についてあいまいな対応をしているようで離婚は難しいかもしれませんって。ちょうていになってもかまいま ての時悩んでしまった時どうするか。を話した。離婚の意思はかたい事。心配な事も言った。Dは離婚の話についてあいまいな対応をしているようで離婚は難しいかもしれませんって。ちょうていになってもかまいませんか?って聞かれたから『はい』と言った。そぉだよね。難しいよね。

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