平成29年11月21日判決言渡平成29年(行ウ)第126号勧告処分等差止請求事件 主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 公認会計士・監査審査会は,インターネット上に公開する自らのホームページ(URL:http://www.fsa.go.jp/cpaaob/)に別紙2記載の公表文を掲載してはならない。 2 公認会計士・監査審査会は,平成29年6月8日に金融庁長官に対して公認会計士法41条の2の規定に基づき原告に対して行政処分その他の措置を講ずるよう勧告した事実を公表してはならない。 第2 事案の概要公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)は,平成29年6月8日付けで監査法人である原告に対し,公認会計士法(以下「法」という。)41条の2に基づき,行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に勧告し(以下「本件勧告」という。),これを同日記者発表するとともに,審査会のホームページに別紙2記載の公表文を掲載し,本件勧告の公表を継続している(以下,上記掲載の方法による公表とその他の方法による公表を区別せずに「公表」ということがある。)ところ,本件は,原告が,被告を相手方として,本件勧告の公表は違法な行政処分に当たり,本件勧告が今後も公表されることによって原告において事業経営上の回復することのできない損害を被るなどと主張して,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条7項所定の差止めの訴えとして,本件勧告の公表(上記掲載の方 法によるものと,その他の方法によるもの)の差止めを求める事案である。 なお,原告は,本件訴えにおいて,当初は審査会による法41条の2に基づく勧告及びその公表の差止めを求める訴えを提起したが,その 法によるものと,その他の方法によるもの)の差止めを求める事案である。 なお,原告は,本件訴えにおいて,当初は審査会による法41条の2に基づく勧告及びその公表の差止めを求める訴えを提起したが,その後,本件勧告がされたため,勧告の差止めを求める訴えを取り下げる(平成29年7月3日付け取下書)とともに,民事訴訟法143条に基づき,勧告の公表の差止めの訴えに係る請求を,前記第1記載のとおり変更した(同日付け訴えの変更申立書。公表の対象を本件勧告に改めるとともに,既に行われているホームページへの公表文の掲載につき別項としたもの)。 そのほか,原告は,本件勧告の公表の差止めを求める民事上の請求,国家賠償請求及び謝罪請求に係る訴えについても,追加的併合(行訴法38条1項,19条1項)を申し立てたが,これらの請求は本件訴えに係る請求との関係で関連請求(行訴法38条1項,13条)に該当するものとはいえないことから,本件訴えとは別個の事件として新たに立件された(なお,本件第2回口頭弁論における訴えの変更を許さない旨の決定は,上記各訴えにつき予備的にされた民事訴訟法143条に基づく訴えの追加的変更の申立てにつき,本件訴えとは同種の訴訟手続によるものではないとして追加的変更を許さないとされたものである。)。 1 関係法令等の定め(1) 法の定めア監査法人監査法人とは,2条1項の業務(他人の求めに応じ報酬を得て,財務書類の監査又は証明をすることをいう。以下同じ。)を組織的に行うことを目的として,法に基づき設立された法人をいう(1条の3第3項)。 イ立入検査内閣総理大臣は,公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは,2条1項の業務に関し,当該職員に公認会計士,外国公認会 計士又は監査法人の事務所その イ立入検査内閣総理大臣は,公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは,2条1項の業務に関し,当該職員に公認会計士,外国公認会 計士又は監査法人の事務所その他その業務に関係のある場所に立ち入り,その業務に関係のある帳簿書類その他の物件を検査させることができる(49条の3第2項)。 ウ監督措置等(ア) 内閣総理大臣は,監査法人が法若しくは法に基づく命令に違反したとき,又は監査法人の行う2条1項の業務の運営が著しく不当と認められる場合において,同項の業務の適正な運営を確保するために必要であると認めるときは,当該監査法人に対し,必要な指示をすることができる(34条の21第1項)。 (イ) 内閣総理大臣は,監査法人が次の各号のいずれかに該当するときは,その監査法人に対し,戒告し,34条の13第1項に規定する業務管理体制の改善を命じ,2年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ,又は解散を命ずることができる(34条の21第2項)。 ① 社員の故意により,虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。 ② 社員が相当の注意を怠ったことにより,重大な虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明したとき。 ③ 法若しくは法に基づく命令に違反し,又は運営が著しく不当と認められるとき。 ④ 前項(上記(ア))の規定による指示に従わないとき。 (ウ) 内閣総理大臣は,監査法人が前項(上記(イ))各号のいずれかに該当するときは,その監査法人に対し,2年以内の期間を定めて,当該各号に該当することとなったことに重大な責任を有すると認められる社員が当該監査法人の業務又は意思決定の全部又は一部に関与することを禁止す するときは,その監査法人に対し,2年以内の期間を定めて,当該各号に該当することとなったことに重大な責任を有すると認められる社員が当該監査法人の業務又は意思決定の全部又は一部に関与することを禁止することができる(34条の21第3項)。 (エ) 上記(イ)又は(ウ)の処分は,聴聞を行った後,相当な証拠により34条の21第2項又は第3項(上記(イ)又は(ウ))に規定する場合に該当する事実があると認めたときにおいて,審査会の意見を聴いて行う。 ただし,上記(イ)又は(ウ)の処分が41条の2(後記エ(イ))の規定による勧告に基づくものである場合は,審査会の意見を聴くことを要しないものとする。(34条の21第4項,32条5項)エ審査会(ア) 審査会は,金融庁に設置された合議制の行政機関である(35条1項,金融庁設置法6条2項)。審査会は,公認会計士に関する事項について理解と識見とを有する者のうちから,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する会長及び委員9人以内をもって組織され(36条1項,37条の2第1項),会長及び委員は独立してその職権を行う(35条の2)。 (イ) 審査会は,49条の4第2項又は第3項の規定に基づき46条の12第1項,49条の3第1項若しくは第2項(前記イ)又は49条の3の2第1項若しくは第2項の規定による権限を行使した場合において,必要があると認めるときは,その結果に基づき,公認会計士,外国公認会計士若しくは監査法人の2条1項の業務,外国監査法人等の同項の業務に相当すると認められる業務又は日本公認会計士協会の事務の適正な運営を確保するため行うべき行政処分その他の措置について内閣総理大臣に勧告することができる(41条の2)。 オ権限の委任(ア) 内閣総理大臣 又は日本公認会計士協会の事務の適正な運営を確保するため行うべき行政処分その他の措置について内閣総理大臣に勧告することができる(41条の2)。 オ権限の委任(ア) 内閣総理大臣は,法による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任する(49条の4第1項)。 (イ) 金融庁長官は,前項(上記(ア))の規定により委任された権限のうち,49条の3第2項の規定による立入検査に係る権限を審査会に委任 する(49条の4第2項)。 (2) 審査会の運用指針の定め審査会は,「公認会計士・監査審査会の実施する検査に関する基本指針」(平成27年4月に改訂された後のもの。以下「検査基本指針」という。)及び「審査及び検査の基本方針」(策定日である平成25年4月26日から平成28年3月までのもの。以下「審査・検査基本方針」という。)において,法41条の2に基づく勧告及びその公表等について,以下のとおり定めている(甲3,乙2)。 ア勧告等(審査・検査基本方針2(1)⑤)監査事務所に対する検査の結果,審査会は,監査事務所に対してその内容を通知するとともに,必要があると認めるときは金融庁長官に対し行政処分その他の措置について勧告を行うなど適切に対応することとする。 イ勧告事案等の公表(検査基本指針Ⅲ2(1)本文)審査会は,公益又は投資者保護に資するため,法41条の2の規定に基づき,監査事務所の法2条1項の業務等の適正な運営を確保するため行うべき行政処分その他の措置について金融庁長官に勧告した事案について,勧告後,原則として,公表するものとする。 なお,公益又は投資者等への影響等から,審査会が公表することを不適当と判断した事案については,公表を控える等の措置を講 官に勧告した事案について,勧告後,原則として,公表するものとする。 なお,公益又は投資者等への影響等から,審査会が公表することを不適当と判断した事案については,公表を控える等の措置を講じるものとする。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は,法に基づいて設立された監査法人である。 (2) 審査会は,平成29年6月8日付けで,原告の運営が著しく不当なものと認められるとして,法41条の2に基づき,原告に対して行政処分その他の措置を講ずるよう,金融庁長官に対する勧告(本件勧告)をし,同日,本 件勧告をした事実につき,記者発表を行うとともに,別紙2記載の公表文を審査会のホームページ上に掲載することによって,本件勧告を公表した(乙8の1及び2,弁論の全趣旨)。 (3) 別紙2の公表文の記載の概要は,要旨次のとおりである。 