令和5(わ)2194 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反

裁判年月日・裁判所
令和7年2月21日 名古屋地方裁判所
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判決文本文6,330 文字)

主文 被告人を懲役2年及び罰金80万円に処する。 未決勾留日数中220日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、東京都新宿区甲町乙丁目丙番丁号戊所在のホストクラブ「A」の責任者として同店の業務全般を統括管理していたものであるが、ホストとして同店で接客等の業務に従事していたB(分離前の相被告人。)と共謀の上、法定の除外事由がないのに、同店内において、以下の各行為に及び、もってそれぞれ犯罪収益等を収受した。 第1 令和3年10月1日頃、CがDからだまし取って得た犯罪収益等である現金1370万円を、その情を知りながら、Cから飲食代金として受領した。 第2 令和4年2月25日頃、CがDからだまし取って得た犯罪収益等である現金1000万円を、その情を知りながら、Cから飲食代金の前受金として受領した。 第3 同月26日頃、CがDからだまし取って得た犯罪収益等である現金480万円を、その情を知りながら、Cから飲食代金の前受金として受領した。 (事実認定の補足説明)第1 争点本件の争点は、Cから受領した現金が犯罪収益であることの知情性が認められるか否か、被告人とBの間の共謀が成立するか否かである。 第2 当裁判所の判断 1 関係各証拠によれば、以下の各事実が認定できる。 ⑴ 被告人は、本件当時、Aの店舗責任者として業務全般を統括する立場にあり、固定給20万円(令和3年7月頃から30万円)及び特別手当として店の 拠によれば、以下の各事実が認定できる。 ⑴ 被告人は、本件当時、Aの店舗責任者として業務全般を統括する立場にあり、固定給20万円(令和3年7月頃から30万円)及び特別手当として店の売上げ0.3%(令和4年から0.5%)を報酬として受け取っていた。また、被告人は、Aに週6回の頻度で出勤していた。 ⑵ 令和3年3月頃から、Aに、Cが来店するようになり、Bが担当ホストとして接客を行っていた。また、Cは、来店当初から、Aに対し、複数回にわたり1000万円を超える高額会計をしていた(甲1、2、5)。 ⑶ 令和3年から令和4年にかけて、Cは、知人男性から詐取した金銭を、Aの飲食代金やその前受金の支払いに費消していた。Bは、前記支払代金に、犯罪収益が含まれている可能性を認識しながらも、Cからこれらを受け取っていた(甲20)。 ⑷ Cは、来店当初から、SNS上で「E」という名前のアカウントを持ち、被告人やBも前記アカウントの存在を認識していた。Cは、前記アカウントを利用し、男性から金銭を詐取するマニュアルを「F」と名付けて販売していた(甲1)。 ⑸ 令和3年10月1日より前から、被告人は、複数回にわたりCのテーブルについて接客を行った。 ⑹ 同年7月13日、動画投稿サイトYouTubeに開設されている「G」で、Cが男性から金銭を詐取していることや、詐取した金に関する脱税を指摘する趣旨の動画(以下、「本件動画」という。)が公開された(甲1、19)。本件動画公開後、CやB、Aがインターネット上で非難を浴びた。 ⑺ 本件動画が公開される前と後の計2回、被告人は、Bから、本件動画に関する相談を受けた。 ⑻ Cは、判示第1から第3のとおり、3度にわたり、Dから詐取した犯罪収益等である現金合計2850万円をA 本件動画が公開される前と後の計2回、被告人は、Bから、本件動画に関する相談を受けた。 ⑻ Cは、判示第1から第3のとおり、3度にわたり、Dから詐取した犯罪収益等である現金合計2850万円をAの飲食代金又はその前受金として支払い、Bは犯罪収益が含まれている可能性を認識しながら、これらの現金を受領した。 Cの年齢は当時23歳であった。 2 Bの証言について⑴ Bは、本件動画について公開後に被告人に相談したこと(前記1⑺)に関し、大要、以下のとおり証言した。 Bは、本件動画が公開された約2週間後、本件動画の炎上を不安に思い、Aのバックヤードにて、被告人に、動画による炎上や、Cの詐欺、Cの脱税により自らも脱税とならないかなどを相談した。Bが、「大丈夫ですかね。」と尋ねると、被告人から、B自身がCの詐欺に手を貸すことはしないこと、確定申告をしっかり行うことなどの助言を受けた。Bと被告人の会話の中で、話がかみ合わなくなるといったことはなかった。また、被告人は、本件動画の公開に関して、余計なことをされたなどの趣旨の発言をした。 ⑵ 前記1⑹の本件動画の内容やこれによりBやAが非難を受けている状況に照らすと、Bが不安を感じ、店舗責任者である被告人に動画の件を相談したという証言内容は、被告人による助言の内容も含めて自然かつ合理的であって、相談時の客観的状況とも整合している。