判決平成14年10月11日神戸地方裁判所平成9年(ワ)第1998号損害賠償請求事件 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 原告らの請求 1 被告は,原告Aに対し,金3517万3687円及び内金3217万3687円に対する平成8年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B,同C及び同Dそれぞれに対し,各金1132万4562円及び内金1032万4562円に対する平成8年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,訴外亡Eの相続人である原告らが,被告に対し,Eが被告の開設・経営する兵庫県立F病院(以下「被告病院」という。)において平成8年1月6日に死亡したのは被告病院の診療上の過誤によるものであると主張して,診療契約上の債務不履行ないし不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を求めた事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲げる事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア被告は,兵庫県氷上郡a町bc番地のdにおいて,被告病院を開設し,経営している。 イ Eは,後記のとおり被告病院において治療を受けていたが,平成8年1月6日,同病院において死亡した。 ウ原告らは,Eの法定相続人であり,原告AはEの妻,原告BはEの長女,原告CはEの長男,原告DはEの2女である。 (2) 事実経過ア平成7年3月27日以前Eは,昭和53年11月13日から同年12月31日まで,被告病院において,心筋梗塞,心不全,肺感染症及び敗血症の疑 (2) 事実経過ア平成7年3月27日以前Eは,昭和53年11月13日から同年12月31日まで,被告病院において,心筋梗塞,心不全,肺感染症及び敗血症の疑いにより入院治療を受けた。Eは,同退院後,平成4年6月12日まで,被告病院に通院し,治療を受けたが,そのころ,自宅近くの病院に転医し,以降平成7年3月27日までの間,被告病院を受診することはなかった。 イ平成7年3月27日以降(ア) Eは,平成7年3月27日,前日から蕁麻疹の症状に悩まされていたため,自宅近くのG病院を受診し,同病院において治療を受けた。 その際,Eは,同病院医師に対し,心筋梗塞の病歴がある旨を説明し,心電図検査を受けたところ,不整脈が出ていたため,同病院医師から,直ちに被告病院を受診するよう指示を受け,そのまま救急車で被告病院に搬送された。 (イ) Eは,同日午後7時48分ころ,被告病院に到着して診察を受け,被告との間で診療契約(以下「本件診療契約」という。)を締結した。 その際,Eを診察した被告病院医師は,Eの家族に対し,Eは心筋梗塞である旨及び腎機能が弱まっているので血管造影の検査ができない旨を告げた。 また,Eは,同日から被告病院に入院して治療を受けることとなった。なお,蕁麻疹については,入院翌日の平成7年3月28日には症状が軽減し,改善された。 (ウ) Eは,被告病院入院当日の平成7年3月27日午後8時ころから,被告病院医師の指示に基づき,シリンジポンプを使用した点滴によりミリスロールの継続投与を受けた(乙1の3)。 ミリスロールとは,ニトログリセリン注射液の一種で,冠動・静 から,被告病院医師の指示に基づき,シリンジポンプを使用した点滴によりミリスロールの継続投与を受けた(乙1の3)。 ミリスロールとは,ニトログリセリン注射液の一種で,冠動・静脈の血管拡張剤であり,手術時の低血圧維持や,急性心不全,不安定狭心症などに適応するものである。急激に冠血管を拡張し,血圧を降下させる作用があるので,手術時の低血圧維持等の目的のためには,かなり多量に投与されることもあるが,心不全や狭心症の治療に用いる時には,量を過ぎることは極めて危険で,患者の症状に応じ,投与量を十分にコントロールしなければならない。また,段階的に投与量を増量する場合は,患者の血圧,左心室充満圧などの循環動態を,必ずモニターして行わなければならないとされている。 被告病院医師のEに対するミリスロールの投与量についての看護婦への指示は,投与開始時の平成7年3月27日午後8時の時点では,ミリスロール3A50ml(ミリスロールの10mlアンプル3本を,20mlの生理食塩水で希釈し,50mlにしたもの。ミリスロール10mlの1アンプルに含まれるミリスロールは5mgであるので,ミリスロール3A50mlに含まれるミリスロールは15mg)を毎時5.0mlの割合で投与するというものであったが,被告病院医師は,1時間後の同日午後9時ころ,その投与量の指示を毎時3.0mlに変更した(乙1の3)。 (エ) 被告病院看護婦Hは,翌28日(その時刻に関しては,被告は午後0時ころと主張するのに対し,原告らはそれより以前であったと主張し,争いがある。),Eの病室を訪れ,Eに点滴中のミリスロールの薬液が入った容器を,同薬液(ミリスロール3A50ml)の入った新しい容器と交換した。ところが,その約30分後に,薬液の残量が少なくな 張し,争いがある。),Eの病室を訪れ,Eに点滴中のミリスロールの薬液が入った容器を,同薬液(ミリスロール3A50ml)の入った新しい容器と交換した。ところが,その約30分後に,薬液の残量が少なくなっていることを示すシリンジポンプの警報ブザーが鳴り,その結果,H看護婦が薬液を交換した直後ころから,毎時3.0mlの指示量の約34倍もの毎時103.0mlの割合で薬液の注入がなされ,本来,約17時間をかけて投与されるべきミリスロール3A50mlが,約30分間で投与(ミリスロール3A50mlに含まれるミリスロールは15mgなので,毎時103.0mlで注入された場合のミリスロールの投与量は515μg/分となる。)されてしまったこと(以下「本件過剰投与」という。)が判明した。 (オ) 本件過剰投与が判明した後の同日午後3時すぎころ,Eの心臓が停止した。かけつけた被告病院医師らが,Eに対し,心臓マッサージや電気ショック等の蘇生術を施した結果,心停止から40分以上経過したころ,心臓が自力で動きを開始し,Eは蘇生したが,上記長時間の心臓停止によって,Eの心臓及び脳は回復不能の損傷を受けた。 そのため,Eは,その後も死亡に至るまで約20回の心停止発作を繰り返した後,平成8年1月6日,再び心停止を起こし,同日午後10時8分,心室性頻拍による心不全により死亡した。 2 原告らの主張(1) 事実経過ア平成7年3月27日以前Eは,前記争いのない事実等に記載のとおり,平成7年3月27日以前にも心筋梗塞で被告病院で入通院治療を受けたことがあったが,平成4年6月12日時点では,投薬の必要がないと言われるまでに回復していた。その後,Eは,自宅近くの病院に転医して投薬を受けてはいたものの,工 心筋梗塞で被告病院で入通院治療を受けたことがあったが,平成4年6月12日時点では,投薬の必要がないと言われるまでに回復していた。その後,Eは,自宅近くの病院に転医して投薬を受けてはいたものの,工務店に大工として勤務し,農作業にも従事しており,Eの健康状態に不安はなかった。 イ平成7年3月27日以降(ア) Eは,平成7年3月27日午後7時48分ころ,救急車で被告病院に到着後,被告病院医師の診察と諸検査を受けた。その際,Eは,被告病院医師から,心筋梗塞の疑いがあるが,腎機能が弱まっているため,血管造影による検査ができないこと,そのため,約2週間安静状態を保ち,その後に動作時と安静時の検査を行い,診断を確定していくので,約1か月間入院することになる旨の説明を受けて,そのまま被告病院に入院した。 なお,被告病院は,本来,完全看護の医療機関であるはずだが,原告らは,人手が不足しているので家族の人が付き添って欲しいとの指示を被告病院から受けたため,同日夜は原告Aが,同月28日午前6時ころからは原告Bが,それぞれEに付き添った。 (イ) Eは,翌28日朝には,蕁麻疹も軽快してかなり元気を回復し,同日午前7時ころに出された食パン,牛乳,いちごジャム,りんごなどの朝食も全部食べ,その後も看護婦に冗談を言って笑ったりするほど元気になった。 (ウ) 被告病院医師は,同日午前9時前に一度Eの病室を訪れ,また,同日午前9時ころには,被告病院の深夜勤と日勤の看護婦が交替した。 前記看護婦の交代後しばらくしたころから昼食配膳前までの間に,被告病院のH看護婦がEの病室を訪れ,Eに投与していたミリスロールの容器を新しい同薬液(ミリスロール3A50ml)入りの容器と交換 前記看護婦の交代後しばらくしたころから昼食配膳前までの間に,被告病院のH看護婦がEの病室を訪れ,Eに投与していたミリスロールの容器を新しい同薬液(ミリスロール3A50ml)入りの容器と交換する作業をした。 (エ) H看護婦がEの病室から出て数分後,Eが「何か胸に詰まっとる。りんごが胸にひっかかっとる。」といって胸部に異常感がある旨を訴え始めた。原告Bは,すぐに看護婦を呼んだが,看護婦は「りんごが詰まっているの。水でも飲んどいて。」と笑って取り合おうともしなかった。 しかし,それから約10分経過後,Eが再び「まだ詰まった感じがする。もう1回看護婦を呼んでくれ。」と強く訴えたため,原告Bが再度ナースコールをした。看護婦は,「まだ詰まった感じがするの。何でやろね。」と言うだけで退室していった。その後5分弱経過した時,Eが必死に胸部の異常を訴え,医師を呼ぶように言ったため,原告Bは,再度看護婦を呼び,医師を呼ぶように申し出たが,看護婦は,医師に伝えてみるとだけ言い残し,Eの症状を直接確認したり,シリンジポンプの点検をしたりすることもなく,そのまま看護婦詰め所に帰って行き,被告病院医師は1度もEの診察に来なかった。 (オ) そのうち,Eは,眠り込んだようになり,その直後,シリンジポンプの警報ブザーが鳴り,点滴の容器が空になった。原告Bは,看護婦を呼び,また,このとき,シリンジポンプの表示を見たところ,同日午前6時ころには毎時3.0mlと表示されていたのに,ブザーが鳴ったころには毎時103.0mlと表示されていたことに気がついた。看護婦は,同僚の看護婦2名を連れてきて,Eの心電図を採ったり,血圧を測ったり,瞳孔を見たりしていた。Eは,その際もその後も,眠り込んでいる状態であった。 表示されていたことに気がついた。看護婦は,同僚の看護婦2名を連れてきて,Eの心電図を採ったり,血圧を測ったり,瞳孔を見たりしていた。Eは,その際もその後も,眠り込んでいる状態であった。 (カ) 同日午前11時30分ころ,昼食の粥が出されたが,Eは,自分では食べられなかったため,原告BがスプーンでEに食べさせようとした。しかし,Eは,目を閉じたまま口を僅かに開けるだけで,ほとんど食べることができなかった。