検査の結果,原告は,監査リスクの高い複数の上場会社の監査業務を新規に受嘱しているところ,①監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められ,その業務の実施について残高確認により入手した回答を検討しないなど,監査の基本的な手続における不備が認められること,②審査において,大会社等の監査経験のない者を専任の審査担当者として選任し,また,定期的な検証においても,経験のある検証責任者が十分に関与していないなど,品質管理の実施体勢が適切に整備されていないこと,③今回の検査においても,前回の検査におけるのと同様の不備が複数認められ,前回の検査以降の改善に向けた取組は実効性があるものとは認められないことなどから,その品質管理体勢は著しく不十分なものであり,原告の運営は著しく不当なものと認められた。そこで,審 備が複数認められ,前回の検査以降の改善に向けた取組は実効性があるものとは認められないことなどから,その品質管理体勢は著しく不十分なものであり,原告の運営は著しく不当なものと認められた。そこで,審査会は,金融庁長官に対して,法41条の2に基づき,原告に対し行政処分その他の措置を講ずるよう勧告した。 3 本案前の争点(1) 本件勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となるか(2) 重大な損害を生ずるおそれの有無(3) 訴えの利益の有無 4 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となるか)について(被告の主張の要旨)ア審査会による法41条の2に基づく勧告(以下単に「勧告」ということがある。)を公表する行為は,審査会が策定した検査基本指針に基づく事 実上の行為であり,法令の規定に基づくものではない。また,審査会の行う勧告の名宛人は金融庁長官であり,勧告はそれ自体によって,勧告の対象とされた監査法人(以下「対象監査法人」という。)に対し,何らかの作為又は不作為を要請するものではない上,対象監査法人に対する行政処分等を行うかどうか,また,行政処分を行う場合の量定を判断するのは,飽くまで金融庁であって,その判断が勧告によって制約を受けるものでもないから,審査会の勧告は,それ自体によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではなく,処分性が認められないことは明らかであるところ,勧告を公表する行為も,当然ながら,それによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではない。 イこの点につき,原告は,勧告の公表によって対象監査法人に経済的損失が生ずる等の影響があると主張するが,仮に原告の主張するような影響が 国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではない。 イこの点につき,原告は,勧告の公表によって対象監査法人に経済的損失が生ずる等の影響があると主張するが,仮に原告の主張するような影響が生ずるとしても,それは飽くまで公表内容が勧告の対象監査法人の顧客層に評価された上での反射的・間接的なものであり,勧告を公表する行為自体が直接的に対象監査法人に何らかの制限を課すものでないことに変わりはない。 なお,近時の裁判例においても,処分その他公権力の行使に当たる行為とは,公権力の主体たる国又は公共団体が公権力として行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されている上,行訴法の法文上,取消訴訟と差止訴訟とでその対象となる「処分」の範囲に何ら差異は設けられていない。また,原告が主張する「権力的事実行為」なるものがいかなる行為を指すのか明確ではないものの,公表行為自体は,原告に対して直接的な法的効果を生じさせるものではなく,原告の業務等に制限を加えるものでもないのであって,このような行為を権力的であるとする原告の主張は失当である。 ウしたがって,本件勧告を公表する行為は処分性を有しないから,差止めの訴えの対象とすることができない。 (原告の主張の要旨)ア法41条の2に基づく勧告の公表は,同条に基づき金融庁長官に対して勧告した旨の抽象的事実の公表にとどまるものではなく,対象監査法人を名指しして,その監査業務について法34条の21第2項各号所定の処分事由に該当するとする具体的な理由となる事実を摘示し,処分をすべきことを処分権者である金融庁長官に求める意思表示をしたことを公表するものであって,実質的には,対象監査法人の監査業務について懲戒処 分事由に該当するとする具体的な理由となる事実を摘示し,処分をすべきことを処分権者である金融庁長官に求める意思表示をしたことを公表するものであって,実質的には,対象監査法人の監査業務について懲戒処分相当の非行があるとして,具体的事実を摘示して,積極的に世間に広く触れ回る行為である。 また,これまでに金融庁長官が審査会の勧告に従わなかった例はなく,金融庁長官による処分の理由は,審査会の勧告における事実摘示をそのまま引き写したに等しいのが運用の実情である。