主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成13年押第20号の2)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,昭和50年に北九州市で出生し,その後,両親とともに広島市に移り住み,同市内の私立高校を卒業後,神奈川県所在の私立大学の工学部建築学科に進学し,平成11年3月,同大学大学院を卒業して,広島市内の両親のもとに戻り,同年4月に父親が経営する設計会社に就職した。その後,被告人は,1級建築士の資格試験の勉強のため,同12年3月から同市○区内のアパートで独り暮らしを始め,同年11月下旬には,さらに,実家近くの肩書住居地に転居して生活していた。 被告人は,同年12月1日夜,勤務先の同僚と午後11時ころまで居酒屋で飲酒した後帰宅し,翌2日午前零時過ぎころ,同市○区○所在のレンタルビデオ店から借りていたビデオテープを返却するため,折りたたみ式ナイフ1本をズボンの左前ポケットに入れて携帯した上,自己使用の普通乗用自動車を運転して同店に向かったが,その途中で同系列のレンタルビデオ店を見かけたため,○区○町○丁目所在の国道2号線○交差点を左折南進して,○町○丁目○番○号先に上記車両を駐車した。 Aは,○区○丁目○番○号Bコーポ305号室に居住していた者であるが,その日は勤務先からの帰途,同市○区○町所在の三味線教室に行き,そこから自宅まで徒歩で帰宅する途中,同日午前零時44分ころ,化粧用品を購入するため,上記○交差点を左折南進して,○区○町○番○号に所在するコンビニエンスストアC店に立ち寄った。 被告人は,AがC店に入店した十数秒後に同じく同店に入店し,店内で商品を見ていたAの容姿を見て同 め,上記○交差点を左折南進して,○区○町○番○号に所在するコンビニエンスストアC店に立ち寄った。 被告人は,AがC店に入店した十数秒後に同じく同店に入店し,店内で商品を見ていたAの容姿を見て同女に興味を抱き,同女の横を通過した後振り返って同女を見るなど,同女の行動を注視しながら缶コーヒーを購入し,同日午前零時46分ころ,同女より先に同店を出た。その直後に,化粧用品を購入したAも,同店を出て上記自宅に向かって南進し,被告人は,自宅に向かう同女を追尾した。 被告人は,AがBコーポに入っていくのを認めるや,ズボンの左前ポケットから上記折りたたみ式ナイフを取り出してその刃を出し,これを左手に持ち,右手には飲みかけの上記コーヒー缶を持って,Bコーポ3階通路に上がって行った。 同日午前零時50分ころ,被告人は,Bコーポ3階通路に至り,玄関ドアの鍵を開けて居室内に入ろうとしているAを認めるや,上記折りたたみ式ナイフを左手に持ったまま,玄関ドア前に立っている同女のそばに駆け寄り,同女に対し,「さっき,にらんだじゃろう。」などと因縁をつけた上,「中に入れ。」と居室内に入るよう要求したが,同女がこれを拒絶し,開きかけていた上記玄関ドアを閉めてその前に立ちふさがるなどしたため,さらに,左手に持っていた上記折りたたみ式ナイフを同女の下腹部付近に突き付けたが,同女が大きな声で,「嫌です。やめてください。」と拒絶したため,いったんは居室内に入ることをあきらめ,右手に持っていた缶のコーヒーを同女の顔に浴びせかけた後,同女から離れて階段方向に引き返した。 その後,被告人は,同建物3階通路階段前付近でAの方を振り向くと,同女が再び上記玄関ドアを開けて居室内に入ろうとしていたので,再度同女方居室内に押し入ろうと考え,右手に持っていた上記コーヒー缶を同女に投げつけな 人は,同建物3階通路階段前付近でAの方を振り向くと,同女が再び上記玄関ドアを開けて居室内に入ろうとしていたので,再度同女方居室内に押し入ろうと考え,右手に持っていた上記コーヒー缶を同女に投げつけながら同女の方に駆け寄り,これに気づいて玄関ドアを閉めて立っていた同女に対し,再度,「にらんだじゃろうが。」,「中に入れ。」と因縁をつけて居室内に入るよう要求したが,同女がこれを拒絶したため,一転して優しい態度を装い,「わかった,わかった。おとなしくして中に入れてくれたら,ナイフをしまうけえ。」などと優しい口調で申し向け,左手に持っていた上記折りたたみ式ナイフの刃を収めてこれをズボンの左前ポケットにしまい込み,さらに執拗に同居室内に入れるよう要求したが,同女に強く拒絶されたことから,同居室内に押し入ることはあきらめたものの,同女が右肩にかけていたショルダーバッグを奪い取ろうと決意した。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成12年12月2日午前零時50分ころ,広島市○区○丁目○番○号Bコーポ305号室A方玄関前通路において,A(当時28歳)が肩にかけていたショルダーバッグを強取しようと決意し,同女の頸部を右手でつかみながらその背中を壁に強く押しつけるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同女所有に係る現金約1万5600円及びヘッドホンステレオ1台ほか28点在中のショルダーバッグ1個(平成13年押第20号の3,時価合計約3万6300円相当)を強取して逃走し,同女の叫び声で被害を知ったD(当時27歳)に追跡されて追い付かれるや,同日午前1時ころ,○区○丁目○番○号喫茶店E前付近において,同人に逮捕されるのを免れるため,殺意をもって,やにわに所携の折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約8.2センチメートル,平成13年押第20号の2)で,同人の胸部, 