Eは,午後も目を閉じたままで全く反応を示さず,眠ったようになっていた。 (キ) 同日午後3時すぎころ,Eの心臓が停止したため,駆けつけた被告病院の医師らが,Eに対し蘇生術を施したところ,心停止から40分以上経過してからようやく心臓が自力で動き始め,Eは蘇生した。 (ク) しかし,Eは,上記長時間の心臓停止によって,心臓及び脳に回復不能の損傷を受けた。そのため,Eの病状は,その後一進一退を続けたものの,意識は1度も回復せず,死亡に至るまで約20回の心停止発作を繰り返した。 (ケ) Eは,平成8年1月6日,再び心停止を起こし,同日午後10時8分死亡し,心室性頻拍による心不全による死亡と診断された。 (2) 被告の責任ア被告病院(医師及び看護婦ら)の過失(ア) ミリスロールの過剰投与(看護婦によるシリンジポンプの操作ミス)看護婦は,医師の指示に従って患者に対する薬剤の投与を行うべき義務を負っている。 ところが,被告病院のH看護婦は,平成7年3月28日にEが点滴投与を受けていたミリスロール3A50ml入りの容器を交換した際,被告病院医師の投与量の指示は毎時3. 0mlであったにもかかわらず,シリンジポンプの 被告病院のH看護婦は,平成7年3月28日にEが点滴投与を受けていたミリスロール3A50ml入りの容器を交換した際,被告病院医師の投与量の指示は毎時3. 0mlであったにもかかわらず,シリンジポンプの操作を誤り,その結果,前記指示の約34倍もの量の毎時103.0mlでEに投与されるという事態(本件過剰投与)を惹起させた。すなわち,本来ならば約17時間かけてEに投与されるべきミリスロール3A50mlが僅か30分間でEに投与がなされてしまった。 (イ) 本件過剰投与後になすべき措置の懈怠Eは,H看護婦の過失により本件過剰投与をなされ,しかも,Eは,心筋梗塞を再発した疑いがあり,心機能が低下した状態で被告病院に緊急入院した患者であったのであるから,被告病院看護婦には,患者であるEの訴える異常を看過することなく,これを医師に伝える等的確な措置を採るべき義務があった。また,医師としては,本件過剰投与が判明した後は直接Eを診察し,少なくとも本件過剰投与判明後24時間程度は,常時Eの血圧をモニターし,Eの血圧が急に下降したり,下降と上昇を繰り返すなど不安定な動きを示す場合には,適宜昇圧措置を施したり,不整脈やこれに続く心停止に対する対策を早期に採る等の処置を行い,また,本件過剰投与の影響を判断するために,血液ガス検査を行い,心電図を継続的に採るべき義務があった。 ところが,被告病院の看護婦及び医師らは,いずれも上記義務を怠った。 すなわち,被告病院看護婦は,本件過剰投与開始直後ころから,Eが明らかな胸部の異常感を訴えているのに,これに取り合わず,また,原告Bが医師の診察を求めたにもかかわらず,被告病院医師への確認や適切な処置を行わなかったし,被告病院医師は,本件過剰投与が から,Eが明らかな胸部の異常感を訴えているのに,これに取り合わず,また,原告Bが医師の診察を求めたにもかかわらず,被告病院医師への確認や適切な処置を行わなかったし,被告病院医師は,本件過剰投与が判明したにもかわらず,直接Eを診察しなかったばかりか,同日の午後0時48分にEの血圧を測定した後は同日午後3時のプロトコール(医師の指示に基づく定時の計測)のときまで一度も血圧測定をせず,心電図についても,同日午後0時30分に採った後は同日午後3時まで採っておらず,血液ガス検査も同日午後3時までまったく実施しなかった。 (ウ) Eに対する不適切な食事の提供医師には,心筋梗塞を患者が発症した場合,病初は水分以外の物を患者には与えず絶食にするか,発症24時間までは口の渇きをうるおす程度のエネルギーの少ない流動物を少量のみにするといった食事の処方をなすべき義務がある。ところが,被告病院医師は,Eが心筋梗塞を発症した疑いがあると診断して入院させたもかかわらず,入院翌日の平成7年3月28日午前7時ころ,食パン,マーガリン,いちごジャム,りんご,牛乳などの朝食をEに供し,さらに,同日午前11時40分ころに全粥300g,コロッケ,キャベツ,レタス,りんご等のつけ合わせ,小松菜のピーナッツ和えの昼食を供した。 イ Eの死亡との因果関係(ア) Eの心臓が平成7年3月28日午後3時すぎに停止するに至ったのは,前記ア(ア)のH看護婦による本件過剰投与によってEの心筋梗塞が再発し,梗塞部位が拡大したためである。 ミリスロールは,上記のとおり,血管拡張剤の一種で,急激に冠血管を拡張させ,血圧を降下させる作用がある。これが過剰に投与された場合,その作用はより劇的であり,かつ,健常時よ ミリスロールは,上記のとおり,血管拡張剤の一種で,急激に冠血管を拡張させ,血圧を降下させる作用がある。これが過剰に投与された場合,その作用はより劇的であり,かつ,健常時より心機能が低下している患者に過剰投与された場合,その作用はより顕著に生ずる。 医師の指示量の約34倍ものミリスロールを投与されたEの身体は,急激な冠血管の拡張とこれに伴う急激な血圧低下を引き起こし,さらにこの血圧低下による冠動脈の血流量低下のため,心筋に対する酸素供給量が大幅に低下した。その結果,過去に心筋梗塞を起こしたことがあり,また,本件入院時にも心機能が低下していたEの心臓は,上記大幅な酸素供給量の低下に耐えられず,心筋の一部が壊死し始め,心筋梗塞の部位が拡大したものと考えられる。そして,この心筋梗塞部位の拡大によって,Eの心臓はますます機能が低下し,血圧は何度も下降を繰り返し,全身の循環血流量も低下した状態が続き,同日午後3時すぎころ,Eの心臓は,不整脈を引き起こし,そのまま心停止に至ったのである。 Eが,本件過剰投与後に,「何か胸に詰まっとる。りんごが胸にひっかかっとる。」などと胸部の異常感を訴えたことは,心筋梗塞部位の拡大による循環血流量の低下,血液中の酸素濃度の低下によるものと考えられる。また,Eの意識状態が低下し,傾眠状態に陥ったことは,心筋梗塞部位の拡大による心機能の低下により,血圧が何度も下降を繰り返した結果,全身に送られる血流量も低下した状態が続いたことによるものと考えられる。 さらに,Eの血液の生化学検査結果によれば,心筋の壊死の大きさ等を推定し得る血中の逸脱酵素GOT値(発症後3ないし6時間で有意の上昇を示す)が,同月27日午後8時ないし9時ころには48 さらに,Eの血液の生化学検査結果によれば,心筋の壊死の大きさ等を推定し得る血中の逸脱酵素GOT値(発症後3ないし6時間で有意の上昇を示す)が,同月27日午後8時ないし9時ころには48,同月28日午前0時には43,同日午前9時には45,同日午後3時には37であったが,同日午後4時30分には118の高値を示し,同日午後3時から同4時30分までの間にGOT値が有意な上昇を示しているから,Eの心筋梗塞の発症時期は,同日午前9時ころ以降同日午後1時30分までの間であったことが強く推認されるのである。 そして,上記心停止によりEの心臓と脳は回復不能の損傷を受け,そのため,Eはその後一度も意識を回復することなく,何度も心停止の発作を繰り返した挙げ句,平成8年1月6日死亡するに至ったものであるから,Eの死亡とH看護婦による本件過剰投与の過失との間に因果関係があることは明らかである。 (イ) 本件過剰投与後,被告病院の看護婦及び医師らは,前記ア(イ)のなすべき措置を何ら採らずに2時間以上もEを放置した結果,Eの心機能は低下し,同日午後3時すぎの不整脈をきっかけとして心停止に至ったものである。 被告病院の看護婦及び医師らがそれら措置を採っていれば,心筋梗塞ないし心不全の徴候を発見することができたはずであり,憎悪の徴候を発見すれば不整脈の重症化を予測して,Eの心停止を回避する措置が採れたはずであるから,Eの死亡と前記ア(イ)の本件過剰投与後になすべきであった措置の懈怠との間には因果関係がある。 (ウ) 被告病院は,心機能の低下したEに対し,前記ア(ウ)のとおり,普通食といってよい食事を供したため,Eの心臓は重い負担を強いられることとなり,これがさらにEの心機能を低下させ,平 (ウ) 被告病院は,心機能の低下したEに対し,前記ア(ウ)のとおり,普通食といってよい食事を供したため,Eの心臓は重い負担を強いられることとなり,これがさらにEの心機能を低下させ,平成7年3月28日午後3時すぎの心停止の一因となった可能性が否定できず,したがって,それがE死亡の一因となった可能性を否定することができない。 ウ責任原因上記のとおり,Eは,被告病院の医師及び看護婦らの過誤により死亡するに至ったものであるから,被告は,原告らに対し,本件診療契約上の債務不履行ないし不法行為(使用者責任)に基づき,Eの死亡によって生じた後記損害を賠償すべき義務がある。 また,Eは,当初G病院で診察を受け,その結果地域の高度医療機関として被告病院を紹介されて救急車で搬送され,入院することとなった患者であり,被告病院にはEに対し,専門的で高度な治療を施す義務があったし,Eは専門的で高度な治療を受けられることにつき期待と権利を有していた。ところが,Eは,本件過剰投与をされたばかりか,その後も適切な診療及び措置を受けることができなかった。これは,Eの被告病院に対する専門的治療が受けられるとの期待を裏切るもので,期待権ないし治療を受ける権利の侵害として,それ自体が不法行為であり,本件診療契約違反となるものであるから,被告は,原告らに対し,Eが前記期待権を侵害されたことにより被った精神的損害を賠償すべき義務がある。 (3) 損害ア Eが入院継続を余儀なくされたことによる損害Eが平成7年3月27日に被告病院に入院した時点では,検査と治療のため約1か月間の入院を要するものとの診断であった。したがって,退院後に多少自宅療養を要したとしても,同年5月の連休明けの同 Eが平成7年3月27日に被告病院に入院した時点では,検査と治療のため約1か月間の入院を要するものとの診断であった。したがって,退院後に多少自宅療養を要したとしても,同年5月の連休明けの同月8日にはEは仕事に復帰することが可能であったと考えられるから,これを前提に入院継続を余儀なくされたことによるEの損害額を算定すると,次のとおりである。 (ア) 治療費 227万7900円Eは,入院治療を受けるにあたり,国民健康保険を使用したが,保険適用外の自己負担分の治療費として,合計227万7900円を被告病院に支払った。 (イ) 入院雑費 31万7200円平成7年5月8日から平成8年1月6日まで,244日間の入院雑費としては,1日あたり1300円として,合計31万7200円が相当である。 (ウ) 休業損害 411万8000円① 給与分 284万8000円Eは,平成7年3月当時,建築工務店・有限会社Iに大工として勤務し,年間427万2000円(平成6年4月から平成7年3月まで)の給与を得ていた。