判決平成14年8月2日神戸地方裁判所平成14年(わ)第207号窃盗被告事件 主文 被告人を懲役1年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年2月11日午後4時10分ころ,神戸市a区bc丁目d番f号所在の株式会社AB店において,同店店長C管理の地鶏焼鳥等合計11点(販売価格合計2853円)を窃取したものである。 (証拠の標目)(省略)(補足説明) 1 弁護人は,被告人が,判示の日時場所において,判示の商品を万引き窃盗する目的で店の買い物かごに入れ,そのうちの海苔を被告人の所持していたカバン(実際の証拠の中では「カバン」と「バッグ」の2通りに表現されているが,以下においては,「カバン」という表現に統一する。)の中に入れようとしたことは間違いがないが,被告人は,海苔をカバンの中に入れようとしているところを店長に見つかったことから,窃盗をするのをあきらめ,全ての商品を店の買い物かごの中に入れたまま店長に渡したものであって,これら商品を店外に持ち出していないから,窃盗罪は成立しない旨主張する。 2 しかしながら,前掲各証拠によれば,被告人が判示の罪を犯したことは,以下に述べるとおり,十分に認定することができる。 (1) 証人Dの当公判廷における供述(以下,「D証言」という。)は,「被害店の店員として勤務中,被告人が,被害店2階海苔の商品棚の前で,海苔をその所持するカバンの中に入れようとしているのを見かけた。被告人がその際店の買い物かごを持っているのを見てはいない。万引きと思い,同階の事務室に行って,店長のCにその旨報告した。店長に続いて事務室を出て海苔の商品棚の前に戻ったが,被告人は のを見かけた。被告人がその際店の買い物かごを持っているのを見てはいない。万引きと思い,同階の事務室に行って,店長のCにその旨報告した。店長に続いて事務室を出て海苔の商品棚の前に戻ったが,被告人はそこにはおらず,菓子の商品棚の前にいたので,店長が被告人の方に行って話をし始めた。自分は,その場は店長に任せ,一旦1階に降りて別の仕事をしていたところ,被告人と店長がほぼ同時くらいに2階から1階に降りてきて,被告人がレジを通ることなく店外に出て行った。店長が被告人と店外で話をしていると,被告人がその所持していたカバンから商品を出し,そこにあった台の上にそれをぽいぽい放り投げていた。」旨いうものであり,証人Cの当公判廷における供述(以下,「C証言」という。)は,「本件当時は被害店の店長をしていたが,事務室で事務作業をしていたところ,店員のDから2階の海苔の商品棚の前で商品を取り込んでいる人がいるとの報告を受けた。そこで,海苔の商品棚の前に行くと,被告人は既に菓子の商品棚の前に移動していた。被告人は,店の買い物かごを持たないで,白っぽいカバンを所持しており,その中を見ると,店の商品が入っているのが見えたので,被告人に対し,『お買い求めください。』と言ったが,被告人からの返事はなかった。被告人の後方から半分誘導するような感じで1階のレジのところに行き,被告人に対して,『レジをお通りください。』と言ったところ,被告人は,『分かった。分かった。』と答えたが,レジを通ることなく店外に出てきた。 そこで,被告人に対し,今度は少しきつめに,『レジをお通りください。』と言ったところ,被告人は,少し怒ったようになって,店の外に置いていたワゴンの上に,カバンの中に入れていた商品を投げ出したため,トレーが破損するなどの被害が出た。売り物にならない商品が出たので,被告人 ったところ,被告人は,少し怒ったようになって,店の外に置いていたワゴンの上に,カバンの中に入れていた商品を投げ出したため,トレーが破損するなどの被害が出た。売り物にならない商品が出たので,被告人に購入してくれるよう強く言ったが,被告人が拒んだので,警察に連絡をした。」旨いうものである。 D証言及びC証言のいうところは,いずれも具体的かつ詳細であるとともに,相互によく符合していて,そこには特に不合理不自然な部分が見当たらないし,もちろん,両証人に虚偽の証言をして被告人を陥れるべき理由がないのに加え,警察官作成の写真撮影報告書(甲7)によれば,実際,本件被害品である豚肉ロース味噌漬2パック(写真2の前列1番右のものと左から2番目のもの)のラップに汁が付き,その汁がトレーの上辺にまで及んでいることや,同じく地鶏焼鳥のうちの1パック(写真2の前列1番左のもの)のトレーが破損していることが認められるところ,そのようなことは,これらの商品が被告人のカバンの中に立てて入れられていたことや,被告人がワゴンの上に投げ入れたことを裏付ける客観的な事実とみてよいのであるから,前記のようなD証言及びC証言は十分信用に値するということができる。 (2) これに対し,被告人の当公判廷における供述等は,「商品を盗むつもりで被害店に入り,商品を店の買い物かごの中に入れて2階に上がった。2階で,所持していたカバンの中に海苔を入れようとしていたところ,なかなか入らず,バサバサ音がし,店長が横に来て見つかってしまったので,店の買い物かごの中に戻した。 そのときには,外の商品もまだ店の買い物かごの中に入れたままであった。店長は,その買い物かごを持って,警察に行こうと言い,自分を警察に連れて行った。」