区○丁目○番○号喫茶店E前付近において,同人に逮捕されるのを免れるため,殺意をもって,やにわに所携の折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約8.2センチメートル,平成13年押第20号の2)で,同人の胸部,腹部等を数回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を肺・大動脈損傷に基づく失血により死亡させて殺害し,第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前零時50分ころ,前記Bコーポ305号室A方玄関前通路から,同日午前1時ころ,前記喫茶店E前付近に至るまでの間,刃体の長さ約8.2センチメートルの前記折りたたみ式ナイフ1本を携帯したものである。 (争点に対する判断) 1 被告人は当公判廷において,Aを追尾したのは同女に性的な意味で興味を抱いたからではなく,コンビニエンスストアの店内でAににらまれたのでその理由を問い質すためであり,暴行したのもAに対する怒りからであって,ショルダーバッグを奪い取るためではなく,ショルダーバッグを奪ったというのも,両腕でAの両肩を持ってもみ合っている最中にショルダーバッグのひもが自分の左腕に絡まり,無理矢理バッグを引きはがすようにしてその場から逃げ出したものであって,当初から奪うつもりはなかったし,また,Dを殺害したことで殺人罪に問われることは致し方ないが,確定的殺意まではなかった旨供述する。 そして,弁護人も,被告人の上記供述を前提に,(1)被告人がAを追尾してナイフを突き付けた動機は,同女に性的な意味で興味を抱いたからではなく,被告人は,強盗以外の目的でAに暴行・脅迫を加え,その余勢を駆って新たに財物強取の犯意を生じ,上記暴行・脅迫による反抗抑圧に乗じて,ショルダーバッグを強取したものであり,(2)また,被告人にはDに対する確定的殺意はなかったし,(3)さらに,上記Dに対する殺害行為が強盗殺 強取の犯意を生じ,上記暴行・脅迫による反抗抑圧に乗じて,ショルダーバッグを強取したものであり,(2)また,被告人にはDに対する確定的殺意はなかったし,(3)さらに,上記Dに対する殺害行為が強盗殺人に問擬されているが,強盗殺人罪は,強盗の機会に人を死に至らしめた場合に成立するところ,本件では,ショルダーバッグを被害者から奪い取って,Bコーポから出た時点で強盗は既遂に達しており,その後,被告人には,当初,追跡者がいることの認識もなく,追跡者がいることに気付いた後も,いったんその追跡者の手を逃れ,Bコーポから約640メートル離れた場所で,突然眼前に現れた第三者が何者かを全く認識できないまま,Dを殺害したものであって,本件殺害行為は強盗の機会になされたものとはいえないから強盗殺人罪は成立せず,強盗罪と殺人罪の併合罪が成立するに過ぎないし,(4)被告人には自首が成立するので自首減軽をされたい旨を,各主張するとともに,(5)被告人が犯行時及び捜査,公判を通じて一部不可解な挙動,言動をしているのは被告人の妄想性人格障害によるものであるから,本件の事実認定に当たっては,この点を視野に入れて考察してほしいと述べる。 なお,検察官は,自首の成否につき,被告人が犯行後警察に出頭したことは認めるものの,被告人は,重要な社会的事実について虚偽の事実を申告して,自己の刑事責任を免れようとしたものであるから,自首は成立せず,この点に関する弁護人の主張は理由がないと反論する。 そこで,これらの点につき,以下,補足して説明する。 2 Aを追尾した動機について(1) まず,被告人がAを追尾した動機について検討するに,前記「犯行に至る経緯」で述べた事実のうち,被告人の行動については,Aの公判供述のほか関係証拠から明らかに認めることができるものであり,ことに被告人 まず,被告人がAを追尾した動機について検討するに,前記「犯行に至る経緯」で述べた事実のうち,被告人の行動については,Aの公判供述のほか関係証拠から明らかに認めることができるものであり,ことに被告人がC店において,Aを振り返るようにして二度三度と同女を注視していることは,同店に設置されたビデオカメラに撮影されているところである(29の捜査状況報告書)し,被告人がBコーポ3階のA方居室前で二度にわたり,「にらんだじゃろう」と難詰するとともに,「部屋に入れ」等と,同女とともに同女の居室内に入ることを要求したこと,及びそのうち一度はナイフを示したことは被告人も自認しているところであり,前記「犯行に至る経緯」に沿うAの公判供述は,具体的で迫真性に富んでいて,何ら不自然なところはなく,客観的証拠とも合致して,十分信用することができるものである。 そして,Aは,公判供述において,被告人に気付いたのは,自室前で被告人に声をかけられたときであり,それまで被告人とは一面識もなく,また本件事件前に被告人をにらんだことも全くないと述べているところ,被告人とAが本件前に一面識もないことは関係証拠から明らかであるし,Aが被告人をにらみつける動機を窺わせる証拠も全くないのであって,この点に関するAの供述も十分信用することができるものである。 (2) そして,夜間,男性が一人歩きの若い女性を追尾し,部屋に一緒に入ろうとしたという行動自体からして,若い女性に対する性的興味を抱いたと考えることが自然であるのみならず,以上のような事実関係,すなわち,Aには被告人をにらみつける動機もなく,またにらみつけたこともないこと,被告人は,C店内においてAに再三視線を送っていること,その後,C店からBコーポまでは距離にして249メートルもある(2の実況見分調書)のに,被告人は ける動機もなく,またにらみつけたこともないこと,被告人は,C店内においてAに再三視線を送っていること,その後,C店からBコーポまでは距離にして249メートルもある(2の実況見分調書)のに,被告人は,深夜,一人歩きの若い女性であるAを呼び止めることなくひたすら追尾していること,Bコーポ3階通路に駆け上がる時点ではナイフの刃を出して左手に持っていたこと,同3階305号室のドアを開けようとしていた同女に対して,「にらんだじゃろう。」などと因縁をつけて上記ナイフを突きつけ,さらに,Aがこれを否定しても,いつどこでにらんだか,なぜ部屋に入る必要があるのか全く説明することなく,若い女性の部屋に再三,一緒に入ろうとしていることなどからすると,被告人は,遅くともC店内において同女を目撃して,同女に対し性的な意味で興味を抱き,その興味に駆られて同女を追尾し,判示犯行に至る経緯のような行動に出たことが強く推認されるところである。 (3) これに対し,被告人は,以下のとおり供述する。 自分は,借りていたビデオを返すためにレンタルビデオ店であるF店に行くことにしたが,その際,不安を覚えたため,父からもらった折りたたみ式ナイフを護身用として携帯した。F店に行く途中,同系列のビデオ店であるG店を発見したので,前記国道2号線の○交差点を左折して自動車を駐車し,徒歩でG店に向かう途中で,女性とすれ違い,その際,この女性からにらまれた。その後,再び自動車のところに戻ったところ,その先にコンビニエンスストアー(C店)があるのに気づき,普段はコーヒーは嫌いで飲まないのだが,このときは,検問で飲酒運転が発覚するのを防ぐために急に缶コーヒーが飲みたくなり,歩いて同店に行った。このとき,途中に自動販売機があることには全く気がつかなかった。C店に入ると,先ほどすれ違った女 このときは,検問で飲酒運転が発覚するのを防ぐために急に缶コーヒーが飲みたくなり,歩いて同店に行った。このとき,途中に自動販売機があることには全く気がつかなかった。C店に入ると,先ほどすれ違った女性がいるのに気づいたが,この女性がAである。 その後,缶コーヒーをレジで購入していると,Aからジッとにらまれた。同店内で,自分の方から,Aを意識的に見たりはしていない。その後,同店を出て南側路地にいたところ,ここでも,Aににらまれた。自分にはにらまれた理由が分からなかったが,この女性が仕事先の重役の秘書かも知れず,このまま放置すると自分の悪口を言われて,仕事に悪影響を及ぼすかも知れないと思い,にらまれた理由も分からず,また,この女性が誰か分からないことにも腹が立ち,理由を確かめるために,同女の後を追った。 Aが道路左脇の建物(Bコーポ)に入っていったので,自分もこの建物に入り,3階まで上がると,Aが,「こんばんは。」と挨拶してきたので,よくも自分をここまで来させたなという思いと,自分のことを知っているのであれば,あとで悪い噂を立てられてはいけないので,何が何でもにらんだ理由を聞かなくてはという思いから,思わず,折りたたみ式ナイフをズボンの左ポケットから取り出し,折りたたんであった刃を出して,Aに近寄った。このとき,Aに対し,「ちょっと,待って。」,「さっき,にらんだだろう。」と言ったが,Aが「にらんでません。」と答えるので,嘘を言っていると思い,さらに腹を立てて,「にらんだだろうが。」と言うと,Aは,また,「にらんでない。」と答えて,押し問答になった。自分は,Aにドアを開けさせると室内に逃げられると思い,折りたたみ式ナイフを持っていた左手でドアを押さえて開けられないようにした。 そのうち,自分の声がうわずっていることに気づき,ア になった。自分は,Aにドアを開けさせると室内に逃げられると思い,折りたたみ式ナイフを持っていた左手でドアを押さえて開けられないようにした。 そのうち,自分の声がうわずっていることに気づき,アパートの他の住人が出てきたら自分がナイフを出していることから大事になってしまうと思い,Aと二人きりで話をしようと考え,Aに対して,「中に入ろうや。」と言ったが,Aはこれを拒絶した。このころ,自分がナイフを持っていることに背筋がぞくっとして驚き,ナイフの刃を出したまま,折りたたみ式ナイフを刃先を上に向けてズボンの左ポケットにしまった。そして,このようなことをAに聞いても仕方ないと思い,いったんはその場から離れたが,Aの方を振り向くと,Aがまたにらんだので,治まりかけていた怒りがまたわき起こり,再度,Aの所に駆け寄り,「にらんでるじゃないか。」と言い,「中に入れやあ。」と言ったが,Aがこれを拒絶したので,腹の虫がおさまらず,Aののどを右手でつかみ,そのままAの背中を壁に押しつけた。ただ,Aを壁に押しつけている最中も,その場から立ち去りたいという意識が自分には激しくあった。 以上のとおり,供述している。 