平成15年11月6日宣告裁判所書記官平成15年(わ)第309号殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役4年以上7年以下に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,A,B,C,D及びEらと共謀の上,V(当時17歳)に集団リンチによる制裁を加えようと企て,平成15年1月8日午後10時10分ころから午後11時ころまでの間,福岡県a郡b町cd番e所在の甲池東側において,同人に対し,こもごもその頭部及び腹部等を多数回手拳で殴打したり,足蹴にするなどの暴行を加え,さらに,同人が死亡するに至るかも知れないことを認識しながら,あえて,はさみでその胸部を突き刺すなどしたが,その行為によっては同人の胸部下縁に深さ約10センチメートルでその先端が肝臓左葉表面に達する刺創を負わせるなどしたにとどまり殺害には至らなかったものの,前記の足蹴にするなどの暴行によって,同日午後11時過ぎころ,同所付近において,同人を肝臓等破裂による出血性ショックにより死亡するに至らせたものである。 (証拠の標目)〈略〉(事実認定の補足説明)第1 本件公訴事実の要旨及び争点 1 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は,「被告人は,A,B,C,D及びEらと共謀の上,V(当時17歳)に集団リンチによる制裁を加えようと企て,平成15年1月8日午後10時ころから午後11時ころまでの間,福岡県a郡b町cd番eの甲池東側において,同人に対し,こもごもその頭部及び腹部等を多数回手拳で殴打したり,足蹴にするなどの暴行を加え,さらに,殺意をもって,はさみでその胸部を突き刺すなどし,よって,同日午後11時ころ,同所付近において,同人を肝臓等破裂による出血性ショックにより死亡させて殺害した。」と 蹴にするなどの暴行を加え,さらに,殺意をもって,はさみでその胸部を突き刺すなどし,よって,同日午後11時ころ,同所付近において,同人を肝臓等破裂による出血性ショックにより死亡させて殺害した。」というものである。 2 検察官及び弁護人の各主張並びに争点検察官は,以上の公訴事実について,まず,殺意の発生時期に関し,①被告人には,当初の暴行を加えた段階からVが死んでも構わないという気持ち,すなわち未必の殺意があったと認めるのが合理的であるが,②仮にこれが認められないとしても,少なくとも被告人がはさみを用いた犯行を企図した段階においては,殺意を有していたと認めることができるとした上で,被告人の行為とVの死亡との間の因果関係に関し,③被告人は,殺意を抱いた後,Vの腹部を複数回にわたり足蹴にするなどの暴行を加えており,かかる行為によって,少なくともVの死期が早められたのは明らかであるから,被告人の行為とVの死亡との間に因果関係を認めることができるとして,被告人には殺人罪が成立する旨主張する。 これに対し,弁護人は,①被告人においてVに対する殺意が生じた時期は,はさみによる刺突行為をする直前,すなわち,被告人がFらに命じてはさみを持ってこさせた後,Vに「チクると。」などと尋ねたのに対し,Vが「うん。」と答えた時点であり,②このように殺意を抱いた被告人がVに対して加えた暴行行為の内,死の結果を発生させる客観的危険性を有するものとして,殺人罪の実行行為と評価できるのは,はさみによる刺突行為だけであるとした上で,③Vの死因は肝臓,腸管膜破裂による出血性ショックであって,はさみによる刺突行為とVの死亡との間に因果関係を認めることはできないから,本件において,被告人に殺人罪は成立せず,傷害致死罪と殺人未遂罪とのいわゆる包括一罪が認 裂による出血性ショックであって,はさみによる刺突行為とVの死亡との間に因果関係を認めることはできないから,本件において,被告人に殺人罪は成立せず,傷害致死罪と殺人未遂罪とのいわゆる包括一罪が認められるに過ぎないと主張する。 したがって,本件の中心的な争点は,①被告人の殺意の発生時期,②殺意発生後に被告人がVに対して加えた暴行行為の殺人罪としての実行行為性,③実行行為性が認められる行為とVの死亡との間の因果関係の3点である。これらの点について,当裁判所が,判示のとおりの事実認定に至った理由を,以下補足する。 第2 前提事実 1 犯行に至る経緯関係各証拠によれば,被告人が本件犯行に至った経緯として,以下の各事実を認めることができる。 (1) 被告人は,平成13年9月ころ,以前より交友関係にあった,福岡県a郡b町付近を活動拠点とする暴走族「乙」に正式に加入したが,その後間もない同月11日に,保護事件によって中等少年院送致処分を受けた。少年院には約1年間入院し,平成14年8月1日に仮退院をしたが,その後も乙の構成員として活動し,本件時においては同暴走族における特攻隊長の地位にあった。 本件時において,乙には,被告人と同学年の構成員としてBが,一学年下の構成員としてA,C,D裕哉及びEが,二学年下であり中学生の構成員としてF,G及びHらがおり,被告人より一学年下のAが,総長としての役割を務めていた。 (2) 一方,被告人やBと同学年であったVは,被告人が中等少年院送致処分を受けた後に乙の構成員となったが,被告人が仮退院をしたころには乙から抜け,同暴走族とは疎遠となっていた。 被告人自身,Vとは同窓であったこと以上にさしたる関係を有さず,本件直前まで,同人が乙の構成員であったことすら知らなかった。むしろ被 したころには乙から抜け,同暴走族とは疎遠となっていた。 被告人自身,Vとは同窓であったこと以上にさしたる関係を有さず,本件直前まで,同人が乙の構成員であったことすら知らなかった。むしろ被告人は,Vが勝手に乙の特攻隊長を名乗ったとして反感のようなものを抱いており,Aら周囲の人間に「クラさないけん。」などと漏らしたこともあった。 (3) 平成15年1月7日午前1時ころ,被告人は,b町内の丙公園付近などで,E,C,G及びHらと共に,シンナーを吸入したり雑談をしたりしていたが,そこに,それまでしばらくの間顔を見せることのなかったVが,再び乙に加入する意思を示して現れた。かかるVに対し,被告人は,乙の特攻隊長を名乗った件を問い詰めたが,Vから話を聞いて,誤解であったと納得した。 その後,Vは,被告人らに対して,乙を大きくしよう,被告人を総長にして自分が特攻隊長をやるなどと言い出した。Vは,その場にいた者を付近の女友達宅に招き入れて同様の話をし,その後,再び丙公園に赴いて,AやFらを呼び出した上で,同人らに対しても同様の話をした。これを聞いたAは総長である自分の了承も得ないまま勝手なことをいうとしてひどく立腹し,Vにつかみかかって殴りつけ始めたが,被告人が間に入ってけんかを止めた。そして,Vは,部品の調子が悪いことを理由に貸すのを嫌がっていたCから単車を借り受け,2,3人と共に付近を暴走して回るなどしたが,夜が明けたころには,解散することにした。その際,Vは,Cの単車を借りて乗って行ったが,当初の約束どおりに返さなかった。 (4) 同月8日午後8時ころ,Vから呼び出しを受けたことなどから,被告人,A,C,B,D及びEらが,Vと共に前記女友達宅に集まり,シンナーを吸入したり雑談をしたりしていたが,その場で,Vは,Cに対 4) 同月8日午後8時ころ,Vから呼び出しを受けたことなどから,被告人,A,C,B,D及びEらが,Vと共に前記女友達宅に集まり,シンナーを吸入したり雑談をしたりしていたが,その場で,Vは,Cに対して前記単車を貸せと迫ったり,自分が特攻隊長をやるなどと前記と同様の話をしたり,Cら後輩に対して「タイマン張ろう。」などと挑発したりするなどした。かかるVの言動に対して,一旦は辞めたはずのVが勝手に乙を仕切ろうとしている上に,Cの単車も無理矢理借り受けようとしている等と感じて腹を立てたAやBが,Vに分からないように,携帯電話のメールのやり取りや小声での伝言などを経由することにより,順次明示もしくは黙示的に,Vに対して皆で制裁を加える旨の提案をし,その場にいた他の者らもこれに賛同して,もって,この時点において,被告人,A,C,B,D及びE(以下,同人らを「被告人ら6名」と総称することもある。)の間で,Vに対して全員で暴行を加える旨の共謀が成立した。 (5) 被告人ら6名は,同日午後9時30分ころ,Vを伴って前記女友達宅を出て,同日午後10時ころには,判示の甲池東側に位置するコンクリートで覆われた護岸に赴いた。 2 犯行状況(1) 創傷の部位,程度及びVの死因鑑定書によれば,以下の事実が認められる。 ア創傷の部位,程度本件犯行の結果,Vの遺体には,外部所見で「頭部の皮下出血,腫脹,表皮剥脱(いずれも複数)」,「顔面上半ほぼ全般及び左右共耳から耳の周囲にかけての広範囲に皮下出血,一部に腫脹,表皮剥脱」,「顔面前額部中央,左右内眼角の間,左眼裂上方,右頬部後下縁に円形焼け焦げ様皮膚欠損複数」,「上・下唇口腔側粘膜に広範囲の粘膜下出血,強い腫脹,粘膜の創多数」,「頚・項部の皮下出血,表皮剥脱(多数)」,「背 部中央,左右内眼角の間,左眼裂上方,右頬部後下縁に円形焼け焦げ様皮膚欠損複数」,「上・下唇口腔側粘膜に広範囲の粘膜下出血,強い腫脹,粘膜の創多数」,「頚・項部の皮下出血,表皮剥脱(多数)」,「背部,腰部,腎部に広範囲の表皮剥脱極めて多数,一部周囲に皮下出血」,「左右上肢の皮下出血,表皮剥脱(いずれも多数)」,「左右下肢の表皮剥脱(多数),皮下出血(複数)」,「陰茎後面の黒褐色変色部2個,遠位側表皮欠損,周囲にわずかの焼け焦げ」,内部所見で「頭蓋(頭頂部広範囲,左右側頭部)皮下軟部組織内出血,左右側頭筋強く挫砕」,「頚部器官中,舌筋内出血」,「右腎臓腎門部破裂,周囲後腹膜下に多量出血」がそれぞれ認められた他,その胸腹部に下記のとおりの創傷が認められた。 (ア) 「胸部下縁正中の左から胸腔内,腹腔内に至り,肝臓表面に極く浅い創を作って終わる創」すなわち,胸部下縁で正中の左3.5センチメートル,足底から約114センチメートルの所から左やや上に走る長さ0.9センチメートルの創であり,創洞ほぼ後ろに向かい,直下の肋骨に至り,左第7肋骨肋軟骨を約0.7センチメートル切断して胸腔内に至り,胸腔内においては,左横隔膜を胸腔側で約0.5センチメートル,腹腔側で約0.2センチメートル切断,貫通して,肝臓左葉表面に長さ約0.1センチメートルの極く浅い創を作って終わる,深さ約10センチメートルの創。 なお,この創周囲の胸腹部には,次の三つの表皮剥脱が認められた。 「上記創の上左方の延長線上で左乳頭の左微か上3.8センチメートルのところに,径約0.4センチメートルの円形の表皮剥脱」「左乳頭の下右約5センチメートルのところに,米粒大及び粟粒大の表皮剥脱」「上腹部右側に,長さ0.4センチメートル,幅0.1センチメートルの表 に,径約0.4センチメートルの円形の表皮剥脱」「左乳頭の下右約5センチメートルのところに,米粒大及び粟粒大の表皮剥脱」「上腹部右側に,長さ0.4センチメートル,幅0.1センチメートルの表皮剥脱」(イ) 「肝臓破裂及び腸間膜破裂」すなわち,肝臓は,右葉中央やや右側に前面で長さ10センチメートル,後面で長さ6センチメートルの貫通性の破裂が認められ,内部において強く挫砕されており,肝鎌状間膜付着部にも破裂創が認められ,いずれも周囲に出血を伴っている。また,腸間膜は胃の周囲を中心として所々で破裂し,周囲に出血を伴っている。そして,腹腔内には血性液1000ミリリットルが認められた。 イ Vの死因解剖医によれば,Vの死因は,前記の創傷中,肝臓破裂及び腸間膜破裂によって腹腔内への大量の出血が認められ,他に疾病等の致死的疾病が認められないことから,出血性ショックによるものと判断されるとともに,解剖を開始した平成15年1月9日午後2時35分までの死後経過時間が大約15ないし16時間位と推定され,したがって推定死亡日時は,大略同年1月8日午後11時ころと判断された。 