平成16(わ)1287 住居侵入,強盗致傷,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年1月19日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,741 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 (本件公訴事実の要旨)被告人は,A,B及び氏名不詳者らと共謀の上第1 兵庫県西宮市a町(以下,省略)所在のC方から金品を強取しようと企て,平成14年9月18日午後零時10分ころ,上記B及び氏名不詳者において,花卉の配達人を装って,上記C方玄関から同人方内に侵入し,同日午後零時20分ころから同日午後2時ころの間,Dに対し,その背後から羽交い締めにして,「騒いだら殺すぞ。」等と語気鋭く申し向け,顔面及び両手足を粘着テープで緊縛し,催眠剤を飲ませ,下半身のズボンをパンティーと共にずり下げるなどの脅迫,暴行を加え,その反抗を抑圧した上,現金11万9000円並びに指輪3個及びキャッシュカード4枚等17点を強取し,その際,上記暴行により同女に加療約1か月間を要する催眠剤中毒,両手・両足挫傷及び両肩・顔面挫創の傷害を負わせ,第2 同日午後1時1分ころ,上記Bにおいて,同市b町(以下,省略)所在のE銀行株式会社F支店備付けの現金自動預払機に,上記強取に係るD名義のキャッシュカードを挿入するなどして,現金198万円を引き出して窃取した。 (当裁判所の判断)第1 事案 1 争いのない事実以下の事実は,関係各証拠によって明らかであり,当事者間でも争いはない。 (1) 平成14年9月18日午後零時20分ころ,公訴事実記載のC方において,Bほか1名が花かごの配達人を装ってC方に侵入し,同日午後1時30分ころまでの間,同人の妻Dに対し,暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧した上,現金,指輪,キャッシュカード等を強取し,その際,同女に加療約1か月を要する傷害を負わせ,また,同日午後1時1分ころ,E銀 分ころまでの間,同人の妻Dに対し,暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧した上,現金,指輪,キャッシュカード等を強取し,その際,同女に加療約1か月を要する傷害を負わせ,また,同日午後1時1分ころ,E銀行株式会社F支店において,Bが,上記強取したキャッシュカードを使用して現金自動預払機から現金198万円を引き出して窃取した。 (2) 上記各犯行は,いずれもAが首謀したものであるところ,当日の朝,兵庫県芦屋市内のマンション・Gc号室(以下,「G」という。)に,A,B及び中国人1名のほか,H,I及び被告人が集まった。 Aは,その際,上記強盗のために使用するものとして,花かご,スタンガン,睡眠薬などを準備し,B及び上記中国人1名に手渡した後,この両名とともにGを出て,車で両名をC方付近まで送った。Bらが上記強盗を実行後,Aは,Bらを車に乗せて最寄りの駅まで送り,Gに戻ったが,その間,キャッシュカードを奪っていったんC方を出てきたBをE銀行F支店まで乗せ,同支店において同人にそのキャッシュカードを使って上記窃盗を実行させ,同人からその引き出した現金198万円を受け取った。 (3) 被告人は,事件当日の朝,GからIが帰り,さらに,Aらが出て行った後も,Hとともにそこに留まっていたが,同日昼過ぎ,Aが戻ってきたことから,同人及びHとGを出た。Aは,車に被告人及びHを乗せて,J銀行K支店など2軒の金融機関を回り,Hに上記強取したクレジットカードを使って現金自動預払機から現金を引き出させようとした。 2 争点(1) 検察官は,被告人がA及びBと住居侵入及び強盗並びに窃盗を共謀し,その共謀に基づいて上記各犯行が実行されたと主張し,その根拠として,以下の点を挙げる。 ① 平成14年9月初めころ,Aが,被告人に対し,強盗の びBと住居侵入及び強盗並びに窃盗を共謀し,その共謀に基づいて上記各犯行が実行されたと主張し,その根拠として,以下の点を挙げる。 ① 平成14年9月初めころ,Aが,被告人に対し,強盗の実行役及び預金の引き出し役の紹介を求めたところ,被告人は,強盗の実行役としてBを推薦し,また,預金の引き出し役を探すことも引き受けた。 ② 被告人は,平成14年9月上旬ころ,Bに対し,資産家が単身東京に行っている間に,外国人を使って家に強盗に入って,1億円を超す預貯金を手に入れる計画があるので,これに加わるよう持ちかけた。 ③ 被告人は,平成14年9月初めころ,Iに対し,他人名義のキャッシュカードで預金を引き出す役の紹介を依頼して,同人から,Hを紹介され,事件の数日前,A,B及びIとともにHの自宅へ行き,AとHを引き合わせた上,事件当日も,Hを自宅まで迎えに行き,Gに連れて来た。 ④ 被告人は,Hとともに,事件当日,AやBが強盗の準備をしていたGにいた。 ⑤ 被告人は,AがHにキャッシュカードを使って現金を引き出させるため,車で同人を銀行に乗せて行った際,これに同行し,さらにその後,AがC方近くの飲食店付近まで車でBらを迎えに行った際にも,Aと行動を共にしていた。 ⑥ 被告人は,事件当日,大阪のLにある喫茶店で,Aから,Bが引き出した198万円のうちの10万円を受け取った。 (2) これに対し,弁護人は,被告人が,AやBらと住居侵入・強盗及び窃盗を共謀したことはないのは勿論,被告人は,Aらがこのような犯行に及ぶことを知らなかったのであって,無罪であると主張し,検察官が被告人による共謀の根拠として挙げる上記各事実は,そもそも認められないか,また,仮に認められるものがあるとしても,被告人が のような犯行に及ぶことを知らなかったのであって,無罪であると主張し,検察官が被告人による共謀の根拠として挙げる上記各事実は,そもそも認められないか,また,仮に認められるものがあるとしても,被告人が本件犯行を共謀したことを推認させるものではないと主張する。 第2 争点に対する当裁判所の判断 1 関係者の供述内容上記争点に関連する関係者の供述内容は概略以下のとおりである。 (1) 証人Bの公判供述事件の10日ほど前から数回,被告人から電話があり,その話の中で,資産家の家があって,預貯金が1億円を超す,その証書を使って現金を引き出す,主人が関東のほうに行って帰ってこない日もあるので,その日を狙うなどという話を聞き,その内容から強盗と判断した。事件の四,五日前ころ,M駅前のNホテルで被告人と2人で会ったところ,被告人から,場所は西宮で,外国人も用意している,とにかくやってくれと言われた。事件の二,三日前に,Aから電話があり,「Oさん(注・被告人のこと)のほうから話聞いてると思うんやけど。」と前置きされた上,計画の内容を聞かされ,それでAが事件に関わっていることを知ったが,被告人から聞いていた内容とさほど変わらなかった。また,そのころ,被告人からの電話で,日が決まったとの連絡を受け,当日午前11時ころにP駅で会う約束をした。そして,事件当日,P駅まで行くと,被告人が,Aほか1名の男とともに車で迎えに来ていたので,一緒にGc号室に行った。同室に行くと,2人の中国人らしき男がいて,そのうち,HやIが来た。同室内で,Aから,ガムテープ,むき出しのスタンガン,手袋,エプロン及びティッシュに包まれた睡眠薬の錠剤の入った袋を渡され,それらを一つ一つ袋から出した後,袋に戻した。その後,Aが同室を出て行き,大きな花かごを抱えて戻 テープ,むき出しのスタンガン,手袋,エプロン及びティッシュに包まれた睡眠薬の錠剤の入った袋を渡され,それらを一つ一つ袋から出した後,袋に戻した。その後,Aが同室を出て行き,大きな花かごを抱えて戻ってきた。同日正午前ころ,中国人1人とともにエプロンを付けるなどして,Aの車でC方に行った。C方でキャッシュカード等を奪った時点でいったん外に出て,Aに迎えに来てもらい,E銀行F支店に行って現金198万円を引き出した後,C方に戻り,その後,再びAに近くの飲食店付近まで迎えに来てもらい,中国人とともにP駅で降ろしてもらったが,迎えに来た車にはAのほかに被告人とHも乗っていた。また,その車内で,Aから,報酬として20万円を受け取ったが,被告人やHがAから報酬を受け取ったのは見ていない。その後,大阪のLの喫茶店に行ったり,Aらと会って金を分けたりしたことはない。 (2) 証人Aの公判供述平成14年9月の初めころ,暴力団Q会のR会長に金策の相談をしたところ,「西宮の資産家の家がある。だんなは金曜日までおらない。預貯金やら含めると1億ぐらいは楽にあるだろう。」「たたいてしまえ。」「こっちはこっちでもうちょっと調べるから,おまえのほうは人数を集めとけ。」