平成13(レ)72 損害賠償請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年1月29日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7277.txt

判決文本文7,065 文字)

判決平成14年1月29日神戸地方裁判所平成13年(レ)第72号損害賠償請求控訴事件(原審神戸簡易裁判所平成12年(ハ)第2892号) 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,4万7390円及びこれに対する平成12年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じこれを7分し,その6を控訴人の負担とし,その余は被控訴人の負担とする。 3 この判決は,金員の支払を命ずる部分に限り,仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,30万4650円及びこれに対する平成12年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 控訴の趣旨に対する答弁(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 売買契約の締結控訴人は,平成11年10月7日午後6時ころ,神戸市中央区a通b丁目c番dの被控訴人が経営する寿司店「A」において,にぎり寿司「B」2折を代金相当額で購入した(なお,控訴人は,そのうちの1折を訴外C(一審原告,以下「C」という。)に差し入れた。)。 (2) 控訴人の症状控訴人は,同日午後7時20分ころ,神戸市中央区e通f丁目にある控訴人の事務所に のうちの1折を訴外C(一審原告,以下「C」という。)に差し入れた。)。 (2) 控訴人の症状控訴人は,同日午後7時20分ころ,神戸市中央区e通f丁目にある控訴人の事務所において,控訴人が持ち帰った上記にぎり寿司1折(以下「本件寿司」という。)を食べたところ,同日午後9時すぎころから,胸焼け及び吐き気を催し,体の節々が痛くなり,体のだるさを感じ,更に下痢症状が現れ,翌8日午前1時ころには,39.9度の高熱にうなされたため,同日及び翌9日,神戸市長田区g町h丁目i-jのD医院において,診察・治療を受けた。 (3) 本件寿司を食べたことと控訴人の症状との因果関係控訴人の上記(2)の症状は食中毒症であるところ,その原因は,控訴人が食べた本件寿司が腸炎ビブリオに汚染されていたことにある。 (4) 被控訴人の債務不履行被控訴人は,持ち帰り用の寿司,すなわち,腸炎ビブリオによって汚染されている可能性のある海産魚介類を取り扱う業者であるから,そのような食品を調理・販売する過程において,食品衛生上,食中毒の発生を未然に防止すべき極めて高度の注意義務があるにもかかわらず,これを怠った。 (5) 控訴人の損害ア休業損害 20万円控訴人は,無店舗型性風俗特殊営業を営む者であるところ,上記(2)の症状により通院した2日間,上記営業を休業した。 イ治療費 3850円ウ通院交通費 800円エ慰謝料 10万円(6) よって,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づき,上記(5)の損害金合計30万4650円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年12月21日から 10万円(6) よって,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づき,上記(5)の損害金合計30万4650円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因第(1)項の事実は,争うことを明らかにしない。 (2) 同第(2)項の事実は知らない。 (3) 同第(3)項の事実は否認する。 控訴人が本件寿司を食べた平成11年10月7日の前後1週間において,控訴人及びCを除き,被控訴人が経営する「A」k店のみならず,関西地方において,食中毒のクレーム及び保健所による調査は一切なかった。 食品衛生法27条1項は,食品等に起因して中毒した患者若しくはその疑いのある者を診断した医師は,直ちに最寄の保健所長にその旨を届け出なければならないと定めているところ,控訴人を診断したD医院の医師D(以下「D医師」という。)は,保健所に食中毒の発生を届け出なかったから,控訴人は食中毒の疑いすらなかったものといわざるを得ない。 控訴人は,本件寿司を食べた翌日である同月8日,神戸市中央区保健部に本件寿司による食中毒症の発症を届け出たので,同保健部は,同k店で調査をし,また,控訴人について検便を実施したが,食中毒細菌は検出されなかった。 同年9月,10月度に配送センターに入荷した「にぎりネタ」の細菌検査の結果は,すべて正常であった。 (4) 同第(4)項の事実は否認する。 (5) 同第(5)項の事実は否認する。 第3 証拠証拠関係は,本件訴訟記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引 第(4)項の事実は否認する。 (5) 同第(5)項の事実は否認する。 第3 証拠証拠関係は,本件訴訟記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。 理由 第1 請求原因に対する判断 1 売買契約の締結請求原因第(1)項の事実(売買契約の締結)は,争うことを明らかにしないので,自白したものとみなす。 