したがって,Eが平成7年5月8日から平成8年1月6日までの約8か月間休業を余儀なくされたことによる休業損害は284万8000円(427万2000円÷12×8)となる。 ② 農業収入分 127万円Eは,上記勤務のかたわら,自己所有の農地を耕作し,年間127万円(平成6年)の農業収入を得ていたが,平成7年は入 業収入分 127万円Eは,上記勤務のかたわら,自己所有の農地を耕作し,年間127万円(平成6年)の農業収入を得ていたが,平成7年は入院を余儀なくされたことにより,この収入全部を失った。 (エ) 慰謝料 300万円Eは,平成7年3月28日から平成8年1月6日まで意識不明の重篤な病状で入院を余儀なくされたのであるから,その慰謝料としては300万円が相当である。 イ Eが死亡したことによる損害(ア) 逸失利益 2823万4273円Eは,昭和6年3月17日生まれの男性で平成8年1月6日死亡時満64歳であったから,その死亡がなければ,なお9年間(同期間に対応する新ホフマン係数は7.278)就労可能であった。また,Eは,前記のとおり,給与収入及び農業収入を含め年間合計554万2000円の収入を得ていた。そして,Eは,同人と妻原告A,二女原告Dの3人家族の支柱であったから,生活費控除は30パーセントとするのが相当であることにも照らすと,その逸失利益の現価は,2823万4273円(554万2000円×0.7×7.278)と算定できる。 (イ) 慰謝料① Eの慰謝料 1200万円Eは,死亡当時満64歳で,これから実りある老後を満喫しようとしていた矢先に,被告病院看護婦による考えられないほどの軽率なミスにより,約9か月間も意識不明で寝たきりにさせられた挙げ句,無念の死を迎えるに至ったものであり,その慰謝料は1200万円を下回ることはない。 先に,被告病院看護婦による考えられないほどの軽率なミスにより,約9か月間も意識不明で寝たきりにさせられた挙げ句,無念の死を迎えるに至ったものであり,その慰謝料は1200万円を下回ることはない。 ② 原告らの慰謝料原告Aにつき 600万円その余の原告らにつき各200万円前記の被告病院看護婦の軽率なミスにより,原告Aは最愛の夫を失って悲痛の思いを味わい,また,原告B,同C,同Dもこれから孝養を尽くそうとしていた矢先に,父を失い,深い悲しみを味わったものであり,その各慰謝料は,原告Aについて600万円,原告B,同C,同Dについて各200万円が相当である。 (ウ) 葬儀費 120万円原告Aは,Eの葬儀を主宰したが,その費用としては120万円が相当である。 (エ) 弁護士費用原告Aにつき 300万円その余の原告らにつき各100万円原告らは,本件損害賠償を求めるため,弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なかったものであり,その弁護士費用は原告Aにつき300万円,原告B,同C,同Dにつき各100万円が相当である。 ウ相続による承継と原告ら各自の損害額との合計(ア) 原告らは,Eの死亡により,Eが有していた前記アの(ア)ないし(エ),イの(ア),イの(イ)①の合計4994万7373円の損害賠償請求権を,その法定相続分に従い,次のとおり相続した。 原告A 亡により,Eが有していた前記アの(ア)ないし(エ),イの(ア),イの(イ)①の合計4994万7373円の損害賠償請求権を,その法定相続分に従い,次のとおり相続した。 原告A(2分の1) 2497万3687円原告B,同C,同D(各6分の1)各832万4562円(イ) したがって,原告らがそれぞれ有する損害賠償請求権は次のとおりとなる。 ① 原告A 合計3517万3687円内訳E相続分 2497万3687円原告Aの慰謝料(前記イの(イ)②) 600万円葬儀費用(前記イの(ウ)) 120万円弁護士費用(前記イの(エ)) 300万円② 原告B,同C,同D 合計各1132万4562円内訳E相続分各832万4562円原告B,同C,同Dの各慰謝料(前記イの(イ)②)各200万円弁護士費用(前記イの(エ)) 各100万円(4) まとめよって,被告に対し,本件診療契約上の債務不履行ないし不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,ア原告Aは,金3517万3687円及び弁護士費用を除いた内金3217万3687円に対するE死亡の日の翌日である平成8年1月7日から支払済みま 法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,ア原告Aは,金3517万3687円及び弁護士費用を除いた内金3217万3687円に対するE死亡の日の翌日である平成8年1月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金イ原告B,同C,同Dは,各金1132万4562円及び弁護士費用を除いた内金各1032万4562円に対するE死亡の日の翌日である平成8年1月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。 3 被告の主張(1) 事実経過についてア平成7年3月27日以前Eは,昭和53年11月13日から同年12月31日まで被告病院で心筋梗塞,心不全,肺感染症及び敗血症の疑いにより入院治療を受け,退院後も平成4年6月12日まで被告病院に通院し,治療を受けていたが,その病状は,同日以後も継続治療が必要な状態であったもので,原告らが主張するような,投薬の必要もないほどに回復していたものではなかった。 しかも,Eは,被告病院の指示を無視して転医し,その後,平成7年3月27日まで一度も被告病院を受診していなかった。 すなわち,Eは,被告病院が自宅から遠いことを理由に近くの病院への転医を申し出たが,これに対し,被告病院医師は,Eに対し,転医できるかどうかの判断をするために心機能の検査を受けるよう指示し,また,心筋梗塞の後遺症から心機能が低下しており,投薬治療をしてもなお不安定であるので,転医後も経過観察のため,被告病院において定期的に受診するよう指示した。ところが,Eは,検査を受けずに転医したばかりか,その後,平成7年3月27日まで一度も被告病院を受診しなかった。 イ平成7年3月27日以降 において定期的に受診するよう指示した。ところが,Eは,検査を受けずに転医したばかりか,その後,平成7年3月27日まで一度も被告病院を受診しなかった。 イ平成7年3月27日以降(ア) G病院から救急車で搬送されてきたEを診察した被告病院医師Jは,Eの病状が重篤で急変の可能性があることから,ナースステーションでの心電図モニター監視によって患者の脈拍数及び不整脈の有無の常時監視ができる内科病棟重症患者室(CCU)にEを入院させ,被告病院看護婦に指示してこれを行わせた。 それとともに,J医師は,Eの家族に対し,Eが心筋梗塞であること,腎機能が弱まっているので血管造影の検査ができないこと,治療のために血栓溶解剤を使用するが,これに伴う血栓溶解により出血のおそれがあること,心筋梗塞に合併する不整脈や心臓破裂により突然死のおそれがあること,上記出血や合併症がなく順調に回復すればリハビリの期間を含めて1か月程度の入院になることを告げた。 なお,原告らは,Eの入院時,被告病院から,人手不足なのでEに家族が付き添うよう依頼されたと主張するが,そのような事実はない。被告病院は,入院患者の家族の付き添いが不要である「新看護基準に適合する医療機関」であるが,入院患者の病状が重篤で急変の可能性がある場合には,病状の急変に応じてすぐに家族と連絡が取れるように,入院患者の家族に対して病院内に待機してもらうようにしていることから,原告A及び同Bに対しても,病院内で待機してもらうよう依頼したのであって,そのため,同原告らは,被告病院内で待機していたものである。 (イ) 被告病院は,平成7年3月27日午後8時から,Eに対するミリスロールの継続投与を開始した。J医師は,Eに対するミリスロー め,同原告らは,被告病院内で待機していたものである。 (イ) 被告病院は,平成7年3月27日午後8時から,Eに対するミリスロールの継続投与を開始した。J医師は,Eに対するミリスロールの投与量につき,ミリスロール3A50mlを毎時5.0mlと処方し,同病院看護婦に指示して投与させ,その後の同日午後9時ころには,投与量を,毎時3.0mlへと変更し,その旨を同病院看護婦に指示して投与させた。 (ウ) 被告病院は,平成7年3月28日の朝,Eに対し朝食(腎不全Ⅱ度食)を配膳した。その内容は,食パン60g,マーガリン8g,いちごジャム15g,りんご150g,牛乳100mlであった。 (エ) J医師は,同日午前9時前ころ,Eの診察を行い,血液ガスの測定を行った。 (オ) 被告病院は,同日午前11時40分ころ,Eに対し,昼食(腎不全Ⅱ度食)を配膳した。その内容は,全粥300g(米飯基準240g),コロッケ(ポテト60g,豚ミンチ20g,玉葱20g,パン粉8g,小麦粉6g,植物油15g),つけ合わせ(キャベツ40g,レタス10g,りんご50g,マヨネーズ10g),ピーナッツ和え(小松菜50g,ピーナッツバター7g,砂糖1g,粉あめ10g)であった。 (カ) H看護婦は,同日午後0時ころ,Eに点滴していたミリスロールの容器が空になったため,これを新しいミリスロール3A50ml入りの容器に交換した。 (キ) K看護婦は,同日午後0時30分ころ,原告Bから,シリンジポンプ内のミリスロールの残量が少なくなり,警報ブザーが鳴っている旨のナースコールを受けてEの病室に行き,ブザーを停止した。これに続いて,L看護婦及びH看護婦もEの病室に駆けつけ,同看護婦らがシリンジポンプを確認する ルの残量が少なくなり,警報ブザーが鳴っている旨のナースコールを受けてEの病室に行き,ブザーを停止した。これに続いて,L看護婦及びH看護婦もEの病室に駆けつけ,同看護婦らがシリンジポンプを確認すると,投与量の表示が,J医師の指示であった毎時3.0mlではなく,毎時103.0mlとなっていた。同看護婦らは,直ちにEの血圧を測るとともにその全身状態の観察を行い,K看護婦は,Eに対し本件過剰投与がなされたこと,その直後の午後0時30分のEの血圧は最大血圧80mmHg,最小血圧60mmHgで,呼吸麻痺,けいれん,嘔吐等はないこと等,その観察結果をJ医師に報告し,その処置に関して指示を仰いだ。 これに対し,J医師は,同日昼に予定していた持続性冠血管拡張性フランドル等内服薬を中止すること及びミリスロールの投与を中止することを指示し,また,この時点でEに不整脈の連発が見られるとの報告があったため,抗不整脈剤リドカインの投薬量を毎時3. 0mlから毎時4.0mlへ増量した上,経過観察を行うよう指示した。 