などと言われた。そこですぐに,被告人に対し,「何でもする人間おらんやろか。」と言って仕事の選り好みをしない人物がいないか聞いたところ,被告人から,「1人はおるよ。前に紹介したB。」と言われ,被告人に対し,Bに直接電話をするよう連絡を頼んだと思う。また,被告人からBを推薦された際,預金を下ろしてくれる60歳くらいの見栄えのいい人物を探すことも頼んだが,仕事の中身については話をしなかった。その後,Bから電話があり,また,預金を下ろす人間については,いつ頃か分からないが, 際,預金を下ろしてくれる60歳くらいの見栄えのいい人物を探すことも頼んだが,仕事の中身については話をしなかった。その後,Bから電話があり,また,預金を下ろす人間については,いつ頃か分からないが,被告人から段取りはついていると聞いていた。事件前日,車でR会長の手配した中国人をM駅に迎えに行った後,京都のSホテルに行ってBと合流し,そこでBに対し,資産家の家に預貯金が約1億円あるなどと説明し,「どうしてもできないときはこれはたたかなしゃあないな。」と言って強盗になるかもしれないことを告げた後,中国人とBを乗せて車でGに行ったが,その時,被告人が一緒だったかどうかは覚えていない。当日朝,R会長から西宮近辺に詳しい者として送り込まれたTという人物に,京都まで預金を下ろす役の人間を迎えに行ってもらった。その時,被告人が一緒に行ったかどうかは知らないが,被告人がHとIをGに連れてきた。被害者方に入る手段として,R会長の指示で花の配達を装うことになり,同日午前11時ころ花が届いた。その後,R会長の使いの者から預かっていたきんちゃく袋に入っていたスタンガン等を準備した上,Bと中国人1名をC方まで送って行った。Bらがキャッシュカードを入手したことから,Bを迎えに行って,銀行で金を下ろし,Bを再びC方に送り届けた後,Gに戻って,Hを連れ,銀行に行ったが,カードで金は引き出せなかった。その時,被告人が一緒だったかどうかは分からない。その後,Hを最寄りの駅で降ろして,Gに帰って掃除をし,再度,Bと中国人を迎えに行き,P駅まで送り,大阪のUで待ち合わせることを約した。車で大阪のUに向かったが,その時,被告人が一緒だったかどうかは覚えていない。Lの喫茶店で,自分,B,中国人及び被告人の4人が集まり,Bが銀行から下ろした198万円から,Bに50万円,中国人に20万 で大阪のUに向かったが,その時,被告人が一緒だったかどうかは覚えていない。Lの喫茶店で,自分,B,中国人及び被告人の4人が集まり,Bが銀行から下ろした198万円から,Bに50万円,中国人に20万円,被告人に10万円を渡した。被告人に10万円渡したのは,日当代の趣旨で,HやIも含めて1人3万円で計算をし,切りの良い数字にしたが,被告人には,その金が銀行で下ろした金の一部であることを説明していたかどうか分からないし,被告人が知っていたかどうかも分からない。 (3) 証人Iの公判供述平成14年9月の初めころ,被告人から,Aがその愛人のキャッシュカードで預金を下ろしたいと言っているので,誰か預金を下ろす人物がいないかといった内容の話を持ちかけられ,Hを紹介することとして,被告人にその話をし,これをHにも伝えた。Hは,Aとその愛人に会いたいと言ったので,これを被告人に伝え,AがH方に来ることになった。本件犯行の数日前,被告人とA及びBらが車2台で,私宅にやってきたので,被告人の運転する車に乗ってH方の近くまで案内した。そこから,被告人と私が車から降りて,Hを迎えに行き,HはAの乗っていた車の後部座席に乗った。車の中でHやAらがどんなやりとりをしていたのかは知らない。数日経った夜,被告人から,電話で,明日預金を下ろしに行くという連絡があったので,Hに伝えた。事件当日午前8時ころ,私宅に被告人ともう1人,数日前にHの家に来ていたかもしれない男が迎えに来て,一緒にHを迎えに行き,そのまま車で芦屋のマンションに連れて行かれ,同日午前10時ころ,マンションの室内に入った。同室内には,A,Bの他2人ぐらいの男がいて,その場の雰囲気から,愛人の金を引き出すのではなく,何か事件があるのではないかと不安を感じ,20分ほど経ったころ,Aの了 ころ,マンションの室内に入った。同室内には,A,Bの他2人ぐらいの男がいて,その場の雰囲気から,愛人の金を引き出すのではなく,何か事件があるのではないかと不安を感じ,20分ほど経ったころ,Aの了解を得て,被告人にP駅まで送ってもらって京都へ帰った。