平成17(ワ)3537 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年2月15日 名古屋地方裁判所 棄却
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判決文本文50,622 文字)

- 1 -平成19年2月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第3537号損害賠償請求事件(口頭弁論終結日平成18年12月13日)判決主文 原告らの主位的及び予備的請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1原告らの請求 主位的請求(1)被告らは,連帯して,原告Aに対し,2381万3600円及びうち2171万3600円に対する平成16年4月1日から,うち210万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被告らは,連帯して,原告Bに対し,1465万6800円及びうち1335万6800円に対する平成16年4月1日から,うち130万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)被告らは,連帯して,原告Cに対し,1465万6800円及びうち1335万6800円に対する平成16年4月1日から,うち130万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 予備的請求(1)被告らは,連帯して,原告Aに対し,2200万円及びうち2000万円に対する平成16年4月1日から,うち200万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 -(2)被告らは,連帯して,原告Bに対し,1375万円及びうち1250万円に対する平成16年4月1日から,うち125万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)被告らは,連帯して,原告Cに対し,1375万円及びうち1250万円に対する平成16年4月1日から,うち125万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで 分の割合による金員を支払え。 (3)被告らは,連帯して,原告Cに対し,1375万円及びうち1250万円に対する平成16年4月1日から,うち125万円に対する平成17年9月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,末期の肝癌及びその副腎転移を患い,抗癌剤の動注療法などの治療を受け続け,最後にRFA(radiofrequencyablation。ラジオ波焼灼術又はラジオ波凝固療法ともいう。)と呼ばれる治療法を受けた後に死亡した患者の家族である原告らが,これらの治療を担当した医師らに,治療方法の選択に関する過誤,術技上の過誤,経過観察義務等の過誤及び説明義務等の過誤があるなどと主張し,上記医師ら並びにその属する国立大学法人及び医療法人を共同被告として,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である(以下,医学用語や単位については,アルファベットやその略称を用いることがある。)。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は括弧内摘示の証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。 (1)当事者ア原告Aは,平成16年3月31日,肝癌治療のために入院していた被告国立大学法人D病院(以下「D病院」という。)で死亡したEの妻であり,原告BはEの長男,原告CはEの長女である。 イ被告医療法人Fは,a県b市c町d番e号でFG病院(以下「G病院」という。)を開設している医療法人である。 - 3 -ウ被告H医師は,平成15年6月から平成16年3月までの当時,G病院に勤務していた医師である。 エ被告I医師及び被告J医師(また,被告H医師,被告I医師及び被告J医師の3名を併せて「被告医師ら」ともいう。)は,いずれも,平成16年3月当時, 月までの当時,G病院に勤務していた医師である。 エ被告I医師及び被告J医師(また,被告H医師,被告I医師及び被告J医師の3名を併せて「被告医師ら」ともいう。)は,いずれも,平成16年3月当時,D病院に勤務していた医師である。 (2)診療経過の概要等アEは,平成15年6月6日,a県f市所在のK病院に来院して診察及びCT検査などを受けたところ,C型肝炎,肝硬変及び左副腎腫瘍を指摘され,担当医から,より大きな病院で治療を受けるよう勧められて,自宅に近いG病院あての紹介状を交付された。 イEは,平成15年6月9日,G病院に来院して診察などを受け,以後,平成16年3月までの間,被告H医師を主治医として,入院又は通院により,肝癌及び左副腎腫瘍に対する治療を受けていた。 被告H医師は,G病院において実施された各種検査により,平成15年6月11日の段階で,Eの肝癌が既に末期の状態にあると診断していた。 ウEは,平成16年3月23日,G病院の紹介を受けてD病院に入院し,同月24日,被告I医師,被告J医師及びL医師医師(また,被告I医師,被告J医師及びL医師の3名を併せて「被告I医師ら」ともいう。)を主治医として,左副腎腫瘍に対するRFAを受けた(以下,Eの受けたRFAを特に「本件RFA」という。)。 エEは,平成16年3月31日,D病院で死亡した。 原告らは,Eの法定相続人であり,その法定相続分は,原告Aが2分の1,原告B及び原告Cが各自4分の1である。 オなお,被告H医師及び同医師からEの担当を引き継いだ被告I医師らは,いずれも,Eに対し,最期まで「癌」という用語を用いて病名を告知することを差し控えていた。 - 4 -(3)RFAに関する医学的知見(乙B11ないし13,B14の1,2,被告J医師本人)アRFAは,体外から病変(腫瘍) 「癌」という用語を用いて病名を告知することを差し控えていた。 - 4 -(3)RFAに関する医学的知見(乙B11ないし13,B14の1,2,被告J医師本人)アRFAは,体外から病変(腫瘍)部に対して電極を穿刺してラジオ波と呼ばれる電磁波を照射することにより,電極周囲の病変部を加熱し,その熱によって病変部の生体蛋白質を凝固変性させて壊死させる(焼灼する)治療方法である。 イRFAは,1990年代前半から欧米で実施され始めたが,平成11年ころ以降は日本でも本格的に実施され,平成16年4月からは健康保険の適用が認められるようになり,現在では,多数の医療施設(平成18年1月現在で少なくとも全国1400以上の施設)において,主として肝癌の治療方法の1つとして実施されている。 ウなお,RFAの最も重篤な合併症の1つとして腹腔内出血が挙げられており(その確率については,0.5ないし0.7パーセントであると報告する医学文献もある。),進行癌では,その危険性がより高くなるとされている。 本件の争点(1)過誤その1-RFAの適用の誤りの有無(被告I医師らが,Eの左副腎腫瘍に対する治療法を選択するにあたり,適応を誤って本件RFAを実施した過誤が存するか。)(2)過誤その2-本件RFAの術技上の誤りの有無(被告I医師らが,本件RFAを実施した際,Eの副腎腫瘍を一回で過度に焼灼した過誤が存するか。 )(3)過誤その3-術後の経過観察義務等の懈怠の有無(被告I医師及び被告J医師が,本件RFA実施後の経過観察を怠り,また,出血箇所を特定し,止血することができなかった過誤が存するか。)(4)過誤その4-癌の告知義務及び抗癌剤治療等に関する説明義務の懈怠の- 5 -有無(被告医師らが,Eに対する癌の告知義務を懈怠したか。また,被告H医師 ることができなかった過誤が存するか。)(4)過誤その4-癌の告知義務及び抗癌剤治療等に関する説明義務の懈怠の- 5 -有無(被告医師らが,Eに対する癌の告知義務を懈怠したか。また,被告H医師が,リザーバー植込術・抗癌剤動注療法及び動脈塞栓術を実施するに当たり,E及び原告らに対し,治療法に関する説明義務を懈怠したか。)(5)過誤その5-RFAに関する説明義務の懈怠の有無(被告医師らは,本件RFAを実施するに当たり,E及び原告らに対し,治療法に関する説明義務を懈怠したか。)(6)上記各過誤と相当因果関係のある損害の内容及び金額 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(RFAの適応の誤りの有無)について(原告ら)アRFAの適応基準RFAの適応の判断基準は,医学文献によれば,一般に,①原則として,腫瘍径が3センチメートル以下,個数が3個以下であること(ただし,3センチメートル以上の腫瘍に対しても,複数回の焼灼により実施している。 )(乙B12),あるいは,②病変が切除不能又は患者が切除を希望しないこと,病変部が3センチメートル3個以内又は5センチメートル以内単発であること,血小板数5万以上でプロトロンビン値50パーセント以上であること,コントロール不能な腹水がないこと,門脈腫瘍栓及び肝外転移がないこと(ただし,肝機能が良好であるなどの条件次第では,腫瘍4個以上又は腫瘍径5センチメートル以上でも可能である場合も多い。)(乙B13)などとされている。 その他,本件RFA後に発表された報告例(乙B14の1,2)も併せれば,RFAは,現在では,肝癌などの治療に有効な方法として確立しており,また,腫瘍径が3センチメートル以上であっても適応が肯定される場合もあり得るということができる。 しかし,本件RFAの実施された平成16年3月 現在では,肝癌などの治療に有効な方法として確立しており,また,腫瘍径が3センチメートル以上であっても適応が肯定される場合もあり得るということができる。 しかし,本件RFAの実施された平成16年3月当時は,健康保険の適- 6 -用前であり,実施例の報告も少なく,未知な部分も多かったのであるから,その適応の有無については,より慎重に判断されなければならなかったというべきである。 イEに対するRFAの適応条件の欠缺Eの左副腎腫瘍は,その大きさが最大9センチメートルもあり,一般的・原則的な適応とされている3センチメートル又は5センチメートルを4センチメートルないし6センチメートルも上回るものであり,本来,RFAの適応基準を満たさなかったものである。 もっとも,乙B13には,「上級者が担当し,肝機能が良好で,患者のコンプライアンスが良ければ,4個以上あるいは5センチメートル超でも治療可能な場合も多い。」との記載がある。しかし,被告I医師らが上級者かどうかはさておくとしても,Eは,本件RFAの実施当時,肝硬変を合併して血小板数が減少するなど,凝固機能が低下しており,術後に出血などを合併する危険性が通常よりも高く,仮に合併すれば致命的になる危険性があった。肝機能についても,被告らは,「Child-Pugh」分類により(RFAの適応がある)グレードBと評価された旨主張するが,診療記録上,その主張に沿う記載も,どのような根拠によりグレードBと評価されたのかも記載がなく,むしろ,診療記録の検査結果からは,①脳症なし(1点),②腹水少量ないし中等量(2ないし3点)(乙A1p66,67),③ビリルビン値2.6mg/dl(2点)(乙A16p22),④アルブミン値2.7g/dl(3点)(乙A16p22)及び⑤プロトロンビン値68パーセント(2点)で,合計 3点)(乙A1p66,67),③ビリルビン値2.6mg/dl(2点)(乙A16p22),④アルブミン値2.7g/dl(3点)(乙A16p22)及び⑤プロトロンビン値68パーセント(2点)で,合計10ないし11点となるから,グレードCと評価され,RFAの適応外である。 なお,乙B13には,「確かな技術を習得するまでは門脈・腸管・胆嚢に接する病変等の治療は避けるべきである」という指摘もある。Eの左副腎腫瘍は腸管に隣接していたのであるから,これに対するRFAを実施す- 7 -るためには,そもそも,より高度な技術が要求されていた。 ウ小括以上によれば,Eの左副腎腫瘍についてはRFAの適応がなかったというべきであり,被告I医師らには,その適応の判断を誤った過誤がある。 そもそも,被告I医師らがEの腫瘍に対してRFAの適応があるかどうかを検討していないことは,これについて検討したメモが存在しないことからも明らかであり,適応もないのに,被告I医師らがRFAの技術を磨き,経験を積むべく,Eの腫瘍が破裂しない前に急いで本件RFAを実施した可能性すらある。 (被告ら)アRFAの適応基準RFAの適応は,一般に,腫瘍の大きさ,肝機能及び凝固機能により判断される。 (ア)腫瘍の大きさRFAは,通常,1回の通電による焼灼範囲が3センチメートルであるため,腫瘍径3センチメートル以下であれば治療効果が高く,術後の再発が少ないとされている。しかし,3センチメートルを超える腫瘍であっても,複数回焼灼することにより治療することが可能である。D病院においては,過去の実施例において,腫瘍径が5センチメートル以下であれば,RFAで良好な治療効果が得られており,また,5センチメートルを超える場合,約3分の1の症例で術後の再発が認められているものの,約3分の2の症例 施例において,腫瘍径が5センチメートル以下であれば,RFAで良好な治療効果が得られており,また,5センチメートルを超える場合,約3分の1の症例で術後の再発が認められているものの,約3分の2の症例では術後の再発がなく,RFAによる治療効果が認められている(初診時に腫瘍径12センチメートルの肝臓癌患者で,術後5年以上も再発がなかった患者もいる。)。 (イ)肝機能肝機能を評価する際には,「Child-Pugh」分類が用いられ- 8 -ている。これは,脳症,腹水,ビリルビン値,アルブミン値及びプロトロンビン活性値の5つの肝機能項目を各々3段階で点数化し,その合計点でグレードAないしCまで分類するものである。そして,グレードA(5ないし6点)は肝機能が良好な状態であり,グレードC(10ないし15点)は肝不全に近い状態であるところ,RFAの適応はグレードAないしBとされている。 (ウ)凝固機能血小板数4万ないし5万以上,プロトロンビン値>40ないし50%,INR<1.8をもって,RFAの適応とする医療施設が多い。 イEに対するRFAの適応基準の充足これをEについてみると,左副腎腫瘍の腫瘍径は約8.5センチメートルであったが,上記ア(ア)のとおり,腫瘍径が大きくても,RFAの適応が当然に制限されるものではない。Eの肝癌は,抗癌剤の反復投与により比較的良好に制御されていたが,左副腎腫瘍は2回の動脈塞栓術にもかかわらず増大し,いつ破裂するかもしれない危険が切迫しており,仮に破裂した場合には致命的であった。