平成23(わ)349 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成24年8月2日 神戸地方裁判所
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判決文本文4,546 文字)

平成24年8月2日宣告平成23年第349号 主文 被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中320日をその刑に算入する。 押収してあるパン切りナイフ1本(平成24年押第17号の1)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 平成元年頃から,幼なじみで2歳年下のA(以下「A」という。)と親しく付き合うようになったが,平成9年頃に不仲となって以後,平成14年頃までの間に,Aから,自宅の玄関ドアを蹴られインターホンを壊されたり,海水浴場で頭を殴られて頭部裂傷を負わされたり,仕事場の窓ガラスを割られたり,人を介して金を要求されたりするなどの,器物損壊や傷害等の被害を受け,転居を余儀なくされたりもした。 被告人は,平成14年頃以降は,Aからそれまでのような被害を受けることはなかったが,平成23年4月2日午前1時頃,神戸市a区b町c丁目のd住宅e号棟1階にある仕事場で寝ていたところ,同所と一体となった甥経営のキムチ販売店のシャッターに何かがぶつけられる物音がして目が覚め,店外に出てみると,表にコンクリートブロックの破片が散乱し,同店南側付近にA(当時51歳)とその友人がいるのを認めた。被告人は,これらの状況から,Aらがそのブロックを上記シャッターにぶつけたと考えてAらをとがめたが,これを否定するAと口論となった上,上記店舗南側の歩道上でAから顔を数回殴られたことなどから,これまでにAから受けてきた被害に対する恨みも相まって激高し,同日午前1時15分頃,上記歩道上で,殺意をもって,Aに対し,同店内から持ち出したパン切りナイフ(主文掲記のもの,刃体の長さ約19.5㎝)で,その左上腹部及び左眼窩下部を突き刺し,よって,Aに左前胸外側下部刺創及び左眼窩下部刺創等の傷害を負 って,Aに対し,同店内から持ち出したパン切りナイフ(主文掲記のもの,刃体の長さ約19.5㎝)で,その左上腹部及び左眼窩下部を突き刺し,よって,Aに左前胸外側下部刺創及び左眼窩下部刺創等の傷害を負わせ,同日午前1時20分頃,上記歩道上で,Aを上記傷害に基づく脳幹機能障害により死亡させて殺害した。 第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前1時15分頃,上記歩道上で,上記パン切りナイフ1本を携帯した。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断) 1 争点本件の主要な争点は,判示第1の殺人の事実についての,殺意の有無と正当防衛の成否の2点である。 2 殺意の有無本件ナイフは,全長約31.5㎝,刃体の長さ約19.5㎝の,細長く刃先が鋭く尖った殺傷能力の高いもので,被告人は,このナイフをロープを切断するために使用したことがあり,その性能を十分に知っていた。また,被告人は,被害者の胴体や顔面を,いずれもそれと分かって刺しており,特に顔面についてはあえてこれを狙って刺した。被害者の傷害は,左上腹部のものについては,左第8・第9肋骨を折損し,胃,膵臓及び左腎臓を貫通して腰椎に達して終わる,深さ約16.7㎝の傷であり,左眼窩下部のものについては,左眼窩を貫通して脳幹部分に入り,右小脳や右後頭葉を貫通して右後頭部の脳硬膜に達して終わる,深さ約18.2㎝の傷である。いずれについても,その部位が人の身体の重要部分である上,被告人が2回とも相当な力を入れて本件ナイフを突き刺したことは明白である。そして,被告人は,これらの行為後に,自らは被害者を救助しようとしていないばかりか,倒れて救護措置を受けている被害者の方に本件ナイフを持ったまま向かって行こうともしていた。以上によれば,上記の2回にわたる本件ナイフによる刺 らは被害者を救助しようとしていないばかりか,倒れて救護措置を受けている被害者の方に本件ナイフを持ったまま向かって行こうともしていた。以上によれば,上記の2回にわたる本件ナイフによる刺突行為が,人が死ぬ危険性のある行為であるとともに,被告人も,そのような行為であると分かってこれを行ったことは明らかであるから,被告人に被害者への殺意があったことは十分に認められる。 3 正当防衛の成否 本件の直前の状況から前記刺突行為に至る経緯は,次のとおりであったと認められる(以下の括弧内の各地点は,いずれも別紙図面上に表示のもの)。被告人は,被害者らが判示のキムチ販売店(以下「キムチ店」という。)のシャッターにコンクリートブロックをぶつけたと考え,同店南側車道上の東寄り(駐車車両の地点付近)に停められていた自動車を挟んで,車道側に立っている被害者らと口論となり,その後同店南側歩道上(《略》)まで移動した被害者と引続き口論の末,被害者から顔面を拳で数回殴られた。そして,被告人がキムチ店に戻り,本件ナイフを持って店外に出ると,被害者らは東方向に数m離れた場所(《略》)におり,被告人は,そのナイフを右手に隠し持って被害者らの方に向かって歩き出した。この様子を近くの横断歩道上(《略》)から目撃した通行人が,被告人に向かって「やめとけ,警察に連絡するぞ。」と言うと,被告人は,通行人の方を向いて「おう,せんかい。」とどなって答えた。被告人は,被害者に近付き,本件ナイフの刃先を被害者に向けた後,被害者は被告人に向かって2回前蹴りしたが,被告人には当たらなかった。