四,五日後,預金引き出しの件がどうなったのか,被告人に尋ねたが,知らないという答えだった。Hを紹介したことでお礼はもらっていない。 (4) 証人Hの公判供述本件の3日ほど前,知人のIが私宅にやって来て,外に連れ出され,同人の指示で,二,三台停まっていた車のうちの1台に乗ると,A,Bともう1人の男が乗っており,Bから「定期預金を下ろしてくれたら,金になる。」「1000万ぐらい渡せる。」という話を聞き,預金の引き出し役を引き受けて車を降りた。事件の前日,Iから明日行くという電話があり,翌日午前8時か9時ころ,Iとともに迎えに来た車に乗り込んだところ,運転席には氏名不詳者が,助手席には被告人が座っていた。同日午前10時半ころ,Gに入ると,A,B及び中国人風の男2人がおり,Iから,AとBを紹介された。10分か15分くらいして,IはGを出て行った。Aから紙を渡され,そこに書いてあった住所と名前を覚えるように言われた。AやBたちは,6畳洋室にあった机の付近で,花を持ってきたり,スタンガンや薬を出したり,何か準備をしているようであり,それを見て,AやBは,強盗に行くのではないか思い,そうであれば,当初の話と違うので,預金の引き出しはしないという気持ちになっていた。その後,同日午前11時半か12時ころ,AとB,中国人の3人が花を持って部屋を出て行き,Bと中国人はエプロンをしていた。約1時間ほどして,Aが帰ってきて,その指示で3人でGを出て,車に乗った。Aは,車内で,Bが200万円下ろ 2時ころ,AとB,中国人の3人が花を持って部屋を出て行き,Bと中国人はエプロンをしていた。約1時間ほどして,Aが帰ってきて,その指示で3人でGを出て,車に乗った。Aは,車内で,Bが200万円下ろした,通帳はなかったなどと言い,私にクレジットカード等4枚を渡し,暗証番号を教え,これで現金を引き出すように言った。銀行2軒に行ったが,何もしなかったり,取消ボタンを押したりして,車に戻り,Aに「出ない。」と言った。いったんGに戻ってから,Bと中国人を迎えに行き,V駅で下ろし,自分はW駅まで送ってもらい,その際,Aから電車賃として1万円をもらった。 2 被告人の共謀を基礎づけるとする検察官主張の事実関係について(1) Bが本件犯行に加わった経緯ア Bは,自らが犯行に加わった経緯について,上記のとおり,犯行計画は,ほとんど被告人から説明を受け,その内容から強盗と判断したと供述する。 しかしながら,Bは,被告人から数回にわたって聞いたという事件の内容について,総体的な話をするだけで,各段階でどこまでの話を聞いたかについては,全く具体的な話をしていない。また,B自身も,被告人からは,強盗ないしはこれを意味する「たたき」というような言葉は聞いていない旨供述するとともに,被告人の説明から,なぜこの時点で,強盗と判断したかについて明確には述べていない。 また,Bの供述によっても,同人は,Aとは,以前から電話で連絡を取り合う仲であったというのであるから,本件犯行の計画を聞くのに常に被告人を介さなければならない理由はなく,しかも,Aは首謀者であったのであるから,犯行計画の詳細については,BはむしろAから聞くのが自然というべきであるし,Aの携帯電話の通話状況に関する報告書によれば,平成14年9月1日から同月5日にかけて,さらに,同月1 であったのであるから,犯行計画の詳細については,BはむしろAから聞くのが自然というべきであるし,Aの携帯電話の通話状況に関する報告書によれば,平成14年9月1日から同月5日にかけて,さらに,同月11日から同月12日にかけて,AからBに対し頻繁に電話がなされていることが認められることからすると,この間にBがAから犯行計画の詳細を聞いていないという方が不自然である。 さらに,Aと被告人が一致して供述するところによれば,AとBは,少なくとも,被告人がAにBを紹介した時及び平成14年8月29日から同月30日にかけてXにおいて,直接顔を合わせていることが認められる上,後述するとおり,信用性のあるH及びIの供述によれば,Bは,本件の数日前,Aらとともに,Hの自宅を訪れるなど,事件当日以前から,本件の関係でAと接触し,本件に積極的に関与していたことが認められる。