しかしながら,そもそも,Aがにらんだと思い,会社の取引先の秘書かもしれず,このまま放置したら何か悪口を言われ,仕事に悪影響が出るかもしれないと思って,後を追ってにらんだ理由を聞こうとしたというにしては,被告人のとった行動は,深夜,同女の自宅前まで押しかけて,ナイフを突きつけたという異常なものであって,かかる行動は,かえって,取引先との関係を悪化させることが明らかであり,被告人のそのような供述内容自体,不自然,不合理である上,コーヒーが嫌いで普段飲まないのに,なぜ本件犯行前においてはコーヒーを購入したかの理由も,またC店に行く前に飲料の自 せることが明らかであり,被告人のそのような供述内容自体,不自然,不合理である上,コーヒーが嫌いで普段飲まないのに,なぜ本件犯行前においてはコーヒーを購入したかの理由も,またC店に行く前に飲料の自動販売機があったことに気付かなかったという点も不自然で,この点を検察官に指摘されると,コーヒーを買うほかに,時間つぶしに本を読んだり,菓子も買って行こうという理由もあって同店に行った旨供述を変遷させているが,その変遷の理由を合理的に説明することができず,また,同店では自分の方からAの方を見たりはしていないと供述する点は,前述の同店のビデオカメラの撮影内容とも符合していないのであって,Aを追尾した理由等に関する被告人の上記供述は到底信用することのできないものというほかない。 (4) 以上のとおりの証拠関係,事実関係からすれば,被告人は,Aににらまれ,その理由を問い質すためではなく,C店内で買い物をしていたAを見かけて性的な意味で興味を抱き,更にどのような行為を企図したかまでは明らかでないものの,その興味に駆られて帰宅する同女を追尾し,判示犯行に至る経緯のような行動に出たことを,合理的疑いなく認めることができるものである。 3 ショルダーバッグの強取の態様及び強盗の犯意発生時期について(1) 次に,ショルダーバッグの強取の態様及び強盗の犯意発生時期について検討するに,上記認定事実のほか,この点に関するAの供述は以下のとおりである。 すなわち,被告人が折りたたみ式ナイフをしまった後も部屋に入ることを拒絶すると,突然,被告人の右手で首をつかまれ,体を預けてくるようにして壁に押し付けられたので,首が圧迫されて顎が上がってしまい,目を閉じ,もうだめだ,死んでしまうのかと思った。首を圧迫されていた時間は,自分では長く感じられたが,実際には30秒から4 てくるようにして壁に押し付けられたので,首が圧迫されて顎が上がってしまい,目を閉じ,もうだめだ,死んでしまうのかと思った。首を圧迫されていた時間は,自分では長く感じられたが,実際には30秒から40秒ぐらいであったと思う。その後,もうだめだと思っているときに,突然がくんと右肩から右腕全体が持っていかれるような感じがし,それとほぼ同時に,首を締め付けていた被告人の腕が外れた。一瞬何が起こったか分からなくて,目を開けたが,「あっ,バッグを取られた。」と思った。右肩にかけていたショルダーバッグにはヘッドホンステレオなどの荷物が入っていてかなり重く,また,ヘッドホンステレオのイヤホンを耳にかけていたが,被告人に肩を引っ張られたため,イヤホンのコードが切れて片方のイヤホンだけが残った。ショルダーバッグを取られたと思ってすぐに被告人を追いかけたが,被告人は階段をかなりのスピードで下りていったので,姿は見えなかった。なお,右肩を引っ張られる以前に,ショルダーバッグのひもを左右あるいは前後に引っ張られたことはなく,また,被告人に両肩あるいは腕の上の方を持たれた感触もなかった。また,ショルダーバッグはかなり重く,肩ひもも短いため,その間に被告人の腕が入る可能性は低いと思う。 以上のとおり供述する。 上記Aの供述は,ショルダーバッグを持っていた状況やこれが奪われる経過について具体的で迫真性に富んだものである上,不合理な点は認められず,また,犯行現場にちぎれて破損したイヤホンが残っていたことなどの客観的事実関係とも一致しており,十分信用できるものである。 (2) これに対し,被告人は,Aにのど輪をした後,その場から立ち去りたくて,帰るきっかけがほしかったことから,Aを転倒させれば腹の虫が治まるし,帰るきっかけがつかめると思い,Aの両肩を両腕でつ (2) これに対し,被告人は,Aにのど輪をした後,その場から立ち去りたくて,帰るきっかけがほしかったことから,Aを転倒させれば腹の虫が治まるし,帰るきっかけがつかめると思い,Aの両肩を両腕でつかんで振り回して転ばそうとしたが,Aは倒れず,そのうち,Aが肩にかけていたショルダーバッグが自分の方にスルスルと入ってきて,左腕に絡まり,訳が分からなくなって,全速力で逃げ出した旨弁解するのである。 しかしながら,被告人が公判廷で実演した状況からしても,抵抗しているAの肩からショルダーバッグのひもがずり落ち,被告人の腕にひもが掛かった上,Aの右腕がひもから抜けるということは可能性として低く,また,腕を激しく動かしても外れないほどショルダーバッグのひもが絡みつくというのも不自然であるのみならず,そもそも,帰るきっかけがほしかったからAを転倒させようとしたというその動機自体,不自然であって,結局,ショルダーバッグを奪う経緯に関する被告人の上記弁解は信用できないものというほかない。 (3) 以上の事実関係及びAの供述によれば,被告人が,Aの頸部に右手を当て,体を預けるようにして圧迫した上,同女が右肩に掛けていたショルダーバッグのひもをつかんで瞬間的に強く引っ張り,同女からショルダーバッグを奪い取った事実は,これを優に認めることができるものである。 そして,上記犯行態様は,それまでの脅迫行為とは一変して,突如として暴力的行為に出ており,行為態様が質的に変化したといえること,後述のとおり,被告人は,その後,逃走途中に,奪ったショルダーバッグから財布のみを抜き出し,さらにその中から現金を抜き出していること,また,被告人は,当時,経済的に困窮していたわけではないが,Aに興味を抱いて声をかける等したにもかかわらず,同女に部屋に入ることを拒絶された みを抜き出し,さらにその中から現金を抜き出していること,また,被告人は,当時,経済的に困窮していたわけではないが,Aに興味を抱いて声をかける等したにもかかわらず,同女に部屋に入ることを拒絶されたことから,その腹いせの意味も込めて,その所持品を奪うということも動機として十分理解可能であることなどからすると,被告人は,Aの頸部を圧迫する時点で強盗の犯意を有するに至ったものと認められる。 