また,解剖医によれば,かかる肝臓破裂及び腸間膜破裂は,例えば,手拳による殴打,足による蹴り,靴による踏みつけ等の暴力の際に,腹部が前後方向に強く圧迫されたことによって生じたものと考えられると判断された。 (2) 暴行状況このようなVの受傷状況,Vの着衣の状況や共犯者らの携帯電話の通話記録等の客観的事実に照らして,外形的な暴行状況に関する被告人供述及び共犯者らの各供述を検討すると,平成15年1月8日午後10時ころ,判示の甲池東側に位置するコンクリートの護岸上に移動した被告人ら6名が,Vに対して,少なくとも以下の経過で暴行を 関する被告人供述及び共犯者らの各供述を検討すると,平成15年1月8日午後10時ころ,判示の甲池東側に位置するコンクリートの護岸上に移動した被告人ら6名が,Vに対して,少なくとも以下の経過で暴行を加えた事実を認めることができる。 ア遅くとも午後10時10分ころ,いきなりAが,座っていたVの肩の辺りを蹴りつけ,その勢いでVは仰向けに倒れた。続いてCがVに近寄ると,Vは,Cの足につかみかかって,Cを倒した。そのころには,その場に居た全員が,Vの側に駆け寄って取り囲んでおり,Vを一斉に殴ったり,蹴ったりし始めた。被告人ら6名は,いずれも叫び声を上げながら暴行を振るっており,いずれもかなりの興奮状態にあった。 被告人ら6名のVに対する蹴りつけ方は,例えば,サッカーボールを蹴るように,足を後ろに引いて反動を付けてからつま先や足の甲で蹴るというものであり,蹴りつけた勢いで,Vの体の向きが変わるなどした。また,被告人ら6名のVに対する踏みつけ方は,例えば,片足を膝が直角に曲がるくらいまで上げて,そこから勢いよく足の裏全体で踏みつけるというものであった。蹴りつけも踏みつけも,いずれもVの頭,顔,腕,腹,胸,背中,肩,足と体中場所を構わず,連続的に加えられたものであった。なお,被告人ら6名の中で,Vに加えた暴行の程度は,被告人によるものが最もひどかった。 かかる暴行を受けたVは,当初は,顔や身体の正面を両腕でガードし,膝を曲げて体を小さく縮めるなどしていたが,しばらくすると,両手両足を伸ばして仰向けにのびてしまい,「うー。」「うっ。」などと小さな声を出すくらいで,全く抵抗しなくなった。 イ午後10時20分ころ,AやBから呼び出されたFとGが,判示の甲池東側のコンクリートの護岸に到着し,午後10時25分ころ 」「うっ。」などと小さな声を出すくらいで,全く抵抗しなくなった。 イ午後10時20分ころ,AやBから呼び出されたFとGが,判示の甲池東側のコンクリートの護岸に到着し,午後10時25分ころ,遅れてHが到着した。それまで,被告人ら6名は,Vに対して,前示の暴行を連続的に加えていたが,Hが到着したころ一旦暴行を加えるのを止めた。 このころ,被告人は,Bからつま先部分に鉄の入った安全靴を借りてこれに履き替え,その足で,数回に渡り,Vを蹴りつけたり踏みつけたりし,その後,再び靴を元のものに履き替えた。また,被告人ら6名は,この暴行被害を警察に話すかという趣旨で,Vに対して「チクるとや。」などと申し向け,Vが警察に被害申告しないことを明言しない等の理由で,2,3人が交互に入れ替わるような形で,前示同様の蹴りつけ,踏みつけといった暴行をペースを落として加えた。 ウその後,再び被告人ら6名は休憩を取り,タバコを吸うなどした。 このころ,Bや被告人が,吸いかけのタバコの火をVの額などに押し当てていわゆる根性焼きをし,Bが,ライターの火でVの髪の毛を焼いた。また,Bは,Vのズボンが欲しくなったとして,Vのズボンを脱がし,更には,Vの陰部や肛門近くの毛をライターの火で焼いた。Vは,ライターなどの火を当てるBらの手を払いのけるような動作をしたが,それは弱々しくゆっくりとしたものであって,Bらの手を払いのけることはできなかった。 エその後,被告人やBらは,更にVに対して,前示同様の蹴ったり,踏んだりの暴行を加えていたが,被告人は,誰かがVに対して「チクるとか。」などと尋ねたところ,Vが「うん。」などと答えたのを聞きとがめ,F,G及びHの方を向いて,「はさみ持って来い。」と怒鳴りつけた。Cがこれを諌めたが,被告人 被告人は,誰かがVに対して「チクるとか。」などと尋ねたところ,Vが「うん。」などと答えたのを聞きとがめ,F,G及びHの方を向いて,「はさみ持って来い。」と怒鳴りつけた。Cがこれを諌めたが,被告人は聞かず,「いいから早よ持ってこい。」と強い感じの口調で言ったので,HとGがはさみを取りに行った。それからまた,被告人ら6名のうちの2,3人が,Vに対して,蹴ったり踏んだりの暴行を加えた。 これに前後する午後10時47分ころには,AやBが,携帯電話のバックライトでVの顔を照らして確認し,著しく腫れ上がった顔が面白いとして,携帯電話のカメラでこれを撮影し,その画像を友人らにメールで送信するなどした。 オその後,被告人は,Vに対して,さらに「チクると。」と尋ねたところ,Vは「うん。」と答えたように見受けられた。そして,被告人は,ちょうどそのころ受け取ったはさみを手にするや,仰向けに倒れてほとんど身動きをしないVに対し,はさみを閉じたまま振り下ろすようにして,着衣の上からその腹部付近に2回程度はさみを突き立てた。被告人は,Vの着衣をめくりその傷を確認したが,大した傷は生じていなかった。続けて被告人は,着衣をめくったまま,さらに同様の態様で,胸部下縁で正中の左3.5センチメートルの位置にはさみを突き刺し,周囲の者に対し,「刺した。刺した。」「ここと,ここと,ここを刺した。」などと言った。Vは「うー。」とうなっていた。 カその後,被告人とBが,さらにVに対して暴行を加えた。 間もなくCやAが救急車を呼ぶ旨の話を始め,被告人とBも,Vに対して暴行を振るうのを止めた。もっとも,被告人は,救急車を呼ぶとの話に対して,「そんなもん,呼ばなくていい。」