令和3(わ)2311 殺人

裁判年月日・裁判所
令和4年10月20日 大阪地方裁判所
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判決文本文6,705 文字)

1 主 文被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中290日をその刑に算入する。 理 由【罪となるべき事実】被告人は、令和3年6月11日午後9時29分頃から同日午後9時57分頃までの間に、大阪市(住所省略)Aビル5階のカラオケパブ「B」店内において、D(当時25歳)に対し、殺意をもって、刃物で、その頸部、項部、胸部を多数回突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、同人を頸部・項部・胸部刺創による右頸部深部筋断裂、左肺貫通創等に基づく失血、空気塞栓により死亡させて殺害した。 【補足説明】1 関係証拠によれば、令和3年6月11日(以下「本件当日」という。)午後9時29分頃以降、判示のAビル(以下「本件ビル」という。)5階にある判示のカラオケパブ(以下「本件店舗」という。)において、何者かが、D(以下「被害者」という。)を判示のとおり殺害したことが認められるところ、弁護人は、被告人が判示の犯行(以下「本件犯行」という。)の犯人であることに間違いないとまでは立証されていないから無罪である旨主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件ビルは、その西側が歩道に面した、各階1店舗ずつ入っている8階建てのビルであるが、本件当日営業していた店舗は、本件店舗及び7階にある店舗のみであった。 イ 本件ビル1階西側には、出入口が1か所あり、同出入口(以下「1階出入口」という。)から入った本件ビル1階東側奥には1階から8階まで移動するエレベーター(以下「本件エレベーター」という。)が設置されていた。本件ビル内の東側には1階から屋上まで続く非常階段があり、その東側及び南側には格子状の鉄柵等が設けられていた。本件ビルとそ 移動するエレベーター(以下「本件エレベーター」という。)が設置されていた。本件ビル内の東側には1階から屋上まで続く非常階段があり、その東側及び南側には格子状の鉄柵等が設けられていた。本件ビルとその東側にある薬屋の倉庫との間には 2 スペースがあり、1階非常階段には、前記鉄柵に、同スペースに通じる鉄製格子フェンス扉があったが、同月22日時点では南京錠で施錠されていた。同スペースから1階非常階段付近の隙間、同じく中2階と2階の間の踊り場にある前記鉄柵の隙間、屋上のいずれかを通じて非常階段に人が入ることは物理的に可能であった。 ウ 本件店舗は、その東側に出入口ドアがあり、同月14日の被害者の遺体発見の際、そのドアには鍵が掛けられていた。本件店舗の床面に倒れた被害者の遺体には、右頸部、胸腹部等の各部に多数の刺創、切創及び刺切創が見られ、血痕が多量に付着し、その左上腕に着衣の上から粘着テープ片が巻き付けられていた。 被害者の右頸部に形成された大きな皮膚開口部からは、相当多量の出血があったものと認められた。本件店舗内の中央テーブル下に芯の付いた未使用に近い粘着テープがあり、その芯の内側からは被告人の右小指指紋が検出された。前記粘着テープ片とその芯の付いた粘着テープは、元々つながったものであった。なお、被告人は、同年5月26日、これと同種の粘着テープを購入したことがあった。 本件店舗内のカウンター上には、アルミホイルに包まれた被害者の携帯電話機(iPhone11)があった。同携帯電話機には血痕様のものが付着していた。検察事務官が、アルミホイルで携帯電話機(iPhone11)を包む実験をすると、電波が遮断されLINEメッセージ等を受信しなかった。 ア 被告人は、本件当日午後7時9分頃、1階から本件エレベーターに乗って5階で降り、本件店舗に入 電話機(iPhone11)を包む実験をすると、電波が遮断されLINEメッセージ等を受信しなかった。 ア 被告人は、本件当日午後7時9分頃、1階から本件エレベーターに乗って5階で降り、本件店舗に入った。被害者及び女性従業員Cは、約2時間にわたり、客である被告人をもてなし、その間、本件店舗内に他の客はいなかった。同日午後9時9分頃、被告人の退店に際し、被害者が写真を撮ろうと言い、Cは、本件店舗前付近で、被害者、被告人と共に並んだ写真を撮影し、被害者及びCは、5階から本件エレベーターに乗る被告人を見送った。 イ 本件エレベーターは被告人を乗せて1階に下がったが、その後すぐに1階から4階まで上がり、その後5階まで上がり、更に4階まで下がった。本件エレ 3 ベーターが、この動きの中でいずれかのフロアで1分くらい停止することはなかった。 ウ Cは、店内の掃除等を終え、本件店舗を出て、本件エレベーターに乗って1階で降り、同日午後9時29分頃、1階出入口から本件ビルを出た。Cが本件店舗を出た時点で、被害者は本件店舗内に一人になった。 エ 1階で停止していた本件エレベーターが、4階、1階、5階、4階、1階の順に移動し、その直後である同日午後9時57分頃、被告人が1階出入口から本件ビルを出た。 オ 被害者は、同日午後9時29分頃、知人に対し、「そうですね!まだ店で片付けしてますけど22時には出れそうです!」とのLINEメッセージを送った。