その後,被告人は,自分から被害者に近付いて行き,被害者の左上腹部を右手に持った本件ナイフで突き刺した後,続けて,被害者の顔をめがけてそのナイフを突き出して,被害者の左眼窩下部を突 当たらなかった。その後,被告人は,自分から被害者に近付いて行き,被害者の左上腹部を右手に持った本件ナイフで突き刺した後,続けて,被害者の顔をめがけてそのナイフを突き出して,被害者の左眼窩下部を突き刺し,被害者は上記南側歩道上(《略》)に仰向けに倒れた。 上記の認定事実によれば,仮に,コンクリートブロックをキムチ店のシャッターにぶつけたのが被害者らであったとしても,そのような損壊行為は既に終わっていたといえる。また,被害者が被告人の顔面を数回殴ったことについても,その後被害者がキムチ店に戻った被告人を追いかけ更に危害を加えようとはしていなかったことは,遅くとも本件ナイフを持って同店を出る時点までには,被告人にも十分に分かっていたと考えられる。そうすると,被告人は,その時点で,キムチ店のシャッターを閉めたり,同店北側の出入口から逃れたりすれば,仮に被害者が再び危害を加えようとしてきてもこれを避けることができ,警察に通報することも可能であったにもかかわらず,反対に,本件ナイフを隠し持って自ら被害者に近付いて行き,危険を感じた通行人から警告もされたのにこれを全く意に介さなかった。そして,被告人は,本件ナイフを持って被害者のもとに戻れば,口論に止まらず再び暴力沙汰となることは十分に予想できたのに,結局,被害者に近付いてそのナイフの刃先を向けた後,前記刺突行為に及んだ。このような経緯に照らせば,被告人が本件ナイフを持ってキムチ店を出る時点までには,前記の被害者からの顔面殴打による攻撃は一旦終わっていたといえる。また,被告人が被害者に本件ナイフの刃先を向けた前後頃に,被害者が被告人に対し,前記の前蹴りのほか,何らかの素手による攻撃を加えてきた事実があったとしても,そのような攻撃は被告人も十分に予期していたと考えられるところ に本件ナイフの刃先を向けた前後頃に,被害者が被告人に対し,前記の前蹴りのほか,何らかの素手による攻撃を加えてきた事実があったとしても,そのような攻撃は被告人も十分に予期していたと考えられるところ,被告人はあえて被害者に近付いて行ったのであるから,この攻撃をもって差し迫ったものということはできない。 これに対し,被告人は,当時は被害者にナイフを示してその場から追い返すことしか考えていなかったなどと供述する。しかし,被害者の被告人に対するこれまでの加害行為の内容等を考えれば,ナイフを示したところで被害者が素直には立ち去らないか,立ち去ったとしても仕返し等に戻ってくる可能性が高いことは容易に想像できる上,そもそも被告人は,本件ナイフを持ち出した後,被害者を追い返すような言葉を発するなどしていないのであるから,被告人の上記供述を信用することはできない。 以上によれば,判示第1の殺人の事実について,前記刺突行為の時点では,被害者からの差し迫った不正な攻撃はなかったといえるから,正当防衛が成立しないのは明らかである。そうすると,判示第2の銃刀法違反の事実について,被告人に本件ナイフを携帯する正当な理由がなかったことも,同様に明らかである。(法令の適用)省略(量刑の理由)被告人は,被害者の左上腹部を本件ナイフでその刃先が腰椎に達するほど強く突き刺しただけでなく,続けて,被害者の顔面めがけてそのナイフを思い切り突き出し,その刃先は左眼窩から脳を貫通して右後頭部の頭蓋骨内側の硬膜にまで達しており,その結果,被害者は即死に近い状態で転倒してその場で死亡しているのであって,被告人の被害者に対する殺意は極めて強固で,本件殺人は,正に戦りつすべき残虐な犯行といえる。 本件の背景には,被害者の被告人に対する度を超えた執よ 近い状態で転倒してその場で死亡しているのであって,被告人の被害者に対する殺意は極めて強固で,本件殺人は,正に戦りつすべき残虐な犯行といえる。 本件の背景には,被害者の被告人に対する度を超えた執ような器物損壊や傷害等の加害行為があり,これにより被告人が被害者を怖れると同時に恨みを抱いていたことについては少なからず理解できる面はあるものの,警察に相談するなどのしかるべき方法をとらないまま,被害者が深夜酒に酔い被告人の仕事場付近まで押しかけて来て非常識な行動をとった疑いが強いとはいえ,その機会に被害者の生命まで奪うことは,法治国家において決して許される行為ではない。そして,本件から約1年4か月が経った現時点においても,あくまでも本件は自分に全く落ち度がない正当防衛行為であったと強弁し,被害者を刺し殺した経緯について不合理な供述を重ね,殺意を頑強に否定するその供述態度からは,人命を奪ったことに対する人間としての反省の気持ちは全く認められず,被害者の遺族らの処罰感情が厳しいのは当然といえる。以上によれば,被告人の刑事責任は重大というべきであり,被害者にも上記のような落ち度があること,被告人には妻や2人の未成年の子がいること,その妻が出廷し被告人のために証言していること等の,被告人について酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の本件犯行に対しては,主文のとおりの刑をもって臨むのが相当であると判断した。(求刑懲役13年,パン切りナイフの没収)平成24年8月2日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官細井正弘 裁判官西森英司 裁判官内藤智子 細井正弘 裁判官 西森英司 裁判官 内藤智子

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