審査会の勧告における事実摘示が,法34条の21第2項各号所定の処分事由のいずれに該当し,また,行政処分の量定等に係る処分基準における適用区分のいずれに該当するかが分かるように勧告されていることに照らしても,実質的には審査会の勧告が金融庁長官による行政処分の可否,種類及び量定を決しているのであり,勧告に従った内容の金融庁長官による行政処分がされることが予定されているということができる。そうすると,勧告後の行政処分は後処理ないし再確認に等しく,対象監査法人の顧客層にとっては,審査会による勧告を受けたか否かが監査業務を委嘱するかどうかの判断において決定的に重要であり,これまでの実例を見ても,特に中小規模の監査法人は勧告の公表によって致命的な打撃を受けている。 そして,勧告を公表する行為は,国家行政組織法8条に基づき設置され ている審査会による公権力の行使として行われる行為であって,公表の権限を定める直接の規定がなかったとしても,このことが否定されるものではない。 したがって,対象監査法人について,具体的な事実を摘示して,当該監査法人の同意もなく一方的に勧告の公表をする行為は,公権力の行使としてされる国民の権利利益に対する重大な侵害行為である。法律の構造のみならず運用の実態に 法人について,具体的な事実を摘示して,当該監査法人の同意もなく一方的に勧告の公表をする行為は,公権力の行使としてされる国民の権利利益に対する重大な侵害行為である。法律の構造のみならず運用の実態にも着目して,病院開設中止の勧告に処分性を認めた最高裁平成14年(行ヒ)第207号同17年7月15日第二小法廷判決・民集59巻6号1661頁(以下「平成17年最高裁判決」という。)に照らしても,勧告を公表する行為は,勧告及びこれにより実質的に決せられることとなる金融庁長官による行政処分と一体のものとして,処分性が認められるというべきである。 イこれに対し,被告による処分性の解釈は,行政事件訴訟特例法廃止後の立法と判例の発展の経過に沿わない不正確な内容である。 すなわち,行訴法は,取消訴訟の対象を,行政事件訴訟特例法下における「処分」から「処分その他の公権力の行使に当たる行為」に拡張し,さらに,平成16年法律第84号による行訴法の改正によって,公定力を排除するための取消訴訟とは別に差止訴訟を法定したのであるから,仮に勧告を公表する行為が伝統的,古典的な意味での「処分」概念に当てはまらず,取消訴訟の対象とならないとしても,公権力の行使により一方的に原告の権利利益を重大に侵害する事実行為,すなわち権力的事実行為として,行訴法3条2項所定の「その他公権力の行使」に該当し,差止訴訟の対象となるというべきである。この点について,自衛隊機の運航に係る差止めの訴えの適法性を肯定した東京高等裁判所平成26年(行コ)第284号同27年7月30日判決・民集70巻8号2037頁及びその上告審判決である最高裁平成27年(行ヒ)第512 号,同第513号同28年12月8日第一小法廷判決・民集70巻8号1833頁(以下「平成28年最高裁判決」という。)も, 37頁及びその上告審判決である最高裁平成27年(行ヒ)第512 号,同第513号同28年12月8日第一小法廷判決・民集70巻8号1833頁(以下「平成28年最高裁判決」という。)も,伝統的,古典的な意味での「処分」の範疇に属さない権力的事実行為について,差止訴訟を適法に提起し得るとの理解を明らかにしているものと解される。 ウしたがって,本件勧告を公表する行為は,差止めの訴えの対象とすることができるというべきである。 (2) 争点(2)(重大な損害を生ずるおそれの有無)について(被告の主張の要旨)本件勧告の公表は,原告に対し何ら直接的な法的効果を生じさせるものではない。原告は,勧告の公表によって対象監査法人に経済的損失が生ずると主張するが,審査会の勧告が公表されても,対象監査法人の業務は何ら制限を受けないことからすれば,そもそも原告の主張するような影響が具体的にどの程度生ずるかは不確定であり,損害の発生の有無自体不明であるといわざるを得ない。また,原告の主張する経済的損失は,社会通念上,回復不可能である性質の損害とはいえず,重大ともいえないものである。 したがって,本件勧告の公表によって,原告に重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。 (原告の主張の要旨)本件勧告の公表は,金融庁に設置された審査会が,その名と権威の下に,原告に法34条の21第2項各号所定の処分事由があることを断ずるものであって,原告に処分事由があることを積極的に触れ回っているのと同然である。 原告は,本件勧告の公表によって,上記処分事由に該当する「運営が著しく不当」な監査法人であるというレッテルを広く世間一般に半永久的に貼られることになるから,原告の信用や監査法人としてのイメージが 原告は,本件勧告の公表によって,上記処分事由に該当する「運営が著しく不当」な監査法人であるというレッテルを広く世間一般に半永久的に貼られることになるから,原告の信用や監査法人としてのイメージが著しく毀損 され,後に行われる処分手続やその争訟手続において処分の効力を争っても,回復することのできない損害を被ることは明らかである。 したがって,本件勧告の公表によって,原告に重大な損害を生ずるおそれがあることは明らかである。 (3) 争点(3)(訴えの利益の有無)について(被告の主張の要旨)本件勧告は既に公表されているから,その差止めを求める本件訴えは,訴えの利益を欠く。 (原告の主張の要旨)審査会は,本件勧告の内容を自らのホームページに掲載して,日々継続的に,世界中のどこからも,また,誰からも,アクセスを可能にする状態で,一般に情報提供し続けており,これによる原告の損害は日々発生している。 その掲載は,審査会にその意思さえあれば,いつでも取りやめて,以後将来に向けてその情報提供の継続を打ち切ることができるもので,そのことにより原告の新たな損害の発生を防止することができる性質のものである。 本件勧告の公表に対する差止請求は,継続的にされている権利侵害行為の将来に向けた差止めを求めるものであるから,訴えの利益が失われていないことは明らかである。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件勧告を公表する行為は行訴法3条7項に定める「処分」に当たらないから差止めの訴えの対象となるものではなく,本件訴えはいずれも不適法として却下すべきものと判断する。その理由の詳細は,争点(1)(本件勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となるか)について以下に述べるとおりである。 ものではなく,本件訴えはいずれも不適法として却下すべきものと判断する。その理由の詳細は,争点(1)(本件勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となるか)について以下に述べるとおりである。 1 行訴法における差止めの訴えは,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟(抗告訴訟)として,同法第2章(抗告訴訟)の第2節(その他の抗告訴訟) にその要件が規定されており(37条の4),定義規定である3条7項の文言上も,行政庁が「一定の処分」をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいうものとされている。そして,「処分」の定義については,処分の取消しの訴えにつき定める同条2項において,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決,決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)」と定められているところ,差止めの訴えにつき定める同条7項においては,同項の「処分」についてこれと別の定義を定めておらず,他にそのような定めも見当たらないから,同条7項の「処分」を同条2項の「処分」と別異に解する理由はない。 したがって,行訴法3条7項の「処分」については,同条2項の「処分」について解されているところと同様に,公権力の主体たる国又は公共団体(法令に基づきその権限の委託を受けた機関を含む。)が公権力の行使として行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものであることを要すると解される(最高裁昭和28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。 昭和28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。 これに対し,原告は,処分の取消しの訴えの対象となるものとして伝統的に解されてきた「処分」に該当しない場合でも,差止めの訴えの対象となる「処分」には当たり得ると解する余地がある旨主張するが,以上に説示したとおり,処分の取消しの訴えの対象となる「処分」と差止めの訴えの対象となる「処分」は同義と解すべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 2 以上の観点から,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為について,その処分性の有無を検討する。 一般に,行政庁のした処分等について,その処分等がされた事実を公表するか否か,また,公表するとしてどのような方法によるかは,法令に別段の定めのない限り,行政庁の保有する情報の管理として当該行政庁の裁量に委ねられていると解されるところ,審査会においては,法41条の2に基づく勧告に関する事実の公表についてその裁量権を適正に行使するため,検査基本指針(前記関係法令等の定め(2)イ)を定めている。これによれば,審査会は,法41条の2に基づく勧告がされた事実については公益又は投資者の保護に資する目的から審査会の保有する情報を公開すべきであるという考えの下,上記の事実につき原則的に公表する扱いとする旨の基本的な運用方針を定めているものと解され,審査会のホームページにおける公表文の掲載も,このような検査基本指針に定める運用方針に沿うものであると認められる(甲10の1及び3,同26,乙5,6,8の1及び2)。このように,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は ,このような検査基本指針に定める運用方針に沿うものであると認められる(甲10の1及び3,同26,乙5,6,8の1及び2)。