被害者の携帯電話機は、同日午後10時8分頃の被告人からのLINEメッセージを受信せず(この時、同携帯電話機は機内モードに設定されておらず、そのバッテリー残量は27%であった。)、その後警察官がこれを押収し、解析を開始するまで、それまでに送られたLINEメッセージを受信しなかった。 カ 同日午後4時 機は機内モードに設定されておらず、そのバッテリー残量は27%であった。)、その後警察官がこれを押収し、解析を開始するまで、それまでに送られたLINEメッセージを受信しなかった。 カ 同日午後4時45分から同月12日午前6時までの間に1階出入口から本件ビルを出入りした本件店舗の関係者以外の者合計18名のうち12名は、本件ビルに立ち入った後、約1分ないし3分後には本件ビルを出た。その余の6名は、本件ビル7階にある店舗の関係者であった。 3 以上によれば、本件犯行は本件当日午後10時8分頃までにされた可能性が極めて高いところ、被告人に犯行の機会があり、また、被告人が、同日午後9時9分頃に本件店舗を出た後、同日午後9時57分頃に本件ビルを出るまでの間、本件ビル内で不審な行動をとっていたこと(被告人の捜査段階におけるこれに関する供述は信用できない。)が認められる。また、1階出入口を通らずに外部から本件ビルの非常階段に侵入するには、①本件ビル東側にある薬屋の倉庫との間のスペースからのルート、②屋上からのルートが考えられるが、①について、そのためには前記薬屋の倉庫の屋根を通る以外に現実的にはないところ、そこに至る 4 にも付近の商店街のアーケード部分からの侵入を想定しなければならない上、前記薬屋の倉庫の屋根と中2階の非常階段を撮影した防犯カメラの判示の日時前後の映像を見た警察官によってそのような人は確認されず、関係証拠により認められる前記薬屋の倉庫の屋根の状況も含め、前記薬屋の倉庫の屋根から人が侵入した形跡は見当たらないのであり、②についても、そこから人が侵入した場合、本件ビル8階の防犯カメラでその人を認識できるところ、その判示の日時前後の映像を見た検察事務官によってそのような人は確認されなかったのであって、結局、判示の日時前後において こから人が侵入した場合、本件ビル8階の防犯カメラでその人を認識できるところ、その判示の日時前後の映像を見た検察事務官によってそのような人は確認されなかったのであって、結局、判示の日時前後において、人が1階出入口を通らずに外部から本件ビルの非常階段に侵入した可能性は極めて低いことが認められる。 もっとも、被告人以外の者に、犯行の機会が物理的に一切なかったとまではいえない。 4 大阪府警察科学捜査研究所の総括研究員である証人E(以下「E」という。)の公判供述等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 同月18日に押収された被告人のビジネスシューズにつき、その右足つま先部にその擦過痕に入り込んだ状態の血痕様のものが、その右足外側ソール部につま先にかけて擦過血痕様のものが、その右足内側ソール部に点状の飛沫血痕様のものが、その左足内側側面部に面状に付着した擦過血痕様のものが確認された。 前記の血痕様のものを基に、いわゆるSTR型検査によるDNA型鑑定を実施した結果、前記左足シューズに付着したものについては、被害者のDNA型と個人識別に用いる21座位全て同じDNA型が、前記右足シューズに付着したものについては、被害者のDNA型と前記21座位のうち18座位につき同じDNA型が検出された(残りの3座位については明確にできなかった。)。 同月22日に押収された被告人のスーツジャケットにつき、その右側ポケットのフラップ部内側に血液の付着が認められ、これを基に前記と同様のDNA型鑑定を実施した結果、被害者のDNA型と個人識別に用いる21座位全て同じDNA型が検出された。 5 5 証人Cの公判供述によれば、同人が本件犯行より前の機会に被害者が出血したと認識したことはないことが認められるが、これに加え、前記フラップ部分や前記シュー DNA型が検出された。 5 5 証人Cの公判供述によれば、同人が本件犯行より前の機会に被害者が出血したと認識したことはないことが認められるが、これに加え、前記フラップ部分や前記シューズに前記のとおり血液が付着していた状況等からして、これらのいずれの血液も本件犯行以外の機会に付着したという可能性はおよそ考え難い。 6 さらに、証人C及び同Eの公判供述等の関係証拠によれば、本件当日の本件店舗の開店前に前記女性従業員が本件店舗内の掃除をした際には、被告人の結婚指輪は床面に落ちていなかったこと、同月15日にされた本件店舗内における捜索差押え等の際に接客スペースの床面から被告人の結婚指輪が発見され、そこに付着した微物について、これを基に前記と同様のDNA型鑑定を実施した結果、被害者のDNA型と個人識別に用いる21座位のうち16座位につき同じDNA型が検出された(残りの5座位については不詳との結果であった。)ことが認められる。 7 その他、関係証拠によれば、被告人が、本件犯行後に本件店舗内の天井から外され、SDカードが抜き去られた防犯カメラの存在や、本件店舗内から発見された同店舗ドアの合鍵の保管場所を、本件犯行より前の時点で知っていたことなどが認められ、このような事実は被告人が犯人であることに沿うものである。 8 以上を総合すれば、常識に照らして、被告人が、本件当日午後9時29分頃から同日午後9時57分頃までの間に、本件店舗において、被害者を判示のとおり殺害した犯人であると認められる。 