「このまま置いていこう。」「池に沈めるか,埋めてしまえ。」などと言った とBも,Vに対して暴行を振るうのを止めた。もっとも,被告人は,救急車を呼ぶとの話に対して,「そんなもん,呼ばなくていい。」「このまま置いていこう。」「池に沈めるか,埋めてしまえ。」などと言った。 その後,Fらが,救急車に発見されやすいよう,Vを甲池東側護岸の北端付近に位置する護岸擁壁上まで運び,午後11時16分,Hが救急車を呼ぶべく119番通報した。 カなお,上記通報を受け,消防署からは救急車が緊急出動したものの,Vを見付けることができないままに帰署しており,翌1月9日午前7時33分前ころに,通行人によって,上記護岸擁壁が途切れた先に続く土砂路面の管理道に入ってすぐ脇にある急斜面を下った土手下の,土砂,枯草,落葉等の堆積した上に,足先を土手の上側,頭部を下側に向けた状態で仰向けに倒れているVの遺体が発見された。 第3 殺意の有無及びその発生時期等以上の事実を前提に,被告人の殺意の有無,内容及びその発生時期について検討する。 1 被告人は,相当ぐったりした様子のVをなお蹴りつけたり,踏みつけたりしていた時も,Vが死ぬかもしれないということも含め,何も考えずに暴行していたと供述するのに対し,検察官は,被告人が,一連の暴行の早い段階から,Vに対する未必的な殺意を抱いていた旨主張する。 まず,本件において,被告人ら6名は,前示のとおり,集団暴行に先立って,Vに対して皆で制裁を加える旨の共謀をしたことは認められるものの,その内容は,Vを「ダゴる」「クラす」「痛めつける」といった,Vに対する暴行もしくは傷害を目的とするものだったのであって,それ以上に,Vを殺害する旨の共謀はなかったものと認められるところである。また,そのような共謀をするに至った経緯としても,乙を抜けてしばらく音沙汰のなかったVが,犯行の前日ころに現 ったのであって,それ以上に,Vを殺害する旨の共謀はなかったものと認められるところである。また,そのような共謀をするに至った経緯としても,乙を抜けてしばらく音沙汰のなかったVが,犯行の前日ころに現れて,いきなり乙の体制について口出しをするとか,後輩の単車を無理強いして借り出そうとしたという,比較的些細なことが原因となっているのであって,被告人がかかるVの言動に立腹して,皆で痛めつけることに賛同したところまでは了解可能で自然な流れであるにしても,この段階で,未必的とはいえVに対する殺意を抱くまでの強い怒りや憎しみ等といった動機が生ずるとは考え難い。 他方,前示の暴行態様を見るに,一般的に,人を殴る,蹴る,踏みつけるといった行為は,それが凶器を用いることのない暴行であるという点で,人に相当程度の傷害を負わせることは十分にあり得ても,その死の結果まで招来するのが当然だとか,容易に予想できるといった類型の暴行であるとまではいい難い。被告人ら6名は,前示のような暴行もしくは傷害の共謀に基づいて,かかる一連の暴力を振るい始めたのであるし,その途中で,根性焼き等といったまた別の悪質,陰湿な暴行が一部含まれているにしても,殴打,蹴りつけ,踏みつけといった基本的暴行態様自体は,開始の当初から,被告人自身が,はさみという凶器を持ち出しての刺突行為を行う以前の時点までは,基本的に変わらなかったとみるのが相当である。 もちろん,本件暴行が,単純に殴る,蹴る,踏みつけるといっても,特に6名もの多人数によって,コンクリートの路面上に無防備で倒れているVに対し,ところ構わずに思い切り,しかもVが痛みの刺激に対してすら,ほとんど反応を示さない状態に陥った後に至るまで,長時間にわたって断続的に行われたものであり,現実にV死亡という結果が生じていることを考 ,ところ構わずに思い切り,しかもVが痛みの刺激に対してすら,ほとんど反応を示さない状態に陥った後に至るまで,長時間にわたって断続的に行われたものであり,現実にV死亡という結果が生じていることを考えれば,客観的には,その死を引き起こすに足りるほどの重大な危険性をはらんだ,まさしく殺人の実行行為にあたり得る強度の暴行と評価できるところである。しかし,被告人は,たとえ暴行の回数自体は相当程度他の共犯者らより多かったとしても,殴る,蹴る,踏みつけるといった暴行の態様自体は,他の共犯者とほぼ同じことをしているに過ぎないし,Vが十分な反応をしなくなった後まで暴行を続けていたのも,被告人一人であったわけではない。共犯者らは,最終的にはVのために救急車を呼ぶことを決めており,Vに対する殺意までも有していたとは認められないのであるが,そのような者の中にも,被告人と共に,最後まで殴る,蹴る,踏みつけるといった暴行を振るっていた者がいたのであり,共犯者らがVの死の危険を明確に認識してその旨表明したのも,被告人がその後はさみによる刺突行為を行った後であったことを考えると,常識的には,多数回に及ぶ手酷い暴行によって次第に鈍くなっていくVの反応を見て,その生命の危険を感じ取ることが十分可能な状況にあったとしても,社会経験も不足した未成年者らである上に,当時あるいは少なくともその直前にはシンナーを吸入していて,集団的暴行行為を行うことによっていずれもかなり興奮した状態にあった被告人や共犯者らとしては,その理性的な判断力が相当程度低下し,その認識としては,Vが強い痛みを伴う筈の攻撃に対してすら十分な反応を示せない状態に陥った時点でも,なおVの死の危険を予感することなく,従前同様の暴行を継続していたということも,決してあり得ないことではないと思われる。また,被 を伴う筈の攻撃に対してすら十分な反応を示せない状態に陥った時点でも,なおVの死の危険を予感することなく,従前同様の暴行を継続していたということも,決してあり得ないことではないと思われる。