主文 1 本件抗告を棄却する。 2 抗告費用は抗告人の負担とする。 理由 第1 当事者の申立て 1 抗告の趣旨(1) 原決定を取り消す。 (2) 相手方が平成13年10月3日付けで抗告人に対してした収容令書に基づく執行は,本案事件(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第286号)の第1審判決言渡しまでこれを停止する。 (3) 申立費用は,原審・抗告審とも相手方の負担とする。 2 相手方の意見主文第1項と同旨第2 事案の概要 1 本件は,相手方が抗告人に対して平成13年10月3日付けでした収容令書(以下「本件収容令書」という。)の発付処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める訴えを本案として,本件収容令書の執行について,本案事件の第1審判決言渡しまでの停止を求めるものである(本件申立ての趣旨及び理由は原決定別紙1ないし7記載のとおりである。)。原決定は,本件申立ては,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条3項にいう「本案について理由がないとみえるとき」の要件に該当するから,その余の点について判断をするまでもなく理由がないとして,これを却下した。抗告人は原決定を不服として本件抗告を提起した。 2 前提となる事実本件記録によれば,抗告人が本邦に入国し本件処分がされるに至った経緯及びその後の経過については,以下のとおりであると一応認められる。 (1)抗告人は,昭和51年(1976年)7月9日にアフガニスタンで出生したハザラ人で,同国の国籍を有する者である。 (2) 抗告人は,平成13年6月ころ,アフガニスタンから出国し,ブローカーに80万ルピーの手数料を支払ってパキスタン・イスラム共和国に行き,同国においてブローカーに10万ルピー及び1万3000ドルの手数料を支払う約束でアメリカ合衆国へ入国できるように手配 し,ブローカーに80万ルピーの手数料を支払ってパキスタン・イスラム共和国に行き,同国においてブローカーに10万ルピー及び1万3000ドルの手数料を支払う約束でアメリカ合衆国へ入国できるように手配を依頼した。しかし,その後事情が変わってとりあえず日本に行くということになり,同年8月4日ころ,航空機で台湾を経由して本邦に到着し,偽造パスポートを使用して本邦に入国した。抗告人は,本邦に入国後,ブローカーから偽造パスポートを取り上げられた。 (3) 抗告人は,日本のモスクで知り合ったイラン人の埼玉県東松山市の居宅等で生活していたが,アフガニスタン人のAから紹介を受けて,平成13年10月2日ころ,千葉県四街道市内に所在の自動車解体場敷地内の建物に赴き,同所で稼働すべく仕事の説明を受けるなどして同月3日まで過ごしていた。 (4) 抗告人は,平成13年8月20日,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)において,法務大臣に対し,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)61条の2に基づき難民認定の申請をした。 (5) 東京入管入国警備官は,密航により本邦に不法入国したアフガニスタン人が多数いるとの通報を受けて内偵していたところ,その潜伏先数カ所が特定されたことから,平成13年10月3日,警察当局と合同で違反調査を実施し,千葉県四街道市内の上記場所にいた抗告人のほか,合計13人を摘発し,抗告人について法24条1号に該当すると疑うに足りる相当な理由があると認定し,相手方から本件収容令書(収容期間は同年10月3日から同年11月1日までと定められていた。)の発付を受け,同日,本件収容令書を執行して抗告人を東京入管収容場(以下「本件収容場」という。)に収容し,同月5日,抗告人を法24条1号該当者として東京入管入国審査官に引き渡した。 (6) 東京入管入 発付を受け,同日,本件収容令書を執行して抗告人を東京入管収容場(以下「本件収容場」という。)に収容し,同月5日,抗告人を法24条1号該当者として東京入管入国審査官に引き渡した。 (6) 東京入管入国審査官は,違反審査を行った結果,平成13年10月23日,抗告人が法24条1号に該当する旨認定し,同日,抗告人に対しその旨通知したところ,抗告人は,同日,東京入管特別審理官に対し口頭審理を請求した。なお,相手方は,同年10月30日,本件収容令書による収容期間を同年12月1日まで延長する措置をとった。 (7) 東京入管特別審理官は,抗告人について,平成13年11月6日,口頭審理を行った結果,上記入国審査官の認定に誤りがない旨判定し,同日,抗告人にこれを通知したところ,抗告人は,同日,法務大臣に対し異議の申出をした。 (8) 抗告人は,平成13年10月19日,本件処分が違法であるとして,その取消しを求める本案事件に係る訴えを東京地方裁判所に提起するとともに,本案事件の第1審判決の言渡しがあるまで本件収容令書に基づく執行の停止を求める申立てをした。 第3 当審における当事者の主張 1 本件抗告の理由は,別紙3(抗告理由)に記載のとおりである。 2 相手方の意見は,別紙4(意見書(4)写し)等に記載のとおりである。 第4 当裁判所の判断 1 処分の執行停止をすることができるのは,処分の執行により生ずる「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に限られるものである(行訴法25条2項)。 そこで,まず,本件について上記の「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件が存在するか否かについて検討する。 (1) 収容令書の執行による収容は,法24条各号に定める退去強制事由のいずれか一つに該当すると疑うに足りる相当の理由のある外国人について,その出 あるとき」の要件が存在するか否かについて検討する。 (1) 収容令書の執行による収容は,法24条各号に定める退去強制事由のいずれか一つに該当すると疑うに足りる相当の理由のある外国人について,その出頭を確保して当該容疑事実の有無の審査を円滑に行うとともに,審査の結果退去強制事由に該当すると認定された場合における退去強制令書の発付,その執行を支障なく行い,その者の送還を確実に実施できるようにするため必要な限度で,当該外国人の身体を拘束しておく手続であって,我が国の外国人に対する出入国管理行政の遂行上必要な手続として法が認めているものである。 したがって,法は,収容令書の執行により被収容者が収容に伴う自由の制限や精神的苦痛等の不利益を受けることを当然に予定しているものというべきところ,その不利益が収容による通常の程度のものにとどまる限りにおいては,これによる損害は事後的な金銭賠償によって回復が図られるべきであり,収容令書の執行の停止を求める申立てにおいて,行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するというためには,上記身体拘束による不利益のほか,被収容者の身体的状況,収容所等の環境その他諸般の事情から,収容の維持を不相当とするような特別の損害を被るおそれがあることを要するものと解するのが相当である。 この点に関し,抗告人は,収容が人身の自由を拘束する処分であることにかんがみると,収容すること自体が「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するというべきである旨,また,収容を継続しなければ退去強制手続の続行が不可能となるような特段の事情がない限り,収容令書の執行により被収容者に相当程度の損害が与えられるときは,「回復の困難な損害」があると認められるべきである旨主張するが,上記したとこ 強制手続の続行が不可能となるような特段の事情がない限り,収容令書の執行により被収容者に相当程度の損害が与えられるときは,「回復の困難な損害」があると認められるべきである旨主張するが,上記したところと異なる見解に立つものであって,採用することができない。 (2)アそこで本件についてこれをみるに,抗告人は,抗告人が収容されている本件収容場の環境は,犯罪防止及び犯罪人取扱いに関する第1回国際連合会議で採択された「被拘禁者取扱最低規則」や被収容者処遇規則(昭和56年法務省令第59号)の要請にほど遠い,極めて劣悪なものであり,このような環境の下で1ヶ月以上も収容され,肉体的・精神的に多大な苦痛を被っている旨主張する。 しかしながら,疎明資料(疎甲14の1ないし9,乙6の1,2,15)に当裁判所に顕著な事実を併せれば,①抗告人が収容されている本件収容場の収容室には空調装置が設置され,使用されていること,②トイレと洗面所が同じ室内にあるものの,腰の高さ程度の隠し板があり,大人が座っても外部からは頭が見える程度で,排泄時の状況を同室の被収容者から見られるという状況にはないこと,③被収容者はシャワーを週に2回おおむね10分程度浴びるごとができること,④被収容者1人につき,毛布(夏期は毛布3枚以上8枚以下,冬期は毛布5枚以上12枚以下)のほか,枕1個,シーツ,枕カバー,毛布カバー各1枚が貸与され,被収容者は同毛布を敷き布団や掛け布団代わりに使用することができること,⑤本件収容場の被収容者については,保安上の理由等もあって,戸外運動が実施されていないが,収容の長期化が見込まれる者については,通常,運動設備等が整備されている入国者収容所東日本入国管理センターに移収して対処するものとされていること,⑥本件収容場には,各種薬剤,心電計,全自動血圧計等を備え の長期化が見込まれる者については,通常,運動設備等が整備されている入国者収容所東日本入国管理センターに移収して対処するものとされていること,⑥本件収容場には,各種薬剤,心電計,全自動血圧計等を備えた診療所が設置されており,民間病院から週2日医師の派遣を,週5日看護婦の派遣を受け,週2回の定期診療日が設けられており,被収容者の申出等により適宜診療が実施されているほか,被収容者が定期診療日以外の日や夜間に医師の診療を要する急病に罹患した場合には,外部病院に連行し,又は救急車の出動要請を行う体制がとられていることが一応認められる。 