旨いうのである。 しかしながら,被告人は,捜査段階の当初 商品もまだ店の買い物かごの中に入れたままであった。店長は,その買い物かごを持って,警察に行こうと言い,自分を警察に連れて行った。」旨いうのである。 しかしながら,被告人は,捜査段階の当初は,事実を全て認め,所持していたカバンの中に生もの等を入れていたことを認めていたのが,次第にいうところが変遷して,被告人の公判供述等の内容になったものであって,被告人の公判供述等のいうところは一貫性に欠けること,警察官作成の実況見分調書(甲18‐不同意部分を除く,特に,その写真38)によれば,被告人が所持していたカバンの中には,外の商品を入れる前であれば,被告人が入れようとした海苔は容易に入ることが認められるのであるから,外の商品が店の買い物かごの中にあったのに海苔がなかなか入らなかったというのは納得できないこと,前記のように,本件被害品である豚肉ロース味噌漬にはラップに汁が付くなどの汚れが認められ,また同じく地鶏焼鳥のトレーには破損が認められるが,被告人の公判供述等のいうところでは,そのような汚れや破損が生じるとは考え難いことなどを考え併せると,前記のような被告人の公判供述等のいうところの信用性は乏しいというほかない。 (3) 弁護人は,被告人が商品をその所持するカバンの中に入れていて,被害店の店員がそれを見つけたのであれば,商品を店の買い物かごの中に入れさせるのが当たり前であって,そうしなかったという店員らの証言は常識に反するし,また,万引き行為を見つけられながら,代金を支払わずに商品を店外に持ち出す人間は一般的にはいないなどとして,D証言及びC証言のいうところは信用できないなどと主張するのである。しかし,C証言は,被告人の後方から半分誘導するような感じで1階のレジのところに行き,被告人にレジを通るように言ったというのであるから,その C証言のいうところは信用できないなどと主張するのである。しかし,C証言は,被告人の後方から半分誘導するような感じで1階のレジのところに行き,被告人にレジを通るように言ったというのであるから,その証言を常識に反するということはできないし,被告人は,レジを通るように促されたものの,所持金がなかったためレジを通ることができず,また,自分のカバンに既に商品を入れていたため,そのまま店外に出て逃走しようとしたものと考えられるのであるから,その行動を不合理であるということはできない。弁護人の指摘するところから,D証言及びC証言の信用性に疑いを容れるには至らない。 3 以上のとおりであるから,D証言及びC証言のいうとおり,被告人が,その所持するカバンの中に判示の商品を入れて店外に持ち出し,窃盗の罪を犯したことは,優にこれを認めることができる。 (法令の適用)罰条刑法235条宣告刑懲役1年未決勾留日数の算入刑法21条(60日)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の事情)本件はスーパーマーケットにおける万引き窃盗の事犯であるが,被告人は,当初から万引きをする意図で犯行に使用するためのカバンを所持して店内に入り,犯行に及んだものであって,本件は計画的犯行であること,被告人は,店長らに所持しているカバンの中に商品が入っているところを見つかり,レジを通るように言われながら,殆ど所持金がなかったことから開き直り,店長の言葉を無視して犯行を強行したものであって,犯行の態様は悪質であること,被告人は,逮捕された当初こそ素直に事実を認めていたものの,その後供述を変遷させて,自己の刑事責任を免れようとしており,真摯な反省悔悟の情が窺えないことなどを考え併せると,犯情はよくなく,被告人の 被告人は,逮捕された当初こそ素直に事実を認めていたものの,その後供述を変遷させて,自己の刑事責任を免れようとしており,真摯な反省悔悟の情が窺えないことなどを考え併せると,犯情はよくなく,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。 また,被告人は平成13年11月に銃砲刀剣類所持等取締法違反罪により懲役4月,2年間刑執行猶予の判決を受けており,本件はその執行猶予期間中の犯行であることも,量刑上看過できないところである。 してみると,本件被害額は合計2853円と少額であること,被害は被害品の還付により一応回復していること,被告人には同種の前科がないこと,本件で服役することになると,執行猶予中の前記の刑の執行も併せて受けなければならないであろうこと,本件で5か月半以上の間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は,再度の刑執行猶予の言渡しをなすべき情状に特に酌量すべきものがある事案とは認められず,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役1年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成14年8月2日神戸地方裁判所第12刑事係甲 裁判官森岡安廣
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