そのため,左副腎腫瘍に対しては,追加の治療が必要であったが,その切除は肝機能が低下していたため適応がなく,他の治療方法としては動脈塞栓術又はRFAが考えられたが,動脈塞栓術は,それまでにも2回実施しており,3回目は効果を期待できなかったた が必要であったが,その切除は肝機能が低下していたため適応がなく,他の治療方法としては動脈塞栓術又はRFAが考えられたが,動脈塞栓術は,それまでにも2回実施しており,3回目は効果を期待できなかったため,RFAを選択するほかないと判断される状態であった。 一方で,肝機能は,「Child-Pugh」分類でグレードBと評価され,また,凝固機能は,血小板数5万,プロトロンビン値84.5%,INR1.14であり,いずれもRFAの適応があった。 ウ合併症の危険性とEの意思もっとも,Eは,(RFAの適応があるとはいえ)肝硬変を合併して血小板数が減少していた上,腫瘍径が大きいことから,術後に出血や腸管損- 9 -傷などを合併する危険性が通常よりも高く,致命的になる危険性があったため,Eの判断が重要であった。 しかるところ,Eは,被告I医師らからその旨の説明を十分に受けた上で,RFAを受けることを決断したものである。すなわち,Eが,自らD病院を受診してRFAを受けることを決断する際に,「賭けてみます。」という趣旨の発言をしていることは,Eが,自分が既に進行した末期癌に罹患していることを十分認識した上で,RFAが通常よりも危険性が高くても賭けてみる価値のある治療方法であると理解し,これを選択したことを示している。 エ小括以上によれば,Eの左副腎腫瘍についてはRFAの適応があったというべきであり,本件RFAの実施に過誤があるとはいえない。 (2)争点(2)(本件RFAの術技上の誤りの有無)について(原告ら)アRFA実施上の注意義務被告I医師らは,本件RFAを実施する際,Eの左副腎腫瘍の大きさが約9センチメートルもあることや,Eの容態,RFAの危険性などを考慮して,複数回に分けて焼灼するなどの慎重な方法によりRFAを実施すべき注意義務を負ってい FAを実施する際,Eの左副腎腫瘍の大きさが約9センチメートルもあることや,Eの容態,RFAの危険性などを考慮して,複数回に分けて焼灼するなどの慎重な方法によりRFAを実施すべき注意義務を負っていた。 イ本件RFAの術技上の誤りしかるに,被告I医師らは,上記注意義務を怠り,1回でEの左副腎腫瘍のすべてを焼灼したため,Eは,術後に出血を引き起こし,出血過多により死亡する結果となった。 (被告ら)ア本件RFAの態様本件RFAは,背中から,電極を左副腎腫瘍に対して合計4回穿刺して- 10 -(なお,4回中2回については,肝硬変に伴う脾腫があり,体位変換などをしても穿刺経路の確保が困難であったため,経脾的に穿刺した。),各穿刺部位で2回ずつ焼灼し,また,穿刺した電極を抜去する際にも,出血予防の目的で穿刺経路の焼灼を実施して終了しており,術中に異変などはなかった。 D病院においては,RFAを受ける患者の負担を考慮し,約2時間で1回の実施(1セッション)を終了させ,その結果,病変がなお残存していれば,後日にRFAを再度実施することにしている。本件RFAにおいても,被告I医師らは,実施後に病変の有無を確認し,病変がなお残存していれば,後日にRFAを再度実施することを予定していたものであるから,1回の実施ですべての腫瘍を焼灼するため,過度の焼灼を実施したことはない。 イ本件RFAの術技と死因との因果関係不存在本件RFA後のEの出血は,左副腎腫瘍そのものからのものであり,RFAに伴う避け難い合併症の1つである。また,Eの死亡原因は失血(死)ではなく,虚血による肝不全及び腎不全(肝腎症候群)である。 すなわち,Eは,もともと肝機能が低下していた上,門脈閉塞があり,肝臓には動脈のみで栄養が供給されていたため,わずかの血圧低下でも虚血状態に陥り く,虚血による肝不全及び腎不全(肝腎症候群)である。 すなわち,Eは,もともと肝機能が低下していた上,門脈閉塞があり,肝臓には動脈のみで栄養が供給されていたため,わずかの血圧低下でも虚血状態に陥りやすい状態にあった。そのため,出血により肝不全に陥り,これに伴って腎不全を引き起こしたものである。 したがって,被告I医師らによる本件RFAの術技に過誤はなく,また,Eの死亡との間に因果関係もない。 (3)争点(3)(術後の経過観察義務等の懈怠の有無)について(原告ら)ア術後の注意義務被告I医師及び被告J医師は,Eに対するRFAが合併症の危険性を伴- 11 -う難しいものであることを十分に認識していたはずであるから,本件RFAの担当医として,術後のEの容態を十分に経過観察し,その容態に変化が見られれば,精密検査を実施して原因を早期に発見・特定し,これに対応すべき注意義務を負っていたことが明らかである。 イ被告I医師及び被告J医師の上記注意義務違反(ア)被告I医師及び被告J医師は,本件RFA実施後の当日(平成16年3月24日)午後5時ころ,Eが激しく苦しみ,看護師も「手術は成功したのに,何でこんなに血圧低いんかな。」と疑問を呈するほどの状態になったのを見て,血圧低下を認識しながら,特に不審を感ずることもなく放置して病室を離れた。被告I医師及び被告J医師は,同日午後8時,ようやくCT検査などを実施して出血を認めたものの,翌25日になっても,その出血源を特定して止血することができなかったにもかかわらず,翌26日,経験の浅いL医師にEの治療を任せて,学会に出席するため渡米してしまった。 (イ)仮に被告I医師及び被告J医師が,平成16年3月24日午後5時の時点でEの出血に気付き,出血箇所を特定して止血をしていれば,あるいは,同日午後8時 て,学会に出席するため渡米してしまった。 (イ)仮に被告I医師及び被告J医師が,平成16年3月24日午後5時の時点でEの出血に気付き,出血箇所を特定して止血をしていれば,あるいは,同日午後8時実施のCT検査などにより出血を確認後,出血箇所を早期に特定して止血していれば,Eが同月31日に死亡する結果は生じなかった。 ウ小括以上によれば,被告I医師及び被告J医師には,本件RFA実施後の経過観察を怠り,かつ,出血箇所を特定し止血することができなかったという過誤がある。 その結果,Eは,出血過多により死亡したものである。 (被告ら)アEの症状とこれに対する措置- 12 -Eには,本件RFA実施後,腹部の不快感や吐き気などが見られたが,これらは,RFA実施後によく見られる症状であるため,被告I医師らは,経過観察を行うこととした。 Eの血圧は,平成16年3月24日午後6時の時点で,108/82と正常値であり,被告I医師らは,引き続き経過観察を行っていた。ところが,同日午後8時ころ,Eの血圧が80台に低下したため,被告I医師らは,緊急CT検査・血液検査などを実施したところ,穿刺吸引により出血を確認したため,緊急輸血を行ったり,昇圧剤・止血剤を投与するなどした。 被告I医師らは,翌25日午前零時30分ころ,Eに対して緊急血管造影検査を実施し,その結果,明らかな出血源を指摘することはできなかったものの,電極で脾臓を穿刺していることから,脾臓からの出血の可能性を考え,まず脾動脈塞栓術を実施して経過観察を行うこととした。 その後の同日未明ころ,Eの血圧は比較的安定していたが,血液検査結果の所見上,出血の持続が疑われたため,被告I医師らは,再度,緊急血管造影検査を実施した,被告I医師らは,これによっても出血源を特定できなかったものの,左副腎腫瘍 は比較的安定していたが,血液検査結果の所見上,出血の持続が疑われたため,被告I医師らは,再度,緊急血管造影検査を実施した,被告I医師らは,これによっても出血源を特定できなかったものの,左副腎腫瘍に対する血液供給血管となり得る可能性のある左下横隔動脈及び左下副腎動脈に対しても動脈塞栓術を実施し,併せて止血剤投与・輸血などの治療を実施した(その結果,同月30日実施の血液検査結果の所見上,止血されていることが認められた。)。 イ被告I医師及び被告J医師の渡米と了承被告I医師及び被告J医師は,平成16年3月26日から同月31日まで,アメリカで開催される学会に出席するため渡米しなければならなかったが,主治医の一人であるL医師がEの治療を継続し,また,被告I医師及び被告J医師も,随時,出張先から電話によりL医師と連絡を取り合い,治療方針などを協議していた。 - 13 -なお,被告I医師及び被告J医師の上記渡米については,本件RFAに先立ってEにあらかじめ説明され,その了承を得ている(そのため,上記渡米前の同月24日に本件RFAが実施されることになったものである。 )。 ウ小括以上によれば,被告I医師及び被告J医師には,本件RFA実施後の経過観察及び出血に対する治療について過誤は存在しない。 (4)争点(4)(癌の告知義務及び抗癌剤治療等に関する説明義務の懈怠の有無)について(原告ら)ア癌の告知義務懈怠(ア)被告H医師は,Eに対して,癌という言葉を使わず,腫瘍という言葉を使って説明しており,D病院でも,肝腫瘍あるいは肝から飛んだ副腎腫瘍という言葉を使っている。 このように,被告医師らは,Eに対し,最期まで癌という病名の告知をしなかったものであるが,この措置は,患者本人に対して告知することを原則とし,人間関係や信頼関係が形成されてい いう言葉を使っている。 このように,被告医師らは,Eに対し,最期まで癌という病名の告知をしなかったものであるが,この措置は,患者本人に対して告知することを原則とし,人間関係や信頼関係が形成されていく中で告知をする姿勢が大切であることなどを内容とするM病院の「がん告知マニュアル」などの各種基準及び医療実務の対応(乙B5ないしB8)に違反するものである。 (イ)この点につき,被告らは,被告医師らの説明などにより,Eは自分が癌に罹患していることを暗黙裡に理解していた旨主張する。 しかし,Eは,懇意にしている知人から,顔色が悪いとして診察を受けることを勧められたため,K病院を受診したにとどまり,特に身体に異常を感じていたものではなかった。また,K病院の担当医から,C型肝炎・肝硬変及び副腎腫瘍を指摘された際も,帰宅後,原告Aに対して,- 14 -治るまで禁酒すると述べるなど,禁酒すれば良くなる程度の病状と軽く考えていた。 そもそも,医療の専門家でないEが,被告らの主張するような説明により,自分が癌に罹患していることを理解できるものではない。また,仮にEがそのように理解していたのであれば,癌に関する知見を得ようとし,又は病状について被告医師らに尋ねるはずであるが,Eは,癌に関する知見を調べることはなく,被告医師らに対して病状を尋ねることもしなかった。一方で,被告医師らも,原告らに対し,Eが自分が癌に罹患していることを暗黙裡に理解している旨説明し,あるいは,癌の告知をするかどうかについて原告らで相談するよう求めることはなく,原告らからEに対して癌の告知をしないでほしい旨希望された際も,Eが自分が癌に罹患していることを暗黙裡に理解している旨説明することはなかった(特に,被告H医師は,Eと原告らとの間で治療方針に関する意見に食い違いがあると感じ 知をしないでほしい旨希望された際も,Eが自分が癌に罹患していることを暗黙裡に理解している旨説明することはなかった(特に,被告H医師は,Eと原告らとの間で治療方針に関する意見に食い違いがあると感じていたというのであるから,被告らの主張するように,被告H医師が平成15年7月8日に病室でEから「僕の病気は癌ですよね。」と尋ねられたというのであれば,原告らに対し,その旨を説明した上で,Eに癌の告知をして治療方針について話し合うよう助言して然るべきである。)。 また,被告J医師自身,診療記録に「本人は副腎腫瘍と認識しており,癌の告知はされていない様子であった」と記載している(乙A16p19)。 したがって,Eが自分が癌に罹患していることを理解していなかったことは明らかである。 仮に,被告らの主張するとおり,自分が癌に罹患していることをEは暗黙裡に理解していたというのであれば,被告医師らは,上記基準などに従い,Eに対して正確な病状を説明すべきであり,また,Eの精神的- 15 -支援に重要な役割を果たす原告らに対してもこれを十分に説明すべきであったにもかかわらず,被告医師らは,これらを怠った。 (ウ)なお,原告らは,被告H医師に対し,Eに対する癌の告知をしないでほしい旨希望していたが,これは,上記(ア)の基準などを知らない原告らが,気の弱いEが真の病状を知れば,残された余命期間を心豊かに過ごせなくなってしまうことを危惧し,Eに真実を知らせず,また単なる延命のための治療を避け,残された余命期間をできる限りEのやりたいようにさせてやり,原告らと一緒に過ごす時間をできる限り長く持たせたいと考えた結果である。 したがって,Eの主治医としては,医師としての立場から,原告らの希望に盲従するのではなく,原告らと話合いの機会を設け,Eに対する癌の告知に向け す時間をできる限り長く持たせたいと考えた結果である。 したがって,Eの主治医としては,医師としての立場から,原告らの希望に盲従するのではなく,原告らと話合いの機会を設け,Eに対する癌の告知に向けて,原告らを説得すべきであったにもかかわらず,被告H医師は,そのような機会を設定し,原告らに対してEに癌の告知をしたい旨申し入れるなど,癌の告知に関する原告らの理解を求める努力を尽くさなかった。 (エ)以上によれば,被告医師らには,患者であるEに対し,癌を告知すべき義務を懈怠した過誤がある。 イ抗癌剤治療等に関する説明義務懈怠(ア)原告らは,末期癌に罹患しているというEの病状を正しく認識していたが,Eはこれを認識していなかった。このような場合,Eに対する治療については,Eの自己決定権よりも,正確な病状を知っている原告らの決定権が優先されるべきであり,そうである以上,被告医師らは,原告らに対し,治療方針などに関して説明し,その同意を得る義務を負うというべきである。 (イ)しかるに,被告H医師は,原告らに対し,リザーバー植込術については,事後的に説明したにとどまり,また,抗癌剤の動注療法及び動脈- 16 -塞栓術については,原告らの明確な拒否の意思表示を無視して実施し,その結果,Eは入退院を繰り返し,残された余命期間を完治可能性のない治療に費やすことになったものであり,原告らの有するEの治療に関する決定権が侵害されたことは明らかである。 また,E自身がリザーバー植込術,抗癌剤動脈及び動脈塞栓術を受けることに同意したのは,自分の病状が末期癌であることを知らず,これらの治療により完治すると誤解していたためであるから,上記同意は錯誤に基づくものであって,Eがその真の病状を知っていれば単なる延命治療にすぎない治療を受けなかったから,実質的には ことを知らず,これらの治療により完治すると誤解していたためであるから,上記同意は錯誤に基づくものであって,Eがその真の病状を知っていれば単なる延命治療にすぎない治療を受けなかったから,実質的には,Eの自己決定権も侵害されている。 (ウ)以上によれば,被告H医師には,E及び原告に対する,リザーバー植込術,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術に関する説明義務を懈怠した過誤がある。 (被告ら)ア告知・説明の在り方M病院の「がん告知マニュアル(第2版)」(乙B5),日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」(乙B6),厚生労働省医政局長の「診療情報の提供等に関する指針」(乙B7),終末期医療に関する調査等検討会報告書(乙B8)等によれば,説明義務が認められる実質的根拠は,患者といっても,治療を受けるに際して,説明を受けた上で自ら決定する権利を留保しているという点にある。 他方,患者の家族は,患者の共同生活者,支援者であり,医師と患者との関係は,家族のそれよりは希薄であることから,家族の意思を全く無視することはできない。もっとも,患者と家族の関係を整合しきるまでのことを医師に求めるのは,場合によっては不適切であり,逆に酷でもある。 したがって,家族の要請や希望が相当な範囲のものであれば,一概に無視- 17 -すべきものではないが,それを超えて,治療に関しての家族の決定権を患者のそれに優先すべき場面は,患者の理解力・治療決定能力が明らかに欠如しているような特段の事情が認められる場合に限定される。 そして,癌の告知・説明の在り方や治療方針の決定については,患者本人の自己決定権を阻害しないという前提の下に,患者の意向,家族関係,医師の裁量を含む総合的な考慮によって判断されるべきものであり,幅を持ったものであることが理解されるべきである。 イ癌の ,患者本人の自己決定権を阻害しないという前提の下に,患者の意向,家族関係,医師の裁量を含む総合的な考慮によって判断されるべきものであり,幅を持ったものであることが理解されるべきである。 イ癌の告知義務懈怠の不存在(ア)Eは,平成15年6月9日,G病院を受診し,翌10日,CT検査などを受けたが,その検査結果の所見上,肝硬変に多発性肝癌を合併して,門脈浸潤及び副腎転移を来しており,黄疸の指標となる総ビリルビン値も1.5mg/dlと軽度の上昇が見られたことから,極めて予後不良の深刻な進行癌に罹患していることが判明した。そして,治療をしない場合の予後は,2,3か月ないしせいぜい5,6か月と予想された。 (イ)そのため,被告H医師は,同月11日,Eに対し,①病状について,「肝と左副腎に腫瘍がある。」,「腫瘍が大きくなってきている。腫瘍が増大する。」,「肝臓から副腎にもいっている。飛んでいる。」旨を,②予後として,「増大すれば命に関わる。」,「放置する場合は2,3か月とか半年とかいう数か月単位で命に関わる危険性がある。」,「したがって,治療はできるだけ急いだ方がよい。」旨を,③治療方針などについて,血管造影などの必要な検査の内容及びその方法,その合併症,動注療法及び動脈塞栓術の必要性,その内容及び方法(検査結果に従い,薬剤を入れ又は血管を詰めて進行を止める。),そのために必要となるリザーバー植込術などについて説明した。 被告H医師による上記説明内容は,通常人がこれを受ければ,自分が癌に罹患していることを理解できるものであり(実際にも,被告H医師- 18 -は,同年7月8日にEの病室を訪れた際,Eから「僕は癌ですよね。」と尋ねられ,その際には,「治療に期待しましょう。」などと答えている。),被告H医師としては,Eの心情に配慮し,癌という - 18 -は,同年7月8日にEの病室を訪れた際,Eから「僕は癌ですよね。」と尋ねられ,その際には,「治療に期待しましょう。」などと答えている。),被告H医師としては,Eの心情に配慮し,癌という決定的な言葉を用いて説明することを避け,段階的な説明によりEに癌に関する正しい認識を形成させることにしたものである。 (ウ)一方で,被告H医師は,Eの病状が進行癌であり,深刻な状態であったことから,Eに対し,家族へ病状を説明する必要性を示唆したところ,同年6月20日,Eの病状などについて,原告Cに説明する機会を得た。その際,被告H医師は,原告Cに対し,輸血が原因と思われる肝硬変に肝癌を合併して副腎に転移があること,動注療法などの治療が必要であること,治療しない場合の予後は2,3か月ないし5,6か月程度であることなど,癌という言葉を用いた点を除き,Eに対して行った説明と同じ内容を説明した。 これに対し,原告Cは,非常に強い口調で治療を拒否する意向を表明した。しかし,被告H医師は,医学的にみて治療の効果を期待できる以上,治療することなく放置することはできない旨説得し,家族で意見を調整してもらうべく,いわゆるセカンドオピニオンの説明も含め,「当院に拘束する必要はないので,信頼できる病院があれば,何時でも何処でも紹介する。」,「もしご本人と家族ともに治療を拒否するのであれば,入院を続ける意味はないが,よくご本人と相談していただきたい。 」旨説明し,併せて,その時点では,まだEに対して癌という病名の告知をしていなかったことから,その告知の問題についても家族で相談してほしい旨伝えた。 次いで,被告H医師は,同年7月2日,原告らに対し,原告Cに対する上記説明と同じ内容を説明したところ,原告らから,一致してEに対して癌という病名を告知しないでほしい旨強く 相談してほしい旨伝えた。 次いで,被告H医師は,同年7月2日,原告らに対し,原告Cに対する上記説明と同じ内容を説明したところ,原告らから,一致してEに対して癌という病名を告知しないでほしい旨強く希望された。そのため,- 19 -被告H医師は,家族である原告らの意向も無視できないと考えるとともに,Eが自分の病状や治療方針などについて暗黙理に理解していると判断されたことから,癌という病名の告知をしない方が適切であると判断し,以後も,Eに対しては,癌という言葉を用いず,「肝と左副腎に腫瘍がある。」,「腫瘍が大きくなってきている。腫瘍が増大する。」,「肝臓から副腎にもいっている。飛んでいる。」という言葉を用いて説明した。 (エ)他方,被告I医師らは,被告H医師から,原告らが,Eに対して癌という病名の告知をすることを希望していないため,Eに対しては,癌という言葉を用いず,「肝腫瘍」,「副腎腫瘍」などと説明していること,しかし,Eは,自分が癌に罹患していることを含めて自分の病状を理解していると考えられることの引継ぎを受けていた。 実際,被告J医師は,平成16年3月24日の入院時の診察の際,Eに対し,現在の病状についてどのように理解しているかを確認しているが,これによっても,Eは,副腎腫瘍が急速に大きくなっていて破裂する可能性があり,破裂すれば致命的になるため治療が必要であること,RFAは同年4月から健康保険が適用となること,治療を急いだ方がよいことを十分理解していると認められたため,被告J医師も,Eは,癌という言葉を用いないものの,自分が癌に罹患していることを理解していると判断した。 そのため,被告I医師らは,G病院の診療経過を尊重すべきであると考え,かつ,癌という病名の告知をしなければならないような事情もなかったことから,Eに対し,癌 していることを理解していると判断した。 そのため,被告I医師らは,G病院の診療経過を尊重すべきであると考え,かつ,癌という病名の告知をしなければならないような事情もなかったことから,Eに対し,癌という病名の告知はせず,「肝腫瘍」,「副腎腫瘍」などの言葉を用いながら,癌に関する事項をすべて説明した。 (オ)以上のように,被告H医師は,Eの肝癌が末期癌であり,その病状,- 20 -予後,治療などの内容的な説明を尽くし,また,その後の診療経過において,Eが治療に積極的であり,かつ,Eに自分が癌に罹患していることに関する暗黙の了解があると認められたことから,重ねて癌という病名の告知をする必要性まではなく,家族である原告らの希望を尊重すべきであると判断し,癌という病名の告知をしなかったものであり,このような被告H医師の対応を引き継いだ被告I医師らも,これを相当と判断し,かつ,殊更に癌という病名の告知をすべき必要性もなかったことから,同様に,癌という病名の告知まではしなかったものである。 被告医師らの上記措置は,患者優先の原則を踏まえつつ,患者の家族の意思にも配慮したものであり,医療現場の実務における医師の措置として相当なものであって,Eも,被告医師らの説明内容や自分が癌に罹患していることを理解した上で,その治療方法を判断決定したものであるから,癌の告知に関する被告医師らの措置には,違法と評価されるべき点はない。 (カ)また,原告らは,自らEに対する癌の病名不告知を被告医師らに要請しながら,結果的にEに対する癌の病名不告知をもって,被告医師らによる告知義務懈怠を主張するが,上記のように,Eに対する癌の病名不告知は,原告らの強い要請を尊重した上での判断でなされたものであり,かかる要請をした原告らが,本件訴訟において,被告医師らによる病名 よる告知義務懈怠を主張するが,上記のように,Eに対する癌の病名不告知は,原告らの強い要請を尊重した上での判断でなされたものであり,かかる要請をした原告らが,本件訴訟において,被告医師らによる病名不告知を理由とする告知義務懈怠を主張するのは背理であり,失当である。 ウ抗癌剤治療等に関する説明義務懈怠の不存在(ア)被告H医師は,上記アのとおり,Eに対し,癌という言葉を使うことを避けつつも,「肝腫瘍」,「左副腎腫瘍」,「飛んでいる。」等の癌の病状に特徴的な言葉を用いながら,癌に関する事項をすべて説明した上で,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術並びにその手段となるリザー- 21 -バー植込術について,それぞれ,その必要性や方法及び内容,合併症などを説明し,Eからこれらの治療の実施に対する承諾を得ている。 また,被告H医師は,同年7月2日,原告らに対しても,上記の同内容の説明を行い,家族の意見を後日もらうことにしたところ,翌3日,家族から治療について了解する旨の電話連絡を受けている。 (イ)以上によれば,被告H医師は,リザーバー植込術,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術に関する説明義務を尽くしている。 (5)争点(5)(RFAに関する説明義務の懈怠の有無)について(原告ら)アRFAに関する説明義務上記(4)の原告らの主張アのとおり,被告医師らは,原告らに対し,Eの治療に関して説明してその同意を得る義務を負うというべきである。 特に,RFAは,合併症により死亡する危険性もあるのであるから,RFAを担当する医師としては,家族である原告らに対しても,その治療内容や危険性などを十分に説明しなければならないというべきである。 イRFAに関する説明義務の懈怠しかるに,被告H医師は,RFAについて,その自認するとおり,原告らに対し,その危険性を説明せ 治療内容や危険性などを十分に説明しなければならないというべきである。 イRFAに関する説明義務の懈怠しかるに,被告H医師は,RFAについて,その自認するとおり,原告らに対し,その危険性を説明せず,また,被告I医師らも,RFAについて,原告らに対し,事前に具体的内容や危険性,効果などを説明しなかった。 加えて,E自身も,被告医師らから,RFAについて,その具体的内容や危険性,効果など,RFAを受けるかどうかの選択に必要な説明を受けられず,その結果,これを受ければ病気が治癒するとの誤った認識に基づき,RFAを受けることを同意した(なお,被告J医師は,診療記録に「副腎腫瘍に対するRFAは自験例では7例行っているが,重篤な合併症は認められてない。」と記載しており(乙A16p19),合併症について- 22 -そのような説明を受けたにすぎないEが,RFAの危険性について正確に理解できるはずもない。)。 この点につき,被告らは,被告H医師が,平成15年7月14日の退院時,Eに対し,RFAについて説明した旨主張する。しかし,原告らは,Eからそのような話を聞いたことがなく,診療記録上もその旨の記載は見当たらない。また,被告らは,被告H医師が,平成16年2月25日,Eに対し,RFAの内容や合併症などの危険性について説明し,家族とも相談の上決めてほしい旨説明したとも主張する。しかし,Eが,原告らに対し,そのような危険性などについて話したこともない(なお,翌26日,原告B及び原告Cは,被告H医師に面談したが,被告H医師からは,「文句を言われてまで(病院に)いてもらうことはない。嫌ならいつでも転院してもらって結構。」と突き放され,また,EはRFAを受けることを了解しているとして,その余の選択の余地がないと感じさせる内容の説明を受けたにとどまり,その危 てもらうことはない。嫌ならいつでも転院してもらって結構。」と突き放され,また,EはRFAを受けることを了解しているとして,その余の選択の余地がないと感じさせる内容の説明を受けたにとどまり,その危険性や効果などについては全く説明を受けられなかった。)。 ウ小括以上によれば,被告医師らは,E及び原告らに対するRFAに関する説明義務を懈怠した過誤があるところ,これが尽くされていれば,原告らは,RFAの実施に強く反対したことは確実であり,EもRFAを受けないと判断したはずであり,これにより,本件RFAは実施されず,Eが同月31日に死亡する結果は生じなかった。 (被告ら)ア被告H医師による説明義務の履行被告H医師は,平成15年7月14日及びその前後,Eに対し,RFAについて,その合併症を含め詳しく説明した(ただし,その時点では,Eは,RFAの治療を選択しなかった。)。 - 23 -その後,被告H医師は,左副腎腫瘍の破裂する危険性が切迫してきた平成16年2月25日,Eに対し,再度,副腎の腫瘍が増大してきており,破裂する可能性があって,生命に関わること,追加治療が必要であること,動脈塞栓術とRFAが考えられるが,前者はあまり効果が期待できないこと,RFAは,腫瘍が大きく,術後の出血,破裂,腸管損傷等を合併する危険があるため,覚悟が要ること,よく考え,家族とも相談して決めてほしい旨説明した。また,翌26日,原告B及び原告Cが来院したので,被告H医師は,同様の説明を繰り返し,E本人の意思,予後を第一に考えてほしい旨話した。そして,翌27日,EからRFAを受けたいとの返事があったので,被告H医師が,息子さんたちと話し合ってもらえたかを尋ねたところ,Eは,「あれら,まだ子供やから。」と答えて笑った。 原告らからは,治療に対する消極的な意見も表明 FAを受けたいとの返事があったので,被告H医師が,息子さんたちと話し合ってもらえたかを尋ねたところ,Eは,「あれら,まだ子供やから。」と答えて笑った。 原告らからは,治療に対する消極的な意見も表明されていたが,上記のように,Eは治療に対して積極的な姿勢を示していた。Eの意思と原告らの意思とは必ずしも同じ内容ではなく,被告H医師としては,Eに対し,原告らからの申入れなどを説明して原告らと話し合うことを勧めたが,最終的には,RFAを受けるというEの決断を優先したものである。 