また、Bは、被告人がBとの会話の中で本件動画を視聴したと明言したことはないなどと、被告人にとって有利な証言もしていることから、殊更に被告人を不利に陥れる態度も見受けられない。 そして、前記証言当時、B自身も本件について公判係属中であったものの、判決宣告を待つ身であり、既に自身の公判でも同旨の供述をしていることから、あえて偽証罪の制裁が科されるおそれの も見受けられない。 そして、前記証言当時、B自身も本件について公判係属中であったものの、判決宣告を待つ身であり、既に自身の公判でも同旨の供述をしていることから、あえて偽証罪の制裁が科されるおそれのある公判廷において虚偽証言をする理由は見当たらない。よって、B証言には信用性が認められる。 これに対し、弁護人は、B自身がCの詐欺行為には関心が薄く、LINE等のチャットでは被告人に相談したこともなかったことなどを挙げ、Bは、被告人に対し、本件動画について、Cが犯罪をしている、脱税をしていると叩かれている旨抽象的な説明をしたに過ぎないと考えるのが合理的であるから、詐欺行為について被告人から助言を受けた旨述べるB証言は不合理で信用できな い旨主張する。しかしながら、本件動画がCの詐欺と脱税を指摘するものであることは、公開前にBから相談を受けた際に聞いていた旨被告人自身も認めている上、チャットでの相談がなかったからと言って、口頭での相談がなかったことにはならないから、弁護人の指摘は当たらない。 ⑶ したがって、Bが、本件動画について、前記⑴の証言内容のとおり被告人に相談したことが認められる。 3 検討⑴ 前記1で認定した事実によれば、Cは、若年でありながら、来店当初から1000万円を超える高額会計を複数回も行うAの上客であり(前記1⑵⑻)、SNS上で詐欺行為を指南するマニュアルを販売し、インターネット上の動画においてその詐欺行為が非難され、A自体も批判にさらされている状況であった(前記1⑷⑹)。このような状況下において、店舗責任者として店の業務全般を管理し、日頃から店に出て、Cの接客も担当したことがある被告人(前記1⑴⑸)としては、Aへの影響を念頭に、本件動画の内容やCの動向に関心を示すのが自然であるし、複数 、店舗責任者として店の業務全般を管理し、日頃から店に出て、Cの接客も担当したことがある被告人(前記1⑴⑸)としては、Aへの影響を念頭に、本件動画の内容やCの動向に関心を示すのが自然であるし、複数回もの高額会計の原資が、単に適法な収益のみならず何らかの犯罪収益も含まれている可能性に思い至ることは容易である。しかも、被告人は、本件動画に係るBの相談に対して、特に話がかみ合わないなどといったこともなく、Cの詐欺に手を貸さない、確定申告をしっかり行うなどといった本件動画の内容に沿った助言をしている(前記1⑺、2⑴)ところ、その助言内容からすれば、被告人は、本件動画の内容を把握していたものと認められる。そして、本件動画の内容が、Cが男性から金銭を詐取していること等を指摘するものであったこと(前記1⑹)にも照らせば、前記1⑻の当時、被告人には、少なくともCが詐欺行為に及んでいる可能性がある旨の認識があったと認められ、Cの支払いの原資が詐欺行為による犯罪収益であるかもしれないという未必的な認識を有していたものと認められる。 ⑵ 以上の事実に加えて、Bから本件動画の内容を前提とした相談を受けており、 それに対して助言を与え、Cの接客を止めようとしなかったこと(前記2⑴)や、店の売上げに応じた特別手当を受け取っており(前記1⑵)、犯罪収益を収受することによる利得を得ていたことからすると、Bとの間で犯罪収益の収受につき共謀を遂げていたものと評価できる。よって、Bとの共謀についても認められる。 4 被告人の公判供述について⑴ 被告人は、公判廷において、①Cが逮捕されるまで本件動画を視聴したことはない、②Bから相談を受けたが、「詐欺」と言われているCの行為はパパ活のことであると思い、本件動画の配信者が迷惑系ユーチューバーであるとの認 判廷において、①Cが逮捕されるまで本件動画を視聴したことはない、②Bから相談を受けたが、「詐欺」と言われているCの行為はパパ活のことであると思い、本件動画の配信者が迷惑系ユーチューバーであるとの認識から、Cの詐欺は面白おかしく言われているだけで、実際に詐欺をしているとは思っていなかった、③Bからは専ら脱税の件で相談を受けており、Cの詐欺に手を貸さないようになどと助言したことはない旨供述している。 ⑵ しかしながら、前記①については、本件動画は店の上客であるCに関するものである上、本件動画を機に、C個人への批判に留まらず、BやA自体にまで非難が及んでおり、そのことによりBから2度も相談を受けている状況において、本件動画の内容を確認していないというのは、店舗責任者の行動としては不合理である。なお、被告人が所有するアカウントでのYouTube再生履歴では、本件動画の再生履歴は見つからないものの、別アカウントや他の媒体等でも本件動画は視聴可能であることなどから、被告人が本件動画を視聴した事実はないことを裏付ける事情には当たらない。 