また,被告人は,他の共犯者らとは異なり,その場にいた他の中学生らに対し,他の共犯者らの反対を押し切って,はさみを持ってくるよう命じているが,はさみは,もちろん十分な凶器とはなり得るにしても,それ自体が必ずしも人に対する殺傷行為に最適の道具とまではいえないし,その後はさみが来るまでの間にも,それまでのものとは明らかに程度内容,生命侵害の危険性の異なる暴行に及んだ事実は認められないのであるから,はさみを取ってくるよう指示したのも,警察への被害申告をさせないよう,Vを脅すためのものであったとする被告人の弁解を完全に排斥することはできず,結局このような指示をしたことをもって,その段階の被告人にVに対する殺意があったとまで認めることもできない。 とすれば,被告人が,はさみによる刺突行為の直前よりもさらに以前の時点で,Vの死の結果を認識し,それが生じても構わないとの殺意を抱いていたというには,なお合理的な疑いを差し挟む余地があるというべきである。 2 しかし,被告人は,その後にVに対して,はさみによる刺突行為という暴行を振るっているところであり,裁判所は,以下の理由から,被告人には,その直前の時点で,Vに対する未必的な殺意があったものと認定した。 すなわち,被告人は,中学生らに命じて取りに行かせたはさみを手にするや,ほとんど身動きをしないVに対して,人体の枢要部である胸腹部にその着衣の上から2回はさみを突き立てており,これがほとんど刺さらなかったことを確認するや,更にVに対し,その着衣をめくって同じく人体の枢要部である胸部下縁にはさみを突き刺して, 要部である胸腹部にその着衣の上から2回はさみを突き立てており,これがほとんど刺さらなかったことを確認するや,更にVに対し,その着衣をめくって同じく人体の枢要部である胸部下縁にはさみを突き刺して,肋骨肋軟骨を切断し,肝臓表面にまで達する深さ約10センチメートルの創を負わせているのであって,当該はさみの刃渡りの長さは約7.4センチメートルであり,その先端はとがった形状を有するものの,必ずしも鋭利とまではいえないことに照らしても,被告人のはさみによる刺突行為は,客観的にも相当に強度のものであったと認めることができる。そして,被告人は,このような刺突行為を行った後にも,Bと共に,Vに対して暴行を加えたのであり,その後さらに,間もなくCらが救急車を呼ぶ旨の話を始めて,Vの死の危険に対する認識を明確に表出した際にも,暴行行為こそ止めたものの,「そんなもん,呼ばなくていい。」「このまま置いていこう。」「池に沈めるか,埋めてしまえ。」などと言っていたのである。そこに死の結果を回避するための具体的な行動は全く見られないばかりか,Vを救命するための行為を制止する態度を示したことが認められるところである。 また,被告人が,前示のはさみによる刺突行為に及んだ動機についてみるに,被告人は,Vに対し,それまでにも「チクるとや。」などと申し向けつつ暴行を加えていたのであるが,さらに同じ質問をすると,Vは「うん。」と答えたので,かっとなって,ちょうどそのころ受け取ったはさみによる刺突行為に及んだ旨,捜査段階より一貫して供述する。 ところで,被告人は,前示のとおり平成13年9月に中等少年院送致処分を受けているのであるが,Vによって,本件集団暴行の事実を警察などに申告されれば,警察に捕まって中等少年院か特別少年院に入れられることとなるので,集団暴行に及ぶ直前 成13年9月に中等少年院送致処分を受けているのであるが,Vによって,本件集団暴行の事実を警察などに申告されれば,警察に捕まって中等少年院か特別少年院に入れられることとなるので,集団暴行に及ぶ直前にも,そのような事態になるのは絶対に嫌だった旨供述し,Vから「チクらない」との返答を得ることにこだわりを持っていたことが窺われるところであり,さらに,当時被告人は,本件暴行中にも吸入していたかどうかはともかくとして,少なくとも事前に吸入したシンナーの影響により判断力等の鈍化が考えられることに加えて,集団暴行に基づく興奮状態にあったこと等にかんがみれば,被告人が,その場の状況から,チクるとの姿勢を崩さなかったと被告人において受け止めたVに対して激高し,突発的にVに対して殺意を抱いたとしても不自然ではないと認められる。 以上のように,はさみによる刺突行為の危険性,その後更に暴行行為に及んだことから窺われる攻撃意思の強さ,その後のVの生命安全に対する配慮が無いばかりか,積極的な救命のための行為を制止しようとしたこと,殺意形成に十分な動機の存在などを考慮すると,被告人には,はさみによる刺突行為に及ぶ直前に,Vに対する殺意が生じ,かかる殺意はその後,少なくとも犯行現場から逃走するまでは継続していたと認めることができる。 他方で,共犯者らがVの死の危険に対する認識を明確に表出し,救急車の手配を口にした後には,それを制止するような発言をしたものの,さらに積極的な暴行行為を加えることは止めて,それ以上Vの死に寄与しうる行為に及ばなかったことに照らせば,かかる殺意は未必的なものに止まると認めるのが相当と判断される。 3 以上より,被告人は,はさみによる刺突行為に及ぶ直前に,Vに対して未必的な殺意を抱き,以後,逃走するまで,かかる殺意を抱いていた かかる殺意は未必的なものに止まると認めるのが相当と判断される。 3 以上より,被告人は,はさみによる刺突行為に及ぶ直前に,Vに対して未必的な殺意を抱き,以後,逃走するまで,かかる殺意を抱いていたと認定した。 第4 殺人の実行行為及び死亡との因果関係 1 はさみによる刺突行為と死亡との因果関係についてまず,前示のとおりの,はさみによる刺突行為の危険性にかんがみれば,これが殺人罪の実行行為に該当するのは明らかであるから,はさみによる刺突行為と死亡との間の因果関係について検討する。 前示のとおり,解剖医によれば,Vの死因は,肝臓,腸間膜破裂による出血性ショックと判断され,肝臓,腸間膜破裂の原因は,いずれも腹部が前後方向に強く圧迫されたことによると判断された。そのような腹部の圧迫状態が,はさみによる刺突行為によって生じたとは考え難いところである。 