イ被告I医師らによる説明義務の履行被告I医師らは,本件RFAの実施に先立ち,Eに対し,病状や治療の必要性,RFAの内容及び方法,出血や腸管損傷などの致命的な合併症などを詳細に説明したところ,その説明を受けたEは,RFAを受けることを決断した。 なお,被告I医師らは,本件RFAの実施に先立ち,原告らに対する説明の機会を設けなかったが,これは,Eに十分な判断能力があり,原告らを同行せずに説明を受け,また,原告らを呼んで同席の上説明する必要はないというEの意思が表明されたため,これを尊重した結果である。 ウ小括- 24 -以上によれば,被告医師らには,RFAに関する説明義務を懈怠した過誤はない。 (6)争点(6)(損害)について(原告ら)アRFAの適応違反,本件RFAの不適切な術技及び本件RFA後の経過観察義務懈怠などの各過誤について(ア)上記各過誤は,いずれも,Eの死亡との間に相当因果関係があるから,Eの死亡による損害額が賠償されなければならないところ,その損害額(逸失利益及び慰謝料)は,後記エのとおり,3342万7200円である。 (イ)仮に上記各過誤とEの死亡との間に相当因果関係がないとしても,Eは,当時の医療水準に適った診療を受けることを期待して 額(逸失利益及び慰謝料)は,後記エのとおり,3342万7200円である。 (イ)仮に上記各過誤とEの死亡との間に相当因果関係がないとしても,Eは,当時の医療水準に適った診療を受けることを期待して本件RFAを受けることに同意したものであり,それにもかかわらず,上記期待に反して医療水準に適った診療(説明,施術及び経過観察)を受けられなかったのであるから,その期待権を侵害されたものであるところ,仮に上記各過誤がなければ,平成16年3月31日にEがなお生存していた相当程度の可能性があった。 したがって,後記エのとおり,この期待権の侵害による損害が賠償されなければならず,その損害額(慰謝料)は3342万7200円である。 イ抗癌剤治療等に関する説明義務懈怠について上記懈怠により,E及び原告らの(自己)決定権が侵害されたから,この(自己)決定権の侵害による損害が賠償されなければならないところ,その損害額(慰謝料)は,後記エのとおり,Eにつき3000万円,原告ら各自につき500万円をそれぞれ下らない(なお,上記懈怠とEの死亡との間の因果関係は主張しない。)。 - 25 -ウRFAに関する説明義務懈怠について(ア)上記懈怠は,Eの死亡との間に相当因果関係があるから,Eの死亡による損害額が賠償されなければならないところ,その損害額(逸失利益及び慰謝料)は,上記ア(ア)のとおり,3342万7200円である。 (イ)仮に上記各懈怠とEの死亡との間に相当因果関係がないとしても,上記ア(イ)のとおり,Eの期待権を侵害されたから,この期待権の侵害による損害が賠償されなければならないところ,その損害額(慰謝料)は,上記ア(イ)のとおり,3342万7200円である。 (ウ)さらに,上記懈怠により,上記(ア)及び(イ)とは別個に,E及び原告らの(自己) が賠償されなければならないところ,その損害額(慰謝料)は,上記ア(イ)のとおり,3342万7200円である。 (ウ)さらに,上記懈怠により,上記(ア)及び(イ)とは別個に,E及び原告らの(自己)決定権が侵害されたから,この(自己)決定権の侵害による損害が賠償されなければならないところ,その損害(慰謝料)は,後記エのとおり,Eにつき3000万円,原告ら各自につき500万円をそれぞれ下らない。 エ損害額(ア)Eの死亡による損害a逸失利益342万7200円Eは,有限会社N(酒屋)の代表取締役で,死亡1年前の平成15年度の収入は720万円であるところ,Eは,本件RFAを受けなければ少なくとも1年は生存できたと考えられるから,その逸失利益は,次の計算式(ライプニッツ係数0.952。生活費控除率0.3)のとおり,342万7200円を上回ることが明らかである。 (式)720万円×0.952×0.7=4,798,080b慰謝料3000万円Eは,被告医師らから,自分の治療方法に関する十分な説明を受けることができず,その自己決定権を侵害され,残された余命期間を有意義に過ごすことができなかった上,本件RFAにより,その余命期- 26 -間を大幅に短縮され,最期は大量の出血に苦しみながら死亡したものであり,その精神的苦痛を慰謝すべき金額は3000万円を下らない。 (イ)期待権の侵害による損害期待権の侵害による損害(慰謝料)は,死亡の結果に匹敵するものであるから,その損害額は,上記(ア)の合計額相当額である3342万7200円である。 (ウ)(自己)決定権の侵害による損害被告医師らは,Eに対する治療方法について,E及び原告らに対する十分な説明を怠り,単なる延命措置にすぎない治療は希望しないという原告らの意向に反する治療を続け,その結 (自己)決定権の侵害による損害被告医師らは,Eに対する治療方法について,E及び原告らに対する十分な説明を怠り,単なる延命措置にすぎない治療は希望しないという原告らの意向に反する治療を続け,その結果,E及び原告らは,Eに対する治療に関する(自己)決定権を侵害され,Eは,自己に残された余命期間を入通院や手術に奪われ,有意義に過ごすことができなかった上,本件RFAにより,その余命期間を大幅に短縮され,最期は大量の出血に苦しむことになった。 これらの事情にかんがみれば,(自己)決定権の侵害による損害(慰謝料)は,Eにつき3000万円,原告ら各自につき500万円を下らない。 (被告ら)原告らの主張は争う。 第3当裁判所の判断 Eの診療経過等について上記第2の1の前提事実並びに証拠(甲A4,A5,乙A1,A2の1,2,A16,A23ないしA26,原告A,原告C,被告H医師,被告J医師各本人。ただし,認定に反する部分を除く。なお,診療記録である乙A1,A2の1,2,A16については,各認定事実の末尾に適宜該当頁を附記する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,Eの診療経過等として,以下の事実が認められ- 27 -る。 (1)平成15年6月6日Eは,ゴルフに出かけた際,同伴の知人から顔色が悪いなどと指摘され,病院で診察を受けてみてはどうかと勧められたため,同日,紹介を受けたa県f市所在のK病院に来院(初診)し,診察及びCT検査などを受けたところ,担当医から,C型肝炎,肝硬変及び副腎腫瘍を指摘され,精査のため,より大きな病院で診察を受けることを勧められた。 そこで,被告Eは,自宅に近いG病院で診察を受けることとし,上記担当医から,同日付でG病院あての紹介状(診療情報提供書)の作成,交付を受けた。(乙A1p12)(2)同月9日(以後,平成1 れた。 そこで,被告Eは,自宅に近いG病院で診察を受けることとし,上記担当医から,同日付でG病院あての紹介状(診療情報提供書)の作成,交付を受けた。(乙A1p12)(2)同月9日(以後,平成16年3月12日までは,いずれもG病院における診療経過である。)Eは,G病院に来院(初診)して診察及び血液検査などを受け,また,翌10日にCT検査を受けることになった。(乙A1p5ないしp7,p9,p19,p21)(3)同月10日Eは,CT検査を受けたが,その検査結果の所見上,肝臓の右葉後区域に塊状型の肝(細胞)癌,同前区域に結節型の肝(細胞)癌が認められ,また,門脈右枝が腫瘍栓で閉塞し,左副腎には80ミリメートル×63ミリメートル大の腫瘤が認められ,肝癌からの転移が疑われた。(乙A1p11)(4)同月11日アEは,血液検査などを受けたが,その検査結果の所見上,肝癌の腫瘍マーカーであるアルファフェトプロテイン(AFP)が2073ng/ml(正常値は10ng/ml以下)と非常に高い数値を示した。 被告H医師は,それまでの検査結果の所見(なお,同月9日実施の血液検査結果の所見上,黄疸の指標となる総ビリルビン値が1.5mg/dlであ- 28 -り,軽度の上昇が認められていた。)などから,Eが肝硬変に多発性肝癌を合併し,門脈浸潤及び副腎転移を来しており,極めて予後不良の進行末期癌で,治療をしない場合の予後は2,3か月か,長くても5,6か月程度であると診断し,できる限り早期に治療を始める必要があると考えた。 (乙A1p5ないしp7,p11,p19,p21)イ被告H医師は,上記診断結果に基づいてEに病状などを説明するに当たり,Eの癌が既に末期の段階にあると診断されたことから,Eに与える精神的影響などを考慮し,その時点で直ちに癌という病名を告 21)イ被告H医師は,上記診断結果に基づいてEに病状などを説明するに当たり,Eの癌が既に末期の段階にあると診断されたことから,Eに与える精神的影響などを考慮し,その時点で直ちに癌という病名を告知することを差し控えることとした。 そして,被告H医師は,Eに対し,上記(3)のCT検査の結果を適宜示すなどしながら,「肝臓と左副腎に大きな腫瘍がある。その腫瘍が大きくなってきており,さらに増大すると死亡に至る。」,「腫瘍が肝臓から副腎にも飛んでいる。」,「増大すればするほど直接命に関わる。」,「このまま放置すれば2,3か月とか半年とかいう数か月単位で命に関わる状況に至る。」,「治療をすれば腫瘍の増大をある程度抑えられるかもしれない。治療の効果はやってみなければ分からないし,副作用が出ることもあるが,できるだけ治療を急いだ方がよい。」などと,癌という言葉を用いることなく,病状などを説明した。 その説明を受けたEからは,自分の病状が癌であるかについて尋ねる内容の質問は特になされなかった。(乙A1p9)ウ続けて,被告H医師は,Eに対し,早期に入院した上で精査及び治療を開始する必要があることを説明し,また,必要となる治療として,血管造影などの検査の内容及び方法,薬剤を入れて又は血管を詰めて病状の進行を止めるための動注療法及び動脈塞栓術の内容及び方法,これらの治療のために必要なリザーバー植込術の内容及び方法などを説明したところ,Eは,上記治療を受けることを承諾した。 - 29 -そこで,被告H医師は,検査の日程を調整するなどし,同月19日に入院とし,同月20日に腹部血管造影検査を実施することを予定した。(乙A1p9)(5)同月19日Eは,G病院に入院して,診察及び血液検査などを受けた。その結果,翌20日の腹部血管造影検査及びリザーバー植込 月20日に腹部血管造影検査を実施することを予定した。(乙A1p9)(5)同月19日Eは,G病院に入院して,診察及び血液検査などを受けた。その結果,翌20日の腹部血管造影検査及びリザーバー植込術の実施予定が確認された。 (乙A2の1p20,p29,p30,p32)なお,入院の際,EからG病院あてに,腹部血管造影検査及び(必要とされる場合の)リザーバー植込術の実施に関する同日付同意書(なお,その親族代理又は保証人欄には原告Bが署名押印した。)が作成,提出された。(乙A2の1p14)(6)同月20日アEは,D病院から非常勤医師としてG病院に派遣(週1日)されていた被告I医師によって,腹部血管造影検査を受けた。その検査結果の所見上,びまん性肝細胞癌,門脈浸潤による門脈閉塞及び左副腎腫瘍(転移)が認められ,上記(4)の診断結果を裏付けた。 被告H医師は,腹部血管造影検査の前後に,被告I医師とも協議し,当面の治療方針として,肝癌については,肝移植を含む外科的手術は肝機能が悪いため適応がないので,リザーバーからの抗癌剤の動注療法を実施すること,また,左副腎腫瘍については,動脈塞栓術を実施し,必要であればRFAの実施も検討することを決めた。その際,転移した左副腎腫瘍が大きく,すでに何本もの血管から栄養の供給を受けていることが予想されるので,そのすべての血管を塞栓することは至難であり,再発は必至であること,D病院では,副腎腫瘍に対するRFAの実施例があり,良好な結果を得られていたことから,動脈塞栓術を実施後にRFAを実施した方が治療効果が確実であると期待されることについても検討された。 - 30 -そして,同日,予定どおり,Eの肝臓に対するリザーバー植込術が実施された。(以上につき,乙A2の1p17,p20,p21,p35)イ被告H医 ると期待されることについても検討された。 - 30 -そして,同日,予定どおり,Eの肝臓に対するリザーバー植込術が実施された。(以上につき,乙A2の1p17,p20,p21,p35)イ被告H医師は,Eに対し,家族の誰かが面会に訪れたら自分のところに来てほしいという伝言を依頼した。そこで,Eは,面会に訪れた原告Cに対し,上記伝言の趣旨を伝え,原告Cは,被告H医師を訪れた。 被告H医師は,原告Cに対し,Eの病態及び治療方針などについて,輸血が原因と思われる肝硬変から肝癌を合併し,その癌が既に末期で副腎にも転移していること,治療をしない場合の予後は数か月から長くても5,6か月程度であること,今後の治療方針として,肝癌に対してはリザーバーを植え込んで抗癌剤を投与(動注)し,左副腎腫瘍に対しては栄養血管を閉塞する方法でそれぞれ治療すること,抗癌剤は全員に適合して効果が生じるものではないが,効果が生じれば1年以上の生存を期待できることなどを説明し,また,Eにはまだ癌という病名の告知をしていないことを告げ,Eに対して上記告知をするかどうかにつき,家族で相談してほしい旨伝えた。 初めてEの病名を知った原告Cは,驚愕して,家族と相談する旨返答するにとどまった。(乙A2の1p22)(7)同月24日ア原告Cは,同月23日までに,被告H医師から受けた説明内容を原告B及び原告Aに伝えた。 Eが末期癌に罹患していることを知った原告らは,今後の治療をどうするか,Eに対して癌の告知をすべきかなどについて相談したが,原告らは,かつて抗癌剤治療による闘病の末に大腸癌で死亡した身内(Eの実兄の妻)が抗癌剤の副作用により苦しむ姿を見たこともあり,長期の延命を望めないのであれば,Eに同じような苦しみを与えたくないこと,したがって,抗癌剤の投与など副作用の大きい治療 死亡した身内(Eの実兄の妻)が抗癌剤の副作用により苦しむ姿を見たこともあり,長期の延命を望めないのであれば,Eに同じような苦しみを与えたくないこと,したがって,抗癌剤の投与など副作用の大きい治療は受けさせたくないこと,Eは気の- 31 -弱い性格なので癌の告知は避けるべきであることなどの結論に達した。 イそこで,原告Cは,同月24日,Eとの面会の際,病室を来訪した被告H医師に対し,家族で相談した結果として,長期の延命を望めないのであればEが苦しむような延命治療を拒否したいとの希望を伝えた。 これに対し,被告H医師は,医師としての立場から,治療により半年以上の延命を期待できること,治療のための入院は月に1週間程度であり,生活の質を維持できること,患者であるEの意思が最大限尊重されるべきであり,その前提に立って家族で意見を調整してもらう必要があること,仮にEが原告らと同様に治療を拒否するのであれば,G病院に入院して治療を受け続ける意味はないことなどをさらに説明し,Eとよく相談してほしいと伝えた。 (8)同月30日被告H医師は,Eに対し,今後の治療方針として,副腎腫瘍に対する動脈塞栓術を同年7月7日に実施し,その後引き続き動注療法を実施したい旨説明したところ,Eもこれを承諾した。