なお,H看護婦がミリスロールの容器を交換後,原告Bからシリンジポンプの警報ブザーが鳴っているとのナースコールを受けるまでの間に,原告Bが頻繁にナースコールをして,Eが胸に何か詰まっているといった胸部の異常を被告病院看護婦に訴えたといった事実はなかった。したがって,これに被告病院看護婦が取り合わなかったといった事実もない。 (ク) L看護婦は,J医師の上記指示どおりの処置を施したところ,最大血圧80mmHg,最小血圧60mmHgであったEの血圧が,昇圧剤を投与するまでもなく,同日午後0時48分には最大血圧110mmHg,最小血圧60mmHgへと速やかに回復し,同日午後1時には,症状も落ち着き,Eは ,最小血圧60mmHgであったEの血圧が,昇圧剤を投与するまでもなく,同日午後0時48分には最大血圧110mmHg,最小血圧60mmHgへと速やかに回復し,同日午後1時には,症状も落ち着き,Eは少しうとうとしているような状態であった。 なお,J医師は,K看護婦から,Eの血圧が回復し,症状が安定した旨の報告を受けた。 (ケ) L看護婦は,同日午後3時ころ,Eに対し,プロトコール(医師の指示に基づく定時の計測)を施行したが,同時点でのEの病状は安定しており,意識レベルは清明で,会話も可能な状態であった。しかし,同日午後3時10分ころ,ナースステーションのモニター上でEに心室性頻拍が認められたので,N医師がEの病室を訪室したところ,当初,Eの会話応答があったが,2~3分後には心室細動(VF)に移行し,心停止状態が出現したため,被告病院医師らは,直ちに17回にわたるDCカウンターショック(電気的除細動)や心臓マッサージ等の救急蘇生術を施行した。その結果,心停止後約40分以上経過した後ではあったが,Eは蘇生した。 (コ) Eは,上記心停止の後,平成8年1月6日に死亡するまでの間,まったく意識が戻らなかったわけではなく,看護婦からの呼びかけに対して開眼,追視,うなづき,笑顔等の動作を行うようになり,また,「おはよう」「痛い」等の言葉を発していた時期があった。 (2) 被告の責任についてア被告病院(医師及び看護婦ら)の過失及びEの死亡との因果関係(ア) ミリスロールの過剰投与本件において,結果として,本件過剰投与がなされたことは認めるが,本件過剰投与がH看護婦の過失によって惹起されたことは否認する。 シリンジポンプ 剰投与本件において,結果として,本件過剰投与がなされたことは認めるが,本件過剰投与がH看護婦の過失によって惹起されたことは否認する。 シリンジポンプからの薬液の投与量の設定は,スイッチボタンの操作により行われるが,投与量の設定を変更しない場合は,容器(シリンジ)の交換後に開始ボタンを押すだけで,最初の設定どおりの注入量で再開・始動する機構になっている。さらに,誤操作を防止するため,薬液の投与を停止している時でなければ設定及び変更できないよう,また,意識的にボタンを押さない限り設定及び変更ができないようになっている。本件において,H看護婦は,薬液交換時において,シリンジポンプの投与量設定ボタンに触れていない。 また,本件過剰投与とEの死亡との間に因果関係はない。 原告らは,ミリスロールが過剰に投与された場合及び健常時より心機能が低下している患者に対して投与された場合,ミリスロールの血管拡張作用とこれによる血圧低下が顕著に現れる傾向にあり,Eに対するミリスロール投与については,そのいずれにも当てはまるため,本件過剰投与によってEの心筋梗塞が再発し,梗塞部位が拡大し,その心機能が決定的なダメージを被った旨主張する。 しかし,ミリスロールは,その効能,効果の程度において非常に個人差があり,そもそも過剰であるか否かを一般的に論じることはできないし,ミリスロールには一定の投与量を超えた場合にその効能,効果が顕著に現れる傾向も見られず,また,心機能が低下している者に対して投与された場合に,その効能,効果が顕著に現れる傾向も見られない。 また,ミリスロールの主成分であるニトログリセリンは,血管の平滑筋に作用して,低用量 が低下している者に対して投与された場合に,その効能,効果が顕著に現れる傾向も見られない。 また,ミリスロールの主成分であるニトログリセリンは,血管の平滑筋に作用して,低用量では静脈を,高用量では静脈及び動脈を拡張させる作用を有する。ミリスロールによる血圧低下は,血管の拡張によって血流に対する抵抗が少なくなった結果生じるものであるから,ショック状態を引き起こすような著しい血圧低下の場合は別として,ある程度の血圧低下であれば全体としての血流は低下せず,むしろ増加するものである。従って,このような血管拡張による血圧低下という機序からしても,ミリスロールによる血圧低下が心臓に対する負担となり,心筋梗塞や心不全を増悪させるという事態は考えにくく,その可能性は極めて低い。 もっとも,ミリスロールの過剰投与により血圧が極度に低下した場合は,血管の極度の拡張により血管内に滞留する血液が増加し,心臓に還流する血液が減少して心拍出量も減少するという機序により心不全が増悪する可能性もあり,また,拡張期血圧の低下による冠動脈血流の低下を介して心筋虚血が惹起されて心筋梗塞や心不全が増悪する可能性も考え得る。 しかしながら,本件では,最も血圧が低下したと考えられる過剰投与終了時である平成7年3月28日午後0時30分の収縮期血圧は80mmHg,拡張期血圧は60mmHgであり,この程度の血圧低下で冠動脈血流の低下を介しての心筋虚血による症状の悪化が生じる可能性は存在しない。なお,排出量を超えた過剰投与によりミリスロールが蓄積されたとしても,投与中止後は排泄により血中濃度は時間と共に低下するから,本件において最も血圧が低下した時点は,投与中止時点であると考えられる。 さらに,ミリ リスロールが蓄積されたとしても,投与中止後は排泄により血中濃度は時間と共に低下するから,本件において最も血圧が低下した時点は,投与中止時点であると考えられる。 さらに,ミリスロールは,収縮期(最大)血圧の低下に比べ,拡張期(最小)血圧がさほど低下しないため,心臓への血流量及び酸素供給量が保たれる特徴があるところ,Eのミリスロール過剰投与直後の収縮期血圧は80mmHg,拡張期血圧は60mmHgであるのに対し,本件過剰投与前の同日午前10時の収縮期血圧は120mmHg,拡張期血圧は60mmHgであり,拡張期血圧は低下していない。これは,本件過剰投与によってもEの心臓に対する血流量は保たれていたことを示すものにほかならない。 なお,原告らは,心筋梗塞部位の拡大による血流量の低下を裏付けるものとして,Eが本件過剰投与開始後に「何か胸につまっとる。りんごが胸にひっかかっとる。」といった胸部の異常感を訴え,また,本件過剰投与後にEの意識状態が低下して傾眠状態に陥ったことを主張するが,Eが,胸部異常感を本件過剰投与開始後に訴えたようなことはないし,本件過剰投与後,Eの意識状態が低下したこともない。 また,原告らは,逸脱酵素の1つであるGOTの測定値が,平成7年3月28日午後3時に37であったところ,同日午後4時30分に118に上昇していることから,同日午前9時から午後1時30分の間に心筋梗塞が発症したと考えるべきである旨主張する。 しかし,GOTは主に肝臓の検査において用いられる逸脱酵素であり,心筋梗塞を判断するうえで特に鑑別診断の指標として重要なのものは,GOTよりも白血球WBC(白血球好中球)及びCPK(クレアチン・フォスフォ・キナーゼ)であり,GOTの値のみ いられる逸脱酵素であり,心筋梗塞を判断するうえで特に鑑別診断の指標として重要なのものは,GOTよりも白血球WBC(白血球好中球)及びCPK(クレアチン・フォスフォ・キナーゼ)であり,GOTの値のみを根拠に心筋梗塞の診断を行うことは妥当ではない。 心筋梗塞が発症した場合,まず白血球WBCの数値が上昇し,それから,CPK,GOT,LDH(乳酸脱水素酵素)の順番で各逸脱酵素の数値が上昇することが確認されており,心筋梗塞の診断においては,これらの白血球WBC及び各逸脱酵素の数値の変動を総合的に検討しなければならない。 Eの場合,最も早く上昇を示す白血球WBCは,緊急入院時である平成7年3月27日午後9時に1万2100であったものが,翌28日午前6時ころには9100,同日午後3時には9200とほぼ正常値を示しており,次に早く上昇するCPKは27日午後9時に1616であったのが28日午前0時に904,同日午前6時に1374,同日午後3時には969と漸次減少傾向にあり,他の逸脱酵素の数値も同様の傾向を示している。これらの値は,27日の緊急入院時から翌28日の午後3時まで,Eの病状が比較的落ち着いた状態にあったことを示すものであり,原告らが主張するように28日午前9時から同日午後1時30分の間に心筋梗塞が発症ないし拡大したことを示すものではない。原告らが主張するGOTの28日午後4時30分以降の上昇は,同日午後3時15分ころにEに心停止が生じたことから,被告病院の医師らが17回ものDCカウンターショック等の緊急蘇生術を施行したことによりEの胸部筋肉の筋組織が著しい損傷を受けたことに伴って各逸脱酵素が急速に血中に流出したために生じたものと考えられる。 以上のとおりで,本件過剰投与によって を施行したことによりEの胸部筋肉の筋組織が著しい損傷を受けたことに伴って各逸脱酵素が急速に血中に流出したために生じたものと考えられる。 以上のとおりで,本件過剰投与によってEの心筋梗塞が再発し,梗塞部位が拡大し,その心機能が決定的なダメージを被ったとする原告らの主張は,医学的根拠のない主張であって,失当である。 Eは,平成7年3月27日被告病院に緊急入院した時点で,既に心筋梗塞を再発し,その入院時の心機能は,心電図及び緊急血液検査の結果からみて相当重篤であったもので,Eの28日午後3時15分ころの心停止は,本件過剰投与とは無関係に,前記再発した心筋梗塞の合併症としての重症不整脈の出現により突発的に生じたものにほかならない。 (イ) 本件過剰投与後になすべき措置の懈怠原告らは,被告病院看護婦は,本件過剰投与開始直後ころから,Eが明らかな胸部の異常感を訴えているのに,これに取り合わず,また,原告Bが医師の診察を求めたにもかかわらず,被告病院医師への確認や適切な処置を行わなかった旨を主張するが,前記のとおり,Eが胸部の異常感を訴えたり,原告Bが医師の診察を求めるといったようなことはなかったのであり,したがって,被告病院看護婦がそれらに取り合わなかったという事実もないから,原告らの過失主張は,その前提を欠くもので理由がない。 原告らは,被告病院医師は,本件過剰投与判明後,①医師による直接の診察,②常時的な血圧のモニター,③血液ガス検査,④心電図を継続的に採ることを実施し,かつ,それらの結果に基づき適切な措置を取るべきであったのに,それら各措置を怠った過失があると主張する。 しかし,被告病院医師は,本件過剰投与判明後 継続的に採ることを実施し,かつ,それらの結果に基づき適切な措置を取るべきであったのに,それら各措置を怠った過失があると主張する。 