上記認定によれば,本件収容場においては,戸外運動が実施されておらず,収容場の収容室はトイレと洗面所が一緒になっているなど,処遇及び施設に関して十分でないところがあるが,限られた予算,物的・人的な施設の範囲で上記処遇規則に沿うべくしかるべき処遇がなされているものと評価できるのであって,抗告人がこれまで収容されていた期間を考慮しても,本件収容場の環境が著しく過酷であって,人道上容認し難いという状況にあるとはいえず,他に本件収容場がそのような状況にあることを認めるに足りる疎明はない(なお,被拘禁者取扱最低規則は,国際連合により適切なものとして受諾された最低基準として,各国がその適用へ向けて不断の努力をするのに役立つようにするため定められたものであり,我が国おいて当然に法的拘束力を有するものではない。)。したがって,抗告人において,本件収容場への収容によって自由を奪われ,肉体的・精神的に苦痛を被っているとしても,それだけでは,未だ通常の程度を超える著しい不利益を受けていると直ちにいうことはできない。 イ抗告人は,収容後の健康状態について,食事を見ると気持ちが悪くなり,頭痛が継続している,ヘルニアに似た症状がある,腎 ,未だ通常の程度を超える著しい不利益を受けていると直ちにいうことはできない。 イ抗告人は,収容後の健康状態について,食事を見ると気持ちが悪くなり,頭痛が継続している,ヘルニアに似た症状がある,腎臓に痛みがあるが,本件収容場では治療が受けられない旨主張する。 しかしながら,疎明資料(疎甲65,疎乙16,26の1,2)によれば,①抗告人は,本件収容場の入所手続の際に頭痛,腹痛を訴えていたものの,入所後は,ペルシャ語を理解できる同室のモロッコ人及びイラン人と雑談等をし,同室者とトランプゲームをして過ごしており,その間に体調の不良を訴えたことはないこと,入浴も所内の運用に従い定期的に行い衛生的な生活を送っていること,②抗告人は,平成13年10月8日,頭痛,食欲不振及び不眠を理由に診療を申し出,直近の定期診療日である同月9日に初回の診療を受け,同月12日にも再診療を受け,鎮痛剤,抗不安剤を含む投薬を受けたこと,③抗告人は,同年10月9日に同室のバングラデシュ人に対し退去強制令書が発付されたことを不満としてか,翌10日以降他の4人の同室者とともに官給食を摂取しないという行為に出てこれを同月23日昼食まで継続したこと,④同月16日,抗告人が官給食を摂取していなかったことから,担当職員において健康診断のため診療を受けるように指示したが,抗告人は受診を拒否したこと,しかし,同月23日,担当職員が抗告人に対し健康診断のため診療を受けること再度指示したところ,抗告人は,他の官給食の未摂食者とともに受診し,医師からうつ状態であるものの,異常なしとの診断を受けていること,⑤抗告人は同月23日の夕食から官給食の摂取を再開したこと,官給食の未摂取後も抗告人の健康状態に変化はみられず,抗告人はテレビを見たり,他の同室者と雑談やトランプゲームをして過ごしていたこと こと,⑤抗告人は同月23日の夕食から官給食の摂取を再開したこと,官給食の未摂取後も抗告人の健康状態に変化はみられず,抗告人はテレビを見たり,他の同室者と雑談やトランプゲームをして過ごしていたこと,⑥抗告人は,原決定に対する抗議の趣旨もあってか,食欲がないと言い同年11月9日の朝食以降再び官給食の不摂取を始め,同室者との会話も少なくなり,ほとんど床に伏せっている状態になったこと,そこで,担当職員において,同月13日,通訳を付け診療を受けさせ,医師及び抗告人代理人に説得してもらったところ,抗告人は同日の夕食から粥食の摂取を始め,同月15日からは,通常どおり普通食の摂取をするようになり,その後は,同室者と歓談したりし,一事のふさぎ込む様子は見られなくなっていること,⑦抗告人は,同月2日,同月9日に診察を受け,抗不安剤,鎮痛剤等の投与を希望し,その処方を受けていること,上記の同月13日の診察において,抗告人は,医師から「若干の衰弱はあるものの脱水症状はみられず,現状では緊急的な診療は必要でないが,精神的に不安定な状態にあり,うつ状態が継続している。」