(乙A2の1p26)(9)同年7月2日ア被告H医師は,G病院に来院した原告A及び原告Cに対し,上記(6)イと同旨の内容を説明した(ただし,抗癌剤の動注療法については,連続5日間を1回とし,2ないし3回実施しても効果がない場合は中止する旨,より具体的な内容の説明を付け加えた。)。 これに対し,原告A及び原告Cは,上記(7)アのとおり,家族で相談した結果に基づき,Eには,抗癌剤の投与など副作用の大きい延命治療を受けさせることなく,好きなことをさせてあげたい を付け加えた。)。 これに対し,原告A及び原告Cは,上記(7)アのとおり,家族で相談した結果に基づき,Eには,抗癌剤の投与など副作用の大きい延命治療を受けさせることなく,好きなことをさせてあげたいなどと,その考えを伝えるとともに,Eには癌という病名の告知をしないでほしい旨強く希望した。 そして,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術の各治療についての原告らの意見は,後日,改めて被告H医師に連絡することとした。 - 32 -イ被告H医師は,原告らの強い希望も踏まえ,また,Eが治療に対して協力的であり,あえて癌という病名を告知しなくても,予定される治療に差し支えがないことから,今後も,Eに対して癌という病名を明確に告知することは差し控え,Eに対する説明の際には腫瘍という言葉を使うこととした。(乙A2の1p26)(10)同月3日原告Aは,被告H医師に対し,電話により,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術の各治療を家族として受け入れる旨の意向を伝えた。(乙A2の1p27)(11)同月4日被告H医師は,同月7日に腹部血管造影検査及び左副腎腫瘍に対する動脈塞栓術を実施し,また,同月8日から5日間,肝癌に対する抗癌剤の動注療法を実施することをそれぞれ予定した。(乙A2の1p57)(12)同月7日ないし同月12日アEは,同月7日,G病院あてに,腹部血管造影及び左副腎動脈塞栓術の実施に関する同月7日付同意書(その親族代理又は保証人欄には,原告Aが署名押印した。)を作成,提出した上,腹部血管造影検査及び左副腎腫瘍に対する動脈塞栓術を受け,続いて,同月8日から5日間,肝癌に対するリザーバーからの抗癌剤の動注療法(1回目)を受けた。(乙A2の1p15,p16,p27,p34,p57,p93)イなお,被告H医師は,同月8日,Eの病室を来訪した際,Eから 5日間,肝癌に対するリザーバーからの抗癌剤の動注療法(1回目)を受けた。(乙A2の1p15,p16,p27,p34,p57,p93)イなお,被告H医師は,同月8日,Eの病室を来訪した際,Eから「僕の病気は癌ですよね。」と尋ねられたが,原告らの上記希望も踏まえ,直接的に答えることを避け,「腫瘍については,癌細胞を確認していないため癌であると断定できないが,良性でも悪性でも腫瘍が大きくなっているため,同じ治療が必要である。」,「治療の効果があるかどうかはやってみないと分からないが,とにかく治療に期待しましょう。」という趣旨を答- 33 -えると,Eは「分かりました。」と述べて,それ以上に尋ねることはなかった。 ウそのころ,原告Aは,被告H医師にあてた手紙を看護師に託し,抗癌剤の投与を結果の如何にかかわらず初回の5日間で終了させてほしいこと,Eは病院での治療を苦痛に思い,自宅に帰りたいと述べており,原告らとしても,抗癌剤の投与により5年,10年と延命されるわけでもないので,限られた余命なのであればEの希望のとおりにさせてやりたいこと,一日でも一時間でも一緒に過ごしてやりたいことなど,その希望や心情を被告H医師に伝えた。 (13)同月14日Eは,G病院を退院した。その際,被告H医師は,Eに対し,今後も治療を受け続ける必要があることを説明した上で,その方法として,G病院で5週ごとに動注療法を受ける,D病院でインターフェロン治療及び動注療法を併用して受ける,あるいは,動注療法を中止するなど,いくつかの選択肢があること及び各々の治療方法の効果や合併症などを説明し,また,上記(7),(9)及び(12)の経緯なども踏まえ,治療方針について原告らとも相談してほしいと伝えた。(乙A2の1p28)(14)同月25日アEは,G病院を外来受 や合併症などを説明し,また,上記(7),(9)及び(12)の経緯なども踏まえ,治療方針について原告らとも相談してほしいと伝えた。(乙A2の1p28)(14)同月25日アEは,G病院を外来受診し,診察及び血液検査,CT検査などを受けた。 その検査結果の所見上,AFPが963ng/mlとなり,以前の数値に比べて顕著な低下が認められ,また,CT検査結果の所見上,肝癌の治療効果は現れていたが,左副腎腫瘍の治療効果(壊死)は不十分であることが認められた。(乙A1p15,p16,p19,p21)イそこで,被告H医師は,Eに対し,左副腎腫瘍の壊死効果は不十分であるが,AFPが低下するなど動注療法の治療効果は現れている旨説明した。 被告H医師は,動注療法を継続的に実施する場合,通常,5週間に1回投- 34 -与する方法が採られているが,同日の時点では,Eの意思ないし希望が明確でなく,E及び原告らが相談して意見の調整を図ることも必要であろうと判断し,Eに対し,このまま治療を続けるよう勧めるに止め,次回の動注療法の実施予定日を決めることは差し控えた。(乙A1p16)(15)同年8月8日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。その検査結果の所見上,AFPが879ng/mlとさらに低下していることが認められた。 イ被告H医師は,Eに対し,動注療法を更に続けるかどうかの意思を確認することとし,治療効果が現れているので中止すべきではない旨の意見を付け加えた上で,原告らとも相談して決めるよう説明し,後日にその返事を聞くこととした。(乙A1p16,p17)(16)同月22日Eは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。Eは,被告H医師に対し,動注療法を受けたい旨伝えたため,被告H医師は,同月25日から入院として動注療法を実施する予定 p17)(16)同月22日Eは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。Eは,被告H医師に対し,動注療法を受けたい旨伝えたため,被告H医師は,同月25日から入院として動注療法を実施する予定とした。(乙A1p17,p24)(17)同月25日ないし同月29日Eは,同月25日,G病院に入院し,同月29日までの5日間,抗癌剤の動注療法を受けた(2回目)。ただし,同月25日及び26日の両日は,入院のまま実施されたが,同月27日からの3日間は,Eの希望を容れて外来通院により実施された。(乙A1p25,p30,p31,A2の2p33,p34)(18)同年9月12日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。被告H医師は,その検査結果の所見上,AFPが977ng/mlとなり,軽度の上昇が認められたが,大きな上昇ではなく,動注療法には治療効果があると判断した。 (乙A1p20,p22,p31)- 35 -イ被告H医師は,Eに対し,動注療法を更に続けるかどうかを確認したところ,Eは,入院による動注療法を受けたい旨答えた。そこで,被告H医師は,Eに対し,入院による動注療法と同時に,左副腎腫瘍に対する治療も受けることを勧めたところ,Eはこれを承諾したため,被告H医師は,左副腎腫瘍に対する動脈塞栓術も併せて実施することを決め,同月25日に入院して同月26日から動注療法及び動脈塞栓術を実施する予定とした。 (乙A1p31)(19)同月25日ないし同年10月2日アEは,同月25日,3度目の入院をし,翌26日,腹部血管造影検査及び左副腎腫瘍に対する動脈塞栓術を受け,また,同月27日,同月29日,同月30日及び同年10月1日の4日間,抗癌剤の動注療法を受けた。 ただし,Eには,同月2日に受けた血液検査結果の所見上,動注療法の副作用と疑 に対する動脈塞栓術を受け,また,同月27日,同月29日,同月30日及び同年10月1日の4日間,抗癌剤の動注療法を受けた。 ただし,Eには,同月2日に受けた血液検査結果の所見上,動注療法の副作用と疑われる白血球数の減少が見られたため,同日に実施が予定されていた5日目の動注療法は中止された。(乙A2の3p9ないしp11,p19,p20,p49ないしp54)イ被告H医師は,上記血液検査結果の所見上,AFPが989ng/mlで大きな変化が見られず,また,同日実施のCT検査結果の所見上,左副腎腫瘍が同年7月25日実施のCT検査結果の所見に比して縮小していることなどが認められたため,動注療法の治療効果が現れていると判断した。 なお,上記CT検査結果の所見上,腹水の貯留が認められたため,被告H医師は,Eに対して,利尿剤を処方するなどした。(乙A2の3p10,p11,p14,p16)(20)同月3日Eは,G病院を退院し,以後,同年12月3日までの間,数回外来受診し,診察及び血液検査,エコー検査などを受けた。(乙A1p32ないしp38)- 36 -(21)同年12月3日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた(なお,同年10月3日以降の血液検査及びエコー検査結果の所見上,Eに一時見られた肝機能の低下が改善し,腹水も少量が認められる程度であった。)。(乙A1p32ないしp39)イ被告H医師は,Eに対し,動注療法(4回目)を受けるかどうかの意思を確認したところ,Eはこれを受けることを承諾した。そこで,被告H医師は,Eの希望を容れて,同年12月8日から3日間,外来通院による動注療法を実施することを予定した。(乙A1p39)(22)同月8日ないし同月10日Eは,同月8日から同月10日までの3日間,外来通院による抗癌剤の動注療法 12月8日から3日間,外来通院による動注療法を実施することを予定した。(乙A1p39)(22)同月8日ないし同月10日Eは,同月8日から同月10日までの3日間,外来通院による抗癌剤の動注療法(4回目)を受けた。なお,同月9日実施の血液検査結果及びCT検査結果の所見上,AFPが1898ng/mlと高く,また,中等量の腹水が認められたため,被告H医師は,Eに対し,利尿剤を投与するなどした。(乙A1p43,p47ないしp50)(23)平成16年1月7日Eは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。その検査結果の所見上,AFPが1689ng/mlに低下したため,被告H医師は,動注療法の治療効果が現れていると判断し,同月19日から3日間,動注療法(5回目)を実施することを予定した。(乙A1p44,p55,p56)(24)同月19日ないし同月21日Eは,同月19日から同月21日までの3日間,外来通院による動注療法(5回目)を受けた。(乙A1p56ないしp59)(25)同年2月13日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。その検査結果の所見上,AFPが2786ng/mlと大きく上昇しており,また,肝癌の増大- 37 -傾向及び副腎腫瘍の著明な増大が認められた。(乙A1p60,p64)イこれに対し,被告H医師は,同月25日から3日間,抗癌剤の動注療法(6回目)を実施することを予定した。(乙A1p61)(26)同月25日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受け,また,同日から同月27日までの3日間の予定で,抗癌剤の動注療法(6回目)を受け始めた。 (乙A1p61,p62,p67)イしかし,被告H医師は,上記検査結果の所見上,肝癌の増大傾向及び副腎腫瘍の著明な増大が認められ,また,それまでの診療経過でAF の動注療法(6回目)を受け始めた。 (乙A1p61,p62,p67)イしかし,被告H医師は,上記検査結果の所見上,肝癌の増大傾向及び副腎腫瘍の著明な増大が認められ,また,それまでの診療経過でAFPが前年9月より上昇してきていることから,特に左副腎腫瘍の破裂する危険性が高くなっていると判断し,Eに対し,その旨及び腫瘍がさらに増大すれば破裂する危険性があることを説明した上で,追加の治療が必要であること,追加の治療としては動脈塞栓術又はRFAが考えられるが,前者は既に2回実施されていることから効果を期待し難く,後者は腫瘍が大きいため術後に出血や腸管損傷などの合併症を生じて直接生命に関わる危険性があることなどを説明し,原告らとも相談するなどして,今後の治療方針を決めてほしい旨伝えた。(乙A1p61,p62,p66)(27)同月26日アEは,外来受診し,診察及び抗癌剤の動注療法(6回目の2日目)などを受けた。(乙A1p62)イ被告H医師は,夕方,G病院を訪れた原告B及び原告Cに対し,それまでの検査の結果を示しながら,Eの現在の病状及び今後の治療方針などを説明したが,その中で,左副腎腫瘍は何時破裂してもおかしくない状態であること,仮に破裂しなくても治療をしない場合の予後は極めて不良であること,治療方法としてRFAがあることや合併症(出血など)の危険があること,RFAを実施しても今までと同じような治療効果を得られるか- 38 -どうかは分からないが,現在可能な治療方法はRFAしかないことなどを説明し,併せて,D病院でRFAに関するより詳細な説明を受けることを勧め,今後の治療方法,特にRFAを受けるかどうかについて,Eと相談して決めてほしい旨伝えた。(乙A1p62)(28)同月27日アEは,外来受診し,診察及び抗癌剤の動注療法 説明を受けることを勧め,今後の治療方法,特にRFAを受けるかどうかについて,Eと相談して決めてほしい旨伝えた。(乙A1p62)(28)同月27日アEは,外来受診し,診察及び抗癌剤の動注療法(6回目の3日目),CT検査などを受けた。(乙A1p65,p67,p68)イその際,Eは,被告H医師に対し,今後の治療方法としてRFAを受ける意思があることを伝えた。Eの説明内容から,必ずしも原告らと相談した結果の結論ではないこともうかがわれたが,被告H医師は,患者本人であるEの意思を最大限尊重するとの考えから,これを容れることとし,ただ実施の時期については,Eが大学病院を受診することに消極的であったことから,同年3月にD病院で実施するか,又は(保険の適用が開始される)同年4月にG病院で実施する方針とした。(乙A1p67,p68)(29)同年3月12日アEは,外来受診し,診察及び血液検査などを受けた。