しかし,被告病院医師は,本件過剰投与判明後,Eの状態につき看護婦からの報告を受けて,ミリスロールやその他の内服薬の投与中止,不整脈の頻発への対応としてリドカインの投与量の増量の指示を行うとともに,引き続き心電図モニターによる脈拍数及び不整脈の有無の常時監視のほか,その状態の経過観察を指示し,その結果,特に昇圧措置を採るまでもなく,平成7年3月28日午後0時48分には,Eの血圧は最大血圧110mmHg,最小血圧70mmHgへと速やかに回復し,午後1時ころには,Eの症状も少しうとうとしている状態で落ち着くに至ったものであり,被告病院医師は,本件過剰投与による血圧の低下に対し,適切な措置を行っている。したがって,被告病院医師が,原告ら主張の上記各措置を採らなかったからといって,そのなすべき措置を怠ったものとはいえない。 また,仮に,被告病院医師において上記①ないし④の措置を採っていたとしても,既に述べたとおり,Eには本件過剰投与によって心筋梗塞部位の拡大や循環器不全が進行するといった事態は生じていなかったのであるから,心停止に至ることを予見できる徴候を発見し得る可能性は低く,また,その徴候を発見した得たとしても,心停止回避のための有効な措置を採ることができた可能性も低い。 (ウ) Eに対する不適切な食事の提供心筋梗塞の患者に対し入院当初に一定期間絶食させるのは一般的に認められた入院療法の1つであり,嚥下運動が不整脈を誘発する可能性のあること,冠動脈造影等の検査を予定する場合,空腹状態であれば検査が円滑に行える等の認識に基づくものであ 定期間絶食させるのは一般的に認められた入院療法の1つであり,嚥下運動が不整脈を誘発する可能性のあること,冠動脈造影等の検査を予定する場合,空腹状態であれば検査が円滑に行える等の認識に基づくものである。 しかし,近年嚥下運動によって必ずしも不整脈が誘発されないことが認識されるようになり,むしろ絶食させる方が患者に対しストレスや体力低下等の悪影響を及ぼすことになるため,入院当初においても患者に摂食させる方法が多くの循環器専門病院において採られている。 本件において,J医師は,Eが腎不全のため冠動脈検査を行う予定がなく,円滑な検査のために絶食させる必要のないことから,絶食によるストレスや体力低下等のため病状が悪化することを懸念し,入院の翌朝である平成7年3月28日から,腎機能低下に対応した低蛋白,減塩等の食事基準による治療食・腎不全Ⅱ度食を摂食させた。そして,J医師は,Eが朝食摂取後の同日午前九時ころにEを診察したが,その際,Eには摂食による不整脈の誘発等循環動態への悪影響は認められず,嚥下運動が不整脈を誘発する可能性が小さいことから,昼食においても処方内容を変更しなかったものであり,被告病院の食事処方に過失はない。 イ責任原因被告に債務不履行責任及び不法行為責任があるとの主張はすべて争う。 (3) 損害についてすべて争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実経過前記争いのない事実等,証拠(甲1,2,6〔ただし,一部〕,7〔ただし,一部〕,乙1の1~3,3~6,11,12,13の1~7,14,15,証人J,同L,同H,原告A本人〔ただし,一部〕,原告B本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 〕,乙1の1~3,3~6,11,12,13の1~7,14,15,証人J,同L,同H,原告A本人〔ただし,一部〕,原告B本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) Eは,もと大工として稼働していたものであるが,平成元年ころからは有限会社Iに勤務し,主として内装関係の仕事に従事していた。 また,Eは,上記勤務のかたわら稲及び黒大豆作りの農業にも従事していた。 (2) Eは,昭和53年11月12日胸痛発作が生じ,自宅近くのG病院を受診したところ,心筋梗塞と診断され,同日から同病院で入院治療を受けたが,その後,症状が悪化したため,同月13日,G病院からの紹介で被告病院に緊急入院した。 Eは,被告病院において,急性心筋梗塞(広範囲前壁梗塞),急性左心不全,肺感染症,敗血症の疑いと診断され,同月13日から同年12月31日まで入院治療を受け,その結果,肺感染症,敗血症の疑いについては全治,心不全については概ね治癒,心筋梗塞については軽快と各診断されるまでに回復し,以後は,被告病院で,心筋梗塞につき投薬等の通院治療を継続的に受けていた。 Eは,平成4年5月末ころ,自宅近くの病院に転医することを希望したので,被告病院は,Eに対し,心機能検査を受けることを指示し,その結果次第で近くの病院を紹介することを伝えるとともに,その場合でも定期的に経過観察のため被告病院で受診することを併せて指示した。 しかし,Eは,同年6月12日に被告病院を受診したのを最後に,上記指示した検査を受けないまま,転医し,かつ,その後は,平成7年3月27日被告病院に緊急入院するまで,一度も被告病院を受診しなかった。 (3) Eは,平成7年3月26日,蕁麻疹の症状がでたこ 記指示した検査を受けないまま,転医し,かつ,その後は,平成7年3月27日被告病院に緊急入院するまで,一度も被告病院を受診しなかった。 (3) Eは,平成7年3月26日,蕁麻疹の症状がでたことから,自宅近くのG病院を受診したが,翌27日になっても蕁麻疹の症状が治まらず,また,同日午後3時ころからは胸痛も出現したことから,同日夕方ころ,再度G病院を受診した。 G病院は,Eが胸痛及び息苦しさを訴えたことから,心筋梗塞の再発を危惧し,心電図を取ったところ,異常所見を示す心室性期外収縮等の不整脈がみられ,心筋梗塞の可能性があり,諸検査及び治療を行う必要があるとの結果が出たため,同病院においては対応できず,検査設備等の整った被告病院で入院治療を受ける必要があると判断し,救急車で被告病院に搬送した。 (4) Eは,平成7年3月27日午後7時48分ころ被告病院に搬送された。 Eの被告病院来院時の状況は,意識は清明,呼吸数は26回/分,口唇にチアノーゼ(+),脈拍は78回/分で不整,血圧は最大血圧130mmHg,最小血圧80mmHgであった。 主治医としてEの診療を担当することとなった被告病院J医師は,Eの診察を行うとともに,心電図検査,血液ガス分析検査,血液生化学検査の実施を指示した。 J医師は,心電図検査の結果,V1~V4誘導で異常Q波のPSパターン,V5誘導で異常Q波が認められ,V1~V4誘導でSTの上昇も認められたこと,さらに不整脈の一種である心室性期外収縮(VPC)も認められたことや,血液検査において白血球WBCが1万2100(基準値4000~8500),CPKが1616(基準値0~60),GOTが48(基準値8~40),LDHが964(基準値50~450)に各上昇していたこと 血液検査において白血球WBCが1万2100(基準値4000~8500),CPKが1616(基準値0~60),GOTが48(基準値8~40),LDHが964(基準値50~450)に各上昇していたこと及びEの症状等から,急性心筋梗塞,陳旧性心筋梗塞と診断した。また,J医師は,Eの陳旧性心筋梗塞は,左心室の前壁中隔から左心室前壁に及ぶ広範囲な貫壁性(心筋の全層にわたること)の心筋梗塞で,前記1回目の心筋梗塞は重症のものであったと考えられ,加えて,今回の心筋梗塞の発症により,1回目の心筋梗塞の発症によりダメージを受けた心筋以外の心筋に新たな心筋梗塞によるダメージが発生することとなることから,Eの病状は重篤で,予断を許さないものと判断した。 また,血液検査の結果から,Eには,糖尿病及び腎不全もあることが判明した。 そのため,J医師は,Eにつき,絶対安静として,ナースステーションでの心電図モニター監視によって患者の脈拍数及び不整脈の有無の常時監視ができる内科病棟重症患者室(CCU)に入院させ,被告病院看護婦に指示して心電図モニターによる常時監視を行うとともに,入院患者に対して通常行われる1日4回(午前7時,午前10時,午後3時,午後7時)の血圧及び脈拍の測定,検温,呼吸・意識レベル等の全身状態の観察や,2時間ごとの尿量測定のほかに,心筋梗塞の発症を平成7年3月27日午後3時ころと想定したプロトコール(医師の指示に基づく定時の計測)として,同日午後12時に採血,翌28日午後3時に採血,心電図検査を,さらに,翌28日午前6時にも詳細な検査のための採血を行うこととし,それらの実施を看護婦に指示した。また,J医師は,Eに対する投薬についても看護婦にその指示を行ったが,そのうち,J医師が,Eの心筋梗塞に対して投薬を指示した薬剤は,TPA(アクチバ を行うこととし,それらの実施を看護婦に指示した。また,J医師は,Eに対する投薬についても看護婦にその指示を行ったが,そのうち,J医師が,Eの心筋梗塞に対して投薬を指示した薬剤は,TPA(アクチバシン,血栓溶解剤),リドカイン(抗不整脈剤)及びミリスロール(血管拡張剤)であった。 J医師は,平成7年3月27日夜,Eの家族の原告A及び同Cに対し,Eの病状につき,急性心筋梗塞であること,本来なら検査のため冠動脈造影(CAG)を行うところであるが,Eには腎不全があるのでできないこと,治療のために血栓溶解剤(TPA)を使用するが,これに伴う血栓溶解により出血のおそれがあること,心筋梗塞に合併する不整脈や心臓破裂により突然死のおそれがあること,上記出血や合併症がなく順調に回復すればリハビリの期間を含めて1か月程度の入院になる旨を説明した。 また,被告病院は,入院患者の家族の付き添いが不要ないわゆる完全看護の病院(新看護基準に適合する医療機関)であったが,入院患者の病状が重篤で急変の可能性がある場合には,病状の急変に応じてすぐに家族と連絡が取れるように,家族の誰かが病院に残るようにしてもらっていたことから,Eの家族に対しても同様の趣旨で誰かが病院に残るよう依頼し,これを受けて入院当日は,原告Aが被告病院に残り,Eに付き添った。 (5) Eが,被告病院で心筋梗塞の治療薬として投薬を受けた薬剤のうち,ミリスロールは,ニトログリセリン注射液の一種で,冠動・静脈の血管拡張剤であり,手術時の低血圧維持や,急性心不全,不安定狭心症などに適応する薬剤である。ミリスロールは,急激に冠血管を拡張し,血圧を降下させる作用があるので,手術時の低血圧維持等の目的のためにはかなり多量に投与されることもあるが,心不全や狭心症の治療に用いる時に に適応する薬剤である。ミリスロールは,急激に冠血管を拡張し,血圧を降下させる作用があるので,手術時の低血圧維持等の目的のためにはかなり多量に投与されることもあるが,心不全や狭心症の治療に用いる時には,量を過ぎることは極めて危険で,患者の症状に応じ,投与量を十分にコントロールしなければならないとされており,また,段階的に投与量を増量する場合は,患者の血圧,左心室充満圧などの循環動態を,必ずモニターして行わなければならないとされている。 