弁護人は、被告人が第三者による犯行の場面に出くわしてしまい、犯人から脅され、今も心理的に脅され、真実を話せないでいる可能性を主張する。しかし、これまでみたことに加え、本件犯行の後の時点で被告人が被害者に対してLINEメッセージを送っていることな てしまい、犯人から脅され、今も心理的に脅され、真実を話せないでいる可能性を主張する。しかし、これまでみたことに加え、本件犯行の後の時点で被告人が被害者に対してLINEメッセージを送っていることなどからしても、被告人が第三者による犯行の場面に出くわしたとは考えられず、同主張は採用できない。弁護人のその余の主張を踏まえても、前記認定に合理的な疑いを差し挟む余地はない。 なお、本件犯行の動機に関して、関係証拠によれば、被告人が、被害者が本件 6 店舗を経営する前に勤務していた店舗にいたときからの客であり、令和2年末に本件店舗がプレオープンして以降、本件店舗の臨時休業期間等もある中で80回以上来店していること、令和3年元旦から本件当日まで、被害者に対し1日も途切れることなくLINEメッセージを送っていたこと、同年1月18日から19日まで、同月31日から同年2月1日まで、同年3月1日から2日まで、多数回にわたりLINEで、一方的に電話を掛けたりメッセージを送るなどしていたこと、そのメッセージの中には、被害者に対し、かわいい、声も素敵、嫌いになることができないといった記載があることなどが認められる。このようなことからすると、被告人に被害者への好意や強い執着があり、他方、好意がそのまま被害者に受け入れられなかったことが本件犯行の動機に関係しているとみられる。もっとも、本件犯行前の約3か月間につき、被害者が被告人を拒絶するなどの意思を示した客観的な証拠がないことや、被告人が本件当日に本件店舗でもてなしを受けた際に異変が見られないことなどもあり、それがどのように被害者への殺意に結び付いたのか、立ち入って断定することまでは困難である。ただ、いずれにしても、被告人が本件犯行の犯人であるとの認定を妨げるものではない。 【法令の適用】罰条 れがどのように被害者への殺意に結び付いたのか、立ち入って断定することまでは困難である。ただ、いずれにしても、被告人が本件犯行の犯人であるとの認定を妨げるものではない。 【法令の適用】罰条 刑法199条刑種の選択 有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入 刑法21条訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)【量刑の理由】本件は、被害者が経営するカラオケパブの常連客であった被告人が、客としてその店舗に2時間ほどいて退出した後、そこに戻り、被害者に対し、刃物で、多数回にわたりその生死に直結する部位である頸部、胸部等を突き刺すなどして殺害した重大事案である。犯行の動機につき、詳細に明らかにすることは困難であるが、被害者の落ち度などは見受けられないのであって、身勝手なものであることは間違い 7 ない。強固な殺意の下にされた無慈悲で残酷な行いである。本件犯行に要した時間だけでなく犯行現場での罪証隠滅行為に要したそれを合わせても短いことなどからみても、相当に計画的な犯行といえ、強く非難されなければならない。突如襲われ、身を守ろうとするもかなわず、命を落とした被害者の無念は察するに余りあり、また、遺族の衝撃と悲しみは計り知れない。他方、当公判廷における被告人の供述も含め、被告人の犯行後の言動に反省を見いだすことはできない。 検察官は、被告人に無期懲役刑を求める。しかし、検察官が、同種事案の量刑傾向として主張する裁判員量刑検索システムの検索条件の設定(殺人、単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数:1件、被告人から見た被害者の立場:関係なしorその他・不明、量刑上考慮した前科の有無:すべてなし)のうち、同システムの検索条件に、被告人から見た被害者の立場の条件に「知人・ 同一又は同種の罪の件数:1件、被告人から見た被害者の立場:関係なしorその他・不明、量刑上考慮した前科の有無:すべてなし)のうち、同システムの検索条件に、被告人から見た被害者の立場の条件に「知人・友人・勤務先関係」というものがありながら、これを選択しなかった理由を明らかにしておらず、また、その検索結果によれば、無期懲役刑が宣告された事案が幾つかあることは確かであるが、殺人罪だけでなく性犯罪を犯した責任も負ったものが大半を占めていることなどにも照らせば、その検索結果に、本件の量刑を検討するに当たって中心的な資料とするふさわしさまでは見て取れなかった。 そこで、他にも同システムの検索条件を様々に設定して更に量刑傾向の把握に努め、同種の裁判員裁判における他の事案との公平を踏まえつつ、被告人が殺人罪のほかに責任を問われている罪がなく、前科がないことなどをも考慮し、有期懲役刑を選択した上で、その最高刑である懲役20年の刑に処することとした。 (求刑 無期懲役)令和4年10月24日大阪地方裁判所第6刑事部 裁判長裁判官 大 寄 淳 8 裁判官 安 福 幸 江 裁判官嶋 玲 哉

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