加えて,上記のとおり,本件犯行の前には,AとBの間で頻繁に電話連絡がなされていた上,Iは,Gで,A及びBの様子を見て,BはAの一番の腹心であると感じたというのであり,このことからも,AとBの親密な関係がうかがえる。 しかるに,Bは,Aと顔を合わせたのは本件犯行当日が初めてであるなどと述べ,さらに,このとき,Aは,帽子やサングラスをしていたので顔ははっきりと確認できず,はっきり顔を確認できたのは,平成15年春になってからであるなどと供述している上,別件での取調べを受けた際には,Aと初めて会ったのは,その事件直前の平成15年3月か4月ころであるなどと供述していたことがうかがわれる。そして,Bが自ら供述するとおり,自身の公判において,本件についての責任は一応認めてはいるものの,被害者に直接暴行脅迫を加えたのは,自分ではないなどと主張していることをも勘案すると,Bは,自己の役割が小さ Bが自ら供述するとおり,自身の公判において,本件についての責任は一応認めてはいるものの,被害者に直接暴行脅迫を加えたのは,自分ではないなどと主張していることをも勘案すると,Bは,自己の役割が小さかったことを印象付けるために,首謀者であるAとの距離を少しでも遠ざけようとの意図を有することが疑われる。そうすると,本件犯行の計画の多くの部分を,首謀者のAではなく,被告人から伝えられたとするBの上記供述にも,このような意図による虚偽ないし誇張が含まれている可能性は否定できない。 以上の諸点に照らし,本件犯行に加わった経緯に関するBの上記供述は,にわかに信用することができない。 イまた,Aの上記供述によれば,同人は,被告人に対し,「何でもする人間」がいないかを尋ねたところ,被告人が,Bの名前を挙げたというのであって,Aの供述自体からは,同人が,そもそも被告人に強盗のための人集めを依頼したと認定することはできない。 ウ以上のとおり,Aが,本件の実行役探しの際に,被告人に人集めの相談をし,その際,被告人が,Bがよいのではないかと示唆したことは認められるものの,それが強盗を前提とした人集めの相談,示唆であったことや,被告人が,Bに対し,強盗と分かるような事件の詳しい内容についてまで説明したとは認められない。 (2) Hが本件犯行に加わった経緯ア I及びHは,上述のとおり,Hが本件犯行に加わった経緯について細かい点で食い違いが認められるものの,本件数日前に被告人とAらがHの自宅に来たことについて,Iは具体的な供述をし,本件当日,被告人及びもう1人の男が,IやHを迎えに行ったことについては,IとHが,大筋で一致する供述をしているところ,それらの供述の信用性を疑うべき事情は見受けられない。 イそして,これらの供述によ 被告人及びもう1人の男が,IやHを迎えに行ったことについては,IとHが,大筋で一致する供述をしているところ,それらの供述の信用性を疑うべき事情は見受けられない。 イそして,これらの供述によれば,被告人は,Iに,預金の引き出しをしてくれる人物の紹介を依頼したこと,事件の数日前,被告人は,I,A,B及びもう1人の男とともに,2台の車でHの自宅を訪れ,A,B,もう1人の男が車内で,Hに対し,預金の引き出しについての話をし,さらに,本件当日,被告人が,もう1人の男とともにHを迎えに行ったことは明らかであり,これに反する被告人及びA,Bの供述は信用できない。 ただ,上記I及びHの各供述によっても,被告人が,Hらに対し,上記の機会に,本件犯行について,何らかの説明をしたような状況は認められない。 ウまた,Aは,上述のとおり,被告人に対し,預金を下ろしてくれる人間で,60歳くらいの見栄えのいい人がいないか打診した旨の供述をしているところ,その点については,上記のIやHの供述から認められる本件の経緯とも合致しており,信用することができる。 (3) 本件当日のGの室内の状況ア H,I,B及びAの各供述によれば,本件当日,Gには,少なくとも,被告人,B,A,H及びIのほか,中国人1名が集合していたのであり,そのような状況の中で,Aは,あらかじめ,本件の情報提供者から,本件に使用する道具として受け取っていたスタンガンや睡眠薬等の入った袋を,実行役のB及び中国人に渡し,Bらは,G6畳洋室付近において,スタンガンや睡眠薬等を袋から出したり入れたりして準備をした上,花かごの配達を装って被害者に玄関ドアを開けさせるため,エプロンをつけ,花かごを持って,Gを出発したことが認められる。 