2 控訴人の症状控訴人は,当審において,平成11年10月7日午後7時10分ないし20分ころ,控訴人の事務所において,本件寿司を食べたところ,同日9時すぎころから,嘔吐したり,体の節々の痛みや体のだるさを感じ,深夜にかけて,脱水症状,水様便の下痢症状が出た旨供述し,おおむねこれと符合する控訴人作成の陳述書(甲5)がある。 そして,控訴人を診断したD医師が,翌8日,控訴人の症状について,水様性の下痢が3回あったこと,全身の関節痛,下腹部痛,寒気を訴えたことや嘔吐があったことなどを国保診療録に記載したこと(乙5),控訴人が,同日午後3時ころ,神戸市中央区保健部を訪れ,本件寿司を食べたところ,腹痛,下痢等の症状を呈する身体異常を発症した旨の苦情相談を寄せ,検便を行ったこと(乙6の1)からすると,控訴人の上記供述及び上記陳述書は信用することができる。 これによれば,控訴人が上記供述内容のとおりの症状を呈したことが認められる。 もっとも,控訴人は,同日午前1時ころ,39.9度の高熱にうなされた旨主張し,これに沿う控訴人の当審における供述及び陳述書(甲5)があるが,控訴人が本件寿司と同時に購入したにぎり寿司を食べたCは,後記認定の症状を呈したものの,発熱した形跡がみられないこと,D医院における診察時の控訴人の体温が における供述及び陳述書(甲5)があるが,控訴人が本件寿司と同時に購入したにぎり寿司を食べたCは,後記認定の症状を呈したものの,発熱した形跡がみられないこと,D医院における診察時の控訴人の体温が36.9度であったこと(乙3の2,乙5),控訴人は,Cに対し,同日昼すぎころ,体の調子がおかしく,下痢症状が続いている旨電話で告げた(甲6)だけで,発熱について告げた形跡がみられないこと,控訴人が同保健部に対し,同月7日午後9時すぎころから微熱の症状を呈した旨を申告したこと(乙6の1),深夜39.9度の高熱が出たにもかかわらず,すぐに救急病院に行かなかったというのはいささか不自然であることからすると,控訴人の発熱に関する上記供述及び上記陳述書はにわかに信用することができない。したがって,控訴人の発熱に関する上記主張は理由がない。 3 本件寿司を食べたことと控訴人の症状との因果関係上記のとおり,控訴人の上記症状は,控訴人が本件寿司を食べてから2時間弱で現れたこと,本件寿司は食中毒細菌に汚染されやすい生ものであること,控訴人は,本件寿司を食べた当日は,昼にコーヒーを飲んだだけで,本件寿司以外に何も食べていなかったこと(控訴人本人),D医師が,控訴人の症状について,急性腸炎(食中毒症)と診断したこと(甲1,乙3の2,乙5),Cも,平成11年10月7日午後7時ころ,控訴人が本件寿司と同時に購入したにぎり寿司を食べたところ,同日午後10時すぎころ,腹の調子がおかしくなり,下痢症状が出たこと(甲6)からすると,控訴人は,何らかの食中毒細菌に汚染されていた本件寿司を食べたことによって,食中毒症に罹患したものと推認するのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人が本件寿司を食べた同日の前後1週間において,控訴人及びCを除き,被控訴 いた本件寿司を食べたことによって,食中毒症に罹患したものと推認するのが相当である。 これに対し,被控訴人は,控訴人が本件寿司を食べた同日の前後1週間において,控訴人及びCを除き,被控訴人が経営する「A」k店のみならず,関西地方において,食中毒のクレーム及び保健所による調査は一切なかった旨主張するが,控訴人及びCの上記各症状が比較的軽度のものであったことからすると,被控訴人が販売した寿司を食べて食中毒症に罹患した者が他にいたとしても,あえて苦情を寄せるまでのことはしないということは十分に考えられるところであるから,他に食中毒のクレーム及び保健所による調査がなかったことのみをもって,直ちに上記認定の因果関係を否定することはできない。 また,被控訴人は,D医師は保健所に食中毒の発生を届け出なかったから,控訴人は食中毒の疑いすらなかった旨主張するが,上記認定のとおり,D医師は,控訴人の症状について,急性腸炎(食中毒症)と診断したのであるし,D医師が保健所に食中毒の発生を届け出なかったのは,病原体の検出ができず,控訴人の受診後の経過が不明であったためにすぎない(乙3の2)のであるから,D医師のこのような対応が食品衛生法の規定に照らして果たして適切妥当な措置であったかは問題となる余地があるとしても,控訴人が食中毒の疑いすらなかったと断ずることはできない。 さらに,被控訴人は,控訴人は,本件寿司を食べた翌日である同月8日,神戸市中央区保健部に本件寿司による食中毒症の発症を届け出たので,同保健部は,被控訴人が経営する「A」k店で調査をし,また,控訴人について検便を実施したが,食中毒細菌は検出されなかった旨主張するが,D医師は同日控訴人に抗生物質を投与した(乙3の2)ところ,食中毒細菌が抗生物質によりダメージを受けてい 店で調査をし,また,控訴人について検便を実施したが,食中毒細菌は検出されなかった旨主張するが,D医師は同日控訴人に抗生物質を投与した(乙3の2)ところ,食中毒細菌が抗生物質によりダメージを受けていれば,検査用の培地では増殖しにくいため,検出できない場合があるし,また,菌数が少なくなると,培養による検出が困難になること(甲13の1),検便等で食中毒細菌が検出されなくても,それ以前に大量の毒素が産生されていれば,食中毒症状が続くことがあり得ること(同)からすると,食中毒細菌が検出されなかったからといって,直ちに上記認定の因果関係を否定することはできない。なお,食中毒症の原因となった食中毒細菌を具体的に特定しなくても,上記因果関係を認めることの妨げとなるものではない。 