被告H医師は,その検査結果の所見上,AFPが3129ng/mlとさらに高くなっていたことから,左副腎腫瘍が破裂する危険性がさらに高くなっており,RFAの実施を急ぐべきであると判断し,被告I医師に連絡を入れて相談したところ,被告I医師からも,左副腎腫瘍に対する治療方法としてはRFAしかなく,RFAを実施するのであれば,破裂の危険性があるため早く実施すべきであることを助言され,また,EがD病院の治療を希望ないし承諾する場合は,担当医である被告I医師及び被告J医師が同月26日から学会出席のため渡米する予定であり,その前の同月24日であればRFAを実施することが可能であることを説明された。 そこで,被告H医師は,Eに対し,治療を急いだ方がよいこと,D病院- 39 -の方が設備が整っていて,より安全にRFAを実施できること,D病院でRFAを受 施することが可能であることを説明された。 そこで,被告H医師は,Eに対し,治療を急いだ方がよいこと,D病院- 39 -の方が設備が整っていて,より安全にRFAを実施できること,D病院でRFAを受けるのであれば,担当医が渡米する前の同月24日にRFAを受けることができることなどを説明したところ,Eは,D病院でRFAを受けることを承諾した。(乙A1p64,p68,p69)イその前後ころ,被告H医師は,原告Aに電話し,上記アと同じ内容を説明するとともに,RFAの内容や合併症などの詳細については,D病院の担当医から説明を受けてほしいこと,その説明を聞いて納得がいかなければ,RFAを拒否できることを説明した。(乙A1p69)(30)同月23日(以後は,いずれもD病院の診療経過である。)アEは,G病院の紹介により,肝細胞癌副腎転移の治療を目的として,D病院(放射線科)に入院し,被告I医師らがEの主治医として治療を担当することになった(なお,D病院では,RFA実施予定の患者に対しては,被告I医師ら3名全員が主治医になる取扱いになっていた。)。 イ被告I医師らは,G病院における診療経過や各種検査結果なども踏まえ,今後の治療方針を協議・検討した結果,肝癌については,抗癌剤の動注療法により比較的良好に制御されてるものの,門脈腫瘍栓及び肝外転移が認められ,予後が極めて悪いこと,一方,左副腎腫瘍については,2回の動脈塞栓術の実施にもかかわらず,増大して腫瘍径が約9センチメートルにも達しており,破裂の危険性が極めて高く,破裂すれば致命的になる危険性が高いこと,破裂しなくても,このまま治療しなければ,予後は数か月程度であること,その治療方法として,外科的切除は肝機能が低下しているため適応がなく,3回目の動脈塞栓術は効果を期し難いため,残る選択肢はR と,破裂しなくても,このまま治療しなければ,予後は数か月程度であること,その治療方法として,外科的切除は肝機能が低下しているため適応がなく,3回目の動脈塞栓術は効果を期し難いため,残る選択肢はRFAしかないこと,入院の際に実施された血液検査の結果を基に肝機能,凝固機能などを検討した結果,RFAの適応があると考えられること(なお,このRFAの適応の有無については,後記のとおり,争点(1)に対する判断として,項を改めて検討する。),以上のとおり判断し,主- 40 -治医の立場からは,RFAを実施するほかないとの結論に達した。 反面,RFAについては,最も重篤な合併症の1つとして出血が挙げられるところ,癌が進行した状態であればより危険性が高くなること,Eの場合,進行癌であることに加え,腫瘍も大きく,肝硬変などにより血液中の凝固因子及び血小板数も低下しているため,出血の危険性が通常よりも高く,仮に出血が生じれば致命的になる危険性も高いことなどの事情から,左副腎腫瘍破裂の危険性及びRFAの治療効果(有用性)と,RFAの合併症の危険性とを比較衡量して,RFAを実施するかどうかを選択する必要に迫られるため,被告I医師らは,Eにその旨を十分に説明して,その意思を確認しなければならないと判断した。 ウそこで,被告J医師は,同日午後5時ころから,Eに対し,概要,以下のような内容を説明した。なお,その際,原告らが同席していなかったことから,被告J医師は,Eに対して,家族を呼び出すことを持ちかけたが,Eから,「あいつら(原告ら)は子供やから。」と言われたため,そのままにした。(乙A16p18,p19,p35,p36)(ア)病状について肝腫瘍はある程度制御されているが,副腎腫瘍は増大してきているので,このままではさらに大きくなり,いつ何時破裂するかも のままにした。(乙A16p18,p19,p35,p36)(ア)病状について肝腫瘍はある程度制御されているが,副腎腫瘍は増大してきているので,このままではさらに大きくなり,いつ何時破裂するかもしれないこと,破裂した場合には,死亡する可能性が極めて高いこと(イ)治療方針などについてRFAの治療方法と効果,D病院におけるRFAの実績(副腎腫瘍に対するRFAとして7例があり,これらの症例では重篤な合併症は生じていないこと),合併症の危険性などについて説明し,このうち合併症につき,一般的なものとしては出血,腸管損傷などがあること,特にEは,腫瘍が非常に大きい上,腸管に隣接しており,RFAの焼灼により腸管まで損傷する可能性があること,肝硬変などに罹患していることか- 41 -ら血液中の凝固因子及び血小板数が減少しており,通常人よりも出血の危険性が高いこと,仮にこれらの合併症が生じた場合には,致命的になり得ることエなお,G病院における診療に関わっていた被告I医師は,Eの入院にあたり,被告J医師,L医師及び看護師らに対し,G病院における診療経過を説明するとともに,原告らがEに対して癌の告知をしないよう強く希望していたため,G病院はEに対しては,癌という言葉を用いず,「肝腫瘍」,「それが飛んだ副腎腫瘍」などと説明していたこと,もっとも,Eは自分が癌であることを暗黙裡に理解していると思われることなどを説明し(G病院からD病院あてにも,同旨の引継ぎがなされた。),被告I医師らとしても,G病院の上記対応を相当としてこれを引き継ぎ,Eに対する病態などの説明の際には癌という言葉を用いることを差し控えることを決めた。 実際,被告J医師が,Eに対して,現在の病状に対するE自身の認識を確認したところ,Eは,癌という言葉を用いず,「肝腫瘍」や「それが どの説明の際には癌という言葉を用いることを差し控えることを決めた。 実際,被告J医師が,Eに対して,現在の病状に対するE自身の認識を確認したところ,Eは,癌という言葉を用いず,「肝腫瘍」や「それが飛んだ副腎腫瘍」という言葉を用いながら,上記ウ(ア)の病状に関する説明と同趣旨の内容を述べたので,被告J医師も,説明の際には,同様に癌という言葉を用いず,必要に応じて,「肝腫瘍」や「それが飛んだ副腎腫瘍」という言葉を用いた。ただし,被告J医師は,Eの上記説明内容に加え,G病院の診療経過やEの入院先が放射線科であることなどの事情も併せ考え,Eは自分が癌であることを理解していると判断した。 オEは,上記ウの説明を受けた後,左副腎腫瘍に対する治療としてRFAを受けることを決め,被告J医師に対し,「賭けてみます。」との趣旨の言葉でその決断を伝え,RFAの実施に関する同意書に署名した。(乙A16p39)なお,その際,被告J医師は,同月26日から同月31日までの期間,- 42 -被告I医師及び被告J医師が学会出席のため渡米して不在になることを重ねて説明し,その了解を得た。 (31)同月24日(本件RFAの終了時まで)アEに対する本件RFAは,被告I医師らにより,午後12時30分ころから始められた。被告I医師らは,CT室に入室したEに対し,まずCT検査を実施して副腎腫瘍の大きさを確認し(最大9センチメートル),電極の穿刺ルートを協議,決定した上で,局所麻酔下に,リアルタイムに電極の位置を確認できるCT透視装置を使用しながら,電極を背側から左副腎腫瘍に合計4回(そのうち2回は,穿刺経路の確保のため脾臓を貫通して)穿刺した上,各穿刺部位で2回ずつ焼灼し(焼灼回数は合計8回),また,穿刺した電極を抜去する際にも,止血目的で穿刺経路の焼灼を実施した。 計4回(そのうち2回は,穿刺経路の確保のため脾臓を貫通して)穿刺した上,各穿刺部位で2回ずつ焼灼し(焼灼回数は合計8回),また,穿刺した電極を抜去する際にも,止血目的で穿刺経路の焼灼を実施した。 この間,Eの容態には特に異常は見られず,合計2時間ほどで,予定されたRFAを終えた。(乙A16p25,p118,p119)イD病院は,RFAを受ける患者の負担を考慮し,約2時間で1回の施術(セッション)を終了させることとしており,術後も病変が残存していれば,後日に再度RFAを実施することにしていた(そのため,一般的には,対象となる腫瘍が大きくなるほど,必要とされるセッション数が多くなる。 )。 本件においても,被告I医師らは,本件RFA後に病変の有無などを確認し,病変の残存が認められれば,後日にRFAを再度実施することを予定していた。 (32)同月24日(本件RFAの終了後)ないし同月25日ア被告I医師らは,Eに対し,本件RFAの終了後3時間はベッドにて安静を保つよう指示した上,Eの経過観察に当たっていた。 Eは,本件RFAの終了後,術後によく見られる嘔気や腹部不快感を訴- 43 -えたが,疼痛の訴えはなく,また,血圧は,本件RFAの終了によるCT室からの帰室時である同日午後2時40分に134/90,午後2時55分に119/92,午後3時15分に139/90,午後4時に131/91,午後6時に108/82であり,特に異常は見られなかった。 イしかし,L医師は,同日午後7時40分ころ,看護師から,Eの血圧が80台に低下した旨の報告を受けたため,直ちに院内の被告I医師及び被告J医師にその旨を連絡した。 被告I医師らは,Eに対するCT検査及び血液検査などを実施し,その検査結果の所見上,ヘモグロビン値が低下していること,腹腔内に出血を疑わせ 直ちに院内の被告I医師及び被告J医師にその旨を連絡した。 被告I医師らは,Eに対するCT検査及び血液検査などを実施し,その検査結果の所見上,ヘモグロビン値が低下していること,腹腔内に出血を疑わせる液体が貯留していることが認められたため,さらに超音波ガイド下に穿刺吸引して,その液体が血液であることを確認した。これにより,被告I医師らは,RFAの合併症の1つで最も危惧されていた出血が生じたと判断し,緊急輸血,昇圧剤・止血剤投与などの措置を執った。 ウ一方で,被告I医師は,原告A方に電話で連絡を入れ,同月25日午前零時ころ,来院した原告A及び原告Bに対し,本件RFA後に出血が生じたこと,肝機能及び腎機能が悪化していること,出血が更に続くと致命的になる可能性があることなどを説明するとともに,出血している血管を塞栓することによって止血できる可能性もあることを説明し,上記原告らから緊急血管造影検査及び動脈塞栓術の実施につき了解を得た(なお,被告J医師及びL医師は,引き続きEの治療に当たっていたため,上記説明の場所に同席しなかった。)。 エ被告I医師らは,同日午前零時10分ころ,血管造影室で緊急血管造影検査を実施したが,明らかな出血源を特定することはできなかった。そこで,被告I医師らは,本件RFAの際,電極が脾臓を2回貫通していることから,脾臓からの出血の可能性を疑い,まずは脾動脈塞栓術を実施し,経過を観察することとした。 - 44 -Eは,同日午前1時40分,血管造影室から帰室したが,血圧は安定しており,午前2時45分及び午前3時35分にそれぞれ輸血を受けた。 オ被告I医師らは,同日午前6時50分及び午前9時11分,それぞれ血液検査を実施したところ,ヘモグロビン値が10.9から10.0に低下していることが判明し,出血がなお持続していること 血を受けた。 オ被告I医師らは,同日午前6時50分及び午前9時11分,それぞれ血液検査を実施したところ,ヘモグロビン値が10.9から10.0に低下していることが判明し,出血がなお持続していることが疑われたため,午前9時30分,緊急血管造影検査を再度実施したが,前回同様,出血源を特定するには至らなかった。 被告I医師らは,脾動脈に加え,左副腎腫瘍への血液供給血管となり得る左下横隔動脈及び左下副腎動脈に対しても塞栓術を実施し,また,輸血・止血剤投与などの措置を執った。 カ同日午後8時50分ころ,原告らはD病院に来院した。被告I医師は,被告J医師及びL医師の出席の下,原告らに対して,RFA後の出血が生じ,緊急血管造影検査を2回実施したが,出血源が特定されていないこと,出血源になり得る血管に対する塞栓術を実施済みであり,出血がなお持続するようであれば,左副腎腫瘍そのものからの出血である可能性が高いこと,左副腎腫瘍からの出血である場合,これを止血するためには,膵臓の動脈に対しても塞栓術を実施しなければならないが,膵炎を引き起こす危険性があるために不可能であり,完全な止血はできないこと,血液検査結果の所見上,現在はヘモグロビンの低下が緩徐になっていることから,著しい出血は止まっている可能性があり,血圧も落ち着いてきているが,一方で,肝機能及び腎機能が悪化してきており(肝腎症候群),改善は難しく,いつ急変してもおかしくない重篤な状態であることなどを説明し,なお併せて,同月26日から同月31日までの期間,被告I医師及び被告J医師が学会出席のため渡米しなければならず,その間はL医師が治療に当たることを説明した。(以上につき,乙A16p25ないしp27,p113,p116,p119,p121ないしp123)- 45 -(33)同月26日ないし ければならず,その間はL医師が治療に当たることを説明した。(以上につき,乙A16p25ないしp27,p113,p116,p119,p121ないしp123)- 45 -(33)同月26日ないし同月31日ア被告I医師及び被告J医師は,同日,アメリカで開催される学会に出席すべく渡米したため,L医師がEの治療に当たることになった。 L医師は,必要に応じ,渡米中の被告I医師及び被告J医師に電話で連絡を取り,あるいは院内の他の医師らの意見を徴しながら,治療に当たったが,Eの肝不全及び腎不全(肝腎症候群)は次第に悪化し,各種の治療も奏功せず,同月31日午後1時40分,死亡するに至った。 イEの死亡後,同日午後4時から,D病院で病理解剖が実施された。その結果,本件RFA後の出血が生じた部位は左副腎腫瘍そのものであること,Eの直接の死亡原因は肝不全及び腎不全(肝腎症候群)であることが判明したが,その機序としては,本件RFA後,左副腎腫瘍から持続的に出血し,最終的には止血剤の投与などにより止血の効果をほぼ得られたが,元来,Eの肝機能が低下していたことに加え,門脈が閉塞していて肝臓が動脈からの栄養補給に依存し,わずかな血圧低下によっても虚血状態に陥りやすい状態にあったため,出血性のショックにより肝不全,さらには腎不全が急速に進行する結果になったと推測された。(乙A16p138,A22) 争点(1)(RFAの適応の有無)について(1)そこで,まず,Eに対するRFAの適応の有無について判断するに,上記第2の1の前提事実並びに証拠(乙A24,B10,B11,B13,被告J医師)及び弁論の全趣旨を総合すれば,RFAに関する医学的知見として,次の事実が認められる。 