Eに対するミリスロールの投与は,J医師の指示に基づき,入院当日の平成7年3月27日午後8時ころから,シリンジポンプを使用した点滴によって開始された。その投与量についてのJ医師の指示は,当初の約1時間は,ミリスロール3A50ml(ミリスロールの10mlアンプル3本を,20mlの生理食塩水で希釈し,50mlにしたもの。ミリスロール1アンプルに含まれるミリスロールは5mg)を毎時5.0mlであったが,その後は毎時3.0mlに変更する指示がなされ,同日午後9時以降は,毎時3.0mlの点滴による投与が継続された。 (6) 原告Bは,翌28日午前6時ころ,被告病院に来て,原告Aと交代した。そのころには,Eの蕁麻疹の発疹,発赤,掻痒感等の症状は軽快していたが,顔面は腫れぼったい感じであった。 (7) 同日午前7時過ぎころ,朝食が配膳され,Eは,これを全部摂取した。 Eに配膳された朝食は,J医師の指示に基づく,腎機能低下に対応した低蛋白,減塩等の食事基準による治療食・腎不全Ⅱ度食で,その内容は,食パン60g,マーガリン8g,いちごジャム15g,りんご150g,牛乳100mlであった。 Eは,朝食摂取後,被告病院看護婦に胃部不快感及び胃痛を訴えたが,同日午前10時ころに は,食パン60g,マーガリン8g,いちごジャム15g,りんご150g,牛乳100mlであった。 Eは,朝食摂取後,被告病院看護婦に胃部不快感及び胃痛を訴えたが,同日午前10時ころには,胃痛は軽減したとのことであった。 なお,J医師は,同日午前9時前ころ,Eを診察した。また,そのころ,被告病院看護婦は,深夜勤の看護婦から当日の日勤の看護婦に交替した。 (8) 同日午前11時40分ころ,昼食が配膳された。昼食も,腎不全Ⅱ度食で,その内容は,全粥300g(米飯基準240g),コロッケ(ポテト60g,豚ミンチ20g,玉葱20g,パン粉8g,小麦粉6g,植物油15g),つけ合わせ(キャベツ40g,レタス10g,りんご50g,マヨネーズ10g),ピーナッツ和え(小松菜50g,ピーナッツバター7g,砂糖1g,粉あめ10g)であった。 Eは,上記昼食のうち,主食は3口程度,副食は1割程度のみを摂取し,胃部がつかえている感じであった。 (9) H看護婦は,同日午後0時ころ,Eの病室を訪れ,前日の入院時から点滴中のミリスロール3A50mlの薬液が入った容器が空になったことから,同量の同薬液(ミリスロール3A50ml)の入った新しい容器と交換した(なお,原告らは,この交換の時期を深夜勤の看護婦と日勤の看護婦との交替から同日の昼食の配膳までの間であったと主張し,甲7〔原告Bの陳述書〕及び原告B本人の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし,前記ミリスロール3A50mlの前記認定の投与量からすると,その容器が空になるのは点滴開始後から約16時間経過後の午後0時ころになるものと認められることからして,にわかに採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。 (10) Eは,上記ミリスロール入りの点 のは点滴開始後から約16時間経過後の午後0時ころになるものと認められることからして,にわかに採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。 (10) Eは,上記ミリスロール入りの点滴容器の交換後も,もどしたりはしないが,つかえたようなつまった感じが上へあがってくるとの不快感を訴えていた(なお,甲7〔原告Bの陳述書〕及び原告B本人の供述中には,Eが胸部不快感を何回も訴え,そのため,原告Bにおいて何回かナースコールをして医師の診察を求めたが,被告病院看護婦はこれに取り合わなかったとの部分があるが,乙1の3,証人Lの証言と対比して,上記認定にとどまらず,Eが医師の診察を求めるほどの胸部不快感を訴え,これに被告病院看護婦が取り合わなかったというような事実があったとはにわかに認めがたく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。 原告Bは,同日午後0時30分ころ,ミリスロール3A50mlの入った容器の残量が少なくなっていることを示すシリンジポンプの警報ブザーが鳴ったことから,これを知らせるためナースコールをした。 同ナースコールによって,K看護婦,L看護婦及びH看護婦がEの病室に駆けつけ,同看護婦らがシリンジポンプを確認すると,ミリスロールの投与量の表示が,J医師の指示であった毎時3.0mlではなく,毎時103.0mlとなっており,約17時間をかけてEに投与すべきであったミリスロール3A50mlが約30分で投与されてしまったこと(本件過剰投与)が判明した。そこで,同看護婦らは,直ちにEの血圧を測定し,心電図を採るとともに,Eの全身状態の観察を行ったところ,同日午後0時30分のEの血圧は最大血圧80mmHg,最小血圧60mmHgで,同日午前10時に測定の最大血圧120mmHg,最小血圧60mmHgに比して血 とともに,Eの全身状態の観察を行ったところ,同日午後0時30分のEの血圧は最大血圧80mmHg,最小血圧60mmHgで,同日午前10時に測定の最大血圧120mmHg,最小血圧60mmHgに比して血圧の低下が認められ,また,そのころ,心電図モニター上,心室性期外収縮(VPC)が5連発で認められるなどしたが,Eの意識は清明で,胸部症状の訴えはなく,また,Eに呼吸麻痺,けいれん,嘔吐等はなかった。 Eに対し本件過剰投与がなされたこと及びその直後に看護婦らによって測定及び観察されたEの前記状況は,K看護婦から外来患者を診察中のJ医師に直ちに報告がなされ,これを受けたJ医師は,同日昼に予定していた持続性冠血管拡張性フランドル等内服薬の投薬とミリスロールの投与をいずれも中止することを指示するとともに,Eに不整脈の連発が見られるとの報告があったため,抗不整脈剤リドカインの投薬量を毎時3.0mlから毎時4.0mlへ増量した上で経過観察を行うよう指示した。なお,K看護婦は,同じ病棟のM医長及びN医師に対しても同様の報告を行った。 (11) L看護婦は,J医師の上記指示に従った処置をEに対して直ちに施したところ,同日午後0時30分の時点では最大血圧80mmHg,最小血圧60mmHgであったEの血圧は,昇圧剤を投与するまでもなく,同日午後0時48分には最大血圧110mmHg,最小血圧70mmHgへと回復した。もっとも,そのころ心電図モニター上,心室性期外収縮(VPC)が10連発で認められた。また,その時点でのEの状況は,のどまでつまった感じがあることを引き続き訴えていたが,胸部症状はないとのことであった。そして,同日午後1時には,Eは少しうとうとし始め,その他,全身状態に特段の変化はなく,状態は安定しているようであった(なお,甲7〔原告 ことを引き続き訴えていたが,胸部症状はないとのことであった。そして,同日午後1時には,Eは少しうとうとし始め,その他,全身状態に特段の変化はなく,状態は安定しているようであった(なお,甲7〔原告Bの陳述書〕及び原告B本人の供述中には,Eはうとうとしていたのではなく,意識状態が低下していたものであるとの部分があるが,乙1の3,証人平岩紀子の証言との対比及び原告B自身,前掲陳述書及び本人供述中で,当時はEの状況につき特に異常は感じていなかったことを自認していることに照らし,にわかに採用できず,他に,この時点で,Eに意識状態の低下が生じていたことを認めるに足りる証拠はない。)。 なお,Eの血圧が回復し,Eの状態が安定していることは,K看護婦からJ医師に報告がなされた。 (12) L看護婦は,同日午後3時ころ,Eに対し,プロトコール(医師の指示に基づく定時の計測)のための採血及び心電図検査を行った。同時点でのEは,つまった感じは持続しているとのことであり,また,軽度の喘鳴が出現し,痰がよく出て,少し息苦しいとのことであったが,胸はなんともないとのことであり,意識レベルは清明であった。ところが,同日午後3時10分ころ,ナースステーションのモニター上でEに心室性頻拍(VT)が認められ,異常波を示す警報が鳴ったため,ナースステーション内にいたN医師とL看護婦がEの病室に駆けつけた。N医師らが駆けつけた当初,Eは,その意識レベルもはっきりしており,N医師の問いかけにも応答していたが,2~3分後には心室細動(VF)に移行し,それとともに,顔面にチアノーゼ,痙攣,硬直が現れ,意識レベルの低下,呼吸停止に続き,心停止状態が出現した。 そのため,N医師を始めとする被告病院医師らは,直ちに17回にわたるDCカウンターショック にチアノーゼ,痙攣,硬直が現れ,意識レベルの低下,呼吸停止に続き,心停止状態が出現した。 そのため,N医師を始めとする被告病院医師らは,直ちに17回にわたるDCカウンターショック(電気的除細動)や心臓マッサージ等の救急蘇生術をEに施行し,その結果,心停止後約40分以上経過した後ではあったが,Eは蘇生した。 (13) しかし,上記の長時間にわたる心停止により,Eの心臓及び脳は回復不能な損傷を受け,Eは,意識をほとんど回復しないまま,その後も約20回の心停止発作を繰り返した後,平成8年1月6日,再び心停止を起こし,同日午後10時8分,心室性頻拍による心不全により死亡した。 (14) なお,Eが被告病院に入院した後の平成7年3月27日午後9時から翌28日午後8時30分までの間に被告病院で計測等されたEの血圧及び逸脱酵素等の検査データは,別紙「主要検査データの推移」に記載のとおりであり,また,Eの平成7年3月28日の尿量は,午前10時から午後0時までの2時間が125cc,午後0時から午後2時までの2時間が110cc,午後2時から午後4時までの2時間が80ccであった。 2 被告の責任について上記認定の事実をもとに,被告の責任の有無につき以下検討する。 (1) 被告病院(医師及び看護婦ら)の過失及びEの死亡との因果関係アミリスロールの過剰投与(ア) 過失の有無Eに本件過剰投与がなされたことは,当事者間に争いがない。 原告らは,本件過剰投与はH看護婦の過失に基づくものであると主張するのに対し,被告は,シリンジポンプからの薬液の投与量の設定は,スイッチボタンの操作により行われるが,投与量の設定を変更しない場合は,容器(シリン 件過剰投与はH看護婦の過失に基づくものであると主張するのに対し,被告は,シリンジポンプからの薬液の投与量の設定は,スイッチボタンの操作により行われるが,投与量の設定を変更しない場合は,容器(シリンジ)の交換後に開始ボタンを押すだけで,最初の設定どおりの注入量で再開・始動する機構になっており,さらに,誤操作を防止するため,薬液の投与を停止している時でなければ設定及び変更できないよう,また,意識的にボタンを押さない限り設定及び変更ができないようになっているところ,本件において,H看護婦は,薬液交換時において,シリンジポンプの投与量設定ボタンに触れていないとして,本件過剰投与がH看護婦の過失によって惹起されたことを争う。 