との診断を受けたこと,同診断にいう「うつ状態」とは,いわゆる精神病としてのうつ病ではなく,身体の拘束による不安の感情が一般人より強く出ている状態があるとして付された病名であり,医師はこれに対し抗不安定剤を処方し,外部病院における診療を受けることの指示はしなかったこと,同月16日に診療を受けた際には,抗告人は医師から「今回の診察では,笑顔で会話に応じており,うつ状態はほとんど解消しているものと考えられる。」との診断を受けていること,⑧抗告人は同年10月3日に本件収容場に入所以来,担当職員等に足の痛み,腰痛,腎臓の痛み等を訴えたことはないことが一応認められる。なお,疎甲65において,抗告人は,精神 」との診断を受けていること,⑧抗告人は同年10月3日に本件収容場に入所以来,担当職員等に足の痛み,腰痛,腎臓の痛み等を訴えたことはないことが一応認められる。なお,疎甲65において,抗告人は,精神的ストレスがたまって摂食ができなくなったかのように述べているが,上記の経過に照らしてたやすく採用できない。 上記認定によれば,抗告人に収容の維持を不相当とするような健康状態の著しい障害があるということはできない。 抗告人は,難民認定申請者は,迫害のおそれがある状況にあり,緊急にそれを逃れた経験を有することにより,心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの外傷性精神障害を負っている可能性が高く,このような外傷性精神障害に罹患している者が避難先の本邦において収容された場合には,その病状がさらに悪化し,そのことがひいては適正な難民認定手続の遂行の妨げとなるおそれがあるといい,抗告人がそのような障害を負っているかのように主張するが,抗告人が心的外傷後ストレス障害などの外傷性精神障害を負っていることをうかがわせる疎明はない。 ウ抗告人は,難民認定申請手続及び退去強制手続において適切な主張・立証活動を行うため,訴訟代理人らと十分な打ち合わせを継続的に行う必要があるが,本件収容令書による収容がされると,上記の打ち合わせ等を行うことが困難になるとし,このことをもって本件収容令書に基づく執行の停止を求める必要がある旨主張する。 しかしながら,被収容者は,訴訟代理人である弁護士との面会(被収容者処遇規則33条1項2号)や収容所等の保安上支障があると認められない通信文の発受(同規則37条)等を認められており,抗告人がこれらの権利を行使し訴訟代理人である弁護士に面会するなどして,難民認定申請手続及び退去強制手続において必要な証拠資料の収集や弁護士との打ち合わせを行 受(同規則37条)等を認められており,抗告人がこれらの権利を行使し訴訟代理人である弁護士に面会するなどして,難民認定申請手続及び退去強制手続において必要な証拠資料の収集や弁護士との打ち合わせを行うことは十分可能と考えられる。 また,法によれば,法務大臣は,難民認定の申請人が提出した資料のみでは適正な難民認定ができないおそれがある場合その他難民の認定等に関する処分を行うため必要がある場合には,難民調査官に事実を調査をさせることができ(法61条の2の3第1項),難民調査官は,上記調査のため必要があるときは,申請人の供述のみならず,関係人に対し,出頭を求め,質問をし,又は文書の提示を求めたり(同条第2項),公務所等に照会して必要な事項の報告を求めることができる(同条第3項)ものとされているのであって,このことをも考慮すれば,本件において,抗告人が上記の権利の行使を妨げられており,上記各手続に関する準備・立証活動が通常の収容に伴う制約を超えて著しく妨げられているということはできない。 (3) 結局,アないしウ認定の事実を総合的に考慮しても,また,その他,本件の全疎明資料を検討しても,本件収容令書に基づく収容により,抗告人につき収容の維持を不相当とする特別の損害の発生を避けるための緊急の必要性を認めることはできない。 2 したがって,抗告人の本件申立ては,行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件に該当するとの点につき疎明がないから,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきである。 3 よって,本件申立てを却下した原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。 平成13年11月26日東京高等裁判所第3民事部裁判長裁判官北山元章裁判官青栁馨裁 立てを却下した原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。 平成13年11月26日東京高等裁判所第3民事部裁判長裁判官北山元章裁判官青栁馨裁判官竹内民生
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