なお,本件の情報提供者について,Aは,上記1の(2) て準備をした上,花かごの配達を装って被害者に玄関ドアを開けさせるため,エプロンをつけ,花かごを持って,Gを出発したことが認められる。 なお,本件の情報提供者について,Aは,上記1の(2)のとおり一貫してR会長と供述しているのに対し,被告人は,本件犯行の前日,Aが「ねえさん」と呼ぶ女性と頻繁に会ったり電話したりしており,その者が情報提供者であると認識しているが,関係各証拠に照らすと,Aは,真の情報提供者をかばって虚偽の供述をしている可能性が強いと認められる。 イ BやAは,特にこの準備の様子を隠そうとしていた様子はうかがわれず,実際,Hも,その準備の様子を把握していたのであって,G南側窓際付近にいたとする被告人が,Hとほぼ同程度に,Bらの犯行準備の様子を認識していた可能性はかなり高いと認められる。また,Iは,Gにこれだけの人間がいたことから,何か事件があるのではないかと不安を覚え,早々にここを立ち去ったというのであるから,被告人が,同様の状況に身を置きながら,何の不審も感じなかったというのは,不自然といわざるを得ない。 (4) 本件で奪い取った現金の分配ア Aは,上述のとおり,犯行後,Bや中国人といったん別行動をとった後,大阪Uで合流し,Lの喫茶店で,B,中国人及び被告人に,本件で奪い取った現金を分配したと供述しているのに対し,Bは,Aに送ってもらった駅で20万円をもらい,その後は,UでAや被告人と会っていないと供述している。 イ AとともにLの喫茶店に行ったことは,被告人自身も認めるところであるが,Aは,その供述の全般を通じ,被告人をかばおうとする姿勢が随所にみられ,本件奪取金の分配という被告人にとって非常に不利になりかねない事実について,敢えて虚偽の供述をする可能性は低い。他方,A供述によれば,Bは,実行 全般を通じ,被告人をかばおうとする姿勢が随所にみられ,本件奪取金の分配という被告人にとって非常に不利になりかねない事実について,敢えて虚偽の供述をする可能性は低い。他方,A供述によれば,Bは,実行役として,情報源を除くと,最も高額な50万円を受け取ったというのであるが,自己の刑責を軽減しようと,報酬の受け取りについても,その取り分をできるだけ少なくしようと虚偽の供述をしている可能性は否定できない。また,Hも,Aに駅に送ってもらった際電車賃として1万円をもらったことは認めているものの,Bがいる間に,車内で本件奪取金の分配があったという供述はしていないことに照らしても,この点についてのBの供述も信用できない。したがって,Bが,Lの喫茶店における奪取金分配の事実を否定しているからといって,これと結論を同じくする被告人の供述が,信用できるということにはならない。 ウ以上の証拠関係に照らすと,被告人は,Lの喫茶店において,Aから,現金10万円を受け取ったものと認められる。 (5) 他方,被告人は,Aの指示により,本件前日から同人と行動を共にし,本件当日,Gにおいて,Aのほか,B,Hらと一緒にいたこと,Bらの犯行後,Hが預金の引き出しに行った際に,車で同行していたこと,その後も,Aと行動を共にし,Lの喫茶店で,Bらと会ったことなどは認めるが,①本件犯行に先立って,Aの依頼によって,Bを実行役,Hを預金の引き出し役として紹介したこと,②本件の数日前に,H方へ行き,また,本件当日,H方へ迎えに行ったこと,③当日,Aから現金を受け取ったことなどについては,これを否定する供述をしている。そして,被告人は,本件前日,Aから,車の運転をしてくれと言われ,余り深く考えずに同人に指示されるまま,大阪天王寺,伊丹,芦屋等を移動し,本件当日も,特に何も考える は,これを否定する供述をしている。そして,被告人は,本件前日,Aから,車の運転をしてくれと言われ,余り深く考えずに同人に指示されるまま,大阪天王寺,伊丹,芦屋等を移動し,本件当日も,特に何も考えることなく,Gで待機し,その後,Aから言われるままに,Gを出て,西宮,伊丹,尼崎,大阪方面を移動し,Aと行動をともにしていただけであって,その間,AやBが,本件強盗等の犯行に及ぶことは全く知らなかったというのである。 しかし,関係各証拠によれば,上記②及び③の事実が認められることは前記のとおりであり,また,上記①についても,Aから人集めの相談を受け,その際,Bの名前を挙げたことは認められるのであって,被告人の供述のうち,これに反する部分は信用することができず,本件との関わりをなるべく薄くしようと虚偽の供述をしている態度もうかがわれる。 