しかし,本件過剰投与は,H看護婦がミリスロール入りの容器の交換作業を行った直後から始まったものであり,また,そのころ,H看護婦の外にシリンジポンプに触れた人物がいたことを窺わせる証拠もないことからすれば,本件過剰投与は,H看護婦がミリスロールの容器を交換した際に,何らかの過誤によりシリンジポンプの投与量設定ボタンに触れる等したため,その投与量が毎時103.0mlに変更されて生じたものと推認するのが相当であり,他にこれを覆すに足りる証拠はない。 (イ) Eの死亡との因果関係原告らは,本件過剰投与によってEの心筋梗塞が再発し,梗塞部位が拡大し,その心機能が決定的なダメージを被った旨を主張するので,以下,検討するに,前記1で認定のとおり,Eには,心筋梗塞の既往があったこと,平成7年3月27日に胸痛を訴えてG病院を受診した時点で,心電図上,心室性期外収縮等の異常所見を示す不整脈が認められ,心筋梗塞の再発が疑われたことから被告病院に救急車で搬送され,緊急入院したものであり, 年3月27日に胸痛を訴えてG病院を受診した時点で,心電図上,心室性期外収縮等の異常所見を示す不整脈が認められ,心筋梗塞の再発が疑われたことから被告病院に救急車で搬送され,緊急入院したものであり,被告病院入院当初の心電図においても各種の異常波及び心室性期外収縮が認められ,また,心筋梗塞診断の指標となる逸脱酵素等(乙8,弁論の全趣旨)である白血球WBCが1万2100(基準値4000~8500),CPKが1616(基準値0~60),GOTが48(基準値8~40),LDHが964(基準値50~450)に各上昇していたこと及び鑑定の結果に照らすと,Eは,陳旧性心筋(前壁中隔)梗塞に加え,平成7年3月27日に被告病院に緊急入院する時点で既に,新たな部位不明の急性心筋梗塞(再梗塞)を発症していたものと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 したがって,原告らの前記主張のうち,本件過剰投与によってEの心筋梗塞が再発したとの主張は失当といわざるを得ず,以下では,本件過剰投与によって既に再発していたEの心筋梗塞が憎悪したかどうかもしくは心不全が増悪したかどうかを検討することとする。 本件過剰投与によって心筋梗塞が憎悪したか否かであるが,ここでいう心筋梗塞の憎悪とは,心筋虚血の増強または心筋梗塞領域の拡大をいうものと解することができる(鑑定の結果)。 そこで,まず,ミリスロールの過剰投与によって,心筋梗塞領域の拡大が起こり得るか否かであるが,心筋梗塞領域の拡大が起こり得るのは,他部位の冠動脈の閉塞か,一旦自然再疎通が得られた冠動脈の再閉塞によってのみであるところ,血管拡張剤であるミリスロールの過剰投与によって,冠動脈の閉塞が生じるとは考えられないこと(鑑定の結果)からして,本件過剰投与に か,一旦自然再疎通が得られた冠動脈の再閉塞によってのみであるところ,血管拡張剤であるミリスロールの過剰投与によって,冠動脈の閉塞が生じるとは考えられないこと(鑑定の結果)からして,本件過剰投与によってEの心筋梗塞領域の拡大が生じたことは否定されるし,Eの心電図(平成7年3月27日午後7時50分,同日午後8時25分,同日午後9時,同月28日午後0時30分〔本件過剰投与判明時〕,同日午後3時),血液中の白血球(WBC)数,CPK等の逸脱酵素の血液生化学検査の結果中にも,心筋梗塞領域の拡大を示唆する所見はないこと(鑑定の結果)からも,本件過剰投与によって,心筋梗塞領域の拡大があったものとは認めることができない。 次に,ミリスロールの過剰投与による心筋虚血の増強であるが,心筋虚血は,通常,心筋血流の増大による相対的心筋血流不足あるいは冠動脈血流低下に起因する絶対的心筋血流不足により生じるところ,冠動脈血流の駆動圧は拡張期(最小)血圧であるので,ミリスロールの過剰投与によって体血圧が極度に低下した場合には,冠動脈血流低下を介して心筋虚血を惹起する可能性があるものといえる(鑑定の結果)。しかし,本件過剰投与は,ニトログリセリン注射液の一種であるミリスロールを515μg/分で約30分間投与したものであるが,ニトログリセリン50μg/分から800μg/分の間の投与では収縮期・拡張期とも体血圧の著しい低下は認められないとの報告もあり(乙2),また,ニトログリセリンの特徴として,収縮期(最大)血圧の低下に比べ,拡張期(最小)血圧がさほど低下しないため,心臓への血流量及び酸素供給量が保たれること,使用を中止すれば速やかに血圧は回復し,そのことは,使用量が多量に及んだ場合にも変わらず,平均20分くらいで血圧低下は回復することが指摘されて ないため,心臓への血流量及び酸素供給量が保たれること,使用を中止すれば速やかに血圧は回復し,そのことは,使用量が多量に及んだ場合にも変わらず,平均20分くらいで血圧低下は回復することが指摘されているところ(乙2),本件においても,本件過剰投与直後の平成7年3月28日午後0時30分に計測されたEの体血圧は,収縮期(最大)血圧80mmHg,拡張期(最小)血圧60mmHgで,同日午前10時の血圧120mmHg,60mmHgと比較して,収縮期(最大)血圧は低下が認められるものの,拡張期(最小)血圧には変化はなく,しかも,その後のミリスロールの投与中止によって,18分後の同日午後0時48分には,Eの血圧は,昇圧剤を投与するまでもなく,収縮期(最大)110mmHg,拡張期(最小)70mmHgに回復していたことは前記認定のとおりであり,その血圧低下は一過性のものであったと認められるし,その血圧低下の程度も,拡張期血圧を駆動圧とする冠動脈の血流低下をきたすほどのものであったとは認めがたい。また,Eの心電図(平成7年3月27日午後7時50分,同日午後8時25分,同日午後9時,同月28日午後0時30分〔本件過剰投与判明時〕,同日午後3時)上も,本件過剰投与によって心筋虚血が増大したことを示唆する所見は認められないこと(乙1の2,鑑定の結果)からしても,本件過剰投与によって,心筋虚血が増強したとの事実は認められない。 なお,心筋虚血の増強は,冠動脈に強度の狭窄ないし閉塞がある場合にも生じる可能性があるが(鑑定の結果),血管拡張剤であるミリスロールの作用からして,本件過剰投与によって,冠動脈の狭窄ないし閉塞が進行するといったことは考えがたい。 本件過剰投与が心不全を憎悪させた可能性については,本来,ミリスロールは心 ルの作用からして,本件過剰投与によって,冠動脈の狭窄ないし閉塞が進行するといったことは考えがたい。 本件過剰投与が心不全を憎悪させた可能性については,本来,ミリスロールは心不全の治療薬としても用いられるものであること(甲8),ミリスロールの過剰投与によって,心不全が憎悪する可能性があるとすれば,静脈環流の減少すなわち著しい心臓前負荷の低下により血圧・心拍出量の低下が生じるという機序が想定されるが(鑑定の結果),本件過剰投与によって生じた血圧低下は一過性の低下で,ほどなく回復したものであることは前示のとおりであり,また,心拍出量についても,腎臓の血流量の指標としての尿量をみる限りでは,平成7年3月28日午後0時から午後2時までの2時間は110ccと十分保たれており,午後2時から午後4時までの2時間も80ccと少し低下はあるものの尿量は保たれていること(乙1の3,鑑定の結果)からして,本件過剰投与後,同日午後3時13分ころの心停止までの間に心不全が憎悪したものとは認められない。 なお,原告らは,本件過剰投与開始直後から,Eは胸部異常を何度も訴え,また,本件過剰投与後,Eの意識状態が低下し傾眠状態にあったと主張し,それらは,Eの心筋梗塞あるいは心不全の憎悪があったことを裏付けるものであると主張するが,前記認定のとおり,本件過剰投与が始まったころに,Eが,つかえたようなつまった感じが上へあがってくるとの不快感を訴えていたことは認められるが,その訴えが,直ちにEの心筋梗塞あるいは心不全の憎悪があったことを裏付ける症状とは即断しがたいし,Eの意識が低下したとの点については,本件過剰投与後,Eが少しうとうとしていたことは認められるが,意識状態の低下があったとまでは認定できず,いずれも前記認定を左右するもので る症状とは即断しがたいし,Eの意識が低下したとの点については,本件過剰投与後,Eが少しうとうとしていたことは認められるが,意識状態の低下があったとまでは認定できず,いずれも前記認定を左右するものではない。 以上のとおりで,本件過剰投与によって,Eの心筋梗塞あるいは心不全が憎悪したものとは認められない。かえって,これまで検討してきたところ及び前記認定事実からすると,平成7年3月28日午後3時13分ころの心停止は,本件過剰投与とは無関係に,被告病院入院時に既に再発していたEの急性心筋梗塞の合併症としての重症不整脈である心室性頻拍が出現し,これが心室細動に移行したことに原因があると認めるのが相当である。 したがって,本件過剰投与とEの死亡との間に因果関係があるものとは認めることができない。 イ本件過剰投与後になすべき措置の懈怠(ア) 過失の有無原告らは,被告病院看護婦は,本件過剰投与開始直後ころから,Eが明らかな胸部の異常感を訴えているのに,これに取り合わず,また,原告Bが医師の診察を求めたにもかかわらず,被告病院医師への確認や適切な処置を行わなかった旨を主張する。 しかし,前記認定のとおり,本件過剰投与が始まったころに,Eが,つかえたようなつまった感じが上へあがってくるとの不快感を訴えていたことは認められるものの,Eが医師の診察を求めるほどの胸部不快感を訴え,これに被告病院看護婦が取り合わなかったというような事実は認めることができないから,被告病院看護婦の過失に関する原告らの主張は認めることができない。 原告らは,被告病院医師は,本件過剰投与判明後,①医師による直接の診察,②常時的な血圧のモニター, ないから,被告病院看護婦の過失に関する原告らの主張は認めることができない。 原告らは,被告病院医師は,本件過剰投与判明後,①医師による直接の診察,②常時的な血圧のモニター,③血液ガス検査,④心電図を継続的に採ることを実施し,かつ,それらの結果に基づき適切な措置を採るべきであったのに,それら各措置を怠った過失があると主張する。 確かに,Eは,急性心筋梗塞を再発させて緊急入院した重症患者であったもので,その患者に対し,本件過剰投与がなされたのであるから,これが判明した時点で,被告病院医師において自ら診察して,本件過剰投与の病状への影響等を観察し,そのうえで適切な措置を行うべき義務があったものと認められるところ,前記認定のとおり,J医師を始めとする被告病院医師らはこれを行わなかったものであり,この点において,被告病院医師に過失があったことは否定しがたい。 