アRFAは,1990年代前半から欧米で実施され,平成11年ころからは日本でも本格的 1,B13,被告J医師)及び弁論の全趣旨を総合すれば,RFAに関する医学的知見として,次の事実が認められる。 アRFAは,1990年代前半から欧米で実施され,平成11年ころからは日本でも本格的に実施されて,平成16年4月からは健康保険の適用が認められるようになり,現在では,多数の医療施設(平成18年1月現在で少なくとも全国1400以上の医療施設)において,主として肝癌の治- 46 -療方法の1つとして実施され,良好な治療成績を収めており,経皮的局所療法の主流となりつつあるほか,その対象となる病変の範囲も,腎腫瘍,肺腫瘍,副腎腫瘍などに拡大しつつある。一方で,RFAの最も重篤な合併症の1つとして(腹腔内)出血が挙げられ(その確率については,0. 5ないし0.7パーセントと報告する医学文献もある。),進行癌では,その危険性がより高くなるとされている。 D病院においては,平成12年から治療方法としてRFAを取り入れ,現在までに約170名の肝癌患者に対し,最初の治療としてRFAを実施しているところ,その治療成績として,5年生存率が60パーセントを超えている。また,D病院においては,副腎腫瘍についても,過去,E以外に16名の患者に対してRFAを実施しているところ,これらの患者の中には,RFA実施後に重篤な合併症を生じた者はいなかった。 イ本件RFAの実施当時,RFAの適応について,RFAを実施していた医療施設全体に共通する統一的な判断基準は存在せず,各医療施設が各々の立場で独自の基準を定めていたにすぎない。 もっとも,肝癌に対するRFAの適応については,以下のような判断基準を示す医学文献,医学雑誌などが存在していた(ただし,(ウ)については,本件RFA実施後の刊行である。)。 (ア)①肝癌が切除不能であるか,患者自身が外科的切除を希望して ては,以下のような判断基準を示す医学文献,医学雑誌などが存在していた(ただし,(ウ)については,本件RFA実施後の刊行である。)。 (ア)①肝癌が切除不能であるか,患者自身が外科的切除を希望していないこと,②門脈腫瘍栓や肝外転移がないこと,③血小板数が5万以上で,プロトロンビン値が50パーセント以上であること,④コントロール不能な腹水がないこと,⑤腫瘍径が3センチメートル以下で,個数が3個以下であること(乙B10)(イ)①腫瘍径が3センチメートル以下で,個数が3個以下であることを原則としつつ,それ以上の大きさの腫瘍についても,複数回の焼灼により実施すること,②総ビリルビン値が3.0mg/dl以下で,ヘパプラス- 47 -チンテスト(HPT)が30パーセント以上であること,④腹水のコントロールが可能であること(乙B12)(ウ)①病変が切除不能又は患者が切除を希望しないこと,②病変が3センチメートルで3個以内又は5センチメートル以内で単発であること(ただし,肝機能が良好であるなどの条件次第では,腫瘍4個以上又は腫瘍径5センチメートル以上でも可能である場合も多い。),③血小板数が5万以上で,プロトロンビン値が50パーセント以上であること,④コントロール不能な腹水がないこと,⑤門脈腫瘍栓及び肝外転移がないこと(乙B13)(2)次に,証拠(乙A16,A24ないしA26,被告J医師)によれば,被告I医師らが本件RFAの適応の有無を判断した経緯などについて,次の事実が認められる。 ア被告I医師らは,Eの左副腎腫瘍に対するRFAの適応の有無について,基本的に,腫瘍の大きさ,肝機能及び凝固機能の各指標から検討した。すなわち,(ア)腫瘍の大きさについて,Eの左副腎腫瘍は最大約9センチメートルという非常に大きいものであったが,焼灼の について,基本的に,腫瘍の大きさ,肝機能及び凝固機能の各指標から検討した。すなわち,(ア)腫瘍の大きさについて,Eの左副腎腫瘍は最大約9センチメートルという非常に大きいものであったが,焼灼の回数を増やすことにより対応可能であり,当然に不適応とはならないと判断した。 (イ)肝機能については,「Child-Pugh」分類という基準により評価した。この基準は,脳症,腹水,ビリルビン値,アルブミン値及びプロトロンビン活性値の5つの肝機能項目を各々1点ないし3点の3段階で点数化し,その合計で肝機能をグレードAないしCまで分類するものであり,グレードA(5ないし6点)は良好で,グレードC(10ないし15点)は肝不全に近い状態とされている。そして,RFAの適応をグレードAないしBとした。 被告I医師らは,Eの肝機能について,上記基準に従い,脳症1点(- 48 -なし),腹水2点(少量),ビリルビン値2点(2.0ないし3.0mg/dl),アルブミン値3点(3.0g/dl未満)及びプロトロンビン活性値1点(80超)の合計9点であり,グレードBであると判断した。 (乙A16p5,p37,p123)(ウ)凝固機能については,多くの医療施設の例にならい,血小板数が4万ないし5万以上,%PT(プロトロンビン時間)が40ないし50パーセント以上,INRが1.8以下で,RFAの適応とした。 Eは,上記1(30)ウのとおり,肝硬変を合併して血小板数が低下していることから,術後に致命的な出血などの合併症を引き起こす危険性が通常よりも高い状態であったが,被告I医師らは,血液検査結果の所見上,血小板数が5万,%PTが84.5パーセント,INRが1.14であるため,なおRFAの適応があると判断した。 イEの肝癌には,門脈腫瘍栓及び肝外転移が認められたが,被告I医 ,血液検査結果の所見上,血小板数が5万,%PTが84.5パーセント,INRが1.14であるため,なおRFAの適応があると判断した。 イEの肝癌には,門脈腫瘍栓及び肝外転移が認められたが,被告I医師らは,本件RFAは左副腎腫瘍に対して実施されるものであり,肝癌については抗癌剤の動注療法により比較的良好に制御されていたことから,適応の妨げにはならないと判断した。 ウ被告I医師らは,上記ア及びイの検討判断に加え,本件RFAの実施当時,Eの左副腎腫瘍がいつ致命的な破裂を引き起こすかもしれない危険な状態であり,仮に破裂を引き起こさなくても,予後は非常に悪く,数か月程度と予想されたこと,上記破裂の危険を回避するために執り得る有効な治療方法としては,RFA以外になかったことなどの事情を併せ考慮した上で協議・検討し,その結果,主治医としての立場から,RFAの適応を肯定する結論に達した。 (3)そこで,被告I医師らによる上記(2)の判断の適否について検討する。 ア被告I医師らは,RFAの適応の有無について,基本的に,腫瘍の大きさ,肝機能及び凝固機能の各指標から検討しているが,このこと自体は,- 49 -上記(1)イで認定した他の医療施設の判断基準に照らしても,合理性を有し,適切なものということができる。 イこのうち,腫瘍の大きさについては,確かに,Eの左副腎腫瘍は最大径が9センチメートルの非常に大きいものであり,上記(1)イで認定したように,他の医療施設では腫瘍径3センチメートル以下(あるいは5センチメートル以下)をRFAの適応の原則としていることに照らすと,RFAの適応の有無について慎重な判断が要請されるというべきである。 しかしながら,証拠(乙A24,B12,B13,被告J医師)によれば,①上記のように腫瘍径が3センチメートル以下とされる 照らすと,RFAの適応の有無について慎重な判断が要請されるというべきである。 しかしながら,証拠(乙A24,B12,B13,被告J医師)によれば,①上記のように腫瘍径が3センチメートル以下とされるのは,1回の施術により通常焼灼可能な範囲(治療効果)を念頭に置いたものであり,上記の他の医療施設でも,原則とする病変部の大きさを絶対的な基準と位置づけて,その大きさを超える場合には一律に不適応としているものではなく,その余の指標も考慮した上で,複数回の穿刺焼灼を予定して,RFAの適応の有無を判断しており,実際にも,5.1センチメートル以上の肝癌,11センチメートルの胆管細胞癌,あるいは,5センチメートル以上(最大9.7センチメートル)の肝癌に対してRFAが実施された実例があること,②D病院でも,過去,直径5センチメートルを超える肝癌に対してRFAを実施しており,約3分の1の症例で後日再発しているが,約3分の2の症例では再発がなく,一定の効果が得られていること,以上の事実が認められ,これらの事実に照らせば,Eの左副腎腫瘍の大きさが最大9センチメートルであったことは,必ずしもRFAの適応を否定するものではないというべきである。 ウまた,肝機能及び凝固機能についても,被告I医師らの判断に不適切な点があることは窺われない。 この点につき,原告らは,「Child-Pugh」分類によれば,Eの肝機能はグレードC(10ないし11点)と評価されるべき状態であり,- 50 -RFAの適応がない旨主張する。しかし,原告らが3点と主張するプロトロンビン値は1点(84.5パーセント)と評価されるべきであり(乙A16p5),また,原告らが2ないし3点と主張する腹水は2点(少量)と評価しても不適切であるとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。 エ以上 .5パーセント)と評価されるべきであり(乙A16p5),また,原告らが2ないし3点と主張する腹水は2点(少量)と評価しても不適切であるとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。 エ以上に加え,上記(2)イ及びウの事情(特に,RFA以外には有効な治療方法がなかったこと)を併せ考慮すれば,Eの左副腎腫瘍についてRFAの適応があるとした被告I医師らの判断が,医師としての注意義務に反するものであると認めることは相当でない。 よって,争点(1)に関する原告らの主張は採用できない。 争点(2)(RFAの術技上の過誤)について(1)原告らは,被告I医師らが,Eの左副腎腫瘍に対して本件RFAを実施するに際し,複数回に分けて焼灼するなどの慎重な方法を採用すべきでありながら,1回ですべて焼灼したため,術後に体内出血を招来した旨主張する。 (2)しかしながら,上記1(31)に認定のとおり,①D病院は,RFAを受ける患者の負担に配慮し,約2時間で1回の施術(セッション)を終了させ,施術後も病変部が残存していれば,後日に再度RFAを実施することにしていること,②本件RFAにおいても,被告I医師らは,電極を左副腎腫瘍に合計4回(そのうち2回は,穿刺経路の確保のため経脾的に)穿刺し,各穿刺部位で2回ずつ焼灼し(焼灼回数は合計8回),また,穿刺したラジオ波電極を抜去する際にも,止血目的で穿刺経路の焼灼を実施して,予定された本件RFAを終えたこと,本件RFA後,病変の有無などを確認し,病変の残存が認められれば,後日にRFAを再度実施する予定であったこと,以上のとおりであって,原告らの上記主張は,その前提を欠くものというほかない。 (3)そして,本件全証拠によっても,被告I医師らによる本件RFAにおい- 51 -て,他の術技上の過誤があったことを認 のとおりであって,原告らの上記主張は,その前提を欠くものというほかない。 (3)そして,本件全証拠によっても,被告I医師らによる本件RFAにおい- 51 -て,他の術技上の過誤があったことを認めることはできない。 よって,争点(2)に関する原告らの主張は採用できない。 争点(3)(術後の経過観察義務等の懈怠)について(1)まず,原告らは,本件RFA後の当日(平成16年3月24日)午後5時ころ,Eが激しく苦しみ,看護師も「手術は成功したのに,何でこんなに血圧低いんかな。」と疑問を呈する状態に陥り,被告I医師らもこれを見て,血圧低下を認識しながら,体内の出血に気付かず,同日午後8時まで放置した旨主張し,原告A及び原告Cの各陳述書(甲A4及びA5)には,これに沿う部分がある。 しかし,本件RFA実施後のEには,同日午後7時40分に血圧低下の異常が認められるまでの間,RFA実施後によく見られる嘔気などが認められたが,疼痛の訴えはなく,血圧についても特に異常は見られなかったことは,上記1(32)アに認定のとおりである。現に,診療記録(乙A16p119,p121,p122)上,Eが同日午後5時の時点で激しく苦しんでいたことや血圧が低下したことをうかがわせる記載はなく,上記の時点で相当量の体内の出血が生じていたと認めるべき確たる根拠もない(上記1(32)アに認定のとおり,同日午後6時の時点の血圧は正常値であるから,仮に原告らの主張に従えば,同日午後5時の時点で,出血により看護師が疑問を呈するほどに低下した血圧が,1時間後には正常値に回復したことになるが,このような事態は不可解であるといわざるを得ない。)。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 (2)次に,原告らは,被告I医師らには,Eの出血源を早期に特定し,止血しなかった過誤がある旨 るが,このような事態は不可解であるといわざるを得ない。)。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 (2)次に,原告らは,被告I医師らには,Eの出血源を早期に特定し,止血しなかった過誤がある旨主張する。 しかしながら,上記1(32)に認定のとおり,①被告I医師らは,本件RFA後,Eの容態を経過観察し,血圧低下の異常が認められた平成16年3月24日午後7時40分以降,速やかにCT検査や血液検査などを実施して,- 52 -RFAの合併症の1つでありEに最も危惧されていた出血が生じたと判断し,以後,持続する出血に対し,緊急血管造影検査などを実施して出血箇所(出血源)の特定を急ぐ一方で,合理的に推認される出血原因に対応して止血のための動脈塞栓術や止血剤の投与・輸血など,Eの当時の病状に照らして執り得る限りの治療を実施したこと,②結果的に,Eの出血は左副腎腫瘍そのものからの出血であったことが病理解剖により確認されており,それ以外に出血源があったものではなかったところ,被告I医師らも,2回の血管造影検査によって,左副腎腫瘍以外の場所に出血源が見られなかったことから,遅くとも平成16年3月25日の夜までには,左副腎腫瘍そのものからの出血の可能性を強く疑っていたこと,③しかし,これを完全に止血する方途はなく,止血剤の投与や輸血などの対症療法に頼らざるを得なかったため,これらを実施しながら,容態の回復を図ったこと,④その結果,左副腎腫瘍からの出血は止まったものの,一方で,それまでの持続的な出血により肝不全及び腎不全(肝腎症候群)を引き起こして(Eは,肝癌患者のほとんどがそうであるように,肝硬変を合併しており,出血などの全身状態の悪化により,容易に肝不全に移行する状態にあった。乙B3),死亡するに至ったこと,以上のとおりである。 これらの事実によ 患者のほとんどがそうであるように,肝硬変を合併しており,出血などの全身状態の悪化により,容易に肝不全に移行する状態にあった。乙B3),死亡するに至ったこと,以上のとおりである。 