また,はさみによる刺突行為によって生じた創は,肝臓左葉表面に達するものの,肝臓に関しては,長さ約0.1センチメートルの極く浅いものにとどまっており,これが肝臓破裂の要因となったとは考え難い。 また,当該創から出血した事実は認められるが,これが前示の出血性ショックに影響を与えるものであったかどうかも証拠上明らかではない。 そうすると,はさみによる刺突行為と,V死亡の結果との間に,因果関係があると認めるには,合理的な疑いが残るというべきである。 2 その後の暴行行為の内容と死亡との因果関係について(1) 次いで,被告人がVに対する殺意を抱いたと認定できる時点,すなわち,はさみによる刺突行為の直前以降,はさみによる刺突行為以外に,被告人がVに加えた暴行行為の内容と,死亡との間の因果関係について検討する。 関係各証拠によれば,被告人が,はさみによる刺突行為に及んだ後に 刺突行為の直前以降,はさみによる刺突行為以外に,被告人がVに加えた暴行行為の内容と,死亡との間の因果関係について検討する。 関係各証拠によれば,被告人が,はさみによる刺突行為に及んだ後にも,Vの身体を数回から十数回にわたり蹴りつけたことは,下記のとおり,これを明らかに認めることができる。そして,客観的に見れば,既に痛み刺激に対してすら十分な反応を返すことができない状態に陥って,コンクリートの路面に倒れているVに対し,さらにその身体を蹴りつけ,あるいは踏みつけるという行為は,類型的にその死をも招きかねない十分な危険性のある行為ということができるから,その行為は殺人罪としての実行行為性を有する暴行というべきである。 もっとも,前示のとおり,本件Vの死亡の原因は,肝臓,腸間膜破裂による出血性ショックによるものであり,その原因は,腹部が前後方向に強く圧迫されたことによると判断されている。とすれば,肝臓が破裂した後でも,腹部を蹴れば,肝臓の破裂がひどくなり,出血量も増えるので,肝臓が破裂した後に腹部を蹴る行為は,Vの死期を早めることになり,Vの死亡との間に因果関係が認められる。しかし,その他の部位を蹴りつけることに関しては,これがVの死にどのような影響を及ぼし得るのか,証拠上必ずしも明らかではない。 そうすると,本件において,被告人が,V死亡との因果関係を有する殺人の実行行為たる暴行を行ったといえるかは,被告人が,殺意をもってはさみによる刺突行為に及んだ後にも,Vの腹部を蹴りつけたか否かにかかることとなる。 (2) そこで検討するに,まず,被告人の各警察官調書,検察官調書及び公判廷における供述によれば,被告人は,はさみによる刺突行為に及んだ後にも,手加減することなく,Vを数発から十数発蹴ったことについては,ほぼ一 検討するに,まず,被告人の各警察官調書,検察官調書及び公判廷における供述によれば,被告人は,はさみによる刺突行為に及んだ後にも,手加減することなく,Vを数発から十数発蹴ったことについては,ほぼ一貫して認めているが,蹴った部位については,平成15年1月30日付け警察官調書において明確に刺突行為後にVの鳩尾あたりを踏みつけたことを述べているほか,最終的には公判廷においても腹部を蹴った旨供述するも,それ以外の供述経緯を見る限りでは,刺突行為後にVを蹴った部位について,十分にその重要性を意識して供述した様子はうかがえないところであり,またその供述内容自体,変遷し,おそらく腹部も蹴ったと思う,という程度のあいまいなものを含んでいる。また,この点に関する共犯者らの供述をみても,A及びCは,被告人はVの顔や頭を足蹴りしていた旨供述し,Gは,犯行再現として,被告人がVの腹部を蹴る動作を再現した上で,このときの被告人の暴行状況は再現どおりのものであった旨供述し,Bは,被告人はVの顔や腹あたりを蹴っていた旨供述するが,その他の共犯者は,この点に関し,あいまいな供述をするか,特段の供述をしていない。 以上の事実を前提に判断すると,前示のとおり,被告人は,はさみによる刺突行為に及ぶ前の段階においても,Vに対し,体中場所を厭わず多数回にわたって蹴りつけないしは踏みつけ行為に及んでいるが,当時の被告人が集団暴行に基づく興奮状態や吸入したシンナーの影響下にあったことからすれば,被告人が,自己の暴行行為について,はさみによる刺突行為の前後でこれを明確に区別して記憶し,かつ,供述できたのか疑いが残り,むしろ,被告人のこの点に関する供述が変遷するのは,刺突行為に及ぶ前の暴行とその後の暴行とを混同している可能性があることも否定できない。また,法廷における て記憶し,かつ,供述できたのか疑いが残り,むしろ,被告人のこの点に関する供述が変遷するのは,刺突行為に及ぶ前の暴行とその後の暴行とを混同している可能性があることも否定できない。また,法廷における被告人の供述態度を見ても,暴行当時の自分の認識や心理状態の多くの場面について,何も考えていないとか,人を刺しておいて殺意を持っていないはずがない等と,被告人自身,相当程度自棄的,あるいは偽悪的とも思われるような供述態度を示すと共に,自らの記憶を素直に呼び起こすというよりは,理詰めによる推論によって自分を納得させるような様子があることを否定できず,被告人が,本当にはさみでVを刺突した後の行動について,詳細かつ正確に記憶し,あるいは事実経過を真摯に思い出した上で,その内容を率直に供述しているのかという点にも疑問が残るといわざるを得ない。 一方,上記のような他の共犯者の供述に関しては,そもそも,このとき被告人が蹴りつけた部位についてまで,ことさら意識して知覚し,記憶したとみうる事情は認められず,現に,共犯者らの供述は必ずしも合致していない。さらに,Bについては,上記のとおり,被告人は腹あたりも蹴っていた旨供述するのであるが,他方で,自分自身はこのときVを蹴ってはいない旨供述するところ,被告人やA,Cは,BもVを蹴りつけていた旨明確に供述しているのであり,Bが,自己の認識をそのままに供述しているとは考え難く,却ってB自身の罪責を軽くするために,意図して被告人にその責任を転嫁するような供述をしている可能性すらあり得るのであるから,その信用性は高いとはいえない。