このように,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は,審査会の保有する情報を投資者の保護等の目的から公開するという事実上の行為であって,これを行うことについて法令上の制約が設けられているものではない。 また,その効果についてみても,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表することにより,対象監査法人につき権利がはく奪され又は義務が課せられるものではなく,公表により対象監査法人につき信用の低下等が生ずることがあるとしても,それは事実上の不利益にとどまるものというほかない(なお,このことは,公表の方法が審査会のホームページへの公表文の掲載による場合でも,異なるものではない。)。 以上によれば,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は,公権力の行使として行うその行為によって直接対象監査法人の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに当たるとはいえず,行訴法3条7項に定める「処分」に当たらないものというべきである。 よって,本件勧告を公表する行為は,差止めの訴えの対象となるものではない。 3 原告の主張について(1) 以上に対し,原告は,法41条の2に基づく審査会の勧告が金融庁長官による行政処分の可否,種類及び量定を決しているのが運用の実情であり,審査会の勧告及びこれにより実質的に決せられることとなる金融庁長官の行政処分と一体のものとして,勧告を公表する行為についてもその処分性が認められるべきである旨主張する。 しかしながら,そもそも,公表の対象となる審査会の勧告は,審査会から金融庁長官に対してされる行政機関相互間の ものとして,勧告を公表する行為についてもその処分性が認められるべきである旨主張する。 しかしながら,そもそも,公表の対象となる審査会の勧告は,審査会から金融庁長官に対してされる行政機関相互間の行為であって(法41条の2,49条の4第1項),その名宛人でない対象監査法人に何らかの法的義務を課すものではないことに加え,金融庁長官が対象監査法人に対して行う戒告等の行政処分(法34条の21第1~3項,49条の4第1項)は,審査会の勧告をその要件としていないこと,審査会の勧告がされた場合に金融庁長官がその勧告内容に沿った権限行使を義務付けられるものでもないことに照らせば,審査会の勧告と金融庁長官の行政処分とを一体のものとして捉えることができるものではなく,まして,勧告を公表する行為をこれらと一体のものとしてその処分性を肯定し得ることとなるものではない。 なお,原告が引用する平成17年最高裁判決は,医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7に基づき,都道府県知事が病院開設申請者に対し行政指導としてした病院開設中止の勧告について,当該勧告を受けた者がこれに従わない場合には保険医療制度の下で病院経営に不可欠な当該知事による保険医療機関の指定を受けることができないため,病院の開設を断念せざるを得なくなること等に鑑み,その処分性を肯定したものと解され,本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。 (2) また,原告は,平成28年最高裁判決を引用して,事実行為であっても 差止めの訴えの対象とすることが認められているものであるから,本件勧告を公表する行為についても差止めの訴えの対象とすることができる旨主張する。 しかしながら,平成28年最高裁判決は,自衛隊機の運行に係る防衛大臣の権限行使が,自衛隊機の運行に必然 ,本件勧告を公表する行為についても差止めの訴えの対象とすることができる旨主張する。 しかしながら,平成28年最高裁判決は,自衛隊機の運行に係る防衛大臣の権限行使が,自衛隊機の運行に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務付けるものであることから,公権力の行使に当たり,それによって個々の国民の法的地位に直接の法的効果が生ずるものであることを前提として,自衛隊機の運行の差止めを求める訴えの適法性を肯定したものと解され(最高裁昭和62年(オ)第58号平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁参照),本件とは事案を異にするものである。 (3) したがって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 第4 結論以上によれば,争点(2)及び(3)について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官清水知恵子 裁判官村松悠史 裁判官和田山弘剛 (別紙1及び2につき,省略)
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