3 共謀の成否について(1) 上記認定によれば,被告人は,①平成14年9月初めころ,Aから,何でもする人間はいないかと言われて,Bの名前を挙げ,②また,同様に,預金を下ろしてくれる人間で,60歳くらいの見栄えのいい人がいないかと言われ,Iを通じてHを紹介し,本件数日前に,Aらとともに,Hの自宅まで行き,さらに,本件当日も,Hを迎えに行ったこと,③本件当日,Bらが犯行準備をしていたGにおり,その様子を見聞きしていた可能性が高いこと,④Hが預金を引き出す際に,車で同行していたこと,また,⑤本件当日,Lの喫茶店において,Aから本件奪取金のうち,10万円を受け取ったことは明らかである。 (2) そして,上記認定の事実関係に加え,一緒にGにいたI及びHの認識等に照らしても,被告人は,少なくとも本件当日,BらがGを出発するころまでには,Hによる預金の引き出しが不正なものであるとの認識を有していた可能性は非常に 事実関係に加え,一緒にGにいたI及びHの認識等に照らしても,被告人は,少なくとも本件当日,BらがGを出発するころまでには,Hによる預金の引き出しが不正なものであるとの認識を有していた可能性は非常に高く,また,少なくともそのころまでに,本件当日,BやAらが不正な預金の引き出しに絡んだ何らかの事件を起こす可能性を認識していたことも否定できない。 (3) しかしながら,上記①及び②の点については,上記2の(1)で認定したとおり,A及びBらの供述によっても,Aが,強盗のためであることを明らかにして人集めを被告人に依頼したことを認めるに足りる証拠はなく,仮に,被告人が,本件当日前に,Aらが何らかの不正行為を行うのではないかという疑いを抱いていたとしても,それ以上に,被告人の具体的な犯罪の認識を推認させるものとはいえない。また,③の点についても,上記2の(3)で認定したとおり,被告人が,スタンガンや睡眠薬等,本件犯行に使用された物件を見た可能性は否定できず,IやH同様,Aらが,何らかの犯罪行為に及ぶのではないかという疑いを抱いていたことは推認できるとしても,このことから直ちに,被告人が,Aら本件共犯者の一味として,自己の犯罪として強盗事件等を敢行する意思を有していたとまでは,到底認定することができない。 さらに,④の点については,Aは,被告人に渡した10万円は,IやHの分も含めた日当のつもりであったが,被告人には,そのことは特に説明していないと供述しているところ,被告人は,その受け取り自体を否認しているので,その認識は明らかでないが,被告人がIを通じてHを紹介したのは事実であるから,Aが被告人に交付した10万円の現金が,3人分の日当であったとしても不自然ではない。のみならず,被告人は,本件犯行前日から当日にかけて,Aの車の運転手と 人がIを通じてHを紹介したのは事実であるから,Aが被告人に交付した10万円の現金が,3人分の日当であったとしても不自然ではない。のみならず,被告人は,本件犯行前日から当日にかけて,Aの車の運転手としてその指示に従って終始行動していたのであるから,10万円は,このような被告人の行動に対する手間賃,日当として一概に不自然ともいえず,被告人が,上記の10万円を受け取ったことから,当然に,本件について,被告人とAらとの間に共謀があったと認定することも相当でない。 (4) 他方,上記2の(5)のとおり,被告人の供述は,関係各証拠に照らし,明らかに不合理な部分が多々あり,総じて,その信用性は高いとはいえないが,上記の認定を総合的に検討し,これに被告人の供述態度を加味して判断しても,なお,被告人が,Aらと本件住居侵入,強盗致傷,窃盗事件を共謀したと認めるには,合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 第3 結論以上のとおり,本件は犯罪事実の証明が無いことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言い渡しをする。 平成18年1月19日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官佐茂剛裁判官小山裕子

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