結局,被告人が最終的に述べた,このときVの腹部を蹴った旨の供述は,その信用性を十分に担保する事情のない,安定性にかけるものと評価せざるを得ない。 また,客観的な暴行状況につい とはいえない。結局,被告人が最終的に述べた,このときVの腹部を蹴った旨の供述は,その信用性を十分に担保する事情のない,安定性にかけるものと評価せざるを得ない。 また,客観的な暴行状況についてみても,Cらは,被告人がはさみによる刺突行為に及んだのを見て,間もなく救急車を呼ぶ旨の話を始めており,前示のとおり,このころ被告人は暴行を止めているのであるから,刺突行為後に被告人が暴行を加えた時間は極めて短かったと考えられる。そうすると,このような短い時間にあっては,例えば,Aの供述のように,被告人はVの顔をずっと蹴りつけ,BがVの腹部を蹴りつけたのであって,その間に両名が互いにその位置を交替したり,被告人がVの腹部を蹴るまでには至らなかったということも十分に考えられるところである。 (3) 以上のとおりの証拠関係からすれば,はさみによる刺突行為に及んだ後,被告人がVを数回から十数回くらい蹴ったことは,これを優に認定することができるが,その際,確実にその腹部をも蹴りつけたと認定するには,なお合理的な疑いを差し挟む余地があるといわなければならない。 第5 総括以上の次第で,結局,被告人は,他の共犯者らと共同して,暴行もしくは傷害の故意をもって,Vに対し,蹴る,踏みつける等といった暴行を加え始め,その後のVの反応等を契機として,はさみによる刺突行為を行う直前に,Vに対する未必的な殺意をもってはさみをその胸部下縁に突き刺す等し,さらにその後にVに対して複数回蹴りつけるといった殺人罪としての実行行為を行ったが,殺意を抱いた後に被告人がVに加えた前記暴行が,Vの死の原因となり,あるいはその死期を早めたと断定するには,なお合理的な疑いを差し挟む余地があるから,本件において被告人に殺人既遂の罪責を負わせることはできず,前判示のと がVに加えた前記暴行が,Vの死の原因となり,あるいはその死期を早めたと断定するには,なお合理的な疑いを差し挟む余地があるから,本件において被告人に殺人既遂の罪責を負わせることはできず,前判示のとおり,傷害致死罪と殺人未遂罪が成立するものと認定した。 なお,その罪数関係については,被害者が同一であることや,傷害致死の実行行為たる暴行と,殺人の実行行為としての暴行とに連続性があって,そこに至る契機や,犯行の日時,場所までほぼ同一であることなどから,両罪の関係は混合包括一罪になるものと判断した。 (法令の適用)罰条傷害致死の点刑法60条,205条殺人未遂の点刑法203条,199条混合包括一罪の処理 10条(1罪として重い殺人未遂罪の刑で処断)刑種の選択有期懲役刑を選択不定期刑少年法52条1項,2項未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は,被告人が,所属する暴走族の構成員らと共謀の上,Vに集団リンチによる制裁を加えることを企て,Vに対して,前示の殴る,蹴る,踏みつける等といった集団暴行に及び,さらに単独で,未必の殺意をもって,はさみでその胸部を突き刺したり,Vを複数回足蹴にするなどの殺人の実行行為に及んだが,これによってはVを死亡させるに至らなかったものの,それ以外の暴行によって,Vを死亡するに至らせたという傷害致死と殺人未遂の混合包括一罪の事案である。 2 前示のとおり,被告人と共犯者らは,Vから暴走族組織の体制に口出しされたり,共犯者の一人が所有する単車を強引に借り受けようとしたことなどに立腹して集団暴行に及んだものであるが,そもそも自分た 。 2 前示のとおり,被告人と共犯者らは,Vから暴走族組織の体制に口出しされたり,共犯者の一人が所有する単車を強引に借り受けようとしたことなどに立腹して集団暴行に及んだものであるが,そもそも自分たちの意に沿わない考えや存在を暴力で排除しようという凶暴で身勝手な考え方自体が,極めて厳しい非難に値する。被告人は,当該暴走族組織において最年長の立場にあり,さらにはけんかの強い特攻隊長として一目置かれた存在であったものであるが,他の共犯者らがVに制裁を加える旨謀議しているのを察知したにもかかわらず,これを放置したばかりか暗黙のうちに賛同し,ひとたび暴行が始まるや,「後輩から,イモひきと思われると考えたから」また「やり始めたらとことんやる性格から」自ら率先して暴行に及んだというものであって,犯行当時17歳という未熟さを考慮に入れても,余りに無思慮かつ短絡的な行動といわざるを得ない。そして,被告人は,集団暴行の際のVが,警察に被害申告しない旨を明示的に回答しないと思い込んで強い憤りを抱き,ついにはVに対して未必的な殺意を抱くまでに至って,本件犯行を惹起したものである。これには,前示のとおり,集団暴行に基づく興奮状態にあったことや本件直前にシンナーを吸引していたことが影響している面も否定し難いところではあるが,結局のところ,いずれも被告人自らの意思による行動の結果であることが指摘できるのであって,その犯行に至る経緯及び自己中心的かつ浅はかな犯行動機に酌量の余地はない。 3 犯行の態様は,前示のとおり,共犯者の1人において,いきなりVを蹴りつけ,その勢いで転倒したVに対し,時を移さず,その場にいた6名全員で襲いかかって殴る蹴る踏みつけるといった激しい暴行を加えたものであり,Vは,抵抗するどころか防御することもままならず,相当長時間にわたって,集 で転倒したVに対し,時を移さず,その場にいた6名全員で襲いかかって殴る蹴る踏みつけるといった激しい暴行を加えたものであり,Vは,抵抗するどころか防御することもままならず,相当長時間にわたって,集団による強度の暴行にさらされている。