また、前記②については、いわゆるパパ活だからといって詐欺が排除されることにはならないし、本件動画の配信者が迷惑系ユーチューバーであったとしても、本件動画を見た第三者からの批判が高まっている中で、Cが実際に詐欺をしている可能性に思い至らないというのも考え難い。 さらに、前記③についても、Bが自身の脱税を心配していたのはBも述べるとおりであるが、相談の契機となった本件動画の非難の中心はCの詐欺行為で あったことからすれば、Cの詐欺行為についてBが一切話題にしないというのも、被告人が一切助言しないというのも不自然である。 以上の理由から、被告人の公判供述は到底信用できない。 5 弁護人の主張 からすれば、Cの詐欺行為についてBが一切話題にしないというのも、被告人が一切助言しないというのも不自然である。 以上の理由から、被告人の公判供述は到底信用できない。 5 弁護人の主張⑴ 弁護人は、①20代女性が1000万円を超える支払いを行うことは、ホストクラブにおいて日常的であること、②仮に、本件当時につき被告人が本件動画を視聴したとしても、被告人は、本件後にCのAへの迷惑行為に関して警察に相談をした際、警察官から、Cの詐欺に関して詐欺にはならないという回答を得ていたことから、被告人がCの詐欺行為を理解することは困難であること、③仮に、Bが被告人にCの詐欺行為について相談したとしても、被告人はBからCが具体的にどのように詐欺行為をしているか等の説明や相談は受けていなかったのであるから、被告人がCの支払い原資が現実の具体的な詐欺行為によって得られたものであることまで認識することは困難であるなどを指摘し、被告人の知情性やBとの共謀は推認できない旨主張する。 しかしながら、前記①については、一般的に見て若年の女性が1000万円を超える高額な支払いを複数回行うことは異様である上、本件においては、Cの詐欺行為がインターネット上で非難されているなどの事情も重なっており、Cの高額会計は被告人の知情性及びBとの共謀を推認させることに疑問は生じない。前記②については、本件当時(前記1⑻)において犯罪収益であることの未必の故意を有していた以上、それ以降の事情は影響しない。さらに、前記③についても、Cが男性から金銭を詐取していること等を指摘する本件動画の内容について被告人が把握していたと認められるのは、前記3のとおりであるから、Cの支払い原資が、男性に対する詐欺行為によって得られたものである可能性を具体的に認識していたものといえ 摘する本件動画の内容について被告人が把握していたと認められるのは、前記3のとおりであるから、Cの支払い原資が、男性に対する詐欺行為によって得られたものである可能性を具体的に認識していたものといえ、本件における犯罪収益の知情性に欠けるところはない。 よって、弁護人の主張は採用できない。 第3 結論以上より、前記1⑻の各現金の受領につき被告人に犯罪収益であることの知情性が認められ、Bとの共謀も成立する。 (量刑の理由)本件は、Aの店舗責任者であった被告人が、ホストと共謀の上、前記ホストの上客の一人から、同人が詐欺によって得た現金であることを知りながら、3度にわたって飲食代金又は前受金の名目で現金を収受した事案である。 犯罪収益に相当する額の合計は2800万円を超え、被告人らの行為によって、犯罪収益の出所の特定が困難になるなど犯罪収益の保持、運用が助長されているのであり、結果は重大である。被告人は、前記ホストからの相談等で、前記上客の行為が詐欺であるなどとインターネット上で非難されていることを知りながら、前記ホストが前記上客から犯罪収益を収受することを容認し、前記犯罪収益を含む店の売上げの一部を自らの報酬として得ていたのであり、その経緯に酌むべき事情はない。被告人が店舗責任者として前記上客の来店を断ることのできる立場にあったこと、本件犯行を否認していることも踏まえると、被告人の刑事責任は軽視できない。 他方、本件において被告人が利得した額は約10万円であり、収受した犯罪収益等の額に比して少ないにもかかわらず、被告人は、詐欺被害者に対して、1140万円を支払っており、既に前記ホストが被害弁償した額も合わせれば被告人らが収受した現金の全額につき被害回復が果たされていることは、被告人にとって有利に酌むべき事 告人は、詐欺被害者に対して、1140万円を支払っており、既に前記ホストが被害弁償した額も合わせれば被告人らが収受した現金の全額につき被害回復が果たされていることは、被告人にとって有利に酌むべき事情である。その他、被告人に前科がないこと、共犯者の刑との均衡も勘案し、被告人を主文掲記の懲役刑及び罰金刑に処した上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑懲役2年6月及び罰金100万円)令和7年2月21日名古屋地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官森島聡 裁判官津島享子 裁判官藤井茜

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