4 殺害行為が強盗の機会になされた点について(1) 次に,Dに対する殺害行為が,Aに対する強盗の機会になされたといえるかどうかについて検討するに,まず,前掲各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。 すなわち,被告人は,Bコーポ305号室前で,Aに対し,その頸部を右手でつかんで壁に押し付けるなどの暴行を加えた後,Aのショルダーバッグを手に持ち,すぐさま階段を下りて同コーポから北方に逃走したこと,Aは,被告人を追いかけるべく,上記階段を3階から2階に下りたところ,Bコーポ201号室に居住していたDがドアを開けて出てきたので,同人に助けを求めたところ,同人が被告人を追跡したこと,被告人は,Bコーポから逃走する途中,ショルダーバッグから財布のみを取り出し,ショルダーバッグはBコーポから約73.2メートル離れた○区○丁目○番○号先路上に投棄した上,○区○町○番H高校南東側角を左折西進して逃走し,○区○丁目○番○号○方北側の月極駐車場において,上記財布から現金及び商品券を抜き出して,その財布を同駐車場内に投げ捨てたこと,さらに,被告人は,有刺鉄線を超えて畑に入り,隣接するマンション敷地内を通って逃走を続け,○区○丁目○番○号喫茶店E前に至ったこと,そして午前1時ころ,同所においてDを上記所携の折りたたみ式ナイフで刺突しているが,この間,距離にして約 り,隣接するマンション敷地内を通って逃走を続け,○区○丁目○番○号喫茶店E前に至ったこと,そして午前1時ころ,同所においてDを上記所携の折りたたみ式ナイフで刺突しているが,この間,距離にして約640メートル,時間にして数分(Bコーポ305号室前でAに因縁をつけだした時間が午前零時50分ころで,それからバッグを奪うまでにやりとりがしばらくあること,被告人は走って逃走していることからすると,時間にして数分であると認められる。)であること,Aは,被告人からバッグを奪われた後,すぐに被告人を追跡しようと階段を下りると,2階の201号室からDが出てきたので,バッグを奪われたことを説明すると,Dは靴を履いてすぐ被告人を追いかけたこと,Aは,被告人がH高校南東側角を左折したのを目撃したが,Dは被告人を見失い,Aに,「どっちへ行きましたかね。」と聞いてきたので,Aは,被告人が逃げた方向を指さしながら,「左に行ったと思います。」と言うと,Dは,その方向に走っていったこと,以上の事実が認められるところ,以上の事実経過からすれば,Dは,一度被告人を見失ったものの,その後,Aの指示により直ちに被告人を発見し,追跡したことが強く推認されるところである。 (2) さらに,被告人は,捜査段階において,「上記月極駐車場で,背後から『待て』という男の声が聞こえたような気がする。」,「その後,有刺鉄線にズボンが引っかかった後も,『待て。』という男の声が聞こえた感じがする。」,「その後,『待て,観念せえ。』という声が後ろで聞こえ,走るのを止め,後ろを振り返って見たところ,Dがすぐ後ろに立っていた。」旨供述し(88,98),被告人の当時の交際相手である女性も,本件犯行当日に,被告人から,「すごいスピードで後ろから追ってくる人がいて,手にナイフを持っていたので,『来るな。』 ぐ後ろに立っていた。」旨供述し(88,98),被告人の当時の交際相手である女性も,本件犯行当日に,被告人から,「すごいスピードで後ろから追ってくる人がいて,手にナイフを持っていたので,『来るな。』と言ったけど,それでも相手の人が来た。そして刺してしまった。」と電話で打ち明けられた旨供述しているところ(68),同女がことさら被告人に不利な事実を供述する理由はなく,その信用性は高いものであって,この供述と一致する被告人の上記捜査段階の供述もまた十分信用できるものである。 他方,被告人は,当公判廷における罪状認否においては,「畑に入ろうとしたところ,後ろの方から人の追ってくる気配がし,『観念しろ。』という声をかけられたように思う。『やばい。』と思い,畑に向かって逃げ出したところ有刺鉄線にズボンが引っかかり,思わず,『頼むけえ,来るな。』と叫んだように思う。」旨供述し,さらに,被告人質問においては,「『待て。』という声を聞いたり,足音を聞いたりした記憶はないが,誰か来るような思いがすごくして,『来るな。』とか,『もうやめてくれ。』というようなことは言ったと思う。」旨供述して,上記捜査段階での供述を変遷,後退させているが,変遷の合理的理由を何ら説明しておらず,また,当時の交際相手の上記供述とも符合しないものであって,信用することはできない。 そして,そもそも被告人がDを殺害する動機としては,Aに対する事件の責任から逃れようとする以外のものは考えられないのであって,そのようにDがAの事件に関係していると判断したこと自体から,追跡されていたという認識があったということもできるのであり,以上のような事実関係,証拠関係からすれば,被告人は,Aに対する強盗犯人として追跡・誰何されていることを認識しながら逃走していたものと認めるに十分である。 認識があったということもできるのであり,以上のような事実関係,証拠関係からすれば,被告人は,Aに対する強盗犯人として追跡・誰何されていることを認識しながら逃走していたものと認めるに十分である。 (3) そして,強盗殺人を含む強盗致死傷罪における死傷の結果は,強盗の手段としての暴行・脅迫によって生じた場合だけでなく,財物奪取と密接に関連する暴行・脅迫によって生じた場合,すなわち強盗の機会に発生したものも含まれるところ,強盗の機会といえるためには,時間的・場所的関係において財物奪取と暴行・脅迫とが密接な関連性を有すると認められれば足りる。 そうすると,本件では,被告人の財物奪取直後から,Dが被告人を追跡し,一度被告人を見失うも,すぐに発見・追跡し,被告人も,誰かに追跡・誰何されていることを認識しつつ逃走を続け,財物奪取から数分後,被害現場から約640メートルの場所において,Dからの追跡・逮捕を免れるために同人を殺害しているのであって,以上のような強取行為から殺害行為に至る経過と,その時間的・場所的近接性からすると,本件殺害行為は,強取行為と密接に関連するものであり,強盗の機会になされたものといえ,被告人については強盗殺人罪が成立するというべきである。 5 確定的殺意の有無について(1) 次に,被告人が確定的殺意に基づいてDを殺害したか否かについて検討するに,前掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。 すなわち,被告人は,午前1時ころ,前記喫茶店E前付近において,背後からDに誰何されたため,振り返ってDと正対した上,逮捕を免れるため(この点は被告人も自認するところである。),左手に所持していた刃体の長さ約8.2センチメートルの前記折りたたみ式ナイフでDの腹部,胸部等を突き刺して,Dの右上腹部に腹腔に達する深さ約14.5セン (この点は被告人も自認するところである。),左手に所持していた刃体の長さ約8.2センチメートルの前記折りたたみ式ナイフでDの腹部,胸部等を突き刺して,Dの右上腹部に腹腔に達する深さ約14.5センチメートルの刺創,左胸に胸腔に達する深さ約15.5センチメートルの刺切創,右腋窩に深さ約8.5センチメートルの刺切創,右上肢に切創,その他,軽微なものとして,両上肢に表皮剥奪,左下肢に皮下出血及び表皮剥奪の傷害を負わせ,そのころ,同所において,同人を肺・大動脈損傷に基づく失血により死亡させていること,犯行当時は闇夜であったが,現場付近は,現場東側の街路灯(15,写真第2号),喫茶店Eの東南角に設置の自動販売機(同写真第1号),現場南側,お好み焼き店北西角に設置の自動販売機(同写真第3号)の灯りにより薄明るい状態であったこと,以上の事実は明らかに認められるところである。 以上の事実関係,すなわち,被告人が使用した凶器は,刃体の長さが約8. 2センチメートルの折りたたみ式ナイフであって殺傷能力が十分認められるものであること,傷害の個数及び傷の深さが刃体の長さよりも深いものであることからすると,被告人は,少なくとも3回,相当な力で突き刺していることが認められ,かつ,傷害部位が腹部及び胸部という身体の枢要部であること,前記認定のとおり,被告人は,Bコーポ3階305号室玄関前通路において,前記ナイフの刃を折りたたんで自己のズボン左前ポケットにいったん入れているのであって,被告人はD刺突の前にズボンにしまった折りたたみ式ナイフを再度取り出して刃を出しているのであり,従って刺突の際には,被告人は刃を出した上記折りたたみ式ナイフを左手に所持していることを認識していたと認められること,上記のとおりの犯行現場の明るさからすると,被告人は,犯行現場の状況やDの であり,従って刺突の際には,被告人は刃を出した上記折りたたみ式ナイフを左手に所持していることを認識していたと認められること,上記のとおりの犯行現場の明るさからすると,被告人は,犯行現場の状況やDの行動を十分認識した上で刺突行為に及んだものと認められること,これまで前科前歴が全くなく将来を約束されていた被告人が,逮捕されることを恐れて,とっさにDに対して殺意を抱くということも十分理解可能であることなどからすれば,被告人は,確定的殺意のもとにDを刺突したことが強く推認されるところである。 (2) これに対し,被告人は,Bコーポでは前記ナイフの刃を折りたたむことなく,刃を上に向けてズボンの左ポケットに入れていたが,逃走している途中,マンションのフェンスを乗り越えた際,ズボンの左ポケットからナイフが落ちそうになったので,それを左手に持ち,さらに逃走を続け,喫茶店E前で振り向くと,Dと正面から向き合う形になり,Dが両腕を伸ばして肩をつかみに来たので,これを防ごうと,右手の平をDの胸の辺りに向かって伸ばしたところ,ナイフを持ったままの左手が一緒にDの腹の方に向かって伸びてしまい,結果的にナイフが腹に刺さってしまったものであり,次いで,ナイフを抜いて後ずさりしたところ,また,Dが両肩をつかもうと腕を伸ばしてきたので,右手の平をDに向かって突き出したところ,その拍子に左手も一緒に伸びてしまい,ナイフがDの胸の辺りに刺さってしまったのである旨弁解するのであるが,上記弁解は,客観的な傷害部位の個数から認められる刺突回数とも異なり,Bコーポでナイフを収めた状況についての前記Aの供述とも符合しないのみならず,ナイフを持ったままの左手が一緒に伸びて結果的にナイフがDの腹に刺さってしまったなどという弁解自体不自然というべきであり,また,捜査段階では,ナイフを上 いての前記Aの供述とも符合しないのみならず,ナイフを持ったままの左手が一緒に伸びて結果的にナイフがDの腹に刺さってしまったなどという弁解自体不自然というべきであり,また,捜査段階では,ナイフを上向きに入れたか下向きに入れたかはっきりしない旨供述していたのに,公判廷では,刃を上向きにして入れた旨明言して,供述を変遷させているにもかかわらず変遷の合理的な説明をしていないのであって,信用することができないものである。 (3) 以上のとおりの事実関係,証拠関係からすれば,被告人が,確定的殺意をもってDを刺突した事実は,これを優に認めることができるものである。 6 被告人の供述が妄想性人格障害に影響されているとの弁護人の主張についてなお,弁護人は,被告人が犯行時及び捜査,公判を通じて一部不可解な挙動,言動をしているのは被告人の妄想性人格障害によるものであると主張するが,本件証拠関係上,被告人のそれまでの生活において,弁護人が主張するような人格障害の発現と見られるような事実は一切窺われないばかりでなく,被告人の前記不合理な弁解部分は,いずれもその罪責を軽減する方向に向けられたものであり,さらに,C店内における被告人の行動や,ナイフをポケットにしまった状況,財布を奪取した状況など客観的事実と明らかに矛盾していることを指摘されてもなおこれを維持し,あるいは,供述を変遷させて更に自己に有利な弁解をしていることからすると,被告人は,自己の弁解の不合理性を認識しつつ,罪責軽減のため,あえてそのような弁解に終始しているものとして理解可能であって,以上のような事実関係からすれば,被告人には妄想性人格障害は認められず,弁護人の主張は採り得ない。 7 自首の成否次に,被告人は,犯行翌日である平成12年12月3日午後1時ころI警察署に出頭して自首調書が作 関係からすれば,被告人には妄想性人格障害は認められず,弁護人の主張は採り得ない。 7 自首の成否次に,被告人は,犯行翌日である平成12年12月3日午後1時ころI警察署に出頭して自首調書が作成されているところ(106),検察官は,被告人は重要な社会的事実について虚偽の事実を申告して自己の刑事責任を免れようとしたものであるから,自首は成立しない旨主張しているので,この点について検討するに,関係証拠によれば,被告人が警察に出頭した時点では,本件事件の犯人については,ベージュ色の服を着て,頭にタオルを巻いていたということ,犯行直前のC店の防犯ビデオに,犯人によく似た人物が写っていることが判明するにとどまっていたものであって,未だ犯人が特定していたとはいえず,被告人は,犯人が発覚する前に捜査機関に出頭したといえる。 もっとも,被告人は,その際,捜査機関に対して,自分は,広島市○区○で起きた強盗事件や殺人事件を起こした者であるとは申告したものの,「女性に4回ほどにらみつけられ,一言文句を言ってやろうと思い,女性の後を追って行き,ダイバーナイフをちらつかせながら,何でにらんだのかと尋ねる等したが,女性がにらんだことを否定し,大声を上げる等したので,いったん女性から離れて帰ろうとすると,女性がチッと舌打ちをしてまたにらみつけていたので,頭に血が上り,首を絞めたり,胸倉をつかんだりしたが,女性が抵抗したのでもみ合っているうちに女性が肩にかけていた手提げバッグを持っていた。それで,びっくりして手提げバッグを持ったままその場から逃げた。その後,しばらく走っていると後ろで人の気配がし,後ろを振り向くとすぐ目の前に25歳くらいの男性が立っており,飛びかかってきたので,捕まったらまずいと思い,この男性ともみ合っているうちに,持っていたダイバーナイフが っていると後ろで人の気配がし,後ろを振り向くとすぐ目の前に25歳くらいの男性が立っており,飛びかかってきたので,捕まったらまずいと思い,この男性ともみ合っているうちに,持っていたダイバーナイフが男性の胸や腹等に刺さって,男性はその場に倒れ,自分は気が動転してその場から逃げた。結果的に女性が持っていた手提げバッグを奪い,その後,追いかけてきた男性を殺してしまった。」旨,本件犯行の動機,バッグ奪取の態様(強盗の故意),殺意について,前記2,3及び5で認定した事実と異なる供述をしている(106)。 しかしながら,捜査機関に真犯人を速やかに知らしめ,捜査,処罰を容易ならしめるという自首制度の趣旨からすれば,自首の内容に,動機や態様について真実でない部分が含まれていたとしても,被告人が警察に出頭したことにより,本件事犯についての捜査,処罰が容易になったことは明らかであり,また,被告人の上記供述によっても,被告人は,少なくとも傷害致死の限度では自己の犯罪行為を申告しており,訴追を求める意思もあったといえるから,刑の減軽をするか否かは別途考慮するにしても,自首は成立するというべきである。 (量刑の理由)本件は,被告人が,深夜,一人歩きの女性に興味を抱いてこれを追尾し,所携の折りたたみ式ナイフを示すなどして同女方居室内に押し入ろうとしたが,同女に拒絶されたため,同女が所持していたショルダーバッグを強取して逃走した上,逮捕を免れるため,同女の悲鳴を聞いて被告人を追跡してきた男性を上記ナイフで殺害したという強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。 本件のそもそもの発端は,判示犯行に至る経緯のとおり,深夜,偶々目撃した若い被害女性に興味を抱いてその後を追尾してナイフを用いるなどして女性宅に入ろうとしたものであるが,その動機も女性の尊厳を顧 本件のそもそもの発端は,判示犯行に至る経緯のとおり,深夜,偶々目撃した若い被害女性に興味を抱いてその後を追尾してナイフを用いるなどして女性宅に入ろうとしたものであるが,その動機も女性の尊厳を顧みない身勝手なものであるのみならず,自己の思いどおりにならないと知るや,格段金銭に窮していたわけではないのに,腹いせの意味も込めて,被害女性が所持していたショルダーバッグを強取し,さらに,逮捕を免れるために,追跡してきた男性を殺害するなど,本件犯行動機も自己中心的かつ短絡的であって酌量の余地は全くない。 