これらの事実によれば,被告I医師らは,本件RFA後の出血の出血源について,各種検査などにより,それが左副腎腫瘍そのものであることを適切に疑ったものの,これを完全に止血する方途がなかったため,止血剤の投与や輸血など,可能な限りの対処療法を試みて容態の回復を図ったものであるから,被告I医師らに,出血源の早期特定を怠り又は止血措置を怠った過誤があるということはできない。 よって,原告らの上記主張も採用できない。 (3)さらに,原告らは,被告I医師及び被告J医師が本件RFA後の平成16年3月26日に学会出席のため渡米し,不在であったことを問題視するが,- 53 -上記1(33)に認定のとおり,上記医師らの不在中は主治医の一人であるL医師が引き続いてEの診療(経過観察を含む。)に当たっており,同医師は,電話を通じて被告I医師及び被告J医師と適宜協議し,あるいは院内のほかの医師に助言を求めたりなどして,治療方針を決定していたというのであって,L医師による経過観察及び診療内容に医師としての注意義務に違反する点が認められない以上,上記渡米が本件の結果を左右したとは考えられず,上記渡米の適否ないし当否について判断する必要はない。 (4)そして,上記(1)及び(2)の説示に徴すれば,本件RFA実施後の経過観察及び診療内容について,被告I医師らに,医師としての注意義務を怠った過誤があると認めることはできない。 したがって,争点(3)に関する原告らの主張は採用できない。 争点(4)(癌の告知義務及び抗癌剤治療等に関する説明義務の懈怠)について(1)まず,癌の告知義務懈怠の ると認めることはできない。 したがって,争点(3)に関する原告らの主張は採用できない。 争点(4)(癌の告知義務及び抗癌剤治療等に関する説明義務の懈怠)について(1)まず,癌の告知義務懈怠の有無について検討する。 ア上記1に認定のとおり,①被告H医師は,平成15年6月10日及び同月11日の診察と各種検査結果により,Eが末期の肝癌に罹患していると診断したこと,②被告H医師は,その時点では,Eに与える精神的影響などを考慮し,いずれ段階的に告知することも念頭に置きながら,直ちに癌という病名を告知することを差し控えることとし,Eに対し,腫瘍という言葉を用いながら,肝臓及び左副腎に腫瘍があり,早期に治療を開始しなければならない状態にある旨説明し,その上で,治療のために必要となる血管造影などの検査の内容及び方法,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術などの治療の内容及び方法,その手段となるリザーバー植込術の内容及び方法などを説明し,Eからこれらの治療に対する承諾を得たこと,③被告H医師は,同月20日実施の腹部血管造影検査によっても同旨の診断を得,同日,来院した原告Cに対し,Eが末期の肝癌に罹患していることなどを- 54 -説明した上,Eに癌という病名を告知するかどうかについて,家族で相談してほしいと申し入れたこと,④これに対し,原告らは,同月24日,Eに苦痛をもたらす延命治療を拒否する意向を伝えるとともに,7月2日,被告H医師に対し,上記告知をしないでほしい旨強く希望したこと,⑤被告H医師は,原告らの上記希望も踏まえ,癌という病名の点を除けば治療方針の判断のために必要な情報をEに説明しており,その説明を受けたEも治療に協力的で,あえて癌という病名をEに告知しなくても,予定される治療に差し支えがないと考え,今後も,Eに対しては,癌という病名を の判断のために必要な情報をEに説明しており,その説明を受けたEも治療に協力的で,あえて癌という病名をEに告知しなくても,予定される治療に差し支えがないと考え,今後も,Eに対しては,癌という病名を告知することを差し控え,腫瘍という言葉を適宜用いながら説明することにしたこと,⑥ただし,被告H医師は,その後の診療経過を通じて,Eが自分が癌に罹患していることを暗黙裡に理解していると判断したこと,⑦被告H医師からEの担当を引き継いだ被告I医師らも,癌の告知について,被告H医師の基本方針を踏襲することを相当と判断し,Eに対しては,癌という病名を告知することを差し控え,腫瘍という言葉を適宜用いながら説明するなどしたこと,以上のとおりである。 イ他方,証拠(乙B8)によれば,厚生労働省内に設置された「終末期医療に関する調査等検討会」は,平成16年7月,同省が平成15年2月ないし同年3月に一般国民及び医療従事者などを対象として実施した意識調査の結果,終末期医療の現場においては,患者本人に対する説明を基本に置きながらも,患者本人の状況や家族の意向などを踏まえて,最も適切な説明の相手方を判断するという対応が採用されている場合が多いとの報告書をまとめたことが認められる。 そうすると,被告医師らがEに対して癌という病名を告知しなかったことは,上記の報告書で指摘された終末期医療の現場の多くで採用されている指針に沿ったもので,相応の合理性を有していると判断することができる。 - 55 -ウこの点について,原告らは,癌の告知に関する被告医師らの措置が,M病院の「がん告知マニュアル」などの各種基準及び医療実務の対応(乙B5ないしB8)に違反する旨主張する。 確かに,証拠(乙B5)によれば,上記「がん告知マニュアル」においては,癌の告知について,患者本人に正確に 告知マニュアル」などの各種基準及び医療実務の対応(乙B5ないしB8)に違反する旨主張する。 確かに,証拠(乙B5)によれば,上記「がん告知マニュアル」においては,癌の告知について,患者本人に正確に説明し,患者の家族に先に知らせないことを原則とし,家族から患者本人に対する不告知の希望が示されたときは,告知に向けて家族を説得すべきである旨定められていることが認められるところ,被告H医師は,Eよりも先に原告らに癌という病名を告知し,また,被告医師らは,不告知を希望した原告らを説得することまではしていないから,被告H医師あるいは被告医師らの措置に,上記「がん告知マニュアル」の内容に符合しない点があることは否定できない。 しかしながら,上記「がん告知マニュアル」は,M病院の医療従事者が利用している内部指針(ガイドライン)であり,癌に関する医療の専門機関が策定したものとして尊重されるべきであるとはいえ,その内容が他の医療施設と患者との間の診療契約の一部を構成し,あるいは不法行為法上の注意義務を構成すると解すべきものではないから,被告医師らの措置に上記「がん告知マニュアル」に符合しない点があるとしても,その一事をもって,被告医師らが法的な告知義務を懈怠したと即断すべきものではない。 かえって,上記認定のとおり,被告医師らは,Eに対し,癌という病名を除き,罹患している病気の内容及びその原因,放置した場合の危険性,これに対する治療法などの詳細を説明していることが明らかであるから,Eが癌告知の実質的根拠と考えられる自己決定権を行使するに当たって,特段の支障はなかったと推認することができる。 エ以上を総合考慮すれば,原告らの意向を踏まえて,被告医師らがEに対して癌という病名を告知しなかったことは,医師としての裁量を逸脱する- 56 -ものではなく,癌 かったと推認することができる。 エ以上を総合考慮すれば,原告らの意向を踏まえて,被告医師らがEに対して癌という病名を告知しなかったことは,医師としての裁量を逸脱する- 56 -ものではなく,癌の告知義務を懈怠するものではないというべきである。 (2)次に,抗癌剤治療等に関する説明義務懈怠の有無について検討する。 ア被告H医師は,上記認定のとおり,Eに対し,癌という病名の告知を差し控え,腫瘍という言葉を用いながら,当時の病状や予想される予後,治療の必要性,治療のためのリザーバー植込術,抗癌剤の動注療法及び動脈塞栓術の各治療の内容及び方法などを説明し,その説明を受けたEからこれらの治療の実施に対する承諾を得たものである。 これらの事実によれば,上記の各治療行為を実施するに際し,被告H医師に,Eに対する説明義務を懈怠した過誤があると認めることはできない。 イこれに対し,原告らは,Eは自分が癌に罹患していることを理解していなかったことを前提に,Eの治療について,真の病状を知らないEの自己決定権よりも,これを知っている家族である原告らの決定権が優先する旨主張し,被告H医師は,原告らに対しても説明義務を尽くしてその同意を得なければならなかったところ,これを懈怠した旨主張する。 しかしながら,被告H医師は,平成15年7月2日,G病院に来院した原告A及び原告Cに対しても,Eに対してしたものと同旨の内容を説明し,翌3日,原告Aから上記各治療を受け入れるとの意向を電話で受けたことは上記1(9)及び(10)に認定のとおりである(もっとも,被告H医師は,原告Aから,結果の如何にかかわらず,抗癌剤治療は初回の5日間で終了させてほしい旨記載された手紙を受け取りながら,Eの意向に沿って上記治療を繰り返している。)。 そもそも,医師は患者との間の診療契約に基づき ら,結果の如何にかかわらず,抗癌剤治療は初回の5日間で終了させてほしい旨記載された手紙を受け取りながら,Eの意向に沿って上記治療を繰り返している。)。 そもそも,医師は患者との間の診療契約に基づき説明義務を負うものであるから,医的侵襲行為を含む治療に関する説明義務を受け,これに同意する主体は,患者本人が判断能力を欠いているため説明を受けることができないなどの特段の事情のない限り,患者本人であることは当然である。 もっとも,本件においては,Eは,被告H医師から癌という病名の告知を- 57 -受けていなかったという事情が存するのであるが,上記1に認定のとおり,被告H医師は,Eに対し,癌という病名の一点を除けば,Eが自分の病状を理解するに足りる実質的な内容を説明していたことが認められるのであるから,少なくとも,そのような説明を受け,自身の判断能力にも特に問題があるわけではないEに対する治療について,患者本人であるEの自己決定権よりも家族である原告らの決定権が優先する旨の原告らの主張は,仮にEが自分の病気が癌であることの理解を欠いていたとしても,採用することはできない。 ウまた,原告らは,Eが抗癌剤の動注療法などを受けることに同意したのは,自分の病状が末期癌であることを理解していないため,これらの治療により完治すると誤解したことに基づくものであり,Eが真の病名を知っていれば,単なる延命治療にすぎない上記各治療を受けなかった旨主張する。 なるほど,終末期医療の受け方として,原告らの主張するように,単なる延命治療を拒否するとの選択肢があり得ることは否定できないとしても,一方で,限られた延命であってもこれに意義を見いだして治療を受けている末期癌の患者が多数いることは公知の事実であり,原告らも,延命治療を受けるかどうかについてEの意思を確認した 定できないとしても,一方で,限られた延命であってもこれに意義を見いだして治療を受けている末期癌の患者が多数いることは公知の事実であり,原告らも,延命治療を受けるかどうかについてEの意思を確認したわけではない(もっとも,Eに対する癌の告知を希望せず,Eが自分が癌に罹患していることを理解していなかったと考える原告らの立場からは,そのような意思確認は事実上困難であったと解される。)から,Eがその真の病名を知っていれば単なる延命治療にすぎない上記各治療を受けなかったというのは,原告らの憶測にすぎないといわざるを得ない。 (3)上記(1)及び(2)の認定・説示によれば,被告H医師には,抗癌剤治療等に関する説明義務を懈怠した過誤があると認めることはできない。 したがって,争点(4)に関する原告らの主張は採用できない。 - 58 - 争点(5)(RFAに関する説明義務の懈怠)について(1)原告らは,被告医師らは,本件RFAを実施するに当たり,E及び原告らに対して,その治療内容や危険性などを十分に説明すべきであったのに,これを怠った旨主張する。 (2)上記1(30)に認定の事実によれば,Eの主治医の一人である被告J医師は,被告I医師及びL医師との協議・検討結果に基づき,本件RFAの実施に先立つ平成16年3月23日,Eに対し,当時の病状やRFAの内容及び方法,効果,実績,通常生じ得る一般的な合併症及びEに特に危惧される合併症(出血及び腸管損傷)の危険性などを説明し,EからRFAの実施に対する承諾を得たことが認められ,これによれば,RFAの治療に関して,被告I医師らに,Eに対する説明義務を怠った過誤があると認めることはできない。 もっとも,被告J医師は,上記説明の場に同席していなかった原告らに対して,同様の説明をすることがなかったが,上記5(1 被告I医師らに,Eに対する説明義務を怠った過誤があると認めることはできない。 もっとも,被告J医師は,上記説明の場に同席していなかった原告らに対して,同様の説明をすることがなかったが,上記5(1)及び(2)で認定・説示したのと同様の理由で,これをもって説明義務を懈怠したと判断すべきものではない(なお,同医師は,本人尋問において,原告らを呼んで説明すべきであったかもしれない旨述べているが,これは,訴訟提起を避けられた可能性を考えての発言にすぎないことが明らかである。)。 (3)さらに,原告らは,被告H医師についても,RFAの治療に関する説明義務を懈怠した旨主張するところ,同医師は,平成16年2月25日及び翌26日,Eや原告B及び原告Cに対して,RFA実施の必要性やその内容を説明したものの,危険性については詳しく説明することなく,D病院の担当者から聞いてほしいと述べたにとどまった旨自認している(被告H医師本人)。 しかしながら,被告H医師は,本件RFAの担当医ではないから,RFAに関する説明義務を負うのは,基本的にこれを担当した被告I医師らと考え- 59 -られ,被告H医師が被告I医師らと同じ内容の説明義務を負うことを前提とする原告らの上記主張は,その前提を欠くというべきである。また,この点を措くとしても,上記(2)に認定のとおり,Eは,後日,被告J医師から,RFAの治療に関して適切な説明を受け,その結果,危険性について認識した上でこれを受けることを最終的に決断したと認められるから,仮にRFAの治療に関する被告H医師の説明内容が十分でなかったとしても,原告らの主張する自己決定権及び適切な治療を受ける権利が侵害されたとは考え難い。 (4)したがって,被告医師らにE及び原告らに対する説明義務を怠った過誤があるとの争点(5)に関する原告 たとしても,原告らの主張する自己決定権及び適切な治療を受ける権利が侵害されたとは考え難い。 (4)したがって,被告医師らにE及び原告らに対する説明義務を怠った過誤があるとの争点(5)に関する原告らの主張も採用できない。 結論 以上の次第で,原告らの本訴各請求(主位的及び予備的請求)は,その余の点につき判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判官寺本明広裁判官大野千尋裁判長裁判官加藤幸雄は,転補のため署名押印できない。 裁判官寺本明広

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