「何も考えていなかった」旨の言葉どおり,被告人の言動からは,Vの身体及び生命に対する配慮は何ら見出せず,Vの身体の向きが変わるほどの勢いで蹴りつけたり,踏みつけたりしたばかりか,タバコやライターの火をVの身体に当てたりするなどした挙げ句に,判示のとおり,はさみをその胸部下縁に根本まで突き刺したのであって,被告人自身が加えた暴行は,残忍かつ執拗であり,Vを痛めつけることに対する強固な犯意が窺われるところである。 このように,被告人らは,Vに対して苛烈な暴行を加え,徹底的に痛めつけ,身動きのできなくなったVの着衣を脱がせたり,タバコやライターの火で顔面にいわゆる根性焼きをしたり,陰部に火を近づけて火ぶくれができるのが面白いとして火傷させたり,著しく腫れ上がったVの顔の様子をカメラ付き携帯電話で撮影し,その画像を友人らにメールで送信したりするなど,本件暴行を楽しむがごとくVをことさら侮辱するような言動をとっていることが認められ,痛みで身動きできぬまま,このような暴行にさらされたあげく,厳冬期の深夜に冷たいコンクリートの路面上に放置され,おそらくは助けを求めて歩み出そうとしたところを,管理道から土手下に滑落し,ついに絶命したVの苦しみ,恐怖,絶望の気持ちを思うと,誠に痛ましい限りであって,被告人らの犯行は,非道極まりないといわなければならない。 4 Vは,当時17歳と若く,親や妹弟思いの青年であり,18歳になったら結婚する旨約束した女性もいて,その将来を楽しみに真面目に稼働する日々を暮らしていたところで,被告 いといわなければならない。 4 Vは,当時17歳と若く,親や妹弟思いの青年であり,18歳になったら結婚する旨約束した女性もいて,その将来を楽しみに真面目に稼働する日々を暮らしていたところで,被告人らと再び交友関係を持つべくして接触を図ったものであって,そこに共犯者らの意に沿わない言動が見られたとしても,このように集団による制裁を受け,さらには殺されて然るべき落ち度は何もない。被告人は,本件犯行によって,このような青年の未来を,いわれなく無惨に断ち切ったものであり,Vの無念,苦痛の程度には計り知れないものがある。 また,Vの母親は,それまで手塩に掛けて育ててきた最愛の息子を突如として奪われたものであり,検視室において,一見同人とは判別し難い程に顔が腫れ上がるなど,変わり果てたVの姿を確認したものであって,その際蒙った衝撃の大きさ,悲嘆と絶望の深さは察するに余りあるところである。将来を託したVが集団で口には出せない位にひどい暴行を受け,命を奪われたことを知ったその母親の痛恨の情は,同女が公判廷において述べたところであって,後述のとおり示談が成立した後においても,その被害感情が厳しいのも無理からぬところである。 5 加えて,犯行後,被告人ら6名は,自己らの犯行であることが発覚するのを免れるため,救急車を呼ぶや,救急隊員がVを発見するのを確認することもせず,下半身裸のままのVを放置して,直ちにその場から逃走しており,その後も警察の追及を逃れるべく,その場にいた中学生らをも巻き込んで,口裏合わせを企図するなど,犯行後の情状も悪いこと,被告人は,7回の非行歴を有し,中等少年院送致の保護処分により矯正教育を受けた経験もあり,本件当時は,仮退院後の保護観察中であるとともに,その間のぐ犯事件によって試験観察中でもあり,厳に身を慎まなければなら 7回の非行歴を有し,中等少年院送致の保護処分により矯正教育を受けた経験もあり,本件当時は,仮退院後の保護観察中であるとともに,その間のぐ犯事件によって試験観察中でもあり,厳に身を慎まなければならない立場にあったのに,シンナーを吸入した上で本件犯行に及んだものであることが認められ,規範意識の鈍麻を指摘せざるを得ないことのほか,本件のような地元暴走族の集団リンチによる若者死亡事件の発生が地域住民らに衝撃を与えたことが窺われる。 6 そうすると,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。 7 他方,Vの死亡という重大な結果にかんがみれば,被告人の本件犯行に対する反省や遺族に対する謝罪の気持ちはなお十分とはいえないが,被告人は,当公判廷において,Vやその遺族に対して済まなく思う旨供述するとともに,本件のことを生涯にわたって考え続けていく旨述べるなど,それなりの反省の情を示し,自己の犯した罪と向き合う姿勢を示していること,Vの両親との間に示談が成立し,被告人とその母親が,慰謝料等として合計1500万円の支払義務があることを確認し,被告人の母親がそのうちの200万円を既に支払ったこと,「後輩から,イモひきと思われると考えたから」という安易な理由で集団暴行に及んでしまったのは,犯行時17歳という若年で,情緒的発達が不十分であり,人格的に未成熟な面があったことも影響していると考えられ,この点については可塑性に富む若年齢であることをも指摘できること,被告人の母親が情状証人として出廷し,被告人が社会復帰した折には,従前被告人に住み込みで大工仕事をさせていた伯父が面倒を見ると言ってくれている旨述べたこと,被告人自身,社会復帰後は好きな大工仕事に勤しみ,前示の慰謝料等を自ら支払っていく旨供述するとともに,シンナーの吸入は止めると誓うなど,更生の意欲を 伯父が面倒を見ると言ってくれている旨述べたこと,被告人自身,社会復帰後は好きな大工仕事に勤しみ,前示の慰謝料等を自ら支払っていく旨供述するとともに,シンナーの吸入は止めると誓うなど,更生の意欲を示していることなど,被告人のために酌むことのできる事情も認められる。 8 そこで,これらの諸事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (検察官長田守弘,国選弁護人八尋八郎〔主任〕,同福田恵巳各出席)(求刑-懲役5年以上10年以下)平成15年11月6日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官谷敏行裁判官荻原弘子裁判官石井義規
▼ クリックして全文を表示