また,強盗の態様は,当初から鋭利なナイフを突きつけて被害女性方に押し入ろうとし,これを拒絶されるや,同女の頸部を締め付けてショルダーバッグを奪うという危険かつ悪質なものであり,その後,被告人は,被害女性の悲鳴を聞いて追跡してきた被害男性の腹部,胸部等を数回,相当な力で突き刺すなどしてその場で失血死させており,その態様は,確定的殺意の下でなされた執拗かつ残忍なものである。 もとより死亡した被害男性には,これといった落ち度はないばかりか,偶々被害女性の悲鳴を聞きつけ,純粋な正義感から自己の危険を顧ず被告人を逮捕するためにその後を追ったのであり,その行動,勇気は賞賛されこそすれ,その生命を奪われるいわれは全くない。被害男性は,小学校の教員になるべくいったん入った大学を中退して猛勉強の末,地元の大学の教育学部に入学してこれを卒業し,広島市内の中学校において,非常勤講師として教員という夢の第一歩を着実に踏み出してまさにこれからというときに,突然被告人の凶刃に倒れてその生命を奪われたものであって,その無念さは察するに余りあり,また,そのような自慢の息子,兄を突然失った遺族の深い悲しみ,憤りは筆舌に尽くし難く,その被害感情は激烈である。 さらに,教師とし 倒れてその生命を奪われたものであって,その無念さは察するに余りあり,また,そのような自慢の息子,兄を突然失った遺族の深い悲しみ,憤りは筆舌に尽くし難く,その被害感情は激烈である。 さらに,教師として信頼し,また,慕っていた被害男性を突然失った勤務先や元勤務先の同僚,生徒らに与えた精神的影響にも計り知れないものがある。 そして,被害女性にも何らの落ち度もなく,深夜帰宅途中に襲われた同女が被った肉体的苦痛や,恐怖感等の精神的苦痛は大きいばかりでなく,さらに,自己が助けを求め,被告人の逃走する方向を上記被害男性に教えたばかりに同人が被告人に殺害されるという結果となり,同人やその遺族に対して申し訳ないという自責の念にかられている同女の心情も察するに余りあるものである。 にもかかわらず,被告人は,当公判廷において,被害男性を殺害した点については申し訳ないと述べ,被害男性の遺族に対して謝罪の手紙を書くなどしているものの,本件の発端については,被害女性ににらまれたためであると,あたかも同女に落ち度があるかのような不合理な弁解に終始し,さらに,被害男性の殺害の態様についても不合理な弁解に終始しているのであって,その姿は未だ保身を図り,真に反省している態度とはいい難いのみならず,被害男性の遺族や被害女性に対して二重の精神的苦痛を与えるものといえるのであって,かかる被告人の公判廷での態度を傍聴している被害男性の遺族や被害女性が,被告人の厳重処罰を求めるのも当然のことというほかない。 加えて,本件は,強盗犯人の逮捕に協力しようとした若く勇気ある青年教師が,強盗犯人に殺害された事件として大きく報道され,近隣住民や学校関係者,さらには社会一般に与えた衝撃も大きい。 このように本件は,動機に酌むところがなく,その態様が残忍で,その結果,社会的影響のいずれも重 人に殺害された事件として大きく報道され,近隣住民や学校関係者,さらには社会一般に与えた衝撃も大きい。 このように本件は,動機に酌むところがなく,その態様が残忍で,その結果,社会的影響のいずれも重大な犯罪であり,かつ,そのような凶行に及びながら未だ不合理な弁解に終始している被告人の刑事責任は著しく重いというほかない。 他方で,本件は,当初から強盗殺人をする意図のもとに行われた犯行ではないのみならず,強盗についても計画的な犯行とは考え難く,利欲的動機で人を殺害することに厳しい態度でもって臨むという典型的な強盗殺人の事案とはその類型を異にしていること,被告人の父親が,慰謝料の一部として死亡した被害男性の遺族に1500万円を支払っていること,被告人にはこれまで前科前歴が全くなく,いまだ26歳と若いこと,前記のとおり被告人には自首が成立することなど,被告人に有利な事情もあり,当裁判所としても,刑を減軽する余地がないかどうか慎重に検討したけれども,上記のような本件事案の重大さ,態様・結果の残忍さ・悲惨さに加えて,前記のとおり,被告人が本件犯行に至る動機や殺害方法などについて不合理な弁解に終始して,被害男性の遺族や被害女性の被害感情を逆撫でする態度をとり,これが被害者らの感情の激烈さを招いていることを考えると,被告人の刑事責任はやはり著しく重いというほかなく,被告人に対して刑の減軽をすることを相当と認めることはできなかった。 以上の次第で,被告人に対しては求刑どおり無期懲役刑を科するのもやむを得ないものと判断した。 よって,主文のとおり判決する。(求刑無期懲役,折りたたみ式ナイフの没収)平成14年3月20日広島地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官小西秀宣裁判官浅見健次郎 無期懲役,折りたたみ式ナイフの没収)平成14年3月20日広島地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官小西秀宣裁判官浅見健次郎裁判官鈴木祐治
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