しかし,被告病院の医師及び看護婦らは,本件過剰投与判明後,Eに対する措置をまったく怠り,これを放置していたわけではなく,被告病院看護婦らは,本件過剰投与がなされたことをその直後に知り,直ちに,血圧,心電図の測定及び全身状態の観察等を行うとともに,その結果をJ医師らに報告し,これを受けたJ医師は,本件過剰投与に対する措置として,ミリスロールの投与中止及び同日昼に投薬を予定していた持続性冠血管拡張性フランドル等内服薬の投薬中止を指示し,また,その際併せて報告のあった不整脈に関しては,不整脈の重症化に対応する措置として,抗不整脈剤リドカインの投薬量を毎時3.0mlから毎時4.0mlへ増量することを指示したことは既に認定のとおりである。そして,その結果,本件過剰投与が判明した直後の平成7年3月28日午後0時30分には収縮期(最大)血 ンの投薬量を毎時3.0mlから毎時4.0mlへ増量することを指示したことは既に認定のとおりである。そして,その結果,本件過剰投与が判明した直後の平成7年3月28日午後0時30分には収縮期(最大)血圧80mmHg,拡張期(最小)血圧60mmHgに低下していたEの血圧は,ミリスロールの投与中止の措置だけで,約18分後の同日午後0時48分には,収縮期(最大)110mmHg,拡張期(最小)70mmHgにすみやかに回復し,本件過剰投与による血圧低下は一過性のものとして消失し,Eの心筋梗塞あるいは心不全の憎悪をもたらすようなことはなかったと認められることも前記で認定したとおりである。そうとすれば,J医師を始めとする被告病院医師らが,Eの血圧の回復が認められた同日午後0時48分以降に,血圧の常時モニターや,血液ガス分析,心電図を頻繁に採るといった措置をしなかったのも無理からぬところであって,それら措置を行うことによって,あるいは,Eの病状悪化の何らかの徴候を発見できた可能性をまったくは否定できないとしても,それら措置が行われなかったことをもって,本件過剰投与後になすべき措置を懈怠したものとまでは認められない。 また,不整脈の重症化については,一般的に急性心筋梗塞の急性期において,突然の心室細動が生じる危険性を察知することは困難であるうえ(証人Oの回答書,鑑定の結果),本件では,前記のとおり,本件過剰投与によって心筋梗塞,心不全の憎悪があったとは認められないことからしても,血圧の常時モニターや,血液ガス分析,心電図を頻繁に取るといった措置を行っても,それらから心停止を予見させる情報が得られた可能性は低いと考えられること(証人Oの回答書,鑑定の結果),不整脈の重症化に対応する措置として考えられるのは,抗不整脈剤の増量・追加,持続性心 を行っても,それらから心停止を予見させる情報が得られた可能性は低いと考えられること(証人Oの回答書,鑑定の結果),不整脈の重症化に対応する措置として考えられるのは,抗不整脈剤の増量・追加,持続性心室頻拍や心室細動の出現を予測して,すぐにDCカウンターショックや心肺蘇生が施行できる準備体制を整えておくこと(鑑定の結果)であるが,J医師は,本件過剰投与が判明した平成7年3月28日午後0時30分ころに,被告病院看護婦から不整脈についても併せて報告を受けたことから,その時点で,不整脈の重症化に対応する措置として,抗不整脈剤リドカインの投薬量を毎時3.0mlから毎時4.0mlへ増量することを指示してこれに対応しているし,引き続き心電図モニターは継続され,Eに心停止が生じてからの蘇生術が直ちに行われたことも前記認定のとおりであり,心肺蘇生の準備がなされていたことも明らかであること,また,平成7年3月27日のEの心電図と,本件過剰投与判明後の同月28日午後0時30分及び同日午後3時の心電図を比較しても心電図上は不整脈の憎悪は認められないこと(乙1の2,証人Oの回答書)等からすれば,被告病院医師が血圧の常時モニターや,血液ガス分析,心電図を頻繁に採るといった措置をしなかったことをもって,不整脈の重症化に対してなすべき措置を怠ったものとは認められないというべきである。 (イ) 因果関係の有無前記認定のとおり,被告病院医師には,本件過剰投与が判明した時点でEを直接診察しなかった点に過失があったことは否定できない。 しかし,前記のとおり,平成7年3月28日午後3時13分ころにEに生じた心停止は,本件過剰投与とは無関係に,被告病院入院時に既に再発していたEの急性心筋梗塞の合併症としての重症不整脈であ しかし,前記のとおり,平成7年3月28日午後3時13分ころにEに生じた心停止は,本件過剰投与とは無関係に,被告病院入院時に既に再発していたEの急性心筋梗塞の合併症としての重症不整脈である心室性頻拍が出現し,これが心室細動に移行したことに原因があったものと考えられるところ,Eに本件過剰投与による心筋梗塞,心不全の憎悪があったとは認められない本件では,本件過剰投与が判明した時点で,被告病院医師が直接Eを診察したとしても,心停止に至ることを予見できる徴候を発見し,これを回避し得る可能性は低かったといわざるを得ないことは既に認定したとおりである。また,本件では,前記のとおり,不整脈の重症化に対応する措置として,抗不整脈剤リドカインの増量もなされており,それにもかかわらず,心室性頻拍が出現し,これが心室細動に移行したものであることに照らしても,被告病院医師による直接の診察があったとしても,心停止を回避し得なかったことは明らかというべく,被告病院医師がEを直接診察しなかったことと前記心停止との間に因果関係があるとは認められない。 ウ Eに対する不適切な食事の提供原告らは,心筋梗塞の疑いで入院したEに対し,不適切な食事の処方をしたと主張し,甲7(原告Bの陳述書)及び原告B本人の供述中には,これに沿うかのような部分があるが,にわかに採用できず,かえって,証拠(証人J,証人Oの回答書,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,Eに平成7年3月28日の朝食及び昼食としてEに供された食事は,Eの病状に影響を及ぼすようなものではなかったことが認められる。したがって,この点の原告ら主張は,認めることができない。 (2) 以上みてきたとおり,H看護婦には,ミリスロール容器交換時の操作ミスにより本件過剰投与を惹起させた過 かったことが認められる。したがって,この点の原告ら主張は,認めることができない。 (2) 以上みてきたとおり,H看護婦には,ミリスロール容器交換時の操作ミスにより本件過剰投与を惹起させた過失が,J医師を始めとする被告病院医師には,本件過剰投与が発生したにもかかわらず直ちにEを診察しなかった過失が,それぞれ認められるものの,平成7年3月28日午後3時13分ころEに心停止が生じたのは,被告病院入院時には既に発症していた急性心筋梗塞の合併症としての重症不整脈(心室性頻脈)が出現し,これが心室細動に移行したためであって,被告病院の医師及び看護婦らの前記過失に起因して生じたものとは認められないから,Eの死亡が被告病院の医師及び看護婦らの診療上の過誤に起因するとして,本件診療契約上の債務不履行ないし不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を求める原告らの請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。 なお,原告らは,Eが本件過剰投与をされたこと,及びその後も被告病院医師の直接の診察やその指示に基づく諸検査等の適切な医療措置を受けられなかったこと自体,Eの被告病院における治療に対する期待権ないし治療を受ける権利を侵害する不法行為であり,かつ,本件診療契約違反となるものであるから,被告は,原告らに対し,Eが前記期待権を侵害されたことにより被った精神的損害を賠償すべき義務があるとも主張する。 そこで,この点につき検討するに,EがH看護婦の過失によって本件過剰投与をされたこと,それにもかかわらず,Eは被告病院医師の直接の診察をその時点で受けられなかったものであることは既に認定したとおりであり,とりわけ,本件過剰投与は,薬剤をその指示を大幅に超える量で投与するという,大きな危険性を孕んだ行為であったものである。しかし, その時点で受けられなかったものであることは既に認定したとおりであり,とりわけ,本件過剰投与は,薬剤をその指示を大幅に超える量で投与するという,大きな危険性を孕んだ行為であったものである。しかし,一方,本件過剰投与によって生じた血圧の低下は,ミリスロールの投与の中止によって速やかに回復されたことは前記認定のとおりであって,本件過剰投与がEのその後の病状経過に悪影響を及ぼしたものとは認められない。また,本件過剰投与が判明した時点で被告病院医師がEを直接診察することはなかったにしても,被告病院は,何らの措置も行わずにEを放置していたわけではないのであって,本件過剰投与による血圧の低下は,上記のとおり,J医師の投与中止の指示によって速やかに回復がなされており,また,不整脈の重症化に対しても,リドカインの増量及び心電図モニターの継続等によって対応がなされていたものである。それにもかかわらず,その後心室性頻拍が出現し,これが心室細動に移行したものであるから,医師によって直接診察がなされていれば,それら事態の発生を予見できたとは言い難いし,ましてこれを回避し得たものとも言い難いことも前記認定のとおりである。 そして,心室性頻拍の出現に対し,被告病院医師らは,心電図モニターで異常波の発生を関知して直ちにEの病室に駆けつけ,蘇生術を施す等なすべき措置を行っていることも前記認定のとおりである。そうすると,確かに被告病院の医師及び看護婦らには,本件過剰投与及びその後の医師の直接の診察の欠如という過失は認められるものの,その後それらを補完する対応及び措置がそれぞれなされているのであって,それらを全体としてみれば,Eの被告病院における治療に対する期待権ないし治療を受ける権利が侵害されたとまでは認めることができないというべきである。 したがって,被告 ているのであって,それらを全体としてみれば,Eの被告病院における治療に対する期待権ないし治療を受ける権利が侵害されたとまでは認めることができないというべきである。 したがって,被告には,期待権侵害の不法行為ないし本件診療契約上の債務不履行に基づき,Eが被った精神的損害を賠償すべき責任があるとの原告らの主張は,認めることができない。 3 結論以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官島田環
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