そして,被控訴人は,同年9月,10月度に配送センターに入荷した「にぎりネタ」の細菌検査の結果はすべて正常であった旨主張し,これに沿う被控訴人品質管理担当であるE作成の陳述書(乙1)があるが,被控訴人が入荷,販売した「にぎりネタ」のすべてについてまで細菌検査を実施したかどうかは必ずしも明らかではないから,現実に細菌検査を実施した「にぎりネタ」の検査結果がたまたま正常であったからといって,本件寿司が何らかの食中毒細菌に汚染されていた可能性を否定することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 4 被控訴人の債務不履行上記認定のとおり,被控訴人は,控訴人に対し,何らかの食中毒細菌に汚染されていた本件寿司を販売したものであるから,上記1の売買契約に基づく本件寿司の引渡義務について,債務の本旨に従った履行をしなかったものと認められる。 そして,被控訴人は,食中毒細菌に汚染されやすい寿司を販売する業者であるから,寿司を調理・販売する過程におい 寿司の引渡義務について,債務の本旨に従った履行をしなかったものと認められる。 そして,被控訴人は,食中毒細菌に汚染されやすい寿司を販売する業者であるから,寿司を調理・販売する過程において,これが食中毒細菌により汚染されることがないように特段に配慮し,そのために有効適切な措置を講じるべき注意義務を負うものと解すべきであるところ,前示のとおり,控訴人は本件寿司を食することにより食中毒症に罹患したものと認められるのであるから,被控訴人は上記注意義務を尽くさなかったことが窺われ,上記債務不履行について,債務者である被控訴人の責に帰すべき事由(過失)がないとはいえない。 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 5 控訴人の損害ア休業損害控訴人は,本件当時29歳の男性であり(甲1,弁論の全趣旨),無店舗型性風俗特殊営業(派遣型ファッションヘルス)を営む者である(甲2)ところ,上記のとおり食中毒症に罹患したことによって,D医院に2日間通院し(甲3の1,2,甲4,乙5,控訴人本人),その間,上記営業の休業を余儀なくされた(甲5,控訴人本人)。 そして,本件当時の控訴人の前記認定の業務からすると,相応の収入を得ていたと推認できるから,その年収額は,少なくとも415万0300円を下らないと認めるのが相当である(「賃金センサス」平成11年第1巻第1表,産業計・企業規模計・男子労働者学歴計の年齢別平均賃金)。そうすると,控訴人の1日当たりの休業損害は1万1370円であり(4,150,300÷365=11,370(1円未満切捨て)),2日間の休業損害は合計2万2740円と認めるのが相当である。 これに対し,控訴人は,休業損害が1日当たり10 0円であり(4,150,300÷365=11,370(1円未満切捨て)),2日間の休業損害は合計2万2740円と認めるのが相当である。 これに対し,控訴人は,休業損害が1日当たり10万円,合計20万円である旨主張するが,その金額はあまりにも高額である上,これを裏付ける証拠はなく,控訴人自身,当審における本人尋問において,上記主張の根拠について合理的な説明をすることができなかったから,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ治療費控訴人は,上記のとおりD医院に2日間通院し,治療費として,平成11年10月8日に2460円,翌9日に1390円をそれぞれ支払った(甲3の1,2)から,その合計額3850円をもって上記債務不履行と相当因果関係のある控訴人の損害と認めるのが相当である。 ウ通院交通費控訴人は,D医院に通院する際,須磨水族園からlm丁目まで市バスを利用し,同月8日及び同月9日に往復交通費としてそれぞれ400円ずつを支払った(甲4)から,その合計額800円をもって上記債務不履行と相当因果関係のある控訴人の損害と認めるのが相当である。 エ慰謝料控訴人は,上記のとおり食中毒症に罹患したため,D医院に2日間通院し,その間,上記営業の休業を余儀なくされたことによって,精神的苦痛を被ったものと認められる。その精神的苦痛を慰謝するために要する金額は,上記認定の控訴人の症状の程度,通院及び休業の期間その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,2万円と認めるのが相当である。 オ以上によれば,控訴人の損害額の合計は,4万7390円である。 6 結論したがって,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づき,上記5の損害金合計4万739 当である。 オ以上によれば,控訴人の損害額の合計は,4万7390円である。 6 結論したがって,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づき,上記5の損害金合計4万7390円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第2 結語よって,控訴人の本訴請求は,損害金合計4万7390円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年12月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり,これと異なり,原判決中損害金合計4万7390円及びその遅延損害金の請求を棄却した部分は不当であるから,原判決を本判決主文第1項掲記のとおり変更することとし,訴訟費用の負担について民訴法67条2項前段,61条,64条本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第六民事部裁判長裁判官松村雅司裁判官水野有子裁判官増田純平

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る